説明

インクジェット記録媒体

【課題】インクジェットプリンターで印字した際の凹凸が少なく、またフロント給紙タイプのインクジェットプリンターでの搬送に適した光沢タイプのインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】基紙の少なくとも片面にインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット記録媒体であって、基紙は、下記式1:I=f×s/v(但し、I:シェーキング強度、f:振動周波数(回/分)、s:振幅(mm)、v:抄造速度(m/分))で定義されるシェーキング強度が10,000〜15,000の範囲であるワイヤーシェーキング装置を用いて抄紙機のワイヤーを振動させて抄造されたものであり、基紙につき、JIS P 8125に規定される抄紙方向のテーバー剛度が4.0mN・m以下で、かつ抄紙方向のテーバー剛度と抄紙方向に対して直交する方向のテーバー剛度の比が2.5以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録媒体に関し、特に銀塩写真並みの光沢感を持つインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターは、フルカラー化が容易なことや印字騒音が少ない事などから、一般家庭において多く利用されてきている。これらの用途として、例えば、文書作成ソフトからの文書記録、デジタル写真などのデジタル画像の記録、銀塩写真や本などの美麗な印刷体をスキャナーで取り込んだ複製、比較的少枚数のポスターなどの展示用画像作成が挙げられる。また、これらの用途毎に適した構成のインクジェット記録媒体が提案されている。例えば、単に文字を記録する場合は、普通紙タイプの媒体が使用される。又、高い解像度と色再現性を得たい場合は、塗工層としてインク受容層を設けた塗工紙タイプの媒体が使用される。この塗工紙タイプには、光沢表面の凹凸の少ないものが要求され、銀塩写真用に用いる原紙を使用したインクジェット光沢紙が増えている。このように銀塩写真に匹敵するような高い光沢紙においては品質要求が厳しく、技術開発が活発に行われている。また、インクジェットプリンターの最近の傾向として、インテリアの一部としてリビングの棚に設置して使用可能なフロント給紙タイプのインクジェットプリンターが増えてきており、このようなプリンターでの給紙性が重要視されてきている。その中で、給紙不良による作業性の低下が問題となっている。
【0003】
給紙不良は記録媒体のカール特性や剛度に起因するものが多く、特に冬場の低湿度の環境で発生しやすい。低湿環境での光沢紙は、脱湿による記録媒体の水分低下によって、カールが生じたり剛度が高くなりやすく、紙詰まりのトラブルとなる。特にフロント給紙タイプのインクジェットプリンターでは、プリンター内部で記録媒体が反転するため、紙詰まりが生じやすい。
また、低湿度環境では、脱湿による水分の変動により光沢紙の表面が凹凸になりやすい傾向にある。このような状態でインクジェットプリンターを用いて印字すると、画像部の凹凸(いわゆるボコツキ)がさらに強調され、印字物としての品位が著しく劣るなどの問題がある。
【0004】
このような給紙不良を改善するために基紙の剛度を下げる方法が挙げられ、例えばパルプろ水度を高くしたり、基紙に配合される填料を高く設定するなどの対策が行われてきた。また、光沢紙表面の凹凸を抑えるため、紙中水分を低くしたり、基紙の坪量を大きくするなどの対策が行われてきた。
しかしながら、基紙のパルプ濾水度を単に高くした場合には、剛度は低くなるが強度も低くなったり、平滑性が得られ難くなる等の問題がある。また、基紙の填料の含有量を高くした場合には、剛度は低くなるが、基紙表面の強度が低下するなどの問題がある。また、光沢紙表面の凹凸を抑えるために、基紙のパルプ濾水度を高めた場合には、上記と同様に基紙の表面強度を招くなどの問題がある。また、基紙の坪量を高くした場合には凹凸は減少するが、剛度が高くなるため搬送不良を引き起こすなどの問題がある。
【0005】
このようなことから、カールの発生を低減するため、湿潤状態にある原紙の少なくとも一方の面を緊張乾燥し、坪量が100g/m以上、緊張乾燥した面側のコッブ吸水度が1.0g/m2 以上40g/m2以下、テーバーこわさが縦方向で35mN・m以上の画像記録材料用基紙が開示されている(特許文献1参照)。
また、ぼこつきやコックリングを改善するため、基紙上にインク受理層を設けてなるインクジェット記録媒体において、インク受理層表面の75度鏡面光沢度が20〜70%で、かつ縦方向の比引張強さが25.0〜55.0Nm/gであるインクジェット記録媒体が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−105443号公報
【特許文献2】特開2008−246746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、剛度が高いため、プリンターでの搬送性に欠点がある。また、特許文献2記載の技術の場合、比引張り強さが高くなることにより剛度が強くなる欠点があった。
さらに、近年、古紙(すなわち古紙脱墨パルプ)を配合した紙の需要が高まっているが、古紙を配合した紙は、古紙脱墨パルプを配合していない紙と比較して一般に剛度が大幅に低下する。さらに、古紙脱墨パルプは通常の晒パルプと比較して吸湿性が大きく、古紙脱墨パルプを配合した紙ではカールコントロールが難しいという問題がある。
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、インクジェットプリンターで印字した際の凹凸が少なく、またフロント給紙タイプのインクジェットプリンターでの搬送に適した光沢タイプのインクジェット記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
インクジェットプリンターでのインクジェット記録媒体の搬送トラブルや、インクジェット記録媒体表面のインク受理層(光沢層)の凹凸は、高湿時のみならず、低湿時の影響も大きい。その原因は、記録媒体の水分変動による光沢層の凹凸の増大や、低湿時の剛度の上昇が関係している。
そこで、本発明者らは種々検討した結果、基紙の抄造条件を規定することで、抄紙方向のテーバー剛度と抄紙方向に対して直交する方向のテーバー剛度を特定の比とし、インクジェットプリンターでの搬送トラブルを抑制したインクジェット記録媒体が得られることを見出した。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のインクジェット記録媒体は、基紙の少なくとも片面に、顔料を含有するインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット記録媒体であって、該基紙は、下記式1:I=f×s/v(但し、I:シェーキング強度、f:振動周波数(回/分)、s:振幅(mm)、v:抄造速度(m/分))で定義されるシェーキング強度が10,000〜15,000の範囲であるワイヤーシェーキング装置を用いて抄紙機のワイヤーを振動させて抄造されたものであり、前記基紙につき、JIS P 8125に規定される抄紙方向のテーバー剛度が4.0mN・m以下で、かつ抄紙方向のテーバー剛度と抄紙方向に対して直交する方向のテーバー剛度の比が2.5以下である。
【0010】
前記基紙の坪量が140〜240g/mで、抄紙速度250m/分〜400m/分で抄造されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクジェットプリンターで印字した際の凹凸が少なく、またフロント給紙タイプのインクジェットプリンターでの搬送に適した光沢タイプのインクジェット記録媒体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録媒体について説明する。
【0013】
(基紙)
本発明における基紙を形成するパルプ繊維原料としては、例えば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
基紙には、填料として、一般に紙に用いられる各種の填料、例えばカオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、タルク、ゼオライト、セリサイト等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
基紙の内添サイズとしては、ロジンエマルジョン等のロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、無水ステアリン酸系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、ワックス系サイズ剤、あるいはカチオン性合成サイズ剤等が挙げられる。
また、表面サイズ剤としては、例えば各種の澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、アクリル酸エステル、ラテックスやα−オレフィン無水マレイン酸共重合体、スチレンアクリル系共重合体、あるいは高級脂肪酸系等の合成サイズ剤やカチオン性合成サイズ剤等を必要に応じて使用することができる。表面サイズ剤を原紙の表面にサイジングする方法については特に限定されるものではなく、例えばツーロールまたはロッドメタリング式のサイズプレス、ゲートロール、ビルブレード、ショートドウェルコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーターやスプレー等の各種装置を適宜使用できる。
基紙となる紙料中には、必要に応じて、各種の歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤等の各種抄紙用内添助剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤を適宜添加できる。抄紙pH条件についても、特に限定されるものでなく、酸性、アルカリ性抄紙のいずれであってもよい。
【0014】
(基紙の抄造条件)
上記基紙は、下記式1
I=f×s/v(但し、I:シェーキング強度、f:振動周波数(回/分)、s:振幅(mm)、v:抄造速度(m/分))
で定義されるシェーキング強度が10,000〜15,000の範囲であるワイヤーシェーキング装置を用いて抄紙機のワイヤーを振動させて抄造される。
具体的には、基紙は、抄紙機で抄紙、プレス、乾燥、カレンダー処理する工程を経て製造される。抄紙機としてはブレストロールの振動数や振幅を変更できるワイヤーシェーキング装置(Duo−shake/フォイト社製など)を備え、シェーキング強度を1,0000〜15,000の範囲に調節することができる。
ここシェーキング強度とは、下記式(1)で表されるシェーキングの強さを表す指数であり、値が大きくなるほどシェーキング効果が大きい。シェーキング装置を使用し、ワイヤーシェーキングを行うと、抄紙機上でパルプ繊維がワイヤー上で分散されて、抄紙方向に強く配向しているパルプ繊維を、抄紙方向と直交する横方向へ多く配列することが出来る。このため、抄紙方向(すなわち縦方向(MD))の剛度の抑制が可能となり、インク受理層の凹凸が少なく、フロント給紙タイプのインクジェットプリンターの搬送性に優れたインクジェット記録媒体を得ることができる。
【0015】
そして、上記抄造条件で抄造された基紙は、JIS P 8125に規定される抄紙方向のテーバー剛度が4.0mN・m以下で、かつ抄紙方向のテーバー剛度と抄紙方向に対して直交する方向のテーバー剛度の比が2.5以下となる。

フロント給紙タイプのインクジェットプリンターでは記録媒体はトレーから給紙されて、プリンター内部で180°反転されてから印字される機構となっていることから、縦のテーバー剛度が4.0mN・mより大きい場合には、プリンター内で紙詰まりが発生し、搬送性が劣る。また、縦のテーバー剛度が5.0mN・mを超えるような場合にはプリンター内での搬送性が著しく困難となる。
抄紙方向のテーバー剛度と抄紙方向に対して直交する方向のテーバー剛度の比が2.5よりも大きい場合には、理由は定かではないが、縦方向に配向する繊維の割合が多くなることにより、原紙表面の凹凸が多くなっていると考えられ、そのため、キャスト塗工後の光沢面の凹凸が多くなると考えられる。
【0016】
ここで、坪量140〜240g/mの基紙を抄紙する際、抄速を通常250〜400m/分とするが、この条件で、シェーキング強度が10,000未満であると、抄紙方向のパルプ繊維の配向が強くなり過ぎるため、MDのテーバー剛度が強くなり、プリンターでの搬送性が低下し、インク受理層の凹凸が目立ちやすい。特に、インク受理層をキャスト塗工したインクジェット記録媒体で凹凸が目立ちやすい。
一方、シェーキング強度が15,000を超えた場合には、JIS P 8125に規定されるMDのテーバー剛度は4.0mN・m以下であるが、地合の悪化がみられ、インク受理層(特にキャスト塗工した光沢面)の凹凸が目立ちやすい傾向にあり、低湿度環境や高湿度環境では特に凹凸が目立ちやすくなる。抄紙方向の剛度や光沢面の凹凸の抑制効果は限度がある。その理由は明確ではないが、基紙の坪量が140〜240g/mと高い場合には、シェーキング強度を高くしてもシェーキング効果が十分にパルプ繊維に伝わらず、すなわちワイヤーとパルプ繊維の間でスリップ現象が起こっているものと考えられる。従って、過度のワイヤーシェーキングを行っても抄紙方向のパルプ繊維の配向が変化し難くなるためと推定される。
【0017】
なお、抄紙機におけるパルプ繊維の配向を調整する方法は、ワイヤーシェーキング装置のシェーキング強度を規定する以外に、填料やサイズ剤を含むパルプスラリーのワイヤーへの流出速度とワイヤー速度の比(いわゆるジェット/ワイヤー比)を変更することでも調整可能である。しかし、特に基紙の坪量が140〜240g/mと高い場合には、抄紙方向の剛度の抑制や光沢面の凹凸を改善したインクジェット記録媒体を得るには至らなかった。
【0018】
なお、ワイヤーシェーキングにおいて、ワイヤーの振幅を大きくする方が振動周波数を大きくするよりも、抄紙方向の剛度の抑制効果が高い。ワイヤーの振幅は、好ましくは20mm以上、より好ましくは25mmに調節するとよい。
振動周波数は、ワイヤーの振幅ほど抄紙方向の剛度に影響するものではないが、240〜600回/分の間で設定されるのが望ましく、より好ましくは350〜450回/分の範囲で調整される。
【0019】
<インク受理層>
本発明のインクジェット記録媒体は、上記基紙の少なくとも片面に、顔料を含有するインク受理層をキャストコート法により設けてなる。
【0020】
(インク受理層の顔料)
インク受理層中の顔料は、一次粒子径が30〜70nmでかつ、一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0であるコロイダルシリカを含有することが好ましい。コロイダルシリカの一次粒子径が30nm未満であると、インク受理層の透明性は高いが、塗工層の表面に微細な亀裂が生じ、顔料インク印字時に印字ムラが発生し印字濃度が低下する。一次粒子径が大きいほど亀裂が減少し、顔料インク使用時の印字ムラが少なくなる傾向にある。
特に、インク中に粒子径30〜150nm程度の着色粒子を含有する顔料インクを用いたインクジェットプリンターで印字する場合、コロイダルシリカの一次粒子径が30nm以上であることが有効である。
一方、一次粒子径が70nmを超えると、インク受理層の透明性が低下して染料インク印字時の印字濃度が大幅に低下し、染料インク適性が劣る。
【0021】
コロイダルシリカの一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5未満であるとインク受理層のインク吸収が低下し、3.0を超えるとインク受理層の光沢が低下するからである。コロイダルシリカの一次粒子径はBET法で測定でき、二次粒子径は動的光散乱法等で測定できる。
【0022】
なお、本発明におけるコロイダルシリカは、通常その分散状態を顕微鏡で観察すると、球状の単一コロイダルシリカ(一次粒子)が2〜3個連なったものが多数観察される。これを便宜上、ピーナツ状と表す。
この一次粒子連結個数を平均した値は、上記比にほぼ対応する。そして、本発明におけるコロイダルシリカは、鎖状(又はパールネックレス状)のコロイダルシリカ、房状のコロイダルシリカ(顕微鏡観察すると、球状の単一コロイダルシリカが少なくとも5個以上、通常は10個以上連なって凝集しているもの、上記比も5以上となる)を主とするものは含まない。
ここでいう、含まない、とは、顕微鏡観察した際に、房状のコロイダルシリカが全く観察されないことをいうのでなく、一部房状のコロイダルシリカが観察されていてもよいが、マクロ的な物性である一次粒子径に対する二次粒子径の比を測定した値が3を超える(通常は5以上)ことをいう。
【0023】
コロイダルシリカは、アルコキシシランを原料としてゾルゲル法により合成し、合成条件によって一次粒子径(BET法粒子径)や二次粒子径(動的光散乱法粒子径)をコントロールするようにすることが好ましく、二次粒子となった合成シリカを機械的に粉砕して二次粒子径を調整した粉砕シリカを用いることは好ましくない。
本発明で好ましく用いることができるコロイダルシリカとしては、扶桑化学工業社製の商品名クォートロンシリーズを上げることができる。
【0024】
コロイダルシリカの配合量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して20〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜70質量部である。コロイダルシリカの配合量が全顔料の20質量部未満の場合には、光沢感が低下するだけでなく、インクジェット印字の際のインク吸収性や発色性向上の効果が不充分となり、又、印字ムラを改善できなくなる場合がある。また、配合量が80質量部を越える場合には、塗工した際の操業性が低下する場合がある。
【0025】
インク受理層中における上記コロイダルシリカ以外の顔料として、合成非晶質シリカを用いることができる。合成非晶質シリカはその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカとに大別できる。
湿式法で製造された合成非晶質シリカは、顔料の透明性が気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、湿式法シリカは、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の(結着剤に対する)顔料の割合を高くすることができ、インク受理層の吸収性を高くできるので、インク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上できる。
高い光沢感を得るという点から上記合成非晶質シリカ(コロイダルシリカ以外の合成シリカ)の好ましい二次粒子径は動的光散乱法による粒子径で1〜5μmであることが好ましい。また、BET比表面積は150〜500m/gであることが好ましい。
インク受理層中の全顔料に対し、合成非晶質シリカの配合割合が多くなると、インク吸収性が向上するが、着色顔料がインク受理層内部に入り込みやすくなるため顔料インク印字時の発色性向上の効果が不充分となる傾向がある。また、合成非晶質シリカの配合割合が少ない場合にはインク吸収性が低下し、結果として印字ムラが大きくなる傾向がある。
なお、インク受理層中の顔料としては、上記コロイダルシリカと合成非晶質シリカを混合したものを用いるのが最もよい。
【0026】
インク受理層中における上記コロイダルシリカ以外の顔料として、インクジェット記録した際のインク吸収性、発色性および光沢感を損なわない範囲で他の顔料、例えば水酸化アルミニウム、アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等のアルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)やアルミナ水和物、合成シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、酸化亜鉛等を併用しても良い。
【0027】
(インク受理層の結着剤)
インク受理層中の結着剤として、皮膜形成が可能な高分子化合物を用いることができる。例えば、結着剤として、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂及びこれらの誘導体等を単独又は併用して用いることができる。
結着剤の配合量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して、5質量部〜30質量部であることが好ましいが、必要な塗工層強度が得られ、且つインク吸収性が悪くならない限り、特に限定されるものではない。
【0028】
結着剤として用いる高分子化合物は水系であることが好ましい。「水系」とは、水又は水と少量の有機溶剤からなる媒体中で樹脂が溶解又は分散し、安定化すること(水溶性又は/及び水分散性の樹脂エマルジョン)を意味する。
これらの結着剤は、基紙に塗工する塗工液中では溶解又は粒子となって分散しているが、塗工し乾燥した後に顔料の結着剤となり、インク受理層を形成する。
特に、水系高分子化合物として、部分鹸化のポリビニルアルコールを用いることが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して3質量部から30質量部であることが好ましい。
【0029】
インク受理層は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜添加することができる。
【0030】
基紙上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、あるいはオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0031】
インク受理層の塗工量は、基紙の表面を覆い、かつ充分なインク吸収性が得られる範囲で任意に調整することができるが、記録濃度及びインク吸収性を両立させる観点から、片面当たり、固形分換算で5〜30g/mであることが好ましく、特に、生産性をも加味すると10〜25g/mであることが好ましい。塗工量が30g/mを超えると、キャストドラム鏡面仕上げ面からの剥離性が低下し塗工層が鏡面仕上げ面に付着するなどの問題を生じることがある。
本発明において、インク受理層の塗工量を多く必要とする場合には、インク受理層を多層にすることも可能である。また、基紙とインク受理層の間にインク吸収性、接着性その他の各種機能を有するアンダーコート層を設けても良い。さらに、インク受理層を設けた面の反対側にさらにインク吸収性、筆記性、プリンター印字適性他各種機能を有するバックコート層を設けても良い。
【0032】
(インク受理層の形成)
本発明においては、インク受理層をキャストコート法で形成することによって光沢を付与する。ここで、キャストコート法とは、塗工後の湿潤状態にある塗工面を加熱した仕上げ面に圧着して乾燥する方法である。
好ましくは、銀塩写真に匹敵する面感、光沢を付与することが可能であるという点でゲル化キャストコート法(凝固法)を用いてインク受理層を形成させることが好ましい。
キャストコート法は、例えば以下のようにして行う。まず、インク受理層となる塗工液を基紙に塗布する。次に、塗工液中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する処理液を塗工層に塗布し、塗工層を湿潤状態にさせる。そして、湿潤状態の塗工層を、加熱した鏡面仕上げ面に圧着し乾燥することにより、光沢を有するインク受理層を形成することができる。
処理液を塗布する際の塗工層は、湿潤状態であっても乾燥状態であっても良いが、特に湿潤状態とした場合にはキャストドラムの鏡面仕上げ面を写し取りやすく、塗工層表面の微小な凹凸を少なくすることができるので、得られたインク受理層に銀塩写真並の光沢感を付与させ易くなる。
処理液を塗布する方法としてはロール、スプレー、カーテン方式等があげられるが、特に限定されない。
【0033】
次に、ゲル化キャスト法を用いる場合について説明する。
この方法は、上記キャストコート法において、上記塗工層を塗布後、未乾燥の塗工層を凝固液によってゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥するものである。凝固液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくいため、未乾燥の塗工層に凝固液を塗布する。
凝固液は、湿潤状態の塗工層中の水系結着剤を凝固する作用を持ち、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、塩酸、硫酸等のカルシウム、亜鉛、マグネシウム等の各種の塩が用いられる。特に、水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固液としてホウ酸とホウ酸塩とを含有する液を用いることが好ましい。ホウ酸とホウ酸塩とを混合して用いることにより、凝固時の固さを適度なものとすることが容易となり、インク受理層に良好な光沢感を付与できる。
凝固液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えばロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0034】
又、上記塗工層及び/又は凝固液には、必要に応じて剥離剤を添加することができる。剥離剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、剥離剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、剥離剤としての能力が最大限に発揮される。剥離剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。
また、凝固液には、カチオン性コロイダルシリカ及びカチオン性樹脂を含有させてもよい。その場合、ホウ酸のみでホウ酸塩を含有させないことが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中の「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0036】
〔実施例1〕
パルプとして、広葉樹晒クラフトパルプ100%(CSF=330ml)を用い、このパルプにロジン系エマルジョンサイズ剤0.4%(商品名:AL-1200、星光PMC株式会社製)、硫酸バンド1.0%、填料として二酸化チタン4%を添加してパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーにつき、オントップフォーマーを用いて抄速270m/分で酸性抄紙し、基紙となる原紙を抄造した。
なお、抄造条件としてはジェット/ワイヤー比(J/W比)を1.06とし、ワイヤーシェーキングを振幅22.4mm、振動周波数425回/分(シェーキング強度14,900)に設定した。
さらに、得られた原紙にオンマシン仕様の2ロールサイズプレス装置で表面サイズ処理を行った。具体的には、酸化澱粉8%およびスチレン・メタクリル酸共重合体系表面サイズ剤(商品名:ポリマロンNP−25、荒川化学工業製)0.10%よりなるサイズプレス液を固形分で2.0g/mとなるように塗布し、カレンダー処理して坪量183g/mの基紙を得た。
【0037】
上記基紙に、インク受容層用塗工液Aをブレードコーターで片面塗工量が5g/mとなるように塗工して140℃で送風乾燥した。次いで、塗工液Aを塗工した面にロールコーターで塗工液Bを12g/m塗工し、塗工層が湿潤状態にある間に、凝固液Cを用いて凝固させ、次いでプレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に圧着して乾燥させて鏡面を写し取り、200g/mのインクジェット記録媒体を得た。
【0038】
塗工液A:顔料として合成シリカ(商品名:ファインシールX−60、株式会社トクヤマ社製)100部、エチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン(商品名:AM−3150、昭和高分子株式会社製)25部、及び鹸化度が99%で重合度1700のポリビニルアルコール(商品名:PVA117、株式会社クラレ社製)5部、カチオン性インク定着剤(商品名:T−DK129、星光PMC株式会社製)5部、サイズ剤(商品名:SE−2250、星光PMC株式会社製)5部を混合して濃度30%の水性塗工液を調製した。
塗工液B:顔料として平均二次粒子径が30nmで、二次粒子/二次粒子径の比が2.2のコロイダルシリカ(商品名:クォートロンPL−3、扶桑化学工業株式会社製)60部、気相法シリカ(商品名:アエロジル240、日本アエロジル株式会社製、比表面積が240m/g)10部、沈降法シリカ(商品名:ファインシールX37、株式会社トクヤマ製、比表面積が270m/g)15部、沈降法シリカ(商品名:ファインシールE50、株式会社トクヤマ製、比表面積が190m/g)15部、バインダーとしてポリビニルアルコール(商品名:PVA617、株式会社クラレ製、鹸化度95%、重合度1700)6部、鹸化度88%で重合度1700のポリビニルアルコール(商品名:クラレ217、株式会社クラレ製)6部、離型剤(商品名:FL−48C、東邦化学工業株式会社製)1部、消泡剤(商品名:デフォーマー480、サンノプコ株式会社製)0.2部を配合して濃度22%の塗工液を調整した。
凝固液C:ホウ砂/ホウ酸の配合比が1で、NaおよびHBO換算で濃度を2%とし、離型剤(商品名:FL−48C、東邦化学工業株式会社製)0.2%を配合して凝固液を調整した。
【0039】
〔実施例2〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速を240m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数400回/分、振幅22.4mm(シェーキング強度13240)とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0040】
〔実施例3〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速を350m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数400回/分、振幅22.4mm(シェーキング強度10240)とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0041】
〔実施例4〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速を320m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数425回/分、振幅22.4mm(シェーキング強度12600)とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0042】
〔実施例5〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速を400m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数425回/分、振幅22.4mm(シェーキング強度10115)とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0043】
〔実施例6〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速350m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数425回/分、振幅22.4mm(シェーキング強度11354)J/W比を1.04とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0044】
〔実施例7〕
基紙の坪量を140g/mとした以外は実施例5と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0045】
〔実施例8〕
基紙を抄造する際に、パルプとして、広葉樹晒クラフトパルプのろ水度を400ml(CSF)とし、基紙の坪量を235g/mとした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0046】
〔比較例1〕
基紙となる原紙を抄造する際、ワイヤーシェーキングを行わなかった以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0047】
〔比較例2〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速240m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数425回/分、振幅25mm(シェーキング強度16875)とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0048】
〔比較例3〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速240m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数240回/分、振幅20mm(シェーキング強度6000)とした以外は、実施例1と同様の方法でインクジェット記録媒体を得た。
【0049】
〔比較例4〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速を240m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数240回/分、振幅15mm(シェーキング強度4500)とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0050】
〔比較例5〕
基紙となる原紙を抄造する際の抄速を240m/分とし、ワイヤーシェーキング条件を振動周波数600回/分、振幅25mm(シェーキング強度24000)とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0051】
各実施例および比較例で得られたインクジェット記録媒体について、以下のように評価した。その評価結果を表1に示す。
<テーバー剛度>
JIS−P−8125により抄紙方向(MD)のテーバー剛度を測定した。
<光沢面(インク受理層の表面)の凹凸性>
光沢面の凹凸性は、RH15℃・10%RHの各環境下で、白紙の凹凸と、市販のインクジェットプリンタ(エプソン製 EP803、印字モード;写真用紙/きれい)で全面黒ベタ印字し、30分後の印字部の凹凸とを下記の基準で評価した。
凹凸評価基準
〇:光沢面に凹凸が無いか微少なもの
△:光沢面にわずかに凹凸感があるもの
×:光沢面に比較的大きな凹凸が多くあるもの
【0052】
<搬送性>
はがきサイズに裁断したインクジェット記録媒体を、市販のインクジェットプリンタ(エプソン製 EP803、印字モード;写真用紙/きれい)(エプソン製 EP803、印字モード;写真用紙/きれい)にて、紙送り方向を縦目として10枚連続して印字し、搬送性を評価した。
評価基準
〇:紙詰りがなく、搬送性に問題がない。
△:紙詰りが1回発生し、搬送性が少し悪い。
×:紙詰りが複数回発生し、搬送性が悪い。
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、抄紙方向のテーバー剛度が4.0mN・m以下で、かつ抄紙方向のテーバー剛度と抄紙方向に対して直交する方向のテーバー剛度の比が2.5以下である実施例1〜6の場合、インクジェット印字後の光沢面の凹凸が無いか微小であり、プリンターでの搬送性も良好であった。
一方、シェーキングせずに抄造された基紙を用いた比較例1の場合、及びシェーキング強度が10,000未満で抄造された基紙を用いた比較例3、4の場合、抄紙方向のテーバー剛度が4.0mN・mを超え、インクジェット印字後の光沢面の凹凸性が劣り、搬送性も劣った。
また、シェーキング強度が15,000を超えて抄造された基紙を用いた比較例2、5の場合、印字後の光沢面の凹凸性が劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも片面に、顔料を含有するインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット記録媒体であって、
該基紙は、下記式1:
I=f×s/v(但し、I:シェーキング強度、f:振動周波数(回/分)、s:振幅(mm)、v:抄造速度(m/分))
で定義されるシェーキング強度が10,000〜15,000の範囲であるワイヤーシェーキング装置を用いて抄紙機のワイヤーを振動させて抄造されたものであり、
前記基紙につき、JIS P 8125に規定される抄紙方向のテーバー剛度が4.0mN・m以下で、かつ抄紙方向のテーバー剛度と抄紙方向に対して直交する方向のテーバー剛度の比が2.5以下であるインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記基紙の坪量が140〜240g/mで、抄紙速度250m/分〜400m/分で抄造される請求項1記載のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2012−206328(P2012−206328A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72722(P2011−72722)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】