説明

インクジェット記録媒体

【課題】良好な中間色調が得られるとともに、画像記録後の色調変化(カラードリフト)の発生が抑制されるインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】支持体上に、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子並びに電荷密度9.0meq/g以上のカチオン性ポリマーを含有する第1のインク受容層と、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子を含有する第2のインク受容層とを前記支持体側から順に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー画像を記録する画像記録方法としては、近年、様々な方法が提案されているが、いずれにおいても画像の品質、風合い、記録後のカールなど、記録物の品位に対する要求は高い。例えば、インクジェット記録方法は、インクを受容する記録層が多孔質構造に構成されたインクジェット記録媒体を用いた方法が実用化されている。
【0003】
その一例として、無機顔料粒子及び水溶性バインダーを含み、高い空隙率を有する記録層が支持体上に設けられたインクジェット記録媒体があり、多孔質構造を有するためにインクの速乾性に優れ、高い光沢を有する等、写真ライクな画像の記録が可能になってきている。そのため、インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野に広く適用されており、近年では、例えばフォトブックなどの商業用のプリント等として両面に画像を記録したりする等の用途に対する要求がある。
【0004】
このような用途では、インクを打滴して画像記録するにあたり、高画質で高光沢な画像をより高速で記録できるだけでなく、記録材料としての品質上、記録画像の濃度や色味が安定していることが求められる。前記に関連する技術として、記録層が2層構造を有し、下層側に含窒素有機カチオンポリマー(例えば、商品名「スーパーフレックス650」等のカチオン性ポリウレタンや商品名「シャロールDC902P」等のカチオン系テトラアルキルアンモニウム類)を多く含むインクジェット記録媒体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このインクジェット記録媒体においては、高い画像濃度を保つことができるとともに、前述のような多孔質構造とすることにより低下しやすくなる画像のオゾン耐性を向上できるとされている。また、外部から与えられるインクが最初に接触する最上層に電荷密度の高いカチオンポリマーが導入されたインクジェット記録媒体が開示されており(例えば、特許文献2参照)、顔料インクと染料インクのいずれにも適合した高画像品質を得ることが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−52369号公報
【特許文献2】特開2005−96109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記含窒素有機カチオンポリマーを記録層の下層側に含有する場合においては、カチオンポリマーの電荷密度は考慮されておらず、グレー色調の向上や色調変化の防止に対する効果は十分に得られていない。また、上層に電荷密度の高いカチオンポリマーが導入されたインクジェット記録媒体では、良好なグレー色調を得ることができなかった。即ち、前述のインクジェット記録媒体では、カチオンポリマーを用いることで、オゾンガスによる記録後の画像の褪色防止や変色防止にある程度の効果が得られると考えられるものの、グレー色調などの中間色の色調や、記録時から経時(23℃/50%RHなどの平均的な温湿度環境下において数分から24時間程度)で変化する色調の変化(カラードリフト)までは十分に改善できるとは言い難い場合があった。特に、グレー色調などの中間色調は、複数色の混色で色相形成されるため、小さい色変わりでも色バランスが崩れ、多色画像の画像品質に大きく影響する。
【0007】
そこで、本発明は、グレー色調などの良好な中間色調が得られるとともに、画像記録後の色調変化(カラードリフト)の発生が抑制されたインクジェット記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 支持体上に、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子並びに電荷密度9.0meq/g以上のカチオン性ポリマーを含有する第1のインク受容層と、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子を含有する第2のインク受容層とを前記支持体側から順に有するインクジェット記録媒体である。
【0009】
<2> 前記第1のインク受容層中の前記カチオン性ポリマーの含有量に対する前記第2のインク受容層中の前記カチオン性ポリマーの含有量の比率〔前記第2のインク受容層中の含有量/前記第1のインク受容層中の含有量〕が1.0未満である前記<1>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0010】
<3> 前記カチオン性ポリマーが、第一級アミン又はその塩に由来する構造単位を含む高分子化合物である前記<1>又は前記<2>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0011】
<4> 前記カチオン性ポリマーが、下記一般式(1)で示される構造単位を含むポリアリルアミン系化合物である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。尚、下記一般式(1)中、nは1以上の整数を表す。
【0012】
【化1】

【0013】
<5> 前記第1のインク受容層は湿式シリカを含有し、前記第2のインク受容層は気相法シリカを含有する前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
【0014】
<6> 前記湿式シリカのBET比表面積が200m/g以上である前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、グレー色調などの良好な中間色調が得られるとともに、画像記録後の色調変化(カラードリフト)の発生が抑制されたインクジェット記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のインクジェット記録媒体について詳細に説明する。
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0017】
<インクジェット記録媒体>
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上に気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子並びに電荷密度9.0meq/g以上のカチオン性ポリマーを含有する第1のインク受容層と、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子を含有する第2のインク受容層とを前記支持体側から順に有する。このような構成とすることにより、グレー色調などの中間色調について良好な色調が得られるとともに、画像記録後の色調変化(カラードリフト)を抑えることができる。これは、例えば以下のように考えられる。
【0018】
即ち、支持体上に順次積層された第1のインク受容層及び第2のインク受容層において、支持体に近い下層側のインク受容層(第1のインク受容層)が、支持体から遠い上層側のインク受容層(第2のインク受容層)よりも、カチオン密度の高いカチオン性ポリマーをより多く含有する構成とすることにより、支持体上に設けられた少なくとも2層からなるインク受容層全体としてみたときに、前記インク受容層の深さ方向において、下層側と上層側との間に前記カチオン性ポリマーの含有量に応じたカチオン密度勾配が生じる。このようなカチオン密度勾配を有するインク受容層に対して外部からインクが付与されると、インク受容層の深さ方向におけるインク中の着色剤(染料又は着色顔料)の定着度が制御される。これにより、特に、複数色の混色で色相形成されるグレー色調などの中間色調においても、例えばマゼンダ色材は比較的層内部に入り込んで固定化される等、着色剤の種類毎に異なる挙動でインク受容層の深さ方向に誘引されて定着される。このため、色相バランスが良好になる。従って、優れた中間色調が得られるとともに、画像記録後の色調変化(カラードリフト)の発生を防止することができると推測される。
【0019】
[インク受容層]
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上に、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子並びに電荷密度9.0meq/g以上のカチオン性ポリマーを含有する第1のインク受容層を有する。前記第1のインク受容層の上には、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子を含有する第2のインク受容層が積層される。前記第2のインク受容層は、最外層をなして外部から付与されたインクを受容し、着色剤の少なくとも一部を固定化して画像形成を担う層である。
【0020】
前記第1のインク受容層及び第2のインク受容層のうち、少なくとも下層側の前記第1のインク受容層は、電荷密度9.0meq/g以上のカチオン性ポリマー(以下、「高カチオン密度ポリマー」ということがある。)の少なくとも1種を含む。前記第1のインク受容層中に高カチオン密度ポリマーが含まれることにより、前記第2のインク受容層上に付与されたインク中の着色剤が、前記高カチオン密度ポリマーを含有する前記下層側に誘引されて定着される。これにより、特にグレー色調などのように、複数種の着色剤による混色で色相形成される中間色調においても、良好に色相バランスを調整することができる。この結果、良好な中間色調が得られるとともに、色調変化を抑えることができる。
【0021】
前記インクジェット記録媒体においては、前記第1のインク受容層に前記高カチオン密度ポリマーが含有されることが重要であり、上層側の前記第2のインク受容層には、前高記カチオン密度ポリマーは含有されてもよく、含有されていなくてもよい。
前記第1のインク受容層及び第2のインク受容層は、それぞれ単層であっても、2層以上の積層構造を有していてもよい。
【0022】
(高カチオン密度ポリマー)
本発明における第1のインク受容層及び第2のインク受容層のうち、少なくとも前記第1のインク受容層は、電荷密度9.0meq/g以上のカチオン性ポリマー(高カチオン密度ポリマー)の少なくとも1種を含む。これにより、インクジェットインク中の着色剤の深さ方向における定着度が制御されるため、良好な中間色調を得ることができ、また画像記録後の色調変化を抑制することができる。
【0023】
前記高カチオン密度ポリマーの電荷密度は9.0meq/g以上の範囲とされる。9.0meq/g未満の場合は、良好な中間色調が得られず、且つ色調変化を抑制することができない。中間色調の向上及び色調変化の防止効果の観点で、10.0meq/g以上であることが好ましい。前記高カチオン密度ポリマーの電荷密度の上限値は、特に制限されるものではない。塗布液の粘度に伴う製造適正の点で、例えば12.0meq/g以下であることが好ましい。
【0024】
前記高カチオン密度ポリマーの電荷密度は、ポリマー上に存在する正味の正または負電荷を定量する方法のいずれも使用可能である。例えば、標準的なNMR法を用いて、ポリマーの主鎖に結合したカチオン性官能基のモル数を測定することによって決定することができる。
【0025】
前記高カチオン密度ポリマーは、前記第2のインク受容層中にも少なくとも1種含有されてもよい。
前記第2のインク受容層が前記高カチオン密度ポリマーを含有する場合、前記高カチオン密度ポリマーが前記第2のインク受容層よりも前記第1のインク受容層により多く含まれる構成とされる。即ち、前記第1のインク受容層と前記第2のインク受容層におけるそれぞれの前記高カチオン密度ポリマーの含有量の差に応じたカチオン密度勾配を有する積層構造が形成される。これにより、前記第2のインク受容層上に付与されたインク中の着色剤に対して、前記カチオン密度勾配により、深さ方向に適度な誘引力が働き、定着度が良好に制御される。従って、良好な中間色調を得ることができ、また画像記録後の色調変化を抑制することができる。
【0026】
前記高カチオン密度ポリマーが有するカチオン性基としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基等を挙げることができる。なかでも、第一級アミノ基が好ましい。
【0027】
前記高カチオン密度ポリマーとしては、特に限定はないが、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩及び環状アミン、又は、これらの塩を構造単位とする単独重合体である高分子化合物、前記構造単位を他の構造単位との共重合体又は縮重合体として得られる高分子化合物等が挙げられる。なかでも、第一級アミン又はその塩を構造単位とする単独重合体又は該構造単位を他の構造単位と共重合させた共重合体(ポリアリルアミン系化合物)が好ましい。
なお、本明細書中、「構造単位」とは、重合体を構成するモノマー単位を意味する。
【0028】
前記ポリアリルアミン系化合物としては、例えば下記一般式(1)で示される構造単位を含む高分子化合物が挙げられる。尚、下記一般式(1)中、nは1以上の整数を表す。
【0029】
【化2】

【0030】
前記ポリアリルアミン系化合物の重量平均分子量(MW)は、中間色調の向上及び色調変化の防止効果の観点から、1000〜150000であることが好ましく、1000〜15000であることがより好ましい。
前記ポリアリルアミン系化合物の重量平均分子量(MW)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(キャリア:テトラヒドロフラン)によって測定されるポリスチレン換算質量平均分子量である。
【0031】
前記一般式(1)で示される構造単位の前記高カチオン密度ポリマーにおける含有率は、中間色調の向上及び色調変化の防止効果の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは50〜100重量%、更に好ましくは75〜100重量%である。
【0032】
前記高カチオン密度ポリマーを構成する前記他の構造単位としては、特に限定はないが、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基およびその塩、又は第4級アンモニウム塩基等の塩基性あるいはカチオン性部分を含まず、インクジェット用インク中の染料と相互作用を示さない、あるいは相互作用が実質的に小さい構造単位が挙げられる。
例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル等が挙げられる。
前記他の構造単位は、1種単独で又は2種以上を組合せて使用できる。
【0033】
前記高カチオン密度ポリマーを具体的に例示するならば、ビニルイミン、アルキルアミン、アルキレンアミン、ビニルアミン、アリルアミン、脂環式アミン、エピハロヒドリン、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウム塩、アクリルアミド、アミドアミン、アミジン等を単量体とするカチオン性高分子化合物である、いわゆる、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂等が挙げられる。中でも、アリルアミンを単量体とするカチオン性高分子化合物系化合物が好ましい。これらの高カチオン密度ポリマーは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記高カチオン密度ポリマーを複数種混合する場合は、混合物の電荷密度が重量平均値として前記規定範囲内である必要がある。
【0034】
前記高カチオン密度ポリマーとしては、入手が容易であることから、市販品を使用してもよい。例えば、日東紡(株)社製のPAA−HCl−05(商品名)、ハイモ(株)社製のSC505(商品名)等が挙げられる。
【0035】
前記高カチオン密度ポリマーの数平均分子量は、1000〜50000であることが好ましく、3000〜20000であることがより好ましい。数平均分子量を前記範囲とすることで、塗布液粘度の上昇といった生産性の問題を発生させることなくグレー色調などの中間色調の向上を図るとともに、画像記録後の色調変化を防止することができる。
【0036】
前記第1のインク受容層における前記高カチオン密度ポリマーの含有率としては、本発明の効果をより効果的に得る観点から、前記第1のインク受容層中の無機粒子の総質量に対し、0.1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。含有率を前記範囲とすることで塗布液粘度の上昇といった生産性の問題を発生させることなく、グレー色調などの中間色調を向上することができ、また色調変化の発生を抑制することができる。
【0037】
前記第2のインク受容層中の前記高カチオン密度ポリマーの含有率は、前記第1のインク受容層中の前記高カチオン密度ポリマーの含有率よりも低い範囲であれば、特に制限されない。前記第2のインク受容層における前記高カチオン密度ポリマーの含有率としては、本発明の効果をより効果的に得る観点から、前記第2のインク受容層中の無機粒子の総質量に対し、0〜15質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましく、0〜5質量%が更に好ましい。
【0038】
また、本発明の効果をより効果的に得る観点からは、前記第2のインク受容層における前記高カチオン密度ポリマー/無機粒子の比率よりも、前記第1のインク受容層における前記高カチオン密度ポリマー/無機粒子の比率が大きいことが好ましい。
【0039】
前記第1のインク受容層中の前記高カチオン密度ポリマーの含有量に対する前記第2のインク受容層中の前記高カチオン密度ポリマーの含有量の比率〔前記第2のインク受容層中の含有量/前記第1のインク受容層中の含有量〕は、1.0未満であればよい。即ち、インクに含まれる着色剤の種類や前記高カチオン密度ポリマーの種類等に応じて、着色剤が深さ方向に誘引されて定着されるように適宜選択されればよい。中間色調の向上及び色調変化の防止効果の観点から、前記比率は、0〜0.8であることがより好ましく、0〜0.4であることが更に好ましい。前記高カチオン密度ポリマーの含有量の比率が小さいほど、中間色調における色相バランスを悪化させる傾向にあるマゼンダ色の定着度を良好に調整することができ、中間色調の向上を十分に図ることができる。
【0040】
前記各インク受容層中の前記高カチオン密度ポリマーの含有量の比率を上記範囲とする方法としては、例えば、各インク受容層を形成するための塗布液を調製する際に、該塗布液の配合組成における高カチオン密度ポリマーの配合量の割合を適宜調節すればよい。
【0041】
(無機粒子)
本発明における第1のインク受容層及び第2のインク受容層(以下、総じて単に「各インク受容層」ということがある。)は、無機粒子として、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子(以下、気相法シリカ及び湿式シリカを併せて単に「特定シリカ」ということがある。)をそれぞれ含有する。これにより、良好なインク吸収性、光沢性、及び写像性が得られる。特に、気相法シリカは、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性、保持の効率が高く、また、屈折率が低いので、適切な粒子径まで分散を行なえば各インク受容層に透明性を付与することができ、高い色濃度と良好な発色性が得られる。各インク受容層が透明であることは、OHPなど透明性が必要とされる用途のみならず、フォト光沢紙等に適用する場合でも、高い色濃度と良好な発色性、光沢が得られる。また、湿式シリカは、細孔径が小さいため、特にインク吸収を促して迅速な吸収性能を付与することができる。このため、高速記録した際におけるインク吸収性が優れたものとなり、滲みの発生が抑制される。更には、ブリーディングの発生も抑制することができる。
【0042】
一般にシリカ粒子は、通常その製造法により湿式法粒子と乾式法(気相法)粒子とに大別される。湿式法では、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が主流であり(湿式法により得られたシリカ粒子を「湿式シリカ」ともいう。)、これに対して気相法は、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が主流である。気相法シリカとは、該気相法により得られた無水シリカ粒子である。
【0043】
気相法シリカは、前記含水シリカと表面のシラノール基の密度、空孔の有無等に相違があり、異なった性質を示すが、空隙率が高い三次元構造を形成するのに適している。この理由は明らかではないが、含水シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が5〜8個/nmと多く、シリカ粒子が密に凝集(アグリゲート)し易く、一方、気相法シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nmと少ないことから疎な軟凝集(フロキュレート)となり、その結果、空隙率が高い構造になるものと推定される。
【0044】
前記各インク受容層に含まれる気相法シリカとしては、表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nmである気相法シリカが好ましい。
前記各インク受容層に含まれる気相法シリカの平均一次粒子径には特に限定はないが、画像濃度及びインク吸収性をより向上させる観点からは、10nm以下が好ましく、3nm〜10nmの範囲がより好ましい。
【0045】
前記各インク受容層に含まれる気相法シリカのBET法による比表面積は、200m/g以上が好ましく、250m/g以上がより好ましい。前記各インク受容層に含まれる気相法シリカの比表面積が200m/g以上であると、前記各インク受容層の透明性が高く、画像濃度を高く保つことが可能である。
【0046】
本発明でいうBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、又は容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer Emmett Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
【0047】
湿式シリカは、さらに製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。このうち、沈降法シリカは、珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の工程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば、東ソー・シリカ(株)からニップシールとして、(株)トクヤマからトクシールとして市販されている。また、ゲル法シリカは、珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造される。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子が形成される。例えば、東ソー・シリカ(株)からニップゲルとして、グレースジャパン(株)からサイロイド、サイロジェットとして市販さている。
【0048】
前記各インク受容層に含まれる湿式シリカのBET法による比表面積は、200m/g以上が好ましい。前記各インク受容層に含まれる湿式シリカの比表面積を上記範囲とすることで、グレー階調やカラードリフトが向上する。
【0049】
前記特定シリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記第1のインク受容層に含まれる特定シリカとしては、気相法シリカ及び湿式シリカのいずれでもよく、インク吸収性の観点から、湿式シリカが好ましい。前記第2のインク受容層に含まれる特定シリカとしては、気相法シリカ及び湿式シリカのいずれでもよく、光沢性、透明性、画像濃度の観点から、気相法シリカが好ましい。前記各インク受容層に含まれる特定シリカとしては、前記第1のインク受容層に湿式シリカが含まれ、前記第2のインク受容層に気相法シリカが含まれることがより好ましい。このような組合せにより、良好なインク吸収性を確保しつつ、優れた光沢性、透明性、画像濃度が得られる。
【0050】
また、前記各インク受容層は、前記特定シリカに加えて、顔料成分として、必要に応じてその他の無機粒子をそれぞれ併用してもよい。
前記その他の無機粒子としては、従来公知のものがいずれも使用可能である。例えば、含水シリカ微粒子、コロイダルシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、雲母、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記無機粒子の前記各インク受容層における各含有量としては、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%を超えた量である。前記無機粒子の量が50質量%以上、更には60質量%を超えた範囲であると、更に良好な多孔質構造を形成することが可能であり、インク吸収性により優れたインクジェット記録媒体を作製することができる。前記無機粒子の各インク受容層中における含有量は、各インク受容層を形成する組成物中の水以外の固形成分に基づいて算出される量である。
【0052】
前記各インク受容層が前記その他の無機粒子を含有する場合、前記特定シリカの含有率は、前記第1のインク受容層に含まれる前記無機粒子の総質量中の50質量%を超える範囲とする。前記特定シリカの含有率は、インク吸収性と光沢性の観点から、前記第1のインク受容層に含まれる前記無機粒子の総質量中の60〜90質量%であることが好ましく、65〜80質量%であることがより好ましい。
前記特定シリカの含有率が50質量%を超えるとは、前記特定シリカが主たる無機粒子として含まれることを意味し、50質量%を超える含有率にすることにより、付与されたインクに対する吸収容量がより大きく確保され、光沢度が向上する。逆に該含有率が50質量%以下であると、光沢度が著しく低下する。
【0053】
(樹脂)
本発明における第1のインク受容層は、樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましい。前記第1のインク受容層に含まれる樹脂は、後述する第2のインク受容層に含まれる水溶性樹脂と同一種のものを用いてもよいし、あるいは異なる種のものであってもよい。前記樹脂の含有により、前記無機粒子をより好適に分散含有し、塗膜強度をより向上させることができる。
【0054】
前記樹脂としては、水溶性樹脂及び水不溶性樹脂(例えば、ラテックス)などの樹脂材料から広く選択して用いることができる。好ましい樹脂としては、水溶性樹脂であり、例えば、ポリビニルアルコール(アセトアセチル変性、カルボキシ変性、イタコン酸変性、マレイン酸変性、シリカ変性及びアミノ基変性等の変性ポリビニルアルコールを含む)、デンプン類(変性デンプンを含む)、ゼラチン、アラビヤゴム、カゼイン、スチレン−無水マレイン酸共重合体加水分解物、ポリアクリルアミド、酢酸ビニル−ポリアクリル酸共重合体のケン化物等が挙げられる。また、水不溶性樹脂としては、スチレン・ブタジエン共重合物、酢酸ビニル共重合物、アクリロニトリル・ブタジエン共重合物、アクリル酸メチル・ブタジエン共重合物、ポリ塩化ビニリデン等の合成高分子のラテックス系の樹脂が挙げられる。
なお、前記ポリビニルアルコールの詳細については、後述する水溶性樹脂の詳細において説明する。
【0055】
前記樹脂の前記第1のインク受容層中における含有量としては、前記第1のインク受容層の全固形分に対して、5〜50質量%が好ましく、7〜20質量%がより好ましい。
【0056】
前記第1のインク受容層において、前記無機粒子(x)と前記樹脂(y)との含有比〔PB比(x/y)、バインダー1質量部に対する無機粒子の質量〕は、PB比が大き過ぎることに起因する膜強度低下や乾燥時のひび割れを防止すると共に、PB比が小さ過ぎるために空隙が樹脂によって塞がれ易くなり、溶媒の吸収性が低下するのを防ぐ観点から、20/1〜5/1の範囲が好ましい。更には、PB比(x/y)は、溶媒吸収性をより向上させる観点から、15/1〜7/1が好ましい。
【0057】
前記第1のインク受容層の層厚については、特に限定はなく、例えば、インク吸収性の観点から、1〜50μmが好ましく、2〜30μmがより好ましい。なお、前記第1のインク受容層の層厚は、剃刀あるいはミクロトームなどで裁断し、その裁断面(断面)を光学顕微鏡にて観察して測定される。
【0058】
(水溶性樹脂)
本発明における第2のインク受容層は、水溶性樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましい。前記第2のインク受容層に含まれる水溶性樹脂は、前記第1のインク受容層に含まれる樹脂と同一種のものを用いてもよいし、あるいは異なる種のものであってもよい。前記水溶性樹脂の含有により、前記無機粒子をより好適に分散含有し、層強度がより向上する。
【0059】
前記水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(アセトアセチル変性、カルボキシ変性、イタコン酸変性、マレイン酸変性、シリカ変性、及びアミノ基変性等の変性ポリビニルアルコールを含む。)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン類(変性デンプンを含む。)、ゼラチン、アラビヤゴム、カゼイン、スチレン−無水マレイン酸共重合体加水分解物、ポリアクリルアミド、酢酸ビニル−ポリアクリル酸共重合体のケン化物等が挙げられる。
【0060】
前記ポリビニルアルコールには、ポリ酢酸ビニルの低級アルコール溶液をケン化して得られるポリビニルアルコール及びその誘導体、さらに酢酸ビニルと共重合しうる単量体と酢酸ビニルとの共重合体のケン化物が含まれる。
前記酢酸ビニルと共重合しうる単量体としては、(無水)マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸及びそのエステル、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン、(メタ)アリルスルホン酸、エチレンスルホン酸、スルホン酸マレート等のオレフィンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸ソーダ、エチレンスルホン酸ソーダ、スルホン酸ソーダ(メタ)アクリレート、スルホン酸ソーダ(モノアルキルマレート)、ジスルホン酸ソーダアルキルマレート等のオレフィンスルホン酸アルカリ塩、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミドアルキルスルホン酸アルカリ塩等のアミド基含有単量体、N−ビニルピロリドン誘導体等が挙げられる。
【0061】
前記ポリビニルアルコールの中でも、鹸化度が92〜98mol%のポリビニルアルコール(以下、高鹸化ポリビニルアルコールと称することがある。)が特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度が92mol%以上であると、より良好な中間調の色相が得られ、また塗布液の粘度上昇が効果的に抑制され、より良好な塗布安定性を得ることができる。一方、ポリビニルアルコールの鹸化度が98mol%以下であると、インク吸収性がより向上する。
ポリビニルアルコールの鹸化度としては、好ましくは93〜97mol%である。
前記高鹸化ポリビニルアルコールの重合度は、1500〜3600が好ましく、より好ましくは2000〜3500である。重合度は、1500以上であるとインク受容層のひび割れをより効果的に抑制でき、また3600以下であると塗布液の粘度上昇をより効果的に抑制できる。
【0062】
水溶性樹脂として、前記高鹸化ポリビニルアルコールは、これ以外の水溶性樹脂と併用することもできる。併用可能な水溶性樹脂としては、例えば、親水性構造単位としてヒドロキシル基を有する樹脂である、鹸化度が前記範囲以外のポリビニルアルコール(PVA)、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、キチン類、キトサン類、デンプン;親水性のエーテル結合を有する樹脂である、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);親水性のアミド基又はアミド結合を有する樹脂である、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。また、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類等を挙げることができる。なお、インク受容層には、セルロースが含まれてもよい。
前記高鹸化ポリビニルアルコールと上述した水溶性樹脂とを併用する場合、高鹸化ポリビニルアルコールと水溶性樹脂との合計量に対する高鹸化ポリビニルアルコールの割合は1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がさらに好ましく、6〜12質量%が特に好ましい。
【0063】
ポリビニルアルコール、特に高鹸化ポリビニルアルコールのインク受容層中における含有量としては、該含有量の過少による、膜強度の低下や乾燥時のひび割れを防止すると共に、該含有量の過多によって空隙が樹脂により塞がれ易くなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、インク受容層の全固形分質量に対して、9〜40質量%が好ましく、12〜33質量%がより好ましい。
【0064】
ポリビニルアルコールは、その構造単位に水酸基を有するが、この水酸基とシリカ粒子表面のシラノール基とが水素結合を形成して、シリカ粒子の二次粒子を鎖単位とする三次元網目構造を形成し易くする。このような三次元網目構造の形成によって、空隙率の高い多孔質構造のインク受容層を形成し得ると考えられる。得られた多孔質のインク受容層は、毛細管現象によって急速にインクを吸収し、インク滲みのない真円性の良好なドットを形成することができる。
【0065】
前記第2のインク受容層において、前記無機粒子(x)と水溶性樹脂(y)との含有比〔PB比(x/y)、水溶性樹脂1質量部に対する無機粒子の質量〕は、前記第2のインク受容層の層構造にも大きな影響を与える場合がある。すなわち、PB比が大きくなると、空隙率や細孔容積、表面積(単位質量当り)が大きくなる。具体的には、前記第2のインク受容層全体のPB比(x/y)は、該PB比が大き過ぎることに起因する層強度の低下や乾燥時のひび割れを防止し、且つ該PB比が小さ過ぎることによって、該空隙が樹脂により塞がれ易くなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、1.5/1〜10/1が好ましく、また膜強度の低下や乾燥時のひび割れの抑制効果をより効果的に高める観点から、1.5/1〜8/1がより好ましい。
また、インクジェットプリンタの搬送系を通過する場合、インクジェット記録媒体に応力が加わることがあるので、前記第2のインク受容層は充分な膜強度を有していることが必要である。更にシート状に裁断加工する場合、前記第2のインク受容層の割れ及び剥がれ等を防止する上でも、前記第2のインク受容層には充分な膜強度が必要である。このような観点より、前記第2のインク受容層全体のPB比(x/y)としては10/1以下が好ましい。
【0066】
本発明における第2のインク受容層の層厚については、特に限定はなく、例えば、インク吸収性、濃度、光沢の観点から、3〜30μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。なお、インク受容層の層厚は、剃刀あるいはミクロトームなどで裁断し、その裁断面(断面)を光学顕微鏡にて測定される。
【0067】
(ホウ素化合物)
本発明における第1のインク受容層及び第2のインク受容層には、ホウ素化合物を含有することができる。ホウ素化合物は、前記各インク受容層中において架橋剤として用いられることが好ましい。すなわち、前記各インク受容層が、ホウ素化合物による水溶性樹脂(例えばポリビニルアルコール)の架橋反応によって硬化された多孔質層である態様が好ましい。
【0068】
前記ホウ素化合物としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩(例えば、オルトホウ酸塩、InBO、ScBO、YBO、LaBO、Mg(BO、Co(BO、二ホウ酸塩(例えば、Mg、Co)、メタホウ酸塩(例えば、LiBO、Ca(BO、NaBO、KBO)、四ホウ酸塩(例えば、Na・10HO)、五ホウ酸塩(例えば、KB・4HO、Ca11・7HO、CsB)等を挙げることができる。中でも、速やかに架橋反応を起こすことができる点で、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩が好ましく、特にホウ酸又はホウ酸塩が好ましく、ホウ酸又はホウ酸塩をポリビニルアルコールと組み合わせて用いることが最も好ましい。
【0069】
前記各インク受容層では、各層の全体において前記ホウ素化合物が、前記ポリビニルアルコール1.0質量部に対して、0.05〜0.50質量部の範囲で含有されることが好ましく、0.08〜0.45質量部の範囲で含有されることがより好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記範囲であると、ポリビニルアルコールを効果的に架橋し、ひび割れ等が防止される。
【0070】
前記水溶性樹脂としてゼラチンを用いる場合などは、ホウ素化合物以外の下記化合物も架橋剤(以下、「他の架橋剤」ともいう。)として用いることができる。
他の架橋剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタールアルデヒド等のアルデヒド系化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン系化合物;ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジクロロ−6−S−トリアジン・ナトリウム塩等の活性ハロゲン化合物;ジビニルスルホン酸、1,3−ビニルスルホニル−2−プロパノール、N,N'−エチレンビス(ビニルスルホニルアセタミド)、1,3,5−トリアクリロイル−ヘキサヒドロ−S−トリアジン等の活性ビニル化合物;ジメチロ−ル尿素、メチロールジメチルヒダントイン等のN−メチロール化合物;メラミン樹脂(例えば、メチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン);エポキシ樹脂;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物;米国特許第3017280号明細書、同第2983611号明細書に記載のアジリジン系化合物;米国特許第3100704号明細書に記載のカルボキシイミド系化合物;グリセロールトリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物;1,6−ヘキサメチレン−N,N'−ビスエチレン尿素等のエチレンイミノ系化合物;ムコクロル酸、ムコフェノキシクロル酸等のハロゲン化カルボキシアルデヒド系化合物;2,3−ジヒドロキシジオキサン等のジオキサン系化合物;乳酸チタン、硫酸アルミ、クロム明ばん、カリ明ばん、酢酸ジルコニル、酢酸クロム等の金属含有化合物、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、オキサゾリン基を2個以上含有する低分子又はポリマー等である。他の架橋剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
(他のカチオン性ポリマー)
本発明における第1のインク受容層及び第2のインク受容層は、画像の滲みを抑制する観点及び気相法シリカを分散する観点より、前記高カチオン密度ポリマーに加え、電荷密度が9.0meq/g未満のカチオン性ポリマー(以下、「他のカチオン性ポリマー」と称する。)の少なくとも1種を含有していてもよい。他のカチオン性ポリマーとしては、電荷密度が9.0meq/g未満であれば特に限定はないが、第1級〜第3級アミノ基又は第4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好適である。
【0072】
前記他のカチオン性ポリマーとしては、第1級〜第3級アミノ基及びその塩、又は第4級アンモニウム塩基を有する単量体(含窒素有機カチオンモノマー)の単独重合体である含窒素有機カチオンポリマー、前記含窒素有機カチオンモノマーと他の単量体との共重合体又は縮重合体として得られる含窒素有機カチオンポリマー、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体、アクリル酸及びメタクリル酸の重合体又は共重合体等のアクリル系重合体;スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体等のスチレン−アクリル系重合体;エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体;ウレタン結合を有するウレタン系ポリマー等に、カチオン基を含む化合物を用いてカチオン化修飾して得られる含窒素有機カチオンポリマー等を挙げることができる。
【0073】
本発明における他のカチオン性ポリマーの具体例としては、例えば特開2008−246988号公報の段落番号[0024]〜[0031]に記載のものを挙げることができる。
上記以外のカチオン性ポリマーの中でも、滲み抑制の観点から、カチオン変性ポリウレタン、及び特開2004−167784号公報等に記載のカチオン変性ポリアクリレート等のカチオン変性された自己乳化性高分子が好ましく、カチオン変性ポリウレタンがより好ましい。
【0074】
前記カチオン変性された自己乳化性高分子としては、例えば、特開2007−223119号公報の段落番号[0018]〜[0046]に記載されているカチオン変性された自己乳化性高分子から適宜選択して用いることができる。
【0075】
前記カチオン変性ポリウレタンを構成するポリウレタンとしては、通常用いられるジオール化合物とジイソシアネート化合物とを適宜選択して、重付加反応によって合成されるポリウレタンを特に制限なく用いることができる。
また前記カチオン変性ポリウレタンが有するカチオン性基としては、1級〜3級アミノ基、4級アンモニウム基等を挙げることができ、なかでも3級アミノ基、4級アンモニウム基が好ましい。
【0076】
前記カチオン変性ポリウレタンは、例えば、ポリウレタン合成の際、ジオール化合物としてカチオン性基を有するジオール化合物を用いることで製造することができる。また、4級アンモニウム基の場合は、3級アミノ基を有するポリウレタンを適当な4級化剤で処理して4級化してもよい。
【0077】
ポリウレタンの合成に使用可能なジオール化合物、ジイソシアネート化合物は、各々1種を単独で使用してもよいし、種々の目的(例えば、ポリマーのガラス転移温度(Tg)の調整や溶解性の向上、バインダーとの相溶性付与、分散物の安定性改善等)に応じて、各々2種以上を任意の割合で使用することもできる。
【0078】
本発明における前記カチオン変性ポリウレタンとしては、カチオン変性ポリウレタン微粒子が好ましい。特に、カチオン変性ポリウレタン微粒子の中でも、自己乳化性高分子であるカチオン変性ポリウレタン微粒子がより好ましい。このようなカチオン変性ポリウレタンは、上記のようにして合成したものを用いても、市販のものを用いてもよい。
カチオン変性ポリウレタンの市販品としては、例えば、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス650」、「F−8564D」、「F−8570D」、日華化学(株)製、「ネオフィックスIJ−150」などを挙げることができる。
【0079】
また、これらの上記以外のカチオン性ポリマーは、水溶性ポリマー、水分散性ラテックス粒子、水性エマルションのいずれの形態でも使用できる。
前記水性エマルションとしては、共役ジエン系共重合体エマルション;アクリル系重合体エマルション;スチレン−アクリル系重合体エマルション;ビニル系重合体エマルション;ウレタン系エマルション等にカチオン基を有する化合物を用いてカチオン化したもの、カチオン性界面活性剤にてエマルション表面をカチオン化したもの、カチオン性ポリビニルアルコール下で重合しエマルション表面に該ポリビニルアルコールを分布させたもの等が挙げられる。これらのカチオン性エマルションの中でも主成分がウレタン系エマルションであるカチオン性ポリウレタンエマルションが好ましい。
上記以外のカチオン性ポリマーとしては、滲み抑制の観点から、カチオン性ポリウレタンが好ましく、カチオン性ポリウレタンエマルションがより好ましい。
【0080】
本発明において、前記各インク受容層に含まれる前記他のカチオン性ポリマーの含有量としては、特に制限はないが、前記各インク受容層の各層における全固形分質量に対して、1〜20質量%であることが好ましい。
【0081】
(水溶性アルミニウム化合物)
本発明における前記各インク受容層は、水溶性アルミニウム化合物を含有することが好ましい。水溶性アルミニウム化合物を含有することにより、画像の耐水性及び耐経時滲みの向上を図ることができる。
【0082】
水溶性アルミニウム化合物としては、例えば、無機塩としては塩化アルミニウム又はその水和物、硫酸アルミニウム又はその水和物、アンモニウムミョウバン等が知られている。さらに、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーである塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物がある。これらの中でも、塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物が好ましい。
【0083】
前記塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物とは、主成分が下記の式1〜式3で表され、例えば〔Al(OH)153+、〔Al(OH)204+、〔Al13(OH)345+、〔Al21(OH)603+、等のような塩基性で高分子の多核縮合イオンを安定に含んでいる水溶性のポリ水酸化アルミニウムである。
〔Al(OH)Cl6−n (5<m<80、1<n<5) ・・・式1
〔Al(OH)AlCl (1<n<2) ・・・式2
Al(OH)Cl(3n−m) (0<m<3n、5<m<8) ・・・式3
【0084】
これらのものは多木化学(株)よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名称で水処理剤として、浅田化学(株)よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名称で、(株)理研グリーンよりピュラケムWTの名称で、大明化学(株)よりアルファイン83の名称で、また他のメーカーからも同様の目的で上市されており、各種グレードのものを容易に入手することができる。本発明では、これらの市販品をそのまま用いてもよいし、pHが不適当に低いものもあり、その場合は適宜pHを調節して用いることも可能である。
【0085】
水溶性アルミニウム化合物の前記各インク受容層における含有量としては、第1及び第2のインク受容層の各層における全固形分に対して、0.1質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜8質量%がより好ましく、1質量%〜4質量%が最も好ましい。水溶性アルミニウム化合物の含有量が前記範囲内であると、光沢度、耐水性、耐ガス性、耐光性の向上効果が得られる。
【0086】
(ジルコニウム化合物)
本発明における第1及び第2のインク受容層は、ジルコニウム化合物を含むことが好ましい。ジルコニウム化合物を用いることにより、耐水性の向上効果が得られる。
【0087】
ジルコニウム化合物としては、特に限定されず種々の化合物が使用できるが、例えば、酢酸ジルコニル、塩化ジルコニル、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム、炭酸ジルコニウム・カリウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム化合物等が挙げられる。特に酢酸ジルコニルが好ましい。
【0088】
ジルコニウム化合物の第1及び第2のインク受容層における含有量としては、第1及び第2のインク受容層の各層における全固形分に対して、0.05質量%〜5.0質量%が好ましく、0.1質量%〜3.0質量%がより好ましく、0.5質量%〜2.0質量%が最も好ましい。ジルコニウム化合物の含有量が前記範囲内であると、インクの吸収性を低下させずに耐水性が向上する。
【0089】
本発明における前記各インク受容層は、水溶性アルミニウム化合物及びジルコニウム化合物以外の他の水溶性多価金属化合物を併用してもよい。他の水溶性多価金属化合物としては、例えば、カルシウム、バリウム、マンガン、銅、コバルト、ニッケル、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タングステン、モリブデンから選ばれる金属の水溶性塩が挙げられる。
具体的には、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸バリウム、硫酸バリウム、リン酸バリウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、ギ酸マンガン二水和物、硫酸マンガンアンモニウム六水和物、塩化第二銅、塩化アンモニウム銅(II)二水和物、硫酸銅、塩化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物、硫酸ニッケルアンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル四水和物、臭化第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、臭化亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛六水和物、硫酸亜鉛、酢酸クロム、硫酸クロム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム六水和物、クエン酸マグネシウム九水和物、りんタングステン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムタングステン、12タングストりん酸n水和物、12タングストけい酸26水和物、塩化モリブデン、12モリブドりん酸n水和物等が挙げられる。
【0090】
(他の成分)
本発明における前記各インク受容層は、必要に応じて、各種の紫外線吸収剤、酸化防止剤、一重項酸素クエンチャー等の褪色性防止剤等のその他の添加剤を含んで構成することができる。これらを含有することにより、インクの劣化を抑制することができる。
その他の成分としては、特開2005−14593号公報中の段落番号[0088]〜[0117]に記載されている成分や、特開2006−321176号公報中の段落番号[0138]〜[0155]に記載されている成分等を、適宜選択して用いることができる。
【0091】
前記各インク受容層は、高沸点有機溶剤を含有することが好ましい。これにより、例えばカールの発生を防止できる。
前記高沸点有機溶剤としては、水溶性のものが好ましく、該水溶性の高沸点有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリンモノメチルエーテル、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、トリエタノールアミン、ポリエチレングリコール(重量平均分子量が400以下)等のアルコール類が挙げられる。好ましくは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)である。
【0092】
前記高沸点有機溶剤の第1のインク受容層形成用又は第2のインク受容層形成用の調製液中における含有量としては、0.05質量%〜1質量%が好ましく、特に好ましくは0.1質量%〜0.6質量%である。
【0093】
また、前記各インク受容層には、各種無機塩類、pH調整剤として、酸やアルカリ等が含まれてもよく、無機粒子の分散性を高めることができる。さらに、インク受容層には、電子導電性を持つ金属酸化物微粒子が含まれてもよく、表面の摩擦帯電や剥離帯電が抑制される。また、第1及び第2のインク受容層には、各種のマット剤が含まれてもよく、表面の摩擦特性が低減される。
【0094】
[他の層]
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上に前記各インク受容層を有するが、この他、前記支持体と前記第1のインク受容層との間に、更にインク溶媒を吸収する溶媒吸収層が設けられてもよい。また、前記溶媒吸収層以外に、例えば、最上層(例えばコロイダルシリカ層等)、中間層、クッション性、帯電防止性等の機能を付与した機能層等の他の層が必要に応じて設けられていてもよい。
【0095】
[支持体]
前記支持体は、限定されるものではないが、画像記録に伴うカール等の変形が抑制される点で水非浸透性支持体が好ましい。ここで、「水非浸透性」とは、水を吸収しないか、又は水の吸収量が0.3g/m以下である性質をいう。
【0096】
(水非浸透性支持体)
本発明において、水非浸透性支持体表面の光沢度は特に限定はないが、40%以上であることが好ましく、45%以上95%以下であることがより好ましく、50%以上85%以下であることがより好ましい。更に、水非浸透性支持体両面の光沢度とも前記範囲であることが特に好ましい。
【0097】
前記支持体としては、例えば、特開2008−246988号公報の段落番号[0139]〜[0155]に記載の支持体を挙げることができ、中でも、ポリオレフィン被覆紙を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
(実施例1)
≪インクジェット記録媒体の作製≫
−水非浸透性支持体の作製−
アカシアからなるLBKP50部及びアスペンからなるLBKP50部をそれぞれディスクリファイナーによりカナディアンフリーネス300mlに叩解し、パルプスラリーを調製した。
次いで、前記で得られたパルプスラリーに、対パルプ当たり、カチオン性デンプン(日本NSC社製、CAT0304L)1.3%、アニオン性ポリアクリルアミド(星光化学社製、ポリアクロンST−13)0.15%、アルキルケテンダイマー(荒川化学社製、サイズパインK)0.29%、エポキシ化ベヘン酸アミド0.29%、及びポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン(荒川化学社製 アラフィックス100)0.32%を加えた後、さらに消泡剤0.12%を加えた。
【0099】
前記のようにして調製したパルプスラリーを長網抄紙機で抄紙し、ウェッブのフェルト面をドラムドライヤーシリンダーにドライヤーカンバスを介して押し当てて乾燥する工程において、ドライヤーカンバスの引張り力を1.6Kg/cmに設定して乾燥を行なった後、サイズプレスにて原紙の両面にポリビニルアルコール((株)クラレ製、KL−118)を1g/m塗布して乾燥し、カレンダー処理を行なった。なお、原紙の坪量を157g/mとして抄造し、厚さ157μmの原紙(基紙)を得た。
【0100】
得られた基紙のワイヤー面(裏面)側にコロナ放電処理を行なった後、溶融押出機を用いて、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを80%/20%の比率(高密度ポリエチレン/低密度ポリエチレン)でブレンドして20g/mとなるように320℃の温度で溶融押し出しコーティングし、マット面からなる熱可塑性樹脂層を形成した(以下、この熱可塑性樹脂層面を「ウラ面」と称する。)。この裏面側の熱可塑性樹脂層にさらにコロナ放電処理を施した後、帯電防止剤として酸化アルミニウム(日産化学工業(株)製の「アルミナゾル100」)と二酸化ケイ素(日産化学工業(株)製の「スノーテックスO」)とを1:2の質量比で水に分散した分散液を、乾燥重量が0.2g/mとなるように塗布した。
【0101】
続いて、オモテ面(前記ウラ面と反対側の面)にコロナ処理を施し、該オモテ面側に、10%の酸化チタンを有する密度0.93g/cmのポリエチレンを24g/mになるように溶融押出機を用いて320℃で押し出しコーティングした。
以上のようにして、原紙の両面がポリエチレンで被覆されたポリエチレン樹脂被覆紙(水非浸透性支持体)を得た。
【0102】
−第1のインク受容層形成用塗布液の調製−
下記組成に示す(1)湿式シリカ粒子、(2)イオン交換水、及び(3)分散剤を混合し、ビーズミル分散機(ダイノミルKDP、シンマルエンタープライズ社製)を用いて分散させた後、この分散液に(4)ジルコゾールZA−30、(5)ポリビニルアルコール溶解液、(6)ブチセノール20P、(7)ホウ酸水溶液、(8)スーパーフレックス650、(9)界面活性剤水溶液、及び(10)高カチオン密度ポリマーとして電荷密度10.9meq/gのポリアリルアミンを20℃で加え、さらに(11)イオン交換水で濃度調整して、第1のインク受容層形成用塗布液を調製した。
【0103】
湿式シリカ粒子とポリビニルアルコール(水溶性樹脂)との質量比(PB比=(1):(5))は、4.9:1であり、第1のインク受容層形成用塗布液のpHは、3.5で酸性を示した。
【0104】
<第1のインク受容層形成用塗布液の組成>
(1)湿式シリカ粒子・・・8.8部
(カープレックス#80、エボニック(株)製、BET比表面積:200m/g)
(2)イオン交換水 ・・・37.2部
(3)分散剤(51.5%)・・・0.8部
(シャロールDC-902P、電荷密度6.6meq/g、第一工業製薬(株)製)
(4)ジルコゾールZA−30・・・0.5部
(酢酸ジルコニル、第一稀元素化学工業(株)製)
(5)ポリビニルアルコール7%溶解液・・・25.7部
(PVA235、(株)クラレ製)
(6)ブチセノール20P・・・0.7部
(ジエチレングリコールモノブチルエーテル、協和発酵ケミカル(株)製)
(7)ホウ酸5%溶液・・・6.6部
(8)スーパーフレックス650(25%)・・・2.1部
(カチオン性ポリウレタン、電荷密度1.0meq/g、第一工業製薬(株)製)
(9)界面活性剤10%溶液・・・0.7部
(エマルゲン109P、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王(株)製)
(10)高カチオン密度ポリマー(40%)・・・0.6部
(PAA−HCl−05、ポリアリルアミン、電荷密度10.9meq/g、日東紡(株)製)
(11)イオン交換水・・・0.9部
【0105】
−第2のインク受容層形成用塗布液の調製−
下記組成に示す(1)気相法シリカ粒子、(2)イオン交換水、(3)分散剤、及び(4)ジルコゾールZA−30を混合し、液液衝突型分散機(アルティマイザー、スギノマシン社製)を用いて分散させた後、得られた分散液を45℃に加熱し、20時間保持した。その後、この分散液に(5)ホウ酸水溶液、(6)ポリビニルアルコール溶解液、(7)ブチセノール20P、(8)界面活性剤、(9)イオン交換水を30℃で加え、第2のインク受容層形成用塗布液を調製した。
【0106】
なお、気相法シリカ粒子とポリビニルアルコール(水溶性樹脂)との固形分比[質量比](PB比=(1)気相法シリカ粒子:(6)溶解液中のPVA量)は、4.9:1であり、塗布液のpHは、3.4で酸性を示した。
【0107】
<第2のインク受容層形成用塗布液の組成>
(1)気相法シリカ粒子・・・5.7部
(AEROSIL300SF75、日本アエロジル(株)製)
(2)イオン交換水・・・22.7部
(3)分散剤(51.5%)・・・0.5部
(シャロールDC-902P、電荷密度6.6meq/g、第一工業製薬(株)製)
(4)ジルコゾールZA−30・・・0.3部
(酢酸ジルコニル、第一稀元素化学工業(株)製)
(5)ホウ酸5%溶液・・・4.2部
(6)ポリビニルアルコール8.1%溶液・・・16.5部
(PVA235 7.0%、PVA505 1.1%、(株)クラレ製)
(7)ブチセノール20P ・・・0.4部
(ジエチレングリコールモノブチルエーテル、協和発酵ケミカル(株)製)
(8)界面活性剤10%水溶液・・・0.4部
(エマルゲン109P、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王(株)製)
(9)イオン交換水・・・5.9部
【0108】
−第1のインク受容層及び第2のインク受容層の形成−
前記で得られた水非浸透性支持体の一方の面にコロナ放電処理を行なった後、該一方の面に、前記で得られた各インク受容層形成用塗布液を、以下のようにしてエクストルージョンダイコーターにて塗布して塗布層を形成した。
【0109】
具体的には、下層として、第1のインク受容層形成用塗布液を90.5g/mで、下記インライン液を7.4g/mの速度(塗布量)でインライン混合して第1のインク受容層を塗布形成した。その後、上層として、第2のインク受容層形成用塗布液を58g/mで、下記インライン液を4.0g/mの速度(塗布量)でインライン混合して第2のインク受容層を塗布形成した。第1のインク受容層における高カチオン密度ポリマー(PAA−HCl−05、電荷密度10.9meq/g)の塗布量は0.25g/mであった。
【0110】
<インライン液の組成>
・アルファイン83(大明化学工業(株)製)・・・3.7部
・イオン交換水・・・6.3部
【0111】
前記塗布により形成された塗布層を、熱風乾燥機にて80℃で(風速3〜8m/秒)で塗布層の固形分濃度が36%になるまで乾燥させた。この塗布層は、この間は恒率乾燥を示した。その直後、下記組成の塩基性化合物を含む液に3秒間浸漬して前記塗布層上にその13g/mを付着させ、さらに72℃下で10分間乾燥させ(乾燥工程)、水非浸透性支持体の一方の面にインク受容層を形成した。
以上により、支持体上にインク受容層を有するインクジェット記録媒体を得た。
【0112】
<塩基性化合物を含む液の組成>
(1)ホウ酸・・・0.7部
(2)炭酸アンモニウム(1級、関東化学(株)製)・・・5.0部
(3)AC−7・・・0.3部
(4)イオン交換水・・・93.4部
(5)ポリオキシエチレンラルリルエーテル・・・0.6部
(エマルゲン109P、花王(株)製)
【0113】
(実施例2)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、湿式シリカ粒子として使用したカープレックス#80(エボニック(株)製、BET比表面積:200m/g)8.8部を、カープレックス#30(エボニック(株)製、BET比表面積:240m/g)8.8部に代え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0114】
(実施例3)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、湿式シリカ粒子として使用したカープレックス#80(エボニック(株)製、BET比表面積:200m/g)8.8部を、カープレックス#80とカープレックス#30とを、質量比7:3の割合で混合したもの(BET比表面積は重量比率換算で212m/g)に代え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0115】
(実施例4)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、湿式シリカ粒子として使用したカープレックス#80(エボニック(株)製、BET比表面積:200m/g)8.8部を、トクシールNR(トクヤマ(株)製、比表面積195m/g)8.8部に代え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0116】
(実施例5)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、高カチオン密度ポリマーとして使用したPAA−HCl−05(日東紡(株)製、電荷密度10.9meq/g)を、SC505(ハイモ(株)製、ジメチルアミンエピクロロヒドリンポリアミン、電荷密度9.0meq/g)に代え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0117】
(実施例6)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、湿式シリカ粒子として使用したカープレックス#80(エボニック(株)製、BET比表面積:200m/g)8.8部を、カープレックス#80と気相法シリカ粒子であるAEROSIL300SF75(日本アエロジル(株)製)とを、質量比9:1の割合で混合したものに代え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0118】
(比較例1)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、高カチオン密度ポリマーとして使用したPAA−HCl−05(日東紡(株)製、電荷密度10.9meq/g)を、PAA−D11−HCl(日東紡(株)製、アリルアミンジアリルアミン共重合体、電荷密度8.6meq/g)に代え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0119】
(比較例2)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、高カチオン密度ポリマーとして使用したPAA−HCl−05(日東紡(株)製、電荷密度10.9meq/g)を、PAS−M−1(日東紡(株)製、メチルジアリルアミン、電荷密度6.8meq/g)に代え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0120】
(比較例3)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、高カチオン密度ポリマーとして使用したPAA−HCl−05(日東紡(株)製、電荷密度10.9meq/g)を無添加とし、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0121】
(比較例4)
実施例1における第1のインク受容層の配合組成中、高カチオン密度ポリマーとして使用したPAA−HCl−05(日東紡(株)製、電荷密度10.9meq/g)を無添加とし、かつ第2のインク受容層の配合組成中に、高カチオン密度ポリマーとしてPAA−HCl−05(日東紡(株)製、電荷密度10.9meq/g)を、塗布量が0.25g/mとなるように加え、それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0122】
(比較例5)
比較例3における第2のインク受容層の配合組成中、気相法シリカ粒子として使用したAEROSIL300SF75(日本アエロジル(株)製)を、湿式シリカ粒子であるカープレックス#80(エボニック(株)製)に代え、それ以外は実施例3と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0123】
−評価−
<グレー色調>
23℃、50%RHの環境下で、インクジェットプリンターMG5130(キャノン(株)製)を用い、上記で得られた各インクジェット記録媒体のインク受容層(第2のインク受容層)上に、グレーのベタ画像をプリントした。このとき、L値が30になるように、画像データの階調を調整した。
プリント後のインクジェット記録媒体を、23℃50%RHの環境下で24時間乾燥した後に、それぞれグレーの色調(L)を分光光度計スペクトロリノ(グレタグマクベス社製)を用い、光源F8、視野角2°、フィルターなしの観察条件下で測定した。測定した色調を下記基準により評価した。この結果を下記表1に示す。なお、「A」及び「B」は実用上問題ないレベルであり、「C」は実用上問題となる場合があるレベルである。
(評価基準)
A:((a+(b1/2が8未満
B:((a+(b1/2が8以上10未満
C:((a+(b1/2が10以上
【0124】
<光沢度>
デジタル変角光沢計(スガ試験機株式会社製:UGV−6P)を用い、上記で得られた印字前の各インクジェット記録媒体の表面における60度光沢度を評価した。
その後、各インクジェット記録媒体の光沢性を下記基準により評価した。この結果を下記表1に併せて示す。
(評価基準)
A:光沢度30以上
B:光沢度20以上、30未満
C:光沢度10以上、20未満
D:光沢度10未満
【0125】
<色調変化(カラードリフト)>
23℃、50%RHの環境下で、インクジェットプリンターMG5130(キャノン(株)製)を用い、上記で得られた各インクジェット記録媒体のインク受容層(第2のインク受容層)上に、グレーのベタ画像をプリントした。このとき、L値が30になるように、画像データの階調を調整した。
プリント直後(プリント後3分以内)にプリント部分の一部をガラス板で覆い、24時間放置した。24時間後、プリント部分のうちガラスで覆った部分の色相と、プリント部分のうちガラスで覆わなかった部分の色相とをそれぞれ分光光度計で測定し、これらの色調同士の差を色差(ΔE)とした。測定した色差(ΔE)を下記基準により評価した。この結果を下記表1に併せて示す。なお、「A」及び「B」は実用上問題ないレベルであり、「C」は、実用上問題となるレベルである。
(評価基準)
A:ΔEが10未満で、ムラがほとんど目立たない
B:ΔEが10以上15未満で、ムラが少しある
C:ΔEが15以上で、ムラが目立つ
【0126】
【表1】



【0127】
表1に示すように、実施例1〜6においては、いずれも、表面光沢及びグレー色調が良好で、かつ、色調変化の発生が抑えられることがわかった。
これに対して、第1のインク受容層中に電荷密度が9.0meq/gに満たないカチオン性ポリマーを含有する比較例1〜3では、表面光沢は特に問題はないが、良好なグレー色調や色調変化の防止効果を得ることはできなかった。また、第1のインク受容層中にカチオン性ポリマーを含まない比較例3〜5においては、上層側(第2のインク受容層)に高カチオン密度ポリマーが含有されても、グレー色調が劣り、インクジェット記録媒体としての実用に適さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子並びに電荷密度9.0meq/g以上のカチオン性ポリマーを含有する第1のインク受容層と、気相法シリカ及び湿式シリカから選ばれる無機粒子を含有する第2のインク受容層とを前記支持体側から順に有するインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記第1のインク受容層中の前記カチオン性ポリマーの含有量に対する前記第2のインク受容層中の前記カチオン性ポリマーの含有量の比率〔前記第2のインク受容層中の含有量/前記第1のインク受容層中の含有量〕が1.0未満である請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーが、第一級アミン又はその塩に由来する構造単位を含む高分子化合物である請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーが、下記一般式(1)で示される構造単位を含むポリアリルアミン系化合物である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【化1】



(前記一般式(1)中、nは1以上の整数を表す。)
【請求項5】
前記第1のインク受容層は湿式シリカを含有し、前記第2のインク受容層は気相法シリカを含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
前記湿式シリカのBET比表面積が200m/g以上である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2013−59952(P2013−59952A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200954(P2011−200954)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】