説明

インクジェット記録方法、インクセット、および記録物

【課題】光輝性インクとカラーインクが重複する印刷部の耐光性を向上させる。
【解決手段】インクジェット法により、記録材料に対して、銀を含有する光輝性インクを吐出して光輝性画像を形成する第1画像形成工程と、色材を実質的に含有せず樹脂を含有する保護用インクを前記光輝性画像に対して付着させる付着工程と、インクジェット法により、前記光輝性画像に対して色材を含有するカラーインクを吐出してカラー画像を形成する第2画像形成工程と、を備えたインクジェット記録方法であって、前記光輝性画像と前記カラー画像との間に、前記保護用インクを付着させる、インクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、インクセット、および記録物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、記録面に光輝性を有する画像が形成された記録物の需要が高まっている。光輝性を有する画像を形成する方法としては、従来は、たとえば、平坦性の高い記録面を有する記録媒体を準備して、これに金属箔を押しつけて記録する箔押し記録法、記録面が平滑なプラスチックフィルムに対して金属等を真空蒸着する方法、および、記録媒体に光輝性顔料インキを塗布し、さらにプレス加工を行う方法などによって記録されてきた。これらの記録方法は、いずれも比較的良好な光輝性が得られるが、記録物に光輝性画像を記録するために、逐次光輝性画像パターンと同一の押し型や記録マスクを、予め準備する必要がある、さらに製造工程が長くなると言った特徴を持つため、低コストで、かつオンデマンド記録が可能な、インクジェット方式で、光輝性画像を記録出来る技術の提案がされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、インクジェット方式による記録は、従来の多色記録や、カラー写真方式と同様の画質と、記録の高速化とを図るため、高発色、多色化、高耐候性を目指したインクの改良とともに、記録材料についても、安定した色材の定着、耐候性の改善、優れたインク溶媒の吸収性、等を実現するため、特にインク受容層に関して多くの技術が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0004】
インクジェット記録材料に用いられる受容層は、大別して、粒径が数十nmから数百nmの微細なシリカ粒子やアルミナ粒子を、有機バインダーでベース基材上に固着させ、物理的な空隙にインク溶媒を吸収する空隙型と、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、セルロース、ウレタン、等の水溶性高分子をベース基材上に固着させ、インク溶媒を高分子の膨潤により吸収する膨潤型の2種類が上げられるが、空隙型、膨潤型のいずれも、インク中に含まれる色材を受容層に安定して定着させるため、カチオン性の色材定着物質を含有する。カチオン性の色材定着材は、大別してカチオン変性ポリマーとカチオン性水和金属化合物が上げられるが、取り扱いの簡易さ、光や環境ガスに対する優れた安定性を持つ、等の理由から、カチオン性水和金属化合物が幅広く使用され、更に詳しくは、インク吸収過程で放出されるアニオンを塩素、カチオンをアルミニウム水酸化物とした塩化アルミニウム系カチオン定着剤が好適に使用されている(例えば、特許文献2、特許文献5、特許文献6)。
【0005】
一方、記録材料中の不純物として塩素を捉えた場合、塩素を含有する記録材料は多い。例えば色材の優れた定着性を実現するため、前記塩化アルミニウム系カチオン定着剤を意図して添加した記録材料、受容層を構成する微細なアルミナ粒子の製造過程で、塩素が添加材料として使用され、意図せずに塩素が受容層中に混入する(例えば、特許文献7のアルミナ製造方法)、更には、紙の原料となるパルプの漂白には、一般的に塩素系漂白剤が使用されるため、不純物としての塩素が記録材料中に含まれる事例が極めて多い。
【0006】
前記記録材料中の塩素濃度は、意図的に添加された場合と、意図せず混入した場合とで、ppmオーダーから1%程度までと格差あるが、一般にインクジェット方式のインクに用いられる色材、つまりシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック等を再現するための染料や顔料と、塩素との反応性が乏しいため、塩素に起因する色材の変色、耐光性の低下、等の品質的な課題は発生しなかった。
【0007】
しかし、前記塩素含有記録材料に、光輝性顔料の一例として銀粒子を含有する水系インクを用い光輝性画像を記録すると、記録直後は非常に優れた金属光沢が得られるものの、記録物に光が当たることで、既存のカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、等)と比較すると、著しく早く画像、すなわち光沢が劣化する問題が新たに判明した。さらに前記光沢劣化は、着色された光輝性(以下、カラーメタリック画像という)画像部位で、より顕著に発生する事も、合わせて判明した。
【0008】
筆者らが前記、光による光沢劣化現象の原因を調査した結果、以下に述べる現象により、記録物の光沢劣化が発生している事が判明した。
【0009】
記録材料に、銀粒子を含有する水系インクを記録した際、まずインクの溶媒として用いられる水の中に、遊離塩素が発生、溶解する。該遊離塩素は、前記塩化アルミニウム系カチオン定着剤からアニオンとして遊離する場合と、記録材料中に不純物として含有される塩素から発生する場合とがある。ここで塩素と銀は、各々が非イオン状態でもイオン状態でも直接反応し塩化銀を形成する事は、一般化学として公知であり、光輝性顔料として使用された銀粒子の一部は、塩化銀となる。
【0010】
前記記録物中に形成された塩化銀は、銀塩写真フィルムにおける感光材料として好適に使用されている事からも明らかな様に、紫外線に対する感光性を持つとされている。詳細な反応過程は省略するが、光による記録物の光沢劣化は、記録物中に形成された塩化銀が光により感光された結果、部分的に粗大な銀の再結晶物が記録物表面に形成され、該粗大結晶物による、可視光の表面散乱により発生する。
【0011】
更に、塩化銀は約370nm以下の紫外線により感光され銀を形成するが、カラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー)に含まれる色材と塩化銀が接することで、理由は定かではないが、塩化銀の感光性が増加する事が判明した。これによって、カラーメタリック画像記録部位で、光沢劣化が、より顕著に発生する理由である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−174712号公報
【特許文献2】特開2006−263951号公報
【特許文献3】特願2005−300274号公報
【特許文献4】特公平7−121609号公報
【特許文献5】特願2005−081422号公報
【特許文献6】特開2002−86892号公報
【特許文献7】特開平5−24824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、塩素を含有する記録材料で上あっても、優れた光輝性(光沢)を有するとともに、優れた耐光性を有する画像が記録(形成)することが可能なインクジェット記録方法、インクセットを提供すること、また優れた光輝性を有するとともに、優れた耐光性を有する画像が記録された記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0015】
[適用例1]
インクジェット法により、記録材料に対して、銀を含有する光輝性インクを吐出して光輝性画像を形成する第1画像形成工程と、樹脂を含有し、色材を実質的に含有しない保護用インクを前記光輝性画像に対して付着させる付着工程と、インクジェット法により、前記光輝性画像に対して色材を含有するカラーインクを吐出してカラー画像を形成する第2画像形成工程と、を備えたインクジェット記録方法であって、前記光輝性画像と前記カラー画像との間に、前記保護用インクを付着させる、インクジェット記録方法。
これにより、高い金属光沢と意匠性を有するとともに、耐光性の優れた記録物を提供することができる。
【0016】
[適用例2]
前記付着工程は、前記第1画像形成工程終了後に行われる、適用例1に記載のインクジェット記録方法。
これにより、優れた金属光沢と意匠性を有するとともに、耐光性の優れた記録物を提供することができる。
【0017】
[適用例3]
前記付着工程は、前記第2画像形成工程開始前に行われる、適用例2に記載のインクジェット記録方法。
これにより、優れた金属光沢と意匠性を有するとともに、耐光性の特に優れた記録物を提供することができる。
【0018】
[適用例4]
前記付着工程により付着される前記保護用インクの付着量は、前記第2画像形成工程に用いられる前記カラーインクの色材によって異なる、適用例1ないし3のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
これにより、色再現範囲に優れた金属光沢を有するとともに、耐光性の優れた記録物を提供することができる。
【0019】
[適用例5]
前記保護用インクは樹脂を含有し、前記樹脂は、少なくともポリウレタンもしくはフルオレン系樹脂のいずれかである、適用例1ないし5のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
これにより、高い金属光沢と意匠性を有するとともに、耐光性の優れた記録物を提供することができる。
【0020】
[適用例6]
前記光輝性インクは、前記銀顔料を2質量%以上50質量%以下含有し、前記光輝性インクの表面張力をS(mN/m)、粘度をV(Pa・s)とした場合、20≦S≦40であり、かつ、1.5≦V≦10である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
これにより、画像の金属光沢を優れたものとすることが出来るとともに、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるため、耐光性の変動が少なく、インクジェット法による記録物の製造に好適に適用することが出来る。
【0021】
[適用例7]
前記記録材料が塩素を含有する、適用例1ないし6のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
これにより、記録材料に対する光輝性顔料および色剤の優れた定着性が得られるため、光輝性と発色性の特に優れた記録物を提供することができる。
【0022】
[適用例8]
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法により記録された記録物。
これにより、光輝性と発色性、および耐光性の特に優れた記録物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録方法により形成された記録物の第1実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明に係るインクジェット記録方法により形成された記録物の第2実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明に係るインクジェット記録方法により形成された記録物の第3実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《インクジェット装置》
まず、本発明のインクジェット記録方法の説明に先立ち、本発明のインクジェット記録方法に適用されるインクジェット装置(液滴吐出装置)の好適な実施形態について説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係るインクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、記録装置としてのインクジェット式プリンター1(以下、プリンター1という)は、フレーム2を有している。フレーム2には、プラテン3が設けられ、プラテン3上には、記録媒体送りモーター4の駆動により用紙Pが給送されるようになっている。また、フレーム2には、プラテン3の長手方向と平行に、棒状のガイド部材5が設けられている。
ガイド部材5には、キャリッジ6がガイド部材5の軸線方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ6は、フレーム2内に設けられたタイミングベルト7を介して、キャリッジモーター8に連結されている。そして、キャリッジ6は、キャリッジモーター8の駆動により、ガイド部材5に沿って往復移動されるようになっている。
キャリッジ6には、ヘッド9が設けられるとともに、ヘッド9に液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ10が着脱可能に配置されている。インクカートリッジ10内のインクは、ヘッド9に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ10からヘッド9へと供給され、ヘッド9のノズル形成面に形成された複数のノズルから、プラテン3上に給送された記録媒体Pに対して吐出されるようになっている。これにより記録物を製造することが可能となる。
吐出方法としては、サーマルジェット(バブルジェット(登録商標))方式でもよい。また、従来公知の方法はいずれも使用できる。
【0026】
[記録材料]
第1記録媒体110としては、普通紙、インク受理層等を有する専用紙等の紙のほか、例えば、インクが付与される表面を含む領域が、各種プラスチック、セラミックス、ガラス、金属や、これらの複合材料で構成された基材等が挙げられる。これらの中でも、プラスチックを用いるのが好ましい。これにより、形成される第1画像120の光輝性を特に優れた物とすることができる。なお、第1記録媒体について、インク受理層を有する記録媒体である場合には、その記録媒体は空隙層を有する記録媒体であることが好ましい。「空隙層」とは、層を構成する成分のうち、樹脂の割合が3割未満であり、無機粒子が充填され無機粒子間又は無機粒子に設けられた孔の空隙に液体が浸透するよう構成された層のことをいう。空隙層を有していることにより、光輝性はより良好に発することとなる。
一方、前記記録材料中の塩素含有量は、カラーインクの定着性の向上を目的とし、意図的に添加された場合がある。また、例えば紙の原料であるパルプの漂白に使用した塩素漂白剤が微量に残留する等意図せず混入する場合もある。つまり、塩素含有量はppmオーダーから1質量%程度までと格差あるが、塩素を含有する記録材料は極めて多い。本発明により、前記塩素含有記録材料に、光輝性、発色性および耐光性に優れた画像を記録(形成)することができる。
【0027】
[光輝性インク]
本実施形態で使用される光輝性顔料は、光沢度(光輝性)の高さと、溶媒に用いる水や各種有機溶剤との反応性が低い、銀粒子を用いた。以下、銀顔料を用いた光輝性インクの具体例を説明する。
【0028】
(1)銀粒子
上述したように、本実施形態に係る光輝性インクは、銀粒子を含むものである。このように、銀インクが、銀粒子を含むものであることにより(特に、所定の条件を満足するワックスとともに含むことにより)、優れた金属光沢を有する画像を形成することができる。また、銀は、各種金属の中でも、可視光の反射率がもっとも高い金属であるため、他色のインクと重ね合わせることにより、金色、銅色等の様々な金属色を表現することができる。
銀粒子の平均粒子径は、3nm以上100nm以下であるのが好ましく、15nm以上65nm以下であるのが好ましい。これにより、銀インクを用いて形成される画像の光沢感(光輝性)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインクの吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒子径のことを指すものとする。平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
銀インク中における銀粒子の含有率は、0.5質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以上15質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インクのインクジェット方式による吐出安定性、インクの保存安定性を特に優れたものとすることができる。また、記録物とされたときの記録媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合まで、広い密度の範囲で、良好な画質、耐擦性を実現することができる。
銀粒子は、いかなる方法で調製されたものであってもよく、例えば、銀イオンを含む溶液を用意し、この銀イオンを分散剤の存在下で還元ずることにより、好適に形成することができる。
【0029】
(2)分散剤
銀の比重は10.49g/cm3と高いため、銀粒子の粒径が100nm以上になると、インク中で顕著に沈降しやすくなる。一方、銀粒子を100nm以下の粒径とすると、ブラウン運動の増加により、インク中での沈降は低減されるが、表面の活性度が上がるため、粒子の接触により容易に凝集体を形成し、凝集体の沈降が発生する。そのため、銀粒子の表面に分散剤が付与されている事が好ましい。分散剤としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなど銀に配位可能な高分子化合物、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等の、銀に配位可能なヒドロキシ酸またはその塩、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウムなどの、銀に配位可能なチオール基とヒドロキシ基を有するメルカプト酸またはその塩などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なかでも、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミン、ポリビニルピロリドン等の銀に多点配位可能な高分子化合物が、凝集抑制の観点でより好ましく、ポリビニルピロリドンが、インクの保存安定性の観点で、最も好ましい。
【0030】
(3)樹脂
本発明に係る光輝性インクは、樹脂を含有していても良く、これを含有することで定着性や耐擦性が向上する。樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸エステル、ポリエチルアクリル酸、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレン共重合体、フッ素樹脂、フッ化ビニリデン、ポリオレフィン樹脂、セルロース、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン−アクリルアミド共重合体、ポリイソブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ロジン系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリエチレン、ポリカーボネート、塩化ビニリデン樹脂、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン、ロジンエステル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0031】
(4)水
本発明にかかる光輝性インクは、水を50質量%以上含む水系インクであっても、水の含有量が50質量%未満である非水系インクであってもよいが、記録材料上で溶媒が速やかに減少することで銀顔料の定着性が向上する、水を50質量%以上含む水系インクが、より好ましい。
インク中において、水を含有させる場合には、主に銀粒子および樹脂エマルジョンを分散させる分散媒として機能する。インクが水を含むことにより、銀粒子等の分散安定性等を優れたものとすることができ、また、後述するような液滴吐出装置のノズル付近でのインクの不本意な乾燥(分散媒の蒸発)を防止しつつ、インクが付与される記録媒体上での乾燥を速やかに行うことができるため、所望の画像の高速記録を、長期間にわたって好適に行うことができる。インク中に水を含有させる場合には、その水の含有率は、特に限定されないが、20質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上70質量%以下であるのがより好ましい。
【0032】
(5)多価アルコール
本発明に係る光輝性インクは、多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールは、本実施形態に係るインクをインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができる。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどが挙げられる。中でも、炭素数が4〜8アルカンジオールが好ましく、炭素数が6〜8のアルカンジオールがより好ましい。これにより、記録媒体への浸透性を特に高いものとすることができる。インク中における多価アルコールの含有率は、特に限定されないが、0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
上記の多価アルコールの中でも、インクは、1,2−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンを含むものであるのが好ましい。これにより、インク中における銀粒子の分散安定性を特に優れたものとすることができ、インクの保存安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0033】
(6)グリコールエーテル
本発明に係る光輝性インクは、グリコールエーテルを含有することが好ましい。グリコールエーテルを含有することにより、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いると良好な記録品質を得ることができる。インク中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0034】
(7)界面活性剤
本発明に係る光輝性インクは、界面活性剤を含有していても良い。界面活性剤の種類としては特に限定されないが、アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えば、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社製)などが挙げられる。
さらに、本発明に係るインクは、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのその他の界面活性剤を含有することもできる。
光輝性インク中における上記界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0035】
(8)その他の成分
本発明に係る光輝性インクは、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、pH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、糖類、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤、パラフィン等の光輝層スリップ性付与剤等が挙げられる。
【0036】
(9)インク物性
前記(1)〜(8)の成分を適宜含有する光輝性インクの、表面張力をS(mN/m)、粘度をV(Pa・s)とした場合、20≦S≦40であり、かつ1.5≦V≦10で有ることが好ましく、25≦S≦35であり、かつ2.5≦V≦8で有ることがさらに好ましい。これにより、光輝性インクを用いて形成される画像の光沢感(光輝性)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインクの吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
なお本明細書では、「表面張力」と「粘度」は、特に断りのない限り、インクの温度を23℃とした際の測定値を示すものとする。なお表面張力はWilhelmy法(プレート法)により測定する事ができる。Wilhelmy法表面張力測定計として、例えば、「全自動表面張力計 CBVP−Z」 協和界面科学株式会社製等を用いることができる。また粘度は振動式粘度計により測定することができる。振動式粘度計は、振動子を液体中に浸した際に、振動を一定に保つためのトルク量から粘度を算出することができる。振動式粘度計としては、例えば「振動式粘度計 VM−100A」等を用いることができる。
【0037】
[保護用インク]
本実施形態にかかる保護用インクは、色材を実質的に含有せず、樹脂を含有するインクである。保護用インクは水系のインク(水分含有量が50%以上)、非水系(水分含有量が50%未満)のインクのいずれであってもよい。なお、「色材を実質的に含有せず」とは、例えばインク中の色材の含有量が0.5質量%未満であること、より好ましくは0.1質量%未満であること、一層好ましくは0.01質量%未満、最も好ましくは0.005質量%未満であることをいう。また、「色材」とは着色を目的として用いられる顔料及び染料のことをいう。
【0038】
(1)樹脂
本発明の保護用インクは、上述の[光輝性インク](3)と同様の樹脂を含有していてもよい。なかでも、ポリウレタン、フルオレン系樹脂は、耐光性の観点でより好ましく、ポリウレタンは、保護用インク付着後の光沢感の観点で最も好ましい。樹脂成分を含有した保護用インクを用いることで優れた耐光性を光輝性画像に付与することが出来る。樹脂は、保護用インク中に、固形分換算で0.1質量%以上30質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下の範囲で含まれることがより好ましい。
【0039】
(2)多価アルコール
本発明の保護用インクは、上述の[光輝性インク](5)と同様の多価アルコールを含有していてもよい。多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールは、本実施形態に係るインクをインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができる。
【0040】
(3)グリコールエーテル
本発明の保護用インクは、上述の[光輝性インク](6)と同様のグリコールエーテルを含有していてもよい。グリコールエーテルを含有することにより、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。インク中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0041】
(4)界面活性剤
本発明の保護用インクは、特に種類は限定されないが、アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤等の界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤の代表例は[光輝性インク](7)と同様である。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。インク中における上記界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0042】
(5)その他の成分
本発明に係る保護用インクは、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、pH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、糖類、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤、パラフィン等のスリップ性付与剤等が挙げられる。
【0043】
[カラーインク]
本実施形態にかかるカラーインクは、色材を含有するインクである。保護用インクは水系のインク(水分含有量が50%以上)、非水系(水分含有量が50%未満)のインクのいずれであってもよい。
【0044】
(1)樹脂
本発明の保護用インクは、上述の[光輝性インク](3)と同様の樹脂を含有していてもよい。樹脂成分を含有したカラーインクを用いること強固な耐擦性得ることが出来る。樹脂は、カラーインク中に、固形分換算で4質量%以上50質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、6質量%以上25質量%以下の範囲で含まれることがより好ましい。
【0045】
(2)色材
(2−1)顔料
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。
【0046】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。以下、顔料の一例を挙げる。
【0047】
また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
更に詳しくは、ブラック用として使用される無機顔料としては、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、またはMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、またはSpecial Black 4等が挙げられる。
【0049】
イエロー有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0050】
マゼンタ有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、またはC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0051】
シアン有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。
【0052】
(2−2)染料
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。以下、染料の一例を挙げる。
【0053】
イエロー系染料としては、C.I.アシッドイエロー1、3、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、127、131、135、142、162、164、165、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、110、132、142、144、C.I.リアクティブイエロー1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42、C.I.フードイエロー3、4、C.I.ソルベントイエロー15、19、21、30、109等が挙げられる。
【0054】
マゼンタ系染料としては、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、37、42、51、52、57、75、77、80、82、85、87、88、89、92、94、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、209、211、215、219、249、252、254、262、265、274、282、289、303、317、320、321、322、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.リアクティブレッド1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、16、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、49、50、58、59、63、64、C.I.ソルビライズレッド1、C.I.フードレッド7、9、14等が挙げられる。
【0055】
シアン系染料としては、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、182、183、184、187、192、199、203、204、205、229、234、236、249、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、77、78、80、86、87、90、98、106、108、120、123、158、160、163、165、168、192、193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、225、226、236、237、246、248、249、C.I.リアクティブブルー1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、31、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、C.I.ソルビライズバットブルー1、5、41、C.I.バットブルー4、29、60、C.I.フードブルー1、2、C.I.ベイシックブルー9、25、28、29、44等が挙げられる。
【0056】
本発明のカラーインク中における色材の含有量は、特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0057】
(3)多価アルコール
本発明のカラーインクは、上述の[光輝性インク](5)と同様の多価アルコールを含有していてもよい。多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールは、本実施形態に係るインクをインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができる。
【0058】
(4)グリコールエーテル
本発明のカラーインクは、上述の[光輝性インク](6)と同様のグリコールエーテルを含有していてもよい。グリコールエーテルを含有することにより、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。インク中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0059】
(5)界面活性剤
本発明のカラーインクは、特に種類は限定されないが、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤等の界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤の代表例は[光輝性インク](7)と同様である。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。インク中における上記界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0060】
(6)その他の成分
本発明に係るカラーインクは、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、pH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、糖類、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤等が上げられる。
【0061】
《インクジェット記録方法》
従来のインクジェット記録方法では、色彩を有する光輝性を得る目的で、インクジェット法により光輝性インクを用いて形成した画像上に、インクジェット法でカラーインクを直接重ねて画像を形成していた。しかし、銀顔料を含有する光輝性インクと、記録材料に塩素が含有される場合、光輝性インクによって形成された光輝性層が、カラーインクの溶媒成分に再分散することで、1)銀顔料とカラー顔料の混合により、十分な彩度と光輝性を有する画像を形成する事が出来ない。2)銀顔料と、高濃度のカラー顔料が、直接接触するため、銀顔料が記録材料に含まれる塩素と反応し、塩化銀に変質した場合、カラー顔料との接触に起因する効果により、記録物の耐光性が著しく悪化するという課題があった。
【0062】
これに対して本発明は、記録材料に、光輝性、発色性および耐光性に優れた画像を記録することが可能である。
まず、本発明の各工程について説明する。
【0063】
<第1画像形成工程>
本工程では、インクジェット法により記録材料に対して、銀を含有する光輝性インクを吐出して光輝性画像を記録する。これにより光輝性画像を得ることが出来る。
【0064】
<第2画像形成工程>
本工程では、インクジェット法により色材を含有するカラーインクを吐出して、光輝性画像に対してカラー画像を記録する。これにより、カラーメタリック画像を得ることが出来る。なお、「光輝性画像に対して」とは、光輝性画像に直接カラー画像を記録する場合に限定されず、光輝性画像に付着された保護用インクを介して光輝性画像に記録する場合も含む。
【0065】
<付着工程>
本工程では、色材を実質的に含有せず、樹脂を含有する保護用インクを、光輝性画像とカラー画像との間に付着させる。これにより、優れた耐光性を有するカラーメタリック画像を得ることが出来る。なお、保護用インクを付着させる手段は特に限定されず、インクジェット法を用いてもよいし、例えば、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、スプレーコーター、スリットコーター等の従来から利用されているアナログコーターを用いてもよい。
付着工程を開始タイミングは特に限定されないが、第1画像形成工程終了後に行われるのが好ましい。第1画像形成工程終了後であれば、保護用インクをカラーインクより先に吐出してもよく、同時に吐出しても良い。より好ましくは第1画像形成工程終了後であって第2画像形成工程開始前である(つまり、保護用インクを他のインクと同時に吐出しない)。また、色材によって銀インクに与える影響が異なる事から、重複領域において、後述するカラーインクに含まれる色材の種類又は含有量によって、保護用インクの単位面積当たりの吐出量が異なるよう構成してもよい。例えば、重複領域が、マゼンダインクが主要なインクとして吐出される領域と、イエローインクが主要なインクとして吐出される領域とを有している場合において、それぞれの領域に用いられる保護用インクの単位面積当たりの吐出量を互いに異ならせてもよい。これにより、光沢および耐光性に優れるとともに、色彩性の高い画像を記録(形成)することができる。
【0066】
<第1実施形態>
以下、本発明の好適な第1の実施形態について説明する。なお、各図面は概念図であり、この構造に限定されるわけではない。
【0067】
<第1画像形成工程>
本工程では、第1記録媒体110を用意し、第1記録媒体110の一方の面上に、上述したようなインクジェット装置を用いて、光輝性インクを付与し、図2(a)に示すように、第1記録媒体110上に第1画像120を形成し、第1記録物前駆体100を得る。
【0068】
<保護用インク付着工程>
本工程では、図2(a)に示した第1記録物前駆体100の第1画像120上に前述したインクジェット装置を用いて、保護用インクを付与し、図2(b)に示すように、第1記録体110上に第1画像120、保護層130が積層された、第1記録物前駆体101
を得る。
【0069】
<第2画像形成工程>
本工程では、図2(b)に示した第1記録物前駆体101上に、前述したインクジェット装置を用いて、カラーインクを付与し、図2(c)に示すように、第1記録体110上に第2画像140を形成し、第1記録媒体110上に所望の光輝性画像120とカラー画像140が記録された記録物を得る。
なお、前述の第1画像形成工程、保護用インク付着工程、第2画像形成工程は、各々の工程を行うために、第1記録体110を、工程毎にインクジェット装置に供給し実施しても良いし、インクジェット装置に用いられるインクジェットヘッドのノズル列を、第1記録体110の搬送方向に向かって最大3分割し、第1分割ノズル郡を第1画像形成用に、第2分割ノズル郡を保護用インク付着用に、第3分割ノズル郡を第2画像形成用に用いることで、インクジェット装置への1度の材料供給で、各工程を連続して実施しても構わない。
なお、記録する画像の位置精度や工程処理の簡便さから考えると、前述のノズル分割による連続処理の方が、より望ましい。
また、本実施形態では第1画像110と、第2画像形成130の中間に、確実に保護用インクを付着させることが可能なため、特に優れた記録物の耐光性が得られる。
【0070】
<第2実施形態>
<第1画像形成工程>
本工程では、第1の実施形態と同様に第1記録媒体110を用意し、第1記録媒体110の一方の面上に、上述したようなインクジェット装置を用いて、光輝性インクを付与し、図3(a)に示すように、第1記録媒体110上に第1画像120を形成し、第1記録物前駆体100を得る。
【0071】
<保護用インク付着および第2画像形成工程>
本工程では、図3(a)に示した第1記録物前駆体100の第1画像120上に、前述したインクジェット装置を用いて、保護用インクとカラーインクを付与し、図3(b)に示すように、第1画像120上に、保護層130と第2画像140が同時に記録された記録物を得る。
なお、前述の第1画像形成工程、保護用インク付着および第2画像形成工程は、各々の工程を行うために、第1記録体110を、工程毎にインクジェット装置に供給し実施しても良いし、インクジェット装置に用いられるインクジェットヘッドのノズル列を、第1記録体110の搬送方向に向かって最大2分割し、第1分割ノズル郡を第1画像形成用に、第2分割ノズル郡を保護用インク付着および第2画像形成用に用いることで、インクジェット装置への1度の材料供給で、各工程を連続して実施しても構わない。
なお、記録する画像の位置精度や工程処理の簡便さから考えると、前述のノズル分割による連続処理の方が望ましい。
また、本実施形態では第1画像110上に、保護用インクと第2画像形成用のカラーインクを同時に付着させるため、優れた記録物の耐光性が得られると共に、第1実施形態よりも、工程数が1つ少ないため、記録物の生産性に優れる特徴を合わせ持つ。
【0072】
<第3実施形態>
<第1画像形成および保護用インク付着工程>
本工程では、第1の実施形態と同様に第1記録媒体110を用意し、第1記録媒体110の一方の面上に、上述したようなインクジェット装置を用いて、光輝性インクおよび保護用インクを付与し、図4(a)に示すように、第1記録媒体110上に第1画像120および保護層130を同時に形成し、第1記録物前駆体100を得る。
【0073】
<第2画像形成工程>
本工程では、図4(a)に示した第1記録物前駆体100の第1画像120、および保護層130上に、前述したインクジェット装置を用いて、カラーインクを付与し、図4(b)に示すように、第1画像120上、および保護層130上に、第2画像140が同時に記録された記録物を得る。
なお、前述の第1画像形成および保護用インク付着工程、第2画像形成工程は、各々の工程を行うために、第1記録体110を、工程毎にインクジェット装置に供給し実施しても良いし、インクジェット装置に用いられるインクジェットヘッドのノズル列を、第1記録体110の搬送方向に向かって最大2分割し、第1分割ノズル郡を第1画像および保護用インク付着用に、第2分割ノズル郡を第2画像形成用に用いることで、インクジェット装置への1度の材料供給で、各工程を連続して実施しても構わない。
なお、記録する画像の位置精度や工程処理の簡便さから考えると、前述のノズル分割による連続処理の方が望ましい。
また、本実施形態では光輝性インクと保護用インクを同時に付着させるため、優れた記録物の耐光性が得られると共に、第1実施形態よりも、工程数が1つ少ないため、記録物の生産性に優れる特徴を合わせ持つ。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]光輝性インクの調製
ポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量10000)を70℃の条件下で15時間加熱して、その後室温で冷却をした。そのPVP1000gを、エチレングリコール溶液500mlに添加してPVP溶液を調整した。別の容器にエチレングリコールを500ml入れ、硝酸銀128gを加えて電磁攪拌器で十分に攪拌をして硝酸銀溶液を調整した。PVP溶液を120℃の条件下でオーバーヘッドミキサーを用いて攪拌しつつ、硝酸銀溶液を添加して約80分間加熱して反応を進行させた。そして、その後室温で冷却をさせた。得られた溶液を遠心分離機で2200rpmの条件下で10分間遠心分離を行った。その後、分離が出来た銀粒子を取り出して、余分なPVPを除去するためエタノール溶液500mlに添加した。そして、さらに遠心分離を行い、銀粒子を取り出した。さらに、取り出した銀粒子を真空乾燥機で35℃、1.3Paの条件下で乾燥させた。
上記によって製造された銀粒子8質量%に、1,2−ヘキサンジオールを3質量%、トリエタノールアミンを0.3質量%、トリメチロールプロパンを4質量%、ポリビニルピロリドン(PVP、k−15)を4質量%、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010)0.5質量%、パラフィン系ワックス(ビックケミー社製AQUACER(R)539)を0.1質量%、さらに濃度調整用のイオン交換水を添加することにより、光輝性インクとした。なお、銀粒子の平均粒子径は「マイクロトラックUPA」(日機装株式会社製)を用い、測定条件は、屈折率を0.2−3.9i、溶媒(水)の屈折率を1.333、測定粒子形状を球形、としたところ、20nmであった。
【0075】
[2]カラーインク
カラーインクは、以下のものを用いた。
・マゼンインク(ICM37、セイコーエプソン株式会社製)
【0076】
[3]保護用インクの調整
(組成1〜7)
1,2−ヘキサンジオールが2質量%、トリメチロールプロパンが25質量%、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010)が0.5質量%、pH調整剤(トリエタノールアミン)が0.3質量%、ベンゾトリアゾールが0.01質量%、エチレンジアミン四酢酸・2Na塩が0.2質量%をベース組成とし、フルオレン樹脂、ウレタン樹脂エマルジョンが組成1〜7の比率になるように添加し、次いでイオン交換水が残分となるように調整をした。また、表に記載したフルオレン系樹脂としては、以下のようにして合成したものを用いた。フルオレン樹脂は、イソホロンジイソシアネート30質量部、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス[2−(フェノキシ)エタノール]50質量部、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸100質量部、トリエチルアミン30質量部を量りとり十分に混合した後、触媒存在下120℃で5時間撹拌することにより合成した。得られたフルオレン系樹脂は、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス[2−(フェノキシ)エタノール]をモノマー構成比率略50質量%含有する、分子量3300の樹脂であった。
【0077】
[4]記録物の形成
(実施例1〜24、比較例1〜10)
まず、光輝性インクと、保護用インクと、上述に示すカラーインクをインクジェットプリンター(「PX−G930」セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジに充填した。次に、塩素を含有する市販の光沢紙(セイコーエプソン製 写真用紙<光沢>)をプリンターにセットした。
【0078】
(実施例1〜12および比較例3,4)
次に、光輝性インクにより、光沢紙の第1領域に第1画像を形成した。
次に、保護用インクを、上記第1画像上に付着させた。
次に、カラーインクにより、光沢紙の第2領域に第2画像を形成し、光輝性画像とカラー画像同時に記録された記録物を形成した。
【0079】
(実施例13〜18および比較例2)
前述の市販の光沢紙(セイコーエプソン製 写真用紙<光沢>)をプリンターにセットした後、光輝性インクおよび保護インクを同時にインクジェットヘッドより吐出し、光沢紙の第1領域に第1画像を形成した。
次に、カラーインクにより、光沢紙の第2領域に第2画像を形成し、光輝性画像とカラー画像同時に記録された記録物を形成した。
【0080】
(実施例19〜24)
前述の市販の光沢紙(セイコーエプソン製 写真用紙<光沢>)をプリンターにセットした後、光輝性インクにより、光沢紙の第1領域に第1画像を形成した。
次に、保護インクとカラーインクを同時にインクジェットヘッドより吐出し、光沢紙の第2領域に第2画像を形成し、光輝性画像とカラー画像同時に記録された記録物を形成した。
【0081】
(比較例5〜10)
前述の市販の光沢紙(セイコーエプソン製 写真用紙<光沢>)をプリンターにセットした後、光輝性インクにより、光沢紙の第1領域に第1画像を形成した。
次に、カラーインクにより、光沢紙の第2領域に第2画像を形成し、光輝性画像とカラー画像同時に記録された記録物を形成した。
次に、保護用インクを、上記光輝性画像とカラー画像同時に記録された記録物上に付着させた。
(銀インク組成)
【0082】
【表1】


(クリアインク組成)
【0083】
【表2】


(記録物の形成方法と、光沢、耐光評価結果)
【0084】
【表3】

【0085】
[5]初期光沢評価
記録物の初期光沢は、「MULTI GLOSS 268型光沢計」(商品名、コニカミノルタ社製)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A :光沢値が200以上
B :光沢値が150以上200%未満
C :光沢値が100以上150%未満
D :光沢値が100未満
これらの結果を、表3に示した。
【0086】
[6]耐光性評価
耐光性試験は、JEITA CP−3901法によるキセノン耐光性試験機を用いて行った。2ヶ月相当の曝露を行った後「MULTI GLOSS 268型光沢計」(商品名、コニカミノルタ社製)を用い煽り、角度60°での光沢度を測定し、その降下率を求め、以下の基準に従い評価した。
A :降下なし
B :降下率が0.1%以上5%未満
C :降下率が5%以上10%未満
D :降下率が10%以上
これらの結果を、表3に示した。
【0087】
[7]記録物の総合判定
前述した記録物の初期光沢評価結果、ならびに耐光性評価結果の、よりの低い評価結果を、印刷物の総合判定結果とした。
これらの結果を、表3に示した。
【0088】
表3から明らかなように、本発明のインクジェット記録方法によれば、光沢性および耐光性に優れた画像を記録(形成)することが可能であった。これに対して、比較例では満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0089】
1…インクジェット式プリンター(プリンター) 2…フレーム 3…プラテン 4…記録媒体送りモーター 5…ガイド部材 6…キャリッジ 7…タイミングベルト 8…キャリッジモーター 9…ヘッド 10…インクカートリッジ 100、101…第1記録物前駆体 110…第1記録媒体 120…第1画像 130…保護層 140…第2画像 P…記録媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法により、記録材料に対して、銀を含有する光輝性インクを吐出して光輝性画像を形成する第1画像形成工程と、
色材を実質的に含有せず、樹脂を含有する保護用インクを前記光輝性画像に対して付着させる付着工程と、
インクジェット法により、前記光輝性画像に対して色材を含有するカラーインクを吐出してカラー画像を形成する第2画像形成工程と、を備えたインクジェット記録方法であって、
前記光輝性画像と前記カラー画像との間に、前記保護用インクを付着させる、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記付着工程は、前記第1画像形成工程終了後に行われる、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記付着工程は、前記第2画像形成工程開始前に行われる、請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記付着工程により付着される前記保護用インクの付着量は、前記第2画像形成工程に用いられる前記カラーインクの色材によって異なる、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記保護用インクは樹脂を含有し、前記樹脂は、少なくともウレタン樹脂もしくはフルオレン樹脂のいずれかである、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記光輝性インクは、前記銀顔料を2質量%以上50質量%以下含有し、前記光輝性インクの表面張力をS(mN/m)、粘度をV(Pa・s)とした場合、20≦S≦40であり、かつ、1.5≦V≦10である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録材料が塩素を含有する、請求項1ないし7のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法により記録された記録物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206481(P2012−206481A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75824(P2011−75824)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】