説明

インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】印刷時のカールを矯正して印刷および排紙を安定に行なえ、且つ高品位な画像を与えることができるインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体上の印刷対象の画像データが記録される印画領域以外の領域であって、記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の少なくとも一領域に、記録媒体のカールを矯正するカール矯正液体組成物を付与する工程を有し、
前記カール矯正液体組成物の付与領域と付与量は、前記記録媒体の印刷環境下でのカール量に応じて調整されることを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に印刷時のカールを矯正して印刷および排紙を安定に行なえ、且つ高品位な画像を与えることができるインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの微小液滴を種々の作動原理により飛翔させて紙、フィルムあるいはシート等の記録媒体に付着させ、画像記録を行うものである。該インクジェット記録方式は、低騒音であること、フルカラー画像等の多色化が容易であること、高速記録が可能であること、および、他の印刷装置よりも記録コストが低いことなどの理由により、端末プリンタ、ファクシミリ、プロッタ、帳票印刷等で広く利用されている。
そして、これらのインクジェット記録方式により形成される画像は、高解像度化及び色再現性範囲の拡大によって、製版方式による多色印刷やカラー写真方式による印画に比較して遜色のない記録を得ることが可能であるため、近年ではポスター、ディスプレイ、チラシ、パッケージプルーフ等の高発色性や色再現性が要求される意匠性用途においてその需要が急速に高まってきている。
【0003】
ところで、インクジェット記録方法で記録する際の記録媒体としては、普通紙、コート紙、光沢紙、OHPシート、バックプリントフィルム等、様々なものが市販されているが、近年ではインクの吸収を高めて画像安定性を与えるいわゆるインク受容層がPET基材などの表面にコーティングされた記録媒体等も市販されており、これにより記録媒体は薄型化の傾向にある。しかしながら記録媒体が薄型化すると、印刷時や印刷後に記録媒体が丸まる、紙が反るといった不具合の一種であるカールが発生し易くなる問題があった。
印刷後のカールを抑制する方法として、例えば特許文献1では、特に普通紙でのカール抑制を目的としてカール抑制機能を有する液体組成物を記録媒体に偏在させて付与する方法を開示している。
【0004】
一方で、カールは記録媒体を記録装置に導入して画像記録する際の印刷不良や排紙不良の原因ともなる。また、印刷直後の画像の定着が不安定な状態でカールが発生すると画像品位が低下する原因ともなる。このため、カール現象は印刷直後を含めた印刷時にも抑制されている必要がある。
現状では、印刷時のカールを抑制する方法として、例えば、記録媒体の先端部分に錘をつけて印刷時のカール発生を抑制する方法、あるいは印刷後には剥離される剛性のある台紙(セパレータ)を記録媒体の裏面に付与した状態で記録装置に通紙させる方法が取られているが、作業処理工程数やコスト面などで改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−143179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特に印刷時のカールを矯正して印刷および排紙を安定に行なえ、且つ高品位な画像を与えることができるインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決する手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意検討を行っていた所、図1に示すように、特にPET等の基材2の表面にインク受容層3を形成した薄型の記録媒体Fを閾値以上の乾燥した環境におくとインク受容層3が収縮し、これに起因してインク受容層3とは膨張係数の異なる材料である基材2に引張応力が発生してインク受容層3を内側にしてカールが引き起こされることを知見した。インク受容層3は水性液体を受容可能とするために水を吸排出できる材料で形成されており、したがって乾燥した環境におかれるとインク受容層3中の水分量が減って収縮するものと考えられる。また、このカールが、記録ヘッドで画像記録する際の印刷・排紙安定性の低下や、印刷直後の定着不安定な画像記録面が汚され画像品位が低下の原因となっていることを特定するに至った。
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、下記の通りである。
【0008】
本発明のインクジェット記録方法は、
インクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体上の印刷対象の画像データが記録される印画領域以外の領域であって、記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の少なくとも一領域に、記録媒体のカールを矯正するカール矯正液体組成物を付与する工程を有し、
前記カール矯正液体組成物の付与領域と付与量は、前記記録媒体の印刷環境下でのカール量に応じて調整されることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、例えば上記の膨張係数の異なる材料を複数積層させて形成した薄型フィルムのような、印刷環境(温度や湿度)に応じてカールを発現する記録媒体における印刷や排紙安定性を高め、高品位な画像を形成することができる。即ち、上記の通り、例えば基材の表面にインク受容層を形成した薄型の記録媒体は、表層のインク受容層が乾燥して収縮し易く、これによって記録媒体を構成する基材がカールするが、このインク受容層の収縮はインク等の液体成分を吸収することによって膨潤するため、液体成分を付与することで収縮前の状態に戻す(カールを矯正する)ことが可能である。したがって、印刷対象の画像データの印画領域はインクを記録されることでカールを矯正することができるが、印刷対象の画像データが記録されない非印画領域にも液体成分を付与しておくことで、印刷中あるいは印刷直後の画像の定着が不安定な時期のカールを矯正することが可能となる。特に、印刷対象の画像データを形成する領域が小さい場合には、インクを吸収する領域が小さくカール量が大きくなるため、この非印画領域に液体成分を付与することでカールを顕著に矯正することができる。また、この印刷環境(温度や湿度)を原因とした記録媒体のカール現象では、発生するカール量は記録媒体種や印刷環境の温湿度に相関して変動する。したがって、非印画領域に付与される液体成分の付与領域や付与量は、記録媒体種や印刷環境に応じたカール量に基づいて適切に調整することが可能である。
印刷および排紙安定性の観点からは、図2に示すような記録媒体の搬送方向に対して交差する幅方向のカールが抑制されていることが望ましく、従って、記録媒体搬送方向において印画領域の上流側と下流側のいずれかの領域を液体成分で膨潤させることで、上記位置でのカールを抑制することが可能となる。
【0010】
上記構成とすることで、特に印刷時のカールを矯正して印刷および排紙を安定に行なえ、且つ高品位な画像を得ることができる。
【0011】
また、本発明のインクジェット記録方法は、前記カール量が、予め設定された、印刷環境の温度および湿度と当該印刷環境下におかれた場合の記録媒体のカール量との相関に基づいて特定されることが好ましい。
上記構成とすることで、印刷毎に記録媒体のカール量を測定する必要がなく、事前の予測によって記録媒体のカール量を特定することが可能となり、画像記録の工程数を低減することができる。
【0012】
また、本発明のインクジェット記録方法は、前記記録媒体が基材にインク受容層が形成された厚さ100μm以下の記録媒体であることが好ましい。
特に上記構成の記録媒体ではカール発生が著しいため、本発明の効果を顕著に享受できる。
【0013】
また、本発明のインクジェット記録方法は、前記カール矯正液体組成物が前記記録媒体の搬送方向に対して交差する方向に帯状(バンド状)に付与されることが好ましい。
上記構成とすることにより、記録媒体の搬送方向に対して交差する幅方向のカール抑制効果が高く、印刷および排紙安定性が顕著に向上する。
【0014】
また、本発明のインクジェット記録方法は、前記カール矯正液体組成物が前記記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の両領域に付与されることが好ましい。
上記構成とすることにより、記録媒体の搬送方向に対して交差する幅方向のカール抑制効果が高く、印刷および排紙安定性が顕著に向上する。
【0015】
また、本発明のインクジェット記録方法は、前記カール矯正液体組成物が顔料成分を実質的に含まないクリアインク組成物であることが好ましい。
記録ヘッドのノズルの洗浄液として用いられるクリアインク組成物をカール矯正液体組成物とすることで、従来から用いられているインクセットや記録装置で容易に実施することができるため、コスト面で有利である。
【0016】
本発明のインクジェット記録装置は、
インクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
印刷対象の画像を示す画像データを取得する画像データ取得手段と、
印刷環境の温度および湿度情報を取得する印刷環境情報取得手段と、
予め設定された、印刷環境の温度および湿度と当該印刷環境下におかれた場合の記録媒体のカール量との相関に基づいて、前記記録媒体の前記印刷環境情報取得手段で得られた印刷環境下でのカール量を判定するカール発生判定手段と、
前記カール発生判定手段でカール発生と判定された場合、記録媒体のカールを矯正するカール矯正液体組成物を前記記録媒体上の印刷対象の画像データが記録される印画領域以外の領域であって、記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の少なくとも一領域に付与するか否かを前記画像データの印刷領域に基づいて判断し、当該判断により得られる前記画像データの余白情報と、前記カール発生判断手段で得られた前記記録媒体のカール量情報とから、前記カール矯正液体組成物の付与領域と付与量を判断するカール矯正液体組成物調整手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、印刷対象の画像データの余白情報に応じて、記録媒体のカール量に応じたカール矯正液体組成物の付与領域および付与量を制御することができる。これにより、印刷中あるいは印刷直後の画像の定着が不安定な時期のカールを矯正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】インク受容層と基材とから構成される薄型の記録媒体のカール状態を説明する図である。
【図2】記録媒体の、搬送方向に交差する幅方向におけるカール状態を説明する図である。
【図3】実施形態の一例として説明するプリンタの全体構成ブロック図である。
【図4】図4(a)は図3で説明するプリンタの断面図であり、図4(b)はプリンタが記録媒体を搬送する図である。
【図5】カール矯正液体組成物の付与領域および付与量を調整する工程を説明するフローである。
【図6】記録媒体の印画領域以外の非印画領域(余白)へのバンド印刷行なった実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のインクジェット記録方法および記録装置について、図面を参照して詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0020】
図3は本発明のインクジェット記録装置の実施形態の一例であるプリンタ1の全体構成ブロック図である。図4は、プリンタ1が記録媒体S(記録媒体)を搬送する様子を示す図である。外部装置であるコンピュータ50から印刷対象を示す画像である画像データと印刷環境の温度/湿度情報を受信したプリンタ1は、コントローラ10(制御部)により、各ユニット(搬送ユニット20、ヘッドユニット30)を制御し、記録媒体Sに画像を形成する。また、プリンタ1内の状況を検出器群40が監視し、その検出結果に基づいて、コントローラ10は各ユニットを制御する。
【0021】
コントローラ10は、プリンタ1の制御を行なうための制御ユニットである。インターフェース部11は、外部装置であるコンピュータ50とプリンタ1との間でデータの送受信を行なうためのものである。CPU12は、プリンタ1全体の制御を行なうための演算処理装置である。メモリ13は、CPU12のプログラムを格納する領域であり、印刷環境の温度および湿度と当該環境下におかれた場合の記録媒体Sのカール量との相関テーブル(テーブル1)と、テーブル1に基づいてカール発生リスクを判定するカール発生判定プログラムが格納されている。またメモリ13には、印刷対象の画像を示す画像データの印画領域以外の非印画領域の情報(余白情報)とバンド印刷の要否とを相関付ける相関テーブル(テーブル2)と、テーブル2に基づいてバンド印刷の要否を判断するバンド印刷領域判定プログラムも格納されている。
プリンタ1が印刷環境の温度および湿度情報を受信した場合には、CPU12はテーブル1に基づいて、受信した印刷環境条件下でのカール量の判定(カール発生判定)を実行する。また、当該判定によりカール発生のリスクがあるとされた場合、CPU12は印刷対象である画像データの解析を行なうと共にテーブル2に基づいてバンド印刷の要否の判断を実行する。
さらに、CPU12は、メモリ13に格納されているプログラムに従ったユニット制御部14により各ユニットを制御する。
【0022】
搬送ユニット20は、搬送ローラ21A,21Bと、搬送ベルト22と、吸引機構24とを有し、記録媒体Sを印刷可能な位置に送り込み、印刷時には搬送方向に所定の搬送速度で記録媒体Sを搬送させる。給紙ローラ23は、紙挿入口に挿入された記録媒体Sをプリンタ1内の搬送ベルト22上に自動的に給紙するためのローラである。輪状の搬送ベルト22が搬送ローラ21A及び21Bにより回転することで、搬送ベルト22上の記録媒体Sは搬送される。なお、記録媒体Sは搬送ベルト22に静電吸着又はバキューム吸着している(不図示)。
【0023】
ヘッドユニット30は、記録媒体にインクを吐出するためのものであり、複数のヘッド31を有する。ヘッド31の下面には、インク吐出部であるノズルが複数設けられる。そして、各ノズルには、インクが入った圧力室(不図示)と、圧力室の容量を変化させてインクを吐出させるための駆動素子(ピエゾ素子)が設けられている。駆動素子に駆動信号が印加されることにより、駆動素子は変形し、その変形に伴って圧力室が膨張・収縮することによりインクが吐出される。
【0024】
次に、本実施形態の画像形成処理について図5に示すフロチャートを用いて詳細に説明する。
まず、プリンタドライバが印刷対象の画像を示す画像データ(ステップ100)を取得する。続いて、プリンタドライバは解像度変換処理、色変換処理、ハーフトーン処理等を行なって、画像データ(各画素のドット形成の有無を示すプログラム)を作成する。次いで、プリンタドライバは、印刷環境の温度および湿度情報を受信すると(ステップ110)、メモリ13に格納された印刷環境の温度および湿度と当該環境下におかれた場合の記録媒体Sのカール量との相関テーブル(テーブル1)を読み出し、メモリ12に格納されたカール発生判定プログラムに、受信した印刷環境条件下でのカール量の判定を実行させる(S120)。
テーブル1は、記録媒体Sの素材毎に印刷環境とカール量との関係を相関付けた対応表であるとともに、カール量の程度に応じてカール矯正に必要とされるカール矯正液体組成物の必要量(ここでは単位面積あたりの液体打ち込み量(g/cm))が設定されている。S120では、カール量が判定されるとともに、それに付随して、カール矯正に必要とされるカール矯正液体組成物の必要量が判断される。
S120においてカール発生リスクなしと判断された場合(S120⇒NO)、印刷対象の画像データのみが印刷される(S200)。
【0025】
カール発生判定プログラムにおいてカール発生と判定された場合(S120→YES)、プリンタドライバはS100で作成した画像データを解析する(S130)。続いて、プリンタドライバは、メモリ13に格納された、印刷対象の画像を示す画像データの印画領域以外の非印画領域の情報(余白情報)とバンド印刷の要否とを相関付ける相関テーブル(テーブル2)を読み出し、メモリ12に格納されたバンド印刷領域判定プログラムに、バンド印刷の要否の判定を実行させる(S120)。
バンド印刷の領域は、記録媒体における当該画像データが記録される印画領域以外の、該記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の少なくとも一領域である。
【0026】
バンド印刷を行なうと判定された場合(S140→YES)、S120のカール発生判定にて得られた記録媒体のカール量情報(単位面積あたりの液体付与量)と、S130の画像データ解析で得られた画像データの余白情報とから、前記カール矯正液体組成物の付与領域(バンド印刷領域)と付与量を判断する(S150)。
バンド印刷領域は、例えば、記録媒体Sの搬送方向に対して交差する幅方向のバンド長さは記録媒体Sのサイズに基づいて予め設定しておき、記録媒体Sの搬送方向に沿ったバンド幅を画像データの余白とカール矯正液体組成物の付与量に応じて調整することで決定されることが望ましい。
【0027】
S140でバンド印刷が不要と判断された場合(S140⇒NO)、印刷対象の画像データのみが印刷される(S200)。この場合は例えば、全面ベタ印刷等のように画像データに略余白が形成されない場合が相当する。印刷対象の画像によって記録媒体Sの領域全体に渡ってインクが付与されれば記録媒体Sの乾燥による収縮は解消され、カールは発生しないためである。
【0028】
S150でカール矯正液体組成物の付与領域と付与量が決定したら、プリンタドライバはラスタライズ処理等を行ない、プリンタ1に印刷データを送信し、記録媒体Sの搬送方向の下流側にバンド印刷が行なわれ(S160)、次いで画像データの印刷(S170)、上流側のバンド印刷(S180)が順に行われる。
【0029】
次に、本発明のインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に好適に使用できる記録媒体について説明する。
記録媒体を構成する基材2としては、特に限定されることはないが、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂フィルム等の透明基材が挙げられる。本発明においては、透明性、剛性の確保および糊の密着安定性の観点から、ポリエチレンテレフタラート(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、またはポリプロピレン(PP)であることが好ましい。また、基材2はコロナ放電処理などの表面処理によりインク受容層3のコーティング性を改善させることも可能である。
記録媒体を構成する基材2の厚みは特に限定されることはないが、25〜400μmの範囲が好ましく、プリンタへの装着性や取り扱いを考慮すると50〜300μmが好ましい。
【0030】
本発明におけるインク受容層3は、例えば、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジウムハライド、メラミン樹脂、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアクリル酸ナトリウム等の親水性合成高分子やゼラチン、でんぷん、セルロース誘導体、セルロース、カゼイン、キチン、キトサン等の親水性天然高分子、ポリエチレンオキサイドやその共重合体等の高吸収性樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂等から形成されたものが使用できる。
【0031】
なかでも、インク吸収性、耐水性、透明性のよいインク受容層を作成することで知られているウレタンやアクリルなどの分散樹脂の使用が好ましく、またウレタンまたはアクリルなどの分散樹脂をカルボジイミドで架橋させたものも更に好ましく使用できる。特に、樹脂としてウレタン樹脂が広く使われている。
【0032】
このようなインク受容層としては、例えば下記構成のものが知られている。
シラノール基を有するポリウレタン樹脂をポリイソシアネート、ポリエチレンイミン及びカルボジイミド樹脂から選ばれた架橋剤で架橋された樹脂を含む特開2003−166183に開示されているようなインク受容層
具体的にはこの公報の実施例5にあるポリウレタン樹脂エマルジョン(武田薬品工業(株)製タケラックXW−75−X35(固形分30重量%))75重量%とカルボジイミド樹脂(日清紡績(株)製カルボジライトV−02)15重量%などからなるインク受容層、
アクリル重合物とカルボジイミド基を有する化合物を含有する特開2004−345110に記載のインク受理層、
特開2009−125958に記載のポリエステル系ウレタンラテックス及びアクリルシリコーン系ラテックスなどの分散樹脂とカルボジイミドを含有するインク受理層。
また、特開2005−74880に記載の水性ウレタン樹脂および水性アクリル樹脂の2種と架橋剤を含むインク受容層も使用できる。
さらに、加水分解性シリル基を架橋成分として有しているカチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂のような分散樹脂とカチオン性ウレタン系樹脂との併用系のように分散樹脂とウレタン樹脂とを架橋したような特開2006−88341に記載のものも好ましい。
【0033】
ウレタン樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系等が例示できる。カチオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。
カチオン性ウレタン系樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系等が例示できるが、カチオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの重合体または共重合体等のアクリル系重合体樹脂、または、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−アクリル−酢酸ビニル、エチレン−塩化ビニル−酢酸ビニル等のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル・スチレン共重合体樹脂等が例示できる。カチオン性アクリル・スチレン共重合体樹脂が好ましい。
インク受容層固形分中のカチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂とカチオン性ウレタン系樹脂の重量%は、カチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂が5〜25%で、カチオン性ウレタン系樹脂が75〜95%のものが好ましい。
さらには、カチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂が10〜20%で、カチオン性ウレタン系樹脂が80〜90%のものが好ましい。
【0034】
架橋剤として、ポリイソシアネート、ポリエチレンイミン及びカルボジイミド樹脂から選ばれるものが用いられる。
カルボジイミド樹脂は、ジイソシアネート類又はジイソシアネート類とトリイソシアネート類とを脱二酸化炭素縮合して得られる縮合反応物の末端イソシアネート基を親水性基で封止してなる水溶性又は水分散性カルボジイミド化合物である。
ジイソシアネート類及びトリイソシアネート類としては、脂環族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、及び芳香族イソシアネートのいずれでもよく、分子中にイソシアネート基を少なくとも2個以上、特に2個有するものが好適である。このようなイソシアネートとしては、分子中にメチレン基の炭素原子に結合したイソシアネート基を有しないイソシアネート化合物では4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)などが、また分子中にメチレン基の炭素原子に結合したイソシアネート基を2個以上有する脂環族、脂肪族、芳香族イソシアネートではヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、及び2,4−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)などが挙げられる。
末端イソシアネート基を封止する化合物は、イソシアネート基と反応し得る基を有する水溶性又は水分散性有機化合物であって、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二官能性の水分散性有機化合物のモノアルキルエステル又はモノアルキルエーテル、あるいはカチオン系の官能基(例えば窒素を含む基)、又はアニオン系の官能基(例えばスルホニル基を含む基)を持つ一官能の有機化合物などが挙げられ、特に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが好適である。
インク受容層3の厚みは、2〜50μmであることが好適である。
また、記録媒体Sの厚みは特に限定されないが100μm以下、特に10μm以下であるとカール矯正効果を顕著に享受することができるため好適である。
【実施例】
【0035】
実施例
記録媒体の作成
基材として厚み50μmのPETフィルムの片面に下記組成のインク受容層を乾燥膜厚20μmになるように塗布して記録媒体を作成した。記録媒体はA3サイズで形成した。
【0036】
<インク受容層形成組成物>
ポリエーテル系ウレタン樹脂
(第一工業製薬(株)製 スーパーフレックス600 固形分25%) 72質量部
アクリル・スチレン共重合樹脂
(中央理化工業(株)製 リカボンド FK -820 固形分39%) 24質量部
オキサゾリン基を有する水溶性ポリマー(固形分40%) 0.5質量部
アクリル系の水溶性自己乳化型エポキシ硬化剤として、メタクリル酸・アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル・スチレン共重合物とポリエチレンイミンのグラフト化物の塩化水素中和物(固形分49%) 3.5質量部
【0037】
上記記録媒体を温度18℃、湿度25%の環境下に4時間放置してカール量が最大となった状態で、カール矯正液体組成物をバンド状に印刷した。印刷装置および印刷条件は下記の通りである。尚、記録媒体は幅方向にカールを有しており、幅方向の左右の丸まりはそれぞれ直径40cm程度であった。
【0038】
(インクジェット画像記録1)
バンド状の印刷は、市販のインクジェットプリンタ(「PX−W8000」セイコーエプソン株式会社製)を用いて行なった。また、カール矯正液体組成物としてはPX−W8000に搭載されるクリーニング液(ICWCLL)を使用した。
クリーニング液の付与領域(バンド印刷領域)は、図6に示すように記録媒体の搬送方向における印画領域の上流端部領域(上流側バンド)および下流端部領域(下流側バンド)とし、記録媒体の搬送方向に交差する幅方向のバンド長さを固定値、記録媒体の搬送方向におけるバンド幅を20mmまたは15mmとして、インク打ち込み量をそれぞれ変化させて印刷を行ない、各々のサンプルにおけるカールの状態を確認した。尚、クリーニング液の打ち込み密度は360dpiとした。結果を下記表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
(インクジェット画像記録2)
上記で作成した未収縮の記録媒体を下記2種の環境下に放置し、カール量が小さい(カールが弱い)記録媒体と、カール量が大きい(カールが強い)記録媒体を用意した。
カール量が小さい記録媒体:温度18℃、湿度35%の環境下に4時間放置
カール量が大きい記録媒体:温度20℃、湿度40%の環境下に4時間放置
【0041】
上記の2種の記録媒体について、カール矯正液体組成物をバンド状に印刷した。印刷装置および印刷条件は下記の通りである。
【0042】
バンド状の印刷は、市販のインクジェットプリンタ(「PX−W8000」セイコーエプソン株式会社製)を用いて行なった。また、カール矯正液体組成物としてはPX−W8000に搭載されるカラーインク液を使用した。
カラーインク液の付与領域(バンド印刷領域)は、図6に示すように、記録媒体の搬送方向における印画領域の上流端部領域(上流側バンド)および下流端部領域(下流側バンド)とし、記録媒体の搬送方向に交差する幅方向のバンド長さと記録媒体の搬送方向のバンド幅をそれぞれ固定値としてインク打ち込み量をそれぞれ変化させて印刷を行なった。尚、カラーインク液の打ち込み密度は720×1440dpiとした。
【0043】
この結果、カール量が小さい場合にはインク打ち込み量を0.69g/cmとすればカールは矯正できたが、カール量が大きい場合には当該量ではカールを矯正することができず、2.22g/cm打ち込む事でカールを矯正することができた。
【0044】
上記結果から、印刷環境(乾燥)によって生じるカールは、印刷対象の画像データが印刷される印画領域以外の領域に、カール量に対応した量の液体成分を打ち込むことによって矯正することが可能であることが分る。尚、本実施例では記録媒体のカールの矯正の液体成分の調整を、単位面積当たりインク量として行なったが、勿論これに限定される必要は無く、例えばDUTY等の他の基準も用いることができる。また、印刷環境管理も温度および湿度によって行なっているが、これに限定される必要は無く、例えば温度依存性が少ない絶対湿度で管理してもよい。
【符号の説明】
【0045】
2 基材、 3 インク受容層、 F 薄型フィルム、 40 検出器群、 10 コントローラ、 11 インターフェース部、 50 コンピュータ、 1 プリンタ、 12 CPU、 13 メモリ、 14 ユニット制御部、 20 搬送ユニット、 24吸引機構、 23 給紙ローラ、 21A,21B 搬送ローラ、S 記録媒体、 22 搬送ベルト、 30 ヘッドユニット、 31 ヘッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体上の印刷対象の画像データが記録される印画領域以外の領域であって、記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の少なくとも一領域に、記録媒体のカールを矯正するカール矯正液体組成物を付与する工程を有し、
前記カール矯正液体組成物の付与領域と付与量は、前記記録媒体の印刷環境下でのカール量に応じて調整されることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記カール量は、予め設定された、印刷環境の温度および湿度と当該印刷環境下におかれた場合の記録媒体のカール量との相関に基づいて特定されることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記記録媒体は、基材にインク受容層が形成された厚さ100μm以下の記録媒体であることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記カール矯正液体組成物は、前記記録媒体の搬送方向に対して交差する幅方向に帯状に付与されることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記カール矯正液体組成物は、前記記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の両領域に付与されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記カール矯正液体組成物が、顔料成分を実質的に含まないクリアインク組成物であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
インクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
印刷対象の画像を示す画像データを取得する画像データ取得手段と、
印刷環境の温度および湿度情報を取得する印刷環境情報取得手段と、
予め設定された、印刷環境の温度および湿度と当該印刷環境下におかれた場合の記録媒体のカール量との相関に基づいて、前記記録媒体の前記印刷環境情報取得手段で得られた印刷環境下でのカール量を判定するカール発生判定手段と、
前記カール発生判定手段でカール発生と判定された場合、記録媒体のカールを矯正するカール矯正液体組成物を前記記録媒体上の印刷対象の画像データが記録される印画領域以外の領域であって、記録媒体の搬送方向の前記印画領域より上流側および下流側の少なくとも一領域に付与するか否かを前記画像データの印刷領域に基づいて判断し、当該判断により得られる前記画像データの余白情報と、前記カール発生判断手段で得られた前記記録媒体のカール量情報とから、前記カール矯正液体組成物の付与領域と付与量を判断するカール矯正液体組成物調整手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−213949(P2012−213949A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81647(P2011−81647)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】