説明

インクジェット記録方法及びインクジェット記録用水性インクセット

【課題】 マイグレーションレベルの差が比較的大きな水性インク同士の組み合わせであっても、高湿環境下における二次色の記録部の色変化を抑制可能なインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】 記録媒体に二種類以上のインクジェット記録用水性インクを重ね打ちして記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクが、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、条件(I)及び条件(II)の少なくとも一方を満足するように、前記二種類以上の水性インクを重ね打ちすることを特徴とする。

条件(I):重ね打ちする二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクが、カチオン性ポリマーを含む。

条件(II):重ね打ちする二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクより前又は同時に記録媒体に到達する水性インクが、カチオン性ポリマーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録用水性インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録では、特許文献1に記載のものをはじめとした水性インクを二種類以上用いて、二次色の記録部を形成することがある。例えば、水性イエローインク、水性マゼンタインク及び水性シアンインクの3色の水性インクを用いてプロセスブラック(トリカラーブラック、コンポジットブラックとも言う。)を記録する。
【0003】
また、インクジェット記録用水性インクは、記録媒体への記録後に、前記記録部の周縁に着色剤が滲み出すマイグレーションという現象を起こすことが知られている。前記マイグレーションは、高湿環境下において特に起こりやすい。このため、前記二次色の記録部は、高湿環境下で、前記水性インクのマイグレーションの度合い(マイグレーションレベル)に応じて色が変化することがある。すなわち、高湿環境下で、前記記録部は、マイグレーションレベルの大きい水性インクの反対色が濃くなったように見える。例えば、前記プロセスブラックを記録する場合、高湿環境下での前記マゼンタインクのマイグレーションレベルが他の2色の水性インクより大きいと、前記プロセスブラック記録部は、マゼンタの反対色のグリーンが強くなり、緑がかった黒色に見える。
【0004】
前記マイグレーションを抑制するために、例えば、複数の水性インクについて、マイグレーションレベルの相互間の最大差が小さくなるように選択することで、マイグレーションによる色変化が目立たないようにするといったことが行われてきた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−217523号公報
【特許文献2】特開2011−1505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のインクジェット記録方法は、マイグレーションレベルが比較的近い水性インク同士を選択しなければならず、水性インクの選択の幅が狭いという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、マイグレーションレベルの差が比較的大きな水性インク同士の組み合わせであっても、高湿環境下における二次色の記録部の色変化を抑制可能なインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録方法は、
記録媒体に二種類以上のインクジェット記録用水性インクを重ね打ちして記録するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、
下記条件(I)及び下記条件(II)の少なくとも一方を満足するように、前記二種類以上の水性インクを重ね打ちすることを特徴とする。

条件(I):重ね打ちする前記二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクが、カチオン性ポリマーを含む。

条件(II):重ね打ちする前記二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクより前又は同時に前記記録媒体に到達する水性インクが、カチオン性ポリマーを含む。

【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェット記録方法によれば、重ね打ちする二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクにカチオン性ポリマーが含まれるか、重ね打ちする前記二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクより前又は同時に前記記録媒体に到達する水性インクにカチオン性ポリマーが含まれるかの少なくとも一方の条件を満足させるため、マイグレーションレベルの差が比較的大きな水性インク同士の組み合わせであっても、高湿環境下における二次色の記録部の色変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明におけるインクジェット記録用水性インクのマイグレーションレベルの測定方法を説明する図である。
【図2】図2は、インクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(重ね打ち)
本発明において、「重ね打ち」とは、記録媒体上の同一箇所に二種類以上のインクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)を吐出することを言う。重ね打ちする前記二種類以上の水性インクは、記録媒体に順次到達(着弾)するように吐出してもよいし、同時に到達(着弾)するように吐出してもよい。
【0012】
(マイグレーションレベル)
本発明において、「マイグレーションレベル」とは、例えば、記録媒体における水性インクの拡散のしやすさを示す指標であり、例えば、つぎのようにして測定できる。すなわち、まず、低温高湿(温度18℃、相対湿度80%)の環境下で、図1に示すように、記録媒体(例えば、後述の光沢紙)に前記水性インクを吐出して、ベタ画像(解像度1200dpi×2400dpiにおいて、300%duty)を2分割するように、後述の図2に示したインクジェット記録装置のキャリッジの移動方向に沿ったスリット(非記録部)が入った15個のパッチを記録し、評価用サンプルを作製する。前記評価用サンプルは、前記水性インクがカチオン性ポリマーを含む場合には、前記カチオン性ポリマーを除いた水性インクを用いて作製する。前記300%dutyのベタ画像は、例えば、後述の図2に示したインクジェット記録装置の4つのインクカートリッジのうちの3つ(水性イエローインク用、水性マゼンタインク用及び水性シアンインク用のインクカートリッジ)を、同じ水性インクが充填されたインクカートリッジとし、前記3つのインクカートリッジに充填された同じ水性インクを、それぞれ100%dutyとなる条件下にて同一走査において吐出することで、記録できる。前記15個のパッチにおいて、前記スリットの幅は、それぞれ、2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28及び30ドットとする。ここで、1ドットとは、解像度1200dpi×1200dpiにおけるものであり、1/1200インチ(2.54/1200cm)相当となる。ついで、前記評価用サンプルを、前記低温高湿の環境下で3日間保存する。つぎに、例えば、クオリティ・エンジニアリング・アソシエイツ(QEA)社製のハンディ型画像評価システム「PIAS(登録商標)−II」を用いて、前記スリットが白地のラインとして判定されるか否かを測定する。具体的には、前記スリットを前記画像評価システムの画面中央に配置し、下記測定条件において、前記画面の左端から右端まで前記スリットが連続した白地のラインとして判定されれば、合格とする。スリット幅の狭い前記パッチから判定していき、最初に合格となるスリット幅を求める。前記スリット幅から、下記評価基準により、前記水性インクのマイグレーションレベルを決定する。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0013】
<マイグレーションレベル測定条件>
測定ツール:「ライン分析」又は「エッジ分析」
エッジ境界線閾値:85%
(前記スリット部における反射率測定値の最大値をRmax、前記パッチのベタ記録部における反射率測定値の最小値をRmin、前記スリット部における反射率測定値をRとしたとき、{R/(Rmax−Rmin)}×100≦85になる部分が前記画像評価システムの画面中に存在すると、前記スリットは、連続した白地のラインではないと判定される。)
Color Plane:Auto
Orientation:水平ライン
背景(Polarity):暗い(Light on dark)
【0014】
<マイグレーションレベル評価基準>
レベル1:スリット幅2ドットのパッチで最初に合格となる
レベル2:スリット幅4ドットのパッチで最初に合格となる
レベル3:スリット幅6ドットのパッチで最初に合格となる
レベル4:スリット幅8ドットのパッチで最初に合格となる
レベル5:スリット幅10ドットのパッチで最初に合格となる
レベル6:スリット幅12ドットのパッチで最初に合格となる
レベル7:スリット幅14ドットのパッチで最初に合格となる
レベル8:スリット幅16ドットのパッチで最初に合格となる
レベル9:スリット幅18ドットのパッチで最初に合格となる
レベル10:スリット幅20ドットのパッチで最初に合格となる
レベル11:スリット幅22ドットのパッチで最初に合格となる
レベル12:スリット幅24ドットのパッチで最初に合格となる
レベル13:スリット幅26ドットのパッチで最初に合格となる
レベル14:スリット幅28ドットのパッチで最初に合格となる
レベル15:スリット幅30ドットのパッチで最初に合格となる
レベル16:スリット幅30ドットのパッチでも合格とならない
【0015】
(インクジェット記録方法)
つぎに、本発明のインクジェット記録方法について、例をあげて、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により制限及び限定されない。
【0016】
本発明のインクジェット記録方法では、二種類以上の水性インクを用いて記録する。前記水性インクは、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む。
【0017】
前記着色剤は、染料又は顔料のいずれであってもよい。また、前記着色剤として、染料及び顔料を混合して用いてもよい。
【0018】
前記染料は、特に限定されず、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等があげられる。前記染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクトブラウン、C.I.ダイレクトグリーン、C.I.アシッドブラック、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット、C.I.ベーシックブラック、C.I.ベーシックブルー、C.I.ベーシックレッド、C.I.ベーシックバイオレット及びC.I.フードブラック等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラックとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154及び168等があげられる。前記C.I.ダイレクトブルーとしては、例えば、C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106及び199等があげられる。前記C.I.ダイレクトレッドとしては、例えば、C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83及び227等があげられる。前記C.I.ダイレクトイエローとしては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142及び173等があげられる。前記C.I.ダイレクトオレンジとしては、例えば、C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46及び60等があげられる。前記C.I.ダイレクトバイオレットとしては、例えば、C.Iダイレクトバイオレット47及び48等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラウンとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン109等があげられる。前記C.I.ダイレクトグリーンとしては、例えば、C.I.ダイレクトグリーン59等があげられる。前記C.I.アシッドブラックとしては、例えば、C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112及び118等があげられる。前記C.I.アシッドブルーとしては、例えば、C.I.アシッドブルー9、22、40、59、93、102、104、117、120、167、229及び234等があげられる。前記C.I.アシッドレッドとしては、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、289、315及び317等があげられる。前記C.I.アシッドイエローとしては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、61及び71等があげられる。前記C.I.アシッドオレンジとしては、例えば、C.I.アシッドオレンジ7及び19等があげられる。前記C.I.アシッドバイオレットとしては、例えば、C.I.アシッドバイオレット49等があげられる。前記C.I.ベーシックブラックとしては、例えば、C.I.ベーシックブラック2等があげられる。前記C.I.ベーシックブルーとしては、例えば、C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28及び29等があげられる。前記C.I.ベーシックレッドとしては、例えば、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14及び37等があげられる。前記C.I.ベーシックバイオレットとしては、例えば、C.I.ベーシックバイオレット7、14及び27等があげられる。前記C.I.フードブラックとしては、例えば、C.I.フードブラック1及び2等があげられる。これらの染料以外にも、例えば、化学式(Ya)〜(Ye)、化学式(M1a)〜(M1b)、化学式(M2a)〜(M2e)、化学式(M3a)〜(M3f)及び化学式(Ca)〜(Ce)で表される化合物等も前記染料として好適に使用できる。化学式(Ya)〜(Ye)及び化学式(M3a)〜(M3f)において、−C(t)は、tert−ブチル基である。化学式(Ca)〜(Ce)において、Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核であり、R21、R22、R23及びR24の少なくとも一つは、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、C及びDのそれぞれに存在する。
【0019】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【0020】
前記水性インク全量に対する前記染料の配合量は、特に限定されず、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、0.5重量%〜8重量%であり、より好ましくは、1重量%〜6重量%である。
【0021】
前記顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等が使用できる。前記顔料を用いる場合は、分散剤を併用することが好ましい。
【0022】
前記水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0023】
前記着色剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0025】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0026】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0027】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、より好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0028】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0030】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0031】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水及び水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0032】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、図2に示すインクジェット記録装置を用いて実施できる。図2に示すとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0033】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙(好ましくは光沢紙、より好ましくは空隙型のレジンコート層を有する光沢紙))Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0034】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0035】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図2において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0036】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。
【0037】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法の実施形態について、図2に示すインクジェット記録装置を用いた場合を例にとって説明する。ただし、以下の実施形態は例示に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0038】
[実施形態1]
本実施形態は、重ね打ちする二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクが、カチオン性ポリマーを含む、すなわち、前記条件(I)を満足する形態である。
【0039】
まず、インクジェットヘッド3から、記録用紙Pに重ね打ちする二種類以上の水性インクのうち、前記マイグレーションレベルが最大の水性インク以外の水性インクを吐出する。
【0040】
つぎに、インクジェットヘッド3から、前記マイグレーションレベルが最大の水性インク以外の水性インクの吐出部に、前記マイグレーションレベルが最大の水性インクを吐出する。前記マイグレーションレベルの最大値は、10未満であることが好ましい。本実施形態では、前記マイグレーションレベルが最大の水性インクが、カチオン性ポリマーを含む。マイグレーションレベルが最大の水性インクにカチオン性ポリマーを含ませることで、高湿環境下における二次色の記録部の色変化が抑制されると推定される。特に、記録媒体として光沢紙を用いた場合には、光沢紙上のシリカ粒子及びカチオン性ポリマーの相互作用による目止め効果が働き、湿度による染料の光沢紙における拡散のしやすさ(マイグレーション)の変化が抑制され、その結果、二次色の記録部の色変化が抑制されると推定されるが本発明は、この推定に限定されない。
【0041】
前記カチオン性ポリマーは、一般式(1)で表わされる化合物、一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物及び一般式(4)で表わされる化合物(ポリエチレンイミン)の少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【化25】

【化26】

【化27】

【0042】
一般式(1)において、mは、2〜6の整数であり、nは、20〜40の整数である。
【0043】
一般式(1)において、mは、4であることが特に好ましい。この場合、一般式(1)で表わされる化合物は、ポリリジンである。また、一般式(1)において、nは、25〜35であることが好ましい。
【0044】
一般式(1)で表わされる化合物は、一般式(1)で表わされる化合物の誘導体を含んでもよい。なお、一般式(1)で表わされる化合物及びその誘導体に互変異性体又は立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体及び立体異性体)等の異性体が存在する場合は、いずれの異性体も本発明に用いることができる。また、一般式(1)で表わされる化合物及びその誘導体の塩も、同様に本発明に用いることができる。前記塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でもよい。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も、特に限定されないが、例えば、グルタミン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸、ヒドロキシカルボン酸、プロピオン酸、マロン酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も、特に限定されないが、例えば、アルコールアミン、トリアルキルアミン、テトラアルキルアンモニウム、及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。前記アルコールアミンとしては、例えば、エタノールアミン等があげられる。前記トリアルキルアミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等があげられる。前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム等があげられる。
【0045】
一般式(2)及び(3)において、R11〜R13は、それぞれ、水素原子又は有機基である。前記有機基としては、例えば、アルキル基、アリール基等があげられる。前記アルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロへキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、オクタデシル基、1,3−ブタジエニル基、1,3−ペンタジエニル基等があげられる。前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、ビニルフェニル基等があげられる。前記アルキル基及びアリール基は、置換基を有してもよい。前記置換基を有するアルキル基及びアリール基としては、例えば、フロロエチル基、トリフロロエチル基、メトキシエチル基、フェノキシエチル基、ヒドロキシフェニルメチル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、トリクロロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基、フロロフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、セトキシフェニル基、シアノフェニル基等があげられる。
【0046】
一般式(3)において、Xは、アニオンである。前記アニオンは、いかなるものであってもよいが、例えば、ハロゲン化物イオン、スルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、アリールスルホン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、アリールカルボン酸イオン等があげられる。
【0047】
一般式(2)及び(3)において、pは、正の整数であり、例えば、10〜400であり、好ましくは、15〜300であり、より好ましくは、20〜200である。一般式(2)及び(3)で表わされる化合物の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、600〜20000であり、好ましくは、900〜15000であり、より好ましくは、1200〜10000である。
【0048】
一般式(2)において、R11及びR12は、水素原子であることが特に好ましい。この場合、一般式(2)で表わされる化合物は、ポリアリルアミンである。また、一般式(3)において、R11〜R13は、水素原子であり、Xは、塩化物イオンであることが好ましい。この場合、一般式(3)で表わされる化合物は、ポリアリルアミン塩酸塩(アリルアミン塩酸塩重合体)である。
【0049】
一般式(4)において、qは、正の整数であり、例えば、12〜500であり、好ましくは、20〜350であり、より好ましくは、28〜250である。なお、一般式(4)には直鎖状のポリエチレンイミンを示したが、前記カチオン性ポリマーは、第1級、第2級又は第3級アミンを含む等の分岐鎖構造のポリエチレンイミンであってもよい。
【0050】
前記カチオン性ポリマーとしては、一般式(1)で表わされる化合物、一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物及び一般式(4)で表わされる化合物以外のものを用いてもよい。一般式(1)で表わされる化合物、一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物及び一般式(4)で表される化合物以外の前記カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン−エピクロルヒドリン反応物、ポリアミド−ポリアミン樹脂、ポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂、カチオンデンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミジン、カチオンエポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルホルムアミド、アミノアセタール化ポリビニルアルコール、ポリビニルベンジルオニウム、ジシアンジアミド・ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物、エピクロルヒドリン・ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、及びこれらの誘導体等があげられる。また、一般式(1)で表わされる化合物、一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物及び一般式(4)で表される化合物以外の前記カチオン性ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル−メタクリレート(DM)、メタクリロイロキシエチル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMC)、メタクリロイロキシエチル−ベンジルジメチル−アンモニウムクロライド(DMBC)、ジメチルアミノエチル−アクリレート(DA)、アクリロイロキシエチル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMQ)、アクリロイロキシエチル−ベンジルジメチル−アンモニウムクロライド(DABC)、ジメチルアミノプロピル−アクリルアミド(DMAPAA)、アクリルアミドプロピル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMAPAAQ)等の水溶性モノマーの少なくとも一つからなる単一モノマー重合体又は複数種のモノマーの共重合体等もあげられる。
【0051】
前記カチオン性ポリマーは、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、チッソ(株)製のポリリジン、日東紡績(株)製の「PAA(登録商標)−01」、「PAA(登録商標)−03」、「PAA(登録商標)−08」、「PAA(登録商標)−15」、純正化学(株)製のポリエチレンイミン等があげられる。
【0052】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、例えば、600〜20000であり、好ましくは、900〜15000であり、より好ましくは、1200〜10000である。また、マイグレーションレベルが最大の水性インク全量に対する前記カチオン性ポリマーの配合量は、例えば、0.2重量%〜6重量%であり、好ましくは、0.5重量%〜4.5重量%であり、より好ましくは、1重量%〜3重量%である。前記カチオン性ポリマーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
前記マイグレーションレベルが最大の水性インク以外の水性インクの吐出から、前記マイグレーションレベルが最大の水性インクの吐出までの時間は、特に制限されない。例えば、前記マイグレーションレベルが最大の水性インクの吐出は、前記マイグレーションレベルが最大の水性インク以外の水性インクの吐出と同一走査内で実施すればよい。前記マイグレーションレベルが最大の水性インクが前記カチオン性ポリマーを含むことで、高湿環境下における二次色の色変化が抑制された記録物を得ることができる。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。
【0054】
本例では、記録用紙Pに前記マイグレーションレベルが最大の水性インク以外の水性インクを吐出した後、前記マイグレーションレベルが最大の水性インクを吐出しているが、本実施形態では、記録用紙Pに前記マイグレーションレベルが最大の水性インクを先に吐出した後、前記マイグレーションレベルが最大の水性インク以外の水性インクを吐出してもよいし、記録用紙Pへの前記マイグレーションレベルが最大の水性インク以外の水性インクの吐出と前記マイグレーションレベルが最大の水性インクの吐出とを同時に行ってもよい。
【0055】
[実施形態2]
本実施形態は、重ね打ちする二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクより前又は同時に記録用紙Pに到達(着弾)する水性インクが、カチオン性ポリマーを含む、すなわち、前記条件(II)を満足する形態である。本実施形態のインクジェット記録方法は、重ね打ちする二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクより前又は同時に記録用紙Pに到達(着弾)する水性インクに前記カチオン性ポリマーを含ませる点を除き、実施形態1のインクジェット記録方法と同様にして実施できる。記録用紙P上において、前記カチオン性ポリマーを含む水性インク及び前記マイグレーションレベルが最大の水性インクが接触することで、高湿環境下における二次色の色変化が抑制された記録物を得ることができる。
【0056】
なお、前記カチオン性ポリマーを含ませる水性インクとしては、例えば、重ね打ちする前記二種類以上の水性インクのマイグレーションレベルを測定し、その測定結果と、各水性インクがどの順序で吐出されるのかを考慮して、マイグレーションレベルが最大の水性インクより前又は同時に記録用紙Pに到達(着弾)する水性インクを選択する。
【0057】
(インクジェット記録用水性インクセット)
つぎに、本発明のインクジェット記録用水性インクセットについて説明する。本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、二種類以上のインクジェット記録用水性インクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、前記二種類以上の水性インクが、それぞれ、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、前記二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクが、さらに、カチオン性ポリマーを含むことを特徴とする。前記マイグレーションレベル、及び着色剤、水、水溶性有機溶剤、カチオン性ポリマー等の水性インクの各成分等については、前述のとおりである。
【実施例】
【0058】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例によって限定及び制限されない。
【0059】
(水性イエローインクの調製及びマイグレーションレベルの測定)
カチオン性ポリマー及びその比較対象物を除く水性イエローインク組成(表1)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブランフィルタ(孔径0.20μm)でろ過することで、マイグレーションレベル測定用のインクジェット記録用水性イエローインクを得た。ついで、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用して、マイグレーションレベル測定用の各水性イエローインクを用いて空隙型のレジンコート層を有する光沢紙上へ、ベタ画像を2分割するスリットの入った15個のパッチを記録することで、前記評価用サンプルを作製した。前記空隙型のレジンコート層を有する光沢紙には、ブラザー工業(株)製の「専用紙(写真光沢紙)(BP−71)」(光沢紙A)、セイコーエプソン(株)製の「写真用紙クリスピア<高光沢>」(光沢紙B)及び「写真用紙<光沢>」(光沢紙C)を用いた。つぎに、前記評価用サンプルを用いて、各水性イエローインクのマイグレーションレベルを測定した。マイグレーションレベル測定後、必要に応じてマイグレーションレベル測定用の各水性イエローインクに表1に示すカチオン性ポリマー及びその比較対象物を添加し、マイグレーションレベル測定用の各水性イエローインク調製時と同様にして混合、ろ過することで、インクジェット記録用水性イエローインクY1〜Y9を得た。なお、表1において、染料(Ya)〜(Ye)は、それぞれ、化学式(Ya)〜(Ye)で表される化合物である。
【0060】
(水性マゼンタインクの調製及びマイグレーションレベルの測定)
カチオン性ポリマーを除く水性マゼンタインク組成(表2)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブランフィルタ(孔径0.20μm)でろ過することで、マイグレーションレベル測定用の水性マゼンタインクを得た。つぎに、マイグレーションレベル測定用の各水性イエローインクと同様にして、マイグレーションレベル測定用の各水性マゼンタインクのマイグレーションレベルを測定した。マイグレーションレベル測定後、必要に応じてマイグレーションレベル測定用の各水性マゼンタインクに表2に示すカチオン性ポリマー及びその比較対象物を添加し、マイグレーションレベル測定用の各水性マゼンタインク調製時と同様にして混合、ろ過することで、インクジェット記録用水性マゼンタインクM1〜M12を得た。なお、表2において、染料(M1a)〜(M1b)、染料(M2a)〜(M2e)及び染料(M3a)〜(M3f)は、それぞれ、化学式(M1a)〜(M1b)、化学式(M2a)〜(M2e)及び化学式(M3a)〜(M3f)で表される化合物である。
【0061】
(水性シアンインクの調製及びマイグレーションレベルの測定)
カチオン性ポリマーを除く水性シアンインク組成(表3)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブランフィルタ(孔径0.20μm)でろ過することで、マイグレーションレベル測定用のシアンインクを得た。つぎに、マイグレーションレベル測定用の各水性イエローインクと同様にして、マイグレーションレベル測定用の各水性シアンインクのマイグレーションレベルを測定した。マイグレーションレベル測定後、必要に応じてマイグレーションレベル測定用の各水性シアンインクに表3に示すカチオン性ポリマーを添加し、マイグレーションレベル測定用の各水性シアンインク調製時と同様にして混合、ろ過することで、インクジェット記録用水性シアンインクC1〜C6を得た。なお、表3において、染料(Ca)〜(Ce)は、それぞれ、化学式(Ca)〜(Ce)で表される化合物である。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
[実施例1〜11及び比較例1〜9]
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用して、表4及び表5に示す3色の水性インク(水性イエローインク:水性マゼンタインク:水性シアンインク(体積比)=1:1:1)を用いて、実施例及び比較例で選択した光沢紙上にトリカラーブラックパッチを記録した。前記3色の水性インクは、前記光沢紙上で接触するように、表4及び表5に示す水性インク1、水性インク2、水性インク3の順に吐出した。前記トリカラーブラックパッチについて、彩度(C)差(ΔC)を、下記の方法により算出した。
【0066】
常温常湿(温度25℃、相対湿度50%)の環境下で前記トリカラーブラックパッチを記録し、前記記録時と同じ環境下で24時間保存して、常温常湿環境サンプルを得た。また、低温高湿(温度18℃、相対湿度80%)の環境下で前記トリカラーブラックパッチを記録し、前記記録時と同じ環境下で24時間保存して、低温高湿環境サンプルを得た。前記常温常湿環境サンプル及び前記低温高湿環境サンプルのa値及びb値を、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(測定視野:2°;白色基準:Abs(絶対白色);光源:D50;濃度基準:ANSI T)により測定し、下記式により常温常湿及び低温高湿の2環境間における彩度(C)差(ΔC)を算出した。前記彩度(C)差(ΔC)を、下記評価基準に従って評価した。

ΔC={(a−a+(b−b1/2
:前記低温高湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのa
:前記常温常湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのa
:前記低温高湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのb
:前記常温常湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのb

【0067】
彩度(C)差(ΔC)評価 評価基準
A:前記彩度(C)差(ΔC)が、2.5未満
B:前記彩度(C)差(ΔC)が、2.5以上5未満
C:前記彩度(C)差(ΔC)が、5以上
【0068】
実施例で用いた3色の水性インク及び評価結果を、表4に示す。また、比較例で用いた3色の水性インク及び評価結果を、表5に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
表4に示すとおり、実施例1〜11では、相互間にマイグレーションレベルに大きな差がある水性インクの組み合わせであっても、低温高湿の環境下におけるトリカラーブラックパッチの彩度(C)の変化が抑制されていた。マイグレーションレベルの最大値が10未満である実施例1〜7、10及び11では、低温高湿の環境下におけるトリカラーブラックパッチの彩度(C)の変化がより抑制されていた。一方、カチオン性ポリマーを含む水性インクを用いなかった比較例1、2、7及び8では、目止め効果が発現せず、低温高湿の環境下においてトリカラーブラックパッチの彩度(C)に大きな変化が生じていた。また、カチオン性ポリマーに代えて、非カチオン性ポリマーであるポリビニルピロリドン、又はカチオン性低分子物質であるリジン塩酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸を含む水性インクを用いた比較例2〜4でも、目止め効果が発現せず、低温高湿の環境下においてトリカラーブラックパッチの彩度(C)に大きな変化が生じていた。さらに、マイグレーションレベルが最大の水性インクより後にカチオン性ポリマーを含む水性インクを吐出した比較例6及び9でも、目止め効果が発現せず、低温高湿の環境下においてトリカラーブラックパッチの彩度(C)に大きな変化が生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明のインクジェット記録方法によれば、マイグレーションレベルの差が比較的大きな水性インク同士の組み合わせであっても、高湿環境下における二次色の記録部の色変化を抑制可能である。本発明のインクジェット記録方法の用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に二種類以上のインクジェット記録用水性インクを重ね打ちして記録するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、
下記条件(I)及び下記条件(II)の少なくとも一方の条件を満足するように、前記二種類以上の水性インクを重ね打ちすることを特徴とするインクジェット記録方法。

条件(I):重ね打ちする前記二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクが、カチオン性ポリマーを含む。

条件(II):重ね打ちする前記二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクより前又は同時に前記記録媒体に到達する水性インクが、カチオン性ポリマーを含む。

【請求項2】
前記マイグレーションレベルの最大値が、10未満であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーが、ポリリジン、ポリアリルアミン及びポリエチレンイミンからなる群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
二種類以上のインクジェット記録用水性インクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記二種類以上の水性インクが、それぞれ、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、
前記二種類以上の水性インクにおいて、マイグレーションレベルが最大の水性インクが、さらに、カチオン性ポリマーを含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−78845(P2013−78845A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218400(P2011−218400)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】