説明

インクジェット記録方法

【課題】インク吐出ノズルの目詰まりを抑制すると共に、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを十分に解消する。
【解決手段】ライン状に複数のインクノズルを配列した複数のインクジェットヘッドを、ノズルの配列方向に沿って千鳥状に配置した記録装置を用いて、ノズルより吐出したインク組成物からなる液滴を、上記配列方向に直交する方向に沿って搬送される被記録媒体上に着弾させて印刷するインクジェット記録方法であって、上記直交する方向に隣接する複数のヘッド間において、端部から少なくとも1つのノズルより吐出する液滴を、被記録媒体上で互いに重なり合うように着弾させる工程を有し、端部から少なくとも1つのノズルより吐出する液滴の容量は、それ以外のノズルより吐出する液滴の容量よりも少ないものであり、インク組成物の降伏値が、0.50〜2.00mPaである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドからインクの液滴を飛翔させ、紙等の被記録媒体に着弾させて印刷を行う記録方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷の分野であった高精細な画像記録(印刷)にもインクジェット記録方法を用いられるようになってきている。かかるインクジェット記録方法では、インクジェットヘッドにおけるインク吐出ノズルの目詰まりを抑制する必要がある。
このインクジェット記録方法の1種として、ライン状にインク吐出ノズルを配列したライン状ヘッドを用い、インク組成物による液滴(以下、「インク滴」ともいう。)の吐出速度及びインク滴の容量に対応した搬送速度で記録用紙を搬送しながら印刷を行う記録方法が知られている。この記録方法において、印刷された画像の解像度を高くするために、1直線上にノズルが配置されたインクジェットヘッドを、被記録媒体の幅方向に向けて、その全幅にわたって隙間なく互い違いに千鳥状に配列させることで、ヘッドのノズルのピッチを細かくしてドットピッチを小さくすることが提案されている。
【0003】
上述のインクジェットヘッドを用いる場合、被記録媒体の搬送方向に隣接するヘッドを、その端部で一部を重複させて配列させることで、隙間のない印刷を可能にしている。しかしながら、1つのインクジェットヘッドにおいて、別のヘッドと重複した部分におけるインク吐出ノズルからのインク滴の吐出容量と、中央付近の重複していない部分におけるノズルからのインク滴の吐出容量とを等しくすると、重複した部分では2つのヘッドから二重にインク滴を吐出することになるため、画像にスジ状の濃度ムラが生じる。そこで、中央付近のインク吐出ノズルからの吐出容量を多くし、端部の重複した部分におけるノズルからの吐出容量を少なくすることで、そのような濃度ムラを抑制する手段がとられている。例えば、特許文献1では、隣接するヘッドチップとの間に所定数のノズルが重なり合う重複部が形成されたラインヘッドで印画媒体に印画するインクジェット印画システムにおいて、形成された画像の濃度を検出する濃度検出手段と、画像データを記憶する画像メモリと、前記画像メモリから読み出した画像データを前記ヘッドチップの重複部で形成された画像の濃度と、前記ヘッドチップの中央部で形成された画像の濃度との差に基づいて重複部におけるインクの吐出量を制御する制御手段と、を有することを特徴とするインクジェット印画システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−185904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、インクジェットヘッドの位置のズレによって重複したインク吐出ノズルがそのノズルの配列方向に僅かにずれて、ヘッド間のノズルの間隔がヘッド内のノズル間の間隔より広かったり、狭かったりした場合、画像印画システムで被記録媒体に印刷した結果、ヘッドの繋ぎ目で濃度ムラや白い筋の帯状ノイズが被記録媒体上に発生するという問題がある旨、記載されている。そして、そのような問題を、特許文献1に記載の上記システムが解決する、とされている。
【0006】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1に記載のシステムについて詳細に検討したところ、このようなシステムによっても、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを解消するのには、まだ不十分であることを見出した。
【0007】
本発明は、上記事情にかんがみてなされたものであり、インク吐出ノズルの目詰まりを抑制すると共に、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを十分に解消するインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、インクジェット記録方法に用いるインク組成物のある特性を所定の数値範囲内に調整することで、インク吐出ノズルの目詰まりを抑制すると共に、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを十分に解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ライン状に複数のインク吐出ノズルを配列した複数のインクジェットヘッドを、インク吐出ノズルの配列方向に沿って千鳥状に配置した記録装置を用いて、インク吐出ノズルより吐出したインク組成物からなる液滴を、上記配列方向に直交する方向に沿って搬送される被記録媒体上に着弾させて印刷するインクジェット記録方法であって、上記直交する方向に隣接する複数のインクジェットヘッド間において、端部から少なくとも1つのインク吐出ノズルより吐出する液滴を、被記録媒体上で互いに重なり合うように着弾させる工程を有し、1つのインクジェットヘッドにおいて、端部から少なくとも1つのインク吐出ノズルより吐出する液滴の容量は、それ以外のインク吐出ノズルより吐出する液滴の容量よりも少ないものであり、インク組成物の降伏値が、0.50〜2.00mPaである、インクジェット記録方法を提供する。
【0010】
このようなインクジェット記録方法によると、インク吐出ノズルの目詰まりを抑制すると共に、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを十分に解消することができる。その要因は、現在のところ詳細には明らかになっていない。ただし、本発明者らはその要因の一部を下記のように考えている。要因はこれに限定されない。すなわち、目詰まりの抑制(吐出安定性)は、インク組成物の降伏値を2.00mPa以下にしたことが主因になっていると考えている。また、インク組成物の降伏値を0.50mPa以上にすることを主因として、被記録媒体に着弾した液滴(インク滴)が過剰に拡張して滲むのを防止できるので、スジ状の濃度ムラを抑制することができると考えている。特に、液滴がインク吐出ノズルの配列方向にずれて着弾した場合、隣り合う液滴同士が滲みにより連結するとスジ状の濃度ムラが生成しやすく、特に被記録媒体が滲みを生じやすい上質紙や普通紙(吸収型メディア)である場合、その現象は顕著になる。本発明のインクジェット記録方法は、かかる場合であっても、そのスジ状の濃度ムラを抑制することができる。
【0011】
本発明のインクジェット記録方法において、インク組成物の剪断速度10〜1000s-1に対する剪断粘度の変化率(以下、「TI;チキソトロピックインデックス」という。)が、1.10〜1.20であると、濃度ムラの解消を更に有効且つ確実に実現することができるので好ましい。そのようなインク組成物としては、例えば、顔料と、水溶性有機溶剤と、表面張力調整剤と、インク組成物の全量中60〜10質量%の水とを含み、顔料が、自己分散型のカーボンブラックであるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一例に係るインクジェット記録装置を模式的に示す概略図である。
【図2】本発明の一例に係るインクジェット記録装置の一部を概略的に示す斜視図である。
【図3】図2におけるIV−IV線で切断して現れる断面を概略的に示す断面図である。
【図4】図2におけるインクジェットヘッドの配列とインク吐出ノズルの配列との関係を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
本実施形態のインクジェット記録方法は、ライン状に複数のインク吐出ノズルを配列した複数のインクジェットヘッドを、インク吐出ノズルの配列方向に沿って千鳥状に配置した記録装置を用いて、インク吐出ノズルより吐出したインク組成物からなる液滴を、上記配列方向に直交する方向に沿って搬送される被記録媒体上に着弾させて印刷するインクジェット記録方法であって、上記直交する方向(被記録媒体の搬送方向)に隣接する複数のインクジェットヘッド間において、端部から少なくとも1つのインク吐出ノズルより吐出する液滴を、被記録媒体上で互いに重なり合うように着弾させる工程を有し、1つのインクジェットヘッドにおいて、端部から少なくとも1つのインク吐出ノズルより吐出する液滴の容量は、それ以外のインク吐出ノズルより吐出する液滴の容量よりも少ないものであり、インク組成物の降伏値が、0.50〜2.00mPaである。
【0015】
ここで、本明細書における「降伏値」、「剪断粘度」、「TI」及び「残留粘度」は、下記のようにして導出される。まず、20℃において、インク組成物の剪断速度を10〜1000s-1の間で変化させて、そのときの剪断速度と剪断応力との関係、及び、剪断速度に対する剪断粘度の変化率を測定する。後者、すなわち剪断速度に対する剪断粘度の変化率が、TIに相当する。また、剪断速度200[1/s]における剪断粘度を本明細書における剪断粘度とする。次いで、前者の測定データをもとに、下記式(3)で表されるCasson式に当てはめて、降伏値及び残留粘度を求める。
√S=a×√D+b (3)
式(3)中、Sは剪断応力(単位:Pa)を示し、Dは剪断速度(単位:1/秒)を示し、a及びbは、それぞれ定数を示す。非ニュートン流体である液は、Casson式に当てはまる場合が多く、かなり広い範囲で利用されている。傾きaの二乗は残留粘度、切片bの二乗は降伏値であり、それぞれ液の特性値として用いられる。Casson式から明らかなとおり、残留粘度は剪断速度が無限大の時の粘度を示し、降伏値は剪断速度がゼロの時の応力を示す。
【0016】
本実施形態のインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置は、例えば、図1、2及び3に示す構造を有する。図1は、インクジェット記録装置の特に用紙搬送部を模式的に示す概略図、図2は、その記録装置の一部を概略的に示す斜視図である。図3は、図2におけるIV−IV線で切断して現れる断面を概略的に示す断面図であり、例えば普通紙等の被記録媒体を搬送する様子を示す。
【0017】
なお、本実施形態において、「普通紙」とは、一般に、パルプを主原料としプリンタなどに使用される紙をいい、JIS P 0001 番号6139で定義されている。具体的には、例えば、上質紙、PPCコピー紙、非塗工印刷紙などを挙げることができる。普通紙は各社から市販されているものを利用することもでき、例えば、Xerox 4200(Xerox社製)、GeoCycle(Gerogia−Pacific社製)等、種々のものを利用することができる。
【0018】
まず、図1を参照しながら説明する。一般に高速の印刷が可能なライン型インクジェット記録装置100は、普通紙等の被記録媒体101に、インク組成物の液滴を吐出し画像を記録するためのインクジェットヘッドユニット190と、インクジェットヘッドユニット190下方に被記録媒体101を搬送する搬送ベルト130と、被記録媒体101を収納した収納カセット104と、収納カセット104から被記録媒体101を給紙する給紙ローラ105と、被記録媒体101を搬送するための一対の搬送ローラ(ゲートローラ)140と、被記録媒体101を排出するための一対の排出ローラ150と、印刷された被記録媒体101を収納する排紙カセット106と、制御部111と、給紙される被記録媒体101の位置検出をする位置検出センサ109とを備えている。
【0019】
インクジェットヘッドユニット190は、インクの種類に対応した複数のインクジェットヘッド110A、110B、110C及び110D(「110A〜D」と標記する。以下同様。ただし、図1に符号を示さない。)を備え、各インクジェットヘッドは、被記録媒体101の幅方向にわたって全幅に対応する多数のインク吐出ノズルをライン状に各々配列している、いわゆるラインヘッドで構成されている。
【0020】
環状の搬送ベルト130は、被記録媒体101をインクジェットヘッドユニット190(印刷領域)まで搬送する。駆動ローラ180は、搬送ベルト130を駆動するものであり、従動ローラ170は、搬送ベルト130をインクジェットヘッドユニット190の吐出口に対向させながら従動するものである。駆動ローラ180は、制御部111により駆動制御されるモータ115により駆動する。また、給紙ローラ105は、収納カセット104内部の被記録媒体101を搬送ローラ140へ送り出すためのローラであり、制御部111により駆動制御されるモータ118により駆動する。
【0021】
搬送ローラ140は、制御部111により駆動制御されるモータ116により駆動するローラユニットとしての駆動ローラ140Aと、駆動ローラ140Aに接触して従動する従動ローラ140Bとで構成している。排出ローラ150は、制御部111により駆動制御されるモータ117により駆動する駆動ローラ150Aと、駆動ローラ150Aに接触して従動する従動ローラ150Bとで排出ローラ対を構成している。
【0022】
制御部111は、印刷処理(記録処理)や各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、ホストコンピュータなどからインタフェイス(IF)を介して入力される印刷データ(記録データ)をデータ格納領域に格納するあるいは各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)、各部を制御する制御プログラム等を格納するPROM,EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)などを備えている。
【0023】
位置検出センサ109は、例えば発光素子の赤外発光ダイオードと受光素子のフォトトランジスタを組み合わせた反射型フォトセンサを用いる。位置検出センサ109は、給紙ローラ105と搬送ローラ140の間の用紙搬送部に配置され、搬送される被記録媒体101の先端位置(被記録媒体101の有無)を検出して、その検出信号は制御部111に入力される。制御部111では、被記録媒体101の先端位置の検出信号に基づいて搬送ローラ140の駆動制御処理が行われる。
【0024】
被記録媒体101は制御部111からの駆動信号によりモータ116が駆動することにより回転する搬送ローラ140に到達し、被記録媒体101先端が搬送ローラ140に接触することにより被記録媒体101の先端面ならびに方向が整えられ、駆動ローラ140Aと従動ローラ140Bとの間に挟まれて紙送りされ、搬送ベルト130上に送り出される。そして、搬送ベルト130によってインクジェットヘッドユニット190下方の印刷領域に搬送された被記録媒体101は、搬送ベルト130に搬送移動されながら、インクジェットヘッドユニット190のインク吐出ノズルからインク滴が吐出されて印刷データに基づく印刷が行われる。
【0025】
被記録媒体101への印刷は、制御部111において、IFを介してホストコンピュータから入手し、RAMに格納された印刷データを、CPUにおいて所定の処理を実行して、この処理データに基づいてヘッドドライバに駆動信号が出力され、ヘッドドライバを介して駆動信号がインクジェットヘッドユニット190に入力され、駆動信号が入力された静電アクチュエータの駆動により、これに対応するノズルから、被記録媒体101にインク滴が吐出されて印刷データに基づく画像の印刷(記録)が行われる。この際、制御部111は、上記特許文献1に示されるように、画像の濃度を検出して、その濃度差に基づいて、ノズルから吐出されるインクの量を制御してもよい。これにより、例えば、ノズルがその配列方向に僅かにずれた場合であっても、そのことに起因して生じるヘッドの繋ぎ目での濃度ムラや白い筋の帯状ノイズをある程度抑制することができる。
【0026】
印刷が行われた被記録媒体101は、搬送ベルト130により排出部(排出ローラ150)に搬送される。搬送された被記録媒体101が排出ローラ150に到達すると、制御部111からの駆動信号によりモータ117が駆動されて駆動ローラ150Aが回転し、駆動ローラ150Aに接触して従動する従動ローラ150Bとの間に挟まれて紙送りされ、排紙カセット106に収納される。
【0027】
次に、図2及び3を参照しながら説明する。インクジェット記録装置100は、インクジェットヘッドユニット190と、このインクジェットヘッドユニット190に相対向して下方に設けられたプラテン部120と、プラテン部120の搬送方向上流側で印刷に供する被記録媒体101を供給する媒体供給部(図示せず)と、プラテン部120の搬送方向下流側で印刷された被記録媒体101を収容する媒体受容部(図示せず)と、媒体供給部から被記録媒体101をプラテン部120上に搬送して印刷後の被記録媒体101を媒体受容部まで搬送する搬送手段160とを具備する。
【0028】
インクジェットヘッドユニット190は、ライン状にインク吐出ノズルを配列した、それぞれ複数のインクジェットヘッド110A〜Dを被記録媒体101の搬送方向に直交する方向(幅方向、インク吐出ノズルの配列方向)に千鳥状に配置してライン印刷可能なものである。
インクジェットヘッド110A〜Dのうち、インクジェットヘッド110A及びBは互いに同色の第1のインク組成物の液滴を吐出するものであり、インクジェットヘッド110C及びDは、互いに同色の第2のインク組成物の液滴を吐出するものである。ただし、インクジェットヘッド110A及びBとインクジェットヘッド110C及びDとは、互いに異なる色のインク滴を吐出するものであり、すなわち、第1のインク組成物と第2のインク組成物は互いに異なる色のインク組成物である。インクジェットヘッド110A及びBは、印刷した際に、第1のインク組成物が、被記録媒体101において幅方向のいずれの位置にも画像を形成できるように、搬送方向から見た場合に、互いに一部が重複するように配列されている。インクジェットヘッド110C及びDも同様に配列されている。
【0029】
図4は、搬送方向に隣接するインクジェットヘッド110A及びBの一部の配列とインク吐出ノズルの配列との関係を模式的に示した概略図である。インクジェットヘッド110Aは、それぞれ2列に配列された複数のインク吐出ノズル112AC及び112AEを有し、インクジェットヘッド110Bは、それぞれ2列に配列された複数のインク吐出ノズル112BC及び112BEを有する。インク吐出ノズル112AE及び112BEは、搬送方向に互いに重なるように配置されており、インク吐出ノズル112AC及び112BCは、搬送方向に互いに重ならないように配置されている。なお、この図4では、搬送方向に互いに重なるインク吐出ノズルの数が、1つのインクジェットヘッドの1列のインク吐出ノズルについて2つであるが、その数は1つ以上であって、かつ搬送方向に互いに重ならないインク吐出ノズルを残すものであれば、特に限定されない。
【0030】
プラテン部120は、被記録媒体101を搬送する搬送ベルト130を備え、その搬送ベルト130はプラテンベルトを兼ねるものである。搬送手段160は、搬送ベルト130の搬送方向上流側及び下流側にそれぞれ、被記録媒体101を上下から狭持するように対向した一対の搬送ローラ140及び排出ローラ150を備え、それらが搬送ベルト130と共に搬送手段160を構成する。搬送ベルト130は、その上に載置された被記録媒体101を搬送方向に搬送するよう、従動ローラ170及び駆動ローラ180の回動により動作する。
【0031】
インクジェット記録装置100に具備される上記以外の構成は、従来公知の構成であってもよい。
【0032】
インクジェット記録装置100の動作、すなわち、インクジェット記録方法は下記のとおりである。まず、搬送手段160、すなわち、搬送ベルト130、搬送ローラ140及び150を作動させて、被記録媒体101を媒体供給部からプラテン部120に向けて搬送方向に搬送する。被記録媒体101がインクジェットヘッド110Aの下方まで搬送されたら、そのインクジェットヘッド110Aのインク吐出ノズル112AE及び112ACから、インク組成物の液滴を吐出し、飛翔させて、被記録媒体101の印刷面(上面)における画像を形成させるべき所望の位置に着弾させる。次に、被記録媒体101がインクジェットヘッド110Bの下方まで搬送されたら、そのインクジェットヘッド110Bのインク吐出ノズル112BE及び112BCから、上記と同色のインク組成物の液滴を吐出し、飛翔させて、被記録媒体101の印刷面(上面)における画像を形成させるべき所望の位置に着弾させる。この際、インク吐出ノズル112AEから吐出して着弾した液滴に重ね合わせるようにしてインク吐出ノズル112BEから吐出した液滴を着弾させる。
【0033】
スジ状の濃度ムラを抑制するために、インク吐出ノズル112AC及びインク吐出ノズル112BCから吐出される液滴の容量(それぞれ1つのノズル当たり。以下同様。)は、インク吐出ノズル112AE及びインク吐出ノズル112BEから吐出される液滴の容量よりも少なくなっている。好ましくは、インク吐出ノズル112ACから吐出される液滴の容量と、インク吐出ノズル112BCから吐出される液滴の容量とは同じ量であり、インク吐出ノズル112AEから吐出される液滴の容量とインク吐出ノズル112BEから吐出される液滴の容量は同じ量である。また、好ましくは、インク吐出ノズル112ACから吐出される液滴の容量に対して、インク吐出ノズル112AEから吐出される液滴の容量は1/2の量であり、インク吐出ノズル112BCから吐出される液滴の容量に対して、インク吐出ノズル112BEから吐出される液滴の容量は1/2の量である。これらにより、印刷された画像において、スジ状の濃度ムラを更に抑制することができる。
【0034】
さらには、インク吐出ノズル112AC及び112AE、並びに、インク吐出ノズル112BC及び112BEは、インクジェットヘッド110A又はBの配列方向における中心に近いノズルから、端部のノズルに向かって、徐々に液滴の容量を少なくしてもよい。あるいは、インク吐出ノズル112ACとインク吐出ノズルAEとの境界付近、並びに、インク吐出ノズル112ACとインク吐出ノズルAEとの境界付近で、液滴の容量に傾斜を設けてもよい。これらの場合も、搬送方向に並ぶ各インク吐出ノズルから吐出される液滴の総量を、配列方向で同じにすることにより、、画像におけるスジ状の濃度ムラを抑制することができる。特に、後者の場合、液滴を重ねる部分と重ねない部分との境界における液滴の容量変化を目立たせないことができるので、有効である。
【0035】
次いで、被記録媒体101が引き続き、インクジェットヘッド110C及びDの下方まで搬送されたら、上記インクジェットヘッド110A及びBと同様にして、インクジェットヘッド110C及びDのインク吐出ノズルから、上記とは異なる色のインク組成物の液滴を吐出し、飛翔させて、被記録媒体101の印刷面(上面)における画像を形成させるべき所望の位置に着弾させる。この際、インク組成物は、その一部が被記録媒体101の印刷面上に直接着弾してもよく、少なくとも一部が上記インク組成物により形成された画像上に着弾する。こうして、被記録媒体101に画像を形成する。そして、画像が形成された(印刷された)被記録媒体101を、インクジェットヘッドユニット190の下流にある媒体受容部に更に搬送する。
【0036】
このように、ある色のインク組成物を、その色の画像を形成すべき部分にまとめて印刷した後に、別のある色のインク組成物を、その色の画像を形成すべき部分にまとめて印刷するような方式を、本明細書において「色完結方式」という。
【0037】
本実施形態におけるインクジェット記録方式は、インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を被記録媒体に着弾、付着させる方式である。具体的に以下に説明する。
【0038】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、その液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインクの液滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
第二の方法としては、小型ポンプで液状のインク組成物に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を噴射させる方式である。噴射された液滴は噴射と同時に帯電させ、その液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、液状のインク組成物に圧電素子で圧力と印刷情報信号とを同時に加え、インクの液滴を噴射・記録させる方式である。
第四の方式は熱エネルギーの作用により液状のインク組成物を急激に体積膨張させる方式であり、インク組成物を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、その液滴を噴射・記録させる方式である。
以上のいずれの方式も本実施形態のインクジェット記録方法に採用することができる。
【0039】
次に、本実施形態のインクジェット記録方法に用いられるインク組成物について、詳細に説明する。
【0040】
本実施形態に係るインク組成物は、安全性、取り扱い上の観点から、インクの主溶媒が水である水性インク組成物であることが好ましく、水はイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインクの長期保存を可能にする点で好ましい。インクの適正な物性値(降伏値、各種粘度等)の確保、インクの安定性及び信頼性の確保という観点で、水はインク組成物中に60質量%〜10質量%含まれることが好ましい。
【0041】
インク組成物に含まれる水の含有量を上記の範囲に規定することにより、普通紙中のセルロースに吸収される水分量が従来のインク組成物よりも少なくなる結果、コックリングやカールの原因と考えられているセルロースの膨潤を抑制することができる。以下、コックリング又はカールを抑制するのに適した性質を、それぞれ「コックリング適性」、「カール適性」ともいう。
【0042】
水分含有量が10質量%未満の場合は、被記録媒体への定着性が低下する場合がある。一方、水分含有量が60質量%を超える場合は、従来の水性インク組成物と同様、インク吸収性が乏しい紙支持体の吸収層を有する被記録媒体に対して印刷する際に、コックリングやカールが発生しやすい。
【0043】
インクの10℃〜40℃の温度範囲における粘度は、インクに含まれる着色剤、保湿剤、溶剤等の持つ温度特性に影響を受ける。これらの中では特に保湿剤の影響が大きく、保湿剤の種類や添加量、含有比によっては、10℃での粘度がより上がりやすく、40℃での粘度がより下がりやすい。なお、本明細書中では、10℃〜40℃での粘度差がより少ないことを、インクの温度による粘度特性に優れると表記する。
【0044】
本実施形態に係るインク組成物は、カール、コックリング適性、裏抜け適性、目詰まり適性、インクの温度による粘度特性のバランスを適正に保つという観点から、下記(A)、(B)及び(C)の保湿剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の保湿剤を含むことが好ましい。ここで(A)の保湿剤は、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、(B)の保湿剤は、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、(C)の保湿剤は、ベタイン類、糖類及び尿素類からなる群より選ばれ、かつ分子量が100〜200の範囲にある、少なくとも1種の化合物である。
【0045】
(A)の保湿剤は、特に目詰まりの抑制に対して効果があり、また、カール、コックリングの抑制に対しても効果を合わせ持つ物質である。しかしながら、その優れた被記録媒体への浸透性から裏抜け適性には劣る物質である。上述の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、(A)の保湿剤として、グリセリン及びトリエチレングリコールが好ましい。
(B)の保湿剤は、特に目詰まりの抑制に対して効果があり、また、浸透抑制効果を持つため裏抜け適性に優れる物質である。それらの効果をより有効かつ確実に奏する観点から、(B)の保湿剤として、トリメチロールプロパンが好ましい。
(A)及び(B)の保湿剤は、その物質のもつ10℃〜40℃での粘度差が大きいという特性のため、インク組成物中の含有量が増えるに従って、温度による粘度特性に大きく影響し、インク組成物も10℃〜40℃での粘度差が大きくなる。
【0046】
(C)の保湿剤は、カール適性、及びコックリング適性に優れる物質である。また、この保湿剤は、温度による粘度特性に優れる物質である。(C)の保湿剤として、具体的には、グリシンベタイン(分子量117、「トリメチルグリシン」ともいう。)、γ−ブチロベタイン(同145)、ホマリン(同137)、トリゴネリン(同137)、カルニチン(同161)、ホモセリンベタイン(同161)、バリンベタイン(同159)、リジンベタイン(同188)、オルニチンベタイン(同176)、アラニンベタイン(同117)、スタキドリン(同185)及びグルタミン酸ベタイン(同189)等のアミノ酸のN−トリアルキル置換体であるベタイン類、グルコース(同180)、マンノース(同180)、フルクトース(同180)、リボース(同150)、キシロース(同150)、アラビノース(同150)、ガラクトース(同180)及びソルビトール(同182)等の糖類、アリル尿素(同100)、N,N−ジメチロール尿素(同120)、マロニル尿素(同128)、カルバミル尿素(同103)、1、1−ジエチル尿素(同116)、n−ブチル尿素(同116)、クレアチニン(同113)及びベンジル尿素(同150)の尿素類が挙げられる。また、その分子量が100未満であると、10℃〜40℃での粘度差が大きくなる傾向が強くなる。一方で、その分子量が200以上であると、インク組成物中のその保湿剤の添加量に対して、インク組成物の粘度が増加しやすい。そのため、(C)の保湿剤の分子量は100〜200の範囲であることが好ましい。これらの中では、特にグリシンベタインがカール抑制効果が高いことから好ましく、アミノコート(旭化成ケミカルズ社製)等の市販品を使用することもできる。
【0047】
これら保湿剤は、カール適性、コックリング適性、裏抜け適性、目詰まり適性の観点から、(A)、(B)及び(C)の合計量でインク組成物中に10質量%〜40質量%含まれることが好ましい。
また、それらの保湿剤について、含有量の質量比は、それらの保湿剤による上記効果をバランス良く発揮させる観点から、(A):(B):(C)=(1.0):(0.1〜1.0):(1.0〜3.5)であると好ましい。なお、本実施形態に係るインク組成物が(A)、(B)及び(C)からなる群より選ばれる2種の保湿剤を含む場合、上記と同様の観点から、それらの含有量の質量比は、(A):(B)で(1.0):(0.1〜1.0)、(A):(C)で(1.0):(1.0〜3.5)、(B):(C)で(1.0):(1.0〜3.5)であると好ましい。(A)の群から選ばれる保湿剤(「(A)の保湿剤」という。以下同様。)に対して、(B)の保湿剤の質量比を上記よりも多くすると、カール適性及びコックリング適性が低下し、少なくすると、裏抜け適性が低下する。(A)の保湿剤に対して、(C)の保湿剤の質量比を上記よりも多くすると、目詰まり適性が低下し、少なくすると、特に画像濃度ムラの抑制が困難になり、カール適性及びコックリング適性が低下する。また、(B)の保湿剤に対して、(C)の保湿剤の質量比を上記よりも多くすると、目詰まり適性が低下し、少なくすると、画像濃度ムラの制御が困難となり、カール適性及びコックリング適性が低下する。
【0048】
また、本実施形態に係るインク組成物は、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まり防止やインクの被記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御したり、インクの乾燥性を付与する目的で、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。水溶性有機溶剤は、上記観点から、1,2−アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルを含有することが好ましい。1,2−アルカンジオールの具体的な例としては、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。また、グリコールエーテルの具体的な例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(以下、「TEGmBE」とも表記する。)、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルが挙げられる。また、上記以外に、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなども水溶性有機溶剤として用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上を用いることができ、インクの適正な物性値(降伏値、各種粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物中に1質量%〜50質量%含まれることが好ましい。
【0049】
さらに、インクの被記録媒体への濡れ性を制御し、被記録媒体への浸透性やインクジェット記録方法における印字安定性を得るために、インク組成物は表面張力調整剤を含有することが好ましい。表面張力調整剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤やポリエーテル変性シロキサン類が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の例としては、サーフィノール420、440、465、485、104、STG(以上、エアープロダクツ社製、製品名)、オルフィンPD−001、SPC、E1004、E1010(以上、日信化学工業(株)製、製品名)、アセチレノールE00、E40、E100、LH(以上、川研ファインケミカル(株)製、製品名)が挙げられる。またポリエーテル変性シロキサン類としては、BYK−346、347、348、UV3530(ビックケミー社製品)などが挙げられる。これらは、インク組成物中に1種又は2種以上用いることができ、インク組成物の表面張力を好ましくは20mN/m〜40mN/mに調整するよう含まれ、好ましくはインク組成物中に0.1質量%〜3.0質量%含まれる。
【0050】
また、必要に応じて、インク組成物に、pH調整剤、錯化剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することもできる。pH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ及び/又はアンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ものエタノールアミン等のアルカノールアミンを用いることができる。特に、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、インクヘットプリンタを構成する材料等の悪影響を与え、目詰まり回復性が劣化する傾向にある。
【0051】
本実施形態に用いられる顔料としては、公知の無機顔料及び有機顔料のいずれをも用いることができる。そのような顔料としては、例えば、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラック等の顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系等の顔料が例示できる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号等の有機顔料や、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料が挙げられる。顔料のカラーインデックスとしては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,150,153,155,174,180,198、C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184、202、C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38、C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16、C.I.ピグメントブラック1,7が挙げられ、1種又は2種以上の顔料をインク組成物に含んでもよい。
【0052】
本実施形態に用いられる顔料は、各インク組成物における降伏値や各種粘度を、容易に適正な値にする観点から、樹脂分散型の態様であると好ましい。そのような態様の顔料は、高分子分散剤や界面活性剤などの分散剤と共に、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機などを用いて水性媒体中に分散させた顔料分散液として、あるいは、顔料表面に分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)を直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させ、分散剤なしで水性媒体中に分散及び/又は溶解する自己分散型顔料として加工され、水性媒体中に分散させた顔料分散液として、インク組成物中に配合されることが好ましい。これらの中でも、上記降伏値の関係を、より容易に適正な関係にする観点から、自己分散型顔料として加工され、水性媒体中に分散させた顔料分散液として用いられるものがより好ましい。
【0053】
分散剤の例としては、高分子分散剤として、にかわ、ゼラチン、サポニンなどの天然高分子化合物やポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、アクリル系樹脂類(ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体など)、スチレン−アクリル酸系樹脂類(スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−酢酸ビニルーアクリル酸共重合体など)、スチレン−マレイン酸系樹脂類、酢酸ビニル−脂肪酸ビニル−エチレン共重合体の樹脂類など及びこれらの塩などの合成高分子化合物が挙げられ、共重合体の構成はランダムタイプ、ブロックタイプ、グラフトタイプのいずれでもよい。
【0054】
また、分散剤として用いられる界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩などのアニオン性界面活性剤、脂肪酸アミン塩、脂肪酸アンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤、ポリオオキシアルキルエーテル類、ポリオキシアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類などのノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0055】
これらの分散剤の中で、特に水不溶性樹脂が好ましい。水不溶性樹脂として、具体的には、疎水性基を有するモノマーと親水性基(親水性官能基)を有するモノマーとのブロック共重合体樹脂からなり、少なくとも塩生成基を有するモノマーを含有しているもので、中和後に25℃の水100gに対する溶解度が1g未満である樹脂が好ましい。疎水性基を有するモノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類や酢酸ビニル等のビニルエステル類やアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。親水性基を有するモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタアクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタアクリレートが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。塩生成基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。さらに、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
【0056】
この水不溶性樹脂は、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ中和剤で中和した塩として用いることが好ましく、重量平均分子量が10000〜150000程度のものが、顔料を安定的に分散させる点で好ましい。
【0057】
分散剤なしに水に分散及び/又は溶解が可能な自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理又は化学的処理を施すことで、分散性付与基又は分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理が例示できる。また、化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、フェニル基及び2つ以上の親水性基を有する化合物を顔料表面に結合させることにより、フェニル基を介して親水性基を顔料表面に結合させる方法が例示できる。ここで、フェニル基及び2つ以上の親水性基を有する化合物として、例えば、p−アミノ安息香酸、スルファニル酸が挙げられる。これらのうち、p−アミノ安息香酸を用いる場合は、顔料表面にフェニル基を介してカルボキシル基を結合させ、スルファニル酸を用いる場合は、顔料表面にフェニル基を介してスルホキシル基又はその塩(例えば亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム由来のナトリウム塩)を結合させることとなる。これらのうち、フェニル基を介して表面に親水性基を結合した自己分散型顔料は、インク組成物の粘度の経時安定性、顔料の凝集により生じる沈降の経時安定性の観点から好ましい。
【0058】
また、自己分散型顔料を含有するインク組成物は、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要がないため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんどなく、吐出安定性に優れるインクを調製しやすい。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度を十分に高めることが可能になる、あるいは、取り扱いが容易となる。このような利点があることから、自己分散型顔料は、特に高濃度を必要とするブラックインク組成物に有効であり、本実施形態のインク組成物として用いるブラックインク組成物には、分散剤なしに水に分散及び/又は溶解が可能な自己分散型顔料が少なくとも含まれることが好ましい。
【0059】
本実施形態においては、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、過硫酸塩による酸化処理又はオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料が、高発色という点で好ましい。かかる自己分散型顔料は、上記表面処理により、表面に親水性基を有するものとなる。特に、1)インク組成物の配合時に粘度が上昇しやすくなることを抑制する、2)顔料の凝集により生じる沈降を抑制する、3)上記1)及び2)について経時安定性の面から満足させる観点から、過硫酸塩による酸化処理又はオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料がより好ましく、オゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料が更に好ましい。また、自己分散型顔料として市販品を利用することも可能であり、そのような市販品として、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)が例示できる。
【0060】
また、これらの顔料は、インクの保存安定性やノズルの目詰まり防止等の観点から、インク中での体積平均粒子径が50nm〜200nmの範囲であることが好ましい。これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(マイクロトラック社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子(株)製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0061】
これらの顔料は、インク組成物中に6質量%〜25質量%の範囲で含有されることが好ましい。その含有量が6質量%未満では印字濃度(発色性)が不充分である場合があり、また、25質量%よりも大きいと、ノズルの目詰まりや、吐出の不安定を起こす等の信頼性に不具合が生じる場合がある。
【0062】
本実施形態で用いられるインク組成物は、記録物への定着性を確保する観点から、樹脂エマルジョンを含むと好ましい。
樹脂エマルジョンは、最低造膜温度が20℃未満の樹脂微粒子を含むことが好ましい。樹脂エマルジョンとして、最低造膜温度が20℃未満の樹脂微粒子を含むものを用いることにより、通常20℃以上である使用環境下の周囲温度において、樹脂微粒子が膜化するので、インク組成物の被記録媒体への定着性や耐擦性を向上させる。
ここで、最低造膜温度は、下記のようにして測定される。まず、温度勾配試験装置のステンレス板上に0.3mmの厚さに樹脂エマルジョンを塗布する。塗布後、直ちにシリカゲルの入ったバスケットを板の上にのせ、透明プラスチック製の蓋で覆う。塗膜が乾燥した後、一様な連続皮膜部分と白濁している部分の境界部の温度を読み取り、最低造膜温度とする。
【0063】
これらの樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上の樹脂微粒子を含むものであることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されてもよく、また、コポリマーして使用されてもよく、単相構造及び複相構造(コアシェル型)のいずれのものも使用できる。
【0064】
さらに、本実施形態で用いられるインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンは、少なくともいずれかが、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂微粒子のエマルジョンの形態で、インク組成物中に配合されることが好ましい。樹脂微粒子を単独でインク組成物中に添加しても、該樹脂微粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上、エマルジョンの形態が好ましい。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリル樹脂微粒子のエマルジョン、すなわちアクリルエマルジョンが好ましい。
樹脂微粒子のエマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を、重合開始剤及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0065】
不飽和単量体としては、例えば、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル単量体、ビニルエステル単量体、ビニルシアン化合物単量体、ハロゲン化単量体、オレフィン単量体、ジエン単量体が挙げられる。
【0066】
不飽和単量体として、さらに具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル等のビニルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体;スチレン、α−チルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン;ブタジエン、クロロプレン等のジエン;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N'−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体が挙げられる。これらは1種を単独又は2種以上を混合して用いられる。
【0067】
また、重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性単量体も、不飽和単量体として使用することができる。重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレンビスアクリルアミド;ジビニルベンゼンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0068】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましい。
【0069】
本実施形態において、樹脂エマルジョンは、インク組成物のインクジェット適性物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)、定着性等をより有効に得る観点から、インク組成物中の樹脂微粒子が1質量%〜10質量%の範囲となるよう、含有されることが好ましい。
【0070】
インク組成物に含まれる樹脂エマルジョンの体積平均粒子径は、インク組成物中における樹脂微粒子の分散安定性の観点から、20nm〜200nmであることが好ましい。
【0071】
本実施形態のインクジェット記録方法では、インク組成物の降伏値が0.50〜2.00mPaであり、0.70〜2.00mPaであると好ましい。降伏値が0.50mPaを下回ると、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを十分に解消するのが困難となる。一方、降伏値が2.0mPaを超えると、インク吐出ノズルの目詰まりを抑制するのが困難となる。インク組成物の降伏値を上記範囲内に調整するには、インク組成物に含まれる顔料やその他の固形分の濃度を制御する方法、顔料の種類を代える方法、水と水溶性有機溶剤との含有比を制御する方法が挙げられる。その他、インク組成物の降伏値が上述の範囲に入るように調整するには、インク組成物中に、界面活性剤、分散剤、レオロジー調整剤を添加したり、その含有量を調整したりする方法が挙げられる。レオロジー調整剤は、例えばコロイダルシリカ等の構造粘性を発現する無機系の微粒子、あるいは、変性ウレア及びウレア変性ウレタン等の溶剤に不溶若しくは難溶である成分を含むものである。レオロジー調整剤の市販品としては、例えば、ビックケミー社製のレオロジーコントロール剤(製品名「BYK−405」、「BYK−420」、「BYK−425」、「BYK−428」など)が挙げられる。
【0072】
本実施形態のインクジェット記録方法では、上記降伏値と同様の観点から、インク組成物のTIが1.10〜1.20であると好ましく、1.11〜1.20であるとより好ましい。インク組成物のTIを上記範囲内に調整する方法としては、上記降伏値の調整と同様の方法が挙げられる。
【0073】
本実施形態のインクジェット記録方法によると、インク吐出ノズルの目詰まりを抑制すると共に、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを十分に解消することができる。特に、ブラックインク組成物を用いて印刷する場合、そのスジ状の濃度ムラをより有効かつ確実に抑制することができる。
【0074】
本実施形態においては、ラインプリンタを用いたいわゆる色完結方式によって、第1及び第2のインク組成物を印刷する。色完結方式では、被記録媒体101とインクジェットヘッド110A及びBとを相対的に1パスで移動させ、かつ同色を複数打ちしない構成となる。これにより、1)高速化が容易となる、2)複数打ち用のヘッド又はノズル列が不要となり、インクジェットヘッド及びそのユニットの小型化、軽量化及び低コスト化が可能となる、という利点を有する。
【0075】
本実施形態の記録物は、上記インクジェット記録方法によって記録が行われて得られるものである。この記録物は、本実施形態に係るインクジェット記録方法により得られることにより、印刷された画像におけるスジ状の濃度ムラを十分に解消することができる。また、本実施形態の記録物は、インク吐出ノズルの目詰まりが抑制されており、定着性低下も抑制できるため、インク組成物が所望のとおりに被記録媒体に着弾し、ドット抜けなどの少ない画像が形成された記録物となる。また、この記録物は、インクの安全性、安定性に優れ、種々の被記録媒体について、使用温度によらず、常に同等の記録品質を実現すると共に、普通紙について、優れたカール適性、コックリング適性、裏抜け適性、両面印刷適性を有する。
【0076】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上述の本実施形態では、個々のインクジェットヘッドにおけるインク吐出ノズルは、2列に配列されてるが、その列の数は1列であってもよく、3列以上であってもよい。また、上述の本実施形態では、インク吐出ノズルの並びが、搬送方向においても列をなしていたが、千鳥状に並んでいてもよい。
【0077】
また、上記本実施形態では2色のインク組成物を用いるインクジェット記録方法について説明したが、1色のみのインク組成物を用いてもよく、3色、4色、5色、6色等、3色以上のインク組成物を用いてもよい。1色のみのインク組成物を用いる場合、インクジェットヘッド110A及びBのみが備えられ、インクジェットヘッド110C及びDは備えられていなくてもよい。3色以上のインク組成物を用いる場合、インクジェットヘッド110Dの搬送方向下流側に、各色毎に複数のインクジェットヘッドが、インクジェットヘッド110A及びBと同様の並びで配置されるのが好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
[着色剤の準備]
〔過硫酸塩による酸化処理により親水性基を結合した自己分散型顔料〕
(顔料分散液K1)
カーボンブラックであるカラーブラックS170(商品名、デグサ社製)150gを2N過硫酸ナトリウム水溶液3L中に添加し、温度60℃、攪拌速度1s-1で10時間攪拌混合して酸化処理した。酸化したカーボンブラックに対して、限外濾過膜(旭化成(株)製、商品名「AHP−1010」)にて残塩分離処理を施した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH8に調整した。次いで、余剰の塩類の除去精製と水分除去による濃縮とを行うため、再度限外濾過膜にて処理を施した。この際、処理後の水溶液においてカーボンブラックの濃度が20質量%になるように調整した。こうして、ブラック顔料分散液KAを調製した。
【0080】
[インク組成物の調製]
表1に示す割合で各成分を混合し、孔径10μmのメンブランフィルターにて濾過して、各インク組成物を調製した。ただし、表1中に示す添加量は全て質量%の濃度として表されており、イオン交換水の「残量」とは、インク組成物の全量が100質量%となるようにイオン交換水を加えることを意味する。
【0081】
【表1】

【0082】
<インク組成物の評価>
(試験1)剪断粘度、TI、降伏値及び残留粘度
得られた各インク組成物を、Anton Paar社製の粘弾性測定装置(商品名「Physica MCR301」)に装着されたコーンプレート(直径75mm、角度1°)に充填して、20℃における剪断速度(10〜1000s-1)に対する剪断粘度を測定した。剪断速度200[1/s]における剪断粘度を、本実施例における剪断粘度として記録した。またm剪断速度に対する剪断粘度の変化率からTIを導出し、上記のようにして測定した値をCasson式に当てはめて、降伏値及び残留粘度を求めた。
結果を表2に示す。
【0083】
(試験2)スジ状の濃度ムラ
図1〜4に示すのと同様のインクジェットプリンタ(ただし、インク組成物をインクジェットヘッド110A及びBのみに充填)を用いて、下記の2種類の普通紙に、25%dutyドットスクリーンの印刷を行った。被記録媒体として、普通紙であるゼロックスP(富士ゼロックス社製)、Xerox4200(Xerox Co.社製)を用いた。印刷した記録物を一般環境下で1時間放置した後、インク吐出ノズルの互いに重なる部分に対応する位置の画像の状態を目視にて観察した。評価基準は下記のとおりとした。
A:重なる部分に対応する位置の画像にスジ状の濃度ムラが全く認められない。
B:重なる部分に対応する位置の画像にスジ状の濃度ムラが僅かに認められるが、許容範囲内である。
C:重なる部分に対応する位置の画像にスジ状の濃度ムラが認められ、許容範囲外である。
結果を表2に示す。
【0084】
(試験3)目詰まり(吐出安定性)の評価
(試験2)と同様のインクジェットプリンタを用いて、40℃の環境においてベタ画像及び罫線が含まれるパターンを連続的に印刷した。印刷中にドット抜けによる画像の乱れが認められた場合、その度に復帰動作(ノズルクリーニング)行った。連続100ページ印刷して、ノズルクリーニングの回数を計測した。評価基準は下記のとおりとした。
A:1回もノズルクリーニングを行わなかった。
B:1〜2回、ノズルクリーニングを行った。
C:3回以上、ノズルクリーニングを行った。
結果を表2に示す。
【0085】
(試験4)発色性(光学濃度(OD値))
(試験2)と同様のインクジェットプリンタを用いて、100%Dutyパッチパターン(ベタ画像)の印刷を行った。被記録媒体として、普通紙であるゼロックスP(富士ゼロックス社製)、Xerox 4200(Xerox Co.社製)を用いた。その画像のOD値をグレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いて5回(5箇所で)測定した。そして、各インク組成物ごとの相加平均値を求め、算出した平均OD値につき、以下の判断基準で光学濃度値(OD値)を評価した。
A:1.2以上
B:1.1以上〜1.2未満
C:1.1未満
結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【符号の説明】
【0087】
100…インクジェット記録装置、101…被記録媒体、104…収納カセット、105…給紙ローラ、106…排紙カセット、109…位置検出センサ、110A、110B、110C、110D…インクジェットヘッド、110AC、110AE、110BC、110BE…インク吐出ノズル、111…制御部、115、116、117、118…モータ、120…プラテン部、130…搬送ベルト、140…搬送ローラ、140A、150A、180…駆動ローラ、140B、150B、170…従動ローラ、150…排出ローラ、160…搬送手段、190…インクジェットヘッドユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン状に複数のインク吐出ノズルを配列した複数のインクジェットヘッドを、前記インク吐出ノズルの配列方向に沿って千鳥状に配置した記録装置を用いて、前記インク吐出ノズルより吐出したインク組成物からなる液滴を、前記配列方向に直交する方向に沿って搬送される被記録媒体上に着弾させて印刷するインクジェット記録方法であって、
前記直交する方向に隣接する複数の前記インクジェットヘッド間において、端部から少なくとも1つの前記インク吐出ノズルより吐出する前記液滴を、前記被記録媒体上で互いに重なり合うように着弾させる工程を有し、
1つの前記インクジェットヘッドにおいて、前記端部から少なくとも1つの前記インク吐出ノズルより吐出する前記液滴の容量は、それ以外の前記インク吐出ノズルより吐出する前気液滴の容量よりも少ないものであり、
前記インク組成物の降伏値が、0.50〜2.00mPaである、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記インク組成物の剪断速度10〜1000s-1に対する剪断粘度の変化率が、1.10〜1.20である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インク組成物は、顔料と、水溶性有機溶剤と、表面張力調整剤と、前記インク組成物の全量中60〜10質量%の水と、を含み、前記顔料は、自己分散型のカーボンブラックである、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−213060(P2011−213060A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85469(P2010−85469)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】