説明

インクジェット記録方法

【課題】発色性に優れ、ビーディングの発生が少なく、記録媒体間での色相差の少ない画像を記録できるインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】難水溶性のアルカンジオールを含有するインク組成物を吐出させて、液滴を第1記録媒体の一方の面に付着させて画像を記録する第1画像記録工程と、第1記録媒体の一方の面と、第2記録媒体の他方の面と、を接触させて、第1記録媒体および第2記録媒体を積層させる積層工程と、インク組成物の液滴を吐出させて、液滴を第2記録媒体の他方の面に付着させて画像を記録する第2画像記録工程と、をこの順序で含み、第2画像記録工程の前に、1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を含有しない溶液を、第2記録媒体の他方の面に付着させる付着工程、および2記録媒体の他方の面に付着した成分を除去する除去工程、の少なくとも一方を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の画像記録装置を用いて、記録媒体の両面に画像を記録するための画像記録方法が知られている。例えば、特許文献1には、記録媒体の一方の面(表面)に画像を記録した後、当該記録媒体を画像記録装置の内部に保持したまま、当該記録媒体を反転させて他方の面(裏面)に画像を記録する方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の画像記録方法のように、多量の枚数の記録媒体の両面印刷を行う場合、記録媒体1枚毎に両面印刷を行う方法を採用すると、すべての記録媒体に対して両面印刷が完了するまでに、多くの時間を費やす必要があった。そのため、特に産業分野(例えば広告印刷分野)のように多量の枚数の紙に画像を両面印刷する必要がある場合には、より高速に両面印刷できる方法が求められている。
【0004】
ところで、近年のインクジェット記録方式の技術進歩に伴って、インクジェット記録方式は、これまであまり用いられていない分野に用いられるようになってきた。例えば、広告等のために配付される印刷物(例えばチラシ)の作成には、印刷方式としてオフセット印刷が利用され、記録媒体としてインク低吸収性の記録媒体が用いられる場合が多く、インクジェット記録方式があまり用いられていない。この理由の一つとしては、一般的なインクジェット用の水性インクを低吸収性の記録媒体に対する印刷に用いると、インクの弾き、画像の滲み、濃淡ムラ等が発生して、良好な画像の記録が困難であったことが挙げられる。そのため、このような不具合を解決するために、特許文献2および特許文献3には、インク組成物中に難水溶性のアルカンジオール等を含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−170695号公報
【特許文献2】特開2009−209338号公報
【特許文献3】特開2009−297924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多量の枚数の記録媒体の両面印刷を高速に行うための方法として、例えば、複数の記録媒体の一方の面に連続して画像を記録した後、当該複数の記録媒体の他方の面に連続して画像を記録する方法が挙げられる。
【0007】
このような場合に、上述した特許文献2および特許文献3に記載のインク組成物を用いて、インク低吸収性の記録媒体に対する画像の記録を行うと、記録媒体のいずれかの面に記録された画像の発色性が低下する場合があった。具体的には、第1記録媒体および第2記録媒体の一方の面に画像の記録を行った後、第1記録媒体および第2記録媒体を積層させたとき、第1記録媒体の一方の面と、第2記録媒体の他方の面と、が接触する。これにより、第2記録媒体の他方の面には、第1記録媒体の画像に含まれる成分が付着することがあった。その後、第2記録媒体の他方の面に画像の記録を行うと、第2記録媒体の他方の面に記録された画像のうち、第1記録媒体の一方の面に記録された画像と接触していた部分の画像の発色性が低下する場合があった。
【0008】
本発明に係る幾つかの態様は、前記課題の少なくとも一部を解決することで、発色性に優れ、ビーディングの発生が少なく、記録媒体間での色相差の少ない画像を記録できるインクジェット記録方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
複数のインク非吸収性または低吸収性の記録媒体の面に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
難水溶性のアルカンジオールと、水溶性のアルカンジオールと、色材と、水と、を含有するインク組成物の液滴をノズルから吐出させて、該液滴を第1記録媒体の一方の面に付着させて画像を記録する第1画像記録工程と、
前記第1記録媒体の一方の面と、前記第2記録媒体の他方の面と、を接触させて、該第1記録媒体および該第2記録媒体を積層させる積層工程と、
前記インク組成物の液滴を前記ノズルから吐出させて、該液滴を第2記録媒体の他方の面に付着させて画像を記録する第2画像記録工程と、
をこの順序で含み、
前記第2画像記録工程の前に、
1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含有しない溶液を、前記第2記録媒体の他方の面に付着させる付着工程、および
前記2記録媒体の他方の面に付着した成分を除去する除去工程、の少なくとも一方を含む。
【0011】
適用例1に記載の態様によれば、発色性に優れ、ビーディングの発生が少なく、記録媒体間での色相差の少ない画像を記録できる。
【0012】
[適用例2]
適用例1において、
前記積層工程によって、前記第2記録媒体の他方の面には、前記第1記録媒体の一方の面に記録された画像に接触して、該画像に含まれる成分が付着した第1領域と、前記第1記録媒体の一方の面に記録された画像に接触せず、該画像に含まれる成分が付着しない第2領域と、が生じ、
前記第2画像記録工程において、前記第1領域と前記第2領域に同一量の前記インク組成物を付着させて画像を記録した場合に、前記第1領域と前記第2領域とのOD値の差が、0.05未満であることができる。
【0013】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記インク組成物の液滴を前記ノズルから吐出させて、該液滴を第2記録媒体の一方の面に付着させて画像を記録する第3画像記録工程と、
前記インク組成物の液滴を前記ノズルから吐出させて、該液滴を第1記録媒体の他方の面に付着させて画像を記録する第4画像記録工程と、を含むことができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか1例において、
前記付着工程において、前記第2記録媒体の他方の面に付着させる前記溶液の量は、1mg/inch以上4mg/inch以下であることができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか1例において、
前記除去工程における除去は、前記第2記録媒体の他方の面を乾燥することにより行われることができる。
【0016】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか1例において、
前記積層工程において、前記2記録媒体の他方の面に付着した成分は、前記難水溶性のアルカンジオールであることができる。
【0017】
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか1例において、
前記難水溶性のアルカンジオールは、1,2−オクタンジオールであることができる。
【0018】
[適用例8]
本発明に係る記録物の一態様は、適用例1ないし適用例7のいずれか1例に記載のインクジェット記録方法によって記録されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るプリンターの構成を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0021】
1.インクジェット記録方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、インクジェット記録装置を用いて、複数のインク低吸収性の記録媒体の一方の面に連続して画像を記録した後、該複数のインク低吸収性の記録媒体の他方の面に連続して画像を記録するインクジェット記録方法である。
【0022】
1.1.インクジェット記録装置
まず、本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置について説明する。
【0023】
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、インク組成物の液滴を吐出するノズルを有する。以下、本実施形態に係るインクジェット記録装置について、図1を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、インクジェット記録装置としてインクジェットプリンター(以下、単に「プリンター」という。)を例示する。
【0024】
図1は、本実施形態におけるプリンター1の構成を示す斜視図である。図1に示すプリンター1は、シリアルプリンターである。シリアルプリンターとは、所定の方向に移動するキャリッジにヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上に液滴を吐出するもののことをいう。
【0025】
なお、図1では、シリアルプリンターを例示したが、これに限定されず、本発明に係るインクジェット記録装置は、例えばラインプリンターであってもよい。ラインプリンターとは、ヘッドが記録媒体の幅よりも広く形成され、ヘッドが移動せずに記録媒体上に液滴を吐出するもののことをいう。
【0026】
図1に示すように、プリンター1は、ヘッド2を搭載すると共にインクカートリッジ3を着脱可能に装着するキャリッジ4と、ヘッド2の下方に配設され記録媒体Pが搬送されるプラテン5と、キャリッジ4を記録媒体Pの媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、被記録媒体Pを媒体送り方向に搬送する媒体送り機構8と、を有するものである。また、プリンター1は、当該プリンター1全体の動作を制御する制御装置CONTを有している。なお、上記媒体幅方向とは、主走査方向(ヘッド走査方向)である。上記媒体送り方向とは、副走査方向(主走査方向に直交する方向)である。
【0027】
本実施形態に係るインクカートリッジ3は、独立した4つのカートリッジからなる。これらのインクカートリッジには、後述するインク組成物が充填される。なお、図1の例では、カートリッジの数が4つであるが、これに限定されず、所望の数のカートリッジを搭載することができる。なお、インクカートリッジ3は、本実施形態のようにキャリッジ4に装着するものに限らず、これに替えて例えば、プリンター1の筐体側に装着しインク供給チューブを介してヘッド2に供給するタイプのものであってもよい。
【0028】
キャリッジ4は、主走査方向に架設された支持部材であるガイドロッド9に支持された状態で取り付けられたものである。また、キャリッジ4は、キャリッジ移動機構7によりガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するものである。なお、図1の例では、キャリッジ4が主走査方向に移動するものを示したが、これに限定されず、主走査方向の移動に加えて、副走査方向に移動するものであってもよい。
【0029】
ヘッド2は、図示しないノズルを備えている。ヘッド2は、インク組成物を微少粒径の液滴にしてノズル(図示せず)から吐出して、記録媒体P上に付着させる。ヘッド2は、上記の機能を有すれば特に限定されず、どのようなインクジェット記録方式を用いてもよい。ヘッド2のインクジェット記録方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に吐出させ、インクの液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏光電極に与えて記録する方式またはインクの液滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して吐出させる方式(静電吸引方式)、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を吐出させる方式、インクに圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インクの液滴を吐出・記録させる方式(ピエゾ方式)、インクを印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を吐出・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0030】
リニアエンコーダ10は、キャリッジ4の主走査方向上における位置を信号で検出するものである。この検出された信号は、位置情報として制御装置CONTに送信されるようになっている。制御装置CONTは、このリニアエンコーダ10からの位置情報に基づいてヘッド2の走査位置を認識し、ヘッド2による記録動作(吐出動作)などを制御するようになっている。また、制御装置CONTは、キャリッジ4の移動速度を可変制御可能な構成となっている。
【0031】
1.2.インク組成物
次に、本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いるインク組成物について説明する。
【0032】
本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いるインク組成物は、難水溶性のアルカンジオールと、水溶性のアルカンジオールと、色材と、水と、を含有する。以下、各成分について説明する。
【0033】
本発明において、アルカンジオールおよびアルキレングリコールは、直鎖および分岐鎖のいずれの構造を備えていてもよい。
【0034】
本発明において、水溶性とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10g以上であることを意味し、難水溶性とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1g未満であることを意味する。
【0035】
1.2.1.難水溶性のアルカンジオール
本実施形態に係るインク組成物は、難水溶性のアルカンジオールを含有する。難水溶性のアルカンジオールの機能の一つとしては、インク組成物とインク低吸収性の記録媒体との界面張力を著しく低下させることが挙げられる。これにより、難水溶性のアルカンジオールを含有する本実施形態に係るインク組成物は、インク低吸収性の記録媒体に対する画像の記録において、難水溶性のアルカンジオールを含有していない従来のインクジェット用の水性インクと比較して、インクの弾きや、滲み、濃淡ムラ等の発生を極めて効果的に抑制することができる。
【0036】
難水溶性のアルカンジオールとしては、炭素数7以上のアルカンジオールが好ましく、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールをより好ましく用いることができる。
【0037】
難水溶性のアルカンジオールの含有量は、インク組成物の全質量に対して、1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上3.5質量%以下であることがさらに好ましい。難水溶性のアルカンジオールの含有量が上記範囲内にあると、インク低吸収性の記録媒体にインクの弾き等の少ない良好な画像を形成することができる。これに加えて、上記範囲内にあると、インク組成物の粘度をインクジェット記録装置のノズルから良好に吐出できる範囲にすることを容易にしたり、インク組成物中での油層(難水溶性のアルカンジオール)の分離を効果的に抑制したりできる。
【0038】
1.2.2.水溶性のアルカンジオール
本実施形態に係るインク組成物は、水溶性のアルカンジオールを含有する。水溶性のアルカンジオールの機能の一つとしては、記録される画像の滲みを低減させたり、インク組成物中で上記の難水溶性のアルカンジオールを安定的に分散または溶解させたりすることが挙げられる。
【0039】
水溶性のアルカンジオールは、アルキル基の主鎖の両末端に水酸基を有するアルカンジオール(両末端型アルカンジオール)またはアルキル基の主鎖の片側の末端に水酸基を有するアルカンジオール(片末端型のアルカンジオール)であることが好ましい。これらの中でも、水溶性のアルカンジオールは、炭素数6以下であることが好ましく、炭素数3以上6以下であることがより好ましい。水溶性のアルカンジオールとしては、具体的には、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、印刷中の臭気の観点から、1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
【0040】
水溶性のアルカンジオールの含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.5質量%以上6質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。水溶性のアルカンジオールの含有量が上記範囲内にあると、難水溶性のアルカンジオールをインク組成物中で良好に分散または溶解することができる。
【0041】
また、インク組成物中において、難水溶性のアルカンジオールと水溶性のアルカンジオールとの含有量比(難水溶性のアルカンジオールの含有量/水溶性のアルカンジオールの含有量)は、0.3以上6以下であることが好ましく、1以上6以下であることがより好ましい。含有量比が上記範囲内にあると、難水溶性のアルカンジオールをインク組成物中で安定的に溶解または分散させることができる。
【0042】
1.2.3.色材
本実施形態に係るインク組成物は、色材を含有する。色材には、顔料および染料等を用いることができる。これらの中でも、耐光性に優れているという観点から、顔料を好ましく用いることができる。色材の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下である。
【0043】
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
更に詳しくは、ブラック用として使用される無機顔料としては、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、またはMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、またはSpecial Black 4等が挙げられる。
【0045】
イエロー有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180、185、213、国際公開第2011/027842の[化1]に記載された顔料等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらの中でも、C.I.ピグメントイエロー74、128、129、155、180、185、213、国際公開第2011/027842の[化1]に記載された顔料からなる群から選ばれる1種または2種以上を好ましく用いることができる。
【0046】
マゼンタ有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254、264またはC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられ、これらの1種類または2種類以上を用いることができる。これらの中でも、C.I.ピグメントレッド122、202、209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる1種または2種以上を好ましく用いることができ、これらの固溶体を用いることが更に好ましい。
【0047】
シアン有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらの中でも、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4を好ましく用いることができる。
【0048】
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
【0049】
上記の顔料は、インク中でより安定的に分散保持されやすくするために、各種の方法を適用することができる。その方法としては、たとえば、水溶性樹脂又は水不溶性樹脂を用いて分散させる方法、界面活性剤を用いて分散させる方法、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散および/または溶解可能とする方法等が挙げられる。本実施形態にインク組成物には、前記のいずれの方法も用いることができ、必要に応じて各方法を組み合わせた形態で用いることもできる。特に、水溶性樹脂により顔料がインク組成物中に分散される方法では、インクが記録媒体に付着したときに、記録媒体とインク組成物、および/または、インク組成物中の固化物間の密着性を高めることができる場合があり好ましい。また、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入して顔料をインク組成物中に分散させる方法は、顔料の分散安定性を高め、該インク組成物の保存安定性を良好にする点で好ましい。
【0050】
顔料の分散に使用できる水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等およびこれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を持つモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0051】
上記の塩としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリ−iso−プロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の塩基性化合物との塩が挙げられる。これら塩基性化合物の添加量は、上記水溶性樹脂の中和当量以上であれば特に制限はない。
【0052】
上記顔料の分散に使用できる水溶性樹脂の分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、2,000〜30,000の範囲であることがより好ましい。分子量が上記範囲であることにより、色材の水中での安定的な分散が得られ、またインク組成物に適用した際の粘度制御等がしやすい。また、酸価としては50〜300の範囲であることが好ましく、70〜250の範囲であることがより好ましい。酸価がこの範囲であることにより、顔料粒子の水中での分散性が安定的に確保でき、またこれを用いたインク組成物にて記録された画像の耐水性が良好になる場合がある。
【0053】
以上述べた顔料の分散に使用できる水溶性樹脂としては、市販品を用いることもできる。詳しくは、ジョンクリル67(重量平均分子量:12,500、酸価:213)、ジョンクリル678(重量平均分子量:8,500、酸価:215)、ジョンクリル586(重量平均分子量:4,600、酸価:108)、ジョンクリル611(重量平均分子量:8,100、酸価:53)、ジョンクリル680(重量平均分子量:4,900、酸価:215)、ジョンクリル682(重量平均分子量:1,700、酸価:238)、ジョンクリル683(重量平均分子量:8,000、酸価:160)、ジョンクリル690(重量平均分子量:16,500、酸価:240)(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0054】
顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散および/または溶解可能とする方法としては、顔料に親水性官能基として、−OM、−COOM、−CO−、−SOM、−SONH、−RSOM、−POHM、−PO、−SONHCOR、−NH、−NR(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す。)等を導入する方法が挙げられる。これらの官能基は、顔料粒子表面に直接および/または他の基を介してグラフトされることによって、物理的および/または化学的に導入される。多価の基としては、炭素数が1〜12のアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基等を挙げることができる。
【0055】
また、前記の表面処理方法としては、硫黄を含む処理剤によりその顔料粒子表面に−SOMおよび/または−RSOM(Mは対イオンであって、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウムイオンを示す。)が化学結合するように表面処理されたもの、すなわち、前記顔料が、活性プロトンを持たず、スルホン酸との反応性を有せず、顔料が不溶ないしは難溶である溶剤中に、顔料を分散させ、次いでアミド硫酸、又は三酸化硫黄と第三アミンとの錯体によりその粒子表面に−SOMおよび/または−RSOMが化学結合するように表面処理され、水に分散および/または溶解が可能なものとされたものであることがより好ましい。
【0056】
一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0057】
顔料を水中に分散させる方法としては、水溶性樹脂については顔料と水と水溶性樹脂、界面活性剤については顔料と水と界面活性剤、表面処理された顔料については該顔料と水、また各々に必要に応じて水溶性有機溶剤・中和剤等を加えて、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等の従来用いられている分散機にて行なうことができる。この場合、顔料の平均粒子径としては、平均粒子径で20nm〜500nmの範囲になるまで、より好ましくは50nm〜200nmの範囲になるまで分散することが、顔料の水中での分散安定性を確保する点で好ましい。また、平均粒子径が250nm以下の顔料を用いることにより、目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分な吐出安定性を実現することができる。なお、本願において平均粒子径とは、特に断りが無い限り体積基準の平均粒子径とする。
【0058】
1.2.4.水
本実施形態に係るインク組成物は、水を含有する。水は、前記インク組成物の主となる媒体であり、蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好ましい。本実施形態に係るインク組成物に含まれる水は、インク組成物の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましい。
【0059】
1.2.5.その他の成分
本実施形態に係るインク組成物は、さらに、(ポリ)オキシアルキレングリコール、樹脂類、界面活性剤およびその他の成分を含有してもよい。
【0060】
(1)(ポリ)オキシアルキレングリコール
(ポリ)オキシアルキレングリコールは、インク低吸収性の記録媒体に記録された画像の滲みや濃淡ムラをより一層低減したり、インクのノズル詰まりを低減できるという観点から用いることができる。
【0061】
(ポリ)オキシアルキレングリコールは、好ましくは、エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドの付加重合によって得られる水混和性のオリゴマーである。(ポリ)オキシアルキレングリコールは、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、およびトリプロピレングリコールからなる群から選択される一種または二種以上であることが好ましく、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、およびトリプロピレングリコールからなる群から選択される一種または二種以上であることがより好ましい。これらの中でも、(ポリ)オキシアルキレングリコールは、水混和性の(ポリ)プロピレングリコールであることが好ましい。(ポリ)プロピレングリコールは、特に限定されないが、ジプロピレングリコールであることがより好ましい。
【0062】
(ポリ)オキシアルキレングリコールを含有する場合には、その含有量は、インク組成物の全質量に対して、2質量以上18質量%以下であることが好ましく、6質量%以上18質量%以下であることがより好ましい。(ポリ)オキシアルキレングリコールの含有量が上記範囲内にあると、難水溶性のアルカンジオールをインク滴の乾燥時に分離させずに、混和状態に保持できる。さらに、インクの初期粘度が高くなりすぎず、通常のインク保存状態において、油層が分離することを低減できる。
【0063】
(2)樹脂類
本実施形態に係るインク組成物は、樹脂類を含有してもよい。樹脂類としては、上述した顔料の分散に使用できる水溶性樹脂の他に、例えば、(i)ポリオレフィン樹脂、(ii)変性ポリオレフィン樹脂、(iii)スルホン酸エステル樹脂、(iv)フルオレン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(i)ポリオレフィン樹脂
ポリオレフィン樹脂は、記録媒体の表面への傷付きを低減することができるとともに、インクの定着性を向上することができる。
【0065】
ポリオレフィン樹脂としては、粒子状のもの用いることが好ましい。また、粒子状のポリオレフィン樹脂の平均粒子径は、記録媒体に記録された画像の膜厚よりも大きいことが好ましく、具体的には、10nm以上800nm以下であることがより好ましく、200nm以上800nm以下であることがさらに好ましい。粒子状のポリオレフィン樹脂の粒子径が、記録媒体に記録された画像の膜厚よりも大きいと、画像の耐擦性を向上することができる。ポリオレフィン樹脂の平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
【0066】
ポリオレフィン樹脂としては、インク組成物を用いて記録された画像中において、所定の粒子径の粒子状態を維持し得る限り特に限定されるものではなく、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン、またはその誘導体から製造したワックス、およびコポリマー等が挙げられ、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。
【0067】
ポリオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、「ケミパールW4005」(三井化学株式会社製、ポリエチレン系ワックス、粒径200〜800nm、環球法軟化点110℃、針入度法硬度3、固形分40%)等のケミパールシリーズが挙げられる。これらは、常法によりポリオレフィン樹脂を水中に分散させた水系エマルジョンの形態で市販されている。本実施形態に係るインク組成物においては、水系エマルジョンの形態のまま直接添加することができる。なお、米国特許第6858765号明細書に記載されているポリオレフィン樹脂も好適に使用することができる。
【0068】
(ii)変性ポリオレフィン樹脂
変性ポリオレフィン樹脂は、記録媒体を重ね合わせた場合に、記録媒体の裏面に画像が転写されることを低減できるとともに、画像の耐擦性を向上することができる。耐擦性が向上する理由としては、以下のように考えられる。変性ポリオレフィン樹脂は、インクの塗膜を柔らかくする作用を有する。これにより、画像の記録面に圧力がかかった場合に、塗膜自体が潰れることによってインク中の成分の結着力が高まり、耐擦性が向上するものと考えられる。
【0069】
変性ポリオレフィン樹脂としては、変性ポリエチレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。変性ポリエチレン樹脂としては、酸化ポリエチレン樹脂、(無水)マレイン酸変性ポリエチレン樹脂が挙げられる。また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸化ポリプロピレン樹脂、(無水)マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、例えば、水等の溶媒で分散させたエマルジョンとして用いることができる。
【0070】
変性ポリオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックスエマルジョン、粒子径100〜200nm、融点130℃、固形分30%)、AQUACER507(酸化高密度ポリエチレンワックスエマルジョン)、AQUACER526(変性エチレン酢酸ビニルワックスエマルジョン)、AQUACER593(変性ポリプロピレンワックスエマルジョン)(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)や、ハイワックス2203A(無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス、三井化学株式会社製)や、ハイテックE2213(酸化ポリエチレンワックスエマルジョン、固形分30%、東邦化学株式会社製)等が挙げられる。
【0071】
(iii)スルホン酸エステル樹脂
スルホン酸エステル樹脂は、画像が擦過された際に生じる光沢斑を抑制することができる。スルホン酸エステル樹脂は、例えば、エチレン性不飽和モノマーを、反応性乳化剤(親水性基、疎水性基、およびラジカル反応性基からなる)の存在下で乳化重合して得ることができる。なお、反応性乳化剤とは、乳化重合可能な程度の乳化能を有し、かつ、ラジカル重合可能である乳化剤を意味する。
【0072】
反応性乳化剤の親水性基は、少なくとも硫酸エステル基であればよく、硫酸エステル基およびポリオキシエチレン基の両方であることが好ましい。
【0073】
反応性乳化剤の疎水性基としては、例えば、炭素数が5〜20の脂肪族アルキル基もしくは芳香族基等が挙げられ、これらの中でも、8〜15の脂肪族アルキル基を好ましく用いることができる。
【0074】
反応性乳化剤のラジカル反応性基としては、例えば、アクリル基、メタアクリル基、アリルオキシ基、メタアリルオキシ基、プロペニル基等のエチレン性不飽和基が挙げられ、これらの中で特に、アリルオキシ基、プロペニル基が好ましい。
【0075】
反応性乳化剤としては、市販品を用いることができ、ラテムルS−180A(花王社製)、エレミノールJS−2(三洋化成社製)、アクアロンKH−10、アクアロンHS−10、アクアロンBC−10(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE−10N(旭電化工業社製)、アクアロンRS−20(第一工業製薬社製)、アデカリアソープER−20(旭電化工業社製)等を好適に使用できる。これらの反応性乳化剤は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0076】
エチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル系モノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、これらの中でも(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0077】
また、エチレン性不飽和モノマーは、アルコキシシラン基、エポキシ基、水酸基、またはポリエチレンオキサイド基等の官能基を有しているものであってもよい。このような官能基を有することにより、樹脂とインク組成物中の各成分との相溶性を向上させることができる。これらの中でも、特にアルコキシシラン基を有するモノマーが好ましく用いられる。
【0078】
スルホン酸エステル樹脂は、上述したように、エチレン性不飽和モノマーを、反応性乳化剤の存在下で乳化重合して得ることができ、例えば、米国特許出願公開2009/0304927号明細書と同様の方法で得られる。
【0079】
(iv)フルオレン樹脂
フルオレン樹脂は、記録される画像の定着性や耐擦性を高めることができる。フルオレン樹脂としては、フルオレン骨格を有するものであれば特に限定されず、例えば、下記モノマーを重合することにより得られるものを用いてもよい。
【0080】
5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(CAS No.4098−71−9)
2,2’−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビスエタノール(CAS No.117344−32−8)
3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸(CAS No.4767−03−7)
N,N−ジエチル−エタンアミン(CAS No.121−44−8)
【0081】
(3)界面活性剤
界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のものが用いられ、より好ましくはアセチレングリコール系、フッ素系、オルガノポリシロキサン系であり、特にオルガノポリシロキサン系界面活性剤を好適に使用でき、画像を記録する際に、記録媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。オルガノポリシロキサン系界面活性剤は、上記の難水溶性アルカンジオール、水溶性アルカンジオール等によって、インク組成物中の溶解性が向上する。これにより、インク組成物中に不溶物等が発生することを抑制できるため、吐出安定性に優れたインク組成物を得ることができる。
【0082】
上記のようなオルガノシロキサン系界面活性剤には、市販されているものを用いてもよく、例えば、BKY−347、BKY−348、BYK−349(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等を用いることができる。
【0083】
また、オルガノポリシロキサン系界面活性剤として、下記一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。
【0084】
【化1】

【0085】
上記式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、aは2以上18以下の整数であり、mは0以上70以下の整数であり、nは1以上8以下の整数であり、R、a、m、nは、以下の組み合わせをとることが好ましい。
【0086】
Rは水素原子またはメチル基であり、aは2〜13の整数であり、mは2〜70の整数であり、nは1〜8の整数であることが好ましく、Rは水素原子またはメチル基であり、aは2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜8の整数であることがより好ましい。
【0087】
また、Rは水素原子またはメチル基であり、aは2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜5の整数であることが好ましく、Rは水素原子またはメチル基であり、aは2〜11の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜5の整数であることがより好ましい。
【0088】
また、Rはメチル基であり、aは6〜18の整数であり、mは0〜4の整数であり、nは1または2であることが好ましく、Rはメチル基であり、aは6〜18の整数であり、mは0であり、nは1であることがより好ましい。
【0089】
上記以外の界面活性剤として、さらに、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等を添加してもよい。
【0090】
(4)その他の成分
本実施形態のインク組成物は、必要に応じて、湿潤剤(例えば、グリセリン)、ノズルの目詰まり防止剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを添加することができる。
【0091】
1.2.6.物性
本実施形態に係るインク組成物の20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上6mPa・s以下であることがより好ましい。インクは、20℃における粘度が上記範囲内にあると、ノズルから適量吐出され、飛行曲がりを起こすことや飛散することを一層低減できるので、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。インクの粘度は、振動式粘度計VM−100AL(山一電機株式会社製)を用いて、インクの温度を20℃に保持することで測定できる。
【0092】
また、本実施形態に係るインク組成物の20℃における表面張力は、21mN/m以上25mN/m以下であることが好ましく、22mN/m以上24mN/m以下であることがより好ましい。インク組成物の20℃における表面張力が上記範囲内にあると、インク低吸収性の記録媒体に付着したインク組成物が流動しにくくなるため、画像の滲み、濃淡ムラ等を効果的に抑制することができる。
【0093】
1.2.7.インク組成物の製造方法
本実施形態に係るインク組成物は、前述した材料を任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。
【0094】
各材料の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0095】
1.3.インク非吸収性または低吸収性の記録媒体
本実施形態に係るインクジェット記録方法には、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体が用いられる。インク低吸収性または非吸収性の記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。ここで、本明細書において「インク非吸収性または低吸収性の記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0096】
本実施形態に係るインクジェット記録方法では、上記のインク組成物を用いるため、インク低吸収性の記録媒体に対して、インクの弾き、画像の滲み、濃淡ムラ等の低減した画像を得られる。
【0097】
1.4.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上述したインクジェット記録装置およびインク組成物を用いて実施される。
【0098】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、この対応に限定されるわけではないが、特に複数のインク非吸収性または低吸収性の記録媒体の一方の面に連続して画像を記録した後、該複数のインク非吸収性または低吸収性の記録媒体の他方の面に連続して画像を記録するインクジェット装置に好適に用いられる。本実施形態に係るインクジェット記録方法は、少なくとも後述する第1画像記録工程、積層工程、第2画像記録工程をこの順序で含み、第2画像記録工程の前に、後述する付着工程および除去工程の少なくとも一方を備える。本実施形態におけるインクジェット記録方法では、2枚の記録媒体(第1記録媒体および第2記録媒体)を用いる場合を例にして説明するが、これに限定されず、3枚以上の記録媒体を用いても同様に行える。本実施形態に係るインクジェット記録方法を3枚以上の記録媒体を用いて実施した場合であっても、2枚の記録媒体を用いる場合と同様の効果を奏する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0099】
1.4.1.第1画像記録工程
第1画像記録工程は、上記インク組成物の液滴をノズルから吐出させて、該液滴を第1記録媒体の一方の面に付着させて画像を記録する工程である。第1画像記録工程は、上述したプリンター1を用いる場合には、次のように行うことができる。
【0100】
まず、第1記録媒体を媒体送り機構8によって移動させて、第1記録媒体の一方の面とヘッド2に設けられたノズル(図示せず)とが対向する位置まで搬送する。そして、ヘッド2のノズルからインク組成物の液滴を吐出させて、第1記録媒体の一方の面に液滴を付着させる。このようにして、第1記録媒体の一方の面に画像が記録される。
【0101】
1.4.2.第3画像記録工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、第3画像記録工程を備えていてもよい。第3画像記録工程は、第1画像記録工程後に行われることができ、上記インク組成物の液滴をノズルから吐出させて、該液滴を第2記録媒体の一方の面に付着させて画像を記録する工程である。第2記録媒体への画像の記録方法は、第1記録媒体の画像の記録方法と同様であるので、その説明を省略する。
【0102】
1.4.3.積層工程
積層工程は、第1画像記録工程後に行われ、第1記録媒体の一方の面と、第2記録媒体の他方の面と、を接触させて、該第1記録媒体および該第2記録媒体を積層させる工程である。積層工程は、上述したプリンター1を用いる場合には、次のように行うことができる。
【0103】
まず、第1画像記録工程後、第1記録媒体は、媒体送り機構8によって媒体載置領域(図示せず)まで搬送されて、媒体載置領域上に第1記録媒体の一方の面を上にして載せ置かれる。
【0104】
次いで、第3画像記録工程後、第2記録媒体は、第1記録媒体と同様に媒体載置領域まで搬送されて、媒体載置領域の第1記録媒体上に積層される(積層工程)。これにより、第1記録媒体の一方の面と、第2記録媒体の他方の面(未だ画像の記録が行われていない面)と、が接触する。このようにして、第2記録媒体の他方の面には、第1記録媒体の一方の面に記録された画像に接触した第1領域と、第1記録媒体の一方の面に記録された画像に接触しない第2領域と、が生じる。このとき、第1領域には、第1記録媒体の一方の面に記録された画像に含まれる成分が付着する。一方、第2領域には、第1記録媒体の一方の面に記録された画像に含まれる成分が付着しない。
【0105】
なお、第3画像記録工程後に積層工程が行われる場合を示したが、第3画像記録工程前に積層工程が実施されてもよいし、第1画像記録工程後に第3画像記録工程が行われずに積層工程が実施されてもよい。
【0106】
ここで、第1記録媒体の一方の面に記録された画像に含まれる成分のうち、特に難水溶性のアルカンジオールが第2記録媒体の他方の面に付着しやすい。
【0107】
1.4.4.付着工程
付着工程は、1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含有しない溶液を、第2記録媒体の他方の面に付着させる工程である。
【0108】
付着工程が実施されるタイミングは、後述する第2画像記録工程の前に行われる。具体的には、第2画像記録工程前であって第1画像記録工程後に行われることが好ましく、積層工程後であって第2画像記録工程前に行われることがより好ましい。
【0109】
付着工程において、第2記録媒体の他方の面に溶液を付着させると、第1領域に付着した成分(特に、難水溶性のアルカンジオール)は、溶液を介して、第2記録媒体の第1領域以外の領域(第2領域)に拡散しやすくなる。特に、第2記録媒体の他方の面の全面に溶液を付着させると、第1領域に付着した成分が第2記録媒体の他方の面の全面に拡散しやすくなる。これにより、第1領域に付着した成分は、揮発しやすくなる。
【0110】
また、第1領域に付着した成分は、溶液と混合することで、溶液の蒸発(揮発)とともに揮発しやすくなる。
【0111】
このように、第1領域に付着した成分(特に、難水溶性のアルカンジオール)が揮発することにより、後述する第2画像記録工程において、第2記録媒体の他方の面のいずれの箇所に画像の記録を行っても、発色性の低下の少ない良好な画像が記録される。
【0112】
本実施形態に係るインクジェット記録方法では、付着工程および後述する除去工程の少なくとも一方が実施されればよく、付着工程および後述する除去工程の両方が実施されてもよい。
【0113】
溶液を付着させる方法としては、特に限定されないが、例えば、インクジェット記録装置のノズルから溶液を吐出させる方法(インクジェット記録方式)や、ロールコーター等の塗工装置を用いて画像の表面に溶液を塗布する方法などが挙げられる。
【0114】
第2記録媒体の他方の面に付着させる溶液の量は、1mg/inch以上4mg/inch以下であることが好ましく、1.5mg/inch以上3.6mg/inch以下であることがより好ましい。溶液の付着量が上記範囲内にあると、後述する第2画像記録工程において、第2記録媒体の他方の面に発色性の低下等の少ない良好な画像を記録することができる。
【0115】
溶液に含まれる成分は、第1領域に付着した成分(特に、難水溶性のアルカンジオール)を除去できる化合物を含むのであれば特に限定されるものではない。このような成分の一つとして、例えば、水溶性の1,2−アルカンジオールが挙げられる。水溶性の1,2−アルカンジオールは、難水溶性のアルカンジオールとの溶解性に優れ、十分な蒸発性(揮発性)を備えているため、難水溶性のアルカンジオールの揮発を促進できる点で好ましく用いることができる。
【0116】
また、水溶性の1,2−アルカンジオールを溶液に含有させると、後述する第2画像記録工程で得られる画像のビーディングの発生を低減できる。ここで、本発明におけるビーディングとは、単色で印刷した際に発生する、局所的な同系色の濃度斑のことを意味し、記録媒体表面がインクによって被覆されない部分が残存することを意味するものではない。なお、上記「単色で印刷した際」とは、例えば、6インチ四方に単色(結果として、印刷される色が単一であることを意味し、その色が実現するインクの種類は複数であってもよい。)で印刷した際を意味する。
【0117】
また、水溶性の1,2−アルカンジオールを溶液に含有させると、第2記録媒体の他方の面に記録される画像と、他の記録媒体に記録される画像と、の面間色差を小さいものとすることができる。ここで、面間色差とは、同一のインク組成物・同一の画像記録条件で、複数の記録媒体に画像の印刷を行った際に、記録媒体間で生じる画像の色相差(ΔE)のことをいう。
【0118】
溶液に添加する水溶性の1,2−アルカンジオールは、炭素数6以下であることが好ましく、炭素数3以上6以下であることがより好ましい。水溶性の1,2−アルカンジオールとしては、具体的には、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール等が挙げられる。これらの水溶性の1,2−アルカンジオールの中でも、1,2−ヘキサンジオールを用いることが好ましい。1,2−ヘキサンジオールは、ビーディングの発生を一層低減できたり、面間色差をより小さくできる。
【0119】
水溶性の1,2−アルカンジオールの含有量は、溶液の全質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。水溶性の1,2−アルカンジオールの含有量が上記範囲内にあると、第1領域に付着した難水溶性のアルカンジオールの揮発を十分に促進できる。
【0120】
また、溶液は、1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含有しない。1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を溶液に含有させると、ビーディングが発生したり、面間色差が大きくなったりして、良好な画像を記録できない場合がある。
【0121】
1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類としては、たとえば1気圧下相当での沸点が290℃のグリセリンが挙げられる。
【0122】
上記溶液は、難水溶性のアルカンジオールを実質的に含有しないことが好ましい。後述する第2画像記録工程における第2記録媒体の他方の面に記録される画像は、上述した難水溶性のアルカンジオールにより発色性の低下を生じやすいためである。なお、難水溶性のアルカンジオールとしては、インク組成物の説明において例示した難水溶性のアルカンジオールが挙げられる。
【0123】
また、溶液は、色材を実質的に含有しないことが好ましい。溶液に色材を添加すると、溶液の付着後、第2画像記録工程において第2記録媒体の他方の面に記録される画像の色相が変化する場合があるためである。
【0124】
また、溶液は、樹脂を実質的に含有しないことが好ましい。樹脂を含有すると、後述する第2画像記録工程において、第2記録媒体の他方の面に画像が付着しにくくなる場合があるためである。なお、樹脂とは、例えば、上述したインク組成物において例示した樹脂類が挙げられる。
【0125】
なお、本発明において、「Aを実質的に含まない」とは、インク組成物を製造する際にAを意図的に添加しないという程度の意味、または、Aを添加する意義を十分に達成する量を超えて添加しない程度の意味である。「実質的に含まない」の具体例としては、たとえば1.0質量%以上含まない、好ましくは0.5質量%以上含まない、より好ましくは0.1質量%以上含まない、さらに好ましくは0.05質量%以上含まない、特に好ましくは0.01質量%以上含まない、一層好ましくは0.001質量%以上含まないことである。
【0126】
溶液には、上記の成分以外の成分を含有してもよく、例えば、上述したインク組成物において例示した成分(ただし、難水溶性のアルカンジオール、色材、樹脂を除く。)を含有してもよい。
【0127】
1.4.5.除去工程
除去工程は、前記第2記録媒体の他方の面に付着した成分を除去する工程である。除去工程が実施されるタイミングは、付着工程と同様であるのでその説明を省略する。
【0128】
除去工程において、第2記録媒体の他方の面に付着した成分を除去することで、後述する第2画像記録工程において、第2記録媒体の他方の面には、発色性が良好で、ビーディングが生じにくく、面間色差の小さい、良好な画像が記録される。
【0129】
除去工程において、第2記録媒体の他方の面に付着した成分を除去する方法としては、特に限定されないが、例えば第2記録媒体の他方の面を乾燥する方法、布帛、ゴム等からなる除去部材に接触させて直接除去する方法等が挙げられる。第2記録媒体の乾燥は、記録媒体を熱源に接触させて加熱する機構や、赤外線やマイクロウェーブ(2,450MHz程度に極大波長をもつ電磁波)などを照射する機構や、温風を吹き付けたりする機構等の乾燥機構を用いて実施できる。
【0130】
乾燥機構は、積層工程の後であって後述する第2画像記録工程の前に除去工程が行えれば、インクジェット記録装置のいずれの位置(例えば、記録媒体が積層される排紙部)に設けられてもよい。例えば、上述したプリンター1を用いた場合には、ヘッド2よりも上流側に乾燥機構を設けると、第2記録媒体の他方の面に画像を記録する前(第2画像記録工程前)に、第2記録媒体の第1領域に付着した成分を揮発させることができる。
【0131】
乾燥機構による乾燥温度・乾燥時間等は、第1領域に付着した成分の量や、第2記録媒体の搬送速度等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されるものではない。
【0132】
1.4.6.第4画像記録工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、第4画像記録工程を含むことが好ましい。第4画像記録工程は、積層工程の後に行われ、上記インク組成物の液滴をノズルから吐出させて、該液滴を第1記録媒体の他方の面に付着させて画像を記録する工程である。第4画像記録工程は、上述したプリンター1を用いる場合には、例えば、次のように行うことができる。
【0133】
積層工程によって積層された第1記録媒体および第2記録媒体を、手動または反転装置(図示せず)によって反転させて給紙部に移動させる、又は、第1記録媒体を逆搬送し反転させて再度記録を行う。前者の方法を採用すれば、第2記録媒体上に第1記録媒体が積層された状態となって、未だ画像の記録が行われていない第1記録媒体および第2記録媒体の他方の面が上方を向く。
【0134】
次に、第1記録媒体および第2記録媒体を給紙部(図示せず)まで搬送して、第1記録媒体の他方の面の画像の記録を開始する。第1記録媒体への画像の記録方法は、第1画像記録工程と同様であるので、その説明を省略する。
【0135】
第1画像記録工程および第4画像記録工程によって、第1記録媒体の両面(一方の面および他方の面)に画像の記録された記録媒体(記録物)を得ることができる。
【0136】
1.4.7.第2画像記録工程
第2画像記録工程は、積層工程後に行われ、前記インク組成物の液滴を前記ノズルから吐出させて、該液滴を第2記録媒体の他方の面に付着させて画像を記録する工程である。第2記録媒体への画像の記録方法は、第4画像記録工程と同様であるので、その説明を省略する。
【0137】
第2画像記録工程は、積層工程後に行われればよく、上述した第4画像記録工程後に行われてもよいし、第4画像記録工程前に行われてもよい。
【0138】
第2画像記録工程および第3画像記録工程により、第2記録媒体の両面(一方の面および他方の面)に画像の記録された記録物を得ることができる。
【0139】
1.5.作用効果
本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、付着工程または除去工程を有することで、ビーディングの発生が少なく、発色性に優れた画像を記録できる。
【0140】
また、本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、第2記録媒体(第1領域)に付着した第1記録媒体に記録された画像に由来する成分は、上記付着工程または除去工程によって、少なくとも一部が除去される。これにより、本実施形態に係るインクジェット記録方法により得られた記録物は、記録媒体の同一面に同一量の上記インク組成物を付着させた場合おいて、画像内での発色性のばらつきが少なく、良好な画像を備えたものとなる。
【0141】
具体的には、第2画像記録工程おいて、第2記録媒体の他方の面に記録される画像は、第1領域と第2領域に同一量の上記インク組成物を付着させて画像を記録した場合に、第1領域と第2領域とのOD値の差が0.05未満であるという特徴を有することが好ましい。ここで、OD値(Optical Density)は、画像の発色性の指標を示し、分光光度計(例えば、グレタグマクベス社製の「GRETAG SPM50」)を用いて測定することができる。
【0142】
また、本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、同一のインク組成物を用いて、同一の画像記録条件で、複数の記録媒体に画像の記録を行った際に、記録媒体間での面間色差が小さく、良好な画像を記録することができる。
【0143】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、好ましくは、複数の記録媒体の一方の面に連続して画像を記録した後、複数の記録媒体の他方の面に連続して画像を記録する。この方法であれば、多量の枚数の記録媒体の両面印刷を行う場合に、本実施形態の記録方法を採用すれば、複数の記録媒体を1枚ずつ両面印刷するよりも、複数の記録媒体に対する両面印刷を高速に行える。
【0144】
2.実施例
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0145】
2.1.インク組成物の調製
表1に示す各成分を混合・攪拌して、インク組成物を得た。なお、表1に示す各成分は、以下の通りである。
【0146】
【表1】

【0147】
(顔料)
・ブラック顔料(Pigment Black 7)
(分散樹脂類)
・スチレンアクリル系樹脂(重量平均分子量8000、酸価150)
・フルオレン系樹脂(CAS No.117344−32−8で示されるフルオレン骨格を有するモノマーを、モノマー構成比率で約50質量%含有したもの、重量平均分子量3300)
(難水溶性アルカンジオール)
・1,2−オクタンジオール
(水溶性アルカンジオール)
・1,2−ヘキサンジオール
((ポリ)オキシアルキレングリコール)
・ジプロピレングリコール
(アルキルポリオール)
・グリセリン(一気圧下での沸点290℃)
(界面活性剤)
・ポリオルガノシロキサン系界面活性剤(上述した式(1)において、Rがメチル基、aが9〜13の整数、mが2〜4の整数、nが1〜2の整数である化合物と、上述した式(1)において、Rが水素原子、aが7〜11の整数、mが30〜50の整数、nが3〜5の整数である化合物と、からなる界面活性剤)
【0148】
2.2.溶液の調製
表2に示す各成分を混合・攪拌して、溶液1〜3を得た。なお、表2に示す各成分のうち、表1のインク組成物で用いた以外の成分を以下に示す。
【0149】
【表2】

【0150】
(水溶性アルカンジオール)
・1,6−ヘキサンジオール
【0151】
2.3.評価試験
2.3.1.実施例1
(実施例1の評価サンプルの作成)
上記のようにして得られたインク組成物および溶液1〜3を、インクジェットプリンター(商品名PX−G930、セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジに充填し、上記プリンターに装着した。
【0152】
(第1画像記録工程)そして、プリンターのノズルからインク組成物を吐出させて、第1記録媒体(商品名「OKトップコートプラス」、王子製紙株式会社製、印刷本紙)の一方の面に、8×10cmの長方形パッチを印刷した。なお、このときの印刷条件は、画像解像度720×720dpi、ドット重量7ng(1ドット当たり)、インク打ち込み量3.6mg/inchであった。
【0153】
(積層工程)次に、第1記録媒体の一方の面と、第2記録媒体(商品名「OKトップコートプラス」、王子製紙株式会社製、印刷本紙)の他方の面(未印刷面)と、を重ねて、65g/cmの加重を10分間かけた。これにより、第2記録媒体の他方の面には、第1記録媒体の長方形パッチに接触した第1領域と、第1記録媒体の長方形パッチに接触していない第2領域と、が形成された。
【0154】
なお、第1領域に付着した成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)(島津製作所社製、商品名「GCMS−QP5000」)で分析したところ、主として1,2−オクタンジオールであった。
【0155】
(付着工程)10分後、プリンターのノズルから溶液1を吐出させて、第2記録媒体の他方の面の全面に溶液1を付着させた。なお、このときの印刷条件は、画像解像度720×720dpi、ドット重量7ng(1ドット当たり)、溶液1の打ち込み量を1.5mg/inchとした。
【0156】
(第2画像記録工程)次に、第2記録媒体の他方の面に、プリンターのノズルからインク組成物を吐出させて、ベタパターン画像を印刷した。このようにして、実施例1の評価サンプルを作成した。なお、このときの印刷条件は、画像解像度720×720dpi、ドット重量3ng(1ドット当たり)、インク打ち込み量1.5mg/inchであった。
【0157】
(OD値の面間差の測定)
第3記録媒体(商品名「OKトップコートプラス」、王子製紙株式会社製、印刷本紙)の一方の面に、上記プリンターのノズルから上記インク組成物を吐出させて、ベタパターン画像を印刷した。このときの印刷条件は、上記「(第2画像記録工程)」と同様にした。このようにして得られた第3記録媒体の一方の面に記録された画像と、実施例1の評価サンプル(第2記録媒体)の第1領域に記録された画像と、のOD値を測定して、これらの差(OD値の面間差)を求めた。OD値の測定には、分光光度計(商品名「GRETAG SPM50」、グレタグマクベス社製)を用いた。
【0158】
(面間色差の測定)
上記の「(OD値の面間差の測定)」で得られた第3記録媒体の一方の面に記録された画像と、実施例1の評価サンプル(第2記録媒体)の第1領域に記録された画像と、の色差(ΔE)を測定して、これを面間色差(ΔE)とした。色差の測定には、分光光度計(商品名「GRETAG SPM50」、グレタグマクベス社製)を用いた。
【0159】
(OD値の面内差の測定)
実施例1の評価サンプル(第2記録媒体)の第1領域および第2領域のそれぞれのOD値を測定して、これらの差(OD値の面内差)を求めた。OD値の測定には、分光光度計(商品名「GRETAG SPM50」、グレタグマクベス社製)を用いた。
【0160】
(面内色差の測定)
第2記録媒体の第1領域と、第2記録媒体の第2領域と、の色差(ΔE)を測定して、これを面内色差とした。色差の測定には、分光光度計(商品名「GRETAG SPM50」、グレタグマクベス社製)を用いた。
【0161】
(ビーディングの測定)
第2画像記録工程時に、Dutyを変化させた以外は同様にして、第2記録媒体の他方の面にベタパターン画像を印刷した。このようようして得られたビーディング評価用のサンプルの第1領域に印刷された画像について、下記の基準により評価を行った。
A:100%Dutyまでがビーディングなく再現できている。
B:80%Dutyまでがビーディングなく再現できている。
【0162】
2.3.2.実施例2
実施例2の評価サンプルの作成では、上記「実施例1の評価サンプルの作成」における(付着工程)に代えて、下記(除去工程)を行った以外は、上記「(実施例1の評価サンプルの作成)」と同様にした。このようにして得られた実施例2の評価サンプルについて、実施例1と同様の方法で、OD値の面間差、面間色差、OD値の面内差、面内色差、ビーディングを測定した。
【0163】
(除去工程)
上記(積層工程)後、第2記録媒体の他方の面に、80℃の温風を30秒間あてて、第2記録媒体を加熱した。
【0164】
2.3.3.実施例3
実施例3の評価サンプルの作成では、上記「2.3.2.実施例2」における除去工程において、温風をあてる時間を90秒とした以外は、上記「2.3.2.実施例2」と同様にした。このようにして得られた実施例3の評価サンプルについて、実施例1と同様の方法で、OD値の面間差、面間色差、OD値の面内差、面内色差、ビーディングを測定した。
【0165】
2.3.4.実施例4
実施例4の評価サンプルの作成では、上記「2.3.2.実施例2」における除去工程において、温風をあてる時間を300秒とした以外は、上記「2.3.2.実施例2」と同様にした。このようにして得られた実施例4の評価サンプルについて、実施例1と同様の方法で、OD値の面間差、面間色差、OD値の面内差、面内色差、ビーディングを測定した。
【0166】
2.3.5.比較例1
比較例1の評価サンプルの作成では、溶液1に代えて溶液2を使用した以外は、上記「(実施例1の評価サンプルの作成)」と同様にした。このようにして得られた比較例1の評価サンプルについて、実施例1と同様の方法で、OD値の面間差、面間色差、OD値の面内差、面内色差、ビーディングを測定した。
【0167】
2.3.6.比較例2
比較例2の評価サンプルの作成では、溶液1に代えて溶液3を使用した以外は、上記「(実施例1の評価サンプルの作成)」と同様にした。このようにして得られた比較例2の評価サンプルについて、実施例1と同様の方法で、OD値の面間差、面間色差、OD値の面内差、面内色差、ビーディングを測定した。
【0168】
2.3.7.比較例3
比較例3の評価サンプルの作成では、付着工程を実施しなかった以外は、上記「(実施例1の評価サンプルの作成)」と同様にした。このようにして得られた比較例3の評価サンプルについて、実施例1と同様の方法で、OD値の面内差、面内色差、ビーディングを測定した。
【0169】
2.4.評価結果
以上の実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の評価結果を表3に、実施例2、実施例3、実施例4の評価結果を表4に示す。
【0170】
【表3】

【0171】
【表4】

【0172】
表3および表4に示すように、実施例1〜実施例4の評価サンプルの作成によって得られた画像(第2記録媒体の他方の面に記録された画像)は、いずれも、OD値の面間差、面間色差、OD値の面内差、面内色差も少なく、かつ、ビーディングの発生もほとんどなく、良好なものであることが示された。
【0173】
一方、比較例1の評価サンプルの作成に用いた溶液2は、水溶性の1,2−アルカンジオールが含まれていない。そのため、比較例1の評価サンプルの作成によって得られた画像(第2記録媒体の他方の面に記録された画像)は、面間色差、OD値の面間差が高く、ビーディングの発生がみられた。
【0174】
また、比較例2の評価サンプルの作成に用いた溶液3は、グリセリン(沸点が280℃以上のアルキルポリオール)を含有する。そのため、比較例2の評価サンプルの作成によって得られた画像(第2記録媒体の他方の面に記録された画像)は、OD値の面内差、面内色差が高く、ビーディングの発生がみられた。
【0175】
比較例3の評価サンプルの作成には、上述した付着工程および除去工程が実施されていない。そのため、上記積層工程で、第2記録媒体の第1領域に付着した難水溶性のアルカンジオールを除去できなかった。その結果、比較例3の評価サンプルの作成によって得られた画像(第2記録媒体の他方の面に記録された画像)は、いずれも、OD値の面内色差が0.05を超えており、かつ、面内色差も非常に高いものであった。
【0176】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0177】
1…プリンター、2…ヘッド、3…インクカートリッジ、4…キャリッジ、5…プラテン、7…キャリッジ移動機構、8…媒体送り機構、9…ガイドロッド、10…リニアエンコーダ、CONT…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインク非吸収性または低吸収性の記録媒体の面に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
難水溶性のアルカンジオールと、水溶性のアルカンジオールと、色材と、水と、を含有するインク組成物の液滴をノズルから吐出させて、該液滴を第1記録媒体の一方の面に付着させて画像を記録する第1画像記録工程と、
前記第1記録媒体の一方の面と、前記第2記録媒体の他方の面と、を接触させて、該第1記録媒体および該第2記録媒体を積層させる積層工程と、
前記インク組成物の液滴を前記ノズルから吐出させて、該液滴を第2記録媒体の他方の面に付着させて画像を記録する第2画像記録工程と、
をこの順序で含み、
前記第2画像記録工程の前に、
1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含有しない溶液を、前記第2記録媒体の他方の面に付着させる付着工程、および
前記2記録媒体の他方の面に付着した成分を除去する除去工程、の少なくとも一方を含む、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記積層工程によって、前記第2記録媒体の他方の面には、前記第1記録媒体の一方の面に記録された画像に接触して、該画像に含まれる成分が付着した第1領域と、前記第1記録媒体の一方の面に記録された画像に接触せず、該画像に含まれる成分が付着しない第2領域と、が生じ、
前記第2画像記録工程において、前記第1領域と前記第2領域に同一量の前記インク組成物を付着させて画像を記録した場合に、前記第1領域と前記第2領域とのOD値の差が、0.05未満である、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記インク組成物の液滴を前記ノズルから吐出させて、該液滴を第2記録媒体の一方の面に付着させて画像を記録する第3画像記録工程と、
前記インク組成物の液滴を前記ノズルから吐出させて、該液滴を第1記録媒体の他方の面に付着させて画像を記録する第4画像記録工程と、を含む、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記付着工程において、前記第2記録媒体の他方の面に付着させる前記溶液の量は、1mg/inch以上4mg/inch以下である、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記除去工程における除去は、前記第2記録媒体の他方の面を乾燥することにより行われる、インクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記積層工程において、前記2記録媒体の他方の面に付着した成分は、前記難水溶性のアルカンジオールである、インクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
前記難水溶性のアルカンジオールは、1,2−オクタンジオールである、インクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法によって記録された記録物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18162(P2013−18162A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152145(P2011−152145)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】