説明

インクジェット記録物及びインクジェット記録方法

【課題】ハジキの発生を抑制できるインクジェット記録物を提供する。
【解決手段】被記録媒体と、前記被記録媒体に印刷された光硬化型インクと、を含むイン
クジェット記録物であって、前記光硬化型インクがHLB5〜8のポリエーテル変性シリ
コーンを含み、前記被記録媒体の濡れ張力に対する前記光硬化型インクの表面張力の比が
1未満であるインクジェット記録物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録物及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、ノズルよりインクを吐出し、被記録媒体に付着させる方式
であり、当該ノズルと被記録媒体が非接触状態にあるため、曲面や凹凸のある不規則な形
状を有する表面に対して、良好な印刷を行うことができる。このため、産業用途で広範囲
にわたる利用分野が期待されている記録方式である。
【0003】
このようなインクジェット記録方式の中でも、無溶媒系インクに分類される光硬化型イ
ンクを被記録媒体上に印刷する方式が近年注目を集めている。この方式は、印刷直後に紫
外線などの活性エネルギー線を照射してインクを硬化させ、被記録媒体にインクを定着さ
せる方式であり、インクの定着に際して溶媒の移動を伴わないため定着速度に優れている
。このような記録方式を利用した技術として、特許文献1には、紫外線硬化型インクの粘
度を28.8cPs以上、かつ紫外線硬化型インクの表面張力を被印刷基材の濡れ指数(
濡れ張力)以上になるよう調整することにより得られる厚膜印刷物が開示されている。
【0004】
また、近年では、ガラスや金属などの非吸収材料面を有する被記録媒体上に光硬化型イ
ンクを印刷する方式が利用されている。ところが、従来の光硬化型インクは当該非吸収材
料面への濡れ性が不十分であり、印刷面及びインクの重ね塗りをした際の界面でインクの
撥水(以下、「ハジキ」(repelling)という。)が発生するため、鮮明なカラ
ー画像を得ることができない。そこで、このハジキの発生を防止するために様々な試みが
なされている。
【0005】
特許文献2には、印刷インクに芳香環有機溶剤を含ませ、その濡れ指数を32〜36に
調整することにより、印刷インクの上塗りとして水性のワニスをコートしてもハジキの発
生を防止できる技術が開示されている。特許文献3には、紫外線硬化型インクジェット記
録用インク組成物に、HLBが11.0以下のポリエーテル側鎖変性ポリジメチルシロキ
サン界面活性剤を添加することにより、非吸収メディアに対してハジキの発生を防止でき
、インクを重ね塗りした場合でも耐ハジキ性が良好な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3494399号明細書
【特許文献2】特開平5−156195号公報
【特許文献3】特開2003−147233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術においては、ハジキが発生しやすいという
問題がある。また、上記特許文献2、3に開示の技術は、それらが開示している条件で記
録物を作製しても、ハジキの発生する場合があるため、ハジキを抑制する技術として実用
上採用可能なレベルに達したとはいい難い。
【0008】
そこで、本発明は、ハジキの発生を抑制できるインクジェット記録物を提供することを
目的の一つとする。
また、本発明は、ハジキの発生を抑制できるインクジェット記録方法を提供することを
目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、上記特許文献1におい
てハジキの発生しやすい原因が、インクの表面張力が被印刷基材(被記録媒体)の濡れ張
力(濡れ指数)以上であるという点にあることを突き止めた。そして、インクの表面張力
を被記録媒体の濡れ張力未満とすることにより、ハジキの発生を一層防止できる記録物が
得られることを見出した。これに加えて、ハジキの発生を抑制できるインクジェット記録
物を得るためには、インクの表面張力の調整方法がポイントになることを突き止めた。そ
して、光硬化型インクに特定のポリエーテル変性シリコーンを含ませてその表面張力を調
整することにより、ハジキの発生を抑制できるインクジェット記録物が得られることを見
出した。このようにして、本発明者らは本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
被記録媒体と、前記被記録媒体に印刷された光硬化型インクと、を含むインクジェット
記録物であって、前記光硬化型インクがHLB5〜8のポリエーテル変性シリコーンを含
み、前記被記録媒体の濡れ張力に対する前記光硬化型インクの表面張力の比が1未満であ
る、インクジェット記録物。
[2]
前記被記録媒体が、合成樹脂を含む、[1]に記載のインクジェット記録物。
[3]
光硬化型インクを被記録媒体上に印刷するインクジェット記録方法であって、HLB5
〜8のポリエーテル変性シリコーンを含み、かつ、被記録媒体の濡れ張力に対する比が1
未満の表面張力を有する光硬化型インクを、前記被記録媒体上に吐出する吐出工程と、前
記吐出工程により吐出された前記光硬化型インクに活性放射線を照射して、前記光硬化型
インクを硬化する硬化工程と、を含む、インクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の
実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することがで
きる。
【0012】
[インクジェット記録物]
本発明の一実施形態は、被記録媒体と、前記被記録媒体に印刷された光硬化型インクと
を含むインクジェット記録物に係る。当該インクジェット記録物において、前記光硬化型
インクがHLB5〜8のポリエーテル変性シリコーンを含み、前記被記録媒体の濡れ張力
に対する前記光硬化型インクの表面張力の比が1未満である。
なお、以下では、被記録媒体の濡れ張力に対する光硬化型インクの表面張力の比を、単
に「表面張力/濡れ張力」と表すこともある。また、表面張力及び濡れ張力の単位は同一
である。
【0013】
〔光硬化型インク〕
本実施形態のインクジェット記録物を得る際に用いる光硬化型インクは、光重合性化合
物と、光重合開始剤と、ポリエーテル変性シリコーンとを含む組成物である。これらの各
成分の種類及び含有比を変えながらインクを調製することにより、所定の表面張力を有す
る光硬化型インクを得ることができる。当該光硬化型インクはインクジェット記録物を得
る際に用いられるので、光硬化型インクジェット記録用インク組成物と称することができ
る。
以下、本実施形態における光硬化型インクを構成するか又は構成し得る、各成分を詳細
に説明する。
【0014】
(ポリエーテル変性シリコーン)
上記ポリエーテル変性シリコーンは界面活性剤(表面張力調整剤)として使用される。
上記ポリエーテル変性シリコーンは、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部にポリエ
ーテル基を導入したものであり、かつ、HLB5〜8のものが挙げられる。
なお、本明細書における「HLB」とは、ポリエーテル変性シリコーンの親水性・疎水
性バランスを数値的に示したものであって、value of hydrophile a
nd liophile balanceの略称である。また、本明細書における「HLB
」は、後述の実施例において行った方法により測定される。
【0015】
本発明者は、ノニオン系、アニオン系及びシリコーン系などの種々の界面活性剤につい
て検討を行った。その結果、下記の点を明らかにした。
インクの表面張力を調整し、ガラスや金属などの非吸収材料面における濡れ性を改良し
、さらに被記録材料面に着弾したインクの重ね塗りにおけるハジキ防止をも同時に実現す
るためには、HLB5〜8のポリエーテル変性シリコーンを使用する必要がある。さらに
、光硬化性化合物への相溶性及び親和性の点からも、ポリエーテル変性シリコーンは優れ
ている。
【0016】
ハジキの抑制の観点から、上記ポリエーテル変性シリコーンのHLBは5〜8の範囲に
あることが必要である。HLBが5〜8の場合、ガラスや金属などの非吸収材料面におけ
る濡れ性を良好にし、かつ、インクの重ね塗りにおけるハジキを効果的に防止できる。こ
のようなポリエーテル変性シリコーンを含む光硬化型インクを用いると、ガラスや金属な
どの非吸収材料面に対するより優れた濡れ性を持たせることができ、インクの重ね塗りに
関しても、ハジキを防止する効果が増大して一層良好な多色画像を形成することができる

HLBが5〜8の範囲にあるポリエーテル変性シリコーンは常法によって合成しても市
販品を入手してもよく、市販品として、例えば、TSF4446(モメンティブ・パフォ
ーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社(Momentive Performance Materials Inc.)
製)、FZ720、DC57(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン社(Dow Cornin
g Toray Co.,Ltd.)製)が挙げられる。
【0017】
ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、光硬化型インクの総量に対し、0.01〜5
質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%である。含有量が上記範囲内である
と、基材への濡れ性及びブリード特性が一層良好になる。
【0018】
(光重合性化合物)
上記光重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により光照射時に重合して、印刷
されたインクを硬化させることができる。
光重合性化合物として、特に限定されないが、従来公知のモノマー及びオリゴマーが挙
げられる。
【0019】
ここで、本明細書における「モノマー」とは、数平均分子量が100〜3,000の分
子を意味する。本明細書における「オリゴマー」とは、数平均分子量が500〜20,0
00の分子を意味する。ここで、本明細書における数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグ
ラフィ(GPC)法に従って測定される。
【0020】
上記モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、N−ビニルカプロラクタム等の
窒素原子を有するモノマー、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロト
ン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド
及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。
【0021】
上記オリゴマーとしては、特に限定されないが、例えば、窒素原子を有するオリゴマー
及び直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(
メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、並びに芳香族ウレタン(メ
タ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
これらの中でも、光重合性化合物は、窒素原子を有するモノマー、及び(メタ)アクリ
ル酸のエステル(以下、「(メタ)アクリレート」という。)のうち少なくともいずれか
が好ましい。光重合性化合物としてこれらの成分を使用した場合、インクの硬化性、及び
硬化膜の被記録媒体への密着性を良好にすることができる。
なお、本明細書における「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応す
るメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタク
リルを意味する。
【0023】
窒素原子を有するモノマーとして、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルア
ミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレー
ト、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1−ジメチルメチル(メタ)アクリレート、
N,N−ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル
(メタ)アクリレート、N,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N
,N−ジ−n−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−i−ブチルアミ
ノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、ピペリジノエ
チル(メタ)アクリレート、1−ピロリジノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチ
ル−2−ピロリジルアミノエチル(メタ)アクリレート及びN,N−メチルフェニルアミ
ノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、ジメチル(メタ)アクリル
アミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジ
−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、ジ−i−ブチル(メタ)アクリルアミド、モルホ
リノ(メタ)アクリルアミド、ピペリジノ(メタ)アクリルアミド、N−メチル−2−ピ
ロリジル(メタ)アクリルアミド及びN,N−メチルフェニル(メタ)アクリルアミド等
の(メタ)アクリルアミド類、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリル
アミド、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N
−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)
プロピル(メタ)アクリルアミド、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1−ジメチル
メチル(メタ)アクリルアミド及び6−(N,N−ジエチルアミノ)ヘキシル(メタ)ア
クリルアミド等のアミノアルキル(メタ)アクリルアミド類、p−ビニルベンジル−N,
N−ジメチルアミン、p−ビニルベンジル−N,N−ジエチルアミン、p−ビニルベンジ
ル−N,N−ジヘキシルアミン等のビニルベンジルアミン類、N,N−ジメチル−4−ビ
ニルベンズアミド、N,N−ジプロピル4−ビニルベンズアミド及びN,N−ジオクチル
4−ビニルベンズアミド等のビニルベンズアミド類、並びに、2−ビニルピリジン、4−
ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、及びN−ビニルカプロラクタムが挙げられる

【0024】
これらの中でも、N−ビニルカプロラクタムが好ましい。N−ビニルカプロラクタムは
、安全性に優れるとともに、汎用的で安価に入手できる。また、光硬化型インクがN−ビ
ニルカプロラクタムを含有することにより、インクの硬化性、及び硬化膜の被記録媒体へ
の密着性に優れたものとなる。
【0025】
一方、(メタ)アクリレートとしては、窒素原子を有しない単官能、2官能、及び3官
能以上の多官能の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0026】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定さ
れないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート
、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アク
リレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イ
ソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリ
レート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレ
ート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコ
ール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェ
ノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イ
ソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒ
ドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メ
タ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキ
シル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテ
ニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げ
られる。
【0027】
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定さ
れないが、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレング
リコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ト
リプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)ア
クリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオー
ルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロ
ール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオ
キサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサ
イド)付加物ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)
アクリレート、及びヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレー
トが挙げられる。
【0028】
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては
、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、E
O変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(
メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリ
スリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アク
リレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメ
チロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メ
タ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アク
リレートが挙げられる。
【0029】
これらの中でも、硬化時の塗膜の伸び性が高く、かつ低粘度であるため、特にインクジ
ェット記録時の射出安定性が得られやすいという効果が得られることから、(メタ)アク
リレートは単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。さらに塗膜の硬さが増す
という観点から、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用す
ることがより好ましい。
【0030】
上記の光重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
光重合性化合物の含有量は、光硬化型インクの総量に対し、1〜20質量%が好ましく
、より好ましくは3〜10質量%である。含有量が上記範囲内であると、保存安定性及び
硬化性が一層良好になる。
【0031】
(光重合開始剤)
上記光重合開始剤は、活性放射線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存
在するインクを硬化させて画像を形成するために用いられる。ここで、上記活性放射線と
しては、α線、β線、γ線、電子線、X線、紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げ
られる。中でも、紫外線が好ましい。
【0032】
光重合開始剤として、光照射により分解してラジカルを発生するもの(以下、「ラジカ
ル重合開始剤」という。)、及び光照射により分解してカチオンを発生するもの(以下、
「カチオン重合開始剤」という。)が挙げられる。例えば、特開2008−201876
号公報、特開2002−80581号公報、及び特開2003−202438号公報には
、ラジカル重合開始剤及びカチオン重合開始剤が詳細に開示されている。当該公報に開示
されたラジカル重合開始剤及びカチオン重合開始剤は、参照によって本願に取り込まれる
。以下、ラジカル重合開始剤及びカチオン重合開始剤を詳細に説明する。
【0033】
まず、上記のラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ケト
ン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、
ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、
アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する
化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0034】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタ
ール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニ
ルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アント
ラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロ
ベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェ
ノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベン
ジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチ
ルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ク
ロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリ
ノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォス
フィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキ
サイド、2,4−ジエチルチオキサントン、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−
2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、エチルへキシル−4−ジメチル
アミノベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、2−ベンジル−2ジメチルアミノ−
1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1が挙げられる。
【0035】
ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−
ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−
ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCURE 1173(2−
ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2
959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メ
チル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{
4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2
−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−
メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 3
69(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノ
ン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフ
ェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DA
ROCURE TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィン
オキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)
−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4
−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール
−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オ
クタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、
IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベン
ゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IR
GACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキ
シエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エ
チルエステルの混合物)、Speedcure PBz(4−フェニルベンゾフェノン)
、DAROCURE EHA(エチルへキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート)(以
上、チバ・ジャパン社(Ciba Japan K.K.)製)、DETX−S(2,4−ジエチルチオ
キサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO
、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、ユベクリルP36(UCB社製
)、及びQuantacure ITX(イソプロピルチオキサントン)(ビドル・ソイ
ヤー社(Biddle Sawyer Corporation)製)が挙げられる。
【0036】
次に、上記のカチオン重合開始剤としては、特に限定されないが、下記一般式(1)で
表される構造を有するオニウム塩を挙げることができる。
[R12131415W]m+[MX(n+m)m− ・・・(1)
式中、WはS原子、Se原子、Te原子、P原子、As原子、Sb原子、Bi原子、O原
子、ハロゲン原子(例えばI原子、Br原子、Cl原子)、又は、−N≡N(ジアゾ)
である。R12、R13、R14及びR15は同一又は異なる有機基である。a、b、c
及びdはそれぞれ0〜3の整数であって、(a+b+c+d)はWの価数に等しい。他方
、Mは、ハロゲン化物錯体[MX(n+m)]の中心原子を構成する金属原子又はメタロ
イド原子であり、特に限定されないが、例えば、B原子、P原子、As原子、Sb原子、
Fe原子、Sn原子、Bi原子、Al原子、Ca原子、In原子、Ti原子、Zn原子、
Sc原子、V原子、Cr原子、Mn原子又はCo原子である。Xはハロゲン原子であれば
特に限定されないが、例えば、F原子、Cl原子又はBr原子であり、mはハロゲン化物
錯体イオンの正味の電荷であり、nはMの原子価である。
【0037】
ここで、上記オニウム塩は、光を受けることによりルイス酸を放出する化合物である。
【0038】
一般式(1)における、カチオンであるオニウムイオン(R121314
15W)m+の具体例として、特に限定されないが、ジフェニルヨードニウム、4−メ
トキシジフェニルヨードニウム、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−
tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、ト
リフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス
[4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル]スルフィド、ビス[4−(ジ(4−(2
−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル]スルフィド、η−2,4−
(シクロペンタジェニル)[1,2,3,4,5,6−η−(メチルエチル)−ベンゼン
]−鉄(1+)が挙げられる。
【0039】
一般式(1)における陰イオン(MX(n+m)m−の具体例として、特に限定され
ないが、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF
)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)、ヘキサフルオロアルセネート(As
)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl)が挙げられる。
【0040】
上記のオニウム塩として、一般式(1)において、[MX(n+m)m−の代わりに
下記一般式(2)で表される陰イオン、過塩素酸イオン(ClO)、トリフルオロメ
タンスルフォン酸イオン(CFSO)、フルオロスルフォン酸イオン(FSO
)、トルエンスルフォン酸イオン、トリニトロベンゼンスルフォン酸イオン、トリニトロ
トルエンスルフォン酸イオン等の他の陰イオンを有するオニウム塩が挙げられる。
[MX(OH)] ・・・(2)
ここで、式中、M、X及びnは、それぞれ一般式(1)に示したものと同義である。
【0041】
カチオン重合開始剤の市販品として、特に限定されないが、例えば、UVI−6950
、UVI−6970、UVI−6974、UVI−6990(以上、ユニオンカーバイド
社(Union Carbide Corporation)製)、アデカオプトマーSP−150、SP−151
、SP−170、SP−171(以上、旭電化工業社(ADEKA CORPORATION)製)、Ir
gacure 261(以上、チバガイギー社(Nihon Ciba-Geigy K.K)製)、CI−2
481、CI−2624、CI−2639、CI−2064(以上、日本曹達社(Nippon
Soda Co., Ltd.)製)、CD−1010、CD−1011、CD−1012(以上、サ
ートマー社(Sartomer Company Inc.)製)、DTS−102、DTS−103、NAT
−103、NDS−103、TPS−102、TPS−103、MDS−103、MPI
−103、BBI−101、BBI−102、BBI−103(以上、みどり化学社(Mi
dori Kagaku Co.,Ltd.)製)、Degacure K126(デグサ社(Degussa AG)製
)が挙げられる。
【0042】
上記の光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよ
い。
上記の光重合開始剤の含有量は、光硬化型インクの総量に対し、1〜20質量%が好ま
しく、より好ましくは3〜10質量%である。含有量が上記範囲内であると、保存安定性
及び硬化性が一層良好になる。
【0043】
(着色剤)
本実施形態における光硬化型インクを着色する場合には、そのインクに染料及び顔料の
うち少なくともいずれかの着色剤を混合することができる。
【0044】
上記の染料としては、従来からインクジェット記録用の光硬化型インクにおいて使用さ
れている各種の染料を用いることができる。当該染料として、特に限定されないが、例え
ば、アゾ染料、フタロシアニン染料等の直接染料、及びアントラキノン系染料等の酸性染
料が挙げられる。
【0045】
上記の顔料としては、従来からインクジェット記録用の光硬化型インクにおいて使用さ
れている各種の有機顔料及び無機顔料を使用することができる。当該顔料として、特に限
定されないが、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料やキレートアゾ顔料
等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、アントセキノン顔料、キナクリドン
顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料やキノフタロン顔料
等の多環式顔料、塩基性染料型レーキや酸性染料型レーキ等の染料レーキ、ニトロ顔料、
ニトロソ顔料、アニリンブラック、及び昼光蛍光顔料などの有機顔料、並びに酸化チタン
、酸化鉄系及びカーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。これらの顔料は、光硬化
型インクの総量に対し、0.1〜25質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0046】
(上記以外の成分)
本実施形態における光硬化型インクは、上記以外の成分を含んでもよい。本実施形態に
おける光硬化型インクは、粘度等の物性の調整や、顔料の分散安定化のために、アクリル
系樹脂、シリコーン樹脂、アセチレングリコール系化合物、アミン類、塩類、酸類等を添
加剤として含んでもよい。また、粘度等の調整の目的で、溶剤を含んでもよい。当該溶剤
としては、ケトン、エステル、エーテル、アルコール等が挙げられる。また、本実施形態
における光硬化型インクは、例えば従来公知の、重合促進剤、増感色素、紫外線吸収剤、
ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、重合禁止剤、定着剤、防黴剤及び防腐剤を含ん
でもよい。
続いて、以下では本実施形態における光硬化型インクの物性を詳細に説明する。
【0047】
〔光硬化型インクの物性〕
上記光硬化型インクの表面張力は、被記録媒体の濡れ張力と相関するため、被記録媒体
の種類により適切な表面張力が変化することから、特に制限されないが、好ましくは20
〜40mN/mである。ここで、本明細書における表面張力は、後述の実施例の項で示し
た方法により測定される。
【0048】
〔被記録媒体〕
本実施形態のインクジェット記録物に含まれる被記録媒体の材質として、特に限定され
ないが、例えば、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレ
フタレート、アクリルブタジエンスチレン共重合体、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂と
いった合成樹脂、並びにガラス、金属及びセラミックが挙げられる。中でも、合成樹脂が
好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
上記被記録媒体を構成する材質は、1種単独でもよく、2種以上を混合して用いてもよ
い。
【0049】
被記録媒体の濡れ張力は、上記の被記録媒体の材質及び表面粗さによって決まる。被記
録媒体の表面粗さは特に限定されない。この濡れ張力に対して、「表面張力/濡れ張力」
が1未満となるように、表面張力が調整された光硬化型インクを用いればよい。
なお、本明細書における「濡れ張力」は、後述の実施例の項で示したとおり、ダイン測
定ペン(VETAPHONE社製)を用いて測定した。具体的にいえば、まず、ダイン測
定ペンで基材に線を描く。そして、2秒経過した時点でインクが弾かれずに元の状態を維
持している時、インクは濡れていると判定する。なお、ダイン測定ペンのインクの表面張
力は所定の値に調整されている。
【0050】
〔光硬化型インクの表面張力と被記録媒体の濡れ張力との関係〕
光硬化型インクを被記録媒体上にインクジェット印刷する際、「表面張力/濡れ張力」
が1未満となるような、特定の光硬化型インク及び被記録媒体を用いることによって、ハ
ジキの発生を抑制したインクジェット記録物が得られる。「表面張力/濡れ張力」が1未
満の場合、光硬化型インクと被記録媒体との相性が優れるため、ハジキが発生しないよう
に制御可能なインクジェット記録物が得られることを、本発明者らは見出したのである。
【0051】
また、「表面張力/濡れ張力」は、0.5〜0.9が好ましい。「表面張力/濡れ張力
」が上記範囲内であると、光硬化型インクと被記録媒体との相性がより優れたものとなる
ため、ハジキの発生を一層好適に抑制できるインクジェット記録物が得られる。
【0052】
このように、本実施形態は、ハジキの発生を抑制できる制御可能なインクジェット記録
物を提供することができる。
【0053】
[インクジェット記録方法]
本発明の他の実施形態は、光硬化型インクを被記録媒体上に印刷するインクジェット記
録方法に係る。当該インクジェット記録方法は、吐出工程及び硬化工程の2つの工程を含
む。まず、吐出工程においては、HLB5〜8のポリエーテル変性シリコーンを含み、か
つ、被記録媒体の濡れ張力に対する比が1未満の表面張力を有する光硬化型インクを、前
記被記録媒体上に吐出して塗布する。次に、硬化工程においては、前記吐出工程により吐
出され塗布された前記光硬化型インクに活性放射線を照射して、前記光硬化型インクを硬
化する。このようにして、被記録媒体上で硬化したインクにより、画像が形成される。
以下、上記の各工程を詳細に説明するが、上記のインクジェット記録物に係る実施形態
の項において既に説明した事項は、本実施形態においても同様であるため、重複した説明
を省略する。
【0054】
〔吐出工程〕
上記吐出工程においては、従来公知のインクジェット記録装置を用いることができる。
インクの吐出は、インクの粘度を所定値まで下げた後にインクを所定温度に加熱すること
によって行うのが好ましい。所定値は、適宜調整されればよい。このようにして、良好な
吐出安定性が実現される。
【0055】
上記のインクのような光硬化型インクは、通常のインクジェット記録用インクで使用さ
れる水性インクより粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。上記イ
ンクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え
、ひいては画質劣化を引き起こし得る。従って、吐出時のインクの温度はできるだけ一定
に保つことが好ましい。このインクの温度の制御幅は、適宜調整されればよい。
【0056】
吐出されたインクは、被記録媒体の表面に直接塗布されてもよいし、被記録媒体の表面
に既に形成された塗膜に対して上塗りされてもよい。後者の手法はオーバーコーティング
又はインクの重ね塗りと称することもできる。オーバーコーティングのパターンとして、
例えば、ブラック等の着色インクの上にクリアインクを上塗りすることや、ホワイトイン
クの上にカラーインクを上塗りすることが挙げられる。
【0057】
〔硬化工程〕
次に、上記硬化工程においては、被記録媒体上に塗布されたインクに対して活性放射線
を照射することによって、そのインクが硬化する。これは、インクに含まれる重合開始剤
が活性放射線の照射により分解して、ラジカル、カチオン及びアニオンなどの開始種を発
生し、その開始種が光重合性化合物の重合反応を進めることによる。このとき、インクに
おいて重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が活性放射線を吸収して
励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進させ、より
高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0058】
複数色のインクを用いて印刷を行う場合、複数色のインクを塗布した後に被記録媒体に
活性放射線を照射してもよく、1色ごとに活性放射線を照射する工程を色ごとに繰り返し
てもよい。
【0059】
ここで、上記の活性放射線としては、上述のとおり、α線、β線、γ線、電子線、X線
、紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げられ、好ましくは紫外線(UV)である。
【0060】
活性放射線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、光
硬化型インクジェット記録用インクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタ
ルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー
化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的
にも非常に有用である。さらに、LED(UV−LED)及びLD(UV−LD)は小型
、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット記録用光源として期待され
ている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0061】
また、発光ダイオード(LED)及びレーザーダイオード(LD)を活性放射線源とし
て用いることが可能である。特に、紫外線源を要する場合、紫外LED及び紫外LDを使
用することができる。
【0062】
このようにして、上記実施形態における光硬化型インクを活性放射線の照射により高感
度で硬化することにより、被記録媒体の表面に画像を形成することができる。そして、本
実施形態は、ハジキの発生を抑制できるインクジェット記録方法を提供することができる

【実施例】
【0063】
以下、上記の実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施
形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示す通りである。
〔光重合性化合物〕
・トリデシルアクリレート(SR489、SARTOMER社製)
・N−ビニルカプロラクタム(ビニルカプロラクタム、BASF社製)
・プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート(SR9003、SARTOME
R社製)
〔光重合開始剤〕
・ITX(Speedcure ITX、Lambson社製)
・Speedcure PBz(Speedcure PBz、Lambson社製)
・IRGACURE 369(チバ・ジャパン社製)
・Darocure EHA(チバ・ジャパン社製)
〔界面活性剤〕
(ポリエーテル変性シリコーン)
・TSF4446(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製

・FZ720(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)
・DC57(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)
・FZ2207(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)
・FZ2162(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)
・KF351(信越化学工業社(Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.)製)
(その他の界面活性剤)
・サーフィノール104(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオー
ル)(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry Co., Ltd.)製)
〔被記録媒体〕
ポリプロピレンメディア(PP)(BA2076、Lambson社製、濡れ張力32
mN/m)
【0065】
[実施例1〜3、比較例1〜6]
〔インクの作製及び硬化〕
まず、顔料分散液を調製した。着色剤としてシアン顔料(IRGALITE BLUE GLVO、チバ・
ジャパン株式会社製)15質量部、分散剤としてSolsperse36000(LUBRIZ
OL社製)1.2質量部に、フェノキシエチルアクリレート(V#192、大阪有機化学工
業社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL IND. LTD.)製)を加えて全体を100質量部とした。こ
れを混合撹拌して混合物とした。この混合物を、サンドミル(安川製作所社(YASUKAWA S
EISAKUSHO CO., LTD.)製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時
間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータで分離することにより、実
施例及び比較例で使用するシアン顔料分散液を得た。
【0066】
次に、表1に種類及び使用量を質量部で記載した光重合性化合物、光重合開始剤及び界
面活性剤を調合後、スターラーを用いて混合攪拌し、インクジェット記録用の光硬化型イ
ンク(紫外線硬化型インク)を作製した。なお、表中の空欄部分は無添加を意味する。
その後、ポリプロピレンメディアBA2076(エイブリーデニソン社(Avery Dennis
on Corporation)製)上に紫外線硬化インクをバーコーターで膜厚10μmとなるように
塗布し、ベルトスピード10m/minの条件の下、ベルトコンベア式UV照射装置(EC
S-151U、アイグラフィックス社(EYE GRAPHICS CO., LTD.)製)を用いて硬化させた。硬
化の際のUVの照射エネルギーは、照度計(UVPE−A1+PD365センサー、アイ
グラフィックス社製)を用いて測定したところ、約100mJ/cmであった。
【0067】
以下、実施した測定の方法を説明する。結果は下記表1に示す。
【0068】
(1.ポリエーテル変性シリコーンのHLB値)
HLBは、デイビス法及びグリフィン法などの計算により決定することができる。算出
結果を下記表1に示す。
【0069】
(2.インクの表面張力)
得られたインクの表面張力を、25℃±2℃の条件で、表面張力測定装置(CBVP−
Z、協和界面科学社(Kyowa Interface Science Co., Ltd)製)によって測定した。測定
結果を下記表1に示す。
【0070】
(3.表面張力/濡れ張力)
表1に「比」と記載した「表面張力/濡れ張力」は、上記「2.」で求めた表面張力を
、用いた被記録媒体の濡れ張力32で除して求めた。ここで、濡れ張力は、ダイン測定ペ
ン(VETAPHONE社製)で測定した。計算結果を下記表1に示す。
【0071】
(4.ハジキ発生の評価)
硬化した塗膜(画像)表面のハジキの発生状態を目視で観察した。観察結果を下記表1
に示す。ここで、評価基準は下記のとおりである。
○:ハジキの発生無し
×:ハジキの発生有り
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示した結果より、インクジェット記録物において、ポリエーテル変性シリコーン
がHLB5〜8の範囲内であり、かつ、「表面張力/濡れ張力」が1未満である場合、ハ
ジキの発生を抑制できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体と、前記被記録媒体に印刷された光硬化型インクと、を含むインクジェット
記録物であって、
前記光硬化型インクがHLB5〜8のポリエーテル変性シリコーンを含み、
前記被記録媒体の濡れ張力に対する前記光硬化型インクの表面張力の比が1未満である
、インクジェット記録物。
【請求項2】
前記被記録媒体が、合成樹脂を含む、請求項1に記載のインクジェット記録物。
【請求項3】
光硬化型インクを被記録媒体上に印刷するインクジェット記録方法であって、
HLB5〜8のポリエーテル変性シリコーンを含み、かつ、被記録媒体の濡れ張力に対
する比が1未満の表面張力を有する光硬化型インクを、前記被記録媒体上に吐出する吐出
工程と、
前記吐出工程により吐出された前記光硬化型インクに活性放射線を照射して、前記光硬
化型インクを硬化する硬化工程と、
を含む、インクジェット記録方法。

【公開番号】特開2011−206955(P2011−206955A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74980(P2010−74980)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】