説明

インクジェット記録用インク、カートリッジ、インクジェット記録装置、画像形成方法、画像形成物

【課題】インクの保存安定性が良好で、平滑紙及び非平滑紙のいずれでも高画像濃度が実現できるインクジェット記録用インク、該インクを容器に収容したカートリッジ、該カートリッジを搭載したインクジェット記録装置、前記インクを用いた画像形成方法及び画像形成物の提供。
【解決手段】(1)水、pHが6〜8に調整された顔料分散体及び浸透剤を含有し、前記顔料は、BET比表面積が90〜150m/gのカーボンブラックをオゾン酸化して揮発分を10〜20%としたカーボンブラックであるインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク、該インクを容器に収容したカートリッジ、該カートリッジを搭載したインクジェット記録装置、前記インクを用いた画像形成方法及び画像形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成方法として、他の記録方式に比べてプロセスが簡単でかつフルカラー化が容易であり、簡略な構成の装置であっても高解像度の画像が得られる利点があることから、インクジェット記録方式が普及してきた。
インクジェット記録方式は、熱による発生する泡や、ピエゾや静電等を利用して発生させた圧力で少量のインクを飛翔させ、紙などの記録媒体に付着させて素早く乾燥させることにより(あるいは記録媒体に浸透させることにより)画像を形成する方式であり、パーソナル及び産業用のプリンターや印刷まで用途が拡大してきている。
近年特に産業用途としての需要が高まり、高速化印字や紙等の様々な記録媒体に対する対応性が望まれている。また高速化に伴いラインヘッドを搭載したインクジェットプリンターも必要となってきている。また、環境面や安全性の面から水系インクへの要望が高くなっている。しかしながら、水系インクは記録媒体の影響を受け易く、画像に各種の問題を引き起こす。特に記録媒体として非平滑性の紙を使用する場合は問題の発生が顕著である。水性インクの場合、乾燥までに時間を要し紙との相溶性も良好なため、紙への浸透性が高く、特に未コーティングの比較的非平滑な紙の場合、色材が紙中に浸透することにより、形成された色材の色濃度が低くなってしまうという、溶剤インクでは見られなかった問題が生じている。
特に、高速印字化が進むにつれ、記録媒体に付着したインクの乾燥速度を早める為にインクに浸透剤を添加し、溶媒である水を記録媒体に浸透させることにより乾燥を早める手段がとられる。しかしながら、浸透剤を含有させると、水だけでなく色材の記録媒体への浸透性が高くなってしまい。更に塗料やボールペンに使用されるインクと異なり、画像濃度が低下してしまうという問題が顕著に発生する。
【0003】
印字画像濃度を向上させる方法としては、特許文献1に、酸性カーボンブラックを次亜塩素酸で酸化し、カーボンブラックの表面官能基量/比表面積の比をコントロールする方法が提案されている。しかしながら、次亜塩素酸塩による処理は、水を溶媒として使用する為、脱水や洗浄等が必要となり高コストになるし、洗浄においても塩等が残留する為、インクジェット記録に使用した場合、インク保存性が十分満足できるものではなかった。また非平滑紙の場合は画像濃度の点でも十分に満足できるものではなかった。
また特許文献2には、分散安定性を向上させる目的で、カーボンブラックの表面官能基量・比表面積などを規定することが提案されている。しかしながら、ペルオキソ2硫酸塩等を用いた湿式酸化を行っており、特許文献1の場合と同じ理由で、保存安定性及び画像濃度において満足できるものではない。
また特許文献3には、DBP吸油量と酸性基を規定したファーネスカーボンブラックを使用することが提案されている。しかしながら、ファーネスカーボンブラックで、規定のDBP吸収量を得る為には、比表面積が大きいものを使用せざるをえず、酸化によって酸性基を増加させても、実際のカーボンブラック表面に存在する有効な酸性基は少なく、インクに使用した場合の保存安定性及び画像濃度において満足できるものではない。
また特許文献4には、酸化によって処理したカーボンブラックの揮発分を25%以上に規定したカーボンブラックの使用が提案されている。しかしながら、揮発分が高いと水分散性は向上するが、酸化時の不純物増加による安定性の低下が生じるし、水への相溶性が高くなりすぎて、水とともに紙への顔料の染み込みが発生し易くなり、十分な画像濃度が得られない。
また特許文献5には、揮発分とCTAB表面積/ヨウ素価を規定したカーボンブラックの使用が提案されている。しかしながら、上記要件を満たすだけでは、画像濃度と保存安定性を十分に両立させることは難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、インクの保存安定性が良好で、平滑紙及び非平滑紙のいずれでも高画像濃度が実現できるインクジェット記録用インク、該インクを容器に収容したカートリッジ、該カートリッジを搭載したインクジェット記録装置、前記インクを用いた画像形成方法及び画像形成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 水、pHが6〜8に調整された顔料分散体及び浸透剤を含有し、前記顔料は、BET比表面積が90〜150m/gのカーボンブラックをオゾン酸化して揮発分を10〜20%としたカーボンブラックであることを特徴とするインクジェット記録用インク。
2) 1)に記載のインクジェット記録用インクを容器に収容したことを特徴とするカートリッジ。
3) 2)に記載のカートリッジを搭載したことを特徴とするインクジェット記録装置。
4) 1)に記載のインクジェット記録用インクを用い、インク吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置を用いて画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
5) 1)に記載のインクジェット記録用インクを用いて印字されたことを特徴とする画像形成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インクの保存安定性が良好で、平滑紙及び非平滑紙のいずれでも高画像濃度が実現できるインクジェット記録用インク、該インクを容器に収容したカートリッジ、該カートリッジを搭載したインクジェット記録装置、前記インクを用いた画像形成方法及び画像形成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の一例を示す図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの一例を示す図である。
【図3】インクジェット記録ヘッドの別の例を示す図である。
【図4】本発明のカートリッジの一例を示す外観斜視図である。
【図5】本発明のカートリッジの一例の正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明のインクジェット記録用インク(以下、インクということもある)では、BET比表面積が90〜150m/gのカーボンブラックを、オゾン処理により酸化して揮発分を10〜20%に調整したものを使用する。オゾン処理の方法は特に限定されないが、カーボンブラックにオゾンガスを流通させる乾式方法が酸化処理能力が高いので好ましい。水を介した処理では、水とオゾンの反応が発生する為、十分な酸化が出来ない場合がある。オゾンは、オゾン発生装置に空気又は酸素を通すことにより得られる。
揮発分の調整は、オゾン量と処理時間を調整すれば制御でき、オゾン量(濃度)を上げるか又は処理時間を長くすれば、揮発分の多いカーボンブラックが得られる。処理時間と揮発分はほぼ比例関係にあるが、ある時間を越えると飽和に達する(揮発分が増えない)ので、揮発分を確認しながら調整する必要がある。また酸化処理する前のカーボンブラックの特性や不純物等により上記条件は変わるので、適宜調整すればよい。
【0009】
原料のカーボンブラックは、BET比表面積が90〜150m/gであればよいが、画像濃度の面で吸油量(DIN ISO 787/5法)が230g/100以上のものが好ましい。またファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ガスブラック等の種々のカーボンブラックが使用可能であるが、画像濃度の面でガスブラックが好ましい。
なお、本発明における揮発分は、DIN 53 552記載の測定方法による値であり、BET比表面積は、DIN 66132記載の測定方法による値である。
上記オゾン処理したカーボンブラックに加えて、表面を酸化処理やアルカリ処理したもの、樹脂で被覆したりグラフト処理やカプセル化処理したカーボンブラックも併用可能であるが、分散剤で表面を覆う為には、樹脂被覆等の処理をされていないものが好ましい。
併用するカーボンブラックの一次粒子径は10〜50nm、BET比表面積は50〜400m/g、DBP吸収量は40〜500mL/100g、揮発分は0.5〜20%、pHは2〜9が好ましい。
【0010】
本発明のインクが画像濃度と保存安定性を両立できる理由は不明であるが、以下のように推測している。
本発明者らがカーボンブラックの揮発分について検討した結果、揮発分が高くなると、紙表面へのカーボンブラックの留まりが向上し、画像濃度が向上する傾向にあり、画像濃度の向上は揮発分が約20%を超える辺りから見られるが、やがて飽和し十分な画像濃度が得られないことが分かった。また揮発分が高くなるにつれカーボンブラックの親水性が高くなり分散性が向上するが、酸化による不純物が増えるため、インクの経時安定性が悪くなることも分かり、画像濃度とインクの保存安定性の両立はできなかった。また比表面積と揮発分の比率を検討したが、両立はできなかった。
そこで、更に検討したところ、酸化方法を不純物発生の少ないオゾン酸化とし、揮発分を画像濃度効果がまだ現れない10〜20%に留め、BET比表面積を90〜150m/gにして画像濃度と保存性安定性を調整し、更に顔料分散体のpHを6〜8にすることにより、不十分であった画像濃度を向上させることができた。顔料分散体のpHは分散前に調整することが望ましく、分散後に調整すると分散性と保存安定性の面で劣る傾向にある。pH調整には金属水酸化物を用いることが好ましく、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
顔料分散体中の顔料濃度は、0.1〜50重量%が好ましく、0.1〜30重量%が特に好ましい。
更に、顔料分散体に酸価40〜100のエーテル型ポリウレタン樹脂を含有させると、画像濃度を維持したまま、保存安定性を一層向上させることができる。
【0011】
また、顔料分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で分散剤を使用してもよい。
分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等の種々の界面活性剤や高分子型の分散剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、例えば、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ−4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0012】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテル等のエーテル系界面活性剤;
ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤;
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール系界面活性剤
【0013】
顔料分散体の分散媒としては水を含むことが望ましいが、必要に応じて各種水溶性有機溶媒を併用してもよい。水溶性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン誘導体、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンなどが挙げられる。
【0014】
本発明のインクには浸透剤を配合する。浸透剤は顔料分散体に加えることもできる。
浸透剤としては、20℃の水に対する溶解度が0.2〜5.0重量%のポリオール化合物の少なくとも1種を含有することが好ましい。このようなポリオール化合物としては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオールが挙げられる。
これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが特に好ましい。
その他の併用できる浸透剤としては、インク中に溶解し、所望の物性に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類などが挙げられる。
インク中の浸透剤の含有量は、0.1〜4.0重量%が好ましい。0.1重量%未満では、速乾性が得られず滲んだ画像となることがあり、4.0重量%を超えると、着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりし易くなったり、また記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0015】
本発明のインクには、顔料分散体、浸透剤の他に、必要に応じて水溶性有機溶剤、樹脂、湿潤剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐防黴剤、キレート試薬、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤等の公知の各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤は顔料分散体に配合してもよいが、インクに配合する界面活性剤は、前述した顔料分散体に配合する界面活性剤とは種類及び機能が異なるものである。
前記水溶性有機溶剤としては、前述した顔料分散体の分散剤として用いるものと同じものが挙げられる。
前記湿潤剤としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の湿潤剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペトリオール、などが挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、などが挙げられる。
多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、などが挙げられる。
【0017】
含窒素複素環化合物としては、例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミイダゾリジノン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン、などが挙げられる。
アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、などが挙げられる。
アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール、などが挙げられる。
【0018】
その他の湿潤剤としては糖類が好ましい。糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類、などが挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などが挙げられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖〔例えば、一般式:HOCH(CHOH)nCHOH(n=2〜5の整数)で表わされる糖アルコールなど〕、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸などが挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどが挙げられる。
上記した湿潤剤の中で、保存安定性、吐出安定性の点から、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。
【0019】
顔料と湿潤剤との配合比は、ヘッドからのインク吐出安定性に大きく影響する。顔料固形分が多いのに湿潤剤の配合量が少ないと、ノズルのインクメニスカス付近の水分蒸発が進み、吐出不良をもたらすことがある。
インク中の湿潤剤の含有量は20〜35重量%程度であるが、22.5〜32.5重量%がより好ましい。この範囲であれば、インクの乾燥性、保存試験、信頼性試験などの結果が非常に良好である。含有量が20重量%未満では、ノズル面上でインクが乾燥し易くなって吐出不良が生じることがあり、35重量%を超えると、紙面上での乾燥性に劣るため普通紙上の文字品位が低下することがある。
【0020】
前記界面活性剤としては、顔料の種類や湿潤剤との組み合わせに応じて、分散安定性を損なわず、表面張力が低く、レベリング性の高いものを用いる。例えばフッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤が挙げられるが、フッ素系界面活性剤が好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2〜16のものが好ましく、4〜16のものがより好ましい。フッ素置換した炭素数が2未満では、フッ素の効果が得られないことがあり、16を超えるとインク保存性などの問題が生じることがある。
フッ素系界面活性剤の例としては、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物、などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少なく、特に好ましい。
【0021】
パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、などが挙げられる。
パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、などが挙げられる。
パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、などが挙げられる。
パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩、などが挙げられる。
【0022】
これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、適宜合成したものを用いても、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばDuPont社製のFS−300、ネオス社製のFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW、オムノバ社製のPF−151Nなどが挙げられる。
【0023】
シリコーン系界面活性剤としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
シリコーン系界面活性剤としては適宜合成したものを用いても市販品を用いてもよい。市販品は、例えば、ビックケミー社、信越シリコーン社、東レ・ダウコーニング・シリコーン社などから容易に入手できる。
インク中の界面活性剤の含有量は、0.01〜3.0重量%が好ましく、0.5〜2.0重量%がより好ましい。含有量が0.01重量%未満では、界面活性剤を添加した効果が無くなることがあり、3.0重量%を超えると、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0024】
前記pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずにpHを7〜11に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属水酸化物、アンモニウム水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、などが挙げられる。pHが7未満又は11を超えると、インクジェットのヘッドやインク供給ユニットを溶かし出す量が大きくなり、インクの変質や漏洩、吐出不良などの不具合が生じることがある。
アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
アルカリ金属元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
アンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物などが挙げられる。
アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0025】
前記防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、等が挙げられる。
前記キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
前記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が挙げられる。
【0026】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤、などが挙げられる。
フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)としては、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトライキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3′,5′−ジ−tert−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、などが挙げられる。
【0027】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ジヒドロキフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、などが挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−β,β′−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイドなどが挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルフォスファイト、オクタデシルフォスファイト、トリイソデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイトなどが挙げられる。
【0028】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤などが挙げられる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−4′−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
サリチレート系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリチレート、p−tert−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレートなどが挙げられる。
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3′−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート、ブチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレートなどが挙げられる。
ニッケル錯塩系紫外線吸収剤としては、例えば、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、2,2′−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−n−ブチルアミンニッケル(II)、2,2′−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−2−エチルヘキシルアミンニッケル(II)、2,2′−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)トリエタノールアミンニッケル(II)などが挙げられる。
【0029】
本発明のインクは、マゼンタ、シアン、イエローなどのカラーインクや無色インクと併せてフルカラーのインクジェット記録に使用することもできる。
マゼンタ顔料としては、ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
シアン顔料としては、ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、バットブルー4、60等が挙げられる。
イエロー顔料としては、ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180等が挙げられる。
なお、イエロー顔料としてピグメントイエロー74、マゼンタ顔料としてピグメントレッド122、ピグメントバイオレット19、シアン顔料としてピグメントブルー15を用いることにより、色調、耐光性が優れ、バランスの取れたインクを得ることができる。
インク中における顔料濃度は、0.1〜50重量%が好ましく、0.1〜30重量%が特に好ましい。
【0030】
本発明のインクは、公知の方法、例えば顔料分散体、水、水溶性有機溶剤、界面活性剤等を、サンドミル、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、ナノマイザー、ホモジナイザー、超音波分散機等を用いて攪拌混合し、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、必要に応じて脱気することによって得られる。
インク中の顔料の濃度はインク全量に対して1〜20重量%が好ましい。1重量%未満では画像濃度が低いため印字の鮮明さに欠け、20重量%より多いとインクの粘度が高くなる傾向があるばかりでなく、ノズルの目詰まりが発生し易くなる。
水溶性有機溶剤の含有量は、インク全量に対して50重量%以下、好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜35重量%である。
また、インクには顔料分散体への添加剤で説明した材料と同様の添加剤を必要に応じて配合することが出来る。
【0031】
本発明の画像形成方法ではインクと凝集/増粘作用を引き起こす前処理液を併用してもよい。前処理液で記録媒体表面を加工した後、本発明のインクで画像形成を行えば、更に画像濃度向上効果が見られる。
前処理液は、インクの凝集剤として水溶性金属塩を含み、金属としては、アルカリ金属、Ca、Cu、Ni、Mg、Zn、Ba等の2価金属、Al、Fe、Cr等の3価金属が挙げられる。水溶性金属塩を構成する陰イオンとしては、クエン酸、酒石酸、酢酸、乳酸、シュウ酸、炭酸,フマル酸、サリチル酸、安息香酸等の有機酸イオンや、OH、Cl、NO、I、Br、ClOの無機イオンが挙げられる。また硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム等も挙げられる。特にCaやMgの塩は凝集効果が大きく、CaCl、MgCl、CaCOが好ましい。
水溶性金属塩は水に溶解してイオン状態になり、顔料分散体の表面電荷を破壊して凝集させる働きがある。前処理液中の水溶性金属塩の含有量は、1〜10重量%が好ましい。
前処理液には必要に応じて、樹脂、湿潤剤、界面活性剤、浸透剤、pH調整剤、防腐防黴剤、キレート試薬、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤等の各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤の詳細は前述したインク用の添加剤と同じである。
前処理液による記録媒体表面の処理方法は、インクジェット方式、スプレー、ロールコート、ワイヤ−バーなどの公知の方法を利用できる。
【0032】
上記インクや前処理液は、容器に収容してカートリッジとして用いることが出来る。
また、本発明のインク、又は前処理液とインクのセットを容器に収容してカートリッジとし、これを搭載したインクジェット記録装置を用いて記録媒体に印字し、画像形成物を得ることができる。
印字方法としては連続噴射型やオンデマンド型があり、オンデマンド型としては、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等が挙げられる。
【0033】
本発明の画像形成方法、及びそれを実施するインクジェット記録装置の一例について、図面を用いて説明する。
図1に示すインクジェット記録装置は、前処理液及びインクを収容したカートリッジ(20)が搭載され、このカートリッジから前処理液及びインクが記録ヘッドに供給される。ここで、カートリッジ(20)は前処理液用と色毎のインク用が分離された状態で取り付けられている。
記録ヘッド(1)は、キャリッジ(18)に搭載され、主走査モータ(24)で駆動されるタイミングベルト(23)によってガイドシャフト(21)(22)にガイドされて移動する。一方、記録媒体はプラテンによって記録ヘッドと対面する位置に置かれる。
図中の(2)は本体筐体、(7)は処理液、記録液共通カートリッジ、(16)はギア機構、(17)は副走査モーター、(25)はギヤ機構、(26)は主走査モーター、(27)はギヤ機構である。
【0034】
図2は記録ヘッドの一例のノズル面の拡大図である。前処理液が吐出されるノズル(30)が縦方向に設けられ、ノズル(31)(32)(33)(34)からはそれぞれイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクが吐出される。
また、図3のように、記録ヘッドのノズルを全て横方向に並べて構成することも可能である。図中のノズル(35)(40)は前処理液の吐出ノズルであり、ノズル(36)(37)(38)(39)からは、ぞれぞれイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクが吐出される。このような態様の記録ヘッドでは、前処理液の吐出ノズルが左右の端に設けられているため、記録ヘッドがキャリッジ上を往復する往路、復路のいずれにおいても印字が可能である。すなわち、往路、復路のいずれにおいても前処理液を先に付着させて、その上からカラーインクを付着させること、あるいは、その逆が可能であり、記録ヘッドの移動方向の違いによる画像濃度差が生じない。
上記インクジェット記録装置は、カートリッジを取り替えることにより前処理液とインクの補充が可能である。また、このカートリッジは記録ヘッドと一体化されたものであってもよい。
【0035】
図4、図5に、前処理液及びインクを収納可能なカートリッジを示す。このカートリッジは前処理液とインクのいずれも収納することができる。
カートリッジ筐体41内部には液吸収体42があり、インク又は前処理液を吸収させることによりインクをカートリッジ内に保持させることができる。カートリッジ上部には、上蓋部材44が設けられ、上蓋部材44に設けられた大気開放口47から、インク又は前処理液をカートリッジ内に充填することができる。充填後、シール部材55により大気開放口47は密閉される。インク又は前処理液は液供給口45から記録ヘッドに供給される。カートリッジ位置決め部71は突上形状をしており、プリンター本体のカートリッジ収納部の凹部と重ねられることでカートリッジ位置を一定にすることが出来る。カートリッジ着脱用突状部81、カートリッジ着脱用指掛け部81a、カートリッジ着脱用窪み部82はカートリッジ試着時にプリンター本体のカートリッジ収納部の凹凸部により固定できるようになっている。43はケース、46はシールリング、48は溝、50はキャップ部材、51は液漏れ防止用突部、53はキャップ部材、Aはカートリッジ筐体41と液吸収体42との間の空間である。
インクと前処理液とは、記録ヘッドから同一箇所に重ねて吐出されることが最も好ましい。しかし、本発明では、例えば、前処理液を間引いて付与し、滲み等によって拡大した前処理液の上にインクを重ねたり、画像の輪郭部だけに前処理液を付与し、その上にインクの一部を重ねても十分効果が得られる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例及び比較例では、顔料分散体を作成し、これを用いてインクを作成した。なお、例中の「部」及び「%」は重量基準である。
【0037】
実施例1
<実施例1の酸化カーボンブラックの作成>
デグサ社製カーボンブラック:PRINTEX−U 200gを筒状のオゾン処理器に入れ、オゾン発生器(コトヒラ工業社製:KQS−120)によりオゾン6g/hを発生させ、オゾン雰囲気下、処理温度を約30℃に保って酸化処理を行い、実施例1の酸化カーボンブラックを得た。得られたカーボンブラックの揮発量は10.3%、BET比表面積は110m/gであった。

<実施例1の顔料分散体の作成>
(顔料分散体処方)
・実施例1の酸化カーボンブラック 20.0部
・蒸留水 70.0部

上記処方の材料にNaOHの20%水溶液を加え、pHを7.0に調整した後、全量で100部になるよう蒸留水を加えて調整した。使用したNaOHの20%水溶液は1.2部であった。
次いで、上記pH調整した材料をプレミックスした後、ディスクタイプのビーズミル(シンマルエンタープライゼス社製KDL型バッチ式)により、0.3mmジルコニアビーズを用いて周速10m/s、液温10℃で5分間分散した。
遠心分離機(久保田商事社製Model−3600)により粗大粒子を分離し、体積平均粒子径約125nm、標準偏差60.2nmの実施例1の顔料分散体を得た。
【0038】
<実施例1のインクの作成>
下記処方の材料を30分間混合攪拌し、次いでアミノエチルプロパンジオール(40%水溶液)を添加し、pHを10に調整した後、30分間混合攪拌し、実施例1のインクを作成した。
(インク処方)
・実施例1の顔料分散体(顔料濃度20%) 40.0部
・グリセリン 5.5部
・1,3−ブタンジオール 16.5部
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 2.0部
・フッ素系界面活性剤(固形分40%) 2.5部
(DuPont社製:Zonyl FS−300)
・フルオロエチレン/ビニルエーテル交互共重合体(固形分50%) 6.0部
(旭硝子社製:ルミフロンFE4300、体積平均粒子径150nm、
MFT30℃以下)
・蒸留水 18.6部

【0039】
実施例2〜9
<実施例2〜9の酸化カーボンブラックの作成>
実施例1で用いた酸化カーボンブラックに代えて、表1の実施例2〜9の欄に示した酸化前カーボンブラック(CB)を用い、オゾン発生量/処理時間を調整した点以外は、実施例1と同様にして実施例2〜9の酸化カーボンブラックを作成した。

<実施例2〜9の顔料分散体の作成>
実施例1で用いた酸化カーボンブラックに代えて実施例2〜9の酸化カーボンブラックを用い、NaOHの20%水溶液の添加量を変えてpHを7に調整した点以外は、実施例1と同様にして実施例2〜9の顔料分散体を得た。

<実施例2〜9のインクの作成>
実施例1で用いた顔料分散体に代えて実施例2〜9の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例1と同様にして実施例2〜9のインクを作成した。

【0040】
実施例10〜11
<実施例10〜11の顔料分散体の作成>
実施例1で用いた酸化カーボンブラックに代えて、実施例2で用いた酸化カーボンブラックを用い、NaOHの20%水溶液の添加量を変えて、pHを6(実施例10)及び8(実施例11)に調整した点以外は、実施例1と同様にして実施例10〜11の顔料分散体を得た。
<実施例10〜11のインクの作成>
実施例1で用いた顔料分散体に代えて実施例10〜11の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例1と同様にして実施例10〜11のインクを作成した。

【0041】
<実施例12の顔料分散体の作成>
(顔料分散体処方)
・実施例1の酸化カーボンブラック 20.0部
・蒸留水 70.0部

上記処方の材料にNaOHの20%水溶液を加え、pHを7.0に調整した後、全量で97部になるよう蒸留水を加えて調整した。使用したNaOHの20%水溶液は1.2部であった。
次いで、上記pH調整した材料をプレミックスした後、ディスクタイプのビーズミル(シンマルエンタープライゼス社製KDL型バッチ式)により、0.3mmジルコニアビーズを用いて周速10m/s、液温10℃で5分間分散した。
次いで、エーテル型ポリウレタン樹脂(三井化学社製、酸価80、固形分28%)を
7.0部添加し、よく撹拌した後、遠心分離機(久保田商事社製Model−3600)により粗大粒子を分離し、体積平均粒子径約125nm、標準偏差60.2nmの実施例12の顔料分散体を得た。

【0042】
<実施例12のインクの作成>
下記処方の材料を30分間混合攪拌し、次いでアミノエチルプロパンジオール(40%水溶液)を添加し、pHを10に調整した後、30分間混合攪拌し、実施例12のインクを作成した。
(インク処方)
・実施例12の顔料分散体(顔料濃度20%) 40.0部
・グリセリン 5.5部
・1,3−ブタンジオール 16.5部
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 2.0部
・フッ素系界面活性剤(固形分40%) 2.5部
(DuPont社製:Zonyl FS−300)
・フルオロエチレン/ビニルエーテル交互共重合体(固形分50%) 6.0部
(旭硝子社製:ルミフロンFE4300、体積平均粒子径150nm、
MFT30℃以下)
・蒸留水 18.6部

【0043】
実施例13〜20
<実施例13〜20の酸化カーボンブラックの作成>
実施例1で用いたデグサ社製のカーボンブラックPRINTEX−Uに代えて、表1の実施例13〜20の欄に示す酸化前カーボンブラック(CB)を用い、オゾン発生量/処理時間を調整した点以外は、実施例1と同様にして実施例13〜20の酸化カーボンブラックを作成した。

<実施例13〜20の顔料分散体の作成>
実施例12で用いた酸化カーボンブラックに代えて実施例13〜20の酸化カーボンブラックを用い、NaOHの20%水溶液の添加量を変えてpHを7に調整した点以外は、実施例12と同様にして実施例13〜20の顔料分散体を得た。

<実施例13〜20のインクの作成>
実施例12で用いた顔料分散体に代えて実施例13〜20の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例12と同様にして実施例13〜20のインクを作成した。

【0044】
実施例21〜22
<実施例21〜22の顔料分散体の作成>
実施例12で用いた酸化カーボンブラックに代えて実施例2で用いた酸化カーボンブラックを使用し、NaOHの20%水溶液の添加量を変えて、pHを6(実施例21)及び8(実施例22)に調整した以外は、実施例12と同様にして実施例21〜22の顔料分散体を得た。

【0045】
実施例23〜26
<実施例23〜26の顔料分散体の作成>
実施例12で用いた酸化カーボンブラックに代えて実施例2で用いた酸化カーボンブラックを使用し、エーテル型ポリウレタン樹脂(三井化学社製、酸価80、固形分28%)に代えて、表1記載の酸価のエーテル型ポリウレタン樹脂(三井化学社製、固形分28%希釈品)を使用した点以外は、実施例12と同様にして実施例23〜26の顔料分散体を得た。

<実施例23〜26のインクの作成>
実施例12で用いた顔料分散体に代えて実施例23〜26の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例12と同様にして実施例23〜26のインクを作成した。

【0046】
実施例27
<実施例27の顔料分散体の作成>
実施例12で用いた酸化カーボンブラックに代えて実施例2で用いた酸化カーボンブラックを使用し、NaOHの20%水溶液に代えてLiOHの20%水溶液を使用し、添加量を調整してpHを7に調整した点以外は、実施例12と同様にして実施例27の顔料分散体を得た。

<実施例27のインクの作成>
実施例12で用いた顔料分散体(顔料濃度20%)に代えて、実施例27で用いた顔料分散体(顔料濃度20%)を使用した点以外は、実施例12と同様にして実施例27のインクを作成した。

【0047】
比較例1〜10
<比較例1〜10の酸化カーボンブラックの作成>
実施例1で用いたカーボンブラックに代えて、表1の比較例1〜10の各欄に示す酸化前カーボンブラック(CB)を用い、オゾン発生量/処理時間を調整した点以外は、実施例1と同様にして比較例1〜10の酸化カーボンブラックを作成した。

<比較例1〜10の顔料分散体の作成>
実施例1で用いた酸化カーボンブラックに代えて比較例1〜10の酸化カーボンブラックを用い、NaOHの20%水溶液の添加量を変えてpHを7に調整した点以外は、実施例1と同様にして比較例1〜10の顔料分散体を得た。

<比較例1〜10のインクの作成>
実施例1で用いた顔料分散体に代えて比較例1〜10の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例1と同様にして比較例1〜10のインクを作成した。

【0048】
比較例11
<比較例11の酸化カーボンブラックの作成>
デグサ社製のカーボンブラックPRINTEX−U 100gを蒸留水500gに混合し、撹拌しながら次亜塩素酸Na水溶液(12%)を1000g滴下し、6時間煮沸して湿式酸化を行った。次いで、ガラス繊維でろ過し、蒸留水で洗浄した後、100℃の高温槽で乾燥させた。得られたカーボンブラックの揮発量は13%、BET比表面積は110m/gであった。

<比較例11の顔料分散体の作成>
実施例1で用いた酸化カーボンブラックに代えて比較例11の酸化カーボンブラックを用い、NaOHの20%水溶液の添加量を変えてpHを7に調整した点以外は、実施例1と同様にして比較例11の顔料分散体を得た。

<比較例11のインクの作成>
実施例1で用いた顔料分散体に代えて比較例11の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例1と同様にして比較例11のインクを作成した。

【0049】
比較例12
<比較例12の酸化カーボンブラックの作成>
デグサ社製のカーボンブラックPRINTEX−U 100gを蒸留水500gに混合し、撹拌しながらペルオキソ2硫酸Na水溶液(10%)を600g滴下し、6時間煮沸して湿式酸化を行った。次いで、ガラス繊維でろ過し、蒸留水にて洗浄した後、100℃の高温槽で乾燥させた。得られたカーボンブラックの揮発量は13%、BET比表面積は110m/gであった。

<比較例12の顔料分散体の作成>
実施例1で用いた酸化カーボンブラックに代えて比較例12の酸化カーボンブラックを用、NaOHの20%水溶液の添加量を変えてpHを7に調整した点以外は、実施例1と同様にして比較例12の顔料分散体を得た。

<比較例12のインクの作成>
実施例1で用いた顔料分散体に代えて比較例12の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例1と同様にして比較例12のインクを作成した。

【0050】
比較例13〜14
<比較例13〜14の顔料分散体の作成>
実施例1で用いた酸化カーボンブラックに代えて実施例2用いた酸化カーボンブラックを使用し、NaOHの20%水溶液の添加量を変えてpHを5(比較例13)及び9(比較例14)に調整した点以外は、実施例1と同様にして比較例13〜14の顔料分散体を得た。

<比較例13〜14のインクの作成>
実施例1で用いた顔料分散体に代えて比較例13〜14の顔料分散体(顔料濃度20%)を用いた点以外は、実施例1と同様にして比較例13〜14のインクを作成した。

【0051】
上記実施例及び比較例のインクをカートリッジに充填し、図1に示すインクジェットプリンターに装着して印字実験を行ない、下記のようにして画像濃度と保存安定性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
(1)保存安定性
各インクを、密封状態にして70℃で2週間保管し、保管前と保管後の粘度を測定し、下記式により粘度変化率を計算した。粘度変化率の数値が小さい方が良好である。
粘度変化率(%)=(保管後粘度−保管前粘度)×100/保管前粘度
(2)画像濃度
ゼロックス社製PPC用紙4024(非平滑紙)に図1に示すインクジェットプリンターで印字し、印字画像をXrite濃度計938で測定した。数値が大きい方が良好である。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【符号の説明】
【0054】
1 記録ヘッド
2 本体筐体
7 処理液、記録液共通カートリッジ
16 ギア機構
17 副走査モーター
18 キャリッジ
20 記録液カートリッジ
21 ガイドシャフト
22 ガイドシャフト
23 タイミングベルト
24 主走査モーター
25 主走査モーター
26 主走査モーター
27 主走査モーター
31 処理液が吐出されるノズル
32 記録液が吐出されるノズル
33 記録液が吐出されるノズル
34 記録液が吐出されるノズル
35 記録液が吐出されるノズル
36 処理液が吐出されるノズル
37 記録液が吐出されるノズル
38 記録液が吐出されるノズル
39 記録液が吐出されるノズル
40 記録液が吐出されるノズル
41 カートリッジ筐体
42 液吸収体
43 ケース
44 上蓋部材
45 液供給口
46 シールリング
47 大気解放口
48 溝
50 キャップ部材
51 液漏れ防止用突部
53 キャップ部材
55 シール部材
71 カートリッジ位置決め部
81 カートリッジ着脱用突状部
81a カートリッジ着脱用指掛け部
82 カートリッジ着脱用窪み部
A 空間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】特開2000−319572号公報
【特許文献2】特開2004−224955号公報
【特許文献3】特開平10−324818号公報
【特許文献4】特開2001−164148号公報
【特許文献5】特開平11−349849号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、pHが6〜8に調整された顔料分散体及び浸透剤を含有し、前記顔料は、BET比表面積が90〜150m/gのカーボンブラックをオゾン酸化して揮発分を10〜20%としたカーボンブラックであることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録用インクを容器に収容したことを特徴とするカートリッジ。
【請求項3】
請求項2に記載のカートリッジを搭載したことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項1に記載のインクジェット記録用インクを用い、インク吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置を用いて画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
【請求項5】
請求項1に記載のインクジェット記録用インクを用いて印字されたことを特徴とする画像形成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60563(P2013−60563A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201527(P2011−201527)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】