説明

インクジェット記録用インク組成物、これを用いた記録方法及び記録物

【課題】信頼性及び印字品質が良好で、OD値が高く、しかも定着性が良好で耐擦性に優れるインクジェット記録用インク組成物を提供する。
【解決手段】自己分散型顔料と、互いに物性の異なる二種の樹脂粒子とを少なくとも含み、前記二種の樹脂粒子の一方は、ガラス転移点が10℃以上の樹脂粒子であり、もう一方は、ガラス転移点が0℃以下の樹脂粒子である、インクジェット記録用インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼性及び印字品質が良好で、OD値が高く、しかも定着性が良好で耐擦性に優れるインクジェット記録用インク組成物に関する。
また、本発明は、信頼性が高く、定着性を有し、記録画像のOD値が高く印字品質が良好で、しかも光沢性を付与し得るインクジェット記録用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。インクとしては、一般に各種の水溶性染料を水または水と水溶性有機溶剤とに溶解させたものが使用されている。このような水溶性染料を含むインクにより形成された画像は耐水性や耐光性に劣ることが一般に指摘されている。
【0003】
これに対して、顔料を水性媒体に分散させて得られたインクは、耐水性及び耐光性に優れる。例えば、特開昭64−6074号公報および特開昭64−31881号公報には、カーボンブラックを界面活性剤や高分子分散剤で分散した水性顔料インクが提案されている(特許文献1及び2)。しかしながらこれらのインクでは、記録物の印字濃度を上げる為に着色剤のインク含有量を増やすと、それに伴いインク粘度も急激に増加してしまう場合があった。またカーボンブラックをインク中に安定に分散させるためには過剰の界面活性剤または高分子分散剤が必要であり、起泡発生や消泡性低下を原因とする印字安定性の悪化を引き起こす場合があった。
【0004】
これらの課題を解決するために、特開平8−3498号公報および特開平10−120958号公報にはカーボンブラック表面に一定量以上の表面活性水素あるいはその塩を導入して、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤がなくてもカーボンブラック単独で水系溶媒に分散させることができる、自己分散型カーボンブラック分散液が開示されている(特許文献3及び4)。また特開平10−110127号公報にはカーボンブラック表面にスルホン酸基を導入する方法が開示されている(特許文献5)。さらに特開平10−95941号公報には上述の表面改質カーボンブラックとグリコールエーテル類を含むインクジェットインクが提案されている(特許文献6)。
【0005】
上記のような分散剤を必要としない、いわゆる自己分散型顔料は、着色剤としてインクに用いた場合、画像のOD値(Optical Density;光学濃度)が高くなる、またインク中の粘度を適正な範囲に合わせやすいため取扱いが容易である、分散剤と種々の添加溶媒との相溶性を考慮する必要がない、等の特徴により種々開発されている。その表面にはカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン基、アンモニウム基等の親水性官能基が、直接あるいはアルキル基、アリール基等を介して間接に結合してなるアニオン型の表面改質された物が一般的である。
【0006】
しかし、このような自己分散型顔料を使用したインクジェット記録用インク組成物では、OD値が高いが、記録媒体へのインクの定着性(特に、インク中の顔料の定着性)が不十分で、耐擦性に劣るという問題があった。
【0007】
また、近年、インクジェット記録用インク組成物によって専用紙等の記録媒体に形成される画像においては、光沢性が要求されるようになってきたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64−6074号公報
【特許文献2】特開昭64−31881号公報
【特許文献3】特開平8−3498号公報
【特許文献4】特開平10−120958号公報
【特許文献5】特開平10−110127号公報
【特許文献6】特開平10−95941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、信頼性及び印字品質が良好で、OD値が高く、しかも定着性が良好で耐擦性に優れるインクジェット記録用インク組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、更に光沢性をも付与し得るインクジェット記録用インク組成物を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究した結果、自己分散型顔料とともに、異なる物性を有する複数の樹脂粒子を用いたインク組成物が、前記課題を解決し得ることの知見を得た。
【0011】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、[1]: 自己分散型顔料と、互いに物性の異なる二種の樹脂粒子とを少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録用インク組成物を提供するものである。ここで、「物性の異なる二種の樹脂粒子」にいうところの「物性」とは、ガラス転移点、平均粒子径、最低造膜温度、ゼータ電位及びその他の樹脂粒子が有する固有の物性をいう。
【0012】
そして、本発明は、以下の[1]A〜[10]Aに記載した事項により特定されるものが好ましい。
[1]A 自己分散型顔料と、ガラス転移点が10℃以上の樹脂粒子と、ガラス転移点が0℃以下の樹脂粒子とを、少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
[2]A ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子と、ガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子との重量比(前者:後者)が、1:10〜10:1である、[1]A記載のインクジェット記録用インク組成物。
[3]A ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子及びガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子の少なくとも一方が、不飽和単量体の乳化重合によって得られたエマルジョンの形態で配合されてなる、[1]A又は[2]A記載のインクジェット記録用インク組成物。
[4]A 前記自己分散型顔料の含有量が、インク組成物中、2〜15重量%である、[1]A〜[3]Aの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[5]A ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜5重量%である、[1]A〜[4]Aの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[6]A ガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜10重量%である、[1]A〜[5]Aの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[7]A ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子は、そのガラス転移点が10℃以上150℃以下である、[1]A〜[6]Aの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[8]A ガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子は、そのガラス転移点が0℃以下、−80℃以上である、[1]A〜[7]Aに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[9]A [1]A〜[8]Aの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像を形成することを特徴とする記録方法。
[10]A [1]A〜[8]Aの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなることを特徴とする記録物。
【0013】
また、本発明は、以下の[1]B〜[10]Bに記載した事項により特定されるものも好ましい。
[1]B 自己分散型顔料と、平均粒子径が100nm未満の樹脂粒子と、平均粒子径が100〜250nmの樹脂粒子とを、少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
[2]B 平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子と、平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子との重量比(前者:後者)が、1:1〜10:1である、[1]B記載のインクジェット記録用インク組成物。
[3]B 平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子及び平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子の少なくとも一方が、不飽和単量体の乳化重合によって得られたエマルジョンの形態で配合されてなる、[1]B又は[2]B記載のインクジェット記録用インク組成物。
[4]B 前記自己分散型顔料の含有量が、インク組成物中、2〜15重量%である、[1]B〜[3]Bの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[5]B 平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.1〜5重量%である、[1]B〜[4]Bの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[6]B 平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜5重量%である、[1]B〜[5]Bの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[7]B 平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子は、その平均粒子径が50nm以上100nm未満である、[1]B〜[6]Bの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[8]B 平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子は、その平均粒子径が100nm以上200nm以下である、[1]B〜[7]Bの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[9]B [1]B〜[8]Bの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像を形成することを特徴とする記録方法。
[10]B [1]B〜[8]Bの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなることを特徴とする記録物。
【0014】
更にまた、本発明は、以下の[1]C〜[10]Cに記載した事項により特定されるものも好ましい。
[1]C 自己分散型顔料と、最低造膜温度が20℃以上の樹脂粒子と、最低造膜温度が10℃以下の樹脂粒子とを、少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
[2]C 最低造膜温度が20℃以上の前記樹脂粒子と、最低造膜温度が10℃以下の前記樹脂粒子との重量比(前者:後者)が、1:10〜10:1である、[1]C記載のインクジェット記録用インク組成物。
[3]C 最低造膜温度が20℃以上の前記樹脂粒子及び最低造膜温度が10℃以下の前記樹脂粒子の少なくとも一方が、不飽和単量体の乳化重合によって得られたエマルジョンの形態で配合されてなる、[1]C又は[2]C記載のインクジェット記録用インク組成物。
[4]C 前記自己分散型顔料の含有量が、インク組成物中、2〜15重量%である、[1]C〜[3]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[5]C 最低造膜温度が20℃以上の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜5重量%である、[1]C〜[4]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[6]C 最低造膜温度が10℃以下の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜10重量%である、[1]C〜[5]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[7]C 最低造膜温度が20℃以上の前記樹脂粒子は、その最低造膜温度が20℃以上150℃以下である、[1]C〜[6]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[8]C 最低造膜温度が10℃以下の前記樹脂粒子は、その最低造膜温度が5℃以下である、[1]C〜[7]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[9]C 更に、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤を含む、[1]C〜[8]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[10]C [1]C〜[9]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像を形成することを特徴とする記録方法。
[11]C [1]C〜[9]Cの何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなることを特徴とする記録物。
【0015】
更にまた、本発明は、以下に記載した事項により特定されるものも好ましい。
前記二種の樹脂粒子が、それぞれpH6におけるゼータ電位:10〜−10mVの樹脂粒子と、pH6におけるゼータ電位:−20〜−55mVの樹脂粒子である、前記[1]記載のインクジェット記録用インク組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のインクジェット記録用インク組成物を、その好ましい実施形態(本発明を実施するための最良の形熊)に基づいて詳細に説明する。
【0017】
(実施形態A)
実施形態Aのインクジェット記録用インク組成物は、いわゆるインクジェット記録方式によって、紙等の記録媒体に文字や図形等の画像を記録形成するためにインクジェットプリンタのプリンタヘッドから液滴として吐出するための記録液として用いられるものである(以下、本実施形態Aのインクジェット記録用インク組成物を、単に「本実施形態Aのインク組成物」ということもある)。
【0018】
本実施形態Aのインク組成物は、自己分散型顔料と、ガラス転移点が10℃以上の樹脂粒子と、ガラス転移点が0℃以下の樹脂粒子とを、少なくとも含むものである。
【0019】
本実施形態Aのインク組成物は、前記の構成からなるため、自己分散型顔料によるインク組成物の形成画像の十分なOD値を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)の異なる両樹脂粒子それぞれの特性を活かし、これによりインク組成物におけるOD値と定着性とのバランスをとりながら、かかるOD値及び定着性の双方を特に高めたものである。また、前記の構成からなる本実施形態Aのインク組成物は、信頼性、にじみ等の印字品質、及び耐擦性についても良好なものである。
【0020】
本実施形態Aに使用される自己分散型顔料は、顔料の表面に−COOH、−CHO、−OH、−SO3H及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上等の官能基(分散性付与基)を有するように処理された顔料であって、分散剤を別途配合せずとも、水系インク組成物中で均一に分散し得るものである。尚、ここでいう「分散」とは、自己分散型顔料が分散剤なしに水中に安定に存在している状態をいい、分散している状態のもののみならず、溶解している状態のものも含むものとする。自己分散型顔料が配合されたインク組成物は、自己分散型顔料以外の自己分散型ではない顔料及び分散剤の配合された通常のインク組成物と比べて、分散安定性が高く、また、インク組成物の粘度が適度なものとなるので、顔料をより多く含有させることが可能となり、特に普通紙に対して発色性に優れた文字や図形等の画像を形成することができる。更に、自己分散型顔料が配合されたインク組成物は、印字品質の向上に有効な浸透剤(後述する)を配合しても流動性の低下を生じることがないので、該浸透剤を併用することにより印字品質も高められる。
【0021】
自己分散型顔料を形成し得る顔料としては、通常のインクジェット記録用インク組成物におけるものと同様のものが用いられ、例えば、カーボンブラック、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料、チタン白、亜鉛華、鉛白、カーボンブラック系、ベンガラ、朱、カドミウム赤、黄鉛、群青、コバルト青、コバルト紫、ジンクロメート等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能なら、何れも使用できる。これらのうち、特にアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、ジオキサジン顔料、及びアントラキノン顔料系を用いることが好ましい。尚、「顔料」とは、水や溶剤、油等に通常不溶の粒子状の固体をいう。
【0022】
自己分散型顔料を調製するには、真空プラズマ等の物理的処理や化学的処理により、官能基又は官能基を含んだ分子を顔料の表面に配位、グラフト等の化学的結合をさせること等によって得ることができる。例えば、特開平8−3498号公報に記載の方法によって得ることができる。また、自己分散型顔料は、市販品を利用することも可能であり、好ましい例としては、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」、「マイクロジェットCW2」、キャボット社製の「CAB−O−JET 200」、「CAB−O−JET 300」等が挙げられる。
【0023】
自己分散型顔料は、例えば、次のようにして調製される。
〔自己分散型顔料の一調製方法例(顔料の表面酸化処理−スルホン化処理)〕
溶剤に顔料を添加し、これをハイスピードミキサー等で高速剪断分散するか、又はビーズミルやジェットミル等で衝撃分散してスラリー状の顔料分散液を得る。該顔料分散液をゆっくり攪拌しながら、硫黄を含む処理剤(スルファミン酸、発煙硫酸、硫酸、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等)を添加し、該顔料分散液を60〜200℃に加熱処理して、前記顔料表面に前記分散性付与基を導入する。該顔料分散液から溶剤を除去した後、水洗、限外濾過、逆浸透、遠心分離、濾過等を繰り返して前記硫黄を含む処理剤を取り除いて、自己分散型顔料を得る。
【0024】
また、自己分散型顔料は、インクの保存安定性の向上や、ノズルの目詰まり防止の観点から、その平均粒径が10〜300nmであることが好ましく、40〜150nmであることが更に好ましい。
【0025】
自己分散型顔料の含有量は、十分なOD値が得られる点及びインク組成物の液安定性の点で、本実施形態Aのインク組成物中、好ましくは2〜15重量%であり、更に好ましくは4〜10重量%である。
【0026】
本実施形態Aに使用されるガラス転移点が10℃以上の樹脂粒子(以下、「高Tg樹脂粒子」ともいう)は、常温で膜化しないことで、記録媒体上に樹脂が固体または微粒子のまま残り、顔料が記録媒体上に浸透してしまう現象を防ぐ効果を発現し、それによってOD値を高めることができる。高Tg樹脂粒子のガラス転移点(Tg)はこのように10℃以上であるが、その効果を有効的に発現するためには、10℃以上150℃以下、特に20℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態Aに使用されるガラス転移点が0℃以下の樹脂粒子(以下、「低Tg樹脂粒子」ともいう)は、記録媒体上で樹脂が広がり、色材である顔料を記録媒体上に定着させることができる。低Tg樹脂粒子のガラス転移点(Tg)はこのように0℃以下であるが、その効果を有効的に発現するためには、0℃以下、−80℃以上、特に−10℃以下、−80℃以上であることが好ましい。
【0028】
尚、本実施形態Aにおいて、ガラス転移点(Tg)は、通常の方法、例えば、示差走査熱量計(DSC)等の熱分析装置を用いて測定できる。熱分析装置としては、例えば、セイコー電子社製SSC5000が挙げられる。また、ガラス転移点(Tg)は、樹脂が共重合体の場合、ガラス転移点計算値として評価することができる。共重合体のガラス転移点(Tg)及びその評価の方法論は以下の通りである。特定の単量体組成を有する共重合体のガラス転移点(Tg)は、フォックス(Fox)の式により計算より求めることができる。ここで、フォックスの式とは、共重合体を形成する個々の単量体について、その単量体の単独重合体のTgに基づいて、共重合体のTgを算出するためのものであり、その詳細は、ブルテン・オブ・ザ・アメリカン・フィジカル・ソサエティー,シリーズ2(Bulletin of the American Physical Society, Series 2)1巻・3号・123頁(1956年)に記載されている。本発明の明細書において用いる「ガラス転移点計算値」なる語の概念には、フォックス(Fox)の式により計算したガラス転移点をも包含する。フォックス(Fox)の式による共重合体のTgを計算するための基礎となる各種モノマーについての単独重合体のTgは、例えば、高分子データ・ハンドブック基礎編(高分子学会編)525〜546頁に記載されている数値又は通常の方法で測定した実測値を採用することができる。
【0029】
本実施形態Aにおいて、高Tg樹脂粒子及び低Tg樹脂粒子に適用できる樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが特に限定されない。これらの樹脂は、使用に際して1種又は2種以上で用いられ、高Tg樹脂粒子と低Tg樹脂粒子は同一の系統の樹脂でも異なる系統の樹脂を組み合わせてもよいが、高Tg樹脂粒子と低Tg樹脂粒子の少なくとも何れかが、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョン(例えば、いわゆる「アクリルエマルジョン」)の形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルジョンが好ましい。
【0030】
樹脂粒子のエマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0031】
不飽和単量体としては、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、及び酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0032】
また、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体も使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0033】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0034】
本実施形態Aにおいて、高Tg樹脂粒子及び低Tg樹脂粒子は、微粒子粉末としてインク組成物の他の成分と混合されてもよいが、好ましくは樹脂粒子を水媒体に分散させ、エマルジョン(ポリマーエマルジョン)の形態とした後、インク組成物の他の成分と混合されるのが好ましい。
【0035】
本実施形態Aにおいて、高Tg樹脂粒子の含有量は、本実施形態Aのインク組成物中、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは1〜4重量%である。
【0036】
一方、低Tg樹脂粒子の含有量は、本実施形態Aのインク組成物中、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜6重量%である。
【0037】
これら樹脂粒子の含有量の好適範囲は、インク組成物のインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)の観点から上限値を規定し、本発明の効果(高OD値、定着性等)をより有効に得る観点から下限値を規定したものである。
【0038】
また、高Tg樹脂粒子と低Tg樹脂粒子との重量比(前者/後者)は、OD値と定着性というバランスの点で、10/1〜1/10であることが好ましい。
【0039】
高Tg樹脂粒子及び低Tg樹脂粒子は、インク組成物中における分散安定性の観点から、その平均粒子径が50〜250nm、特に60〜200nmであることが好ましい。
【0040】
また、高Tg樹脂粒子及び低Tg樹脂粒子としては、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できる。
【0041】
高Tg樹脂粒子及び低Tg樹脂粒子は、本実施形態Aのインク組成物中に、均一なインクを調整するというインク調整の点とインクの安定性の点で、エマルジョンとして配合されることが好ましい。
【0042】
本実施形態Aにおいて、「樹脂粒子」とは、水に不溶性の樹脂が主として水からなる分散媒中に粒子状に分散しているもの、あるいは水に不溶性の樹脂を主として水からなる分散媒中に粒子状に分散させたもの、更にはその乾燥物をも包含したものを意味する。
【0043】
また、本実施形態Aにおいて、「エマルジョン」というときは、ディスパージョン、ラテックス、サスペンジョンと呼ばれる固/液の分散体をも包含したものを意味するものとする。
【0044】
また、エマルジョンは、前述した自己分散型顔料の分散安定性向上の観点から、アニオン性であることが好ましい。尚、同様の観点から、表面がカチオン性の顔料(例えば、表面処理によりカチオン基で分散させたもの)を用いる場合は、エマルジョンはカチオン性であることが好ましい。
【0045】
エマルジョンは、例えば、次のようにして製造される。
〔エマルジョンの一製造方法例〕
滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー及び攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水100部を入れ、窒素雰囲気下、温度70℃で攪拌しながら、重合開始剤0.2部を添加する。これに、別途調製したモノマー溶液を滴下し重合反応させて、1次物質を調製する。その後、温度70℃で、該1次物質に、重合開始剤の10%水溶液2部を添加して攪拌し、更に別途調製した反応液を添加し攪拌して重合反応させ、重合反応物を得る。該重合反応物を、中和剤で中和してpHが8〜8.5になるように調整した後、0.3μmのフィルターでろ過し粗大粒子を除去して、樹脂粒子を分散質とするエマルジョンを得る。
【0046】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。特に、前述の如く、重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。
【0047】
また、重合反応で用いられる乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤又は両性界面活性剤として用いられているもの等が挙げられる。
【0048】
また、重合反応で用いられる連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、キサントゲン類であるジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソブチルキサントゲンジスルフィド、ジペンテン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン、ジヒドロフラン、キサンテン等が挙げられる。
【0049】
本実施形態Aのインク組成物は、通常、溶剤として水、好ましくはイオン交換水を含有する水系のインク組成物である。
【0050】
また、本実施形態Aのインク組成物は、溶剤として、水以外に、有機溶剤を併用することもできる。このような有機溶剤としては、水と相溶性を有し、記録媒体へのインク組成物の浸透性及びノズルの目詰まり防止性を向上させると共に、後述する浸透剤等のインク組成物中の成分の溶解性を向上させるものが好ましく、例えば、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、2−ピロリドン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本実施形態Aのインク組成物中に好ましくは0〜10重量%で用いることができる。
【0051】
本実施形態Aのインク組成物には、印字品質を向上させる点から、アセチレングリコール系界面活性剤を含有させることが好ましい。このようなアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、又はこれらの物質それぞれにおける複数の水酸基それぞれにエチレンオキシ基若しくはプロピレンオキシ基を平均1〜30個付加してなる物質等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤としては、市販品を用いることもでき、例えば、「オルフィンE1010」及び「オルフィンSTG」(何れも、商品名、日信化学工業(株)製)等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
アセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、本実施形態Aのインク組成物中、好ましくは0.1〜3重量%であり、更に好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0053】
本実施形態Aのインク組成物には、記録媒体への定着性を更に向上させて記録する文字や図形等の画像の耐擦性を高めるために、浸透剤を含有させることが好ましい。このような浸透剤としては、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(DEGmBE)、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル(DEGmtBE)、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(TEGmBE)、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(PGmBE)、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(DPGmBE)及び下記一般式(I)で表される化合物からなる群から選ばれる1種又は2以上が好ましく、特に、DEGmBE、TEGmBE、DPGmBEが好ましい。尚、下記一般式(I)において、mとnは系中の存在を示し、PO及びEOは、ブロック付加でもよく、ランダム付加でもよい。
RO−(PO)m−(EO)n−H …(I)
(式中、Rは炭素数4〜10のアルキル基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、EOはエチレンオキシ基を示す。m≧1、n≧0、m+n≦20。)
【0054】
浸透剤の含有量は、インク組成物の浸透性及び速乾性を向上させてインクの滲み発生を有効に防止できる点で、本実施形態Aのインク組成物中、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは2〜10重量%である。
【0055】
また、本実施形態Aのインク組成物には、前記浸透剤と同様に、文字や図形等の画像の耐擦性を高めるために、前記アセチレングリコール系界面活性剤以外の界面活性剤を含有させることもできる。そのような界面活性剤としては、例えば、両性界面活性剤として、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体等、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコン系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0056】
本実施形態Aのインク組成物には、ノズルの目詰まりを防止して信頼性をより高めるために、水溶性グリコール類を含有させることが好ましい。このような水溶性グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の二価のアルコールや、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の三価以上のアルコール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
水溶性グリコール類の含有量は、本実施形態Aのインク組成物中に好ましくは1〜30重量%である。
【0058】
また、本実施形態Aのインク組成物には、前記水溶性グリコール類と同様に、ノズルの目詰まり防止のために、糖類や、防黴剤・防腐剤を含有させることもできる。
【0059】
糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ラクトース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトース、マルトース、セロビオース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、アルギン酸及びその塩、シクロデキストリン類、セルロース類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本実施形態Aのインク組成物中に好ましくは0〜15重量%で用いることができる。
【0060】
また、防黴剤・防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(AVECIA社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本実施形態Aのインク組成物中に好ましくは0.01〜0.5重量%で用いることができる。
【0061】
本実施形態Aのインク組成物には、目詰まり防止や吐出安定性といった信頼性確保の点で、EDTA等のキレート剤を含有させることが好ましく、本実施形態Aのインク組成物中に好ましくは0.01〜0.5重量%で用いることができる。
【0062】
本実施形態Aのインク組成物は、自己分散型顔料の表面がアニオン性である場合、印字濃度の向上及び液安定性の観点から、そのpHを6〜11とすることが好ましく、7〜10とすることが更に好ましい。インク組成物のpHを前記範囲内とするためには、pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の無機アルカリ類、アンモニア、トリエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリプロパノールアミン等の炭素数6〜10の3級アミン類等を含有させることが好ましい。pH調整剤は、その1種又は2種以上を、本実施形態Aのインク組成物中に好ましくは0.01〜2重量%で用いることができる。
【0063】
本実施形態Aのインク組成物には、更に必要に応じて、表面張力調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、酸素吸収剤等の各種添加剤を含有させることができ、これらの1種又は2種以上が用いられる。
【0064】
本実施形態Aのインク組成物は、吐出安定性を向上させて信頼性をより高める観点から、その表面張力を20〜40mN/mとすることが好ましく、25〜34mN/mとすることが更に好ましい。表面張力を前記範囲内とするために、前記表面張力調整剤を含有させることもできる。インク組成物の表面張力は、JIS K 3211に従い、測定される。
本実施形態Aのインク組成物は、吐出安定性を向上させて信頼性をより高める観点から、その20℃における粘度を2〜10mPa・s、特に3〜6mPa・sとすることが好ましい。インク組成物の粘度を前記範囲内とするために、前記粘度調整剤を含有させることもできる。前記粘度調整剤としては、ロジン類、アルギン酸類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、アラビアゴムスターチ等が挙げられる。
本実施形態Aのインク組成物を調製する方法は、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して調製することができる。本実施形態Aのインク組成物の調製に際しては、粗大粒子を除去することが好ましい。例えば、前述の各成分を配合して得られた混合物(インク)を、金属フィルターやメンブランフィルター等のフィルターにてろ過することにより、300nm以上の粒子を除去する。このような処理を行うことによって、ノズルに目詰まりしない信頼性のより高いインク組成物が得られる。
【0065】
本実施形態Aのインク組成物は、その色の種類等に制限されるものではなく、種々のカラーインク組成物(シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ダークイエロー、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレット等)、ブラックインク組成物、ライトブラックインク組成物等として使用できる。使用に際しては、本実施形態Aのインク組成物を単独で、若しくはその複数種からなるインクセットとして、又は、本実施形態Aのインク組成物の一種若しくは複数種とその他のインク組成物の一種若しくは複数種とからなるインクセットとして用いることができる。
【0066】
本実施形態Aのインク組成物は、その画像を形成するための記録媒体として、特に制限されることなく、普通紙、インクジェット用専用紙、プラスチック、フィルム、金属等の種々の記録媒体に適用することができる。
【0067】
また、本実施形態Aによれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像を形成する記録方法が提供される。本実施形態Aの記録方法の一例は、インクジェット記録方式によって、前述のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うものである。本実施形態Aの記録方法を実施することによって、高い信頼性で以ってインク組成物を吐出させることができ、形成される画像の印字品質が良好で、OD値が高く、定着性が良好で耐擦性に優れた画像を得ることができる。
【0068】
また、本実施形態Aによれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなる記録物が提供される。本実施形態Aの記録物は、印字品質が良好で、OD値が高く、定着性が良好で耐擦性に優れた画像を有するものである。
【0069】
(実施形態B)
実施形態Bのインクジェット記録用インク組成物は、自己分散型顔料と、平均粒子径が100nm未満の樹脂粒子と、平均粒子径が100〜250nmの樹脂粒子とを、少なくとも含むものである(以下、本実施形態Bのインクジェット記録用インク組成物を、単に「本実施形態Bのインク組成物」ということもある。)。
【0070】
尚、本実施形態Bのインク組成物について特に詳述しない事項については、前述した実施形態Aについて詳述した事項と同様である。従って、本実施形態Bのインク組成物についても、前述した実施形態Aについて詳述した事項が適宜適用される。
【0071】
本実施形態Bのインク組成物は、前記の構成からなるため、自己分散型顔料によるインク組成物の形成画像の十分なOD値を維持しつつ、平均粒子径の異なる両樹脂粒子それぞれの特性を活かし、これによりインク組成物の信頼性を高め、定着性を付与するとともに、記録画像の光沢性、耐擦性を付与するものである。また、前記の構成からなる本実施形態Bのインク組成物は、印字品質が良好な画像を形成し得るものである。
【0072】
本実施形態Bに使用される平均粒子径が100nm未満の樹脂粒子(以下、「小粒子径樹脂粒子」ともいう)は、その平均粒子径が50nm以上100nm未満であることが、記録画像のOD値がより高く、光沢性を更に向上させることができるため好ましい。
【0073】
一方、本実施形態Bに使用される平均粒子径が100〜250nmの樹脂粒子(以下、「大粒子径樹脂粒子」ともいう)は、その平均粒子径が100nm以上200nm以下であることが、同様に記録画像のOD値がより高く、光沢性を更に向上させることができるため好ましい。
【0074】
尚、これらの平均粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子(株)製)等の粒径測定によって、得ることができる。
【0075】
各樹脂粒子の平均粒径は、例えば、樹脂粒子の合成条件(温度、触媒、界面活性剤等)や、樹脂粒子が共重合体である場合には、該共重合体を形成するモノマーの割合(添加比率)を変えること等により調整することができる。
【0076】
本実施形態Bにおいて、小粒子径樹脂粒子及び大粒子径樹脂粒子に適用できる樹脂としては、水不溶性若しくは水難溶性で、記録媒体に対するインク組成物の定着性を向上させて、該記録媒体に耐擦性に優れた文字や図形等の画像を形成し得るものが好ましい。
【0077】
前記樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが特に限定されない。これらの樹脂は、使用に際して1種又は2種以上で用いられ、小粒径樹脂粒子と大粒径樹脂粒子は同一の系統の樹脂でも異なる系統の樹脂を組み合わせてもよいが、小粒径樹脂粒子と大粒径樹脂粒子の少なくとも何れかが、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョン(例えば、いわゆる「アクリルエマルジョン」)の形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルジョンが好ましい。
【0078】
エマルジョンは、常温での成膜性の観点から、その樹脂粒子の最低造膜温度(MFT)が20℃以下であることが好ましく、−5〜10℃であることが更に好ましい。エマルジョンの樹脂粒子のMFTを前記範囲内とする方法としては、樹脂粒子のTgを前記範囲内とする方法の他、市販のMFT降下剤を使用する方法も採用できる。
【0079】
尚、MFTは、MFT試験装置により測定できる。後述の実施形態Cにおいて使用されるようなMFT測定装置等が挙げられる。
【0080】
本実施形態Bにおいて、小粒径樹脂粒子の含有量は、本実施形態Bのインク組成物中、好ましくは0.1〜5重量%、更に好ましくは0.5〜5重量%である。
【0081】
一方、大粒径樹脂粒子の含有量は、本実施形態Bのインク組成物中、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは1〜4重量%である。
【0082】
これら樹脂粒子の含有量の好適範囲は、インク組成物のインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)の観点から上限値を規定し、本実施形態Bの効果(高OD値、定着性等)をより有効に得る観点から下限値を規定したものである。
【0083】
また、小粒径樹脂粒子と大粒径樹脂粒子との重量比(前者/後者)は、OD値と光沢性がバランスよく向上した記録画像を形成できる点で、1/1〜10/1であることが好ましい。
【0084】
小粒径樹脂粒子及び大粒径樹脂粒子は、記録画像のOD値と光沢性の向上の観点から、それらのガラス転移点(Tg)が、−50〜50℃、特に−30〜30℃であることが好ましい。
【0085】
本実施形態Bのインク組成物は、その画像を形成するための記録媒体として、特に制限されることなく、普通紙、インクジェット用専用紙、プラスチック、フィルム、金属等の種々の記録媒体に適用することができる。本実施形態Bのインク組成物によれば、特に、インクジェット用光沢系専用紙に画像を形成した場合に、光沢性をより向上させた画像を得ることができる。
【0086】
また、本実施形態Bによれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像を形成する記録方法が提供される。本実施形態Bの記録方法の一例は、インクジェット記録方式によって、前述のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うものである。本実施形態Bの記録方法を実施することによって、高い信頼性で以ってインク組成物を吐出させることができ、形成される画像の印字品質が良好で、OD値が高く、定着性が良好で耐擦性に優れ、光沢性が付与された画像を得ることができる。
【0087】
また、本実施形態Bによれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなる記録物が提供される。本実施形態Bの記録物は、印字品質が良好で、OD値が高く、定着性が良好で耐擦性に優れ、光沢性が付与された画像を有するものである。
【0088】
尚、本実施形態Bのインク組成物の用途、自己分散型顔料に関する内容、使用顔料、調製法、市販品の利用可能性、平均粒子径、含有量等及びそれらの好適態様については、前述した実施形態Aのインク組成物についてのものと同様である。
【0089】
また、小粒径樹脂粒子及び大粒径樹脂粒子に関し、構造、配合態様、好適配合態様である樹脂粒子のエマルジョンの種類、製法、製造例及びその製造に使用するもの、インク組成物への混合法、ガラス転移点(Tg)の測定法については、前述した実施形態Aのインク組成物に使用される高Tg樹脂粒子及び低Tg樹脂粒子についてのものと同様である。
【0090】
さらに、本実施形態Bのインク組成物における他の配合物、例えば、水その他の溶剤、アセチレングリコール系界面活性剤及びその他の界面活性剤、浸透剤、水溶性グリコール類糖類、防黴剤・防腐剤、キレート剤、pH調整剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、並びにその他の各種添加剤及びその含有量や、インク組成物の調製法、色の種類等、並びにpH値、表面張力、粘度それぞれの好適範囲についても、前述した実施形態Aのインク組成物と同様である。
【0091】
(実施形態C)
実施形態Cのインクジェット記録用インク組成物は、自己分散型顔料と、最低造膜温度(MFT)が20℃以上の樹脂粒子と、最低造膜温度(MFT)が10℃以下の樹脂粒子とを、少なくとも含むものである(以下、本実施形態Cのインクジェット記録用インク組成物を、単に「本実施形態Cのインク組成物」ということもある。)。
【0092】
本実施形態Cのインク組成物は、前記の構成からなるため、自己分散型顔料によるインク組成物の形成画像の十分なOD値を維持しつつ、最低造膜温度(MFT)(以下、単に「MFT」ともいう。)の異なる両樹脂粒子それぞれの特性を活かし、これによりインク組成物におけるOD値と定着性とのバランスをとりながら、かかるOD値及び定着性の双方を特に高めたものである。また、前記の構成からなる本発明のインク組成物は、信頼性、にじみ等の印字品質、及び耐擦性についても良好なものである。
【0093】
本実施形態Cに使用されるMFTが20℃以上の樹脂粒子(以下、「高MFT樹脂粒子」ともいう。)は、常温で膜化しないことで、記録媒体上に樹脂が固体または微粒子のまま残り、顔料が記録媒体上に浸透してしまう現象を防ぐ効果を発現し、それによってOD値を高めることができる。高MFT樹脂粒子のMFTはこのように20℃以上であるが、その効果を有効的に発現するためには、20℃以上150℃以下、特に35℃以上130℃以下であることが好ましい。
【0094】
本実施形態Cに使用されるMFTが10℃以下の樹脂粒子(以下、「低MFT樹脂粒子」ともいう。)は、記録媒体上で樹脂が広がり、色材である顔料を記録媒体上に定着させることができる。低MFT樹脂粒子のMFTはこのように10℃以下であるが、その効果を有効的に発現するためには、5℃以下であることが好ましい。
【0095】
尚、本実施形態Cにおいて、MFTは、「造膜温度試験装置」((株)井元製作所製)、「TP−801 MFTテスター」(テスター産業(株)製)等のMFT測定装置で測定される値である。また、JIS K6828−1996で示される測定方法でも測定できる。また、MFTは、例えば、樹脂粒子のTg(ガラス転移点)をコントロールすること、特に樹脂粒子が共重合体である場合には、該共重合体を形成するモノマーの割合(添加比率)等を変えること等により調整することができる。さらに、低MFT樹脂粒子を調製するために、高MFT樹脂粒子に造膜助剤を添加することもできる。これは、造膜助剤の添加により、樹脂粒子の膜化温度、即ちMFTを低下させることができるためである。
【0096】
ここで、造膜助剤としては、樹脂と親和性のある有機溶剤が用いられ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキルエーテル類、ベンジルアルコール等が例として挙げられるがこれらに限定されず、その他市販の造膜助剤、有機溶剤を含め、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
本実施形態Cにおいて、高MFT樹脂粒子及び低MFT樹脂粒子に適用できる樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが特に限定されない。これらの樹脂は、使用に際して1種又は2種以上で用いられ、高MFT樹脂粒子と低MFT樹脂粒子は同一の系統の樹脂でも異なる系統の樹脂を組み合わせてもよいが、高MFT樹脂粒子と低MFT樹脂粒子の少なくとも何れかが、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョン(例えば、いわゆる「アクリルエマルジョン」)の形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルジョンが好ましい。
【0098】
本実施形態Cにおいて、高MFT樹脂粒子の含有量は、本実施形態Cのインク組成物中、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは1〜4重量%である。
【0099】
一方、低MFT樹脂粒子の含有量は、本実施形態Cのインク組成物中、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは0.5〜6重量%である。
【0100】
これら樹脂粒子の含有量の好適範囲は、インク組成物のインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)の観点から上限値を規定し、本発明の効果(高OD値、定着性等)をより有効に得る観点から下限値を規定したものである。
【0101】
また、高MFT樹脂粒子と低MFT樹脂粒子との重量比(前者/後者)は、OD値と定着性というバランスの点で、10/1〜1/10であることが好ましい。
【0102】
また、高MFT樹脂粒子及び低MFT樹脂粒子は、インク組成物中における分散安定性の観点から、その平均粒子径が50〜250nm、特に60〜250nmであることが好ましい。
【0103】
また、水への溶解性が低い有機溶剤と組み合わせて用いることで、記録媒体上での定着性や光沢性をより向上させることもできる。
【0104】
水への溶解性が低い有機溶剤としては、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤が好ましい。MFTが室温付近からそれ以上の樹脂粒子は、それ単独では室温では成膜しにくい、あるいは成膜しないため、定着性への寄与は殆どない。しかし、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤を併せて使用することで、室温での成膜を促す効果があり、低MFT樹脂粒子との併用効果と相俟って、定着性を更に向上させることもできる。さらに、樹脂粒子を膨潤させ、記録面をより平滑化させる効果があり、光沢性を向上させることもできる。このような機能をもつ有機溶剤を一般に成膜助剤または造膜助剤と呼ぶことがあり、その機能は以下のように推定されている。即ち、水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤は、水性インク組成物中ではより疎水性の強い上記樹脂粒子のドメイン中に取り込まれる形で存在するものと考えられる。樹脂粒子として、水性エマルジョンの形態で水媒体中に分散している樹脂微粒子を使用する場合には、樹脂微粒子をある程度膨潤させるように取り込まれる。このため、インク組成物としては、安定に存在し、保存安定性、吐出安定性が大きく劣化することはない。このインク組成物を紙等の記録媒体上に付着させて印字を行った場合、取り込まれていた上記有機溶剤が蒸発し、または記録媒体中へ浸透することで樹脂粒子ドメインから放出され、それがトリガーとなって樹脂粒子の造膜を促したり、樹脂膜の付着を平滑にさせる。
【0105】
25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤としては、一般に成膜助剤または造膜助剤と呼ばれる溶剤を使用でき、具体的には、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ベンジルアルコール、ジブチルフタレート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が例示できる。これらの有機溶剤は単独で用いても良く、複数種類の有機溶剤を混合して用いても良い。また構造異性体を有する場合には単体として用いても良く、混合物として用いても良い。
【0106】
25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤の添加量は、組み合わせて使用する樹脂粒子の種類にも依るが、造膜促進効果の向上並びにインク組成物の保存安定性、吐出安定性の向上の点から、樹脂粒子に対して0.1〜30重量%の範囲であることが好ましく、0.1〜20重量%の範囲であることがより好ましい。
【0107】
また、本実施形態Cによれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像を形成する記録方法が提供される。本実施形態Cの記録方法の一例は、インクジェット記録方式によって、前述のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うものである。本実施形態Cの記録方法を実施することによって、高い信頼性で以ってインク組成物を吐出させることができ、形成される画像の印字品質が良好で、OD値が高く、定着性が良好で耐擦性に優れた画像を得ることができる。
【0108】
また、本実施形態Cによれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなる記録物が提供される。本実施形態Cの記録物は、印字品質が良好で、OD値が高く、定着性が良好で耐擦性に優れた画像を有するものである。
【0109】
尚、本実施形態Cのインク組成物の用途、自己分散型顔料に関する内容、使用顔料、調製法、市販品の利用可能性、平均粒子径、含有量等及びそれらの好適態様については、前述した実施形態Aのインク組成物についてのものと同様である。
【0110】
また、高MFT樹脂粒子及び低MFT樹脂粒子に関し、構造、配合態様、好適配合態様である樹脂粒子のエマルジョンの種類、製法、製造例及びその製造に使用するもの、インク組成物への混合法については、前述した実施形態Aのインク組成物に使用される高Tg樹脂粒子及び低Tg樹脂粒子についてのものと同様である。
【0111】
さらに、本実施形態Bのインク組成物における他の配合物、例えば、水その他の溶剤、アセチレングリコール系界面活性剤及びその他の界面活性剤、浸透剤、水溶性グリコール類糖類、防黴剤・防腐剤、キレート剤、pH調整剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、並びにその他の各種添加剤及びその含有量や、インク組成物の調製法、色の種類等、並びにpH値、表面張力、粘度それぞれの好適範囲についても、前述した実施形態Aのインク組成物と同様である。
【0112】
以上、本発明を三つの実施形態に基づいて詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、更に他の実施形態に変更することも可能である。
【0113】
本発明のインク組成物においては、互いに物性の異なる二種の樹脂粒子として、pH6におけるゼータ電位が10〜−10mVである樹脂粒子と、pH6におけるゼータ電位が−20〜−55mVである樹脂粒子とを使用することもできる。
【0114】
本明細書においてゼータ電位とは、ゼータサイザー3000(Malvern(株)製)により測定された値である。
【0115】
各ゼータ電位をそれぞれ有する二種の樹脂粒子を使用することによっても、本発明の効果を達成でき、特に、インク組成物中で凝集又は沈降を生じさせず、分散安定性が良好で、また紙面上において高いOD値と定着性を実現するインク組成物を提供できる。
【実施例1】
【0116】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。
【0117】
(実施例A)
表1に示す配合量(インク組成物の全重量に対する各成分の重量%)で、顔料、エマルジョン、有機溶剤、及びイオン交換水(残量、表1に示さず)を混合攪拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、実施例A(実施例1〜6)及びその比較例1〜4それぞれのインク組成物を得た。
【0118】
【表1】

【0119】
表1中の顔料1は、自己分散型顔料である、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」(商品名)〔平均粒径;110nm〕であり、顔料2は自己分散型顔料である、キャボット社製の「CAB−O−JET 300」(商品名)〔平均粒径;130nm〕である。
また、表1中のエマルジョンは、全て、分散媒が水で分散質が樹脂粒子である、樹脂粒子の水系分散液である。尚、表1中のエマルジョンの重量%は、樹脂粒子としての濃度を表す。また、Tgは、熱分析装置SSC5000(セイコー電子(株)製)を用いた示差熱分析により測定した値である。
【0120】
表1中のエマルジョン1A〜6Aの詳細(製造法、樹脂粒子のTg等)を以下に示す。
【0121】
(エマルジョン1Aの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン130g、2−エチルへキシルアクリレート780g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は−50℃であった。
【0122】
(エマルジョン2Aの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は−15℃であった。
【0123】
(エマルジョン3Aの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン365g、ブチルアクリレート545g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は−6℃であった。
【0124】
(エマルジョン4Aの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン500g、ブチルアクリレート410g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は15℃であった。
【0125】
(エマルジョン5Aの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン615g、ブチルアクリレート295g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は36℃であった。
【0126】
(エマルジョン6Aの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート675g、ブチルアクリレート235g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は50℃であった。
【0127】
また、前記表1中の有機溶剤についての詳細は、次の通りである。
TEGmBE ;トリエチレングリコールモノブチルエーテル
GL ;グリセリン
TEG ;トリエチレングリコール
1,2−HD ;1,2−ヘキサンジオール
2P ;2−ピロリドン
TPA ;トリプロパノールアミン
オルフィンE1010;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
オルフィンSTG ;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
EDTA ;エチレンジアミン四酢酸二水素ナトリウム(キレート剤)
プロキセルXL2;防黴剤(アビシア(株)製)
【0128】
調製した各インク組成物を用いて、インクジェットプリンターEM−930C(セイコーエプソン(株)製)で720dpiの解像度で文字及びベタ印字の印刷を行った。記録媒体としては、Copyplus(Hammermill社製)、Xerox 4024(Xerox社製)、Xerox P、Xerox R(以上、富士ゼロックス社製)、専用普通紙(セイコーエプソン(株)製)の5種の紙を使用して印字を行い、得られたサンプル(記録物)を用いて、下記に示す試験1〜3について評価した。尚、これらの評価は、各種紙における評価の平均をとった。また、下記試験4〜6についても、下記の通り評価した。
【0129】
〈試験1;耐擦性(耐ラインマーカー性)〉
印字後、サンプル(記録物)を24時間自然乾燥させた後、ゼブラ社製のイエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(登録商標)を用いて、印刷文字を筆圧300g/15mmで擦り、汚れの有無を目視で観察した。その結果を下記基準に基づき判定した。
A;同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない。
B;1回の擦りまでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが発生する。
C;1回の擦りで汚れが発生する。
【0130】
〈試験2;光学濃度(OD値)〉
印刷後、サンプル(記録物)を一般環境下で1時間放置した。放置後、ベタ部分についてグレタグ濃度計(グレタグ社製)を用いて光学濃度を測定し、下記基準に基づき判定した。
A;光学濃度が1.3以上。
B;光学濃度が1.1以上1.3未満。
C;光学濃度が1.1未満。
【0131】
〈試験3;耐水性〉
サンプル(記録物)の印字部に水滴を滴下し、乾燥させた後の印字画像(文字及びベタ印字)の状態を目視で確認した。その状態を下記基準に基づき判定した。
A;水滴の跡が全く残らない。
B;水滴の跡が少し残る。
C;水滴の跡がかなり残る。
【0132】
〈試験4;吐出安定性〉
調製した各インク組成物を用いて、常温にて、インクジェットプリンターEM−930Cでベタ及び線のパターンを連続印字した。印刷100ページ内でのインクのドット抜けや飛行曲がりの際に正常印刷への復帰動作として行うプリンターノズルのクリーニングの回数を評価し、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング0回。
B;クリーニング1又は2回。
C;クリーニング3回以上。
【0133】
〈試験5;保存安定性〉
アルミパックにインク組成物50gを入れた状態で70℃の環境下に1週間放置した。放置後、異物(沈降物)の発生の有無について、また、異物の発生がないものについては、更に物性(粘度、表面張力、pH、粒径)の変化について、下記基準に基づき判定した。
A;異物の発生がなく、物性の変化もない。
B;異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C;異物が発生する。
【0134】
〈試験6;目詰まり性〉
インクジェットプリンターEM−930Cを用いて、各インクをヘッドに充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジがない状態で、かつホームポジション外の位置(ヘッドがプリンタに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。放置後に、再び全ノズルよりインク組成物が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング1回。
B;クリーニング2〜5回。
C;クリーニング6回以上。
【0135】
以上の評価結果を表2に示す。
【0136】
【表2】

【0137】
(実施例B)
表3に示す配合量(インク組成物の全重量に対する各成分の重量%)で、顔料、エマルジョン、有機溶剤、及びイオン交換水(残量、表3に示さず)を混合攪拌し、孔径5μm金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、実施例B(実施例1〜6)及びその比較例1〜4それぞれのインク組成物を得た。
【0138】
【表3】

【0139】
表3中の顔料1は、自己分散型顔料である、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」(商品名)〔平均粒子径;110nm〕であり、顔料2は自己分散型顔料である、キャボット社製の「CAB−O−JET 300」(商品名)〔平均粒子径;130nm〕である。
【0140】
また、表3中のエマルジョンは、全て、分散媒が水で分散質が樹脂粒子である、樹脂粒子の水系分散液である。尚、表3中のエマルジョンの重量%は、樹脂粒子としての濃度を表す。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による平均粒子径の値であり、Tgは、熱分析装置SSC5000(セイコー電子(株)製)を用いた示差熱分析により測定した値である。
【0141】
表3中のエマルジョン1B〜6Bの詳細(製造法、樹脂粒子の平均粒子径等)を以下に示す。
【0142】
(エマルジョン1Bの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000g及びラウリル硫酸ナトリウム7.5gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート400g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分37重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子の平均粒子径は60nmであった。
【0143】
(エマルジョン2Bの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000g及びラウリル硫酸ナトリウム2.5gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分38重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子の平均粒子径は80nmであった。
【0144】
(エマルジョン3Bの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム6gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に5時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子の平均粒子径は130nmであった。
【0145】
(エマルジョン4Bの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム5gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子の平均粒子径は150nmであった。
【0146】
(エマルジョン5Bの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.48gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム5gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子の平均粒子径は200nmであった。
【0147】
(エマルジョン6Bの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.29gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム9gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に5時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子の平均粒子径は250nmであった。
【0148】
また、前記表3中の有機溶剤についての詳細は、次の通りである。
TEGmBE ;トリエチレングリコールモノブチルエーテル
GL ;グリセリン
TEG ;トリエチレングリコール
1,2−HD ;1,2−ヘキサンジオール
2P ;2−ピロリドン
TPA ;トリプロパノールアミン
オルフィンE1010;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
オルフィンSTG ;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
EDTA ;エチレンジアミン四酢酸二水素ナトリウム(キレート剤)
プロキセルXL2;防黴剤(アビシア(株)製)
【0149】
調製した各インク組成物を用いて、インクジェットプリンターEM−930C(セイコーエプソン(株)製)で1440dpiの解像度で文字及びベタ印字の印刷を行った。記録媒体としては、PM写真用紙、MC写真用紙、フォトプリント紙2(以上、セイコーエプソン(株)製)、プロフェッショナルフォトペーパー PR−101(キャノン(株)製)の4種の紙を使用して印字を行い、得られたサンプル(記録物)を用いて、下記に示す試験1〜4について評価した。尚、これらの評価は、各種紙における評価の平均をとった。また、下記試験5〜7についても、下記の通り評価した。
【0150】
〈試験1;光沢性評価〉
印字部分(30%デューティー部)の光沢度計 PG−1M(日本電色工業(株)製)を用いて、45°での正反射を測定し、以下の基準に基づき判定した。
A;光沢度が60以上。
B;光沢度が50以上60未満。
C;光沢度が50未満。
【0151】
〈試験2;光学濃度(OD値)〉
印刷後、サンプル(記録物)を一般環境下で1時間放置した。放置後、ベタ部分についてグレタグ濃度計(グレタグ社製)を用いて光学濃度を測定し、下記基準に基づき判定した。
A;光学濃度が2.0以上。
B;光学濃度が1.7以上2.0未満。
C;光学濃度が1.7未満。
【0152】
〈試験3;耐擦性(耐ラインマーカー性)〉
印字後、サンプル(記録物)を24時間自然乾燥させた後、ゼブラ社製のイエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(登録商標)を用いて、印刷文字を筆圧300g/15mmで擦り、汚れの有無を目視で観察した。その結果を下記基準に基づき判定した。
A;同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない。
B;1回の擦りまでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが発生する。
C;1回の擦りで汚れが発生する。
【0153】
〈試験4;耐水性〉
サンプル(記録物)の印字部に水滴を滴下し、乾燥させた後の印字画像(文字及びベタ印字)の状態を目視で確認した。その状態を下記基準に基づき判定した。
A;水滴の跡が全く残らない。
B;水滴の跡が少し残る。
C;水滴の跡がかなり残る。
【0154】
〈試験5;吐出安定性〉
調製した各インク組成物を用いて、常温にて、インクジェットプリンターEM−930Cでベタ及び線のパターンを連続印字した。印刷100ページ内でのインクのドット抜けや飛行曲がりの際に正常印刷への復帰動作として行うプリンターノズルのクリーニングの回数を評価し、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング0回。
B;クリーニング1又は2回。
C;クリーニング3回以上。
【0155】
〈試験6;保存安定性〉
アルミパックにインク組成物50gを入れた状態で70℃の環境下に1週間放置した。放置後、異物(沈降物)の発生の有無について、また、異物の発生がないものについては、更に物性(粘度、表面張力、pH、樹脂粒子の粒子径)の変化について、下記基準に基づき判定した。
A;異物の発生がなく、物性の変化もない。
B;異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C;異物が発生する。
【0156】
〈試験7;目詰まり性〉
インクジェットプリンターEM−930Cを用いて、各インクをヘッドに充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジがない状態で、かつホームポジション外の位置(ヘッドがプリンタに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。放置後に、再び全ノズルよりインク組成物が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング1回。
B;クリーニング2〜5回。
C;クリーニング6回以上。
【0157】
以上の評価結果を表4に示す。
【0158】
【表4】

【0159】
(実施例C)
表5に示す配合量(インク組成物の全重量に対する各成分の重量%)で、顔料、エマルジョン、有機溶剤、及びイオン交換水(残量、表5に示さず)を混合攪拌し、孔径5μm金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、実施例C(実施例1〜9)及びその比較例1〜6それぞれのインク組成物を得た。
【0160】
【表5】

【0161】
表5中の顔料1は、自己分散型顔料である、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」(商品名)〔平均粒径;110nm〕であり、顔料2は自己分散型顔料である、キャボット社製の「CAB−O−JET 300」(商品名)〔平均粒径;130nm〕である。
【0162】
また、表5中のエマルジョンは、全て、分散媒が水で分散質が樹脂粒子である、樹脂粒子の水系分散液である。尚、表5中のエマルジョンの重量%は、樹脂粒子としての濃度を表す。また、MFTは、「造膜温度試験装置」((株)井元製作所製)により測定した値である。また、Tgは、熱分析装置SSC5000(セイコー電子(株)製)を用いた示差熱分析により測定した値である。
【0163】
表5中のエマルジョン1C〜6Cの詳細(製造法、樹脂粒子のMFT等)を以下に示す。尚、エマルジョンは0℃以下で凍結するため、樹脂粒子のMFTが0℃以下の場合にはMFT値を測定できないので、この場合のMFTを0℃以下と示す。
【0164】
(エマルジョン1Cの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン130g、2−エチルへキシルアクリレート780g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のMFTは0℃以下であり、ガラス転移温度は−50℃であった。
【0165】
(エマルジョン2Cの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のMFTは0℃以下であり、ガラス転移温度は−15℃であった。
【0166】
(エマルジョン3Cの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン365g、ブチルアクリレート545g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のMFTは7℃であり、ガラス転移温度は−6℃であった。
【0167】
(エマルジョン4Cの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン500g、ブチルアクリレート410g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のMFTは30℃であり、ガラス転移温度は15℃であった。
【0168】
(エマルジョン5Cの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン615g、ブチルアクリレート295g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のMFTは48℃であり、ガラス転移温度は36℃であった。
【0169】
(エマルジョン6Cの製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート675g、ブチルアクリレート235g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のMFTは59℃であり、ガラス転移温度は50℃であった。
【0170】
また、表5中の有機溶剤についての詳細は、次の通りである。
TEGmBE ;トリエチレングリコールモノブチルエーテル
GL ;グリセリン
TEG ;トリエチレングリコール
1,2−HD ;1,2−ヘキサンジオール
2P ;2−ピロリドン
TPA ;トリプロパノールアミン
オルフィンE1010;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
オルフィンSTG ;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
EDTA ;エチレンジアミン四酢酸二水素ナトリウム(キレート剤)
プロキセルXL2;防黴剤(アビシア(株)製)
【0171】
調製した各インク組成物を用いて、インクジェットプリンターEM−930C(セイコーエプソン(株)製)で720dpiの解像度で文字及びベタ印字の印刷を行った。記録媒体としては、Copyplus(Hammermill社製)、Xerox 4024(Xerox社製)、Xerox P、Xerox R(以上、富士ゼロックス社製)、専用普通紙(セイコーエプソン(株)製)の5種の紙を使用して印字を行い、得られたサンプル(記録物)を用いて、下記に示す試験1〜3について評価した。尚、これらの評価は、各種紙における評価の平均をとった。また、下記試験4〜6についても、下記の通り評価した。
【0172】
〈試験1;耐擦性(耐ラインマーカー性)〉
印字後、サンプル(記録物)を24時間自然乾燥させた後、ゼブラ社製のイエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(登録商標)を用いて、印刷文字を筆圧300g/15mmで擦り、汚れの有無を目視で観察した。その結果を下記基準に基づき判定した。
A;同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない。
B;1回の擦りまでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが発生する。
C;1回の擦りで汚れが発生する。
【0173】
〈試験2;光学濃度(OD値)〉
印刷後、サンプル(記録物)を一般環境下で1時間放置した。放置後、ベタ部分についてグレタグ濃度計(グレタグ社製)を用いて光学濃度を測定し、下記基準に基づき判定した。
A ; 光学濃度が1.4以上。
B ; 光学濃度が1.3以上1.4未満。
C ; 光学濃度が1.1以上1.3未満。
D ; 光学濃度が1.1未満。
【0174】
〈試験3;耐水性〉
サンプル(記録物)の印字部に水滴を滴下し、乾燥させた後の印字画像(文字及びベタ印字)の状態を目視で確認した。その状態を下記基準に基づき判定した。
A;水滴の跡が全く残らない。
B;水滴の跡が少し残る。
C;水滴の跡がかなり残る。
【0175】
〈試験4;吐出安定性〉
調製した各インク組成物を用いて、常温にて、インクジェットプリンターEM−930Cでベタ及び線のパターンを連続印字した。印刷100ページ内でのインクのドット抜けや飛行曲がりの際に正常印刷への復帰動作として行うプリンターノズルのクリーニングの回数を評価し、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング0回。
B;クリーニング1又は2回。
C;クリーニング3回以上。
【0176】
〈試験5;保存安定性〉
アルミパックにインク組成物50gを入れた状態で70℃の環境下に1週間放置した。放置後、異物(沈降物)の発生の有無について、また、異物の発生がないものについては、更に物性(粘度、表面張力、pH、粒径)の変化について、下記基準に基づき判定した。
A;異物の発生がなく、物性の変化もない。
B;異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C;異物が発生する。
【0177】
〈試験6;目詰まり性〉
インクジェットプリンターEM−930Cを用いて、各インクをヘッドに充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジがない状態で、かつホームポジション外の位置(ヘッドがプリンタに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。放置後に、再び全ノズルよりインク組成物が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング1回。
B;クリーニング2〜5回。
C;クリーニング5回以上。
【0178】
以上の評価結果を表6に示す。
【0179】
【表6】

【0180】
(実施例D)
樹脂粒子を分散粒子とする水性エマルジョンを下記の方法によって調整した。
【0181】
<エマルジョン1D>
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン520g、ブチルアクリレート380g、メタクリル酸30g、およびエチレングリコールジメタクリレート2gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンのゼータ電位は4mVであった。
【0182】
<エマルジョン2D>
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン615g、ブチルアクリレート295g及びメタクリル酸30gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンのゼータ電位は−5mVであった。
【0183】
<エマルジョン3D>
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン675g、ブチルアクリレート235g、メタクリル酸30gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンのゼータ電位は―10mVであった。
【0184】
<エマルジョン4D>
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン365g、ブチルアクリレート545g、メタクリル酸30gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンのゼータ電位は−53mVであった。
【0185】
<エマルジョン5D>
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンのゼータ電位は−23mVであった。
【0186】
<エマルジョン6D>
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3を仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム1gを添加し、溶解後、予めイオン交換水300g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート310g、ブチルアクリレート620g、メタクリル酸30gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。
得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンのゼータ電位は−37mVであった。
【0187】
表7に示す配合量(インク組成物の全重量に対する各成分の重量%)で、顔料、エマルジョン、有機溶剤、及びイオン交換水(残量、表7に示さず)を混合攪拌し、孔径5μm金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、実施例D(実施例2〜6)及びその比較例1〜3のそれぞれのインク組成物を得た。
【0188】
【表7】

【0189】
表7中の顔料1は、自己分散型顔料である、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」(商品名)〔平均粒径;110nm〕であり、顔料2は自己分散型顔料である、キャボット社製の「CAB−O−JET 300」(商品名)〔平均粒径;130nm〕である。
【0190】
また、表7中のエマルジョンは、全て、分散媒が水で分散質が樹脂粒子である、水系分散液であり、その詳細は、上記エマルジョン1D〜6Dに示す通りである。
【0191】
尚、ゼータ電位はゼータサイザー3000(Malvern (株) 製)により測定した値である。
【0192】
また、表7中の有機溶剤についての詳細は、次の通りである。
TEGmBE ;トリエチレングリコールモノブチルエーテル
GL ;グリセリン
TEG ;トリエチレングリコール
1,2−HD ;1,2−ヘキサンジオール
2P ;2−ピロリドン
TPA ;トリプロパノールアミン
オルフィンE1010;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
オルフィンSTG ;アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業(株)製)
EDTA ;エチレンジアミン四酢酸二水素ナトリウム(キレート剤)
プロキセルXL2 ;防黴剤(アビシア(株)製)
【0193】
調製した各インク組成物を用いて、インクジェットプリンターEM−930C(セイコーエプソン(株)製)で720dpiの解像度で文字及びベタ印字の印刷を行った。記録媒体としては、Copyplus(Hammermill社製)、Xerox 4024(Xerox社製)、Xerox P、Xerox R(以上、富士ゼロックス(株)製)、専用普通紙(セイコーエプソン(株)製)の5種の紙を使用して印字を行い、得られたサンプル(記録物)を用いて、下記に示す試験1〜6について評価した。
【0194】
〈試験1;光学濃度(OD値)〉
印刷後、サンプル(記録物)を一般環境下で1時間放置した。放置後、ベタ部分についてグレタグ濃度計(グレタグ(株)製)を用いて光学濃度を測定し、下記基準に基づき判定した。
A;光学濃度が1.3以上。
B;光学濃度が1.1以上1.3未満。
C;光学濃度が1.1未満。
【0195】
〈試験2;耐擦性(耐ラインマーカー性)〉
印字後、サンプル(記録物)を24時間自然乾燥させた後、ゼブラ(社)製のイエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(登録商標)を用いて、印刷文字を筆圧300g/15mmで擦り、汚れの有無を目視で確認した。その結果を下記基準に基づき判定した。
A;同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない。
B;1回の擦りでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが発生する。
C;1回の擦りで汚れが発生する。
【0196】
〈試験3;耐水性〉
サンプル(記録物)の印字部に水滴を滴下し、乾燥させた後の印字画像(文字及びベタ印字)の状態を目視で確認した。その状態を下記基準に基づき判定した。
A;水滴の跡が全く残らない。
B;水滴の跡が少し残る。
C;水滴の跡がかなり残る。
【0197】
〈試験4;吐出安定性〉
調製した各インク組成物を用いて、常温にて、インクジェットプリンターEM−930Cでベタ及び線のパターンを連続印字した。印刷100ページ内でのインクのドット抜けや飛行曲がりの際に正常印刷への復帰動作として行うプリンターノズルのクリーニングの回数を評価し、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング0回。
B;クリーニング1又は2回。
C;クリーニング3回以上。
【0198】
〈試験5;保存安定性〉
アルミパックにインク組成物50gを入れた状態で70℃の環境下に1週間放置した。放置後、異物(沈降物)の発生の有無について、また、異物の発生がないものについては、更に物性(粘度、表面張力、pH、粒径)の変化について、下記基準に基づき判定した。
A;異物の発生がなく、物性の変化もない。
B;異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C;異物が発生する。
【0199】
〈試験6;目詰まり性〉
インクジェットプリンターEM−930Cを用いて、各インクをヘッドに充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジがない状態で、かつホームポジション外の位置(ヘッドがプリンタに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。放置後に、再び全ノズルよりインク組成物が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング1回。
B;クリーニング2〜4回。
C;クリーニング5回以上。
【0200】
以上の評価結果を表8に示す。
【0201】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明によれば、信頼性及び印字品質が良好で、OD値が高く、しかも定着性が良好で耐擦性に優れるインクジェット記録用インク組成物が提供される。また、本発明によれば、信頼性が高く、定着性を有し、記録画像のOD値が高く印字品質が良好で、しかも光沢性、耐擦性を付与し得るインクジェット記録用インク組成物も提供される。
【0203】
本発明のインクジェト記録用インク組成物は、吐出安定性及び保存安定性に優れ、インクジェット記録用プリンタのノズルの目詰まり防止性が良好であることから、信頼性が高いものである。また、本発明のインクジェット記録用インク組成物は、その記録画像(印字物)の印字品質が良好で、特に、OD値が高く優れた発色性を有し、さらに記録画像の定着性が良好なことから耐擦性にも優れたものである。また、本発明のインクジェット記録用インク組成物は、その記録画像(印字物)の印字品質が良好で、特に、光沢メディア上での光沢性に優れたものもある。
さらに、本発明のインクジェット記録用インク組成物は、その記録画像の耐水性をも有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散型顔料と、互いに物性の異なる二種の樹脂粒子とを少なくとも含み、前記二種の樹脂粒子の一方は、ガラス転移点が10℃以上の樹脂粒子であり、もう一方は、ガラス転移点が0℃以下の樹脂粒子である、インクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】
ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子と、ガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子との重量比(前者:後者)が、1:10〜10:1である、請求の範囲第1項記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子及びガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子の少なくとも一方が、不飽和単量体の乳化重合によって得られたエマルジョンの形態で配合されてなる、請求の範囲第1項又は2項記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項4】
ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜5重量%である、請求の範囲第1項〜3項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項5】
ガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜10重量%である、請求の範囲第1項〜4項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項6】
ガラス転移点が10℃以上の前記樹脂粒子は、そのガラス転移点が10℃以上150℃以下である、請求の範囲第1項〜5項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項7】
ガラス転移点が0℃以下の前記樹脂粒子は、そのガラス転移点が0℃以下、−80℃以上である、請求の範囲第1項〜6項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項8】
自己分散型顔料と、互いに物性の異なる二種の樹脂粒子とを少なくとも含み、前記自己分散型顔料は、顔料の表面に−COOH、−CHO、−OH及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の官能基を有するように処理された顔料であり、前記二種の樹脂粒子の一方は、平均粒子径が100nm未満の樹脂粒子であり、もう一方は、平均粒子径が100〜250nmの樹脂粒子である、インクジェット記録用インク組成物。
【請求項9】
平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子と、平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子との重量比(前者:後者)が、1:1〜10:1である、請求の範囲第8項記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項10】
平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子及び平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子の少なくとも一方が、不飽和単量体の乳化重合によって得られたエマルジョンの形態で配合されてなる、請求の範囲第8項又は9項記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項11】
平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.1〜5重量%である、請求の範囲第8項〜10項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項12】
平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物中、0.5〜5重量%である、請求の範囲第8項〜11項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項13】
平均粒子径が100nm未満の前記樹脂粒子は、その平均粒子径が50nm以上100nm未満である、請求の範囲第8項〜12項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項14】
平均粒子径が100〜250nmの前記樹脂粒子は、その平均粒子径が100nm以上200nm以下である、請求の範囲第8項〜13項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項15】
前記自己分散型顔料の含有量が、インク組成物中、2〜15重量%である、請求の範囲第1項〜14項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項16】
請求の範囲第1項〜15項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像を形成することを特徴とする記録方法。
【請求項17】
請求の範囲第1項〜15項の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなることを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2011−57991(P2011−57991A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234004(P2010−234004)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【分割の表示】特願2009−79486(P2009−79486)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】