説明

インクジェット記録用インク組成物、インクパック、及び、インクジェット記録方法

【課題】保存安定性に優れるインクジェット記録用インク組成物、該インク組成物を充填したインクパック、及び、該インク組成物を使用したインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】顔料、顔料分散剤、重合性化合物、及び、フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩を含有し、前記顔料としてカーボンブラックを含有し、前記顔料分散剤として塩基性高分子分散剤を含有し、前記重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上含有し、かつ、下記の(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする、インクジェット記録用インク組成物。
(i)前記カーボンブラックのpHが2.0以上3.5以下、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が25mgKOH/g以上40mgKOH/g未満
(ii)前記カーボンブラックのpHが2.0以上7.0以下、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク組成物、インクパック、及び、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク吐出口からインク組成物を液滴で吐出するインクジェット方式は、小型で安価であり、被記録媒体に非接触で画像形成が可能である等の理由から多くのプリンタに用いられている。これらインクジェット方式の中でも、圧電素子の変形を利用しインクを吐出させるピエゾインクジェット方式、及び、熱エネルギーによるインク組成物の沸騰現象を利用しインク組成物を液滴吐出する熱インクジェット方式は、高解像度、高速印字性に優れるという特徴を有する。
最近では、家庭用又はオフィス用の写真印刷や文書印刷に留まらず、インクジェットプリンタを用いた商業用印刷機器や産業用印刷機器の開発が行われるようになってきた。特に、ショーウィンドウ、駅通路、更に、ビルなどの壁に貼り付ける大判の広告の印刷に適したワイドフォーマットインクジェットプリンタの需要が急速に伸びつつある。
従来の家庭用又はオフィス用のインクジェットインクに対して、ワイドフォーマットインクジェットプリンタに使用されるインクには、プラスチックなどの非浸透性の記録媒体にも密着性を有すること、折り曲げや切り出しなどの加工時に印刷物に割れや剥がれなどの故障が発生しないことが強く要求される。また、印刷物が屋外に設置されることがあるため、使用する顔料には耐候性に優れていることが要求される。更に、従来の写真印刷や文書印刷に広く用いられている小型のインクジェットプリンタと比較して、ワイドフォーマットインクジェットプリンタは、印刷時間が長いため、使用するインクには高い吐出信頼性が要求される。そのため、インクの長期経時での粘度変化や粒径変化は、できるだけ小さく保つ必要がある。
【0003】
最近では、上記のような要求に応じたワイドフォーマットインクジェットプリンタに用いるインクジェットインクの技術としては、以下のような例が挙げられる。
大判の広告などに広く用いられている基材であるポリ塩化ビニルに対する密着性の向上を目的として、特許文献1には、顔料、顔料分散剤及びエチレン性二重結合含有化合物からなる活性エネルギー線硬化型インクジェットインキにおいて、該エチレン性二重結合含有化合物がポリ塩化ビニルを全く溶解しないか、ほとんど溶解しないポリ塩化ビニル不溶解性化合物と、ポリ塩化ビニルを溶解するポリ塩化ビニル可溶性化合物からなり、ポリ塩化ビニル不溶解性化合物に対してポリ塩化ビニル溶解性化合物を20〜75重量%含有することを特徴とするポリ塩化ビニルシート用活性エネルギー線硬化型インクジェットインキが開示され、特許文献2には、(A)N−ビニルラクタム類、(B)ラジカル重合性化合物、及び、(C)重合開始剤を含有するインク組成物であって、前記(A)N−ビニルラクタム類をインク総重量の10重量%以上含有し、かつ(A):(B)の重量含有比が1:8.5〜1:1であることを特徴とするインク組成物が開示されている。
【0004】
また、長期保存性においても顔料物性に変化がない優れた油性インクジェット用顔料分散液を提供することを目的として、特許文献3には、顔料及び溶剤を含有する顔料分散液であって、分散顔料の平均粒子径が30〜90nmであり、150nmを超える粒子径が体積分布で20%未満であることを特徴とする油性インクジェット用顔料分散液が示されている。また、特許文献4には、酸価とアミン価の両方をもちかつ酸価がアミン価よりも大きい分散剤を含有する活性光線硬化型インクジェットインクが示されている。
更に、黒色インクには、印刷物が屋外に設置した場合でも耐色の少ない、すなわち耐候性の優れた顔料として、カーボンブラックが広く用いられている。例えば、特許文献5には、吐出安定性、保存安定性に優れた紫外線硬化型インクジェット記録用インク組成物を提供することを目的として、少なくともカーボンブラックと、光重合性化合物と、光重合開始剤からなる紫外線硬化型インクジェット記録用インク組成物において、塩基性の吸着基を有する高分子分散剤と、フタロシアニンスルフォン酸系化合物とを含有する事を特徴とする紫外線硬化型インクジェット記録用インク組成物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−169419号公報
【特許文献2】特開2008−19408号公報
【特許文献3】特開2007−254700号公報
【特許文献4】国際公開2006/038458号パンフレット
【特許文献5】特開2004−27211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、保存安定性に優れるインクジェット記録用インク組成物、該インク組成物を充填したインクパック、及び、該インク組成物を使用したインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記<1>、<6>又は<7>に記載の手段により達成された。好ましい実施態様である<2>〜<5>と共に以下に示す。
<1> 顔料、顔料分散剤、重合性化合物、及び、フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩を含有し、前記顔料としてカーボンブラックを含有し、前記顔料分散剤として塩基性高分子分散剤を含有し、前記重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上含有し、かつ、下記の(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする、インクジェット記録用インク組成物、
(i)前記カーボンブラックのpHが2.0以上3.5以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が25mgKOH/g以上40mgKOH/g未満である
(ii)前記カーボンブラックのpHが2.0以上7.0以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である
【0008】
<2> 前記塩基性高分子分散剤の含有量が、インク組成物中の顔料100重量%に対して、20重量%以上50重量%以下である、<1>に記載のインクジェット記録用インク組成物、
<3> 前記カーボンブラックの含有量がインク組成物全体の3重量%以上5重量%以下である、<1>又は<2>に記載のインクジェット記録用インク組成物、
<4> 前記N−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上80重量%以下含有する、<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インク組成物、
<5> 前記N−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上30重量%以下含有する、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インク組成物、
<6> <1>〜<5>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インク組成物を充填したインクパックであり、該インクパックがアルミ蒸着プラスチックパウチであることを特徴とするインクパック、
<7> (a1)被記録媒体上に、<1>〜<5>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インク組成物を吐出する工程、及び、(b1)吐出されたインクジェット記録用インク組成物に活性放射線を照射して、前記インクジェット記録用インク組成物を硬化する工程、を含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保存安定性に優れるインクジェット記録用インク組成物、該インク組成物を充填したインクパック、及び、該インク組成物を使用したインクジェット記録方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、明細書中、「下限〜上限」の記載は「下限以上、上限以下」を表し、「上限〜下限」の記載は「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、端点である上限及び下限を含む数値範囲を表す。また、「(成分A)顔料」等を単に「成分A」等ともいう。また、「(メタ)アクリレート」等は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」等と同義であり、以下同様とする。
【0011】
1.インクジェット記録用インク組成物
本発明のインクジェット記録用インク組成物(以下、単に「インク組成物」又は「インク」ともいう。)は、顔料、顔料分散剤、重合性化合物、及び、フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩を含有し、前記顔料としてカーボンブラックを含有し、前記顔料分散剤として塩基性高分子分散剤を含有し、前記重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタム(以下、「NVC」ともいう。)をインク組成物全体の15重量%以上含有し、かつ、下記の(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする。
(i)前記カーボンブラックのpHが2.0以上3.5以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が25mgKOH/g以上40mgKOH/g未満である
(ii)前記カーボンブラックのpHが2.0以上7.0以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である
【0012】
本発明のインク組成物は、非水性のインク組成物である。
本発明のインク組成物は、活性放射線により硬化可能な油性のインク組成物であることが好ましい。また、本発明のインク組成物は、揮発性有機溶剤を含有しない非溶剤型のインク組成物であることが好ましい。「活性放射線」とは、その照射によりインク組成物中に開始種を発生させるエネルギーを付与できる放射線であり、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含する。中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から、紫外線及び電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0013】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、顔料としてカーボンブラックを含有し、重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタムをインク組成物の15重量%以上含有する。本発明者は、カーボンブラックを含有し、N−ビニルカプロラクタムの含有量が比較的多いインク組成物において、保存安定性に問題があることを見出した。具体的には、保存により凝集物が発生し、ろ過不良が発生するという問題が生じることを見出した。
本発明者は、鋭意検討の結果、顔料分散剤として塩基性高分子分散剤を使用し、分散助剤(シナジスト)としてフタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩を使用し、更に、カーボンブラックのpHと塩基性高分子分散剤のアミン価を特定の範囲とすることにより、保存安定性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
なお、塩基性高分子分散剤のアミン価が25mgKOH/g以上40mgKOH/g未満である場合には、カーボンブラックのpHは2.0〜3.5であり、塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下の塩基性高分子分散剤である場合には、カーボンブラックのpHは2.0〜7.0である。
【0014】
(顔料)
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、顔料を含有し、該顔料としてカーボンブラックを含有する。なお、顔料として、カーボンブラックに加えて、他の顔料を含有していてもよい。
【0015】
<カーボンブラック>
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、顔料としてカーボンブラックを含有する。NVCを含んだブラックインクにおいて、優れた保存安定性を得る観点より、(i)塩基性高分子分剤のアミン価が25mgKOH/g以上40mgKOH/g未満の場合には、該カーボンブラックのpHは2.0以上3.5以下であり、(ii)塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下の場合には、カーボンブラックのpHは2.0以上7.0以下である。
上記(i)の場合、pHが2より小さいカーボンブラックは一般的に市販品として入手困難であり、更に、酸性度が高くなるとNVCの分解を促進する懸念があることから、2.0以上である。また、pHが3.5を超えると、保存中に粗大粒子が発生し、ろ過性が悪化する。
上記(i)の場合、カーボンブラックのpHはインク組成物の保存安定性及び市販品の入手容易性を考慮すると、2.0〜3.5であり、2.0〜3.0であることが好ましい。
【0016】
上記(ii)の場合、pHが2より小さいカーボンブラックは一般的に市販品として入手困難であり、更に、酸性度が高くなるとNVCの分解を促進する懸念があることから、2.0以上である。また、pHが7.0を超えると、保存中に粗大粒子が発生し、ろ過性が悪化する。
上記(ii)の場合、上記のインク組成物の保存安定性及び市販品の入手容易性を考慮すると、pHは、2.0〜7.0であり、2.0〜5.0であることが好ましく、2.0〜3.5であることがより好ましく、2.0〜3.0が特に好ましい。
なお、本発明で示すpHは、カーボンブラックのpH測定の標準方法(ASTM D−1512)に基づいて測定した値である。
【0017】
カーボンブラックのpHは、カーボンブラックを公知の方法により表面処理を行うことにより調整可能である。具体的には、酸化処理をすることで製造され、酢酸溶液やスルホン酸溶液等の酸性溶液中にカーボンブラックを浸漬処理する湿式の表面処理方法や、高温雰囲気下で空気と接触させ反応させる空気酸化法、硝酸を含む窒素酸化物と空気の混合ガス、オゾン等の酸化剤に接触させる方法、高温下での空気酸化後、低い温度でオゾン酸化する方法等の乾式の表面処理方法が挙げられる。また、後述するように、カーボンブラックには、すでにpH調整がなされて、市場に提供されているものもある。
【0018】
本発明において、カーボンブラックしては、インクジェット適性、強い発色及び紫外光に対する透明性等を考慮すると、一次平均粒径が30nm〜500nmであることが好ましく、50nm〜200nmであることがより好ましい。
また、良好な分散流動性を得る観点から、カーボンブラックの比表面積は15〜80m2/gの範囲であることが好ましく、更に、カーボンブラックのDBP吸油量(ASTM D 2414)は30〜80mL/100gの範囲であることが好ましい。
【0019】
上記のような物性を持つカーボンブラックは市販品として、三菱化学(株)、東海カーボン(株)、Evonik社、及び、Cabot社などから入手することができる。なお、pHは製造ロットによって変動がある場合があるので、pHが所望の値であることを確認した上で使用することが好ましい。
製造ロット間の物性変動を考慮した上で、以下のカーボンブラックが特に好適である。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明において、インクジェット記録用インク組成物に含まれるカーボンブラックの好ましい含有量は、使用するプリンタでの塗設量と必要な発色濃度に依存する。一般的なプリンタの塗設量(厚み10〜40μm)と、一般的に求められる発色濃度(1.5〜2.0)を想定すると、カーボンブラックの好ましい含有量は、インク組成物全体に対して1重量%〜10重量%であることが好ましく、2重量%〜8重量%がより好ましく、3重量%〜5重量%であることが更に好ましい。
【0022】
なお、本発明において、pHが7を超えるカーボンブラックを併用してもよいが、その含有量は、カーボンブラック全体の30重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、pHが7を超えるカーボンブラックを含有しないことが更に好ましい。
【0023】
<その他の顔料>
本発明において、顔料として、前記カーボンブラックと共に、その他の顔料を併用してもよい。その他の顔料としては、特に限定されるわけではないが、例えばカラーインデックスに記載される下記の番号の有機又は無機顔料が使用できる。
赤又はマゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド3(「Pigment Red 3」ともいう。)、5、19、22、31、38、42、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、202、208、216、226、257、C.I.ピグメントバイオレット3(「Pigment Violet 3」ともいう。)、19、23、29、30、37、50、88、C.I.ピグメントオレンジ13(「Pigment Orange 13」ともいう。)、16、20、36、青又はシアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1(「Pigment Blue 1」ともいう。)、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17:1、22、27、28、29、36、60、緑顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7(「Pigment Green 7」ともいう。)、26、36、50、黄顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(「Pigment Yellow 1」ともいう。)、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94、95、97、108、109、110、120、137、138、139、150、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193、黒顔料としては、C.I.ピグメントブラック28(「Pigment Black 28」ともいう。)、26、白色顔料としては、C.I.ピグメントホワイト6(「Pigment White 6」ともいう。)、18、21などが目的に応じて使用できる。
【0024】
その他の顔料の含有量は、顔料全体の50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましく、含有しないことが特に好ましい。すなわち、本発明において、顔料としてカーボンブラックのみを含有することが好ましい。
【0025】
(顔料分散剤)
<塩基性高分子分散剤>
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、顔料分散剤として塩基性高分子分散剤を含有する。
ここで、塩基性高分子分散剤は、塩基性基を少なくとも有する高分子分散剤である。
前記塩基性基としては、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、及び、含窒素複素環基等が例示できる。また、前記塩基性基は、高分子分散剤中の主鎖に有していても、側鎖に有していても、その両方に有していてもよい。
塩基性高分子分散剤として特に好適に用いられる分散剤は、アミン価が25mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である分散剤である。アミン価が25mgKOH/g以上であると、ろ過不良の発生が更に抑制され、保存安定性が向上するので好ましい。一方、アミン価が50mgKOH/g以下であると、保存中のNVCの分解が抑制され、増粘、硬化感度の低下、及び、アセトアルデヒドの発生などが抑制されるので好ましい。
ろ過安定性及びNVCの分解防止の観点では、アミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である塩基性高分子分散剤が特に好ましい。
なお、アミン価は下記手順によって測定した。分散剤をメチルイソブチルケトンに溶解し、0.01モル/L過塩素酸メチルイソブチルケトン溶液で電位差滴定を行い、KOHmg/g換算したものをアミン価とした。電位差滴定は平沼産業(株)製、自動滴定装置COM−1500を用いて測定した。
【0026】
前記塩基性高分子分散剤の分子量としては、重量平均分子量が10,000〜200,000であることが、分散安定性及び分散流動性の観点で好ましく、特に好ましい範囲は、20,000〜80,000である。
【0027】
上記のような物性を持つ分散剤は市販品として、味の素ファインテクノ(株)、Evonik社(TEGODISPERSシリーズ)、BYK社(DISPERBYKシリーズ、BYKシリーズ)、BASF社(EFKAシリーズ)、Luburizol社(Solsperseシリーズ)などから入手することができる。なお、アミン価は顔料の製造ロットによって変動がある場合があるので、アミン価が所望の範囲であることを確認した上で使用することが好ましい。
製造ロット間の物性変動も考慮した上で、下表の品種が特に好ましく使用される。
【0028】
【表2】

【0029】
本発明のインクジェット記録用インク組成物に含まれる塩基性高分子分散剤の好ましい含有量は、インク組成物中の顔料100重量%に対して、15重量%〜50重量%が好ましく、20重量%〜50重量%であることがより好ましく、20重量%〜40重量%が特に好ましい。
塩基性高分子分散剤の含有量が上記範囲であると、ろ過安定性に優れ、更に、NVCの分解の発生が抑制されるので好ましい。
【0030】
(カーボンブラックと、塩基性顔料分散剤との好ましい態様)
本発明において、カーボンブラックのpH及び塩基性高分子分散剤のアミン価は、以下の(i)又は(ii)を満たす。
(i)前記カーボンブラックのpHが2.0以上3.5以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が25mgKOH/g以上40mgKOH/g未満である
(ii)前記カーボンブラックのpHが2.0以上7.0以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である
(i)に関して、カーボンブラックのpHが低い場合には、顔料表面の酸性吸着サイトが多いため、比較的アミン価が低い(25mgKOH/g以上40mg・KOH未満)塩基性高分子分散剤を使用した場合でも、本発明の効果を奏する。
一方、(ii)に関して、塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である場合には、アミン価が高いため、カーボンブラックのpHとして広い範囲を選択しても、本発明の効果を奏する。
【0031】
(重合性化合物)
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、重合性化合物として、N−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上含有する。N−ビニルカプロラクタムを15重量%以上含有することによって、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリカーボネート(PC)など、ワイドフォーマット屋外広告の分野で広く用いられている基材への密着性が得られる。なお、インクジェット記録用インク組成物は、N−ビニルカプロラクタム以外に、カーボンブラック顔料、分散剤、シナジスト、更に、必要に応じてN−ビニルカプロラクタム以外の重合性化合物、開始剤、その他添加剤を含有する。従って、密着性、保存安定性、硬化感度、インクジェット吐出信頼性などのバランスを加味すると、N−ビニルカプロラクタムの含有量は、インク組成物全体の15重量%以上80重量%以下であることが好ましく、15重量%以上50重量%以下が更に好ましい。特に本発明の重要な課題である密着性と保存安定性のバランスを考慮すると、15重量%以上30重量%以下が特に好ましい範囲である。
【0032】
後述のように、顔料分散を実施する場合は、分散液中の媒体としては、N−ビニルカプロラクタム以外の重合性化合物を使用することが好ましい。そのため、本発明のインクジェット記録用インク組成物は、N−ビニルカプロラクタム以外の重合性化合物、特に(メタ)アクリレート化合物を含有することが好ましい。また、N−ビニルカプロラクタムと(メタ)アクリレート化合物を併用することによって、硬化感度が向上するため、この観点でも、(メタ)アクリレート化合物を含有することが好ましい。(メタ)アクリレート化合物としては、アクリレート化合物がより好ましい。なお、「アクリレート」、「メタクリレート」の双方あるいはいずれかを指す場合「(メタ)アクリレート」と、「アクリル」、「メタクリル」の双方あるいはいずれかを指す場合「(メタ)アクリル」と、それぞれ記載することがある。
【0033】
具体的には、単官能(メタ)アクリレート化合物としては、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、サイクリックトリメチルプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソフォリル(メタ)アクリレート(3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート)、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、が挙げられる。
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、オリゴエステル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましく例示できる。
【0034】
これらの中でも、2−フェノキシエチルアクリレート、サイクリックトリメチルプロパンフォルマルアルリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、イソデシルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソフォリルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートなどの1官能又は2官能のアクリレートが膜物性、インクジェット記録用インクに適した粘度を得る観点で好ましく、2−フェノキシエチルアクリレート、サイクリックトリメチルプロパンフォルマルアルリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートがより好ましい。
【0035】
更に具体的には、山下晋三編「架橋剤ハンドブック」(1981年、大成社);加藤清視編「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編「UV・EB硬化技術の応用と市場」79頁(1989年、(株)シーエムシー出版);滝山栄一郎著「ポリエステル樹脂ハンドブック」(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品又は業界で公知のラジカル重合性乃至架橋性のモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。
ラジカル重合性化合物の分子量は、80〜2,000であることが好ましく、80〜1,000であることがより好ましく、80〜800であることが更に好ましい。
【0036】
本発明のインク組成物は、ラジカル重合性基を有するオリゴマーを含有することも好ましい。前記ラジカル重合性基としては、エチレン性不飽和基が好ましく、(メタ)アクリロキシ基がより好ましい。
前記ラジカル重合性基を有するオリゴマーとしては、例えば、ラジカル重合性基を有する、オレフィン系(エチレンオリゴマー、プロピレンオリゴマーブテンオリゴマー等)、ビニル系(スチレンオリゴマー、ビニルアルコールオリゴマー、ビニルピロリドンオリゴマーアクリレートオリゴマー、メタクリレートオリゴマー等)、ジエン系(ブタジエンオリゴマー、クロロプレンゴム、ペンタジエンオリゴマー等)、開環重合系(ジ−,トリ−,テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチルイミン等)、重付加系(オリゴエステルアクリレート、ポリアミドオリゴマー、ポリイソシアネートオリゴマー)、付加縮合オリゴマー(フェノール樹脂、アミノ樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂等)等を挙げることができる。この中で、オリゴエステル(メタ)アクリレートが好ましく、その中では、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートがより好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートが更に好ましい。
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートが好ましく挙げられるが、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートがより好ましく挙げられる。
また、ウレタン(メタ)アクリレートは、4官能以下のウレタン(メタ)アクリレートであることが好ましく、2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
ウレタン(メタ)アクリレートを含有することにより、基材の密着性に優れ、硬化性に優れるインク組成物が得られる。
オリゴマーについて、オリゴマーハンドブック(吉川淳二監修、(株)化学工業日報社)も参照することができる。
【0037】
また、オリゴマーの市販品としては、以下に示すものが例示できる。
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、第一工業製薬(株)製のR1204、R1211、R1213、R1217、R1218、R1301、R1302、R1303、R1304、R1306、R1308、R1901、R1150等や、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYLシリーズ(例えば、EBECRYL230、270、4858、8402、8804、8807、8803、9260、1290、1290K、5129、4842、8210、210、4827、6700、4450、220)、新中村化学工業(株)製のNKオリゴU−4HA、U−6HA、U−15HA、U−108A、U200AX等、東亞合成(株)製のアロニックスM−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−1960等が挙げられる。
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYLシリーズ(例えば、EBECRYL770、IRR467、81、84、83、80、675、800、810、812、1657、1810、IRR302、450、670、830、870、1830、1870、2870、IRR267、813、IRR483、811等)、東亞合成(株)製のアロニックスM−6100、M−6200、M−6250、M−6500、M−7100、M−8030、M−8060、M−8100、M−8530、M−8560、M−9050等が挙げられる。
また、エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYLシリーズ(例えば、EBECRYL600、860、2958、3411、3600、3605、3700、3701、3703、3702、3708、RDX63182、6040等)等が挙げられる。
【0038】
ラジカル重合性基を有するオリゴマーは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明のインク組成物におけるラジカル重合性基を有するオリゴマーの含有量としては、インク組成物の全重量に対して、0.1〜50重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましく、1〜10重量%であることが更に好ましい。
【0039】
本発明において、N−ビニルカプロラクタムを含む単官能ラジカル重合性モノマーの含有量は、硬化性及び膜柔軟性の観点から、重合性化合物全体の10〜90重量%であることが好ましく、15〜85重量%であることがより好ましく、20〜80重量%であることが更に好ましい。
本発明において、インク組成物全体における重合性化合物の合計量は、硬化性及び密着性の観点から、インク組成物全体の50〜95重量%であることが好ましく、60〜90重量%であることがより好ましく、70〜90重量%であることが更に好ましい。
【0040】
(フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩)
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、シナジスト(分散助剤)としてフタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩を含有する。
フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩の含有量は、カーボンブラック100重量%に対して、0.5〜10重量%であることが好ましく、1〜4重量%であることがより好ましい。フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩の含有量が上記範囲内であると、粘度及びろ過安定性の観点で好ましい。また、インク製造時のろ過性にも優れるので好ましい。
市販品として入手できるSolsperse 5000(Luburizol社製)やEfka 6745などが、フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩として、好適に用いることができる。
【0041】
(重合開始剤)
本発明のインク組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。
本発明で用いることができる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができる。
本発明に用いることができる重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、カチオン重合開始剤とラジカル重合開始剤とを併用してもよいが、少なくともラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることのできる重合開始剤は、外部エネルギーを吸収して重合開始種を生成する化合物である。重合を開始するために使用される外部エネルギーは、熱及び活性放射線に大別され、それぞれ、熱重合開始剤及び光重合開始剤が使用される。活性放射線としては、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示できる。
【0042】
<ラジカル重合開始剤>
本発明で用いることができるラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)アシルホスフィン化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物及び(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、上記(a)〜(m)の化合物を単独若しくは組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、(a)芳香族ケトン類、及び、(b)アシルホスフィン化合物を使用することが好ましい。
【0043】
(a)芳香族ケトン類としては、α−ヒドロキシケトン化合物、及び、α−アミノケトン化合物が好ましい。
α−ヒドロキシケトン化合物としては、例えば、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
α−アミノケトン化合物としては、例えば、2−メチル−1−フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(ヘキシル)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−エチル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等が挙げられる。
【0044】
(b)アシルホスフィン化合物としては、アシルホスフィンオキサイド化合物が好ましい。
アシルホスフィンオキサイド化合物としては、モノアシルホスフィンオキサイド化合物及びビスアシルホスフィンオキサイド化合物等を好ましく例示できる。
モノアシルホスフィンオキサイド化合物としては、公知のモノアシルホスフィンオキサイド化合物を使用することができる。例えば、特公昭60−8047号公報、特公昭63−40799号公報に記載のモノアシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
ビスアシルホスフィンオキサイド化合物としては、公知のビスアシルホスフィンオキサイド化合物が使用できる。例えば、特開平3−101686号公報、特開平5−345790号公報、特開平6−298818号公報に記載のビスアシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
本発明にインク組成物においては、アシルホスフィンオキサイド化合物を含有することが好ましく、アシルホスフィン化合物とα−ヒドロキシケトン化合物及び/又はα−アミノケトン化合物とを併用することがより好ましく、アシルホスフィン化合物とα−ヒドロキシケトン化合物とα−アミノケトン化合物とを併用することが更に好ましい。上記組み合わせであると、硬化性、耐ブロッキング性に優れるインク組成物が得られる。
【0045】
本発明のインク組成物中における重合開始剤の含有量としては、インク組成物の全重量に対して、0.1〜20.0重量%であることが好ましく、0.5〜18.0重量%であることがより好ましく、1.0〜15.0重量%であることが更に好ましい。重合開始剤の添加量が上記範囲であると、硬化性に優れ、また、表面ベトツキ低減の観点から適切である。
また、本発明のインク組成物中における重合開始剤と重合性化合物との含有比(重量比)としては、重合開始剤:重合性化合物=0.5:100〜30:100であることが好ましく、1:100〜15:100であることがより好ましく、2:100〜10:100であることが更に好ましい。
【0046】
(増感剤)
本発明のインク組成物は、特定の活性エネルギー線を吸収して前記ラジカル重合開始剤の分解を促進させるため、増感剤を含有することが好ましい。
増感剤としては、例えば、多核芳香族類(例えば、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン等)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル等)、シアニン類(例えば、チアカルボシアニン、オキサカルボシアニン等)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン等)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー等)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン等)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン等)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム等)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン等)などが挙げられる。
本発明における増感剤としては、下記式(vi)〜(x)及び(xiv)で表される化合物が好適に挙げられる。
【0047】
【化1】

【0048】
式(vi)中、A1は硫黄原子又はNR50を表し、R50はアルキル基又はアリール基を表す。L1は隣接するA1及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表す。R51及びR52は、それぞれ独立に、水素原子又は一価の非金属原子団を表し、R51及びR52は互いに結合して、色素の酸性核を形成してもよい。Wは酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0049】
式(vii)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立にアリール基を表し、L2による結合を介して連結している。L2は−O−又は−S−を表す。Wは式(vi)に示したものと同義である。
【0050】
式(viii)中、A2は硫黄原子又はNR59を表し、R59はアルキル基又はアリール基を表す。L3は隣接するA2及び炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58は、それぞれ独立に一価の非金属原子団の基を表す。
【0051】
式(ix)中、A3及びA4は、それぞれ独立に、−S−、−NR62−、又は−NR63−を表し、R62及びR63は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基を表す。L4及びL5は、それぞれ独立に、隣接するA3、A4及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表す。R60及びR61は、それぞれ独立に、水素原子又は一価の非金属原子団を表す。R60とR61は互いに結合して脂肪族性又は芳香族性の環を形成してもよい。
【0052】
式(x)中、R66は置換基を有してもよい芳香族環又はヘテロ環を表す。A5は酸素原子、硫黄原子又は−NR67−を表す。R64、R65及びR67はそれぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団を表す。R67とR64、及びR65とR67は、それぞれ互いに結合して脂肪族性又は芳香族性の環を形成してもよい。
【0053】
【化2】

【0054】
式(xiv)中、R68、及び、R69は、それぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団を表す。R70、及び、R71は、それぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団を表し、nは0〜4の整数を表す。nが2以上のときR70、R71はそれぞれ互いに脂肪族性又は芳香族性の環を形成するため結合することができる。
【0055】
これらの中でも、増感剤が式(xiv)で表されるアントラセン誘導体であることが好ましい。増感剤としてアントラセン誘導体を使用することにより、硬化性に優れるインク組成物が得られるので好ましい。
【0056】
本発明のインク組成物における増感剤の含有量は、インクの着色性の観点から、インク組成物の全重量に対し、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜15重量%がより好ましく、0.5〜10重量%が更に好ましい。
また、増感剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、増感剤と重合開始剤とのインク組成物中における含有比としては、重合開始剤の分解率向上と照射した光の透過性の観点から、重量比で、重合開始剤の含有量/増感剤の含有量=100〜0.5が好ましく、50〜1がより好ましく、10〜1.5が更に好ましい。
【0057】
(その他の成分)
本発明のインク組成物には、必要に応じて、前記各成分以外に、界面活性剤、共増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、導電性塩類、溶剤、高分子化合物、塩基性化合物等を含んでいてもよい。これらは、特開2009−221416号公報に記載されており、本発明においても使用できる。
【0058】
また、本発明のインク組成物は、保存性、及び、ヘッド詰まりの抑制という観点から、重合禁止剤を含有することが好ましい。
重合禁止剤は、本発明のインク組成物全量に対し、200〜20,000ppm添加することが好ましい。
重合禁止剤としては、ニトロソ系重合禁止剤や、ヒンダードアミン系重合禁止剤、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、TEMPO、TEMPOL、クペロンAl等が挙げられる。
また、本発明のインク組成物は、ベンズイミダゾロン系顔料及びビスアセトアセタリド系顔料以外の公知の着色剤を含有していてもよいが、ベンズイミダゾロン系顔料及びビスアセトアセタリド系顔料以外の着色剤を含有しないことが好ましい。
【0059】
(インク物性)
本発明のインクジェット記録用インク組成物の粘度や表面張力は、使用するプリンタに搭載するインクジェットヘッドでの吐出するのに適した範囲であることが好ましい。一般的に広く用いられているピエゾ型インクジェットヘッドで使用することを想定すると、粘度としては6〜30mPa・s(25℃)であることが好ましく、15〜25mPa・sであることが特に好ましい。
また、吐出温度(好ましくは25〜80℃、より好ましくは25〜50℃)における粘度が、3〜15mPa・sであることが好ましく、3〜13mPa・sであることがより好ましい。本発明のインク組成物は、粘度が上記範囲になるように適宜組成比を調整することが好ましい。室温での粘度を高く設定することにより、多孔質な被記録媒体(支持体)を用いた場合でも、被記録媒体中へのインク組成物の浸透を回避し、未硬化モノマーの低減が可能となる。更にインク組成物の液滴着弾時のインク滲みを抑えることができ、その結果として画質が改善されるので好ましい。
【0060】
一方、25℃における表面張力は20〜40mN/mであることが好ましく、28〜38mN/mであることが特に好ましい。ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲み及び浸透の観点から、20mN/m以上が好ましく、濡れ性の点では、40mN/m以下が好ましい。
【0061】
2.インク保管用の容器(インクパック)
本発明のインクを保管状態としては、保管時に空気との接触を最低限にし、かつ、遮光状態に置かれることが好ましい。これまでの解析から、NVCを含んだブラックインクを酸素雰囲気化で保管すると、粘度及びろ過の安定性が大きく劣化することが分かっている。この理由に基づき、優れた安定性を得るために、空気との接触を最低限にすることが好ましい。遮光状態に保つのは、保管中の光重合反応によるゲル化を防ぐためである。
【0062】
好ましく使用することができる容器としては、特に、アルミ蒸着プラスチックパウチが好ましい。アルミ蒸着プラスチックパウチの内壁(インクと接触する面)は、PP、PE、PTFEなど耐溶剤性に優れた素材が好ましく使用される。
例えば、市販のインクパックとしては、BiLL PAKシリーズ((株)サンエー化研)、フローパックシリーズUV(藤森工業(株)製)などが挙げられる。SJ−D5社や(株)昭和丸筒などからもアルミ蒸着パウチを入手できる。
【0063】
すなわち、本発明のインクパックとしては、アルミ蒸着プラスチックパウチに保管され、かつ、パウチ中の内部に気泡が無い状態であることが好ましい。内部の気泡の有無は、注射器を用いた検査によって確認することが可能である。注射器でインクを抜き取った時に、視認される気泡が無いことが好ましい状態である。
【0064】
3.インクジェット記録用インク組成物の製造方法
本発明のインクジェット記録用インク組成物の製造方法としては、下記の(1)〜(4)の工程を少なくとも構成する製造方法で製造することが好ましい。
(1)液状の有機溶媒及び/又は重合性化合物に塩基性高分子分散剤及びフタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩を添加し、撹拌して、分散剤希釈液Aを作製する工程
(2)分散剤希釈液Aに、カーボンブラック顔料を添加し、撹拌して、顔料濃度が20wt%〜40wt%の予備分散液Aを作製する工程
(3)予備分散液Aに顔料分散処理を施して、前記顔料の体積平均粒径が300nm以下である顔料分散液Aを作製する工程
(4)再分散工程にて、N−ビニルカプロラクタム、その他の重合性化合物、重合開始剤、及び、添加剤で構成される液体に、顔料分散液Aを加え希釈する工程
【0065】
ここで、工程(1)に用いる有機溶媒及び/又は重合性化合物としては、前述の重合性化合物が好適である。ただし、該有機溶媒及び/又は重合性化合物は、分散媒の主成分となるため、低粘度、具体的には作業環境(5〜30℃)で15mPa・s以下であることが、均一な分散物を得る上で好ましい。本発明のインク組成物の主成分の1つであるN−ビニルカプロラクタムは、作業環境(5〜30℃)で固体である場合があるため、好適に用いることができない。
工程(1)に用いる重合性化合物としては、特に、2−フェノキシエチルアクリレート、2(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、オクチルアクリレート、イソデシルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、サイクリックトリメチルプロパンフォルマルアルリレート、イソフォリルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートなどの1官能もしくは2官能のアクリレートが好ましい。
【0066】
工程(1)において撹拌する手段としては、分散剤を有機溶媒及び/又は重合性化合物に溶解可能であれば、特に限定されるものではないが、マグネティックスターラーや撹拌羽の付いたミキサーなどを用いる方法が、容易でかつ効率的な手段である。より短時間に、かつ、大量に製造するためには、撹拌羽の付いたミキサーが好適である。
撹拌に用いる容器としては、バッチ式と連続式が市販品として入手可能であるが、後者の方がより短時間で均一な分散剤希釈液Aを作製することが可能である。また、撹拌羽の種類としても、プロペラ式、軸流タービン式、放射流タービン式、アンカー式などを好適に用いることができる。そのほか、のこぎり歯ブレード、閉式ローター、ローター/ステーターなどのミキサーなども使用可能である。なお、本発明の実施例では、工程(1)において、英国シルバーソン社製のローター/ステーター型ミキサー(バッチ式容器)を使用した。
工程(2)における撹拌する手段としては、洗浄の工程を省略する観点より、工程(1)と同じ手段を用いることが好ましく、上記の手段を好ましく用いることが可能である。本発明の実施例では、工程(2)において、英国シルバーソン社製のローター/ステーター型ミキサー(バッチ式容器)を使用した。
【0067】
工程(3)で用いる分散処理には、種々の公知の分散手段を採用することができ、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ビーズミルなどの分散装置を好適に使用することができる。これらの中でも、ボールやビーズ等を使用するメディア分散装置を使用することがより好ましく、ビーズミル分散装置を使用することが更に好ましい。
【0068】
工程(4)の再分散工程とは、顔料インクジェット記録用インクの製造工程を構成する1つの工程であり、あらかじめ最終製品の顔料濃度よりも高い濃度で用意した顔料濃度の顔料分散物(「ミルベース」、「コンクインク」などともいう。)を、最終製品の顔料濃度まで希釈する工程を言う。通常は、ミルベースを製造してから、数時間から数ヶ月保管してから、希釈、すなわち再分散を実施するため、ある程度のシェア(力)を与え、更に、時間をかけて撹拌する必要がある。もし、撹拌のシェアが不足したり、時間が不十分であったりする場合は、保管期間中に構造化した顔料凝集物を完全に解すこと、すなわち、再分散することができず、粗大粒子の濃度が増加する。この場合、吐出不良やろ過不良などの問題を引き起こす。なお、撹拌する手段としては、工程(1)及び工程(2)と同じ手段を用いることが好ましい。
【0069】
4.インクジェット記録方法、インクジェット記録装置及び印刷物
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット記録用として被記録媒体(支持体、記録材料等)上に吐出し、被記録媒体上に吐出されたインクジェット記録用インク組成物に活性エネルギー線を照射し、インクジェット記録用インク組成物を硬化して画像を形成する方法である。
【0070】
より具体的には、本発明のインクジェット記録方法は、(a1)被記録媒体上に、本発明のインクジェット記録用インク組成物を吐出する工程、及び、(b1)吐出されたインクジェット記録用インク組成物に活性エネルギー線を照射してインクジェット記録用インク組成物を硬化する工程、を含むことが好ましい。
本発明のインクジェット記録方法は、上記(a1)及び(b1)工程を含むことにより、被記録媒体上において硬化したインクジェット記録用インク組成物により画像が形成される。
また、本発明の印刷物は、本発明のインクジェット記録方法によって記録された印刷物である。
【0071】
本発明のインクジェット記録方法における(a1)工程には、以下に詳述するインクジェット記録装置が用いることができる。
【0072】
(インクジェット記録装置)
本発明のインクジェット記録方法に用いることができるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、目的とする解像度を達成し得る公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。すなわち、市販品を含む公知のインクジェット記録装置であれば、いずれも、本発明のインクジェット記録方法の(a1)工程における被記録媒体へのインク組成物の吐出を実施することができる。
【0073】
本発明で用いることができるインクジェット記録装置としては、例えば、インク供給系、温度センサー、活性エネルギー線源を含む装置が挙げられる。
インク供給系は、例えば、本発明のインク組成物を含む元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、ピエゾ型のインクジェットヘッドからなる。ピエゾ型のインクジェットヘッドは、好ましくは1〜100pl、より好ましくは8〜30plのマルチサイズドットを、好ましくは320×320〜4,000×4,000dpi、より好ましくは400×400〜1,600×1,600dpi、更に好ましくは720×720dpiの解像度で吐出できるよう駆動することができる。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
【0074】
本発明のインク組成物は、吐出されるインク組成物を一定温度にすることが好ましいことから、インクジェット記録装置には、インク組成物温度の安定化手段を備えることが好ましい。一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。すなわち、インク供給タンクからインクジェットヘッド部分までは、断熱及び加温を行うことができる。
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。温度センサーは、インク供給タンク及びインクジェットヘッドのノズル付近に設けることができる。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断若しくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンタ立上げ時間を短縮するため、あるいは、熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うと共に、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0075】
上記のインクジェット記録装置を用いて、本発明のインク組成物の吐出は、インク組成物を、好ましくは25〜80℃、より好ましくは25〜50℃に加熱して、インク組成物の粘度を、好ましくは3〜15mPa・s、より好ましくは3〜13mPa・sに下げた後に行うことが好ましい。特に、本発明のインク組成物として、25℃におけるインク粘度が50mPa・s以下であるものを用いると、良好に吐出が行えるので好ましい。この方法を用いることにより、高い吐出安定性を実現することができる。
本発明のインク組成物のような放射線硬化型インクジェット記録用インク組成物は、概して通常インクジェット記録において使用される水性インク組成物より粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。インク組成物の粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こす。したがって、吐出時のインク組成物の温度はできるだけ一定に保つことが必要である。よって、本発明において、インク組成物の温度の制御幅は、好ましくは設定温度の±5℃、より好ましくは設定温度の±2℃、更に好ましくは設定温度±1℃とすることが適当である。
【0076】
次に、(b1)吐出されたインク組成物に活性エネルギー線を照射して、前記インク組成物を硬化する工程について説明する。
被記録媒体上に吐出されたインク組成物は、活性エネルギー線を照射することによって硬化する。これは、本発明のインク組成物に含まれるラジカル重合開始剤が活性エネルギー線の照射により分解して、ラジカルや酸などの重合開始種を発生し、その開始種の機能に重合性化合物の重合反応が、生起、促進されるためである。このとき、インク組成物において重合開始剤と共に増感剤が存在すると、系中の増感剤が活性エネルギー線を吸収して励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0077】
ここで、使用される活性エネルギー線は、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光又は赤外光などが使用され得る。活性エネルギー線のピーク波長は、増感剤の吸収特性にもよるが、例えば、200〜600nmであることが好ましく、300〜450nmであることがより好ましく、320〜420nmであることが更に好ましく、活性エネルギー線が、ピーク波長が340〜400nmの範囲の紫外線であることが特に好ましい。
【0078】
また、本発明のインク組成物の、重合開始系は、低出力の活性エネルギー線であっても十分な感度を有するものである。したがって、露光面照度が、好ましくは10〜4,000mW/cm2、より好ましくは20〜2,500mW/cm2で硬化させることが適当である。
【0079】
活性エネルギー線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザ等が主に利用されており、紫外線光硬化型インクジェット記録用インク組成物の硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。しかしながら、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。更に、LED(UV−LED)、LD(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。
また、発光ダイオード(LED)及びレーザーダイオード(LD)を活性エネルギー線源として用いることが可能である。特に、紫外線源を要する場合、紫外LED及び紫外LDを使用することができる。例えば、日亜化学(株)は、主放出スペクトルが365nmと420nmとの間の波長を有する紫色LEDを上市している。更に一層短い波長が必要とされる場合、米国特許第6,084,250号明細書は、300nmと370nmとの間に中心付けされた活性エネルギー線を放出し得るLEDを開示している。また、他の紫外LEDも、入手可能であり、異なる紫外線帯域の放射を照射することができる。本発明で特に好ましい活性エネルギー線源はUV−LEDであり、特に好ましくは340〜400nmにピーク波長を有するUV−LEDである。
なお、LEDの被記録媒体上での最高照度は10〜2,000mW/cm2であることが好ましく、20〜1,000mW/cm2であることがより好ましく、50〜800mW/cm2であることが特に好ましい。
【0080】
本発明のインク組成物は、このような活性エネルギー線に、好ましくは0.01〜120秒、より好ましくは0.1〜90秒照射されることが適当である。
活性エネルギー線の照射条件並びに基本的な照射方法は、特開昭60−132767号公報に開示されている。具体的には、インク組成物の吐出装置を含むヘッドユニットの両側に光源を設け、いわゆるシャトル方式でヘッドユニットと光源を走査することによって行われる。活性エネルギー線の照射は、インク組成物の着弾後、一定時間(好ましくは0.01〜0.5秒、より好ましくは0.01〜0.3秒、更に好ましくは0.01〜0.15秒)をおいて行われることになる。このようにインク組成物の着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、被記録媒体に着弾したインク組成物が硬化前に滲むことを防止するこが可能となる。また、多孔質な被記録媒体に対しても光源の届かない深部までインク組成物が浸透する前に露光することができるため、未反応モノマーの残留を抑えることができるので好ましい。
更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させてもよい。国際公開第99/54415号パンフレットでは、照射方法として、光ファイバーを用いた方法やコリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されており、このような硬化方法もまた、本発明のインクジェット記録方法に適用することができる。
【0081】
上述したようなインクジェット記録方法を採用することにより、表面の濡れ性が異なる様々な被記録媒体に対しても、着弾したインク組成物のドット径を一定に保つことができ、画質が向上する。なお、カラー画像を得るためには、明度の高い色から順に重ねていくことが好ましい。明度の高いインク組成物から順に重ねることにより、下部のインク組成物まで照射線が到達しやすくなり、良好な硬化感度、残留モノマーの低減、密着性の向上が期待できる。また、照射は、全色を吐出してまとめて露光することが可能だが、1色毎に露光するほうが、硬化促進の観点で好ましい。
このようにして、本発明のインク組成物は、活性エネルギー線の照射により高感度で硬化することで、被記録媒体表面に画像を形成することができる。
【0082】
本発明のインク組成物は、複数のインクジェット記録用インク組成物からなるインクセットとして使用することが好ましい。
本発明のインクジェット記録方法において、吐出する各着色インク組成物の順番は、特に限定されるわけではないが、明度の高い着色インク組成物から被記録媒体に付与することが好ましく、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(本発明のインク組成物)を使用する場合には、イエロー→シアン→マゼンタ→ブラック(本発明のインク組成物)の順で被記録媒体上に付与することが好ましい。また、これにホワイトを加えて使用する場合にはホワイト→イエロー→シアン→マゼンタ→ブラック(本発明のインク組成物)の順で被記録媒体上に付与することが好ましい。更に、本発明はこれに限定されず、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、シアン、マゼンタ、ブラック(本発明のインク組成物)、ホワイトのインク組成物との計7色が少なくとも含まれるインクセットを好ましく使用することもでき、その場合には、ホワイト→ライトシアン→ライトマゼンタ→イエロー→シアン→マゼンタ→ブラック(本発明のインク組成物)の順で被記録媒体上に付与することが好ましい。
【0083】
本発明において、被記録媒体としては、特に限定されず、支持体や記録材料として公知の被記録媒体を使用することができる。例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上述した金属がラミネートされ又は蒸着された紙又はプラスチックフィルム等が挙げられる。また、本発明における被記録媒体として、非吸収性被記録媒体を好適に使用することができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の記載における「部」とは、特に断りのない限り「重量部」を示すものとする。
【0085】
(分散物No.1−1〜1−33、2−1〜2−24の作製)
下記表に記載の組成のうち、顔料以外の成分60部をSILVERSON社製ミキサーで撹拌し(10〜15分、2,000〜3,000回転/分)、均一な透明液(分散剤希釈液)を得た。この透明液(分散剤希釈液)に顔料を加え、更にミキサーで撹拌し(10〜20分、2,000〜3,000回転/分)、均一な予備分散液を得た。その後、EIGER社製の循環型ビーズミル装置(Laboratory Mini Mill)を用いて分散処理を実施した。分散条件は直径0.65mmのジルコニアビーズを100部充填し、周速を15m/sとし、分散時間は30分で行った。なお、分散処理により、カーボンブラックの体積平均粒径が300nm以下となっていることを、市販の粒径測定機(レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置 LA−920、(株)堀場製作所製)により確認した。
以上の操作により、顔料分散液である分散物No.1−1〜1−33、及び、2−1〜2−24を得た。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
【表8】

【0092】
【表9】

【0093】
使用した材料を以下に示す。
なお、分散剤のアミン価は、以下のようにして測定した。
(分散剤のアミン価の測定)
分散剤をメチルイソブチルケトンに溶解し、0.01モル/L過塩素酸メチルイソブチルケトン溶液で電位差滴定を行い、KOHmg/g換算したものをアミン価とした。電位差滴定は平沼産業(株)製自動滴定装置COM−1500を用いて測定した。
【0094】
【表10】

【0095】
【表11】

【0096】
PEA:SR339C、Sartomer社製、フェノキシエチルアクリレート
UV12:FLORSTAB UV12、Kromachem社製、重合禁止剤
Sol5000:Solsperse5000、Lubrizol社製、フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩
EFKA6745:Efka6745,BASF社製、フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩、
【0097】
(インクの作製)
予め準備しておいた下記表に記載の希釈液A〜F(910部)に、作製した分散液1−1〜1−33、2−1〜2−24(90部)を添加、撹拌し(10〜20分、2,000〜3,000回転/分)、均一なブラックインクを得た。なお、作製後のインクは、1.5μmのフィルター(PROFILE STAR PALL社製)にてろ過処理を実施した。下記表の数値は、重量部を示す。
以下の実施例において、作製したインクを表すインク記号は、分散物No.と希釈液の組み合わせを示す。具体的には、例えばインク1−5Aは、分散物1−5と、希釈液Aを混ぜ合わせて作製した。
【0098】
【表12】

【0099】
上記の表で使用した成分は以下の通りである。
NVC:N−ビニルカプロラクタム(BASF社製)
CTFA:サイクリックトリメチロールプロパンフォルマルアクリレート(SR531、Sartomer社製)
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(SR351、Sartomer社製)
UV12:ニトロソ系重合禁止剤(FLORSTAB UV−12、Kromachem社製)
CN964:ウレタンジアクリレートオリゴマー(CN964A85、Sartomer社製)
Irg184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(重合開始剤、IRGACURE184、BASF社製)
Irg819:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(重合禁止剤、IRGACURE819、BASF社製)
ITX:2−イソプロピルチオキサントンと4−イソプロピルチオキサントンとの混合物)(増感剤、SPEEDCURE ITX、Lambson社製)
【0100】
(評価)
<保存安定性の評価(アルミ蒸着プラスチックパウチ)>
1,000mLのインクをアルミ蒸着プラスチックパウチ(UVijet KIインクシリーズ(KI004、FujiFilmSpecialityInkSytems社製)に用いているインクパウチ)に充填した。充填前に、真空ポンプにてパウチ内を真空状態にした上で、インクを充填することによって、パウチ内部の空気を最小限にした。インク充填パウチを温度一定に設定した恒湿槽に25日間保管し、粘度の変化率、ろ過タイムよって保存安定性を評価した。なお、恒湿槽の温度は50、55、60℃の条件で実施した。
【0101】
〔粘度安定性の評価〕
初期の粘度と経時後の粘度をブルックフィールド型粘度計(デジタル粘度計 LVDV−I+ (Brookfield社))で測定した。なお、測定中の温度は25℃になるように設定した。評価基準は下記の通りである。
A:粘度増加率が10%以内
B:粘度増加率が20%以内
C:粘度増加率が30%未満
D:粘度増加率が30%以上
なお、ここでは、50℃では10%以内(A以上)、55℃では20%以内(B以上)、60℃では30%未満(C以上)であることが実用上好ましい。
【0102】
〔ろ過性の評価〕
経時後のインク50mLのろ過タイムを測定した。フィルターはポリプロピレン製ディスクフィルター(PEPLYN PLUSシリーズ(25mm直径、7μm精度)、Parker社)を用いた。ろ過中の容器内の圧力は、400mBar(40kPa)になるように設定した。また、ろ過直前にインク温度が25℃になるよう、恒温槽にインクを30分程度保管した。評価基準は以下の通りである。
○:50mLのろ過タイムが6分未満であった
×:50mLのろ過タイムが6分以上であった
なお、ここでは、60℃でのろ過タイムが6分未満(○であること)ことが特に好ましく、55℃でのろ過タイムが6分未満であることが実用上好ましい。
【0103】
<密着性の評価>
市販インクジェットプリンタ(LuxelJet UV350GTW、富士フイルム社製)を用いてプリントサンプルを作製した。マゼンタ、シアン、イエローには、UVijet KIインクシリーズ(KI867、KI215、KI052、FujiFilmSpecialityInkSytems社製)を用いた。ブラックインクは、前記の作製したインクを充填した。基材としては、PVC粘着基材(Avery MPI 3500、Abery社製)を用いた。10cm×10cm以上のブラック単色のベタ画像を作成し、下記の基準に従い密着性を評価した。
0:JIS K5600−5−6(ISO2409)に基づいて0点
1:JIS K5600−5−6(ISO2409)に基づいて1点
2:JIS K5600−5−6(ISO2409)に基づいて2点
3:JIS K5600−5−6(ISO2409)に基づいて3点
4:JIS K5600−5−6(ISO2409)に基づいて4点
5:JIS K5600−5−6(ISO2409)に基づいて5点
なお、ここでは、0〜2であることが実用上好ましい。
【0104】
【表13】

【0105】
【表14】

【0106】
<保存安定性の評価(ガラス製ねじ口瓶)>
90mLのブラックインクをガラス製のねじ口瓶(100mL)に入れしっかりと蓋をし、温度一定に設定した恒湿槽に25日間保管し、粘度の変化率、ろ過タイムよって保存安定性を評価した。なお、恒湿槽の温度は50℃、55℃、60℃の条件で実施した。
【0107】
【表15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、
顔料分散剤、
重合性化合物、及び、
フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩を含有し、
前記顔料としてカーボンブラックを含有し、
前記顔料分散剤として塩基性高分子分散剤を含有し、
前記重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上含有し、かつ、
下記の(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする、
インクジェット記録用インク組成物。
(i)前記カーボンブラックのpHが2.0以上3.5以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が25mgKOH/g以上40mgKOH/g未満である
(ii)前記カーボンブラックのpHが2.0以上7.0以下であり、前記塩基性高分子分散剤のアミン価が40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である
【請求項2】
前記塩基性高分子分散剤の含有量が、インク組成物中の顔料100重量%に対して、20重量%以上50重量%以下である、請求項1に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックの含有量がインク組成物全体の3重量%以上5重量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項4】
前記N−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上80重量%以下含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項5】
前記N−ビニルカプロラクタムをインク組成物全体の15重量%以上30重量%以下含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物を充填したインクパックであり、
該インクパックがアルミ蒸着プラスチックパウチであることを特徴とする
インクパック。
【請求項7】
(a1)被記録媒体上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物を吐出する工程、及び、
(b1)吐出されたインクジェット記録用インク組成物に活性放射線を照射して、前記インクジェット記録用インク組成物を硬化する工程、を含むことを特徴とする
インクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−67717(P2013−67717A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207066(P2011−207066)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】