説明

インクジェット記録用インク組成物及びインクジェット記録方法

【課題】画像におけるブロッキングの発生が抑制され、記録時の耐オフセット性及び記録画像の耐擦性に優れたインク組成物を提供する。
【解決手段】顔料、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂粒子、水溶性有機溶剤、及び水を含み、全固形分質量が10質量%以上であると共に、前記水溶性有機溶剤の70質量%以上のSP値が27.5以下であるインクジェット記録用インク組成物であり、前記樹脂粒子の含有量が、全固形分質量に対して40質量%以上であることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法による記録に用いられるインクジェット記録用インク組成物及びこれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー画像を記録する画像記録方法としては、近年、様々な方法が提案されているが、いずれにおいても画像の品質、風合い、記録後のカールなど、記録物の品位に対する要求は高い。
【0003】
例えば、インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野に適用されてきたが、近年では商業印刷分野での応用がなされつつある。この商業印刷分野では、完全にインク溶剤の原紙への浸透をシャットアウトする、写真のような表面を有するものではなく、汎用の印刷紙のような印刷の風合いが要求されている。ここで、記録媒体における溶媒吸収層が20〜30μmと厚くなると、記録媒体の表面光沢、質感、こわさ(コシ)等が制限されてしまう。そのため、商業印刷分野でのインクジェット技術の適用は、記録媒体に対する表面光沢、質感、こわさ(コシ)等の制限が許容されるポスター、帳票印刷等に留まっている。
【0004】
また、インクジェット記録専用の記録媒体は、溶媒吸収層、耐水層を有することによりコスト高となっており、この点も、商業印刷分野へのインクジェット技術適用の制限の一因となっている。
【0005】
一方、高画質な画像を形成するインクジェット記録方法として、通常のインクジェット用インクとは別に、画像を良好にするための液体組成物を用意し、この液体組成物をインクジェット用インクの吐出に先立って記録媒体上に付着させて画像を記録する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、液体組成物中の成分によりインク中の成分を紙の表面で凝集させ、画像にクスミや滲みが発生する前に定着する。
【0006】
また、インク溶媒の記録媒体への浸透を早める観点から、インク溶媒の記録媒体への浸透を早めるために浸透液を用い、この浸透液に界面活性剤を含有する技術や、画像部の光沢などの性能を向上するために画像部を定着する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−59933号公報
【特許文献2】特開2008−200855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来の記録方法や技術では、例えばシングルパスで記録する等により記録速度をさらに高速化した場合には、記録後の乾燥、定着等の処理が短時間のうちに行なわれるため、水や有機溶剤などの乾燥や媒体中への浸透が追いつかず、画像が未だ柔らかい段階で、その画像上にさらに記録媒体が重ねられると、画像部が記録媒体の裏面に転写するブロッキングが発生しやすくなる。
【0009】
また、記録・乾燥後に、例えば加熱圧着して定着する等、記録後にローラー等の部材が画像に触れる記録系では、画像がローラー等に転写してローラー汚れや画像欠陥を招くオフセット現象を引き起こすことがある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、画像におけるブロッキングの発生が抑制され、記録時の耐オフセット性及び記録画像の耐擦性に優れたインクジェット記録用インク組成物、並びに画像におけるブロッキングの発生及び定着時におけるオフセットを防止し、記録速度を高速化することができるインクジェット記録方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、高いガラス転移温度を持つラテックスを使用し、固形分量を多くし、SP値が27.5以下である水溶性有機溶剤を使用すると、画像のブロッキング及び定着時のオフセットの軽減に有効であるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 顔料、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂粒子、水溶性有機溶剤、及び水を含み、全固形分質量が10質量%以上であると共に、前記水溶性有機溶剤の70質量%以上のSP値が27.5以下であるインクジェット記録用インク組成物である。
<2> 前記樹脂粒子の含有量が、全固形分質量に対して40質量%以上であることを特徴とする前記<1>に記載のインクジェット記録用インク組成物である。
<3> 前記水溶性有機溶剤の総量が、全質量に対して20質量%未満であることを特徴とする前記<1>又は前記<2>に記載のインクジェット記録用インク組成物である。
<4> 前記樹脂粒子が、自己分散性樹脂粒子であることを特徴とする前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インク組成物である。
<5> 前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体上に画像を記録する工程と、記録された前記画像を加熱定着する工程とを少なくとも有するインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、画像におけるブロッキングの発生が抑制され、記録時の耐オフセット性及び記録画像の耐擦性に優れたインクジェット記録用インク組成物を提供することができる。また、本発明によれば、画像におけるブロッキングの発生及び定着時におけるオフセットを防止し、記録速度を高速化することができるインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のインクジェット記録方法の実施に用いるインクジェット記録装置の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のインクジェット記録用インク組成物及びこれを用いたインクジェット記録方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明のインクジェット記録用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、顔料、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂粒子、水溶性有機溶剤、及び水を含み、全固形分質量を10質量%以上とすると共に、含有する水溶性有機溶剤の全体の70質量%以上をSP値が27.5以下の水溶性有機溶剤として構成したものである。本発明のインク組成物は、必要に応じて、更に界面活性剤などの他の成分を用いて構成することができる。
【0017】
本発明のインク組成物は、組成物中の全固形分質量を10質量%以上とする。インク中の固形分量が10質量%未満の範囲では、例えばシングルパスで記録する等により記録速度をさらに高速化した場合に、記録後の乾燥、定着等の処理が短時間のうちに行なわれるため、記録後の画像上にさらに記録媒体が重ねられた際に、画像部が記録媒体の裏面に転写(ブロッキング)したり、例えば加熱圧着する等、記録後にローラー等の部材を画像に接触させて定着する際に、画像がローラー等に転写してローラー汚れや画像欠陥(オフセット)を引き起こす。
本発明においては、ブロッキング及びオフセットの発生を効果的に防止する観点から、全固形分質量の上限値は20質量%が望ましい。中でも、全固形分質量は、前記同様の理由から、10.5〜15質量%の範囲が特に好ましい。
なお、本発明における固形分とは、顔料と顔料分散剤と樹脂粒子との合計質量をいう。
【0018】
(顔料)
本発明のインク組成物は、顔料の少なくとも1種を含有する。顔料は、目的に応じて適宜選択することができ、有機顔料又は無機顔料のいずれであってもよい。
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。例えば、前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。また、前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。なお、カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。これら顔料の中では、水分散性顔料が好ましい。
【0019】
水分散性顔料の具体例として、下記(1)〜(4)の顔料を挙げることができる。
(1)カプセル化顔料、即ち、ポリマー微粒子に顔料を含有させてなるポリマー分散物であり、より詳しくは、親水性水不溶性の樹脂で顔料を被覆し、顔料表面の樹脂層にて親水化することで顔料を水に分散可能にしたもの
(2)自己分散顔料、即ち、表面に少なくとも1種の親水基を有し、分散剤の不存在下で水分散性及び水溶性の少なくともいずれかを示す顔料、より詳しくは、主にカーボンブラックなどを表面酸化処理して親水化し、顔料単体が水に分散するようにしたもの
(3)樹脂分散顔料、即ち、重量平均分子量50,000以下の水溶性高分子化合物により分散された顔料
(4)界面活性剤分散顔料、即ち、界面活性剤により分散された顔料
これらのうち、好ましくは(1)カプセル化顔料、(2)自己分散顔料であり、特に好ましくは(1)カプセル化顔料である。
【0020】
ここで、(1)カプセル化顔料について詳述する。
カプセル化顔料の樹脂は、限定されるものではないが、水と水溶性有機溶剤の混合溶媒中で自己分散能又は溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)を有する高分子化合物であるのが好ましい。この樹脂は、通常は数平均分子量が1,000〜100,000の範囲程度のものが好ましく、3,000〜50,000の範囲程度のものが特に好ましい。また、この樹脂は、有機溶剤に溶解して溶液となるものが好ましい。樹脂の数平均分子量は、この範囲内であると顔料における被覆膜として又はインクとした際の塗膜としての機能を発揮することができる。樹脂は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で用いられるのが好ましい。
【0021】
カプセル化顔料の樹脂の具体例としては、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂;塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などのアニオン性基を有する材料などが挙げられる。
これら樹脂のうち、アニオン性のアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(以下、「アニオン性基含有アクリルモノマー」という。)及び必要に応じて該アニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン基からなる群より選ばれる1個以上のアニオン性基を有するアクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマーが特に好ましい。カルボキシキル基を有するアクリルモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0022】
カプセル化顔料は、上記の成分を用いて、従来の物理的、化学的方法により製造することができる。例えば、特開平9−151342号、特開平10−140065号、特開平11−209672号、特開平11−172180号、特開平10−25440号、又は特開平11−43636号の各公報に記載の方法により製造することができる。具体的には、特開平9−151342号及び特開平10−140065号の各公報に記載の転相乳化法と酸析法等が挙げられ、中でも、分散安定性の点で転相乳化法が好ましい。転相乳化法については後述する。
【0023】
また、前記自己分散顔料も好ましい例の1つである。自己分散顔料とは、多数の親水性官能基及び/又はその塩(以下、「分散性付与基」という。)を、顔料表面に直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、顔料分散用の分散剤を用いずに水性媒体中に分散可能な顔料である。ここで、「分散剤を用いずに水性媒体中に分散」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能なことをいう。
自己分散顔料を着色剤として含有するインクは、通常、顔料を分散させるために含有させる分散剤を含む必要がないため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんどなく、吐出安定性に優れるインクを調製しやすい。自己分散顔料の表面に結合される分散性付与基には、−COOH、−CO、−OH、−SOH、−PO及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩が例示でき、これらは顔料に物理的処理又は化学的処理を施すことで、分散性付与基又は分散性付与基を有する活性種を顔料表面に結合(グラフト)させることにより結合される。前記物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理等が例示できる。また、前記化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法、等が例示できる。
本発明においては、例えば、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、あるいはオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散顔料を好ましい例として挙げることができる。自己分散顔料として市販品を使用してもよく、具体的には、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(商品名;キャボット社製)等が挙げられる。
【0024】
顔料としては、顔料分散剤のうち水不溶性樹脂を用い、顔料の表面の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたカプセル化顔料、例えば水不溶性樹脂粒子に顔料が含有されているポリマーエマルジョンが好ましく、より詳しくは、水不溶性樹脂で顔料の少なくとも一部を被覆し、顔料表面に樹脂層を形成して水に分散させ得る水分散性顔料が好ましい。このような水不溶性樹脂で被覆されたカプセル化顔料を使用することが、凝集性の観点で好ましく、高速記録する場合に高解像度な画像を形成できる点で好ましい。
【0025】
ここで、転相乳化法について説明する。
転相乳化法は、基本的には、自己分散能又は溶解能を有する樹脂と顔料との混合溶融物を水に分散させる自己分散(転相乳化)方法である。また、この混合溶融物には、上記の硬化剤又は高分子化合物を含んでなるものであってもよい。ここで、混合溶融物とは、溶解せず混合した状態、溶解して混合した状態、又はこれら両者の状態のいずれの状態を含むものをいう。「転相乳化法」のより具体的な製造方法は、特開平10−140065号に記載の方法が挙げられる。
なお、上記の転相乳化法及び酸析法のより具体的な方法については、特開平9−151342号、特開平10−140065号の各公報に記載を参照することができる。
【0026】
〜顔料分散剤〜
顔料分散剤は、前記顔料を分散させた際の易分散化及び分散後の分散安定化を図ることができる。顔料分散剤としては、ノニオン性化合物、アニオン性化合物、カチオン性化合物、両性化合物等が挙げられる。例えば、α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの共重合体等が挙げられる。α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、酢酸ビニル、酢酸アリル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、クロトン酸エステル、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン化ビニルナフタレン、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート、ビスメタクリロキシエチルホスフェート、メタクリロキシエチルフェニルアシドホスフェート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、芳香族基を置換してもよいアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸フェニルエステル、芳香族基を置換してもよいメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸フェニルエステル、メタクリル酸シクロアルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、並びに上記化合物の誘導体等が挙げられる。
【0027】
前記α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの単独もしくは複数を共重合して得られる共重合体を高分子分散剤として用いることができる。具体例として、アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸アルキルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニルエステル−メタクリル酸、スチレン−メタクリル酸シクロヘキシルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−メタクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0028】
顔料分散剤は、重量平均分子量で2,000〜60,000のものが好ましい。
顔料分散剤の顔料に対する添加量としては、質量基準で顔料の10%以上100%以下の範囲が好ましく、顔料の20%以上70%以下がより好ましく、更に好ましくは顔料の40%以上50%以下である。
【0029】
顔料は、1種単独で使用してもよく、上記した各群内もしくは各群間より複数種を選択して組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク組成物中における含有量としては、色濃度、粒状性、インク安定性、吐出信頼性の観点から、インクの全質量に対して、0.1〜15質量%となる量が好ましく、0.5〜12質量%となる量がより好ましく、1〜10質量%となる量が特に好ましい。
【0030】
(樹脂粒子)
本発明のインク組成物は、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂粒子の少なくとも1種を含有する。ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の樹脂粒子を含むことにより、インク組成物の記録媒体への定着性、画像の耐ブロッキング性、耐オフセット性及び耐擦過性を効果的に向上させることができる。また、樹脂粒子は、後述する処理液又はこれを乾燥させた紙領域と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。このような樹脂粒子は、水及び有機溶剤の少なくとも1種に分散されているものが好ましい。
【0031】
樹脂粒子のガラス転移温度は80℃以上であるが、100℃以上300℃以下であることがより好ましく、130℃以上250℃以下であることがより好ましく、160℃以上200℃以下であることが更に好ましい。含有する樹脂粒子のガラス転移温度が300℃以下であると、記録画像の耐擦過性がより効果的に向上する。
【0032】
樹脂粒子(ポリマー粒子)のガラス転移温度は、通常用いられる方法によって適宜制御することができる。例えば、樹脂を構成するモノマーの重合性基の種類、モノマー上の置換基の種類やその構成比率、樹脂粒子を構成するポリマー分子の分子量等を適宜選択することで、樹脂粒子のガラス転移温度を所望の範囲に制御することができる。
【0033】
ガラス転移温度は、実測によって得られる測定Tgを適用する。具体的には、測定Tgとしては、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220を用いて通常の測定条件で測定された値を意味する。但し、樹脂の分解等により測定が困難な場合には、下記の計算式で算出される計算Tgを適用する。計算Tgは下記の式(1)で計算されるものである。
1/Tg=Σ(X/Tg) ・・・(1)
ここで、計算対象となるポリマーはi=1からnまでのn種のモノマー成分が共重合しているとする。Xはi番目のモノマーの重量分率(ΣX=1)、Tgはi番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。但し、Σはi=1からnまでの和をとる。尚、各モノマーの単独重合体ガラス転移温度の値(Tg)は、Polymer Handbook(3rd Edition)(J.Brandrup, E.H.Immergut著(Wiley-Interscience、1989))の値を採用する。
【0034】
樹脂粒子としては、所望のガラス転移温度を有するものであれば、特に制限はない。例えば、熱可塑性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、あるいはそれらの共重合体又は混合物などの樹脂から構成される樹脂粒子が挙げられる。
【0035】
樹脂粒子としては、吐出安定性及び前記顔料を用いた場合の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性ポリマーの粒子が好ましく、カルボキシル基を有する自己分散性ポリマーの粒子がより好ましい。自己分散性ポリマーの粒子(以下、「自己分散性ポリマー粒子」とも称する)とは、他の界面活性剤の不存在下に、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。また、自己分散性ポリマーを用いることにより遊離の乳化剤による凝集の遅延のないことは、凝集性の観点でも好ましく、高速記録する場合に高解像度な画像を形成できる点で好ましい。
【0036】
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。本発明における水不溶性ポリマーにおいては、液体組成物としたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0037】
自己分散性ポリマー粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0038】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0039】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0040】
本発明における樹脂粒子を構成する樹脂の主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましく、樹脂粒子の分散安定性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂粒子がより好ましい。尚、(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂及びアクリル系樹脂を意味する。
【0041】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載のものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載のものを挙げることができる。
【0042】
本発明における自己分散性ポリマー粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と、疎水性の構成単位として脂環式モノマーに由来する構成単位の少なくとも1種とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。水不溶性ポリマーは、加えて更に芳香族基含有モノマーに由来する構成単位を含んでもよい。
【0043】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0044】
親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0045】
前記不飽和カルボン酸モノマーとして具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。前記不飽和スルホン酸モノマーとして具体的には、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。前記不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方がより好ましい。
【0046】
また、ノニオン性親水性基を有するモノマーとしては、例えば、2−メトキシエチルアクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、エトキシトリエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(分子量200〜1000)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(分子量200〜1000)モノメタクリレートなどの(ポリ)エチレンオキシ基又はポリプロピレンオキシ基を含有するエチレン性不飽和モノマーや、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
また、ノニオン性親水性基を有するモノマーは、末端が水酸基のエチレン性不飽和モノマーよりも、末端がアルキルエーテルのエチレン性不飽和モノマーの方が、粒子の安定性、水溶性成分の含有量の観点で好ましい。
【0047】
親水性の構成単位としては、アニオン性の解離性基を有する親水性単位のみを含有する態様、及び、アニオン性の解離性基を有する親水性の構成単位とノニオン性親水性基を有する親水性の構成単位との両方を含有する態様のいずれかであることが好ましい。
また、アニオン性の解離性基を有する親水性単位を2種以上含有する態様や、アニオン性の解離性基を有する親水性の構成単位とノニオン性親水性基を有する親水性の構成単位を2種以上併用する態様であることもまた好ましい。
【0048】
前記自己分散性ポリマーにおける親水性構成単位の含有率は、インク組成物の粘度と経時安定性の観点から、25質量%以下であることが好ましく、1〜25質量%であることがより好ましく、2〜23質量%であることがさらに好ましく、4〜20質量%であることが特に好ましい。
また、2種以上の親水性の構成単位を有する場合、親水性の構成単位の総含有率が前記範囲内であることが好ましい。
【0049】
前記自己分散性ポリマーにおけるアニオン性の解離性基を有する構成単位の含量は、酸価が後述する好適な範囲となるような範囲が好ましい。また、ノニオン性親水性基を有する構成単位の含量としては、吐出安定性と経時安定性の観点から、好ましくは0〜25質量%であって、より好ましくは0〜20質量%であって、特に好ましいのは0〜15質量%である。
【0050】
自己分散性ポリマー粒子は、自己分散性と、後述の処理液を用いて記録を行なう際に処理液と接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価(mgKOH/g)が25〜100であるポリマーを含むことがより好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、25〜80であることがより好ましく、30〜65であることが特に好ましい。特に、酸価は、25以上であると自己分散性の安定性が良好になり、100以下であると凝集性が向上する。
【0051】
前記脂環式モノマーは、脂環式炭化水素基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はないが、分散安定性の観点から、脂環式(メタ)アクリレートであることが好ましい。
前記脂環式(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリル酸に由来する構造部位と、アルコールに由来する構造部位とを含み、アルコールに由来する構造部位に、無置換又は置換された脂環式炭化水素基を少なくとも1つ含む構造を有しているものである。前記脂環式炭化水素基は、アルコールに由来する構造部位そのものであっても、連結基を介してアルコールに由来する構造部位に結合していてもよい。なお、「脂環式(メタ)アクリレート」とは、脂環式炭化水素基を有する、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0052】
脂環式炭化水素基としては、環状の非芳香族炭化水素基を含むものであれば特に限定はなく、単環式炭化水素基、2環式炭化水素基、3環式以上の多環式炭化水素基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基や、シクロアルケニル基、ビシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基、デカヒドロナフタレニル基、ペルヒドロフルオレニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、及びビシクロ[4.3.0]ノナン等を挙げることができる。脂環式炭化水素基は、さらに置換基を有してもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アルキル又はアリールカルボニル基、及びシアノ基等が挙げられる。また、脂環式炭化水素基は、さらに縮合環を形成していてもよい。
本発明における脂環式炭化水素基としては、粘度や溶解性の観点から、脂環式炭化水素基部分の炭素数が5〜20であることが好ましい。
【0053】
脂環式炭化水素基とアルコールに由来する構造部位とを結合する連結基としては、炭素数1から20までの、アルキル基、アルケニル基、アルキレン基、アラルキル基、アルコキシ基、モノ又はオリゴエチレングルコール基、モノ又はオリゴプロピレングリコール基などが好適なものとして挙げられる。
【0054】
脂環式(メタ)アクリレートの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素数が3〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。2環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、3環式(メタ)アクリレートとしては、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうち、自己分散性ポリマー粒子の分散安定性と、定着性、ブロッキング耐性の観点から、2環式(メタ)アクリレート、又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートを少なくとも1種であることが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0055】
本発明において、自己分散性ポリマー粒子に含まれる脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有率としては、自己分散状態の安定性、脂環式炭化水素基同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、20質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。特に好ましいのは50質量%以上80質量%以下である。脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を20質量%以上とすることで、定着性、ブロッキングを改良することができる。一方、脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位が90質量%以下であることでポリマー粒子の安定性が向上する。
【0056】
また、芳香族基含有モノマーに由来する構成単位を有する場合、芳香族基含有モノマーとしては、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば、特に制限はない。芳香族基は、芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。また、重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0057】
芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。また、芳香族基含有モノマーとしてスチレン系モノマーを用いる場合、自己分散性ポリマー粒子とした際の安定性の観点から、スチレン系モノマーに由来する構成単位は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、スチレン系モノマーに由来する構成単位を含まない態様が特に好ましい。ここで、スチレン系モノマーとは、スチレン、置換スチレン(α-メチルスチレン、クロロスチレンなど)、及び、ポリスチレン構造単位を有するスチレンマクロマーのことをさす。
【0058】
自己分散性ポリマー粒子は、例えば、疎水性の構成単位として、脂環式モノマーに由来する構成単位に加えて、前記芳香族基含有モノマーに由来する構成単位のほか、必要に応じて、他の構成単位を更に含んでもよい。その他の構成単位を形成するモノマー(以下、「その他共重合可能なモノマー」ということがある。)としては、前記親水性基含有モノマー、芳香族基含有モノマー及び脂環式モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0059】
中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点及び自己分散ポリマーの分散安定性の観点から、炭素数が1〜8の鎖状アルキル基を含有する(メタ)アクリレートの少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは炭素数が1〜4の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはメチル(メタ)アクリレート又はエチル(メタ)アクリレートである。ここで、鎖状アルキル基とは、直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基のことをいう。
【0060】
その他共重合可能なモノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。自己分散性ポリマー粒子が、その他の構成単位を含有する場合、その含有量は10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜75質量%であって、特に好ましいのは20〜70質量%である。その他の構成単位を形成するモノマーを、2種以上を組み合わせて使用する場合、その総含有量が前記範囲であることが好ましい。
【0061】
本発明における自己分散性ポリマーは、分散安定性の観点から、脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも一種、芳香族基含有(メタ)アクリレートを含む他の共重合可能なモノマー、並びに親水性基含有モノマーの少なくとも3種を重合して得られるポリマーであることも好ましく、脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも一種、炭素数が1〜8の直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基含有(メタ)アクリレート、及び親水性基含有モノマーの少なくとも3種を重合して得られるポリマーであることがより好ましい。本発明においては、分散安定性の観点から、炭素数が9以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、及び、芳香族基含有マクロモノマー等に由来する疎水性が大きい置換基を有する構成単位の含有量は、実質的に含まないことが好ましく、全く含まない態様であることがより好ましい
【0062】
自己分散性ポリマーは、各構成単位が不規則的に導入されたランダム共重合体であっても、規則的に導入されたブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体である場合の各構成単位は、いずれの導入順序で合成されたものであってもよく、同一の構成成分を2度以上用いてもよいが、ランダム共重合体であるのが汎用性、製造性の点で好ましい。
【0063】
自己分散性ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。更に加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。
【0064】
本発明における自己分散性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位(好ましくは、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位)を共重合比率として自己分散性ポリマー粒子の全質量の15〜80質量%を含み、酸価が25〜100で重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましい。
また、自己分散性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位(好ましくは、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位)に由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、また、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含み、酸価が25〜95で重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0065】
また、本発明の自己分散性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、脂環式(メタ)アクリレートに由来する構造(好ましくは、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位)を共重合比率として20質量%以上90質量%以下と、解離性基含有モノマーに由来する構造と、炭素数1〜8の鎖状アルキル基を含有する(メタ)アクリレートに由来する構造の少なくとも1種とを含み、酸価が20〜120であって、親水性構造単位の総含有率が25質量%以下であって、重量平均分子量が3000〜20万であるビニルポリマーであることもまた好ましい。さらに、2環式又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートに由来する構造(好ましくは、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位)を共重合比率として30質量%以上90質量%以下と、炭素数1〜4の鎖状アルキル基を含有する(メタ)アクリレートに由来する構造を共重合比率として10〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構造を酸価が25〜100の範囲で含み、親水性構造単位の総含有率が25質量%以下であって、重量平均分子量が10000〜20万であるビニルポリマーであることがより好ましい。さらに、2環式又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートに由来する構造(好ましくは、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位)を共重合比率として40質量%以上80質量%以下と、少なくともメチル(メタ)アクリレート又はエチル(メタ)アクリレートに由来する構造を共重合比率として20〜70質量%含み、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する構造を酸価が30〜80の範囲で含み、親水性構造単位の総含有率が25質量%以下であって、重量平均分子量が30000〜15万であるビニルポリマーであることが特に好ましい。
【0066】
以下に、樹脂粒子を構成するポリマーの具体例として、脂環式基含有ポリマーとを挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、括弧内は共重合成分の質量比を表す。また、ガラス転移温度が「計算Tg」である場合、既述の式(1)により次の各モノマーの単独重合体のTg値を用いて算出した値である〔Tg=メチルメタクリレート:105℃、イソボルニルメタクリレート:156℃、ベンジルメタクリレート:54℃、メタクリル酸:130℃、アダマンチルメタクリレート:140℃、ジシクロペンタニルメタクリレート:128℃〕。
【0067】
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)、ガラス転移温度Tg180℃
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/62/8)、ガラス転移温度Tg170℃
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/52/8)、ガラス転移温度Tg160℃
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/42/8)、ガラス転移温度Tg150℃
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/50/14/6)、ガラス転移温度Tg123℃
・メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/50/10)、ガラス転移温度Tg130℃
・メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/フェノキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/50/14/6)、ガラス転移温度Tg101℃
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸共重合体(30/54/10/6)、ガラス転移温度Tg110℃
・メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸共重合体(54/35/5/6)、ガラス転移温度Tg100℃
・メチルメタクリレート/アダマンチルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=23)/メタクリル酸共重合体(30/50/15/5)、ガラス転移温度Tg112℃
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/50/22/8)、ガラス転移温度Tg139℃
・エチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)、ガラス転移温度Tg67℃
・イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/アクリル酸共重合体(40/50/10)、ガラス転移温度Tg70℃
・n−ブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/スチレン/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)、ガラス転移温度Tg86℃
・メチルメタクリレート/ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/52/8)、ガラス転移温度Tg78℃
・ラウリルメタクリレート/ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(3/87/10)、ガラス転移温度Tg53℃
【0068】
本発明における樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行ない、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0069】
本発明における自己分散性ポリマー粒子は、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が20〜100であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明における自己分散性ポリマー粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
【0070】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0071】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0072】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
【0073】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。本発明の自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えば、カルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散性ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0074】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0075】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性ポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0076】
樹脂粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径で10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましく、10〜50nmの範囲が特に好ましい。体積平均粒子径は、10nm以上であると製造適性が向上し、1μm以下であると保存安定性が向上する。また、樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ樹脂粒子を2種以上混合してもよい。
なお、樹脂粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0077】
樹脂粒子(特に自己分散性ポリマー粒子)は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。樹脂粒子のインク組成物中における含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.5〜20質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、3〜15質量%がさらに好ましい。
また、樹脂粒子のインク組成物中の全固形分質量に対する含有量としては、40質量%以上が好ましい。全固形分質量に対する割合が前記範囲内であると、例えばシングルパスで記録する等により記録速度をさらに高速化した場合に、高解像な画像を得るために充分な凝集性を有し、ブロッキング及びオフセットの発生を効果的に防止することができる。更には、樹脂粒子のインク組成物中における含有量は、前記同様の理由から、インク組成物の全固形分質量に対して、40〜90質量%がより好ましく、40〜80質量%がさらに好ましく、50〜70質量%が最も好ましい。
【0078】
(水溶性有機溶剤)
本発明のインク組成物は、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有する。
水溶性有機溶剤は、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0079】
水溶性有機溶剤の例としては、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);グルコース、マンノース、フルクトース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
乾燥防止や湿潤の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
浸透促進の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールが好適である。脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0082】
本発明のインク組成物においては、水溶性有機溶剤の70質量%以上をSP値27.5以下の水溶性有機溶剤とする。SP値が27.5以下の水溶性有機溶剤を用いると、記録後の様々な環境湿度下でのカールの発生をより抑制することができる。また、樹脂粒子との相互作用により定着性も向上し、特に、SP値が27.5以下の水溶性有機溶剤の割合を水溶性有機溶剤全体の70質量%以上としてSP値の比較的低いものを多くすることで、画像の耐擦性を向上し、オフセットを効果的に抑制することができる。なお、SP値(溶解度パラメーター)とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値で、R.F.Fedors, Polymer Engineering Science, 14, p.147〜154 (1974)に記載の方法で算出されるものをいう。
また、ヘッドのノズル口においてインクジェット用インク組成物が乾燥して目詰まりを来すのを防止するため、乾燥防止や湿潤用に前記溶剤を用いることができ、乾燥防止や湿潤用には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、インク組成物を紙によりよく浸透させるために、浸透促進用に水溶性有機溶剤が好適に使用される。
【0083】
前記SP値27.5以下の水溶性有機溶剤としては、例えば、
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:22.4)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:21.5)
・トリエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:22.1)
・トリエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:21.7)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:21.1)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:21.3)
・ジプロピレングリコール(SP値:27.2)
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(20.4)、及び、
下記の構造式(1)で表されるグリセリンのアルキレンオキシド付加物が好適に挙げられる。
【0084】
【化1】

【0085】
構造式(1)において、l、m、及びnは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、かつl+m+n=3〜15を満たす。l+m+nの値は、3以上であるとカール抑制効果が良好であり、15以下であると良好な吐出性が保てる。中でも、l+m+nは3〜12の範囲が好ましく、3〜10の範囲がより好ましい。構造式(1)中のAOは、エチレンオキシ(EOと略記することがある)及び/又はプロピレンオキシ(POと略記することがある)を表し、中でも、プロピレンオキシ基が好ましい。(AO)、(AO)、及び(AO)の各AOは、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0086】
以下、前記構造式(1)で表される化合物の例を示す。なお、括弧内の値はSP値である。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0087】
【化2】

【0088】
・nCO(AO)−H
(AO=EO又はPO(EO:PO=1:1)、SP値=20.1)
・nCO(AO)10−H
(AO=EO又はPO(EO:PO=1:1)、SP値=18.8)
・HO(A'O)40−H
(A'O=EO又はPO(EO:PO=1:3)、SP値=18.7)
・HO(A''O)55−H
(A''O=EO又はPO(EO:PO=5:6)、SP値=18.8)
・HO(PO)−H(SP値=24.7)
・HO(PO)−H(SP値=21.2)
・1,2−ヘキサンジオール(SP値=27.4)
なお、EO、POは各々、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基を表す。
【0089】
グリセリンのアルキレンオキシド付加物は、上市されている市販品を用いてもよい。例えば、ポリオキシプロピル化グリセリン(ポリプロピレングリコールとグリセリンとのエーテル)として、サンニックスGP−250(平均分子量250)、同GP−400(平均分子量400)、同GP−600(平均分子量600)〔以上、三洋化成工業(株)製〕、レオコンGP−250(平均分子量250),同GP−300(平均分子量300、同GP−400(平均分子量400)、同GP−700(平均分子量700)〔以上、ライオン(株)製〕、ポリプロピレントリオールグリコール・トリオール型(平均分子量300、平均分子量700)〔以上、和光純薬(株)製〕などが挙げられる。
【0090】
水溶性有機溶剤は、一種単独であるいは2種類以上を混合して使用することができる。混合の組合せには特に限定はないが、前記構造式(1)で表されるグリセリンのアルキレンオキシド付加物と、SP値23以下(好ましくはSP値22以下)のアルキレングリコールアルキルエーテル(好ましくはジ又はトリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル部位の好ましい炭素数は各々1〜4))とを組合せると、定着性がより向上し、画像のブロッキングを効果的に抑制することができる。この場合、前記構造式(1)で表されるグリセリンのアルキレンオキシド付加物(a)と、SP値23以下のアルキレングリコールアルキルエーテル(b)との混合比率(a:b)は、前記同様の理由から、1:5〜5:1の範囲が好ましく、1:2.5〜2.5:1の範囲がより好ましい。
【0091】
水溶性有機溶剤のインク組成物中における含有量としては、組成物の全質量に対して、20質量%未満の範囲で含有していることが好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が20質量%未満であると、例えばシングルパスで記録する等により記録速度をさらに高速化した場合にも、記録後の乾燥、定着等の処理を短時間で行なうのに有利であり、ブロッキング及びオフセットの発生を効果的に防止することができる。
中でも、水溶性有機溶剤の含有量は、組成物全質量に対して、5質量%以上20質量%未満がより好ましく、7質量%以上17質量%以下が特に好ましい。
【0092】
(水)
本発明におけるインク組成物は、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の量は、安定性及び吐出信頼性確保の点から、インク組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは、50質量%以上70質量%以下である。
【0093】
(界面活性剤)
本発明におけるインク組成物は、必要に応じて、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。表面張力調整剤として、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも用いることができる。更に、上記の分散剤(高分子分散剤)を界面活性剤としても用いてもよい。
【0094】
界面活性剤をインク組成物に含有する場合、界面活性剤はインクジェット法によりインクの吐出を良好に行なう観点から、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲の量を含有するのが好ましく、表面張力の点からはより好ましくは20〜45mN/mであり、更に好ましくは25〜40mN/mである。界面活性剤のインク組成物中における界面活性剤の具体的な量としては、前記表面張力となる範囲が好ましいこと以外は特に制限はなく、1質量%以上が好ましく、より好ましくは1〜10質量%であり、更に好ましくは1〜3質量%である。
【0095】
(その他成分)
インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて、更にその他成分として各種の添加剤を含むことができる。各種の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0096】
〜インクの物性〜
インク組成物の表面張力(25℃)としては、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上40mN/m以下である。表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、インクを25℃の条件下で測定されるものである。また、インク組成物の25℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下が好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)によりインクを25℃の条件下で測定されるものである。
【0097】
本発明のインク組成物は、インクジェット用インクとして用いられるものであり、カラー画像の記録に用いることができる。例えばフルカラー画像を形成する場合は、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクとして用いることが好ましく、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクとして用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク等として用いることができる。
【0098】
次に、本発明のインクジェット記録方法について説明する。
本発明のインクジェット記録方法は、既述の本発明のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体上に画像を記録する工程(以下、「画像記録工程」ということがある。)と、記録された画像を加熱定着する工程(以下、「加熱定着工程」ということがある。)とを少なくとも有し、必要に応じて、さらに処理液付与工程などの他の工程を設けて構成することができる。
【0099】
本発明のインクジェット記録方法においては、既述の本発明のインク組成物を用いて記録を行なうので、例えばシングルパスで記録する等により記録速度をさらに高速化した記録系統に構成し、吐出後の乾燥、定着等の処理が短時間のうちに行なわれる場合でも、記録後の画像上にさらに記録媒体が重ねられたときに、画像部が記録媒体の裏面に転写するブロッキングや、例えば加熱圧着する等、記録後にローラー等の部材を画像に接触させて定着した際に画像がローラー等に転写してローラー汚れや画像欠陥を引き起こすオフセットの発生を防止することができる。
【0100】
−画像記録工程−
画像記録工程は、既述の本発明のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体上に画像を記録する。
【0101】
インクジェット法による画像記録は、エネルギーを供与することにより、記録媒体上にインク組成物を吐出し、着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0102】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0103】
また、画像記録工程は、例えば記録媒体の搬送速度を変えることにより画像を記録することができる。搬送速度は、画像品質を損なわない範囲であれば特に制限はなく、好ましくは、100〜3000mm/sであり、より好ましくは150〜2700mm/sであり、さらに好ましくは250〜2500mm/sである。
【0104】
記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる塗工紙を用いることができる。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。一般的に塗工紙を記録媒体として用いる通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の滲みや耐擦性など品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、画像滲みが抑制されて均質で濃度ムラの発生が防止され、耐ブロッキング性、耐オフセット性、耐擦性の良好な画像を記録することができる。
【0105】
塗工紙は、一般に上市されているものを入手して使用できる。例えば、一般印刷用塗工紙を用いることができ、具体的には、王子製紙製の「OKトップコート+」、日本製紙社製の「オーロラコート」、「ユーライト」等のコート紙(A2、B2)、及び三菱製紙社製の「特菱アート」等のアート紙(A1)などを挙げることができる。
【0106】
−加熱定着工程−
加熱定着工程は、前記画像記録工程で記録された画像を加熱定着して固定化する。画像の固定化は、画像部をなす記録媒体上のインクに圧着部材を圧接することにより行なえる。本発明においては、圧着部材が接触した際に画像(インク組成物)が圧着部材に転写して画像を損なうオフセット現象が防止され、画像品質を保ちつつ、画像定着を迅速に行なうことができる。これにより、画像の光沢性等の風合い、耐擦過性(例えば紙との密着性)が良好で画像品質に優れた画像が高速に記録される。
【0107】
画像部の固定化は、画像記録工程の後に、例えば、少なくとも画像に圧力を付与する圧力付与手段を用い、この圧力付与手段を画像部に圧接して画像部を加圧することにより固定化(定着処理)する加圧工程を設けて行なってもよい。また、圧力付与手段に画像部を加熱する加熱手段を組み合わせ、画像部を加熱圧着することにより固定化(定着処理)する加熱圧着工程を設けてもよい。圧力付与手段としては、例えば、互いに圧接するロール対や加圧板などが挙げられ、加熱手段としては、例えば、加熱ロールや熱板などが挙げられる。具体的には、例えば、画像記録工程の後に、記録媒体の表面を加熱された加熱ロールや熱板などで圧着する処理を行なうことができる。この場合、インク中に含まれる樹脂粒子を溶融させることができる。このとき、加熱温度は、インク組成物中の樹脂粒子のTgより高いことが好ましい。
【0108】
−処理液付与工程−
本発明のインクジェット記録方法は、画像の耐ブロッキング性、耐擦過性、耐オフセット性を向上させる観点から、インク組成物と接触して凝集物を形成可能な処理液を記録媒体上に付与する処理液付与工程をさらに有していることが好ましい。処理液付与工程では、既述のインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体(好ましくは塗工紙)に付与する。インクジェット記録方法を、前記処理液の存在下でインク組成物を用いて画像記録する構成とすることにより、記録後のカールとカックル、及びインクハジキの発生に対する抑制効果も得られ、耐ブロッキング性、耐オフセット性及び耐擦過性が良好な画像を記録することができる。
【0109】
(処理液)
処理液は、凝集剤の少なくとも1種を含有する。凝集剤は、既述のインク組成物と接触したときに凝集物を生じさせるものであり、凝集させ得るものから特に制限なく選択することができる。
【0110】
凝集剤としては、例えば、インク組成物のpHを変化させることができる化合物、多価金属塩、カチオン性化合物等を挙げることができる。本発明においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。
【0111】
インク組成物のpHを低下させ得る化合物としては、酸性物質を挙げることができる。
酸性物質としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、およびこれらの化合物の誘導体、ならびにこれらの塩等が好適に挙げられる。
【0112】
中でも、水溶性の高い酸性物質が好ましい。また、インク組成物と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性物質が好ましく、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。
酸性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
本発明における処理液が酸性物質を含む場合、処理液のpH(25℃)は、0.1〜6.0であることが好ましく、0.5〜5.0であることがより好ましく、0.8〜4.0であることがさらに好ましい。
【0114】
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(ギ酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(ギ酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0115】
前記カチオン性化合物としては、カチオン性界面活性剤が好適に挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、1級、2級、又は3級アミン塩型の化合物が好ましい。このアミン塩型の化合物の例として、塩酸塩もしくは酢酸塩等の化合物(例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミンなど)、第4級アンモニウム塩型化合物(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなど)、ピリジニウム塩型化合物(例えば、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイドなど)、イミダゾリン型カチオン性化合物(例えば、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリンなど)、高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物(例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミンなど)を挙げることができる。また、ポリアリルアミン類を用いても良い。これらのほか、所望のpH領域でカチオン性を示す両性界面活性剤も使用可能であり、例えば、アミノ酸型の両性界面活性剤、R−NH−CHCH−COOH型の化合物(Rはアルキル基等を表す)、カルボン酸塩型両性界面活性剤(例えば、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなど)、硫酸エステル型、スルホン酸型、又はリン酸エステル型等の両性界面活性剤、等が挙げられる。
【0116】
凝集剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
インク組成物を凝集させる凝集剤の処理液中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは3〜45質量%であり、更に好ましくは5〜40質量%の範囲である。
多価金属化合物とともに、酸性物質及びカチオン性化合物の少なくとも1種を併用するとき、酸性物質及びカチオン性化合物の処理液中における含有量(酸性物質及びカチオン性化合物の全含有量)は、前記多価金属化合物の全含有量に対して、5質量%〜95質量%が好ましく、20質量%〜80質量%がより好ましい。
【0117】
本発明における処理液は、前記凝集剤に加えて、一般には水溶性有機溶剤を含むことができ、更にその他の各種添加剤を用いて構成することができる。水溶性有機溶剤、その他の各種添加剤の詳細については、既述のインク組成物におけるものと同様である。
【0118】
処理液の表面張力(25℃)は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、25mN以上50mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上45mN/m以下である。表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定されるものである。
【0119】
処理液の塗工紙上への付与は、公知の液体付与方法を特に制限なく用いることができ、スプレー塗布、塗布ローラー等の塗布、インクジェット方式による付与、浸漬などの任意の方法を選択することができる。具体的には、例えば、ホリゾンタルサイズプレス法、ロールコーター法、カレンダーサイズプレス法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるナイフコーター法;ゲートロールコーター法などのトランスファーロールコーター法、ダイレクトロールコーター法、リバースロールコーター法、スクイズロールコーター法などに代表されるロールコーター法;ビルブレードコーター法、ショートデュエルコーター法;ツーストリームコーター法などに代表されるブレードコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;キャストコーター法;グラビアコーター法;カーテンコーター法;ダイコーター法;ブラシコーター法;転写法などが挙げられる。また、特開平10−230201号公報に記載の塗布装置のように、液量制限部材を備えた塗布装置を用いることで塗布量を制御して塗布する方法であってもよい。
【0120】
処理液を付与する領域は、記録媒体(塗工紙)全体に付与する全面付与であっても、後の画像記録工程でインクジェット記録が行なわれる領域に部分的に付与する部分付与であってもよい。本発明においては、処理液の付与量を均一に調整し、細線や微細な画像部分等を均質に記録し、画像ムラ等の濃度ムラを抑える観点から、塗布ローラー等を用いた塗布によって塗工紙全体に付与する全面付与が好ましい。凝集剤の付与量を前記範囲に制御して塗布する方法としては、例えば、アニロックスローラーを用いた方法が挙げられる。アニロックスローラーとは、セラミックが溶射されたローラー表面をレーザーで加工しピラミッド型や斜線、亀甲型などの形状を付したローラーである。このローラー表面に付けられた凹みの部分に処理液が入り込み、紙面と接触すると転写されて、アニロックスローラーの凹みで制御された塗布量にて塗布される。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0122】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で算出した。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて行なった。
【0123】
−ポリマー分散剤P−1の合成−
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、これにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P−1を96g得た。
得られた樹脂の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JIS K0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0124】
【化3】

【0125】
−樹脂被覆顔料の分散物の調製−
(1)樹脂被覆シアン顔料分散物
ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブルーA220、大日精化(株)製)10部と、前記ポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1mol/L NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆シアン顔料(カプセル化顔料)分散物を得た。
【0126】
(2)樹脂被覆マゼンタ顔料分散物
前記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたピグメント・ブルー15:3の代わりに、Chromophthal Jet Magenta DMQ(ピグメント・レッド122、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用いたこと以外は、前記樹脂被覆シアン顔料分散物と同様にして、樹脂被覆マゼンタ顔料分散物を得た。
【0127】
(3)樹脂被覆イエロー顔料分散物
前記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたピグメント・ブルー15:3の代わりに、Irgalite Yellow GS(ピグメント・イエロー74、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用いたこと以外は、前記樹脂被覆シアン顔料分散物と同様にして、樹脂被覆イエロー顔料分散物を得た。
【0128】
−樹脂粒子の調製−
(自己分散性ポリマーB−1の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン540.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。反応容器内の温度を75℃に保ちながら、メチルメタクリレート108g、イソボルニルメタクリレート388.8g、メタクリル酸43.2g、メチルエチルケトン108g、及び「V−601」(和光純薬工業(株)製)2.16gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」1.08g及びメチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.54g及びメチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続け、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(=20/72/8[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体は、重量平均分子量(Mw)が61000であり、酸価が52.1mgKOH/gであった。
【0129】
次に、樹脂溶液588.2gを秤量し、イソプロパノール165g、1モル/LのNaOH水溶液120.8mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水718gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保って溶媒を留去した。更に、反応容器内を減圧して、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を留去し、固形分濃度26.0質量%の自己分散性ポリマーB−1(樹脂粒子)の水性分散物を得た。
【0130】
自己分散性ポリマーB−1のガラス転移温度を以下の方法で測定したところ、測定Tgで180℃であった。
<測定Tg>
固形分で0.5gの自己分散性ポリマーB−1の水分散物を50℃で4時間、減圧乾燥させ、ポリマー固形分を得た。得られたポリマー固形分を用い、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220によりTgを測定した。測定条件は、サンプル量5mgをアルミパンに密閉し、窒素雰囲気下、以下の温度プロファイルで2回目の昇温時の測定データのDDSCのピークトップの値をTgとした。
30℃→−50℃ (50℃/分で冷却)
−50℃→120℃(20℃/分で昇温)
120℃→−50℃(50℃/分で冷却)
−50℃→120℃(20℃/分で昇温)
【0131】
(自己分散性ポリマーB−2〜B−5の合成)
前記自己分散性ポリマーB−1の水性分散物の調製において、モノマーの種類と比率をそれぞれ変更したこと以外、上記と同様にして、下記モノマー組成を有する自己分散性ポリマー(樹脂粒子)B−2〜B−5の水分散物を調製した。また、上記と同様に測定Tgを求めた。
・B−2:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸(=40/50/10、測定Tg=130℃)
・B−3:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸(54/35/5/6、測定Tg=100℃)
・B−4:n−ブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/スチレン/アクリル酸共重合体(30/55/10/5、測定Tg=86℃)
・B−5:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(20/70/10、測定Tg=71℃)
【0132】
−インクの調製−
上記で得た樹脂被覆顔料の分散物、及び自己分散性ポリマー粒子B−1〜B−5の水分散物を用い、下記表1に示す組成となるようにシアン色のインク1〜6、マゼンタ色のインク7〜8、イエロー色のインク9、ブラック色のインク10、及び比較用のシアンインク11〜15をそれぞれ調製した。このとき、各インクの全固形分量、樹脂粒子の固形分比率、Tg、有機溶剤の量等については下記表1に示す通りである。
【0133】
−処理液の調製−
下記組成の諸成分を混合し、処理液1を調製した。処理液1のpH(25℃)を東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて測定したところ、1.21であった。
<組成>
・マロン酸(凝集剤)・・・7.5g
・サンニックスGP250(SP値:26.4)・・・10g
(三洋化成工業(株)製、ポリプロピレングリコールグリセリルエーテル)
・イオン交換水 ・・・7.5g
【0134】
−画像記録−
記録媒体(塗工紙)として特菱アート(坪量104.7g/m)を用意し、インクジェット記録装置として、図1に示す構造の記録装置を用意した。この記録装置を起動し、その硬質ゴムベルト上に記録媒体を固定して400mm/secの搬送速度で搬送し、以下に示す工程を経て画像を記録した。なお、図1中の<I>〜<V>は、下記の工程I〜工程Vにそれぞれ対応する。その後、得られた記録画像について、以下の評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0135】
<I.処理液付与工程>
まず、アニロックスローラー11(線数100〜300/インチ)を備え、塗布量が制御されたロールコーターにて、付与量が1.2g/mとなるように処理液1を記録媒体の全面に塗布した。
<II.処理工程>
次いで、下記条件にて処理液1が塗布された記録媒体を、記録媒体の背面側(記録面の反対側)から接触型平面ヒーター22で加熱しながら、乾燥ファン21により送風し、乾燥処理及び浸透処理を施した。
・風速:10m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように加熱
<III.画像形成工程>
GELJET GX5000プリンタヘッド(リコー(株)製のフルラインヘッド)を2基、図1に示すように、無端の硬質ゴムベルトの走行方向(副走査方向)と直交する方向に対し、ノズルが並ぶラインヘッドの方向(主走査方向)が75.7°傾斜するように固定配置した。第1のインクジェットヘッド31及び第2のインクジェットヘッド32に、上記で得たシアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックの各色インク、並びに比較用のシアンインクを装填し、第1のインクジェットヘッド31及び第2のインクジェットヘッド32を、それぞれから吐出されたインク滴が重なるようにヘッドの位置を調整した。その後、処理液1が塗布された記録媒体の塗布面に、下記条件にて各インクをインクジェット方式で吐出し、ベタ画像を記録した。
<条件>
・吐出液滴量:2.4pL
・解像度:1200dpi×1200dpi
<IV.インク乾燥工程>
次いで、乾燥領域に記録媒体をベルト搬送し、インクが着滴した記録媒体を、記録媒体の背面側(記録面の反対側)から接触型平面ヒーター42で加熱しながら、乾燥ファン41により送風し、下記条件で乾燥した。ここで、乾燥工程直後の画像が記録された記録媒体中の水分量をカールフィッシャー電量滴定法(CA-200、(株)三菱化学アナリテック製)で定量したところ、約2.0〜3.0g/mであった。
<条件>
・乾燥方法:送風乾燥
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように加熱
<V.定着工程>
次に、互いに圧接するシリコーンゴムローラー51と大径ドラム52とからなるローラー対の間を下記条件で通過させることにより画像に加熱定着処理を施し、そのまま図示しない回収トレイに重ねて回収した。なお、シリコーンゴムローラー51の表面には、接着防止のためにシリコーンオイルを薄く付与した。
<条件>
・シリコーンゴムローラー51:硬度50°、ニップ幅5mm
・ローラー温度:70℃
・ドラム52の表面温度:60℃
・圧力:0.2MPa
【0136】
−評価−
(耐オフセット性)
第1のインクジェットヘッド31から吐出したインクによるベタ画像上に、第2のインクジェットヘッド32から吐出したインクによるベタ画像を重ねて記録したベタ画像を形成し、画像表面とシリコーンゴムローラーの汚れを目視にて観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:オフセットは見られなかった。
B:一部に僅かにオフセットが見られたが、実用上問題ないレベルであった。
C:オフセットが発生し、実用上の許容限界レベルであった。
D:オフセットの発生が顕著であり、実用性の極めて低いレベルであった。
【0137】
(耐ブロッキング性)
第1のインクジェットヘッド31を用いてベタ画像を記録した直後、このベタ画像上に記録していない記録媒体(記録に用いたものと同じ記録媒体(以下、本評価において未使用サンプルという。))を重ねて荷重350kg/mをかけ、60℃、30%RHの環境条件下で6時間放置した。未使用サンプルの白地部分へのインクの転写度合いを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:インクの転写は全くなかった。
B:インクの転写はほとんど目立たなかった。
C:インクの転写が多少見られ、実用上の許容限界レベルであった。
D:インクの転写が顕著であった。
【0138】
(耐擦性)
第1のインクジェットヘッド31を用いてベタ画像を記録した記録媒体を、25℃で60%RHの環境条件下に24時間静置した後、このベタ画像上に記録していない記録媒体(記録に用いたものと同じ記録媒体(本評価において未使用サンプルという。))を重ねて荷重150kg/mをかけて10往復擦り、未使用サンプルの白地部分へのインクの転写度合いを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:インクの転写は全くなかった。
B:インクの転写はほとんど目立たなかった。
C:インクの転写が多少見られた。
D:インクの転写が顕著であった。
【0139】
【表1】

【0140】
前記表1中の成分の詳細を以下に示す。
・GP250:サンニックスGP250
(三洋化成工業(株)製、ポリプロピレングリコールグリセリルエーテル)
・TPGmME:トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬工業社製)
・DEG:ジエチレングリコール(和光純薬工業社製)
・グリセリン(和光純薬工業社製)
・界面活性剤:オルフィン E1010(日信化学工業社製)
・増粘剤(PE108):ニューポール PE108(三洋化成工業社製)
【0141】
前記表1に示すように、実施例では、ブロッキング及びオフセットの発生が防止され、耐擦過性に優れた画像を得ることができた。
【符号の説明】
【0142】
11・・・アニロックスローラー
21,41・・・乾燥ファン
31,32・・・インクジェットヘッド
22,42・・・接触型平面ヒーター
51・・・シリコーンゴムローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂粒子、水溶性有機溶剤、及び水を含み、全固形分質量が10質量%以上であると共に、前記水溶性有機溶剤の70質量%以上のSP値が27.5以下であるインクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】
前記樹脂粒子の含有量が、全固形分質量に対して40質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤の総量が、全質量に対して20質量%未満であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項4】
前記樹脂粒子が、自己分散性樹脂粒子であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体上に画像を記録する工程と、記録された前記画像を加熱定着する工程とを少なくとも有するインクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222420(P2010−222420A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68822(P2009−68822)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】