説明

インクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法、塗工液およびキャスト塗工紙

【課題】優れた白紙表面光沢を有し、かつ優れたインクジェット記録(印字)適正を備えたインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法、該製造方法に用いる塗工液および該製造方法により製造されるインクジェット記録用塗工紙を提供すること。
【解決手段】顔料および接着剤を含有する下塗り塗工層を設けた下塗り原紙上に、感温点以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)を含有する高分子エマルジョンとγ−アルミナを含む塗工液を、前記下塗り原紙上に塗工してキャスト用塗工層を形成し、該塗工層が湿潤状態において、該塗工層を加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げるインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法、該製造方法に用いる塗工液ならびに該製造方法により製造されたインクジェット記録用キャスト塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用キャスト塗工紙に関し、特に優れた白紙表面光沢を有し、かつ優れたインクジェット記録(印字)適正を備えたキャスト塗工紙の製造法およびキャスト塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、記録時の騒音が少なく、カラー化が容易であること、高速記録が可能であることから広い分野で利用が進められている。
近年、銀塩写真並の高画質を得るためのインクジェット用記録媒体の技術開発が進み、ポリオレフィンで被覆した紙やポリマーフィルムなどの平滑性の高い支持体上に、無機微粒子により形成される微小空隙を有するインク吸収層を設けた記録媒体が、銀塩写真画質に迫るものとして市販されている。ところが、インク吸収性の無い支持体上で、十分なインク吸収容量を該インク吸収層だけで確保しようとすれば、30μm以上の非常に厚いインク吸収層を形成しなければならない。該厚みを持つインク吸収層を得るためにはその数倍の厚みの塗工液を均質な厚みで塗工し、乾燥工程においても膜厚の均質性を保ちながら、かつ、効率良く該記録媒体を製造するのは困難であり問題となる。
その解決手段の一つとして、例えば特許文献1には、無機微粒子とともに、ポリビニルアルコールとホウ酸及び/又はホウ砂を含む塗工液を用いた記録媒体の製造方法が開示されている。該塗工液は、比較的高い温度領域(およそ40℃以上)では低粘度水溶液の状態を保つが、15℃程度の低温領域では増粘する(ゲル状になる)。また、無機微粒子とともに、ゼラチンを含む塗工液を用いた場合にも同様の温度変化による増粘性を示す。該性質を利用することによって厚膜の塗工層を均質に保つことが可能である。しかしながら、該塗工液は15℃以下の冷風を用いて冷却し増粘させる(セットさせる)必要があり、かつ、該塗工液の増粘は可逆的であるため乾燥がある程度進み再度低粘度化が起こらなくなるまでの間、熱風による乾燥を行えないため生産性が低い問題がある。また、近年、ホウ素化合物に関して、水質に係わる厳しい環境基準が設けられていることもあり、ポリビニルアルコールとホウ酸及び/又はホウ砂を含む塗工液を用いる場合には水質汚染が懸念される。また、乾燥時間の短縮及び乾燥にかかるエネルギー費用の軽減のため、塗工液の固形分濃度を高め、蒸発させるべき水の量を減らそうとする場合、ポリビニルアルコールやゼラチンなどの水溶性ポリマーのみをバインダーとした塗工液においては、高濃度化することによって塗工液粘度が急激に増加してしまい、塗工液の取り扱いが困難になる、塗工液を支持体上に均質に塗工することが困難となる等の問題がある。
【0003】
また、銀塩写真並の表面光沢を得るためのインクジェット用記録媒体として、キャスト法を用いた記録媒体も市販されている。キャスト法には、顔料や接着剤を主成分とする塗工液組成物を原紙上に塗工した後、該塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラムの表面に圧接し、乾燥するウェットキャスト法(直接法)、湿潤状態の塗工層をいったん乾燥あるいは半乾燥して凝固させた後、再湿潤液により湿潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧接し乾燥するリウェットキャスト法、湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧接し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)の3種類の方法が一般的に知られており、これらのキャスト法は、いずれも、湿潤可塑化状態にある塗工層を鏡面仕上げした加熱ドラムに圧接して乾燥し、加熱ドラムから離型させて鏡面を写し取ることは共通している。キャスト法は一般に前述の冷却セットを利用する製造方法に比べて生産性の点で優れているといわれているが、キャスト法にて得られた塗工紙の表面は、高光沢、高平滑となるが、塗工層表面に数ミクロンあるいはそれ以下のサイズの微小な地割れ状のクラックが多数存在しており、高解像度の画像が得られ
にくいという問題がある。例えば、特許文献2に開示されているキャスト塗工紙は、その塗工層を構成する顔料組成物中の接着剤等の成膜性物質がキャストコーターの鏡面ドラム表面を写し取ることにより高い光沢を得ている。他方、この成膜性物質の存在によって塗工層の多孔性が失われ、インクジェット記録時のインクの吸収を極端に低下させる等の問題を抱えている。そして、このインク吸収性を改善するには、キャスト塗工層がインクを容易に吸収できるように多孔質にすることが重要であり、そのためには成膜性物質の量を減じることが必要となるが、成膜性物質の量を減らすことにより、結果として白紙光沢が低下する。以上の如く、キャスト塗工紙の表面光沢とインクジェット記録(印字)適正の両方を同時に満足させることが極めて困難であるのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開2000-218927号公報
【特許文献2】米国特許第5275846号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明の課題は、優れた白紙表面光沢を有し、かつ優れたインクジェット記録(印字)適正を備えたインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法、該製造方法に用いる塗工液および該製造方法により製造されるインクジェット記録用塗工紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、インクジェット記録用キャスト塗工紙が本来有する高表面平滑性および高光沢を維持し、かつインクジェット記録(印字)適正に優れたキャスト塗工紙を得るべく鋭意研究を重ねた結果、顔料および接着剤を含有する下塗り塗工層を設けた下塗り原紙上に、感温点以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)を含有する高分子エマルジョンとγ−アルミナを含む塗工液を、前記下塗り原紙上に塗工してキャスト用塗工層を形成し、該塗工層が湿潤状態において、該塗工層を加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げるインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法により、極めて優れたインクジェット印字記録適正を示し、かつキャスト用塗工紙本来の高光沢を維持し、従来のキャスト塗工紙では得ることの出来なかった、優れたインクジェット(印字)記録適正を備えたキャスト塗工紙が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1)顔料および接着剤を含有する下塗り塗工層を設けた下塗り原紙上に、感温点以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)を含有する高分子エマルジョンとγ−アルミナを含む塗工液を、前記下塗り原紙上に塗工してキャスト用塗工層を形成し、該塗工層が湿潤状態において、該塗工層を加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げることを特徴とするインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法。
2)上記下塗り塗工層中にカチオン性樹脂を含有することを特徴とする1)の発明のインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法。
3)1)または2)の発明の製造方法に用いることを特徴とする塗工液。
4)1)または2)の発明の製造方法で製造したことを特徴とするインクジェット記録用キャスト塗工紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明を用いれば、極めて優れたインクジェット印字記録適正を示し、かつキャスト用塗工紙本来の高光沢を維持し、従来のキャスト塗工紙では得ることの出来なかった、優れたインクジェット(印字)記録適正を備えたインクジェット記録用キャスト塗工紙が得ら
れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明の塗工液は不可逆な低温増粘性を有する。即ち、該キャスト用塗工液は後述の高分子化合物(A)の感温点を超える温度では比較的低粘度であるが、該キャスト用塗工液を高分子化合物(A)の感温点以下まで冷却することにより該キャスト用塗工液の粘度は急激に増加し、その後、再度高分子化合物(A)の感温点を超える温度まで加熱を行なっても比較的高い粘度を保つ性質を有する。
本発明のキャスト用塗工液を、下塗り塗工層を設けた下塗り原紙上に塗工した後、該塗工層が湿潤状態において該塗工層を表面が加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げることによって高い光沢の表面を持ち、微小クラックのない、あるいは微小クラックの極めて少ない、高いインクジェット記録(印字)適正を有するインクジェット記録用キャスト塗工紙を製造できることを見出した。この理由は、本発明のキャスト用塗工液を塗工した後、溶媒の蒸発潜熱あるいは雰囲気温度によって、あるいは後述の冷却方法によって、高分子化合物(A)の感温点以下の温度まで塗工層が冷却されることで該塗工層の粘度が急激に増大し、次に、該塗工層が加熱された鏡面ドラムに圧接された状況下においても該塗工層の粘度が比較的高い状態で保たれていることと関係すると推測している。
鏡面ドラムの表面温度は後述の高分子化合物(A)のガラス転移点未満の温度であることが得られるキャスト塗工紙のインク吸収性の観点から好ましい。鏡面ドラムの表面温度が高分子化合物(A)のガラス転移点未満である場合、塗工層の成膜化が必要以上に進行しないためと推測している。
【0010】
本発明の製造方法を用いた場合、得られる塗工層の空隙率が高く、インク吸収性が良好となり、インクジェット記録用キャスト塗工紙として用いる場合に特に有用である。この理由は明確ではないが、塗工液中で高分子化合物(A)が疎水化され、高分子エマルジョンを形成しているため、高分子エマルジョン粒子等がインク吸収に有効な微小空隙中に侵入することがなく、良好なインク吸収性を発現できるのであろうと推測している。
本発明の塗工液を本発明の下塗り原紙上に塗工する際、該塗工液を、高分子化合物(A)の感温点を超える温度に加熱して塗工することが良好な光沢表面を持つインクジェット記録用キャスト塗工紙が得られるという観点から好ましく、さらに感温点よりも10℃以上高い温度に該塗工液を加熱しておくことがより好ましい。感温点よりも10℃高い温度における該塗工液の粘度(v1)が20mPa・s以上500mPa・s以下であることは良好な光沢表面を持つインクジェット記録用キャスト塗工紙が得られるという観点から好ましく、40mPa・s以上200mPa・s以下であることはより好ましい。該塗工液の粘度を20mPa・s以上500mPa・s以下に制御する方法としては、塗工液の固形分濃度調製や後述の水溶性ポリマーの添加などが挙げられる。
本発明において粘度はB型粘度計による測定値を用いる。
本発明の塗工液を下塗り原紙上に塗工した後、該塗工液よりなる塗工層が加熱された鏡面ドラムに圧接される前に感温点以下の温度まで一旦冷却されることは、良好な光沢表面を持つインクジェット記録用キャスト塗工紙が得られるという観点から好ましい。該塗工層は感温点よりも5℃以上低い温度まで冷却することが好ましく、10℃以上低い温度まで冷却することがより好ましく、15℃以上低い温度まで冷却することがさらに好ましい。感温点より15℃低い温度における本発明の塗工液粘度(v2)は前記v1の20倍以上の粘度まで増粘することが良好な光沢表面を持つインクジェット記録用キャスト塗工紙が得られるという観点から好ましく、さらに50倍以上の粘度まで増加することがより好ましい。
【0011】
本発明において塗工層を冷却させる方法としては、自然冷却、冷風機、送風機、冷凍機等の公知の手段を用いることができる。送風機、冷風機が好ましく用いられ、風の温度は
本発明に用いる高分子化合物(A)の感温点によって異なるが、該感温点以下の温度が好ましく、感温点よりも5℃以上低い温度がより好ましく、感温点よりも10℃以上低い温度がさらに好ましい。自然冷却を行う場合は、感温点を環境温度よりも5℃以上高く設定することが好ましい。塗工層は湿潤状態においては、溶媒の蒸発潜熱による冷却を伴うため、送風を行なうことにより効率的に冷却を行なうことができる。
前述のように塗工液を感温点以上の温度に管理したり、感温点以下の温度まで冷却したりすることから、本発明のインクジェット記録用キャスト塗工紙の生産性の観点から、感温点が10℃以上40℃以下であることが好ましい。さらに、塗工層の冷却に係る設備および費用を軽減する観点からは感温点は25℃以上40℃以下が好ましく、塗工液の加熱に係る設備および費用を軽減する観点からは10℃以上25℃以下が好ましい。
本発明に用いる高分子化合物(A)は、単独重合することによって温度応答性(疎水性−親水性の変化)を呈する高分子化合物が得られるモノマー(主モノマー(M))の単独重合高分子化合物、又は二種類以上の主モノマー(M)の共重合高分子化合物、さらには、該主モノマー(M)と反応して高分子化合物を作ることができかつ単独重合によっては該温度応答性を呈する高分子化合物が得られないモノマー(副モノマー(N))との共重合高分子化合物である。主モノマー(M)と副モノマー(N)は各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることも出来る。
【0012】
主モノマー(M)の単独重合により高い温度応答性を有する高分子化合物(A)が得られるが、主モノマー(M)と副モノマー(N)とを共重合することによって、主モノマー(M)の単独重合高分子化合物とは異なる感温点を持つ高分子化合物(A)が得られたり、主モノマー(M)の単独重合高分子化合物とは異なる成膜性を有する高分子化合物(A)を得ることができる。
主モノマー(M)としてはN−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミド誘導体(ここで、(メタ)アクリルとはメタアクリル(又はメタクリル)又はアクリルを簡便に表記したものである)、ビニルメチルエーテルなどが挙げられ、具体的には例えば、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシエチル)−N−メチルアクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。成膜性の観点から、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジンが好ましい。
【0013】
副モノマー(N)としては親油性ビニル化合物、親水性ビニル化合物、イオン性ビニル化合物などが挙げられ、具体的には、親油性ビニル化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、エチレン、イソプレン、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられ、親水性ビニル化合物としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2−メチル−5−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−アクリロイルピロリジン、アクリロニトリル、などが挙げられ、イオン性ビ
ニル化合物としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマーなどが挙げられる。特に、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドが好ましく用いられる。また、本発明の塗工液を用いて得られる塗工層の成膜性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマーなどのアニオン基含有モノマーを用いることは好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマーを用いることは好ましい。
【0014】
主モノマー(M)と副モノマー(N)の共重合割合は、得られる共重合高分子化合物が感温点を境界にして疎水性から親水性へ変化する温度応答性を呈する範囲の中で決められる。つまり、副モノマー(N)の割合が多すぎれば得られる共重合高分子化合物が該温度応答性を示さなくなる。
即ち、主モノマー(M)と副モノマー(N)の共重合割合は用いるモノマー種の組み合わせに依存するが、生成する高分子化合物中における副モノマー(N)の割合は50質量%以下が好ましい。更に好ましくは、30質量%以下である。また、副モノマー(N)の添加効果がより良く発現されるためには0.01質量%以上が好ましい。
本発明において、高分子化合物(A)の「感温点」とは、その疎水性−親水性が変化する温度であり、「温度応答性」とは、該疎水性−親水性の変化を示す性質を意味する。また、本発明において、「親水性」とは高分子化合物(A)と水とが共存する系において高分子化合物(A)は水と相溶した状態の方が、相分離した状態よりも安定であることを意味し、「疎水性」とは高分子化合物(A)と水とが共存する系において高分子化合物(A)は水と相分離した状態の方が、相溶した状態よりも安定であることを意味する。該疎水性−親水性の変化は例えば、高分子化合物(A)と水とが共存する系の温度変化に伴う急激な粘度変化、または高分子化合物(A)と水とが共存する系の透明性の急激な変化、高分子化合物(A)の水に対する溶解性の急激な変化として現れる。本発明においては、高分子化合物(A)と水とが共存する系の温度を、高分子化合物(A)が疎水性を示す温度領域(感温点を超える温度)から徐々に低下させたときの粘度を測定して得られる温度−粘度曲線が急激に変化する転移点として高分子化合物(A)の感温点を求める。
【0015】
本発明に用いる高分子エマルジョンは、含有する高分子化合物(A)の温度変化による疎水性−親水性の変化の影響によって急激に粘度変化を生じる温度(感温点)を有する。
本発明の塗工液をインクジェット記録用キャスト塗工紙製造において使用する場合、インクジェット記録ではアニオン基を有する染料インクを用いることは、多くの場合、カチオン基を有する染料インクと比較して光耐久性が高いため好ましい。そのため当該アニオン基を有する染料インクをインクジェット記録用キャスト塗工紙に定着させる目的でカチオン性樹脂やカチオン性粒子などカチオン性の化合物を塗工液に添加することが好ましく、該塗工液調製の容易さの観点から高分子化合物(A)がカチオン性または非イオン性であることはより好ましい。カチオン性の高分子化合物(A)は例えば、重合に使用する副モノマー(N)として、カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーを含めることによっ
て得ることができ、該観点から少なくとも一種類以上の、カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーを副モノマー(N)として使用することは好ましい。該カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーは各々1種または2種以上のものを組み合わせて用いることも出来る。特に、太陽光または蛍光灯の光に、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙にインクジェットプリンターを用いて印刷を行った印刷物を曝しておいた場合に生じる退色の度合いの観点および得られる高分子エマルジョンのコロイド安定性の観点から、該カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーとしては3級アミノ基および/または4級アンモニウム塩基を含有することがより好ましい。
【0016】
3級アミノ基および/または4級アンモニウム塩基を含有する高分子化合物(A)は、例えば主モノマー(M)と、副モノマー(N)として3級アミノ基および/または4級アンモニウム塩基を含有するモノマーとを共重合させて得られる。主モノマー(M)、副モノマー(N)(3級アミノ基および/または4級アンモニウム塩基を含有するモノマーを含む)は各々1種または2種以上のものを組み合わせて用いることも出来る。
3級アミノ基または4級アンモニウム塩基含有する副モノマー(N)としては、例えばビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2,3−ジメチル−1−ビニルイミダゾリニウムクロライド、トリメチル−(3−(メタ)アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミドおよびその4級アンモニウム塩、トリメチル−(3−(メタ)アクリルアミド)アンモニウムクロライド、1−ビニル−2−メチル−イミダゾール、1−ビニル−2−エチル−イミダゾール、1−ビニル−2−フェニル−イミダゾール、1−ビニル−2、4,5−トリメチル−イミダゾール、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートおよびその4級アンモニウム塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびその4級アンモニウム塩、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびその4級アンモニウム塩、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびその4級アンモニウム塩、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドおよびその4級アンモニウム塩、N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドおよびその4級アンモニウム塩、N−(3−ジエチルアミノプロピル)メタクリルアミドおよびその4級アンモニウム塩、N−(3−ジエチルアミノプロピル)アクリルアミドおよびその4級アンモニウム塩、o−,m−,p−アミノスチレンおよびその4級アンモニウム塩、o−,m−,p−ビニルベンジルアミンおよびその4級アンモニウム塩、N−(ビニルベンジル)ピロリドン、N−(ビニルベンジル)ピペリジン、N−ビニルイミダゾールおよびその4級アンモニウム塩、2−メチル−1−ビニルイミダゾールおよびその4級アンモニウム塩、N−ビニルピロリドンおよびその4級アンモニウム塩、N,N’−ジビニルエチレン尿素およびその4級アンモニウム塩、α−,またはβ−ビニルピリジンおよびその4級アンモニウム塩、α−,またはβ−ビニルピペリジンおよびその4級アンモニウム塩、2−,または4−ビニルキノリンおよびその4級アンモニウム塩等が例示される。特に、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドのメチルクロライド4級化合物が好ましく用いられる。
【0017】
主モノマー(M)と3級アミノ基および/または4級アンモニウム塩基含有モノマーを含む副モノマー(N)の共重合割合は、得られる共重合高分子化合物が感温点を境にして疎水性から親水性へ変化する温度応答性を呈する範囲の中で決められる。
本発明に用いる高分子化合物(A)中の3級アミノ基および/または4級アンモニウム塩基含有副モノマー(N)単位の含有率は、上記条件の範囲の中で決められるが、塗工液調製の容易さの観点から0.01質量%以上が好ましく、成膜性の観点から50質量%以下が好ましい。更に好ましくは0.1〜30質量%である。
さらに、太陽光または蛍光灯の光に印刷物を曝しておいた場合に生じる退色の度合いの観点から、3級アミノ基含有モノマーよりも4級アンモニウム塩基含有副モノマー(N)を使用する方がより好ましい。
さらに、3級アミノ基および/または4級アンモニウム塩基含有副モノマー(N)および、前記アニオン基含有副モノマー(N)を共に含有することは、前述の該塗工液調製の容易さ、および本発明の高分子エマルジョンを用いて得られる塗工層の成膜性、の両方の観点から好ましく、特に該アニオン基含有副モノマー(N)がアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有副モノマー(N)を用いることは好ましい。
【0018】
本発明に用いる高分子化合物(A)のガラス転移点は60〜150℃が好ましい。前述のように鏡面ドラムの温度は該ガラス温度未満であることが好ましく、該鏡面ドラムの温度は製造の効率観点から60℃以上であることが好ましいことから、前述のガラス温度は60℃を超える温度が好ましい。また、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙の表面のマイクロクラック抑制の観点から該ガラス感温点は130℃以下が好ましい。該ガラス感温点は、より好ましくは、70〜140℃であり、さらに好ましくは80〜130℃である。ガラス転移点は、例えば使用するモノマーの種類や、得られる高分子化合物(A)の架橋度合いにより調整することができる。
逆に、該キャスト塗工層の鏡面ドラム表面への圧接時、ドラムの表面温度を高くすると、前記塗工層の乾燥工程で成膜が進行し、結果的にキャスト塗工層表面の多孔性が阻害され、インクジェット記録時のインクの吸収を低下させる傾向がある。特にガラス転移点を20℃以上超えないことが好ましい。
本発明に用いる高分子エマルジョンを製造するに際しては、高分子化合物(A)の感温点を超える温度領域において重合反応を行うことが好ましい。該温度領域において高分子化合物(A)は疎水性を示しエマルジョンを形成することから、該温度領域において、広く知られている高分子エマルジョンの製造技術を用いることによって本発明に用いる高分子エマルジョンが得られる。具体的には、水に界面活性剤を溶解し、前記主モノマー(M)、副モノマー(N)等共重合モノマー成分を加えて乳化させ、ラジカル重合開始剤を加えて一括仕込みによる反応により乳化重合を行う方法のほか、連続滴下、分割添加などの方法により反応系に上記共重合成分や、ラジカル重合開始剤を供給する方法が挙げられる。
【0019】
本発明に用いる高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンを製造するにおいては、界面活性剤を利用することが好ましい。
本発明に用いる高分子エマルジョンは、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性の何れであっても良い。
高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンがアニオン性の場合には、アニオン性界面活性剤および/または非イオン性界面活性剤を使用する。例えば、アニオン性界面活性剤としては脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、p−スチレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ホルマリン重縮合物、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、ナフテン酸塩等、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、α−オレフィンスルホ ン酸塩、N−アシルメチルタウリン、アルキルエーテル硫酸塩、第二級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンプロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
また高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンがカチオン性の場合には、カチオン性界面活性剤および/または非イオン性界面活性剤を使用する。例えば、カチオン性界面活性剤としては、ラウリルアミン塩酸塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルアンモニウムヒドロキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられ、非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンプロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0020】
高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンが非イオン性である場合には、非イオン性界面活性剤を使用する。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンプロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンが両性の場合には、両性界面活性剤を使用することが高分子エマルジョンのpHの変化に対する安定性の観点から好ましいが、本発明の塗工液中で該高分子エマルジョンがカチオン性を示す場合にはカチオン性界面活性剤を使用する事ができ、本発明の塗工液中で該高分子エマルジョンがアニオン性を示す場合にはアニオン性界面活性剤を使用する事ができる。 両性界面活性剤としては、例えばカルボキシベタイン型、アミノカルボン酸塩、レシチン等が挙げられる。
これらの界面活性剤の使用量としては、高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンの樹脂固形分100質量部に対して0.05〜50質量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜30質量部である。
本発明においては、前記界面活性剤を1種単独で使用することもできるし、また その2種以上を併用することもできる。
【0021】
本発明に用いる高分子エマルジョン重合時に「反応性基を有する界面活性剤」を使用するとによって非反応性の界面活性剤の使用量を減らすことは、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙に印刷した画像の耐水性の観点から好ましい。反応性基を有する界面活性剤は、一般に反応性界面活性剤と称され、分子中に疎水基、親水基および反応性基を有する化合物を挙げることができる。該反応性基としては、例えば、(メタ)アリル基、1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、イソプロペニル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の炭素-炭素二重結合を有する官能基が挙げられる。
アニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えばスルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、カルボン酸塩基、燐酸塩基等の構造を含有するものが挙げられ、スルホン酸塩基を有するビニルモノマーとして、例えばアリルスルホン酸、2-メチルアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-ビニルベンゼンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の各種のスルホン酸基含有ビニルモノマー類を各種の塩基性化合物により中和することにより得られるもの等が挙げられる。該塩基性化合物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエチルアルコール、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロキサイド等が挙げられる。硫酸エステル塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばアリルアルコールの硫酸エステル等の硫酸エステル基を含有するビニルモノマー類を、前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるもの等が挙げられる。燐酸塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばモノ{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート等の燐酸基含有ビニルモノマー類を、前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるものなどが挙げられる。アリル基(
CH=C(−R)−CH-)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸エステル塩等が挙げられ、市販品としては、「アデカリアソープSE-10N」シリーズ(商標:旭電化工業(株)製)、「エレミノールJS-2」(商標:三洋化成工業(株)製)、「ラテムルS-180もしくはS-180A」(商標:花王(株)製)、「H3390A」および「H3390B」(商標:第一工業製薬(株)製)等がある。(メタ)アクリロイル基(CH=C(−R)−C(=O)−O-)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては例えば、市販品として、「エレミノールRS-30」シリーズ(商標:三洋化成工業(株)製)、「Antox MS-60」シリーズ(商標:日本乳化剤(株)製)等が挙げられる。プロペニル基(CH3-CH=CH-)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩等が挙げられ、市販品としては「アクアロンHS-10」シリーズおよび「アクアロンBC」シリーズ(商標:第一工業製薬(株)製)等がある。
【0022】
カチオン性を有する反応性界面活性剤としては、アミン塩基等カチオン性を有する構造を含有するカチオン性ビニルモノマー類等が挙げられる。アミン塩基を有するビニルモノマーとしては、例えばアリルアミン、N,N-ジメチルアリルアミン、N,N-ジエチルアリルアミン、N,N-ジエチルアミノプロピルビニルエーテルのアミノ基含有ビニルモノマー類を、各種酸性化合物により中和することによりえられるもの等が挙げられる。該酸性化合物としては、例えば塩酸、蟻酸、酢酸、ラウリル酸等が挙げられる。カチオン性を有する反応性界面活性剤の市販品として、「RF-751」(商標:日本乳化剤(株)製)や「ブレンマーQA」(商標:日本油脂(株)製)等が挙げられる。
非イオン性の反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体ような各種のポリエーテル鎖を側鎖に有するビニルエーテル類、アリルエーテル類もしくは(メタ)アクリル酸エステル類のモノマー類などが挙げられる。アリル基(CH=C(−R)−CH-)(ただしRはアルキル基)を含有する非イオン性の反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルが挙げられ、市販品としては、「アデカリアソープNE」シリーズ(旭電化工業(株)製)等がある。(メタ)アクリロイル基(CH=C(−R)−C(=O)−O-)(ただしRはアルキル基)を含有する非イオン性の反応性界面活性剤としては市販品として、「RMA-560」シリーズ(日本乳化剤(株)製)、「ブレンマーPE」シリーズ(日本油脂(株)製)等が挙げられる。プロペニル基(CH-CH=CH-)を含有する非イオン性の反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルが挙げられ、市販品としては、「アクアロンRNシリーズ」(第一工業製薬(株)製)等がある。
これらの反応性界面活性剤の使用量としては、高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョン樹脂固形分100質量部に対して0.05〜100質量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜50質量部である。
【0023】
本発明においては、前記反応性界面活性剤を1種単独で使用することもできるし、また
その2種以上を併用することもでき、さらには、前記反応性を有しない界面活性剤と併用することもできる。
インクジェット記録ではアニオン基を有する染料インクを用いることは、多くの場合、カチオン基を有する染料インクと比較して光耐久性が高いため好ましい。そのため当該アニオン基を有する染料インクを定着させる目的でカチオン性樹脂やカチオン性粒子などカチオン性の化合物をインクジェット記録用キャスト塗工紙製造用塗工液に添加することが好ましく、該塗工液調製の容易さの観点から高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンにカチオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤を使用することはより好ましい。
本発明に用いる高分子エマルジョン粒子の平均粒子径は、塗工層の成膜性と高分子エマルジョンの製造効率などの観点から、10〜600nmのものが好ましく、さらに好ましくは30〜300nmである。さらに、塗工層の透明性、発色性の観点も鑑みれば、30〜150nmであることが特に好ましい。ここで言う平均粒子径とは、高分子化合物(A)が疎水性を示す温度領域において動的光散乱法により測定される高分子エマルジョンの数平均粒子径である。
【0024】
塗工前の塗工液中において、高分子エマルジョンが粒子(B)よりなるコア部と、高分子化合物(A)を含有するシェル部とによって形成された粒子を含有することは、成膜性の観点から好ましい。コア部を形成する粒子(B)は有機高分子化合物であっても良いし、無機微粒子であっても良いが、最終的に得られる塗工膜の柔軟性の観点からは有機高分子化合物がより好ましく、最終的に得られる塗工膜の空隙容量の大きさ、インク吸収性等の観点からは無機微粒子がより好ましい。
粒子(B)よりなるコア部と、該コア部の周囲に高分子化合物(A)を含有するシェル部とによって形成された高分子エマルジョンは、コア部となる粒子(B)を第一段階の反応で合成した後、または別途用意されたコア部となる粒子(B)を反応系に仕込むなどの後、前述の高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンの合成方法と同様の反応によって製造することができる。本発明において、粒子(B)は、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性の何れであっても良いが、前述の様に高分子化合物(A)がカチオン性で有ることはより好ましいことから、該高分子化合物(A)をシェル部に含有する高分子エマルジョンを重合する場合には、重合安定性の観点から粒子(B)はカチオン性であることがより好ましい。
粒子(B)よりなるコア部と、高分子化合物(A)を含有するシェル部との比率(コア/シェル比(質量比))は、成膜性、得られる塗工層の塗膜強度とインク吸収性などの観点から1/10〜10/1の範囲が好ましい。
粒子(B)が有機高分子化合物である場合、例えば、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢ビ系、シリコーン系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系等の共重合体、三次元架橋樹脂などが挙げられ、シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリルシリコーン、エポキシ−アクリル系等の変性共重合体も含まれ、これらの一種または二種以上を含有することができる。ここで、(メタ)アクリレート系とはメタアクリレート系(またはメタクリレート系)またはアクリレート系を簡便に表記したものである。特に、ポリ(メタ)アクリレート系(アクリル系高分子化合物)または/およびポリスチレン−(メタ)アクリレート系(スチレン−アクリル系高分子化合物)に分類される有機高分子化合物が、最終的に得られる塗工層の透明性や耐光黄変性、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙の保存性などの観点から、好ましく用いられる。
【0025】
有機高分子化合物である場合の粒子(B)は高分子エマルジョンとして得られることが好ましく、広く知られている高分子エマルジョンの製造技術を用いることによって得られ、具体的には、水性溶媒に前述の界面活性剤を溶解し、後述するモノマー成分を加えて乳化させ、ラジカル重合開始剤を加えて一括仕込みによる反応により乳化重合を行う方法のほか、連続滴下、分割添加などの方法により反応系に上記重合成分や、ラジカル重合開始剤を供給する方法が挙げられる。
有機高分子化合物である場合の粒子(B)を得るためのモノマー(モノマー(L))としてはエチレン性不飽和モノマーの1種または2種以上のものを組み合わせて用いることが出来、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド系モノマー、シアン化ビニル類等が挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル
部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。プロピレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール等が挙げられる。エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド系モノマー類としては、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどがあり、シアン化ビニル類としては、例えば(メタ)アクリロニトリルなどがある。また上記以外の具体例としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、ブタジエン等のジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル等のカルボン酸イソプロペニルエステル類、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン誘導体、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリル等のアリルエステル類、アリルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルエーテル等のアリルエーテル類、さらにγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2,3−シクロヘキセンオキサイド、(メタ)アクリル酸アリル、メタクリル酸アシッドホスホオキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、ジビニルベンゼン、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸
、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリルとはメタアクリル(またはメタクリル)またはアクリルを簡便に表記したものである。
【0026】
本発明に用いる高分子エマルジョンを用いて得られる塗工層の成膜性の観点から、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマーなどのアニオン基含有モノマーを用いることは好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマーを用いることは好ましい。
有機高分子化合物である場合の粒子(B)のガラス転移点は、−50〜150℃が好ましい。本発明の高分子エマルジョンの重合時の粒子安定性(粗大粒子形成抑制)の観点からは−50〜60℃が好ましく、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙のインク吸収性を重視する場合には60〜150℃が好ましい。ガラス転移点は、例えば使用するモノマーの種類や、得られる高分子化合物(A)の架橋度合いにより調整することができる。
有機高分子化合物である場合の粒子(B)の数平均粒子径は、塗工層の成膜性と高分子エマルジョンの製造効率などの観点から3〜150nmのものが好ましく用いられ、10〜100nmのものがさらに好ましい。ただし、本発明の塗工液をインクジェット記録用キャスト塗工紙製造に使用する場合には、インク吸収層の透明性、発色性と高分子エマルジョンの製造効率などの観点から、3〜100nmのものが好ましく用いられ、さらに好ましくは5〜70nmであり、最も好ましくは10〜50nmである。ここで言う数平均粒子径とは、動的光散乱法により測定される数平均粒子径である。
【0027】
コア部を形成する粒子(B)が無機微粒子である場合、粒子(B)としては例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、乾式シリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト系アルミナ、水酸化アルミニウム、ゼオライト、水酸化マグネシウム、その他にジルコニウム、チタン、タンタル、ニオブ、スズ、タングステンなどの金属酸化物、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、タングステンなどの金属リン酸塩などが挙げられ、該無機質の一部を他の元素に置換した物や、有機物で修飾することにより表面を改質した物も用いることができる。これら無機微粒子のうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を使用することもできるが、特に、粒子(B)としてコロイダルシリカ、乾式シリカを使用することは好ましい。コロイダルシリカ、乾式シリカを使用することにより、得られるキャスト塗工紙に印刷したとき良好な画質が得られることから好ましい。コロイダルシリカとしては、通常のアニオン性のコロイダルシリカ、アルミニウムイオン等の多価金属化合物を反応するなどの方法で得られるカチオン性コロイダルシリカが用いられる。乾式シリカとしては、四塩化ケイ素を水素および酸素で燃焼して合成される気相法シリカが好ましく用いられる。乾式法シリカはそのまま用いても良いし、表面をシランカップリング剤他で修飾した物でも良い。
また、粒子(B)としてアルミナゾル、擬ベーマイト系アルミナ微粒子を使用することは好ましい。アルミナゾル、擬ベーマイト系アルミナ微粒子を使用することにより、容易
にカチオン性の高分子エマルジョンを得ることができ、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙に印刷したときの画質が向上し、画像に耐水性を付与することができる。
該コア部を形成する粒子(B)は、一次粒子のまま用いてもよいし、二次粒子を形成した状態で用いることもできる。また、コア部を形成する粒子(B)の粒子径は、平滑な表面を持つキャスト塗工紙を得るため、好ましくは、数平均粒子径が500nm以下のものが用いられ、より好ましくは100nm以下のものが用いられ、更に好ましくは50nm以下のものが用いられる。さらには、本発明の塗工液をインクジェット記録用キャスト塗工紙製造に使用する場合、印刷後の印刷部の光学濃度(色濃度)を高くし、銀塩写真にも似た光沢を得る目的においては一次粒子の数平均粒子径が100nm以下のコア部を形成する粒子(B)が好ましく用いられ、より好ましくは50nm以下のものが用いられる。コア部を形成する粒子(B)の粒子径の下限は、生産性の観点からおよそ3nm以上の数平均粒子径であることが望ましい。
【0028】
本発明において、前述のように塗工液粘度の調整や得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙表面のインクの濡れ性を向上させるなどの観点から水溶性ポリマーを塗工液に含有させることができる。
本発明に用いる水溶性ポリマーとしては、例えばゼラチンまたはゼラチン誘導体、ポリビニルピロリドン、プルラン、ポリビニルアルコールまたはその誘導体、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、ポリアクリル酸およびその塩、寒天、κ-カラギーナン、λ-カラギーナン、ι-カラギーナン、キサンテンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アラビアゴム、プルラン、例えば特開平7-195826号公報および同7-9757号公報に記載のポリアルキレンオキサイド系共重合性ポリマー、水溶性ポリビニルブチラール、あるいは、例えば特開昭62-245260号公報に記載のカルボキシル基やスルホン酸基を有するビニルモノマーの単独またはこれらのビニルモノマー単位を繰り返して有する共重合体等のポリマーを挙げることができる。これらの水溶性ポリマーは単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
好ましい水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコールまたはその誘導体、ゼラチンまたはゼラチン誘導体であり、特に好ましくはポリビニルアルコールである。
【0029】
本発明で好ましく用いられるポリビニルアルコールは平均重合度が300〜4000のものが好ましく用いられ、特に平均重合度が1000以上のものが塗工時の増粘性が良好であることや、得られる塗工層の膜強度が良好であることなどから好ましい。また、ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100%のものが好ましく、80〜100%のものが特に好ましい。
ポリビニルアルコールを用いる場合、後述の微粒子(C)として乾式シリカを用いることが特に好ましい。ポリビニルアルコールは、その構造単位に水酸基を有するが、この水酸基とシリカ微粒子表面のシラノール基とが水素結合を形成して、シリカ微粒子の二次粒子を鎖単位とする三次元網目構造を形成しやすくする。上記三次元網目構造の形成によって、空隙率の高い多孔質構造を形成しインク吸収性の良好な塗工層を得ることができる。さらに、塗工直後の冷却による増粘性もポリビニルアルコールの水酸基とシリカ微粒子表面のシラノール基とが水素結合を形成することにより良好となる。
前記水溶性ポリマーと前記微粒子(C)の比率は、質量比で1:15〜1:1であり、好ましくは1:10〜1:2の範囲である。
【0030】
本発明のインクジェット記録用キャスト塗工紙は、塗工層の高い空隙率を保持し得ると言った観点から、前記水溶性ポリマーが硬膜剤により硬膜されていることが好ましい。
硬膜剤は、一般的には前記水溶性ポリマーと反応し得る基を有する化合物あるいは水溶性ポリマーが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、水溶性ポリマーの種類に応じて適宜選択して用いられる。
硬膜剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬膜剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ジグリシジルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジルー4-グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬膜剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬膜剤(2,4-ジクロロ-4-ヒドロキシ-1,3,5-s-トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5-トリスアクリロイル-ヘキサヒドロ-s-トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、ホウ酸およびその塩、ホウ砂、アルミ明礬等が挙げられる。
特に好ましい水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコールを使用する場合には、塗工層の塗膜強度の観点から、ホウ酸およびその塩および/またはエポキシ系硬膜剤から選ばれる少なくとも1種の硬膜剤を使用するのが好ましく、塗工直後の塗工液増粘性(ゲル化)の観点も加味すればホウ酸および/またはホウ砂がもっとも好ましい。
【0031】
上記硬膜剤の使用量は水溶性ポリマーの種類、硬膜剤の種類、無機微粒子の種類や水溶性ポリマーに対する比率等により変化するが、概ね水溶性ポリマー1g当たり1〜200mg,好ましくは5〜100mgである。
上記水溶性ポリマーとしてゼラチンを用いる場合には、ゼラチンの硬膜剤として知られている下記化合物を用いることができる。例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタールアルデヒド等のアルデヒド系化合物、ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン系化合物、ビス(2-クロロエチル尿素)-2-ヒドロキシ-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジクロロ-6-S-トリアジン・ナトリウム塩等の活性ハロゲン化合物、ジビニルスルホン酸、1,3-ビニルスルホニル-2-プロパノール、N,N’-エチレンビス(ビニルスルホニルアセタミド)、1,3,5-トリアクリロイル-ヘキサヒドロ-S-トリアジン等の活性ビニル化合物、ジメチロ-ル尿素、メチロールジメチルヒダントイン等のN-メチロール化合物、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物、例えば米国特許第3017280号明細書、同第2983611号明細書等に記載のアジリジン系化合物、例えば米国特許第3100704号明細書等に記載のカルボキシイミド系化合物、グリセロールトリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物、1,6-ヘキサメチレン-N,N’-ビスエチレン尿素等のエチレンイミノ系化合物、ムコクロル酸、ムコフェノキシクロル酸等のハロゲン化カルボキシアルデヒド系化合物、2,3-ジヒドロキシジオキサン等のジオキサン系化合物、クロム明ばん、カリ明ばん、硫酸ジルコニウム、酢酸クロム等である。尚、上記硬膜剤は、一種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
上記硬膜剤は、硬膜剤を水および/または有機溶剤に溶解して使用することが塗工液の調製のしやすさ、安定性などの観点から好ましい。硬膜剤溶液中の硬膜剤の濃度としては、硬膜剤溶液の全質量に対して、0.05〜20質量%が好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。硬膜剤溶液を構成する溶媒としては、一般に水が使用され、該水と混和性を有する有機溶媒を含む水系混合溶媒であってもよい。上記有機溶剤としては、硬膜剤が溶解するものであれば任意に使用することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、グリセリン等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;トルエン等の芳香族溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル、およびジクロロメタン等のハロゲン化炭素系溶剤等を挙げることができる。
【0032】
高分子化合物(A)を重合する際、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体の共存下に重合することは、最終的に得られる記録媒体の塗工層の成膜性、成膜強度の観点から好ましい。
本発明の高分子化合物(A)の重合に用いるポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアルコールとしては一般に完全ケン化型ポリビニルアルコールと呼ばれるケン化度96%〜100%のポリビニルアルコール、一般に部分
ケン化型ポリビニルアルコールと呼ばれるケン化度76%〜95%のポリビニルアルコール等が挙げられ、ポリビニルアルコール誘導体としてはシラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変成ポリビニルアルコール、メルカプト基含有ポリビニルアルコール、ケト基含有ポリビニルアルコール等が挙げられる。ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルアルコール誘導体は1種でも良いし複数の種類を混合して用いても良い。該ポリビニルアルコールおよびポリビニルアルコール誘導体の重合度は、重合度300〜4000のものが好ましく用いられる。
主モノマー(M)と副モノマー(N)、ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルアルコール誘導体の使用割合は、得られる高分子化合物(A)が温度応答性を呈する範囲の中で決められ、高分子化合物(A)中のポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体の含有率は、最終的に得られるインクジェト用記録用キャスト塗工紙の塗工膜の耐水性の観点から、0.1〜50質量%が好ましく用いられ、更に好ましくは0.5〜20質量%である。
ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体の共存下に重合することによって得られた高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンを用いる場合、最終的に得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙の塗工層の成膜性、成膜強度の観点から、塗工液にポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体を架橋し得る架橋剤を添加するのが好ましい。
【0033】
架橋剤としては、架橋反応が迅速である点から、ホウ素化合物が好ましく、例えば、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩(例えば、オルトホウ酸塩、InBO、ScBO、YBO、LaBO、Mg(BO、Co(BO、二ホウ酸塩(例えば、Mg、Co)、メタホウ酸塩(例えば、LiBO、Ca(BO、NaBO、KBO)、四ホウ酸塩(例えば、Na・10HO)、五ホウ酸塩(例えば、KB・4HO、Ca11・7HO、CsB)、グリオキザール、メラミン・ホルムアルデヒド(例えば、メチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン)、メチロール尿素、レゾール樹脂、ポリイソシアネート、エポキシ樹脂等を挙げることができる。中でも、速やかに架橋反応を起こす点で、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩が好ましい。
ホウ酸またはその塩の使用量は、塗工液中の他の成分、例えば無機微粒子やポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体の濃度、pH等により広範な中から選ばれるが、ポリビニルアルコールに対して概ね1〜60質量%であるのが好ましく、また5〜40質量%が更に好ましい。
また、前記ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体以外にもポリビニルアセタール、セルロース系樹脂(メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、キチン類、キトサン類、デンプン、エーテル結合を有する樹脂であるポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルエーテル、アミド基またはアミド結合を有する樹脂であるポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類などの水溶性樹脂を用いることもできるが、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール誘導体がもっとも好ましく用いられる。
【0034】
本発明に用いる高分子エマルジョンを架橋し得る架橋剤をインクジェット記録用キャスト塗工紙用塗工液に含有させることはインクジェット記録用キャスト塗工紙の塗工層の塗膜強度および耐水性の観点から好ましい。
特に、塗工前の塗工液中では架橋反応は進行せず、塗工後架橋反応が進行することが工業的に望ましい。該反応としてカルボニル基とヒドラジン基またはセミカルバジド基との反応が好ましい。即ち、カルボニル基をもつ高分子エマルジョンを重合し、ヒドラジン基および/またはセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体を架橋剤として用いることが好ましい。
カルボニル基は高分子化合物(A)に含有させることもできるし、粒子(B)に含有させることもできる。カルボニル基を含有する高分子化合物(A)は例えば、主モノマー(M)と、カルボニル基を含有するモノマーを含む副モノマー(N)とを共重合させて得られる。主モノマー(M)、カルボニル基を含有するモノマーを含む副モノマー(N)は各々1種または2種以上のものを組み合わせて用いることも出来る。主モノマー(M)とカルボニル基含有モノマーを含む副モノマー(N)との共重合割合は、得られる共重合高分子化合物が感温点を境にして疎水性から親水性へ変化する温度応答性を呈する範囲の中で決められる。
高分子化合物(A)中のカルボニル基含有モノマー単位の含有率は、成膜性の観点から0.01〜50質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜20質量%である。
カルボニル基を含有する粒子(B)は例えば、粒子(B)が有機高分子化合物よりなる場合には、前述の有機高分子化合物である場合の粒子(B)を得るためのモノマーとカルボニル基を含有するモノマーとを共重合して得られる。前述の有機高分子化合物である場合の粒子(B)を得るためのモノマーとカルボニル基を含有するモノマーは各々1種または2種以上のものを組み合わせて用いることも出来る。粒子(B)中のカルボニル基含有モノマー単位の含有率は、成膜性の観点から0.01〜50質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜20質量%である。
【0035】
カルボニル基含有モノマーとしては、モノマー中にケト基またはアルド基を含む構造を有するものであれば特に制限されないが、例えばアクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ダイアセトンアクリレート、ダイアセトンメタクリレート、アセトニトリルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテート等が例示される。
本発明に用いる高分子エマルジョンがカルボニル基を含有する場合、インクジェット記録用キャスト塗工紙製造に使用する塗工液に、架橋剤として少なくとも2個のヒドラジン基および/またはセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体を用いることが、得られる塗膜の耐水性や強度などの観点から好ましい。該ヒドラジン誘導体を、本発明に用いる高分子エマルジョンを含有する塗工液に添加、混合し、塗布、乾燥することによりカルボニル基部位がヒドラジン誘導体によって架橋された分子構造を持つ化合物を含有する塗工層を得ることができる。ヒドラジン誘導体としては少なくとも2個のヒドラジン基および/またはセミカルバジド基を有する化合物で有れば特に限定されないが、これらの内、ヒドラジン基を有する化合物としては、例えばカルボヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、水加ヒドラジンなどが例示され、セミカルバジド基を有する化合物としては、例えばポリイソシアネート化合物と該ヒドラジン化合物の反応により得られる生成物が例示される。該ヒドラジン誘導体としては、セミカルバジド基を有する化合物が、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙の耐水性が高く好ましい。該ヒドラジン誘導体の含有量は特に限定されないが得られた高分子エマルジョン中のカルボニル基含有モノマー単位に対して0.01〜10倍モル量が好ましく用いられる。
【0036】
本発明に用いる高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンにエチルアルコールなどのアルコール類を添加することで感温点を低下させることが出来る。即ち、感温点が室温あるいは外気温以上である場合、アルコール類を添加することで室温あるいは外気温以下の温度で高分子化合物(A)をエマルジョンの状態に保つことが出来、高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンの輸送および貯蔵を極めて容易に且つ経済的に行うことが出
来、好ましい。アルコール類としては、例えば、エチルアルコール、メチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられるが、効果の面からメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましく用いられる。これらアルコール類は単独で用いることもでき、二種類以上を組み合わせて用いることもできる。アルコール類の添加量はエタノールの場合、高分子エマルジョン中の水100質量部に対し通常5質量部乃至200質量部添加することが好ましい。該高分子エマルジョンは塗工液調製の際、各種添加剤と混合することによって塗工液中のアルコール類の濃度は低くなり、該塗工液の感温点はアルコール類を添加する前の温度近くまで戻り、良好な粘度挙動を示すことができる。
本発明の塗工液は、高分子化合物(A)の感温点を超える温度にて調製、使用することが好ましい。即ち、該塗工液は該感温点を超える温度では、比較的低粘度であるが、該塗工液を該感温点以下の温度に冷却することによって該塗工液は急激に増粘(またはゲル化)する。
【0037】
本発明におけるγ−アルミナは、アルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解などの公知の方法により製造したベーマイトもしくは擬ベーマイトを400〜600℃で焼成して製造したものであり、γ型の結晶形態を有する酸化アルミニウム微粒子で構成することができる。このγ型結晶形態の酸化アルミニウム微粒子は、一次粒子の平均粒子径10〜20nmであるが、一般に、二次凝集して数十nmから数百nm程度まで粒子径が大きくなる。このように大きな粒子径を持つγ−アルミナを用いてインク受容層を形成すると、インクの吸収性は良好であるが、インク受容層の透明性が低くて白色光の散乱が大きく、色味が悪くなる。そこで、大きな二次凝集体を形成しているγ−アルミナ粒子をボールミル、サンドミル、超音波ホモジナイザー、高圧式ホモジナイザー、ナノマイザー等の粉砕手段によって、平均粒子径を小さくして使用する。粉砕手段としては、超音波ホモジナイザーや高圧式ホモジナイザー、ナノマイザーを用いた粉砕方法が好ましい。ボールミル、サンドミル等の粉砕方法では、γ−アルミナが高硬度の結晶であるために分散メディアの破砕、摩耗により異物が混入して透明性悪化の原因となるからである。γ−アルミナの平均粒子径の調整は基材の風合い、光沢性を活かすように適宜選択する必要がある。基材に光沢性、透明性が要求される場合には、平均粒子径を小さく粉砕するだけでなく、更に遠心分離法や濾過法を併用することにより(特に、ボールミル、サンドミルを粉砕手段として用いた場合には必要)、大きい粒子を除去したγ−アルミナ分散液を使用する必要がある。逆に、光沢感を出したくない場合には、γ−アルミナを特に粉砕手段を用いて粉砕せずに、分散させただけで使用することもできる。
本発明において用いられる前記物性を有する具体的かつ好ましい物質としては、粒子径6〜20nmを有する細孔容積の和が0.2〜1.5ml/gを有するγ−アルミナが挙げられる。前記物性は、γ−アルミナの細孔の分布はカンタクロム社製オートソーブ−1を用い、窒素により測定した値を用いた。
このような具体例としては、例えば特開2000−256974号公報に記載の方法で得られるγ−アルミナ、さらに具体的には住友化学工業(株)から市販されている商品名AKP−G015などが挙げられる。
【0038】
本発明の塗工液において微粒子(C)を含有させることは、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙のインク吸収性の観点から好ましい。微粒子(C)は有機化合物であっても良く、無機化合物であっても良い。
微粒子(C)に対するγ−アルミナの割合は、γ−アルミナの効果発現の観点から少なくとも微粒子(C)の10質量%以上含有させることが好ましい。
本発明の塗工液の高分子化合物(A)を含有する高分子エマルジョンと、γ−アルミナと微粒子(C)との合計の比率は、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙のイン
ク吸収性と成膜性の観点から、乾燥質量比で100:5〜100:40であり、好ましくは100:10〜100:25である。
微粒子(C)としては、例えばカオリン、クレー、タルク、二酸化チタン、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、乾式シリカ、ゼオライト、その他にジルコニウム、チタン、タンタル、ニオブ、スズ、タングステンなどの金属酸化物、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、タングステンなどの金属リン酸塩などが挙げられ、該無機化合物の一部を他の元素に置換した物や、有機物で修飾することにより表面を改質した物も用いることができる。これら無機微粒子のうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を使用することもできる。
微粒子(C)としてコロイダルシリカ、乾式シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、カオリンを使用することは、得られる記録媒体に印刷したときの画質が向上し、より高い光沢を付与することができ好ましく、コロイダルシリカ、乾式シリカ、珪酸アルミニウムを使用することは特に好ましい。その原因は明らかではないが、該好ましい微粒子(C)を用いた場合、塗工液を感温点以上の温度で調製した後、感温点以下の温度まで冷却することにより粘度が増加するが、再度加熱した場合、粘度がより下がりにくい現象と関連していると推定している。即ち、本発明のインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法において、冷却によって形成した微粒子(C)表面と高分子化合物(A)との間に生じる相互作用が、加熱された鏡面ドラム表面との圧接により温度が上昇しても該相互作用を保持できるためであろうと考えられる。
【0039】
コロイダルシリカとしては、通常のアニオン性のコロイダルシリカ、アルミニウムイオン等の多価金属化合物を反応するなどの方法で得られるカチオン性コロイダルシリカが用いられる。乾式シリカとしては、四塩化ケイ素を水素および酸素で燃焼して合成される気相法シリカが好ましく用いられる。乾式法シリカはそのまま用いても良いし、表面をシランカップリング剤他で修飾した物でも良い。
本発明に用いる微粒子(C)は、一次粒子のまま用いてもよいし、二次粒子を形成した状態で用いることもできる。また、微粒子(C)の粒子径はいかなるものも用いることができるが、平滑な表面を持つインクジェット記録用キャスト塗工紙を得るため、通常、数平均粒子径が10μm以下のものが用いられ、好ましくは1μm以下のものが用いられる。さらには、インクジェット記録用キャスト塗工紙の製造に際しては、印刷後の印刷部の光学濃度(色濃度)を高くし、銀塩写真にも似た光沢を得る目的においては一次粒子の数平均粒子径が200nm以下の微粒子(C)が好ましく用いられ、より好ましくは数平均粒子径が100nm以下のものが用いられ、さらに好ましくは50nm以下のものが用いられる。
微粒子(C)の粒子径の下限は、微粒子(C)の製造効率の観点からおよそ3nm以上の数平均粒子径であることが望ましい。ここで言う数平均粒子径とは、動的光散乱法により測定される数平均粒子径である。
【0040】
さらに、微粒子(C)として、金属源として金属酸化物および/またはその前駆体を用い、金属源とテンプレートと水を混合反応させ複合体を製造する工程を経て製造された多孔性物質を使用することは得られる塗工層のインク吸収性の観点から好ましい。さらに、微粒子(C)として、金属源として金属酸化物および/またはその前駆体を用い、(ア)金属源とテンプレートと水を混合反応させ複合体を製造する工程と、(イ)該複合体からテンプレートを除去する工程とを経て製造され、動的光散乱法によって測定される数平均粒子径DLから求めた換算比表面積SLとBET法による窒素吸着比表面積SBとの差(SB−SL)が250m2/g以上の多孔性物質を使用することは得られる塗工層のインク吸収性の観点から特に好ましい。ここで「多孔性」とは、窒素吸着法で求めた細孔分布において細孔を有することを意味する。動的光散乱法によって測定される平均粒子径DLから計算される換算比表面積SL(m2/g)は、粒子が球状であると仮定し、SL=6
×103/(密度(g/cm3)×DL(nm))により求められる。この値と、BET法による窒素吸着比表面積SBとの差(SB−SL)が250m2/g以上であるということは、粒子がきわめて多孔性であることを示しており、該多孔性物質をインクジェット記録用キャスト塗工紙製造に使用することはインク吸収性の観点から特に好ましい。
該多孔性物質の粒子径は、平滑な表面を持つインクジェット記録用キャスト塗工紙を得るため、通常、DLが10μm以下のものが用いられ、好ましくは1μm以下のものが用いられる。さらには、インクジェット記録用キャスト塗工紙の製造に際しては、印刷後の印刷部の光学濃度(色濃度)を高くし、銀塩写真にも似た光沢を得る目的においてはDLが300nm以下の微粒子(C)が好ましく用いられ、より好ましくは150nm以下のものが用いられる。
該多孔性物質の粒子径の下限は、該多孔性物質の製造効率の観点からおよそ10nm以上の数平均粒子径であることが望ましい。
該多孔性物質の合成で用いられる金属源は金属酸化物および/またはその前駆体であり、金属種としては、例えばケイ素、2族のマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、3族のアルミニウム、ガリウム、希土類等、4族のチタン、ジルコニウム等、5族のリン、バナジウム、7族のマンガン、テルル等、8族の鉄、コバルト等が挙げられる。前駆体としては、これら金属の硝酸塩、塩酸塩等の無機塩、酢酸塩、ナフテン酸塩等の有機酸塩、アルキルアルミニウム等の有機金属塩、アルコキシド、水酸化物が挙げられるが、後述する合成方法によって合成できるものであればこれに限定されるものではない。
【0041】
本発明において好ましい金属としてケイ素が挙げられ、金属源として好ましくはテトラエトキシシラン等のアルコキシドや活性シリカを用いることができる。該活性シリカは、水ガラスから有機溶剤で抽出したり、水ガラスをイオン交換したりするなどして調製することができる。原料として安価な水ガラスを使用することは工業的利用の観点から好ましい。特に、水ガラスをH型カチオン交換体と接触させて調製する場合、Na含有量が少なく、安価である3号水ガラスを用いるのが工業的に好ましい。カチオン交換体としては、たとえばスルホン化ポリスチレンジビニルベンゼン系の強酸性交換樹脂(例えばローム&ハース社製、アンバーライトIR−120B:商品名)等が好ましい。
本発明に用いるテンプレートとしては、金属源となる化合物と相互作用を持つものが用いられ、非イオン性界面活性剤を用いる場合、該多孔性物質を製造する上で、後述するテンプレート除去工程において水または水と有機溶剤の混合溶媒を用い容易にテンプレートを除去でき好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、例えば構造式HO(CO)−(CO)−(CO)H(但し、a、cは10〜110を、bは30〜70をしめす)で示されるもの、または構造式R(OCHCH)OH(但し、Rは炭素数12〜20のアルキル基を、nは2〜30を示す)で示されるものが好ましい。具体的には、「プルロニックP103」、「プルロニックP123」、「プルロニックP85」(旭電化工業(株)製、界面活性剤:商品名)等やポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等を挙げることができる。
該多孔性物質の細孔径を変化させるために、有機助剤として、炭素数6〜20の芳香族炭化水素、炭素数5〜20の脂環式炭化水素、炭素数3〜16の脂肪族炭化水素およびこれらのアミンならびにハロゲン置換体、たとえば、トルエン、トリメチルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン等を加えることができる。
【0042】
以下に、該多孔性物質の製造方法を説明する。
金属源とテンプレートの反応は、たとえば、金属源を溶媒に溶解または分散したものと、テンプレートを溶媒に溶解または分散したものを撹拌混合したのち行わせることができるが、これに限定されるものではない。溶媒としては、水または水と有機溶剤の混合溶媒のいずれを用いてもよいが、有機溶剤としては、アルコール類が好ましい。アルコール類
としては、エタノールやメタノール等の低級アルコールが好ましい。
これらの反応に用いられる原材料の組成は、テンプレートと金属源、溶媒により異なるが、凝集や沈殿等が生じ、粒子径が大きくならない範囲を選ぶことが必要である。また、粒子の凝集や沈殿を防ぐためにNaOH等のアルカリや低分子ポリビニルアルコール等の安定化剤を加えてもよい。
【0043】
例えば、金属源として活性シリカを、テンプレートとして「プルロニックP103」を、溶媒として水を用いる場合は、次のような組成を用いることができる。P103/SiOの質量比として、好ましくは0.01〜30、より好ましくは0.1〜5の範囲が用いられる。有機助剤/P103の質量比は、好ましくは0.02〜100、より好ましくは0.05〜35である。反応時の水/P103の質量比としては、好ましくは10〜1000、より好ましくは20〜500の範囲が用いられる。安定化剤として、NaOHをNaOH/SiOの質量比として1×10-4〜0.15の範囲で加えてもよい。
該多孔性物質が、ケイ素とアルミニウムを含む場合、Al/Siの元素比として好ましくは0.003〜0.1であり、より好ましくは0.005〜0.05である。
反応は常温でも容易に進行するが、必要に応じて100℃までの加温下で行うこともできる。反応時間としては0.5〜100時間、好ましくは3〜50時間の範囲が用いられる。反応時のpHは好ましくは2〜13、より好ましくは4〜12の範囲で、pHの制御のためにNaOHなどのアルカリや塩酸、硫酸などの酸を加えてもよい。
該複合体を製造した後にアルミン酸アルカリ共存下で40〜95℃に加熱し、変性する工程を行うこともできる。複合体がケイ素を含む場合、この工程をおこなうことで、酸性にしたりカチオン性物質を添加したりしても安定で、長期間の保存にも耐えるゾルを製造することができる。用いるアルミン酸アルカリとしては、例えばアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸リチウム、アルミン酸第一アンモニウム、アルミン酸グアニジンなどを用いることができるが、アルミン酸ナトリウムが好ましい。該変性工程は、複合体からテンプレートを除去する前でも後でもかまわない。
【0044】
以下に、テンプレート除去前の場合を例に変性方法を説明する。複合体を製造した後、その反応溶液にアルミン酸アルカリ溶液を添加する。添加は、0〜80℃、好ましくは5〜40℃で撹拌しながら行う。添加するアルミン酸アルカリの濃度は特に限定されないが、1〜20質量%で用いるのが好ましい。添加する量は、Al/Siの元素比として好ましくは0.003〜0.1であり、より好ましくは0.005〜0.05である。添加後、40〜95℃で加熱するのが好ましく、60〜80℃で加熱するのがより好ましい。40℃以下の加熱は、ゾルを作成した際に、酸性にしたときにゲル化しやすく、十分な安定性が得られない。
次に、テンプレートの除去方法について説明する。得られた反応溶液にアルコール等の溶剤を加え限外ろ過装置などを用いて複合体からテンプレートを除去する事により多孔性物質が得られる。この際、粒子の凝集を防ぐためにNaOH等のアルカリや低分子ポリビニルアルコール等の安定化剤を加えてもよい。除去に用いる溶剤は、テンプレートを溶解するものであればよく、取り扱いが簡単で溶解力の高いアルコール類が好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが好ましい。除去温度は、用いる溶剤やテンプレートにより異なるが、20〜80℃が好ましい。除去されたテンプレートは溶剤を除くことで再利用することができる。また、得られた複合体を、ろ過等により濾別し、水洗、乾燥し、ついで含有しているテンプレートを超臨界流体やアルコール等の溶剤と接触させる、または焼成等の方法で除去することにより、多孔性物質を得てもよい。焼成温度は、テンプレートが消失する温度以上、概ね500℃以上で行う。焼成時間は、温度との関係で適宜設定されるが、30分〜6時間程度である。除去方法としては、溶剤と複合体を撹拌混合する方法や、複合体をカラム等に詰め溶剤を流通させる等の方法を取ることができる。
本発明の塗工液に使用する溶剤は特に限定されないがアルコール、ケトン、エステル等
の水溶性溶剤および/または水が好ましく使用される。更に、該塗工液中には必要に応じて顔料分散剤、増粘剤、流動調整剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、着色剤等を配合することができる。
【0045】
本発明に用いる高分子エマルジョンの塗工層中の含有量は、本発明に用いる高分子エマルジョンが含有される各々の塗工層において、成膜性および塗工液の冷却時の増粘性の観点から、該塗工層の固形分の1質量%以上が好ましく、塗工層のインク吸収性の観点から60質量%以下含有することが好ましく、2〜30質量%含有することが特に好ましい。
本発明において、インクジェット記録用キャスト塗工紙製造に際しては、カチオン性樹脂を含有することが好ましい。カチオン性樹脂を含有することにより印字部の耐水性が向上する。該カチオン性樹脂としてはカチオン性を示すものであれば特に限定されないが、第一アミン、第二アミン、第三アミン置換基およびこれらの塩、第4級アンモニウム塩置換基の少なくとも1種を含むものが好ましく用いられる。例えばジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物、アルキルアミン重合物、ポリアミンジシアン重合物、ポリアリルアミン塩酸塩などが上げられる。該カチオン性樹脂の分子量は特に限定されないが重量平均分子量1,000〜200,000の物が好ましく用いられる。カチオン性樹脂の使用量は特に限定されないが、高分子エマルジョンの樹脂固形分100質量部に対して、塗膜の耐水性の観点から0.1〜200質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましく用いられる。さらに、太陽光または蛍光灯の光に印刷物を曝しておいた場合に生じる退色の度合いの観点から、4級アンモニウム置換基のみを持つカチオン性樹脂の使用が好ましい。
【0046】
本発明において、インクジェット記録用キャスト塗工紙製造に際しては、塗工層が紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、一重項酸素クエンチャー、酸化防止剤等の1種あるいは2種以上を含有することが好ましい。該物質を含有することにより印字部の耐光性が向上する。紫外線吸収剤としては特に限定されないが、例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等が好ましく用いられる。ヒンダードアミン系光安定剤としては特に限定されないが、例えばピペリジン環のN原子がN−R(Rは水素原子、アルキル基、ベンジル基、アリル基、アセチル基、アルコキシル基、シクロヘキシル基、ベンジルオキシ基等)であるものが好ましく用いられる。一重項酸素クエンチャーとしては特に限定されないが、例えばアニリン誘導体、有機ニッケル系、スピロクロマン系、スピロインダン系が好ましく用いられる。酸化防止剤としては特に限定されないが、例えばフェノール系、ハイドロキノン系、有機イオウ系、リン系、アミン系が好ましく用いられる。該物質の使用量は、該塗工層100質量部に対して0.0001〜20質量部が好ましい。
本発明において、インクジェット記録用キャスト塗工紙製造に際しては、塗工層がアルカリ土類金属化合物を含有することが好ましい。アルカリ土類金属化合物を含有することにより耐光性が向上する。アルカリ土類金属化合物としては、例えばマグネシウム、カルシウム、バリウムの酸化物、ハロゲン化物、水酸化物が好ましく用いられる。アルカリ土類金属化合物を塗工層に含有させる方法は特に限定されない。塗工液に添加しても良いし、塗工層を形成後、該塗工層にアルカリ土類金属化合物の水溶液を含侵させても良い。アルカリ土類金属化合物の含有量は、アルカリ土類金属化合物を含有する塗工層において、該塗工層中の固形分100質量部に対して酸化物換算で0.5〜20質量部が好ましい。
【0047】
本発明において、塗工層にチオシアン酸化合物を含むことは、耐オゾン性および耐光性を向上することができ好ましい。上記チオシアン酸化合物としては、例えばチオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸亜鉛、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム,チオシアン酸マグネシウム、チオシアン酸アルミニウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸銀、チオシアン酸クロロメチル、チオシアン酸コバルト、チオシアン酸銅、チオシアン酸鉛、チオシアン酸バリウム、チオシアン酸ベンジル等が挙
げられ、耐オゾン性および耐光性をさらに向上させる点で、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸亜鉛、チオシアン酸カルシウムが好ましく、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸亜鉛が特に好ましい。
上記のチオシアン酸化合物の含有量としては、塗工層の全固形分に対して0.3〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がさらに好ましい。上記含有量が0.3〜10質量%の範囲内にあると、耐オゾン性、耐水性、および経時ニジミ(印字部分が長時間経る事によって滲みを生じてしまう現象)を抑制する等の点で好ましい。また、上記チオシアン酸化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造法は本発明の塗工液(キャスト用塗工液とも呼ぶ)を、支持体(主に原紙)上に予め設けた下塗り塗工層上に塗工することが得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙の表面光沢やインク吸収性の観点から好ましい。
【0048】
下塗り塗工層を設けた後の基紙(本発明において、下塗り原紙と称す)の塗工面のガーレー高圧型透気度試験機による測定値(ASTM−D−726 B法)が、50秒/10ml以下(値が低いほうが透気性が良い)、好ましくは、25秒/10ml以下であることが、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙のインク吸収性および生産効率の観点から好ましい。該下塗り原紙の塗工面のガーレー高圧型透気度試験機による測定値は、用いる顔料の種類や粒径および用いる接着剤の量などによって調整することが可能である。
下塗り塗工層に含有される顔料と接着剤について述べる。本発明における接着剤と顔料の配合割合は、接着剤としては顔料100質量部に対して5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
本発明の下塗り塗工層に用いる顔料としては、例えばカオリン、クレー、焼成クレー、無定形シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、珪酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスティックピグメント、尿素樹脂系プラスティックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスティックピグメント等、一般塗工紙製造に用いられる公知の各種顔料を用いることが出来る。
【0049】
本発明の下塗り層に用いられる接着剤としては、例えばカゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、例えばデンプンや酸化デンプン等の各種デンプン類、ポリビニルアルコール、例えばカルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、例えばスチレン−ブタジエン共重合体やメチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系重合体ラテックス、例えばアクリル系重合体ラテックスやエチレン−酢酸ビニル系重合体ラテックス等のビニル系重合体ラテックス、等一般に塗工紙用として用いられている従来公知の接着剤が単独で、あるいは併用して用いられる。
本発明の下塗り塗工層用塗工液は、得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙に印刷した画像の耐水性の観点から前述のカチオン性樹脂を含有することが好ましい。カチオン性樹脂の添加量は、添加効果の発現の観点および得られるインクジェット記録用キャスト塗工紙自体の耐水性の観点から、下塗り塗工層に用いる顔料100質量部に対し、1〜20質量部が好ましく、3〜10質量部がさらに好ましい。
本発明の下塗り塗工層用塗工液は、一般に固形分濃度を5〜60質量%程度に調整し、米坪が20〜400g/m程度の原紙上に乾燥重量で2〜50g/m、より好ましくは5〜20g/m程度になるようにブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブラシコーター、チャンプレックスコーター、バーコーター、グラビアコーター等の各種公知公用の塗工装置により塗工、乾燥される。さらに、必要に応じて下塗り塗工層の乾燥後にスーパーキャレンダー、ブラシ掛け、キャスト仕上げ等の平滑化処理を施すこともできる。
【0050】
本発明において用いられる原紙としては、一般の塗工紙に使用される酸性紙、あるいは中性紙等が適宜使用される。また、印字品質に合わせてサイズ度や填料を適宜調製できる。得られた下塗り原紙の塗工表面に、前述した高分子化合物(A)を含むキャスト塗工液を、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブラシコーター、チャンプレックスコーター、バーコーター、グラビアコーター、等の各種公知の塗工装置で塗工するに際して、前記高分子化合物(A)の感温点以下の温度の下塗り原紙上に塗工し、前述したように塗工層が湿潤状態にある間に、加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥してキャスト仕上げを行うことになる。この場合のキャスト塗工液の塗工量は、乾燥固形分で0.2〜30g/m、好ましくは、1〜10g/mである。
キャスト塗工液中には白色度、粘度、流動性等を調節するために、一般の印刷用塗工紙やインクジェット記録用紙に使用されている顔料、分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤を適宜添加することが出来る。
塗工層が湿潤状態において該塗工層を加熱された鏡面ドラム表面に圧接する手段における、鏡面ドラムの材質としては、例えばステンレス鋼等の金属、ガラス、ポリアクリル、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられるが、ステンレス鋼等の金属が表面の平滑性の観点で現状最も優れており好ましく用いられ、好ましい形状は円筒形、平面等であるが、円筒形が好ましく用いられる。
本発明における原紙には帯電防止性、搬送性、カール防止性などのために、各種のバックコート層を塗設することができる。バックコート層には無機帯電防止剤、有機帯電防止剤、ラテックス、硬化剤、顔料、界面活性剤などを適宜組み合わせて含有せしめることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
以下の実施例及び比較例において、「部」および「%」は、「質量部」および「質量%」を意味する。
染料インクを用いた印刷時の画質は、染料インクを使用した市販インクジェットプリンター(セイコー・エプソン製PM−G800)を用い、顔料インクを用いた印刷時の画質は、顔料インクを使用した市販インクジェットプリンター(セイコー・エプソン製PX−G900)を用い、官能的に評価した。その評価結果は10段階評価で行い、極めて良好な結果を10、良好な結果を8、やや良好な結果を6、やや劣る結果を4、劣る結果を2、極めて劣る結果を1とした。
インク吸収性の評価は市販インクジェットプリンター(セイコー・エプソン製PX−G900)を用いてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、グリーン、レッド、ブルーのベタ印字を行ったものを用い、境界線の色滲み等から官能的に評価した。その評価結果は10段階評価で行い、極めて良好な結果を10、良好な結果を8、やや良好な結果を6、やや劣る結果を4、劣る結果を2、極めて劣る結果を1とした。
記録媒体表面の光沢は、蛍光灯の映り込みを見て官能的に評価した。その評価結果は10段階評価を行い、極めて良好な結果を10、良好な結果を8、やや良好な結果を6、やや劣る結果を4、劣る結果を2、極めて劣る結果を1とした。
【0052】
(調製例1)
攪拌器、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水360部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「コータミン86W」(花王(株)製、カチオン性界面活性剤:商品名)の25%水溶液25部、「エマルゲン1135S−70」(花王(株)製、非イオン性界面活性剤:商品名)の70%水溶液7.5部およびN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液4部を該反応器内に添加した。さらに該反応器内に2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩基酸塩の5%水溶液8部を投入し、その5分後に、メタクリル酸メチル9部、アクリル酸ブチル9部、スチレン9部、ダイアセトンアクリルアミド2部および2−ヒドロキシメタク
リル酸エチル2部を混合した液を該反応器内に30分かけて連続的に添加した。添加は反応容器内を80℃に保ちながら行った。この段階でのエマルジョンの数平均粒子径は11nmであった。引き続き、水1254部にN−イソプロピルアクリルアミド290部、ダイアセトンアクリルアミド10部、メチレンビスアクリルアミド0.5部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液5部、「コータミン86W」の25%水溶液10部、「ブレンマーQA」(日本油脂(株)製、カチオン性反応型界面活性剤:商品名)の25%水溶液15部および2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩基酸塩の5%水溶液11部を溶解した液を該反応容器内に添加開始し、5時間かけて添加を終了させた。添加中および添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃まで冷却し、エタノールの60%水溶液1000部を徐々に該反応容器内に添加した。エタノール水溶液の添加終了後室温まで冷却することによって樹脂固形分11%、数平均粒子径が100nmの高分子エマルジョン1を得た。その感温点を測定したところ30℃であった。
【0053】
(調製例2)
攪拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水600部及び「コータミン86W」の28%水溶液40部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液6部を投入し、反応容器内を80℃とした。次に、ダイアセトンアクリルアミド4部、スチレン128部、メタクリル酸メチル80部、メタクリル酸ブチル66部を混合した添加液(1)と、水100部に「コータミン86W」の28%水溶液9部、「エマルゲン1135S−70」の70%水溶液1部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩基酸塩の5%水溶液45部、アミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩の70%水溶液6部を溶解した添加液(2)とを各々滴下槽より反応容器中へ4時間かけて添加した。添加中及び添加が終了してからさらに1時間、反応容器中の温度を80℃に保った後、室温まで冷却した。樹脂固形分30%、数平均粒子径40nmの高分子エマルジョン2を得た。その感温点の測定を試みたが、感温点と判断される変化は生じなかった。
【0054】
(調製例3)
触媒化成工業(株)製擬ベーマイトアルミナゾルAS−3を風乾させた後、500℃にて2時間焼成を行い、粉末を得た。該粉末は、粉末X線回折図測定の結果からγ−アルミナであることが確認された。粉末X線回折図は理学製RINT2500を用いて測定を行なった。さらに、該γ−アルミナに固形分7%となるように水を加え、酢酸を1%添加し、超音波分散機を使用して分散させ、γ−アルミナ分散液を得た。該γ−アルミナの平均一次粒子径は50nmであった。
(調製例4)
あらかじめH型にしておいたカチオン交換樹脂(ローム&ハース社製、アンバーライトIR−120B:商品名)100gを水100gに分散したなかに、3号水ガラス(SiO=29質量%、NaO=9.5質量%)33.3gを水66.7gで希釈した溶液を加える。これを、十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別し活性シリカ水溶液200gを得た。この活性シリカ水溶液のSiOは5.0質量%であった。
5gの旭電化社製プルロニックP103を水1360gに溶解させ、35℃湯浴中で撹拌しながら、上記の活性シリカ水溶液60gを添加した。さらに、0.015mol/lのNaOH水溶液を20ml加える。この混合物のpHは7.5であった。この混合物を35℃で15分撹拌後、80℃で静置し24時間反応させた。この溶液から限外ろ過装置を用いて非イオン界面活性剤を除去し、透明なシリカの分散液を得た。この分散液にN−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシランを前記シリカに対し5質量%となる様加え、超音波分散機にて分散することでシリカ濃度20質量%の透明な多孔性物質(MPS)の分散液を得た。この分散液の動的光散乱法によって測定される平均粒子径は60nmであった。該分散液を、105℃で乾燥した試料のBJH法による平均細孔
直径は8nm、細孔容積は1.21ml/gであった。
【0055】
(調製例5)
乾式シリカ(日本アエロジル(株)製、A200:商品名、以下、A200と記す)に固形分18%となるように水を加え、超音波分散機を使用して分散させた後、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン(以下、AEAPMSと記す)をA200/AEAPMS=100/3(乾燥質量比)となるよう添加し、60℃に加温して1時間攪拌した後、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(日東紡績(株)製PAS−H−10L:商品名、以下、PAS−Hと記す)20%水溶液を、A200/PAS−H=100/5(乾燥質量比)となるよう添加した後、再度超音波分散機を使用して分散させ、A200分散液を得た。
(調製例6)
合成非晶質シリカ((株)トクヤマ製ファインシールX−60:商品名、平均二次粒子径6μm、以下、X−60と記す)100部に、固形分20%となるように水を加え、超音波分散機を使用して分散させた後、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(日東紡績(株)製PAS−H−10L:商品名、以下、PAS−Hと記す)20%水溶液を、X−60/PAS−H=100/8(乾燥質量比)となるよう添加した後、再度超音波分散機を使用して分散させ、シラノール変性ポリビニルアルコール((株)クラレ製R−1130:商品名、以下、R−1130と記す)5%水溶液を、X−60/R−1130=100/20(乾燥質量比)となるよう添加し下塗り用塗工液を作成した。
190g/mの原紙((株)ジツタ製こな雪190:商品名)の片面に、前記下塗り用塗工液を、乾燥重量で10g/mになるようにバーコーターで塗工、乾燥し、下塗り原紙を得た。
【0056】
[実施例1]
調製例3で得られたγ−アルミナ分散液と調製例5で得られたA200分散液および調製例1で得られた高分子エマルジョン1を、γ−アルミナ/A200/高分子エマルジョン1=20/80/20(乾燥質量比)となる割合で添加、混合し塗工液1を作成した。
調製例6で得られた下塗り原紙上に、上記塗工液1をバーコーターで塗工した後、該塗工層が湿潤状態で表面温度が90℃の鏡面ドラムに圧接し、乾燥後、離型させ、光沢タイプのインクジェット記録用キャスト塗工紙を得た。このときの塗工液1の塗工量は固形分重量で、8g/mであった。このインクジェット記録用キャスト塗工紙の評価結果を表1に示した。
[実施例2]
調製例3で得られたγ−アルミナ分散液と調製例4で得られたMPS分散液および調製例1で得られた高分子エマルジョン1を、γ−アルミナ/MPS/高分子エマルジョン1=30/70/20(乾燥質量比)となる割合で添加、混合し塗工液2を作成した。
調製例6で得られた下塗り原紙上に、上記塗工液2をバーコーターで塗工した後、該塗工層が湿潤状態で表面温度が90℃の鏡面ドラムに圧接し、乾燥後、離型させ、光沢タイプのインクジェット用記録媒体を得た。このときの塗工液2の塗工量は固形分重量で、8g/mであった。このインクジェット記録用キャスト塗工紙の評価結果を表1に示した。
【0057】
[比較例1]
実施例1の高分子エマルジョン1の代わりに調製例2で得られた高分子エマルジョン2を用いる以外は実施例1と同様の方法でキャスト塗工紙を得た。このときの塗工量は固形分重量で、8g/mであった。このキャスト塗工紙の評価結果を表1に示した。
[比較例2]
調製例3で得られたγ−アルミナ分散液と調製例5で得られたA200分散液およびPVA235((株)クラレ製ポリビニルアルコール、クラレポバールPVA235:商品
名)5%水溶液を、γ−アルミナ/A200/PVA235=20/80/20(乾燥質量比)となる割合で添加、混合し塗工液3を得た。
調製例6で得られた下塗り原紙上に、上記塗工液3をバーコーターで塗工した後、該塗工層が湿潤状態で表面温度が90℃の鏡面ドラムに圧接し、乾燥後、離型させ、キャスト塗工紙を得た。このときの塗工液3の塗工量は固形分重量で、8g/mであった。このキャスト塗工紙の評価結果を表1に示した。
[比較例3]
調製例5で得られたA200分散液にPVA235((株)クラレ製ポリビニルアルコール、クラレポバールPVA235:商品名)5%水溶液を、A200/PVA235=100/18(乾燥質量比)となる割合で添加、混合し塗工液4を得た。
190g/mの原紙((株)ジツタ製こな雪190:商品名)の片面に、前記塗工液4をバーコーターで塗工した後、該塗工層が湿潤状態で表面温度が90℃の鏡面ドラムに圧接し、乾燥後、離型させ、キャスト塗工紙を得た。このときの塗工量は固形分重量で、16g/mであった。このキャスト塗工紙の評価結果を表1に示した。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明を用いれば、極めて優れたインクジェット印字記録適正を示し、かつキャスト用塗工紙本来の高光沢を維持し、従来のキャスト塗工紙では得ることの出来なかった、優れたインクジェット(印字)記録適正を備えたキャスト塗工紙が得られ、産業上の利用価値は甚だ大きなものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料および接着剤を含有する下塗り塗工層を設けた下塗り原紙上に、感温点以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)を含有する高分子エマルジョンとγ−アルミナを含む塗工液を、前記下塗り原紙上に塗工してキャスト用塗工層を形成し、該塗工層が湿潤状態において、該塗工層を加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げることを特徴とするインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法。
【請求項2】
上記下塗り塗工層中にカチオン性樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用キャスト塗工紙の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法に用いることを特徴とする塗工液。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の製造方法で製造したことを特徴とするインクジェット記録用キャスト塗工紙。