説明

インクジェット記録用シート

【課題】 従来のインクジェット記録用シートの基本的な特性である画像品質を維持しながら、優れたラミネートエッジの防水性を有するインクジェット記録用シート、また、油性インクで印画しても優れた画像品質が得られるシートを提供する。
【解決手段】 少なくとも基材とインク受理層とを有するインクジェット記録用シートであって、インク受理層が疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)とを含有し、該樹脂の固形分質量比率(a):(b)が100:1〜100:20の範囲であり、且つインク受理層の空隙率が50〜85%の範囲であるインクジェット記録用シートであり、特に親水性樹脂(b)としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有するインク受理層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用シートに関し、さらに詳しくは、特に、ラミネートエッジ防水性等に優れるインクジェット記録用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
印画方式の一つとして、インクジェット記録方式は、高画質のフルカラー画像が容易に得られること、高速化が容易なこと、ランニングコストが低いこと等の利点により、コンピュータ、ビデオなどのハードコピー、カラー複写機等、多岐にわたる分野で急速に普及しつつある。
それに伴い、インクジェット記録用シートに対して、適度な画像濃度、画像がにじまないこと、ドットの再現性等の印画品質が要求されている。それに加え、ポスター等の用途で、屋外で用いられる場合等に、風雨から画像を保護するために、印画後にプラスチックフィルムをラミネートする場合が多く有る。このような場合、プラスチックフィルムによって表面を保護していても、エッジの部分から、水が中央部へ向かって浸入し、印画面を汚す場合が多々ある。これを防止する性能、すなわちラミネ−トエッジの防水性が求められている。
【0003】
上記のインクジェット記録用シートにおけるラミネートエッジの防水性の向上という課題に対して、インク受理層に、鹸化度90モル%以下のポリビニルアルコールと水不溶性樹脂を含有させたシートが提示されている(特許文献1参照)。
このシートは、一般的な印画品質の要求を満足させつつ、ラミネートエッジの防水性を向上させようというものである。
また近年、油性インクの利用の拡大にともない、油性インクで印画して屋外のポスター等に用いる場合が増加しており、油性インクでの印画が良好で、かつラミネ−トエッジの防水性に優れるインクジェット記録用シートが求められている。
しかしながら、上記のシートは、油性インクで印画すると画像濃度が低いなどの問題が有る。
【0004】
【特許文献1】特開平11−301099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような状況下で、従来のインクジェット記録用シートの基本的な特性である画像品質を維持しながら、優れたラミネートエッジの防水性を有するインクジェット記録用シート、また、油性インクで印画しても優れた画像品質が得られるインクジェット記録用シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、インク受理層に疎水性樹脂と親水性樹脂とを一定比率で含有させ、且つインク受理層の空隙率を特定範囲とすれば、優れた画像品質を維持しながら、ラミネートエッジの防水性を有するインクジェット記録用シートが得られること、更に、親水性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有させれば、油性インクでの画像が良好であることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のインクジェット記録用シートを提供するものである。
(1) 少なくとも基材とインク受理層とを有するインクジェット記録用シートであって、インク受理層が疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)とを含有し、両樹脂の固形分質量比率(a):(b)が100:1〜100:20の範囲であり、且つインク受理層の空隙率が50〜85%の範囲であることを特徴とするインクジェット記録用シート。
(2) インク受理層が、填料として、レーザー法による平均粒子径が11〜25μmの範囲のシリカを含有する(1)のインクジェット記録用シート。
(3) 親水性樹脂(b)としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有する(1)または(2)のインクジェット記録用シート。
(4) シラノール変性ポリビニルアルコールの鹸化度が90モル%を超える(3)のインクジェット記録用シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インク受理層に疎水性樹脂と親水性樹脂とを一定比率で含有させ、且つインク受理層の空隙率を特定範囲とすることにより、一般的な印画品質の要求を満足させつつ、ラミネートエッジの防水性が非常に優れるインクジェット記録用シートを得ることができる。また、親水性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有させることにより、油性インクでの印画が良好で、特に画像濃度に優れるインクジェット記録用シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のインクジェット記録用シートは、基材とインク受理層とを有するものである。
本発明においては、基材は、シート状のものであればよく、特に限定されるものではない。基材には、プラスチックフィルム、紙、不織布等の、従来この種の目的に使用されていたもののいずれもが使用可能であるが、特に耐水性の点からプラスチックフィルムが好適である。
プラスチックフィルムの素材としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート等の一般的な熱可塑性樹脂、あるいは、これら樹脂に炭酸カルシウム等の無機粉末を内添させたもの、有機ピグメントを内添させたもの等から選択することが可能である。
さらに、素材として生分解性プラスチックのフィルムを使用することもできる。本発明における生分解性プラスチックとは、燃焼エネルギーが低く、有毒ガスが発生せず、自然環境中の微生物に代謝され最終的に水と二酸化炭素に分解されて、かつ大気雰囲気中で実用上問題のない耐久性を持つプラスチックであり、特に限定されないが、好適に用いられるものとしては、ポリ乳酸、デンプン・変性PVA混合体、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート/バリレート共重合体等が挙げられる。特に、分解の速さと強度の点から、ポリ乳酸が好適である。また、必要に応じ、生分解性を損なわない範囲で強度向上等の目的で他のプラスチックを添加することもできる。
【0010】
また、素材として発泡プラスチックフィルムを使用してもよい。ここで、発泡プラスチックとは、フィルムの内部に細かな気泡や空洞などを有するプラスチックフィルムをいうが、これらの気泡や空洞などは、炭酸カルシウム等の無機粉末を含有したフィルムを延伸して無機粉末の周囲に発生させたり(ミクロボイドフィルム)、発泡剤を含有させて発泡させたりして形成したものなど、その名称や形成方法或いは気泡や空洞の生成形態は問わない。このような発泡プラスチックフィルムの例としては、東洋紡績(株)製の「トヨパールフィルム P4258」や(株)ユポ・コーポレーション製の「ユポ FPG 80」などが挙げられる。
なお、ここでいうプラスチックフィルムには、合成紙と称されるものも含まれる。
また、基材として紙を用いる場合においても特に制限はなく、上質紙、中質紙、パルプ紙、クラフト紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙などを用いることができる。
【0011】
基材は、単層構造でも多層構造でもよい。多層構造を形成する方法としては、例えば、接着剤を介して層同士を貼り合せる方法、複数の押し出し機から複数の原料を押し出し合流させて製膜する、いわゆる共押出方法、フィルムの上に押出機から直接フィルムを押し出しながら貼り合わせて積層するいわゆる押し出しラミネート方法など、公知の方法の何れで形成したものも用いることができる。
【0012】
基材には、インク受理層等との密着性や濡れ性を向上させるなどの目的で、所望により、基材の片面または両面に、酸化法や凹凸法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、熱風処理などが挙げられ、また、凹凸法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理法が効果および操作性などの面から好ましく用いられる。また、基材とインク受理層とに接するアンカーコート層を設ける、いわゆる易接着処理を施すこともできる。
【0013】
本発明においては、インク受理層は、疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)とを含有する。この疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)は、通常、結着剤としての役割を果たすものである。
疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)との固形分質量比率(a):(b)は、通常100:1〜100:20の範囲、好ましくは100:1〜100:12.5の範囲、更に好ましくは100:5〜100:9の範囲である。疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)との固形分質量比率(a):(b)をこのような範囲とすることにより、ラミネートエッジの防水性が向上し、プラスチックフィルムをラミネートした際に、そのエッジの部分から、水が中央部へ向かって浸入し、印画面を汚すのを防止することができる。
【0014】
この疎水性樹脂(a)としては、ポリビニルブチラール、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリウレタン、塩素化ポリプロピレン、バーサチック酸ビニル共重合物、スチレン−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、およびこれらの共重合物等が挙げられる。これらは単独、又は混合して使用することができる。
また、親水性樹脂(b)としては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリビニルアセタール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびこれらの共重合物等が挙げられる。これらは単独、又は混合して使用することができる。
親水性樹脂(b)として、ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。ポリビニルアルコールとしては、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、カチオン変性したポリビニルアルコールやカルボキシル基のようなアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、シリル基を有するシリル変性ポリビニルアルコール、シラノール基を有するシラノール変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールなどを用いることができる。また、ポリビニルアルコールとしては、鹸化度90モル%を超えるポリビニルアルコールがエッジの防水性を向上させる点で好ましい。中でも完全鹸化ポリビニルアルコールが、防水性をより向上させる点で好ましい。なおここでいう完全鹸化ポリビニルアルコールとは、鹸化度98モル%以上のポリビニルアルコールのことである。
親水性樹脂(b)は、水によって膨潤するものが、ラミネートエッジの防水性をより向上させる点で好ましい。
【0015】
インク受理層における填料(フィラー)としては、有機、無機の制限はなく、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、けいそう土、ポリスチレン、ポリメタクリレート、酸化チタン、焼成カオリン、含水マグネシウムシリケート等が挙げられる。これらは単独、又は混合して使用できる。
インク受理層における填料として、特に、画像品質の点で、合成シリカが好ましく、中でも湿式法によるゲルタイプのものが好ましい。
【0016】
また、填料として、レーザー法による平均粒子径が11〜25μmの範囲であるシリカを含有させることが好ましく、平均粒子径が12〜20μmの範囲であるシリカを含有させることが更に好ましい。ここでいう平均粒子径とは、2次粒子の粒子径である。合成シリカの平均粒子径が25μm以下であることにより、インク吸収性と画像品質に優れる。また、該平均粒子径が11μm以上であることにより、ラミネートエッジの防水性に優れる。
なお、平均粒子径が11μm以上であるシリカを用いることにより、ラミネートエッジの防水性に優れる理由は明確ではないが、粒子径が大きいシリカを用いると、インク受理層には粒子間に孔径の大きな空隙が形成される。水は毛細管力によってインク受理層内に吸収されるが、粒子間に、孔径の大きな空隙が形成されると毛細管力が小さいため、エッジから水が浸入しにくくなることが考えられる。より詳細に述べると、インク受理層内には、シリカの2次粒子そのものが持つ細孔とは別に、2次粒子間の空隙が存在している。球状の物体を積み重ねた際に、それらが大粒のものである程、生じる個々の隙間が大きいが、それと同様に、シリカの2次粒子の粒子径が大きいと、それらの間の個々の空隙が大きくなる。それらの個々の空隙は、水が浸入する通路となるが、その通路が太い、言い換えれば孔径が大きいと、毛細管力が小さくなるので、水が浸入しにくくなると考えられるのである。
レーザー法による平均粒子径が11〜25μmの範囲であるシリカの含有量は、填料全体量に対して90質量%以上含有させることが好ましい。
【0017】
填料と結着剤の比率は、インク受理層中の固形分質量比で、填料/結着剤の比率が、好ましくは1.0〜3.0の範囲、より好ましくは1.7〜2.0の範囲である。填料/結着剤の比率が3.0以下であることにより、インク受理層の強度が優れる。また、1.0以上であることにより、インク吸収性が優れる。
【0018】
インク受理層には、画像濃度、滲みの防止性能、発色を向上させる目的で、カチオン性物質を含有させてもよい。使用可能なカチオン性物質としては、インクジェット用の染料あるいは着色顔料のスルフォン基、カルボキシル基などと反応して水不溶性塩を形成する各種樹脂類、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩などを含有するカチオン性樹脂類などが挙げられる。その具体例として、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアミン、モノアリルアミン塩酸塩の重合体、ジアリルアミン塩酸塩の重合体、モノアリルアミン塩酸塩−ジアリルアミン塩酸塩の共重合体、(メタ)アクリルアミドアルキル4級アンモニウム塩の重合体、ポリアルキレンポリアミン・ジシアンジアミド縮合物、2級アミン・エピクロルヒドリン付加重合物、ポリエポキシアミン、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン塩酸塩、アリルアミン−ジアリルアミン共重合体、(メタ)アクリルアミド−ジアリルアミン共重合体、エピクロルヒドリンポリアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ジシアンジアミドポリエチレンアミンおよびポリジメチルアミンアンモニウムエピクロルヒドリンなどの化合物を挙げることができる。
【0019】
本発明のインクジェット記録用シートのインク受理層には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ、消泡剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、防腐剤、顔料分散剤、増粘剤などの各種添加剤、水溶性アルミニウム塩、水和アルミニウム酸化物等を含有させることができ、インク受理層形成用塗工液に含有させて塗工することができる。
インク受理層の厚さ(乾燥後)は、20〜60μmの範囲が好ましい。この厚さが60μm以下であることにより、インク受理層の強度が優れるものとなる。また、20μm以上であることにより、インクのブリードの防止性能が優れるものとなる。
【0020】
本発明のインクジェット記録用シートのインク受理層は、空隙率が50〜85%の範囲である。この空隙率は、下記計算式により求められる値である。
空隙率(%)=〔1−(嵩密度/真密度)〕×100
この際の嵩密度は、インク受理層の実際の密度(g/cm)である。嵩密度は、例え
ば次のようにして測定することができる。すなわち、基材とインク受理層からなるインクジェット記録用シートを作成して試験片を取り、その質量を実測し、予め測定しておいた基材の質量を引いてインク受理層の質量を求める。また、試験片の厚みを実測し、予め測定しておいた基材の厚みを引いてインク受理層の厚みを求め、試験片の面積を掛けて、インク受理層の体積を求める。得られた質量を体積で割って嵩密度を算出する。言い換えれば、空隙を含むインク受理層全体の密度である。
【0021】
また、この際の真密度は、以下の式で算出される値である。
インク受理層の質量(g)/インク受理層の各構成成分の体積の合計(cm
より詳しくは、
(1)対象とするインク受理層を、ある一定量採取して、その質量を求める。
(2)一方、その中に含まれる各構成成分の体積の合計を求める。
i) まず、採取したインク受理層に含まれる各構成成分の質量を、その配合比率から 求める。
ii) 次に、この各構成成分の質量と各構成成分の本来の密度により、各構成成分の 体積を計算する。(ここで言う本来の密度とは、インク受理層を形成する前の各成分 の密度であり、言い換えればインク受理層の形成にともなって生じる空隙を含まない 密度である)
iii) 最後に、それらの各構成成分の体積を合計する。
(3)上記の(1)の質量を(2)で得られた体積の合計で割る。
【0022】
本発明のインクジェット記録用シートは、インク受理層の空隙率が50〜85%、好ましくは60〜80%、より好ましくは65〜75%の範囲である。
インク受理層の空隙率が85%以下であることにより、ラミネートエッジの防水性がより向上する。また、該空隙率が50%以上であることにより、インク吸収性が向上する。
インク受理層の空隙率は、インク受理層に含有させる成分によって調整することができる。一般的には、結着剤として用いる樹脂に対する填料の比率を大きくすると、空隙率は大きくなる。
【0023】
本発明のインクジェット記録用シートは、前記の如き、特定の樹脂と空隙率を有するインク受理層(以下、「本発明のインク受理層」ということがある。)を、基材上の少なくとも一方の面に、少なくとも1層以上有するものである。本発明のインク受理層は、基材の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよく、基材の片面に2層以上設けてもよい。たとえば、基材の片面に本発明のインク受理層を、1層で設けたときと同じ層厚みになるように2層重ねると、インク受理層のひび割れを防止しやすくできる。
また、本発明のインクジェット記録用シートは、本発明のインク受理層以外のインク受理層を併用してもよい。例えば本発明のインク受理層の効果を損なわないような、本発明のインク受理層以外のインク受理層を設けることもできる。1例として、本発明のインク受理層の基材側に、填料が酸化チタンであるインク受理層を設け、インクジェット記録用シートの隠蔽性を高める場合が挙げられる。更にまた、本発明のインクジェット記録用シートのインク受理層を有する面と反対の面に、他のインク受理層を設けることもできる。
本発明のインクジェット記録用シートにはインク受理以外の目的の層を設けてもよく、例えば、インク受理層と基材の密着力を向上させる目的でアンカーコート層を設けたり、隠蔽性を向上させる目的で不透明度が高い層を設けたり、紫外線吸収層やカール防止のための層を設ける場合が挙げられる。
【0024】
インク受理層、アンカーコート層などは、必要な成分を分散させたり溶解させた塗工液を塗工して乾燥させることなどによって形成することができる。塗工は、リバースロールコート、エアナイフコート、グラビアコート、ブレードコート、コンマコート、ワイヤーバーコート等の従来公知の種々の方法を用いることが可能である。
【0025】
本発明のインクジェット記録用シートに対して使用可能なインクとしては、水性の顔料タイプのインク、水性の染料タイプのインク、油性の顔料タイプのインク、油性の染料タイプのインク、溶剤系の顔料タイプのインク、溶剤系の染料タイプのインクなどが挙げられる。
本発明のインクジェット記録用シートは、上記のように種々のインクに対して適用可能であるが、以下に述べる態様にすれば、特に油性のインクに対して優れた適性を持たせることができる。
【0026】
そこで次に、本発明の好ましい態様の一つとして、特に油性インクを用いた場合のインクジェット記録用シートについて説明する。
なお、油性インクは、一般的に溶剤として石油系溶剤が用いられ、特に石油系高沸点溶剤が用いられる場合が多い。また、基材としては、油性インクに膨潤しにくい点から、ポリエステルフィルムが好ましい。
インク受理層と基材の密着を向上させるために、アンカーコート層を設ける場合、その厚み(乾燥後)は5〜15μmが好ましい。また、アンカーコート層には通常、結着剤を含有させるが、油性インクの溶剤に膨潤する結着剤と膨潤しない結着剤を併用すると、印画品質と密着強度が両立できるので好ましい。アンカーコート層には、塗工時のブロッキングを防止する目的で炭酸カルシウム等の填料を含有させてもよい。
【0027】
油性インク用とする場合、親水性樹脂(b)として、シラノール変性ポリビニルアルコールを用いると、油性インクで印画した場合の画像濃度に優れる。特に、鹸化度が90モル%を超えるシラノール変性ポリビニルアルコールを用いると、画像濃度に加え、にじみ、ドットの再現性、ムラ、バンディング等の印画品質にも非常に優れる。 また、疎水性樹脂(a)としては、疎水性で且つ油性インクの溶剤に膨潤しない樹脂が好ましく、スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
更に、インク受理層には、印画品質を調整する目的で、油性インクの溶剤に膨潤する樹脂を混合して用いてよい。
尚、本発明においては、インク受理層が疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)とを含有し、両樹脂の固形分質量比率(a):(b)が100:1〜100:20の範囲であるが、これは、油性インク用とする場合の画像品質も向上させる。特に、疎水性樹脂(a)を100としたときの親水性樹脂(b)が20以下であることにより、バンディングの防止性能が向上する。この理由は、次のように推測される。すなわち、親水性樹脂は油性インクに対する濡れ性が比較的小さいので、インクのドットの広がりを抑制する作用を有するが、前記の値が20以下であることにより、適度な広がりを確保できるからであると推測される。
【0028】
油性インク用とする場合のインク受理層における填料と結着剤の比率は、インク受理層中の固形分質量比、すなわち、填料の質量を結着剤の質量で除した値で、1.7〜2.0の範囲であることが好ましい。固形分質量比が2.0以下であることにより、バンディングの防止性能が優れる。また、1.7以上であることにより、インクのブリードの防止性能が優れる。
この際のインク受理層の厚さ(乾燥後)は、50〜60μmの範囲であることが好ましい。60μm以下であることにより、インク受理層の強度に優れる。また、50μm以上であることにより、インクのブリードの防止性能に優れる。
水性インク用の場合はカチオン性物質を含有させる場合が多いが、油性インク用の場合は、カチオン性物質を含有させなくても画像濃度等に支障がない場合が多い。従って、油性インク用の場合、カチオン性物質を含有させない方が、インク受理層の耐水性を向上させやすいので好ましい。
【0029】
前述のように、インク受理層は、填料として、レーザー法による平均粒子径が11〜25μmの範囲のシリカを含有することが好ましい。粒子径が大きいシリカを用いるとインク受理層が持つ粒子間の空隙の孔径も大きいものになる。粒子間の空隙の孔径が大きくなると、毛細管力が小さくなり、特に水性インクでは、印画した際のインクの吸収速度が小さくなる傾向が有る。その点、油性インクは表面張力が低くインク受理層に浸透しやすいため、毛細管力が小さくなってもさほど画像品質には影響を受けない。したがって、本発明は、油性インクを用いた場合には、優れたエッジ防水性を備えるだけでなく、優れた画像品質も両立して備えることができる。その点で、本発明は、特に油性インク用のインクジェット記録用シートに用いると、より効果を発揮する。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、インクジェット記録用シートの性能は、以下に示す方法に従って評価した。
先ず、印画には、市販されている油性インク用のインクジェットプリンターを用い、純正の油性の顔料タイプのインクを使用した。
また、印画した画像に使用した色として、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ライトシアン、ライトマゼンタ及び、シアンとマゼンタとイエローの混色の黒を用い、各色において、単色ベタ印画と階調パターンの印画を行なった。
【0031】
(1)画像品質
画像濃度以外の画像品質全般(にじみ、ドットの再現性、ムラ、バンディング)を、総合的に、目視で判断した。
◎・・・非常に良好 ○・・・良好
△・・・実用上支障なし ×・・・低品質
(2)エッジ防水性
25mm幅の試験被着体にラミネートフイルム〔リンテック社製PETラミネートフイルム、
商品名:G03EV50C〕をラミネーター[リンテック社製ラミネーター、商品名:LAgLA−60]で貼り付けた。1週間、水に浸漬した後、水の染み込み具合を、目視で判断した。
◎・・・非常に良好 〇・・・良好
△・・・実用上支障なし ×・・・低品質
(3)画像濃度
反射濃度を、マクベス濃度計RD−918を用いて測定した。
【0032】
実施例1
基材として、厚さ100μmのポリエステルフィルム〔帝人デュポンフィルム社製、商品名:U2L98W〕を用いた。
アンカーコート層用塗工液として、次の成分の均一混合物を用いた。
(a)填料(フィラー)
・シリカ〔水澤化学工業社製、商品名:ミズカシルP−526、固形分濃度100 質量%、レーザー法による粒子径:7μm〕 4.13g
(b)結着剤(バインダー)
・アクリル酸エステル共重合樹脂〔日信化学工業社製、商品名:ビニブランHS− 832、固形分濃度45質量%〕 30.93g
(c)水 64.94g
インク受理層用塗工液として、次の成分の均一混合物を用いた。
(a) 填料(フィラー)
・シリカ〔水澤化学工業社製、商品名:ミズカシルP−78F、固形分濃度100 質量%、レーザー法による粒子径:18μm〕 8.07g
・シリカ〔富士シリシア化学社製、商品名:サイリシア470、固形分濃度100 質量%、レーザー法による粒子径:14μm〕 8.06g
(b)結着剤(バインダー)
・スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合樹脂〔BASFディスパージョン社 製、商品名:アクロナールYJ−3042D、固形分濃度50質量%、疎水性樹 脂〕 15.59g
・シラノール変性ポリビニルアルコール〔クラレ社製、商品名:クラレRポリマー R−1130、固形分濃度100質量%、鹸化度98.0〜99.0モル%、 親水性樹脂、水により膨潤する〕 0.58g
(c)水 58.54g
【0033】
基材の一方の面に、アンカーコート層用塗工液を乾燥後の厚みが10μmになるように塗工し、乾燥処理後、このアンカーコート層上にインク受理層用塗工液を乾燥後の厚みが55μmになるように塗工し、乾燥処理することにより、インク受理層を設けインクジェット記録用シートを作製した。
インク受理層の空隙率の計算値は以下の通りである。
(1)真密度
インク受理層の構成成分を第1表に示す。各構成成分の密度は第1表中に記載した。該表において、各構成成分の投入量と固形分濃度から乾燥時のインク受理層の質量合計は24.51gとなる。また、各構成成分量と密度からインク受理層の各構成成分の本来の体積の合計は13.90cm3となる。
【0034】
【表1】

【0035】
インク受理層の真密度は 24.51/13.90=1.76g/cm3となる。
(2)嵩密度
基材にアンカーコート層用の塗工液を塗工して乾燥させた。乾燥後の厚みが10μmであった。次にアンカーコート層の上に、乾燥後の厚みが55μmとなるようにインク受理層用の塗工液を塗工し、乾燥処理することによりインク受理層を設け、インクジェット記録用シート作成した。
アンカーコート層用の塗工液を塗工して乾燥させた後の質量とインク受理層用の塗工液を塗工して乾燥させた後の質量の差および乾燥後のインク受理層の体積から、インク受理層の嵩密度は、0.53g/cm3となった。
(3)空隙率
以上よりインク受理層の空隙率は次のように計算される。
〔1−(0.53/1.76)〕×100=69.9%
得られたインクジェット記録用シートの性能の評価結果を第6表に示す。
【0036】
実施例2
実施例1におけるインク受理層用塗工液において、ミズカシルP−78Fおよびサイリシア470を、全てシリカ〔富士シリシア化学社製、商品名:サイリシア450、固形分濃度100質量%、レーザー法による粒子径:8.0μm〕に変更する以外は、実施例1と同様な操作を行い、インクジェット記録用シートを作製した。
実施例2におけるインク受理層の構成成分を第2表に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
インク受理層の真密度は24.51/13.53=1.81g/cm3となる。
インク受理層の嵩密度は、0.52g/cm3となり、実施例1と同様にして計算したところ、空隙率は71.3%であった。
シートの性能の評価結果を第6表に示す。
【0039】
実施例3
実施例1におけるインク受理層用塗工液において、クラレRポリマー R−1130をポリビニルアルコール〔クラレ社製、商品名:クラレポバールPVA−245、固形分濃度100質量%、鹸化度87.0〜89.0モル%、親水性樹脂、水により膨潤する〕に変更する以外は、実施例1と同様な操作を行い、インクジェット記録用シートを作製した。
実施例3におけるインク受理層の構成成分を第3表に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
インク受理層の真密度は24.51/13.90=1.76g/cm3となる。
インク受理層の嵩密度は、0.53g/cm3となり、実施例1と同様にして計算したところ、空隙率は69.9%であった。
シートの性能の評価結果を第6表に示す。
【0042】
比較例1
実施例1におけるインク受理層用塗工液において、クラレRポリマー R−1130を使用しない以外は、実施例1と同様な操作を行い、インクジェット記録用シートを作製した。
比較例1におけるインク受理層の構成成分を第4表に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
インク受理層の真密度は23.93/13.44=1.78g/cm3となる。
インク受理層の嵩密度は、0.55g/cm3となり、実施例1と同様にして計算したところ、空隙率は69.1%であった。
シートの性能の評価結果を第6表に示す。
【0045】
比較例2
実施例1におけるインク受理層用塗工液のクラレRポリマー R−1130の量を、1.95gに代えた以外は、実施例1と同様な操作を行い、インクジェット記録用シートを作製した。
比較例2におけるインク受理層の構成成分を第5表に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
インク受理層の真密度は25.88/15.00=1.73g/cm3となる。
インク受理層の嵩密度は、0.50g/cm3となり、実施例1と同様にして計算したところ、空隙率は71.1%であった。
シートの性能の評価結果を第6表に示す。尚、画像品質に関しては、特にバンディングの発生の点で劣っていた。
【0048】
【表6】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材とインク受理層とを有するインクジェット記録用シートであって、インク受理層が疎水性樹脂(a)と親水性樹脂(b)とを含有し、両樹脂の固形分質量比率(a):(b)が100:1〜100:20の範囲であり、且つインク受理層の空隙率が50〜85%の範囲であることを特徴とするインクジェット記録用シート。
【請求項2】
インク受理層が、填料として、レーザー法による平均粒子径が11〜25μmの範囲のシリカを含有する請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項3】
親水性樹脂(b)としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有する請求項1または2に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項4】
シラノール変性ポリビニルアルコールの鹸化度が90モル%を超える請求項3に記載のインクジェット記録用シート。