説明

インクジェット記録用光沢紙

【課題】良好なインク吸収性をもちながら、銀塩写真の高光沢感を有し、更に光沢表面の耐傷性にも優れ、印画紙基材又はフィルム基材を用いて製造した媒体に匹敵する画質と均一な光沢感を有し、かつ、リサイクル可能なインクジェット記録用光沢紙を提供する。
【解決手段】本発明は、基材の少なくとも片面に1層以上のインク受容層が設けられ、インク受容層上に、顔料及び結着剤を含有し、鏡面光沢仕上げがなされた光沢発現層が設けられたキャストコート紙であって、光沢発現層は、顔料として平均一次粒子径10〜80nmの球状コロイダルシリカだけを含有し、かつ、結着剤として(A)ガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンと(B)ガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンとを顔料100質量部に対して(A)6〜48質量部、(B)1〜20質量部の範囲内でそれぞれ含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用光沢紙に関し、特に銀塩写真並の光沢感を有し、かつ、特に光沢面の耐傷性が極めて優れている、写真画質に近い印字品位の高い記録用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの液滴を吐出し、記録紙上に付着させることによってドットを形成し、記録を行う方式である。近年、インクジェットプリンター、インク、記録媒体の技術的進歩によって、印字品質の高い記録が可能になってきている。インクジェット記録媒体に求められる要素としては、
(a)インクの吸収、乾燥が速いこと
(b)印字濃度が高いこと
(c)ドットの広がり若しくはひげ状の滲み又はその両方が無いこと
などがあげられる。一般の普通紙でも一定以上のサイズ性があれば、滲みが少なく、ある程度の印字品質が期待できる。一方、より高い印字品質を求める場合には、媒体上にインクジェットプリンターのインクに対して適性のあるインク受容層を各種基材上に設けた専用の媒体が使用される。これらインクジェット記録専用の媒体としては、紙及び/又はフィルムを支持体として、顔料と結着剤を主成分とする顔料塗工層又は顔料を含まない樹脂塗工層を表面に設けたものが多く使用される。
【0003】
インクジェット専用媒体は、更に表面状態からマット調媒体と光沢媒体に分類される。銀塩写真により近い画像品質を要求する場合には、後者の光沢媒体が使用される。これら光沢媒体に要求される特性としては。前記した特性以外に
(d)ドットの真円性が高く、画像再現性が良好なこと
(e)耐水性、耐光性が良好であること
(f)画像領域、白紙部分の光沢感が高いこと
などがあげられる。
【0004】
光沢媒体の製法としては、(a)のインク吸収性、乾燥性を維持しながら(b)〜(f)の各特性を維持するために、各種の方法が提案されているが、一般的方法は、キャスト法によってインク受容層を形成し表面に光沢を付与する方法と印画紙用基材上にインク受容層を形成する方法とがある。
【0005】
一般には、前者は、(a)のインク吸収性が後者に比べ制御しやすいが、(d)のドット真円性、画像再現性、(f)の画像領域、白紙部分の光沢感についての品位では後者に比べ劣っている。後者の印画紙用基材は、一般にRC紙(レジンコート紙)といわれるように、紙の基材上にポリエチレンのフィルム層が形成されているためにインク受容層をその表面に形成した場合、フィルム面が平滑であることからインク受容層の表面も平滑で、光沢のある表面が形成しやすい。
【0006】
しかし、印画紙用基材上にインク受容層を形成する方法での全体のコストは、インク吸収性をあげるために塗工量を多くする必要があり、また基材そのものが紙よりも高価であることから前者のキャスト法による光沢媒体に比べ高いものとなる。また、廃棄する場合には、複合素材であることからリサイクルができないといった問題もある。
【0007】
キャスト法によるインクジェット記録用光沢紙については、この点有利であるが、前記した品質面(d)及び(f)での問題があり、これらの課題を解決するために各種の提案がなされている。
【0008】
例えば、記録層表面の平均粗さ、光沢度及び記録紙の透気度を規定することで表面の平滑性が高く、画質の高級感に優れるインクジェット記録用紙が得られるとの提案がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0009】
また、記録層表面の亀裂の大きさ及び個数を規定することによって優れた光沢感及びインク受容性を有するインクジェット記録用紙が得られるとの提案もある(例えば、特許文献2を参照。)。
【0010】
さらに、パールネックレス状のコロイダルシリカを含むインクジェット記録シートの提案もある(例えば、特許文献3を参照。)。
【0011】
また、近年インク吸収速度が速く、銀塩写真並の光沢感を有するインクジェット記録用光沢紙として、アルミナ水和物を水溶性バインダーと混合して塗工した用紙が提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【0012】
表面の光沢性及びインク吸収性に係る課題のほか、光沢表面の耐傷性についても様々の提案がなされている。例えば、光沢発現層の結着剤に使用されるポリビニルアルコールの平均重合度やケン化度を規定して改善する提案がある(例えば、特許文献5を参照。)。また、光沢発現層の表面の平滑性及び粗さを規定して改善する提案もある(例えば、特許文献6を参照。)。
【0013】
さらに、最低造膜温度の異なる二種以上の高分子微粒子を使用し、かつ、乾燥条件を規定することによってインク吸収性と表面耐傷性を改善する提案もある(例えば、特許文献7を参照。)。
【0014】
【特許文献1】特開平06−72017号公報
【特許文献2】特開平11−348416号公報
【特許文献3】特開2000−108506号公報
【特許文献4】特開平06−055829号公報
【特許文献5】特開2005−280012号公報
【特許文献6】特開2006−168046号公報
【特許文献7】特開2003−170658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献2に記載の技術の場合には、亀裂数が少なすぎると光沢感が増す一方インク吸収性が低下するという問題点もある。
【0016】
また、特許文献3の技術では、パールネックレス状のコロイダルシリカを使用することで印字品質、特にインク吸収性向上には一定の効果があるが、表面耐傷性、光沢感が必ずしも満足できるには至っていない。
【0017】
このように特許文献1〜4に記載のインクジェット記録用光沢紙は、光沢感が非常に優れているという特徴をもつが、光沢感に優れているが故に光沢表面に傷が入りやすいという欠点をもつ。例えば、葉書用途に使用する場合に裏面に宛名印刷をするが、印刷時の給紙部ガイドによる擦れ及び排紙部の吸引車との擦れによって傷が付きやすいという欠点をもっている。また、インクジェットプリンターでの宛名印刷時に、光沢面と給紙ローラーとの接触によって傷が入りやすいという欠点も問題となる。
【0018】
近年では前記のごとく、例えば非光沢面への宛名印刷のような印刷工程及び後加工工程における作業性の問題から、光沢表面の耐傷性への要求が次第に高くなってきているのが現状である。よって、インクジェット記録用光沢紙に求められる耐傷性の要求レベルは、今後も次第に高くなっていくものであると容易に推察される。
【0019】
そこで、特許文献5〜7に記載の各提案内容がなされたわけであるが、特許文献5に記載の技術では、例えば気相法シリカの様な多孔質性顔料を使用した場合に、塗工層が塑性変形しやすくなり、耐傷性が不満足となる場合がある。また、特許文献6に記載の技術では、光沢発現層が塑性変形しやすい場合は耐傷性が不満足となる場合がある。さらに、特許文献7に記載の技術では、塗工層に高分子微粒子の他に顔料を添加しない場合は、乾燥温度の上限が使用する高分子微粒子の最低造膜温度に大きく左右されて乾燥効率が著しく低下して塗工速度が遅くなり、操業効率が低下する場合がある。また、塗工層が比較的塑性変形しやすいために耐傷性に劣る場合がある。さらに、高分子微粒子の他に顔料を使用しても、例えば気相法シリカの様な多孔質性顔料を使用した場合には、塗工層が塑性変形しやすくなって耐傷性が不満足となる場合がある。
【0020】
よって、本発明者等による光沢表面の耐傷性に関する研究結果から、前記各提案内容では益々高まる耐傷性への要求に対して完全には満足できないとの結論に至った。このような現状を鑑みると、キャスト法によって製造するインクジェット記録用光沢紙において、印画紙基材又はフィルム基材を用いて製造された媒体を超える画質と均一な光沢感を有し、かつ、非常に優れた光沢表面耐傷性を併せもつ記録媒体は全くないのが現状である。
【0021】
そこで本発明の目的は、キャスト法で製造されるインクジェット記録用光沢紙において、前記従来技術の問題点である、良好なインク吸収性をもちながら、銀塩写真並の高光沢感を有し、更に光沢表面の耐傷性にも極めて優れ、印画紙基材又はフィルム基材を用いて製造した媒体に匹敵する画質と均一な光沢感を有し、かつ、リサイクル可能な記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者等は、キャストコート法において、光沢発現層に含ませる顔料として平均一次粒子径10〜80nmの球状コロイダルシリカだけを使用し、かつ、光沢発現層に含ませる結着剤として、(A)ガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンと(B)ガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンとを所定の配合で含有させることで、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙は、基材の少なくとも片面に1層以上のインク受容層が設けられ、該インク受容層上に、顔料及び結着剤を含有し、鏡面光沢仕上げがなされた光沢発現層が設けられたキャストコート紙であって、前記光沢発現層は、前記顔料として平均一次粒子径10〜80nmの球状コロイダルシリカだけを含有し、かつ、前記結着剤として(A)ガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンと(B)ガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンとを前記顔料100質量部に対して(A)6〜48質量部、(B)1〜20質量部の範囲内でそれぞれ含有していることを特徴とする。
【0023】
本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、インク受容層を設けた後、前記光沢発現層を設ける前のJIS P 8117:1998「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」による透気抵抗度(ガーレー)が150秒以下であることが好ましい。インク吸収性と生産性に優れる。
【0024】
本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、前記光沢発現層は、更に前記結着剤としてシラノール変性ポリビニルアルコールを前記顔料100質量部に対して3〜16質量部含有することが好ましい。前記光沢発現層にシラノール変性ポリビニルアルコールが含まれることによって、より優れたインク吸収性とより優れた耐傷性とを両立することができる。
【0025】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、前記光沢発現層の顔料がアニオン性球状コロイダルシリカであることが好ましい。特に、光沢発現層の耐傷性に優れる。
【0026】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、前記光沢発現層の結着剤(A)がアクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂又はその両方であることが好ましい。特に、光沢感に優れる。
【0027】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、前記光沢発現層の結着剤(B)がアクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂又はその両方であることが好ましい。特に、光沢感に優れる。
【0028】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、前記光沢発現層にカチオン性高分子が含有されていることが好ましい。特に、印字部の耐水性に優れる。
【0029】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、先端径が75μmのサファイア針を用いて次に示す引掻き試験条件にて荷重変動型摩擦磨耗試験機による前記光沢発現層の表面の引掻き試験を行ったときに、表層膜が剥がれて切削粉が出始める臨界荷重が100gf以上である形態が含まれる。表層膜が剥がれて切削粉が出始める臨界荷重が100gf以上である光沢発現層を有する用紙ほど耐傷性に優れる。
(引掻き試験条件)
引掻き速度:0.5mm/秒
荷重増加速度:4gf/秒
【0030】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、次に示すダイナミック硬度試験条件において、超微小硬度計による光沢発現層の負荷時ダイナミック硬度が1.0以上である形態が含まれる。光沢発現層の表面の塑性変形度と耐傷性との関係を検討した結果、塑性変形度が小さい光沢発現層ほど耐傷性に優れる。
(ダイナミック硬度試験条件)
圧子:三角錐ダイヤモンド圧子(稜間角115度、圧子形状係数3.8584)
試験力:7mN
負荷速度:1.42mN/秒
【0031】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、JIS H 8686−2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法−第2部:機器測定法」に準じ、光学くし幅2mm入反射角度60°による条件の前記光沢発現層の写像性が50%以上である形態が含まれる。特に、光沢感に優れる。
【0032】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、前記インク受容層の塗工量が固形分換算で5〜12g/mであることが好ましい。インク吸収性と耐傷性とのバランスが良好となる。
【0033】
前記光沢発現層の塗工量が固形分換算で3〜20g/mであることが好ましい。インク吸収性に優れ、また、塗工時にバインダーマイグレーションも発生しないので耐傷性にも優れる。
【0034】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、キャストコート加工が凝固法であり、凝固剤としてホウ素化合物を含有することが好ましい。さらに、均一な光沢面質を得ることができる。
【0035】
また、本発明に係るインクジェット記録用光沢紙では、前記光沢発現層の表面pHが6.4以下であることが好ましい。特に、白紙退色及び変色が少なくなる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のインクジェット記録用光沢紙は、キャスト法で製造されたインクジェット記録用光沢紙でありながら、非常に良好な表面光沢感、インク吸収性及び光沢発現層表面の耐傷性を高いレベルで両立させながら、かつ、良好な発色性を有する物である。特に、後加工の作業性の問題から、光沢発現層表面の耐傷性についての要求は、益々レベルが上がっていくものと容易に推察されることから、本発明の有意性は大きいと考えられる。また、本発明では、紙を基材としていることから、フィルム層を有する印画紙基材に比べ、製造コストも低く、廃棄する場合にはリサイクル可能であり、資源の有効利用という観点からも好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。また、発明の効果を奏する限り、実施形態を変形してもよい。
【0038】
本実施形態に係るインクジェット記録用光沢紙は、基材の少なくとも片面に1層以上のインク受容層が設けられ、インク受容層上に、顔料及び結着剤を含有し、鏡面光沢仕上げがなされた光沢発現層が設けられたキャストコート紙である。ここで、光沢発現層は、顔料として平均一次粒子径10〜80nmの球状コロイダルシリカだけを含有し、かつ、結着剤として(A)ガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンと(B)ガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンとを顔料100質量部に対して(A)6〜48質量部、(B)1〜20質量部の範囲内でそれぞれ含有している。そして、インク受容層を設けた後、光沢発現層を設ける前のJIS P 8117:1998「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」による透気抵抗度(ガーレー)が150秒以下である。
【0039】
キャスト法によるインクジェット光沢紙の光沢発現層塗工液顔料としては、球状コロイダルシリカ、球状コロイダルシリカが複数個結合した凝集体コロイダルシリカ、気相法シリカ、アルミナなどを使用するのが一般的である。球状コロイダルシリカは、材質として硬度が高く、耐傷性の強い表面を形成できる可能性がある反面、粒子そのものに空隙を有しないために光沢発現層を形成したときに、インク吸収性が比較的悪い傾向にある。
【0040】
また、球状コロイダルシリカが複数個結合した凝集体コロイダルシリカとしては、パールネックレス状のコロイダルシリカなどが知られているが、本発明者等の光沢発現層の耐傷性に関する研究結果、球状コロイダルシリカに比べその幾何学的形状から製膜時の空隙を形成しやすく、インク吸収性に優れる一方で、製膜時の多孔質性があるが故に塑性変形及び割れが起こりやすく、耐傷性に極めて優れる表面性を有するという目標を達成するには不満足な点がある。
【0041】
また、気相法シリカについては、その極めて高い比表面積性に由来するインク吸収の良さからインクジェット記録用光沢紙で一般的に使用される顔料であるが、これも凝集体コロイダルシリカと同様の理由で高い耐傷性をもたせることが極めて困難である。
【0042】
また、アルミナについても、インク吸収性及び光沢感に優れることから極めてよく使用する顔料であるが、凝集体コロイダルシリカ及び気相法シリカと同様、材質由来の理由で高い耐傷性をもたせることが極めて困難であるという結果になった。
【0043】
前記の研究結果よって、顔料についての性質を鑑みると、耐傷性が真に優れたインクジェット記録用光沢紙を得ようとする場合は、顔料として使用できるのは球状コロイダルシリカに限定されるが、前述したようにインク吸収性に難があるためインク吸収性と耐傷性とを高いレベルでのバランスを取ろうとするには技術的課題が残っていた。
【0044】
また、光沢発現層の塑性変形を極小に抑えて耐傷性を向上させるためには、光沢発現層の結着剤成分、すなわち、樹脂成分をできるだけ増やす必要がある。本発明者等の鋭意検討の結果、塗工層の塑性変形を少なく抑えるためには、ガラス転移温度がより低い水分散重合体エマルジョンが効果のある樹脂であることが判明したが、成膜性が強すぎて、すなわちインクを吸収する空隙がなくなりインク吸収性が低下する場合がある。一方、ガラス転移温度がより高い水分散重合体エマルジョンを使用した場合には、塗工層にひびわれ(クラック)が生じやすくなって脆くなり、耐傷性が低下する反面、インク吸収性が向上する現象が見られた。これら諸現象から、結着剤として使用する水分散重合体エマルジョンのガラス転移温度の選択及び組み合わせが、耐傷性及びインク吸収性の両立にとって非常に重要な要素であることが判明した。
【0045】
一方で、本発明者等は、光沢発現層に発生する傷のメカニズムについても鋭意検討を行った。例えば、葉書用途の場合、非光沢面に宛名枠を印刷するためにオフセット印刷機などに通すわけであるが、給紙部ガイド等の明らかに光沢発現層より硬い材質に接触し、光沢発現層表面が摩耗することによって傷が発生する。一般に、摩耗の機構は、極めて複雑であるが、凝着磨耗とアブレシブ磨耗の2種類に大別される。凝着磨耗は、摩擦面の真実接触面積を構成する凝着部のせん断や破壊に起因する磨耗のことである。アブレシブ磨耗は、摩擦面の一方が硬い場合や摩擦面間に硬い異物が介在する場合に生じる切削作用による磨耗である。いずれの磨耗の磨耗量も、硬さに反比例する場合が多い。実際に印刷工程において発生した傷を、電子顕微鏡にて観察してみた結果、傷の形状の大多数は、塗工膜が割れたように破壊されており、その傷の溝の両端には盛り上がり(ウェッジ)が形成されていることから、要因のほとんどは、アブレシブ磨耗であると推測される。よって、光沢発現層の耐傷性を強くするには、表面の割れによる破壊が極めて発生しにくい塗工膜を形成させると同時に塗工膜の硬度を硬く、かつ、塑性変形し難いようにせしめる必要がある。ただし、従来のインクジェット記録用光沢紙は、当然のことながらインク吸収能を有するために必然的にその塗工膜が多孔質にならざるを得ず、その多孔質性と耐塑性変形性及び耐割れ性とは二律背反性を有しており、それらの両立が極めて困難なように考えられるために技術的課題となっていた。また、一般的な磨耗試験機としてテーバー磨耗試験機、学振式堅牢度摩擦試験機等が挙げられるが、磨耗後の傷を観察するとオフセット印刷機等による擦り傷の形状とはかなり異なっているために、実際の光沢発現層表面の耐傷性の優劣と整合性が取れなくなってしまう。
【0046】
よって、光沢発現層表面の耐傷性改良にとって必要不可欠なこととして、光沢発現層の構成の方法論確立とその表面耐傷性の精密な評価方法の確立であると考えられる。
【0047】
本発明においては、前記目的を達成するために光沢発現層を形成するための塗工液の顔料として球状コロイダルシリカだけを用いる必要がある。球状コロイダルシリカの平均一次粒子径は、10〜80nmの範囲である必要があり、更に好ましくは15〜50nmである。本発明で使用する球状コロイダルシリカは、単分散微粒子であり、粒子径がほぼ単一に揃っており、また凝集もしていない。球状コロイダルシリカの平均一次粒子径が10nm未満では、塗工膜表面が脆くなり、耐傷性に劣る。また、平均一次粒子径が80nmを超える場合は、塗工膜の成膜性が良好すぎて適度なひび割れが発生しにくく、インク吸収性に劣る。また、本発明に用いる球状コロイダルシリカは、前記平均一次粒子径の範囲内であれば粒子径が異なるものでも複数種混合することが可能である。また、本発明に用いる球状コロイダルシリカは、前記平均一次粒子径の範囲内であればいかなる製法のものでも使用してかまわない。球状コロイダルシリカの平均一次粒子径は、主として動的光散乱法(例えば、大塚電子社製、DLS‐6500)で求めることが可能であり、また、高倍率観察が可能なフィールドエミッション型の電子顕微鏡で直接観察して求めることも可能である。
【0048】
また、本発明においては、光沢発現層に含まれる結着剤は(A)ガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンと(B)ガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンである。そして、顔料100質量部に対して(A)は6〜48質量部、(B)は1〜20質量部の範囲内でそれぞれ含有される。前述したように、耐傷性を向上させるためには顔料が球状コロイダルシリカだけに限定されるが、インク吸収性に難がある。また、球状コロイダルシリカには細孔がほとんど存在しないために、インク吸収性を向上させるためには光沢発現層にインク吸収に適したひび割れ(クラック)を生じさせる必要がある。前述したように結着剤のガラス転移温度の高い方が成膜性に欠けるためにクラックが生じやすく、光沢感が低下する。また、結着剤のガラス転移温度が低い方は、成膜性が向上するためにクラックが生じにくくなり、耐傷性が向上する一方で光沢感に優れるようになる。本発明においては、ガラス転移温度が異なる結着剤を前記比率で光沢発現層に含有させることによって、顔料として球状コロイダルシリカだけを使用してもインク吸収に適度なクラックを生じさせることが可能なために、インク吸収性が優れた、かつ、耐傷性に優れた、かつ、光沢感に優れたインクジェット記録用光沢紙を作製することに成功した。
【0049】
本発明においては、光沢発現層に含まれる結着剤(A)の含有量が顔料100質量部に対して48質量部より多い場合は、光沢感に劣り、また前記結着剤(A)の含有量が顔料100質量部に対して6質量部より少ない場合は、インク吸収性に劣る。また、光沢発現層に含まれる結着剤(B)の含有量が顔料100質量部に対して20質量部より多い場合は、インク吸収性に劣り、また結着剤(B)の含有量が顔料100質量部に対して1質量部より少ない場合は、光沢感に劣る。光沢発現層に含まれる結着剤の含有量は、インク吸収性と光沢発現層表面の耐傷性と光沢感とのバランスから考慮すると、より好ましくは顔料100質量部に対して(A)は10〜40質量部、(B)は2〜18質量部の範囲内である。また、結着剤(A)のガラス転移温度が100℃を超える場合は、クラックが多数生じて光沢感の低下のおそれがあり、また60℃未満の場合は、成膜性が良好すぎてインク吸収性の低下のおそれがある。また、結着剤(B)のガラス転移温度が0℃未満の場合は、インク吸収性が低下するおそれがあり、また45℃を超える場合は、光沢感が低下するおそれがある。また、本発明においては、前記のガラス転移温度の範囲及び配合比率を満たしてさえいれば、結着剤(A)及び(B)について、各々2種類以上の水分散重合体エマルジョンを混合して使用することもできる。
【0050】
また、本発明においては、インク受容層を設けた後、光沢発現層を設ける前のJIS P 8117:1998「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」による透気抵抗度(ガーレー)が150秒以下であることが好ましい。インク受容層を設けた後、光沢発現層を設ける前の透気抵抗度が150秒を超える場合は、光沢発現層の乾燥効率が低下して所定の水分に到達するための乾燥時間が長くなるために、光沢発現層に含まれる結着剤の成膜がより進行するためにクラックが減少してインク吸収性が低下してしまう。また、透気性が悪化して乾燥効率が低下し、塗工スピードが低くなるため生産性の観点からも劣る。インク受容層が設けられた後の透気抵抗度が130秒以下であることがインク吸収性の観点からより好ましい。また、より好ましくは100秒以下であれば、インク吸収性の観点から更に好ましい。透気抵抗度の下限値は、特に限定されないが、20秒、好ましくは30秒である。
【0051】
さらに本発明においては、光沢発現層は、更に結着剤としてシラノール変性ポリビニルアルコールを顔料100質量部に対して3〜16質量部含有することが好ましい。結着剤として、シラノール変性ポリビニルアルコールを含有することで、顔料として球状コロイダルシリカを使用しても良好なインク吸収性を保持することが可能である。シラノール変性ポリビニルアルコールは、無機物に対する接着性が極めて高いために乾燥収縮が大きく、塗工膜に適度なひび割れを発生させることによってインク吸収性が向上すると推測される。また、シラノール変性ポリビニルアルコールが光沢発現層に含有されることによって、光沢発現層の塑性変形度が小さくなり、耐傷性が向上する。本発明で使用するシラノール変性ポリビニルアルコールの変性度及び重合度は、適宜選択することができる。添加部数が3部未満では、光沢発現層の耐傷性が劣る場合がある。また、添加量が16部を超える場合には、塗工膜のひび割れが少なくなるためにインク吸収性に劣る場合がある。シラノール変性ポリビニルアルコールの添加部数は、インク吸収性と光沢発現層の表面の耐傷性とのバランスから考慮すると、より好ましくは4〜14質量部である。さらに、好ましくは5〜12質量部である。
【0052】
さらに本発明においては、光沢発現層に用いる顔料である球状コロイダルシリカのイオン性は、アニオン性であることが好ましい。アニオン性の球状コロイダルシリカは、光沢発現層の耐傷性がより強い傾向にあるためであるが、その理由は、粒子間の凝集力がより強いためであろうと推察される。
【0053】
さらに本発明においては、光沢発現層の結着剤(A)のガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンとして、アクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂の単独使用又はこれらの混合使用であることが好ましい。アクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂の単独使用又はこれらの混合使用であることによって、高い光沢感を得ることができる。
【0054】
さらに本発明においては、光沢発現層の結着剤(B)のガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンとして、アクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂の単独使用又はこれらの混合使用であることも好ましい。アクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂の単独使用又はこれらの混合使用であることによって、高い光沢感を得ることができる。
【0055】
さらに、光沢発現層の結着剤(A)及び結着剤(B)と併用して用いることができる結着剤としては、前記のシラノール変性ポリビニルアルコールのほか、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、大豆タンパク、ポリエチレンイミド系樹脂、ポリビニルピロヒドリン系樹脂、ポリアクリル酸又はその共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリルアミド系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス類、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス類、コロイダルシリカとアクリルの共重合体樹脂、コロイダルシリカとスチレン−アクリルの共重合体樹脂等の樹脂類を例示することができるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されるものではない。
【0056】
さらに本発明においては、光沢発現層にカチオン性高分子が含有されることが印字部の耐水性の観点からも好ましい。
【0057】
さらに本発明において、先端径が75μmのサファイア針を用いて引掻き速度が0.5mm/秒、荷重増加速度が4gf/秒の条件にて荷重変動型摩擦磨耗試験機による光沢発現層表面の引掻き試験を行ったときに、表層膜が剥がれて切削粉が出始める臨界荷重が100gf以上であることが好ましい。臨界荷重が100gf未満であると、光沢発現層の耐傷性に不安がある。臨界荷重が120gf以上であれば、耐傷性が更に強く、より好ましい。臨界荷重の上限値は、特に制限はないが、例えば200gfである。臨界荷重測定は、材質及び先端径が定まった針を試料表面に当て、連続荷重をかけながら掃引するものであり、試料表面に傷が付き、切削粉が出始めるときの荷重を臨界荷重とする。通常、臨界荷重点においては、負荷荷重と針が受ける垂直荷重の関係が不連続点となるためグラフチャートから容易に求めることができる。また、CCDカメラ等で針先端部を目視しながら測定することによって、より正確な臨界荷重を求めることが可能となる。臨界荷重の測定は、荷重変動型摩擦磨耗試験機(トライボギアHHS2000、新東科学社製)を使用したが、本測定器と同様の原理を有する荷重変動型摩擦磨耗試験機であれば、いかなる測定機でも使用可能である。引掻き針の材質及び先端径については適宜選択することも可能であったが、本発明者等の鋭意検討の結果、例えば非光沢面の印刷工程で欠点となる擦り傷の形状を再現するためには75μmの先端径を有するサファイア製の針を使用することが妥当であることが判明した。
【0058】
さらに、本発明においては、超微小硬度計による光沢発現層の負荷時ダイナミック硬度が1.0以上であることが好ましい。また、負荷時ダイナミック硬度が1.2以上であれば、光沢発現層表面がよりいっそう塑性変形しにくくなるためより好ましい。ダイナミック硬度は、金属材料の硬さ測定等に広く用いられているビッカース硬度、ヌープ硬度等の力を負荷してくぼみを作製し、くぼみの対角線長さから硬さを求めるという方式ではなく、圧子が試料にどれだけ侵入したかによって硬度を求める方式を採用している。試料力P(mN)、圧子の試料への侵入長さ(押し込み深さ)A(μm)としたとき、ダイナミック硬度Dを、次の式(数1)によって求める。
(数1)D=α×P÷A(α:圧子形状係数)
このダイナミック硬度Dは、圧子を押し込んでいく過程の試料力Pと押し込み深さAとから得られる硬さで、試料の塑性変形だけでなく、弾性変形をも含んだ状態での強度特性といえる。また、超微小硬度計によるダイナミック硬度は、負荷試験及び負荷除荷試験を同時に実施でき、求めることが可能であるが、本発明においては負荷試験によるダイナミック硬度を採用している。ダイナミック硬度の測定は、超微小硬度計(DUH−201、島津製作所社製)を用いて行い、圧子は、三角錐ダイヤモンド圧子(稜間角115度、圧子形状係数:3.8584)を用い、試験力は、7mNの条件で、負荷速度は、1.42mN/秒の条件で測定を行った。
【0059】
また更に、光沢発現層には、離型剤、分散剤、増粘剤、防腐剤、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、耐水化剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を適宜選定して添加することができる。
【0060】
本発明の光沢発現層を形成する塗工液の塗布法としては、エアーナイフ、ロールコーター、リバースロールコータ−、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーターなど公知の塗工機が用いられる。塗工量は、固形分換算で3〜20g/m、好ましくは5〜15g/mの範囲が好ましい。塗工量が20g/mを超えると、生産性が劣る。また、塗工量が3g/m未満の場合には、十分な光沢面が形成しづらい。
【0061】
さらに、JIS H 8686−2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法−第2部:機器測定法」に準じ、光学くし幅2mm入反射角度60°による条件の光沢発現層の写像性が50%以上であることが光沢感の観点から好ましい。さらに好ましくは、写像性が55%以上を有することである。写像性が60%以上であれば、更に優れた光沢感を有するといえる。ここで、入反射角度を当該JIS記載の45°を60°と変更した理由は、光沢感の差異を評価しやすくするためである。
【0062】
光沢発現層は、公知のキャストコート法によって形成する。キャストコート法には、ウエット法、凝固法及びリウエット法が知られており、本発明においては凝固法であることが好ましい。凝固法は、光沢発現層を塗布し湿潤状態にあるうちに凝固液を塗布して凝固処理してキャストドラムに圧接する方法である。凝固処理においては、塗工層の結着剤成分と効果的に凝固するものを選定することが重要であり、本発明においてはホウ素化合物が好ましい。より好ましくは、ホウ酸ナトリウム若しくはホウ酸又はその両方を用いる。また、凝固液濃度が高い場合は、凝固力が強くなり、耐傷性がより良化するので好ましい。さらに、凝固剤にインクを定着させるためのカチオン性ポリマーを添加することも可能である。また、塗布から凝固剤を付与するまでの時間、凝固剤を付与してキャストドラムに到達するまでの時間、キャストドラム温度、圧着するときの圧力、ライン速度を調整することによって、光沢度の高い光沢発現層が形成できる。これらの諸条件については、使用する設備、塗料に応じて最適条件を求めることで適正化する必要がある。
【0063】
凝固剤の成分若しくは凝固剤のpHのいずれか一方又はその両方によっては、乾燥後の光沢発現層の表面pHが影響を受けることがある。光沢発現層の表面pHが6.4以下に調整する方が白紙退色及び変色が少なくなるので好ましい。さらに好ましくは、表面pHが6.0以下である。表面pHの下限値は、実用上では5.0である。
【0064】
また、キャスト処理後にマシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダー等のカレンダー処理を行ってもよいし、カール調整のため、裏面に水、カール調整剤などを塗布したり、加湿したりしてカール調整を行うこともできる。
【0065】
本発明のインクジェット記録用光沢紙は、光沢発現層の下に1層以上のインク受容層を設ける。インク受容層は、白色顔料と結着剤成分とを主成分とするものである。
【0066】
インク受容層に用いる顔料としては、公知の白色顔料を1種以上含むものであり、例えば、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルムニウム、水酸化マグネシウム、サチンホワイト、合成シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ等の白色無機顔料又はアクリル−スチレン、エチレン、塩化ビニル、ナイロンなどの有機顔料があげられる。
【0067】
本発明で用いられるインク受容層の結着剤は、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、大豆タンパク、ポリエチレンイミド系樹脂、ポリビニルピロヒドリン系樹脂、ポリアクリル酸若しくはその共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリルアミド系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルの重合体若しくは共重合体等のアクリル系重合体ラテックス類、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス類の樹脂類が例示され、単独又は併用して用いられる。結着剤の使用量は、記録媒体の印字適性、インク受容層の強度、塗料液性を考慮して決定される。通常、インク受容層中の顔料質量に対し1〜200質量部の範囲で添加される。好ましくは、5〜100質量部程度の範囲で添加される。1質量部未満であると、塗工層強度が低下する場合がある。200質量部を超えると、インク吸収性が低下する場合がある。
【0068】
インク受容層中には、前記顔料及び前記結着剤以外にカチオン性ポリマーを添加することが好ましい。カチオン性ポリマーの作用としては、インク中に使用されている染料中のアニオン性の成分と反応し水に不溶な塩を形成することから、インクをインク受容槽に、より強固に定着させ、耐水性が向上する。このようなカチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、エピクロルヒドリン変性ポリアルキルアミン、ポリアミン、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン、ジメチルアミンアンモニアエピクロルヒドリン、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムハライド、ポリジアクリルジメチルアンモニウムハライド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート塩酸塩、ポリビニルピリジウムハライド、カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリスチレン共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド二酸化硫黄共重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドアミド共重合物、ジシアンジアミドホルマリン重縮合物、ジシアンジアミドジエチレントリアミン重縮合物、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミドエポキシ樹脂、メラミン樹脂酸コロイド、尿素系樹脂、カチオン変性PVA、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型化合物、その他第4級アンモニウム塩類などが用いられる。添加量は、特に限定されないが、インク受容層中の全顔料100質量部に対し1〜50質量部の範囲で使用される。好ましくは、5〜40質量部程度の範囲で添加される。1質量部未満であると印画部の耐水性が低下する場合がある。50質量部を超えるとインク吸収性が劣る場合がある。
【0069】
その他の添加剤としては、必要に応じて消泡剤、潤滑剤、分散剤、湿潤剤、蛍光増白剤、着色染料、着色顔料、増粘剤、防腐剤、耐水化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを使用できる。
【0070】
インク受容層を形成するための塗工液の塗布法としては、エアーナイフ、ロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーターなど公知の塗工機を用いる。塗工量は、特に限定されないが、塗工量が少なすぎる場合はインク吸収性が劣ることから、固形分換算で5g/m以上とすることが好ましい。また、塗工量が多すぎる場合は光沢発現層塗工時にバインダーマイグレーションが発生し、光沢発現層表面の耐傷性が低下する恐れがあるので12g/m以下が好ましい。より好ましくは、6〜10g/mである。インク受容層用塗工液を2回以上塗工して、インク受容層を二層以上で構成させてもよい。
【0071】
また、塗工後に一定の平滑性を出すために、インク受容層をスーパーカレンダー、マシンカレンダー、ソフトカレンダーなど公知のカレンダー装置によって処理することも可能である。
【0072】
本実施形態に係るインクジェット記録用光沢紙では、インク受容層及び光沢発現層を基材の片面に設けるが、両面印刷用とする場合では、インク受容層及び光沢発現層を基材の両面に設けてもよい。
【0073】
本発明で使用する基材としては、通常の上質紙、中質紙、白板紙等の紙基材を用いる。燃料としてリサイクルされる場合を考慮し、原料パルプとしては、塩素含有量の少ないECF(Elemental Chlorine Free)パルプ又はTCF(Totally Chlorine Free)パルプの使用が望ましい。また、基材に使用するパルプのカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)は、好ましくは400〜580ml、より好ましくは450〜550mlとする。インク受容層を設けた後、光沢発現層を設ける前の状態での透気抵抗度を下げることができ、150秒以下と調整しやすくなる。
【0074】
キャストコート時における塗工液の過度の浸透を抑えるために、サイズプレスで澱粉、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を塗布した基材を使用することが好ましい。
【実施例】
【0075】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り固形質量部及び固形質量%を示す。
【0076】
実施例1:
基材として、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)530mlに叩解したL−BKP(広葉樹漂白クラフトパルプ)100部に対して、内添填料としてタルク(商品名:Tライト83、太平タルク社製)5部を添加し、更に硫酸バンド3%、ロジンサイズ剤(商品名:AL−120、星光PMC社製)0.25部、カチオン化澱粉(商品名:マーメイドC−50、敷島スターチ社製)1.0部を添加し調製して抄紙した後、酸化澱粉で表面処理し、坪量180g/mの上質紙を抄造した。この上質紙の片面に、顔料として合成シリカ(ミズカシルP−78A、水澤化学工業社製)100質量部、結着剤としてポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)10質量部、エチレン−酢酸ビニル(ポリゾールEVA AD−10:昭和高分子社製)40質量部、カチオンポリマー(パピオゲンP−105:センカ社製)30質量部を用い、固形分濃度22%の塗工液をエアーナイフコーターで絶乾塗工量12g/mとなるように塗布・乾燥してインク受容層を塗設した。このときのインク受容層塗設後のJIS P 8117:1998による透気抵抗度は、100秒であった。次いで、光沢発現層用塗工液の顔料として球状コロイダルシリカ(SYLOJET4000C、カチオン性、平均一次粒子径30〜40nm:グレースデビソン社製)100質量部、結着剤としてアクリル樹脂エマルジョン(リカボンドES−63、ガラス転移温度90℃:中央理化工業社製)10質量部、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン(モビニール880、ガラス転移温度3℃:ニチゴーモビニール社製)4質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部、カチオンポリマー(スミレーズレジン1001:住友化学工業社製)10質量部、離型剤としてポリエチレンエマルジョン(SNコート287:サンノプコ社製)1質量部を用いて固形分濃度20%の塗工液を得た。この塗工液を前記インク受容層の上にエアーナイフコーターで絶乾塗工量10g/mとなるように塗布し、次いでホウ酸ナトリウム1%水溶液を塗布して凝固処理を行ったのち、得られた塗工層表面が湿潤状態にあるうちに表面温度105℃のキャストドラムに圧着し、インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0077】
実施例2:
カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)450mlに叩解したL−BKPを使用した以外は、実施例1と同様の方法で基材を調製し、実施例1と同様の方法でインク受容層を塗設した。このときのインク受容層塗設後の透気抵抗度は、150秒であった。さらに、実施例1と同様の方法で光沢発現層を設けてインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0078】
実施例3:
実施例1と同様にして基材を調製し、実施例1と同様にしてインク受容層を塗設した。次いで、光沢発現層塗料の顔料として球状コロイダルシリカ(アデライトAT−20Q、アニオン性、平均一次粒子径10nm:ADEKA社製)100質量部、結着剤としてアクリル樹脂エマルジョン(リカボンドES−63、ガラス転移温度90℃:中央理化工業社製)10質量部、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン(モビニール880、ガラス転移温度3℃:ニチゴーモビニール社製)4質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部、離型剤としてポリエチレンエマルジョン(SNコート287:サンノプコ社製)1質量部を用いて固形分濃度19%の塗工液を得た。この塗工液を前記インク受容層の上にエアーナイフコーターで絶乾塗工量10g/mとなるように塗布し、次いでホウ酸ナトリウム1%、カチオンポリマー(スミレーズレジン1001:住友化学工業社製)2%となる混合水溶液を塗布して凝固処理を行ったのち、得られた塗工層表面が湿潤状態にあるうちに表面温度105℃のキャストドラムに圧着し、インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0079】
実施例4:
実施例3において光沢発現層塗料の結着剤を、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン(パスコールJK−730、ガラス転移温度70℃:明成化学工業社製)10質量部、アクリル樹脂エマルジョン(モビニール747、ガラス転移温度42℃:ニチゴーモビニール社製)4質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0080】
実施例5:
実施例3において光沢発現層塗料の結着剤を、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン(パスコールJK−730、ガラス転移温度70℃:明成化学工業社製)48質量部、アクリル樹脂エマルジョン(モビニール747、ガラス転移温度42℃:ニチゴーモビニール社製)20質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0081】
実施例6:
実施例3において光沢発現層塗料の結着剤を、スチレンーアクリル樹脂エマルジョン(パスコールJK−730、ガラス転移温度70℃:明成化学工業社製)6質量部、アクリル樹脂エマルジョン(モビニール747、ガラス転移温度42℃:ニチゴーモビニール社製)1質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0082】
実施例7:
実施例3において光沢発現層塗料の顔料として、球状コロイダルシリカ(カタロイドSI−80P、アニオン性、平均一次粒子径78nm:触媒化成工業社製)100質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0083】
実施例8:
実施例3において、凝固液をホウ酸ナトリウム3%、カチオンポリマー(スミレーズレジン1001:住友化学工業社製)2%の混合水溶液にしたこと以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0084】
実施例9:
実施例3において、凝固液をホウ酸1%、ホウ酸ナトリウム3%、カチオンポリマー(スミレーズレジン1001:住友化学工業社製)2%の混合水溶液にしたこと以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0085】
実施例10:
実施例3において、インク受容層の絶乾塗工量を7g/mとし、インク受容層塗設後の透気抵抗度が90秒であったこと以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0086】
比較例1:
実施例1において光沢発現層塗料の顔料として、BET比表面積200m/gの気相法シリカ(アエロジル200、平均一次粒子径12nm:日本アエロジル社製)100質量部とした以外は、実施例1に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0087】
比較例2:
実施例1において光沢発現層塗料の顔料として、BET比表面積220m/gのアルミナ(TM−300、結晶形−γ型、平均一次粒子径7nm:大明化学工業社製)100質量部とした以外は、実施例1に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0088】
比較例3:
実施例1において光沢発現層塗料の顔料として、凝集体コロイダルシリカの一種であるパールネックレス状コロイダルシリカ(スノーテックスPS−MO、カチオン性、平均一次粒子径18〜25nm、平均二次粒子径80〜150nm:日産化学工業社製)100質量部とした以外は、実施例1に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0089】
比較例4:
実施例1において光沢発現層塗料の顔料として、凝集体コロイダルシリカの一種であるパールネックレス状コロイダルシリカ(スノーテックスPS−MO、カチオン性、平均一次粒子径18〜25nm、平均二次粒子径80〜150nm:日産化学工業社製)20質量部、球状コロイダルシリカ(SYLOJET4000C、カチオン性、平均一次粒子径30〜40nm:グレースデビソン社製)80質量部とした以外は、実施例1に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0090】
比較例5:
実施例1において光沢発現層塗料の顔料として、球状コロイダルシリカ(スノーテックスAK−YL、カチオン性、平均一次粒子径114nm:日産化学工業社製)100質量部とした以外は、実施例1に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0091】
比較例6:
実施例3において光沢発現層塗料の顔料として、球状コロイダルシリカ(スノーテックスXS、アニオン性、平均一次粒子径4〜6nm:日産化学工業社製)100質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0092】
比較例7:
実施例3において光沢発現層塗料の結着剤として、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン(ニューコートH5200、ガラス転移温度105℃:新中村化学社製)10質量部、スチレンーアクリル樹脂エマルジョン(モビニール880、ガラス転移温度3℃:ニチゴーモビニール社製)4質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0093】
比較例8:
実施例3において光沢発現層塗料の結着剤として、結着剤としてアクリル樹脂エマルジョン(リカボンドES−63、ガラス転移温度90℃:中央理化工業社製)10質量部、ポリウレタン樹脂エマルジョン(スーパーフレックス500、ガラス転移温度−39℃:第一工業製薬社製)4質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0094】
比較例9:
実施例3において、結着剤としてアクリル樹脂エマルジョン(リカボンドES−63、ガラス転移温度90℃:中央理化工業社製)50質量部、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン(モビニール880、ガラス転移温度3℃:ニチゴーモビニール社製)22質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0095】
比較例10:
実施例3において、結着剤としてアクリル樹脂エマルジョン(リカボンドES−63、ガラス転移温度90℃:中央理化工業社製)5質量部、シラノール変性ポリビニルアルコール(PVA−R1130:クラレ社製)3質量部とした以外は、実施例3に記載したとおりの条件でインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0096】
比較例11:
カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)400mlに叩解したL−BKPを使用した以外は、実施例1と同様の方法で基材を調製し、実施例1と同様の方法でインク受容層を塗設した。このときのインク受容層塗設後の透気抵抗度は、180秒であった。さらに、実施例1と同様の方法で光沢発現層を設けてインクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0097】
得られたインクジェット記録用光沢紙について次の試験を実施し、結果を表1に示した。
【0098】
(1)光沢発現層表面の引掻き試験における臨界荷重:
得られたインクジェット記録用紙の光沢発現層表面の引掻き試験による臨界荷重を測定した。引掻き試験は、荷重変動型摩擦磨耗試験機(トライボギアHHS2000、新東科学社製)を使用し、次の条件で測定を行った。臨界荷重が100gf以上であると、耐傷性の観点から好ましい。臨界荷重が100gf未満であると、耐傷性の観点から実用上問題あり。
引掻き針:サファイア製、先端径75μm
引掻き速度:0.5mm/秒
荷重増加速度:4gf/秒
【0099】
(2)光沢発現層表面のダイナミック硬度:
得られたインクジェット記録用紙の光沢発現層表面のダイナミック硬度を測定した。ダイナミック硬度は、超微小硬度計(DUH−201、島津製作所社製)を使用し、次の条件で測定を行った。また、ダイナミック硬度は、試験力負荷時の押し込み深さから、次の計算式よって求めた。負荷時のダイナミック硬度が1.0以上であると、耐傷性の観点から好ましい。負荷時のダイナミック硬度が1.0未満では、耐擦傷性の観点から実用上問題がある。
使用圧子:三角錐ダイヤモンド圧子(稜間角115度、圧子形状係数:3.8584)
試験力:7mN
負荷速度:1.42mN/秒
ダイナミック硬度の計算:D=α×P÷A(D:ダイナミック硬度、P:試験力(mN)、A:圧子の試料表面への押し込み深さ(μm)、α:圧子形状係数)
【0100】
(3)光沢発現層表面の写像性:
得られたインクジェット記録用紙の光沢発現層表面の鏡面性を評価するために写像性を測定した。写像性は、JIS H 8686−2「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法−第2部:機器測定法」に準じて、光学くし幅2mmにて入反射角度60°とし、写像性測定器(ICM−1T:スガ試験機社製)にて測定した。評価としては、写像性が50%以上は、反射した像が鮮明に写り、光沢感に優れている。50%未満では、反射した像が不鮮明に写り、光沢感に劣る(実用上問題あり)。
【0101】
(4)画像鮮明性:
ISO標準画像(ISO/JIS‐SCID高精細カラーデジタル標準画像データ、画像の名称:ポートレート、画像の識別番号:N1)をセイコーエプソン社製インクジェットプリンター「PM−900C」を用い、得られたインクジェット記録用紙に印字した。印字した画像を目視によって評価した。
◎:記録画像が非常に鮮明でコントラストがはっきりしており、実用できる。
○:記録画像が鮮明でコントラストがはっきりしており、実用できる。
△:記録画像が鮮明であるがコントラストがはっきりしなく、色が沈んでおり、実用上問題がある。
×:記録画像が不鮮明で、色が沈んでおり、実用上不可。
【0102】
(5)インク吸収性:
セイコーエプソン社製インクジェットプリンター「PM−900C」を用い、CMYKの各インク並びにRGB(Red‐Green‐Blue)のベタ(100%濃度)及び文字を得られたインクジェット記録用紙に印字した。ベタ部の各色の境界及び文字の滲みの程度を目視によって評価した。
◎:境界がくっきりして滲みが全く無く、文字が鮮明であり、実用できる。
○:境界の滲みが目立たず、文字が鮮明であり、実用できる。
△:境界の滲みが目立ち、文字が不鮮明で実用上問題がある。
×:境界の滲みがひどく、文字が判別できなくなり実用上不可。
【0103】
(6)光沢発現層表面の耐傷性:
オフセット印刷機(LITHRON40、KOMORI製)に得られたインクジェット記録用紙を20枚セットして、擦り傷の出やすい高速印刷速度(8500枚/時)で裏面側の印刷を行ったときに発生した、光沢発現層表面の擦り傷の度合いを目視評価した。
◎:擦り傷が全く無く良好であり、実用できる。
○:擦り傷が僅かに認められるが目立たず、実用できる。
△:擦り傷が明らかに認められ、実用上問題がある。
×:擦り傷が著しく認められ、実用上不可。
【0104】
(7)光沢発現層表面の表面pH:
共立理化学研究所製の紙質検査用pH計を用いて、得られたインクジェット記録用紙の光沢発現層表面の表面pHを測定した。
【0105】
【表1】

【0106】
表1から明らかなように、1層以上のインク受容層上に設けられた光沢発現層は顔料が平均一次粒子径10〜80nmの球状コロイダルシリカだけを含有し、かつ、光沢発現層に含ませる結着剤は(A)ガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンと(B)ガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンとが前記顔料100質量部に対して(A)6〜48質量部、(B)1〜20質量部の範囲内でそれぞれ含有されており、インク受容層が設けられた後の透気抵抗度が150秒以下である実施例1〜10は、比較例1〜11に比べて印字性能と光沢感に優れ、かつ、光沢発現層の耐傷性に優れていることが分かった。
【0107】
比較例1は、光沢発現層で用いる顔料として気相法シリカを用いたので、光沢表面の耐傷性に劣った。比較例2は、光沢発現層で用いる顔料としてアルミナを用いたので、同様に光沢表面の耐傷性に劣った。比較例3は、光沢発現層で用いる顔料としてパールネックレス状コロイダルシリカを用いたので、同様に光沢表面の耐傷性に劣った。比較例4は、光沢発現層で用いる顔料として球状コロイダルシリカを添加したもののパールネックレス状コロイダルシリカも添加したので、同様に光沢表面の耐傷性に劣った。比較例5は、平均一次粒子径が大きすぎる球状コロイダルシリカを添加したので、画像鮮明性及びインク吸収性に劣った。比較例6は、平均一次粒子径の小さすぎる球状コロイダルシリカを添加したので、画像鮮明性及びインク吸収性は優れているものの光沢表面の耐傷性に劣った。比較例7は、ガラス転移温度の高いほうの結着剤のガラス転移温度が高すぎたために光沢感に劣った。比較例8は、ガラス転移温度の低いほうの結着剤のガラス転移温度が低すぎたためにインク吸収性に劣った。比較例9は、ガラス転移温度の高いほうと低いほうの結着剤の添加量が多すぎたためにインク吸収性に劣った。比較例10は、ガラス転移温度の高いほうと低いほうの結着剤の添加量が少なすぎたために耐傷性に劣った。比較例11は、インク受容層塗設後のガーレー試験機法による透気抵抗度が高すぎたためにインク吸収性に劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に1層以上のインク受容層が設けられ、該インク受容層上に、顔料及び結着剤を含有し、鏡面光沢仕上げがなされた光沢発現層が設けられたキャストコート紙であって、
前記光沢発現層は、前記顔料として平均一次粒子径10〜80nmの球状コロイダルシリカだけを含有し、かつ、前記結着剤として(A)ガラス転移温度が60〜100℃である水分散重合体エマルジョンと(B)ガラス転移温度が0〜45℃である水分散重合体エマルジョンとを前記顔料100質量部に対して(A)6〜48質量部、(B)1〜20質量部の範囲内でそれぞれ含有していることを特徴とするインクジェット記録用光沢紙。
【請求項2】
前記インク受容層を設けた後、前記光沢発現層を設ける前のJIS P 8117:1998「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」による透気抵抗度(ガーレー)が150秒以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項3】
前記光沢発現層は、更に前記結着剤としてシラノール変性ポリビニルアルコールを前記顔料100質量部に対して3〜16質量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項4】
前記光沢発現層の顔料がアニオン性球状コロイダルシリカであることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項5】
前記光沢発現層の結着剤(A)がアクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂又はその両方であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項6】
前記光沢発現層の結着剤(B)がアクリル樹脂若しくはアクリル−スチレン樹脂又はその両方であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項7】
前記光沢発現層にカチオン性高分子が含有されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6に記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項8】
先端径が75μmのサファイア針を用いて次に示す引掻き試験条件にて荷重変動型摩擦磨耗試験機による前記光沢発現層の表面の引掻き試験を行ったときに、表層膜が剥がれて切削粉が出始める臨界荷重が100gf以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載のインクジェット記録用光沢紙。
(引掻き試験条件)
引掻き速度:0.5mm/秒
荷重増加速度:4gf/秒
【請求項9】
次に示すダイナミック硬度試験条件において、超微小硬度計による前記光沢発現層の負荷時ダイナミック硬度が1.0以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のインクジェット記録用光沢紙。
(ダイナミック硬度試験条件)
圧子:三角錐ダイヤモンド圧子(稜間角115度、圧子形状係数3.8584)
試験力:7mN
負荷速度:1.42mN/秒
【請求項10】
JIS H 8686−2:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性試験方法−第2部:機器測定法」に準じ、光学くし幅2mm入反射角度60°による条件の前記光沢発現層の写像性が50%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項11】
前記インク受容層の塗工量が固形分換算で5〜12g/mであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項12】
前記光沢発現層の塗工量が固形分換算で3〜20g/mであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項13】
キャストコート加工が凝固法であり、凝固剤としてホウ素化合物を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載のインクジェット記録用光沢紙。
【請求項14】
前記光沢発現層の表面pHが6.4以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13記載のインクジェット記録用光沢紙。

【公開番号】特開2010−94850(P2010−94850A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265933(P2008−265933)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】