説明

インクジェット記録用水性インク、それを用いたインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】液寄りに起因する白スジや滲みがなく、かつ光沢を有する画像を形成しうるインクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】色材と、バインダ樹脂と、界面活性剤と、水系溶媒とを含むインクジェット記録用水性インクであって、前記インクを加熱したときに、
(1)インクの重量変化率が0%以上10%以下にわたって、E型粘度計により25℃、1rpmで測定されるインクの粘度が10mPa・s超30mPa・s以下であり、
(2)インクの重量変化率が35%以上55%以下のいずれかで、E型粘度計により25℃、1rpmの条件で測定されるインクの粘度が200mPa・sとなる点を有し、
(3)インクの重量変化率が5%であるときの、インクの25℃における表面張力が、前記加熱前のインクの25℃における表面張力よりも低い、インクジェット記録用水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インク、それを用いたインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター、印刷機、マーカー等に用いられる各種インク材料は、水および水系の溶剤を用いた水性インクと、非水系の溶剤を用いた溶剤インクが知られている。近年、環境負荷や消費者・印刷技術者の健康面への影響を低減するために、油性インクが主に用いられていた分野においても、水性インクへの転換が求められている。例えば、長期の耐候性が求められる屋外掲示物や、ポリ塩化ビニル製シート等の水性インクを吸収しない記録媒体へのプリントは、通常溶剤インクを用いて行われていた。このような分野においても、非水系の溶剤を含まない水性インクへの転換が求められている。
【0003】
これらのインクを用いたプリント方法も各種知られており、それらの中でも版を作製する必要がなく、少量多品種の生産に適しており、インクの使用量を抑えることができることから、インクジェット記録方法が好ましく用いられている。
【0004】
インクジェット記録用の水性インクとしては、例えば、着色剤、潤滑剤、浸透剤、および水分を含むインク組成物が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−77232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような水性インクは、ポリ塩化ビニル製シートのような水を吸収しない記録媒体には吸収されにくい。そのため、着弾したインク滴が、記録媒体上で乾燥して固定化されるまでに、インク滴同士が寄り合って(液寄りして)しまうことがあった。液寄りによって、本来存在すべき位置にあったインク滴が移動することによって記録媒体の地の色がスジ状に現れる「白スジ」や、異なる色のインク滴同士が混じり合う「カラーブリード」が発生することがあり、画質劣化の原因になっていた。
【0007】
液寄りに起因する白スジやカラーブリードは、インクの粘度を高めて、インク滴を移動させにくくすることで抑制できると考えられる。しかしながら、粘度が高すぎるインクは、濡れ広がりにくい(レベリングしにくい)ため、乾燥後のインク皮膜の表面は凸凹になり、光沢が得られにくいという問題があった。即ち、液寄りに起因する白スジやカラーブリードのない画像を得ることと、光沢を有する画像を得ることを両立させることは難しかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液寄りに起因する白スジやカラーブリードがなく、かつ光沢を有する画像を形成しうるインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、インクを加熱したときの増粘挙動(乾燥特性)を制御することで、液寄りに起因する白スジやカラーブリードがなく、かつ光沢を有する画像を形成できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第一は、インクジェット記録用水性インクに関する。
[1] バインダ樹脂と、色材、界面活性剤および水系溶媒を有するインクジェット記録用水性インクであって、
前記インクを加熱したときのインクの重量変化率を下記式で表すとき、
インクの重量変化率(%)=((加熱前のインクの重量−加熱後のインクの重量)/加熱前のインクの重量)×100
(1)前記インクの重量変化率が0%以上10%以下にわたって、E型粘度計により25℃、1rpmで測定されるインクの粘度が10mPa・s超30mPa・s以下であり、
(2)前記インクの重量変化率が35%以上55%以下のいずれかで、E型粘度計により25℃、1rpmの条件で測定されるインクの粘度が200mPa・sである点を有し、かつ
(3)前記インクの重量変化率が5%であるときの、インクの25℃における表面張力が、前記加熱前のインクの25℃における表面張力よりも低い、インクジェット記録用水性インク。
[2] 前記界面活性剤が、フッ素系界面活性剤である、[1]に記載のインクジェット記録用水性インク。
[3] 前記水系溶媒が、β-アルコキシプロピオンアミドを含む、[1]または[2]に記載のインクジェット記録用水性インク。
[4] 前記バインダ樹脂が、水溶性樹脂である、[1]〜[3]のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インク。
[5] 前記色材が、顔料である、[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インク。
[6] 前記水溶性樹脂は、酸価が50〜300mgKOH/gのアクリル系樹脂である、[4]に記載のインクジェット記録用水性インク。
【0011】
本発明の第二は、以下のインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクを、吐出ヘッドから吐出させて記録媒体上に付着させるインクジェット記録方法であって、非吐出時に、前記吐出ヘッドのインクのメニスカスを常時振動させるステップを含む、インクジェット記録方法。
[8] 非画像領域において、前記吐出ヘッドからインクを吐出するステップをさらに含む、[7]に記載のインクジェット記録方法。
[9] 前記記録媒体上に付着したインクを加熱するステップをさらに含む、[7]または[8]に記載のインクジェット記録方法。
[10] 前記記録媒体が、水の吸収性を有しない記録媒体または低吸収性記録媒体である、[7]〜[9]のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
[11] [1]〜[6]のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクを収容する吐出ヘッドを有する、インクジェット記録装置。
[12] 前記記録媒体上に付着したインク滴を加熱する加熱手段をさらに有する、[11]に記載のインクジェット記録装置。
[13] 前記吐出ヘッドのノズル開孔部を有する面を洗浄するクリーニング手段をさらに有する、[11]または[12]に記載のインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液寄りに起因する白スジや滲みがなく、かつ光沢を有する画像を形成しうるインクジェット記録用水性インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インクの重量変化率とインクの粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施する上での詳細な説明及び実施例を記す。これらの説明及び実施例は、それぞれ本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0015】
1.インクジェット記録用水性インク
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下インクともいう)は、少なくともバインダ樹脂と、色材と、界面活性剤と、水系溶媒とを含む。
【0016】
バインダ樹脂について
本発明のインクに用いられるバインダ樹脂は、着弾したインク滴を記録媒体に定着(接着)させる機能を有する。また、バインダ樹脂は、インク皮膜の耐擦性や耐水性を高めるだけでなく、光沢や光学濃度を高める機能を有することも求められている。そのため、バインダ樹脂は、水系溶媒に分散させやすいこと、透明性をある程度有すること、他のインク成分との相溶性を有していることがより好ましい。
【0017】
本発明のインクに用いられるバインダ樹脂は、水系溶媒に対して溶解または分散することができるものであれば特に制限はなく、水溶性樹脂や水系分散型ポリマー微粒子などであることが好ましい。水系溶媒に対する溶解性や安定性が高いことから、水溶性樹脂を用いることがより好ましい。本発明に用いることのできる水溶性樹脂としては、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、アクリロニトリル−アクリル系樹脂、酢酸ビニル−アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。なかでも、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリウレタン系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がより好ましい。
【0018】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体であっても、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体であってもよい。樹脂構造の設計自由度が高く、重合反応で合成しやすく、低コストであること等から、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体が特に好ましい。前記共重合体における、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の含有割合は、共重合体を構成する全モノマーに対して60〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましい。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステルの例には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。なかでも、(メタ)アクリル酸のC1−C12アルキルエステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、一種類であっても、二種類以上であってもよい。二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの好ましい組み合わせの例には、メタアクリル酸メチル、アクリル酸C1−C12アルキルエステル、およびメタアクリル酸C2−C12アルキルエステルの組み合わせが含まれる。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体における他の共重合モノマーの例には、酸性基を有するモノマーが含まれる。酸性基を有するモノマーの例には、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸などが含まれる。なかでも、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体は、主モノマーとしてのメタアクリル酸メチル、アクリル酸C1−C12アルキルエステルおよびメタアクリル酸C2−C12アルキルエステルと、他の共重合体モノマーとしての酸性基を有するモノマーと、を重合反応させて得られる共重合体であることが好ましい。前記共重合体に含まれる主モノマー(メタアクリル酸メチル、アクリル酸C1−C12アルキルエステルおよびメタアクリル酸C2−C12アルキルエステル)由来の構成単位の合計含有割合は、共重合体を構成する全モノマーに対して80〜95質量%であることが好ましい。
【0021】
アクリル系樹脂に含まれる酸性基の少なくとも一部は、水系溶媒に対する溶解性を高める観点などから、塩基で中和されていることが好ましい。中和する塩基の例には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(例えば、NaOH、KOH等);アミン類(例えば、アルカノールアミン、アルキルアミン等);アンモニアなどが含まれる。なかでも、アミン類で中和された樹脂は、記録媒体に定着後のインクから、アミンが水系溶媒と共に蒸発するため、アミンが除去された樹脂の溶解性が低下する。そのような樹脂を含む硬化後のインク皮膜は、耐水性を有するため、好ましい。具体的なアミンの例としては、アンモニア、トリエチルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、2−アミノー2−メチル−1−プロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−メチルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0022】
本発明に用いられる水溶性樹脂の酸価は、50〜300mgKOH/gであることが好ましく、50〜130mgKOH/gであることがより好ましい。水溶性樹脂の酸価が50mgKOH/g未満であると、樹脂の水に対する溶解性が十分ではないため、水系溶媒に対して十分には溶解できないことがある。一方、水溶性樹脂の酸価が300mgKOH/g超であると、インク皮膜が柔らかくなり、耐擦性が低下する。
【0023】
本発明における水溶性樹脂の酸価とは、水溶性樹脂1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を指し、JIS K 0070の酸価測定、加水分解酸価測定(全酸価測定)によって測定することができる。
【0024】
中和塩基の含有量は、水溶性樹脂の酸価および含有量にもよるが、水溶性樹脂に含まれる酸性基の化学当量数に対して0.5〜5倍の化学当量数となるようにすることが好ましい。中和塩基の含有量が、水溶性樹脂に含まれる酸性基の化学当量数に対して0.5倍未満の化学当量数であると、アクリル系樹脂の分散性を高める効果が十分には得られないことがある。一方、中和塩基の含有量が水溶性樹脂に含まれる酸性基の化学当量数に対して5倍超の化学当量数であると、インク皮膜の耐水性が低下したり、変色、臭気などを生じたりすることがある。
【0025】
水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、2.0×10〜8.0×10であることが好ましく、2.5×10〜7.0×10であることがより好ましい。重量平均分子量が2.0×10未満であると、インクの定着能力が小さいため、得られる画像の耐擦性が十分でないことがある。一方、重量平均分子量(Mw)が8.0×10超であると、インクの粘度が高すぎて、ノズルからの射出安定性が低下することがある。
【0026】
バインダ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、30〜100℃であることが好ましい。Tgが30℃未満であると、得られる画像の耐擦性が十分でなかったり、ブロッキングが発生したりすることがある。一方、Tgが100℃超であると、乾燥後のインク皮膜が硬すぎて脆くなり、耐擦性が低下することがあると考えられる。
【0027】
バインダ樹脂の含有量は、インク全体に対して1〜15質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。バインダ樹脂の含有量が1質量%未満であると、顔料などの色材を記録媒体上に定着させる機能を十分には得られないことがある。一方、バインダ樹脂の含有量が15質量%超であると、インクの粘度が高くなり、射出安定性が低下することがある。
【0028】
本発明の水性インクは、インク膜の耐擦性をさらに高めるために、水系分散型ポリマー微粒子をさらに含んでもよい。
【0029】
水系分散型ポリマー微粒子は、前述と同様の水溶性樹脂で構成されうる。水系分散型ポリマー微粒子の平均粒子径は、ヘッドのノズル詰まりがなく、良好な光沢を有する画像が得られる観点などから、300nm以下であることが好ましく、130nm以下であることがより好ましい。また、ポリマー微粒子の平均粒子径は、製造安定性の観点から、30nm以上であることが好ましい。
【0030】
水系分散型ポリマー微粒子の含有量は、記録媒体への定着性とインクの長期保存安定性が得られやすい観点などから、インク全体に対して0.7質量〜6質量%が好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。
【0031】
色材について
本発明に用いることのできる色材は、染料、顔料またはこれらの混合物であってもよい。染料の例には、酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料;着色ポリマーまたは着色ワックスを含む分散染料;油溶性染料などが含まれる。なかでも、得られる画像の耐久性や耐擦性の観点などから、顔料が好ましい。
【0032】
顔料は、公知の有機顔料または無機顔料であってよい。有機顔料の例には、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、およびキノフタロニ顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、および酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック;および昼光蛍光顔料等が含まれる。
【0033】
以下に顔料の具体例を示すが、本発明はこれら例示する化合物に限定されるものではない。
マゼンタまたはレッドおよびバイオレット用の有機顔料の好ましい例には、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド8、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド17、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド23、C.I.ピグメントレッド41、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド114、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド148、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド150、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントレッド238、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントレッド258、C.I.ピグメントレッド282、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23等が含まれる。
【0034】
オレンジまたはイエローおよびブラウン用の有機顔料の好ましい例には、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー43、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー81、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー153、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー175、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー194、C.I.ピグメントイエロー199、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントブラウン22等が含まれる。
【0035】
グリーンまたはシアン用の有機顔料の好ましい例には、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:5、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー29、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が含まれる。
【0036】
ブラック用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントブラック5、C.I.ピグメントブラック7等が含まれる。ホワイト用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントホワイト6等が含まれる。
【0037】
無機顔料の例には、カーボンブラック、および酸化チタン等が含まれる。
【0038】
本発明のインクは、顔料の分散性を高めるために、顔料分散剤をさらに含んでもよい。顔料分散剤の例には、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩等が含まれる。
【0039】
顔料は、安定に分散させるために、顔料分散体としてインクに添加されることが好ましい。顔料分散体は、水系溶媒中に安定に分散しうるものであればよく、顔料を分散樹脂で分散させた顔料分散体;顔料が水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料;表面修飾され、分散樹脂を含まなくても分散可能な自己分散顔料などが挙げられる。
【0040】
顔料を分散樹脂で分散させた顔料分散体に用いられる分散樹脂は、水溶性樹脂であることが好ましい。そのような水溶性樹脂の好ましい例には、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が含まれる。また顔料の分散樹脂として、前記バインダ樹脂として用いられうる水溶性樹脂を用いて分散しても良い。
【0041】
顔料を水不溶性樹脂で被覆したカプセル顔料における、水不溶性樹脂は、弱酸性ないし弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂である。具体的には、pH4〜10の水溶液に対する溶解度が2%以下である樹脂が好ましい。水不溶性樹脂の例には、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、アクリロニトリル−アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル−アクリル系樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン−アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂などが含まれる。カプセル顔料の平均粒子径は、インクの保存安定性、発色性などの観点から、80〜200nm程度であることが好ましい。
【0042】
カプセル顔料(水不溶性樹脂で被覆された顔料微粒子)は、公知の方法で製造することができる。例えば、水不溶性樹脂を有機溶剤(例えばメチルエチルケトンなど)に溶解し、さらに塩基成分を加えて、水不溶性樹脂に含まれる酸性基を部分的もしくは完全に中和する。得られた溶液に、顔料と、イオン交換水とを添加して、混合および分散させる。その後、得られた溶液から有機溶剤を除去して、必要に応じてイオン交換水をさらに加えて、カプセル顔料を調製する。または、顔料と、重合性界面活性剤とを分散させた溶液に、モノマーを添加し、重合反応させて顔料を樹脂で被覆する方法などもある。
【0043】
前述の分散樹脂および水不溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3.0×10〜5.0×10であり、より好ましくは7.0×10〜2.0×10である。分散樹脂および水不溶性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−30〜100℃程度であり、より好ましくは−10〜80℃程度である。
【0044】
顔料と分散樹脂の質量比は、顔料/分散樹脂が100/150〜100/30であることが好ましい。画像の耐久性と、インクの射出安定性、保存安定性を高める観点などから、100/100〜100/40であることがより好ましい。
【0045】
顔料の分散は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等により行うことができる。
【0046】
顔料分散体の粗粒分を除去し、顔料微粒子の粒径分布を揃える観点などから、顔料分散体は、インクに添加される前に、遠心分離処理またはフィルターによるろ過処理などが施されていてもよい。
【0047】
自己分散顔料は、市販品であってもよい。自己分散顔料の市販品の例には、CABO−JET200、CABO−JET300(キャボット社製)、ボンジェットCW1(オリエント化学工業(株)社製)等が含まれる。
【0048】
界面活性剤について
界面活性剤は、記録媒体上で水性インクを濡れ広がりやすくする機能を有する。本発明で用いることのできる界面活性剤に特に制限はなく、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、および脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩類、および第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤などを用いることができる。
【0049】
上述した界面活性剤のなかでも、非吸水性の記録媒体(例えば塩化ビニルシートなど)や、低吸水性の記録媒体(例えば印刷本紙など)上でも、インクを濡れ広がりやすくできることから、シリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤が好ましい。本発明のインクにシリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を含有させることで、着弾したインク滴のドット径を大きく広げることができ、高濃度でムラの無い高品位な画像を形成することができる。
【0050】
なかでも、フッ素系界面活性剤は界面活性化の能力が高いため、インクの乾燥初期においては、乾燥によるインクの表面張力の上昇よりも、記録媒体から受ける熱によるインクの表面張力の低下が大きいと考えられる。そのため、フッ素系界面活性剤は、インクの乾燥初期における表面張力を維持または低下させることができるので特に好ましく用いられる。インクの乾燥初期(重量変化率が5%程度)での表面張力が、加熱前のインクの表面張力よりも低いと、既に記録媒体に着弾したインク滴に重なるようにインクが着弾してもハジキが起こらず、平滑なインク皮膜を形成できるため、光沢が良くなる。
【0051】
インクの乾燥初期におけるインクの表面張力を低下させる別の手法は、加熱前のインクにおける界面活性剤の含有量を、臨界ミセル濃度(CMC)以下とすることである。臨界ミセル濃度とは、インク中の界面活性剤の含有量(濃度)を順次増加させながら、各含有量におけるインクの表面張力の変化を、表面張力計を用いて測定することによって求められる。即ち、界面活性剤の濃度を横軸とし、各界面活性剤の濃度におけるインクの表面張力を縦軸としてプロットすると、ある界面活性剤の濃度以上で、ほぼインクの表面張力が誤差範囲内で一定値になる。このときの界面活性剤の濃度が、臨界ミセル濃度として定義される。界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度に達するまでは、インクの表面張力は低下する傾向にある。そのため、インク中の界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度であると、インクの乾燥初期における表面張力を維持または低下させることができる。
【0052】
インク中における臨界ミセル濃度は、インク中に含まれる界面活性剤の種類や有機溶剤などの種類やそれらの含有量によっても異なるが、少なくとも同一のインク組成であれば一定の値となる。本発明のインク中における臨界ミセル濃度は、インク全体に対して約0.1〜0.5質量%の範囲でありうる。
【0053】
これらの界面活性剤は、一種類で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの界面活性剤は、表面張力の低い水溶性有機溶剤と組み合わせて用いられることが好ましい。
【0054】
シリコーン系界面活性剤の好ましい例には、ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物が含まれ、その市販品の例には、信越化学工業社製のKF−351A、KF−642、ビッグケミー社製のBYK345、BYK347、BYK348などが含まれる。
【0055】
フッ素系界面活性剤は、通常の界面活性剤において、疎水性基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部が、フッ素原子で置換された化合物でありうる。なかでも、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤が好ましい。
【0056】
フッ素系界面活性剤の市販品の例には、DIC社製 商品名:メガファック(Megafac)F、旭硝子社製 商品名:サーフロン(Surflon)、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社製 商品名:フルオラッド(Fluorad)FC、インペリアル・ケミカル・インダストリー社製 商品名:モンフロール(Monflor)、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社製 商品名:ゾニルス(Zonyls)、ファルベベルケ・ヘキスト社 商品名:リコベット(Licowet)VPF、ネオス社 商品名:フタージェント、ビックケミー社 商品名:BYK340(表面調整剤、フッ素変性ポリマー)等が含まれる。
【0057】
界面活性剤の含有量は、表面エネルギーが通常の紙よりも低いコート紙や樹脂製の記録媒体上でも、インクが良好に濡れ広がるようにするために、インクの表面張力が、後述する範囲(15mN/m以上35mN/m未満)となるように調整されることが好ましい。具体的には、インク全体に対して0.01質量%以上2.0質量%未満であることが好ましい。
【0058】
水系溶媒について
本発明における水系溶媒は、水と水溶性有機溶剤の混合物を示す。
【0059】
本発明における水溶性有機溶剤は、インクの乾燥後期のように、インク皮膜に含まれる水溶性有機溶剤の割合が水に対して相対的に多くなる場合においても、水溶性樹脂や他のインク成分を均一に分散または溶解できるものを用いることが好ましい。本発明で用いることのできる水溶性有機溶剤の例には、(A)表面張力が低い水溶性有機溶剤や;(B)疎水性樹脂からなる記録媒体(塩化ビニルシートなど)を溶解、軟化または膨潤させる水溶性有機溶剤などが含まれる。
【0060】
(A)表面張力が低い水溶性有機溶剤は、非吸水性の記録媒体(例えば塩化ビニルシートなど)や低吸水性の記録媒体(例えば印刷本紙など)上でも、インクを濡れ広がりやすくしうる。表面張力が低い水溶性有機溶剤は、具体的には25℃における表面張力が45mN/m以下である水溶性有機溶剤であることが好ましい。
【0061】
そのような水溶性有機溶剤は、グリコールエーテル類または1,2−アルカンジオール類であることが好ましい。グリコールエーテル類の例には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が含まれる。1,2−アルカンジオール類の例には、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、および1,2−ヘプタンジオール等が含まれる。
【0062】
表面張力が低い水溶性有機溶剤の含有量は、インク全体に対して1〜30質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、記録媒体上での濡れ広がりが十分ではなく、30質量%超であると、乾燥性が悪く画像が滲むからである。
【0063】
(B)疎水性樹脂からなる記録媒体(塩化ビニルシートなど)を溶解、軟化または膨潤させる水溶性有機溶剤は、インクの浸透性を付与して、インク皮膜の記録媒体との接着性や耐擦性をより高めうる。
【0064】
そのような水溶性有機溶剤の例には、窒素原子または硫黄原子を含む環状溶剤、環状エステル溶剤、乳酸エステル、β−アルコキシプロピオンアミド、アルキレングリコールジエーテル、アルキレングリコールモノエーテルモノエステルおよびジメチルスルフォキシド等が含まれる。
【0065】
窒素原子を含む環状溶剤の例には、2−ピロリジノン、N−メチル−2−ピロリジノン、N−エチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ε−カプロラクタム、メチルカプロラクタム、2−アザシクロオクタノン等の環状アミド化合物が含まれる。硫黄原子を含む環状溶剤の例には、5〜7員環の化合物が含まれ、好ましくはスルフォラン等である。
【0066】
環状エステル溶剤の例には、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等が含まれる。乳酸エステルの例には、乳酸ブチル、乳酸エチル等が含まれる。
【0067】
β−アルコキシプロピオンアミドの例には、下記式(1)で表される化合物が含まれる。
【化1】

【0068】
式(1)のRは、炭素原子数が1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。炭素原子数が1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基は、好ましくはメチル基、エチル基またはn−ブチル基である。
【0069】
式(1)のRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。RとRは、互いに同一であっても異なってもよい。炭素原子数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基は、好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0070】
式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミドは、記録媒体への浸透性を有し、バインダ樹脂を溶解させやすく、かつ水溶媒との相溶性も高い。β−アルコキシプロピオンアミドの好ましい例には、特に制限されないが、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド(BDMPA)、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド(MDMPA)、3−エトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド(EDEPA)等が含まれる。
【0071】
式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミドは、例えば、特開2009−184079号公報やWO2008−102615号明細書に記載の方法で製造することができる。また、式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミドの市販品としては、出光興産社製 商品名:エクアミド等がある。
【0072】
アルキレングリコールジエーテルの例には、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が含まれる。アルキレングリコールモノエーテルモノエステルの例には、ジエチレングリコールモノエチルモノアセテート等が含まれる。
【0073】
なかでも、非吸水性の記録媒体上でも濡れやすく、かつ浸透しやすいなどの観点から、β−アルコキシプロピオンアミドが好ましく、式(1)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミドがより好ましい。β−アルコキシプロピオンアミドは、さらに水溶性樹脂をインク中に安定に溶解させうるので、記録媒体との良好な接着性が得られ、光沢性、耐擦性およびハジキ耐性を有する高品位の画像が得られやすい。また、組み合わせられる水溶性有機溶剤の種類や使用量の自由度も大きい。さらに、記録媒体への浸透性を有することから、インクも乾燥しやすくなる。それにより、インク滴を、記録媒体上の着弾位置に留まらせることができ、液寄りやカラーブリードを抑制できる。
【0074】
疎水性樹脂からなる記録媒体を溶解、軟化または膨潤させる水溶性有機溶剤の含有量は、インク全体に対して0.1質量%以上40質量%未満であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。0.1質量%未満であると、記録媒体を軟化または膨潤させる効果が十分には得られないことがあり、40質量%以上であると、プリンター部材を膨潤、劣化させることがある。
【0075】
本発明に用いることができる水系溶媒は、必要に応じて、他の水溶性有機溶剤をさらに含んでもよい。他の水溶性有機溶剤の例には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)等が含まれる。
【0076】
水系溶媒の合計量は、インクの表面張力や粘度が後述する範囲となるように調整されればよく、例えばインク全体に対して1〜85質量%程度であることが好ましい。
【0077】
本発明のインクにおける水性有機溶剤の含有量は、水が全て蒸発した後のインク皮膜においても、バインダ樹脂を溶解または分散できる程度に水性有機溶剤が含有されている程度であることが好ましい。
【0078】
その他の成分について
本発明のインクは、必要に応じてその他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分の例には、防カビ剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、粘度調整剤、浸透剤、pH調整剤、乾燥防止剤(例えば尿素、チオ尿素、エチレン尿素など)等が含まれる。
【0079】
防腐剤および防黴剤は、長期にわたってインクの保存安定性を保つ機能を有する。防腐剤および防黴剤は、特に制限されないが、例えば芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL)などであってよい。
【0080】
インクの物性について
本発明のインクは、インクジェット記録用水性インクとして好ましく用いられる。最初のインク滴が記録媒体上に着弾すると、その位置で濡れ広がると考えられる。吸水性を有する記録媒体上では、インク滴は記録媒体に浸透するため、濡れ広がると考えられる。しかしながら、吸水性が低い記録媒体上では、インク滴が記録媒体に浸透しないため、濡れ広がりにくいと考えられる。そのため、着弾直後の乾燥初期では、インク滴を濡れ広がりやすくする必要があると考えられる。
【0081】
乾燥初期において、インクを濡れ広がりやすくするためには、乾燥初期におけるインクの粘度を低くし、表面張力を低く維持することが好ましい。
【0082】
本発明のインクは、(1)インクの重量変化率が0%以上10%以下にわたって、25℃でのインクの粘度が10mPa・s超30mPa・s以下であることが好ましく、10〜20mPa・sであることがより好ましい。インクの重量変化率が10%以下であるときのインク粘度が10mPa・s以下であると、インクの粘度が低すぎて、濡れ広がりすぎることによるカラーブリードが生じやすく、インクの粘度が30mPa・s超であると、インクの粘度が高すぎてインク滴を十分に濡れ広がらせることができないことがある。
【0083】
また、(3)インクの重量変化率が5%であるときのインクの25℃における表面張力を、加熱前(初期)のインクの25℃における表面張力よりも低くすること;具体的には0.3mN/m以上低くすることが好ましく、0.5mN/m以上低くすることがより好ましい。インクの重量変化率が5%であるときのインクの表面張力が、加熱前(初期)のインクの表面張力よりも高いと、表面張力を低く維持できないため、濡れ広がりにくい。さらに、重なり合ったインク滴同士を十分にレベリングさせることができず、インク皮膜の表面が凹凸になり、光沢を有する画像が得られないことがある。インクの表面張力は、プレート法により、25℃で測定することができる。
【0084】
本発明のインクは、記録媒体上に先に着弾したインク滴よりも、後に着弾したインク滴のほうが、表面張力が高くなると考えられる。そのため、表面が平滑であり、光沢を有する画像が得られやすいと考えられる。このことは、技術文献(コーティング用添加剤 WEB連載講座(3) ビックケミー・ジャパン)に示されるように、流動性を有する塗膜に、それよりも表面張力の低い液滴が付着すると、塗膜が弾かれて塗膜の表面が平滑でなくなることからも推察される。
【0085】
インクの重量変化率が5%であるときのインクの表面張力を、初期のインクの表面張力よりも低くすることは、インクにフッ素系界面活性剤を添加することや、インク中の界面活性剤の含有量を臨界ミセル濃度(CMC)以下にすることなどによって達成できる。
【0086】
既に着弾し、乾燥し始めているインク滴に、更に別のインク滴が着弾するとインク滴同士が寄り集まることがある。この液寄りは、低吸水性の記録媒体または非吸水性の記録媒体上では、インク滴が着弾した位置で固定されるまでに時間がかかるため、吸水性の記録媒体に比べて発生しやすい。液寄りによって、本来存在すべき位置にあったインク滴が移動することによって記録媒体の地の色がスジ状に現れる「白スジ」や;異なる色のインク滴同士が混じり合う「カラーブリード」が発生することがあり、画質劣化の原因になる。そのため、乾燥後期では、インク滴を記録媒体上の着弾位置に固定させて、インク滴の移動を抑制する必要があると考えられる。
【0087】
乾燥後期において、インク滴を記録媒体上で移動させにくくするためには、インクの粘度を急激に高くすることが好ましい。一方で、インクの粘度上昇が急激でありすぎると、インク皮膜の表面をレベリングできずに凸凹となり、光沢を有する画像が得られにくい。そこで、本発明のインクは、(2)インクの重量変化率が35%以上55%以下のいずれかで、25℃でのインクの粘度が200mPa・sであることが好ましい。つまり、インクの重量変化率が55%超であるときにインク粘度が200mPa・s未満であると、インクの粘度が低すぎて液寄りを生じやすい。一方、インクの重量変化率が35%以下であるときにインクの粘度が200mPa・sを超えてしまうと、レベリングする前にインク皮膜が固まってしまう。インクの粘度は、E型粘度計により25℃、1rpmで測定される。
【0088】
インクの重量変化率は、インクを攪拌しながら、70℃で加熱したときのインクの重量を測定し、得られた値を下記式に当てはめて求めることができる。
インクの重量変化率(%)=((加熱前のインクの重量−加熱後のインクの重量)/加熱前のインクの重量)×100
【0089】
加熱時のインクの粘度特性を上記(1)と(2)を満たすようにする手段の例には、バインダ樹脂と水系溶媒の含有比率、バインダ樹脂の種類、および水系溶媒の組成(水系溶媒における(A)表面張力が低い水溶性有機溶剤と(B)記録媒体を膨潤等させる水溶性有機溶剤との含有比率やそれらの量など)を調整することが含まれる。
【0090】
例えばインクが、バインダ樹脂を飽和させるために必要な量の5〜15倍の水溶性有機溶剤を含有しうる。そして、水溶性有機溶剤/バインダ樹脂の比率を調整することで、水分が蒸発したインクの乾燥後期においても、バインダ樹脂や他のインク成分を安定に溶解または分散させた状態でインクの粘度を上昇させ、記録媒体上での移動を抑制することができる。特に、水溶性有機溶剤全体における(B)記録媒体を膨潤等させる水溶性有機溶剤の含有比率を20〜40%にすることで、記録媒体上でのインクの移動をより抑制できると考えられる。
【0091】
25℃におけるインクの表面張力は、低吸水性の記録媒体や非吸水性の記録媒体上でも、インクを濡れ広がりやすくするために、15mN/m以上35mN/m未満であることが好ましく、20〜30mN/mであることがより好ましい。
【0092】
本発明のインクの25℃における粘度は、インクの射出安定性を得る観点から、6〜20mPa・sであることが好ましい。インクの粘度は、E型粘度計により、25℃、1rpmで測定することができる。
【0093】
2.インクジェット記録用水性インクの製造方法
本発明のインクジェット記録用水性インクは、前述のバインダ樹脂と、色材と、水系溶媒と、界面活性剤と、必要に応じて他の成分とを混合するステップを経て製造される。混合手段は、特に制限されず、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパー、ホモジナイザー、ラインミキサー等であってよい。
【0094】
3.インクジェット記録装置とそれを用いたインクジェット記録方法
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置は、インクを吐出する吐出ヘッドを有する。
【0095】
インクを吐出する吐出ヘッドは、オンデマンド方式のものでも、コンティニュアス方式のものでも構わない。また、吐出ヘッドの吐出方式は、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式であっても構わない。
【0096】
インクジェット記録装置は、記録媒体上に着弾したインク滴の乾燥速度を制御しやすくする観点などから、記録媒体を加熱するための加熱手段をさらに有することが好ましい。加熱手段は、記録媒体を接触式で加熱する各種ヒーター、加熱ローラーなどであってよいし、記録媒体の表面または裏面を非接触式で加熱するランプ等であってもよい。記録媒体を接触式で加熱する加熱手段は、通常、記録媒体の裏面に配置される。
【0097】
インクジェット記録装置は、吐出ヘッドのノズル開孔部を有する面を洗浄するクリーニング手段や、記録媒体上のインク皮膜を乾燥させる乾燥手段などをさらに有することが好ましい。
【0098】
クリーニング手段は、吐出ヘッドのノズル開孔部を有する面に付着したインク皮膜の溶媒成分などを除去するものである。クリーニング手段は、吐出ヘッドのノズル開孔部を有する面に付着したインク皮膜の溶媒成分を除去できるものであれば、特に制限されず、ブレードワイプや、インクを吸収するインク吸収部材と、該インク吸収部材に有機溶剤を含有するクリーニング液を供給する機能とを有するワイプユニットなどであってよい。例えば、ワイプユニットによるヘッドノズル面のワイピング操作は、具体的にはワイプユニットのポリエステル布にクリーニング液を染み込ませた後、当該ポリエステル布でヘッドのノズル面を摺擦する。
【0099】
乾燥手段は、例えばプラテン加熱や赤外線、加熱ローラー等であってよい。
【0100】
記録媒体は、特に制限されず、吸水性の記録媒体(インクの吸収性を有する記録媒体)、低吸水性の記録媒体(インクの吸収性が低い記録媒体)や非吸水性の記録媒体(インクの吸収性を有しない記録媒体)などでありうる。
【0101】
吸水性の記録媒体の例には、普通紙、布帛、インクジェット専用紙、インクジェット光沢紙、ダンボール、木材などが含まれる。
【0102】
低吸水性の記録媒体の例には、印刷本紙などのコート紙などが含まれる。低吸水性の記録媒体の市販品としては、例えばリコービジネスコーグロス100(株式会社リコー製)、OKトップコート+、OK金藤+、SA金藤+(王子製紙株式会社製)、スーパーMIダル、オーロラコート、ユーライト、スペースDX(日本製紙株式会社製)、αマット、ミューコート(北越製紙株式会社製)、雷鳥アート、雷鳥スーパーアート(中越パルプ工業株式会社製)、特菱アート、パールコートN(三菱製紙株式会社製)などが挙げられる。
【0103】
非吸水性の記録媒体の例には、樹脂基材、金属基材、ガラス基材などが含まれる。樹脂基材は、好ましくは疎水性樹脂からなる樹脂基材(プレート、シートおよびフィルムを含む)、該樹脂基材とその他の基材(紙など)との複合基材などであってよい。疎水性樹脂の例には、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが含まれ、好ましくは塩化ビニルである。
【0104】
ポリ塩化ビニルからなる記録媒体の具体例としては、SOL−371G、SOL−373M、SOL−4701(以上、ビッグテクノス株式会社製)、光沢塩ビ(株式会社システムグラフィ製)、KSM−VS、KSM−VST、KSM−VT(以上、株式会社きもと製)、J−CAL−HGX、J−CAL−YHG、J−CAL−WWWG(以上、株式会社共ショウ大阪製)、BUS MARK V400 F vinyl、LITEcal V−600F vinyl(以上、Flexcon製)、FR2(Hanwha製)LLBAU13713、LLSP20133(以上、桜井株式会社製)、P−370B、P−400M(以上、カンボウプラス株式会社製)、S02P、S12P、S13P、S14P、S22P、S24P、S34P、S27P(以上、Grafityp製)、P−223RW、P−224RW、P−249ZW、P−284ZC(以上、リンテック株式会社製)、LKG−19、LPA−70、LPE−248、LPM−45、LTG−11、LTG−21(以上、株式会社新星製)、MPI3023(株式会社トーヨーコーポレーション製)、ナポレオングロス光沢塩ビ(株式会社二樹エレクトロニクス製)、JV−610、Y−114(以上、アイケーシー株式会社製)、NIJ−CAPVC、NIJ−SPVCGT(以上、ニチエ株式会社製)、3101/H12/P4、3104/H12/P4、3104/H12/P4S、9800/H12/P4、3100/H12/R2、3101/H12/R2、3104/H12/R2、1445/H14/P3、1438/One Way Vision(以上、Inetrcoat製)、JT5129PM、JT5728P、JT5822P、JT5829P、JT5829R、JT5829PM、JT5829RM、JT5929PM(以上、Mactac製)、MPI1005、MPI1900、MPI2000、MPI2001、MPI2002、MPI3000、MPI3021、MPI3500、MPI3501(以上、Avery製)、AM−101G、AM−501G(以上、銀一株式会社製)、FR2(ハンファ・ジャパン株式会社製)、AY−15P、AY−60P、AY−80P、DBSP137GGH、DBSP137GGL(以上、株式会社インサイト製)、SJT−V200F、SJT−V400F−1(以上、平岡織染株式会社製)、SPS−98、SPSM−98、SPSH−98、SVGL−137、SVGS−137、MD3−200、MD3−301M、MD5−100、MD5−101M、MD5−105(以上、Metamark製)、640M、641G、641M、3105M、3105SG、3162G、3164G、3164M、3164XG、3164XM、3165G、3165SG、3165M、3169M、3451SG、3551G、3551M、3631、3641M、3651G、3651M、3651SG、3951G、3641M(以上、Orafol製)、SVTL−HQ130(株式会社ラミーコーポレーション製)、SP300 GWF、SPCLEARAD vinyl(以上、Catalina製)、RM−SJR(菱洋商事株式会社製)、Hi Lucky、New Lucky PVC(以上、LG製)、SIY−110、SIY−310、SIY−320(以上、積水化学工業株式会社製)、PRINT MI Frontlit、PRINT XL Light weight banner(以上、Endutex製)、RIJET 100、RIJET 145、RIJET165(以上、Ritrama製)、NM−SG、NM−SM(日栄化工株式会社製)、LTO3GS(株式会社ルキオ製)、イージープリント80、パフォーマンスプリント80(以上、ジェットグラフ株式会社製)、DSE 550、DSB 550、DSE 800G、DSE 802/137、V250WG、V300WG、V350WG(以上、Hexis製)、Digital White 6005PE、6010PE(以上、Multifix製)等が挙げられる。
【0105】
なかでも、高い光沢を有する画像が得られやすいこと等から、低吸水性の記録媒体や非吸水性の記録媒体が好ましい。吸水性の記録媒体は、インク滴がレベリングにより平滑になる前に吸収され、記録媒体の表面の凹凸がインク皮膜表面に反映されやすのに対して、低吸水性の記録媒体および非吸水性の記録媒体では、インク滴が吸収されず、インク滴がレベリングにより平滑になるためと考えられる。
【0106】
本発明のインクは、前述の粘度特性からも示唆されるように、加熱によって粘度が上昇しやすい(乾燥しやすい)という特徴を有する。そのため、吐出ヘッドからインクを長期間安定して吐出させるために、非射出時に吐出ヘッドを常時揺らすことが好ましい。
【0107】
「常時」とは、非画像領域にある場合だけではなく、それ以外の領域;例えばインクの吐出を行わない場合や、メンテナンスを行う場合も含む。「揺らす」とは、吐出ヘッドのインクのメニスカスを、液滴が吐出しない程度に揺らすことである。揺らしの付与手段は、インク吐出手段であるピエゾ素子と兼用してもよい。揺らしの態様は、一般的な、揺らしの駆動波形を用いたものであってもよい。揺らしの振幅は、ノズル開孔部の径の半分以下であることが好ましい。
【0108】
また、ノズル目詰まりを高度に抑制するために、非画像領域において、吐き捨てをさらに行うことが好ましい。吐き捨ては、一定間隔で行うことが好ましく、例えばスキャンごとに200〜300発吐き捨てを行うことがより好ましい。吐出ヘッドの常時揺らしと吐き捨てとを併用することがより好ましい。
【0109】
記録媒体の加熱温度は、その表面温度が35℃以上100℃未満となるように設定することが好ましい。記録媒体の表面温度が35℃未満であると、インク皮膜を十分に乾燥(固化)させることができないことがある。一方、記録媒体の表面温度が100℃超であると、記録媒体が変形して波打ちすることがある。
【0110】
インクの乾燥を促進し、画像の耐久性を高めるためなどから、加熱された記録媒体上に画像を形成した後、55℃以上100℃未満でさらに加熱乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0111】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0112】
1.材料の準備
1)バインダ樹脂
ジョンクリル 538J:(BASF社製、アクリル樹脂エマルジョン、固形分45.0質量%、酸価:61mgKOH/g、Tg:66℃、重量平均分子量2×10以上)
ジョンクリル JDX−6500:(BASF社製、水溶性アクリル樹脂、固形分29.5質量%、酸価:74mgKOH/g、Tg:65℃、重量平均分子量1.0×10
P−2:下記合成例で合成したアミン中和水溶性樹脂(固形分20質量%、酸価:72mgKOH/g、Tg:82℃、重量平均分子量3.0×10
【0113】
P−2の合成例
滴下ロート、還流管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えたフラスコに、2−プロパノールを186質量部入れて、窒素バブリングしながら加熱還流した。得られた2−プロパノールに、メタクリル酸メチルを76質量部、アクリル酸2−エチルヘキシルを13質量部、およびメタクリル酸を11質量部を添加して混合溶液を調製した。得られた混合溶液に、開始剤(AIBN)0.5質量部を溶解させたモノマー溶液を、滴下ロートで2時間かけて滴下した。滴下後、さらに5時間加熱還流を続けた後、放冷し、減圧下で2−プロパノールを留去した。それにより、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体(アクリル系共重合樹脂)を得た。
得られたアクリル系共重合樹脂20質量部に、イオン交換水67.8質量部と、中和塩基としてN,N−ジメチルアミノエタノール12.2質量部とを加えて、70℃で加熱攪拌して樹脂を溶解させた。それにより、樹脂固形分20質量%の水溶性樹脂P−2の水溶液を得た。なお、N,N−ジメチルアミノエタノールの添加量は、アクリル系共重合樹脂の酸性基の化学当量数に対して1.05倍の化学当量数となるようにした。
【0114】
2)界面活性剤
BYK−340:フッ素系界面活性剤(ビックケミー社製)
KF−351:シリコーン系界面活性剤(信越化学社製)
【0115】
3)水系溶媒
(A)水溶性有機溶剤
HDO:1,2−ヘキサンジオール
DPGME:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
(B)水溶性有機溶剤
BDMPA:3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド
2−PDN:2−ピロリジノン
その他:イオン交換水
【0116】
1.単色画像の評価
(実施例1)
シアン顔料分散体の調製
顔料分散剤としてフローレンTG−750W(固形分40質量%、エボニックデグサ社製)20質量部を、イオン交換水65質量部に加えた。この溶液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15質量部添加して、プレミックスした後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーにより分散させた。それにより、顔料固形分が15質量%であるシアン顔料分散体を得た。
【0117】
インクC−1の調製
水溶性有機溶剤として、1,2−ヘキサンジオール(HDO)9質量部と、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGME)5質量部と、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド(BDMPA)4質量部と、をイオン交換水20質量部に添加して、水系溶媒を得た。得られた水系溶媒に、バインダ樹脂としてジョンクリル JDX−6500を20.3質量部、界面活性剤としてBYK−340を0.1質量部加えて攪拌し、イオン交換水で全量が80質量部となるように調製した。得られた溶液に、上記調製したシアン顔料分散体20質量部を加えて攪拌した。得られた溶液を0.8μmのフィルターでろ過して、シアンインクC−1を得た。
【0118】
(実施例2〜4)
インクの組成を、表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてインクC−2〜C−3を調製した。
【0119】
(比較例1〜5)
インクの組成を、表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてインクC−4〜C−8を調製した。
【0120】
得られたインクの粘度特性、および表面張力を、以下の方法で測定した。
【0121】
粘度特性の測定
粘度の測定には、恒温槽付き回転粘度計(東機産業社製:VISCOMETER TV−33、VISCOMATE VM−150III)を用いた。恒温槽を25℃に設定した。加熱前(初期)のインクの、25℃における測定開始1分後の粘度を測定した。
【0122】
次いで、インクを攪拌しながら、ヒーターにより70℃で加熱しながら、一定時間おきにE型粘度計により25℃、1rpmの条件でインクの粘度を測定した。そして、25℃での粘度が10mPa・s、30mPa・s、および200mPa・sとなるときの、(加熱後の)インクの重量をそれぞれ測定した。得られた測定値を、下記式に当てはめて、インクの重量変化率を算出した。
インクの重量変化率(%)=((加熱前のインクの重量−加熱後のインクの重量)/加熱前のインクの重量)×100
【0123】
表面張力の測定
インクの表面張力は、協和界面科学社製の自動表面張力計CVBP−Z型を用いて、Wilhelmy法(プレート法)により25℃で測定した。
【0124】
また、得られたインクを用いて、インクジェット記録装置で以下のようにして画像形成した。
【0125】
画像形成方法
吐出ヘッドとして、KM512MN(コニカミノルタIJ社製)駆動周波数13kHz、最小液滴量14plのものを用いた。そして、吐出ヘッドを4列搭載したオンデマンド型のインクジェットプリンターのインクジェットヘッドの1つに、得られたインク(シアンインク)を装填した。
【0126】
そして、インクジェットプリンターに設けられた接触式ヒーター(加熱手段)により、記録媒体を裏面(インクジェットヘッドと対向する面とは反対側の面)から加温した。インクジェットプリンターのヘッド格納ポジションに設けられた、インク空打ちポジションとブレードワイプ式のメンテナンスユニットとにより、250発インクの吐き捨てを行い、ヘッドクリーニングを行った。
【0127】
そして、記録媒体としての溶剤インクジェットプリンター用の軟質塩化ビニルシート MD5(メタマーク社製)上に、解像度720dpi×720dpi、10cm×10cmの印字率100%および50%のベタ画像を形成し、記録画像とした。なお、実施例4以外は、インクの非射出時に吐出ヘッドのインクのメニスカスが微小震動するように微振動パルスを印加し、常時揺らしを行った。
【0128】
得られた画像の「白スジ(液寄り)」の評価を行った。さらに、インクの吐出安定性を以下の方法で評価した。
【0129】
液寄り耐性(白スジ)
記録画像の印字率50%画像部分をマイクロスコープで観察し、隣接するドットの形状を観察した。液寄り耐性の評価は、以下の基準に基づいて行った。
○:ドットが接する部分が僅かに膨らんでいるが、それぞれが円形を保っている
△:ドットが接する部分が膨らみ、一部が合一して円形を保てない
×:ドットが合一して楕円のようになっている
上記評価基準において、○と△が実用上好ましいと判断した。
【0130】
吐出安定性
A4サイズの前記記録媒体上に、連続して10枚のベタ画像を作成した後、インクジェットヘッドを25℃、55%RHの環境下で1分間放置した。その後、再度画像を形成して、得られた11枚目のベタ画像の画質を目視観察した。インクの吐出安定性を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:画像欠陥(スジ故障)は全く認められず、均一な画像である
○:画像の書き出し部(書き出し部から2mm以下の範囲)に、ごくわずかにかすれの発生が認められる
△:インクの射出不良に起因する画像欠陥(スジ故障)の発生がわずかに認められる
×:インクの射出不良に起因する画像欠陥(スジ故障)の発生が認められる
上記評価基準において、◎〜△が実用上好ましいと判断した。
【0131】
さらに、得られたインクの塗膜の光沢性を、以下の方法で評価した。
【0132】
光沢性の評価
記録媒体として軟質塩化ビニルシート MD5(メタマーク社製)を準備した。軟質塩化ビニルシート上に、インク付着量が約16g/mとなるように、ワイヤーバーで塗布した後、乾燥させた。得られた塗膜の、60°光沢度を測定した。光沢度の測定は、日本電色工業株式会社製の変角光沢度計(VGS−1001DP)により、60°での光沢度を測定した。光沢性の評価は、以下の基準に基づいて行った。
○:60°光沢度が、85%以上100%未満である
△:60°光沢度が、70%以上85%未満である
×:60°光沢度が、70%未満である
上記評価基準において、○と△が実用上好ましいと判断した。
【0133】
これらの測定結果を表1に示す。また、各インクの粘度特性を図1のグラフに示す。このうち図1(B)は、図1(A)の粘度のレンジを拡大したグラフである。図1では、便宜上、測定点間を直接で結んだ例を示したが、測定点間の実際の粘度挙動は、これに限定されるものではない。
【表1】

【0134】
表1に示されるように、実施例1〜3のインクは、いずれも白スジや滲みがなく、かつ光沢を有する画像が得られることがわかる。一方、比較例1〜3および5のインクは、少なくとも白スジが発生したり、光沢が得られなかったりすることがわかる。
【0135】
具体的には、実施例1〜3のインクは、乾燥後期にはレベリングできる程度に高粘度であり、インク滴を留まらせて白スジを抑制できることが示唆される。さらに、乾燥初期から後期にわたって、インク滴を適度に濡れ広がらせることができるので、インク皮膜の表面を平滑化でき、光沢が得られることが示唆される。実施例4では、吐出ヘッドのインクのメニスカスの常時揺らしを行わなかったため、インクの射出安定性が若干低下したことがわかる。
【0136】
一方、比較例1のインクは、乾燥後期の粘度が低すぎるため、液寄りが生じ、白スジが発生したことが示唆される。一方、比較例2のインクは、乾燥後期の粘度が高すぎるため、インク皮膜が十分にレベリングせず、得られる画像表面は光沢性を有しないことが示唆される。
【0137】
比較例3のインクは、乾燥初期の粘度が高いことから、インク皮膜が十分にレベリングせず、光沢のある画像が得られないことが示唆される。
【0138】
2.カラー画像の評価
(実施例5)
イエロー顔料分散体(Y)の調製
シアン顔料分散体の調製において、C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いた以外は実施例1と同様にしてイエロー顔料分散体を調製した。
【0139】
マゼンタ顔料分散体(M)の調製
シアン顔料分散体の調製において、C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、C.I.ピグメントレッド122を用いた以外は実施例1と同様にしてマゼンタ顔料分散体を調製した。
【0140】
ブラック顔料分散体(K)の調製
シアン顔料分散体の調製において、C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、カーボンブラックを用いた以外は実施例1と同様にしてブラック顔料分散体を調製した。
【0141】
得られたイエロー顔料分散体(Y)、マゼンタ顔料分散体(M)、ブラック顔料分散体(K)、および実施例1で調製したシアン顔料分散体(C)を用いて、実施例1と同様にして各色インク(Y−1、M−1、K−1、C−1)を調製した。
【0142】
(比較例6)
得られたイエロー顔料分散体(Y)、マゼンタ顔料分散体(M)、ブラック顔料分散体(K)、および実施例1で調製したシアン顔料分散体(C)を用いて、比較例1と同様にして各色インク(Y−4、M−4、K−4、C−4)を調製した。
【0143】
(比較例7)
得られたイエロー顔料分散体(Y)、マゼンタ顔料分散体(M)、ブラック顔料分散体(K)および実施例1で調製したシアン顔料分散体(C)を用いて、比較例4と同様にして各色インク(Y−7、M−7、K−7、C−7)を調製した。
【0144】
得られたインクの粘度特性、表面張力、およびインクの塗膜の光沢性を、前述と同様にして評価した。
【0145】
また、得られた4色のインクを、前述のインクジェット記録装置の各色のインクジェットヘッドにそれぞれ充填した。そして、前述と同様にして、カラー画像を形成し、得られた画像の液寄り耐性、およびインクの吐出安定性を評価した。
【0146】
さらに、以下の方法で形成した画像のカラーブリードを評価した。カラーブリードとは、記録媒体上で、異なる色のインクが隣接して打滴された箇所で、インクが滲んで混じりあい、色の境界が不鮮明になる現象である。
【0147】
カラーブリードの評価
印字した4色の細線を格子状に重ねた各画像を目視観察およびマイクロスコープで観察した。カラーブリード耐性を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:カラーブリードが、全ての色間で見られない
○:マイクロスコープで見ると、2色間でわずかにカラーブリードの発生が認められるが、目視観察では確認できず、画質への影響は全くない
△:目視観察でも、カラーブリードの発生が認められる
×:カラーブリードが激しく発生しており、画質が著しく劣化している
上記評価基準において、◎と○が実用上好ましいと判断した。
【0148】
実施例5および比較例6〜7の評価結果を表2に示す。
【表2】

【0149】
表2に示されるように、実施例5の各色インクで形成したカラー画像は、液寄りに起因する白スジや滲みがなく、かつ良好な光沢を有する画像が得られることがわかる。また、インクの吐出安定性も良好であることがわかる。
【0150】
一方、比較例6で得られるカラー画像は、乾燥初期の粘度が低すぎることから、濡れ広がりすぎることによるカラーブリードが生じること;および乾燥後期の粘度も低すぎることから、白スジも生じることがわかる。比較例7の各色インクで形成したカラー画像は、乾燥初期の粘度が低すぎることから、光沢を有するものの、濡れ広がりすぎることによるカラーブリードが生じることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明によれば、高液寄りに起因する白スジや滲みがなく、かつ光沢を有する画像を形成しうるインクジェット記録用水性インクを提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ樹脂と、色材、界面活性剤および水系溶媒を有するインクジェット記録用水性インクであって、
前記インクを加熱したときのインクの重量変化率を下記式で表すとき、
インクの重量変化率(%)=((加熱前のインクの重量−加熱後のインクの重量)/加熱前のインクの重量)×100
(1)前記インクの重量変化率が0%以上10%以下にわたって、E型粘度計により25℃、1rpmで測定されるインクの粘度が10mPa・s超30mPa・s以下であり、
(2)前記インクの重量変化率が35%以上55%以下のいずれかで、E型粘度計により25℃、1rpmの条件で測定されるインクの粘度が200mPa・sとなる点を有し、かつ
(3)前記インクの重量変化率が5%であるときの、インクの25℃における表面張力が、前記加熱前のインクの25℃における表面張力よりも低い、インクジェット記録用水性インク。
【請求項2】
前記界面活性剤が、フッ素系界面活性剤である、請求項1に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項3】
前記水系溶媒が、β-アルコキシプロピオンアミドを含む、請求項1または2に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項4】
前記バインダ樹脂が、水溶性樹脂である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
前記色材が、顔料である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項6】
前記水溶性樹脂は、酸価が50〜300mgKOH/gのアクリル系樹脂である、請求項4に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクを、吐出ヘッドから吐出させて記録媒体上に付着させるインクジェット記録方法であって、
非吐出時に、前記吐出ヘッドのインクのメニスカスを常時振動させることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項8】
非画像領域において、前記吐出ヘッドからインクを吐出するステップをさらに含む、請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記記録媒体上に付着したインク滴を加熱するステップをさらに含む、請求項7または8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記記録媒体が、水の吸収性を有しない記録媒体または低吸収性記録媒体である、請求項7〜9のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクを収容する吐出ヘッドを有する、インクジェット記録装置。
【請求項12】
前記記録媒体上に付着したインク滴を加熱する加熱手段をさらに有する、請求項11に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記吐出ヘッドのノズル開孔部を有する面を洗浄するクリーニング手段をさらに有する、請求項11または12に記載のインクジェット記録装置。



【図1】
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【公開番号】特開2012−246435(P2012−246435A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120708(P2011−120708)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】