説明

インクジェット記録用水性インク、インクカートリッジ、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】 自己分散型顔料を含むインクジェット記録用水性インクであって、再分散性に優れ、高い光学濃度(OD値)が得られるインクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】 本発明のインクジェット記録用水性インクは、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、前記着色剤が、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を含み、前記水性インクが、さらに、スルホベタイン型界面活性剤を含み、前記水性インク全量に対する前記スルホベタイン型界面活性剤の配合量が、0.3重量%〜5重量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インク、インクカートリッジ、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用水性インクにおいて、自己分散型顔料が使用されることがある。前記自己分散型顔料は、顔料にリン酸基、カルボン酸基又はスルホン酸基のような少なくとも一種の親水基又はその塩を結合させるように処理をすることによって得ることができる。前記自己分散型顔料は、高分子顔料分散剤を必要としないことから、水性インクの粘度上昇を防止することができる。また、顔料に結合する親水基のうち、特にリン酸基により処理された自己分散型顔料は、カルボン酸基又はスルホン酸基により処理された自己分散型顔料と比べて、高い光学濃度(OD値)が得られる(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−515007号公報
【特許文献2】特表2009−513802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、リン酸基により処理された自己分散型顔料を用いた水性インクには、一般的なインク組成において、再分散性が良好ではないという問題がある。前記再分散性が良好ではない水性インクでは、前記水性インクがインクジェットヘッドのインク流路やノズル近傍において一度蒸発乾固し、固形物を生じると、再度水性インクを吐出しようとした場合に新たに水性インクと接触しても、前記固形物が溶解及び分散されず、吐出安定性に支障をきたすおそれがある。また、リン酸基により処理された自己分散型顔料を用いたインクジェット記録用水性インクは、カルボン酸基又はスルホン酸基により処理された自己分散型顔料と比べて高い光学濃度(OD値)が得られるが、更なる光学濃度(OD値)の向上が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、自己分散型顔料を含む水性インクであって、再分散性に優れ、高い光学濃度(OD値)が得られるインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクは、
着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を含み、
前記水性インクが、さらに、スルホベタイン型界面活性剤を含み、
前記水性インク全量に対する前記スルホベタイン型界面活性剤の配合量が、0.3重量%〜5重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明者等は、一連の研究を重ねたところ、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を着色剤として用いた場合、さらに、前記所定量のスルホベタイン型界面活性剤を含ませれば、再分散性に優れ、高い光学濃度(OD値)が得られることを見出し本発明に想到した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施例における再分散性評価基準を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「再分散性」とは、例えば、水性インクが一度蒸発乾固し、固形物が生じた後、新たに水性インクと接触した際の前記固形物の溶解性及び分散性を言う。
【0010】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)について説明する。本発明の水性インクは、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む。前述のとおり、前記着色剤は、リン酸基により修飾された自己分散型顔料(以下、「リン酸基修飾自己分散型顔料」と言うことがある。)を含む。リン酸基修飾自己分散型顔料を含ませることで、光学濃度(OD値)の高い水性インクを得ることができるが、後述のように、さらに、スルホベタイン型界面活性剤を含ませることで、光学濃度(OD値)のより高い水性インクを得ることができる。前記リン酸基修飾自己分散型顔料は、例えば、特表2009−515007号公報、特表2011−515535号公報、特開2006−199968号公報、特表2009−513802号公報、特表2011−510155号公報に記載の方法により調製できる。前記リン酸基修飾自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。
【0011】
前記自己分散型顔料の原料として用いることができる顔料としては、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、これら以外の顔料として、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224及び238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36等もあげられる。特に、前記リン酸基による修飾を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」及び「MA100」等のカーボンブラックがあげられる。
【0012】
前記水性インク全量に対する前記リン酸基修飾自己分散型顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0013】
前記着色剤は、前記リン酸基修飾自己分散型顔料に加え、さらに他の顔料及び染料等を含んでもよい。
【0014】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0015】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0016】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコールが好ましい。
【0017】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、より好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0018】
前記湿潤剤は、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンの少なくとも一方を含むことが、特に好ましい。トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンの少なくとも一方を含むことで、光学濃度(OD値)がより高い水性インクを得ることができる。前記水性インク全量に対するトリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンの少なくとも一方の配合量は、例えば、1重量%〜50重量%であり、好ましくは、5重量%〜30重量%であり、より好ましくは、5重量%〜20重量%である。
【0019】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0021】
前述のとおり、前記水性インクは、さらに、スルホベタイン型界面活性剤を含む。スルホベタイン型界面活性剤を含ませることで、再分散性に優れ、従来の水性インクよりさらに光学濃度(OD値)の高い水性インクを得ることができると推定される。スルホベタイン型界面活性剤は、分子内にカチオン部及びアニオン部を有する。前記アニオン部の酸解離定数は、カルボン酸の酸解離定数よりも低い。このため、カルボキシベタイン型界面活性剤ではなく、スルホベタイン型界面活性剤を含ませることで、前述の物性の向上が見られると考えられる。ただし、このメカニズムは推定であり、本発明は、この推定に限定されない。
【0022】
前記スルホベタイン型界面活性剤としては、例えば、スルホベタイン、ヒドロキシベタイン、アミドスルホベタイン等があげられる。具体的には、例えば、3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート、ラウリル(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)ジメチルベタイン、2−ヒドロキシ−N,N−ジメチル−N−[3−[(1−オキソドデシル)アミノ]プロピル]−3−スルホナト−1−プロパンアミニウム等があげられる。前記スルホベタイン型界面活性剤は、市販品を用いてもよい。3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナートは、例えば、東京化成工業(株)から入手できる。ラウリル(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)ジメチルベタインは、例えば、花王(株)から入手できる(商品名「アンヒトール(登録商標) 20HD」)。2−ヒドロキシ−N,N−ジメチル−N−[3−[(1−オキソドデシル)アミノ]プロピル]−3−スルホナト−1−プロパンアミニウムは、例えば、川研ファインケミカル(株)から入手できる(商品名「ソフダソリン(登録商標) LSB」及び「ソフダソリン(登録商標) LSB−R」)。
【0023】
前記水性インク全量に対する前記スルホベタイン型界面活性剤の配合量は、0.3重量%〜5重量%であり、好ましくは、1重量%〜5重量%である。前記スルホベタイン型界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0025】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水及び水溶性有機溶剤と、スルホベタイン型界面活性剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0026】
つぎに、本発明のインクカートリッジについて説明する。本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0027】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について説明する。
【0028】
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする。
【0029】
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部及びインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする。
【0030】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0031】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0032】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性ブラックインク及び水性シアンインクの少なくとも一方が、本発明のインクジェット記録用水性インクである。その他の水性インクは、一般的な水性インクを用いてよい。ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0033】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0034】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0035】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。
【0036】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。本発明の水性インクは、再分散性に優れるため、インクジェットヘッド3からの安定した吐出が可能である。また、本発明の水性インクを用いることで、光学濃度(OD値)の高い記録物を得ることができる。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0037】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい。
【実施例】
【0038】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0039】
[実施例1〜11及び比較例1〜13]
水性インク組成(表1及び表2)における、自己分散型顔料を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、水に分散させた自己分散型顔料に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1〜11及び比較例1〜13のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0040】
実施例及び比較例の水性インクについて、(a)再分散性評価及び(b)光学濃度(OD値)評価を、下記方法により実施した。
【0041】
(a)再分散性評価
スライドガラスに、実施例及び比較例の水性インク12μLを滴下した。ついで、前記スライドガラスを、温度60℃、相対湿度40%の環境下に一晩静置することで、前記水性インクを蒸発乾固させた。つぎに、前記蒸発乾固後の固形物上にスポイトで水3滴を滴下した。このようにして作製した評価サンプルを肉眼及び倍率50倍の顕微鏡で観察し、下記評価基準に従って再分散性を目視評価した。
【0042】
再分散性評価 評価基準
AA:肉眼では固形物の溶解・分散のこりが確認されず、顕微鏡で観察した場合においても図2(a)に示すように溶解・分散していた。
A :顕微鏡で観察した場合に若干の粗大な粒子が確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
B :固形物が水に徐々に溶解・分散するが、肉眼においても溶解・分散しきれていない固形物の残りが確認され、顕微鏡で観察すると図2(b)に示すように塊状のものが観察された。
C :図2(c)に示すように、固形物が水に全く溶解・分散せず、塊状のままであった。
【0043】
(b)光学濃度(OD値)評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機MFC−J6710DWを使用して、実施例及び比較例の水性インクを用いて普通紙上に解像度600dpi×300dpiで黒単色パッチ(実施例10においてはシアン単色パッチ)を記録し評価サンプルを作製した。前記評価サンプルの光学濃度(OD値)を、X−Rite社製の分光測色計SpectroEye(光源:D50、視野角2°、STATUS T)により測定した。前記普通紙には、NBS リコー社製のマイペーパー(普通紙1)、INTERNATIONAL PAPER社製のHAMMER MILL LASER PRINT(普通紙2)及びXEROX社製のRECYCLE SUPREM(普通紙3)を用いた。前記光学濃度(OD値)の測定は、各普通紙について5回行った。
【0044】
実施例の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表1に示す。また、比較例の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表2に示す。なお、表1及び表2において、「3紙平均」(最下段)は、前記普通紙1〜3のそれぞれの平均値(5回測定)の和を3で除した3紙の測定結果の平均値である。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表1及び表2に示すとおり、実施例1〜9では、スルホベタイン型界面活性剤を用いなかったこと以外は同条件である比較例1と比べて、3紙平均の光学濃度(OD値)が0.03〜0.08向上した。湿潤剤としてトリメチロールプロパン又はトリメチロールメタンを用いた実施例6〜9では、3紙平均の光学濃度(OD値)が特に高かった。また、実施例10では、スルホベタイン型界面活性剤を用いなかったこと以外は同条件である比較例9と比べて、3紙平均の光学濃度(OD値)が0.03向上した。また、3種のスルホベタイン型界面活性剤を併用した実施例11でも、3紙平均の光学濃度(OD値)が高かった。
【0048】
一方、表2に示すとおり、スルホベタイン型界面活性剤に代えてカルボキシベタイン型界面活性剤を用いた比較例2〜4では、再分散性が悪かった。また、スルホベタイン型界面活性剤に代えてアミンオキサイド型ベタイン型界面活性剤を用いた比較例5では、アミンオキサイド型ベタイン型界面活性剤を用いなかったこと以外は同条件である比較例1と比べて、3紙平均の光学濃度(OD値)の向上が全く見られなかった。
【0049】
スルホベタイン型界面活性剤の配合量を0.10重量%とした比較例6では、スルホベタイン型界面活性剤を用いなかったこと以外は同条件である比較例1と比べて、3紙平均の光学濃度(OD値)の向上が全く見られなかった。また、スルホベタイン型界面活性剤の配合量を10.00重量%とした比較例7では、再分散性が極めて悪かった。
【0050】
湿潤剤としてトリメチロールプロパンを用いたものの、スルホベタイン型界面活性剤を用いなかった比較例8では、トリメチロールプロパンを用いなかったこと以外は同条件である比較例1と比べて、3紙平均の光学濃度(OD値)の向上が全く見られなかった。
【0051】
リン酸基修飾自己分散型黒顔料に代えてカルボン酸基により修飾された自己分散型黒顔料を用いた比較例10及び比較例11では、それ以外は同条件である比較例1及び実施例1と比べて、3紙平均の光学濃度(OD値)が低かった。また、リン酸基修飾自己分散型黒顔料に代えてスルホン酸基により修飾された自己分散型黒顔料を用いた比較例12及び比較例13でも、それ以外は同条件である比較例1及び実施例1と比べて、3紙平均の光学濃度(OD値)が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明の水性インクは、再分散性に優れ、光学濃度(OD値)が高いものである。本発明の水性インクの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を含み、
前記水性インクが、さらに、スルホベタイン型界面活性剤を含み、
前記水性インク全量に対する前記スルホベタイン型界面活性剤の配合量が、0.3重量%〜5重量%であることを特徴とするインクジェット記録用水性インク。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤が、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項3】
インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項4】
記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクとして、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
インク収容部及びインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、
前記インク収容部に、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−76028(P2013−76028A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217832(P2011−217832)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】