説明

インクジェット記録用水性インクセット

【課題】色相が良好で光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れ、且つ、高湿環境下における二次色の記録媒体上の色変化が抑制されたインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【解決手段】二種類以上のインクジェット記録用水性インクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、前記二種類以上の水性インクが、それぞれ、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、前記水性インクセットに、特定の構造を有するモノアゾ染料及びカチオン性ポリマーが、下記条件(I)及び下記条件(II)の少なくとも一方の条件を満足するように配合されていることを特徴とする。条件(I):前記染料及び前記カチオン性ポリマーが、それぞれ、異なる水性インクに配合されている。条件(II):前記染料及び前記カチオン性ポリマーの双方が、同一の水性インクに配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用水性インクセットは、一般的に、色相が良好であること、及び、光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れていることが求められる。色相が良好で光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れたインクジェット記録用水性インクセットとして、特定の染料を用いた水性インクを含む水性インクセットが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−217531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特定の染料には、一般的な染料に比べて、使用環境条件の変化により記録媒体への拡散のしやすさに変化を生じやすいものがある。例えば、湿度が、前記特定の染料の記録媒体への拡散のしやすさに影響を与える。このため、例えば、前記特定の染料を含む水性マゼンタインクを、記録媒体上で水性イエローインク及び水性シアンインクと混合し、プロセスブラック(トリカラーブラック、コンポジットブラックとも言う。)を記録する場合、高湿環境下では、前記特定の染料の拡散により前記プロセスブラック中のマゼンタの色調が弱くなり、無彩色(例えば、黒色(ブラック)から灰色(グレー)のグラデーション範囲内の色)が、緑を帯びたように見えることがある。
【0005】
そこで、本発明は、色相が良好で光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れ、且つ、高湿環境下における二次色の記録媒体上の色変化を抑制可能なインクジェット記録用水性インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、
二種類以上のインクジェット記録用水性インクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記二種類以上の水性インクが、それぞれ、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、
前記水性インクセットに、一般式(1)で表わされる染料及びカチオン性ポリマーが、下記条件(I)及び下記条件(II)の少なくとも一方の条件を満足するように配合されていることを特徴とする。

条件(I):一般式(1)で表わされる染料及び前記カチオン性ポリマーが、それぞれ、異なる水性インクに配合されている。

条件(II):一般式(1)で表わされる染料及び前記カチオン性ポリマーの双方が、同一の水性インクに配合されている。

【化1】

一般式(1)において、
は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基であり、
は、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基であり、
は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基であり、
、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、置換又は無置換のスルホニル基、置換又は無置換のアシル基であり、R、R、R及びRは同一でも異なっていてもよいが、R及びRが共に水素原子であることはなく、R及びRが共に水素原子であることはなく、
及びAは、双方が置換又は無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換又は無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性インクセットは、一般式(1)で表わされる染料を含む水性インクを含むため、色相が良好で光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れる。また、本発明の水性インクセットは、二種類以上の水性インクから選択された少なくとも一つの水性インクが、さらに、カチオン性ポリマーを含むため、高湿環境下における二次色の記録媒体上の色変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<インクジェット記録用水性インクセット>
本発明のインクジェット記録用水性インクセット(以下、「水性インクセット」又は「インクセット」と言うことがある。)の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は例示に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0010】
[実施形態1]
本実施形態は、一般式(1)で表わされる染料及び前記カチオン性ポリマーが、それぞれ、異なる水性インクに配合されている形態、すなわち、前記条件(I)を満足する形態である。本実施形態においては、一般式(1)で表わされる染料を含むインクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)を「第1の水性インク」、前記カチオン性ポリマーが配合されている水性インクを「第2の水性インク」とする。
【0011】
(第1の水性インク)
前記第1の水性インクは、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む。前記第1の水性インクの着色剤は、一般式(1)で表わされる染料を含む。
【0012】
前述のとおり、一般式(1)において、
は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基であり、
は、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基であり、
は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基であり、
、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、置換又は無置換のスルホニル基、置換又は無置換のアシル基であり、R、R、R及びRは同一でも異なっていてもよいが、R及びRが共に水素原子であることはなく、R及びRが共に水素原子であることはなく、
及びAは、双方が置換又は無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換又は無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。
【0013】
一般式(1)において、前記置換又は無置換のアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜6のアルキル基である。前記置換又は無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
【0014】
一般式(1)において、前記置換又は無置換のアリール基は、好ましくは、炭素原子数6〜12のアリール基である。ただし、置換アリール基の場合、前記炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まないものとする。前記置換又は無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−オクチルフェニル基、メシチル基、p−メトキシフェニル基、o−クロロフェニル基、m−(3−スルホプロピルアミノ)フェニル基等があげられる。前記置換アリール基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基等のアルキル基;前述と同様のアルコキシ基;前述と同様のハロゲン原子;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基等のアルキルアミノ基;アミド基;カルバモイル基;スルファモイル基;スルホアミド基;水酸基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のエステル基;前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0015】
一般式(1)において、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。
【0016】
一般式(1)において、前記置換又は無置換のヘテロ環基は、好ましくは、5員又は6員環のヘテロ環基である。前記置換又は無置換のヘテロ環基としては、例えば、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−フリル基、6−スルホベンゾチアゾリル基、6−スルホン酸塩ベンゾチアゾリル基等があげられる。前記置換ヘテロ環基の置換基としては、例えば、アミド基;カルバモイル基;スルファモイル基;スルホアミド基;水酸基;前述と同様のエステル基;前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0017】
一般式(1)において、前記置換又は無置換のスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等があげられる。前記置換スルホニル基の置換基としては、例えば、前述と同様の置換又は無置換のアルキル基、前述と同様の置換又は無置換のアリール基等があげられる。
【0018】
一般式(1)において、前記置換又は無置換のアシル基は、好ましくは、炭素原子数1〜12のアシル基である。ただし、置換アシル基の場合、前記炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まないものとする。前記置換又は無置換のアシル基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、クロロアセチル基等があげられる。前記置換アシル基の置換基としては、例えば、前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0019】
一般式(1)において、A及びAは、前述のとおり、双方が置換又は無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換又は無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。A及びAの双方が炭素原子である場合が、より優れた性能を発揮できる点で好ましい。A及びAの炭素原子に結合する置換基としては、例えば、炭素原子数1〜3のアルキル基、カルボキシ基、カルバモイル基、シアノ基等があげられる。
【0020】
前述のとおり、一般式(1)において、R及びRは共に水素原子であることはなく、またR及びRも共に水素原子であることはない。また、一般式(1)において、スルホン酸基若しくはカルボキシ基の置換数が多くなると前記染料の水溶性が向上する傾向があるので、必要に応じてそれらの置換数を調整することが好ましい。
【0021】
一般式(1)で表わされる染料の好ましい態様としては、例えば、一般式(1)において、Rがアルキル基、Rがシアノ基、Rが水素原子若しくは置換又は無置換のヘテロ環基、Rが水素原子、置換又は無置換のヘテロ環基若しくは置換アリール基、R及びRが、それぞれ、置換ヘテロ環基又は置換アリール基、Rが水素原子であり、Aが置換されている炭素原子、Aが置換又は無置換の炭素原子である態様があげられる。
【0022】
一般式(1)で表わされる染料のより好ましい態様としては、例えば、一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、Rが水素原子又はスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)、Rが水素原子、スルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)又はスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されているトリアルキルフェニル基(好ましくは、メシチル基)、R及びRが、それぞれ、スルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいモノ、ジ若しくはトリアルキルフェニル基(好ましくは、p−オクチルフェニル基若しくはメシチル基)又はスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されているベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)、Rが水素原子であり、Aが置換されている炭素原子、Aがシアノ基で置換されてもよい炭素原子である態様である。
【0023】
一般式(1)で表わされる染料の好ましい具体例としては、化学式(1−A)〜(1−F)で表される化合物があげられる。
【0024】
【化2】

【0025】
化学式(1−A)で表される化合物は、一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、Rがベンゾチアゾール−2−イル基、Rが水素原子、R及びRが、それぞれ、p−オクチルフェニル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aがシアノ基で置換されている炭素原子である態様である。
【0026】
【化3】

【0027】
化学式(1−B)で表される化合物は、一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、R及びRが、それぞれ、ベンゾチアゾール−2−イル基、R及びRが、それぞれ、メシチル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0028】
【化4】

【0029】
化学式(1−C)で表される化合物は、一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、R及びRが、それぞれ、6−スルホナトリウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R及びRが、それぞれ、3−スルホナトリウム塩メシチル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0030】
【化5】

【0031】
化学式(1−D)で表される化合物は、一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、R及びRが、それぞれ、6−スルホリチウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R及びRが、それぞれ、2,6−ジエチル−4−メチル−3−スルホリチウム塩フェニル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0032】
【化6】

【0033】
化学式(1−E)で表される化合物は、一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、R及びRが、それぞれ、6−スルホカリウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R及びRが、それぞれ、3−スルホカリウム塩メシチル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0034】
【化7】

【0035】
化学式(1−F)で表される化合物は、一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、R及びRが6−スルホリチウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R及びRが2,6−ジエチル−4−スルホリチウム塩フェニル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0036】
前記第1の水性インク全量に対する一般式(1)で表わされる染料の配合量は、特に制限されない。一般式(1)で表わされる染料を含ませることで、色相が良好で光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れた水性インクを得ることができる。前記第1の水性インク全量に対する一般式(1)で表わされる染料の配合量は、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、0.5重量%〜8重量%であり、より好ましくは、1重量%〜6重量%である。
【0037】
前記第1の水性インクの着色剤は、一般式(1)で表わされる染料に加え、さらに他の染料及び顔料等を含んでもよい。
【0038】
前記第1の水性インクの前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記第1の水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0039】
前記第1の水性インクの水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0040】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0041】
前記第1の水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、より好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0042】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
前記第1の水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0044】
前記第1の水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0045】
前記第1の水性インクは、例えば、着色剤、水及び水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0046】
前記第1の水性インクは、例えば、水性マゼンタインクとして用いることができる。ただし、本発明は、これに限定されない。前記第1の水性インクは、一般式(1)で表わされる染料以外の着色剤を用いることにより、マゼンタ以外の色の水性インクとすることもできる。
【0047】
(第2の水性インク)
前記第2の水性インクは、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む。
【0048】
前記第2の水性インクの着色剤は、染料又は顔料のいずれであってもよい。また、前記第2の水性インクの着色剤として、染料及び顔料を混合して用いてもよい。前記顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等が使用できる。前記顔料を用いる場合は、分散剤を併用することが好ましい。
【0049】
前記染料は、特に限定されず、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等があげられる。前記染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクトブラウン、C.I.ダイレクトグリーン、C.I.アシッドブラック、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット、C.I.ベーシックブラック、C.I.ベーシックブルー、C.I.ベーシックレッド、C.I.ベーシックバイオレット及びC.I.フードブラック等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラックとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154及び168等があげられる。前記C.I.ダイレクトブルーとしては、例えば、C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106及び199等があげられる。前記C.I.ダイレクトレッドとしては、例えば、C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83及び227等があげられる。前記C.I.ダイレクトイエローとしては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142及び173等があげられる。前記C.I.ダイレクトオレンジとしては、例えば、C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46及び60等があげられる。前記C.I.ダイレクトバイオレットとしては、例えば、C.I.ダイレクトバイオレット47及び48等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラウンとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン109等があげられる。前記C.I.ダイレクトグリーンとしては、例えば、C.I.ダイレクトグリーン59等があげられる。前記C.I.アシッドブラックとしては、例えば、C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112及び118等があげられる。前記C.I.アシッドブルーとしては、例えば、C.I.アシッブルー9、22、40、59、93、102、104、117、120、167、229及び234等があげられる。前記C.I.アシッドレッドとしては、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、289、315及び317等があげられる。前記C.I.アシッドイエローとしては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、61及び71等があげられる。前記C.I.アシッドオレンジとしては、例えば、C.I.アシッドオレンジ7及び19等があげられる。前記C.I.アシッドバイオレットとしては、例えば、C.I.アシッドバイオレット49等があげられる。前記C.I.ベーシックブラックとしては、例えば、C.I.ベーシックブラック2等があげられる。前記C.I.ベーシックブルーとしては、例えば、C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28及び29等があげられる。前記C.I.ベーシックレッドとしては、例えば、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14及び37等があげられる。前記C.I.ベーシックバイオレットとしては、例えば、C.I.ベーシックバイオレット7、14及び27等があげられる。前記C.I.フードブラックとしては、例えば、C.I.フードブラック1及び2等があげられる。これらの染料以外にも、例えば、後述の実施例で用いた化学式(Ya)〜(Ye)及び化学式(Ca)〜(Ce)で表される化合物等も前記染料として好適に使用できる。
【0050】
前記第2の水性インク全量に対する前記染料の配合量は、特に限定されず、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.3重量%〜10重量%である。
【0051】
前記第2の水性インクの着色剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
前記第2の水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。前記顔料を用いるときは、分散剤を添加することが望ましい。
【0053】
前記第2の水性インクに用いられる前記水及び前記水溶性有機溶剤は、前記第2の水性インクに用いられる前記水及び前記水溶性有機溶剤と同様である。
【0054】
前記第2の水性インクは、さらに、カチオン性ポリマーを含む。カチオン性ポリマーを含ませることで、高湿環境下における二次色の記録媒体上の色変化が抑制されると推定される。特に、記録媒体として光沢紙を用いた場合には、光沢紙上のシリカ粒子及びカチオン性ポリマーの相互作用による目止め効果が働き、湿度による染料の光沢紙における拡散のしやすさ(マイグレーション)の変化が抑制され、その結果、二次色の記録媒体上の色変化が抑制されると推定されるが本発明は、この推定に限定されない。
【0055】
前記カチオン性ポリマーは、一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物、一般式(4)で表わされる化合物及び一般式(5)で表わされる化合物(ポリエチレンイミン)の少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【化8】

【化9】

【化10】

【0056】
一般式(2)において、mは、2〜6の整数であり、nは、20〜40の整数である。
【0057】
一般式(2)において、mは、4であることが特に好ましい。この場合、一般式(2)で表わされる化合物は、ポリリジンである。また、一般式(2)において、nは、25〜35であることが好ましい。
【0058】
一般式(2)で表わされる化合物は、一般式(2)で表わされる化合物の誘導体を含んでもよい。なお、一般式(2)で表わされる化合物及びその誘導体に互変異性体又は立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体及び立体異性体)等の異性体が存在する場合は、いずれの異性体も本発明に用いることができる。また、一般式(2)で表わされる化合物及びその誘導体の塩も、同様に本発明に用いることができる。前記塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でもよい。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も、特に限定されないが、例えば、グルタミン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸、ヒドロキシカルボン酸、プロピオン酸、マロン酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も、特に限定されないが、例えば、アルコールアミン、トリアルキルアミン、テトラアルキルアンモニウム、及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。前記アルコールアミンとしては、例えば、エタノールアミン等があげられる。前記トリアルキルアミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等があげられる。前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム等があげられる。
【0059】
一般式(3)及び(4)において、R11〜R13は、それぞれ、水素原子又は有機基である。前記有機基としては、例えば、アルキル基、アリール基等があげられる。前記アルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロへキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、オクタデシル基、1,3−ブタジエニル基、1,3−ペンタジエニル基等があげられる。前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、ビニルフェニル基等があげられる。前記アルキル基及びアリール基は、置換基を有してもよい。前記置換基を有するアルキル基及びアリール基としては、例えば、フロロエチル基、トリフロロエチル基、メトキシエチル基、フェノキシエチル基、ヒドロキシフェニルメチル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、トリクロロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基、フロロフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、セトキシフェニル基、シアノフェニル基等があげられる。
【0060】
一般式(4)において、Xは、アニオンである。前記アニオンは、いかなるものであってもよいが、例えば、ハロゲン化物イオン、スルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、アリールスルホン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、アリールカルボン酸イオン等があげられる。
【0061】
一般式(3)及び(4)において、pは、正の整数であり、例えば、10〜400であり、好ましくは、15〜300であり、より好ましくは、20〜200である。一般式(3)及び(4)で表わされる化合物の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、600〜20000であり、好ましくは、900〜15000であり、より好ましくは、1200〜10000である。
【0062】
一般式(3)において、R11及びR12は、水素原子であることが特に好ましい。この場合、一般式(3)で表わされる化合物は、ポリアリルアミンである。また、一般式(4)において、R11〜R13は、水素原子であり、Xは、塩化物イオンであることが好ましい。この場合、一般式(4)で表わされる化合物は、ポリアリルアミン塩酸塩(アリルアミン塩酸塩重合体)である。
【0063】
一般式(5)において、qは、正の整数であり、例えば、12〜500であり、好ましくは、20〜350であり、より好ましくは、28〜250である。なお、一般式(5)には直鎖状のポリエチレンイミンを示したが、前記カチオン性ポリマーは、第1級、第2級又は第3級アミンを含む等の分岐鎖構造のポリエチレンイミンであってもよい。
【0064】
前記カチオン性ポリマーとしては、一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物、一般式(4)で表わされる化合物及び一般式(5)で表わされる化合物以外のものを用いてもよい。一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物、一般式(4)で表わされる化合物及び一般式(5)で表される化合物以外の前記カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン−エピクロルヒドリン反応物、ポリアミド−ポリアミン樹脂、ポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂、カチオンデンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミジン、カチオンエポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルホルムアミド、アミノアセタール化ポリビニルアルコール、ポリビニルベンジルオニウム、ジシアンジアミド・ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物、エピクロルヒドリン・ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、及びこれらの誘導体等があげられる。また、一般式(2)で表わされる化合物、一般式(3)で表わされる化合物、一般式(4)で表わされる化合物及び一般式(5)で表される化合物以外の前記カチオン性ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル−メタクリレート(DM)、メタクリロイロキシエチル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMC)、メタクリロイロキシエチル−ベンジルジメチル−アンモニウムクロライド(DMBC)、ジメチルアミノエチル−アクリレート(DA)、アクリロイロキシエチル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMQ)、アクリロイロキシエチル−ベンジルジメチル−アンモニウムクロライド(DABC)、ジメチルアミノプロピル−アクリルアミド(DMAPAA)、アクリルアミドプロピル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMAPAAQ)等の水溶性モノマーの少なくとも一つからなる単一モノマー重合体又は複数種のモノマーの共重合体等もあげられる。
【0065】
前記カチオン性ポリマーは、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、チッソ(株)製のポリリジン、日東紡績(株)製の「PAA(登録商標)−01」、「PAA(登録商標)−03」、「PAA(登録商標)−08」、「PAA(登録商標)−15」、純正化学(株)製のポリエチレンイミン等があげられる。
【0066】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、例えば、600〜20000であり、好ましくは、900〜15000であり、より好ましくは、1200〜10000である。また、前記水性インク全量に対する前記カチオン性ポリマーの配合量は、例えば、0.2重量%〜6重量%であり、好ましくは、0.5重量%〜4.5重量%であり、より好ましくは、1重量%〜3重量%である。前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量が1200以上であり、且つ、前記第2の水性インク全量に対する前記カチオン性ポリマーの配合量が0.5重量%以上であることが特に好ましい。前記カチオン性ポリマーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0067】
前記第2の水性インクは、必要に応じて、さらに、前記第1の水性インクと同様の添加剤を含んでもよい。
【0068】
前記第2の水性インクは、例えば、着色剤、水、水溶性有機溶剤及び前記カチオン性ポリマーと、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0069】
本実施形態の水性インクセットは、前記第1の水性インク及び前記第2の水性インクのみで構成されてもよいし、その他の水性インクを含んでもよい。前記他の水性インクは、例えば、カチオン性ポリマーを含まなくてもよい点を除き、前記第2の水性インクと同様にして調製できる。
【0070】
[実施形態2]
本実施形態は、一般式(1)で表わされる染料及び前記カチオン性ポリマーの双方が、同一の水性インクに配合されている形態、すなわち、前記条件(II)を満足する形態である。本実施形態の水性インクセットは、前記第1の水性インクにさらに前記カチオン性ポリマーを含ませる点、及び前記第2の水性インクが前記カチオン性ポリマーを含まなくてもよい点を除き、実施形態1の水性インクセットと同様にして調製できる。
【0071】
<インクカートリッジ>
本発明において、インクジェット記録用水性インクセットは、インクカートリッジとして提供することも可能である。例えば、本発明のインクカートリッジは、第1の水性インク収納部及び第2の水性インク収納部を有し、第1の水性インク収納部に本発明の第1の水性インクが収納され、第2の水性インク収納部に本発明の第2の水性インクが収納されている。本発明のインクカートリッジにおいて、本発明の第1の水性インク及び第2の水性インク以外の水性インクの収納部を有してもよい。
【0072】
本発明のインクカートリッジは、別個独立に形成された第1の水性インクカートリッジ及び第2の水性インクカートリッジが集合したインクカートリッジ集合体であってもよいし、第1の水性インク収納部と第2の水性インク収納部とを形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジであってもよい。本発明のインクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0073】
<インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法>
つぎに、本発明のインクジェット記録装置及びそれを用いたインクジェット記録方法について説明する。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0074】
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部及びインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクセットを構成する二種類以上の水性インクが収容されていることを特徴とする。
【0075】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0076】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性マゼンタインクが、本発明の第1の水性インクであり、それ以外の水性インクのうちの一つが、本発明の第2の水性インクである。その他の水性インクは、一般的な水性インクを用いてよい。ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙(好ましくは光沢紙、より好ましくは空隙型のレジンコート層を有する光沢紙))Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0077】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0078】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0079】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。
【0080】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、インクジェットヘッド3から、記録用紙Pに本発明の第2の水性インクを吐出する。
【0081】
つぎに、インクジェットヘッド3から、記録用紙Pの前記第2の水性インクの吐出部に、前記第1の水性インクを吐出する。前記第2の水性インクの吐出から、前記第1の水性インクの吐出までの時間は、特に制限されない。例えば、前記第1の水性インクの吐出は、前記第2の水性インクの吐出と同一走査内で実施すればよい。記録用紙P上において、前記第2の水性インク及び前記第1の水性インクが接触することで、色相が良好で光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れ、且つ、高湿環境下における二次色の記録媒体上の色変化が抑制された記録物を得ることができる。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。
【0082】
本例のように、前記第2の水性インクの吐出後、前記第1の水性インクを吐出することが好ましい。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明では、記録用紙Pに前記第1の水性インクを先に吐出した後、前記第2の水性インクを吐出してもよいし、前記記録用紙Pへの前記第2の水性インクの吐出と前記第1の水性インクの吐出とを同時に行ってもよい。
【0083】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい
【0084】
本発明によれば、インク吐出手段からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、前記インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。前記インクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。
【実施例】
【0085】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0086】
(水性イエローインクの調製)
水性イエローインク組成(表1)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、インクジェット記録用水性イエローインクY1〜Y13を得た。なお、表1において、染料(Ya)〜(Ye)は、それぞれ、化学式(Ya)〜(Ye)で表される化合物である。化学式(Ya)〜(Ye)において、−C(t)は、tert−ブチル基である。
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【0087】
(水性マゼンタインクの調製)
水性マゼンタインク組成(表2)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、インクジェット記録用水性マゼンタインクM1〜M5を得た。なお、表2において、染料(1−A)〜(1−E)は、それぞれ、化学式(1−A)〜(1−E)で表される化合物である。
【0088】
(水性シアンインクの調製)
水性シアンインク組成(表3)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、インクジェット記録用水性シアンインクC1〜C5を得た。なお、表3において、染料(Ca)〜(Ce)は、それぞれ、化学式(Ca)〜(Ce)で表される化合物である。化学式(Ca)〜(Ce)において、Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核である。化学式(Ca)〜(Ce)において、Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核であり、R21、R22、R23及びR24の少なくとも一つは、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、C及びDのそれぞれに存在する。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【表1】

【表2】

【表3】

【0089】
[実施例1〜12及び比較例1〜4]
〔インクジェット記録用水性インクセットの構成〕
表4及び表5に示すように水性イエローインク、水性マゼンタインク及び水性シアンインクを組み合わせて、実施例1〜12及び比較例1〜4のインクジェット記録用水性インクセットを構成した。
【0090】
〔インクジェット記録用水性インクセットの評価〕
実施例及び比較例の水性インクセットについて、彩度(C)差(ΔC)評価を、つぎの方法により行った。ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用して、実施例及び比較例の水性インクセットを構成する3色の水性インク(水性イエローインク:水性マゼンタインク:水性シアンインク(体積比)=1:1:1)を用いて、ブラザー工業(株)製の「専用紙(写真光沢紙)(BP−71)」(光沢紙A)上に記録したトリカラーブラックパッチについて、彩度(C)差(ΔC)を、下記の方法により算出した。なお、実施例1及び比較例1については、セイコーエプソン(株)製の「写真用紙クリスピア<高光沢>」(光沢紙B)及び「写真用紙<光沢紙>」(光沢紙C)上に、比較例2については、光沢紙B上に、比較例3については、光沢紙C上に記録したトリカラーブラックパッチについても同様にして彩度(C)差(ΔC)を算出した。
【0091】
常温常湿(温度25℃、相対湿度50%)の環境下で前記トリカラーブラックパッチを記録し、前記記録時と同じ環境下で24時間保存して、常温常湿環境サンプルを得た。また、低温高湿(温度18℃、相対湿度80%)の環境下で前記トリカラーブラックパッチを記録し、前記記録時と同じ環境下で24時間保存して、低温高湿環境サンプルを得た。前記常温常湿環境サンプル及び前記低温高湿環境サンプルのa値及びb値を、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(測定視野:2°;白色基準:Abs(絶対白色);光源:D50;濃度基準:ANSI T)により測定し、下記式により常温常湿及び低温高湿の2環境間における彩度(C)差(ΔC)を算出した。前記彩度(C)差(ΔC)を、下記評価基準に従って評価した。

ΔC={(a−a+(b−b1/2
:前記低温高湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのa
:前記常温常湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのa
:前記低温高湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのb
:前記常温常湿環境サンプルのトリカラーブラックパッチのb

【0092】
彩度(C)差(ΔC)評価 評価基準
A:前記彩度(C)差(ΔC)が、2.5未満
B:前記彩度(C)差(ΔC)が、2.5以上5未満
C:前記彩度(C)差(ΔC)が、5以上
【0093】
実施例の水性インクセットの構成及び評価結果を、表4に示す。また、比較例の水性インクセットの構成及び評価結果を、表5に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
表4に示すとおり、実施例1〜12では、低温高湿の環境下におけるトリカラーブラックパッチの彩度(C)の変化が抑制されていた。重量平均分子量が1200以上のカチオン性ポリマーを用い、且つ、水性インク全量に対する前記カチオン性ポリマーの配合量を0.5重量%以上2.5重量%以下とした実施例1〜4、7、8及び10〜12では、低温高湿の環境下におけるトリカラーブラックパッチの彩度(C)の変化がより抑制されていた。一方、カチオン性ポリマーを含む水性インクを用いなかった比較例1では、目止め効果が発現せず、低温高湿の環境下においてトリカラーブラックパッチの彩度(C)に大きな変化が生じていた。また、カチオン性ポリマーに代えて、非カチオン性ポリマーであるポリビニルピロリドン、又はカチオン性低分子物質であるリジン塩酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸を含む水性インクを用いた比較例2〜4でも、目止め効果が発現せず、低温高湿の環境下においてトリカラーブラックパッチの彩度(C)に大きな変化が生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上のように、本発明の水性インクセットは、色相が良好で光・熱・オゾンに対する堅牢性に優れ、且つ、高湿環境下における二次色の記録媒体上の色変化が抑制されたものである。本発明の水性インクセットの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種類以上のインクジェット記録用水性インクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、前記二種類以上の水性インクが、それぞれ、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含み、
前記水性インクセットに、一般式(1)で表わされる染料及びカチオン性ポリマーが、下記条件(I)及び下記条件(II)の少なくとも一方の条件を満足するように配合されていることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。

条件(I):一般式(1)で表わされる染料及び前記カチオン性ポリマーが、それぞれ、異なる水性インクに配合されている。

条件(II):一般式(1)で表わされる染料及び前記カチオン性ポリマーの双方が、同一の水性インクに配合されている。

【化1】

一般式(1)において、
は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基であり、
は、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基であり、
は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基であり、
、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、置換又は無置換のスルホニル基、置換又は無置換のアシル基であり、R、R、R及びRは同一でも異なっていてもよいが、R及びRが共に水素原子であることはなく、R及びRが共に水素原子であることはなく、
及びAは、双方が置換又は無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換又は無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。

【請求項2】
前記カチオン性ポリマーが、ポリリジン、ポリアリルアミン及びポリエチレンイミンからなる群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量が1200以上であり、且つ、前記カチオン性ポリマーを含む前記水性インク全量に対する前記カチオン性ポリマーの配合量が0.5重量%以上である請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクセット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−79294(P2013−79294A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218402(P2011−218402)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】