説明

インクジェット記録用水性顔料インク

【課題】粘度調整が容易で、低〜高粘度インク対応プリンタヘッドに対する吐出安定性に優れ、さらに、吐出後の乾燥性に優れ、低温造膜時においても耐薬品性に優れた塗膜を実現可能なインクジェット記録用水性顔料インクを提供する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、顔料、エマルジョン樹脂、及び水を含むインクジェット記録用水性顔料インクであって、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体をさらに含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性顔料インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙等の被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型・溶融型の熱転写方式、インクジェット方式等が知られている。これらの中でもインクジェット方式は、安価な装置で実施可能であり、かつ、必要とされる画像部のみにインクを吐出して被記録媒体上に直接画像を形成可能であるため、インクを効率よく使用でき、ランニングコストを低減でき、さらに騒音が少なく、画像記録方式として優れている。
【0003】
しかし、上記インクジェット方式で用いられるインク(インクジェット記録用インク)は、水性インクが中心であるため、紙のようにインク吸収性のある材料への印刷には適しているが、プラスチックや金属等のようにインク吸収性のない材料ないしインク吸収性の低い材料(すなわち、インク非吸収性材料)への印刷には適していない。
【0004】
そこで、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷可能なインクジェット記録用インクについて多くの提案がなされている。例えば、特許文献1では、インク非吸収性材料への印刷が可能で環境負荷の小さいインクジェット記録用水性顔料インクが提案されている。また、特許文献2では、印刷後のメディア表面の堅牢性の向上と、ヘッドのインク吐出性能を安定させ、かつ、インク自体の保存期間も安定させたインクジェット記録用水性顔料インクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−20421号公報
【特許文献2】特開2000−290567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インクジェット記録用水性顔料インクの分野においては、用途拡大のため、(1)粘度調整が容易であること、(2)低〜高粘度インク対応のインクジェットプリンタヘッドに対する吐出安定性が良好であること、(3)75℃以下の低温で造膜が可能であること、つまり、塗膜の乾燥性が良好であること、(4)低温造膜時においても塗膜の耐薬品性が良好であること、といった特性を有するインクが望まれているが、このような特性を全て有するインクはこれまで提案されていない。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するもので、粘度調整が容易で、吐出安定性に優れ、さらに、吐出後の乾燥性に優れ、低温造膜時においても耐薬品性に優れた塗膜を実現可能なインクジェット記録用水性顔料インクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、顔料、エマルジョン樹脂、及び水を含むインクジェット記録用水性顔料インクであって、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粘度調整が容易で、低〜高粘度インク対応プリンタヘッドに対する吐出安定性に優れ、さらに、吐出後の乾燥性に優れ、低温造膜時においても耐薬品性に優れた塗膜を実現可能なインクジェット記録用水性顔料インクを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、分散安定性に優れ、紙等の吸収性材料に対しては、にじみが少なく高発色であり、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷可能である。十分な発色に加えて、吐出安定性及び耐薬品性に優れる等の特性が要求されていることに鑑み、鋭意検討した結果によるものである。
【0011】
すなわち、本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、顔料、エマルジョン樹脂、及び水を含むものであって、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体をさらに含むことを特徴とする。これにより、粘度調整が容易で、低〜高粘度インク対応プリンタヘッドに対する吐出安定性に優れ、さらに、吐出後の乾燥性に優れ、低温造膜時においても耐薬品性に優れた塗膜を実現可能なインクジェット記録用水性顔料インクを提供できる。
【0012】
以下、本発明のインクジェット記録用顔料インクの各成分について詳細に説明する。
【0013】
(アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体)
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクに含まれるアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体とは、炭素数が10〜30の長鎖アルキルアクリレートモノマーとオレフィン性不飽和カルボン酸モノマーとの共重合ポリマーであり、増粘剤として知られている。具体例としては、ルーブリゾール(Lubrizol)社製の“PEMULEN TR−1”、“PEMULEN TR−2”、“CARBOPOL1342”等が挙げられる。
【0014】
上記アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体の含有量は、耐薬品性・吐出安定性の観点から、インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して、0.03〜0.20重量%の範囲内であることが好ましい。
【0015】
(顔料)
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクに用いられる顔料としては、従来公知の無機顔料や有機顔料を使用できる。
【0016】
上記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が挙げられる。
【0017】
上記有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系等の有機顔料が挙げられる。また、上記有機顔料としては、酸性、中性または塩基性カーボンからなるカーボンブラックや、架橋したアクリル樹脂の中空粒子等を用いることもできる。
【0018】
上述した顔料の具体例としては、下記に示すような、カラーインデックス(C.I.:The Society of Dyers and Colourists社発行)においてピグメントに分類されている化合物、つまり、カラーインデックス(C.I.)番号が付されているものが挙げられる。
【0019】
シアン色を有する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60等が挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力等の点から、C.I.ピグメントブルー15:3及びC.I.ピグメントブルー15:4のうちのいずれか単独で、または両方を混合して用いることが好ましい。
【0020】
マゼンタ色を有する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力等の点から、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0021】
イエロー色を有する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14C、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー130、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントイエロー214等が挙げられる。これらの中でも、耐候性等の点から、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー213、及びC.I.ピグメントイエロー214からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0022】
ブラック色を有する顔料としては、例えば、三菱化学社製の“HCF”、“MCF”、“RCF”、“LFF”、“SCF”;キャボット社製の“モナーク”、“リーガル”;デグサ・ヒュルス社製の“カラーブラック”、“スペシャルブラック”、“プリンテックス”;東海カーボン社製の“トーカブラック”;コロンビア社製の“ラヴェン”;等が挙げられる。これらの中でも、三菱化学社製の“HCF#2650”、“HCF#2600”、“HCF#2350”、“HCF#2300”、“MCF#1000”、“MCF#980”、“MCF#970”、“MCF#960”、“MCF88”、“LFFMA7”、“LFFMA8”、“LFFMA11”、“LFFMA77”、“LFFMA100”、及びデグサ・ヒュルス社製の“プリンテックス95”、“プリンテックス85”、“プリンテックス75”、“プリンテックス55”、“プリンテックス45”からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0023】
また、上記顔料を界面活性剤あるいは分散剤により分散安定化した分散顔料、上記顔料の粒子表面に化学反応によって親水性の官能基を導入した自己分散型顔料、上記顔料の表面にポリマー成分をグラフト処理したグラフト化顔料、上記顔料の表面を樹脂で完全に被覆することで機能化したカプセル化顔料等として用いてもよい。
【0024】
上記顔料の含有量は、着色剤としての機能を発現させる量が望ましく、好ましくは、インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して0.1〜20重量%、より好ましくは、0.5〜10重量%である。上記含有量が0.1重量%に満たない場合は、印字濃度が不十分になる傾向にあり、上記含有量が20重量%を超えると、着色剤としての効果が飽和するだけではなくインクの粘度が上昇する傾向にある。
【0025】
上記顔料の分散には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザ、ペイントシェーカ、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザ、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができる。
【0026】
また、上記顔料の分散を行う際に用い得る分散剤としては、その種類に特に制限はないが、公知の高分子分散剤を用いることが好ましい。分散剤の含有量は、使用目的により適宜選択されるが、例えば、インクジェット記録用水性顔料全量に対し、0.05〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2重量%である。
【0027】
(エマルジョン樹脂)
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、エマルジョン樹脂として、ガラス転移温度が50℃以上110℃以下のエマルジョン樹脂を含む。上記エマルジョン樹脂のガラス転移温度が50℃未満であると、耐薬品性が十分得られない場合があったり、印刷面がべた付いて埃が付着しやすくなったり、貼り付きやすくなる問題が生じたりする場合がある。エマルジョン樹脂のガラス転移温度の上限は、通常110℃程度である。なお、本明細書において、「エマルジョン樹脂」とは、エマルジョン化した樹脂を意味し、エマルジョンの分散媒は含まない。また、「エマルジョン樹脂のガラス転移温度」とは、エマルジョン樹脂を含む水溶液(エマルジョン樹脂分散体)を150℃で2時間乾燥させ、脱水させることにより、得られたエマルジョン樹脂を単独で測定したときのガラス転移温度をいう。
【0028】
上記ガラス転移温度が50℃以上110℃以下のエマルジョン樹脂を形成する材料としては、スチレン、テトラヒドロフルフリルアクリレート及びブチルメタクリレートの他に(α、2、3または4)−アルキルスチレン、(α、2、3または4)−アルコキシスチレン、3,4−ジメチルスチレン、α−フェニルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、その他アルキル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ基を有するジエチレングリコールまたはポリエチレングリコールの(メタ)アクリレート、プロポキシ基を有するジエチレングリコールまたはポリエチレングリコールの(メタ)アクリレート、ブトキシ基を有するジエチレングリコールまたはポリエチレングリコールの(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、その他含フッ素(メタ)アクリレート、含塩素(メタ)アクリレート、含珪素(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、(メタ)アクリル酸等の1官能の他に架橋構造を導入する場合は、(モノ、ジ、トリ、テトラ、ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール及び1,10−デカンジオール等のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリン(ジ、トリ)(メタ)アクリレート、ビスフェノールAまたはFのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0029】
上記エマルジョン樹脂の含有量は、インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して5〜25重量%であることが好ましい。この範囲が好ましい理由は、エマルジョン樹脂の含有量が25重量%を超えると、塗布面の平坦性が良好でなくなり、インクジェット記録用水性顔料インクとしての利用には不向きである傾向にあり、エマルジョン樹脂の含有量が5重量%未満になると、耐水性が得られなくなる傾向にあるからである。
【0030】
(その他の成分)
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、炭素数が4〜6の炭化水素に、2または3個の水酸基が結合した水溶性化合物をさらに含むことができる。
【0031】
上記水溶性化合物の例としては、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、トリメチロールエタン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−ヘキセン−2,5−ジオール等が挙げられる。これらの水溶性化合物は単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0032】
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、乾燥促進、インクジェットヘッドの吐出安定性の向上、保湿性の付与のため、有機溶剤をさらに含むことができる。
【0033】
上記有機溶剤としては、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、又はイソブチルアルコール等、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、2,2’−チオジエタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の高沸点低揮発性の多価アルコール類及びこれらのモノエーテル化物、ジエーテル化物、エステル化物、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が用いられ、その他2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等の含窒素有機溶剤、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0034】
本発明では、上記水溶性化合物と上記有機溶剤との合計含有量は、インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して2〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。この範囲が好ましい理由は、30重量%を超えると、(1)水性とは言い難い、(2)塗膜乾燥が不十分、などの問題が生じ、インクジェット記録用水性顔料インクとしての利用には不向きである傾向にあり、2重量%未満になると、吐出不良などの問題が生じる傾向にあるからである。
【0035】
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクは、インクの表面張力の制御、顔料及びエマルジョン樹脂の分散安定性の向上のため、界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤としては、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0036】
上記両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0037】
上記非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系界面活性剤;ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤;フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤;等が挙げられる。
【0038】
上記界面活性剤の含有量は、インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して0.05〜3重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2重量%である。この範囲が好ましい理由は、3重量%を超えると、界面活性剤が表面に多く残り、塗膜特性を悪くする傾向にあり、0.05重量%未満になると、界面活性剤の効果が発揮されない傾向にあるからである。
【0039】
本発明のインクジェット記録用水性顔料インクには、必要に応じて、インクジェット記録用のインク分野で従来から用いられている、消泡剤、殺菌剤、保湿剤、pH調整剤、貯蔵安定剤、ゲル化防止剤等の添加剤を添加することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。ここでは、インクジェット記録用水性顔料インクの粘度が、高粘度(10mP・s以上)、中粘度(5mP・s以上10mP・s未満)、低粘度(5mP・s未満)の3つに分けて説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、特に指摘がない場合、下記において、「部」は「重量部」を意味する。また、下記において、「エマルジョン樹脂分散体」とは、本発明のエマルジョン樹脂を含む水溶液のことを意味する。
【0041】
[高粘度]
まず、高粘度のインクジェット記録用水性顔料インクについて、実施例1〜2、比較例1〜3を用いて説明する。
【0042】
(実施例1)
<顔料分散体の調製>
まず、以下の材料を下記の割合で混合攪拌後、東洋精機社製のペイントシェーカを用いて、直径0.3mmのジルコニアビーズを分散メディアとして60分間分散して顔料分散体を得た。
(1)顔料(デグサ社製、商品名“プリンテックス85”) 20部
(2)分散剤(スチレンアクリル酸共重合体、酸価:250) 6部
(3)消泡剤(日信化学工業社製、商品名“サーフィノール104”) 0.2部
(4)水 73.8部
【0043】
<インクジェット記録用水性顔料インクの調製>
次に、上記顔料分散体と以下の材料とを下記の割合で混合攪拌し、実施例1のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。
(1)顔料分散体 7.5部
(2)2−ピロリドン 10部
(3)ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5部
(4)界面活性剤(スルホコハク酸ジイソオクチルナトリウム) 0.5部
(5)エマルジョン樹脂分散体(ダイセルファインケム社製、商品名“アクアブリッドAST−499”、ガラス転移温度:80℃、固形分:40%) 25部
(6)増粘剤:(アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ルーブリゾール(Lubrizol)社製、商品名“PEMULEN TR−2”) 0.1部(0.10重量%)
(7)水 52.4部
【0044】
上記のようにして得られた実施例1のインクジェット記録用水性顔料インクの粘度を、円錐平板型回転粘度計(コーンプレートタイプ、東機産業社製、商品名“TV−22粘度計”)を用いて測定したところ、10.3mP・sであった。なお、以下の実施例及び比較例においても、同様にして粘度測定を行った。
【0045】
(実施例2)
増粘剤を、ルーブリゾール(Lubrizol)社製の商品名“PEMULEN TR−1”に変更したこと、増粘剤の添加量を0.2部(0.20重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例2のインクの粘度は、10.9mP・sであった。
【0046】
(比較例1)
増粘剤を添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例1のインクの粘度は、2.0mP・sであった。
【0047】
(比較例2)
増粘剤をアルギン酸ナトリウム(キミカ社製、商品名“L”)に変更したこと、増粘剤の添加量を0.20部(0.20重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例2のインクの粘度は、10.2mP・sであった。
【0048】
(比較例3)
増粘剤をアルギン酸ナトリウム(キミカ社製、商品名“LL”)に変更したこと、増粘剤の添加量を0.35部(0.35重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例3のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例3のインクの粘度は、11.2mP・sであった。
【0049】
上記実施例1〜2及び比較例1〜3のインクジェット記録用水性顔料インクに関して、下記に示す方法によって、吐出安定性及び耐薬品性の評価を行った。
【0050】
(吐出安定性)
上記実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用水性顔料インクをインクジェットプリンタを用いて、A4版Xerox P紙にマイクロソフト社のワードのMS明朝文字をスタイル標準サイズ10で2000字/ページの割合で100ページ連続印字し、印字乱れの状態を観察することにより吐出安定性を評価した。ここでは、評価結果は「A」、「B」、「C」で表すこととした。評価基準については、「A」は、印字乱れが10箇所未満で、吐出安定性が良好であることを示し、「B」は、印字乱れが10箇所以上100箇所未満で、吐出安定性がやや不良であることを示し、「C」は、印字乱れが100箇所以上で、吐出安定性が不良であることを示している。上記インクジェットプリンタとしては、高粘度インク(上記実施例1〜2、比較例1〜3)の場合、富士フィルム社製の“ダイマティックス・マテリアルプリンタ DMP−2831”を用い、中粘度インク(後述の実施例3〜4、比較例4〜8)の場合、リコー社製の“IPSiO GX e3300”を用い、低粘度インク(後述の実施例5〜6、比較例9〜13)の場合、セイコーエプソン社製の“EM−930C”を用いた。
【0051】
(耐薬品性)
上記実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用水性顔料インクを、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(未処理品)上に、バーコータ(#20)により、乾燥後の厚さが2〜3μmの塗膜を形成し、所定の乾燥温度で乾燥させることにより、評価用試料を作製した。なお、乾燥温度条件は60℃、75℃、90℃とした。そして、各乾燥温度で乾燥させた各評価用試料の塗膜面を、エタノール50%を含有した水溶液を含浸させた綿棒を用いて20回擦って、塗膜の剥離の状態を観察することにより耐薬品性を評価した。ここでは、評価結果は「A」、「B」、「C」で表すこととした。評価基準については、「A」は、綿棒で擦っても塗膜が全く剥がれず、塗膜の造膜性及び基材への密着性が良く、耐薬品性が良好であることを示し、「B」は、擦る回数が15回以上で剥離が見られ、塗膜の造膜性及び基材への密着性がやや不十分であり、耐薬品性がやや不良であることを示し、「C」は、擦る回数が15回未満で剥離が見られ、塗膜の造膜性及び基材への密着性が不十分であり、耐薬品性が不良であることを示している。
【0052】
表1に、実施例1〜2、比較例1〜3のインクジェット記録用水性顔料インクの吐出安定性及び密着性の評価結果を示した。また、表1では、インクジェット記録用水性顔料インクに含まれる増粘剤の種類、添加量、及び、インクジェット記録用水性顔料インクの粘度についても示している。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いた実施例1〜2では、乾燥温度が60℃、75℃、90℃のいずれの場合にも塗膜の耐薬品性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた比較例2〜3では、いずれの乾燥温度条件においても塗膜の耐薬品性が劣っていた。このことから、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることにより、低温での造膜が可能で、吐出後の乾燥性を向上でき、低温造膜時においても塗膜の耐薬品性を向上できることが分かった。
【0055】
また、実施例1では、増粘剤の添加量が実施例2及び比較例2〜3に比べて半分以下であるにも関わらず、実施例2及び比較例2〜3と同程度の高粘度を有するインクが得られ、かつ、吐出安定性が優れていた。一方、増粘剤を添加していない比較例1は、吐出安定性は劣っていた。また、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例1の3.5倍である比較例3では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例1の2倍である比較例2では、吐出安定性は劣っていた。このことから、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いる場合、優れた吐出安定性を得るためには、増粘剤の添加量を多くする必要があるが、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合、増粘剤の添加量が少量であっても所望の粘度に調整できるとともに、吐出安定性を向上できることが分かった。
【0056】
[中粘度]
次に、中粘度のインクジェット記録用水性顔料インクについて、実施例3〜4、比較例4〜8を用いて説明する。
【0057】
(実施例3)
増粘剤の添加量を0.08部(0.08重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例3のインクの粘度は、6.9mP・sであった。
【0058】
(実施例4)
増粘剤の添加量を0.14部(0.14重量%)に変更したこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例4のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例4のインクの粘度は、7.0mP・sであった。
【0059】
(比較例4)
増粘剤の添加量を0.12部(0.12重量%)に変更したこと以外は、上記比較例2と同様にして、比較例4のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例4のインクの粘度は、7.2mP・sであった。
【0060】
(比較例5)
増粘剤の添加量を0.2部(0.20重量%)に変更したこと以外は、上記比較例3と同様にして、比較例5のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例5のインクの粘度は、6.8mP・sであった。
【0061】
(比較例6)
増粘剤を、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)(ダイセルファインケム社製、商品名“SP600”)に変更し、増粘剤の添加量を0.12部(0.12重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例6のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例6のインクの粘度は、6.4mP・sであった。
【0062】
(比較例7)
増粘剤を、HEC(ダイセルファインケム社製、商品名“SP400”)に変更し、増粘剤の添加量を0.3部(0.30重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例7のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例7のインクの粘度は、6.2mP・sであった。
【0063】
(比較例8)
増粘剤を、HEC(ダイセルファインケム社製、商品名“SP600”)に変更し、増粘剤の添加量を0.8部(0.80重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例8のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例8のインクの粘度は、6.6mP・sであった。
【0064】
上述した評価方法を用いて、実施例3〜4、比較例4〜8のインクジェット記録用水性顔料インクの吐出安定性及び耐薬品性の評価結果を表2に示した。また、表2では、各実施例及び比較例のインクジェット記録用水性顔料インクに含まれる増粘剤の種類、添加量、及びインクジェット記録用水性顔料インクの粘度についても示している。なお、参考のため、増粘剤を添加していない比較例1も表2に示している。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いた実施例3〜4では、乾燥温度が60℃、75℃、90℃のいずれの場合にも塗膜の耐薬品性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた比較例4〜5、増粘剤としてHECを用いた比較例6〜8では、特に乾燥温度が75℃以下の低温の場合、塗膜の耐薬品性が劣っていた。このことから、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることにより、低温での造膜が可能で、吐出後の乾燥性を向上でき、低温造膜時においても塗膜の耐薬品性を向上できることが分かった。
【0067】
また、実施例3では、増粘剤の添加量が実施例4及び比較例4〜8に比べて少ないにも関わらず、実施例4及び比較例4〜8と同程度の中粘度を有するインクが得られ、かつ、吐出安定性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例3の2.5倍である比較例5では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例3の1.5倍である比較例4では、吐出安定性は劣っていた。また、増粘剤としてHECを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例3の10倍である比較例8では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例3の1.5倍である比較例6、増粘剤の添加量が実施例3の3.75倍である比較例7では、吐出安定性は劣っていた。このことから、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムまたはHECを用いる場合、優れた吐出安定性を得るためには、増粘剤の添加量を多くする必要があるが、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合、増粘剤の添加量が少量であっても所望の粘度に調整できるとともに、吐出安定性を向上できることが分かった。
【0068】
[低粘度]
次に、低粘度のインクジェット記録用水性顔料インクについて、実施例5〜6、比較例9〜13を用いて説明する。
【0069】
(実施例5)
増粘剤の添加量を0.03部(0.03重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例5のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例5のインクの粘度は、4.3mP・sであった。
【0070】
(実施例6)
増粘剤の添加量を0.08部(0.08重量%)に変更したこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例6のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例6のインクの粘度は、4.5mP・sであった。
【0071】
(比較例9)
増粘剤の添加量を0.08部(0.08重量%)に変更したこと以外は、上記比較例2と同様にして、比較例9のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例9のインクの粘度は、4.5mP・sであった。
【0072】
(比較例10)
増粘剤の添加量を0.15部(0.15重量%)に変更したこと以外は、上記比較例3と同様にして、比較例10のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例10のインクの粘度は、4.8mP・sであった。
【0073】
(比較例11)
増粘剤の添加量を0.07部(0.07重量%)に変更したこと以外は、上記比較例6と同様にして、比較例11のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例11のインクの粘度は、4.8mP・sであった。
【0074】
(比較例12)
増粘剤の添加量を0.15部(0.15重量%)に変更したこと以外は、上記比較例7と同様にして、比較例12のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例12のインクの粘度は、4.3mP・sであった。
【0075】
(比較例13)
増粘剤の添加量を0.6部(0.60重量%)に変更したこと以外は、上記比較例8と同様にして、比較例13のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例13のインクの粘度は、4.5mP・sであった。
【0076】
上述した評価方法を用いて、実施例5〜6、比較例9〜13のインクジェット記録用水性顔料インクの吐出安定性及び耐薬品性の評価結果を表3に示した。また、表3では、各実施例及び比較例のインクジェット記録用水性顔料インクに含まれる増粘剤の種類、添加量、及びインクジェット記録用水性顔料インクの粘度についても示している。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示すように、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いた実施例5〜6では、乾燥温度が60℃、75℃、90℃のいずれの場合にも塗膜の耐薬品性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた比較例9〜10、増粘剤としてHECを用いた比較例11〜13では、特に乾燥温度が75℃以下の低温の場合、塗膜の耐薬品性が劣っていた。このことから、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることにより、低温での造膜が可能で、吐出後の乾燥性を向上でき、低温造膜時においても塗膜の耐薬品性を向上できることが分かった。
【0079】
また、実施例5では、増粘剤の添加量が実施例6及び比較例9〜13に比べて少ないにも関わらず、実施例6及び比較例9〜13と同程度の粘度を有するインクが得られ、かつ、吐出安定性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例5の5倍である比較例10は、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例5の約3倍である比較例9は、吐出安定性は劣っていた。また、増粘剤としてHECを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例5の20倍である比較例13では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例5の約2倍である比較例11と、増粘剤の添加量が実施例5の5倍である比較例12では、吐出安定性は劣っていた。このことから、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムまたはHECを用いる場合、優れた吐出安定性を得るためには、増粘剤の添加量を多くする必要があるが、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合、増粘剤の添加量が少量であっても所望の粘度に調整できるとともに、吐出安定性を向上できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷可能で、粘度調整が容易で、吐出安定性に優れ、さらに、吐出後の乾燥性に優れ、低温造膜時においても耐薬品性に優れた塗膜を提供可能なインクジェット記録用水性顔料インクとして利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、エマルジョン樹脂、及び水を含むインクジェット記録用水性顔料インクであって、
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体をさらに含むことを特徴とするインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項2】
前記アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体の含有量は、前記インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して0.03〜0.20重量%である請求項1に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項3】
前記エマルジョン樹脂として、ガラス転移温度が50℃以上110℃以下のエマルジョン樹脂を含む請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項4】
前記エマルジョン樹脂の含有量は、前記インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して5〜25重量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項5】
前記顔料の含有量は、前記インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して0.1〜20重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。

【公開番号】特開2013−112748(P2013−112748A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260444(P2011−260444)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】