説明

インクジェット記録用水系インクの製造方法

【課題】保存安定性に優れ、長期間にわたる印刷においてもインクジェット記録ヘッドを劣化させないインクジェット記録用水系インクに含有されるインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法、及びその方法により得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】〔1〕 顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、及び沸点が90℃を超え、250℃以下であり、かつ前記水不溶性ポリマーを溶解する有機溶媒(A)を含む水系顔料分散液(I)と、沸点が40〜90℃でかつ有機溶媒(A)と混和する有機溶媒(B)とを混合した後、減圧下で濃縮処理する工程を含む、インクジェット記録用顔料水分散体の製造方法、及び〔2〕その方法により得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インクの製造方法、及びその方法により得られるインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触という数多くの利点があるため普及が著しい。
また、インクの溶媒として、水を主体とした水系溶媒を用いることができるため、有機溶媒等の揮発、飛散もなく、印刷環境に優れ、家庭用の小型プリンターから商業用の大型プリンターまで広く用いられている。
最近では、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、着色剤として顔料を用いるインクが広く用いられており、その製造法が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、顔料分散安定性の向上等を目的として、顔料が分散した樹脂の親水性有機溶剤溶液と水とを混合した後、有機溶剤を除去するか、又は樹脂の親水性有機溶剤と水との混合溶剤溶液に顔料を分散させた後、有機溶剤を除去する、インクジェット記録用水性インク組成物の製造方法が開示されている。
特許文献2には、粗大粒子の発生を抑制することを目的として、顔料分散液中等に含まれている水及び/又は有機溶媒を薄膜蒸発装置を用いて蒸発除去するインクジェット記録用インクの製造法が開示されている。
特許文献3には、分散安定性と吐出安定性の改善を目的として、水不溶性樹脂、カーボンブラック、中和剤、有機溶剤、非イオン性界面活性剤、及び水性媒体を混合して水性分散液を得た後、有機溶剤を除去し、得られた顔料分散体を用いて水性インクを調製するインクジェット記録用水性インクの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−218013号公報
【特許文献2】特開2001−152053号公報
【特許文献3】特開2010−65130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インク液滴を吐出するためのインクジェット記録ヘッドは、金属部品をエポキシ系接着剤等の高分子材料で貼り合わせた構造になっているが、長期間にわたる印刷により、記録ヘッドの劣化や、記録ヘッドに設置されたインク吐出孔の目詰まり等が問題となっている。これは、インクジェット記録用水系顔料インクが水系インクであっても、各種の有機溶媒等を含有しており、インクに含まれる有機溶媒や不純物等が記録ヘッドに用いられるエポキシ系接着剤等の高分子材料を侵すためと考えられる。
本発明は、保存安定性に優れ、長期間にわたる印刷においてもインクジェット記録ヘッドを劣化させないインクジェット記録用水系インクに含有されるインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法、及びその方法により得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、水系顔料インクで上記の問題が生じる原因は、主として、顔料を分散する際に用いられる有機溶媒と、分散剤であるポリマー中の低分子量有機化合物の存在にあると考えて検討を行った。その結果、顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子と、2種類の特定の有機溶媒を混合し、減圧下で該有機溶媒を除去することによって、保存安定性に優れ、長期間にわたる印刷においても記録ヘッドを劣化させない水系インクが得られることを見出した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、及び沸点が90℃を超え、250℃以下であり、かつ前記水不溶性ポリマーを溶解する有機溶媒(A)を含む水系顔料分散液(I)と、沸点が40〜90℃でかつ有機溶媒(A)と混和する有機溶媒(B)とを混合した後、減圧下で濃縮処理する工程を含む、インクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
〔2〕上記〔1〕の方法により得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保存安定性に優れ、長期間にわたる印刷においてもインクジェット記録ヘッドを劣化させないインクジェット記録用水系インクに含有されるインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法、及びその方法により得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することができる。得られた水系インクは、インクジェット記録ヘッドの材質に適合した水系インクである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法は、顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、及び沸点が90℃を超え、250℃以下であり、かつ前記水不溶性ポリマーを溶解する有機溶媒(A)を含む水系顔料分散液(I)と、沸点が40〜90℃でかつ有機溶媒(A)と混和する有機溶媒(B)とを混合した後、減圧下で濃縮処理する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の方法によって得られる顔料水分散体により、保存安定性に優れ、インクジェット記録ヘッドを劣化させない水系インクが得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明においては、有機溶媒を除去して水分散体とする前に、顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、特に顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を含む分散液中に、沸点が90℃を超え250℃以下である有機溶媒(A)を含ませることで、該ポリマー中の残存モノマー等の低分子量の有機物が、有機溶媒(A)で膨潤した該ポリマー中に拡散する。次に、沸点が40〜90℃の有機溶媒(B)を混合することで、残存モノマー等の低分子量の有機物及び有機溶媒(A)が、該ポリマーから有機溶媒(B)の方に分配される。これによって、減圧下で濃縮処理する際に、これらの不純物が同時に除去されるものと考えられる。このようにして得られた水系インクは、低分子量の有機物及び有機溶媒の含有量が極めて少ないため、記録ヘッドの製造のために使用された高分子材料等に悪影響を与えず、長期にわたる印刷時にも記録ヘッドを劣化させることがないと考えられる。
更に、本発明の水系インクは、低分子量の有機物及び有機溶媒の含有量が極めて少ないため、インク保存中に、ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマー等を膨潤させて分散性を低下させる等の悪影響を与えることがないため、保存安定性にも優れたものとなると考えられる。
以下、本発明に用いられる各成分、各工程について説明する。
【0010】
[顔料]
本発明に用いられる顔料としては、特に制限はなく、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水分散体においては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、赤色、青色、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料を用いることができる。
キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジクロルキナクリドン、3,10−ジクロルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組合せからなる固溶体顔料が好ましい。
【0011】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である無機顔料や有機顔料を意味する。ここで、他の原子団としては、炭素数1〜12のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。
親水性官能基の量は特に限定されないが、自己分散型顔料1g当たり100〜3,000μmolが好ましく、親水性官能基がカルボキシ基の場合は、自己分散型顔料1g当たり200〜700μmolが好ましい。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0012】
[水不溶性ポリマー]
本発明に用いられる水不溶性ポリマーは、顔料を水系媒体中に分散させ、分散状態を安定に維持するために用いられる。
ここで、水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、溶解量は、ポリマーの塩生成基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いることのできるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、水分散体の保存安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0013】
水不溶性ビニル系ポリマーとしては、塩生成基含有モノマー(a)(以下「(a)成分」ともいう)と、疎水性モノマー(b)(以下「(b)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。(b)成分由来の構成単位のなかでも、マクロマー由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0014】
<塩生成基含有モノマー(a)>
塩生成基含有モノマー(a)は、得られるポリマー粒子の分散性を高める観点から用いられる。ポリマー粒子の分散性が高まれば、水系インクの吐出性が向上するものと考えられる。
塩生成基含有モノマー(a)としては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられるが、中でもカルボキシ基が好ましい。
【0015】
カチオン性モノマーの代表例としては、アミン含有モノマー、アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、ポリマー粒子の分散性の観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
【0016】
<疎水性モノマー(b)>
疎水性モノマー(b)は、水分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー、マクロマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0017】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましく、これらを併用することも好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0018】
マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、水不溶性ポリマー粒子のインク中での保存安定性の観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
マクロマーの数平均分子量は1,000〜10,000が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロマーとしては、水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0019】
<ノニオン性モノマー(c)>
モノマー混合物には、更に、ノニオン性モノマー(c)(以下「(c)成分」ともいう)が含有されていることが好ましい。
(c)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでもポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、これらを併用することがより好ましい。
【0020】
商業的に入手しうる(c)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(c)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0021】
水不溶性ポリマー製造時における、上記(a)成分及び(b)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)成分及び(b)成分に由来の構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、ポリマー粒子をインク中で安定に分散させる観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。
(b)成分の含有量は、ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜80重量、更に好ましくは40〜70重量%である。
また、モノマー混合物中における〔(a)成分/(b)成分〕の重量比、すなわち、疎水性モノマー(b)由来の構成単位(疎水性モノマー(b)由来の構成単位が2種以上のときはその合計量)に対する塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位(塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位が2種以上のときはその合計量)の重量比〔(a)/(b)〕は、ポリマー粒子のインク中での分散安定性、及びインクの印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0022】
<水不溶性ポリマーの製造>
前記水不溶性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造することができるが、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、重合性の観点から、有機溶媒(A)を80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがより好ましく、95重量%以上含むことが更に好ましい。
すなわち、前記水不溶性ポリマーが、重合性の観点から、有機溶媒(A)を80重量%以上含む有機溶媒中で溶液重合法により製造されたものであることが好ましく、90重量%以上含むことがより好ましく、95重量%以上含むことが更に好ましい。
具体的には、沸点が90℃を超える有機溶媒が好ましく、ケトン系溶媒が好ましく、炭素数5〜9のケトンがより好ましく、中でもメチルイソブチルケトンが特に好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましく、重合連鎖移動剤としては、2−メルカプトエタノールが好ましい。
【0023】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜80℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万がより好ましく、2万〜20万が更に好ましい。なお、水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、実施例記載の方法により測定される。
【0024】
(中和剤)
本発明で用いられるポリマーは、塩生成基含有モノマー(a)由来の塩生成基を中和剤により中和して用いることが好ましい。塩生成基がアニオン性基である場合、中和剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。
中和剤の量は、分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーのアニオン性基の中和度で、10〜300%であることが好ましく、20〜200%がより好ましく、30〜150%が更に好ましい。
水不溶性ポリマーを架橋させる場合は、架橋前のポリマーのアニオン性基の中和度は、分散安定性と架橋を行う場合には架橋効率の観点から、10〜90%であることが好ましく、20〜80%がより好ましく、30〜70%が更に好ましい。
ここで中和度は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[水不溶性ポリマーの酸価(KOHmg/g)×水不溶性ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
酸価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。又は、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0025】
[有機溶媒(A)]
本発明に用いられる有機溶媒(A)は、沸点が90℃を超え、250℃以下であり、かつ前記水不溶性ポリマーを溶解するものである。
有機溶媒(A)の沸点が90℃を超えることで、減圧除去する際に、有機溶媒(A)が沸点40〜90℃の有機溶媒(B)よりも後に残り、ポリマー中に微量に残留した低分子量の有機物も除去できるものと考えられる。
また、有機溶媒(A)が、水不溶性ポリマーを溶解するものであるため、有機溶媒除去前の分散液中で水不溶性ポリマー中の残存モノマー等の低分子量の有機物が拡散しやすくなり、減圧によって、効率よく除去できるものと考えられる。
有機溶媒(A)の沸点は、低揮発性の観点から、90℃を超え、好ましくは91〜170℃、より好ましくは93〜160℃、より好ましくは98〜150℃、より好ましくは104〜130℃、更に好ましくは110〜120℃である。
また、有機溶媒(A)は、水不溶性ポリマーの溶解性の観点から、ケトンであることが好ましく、炭素数5〜9のケトンがより好ましい。
炭素数5〜9のケトンとしては、メチルイソブチルケトン(沸点:116℃)、ジエチルケトン(沸点:101℃)、メチルプロピルケトン(沸点:102℃)、メチルイソプロピルケトン(沸点:94℃)、ジイソブチルケトン(沸点:168℃)等の鎖状ケトン、シクロペンタノン(沸点:131℃)、シクロヘキサノン(沸点:156℃)等の環状ケトンが挙げられる。これらの中では、鎖状ケトンがより好ましく、メチルイソブチルケトン(沸点:116℃)が更に好ましい。
これらの有機溶媒(A)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
[顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、及び有機溶媒(A)を含む水系顔料分散液(I)]
顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、及び有機溶媒(A)を含む水系顔料分散液(I)は、有機溶媒(A)、顔料、水不溶性ポリマー、中和剤、及び水を含有する混合物を分散処理して得ることが好ましい(分散処理工程)。
該分散処理工程は、水不溶性ポリマーを、有機溶媒(A)を含有する有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び中和剤、必要に応じて界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
本工程において、有機溶媒としては、主たる溶媒として有機溶媒(A)を含有することが好ましく、実質的に、有機溶媒(A)以外の有機溶媒を含まないことがより好ましい。前記混合物が有機溶媒(A)以外の有機溶媒を含む場合は、本発明の効果に影響を与えない程度の量に限られる。具体的には、本工程における有機溶媒中、有機溶媒(A)を80重量%以上含有することが好ましく、90重量%以上含有することがより好ましく、95重量%以上含有することが更に好ましい。
有機溶媒(A)は水不溶性ポリマーの良溶媒であり、該ポリマーをよく溶解するが、有機溶媒(A)以外の有機溶媒を高い割合で含むと該ポリマーの溶解性が低下し、顔料表面への水不溶性ポリマーの付着が阻害されるおそれがあると考えられる。
【0027】
前記混合物中、顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、水不溶性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
前記水不溶性ポリマーの量に対する顔料の量の重量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、分散安定性の観点から、50/50〜90/10が好ましく、70/30〜85/15がより好ましい。
本工程における混合物中の、水に対する有機溶媒の重量比〔有機溶媒/水〕は、顔料の濡れ性及び分散性の観点から、1/10〜4/10が好ましく、1/10〜3/10がより好ましく、1.5/10〜2.5/10が更に好ましい。
中和剤は、最終的に得られる顔料分散液のpHが7〜11であるように、用いることが好ましい。
【0028】
この分散処理工程における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
分散処理工程における温度は、0〜50℃が好ましく、0〜35℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、なかでも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、ポリマー粒子を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0029】
[有機溶媒(B)]
本発明に用いられる有機溶媒(B)は、沸点が40〜90℃で、かつ有機溶媒(A)と混和する有機溶媒である。
有機溶媒(B)は、沸点が好ましくは45〜89℃、より好ましくは50〜83℃、より好ましくは50〜78℃、より好ましくは50〜70℃、更に好ましくは50〜60℃であり、かつケトン、エステル、及びアルコールから選ばれる1種以上であることが好ましく、ケトン及び/又はエステルがより好ましく、ケトンが更に好ましい。
ケトンとしては、炭素数3〜4のケトンが好ましく、具体的には、アセトン(沸点:56℃)、メチルエチルケトン(沸点:80℃)等が挙げられ、アセトン(沸点:56℃)がより好ましい。
エステルとしては、炭素数3〜5のエステルが好ましく、具体的には、酢酸メチル(沸点:57℃)、酢酸エチル(沸点:77℃)、酢酸イソプロピル(沸点:89℃)等が挙げられ、酢酸メチル(沸点:57℃)がより好ましい。
アルコールとしては、炭素数1〜3のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール(沸点:65℃)、エタノール(沸点:78℃)、イソプロピルアルコール(沸点:82℃)等が挙げられ、メタノール(沸点:65℃)がより好ましい。
これらの有機溶媒(B)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
[インクジェット記録用顔料水分散体の製造]
本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法は、顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、及び沸点が90℃を超え、250℃以下であり、かつ前記水不溶性ポリマーを溶解する有機溶媒(A)を含む水系顔料分散液(I)と、沸点が40〜90℃でかつ有機溶媒(A)と混和する有機溶媒(B)とを混合した後、減圧下で濃縮処理する工程を含む(混合工程及び濃縮処理工程)。
<混合工程>
本発明の製造方法においては、まず、前記水系顔料分散液(I)に有機溶媒(B)を添加する混合工程を行うことが好ましく、濃縮を効率よく行う観点から、水を更に添加することが好ましい。次に、前記混合工程で得られた混合物を、減圧蒸留装置を用いて、減圧下で濃縮処理し、顔料水分散体を得る濃縮処理工程を行う。
【0031】
<濃縮処理工程>
濃縮処理工程で用いられる蒸留装置としては、回分単蒸留装置、減圧蒸留装置、フラッシュエバポレーター等の薄膜式蒸留装置、回転式蒸留装置、撹拌式蒸発装置等を用いることができ、効率よく濃縮処理する観点から、撹拌式蒸発装置、及び回転式蒸留装置が好ましく、一度に5kg以下の少量の水系顔料分散液(I)を用いる場合には回転式蒸留装置が好ましく、一度に5kgを超える大量の水系顔料分散液(I)を用いる場合には撹拌式蒸発装置が好ましい。
回転式蒸留装置の中では、ロータリーエバポレーター等の回転式減圧蒸留装置が好ましい。
撹拌式蒸発装置の中では、撹拌槽薄膜式蒸発装置が好ましい。撹拌槽薄膜式蒸発装置とは、加熱内壁面を利用して溶液等の薄膜を形成させ、その薄膜面より溶媒を蒸発除去することができる蒸発装置をいい、具体例としては、関西化学機械製作株式会社製、商品名:ウォールウェッター等が挙げられる。
【0032】
濃縮処理工程における圧力は、有機溶媒及び低分子量の有機物等の不純物を効率よく除去する観点から、0.005〜0.07MPaが好ましく、0.02〜0.04MPaがより好ましい。有機溶媒を効率よく除去する観点から、有機溶媒がほとんどなくなった状況では、有機溶媒が多量に残存する状況に比べ、0.01MPa以上圧力を下げて行うことが好ましい。
濃縮処理する際の温度は、溶媒除去及び分散安定性の観点から、有機溶媒(B)の量が濃縮処理前の50重量%になるまでの間は、40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。有機溶媒(B)が濃縮処理前の50重量%未満となった後は、40〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましく、50〜70℃が更に好ましい。また、濃縮処理の時間は、有機溶媒及び低分子量の有機物等の不純物を効率よく除去する観点から、30〜240分間が好ましい。
【0033】
濃縮処理工程によって得られる水分散体は、ポリマーが付着した顔料粒子の固体分が水を主媒体とする中に分散しているものであり、顔料粒子の形態は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子であり、顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されているものである。粒子の形態としては、例えば、水不溶性ポリマーに顔料が内包された粒子形態、水不溶性ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれる。
【0034】
<架橋工程>
本発明においては、濃縮処理する工程(濃縮処理工程)の後に、顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子の水分散体に架橋剤を添加して、該水不溶性ポリマーを架橋処理して、顔料を含有する水不溶性架橋ポリマー粒子を含む水分散体を得る工程を含むことが好ましい(架橋工程)。水不溶性ポリマーの架橋処理は、濃縮処理する前又は後に行ってもよい。ポリマーを架橋処理することによって、水系インクの保存安定性を向上させることができる。
ここで、架橋剤としては、水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、そのアニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0035】
架橋剤の使用量は、インクの保存安定性の観点から、〔架橋剤/アニオン性ポリマー〕の重量比で0.3/100〜50/100が好ましく、1/100〜40/100がより好ましく、5/100〜25/100が更に好ましい。
また、架橋剤の使用量は、該アニオン性ポリマー1g当たりのアニオン性基量換算で、該ポリマーのアニオン性基0.1〜20mmolと反応する量であることが好ましく、0.5〜15mmolと反応する量であることがより好ましく、1〜10mmolと反応する量であることが更に好ましい。
架橋処理して得られた架橋ポリマーは、架橋ポリマー1g当たり、塩基で中和されたアニオン性基を0.5mmol以上含有することが好ましい。
架橋ポリマーの架橋率は、好ましくは10〜80モル%、より好ましくは20〜70モル%、更に好ましくは30〜60モル%である。架橋率は、使用した架橋剤の反応性基のモル数を、ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数で除したものである。
【0036】
水不溶性ポリマー又は水不溶性架橋ポリマーで分散された顔料粒子の平均粒径は、分散性、印字濃度の観点から、好ましくは30〜300nm、より好ましくは40〜200nm、更に好ましくは50〜150nmである。なお、平均粒径は、実施例記載の方法により測定される。
【0037】
[顔料水分散体]
濃縮処理工程において、有機溶媒(A)及び(B)を除去することによって得られた顔料水分散体は、そのまま水系インクとして用いることもできる。
顔料水分散体中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
顔料水分散体中に含まれる顔料の含有量は、印字濃度を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、より好ましくは4〜15重量%、更に好ましくは4〜10重量である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%,より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
顔料水分散体の好ましい表面張力(20℃)は、30〜70mN/m、より好ましくは35〜65mN/mである。
顔料水分散体の20重量%(固形分)の粘度(20℃)は、好ましくは1〜12mPa・s、より好ましくは1〜9mPa・s、より好ましくは2〜6mPa・s、更に好ましくは2〜5mPa・sである。
【0038】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、本発明の製造方法で得られる顔料水分散体を含有するものであるが、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
本発明の水系インク中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
水系インクに含まれる顔料の含有量は、水系インクの印字濃度を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、より好ましくは4〜15重量%、更に好ましくは5〜12重量である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
本発明の水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、23〜50mN/m、より好ましくは23〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mである。
本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出信頼性を維持するために、好ましくは2〜20mPa・sであり、より好ましくは2.5〜16mPa・s、更に好ましくは2.5〜12mPa・sである。
本発明の水系インクを適用するインクジェットの方式は制限されないが、ピエゾ方式のインクジェットプリンターに特に好適である。
【実施例】
【0039】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。
なお、ポリマーの重量平均分子量の測定、残留不純物量の測定、水系インクの保存安定性及びインクジェット記録ヘッド適合性の評価は、以下の方法により行った。
【0040】
(1)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
【0041】
(2)残留不純物量の測定
エポキシ架橋後の水分散体(実施例1における顔料水分散体(iii))を一部取り、Agilent Technologies社製のガスクロマトグラフィー装置「Agilent 6890」を用いて、下記の測定条件でガスクロマトグラフィー分析を行った。得られた結果を予め各モノマー及び各溶媒の市販されている試薬を用いて作成した検量線を用いて、各モノマー及び各溶媒の量を算出し、モノマー及び溶媒の残留不純物量とし、それを合計した値を総量とした。
(測定条件)
希釈溶媒:水(サンプルを30重量倍希釈)、注入量:1μL、検出器:FID、カラム:HP−FFAP(Crosslinked FFAP)(長さ30m、内径0.53mm、膜厚1μm)、キャリアガス:ヘリウム+空気、昇温条件:初期40℃、3分間保持、10℃/分、最高温度240℃で10分間保持。
【0042】
(3)水系インクの保存安定性
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C、ピエゾ方式)から取り外した記録ヘッドにインクを充填し密封した。次に、恒温槽に該記録ヘッドを入れ、70℃で2週間保存した。
その後、記録ヘッドから取り出した保存後のインクと保存前のインクを粒径測定装置(大塚電子株式会社製、レーザー粒子解析システムELS−8000、測定温度25℃、検出角90°、積算回数100回)を用いて、インク中のポリマー粒子の平均粒径を測定し、下記計算式より、平均粒径変化率(%)求め、インクの保存安定性を評価した。
平均粒径変化率(%)=[(保存後のインクの平均粒径−保存前のインクの平均粒径)/保存前のインクの平均粒径)]×100
インクの平均粒径変化率(%)の絶対値が小さいほど、インクジェット記録ヘッド内部でインクの劣化がなく、保存安定性に優れる。
【0043】
(4)水系インクのインクジェット記録ヘッド適合性
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C、ピエゾ方式)から取り外したインクジェット記録ヘッドにインクを充填し密封した。次に、恒温槽に該インクジェット記録ヘッドを入れ、70℃で2週間保持した。
その後、インクジェット記録ヘッドを室温25℃の条件に保持した後、インクジェットプリンターに装着し、充填したものと同じ水系インクを用いて1パス(ファインモード)の条件で印刷を行い、印刷結果から、吐出可能ノズル数を数え、下記計算式により、ノズル回復率(%)によって、ノズル回復率を求め、記録ヘッド適合性を評価した。
ノズル回復率(%)=[(吐出可能ノズル数/全ノズル数)]×100
ヘッド回復率が大きいほど、水系インクが長期間にわたる印刷においてもインクジェット記録ヘッドを劣化させず、インクジェット記録ヘッド適合性に優れる。
【0044】
製造例1(水不溶性ポリマー溶液の調製)
2つの滴下ロート1及び2を備えた反応容器内に、表1の「初期仕込みモノマー溶液」欄に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
一方、滴下ロート1及び2中に、それぞれ、表1の「滴下モノマー溶液1」欄及び「滴下モノマー溶液2」欄に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、滴下モノマー溶液1及び2を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら75℃に維持し、滴下ロート1中の滴下モノマー溶液1を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。次いで滴下ロート2中の滴下モノマー溶液2を2時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の混合溶液を75℃で2時間攪拌した。次いで前記重合開始剤3部をメチルエチルケトン135部に溶解した重合開始剤溶液を前記混合溶液に加え、75℃で1時間攪拌することで熟成を行った。前記重合開始剤溶液の添加及び熟成を更に2回行った。次いで反応容器内の反応溶液を85℃で2時間保持し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマーの〔(a)/(b)〕重量比は0.2であった。
得られたポリマー溶液の一部を、減圧しながら、105℃で2時間保持して溶媒を除去し、ポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は170000であった。
【0045】
【表1】

【0046】
製造例2〔水系顔料分散液(I)の製造〕
製造例1で得られたポリマー21.8部を、メチルイソブチルケトン(MIBK)〔有機溶媒(A)、沸点:116℃〕25.8部に溶かし、ポリマーのMIBK溶液を得た。高速回転ディスパー(プライミクス株式会社製、T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型)を備えた2Lのガラス製容器(ビードレックス社製、丸型セパラブルフラスコ)に前記ポリマーのMIBK溶液を投入し、1400rpmの条件でディスパーで撹拌しながら、イオン交換水275.1部、5N水酸化ナトリウム水溶液3.9部、及び25%アンモニア水溶液2.2部を添加し、0℃の水浴で冷却しながら、2000rpmで15分間撹拌した。次いでキナクリドン顔料(大日精化工業株式会社製、クロモファインレッド6111T)75部を加え、6000rpmで60分間撹拌した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名 MF−140K)を用いて150MPaの圧力で20パス分散処理し、イオン交換水で希釈し、水系顔料分散液(I)を得た。固形分濃度は15%であった。
【0047】
製造例3〔水系顔料分散液(I−2)の製造〕
製造例1で得られたポリマー645部を、メチルイソブチルケトン(MIBK)〔有機溶媒(A)、沸点:116℃〕774部に溶かし、ポリマーのMIBK溶液を得た。高速回転ディスパー(特殊機化工業製T.K.ホモディスパー40型)に前記ポリマーのMIBK溶液を投入し、700rpmの条件でディスパーで撹拌しながら、イオン交換水8253部、5N水酸化ナトリウム水溶液117部、及び25%アンモニア水溶液66部を添加し、6℃の水浴で冷却しながら、1200rpmで15分間撹拌した。次いでキナクリドン顔料(大日精化工業株式会社製、クロモファインレッド6111T)2250部を加え、2500rpmで180分間撹拌した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名 MF−7115)を用いて150MPaの圧力で20パス分散処理し、イオン交換水で希釈し、水系顔料分散液(I−2)を得た。固形分濃度は15%であった。
【0048】
実施例1〔顔料分散体及び水系インク1の製造〕
製造例2で得られた水系顔料分散液(I)600部に対して、含まれるポリマー(22.5部)の5倍量のアセトン(有機溶媒(B)、沸点:56℃)112.5部及びイオン交換水187.5部を加え、固形分濃度を10%に調整した。調整した液を2Lのナスフラスコに投入し、減圧蒸留装置〔ロータリーエバポレーター、東京理化器械株式会社製、商品名:N−1000S〕を用いて、回転数50rpmで、60℃に調整した温浴中、0.04MPaの圧力で1時間、濃縮処理を行い、その後、イオン交換水を一部除去することにより、更に濃縮を行うため、圧力を0.02MPaに下げて更に2時間濃縮処理を行い、固形分濃度25%の顔料水分散体(i)を得た。
得られた顔料水分散体(i)360gを500mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、himac CR7、設定温度20℃)を用いて6000rpmで30分間、遠心分離処理を行い、1.2μmのメンブランフィルター〔Sartorius社製、商品名:Minisart〕で濾過し、顔料水分散体(ii)を得た。
得られた顔料水分散体(ii)350部に対し、エポキシ架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、商品名:デナコールEX321L、エポキシ当量129、ナガセケムテックス株式会社製)を2.83部、イオン交換水を49部添加し、90℃で2時間撹拌した。25℃に冷却後、前記1.2μmのフィルターで濾過し、顔料水分散体(iii)を得た。顔料水分散体(iii)の固形分濃度は20%、架橋率は50モル%であった。
得られた顔料水分散体(iii)40.0部に対し、グリセリン32.7部、トリメチロールプロパン4部、2−ピロリドン3部、2−{2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ}エタノール(和光純薬工業株式会社製)1.5部、サーフィノール104PG50(日信化学工業株式会社製)0.1部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物(シグマアルドリッチ製)0.05部、ベンゾトリアゾール0.01部、プロキセルBDN(アーチケミカルズジャパン株式会社製)0.06部、及びイオン交換水18.58部を添加、混合し、得られた混合液を前記1.2μmのフィルターで濾過し、水系インク1を得た。評価結果を表2に示す。
【0049】
実施例2〜6〔顔料分散体及び水系インク2〜6の製造〕
実施例1において、アセトンの替わりに表2に示す有機溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、水系インク2〜6を得た。評価結果を表2に示す。
【0050】
実施例7〔顔料分散体及び水系インク7の製造〕
製造例3で得られた水系顔料分散液(I−2)1200部に対して、含まれるポリマー(450部)の5倍量のアセトン(有機溶媒(B)、沸点:56℃)2250部及びイオン交換水3750部を加え、固形分濃度を10%に調整した。調整した液を、攪拌槽薄膜蒸発装置〔関西化学機械製作(株)製、商品名:ウォールウェッター〕を用いて、回転数150rpmで、60℃に調整した温浴中、0.03MPaの圧力で3時間、濃縮処理を行い、その後、イオン交換水を一部除去することにより、更に濃縮を行うため、圧力を0.01MPaに下げて更に5時間濃縮処理を行い、固形分濃度25%の顔料水分散体(i−2)を得た。
得られた顔料水分散体(i−2)360gを500mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、himac CR7、設定温度20℃)を用いて6000rpmで30分間、遠心分離処理を行い、1.2μmのメンブランフィルター〔Sartorius社製、商品名:Minisart〕で濾過し、顔料水分散体(ii−2)を得た。
得られた顔料水分散体(ii−2)350部に対し、エポキシ架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、商品名:デナコールEX321L)を2.83部、イオン交換水を49部添加し、90℃で2時間撹拌した。25℃に冷却後、前記1.2μmのフィルターで濾過し、顔料水分散体(iii−2)を得た。顔料水分散体(iii−2)の固形分濃度は20%、架橋率は50モル%であった。
得られた顔料水分散体(iii−2)40.0部に対し、グリセリン32.7部、トリメチロールプロパン4部、2−ピロリドン3部、2−{2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ}エタノール(和光純薬工業株式会社製)1.5部、サーフィノール104PG50(日信化学工業株式会社製)0.1部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物(シグマアルドリッチ製)0.05部、ベンゾトリアゾール0.01部、プロキセルBDN(アーチケミカルズジャパン株式会社製)0.06部、及びイオン交換水18.58部を添加、混合し、得られた混合液を前記1.2μmのフィルターで濾過し、水系インク7を得た。評価結果を表2に示す。
【0051】
比較例1〔顔料分散体及び水系インク8の製造〕
実施例1において、アセトンの替わりに表2に示す有機溶媒(酢酸プロピル)を用いた以外は実施例1と同様にして、水系インク8を得た。評価結果を表2に示す。
比較例2〔顔料分散体及び水系インク9の製造〕
実施例1において、アセトンを用いなかった以外は実施例1と同様にして、水系インク9を得た。評価結果を表2に示す。
比較例3〔顔料分散体及び水系インク10の製造〕
実施例1において、MIBKの替わりにメチルエチルケトン(MEK)(沸点:80℃)用いて、アセトンの替わりにイソプロピルアルコール(IPA)(沸点:82℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、水系インク10を得た。評価結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2の結果から、実施例1〜7の水系インクは、比較例1〜3の水系インクに比べて、保存安定性に優れ、長期間にわたる印刷においてもインクジェット記録ヘッドを劣化させることがなく、インクジェット記録ヘッドの材質に適合したものであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子、及び沸点が90℃を超え、250℃以下であり、かつ前記水不溶性ポリマーを溶解する有機溶媒(A)を含む水系顔料分散液(I)と、沸点が40〜90℃でかつ有機溶媒(A)と混和する有機溶媒(B)とを混合した後、減圧下で濃縮処理する工程を含む、インクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒(A)がケトンである、請求項1に記載のインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒(B)が、ケトン、エステル、及びアルコールから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
【請求項4】
前記水不溶性ポリマーが、有機溶媒(A)を80重量%以上含む有機溶媒中で溶液重合法により製造されたものである、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
【請求項5】
水不溶性ポリマーにおける、疎水性モノマー(b)由来の構成単位に対する塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位の重量比〔(a)/(b)〕が0.01〜1である、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
【請求項6】
濃縮処理する際の温度が、有機溶媒(B)の量が濃縮処理前の50重量%になるまでの間、40〜80℃である、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
【請求項7】
濃縮処理する工程の後に、顔料及び水不溶性ポリマーを含有するポリマー粒子の水分散体に架橋剤を添加して、該水不溶性ポリマーを架橋処理して、顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水分散体を得る工程を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法により得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2012−111839(P2012−111839A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261676(P2010−261676)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】