説明

インクジェット記録用着色剤分散体の製造方法

【課題】高濃度で着色剤分散体の架橋処理を行っても粗大粒子の生成が少ないインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法、及び該着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】以下の工程(I)及び(II)を有する、固形分濃度25重量%以上のインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法、及び該着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。
工程(I):着色剤、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー、及び水を含有する着色剤分散体(A)と、架橋剤とを、攪拌レイノルズ数が7,500〜120,000の攪拌条件下で混合し、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体(B)を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた着色剤分散体(B)を、工程(I)の攪拌レイノルズ数以下で、かつ、攪拌レイノルズ数が6,000〜100,000の攪拌条件下で架橋処理する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用着色剤分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙を使用できるという数多くの利点があるため普及が著しい。その中でも、印刷物の耐候性や耐水性の観点から、インクジェット記録用水系インクは、着色剤に顔料を用いるものが主流となっている。
インクジェット記録用水系インク中の着色剤濃度を高めるために、該水系インクに用いる着色剤の水分散体を高濃度化することが試みられている。一般的に、水分散体において着色剤を高濃度化しようとすると、保存時の増粘・凝集・固化等の問題が発生しやすいが、例えば、特許文献1及び2には、顔料表面に架橋処理を施すことにより、保存安定性が高い着色剤分散体が得られることが開示されており、特許文献2には、顔料表面を架橋処理することにより、高濃度でも保存安定性が高い着色剤分散体が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−156465号公報
【特許文献2】特開2009−108116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高濃度の着色剤分散体を架橋処理すると、架橋時に粗大粒子が発生することがあった。粗大粒子が着色剤分散体中に混入すると、該着色剤分散体をインクジェット記録用水系インクに用いた場合にインクジェットプリンタのインク吐出時に目詰まりをおこすことがあるため、該着色剤分散体の製造時に、フィルターによるろ過や遠心分離工程を行う必要がある。フィルターによるろ過は、粗大粒子が多いと、ろ過時にフィルターの閉塞が起こるため経済的ではない。また、遠心分離工程を実施すると粗大粒子が除去されて固形分量が低下するため、目標とする固形分量の着色剤分散体を得るには、低下する固形分量を見込んで、より高濃度で架橋処理を行う必要があり、更に粗大粒子が発生しやすくなる。
本発明は、高濃度で着色剤分散体の架橋処理を行っても粗大粒子の生成が少なく、粗大粒子の除去のための遠心分離工程を導入することなく、フィルターろ過での粗大粒子の除去の負荷を低減できるインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法、及びその方法により得られる着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、高濃度の着色剤分散体の架橋処理を特定の攪拌レイノルズ数の攪拌条件下で行うことで、粗大粒子の生成を抑制し、高濃度のインクジェット記録用着色剤分散体を効率よく製造できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のようなインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法、及びインクジェット記録用水系インクを提供する。
〔1〕以下の工程(I)及び(II)を有する、固形分濃度25重量%以上のインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法、
工程(I):着色剤、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー、及び水を含有する着色剤分散体(A)と、架橋剤とを、攪拌レイノルズ数が7,500〜120,000の攪拌条件下で混合し、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体(B)を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた着色剤分散体(B)を、工程(I)の攪拌レイノルズ数以下で、かつ、攪拌レイノルズ数が6,000〜100,000の攪拌条件下で架橋処理する工程
〔2〕上記〔1〕に記載のインクジェット記録用着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0006】
本発明のインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法によれば、高濃度で着色剤分散体の架橋処理を行っても粗大粒子の生成を抑制し、高濃度のインクジェット記録用着色剤分散体を効率よく得ることができる。また、製造時のスケールや攪拌翼の種類を問わないので、スケールアップや、反応装置の変更を容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[インクジェット記録用着色剤分散体の製造方法]
本発明のインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法は、下記工程(I)及び(II)を有することを特徴とする。
工程(I):着色剤、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー、及び水を含有する着色剤分散体(A)と、架橋剤とを、攪拌レイノルズ数が7,500〜120,000の攪拌条件下で混合し、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体(B)を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた着色剤分散体(B)を、工程(I)の攪拌レイノルズ数以下で、かつ、攪拌レイノルズ数が6,000〜100,000の攪拌条件下で架橋処理する工程
高濃度の着色剤分散体を架橋処理すると、架橋時に粗大粒子が発生しやすくなる。この理由は、着色剤分散体が高濃度であると、近接する着色剤粒子間の距離が小さいため、架橋処理時に着色剤粒子間で架橋が起こるためと考えられる。
本発明によれば、上記構成により、高濃度で着色剤分散体の架橋処理を行っても粗大粒子の生成を抑制することができるため、粗大粒子の除去のための遠心分離工程を導入することなく、フィルターろ過での粗大粒子の除去の負荷を低減できるため、固形分濃度25重量%以上のインクジェット記録用着色剤分散体を効率よく製造することができる。
【0008】
<工程(I)>
工程(I)は、着色剤、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー、及び水を含有する着色剤分散体(以下、「着色剤分散体(A)」ともいう)と、架橋剤とを、攪拌レイノルズ数が7,500〜120,000の攪拌条件下で混合し、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体(以下、「着色剤分散体(B)」ともいう)を調製する工程である。
【0009】
(着色剤分散体(A))
本発明における着色剤分散体(A)は、着色剤、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー、及び水を含有する。
【0010】
〔着色剤〕
着色剤としては、耐水性の観点から、顔料及び疎水性染料が挙げられ、中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料を用いるのが好ましい。顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、体質顔料を併用することもできる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料を用いることもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム及びタルク等が挙げられる。
【0011】
疎水性染料は、ポリマーにより乳化又はポリマーに含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。疎水性染料は、ポリマー中に効率よく染料を含有させる観点から、ポリマーの製造時に使用する有機溶媒(好ましくメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上、好ましくは20〜500g/L(25℃)溶解するものが望ましい。疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、及びC.I.ソルベント・オレンジからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられ、オリエント化学株式会社、BASF社等から市販されている。
上記の着色剤は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0012】
〔架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー〕
本発明に用いられるポリマーは、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマーである。
着色剤分散体(A)中の、ポリマーと着色剤の合計量に対する着色剤量の重量比〔着色剤/(ポリマー+着色剤)〕は、ポリマー及び着色剤の分散性、及び着色剤分散体の安定性の観点から、50/100〜90/100が好ましく、70/100〜85/100がより好ましい。当該ポリマーは、水溶性ポリマーであっても水不溶性ポリマーであってもよく、更にそれらの混合物であってもよいが、着色剤分散体の安定性の観点から、水不溶性ポリマーであることが好ましい。
架橋剤と反応しうる反応性官能基としては、カルボキシル基、スルホン基が挙げられ、この中でも着色剤分散体の安定性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
〔水不溶性ポリマー〕
本発明において、水不溶性ポリマーとは、対象ポリマーの中和品を、温度25℃で水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下であるポリマーをいう。溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。このような水不溶性ポリマーは、顔料に対し好適な付着性、吸着性を発現し得る点で好ましい。
【0013】
水不溶性ポリマーとしては、水不溶性ビニルポリマー、水不溶性エステルポリマー、水不溶性ウレタンポリマー等が挙げられるが、これらの中では水不溶性ビニルポリマーが好ましい。
水不溶性ビニルポリマーとしては、(a)塩生成基モノマー(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)マクロマー(以下「(b)成分」ともいう)及び/又は(c)疎水性モノマー(以下「(c)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニルポリマーが好ましい。このビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位と、(b)成分由来の構成単位及び/又は(c)成分由来の構成単位を有する。中でも(a)成分由来の構成単位、(b)成分由来の構成単位、(c)成分由来の構成単位を全て含有するものが好ましい。
【0014】
〔(a)塩生成基モノマー〕
(a)塩生成基モノマーとしては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー及び不飽和リン酸モノマーから選ばれる一種以上が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記塩生成基モノマーの中では、インク粘度、吐出性の観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0015】
〔(b)マクロマー〕
(b)マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、着色剤分散体の安定性の観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(b)マクロマーの数平均分子量は、500〜100,000が好ましく、1,000〜10,000がより好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(b)マクロマーとしては、着色剤分散体の安定性の観点から、スチレン系マクロマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましい。
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。共重合体の場合、着色剤分散体の安定性の観点から、スチレン系モノマーの含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられる。共重合される他のモノマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレート又はアクリロニトリル等が挙げられる。スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0016】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。共重合体の場合、着色剤分散体の分散安定性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレート系モノマーの含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい炭素数7〜22のアリールアルキル基、又はヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい炭素数6〜22のアリール基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
その具体例としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。共重合される他のモノマーとしては、スチレン系モノマー又はアクリロニトリル等が挙げられる。
(b)マクロマーはシリコーン系マクロマーであってもよく、シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0017】
〔(c)疎水性モノマー〕
(c)疎水性モノマーは、インクの印字濃度の向上の観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0018】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましく、これらを併用することも好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0019】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
モノマー混合物には、更に、着色剤分散体の安定性の観点から、(d)ノニオン性モノマー(以下「(d)成分」ともいう)が含有されていてもよい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
ビニル系ポリマー製造時における、上記(a)〜(d)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はビニル系ポリマー中における(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、着色剤分散体の安定性の観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。(b)成分の含有量は、着色剤分散体の安定性の観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。(c)成分の含有量は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜80重量%である。
(d)成分の含有量は、着色剤分散体の安定性の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、更に好ましくは15〜30重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、着色剤分散体の安定性とインクの印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0021】
水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、着色剤の分散安定性、耐水性、吐出性等の観点から80,000〜400,000であることが好ましく、100,000〜350,000であることがより好ましい。なお、水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
水不溶性ポリマーの酸価は、分散性の観点から、好ましくは50〜300mgKOH/g、より好ましくは100〜250mgKOH/gである。
【0022】
〔水溶性ポリマー〕
本発明において、水溶性ポリマーとは、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10gを越えるもの、好ましくは20g以上、より好ましくは30g以上であるポリマーをいう。上記溶解量は、水溶性ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、水溶性ポリマーの塩生成基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量をいう。
水溶性ポリマーとしては、水溶性ビニルポリマー、水溶性エステルポリマー、水溶性ウレタンポリマー等が挙げられるが、これらの中では、ビニル単量体の付加重合により得られるビニルポリマーが好ましく、塩生成基含有モノマー(a)(前記の(a)成分と同じ)と疎水性モノマー(b)(前記の(b)成分と同じ)を含むモノマー混合物を共重合させてなるビニルポリマーがより好ましい。
【0023】
水溶性ポリマーにおける塩生成基含有モノマー(a)の具体例、好適例は前記と同様である。それらの中では、ポリマーの分散性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましく、水への溶解性を高める観点から、アクリル酸が更に好ましい。
水溶性ポリマーにおける疎水性モノマー(b)の具体例、好適例は前記と同様である。それらの中では、ポリマーの着色剤への親和性を高める観点から、スチレン、2−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
水溶性ビニルポリマー中、(a)成分は、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜70重量%であり、(b)成分は、好ましくは15〜85重量%、より好ましくは25〜75重量%である。
水溶性ポリマーの重量平均分子量は、分散性の観点から、好ましくは1,000〜30,000、より好ましくは1,500〜20,000である。なお、水溶性ポリマーの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
水溶性ポリマーの酸価は、分散性の観点から、好ましくは100〜300mgKOH/g、より好ましくは150〜250mgKOH/gである。
水溶性ポリマーの市販品としては、例えば、BASFジャパン株式会社のJONCRL(登録商標)57J、同60J、同61J、同63J、同70J、同PD−96J、同501J等が挙げられる。これらの市販品ポリマーは中和されたものであり、必要に応じて、別途、更に中和剤を加えてもよい。
【0024】
〔その他の成分〕
着色剤分散体(A)は、有機溶媒、中和剤、界面活性剤を更に含有していてもよい。着色剤分散体(A)は、これらの成分を分散機等を用いて分散した着色剤分散体であることが好ましい。なお、着色剤分散体(A)と架橋剤と混合する前に、一部の架橋剤が着色剤分散体(A)に含有されていてもよい。
【0025】
〔有機溶媒〕
有機溶媒は、水不溶性ポリマー(一部)を適度に溶解するために用いられ得る。有機溶媒としては、20℃における水に対する溶解度が5〜40重量%(水100gに対して5〜40g)のものが好ましく、5〜30重量%のものがより好ましい。これらの有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、1−ブタノール、2−ブタノール等が挙げられ、ケトン系溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等が挙げられる。また、芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、脂肪族炭化水素系溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、ハロゲン化炭化水素系溶媒としてはクロロホルム、二塩化炭素、四塩化炭素、塩化エチレン等が挙げられる。これらの中では、その安全性や、後処理において溶媒を除去する際の操作性の観点から、ケトン系溶媒、特にメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
〔中和剤〕
架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマーが、酸価を有するポリマーである場合には、中和剤を用いてポリマーを中和してもよい。
酸価を有するポリマーを中和するための中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。中和剤は単独で用いてもよいし、複数の中和剤を用いてもよい。中和剤による中和度は、架橋剤による架橋効率と、工程(II)の架橋処理後の着色剤含有ポリマー粒子(以下、「着色剤含有架橋ポリマー粒子」ともいう)の分散安定性の観点から、10〜90モル%であることが好ましく、20〜80モル%であることがより好ましく、30〜70モル%であることが更に好ましい。
この場合、中和度は下記で示した式で求めることができる。
中和度(モル%)={[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(mgKOH/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
着色剤分散体(A)の分散性の観点から、中和剤は着色剤分散体(A)の予備混合/予備分散時に添加することが好ましい。
【0027】
(着色剤分散体(A)の混合/分散)
着色剤分散体(A)は、予備混合/予備分散してもよい。また、予備混合/予備分散して得られた着色剤分散体(A)の中には、着色剤の表面にポリマーが吸着した状態、すなわち着色剤を含有するポリマー粒子(以下、「着色剤粒子」ともいう)の状態で着色剤が存在しており、その着色剤分散体(A)中の着色剤粒子の平均粒径を所望の大きさにするために、引き続き本分散処理を行ってもよい。
着色剤分散体(A)中の着色剤粒子の平均粒径に特に制限はないが、着色剤の発色性、印字濃度の観点から、分散時の着色剤粒子の平均粒径は好ましくは30〜300nm、より好ましくは40〜200nm、より好ましくは50〜150nm、更に好ましくは60〜90nmである。
予備混合/予備分散に使用する撹拌機、分散機としては、パドル翼、タービン翼、アンカー翼等の一般的に用いられる撹拌装置、また、ウルトラディスパー〔浅田鉄工株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー〔プライミクス株式会社、商品名〕等の高速撹拌タイプの分散装置が挙げられる。
また、本分散処理に用いられる分散機としては、例えば、ロールミル、メディアミル、ニーダー、エクストルーダ、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等が挙げられ、これらの中では微粒化性能が高い高圧ホモジナイザー、メディアミルが好ましい。
予備分散、及び本分散処理時の着色剤分散体(A)の固形分濃度は、分散可能であれば制約はないが、5〜50重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、10〜20重量%が更に好ましい。固形分濃度を5重量%以上とすることで、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体(A)を得るための濃度調整の負荷を低減することができる。また、固形分濃度を50重量%以下とすることで、粘度上昇による分散機の操作性を向上させることができる。
【0028】
(架橋剤)
本発明に用いられる架橋剤は、本発明に用いられるポリマーと反応しうる反応性官能基を有する化合物である。架橋剤の使用量は、架橋された後の分散体の保存安定性の観点から、ポリマー100重量部に対して、0.3〜30重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。
架橋剤の分子量は、架橋後の着色剤分散体の保存安定性の観点から、120〜2,000が好ましく、150〜1,500がより好ましく、150〜1,000が更に好ましい。
架橋剤1分子中に含まれる反応性官能基の数は、分子量を制御して保存安定性を向上する観点から、2〜6が好ましい。反応性官能基としては、エポキシ基、オキサゾリン基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1以上が好ましく挙げられる。
架橋剤は、効率よくポリマーを架橋する観点から、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が好ましくは50g以下、より好ましくは40g以下、更に好ましくは30g以下である。
【0029】
架橋剤の具体例としては、次の(a)〜(c)が挙げられる。
(a)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物:例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル。
(b)分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物:例えば、脂肪族基又は芳香族基に2個以上、好ましくは2〜3個のオキサゾリン基が結合した化合物、より具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン、1,3−ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物。
(c)分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物:例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー。
有機ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;トリレン−2,4−ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;脂環式ジイソシアネート;芳香族トリイソシアネート;それらのウレタン変性体等の変性体が挙げられる。イソシアネート基末端プレポリマーは、有機ポリイソシアネート又はその変性体と低分子量ポリオール等とを反応させることにより得ることができる。
これらの中では、(a)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0030】
(攪拌レイノルズ数)
工程(I)では、上記固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体(A)と架橋剤とを、攪拌レイノルズ数が7,500〜120,000の攪拌条件下で混合する。
この攪拌レイノルズ数は、本発明の製造方法で得られる着色剤分散体及び/又は該着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インクのろ過性の観点から、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、35,000以上が更に好ましい。一方、エネルギー効率の点からは、115,000以下が好ましく、110,000以下がより好ましい。上記の観点から、攪拌レイノルズ数は、10,000〜120,000が好ましく、30,000〜115,000がより好ましく、35,000〜110,000が更に好ましい。これは、本発明に用いられる架橋剤が、前述のように水への溶解度の低いものが好ましいため、架橋反応前に均一混合しておくことが重要であるからである。着色剤分散体(A)と架橋剤が均一に混合されていないと、架橋反応が部分的に進行し、粗大粒子が発生しやすくなると考えられる。そこで、本発明では、着色剤分散体(A)と架橋剤とを、工程(II)の架橋処理時のレイノルズ数以上で攪拌混合することが好ましく、工程(II)の架橋処理時の攪拌レイノルズ数を超える攪拌レイノルズ数で攪拌混合することがより好ましい。
【0031】
攪拌レイノルズ数は次式(1)で定義される。
Re=ρud2/μ ・・・(1)
ここで、Reは攪拌レイノルズ数、ρは液の密度[kg/m3]、uは攪拌回転数[1/s]、dは攪拌翼の直径[m]、μは液の粘度[kg/(m・s)]である。
【0032】
攪拌翼は、その構造あるいは使用目的によって様々な種類が存在する。工業的に広範囲に用いられている攪拌翼としては、例えば、ディスパー翼、アンカー翼、タービン翼、プロペラ翼、パドル翼、ファウドラー翼、プルマージン翼などがある。ディスパー翼は比較的翼径が小さく、高速で攪拌してせん断力を付与する機構である。アンカー翼は比較的翼径が大きいが攪拌回転数は小さくなる。
本発明での攪拌翼は、上記攪拌レイノルズ数の範囲に設定できるものであれば、その種類を問わない。これにより、例えば製造装置を変更する場合でも、条件設定が容易である。
【0033】
架橋剤混合時の時間、温度は用いる架橋剤により適宜選択できる。混合時間は好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは0.5〜5時間であり、混合温度は、好ましくは10〜40℃である。
【0034】
(着色剤分散体(B))
工程(I)において、上記のようにして着色剤分散体(A)と架橋剤とを混合し、着色剤分散体(B)が得られる。
工程(I)で得られる着色剤分散体(B)は、少なくとも着色剤、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー、架橋剤、及び水が含まれる、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体である。この着色剤分散体には、有機溶媒、中和剤、界面活性剤等を更に含有してもよい。
【0035】
工程(I)で得られる着色剤分散体(B)の固形分濃度は25重量%以上であり、該着色剤分散体をインクジェット記録用水系インクとした時の印字濃度と保存安定性の観点から、25〜50重量%が好ましく、25〜45重量%がより好ましく、25〜40重量%が更に好ましい。着色剤分散体(B)の固形分濃度は、着色剤分散体(A)と架橋剤とを混合する前に25重量%以上に調整してもよいし、混合した後に25重量%以上に調整してもよいが、混合後速やかに架橋を実施する観点から、架橋剤と混合する前に25重量%以上に調整することが好ましい。
固形分濃度が25重量%以上である場合には、水で希釈することで着色剤分散体の固形分濃度を所定の濃度に調整することができる。また固形分濃度が25重量%以下である場合には、公知の方法で濃縮することで所定の濃度の着色剤分散体を得ることができる。なお、固形分濃度は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0036】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)で得られた着色剤分散体(B)を、工程(I)の攪拌レイノルズ数以下で、かつ、攪拌レイノルズが6,000〜100,000の攪拌条件下で架橋処理する工程である。これにより、固形分濃度25重量%以上の、着色剤含有架橋ポリマー粒子の分散体が得られる。
【0037】
(架橋処理)
架橋処理(架橋反応)工程は、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマーを架橋させて、架橋されたポリマーを含む着色剤分散体を得る工程である。架橋処理工程で得られた着色剤粒子は、理想的には、着色剤の表面に吸着したポリマーの内部で架橋処理された粒子、すなわち着色剤を含有する架橋ポリマー粒子として存在するが、実際には、着色剤粒子の表面に吸着した複数個のポリマーが架橋処理された状態で存在する。
架橋処理は攪拌翼による混合条件下で行う。攪拌速度は、液の混合状態を左右する重要な因子である。
一般に攪拌状態を表すのに攪拌レイノルズ数が用いられる。通常は攪拌レイノルズ数が3,000以下は層流、5,000以上を乱流としているが、本発明では、攪拌レイノルズ数が、工程(I)の攪拌レイノルズ数以下で、かつ、6,000〜100,000という特定の範囲に設定することで、架橋処理工程での粗大粒子の生成を抑制することができるため、後工程における遠心分離工程を導入することなく、フィルターろ過による粗大粒子除去の負荷を低減することができる。
この攪拌レイノルズ数は、本発明の製造方法で得られる着色剤分散体及び/又は該着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インクのろ過性の観点から、7,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、25,000以上が更に好ましい。また、同様に本発明の製造方法で得られる着色剤分散体及び/又は該着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インクのろ過性の観点から、攪拌レイノルズ数は80,000以下が好ましく、60,000以下がより好ましく、50,000以下がより好ましく、40,000以下が更に好ましい。上記の観点から、攪拌レイノルズ数は、7,000〜80,000が好ましく、10,000〜60,000がより好ましい。また、工程(I)の攪拌レイノズル数未満の攪拌レイノルズ数の条件下で架橋処理することがより好ましい。
攪拌レイノルズ数が6,000より小さいと、架橋剤が充分に混合できず、局部的に架橋剤が高濃度になると不均一な箇所で架橋反応がおこるため、隣接した着色剤分散体同士の架橋が相対的に多く発生し、その結果粗大粒子が発生すると考えられる。そこで、攪拌状態を良好にするために攪拌回転数を上げ、攪拌レイノルズを大きくすれば良好な分散体が得られると予想された。
しかしながら、攪拌レイノルズ数が大きくともやはり粗大粒子が発生することを発明者らは突き止め、最適な攪拌レイノルズ数に設定することで、粗大粒子の低減を可能とした。
攪拌レイノルズ数が大きい場合に粗大粒子が発生する理由は明らかではないが、発明者らは粗大粒子の存在を確認している。
【0038】
攪拌レイノルズ数は、前記式(1)で定義され、攪拌翼も工程(I)で用いたものを使用することができる。
【0039】
工程(II)において用いる触媒、溶媒、反応温度、反応時間は、用いる架橋剤の種類により、適宜選択することができる。反応時間は、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜5時間、反応温度は、好ましくは40〜95℃である。
【0040】
工程(II)で得られる着色剤分散体の架橋率(モル%)は、好ましくは1〜70モル%、より好ましくは30〜60モル%である。架橋率は、実施例記載の計算式により求められる。
【0041】
<インクジェット記録用着色剤分散体>
本発明の方法により得られたインクジェット記録用着色剤分散体は、着色剤含有架橋ポリマー粒子が水を主溶媒とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤とポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
【0042】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、前記工程(II)で得られた着色剤含有架橋ポリマー粒子を含むインクジェット記録用着色剤分散体を含むものであり、該水分散体に、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる親水性有機溶媒、湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加して調製することができる。
水系インク中の着色剤の含有量は、印字濃度と保存安定性の観点から、10重量%以上であり、30重量%以下が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、10〜25重量%がより好ましく、10〜20重量%が更に好ましい。本発明で製造される着色剤分散体を用いることで、着色剤が10重量%以上の高濃度であっても、保存安定性に優れたものとなる。
水系インク中の着色剤含有架橋ポリマー粒子の含有量は、保存安定性の観点から、12〜50重量%が好ましく、12〜40重量%がより好ましい。水系インク中のポリマーの含有量は、保存安定性の観点から、6〜25重量%が好ましく、6〜20重量%がより好ましい。
また、水系インク中の着色剤含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び保存安定性の観点から、好ましくは10〜500nm、より好ましくは30〜300nm、更に好ましくは50〜200nmである。なお、平均粒径の測定は、実施例記載の方法で行う。
水系インク中の水の含有量は、印字濃度の観点から、60重量%を超え、80重量%以下が好ましく、60重量%を超え70重量%以下がより好ましく、61〜70重量%が更に好ましい。
【実施例】
【0043】
平均粒径、粘度、密度、及び固形分濃度の測定、架橋率、酸価の計算、及びろ過性の評価は次のように行った。
(1)着色剤分散体(A)中の着色剤粒子の平均粒径
大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)で測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は、5×10-3重量%で行った。
(2)粘度
E型粘度計(東機産業株式会社製、型番:RE80型)を用いて、測定温度20℃で粘度を測定した。測定ローターは標準ローター(1°34′×R24)を使用した。
(3)密度
Uチューブ振動式密度計(日本シーベルヘグナー社製、型番:DMA38)を用いて、測定温度20℃で密度を測定した。
【0044】
(4)架橋率
着色剤含有架橋ポリマー粒子の架橋率(モル%)は、下記式で表される。
架橋率(モル%)=[架橋剤の反応性基のモル数/ポリマー中の反応性官能基のモル数]×100
【0045】
(5)酸価
ポリマーの酸価(mgKOH/g)は下記式で表される。
酸価(mgKOH/g)=[ポリマー固形分1gの塩生成基のモル数×水酸化カリウムの分子数]×1000
【0046】
(6)固形分濃度
平底皿に充分乾燥させた無水硫酸ナトリウム(乾燥助剤)を約10g入れ、平底皿と合わせて乾燥前の重量を正確に測定した。測定するサンプルを1g精秤し、105℃で2時間乾燥させた後、室温まで放冷し、乾燥後の平底皿の重量を正確に測定した。以下の計算式により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(%)=[〔乾燥前の重量(g)−乾燥後の重量(g)〕/サンプル量(g)]×100
【0047】
(7)ろ過性
工程(II)の架橋処理後のインクジェット記録用着色剤分散体をメンブランフィルター(ザルトリウス製、孔径5μm、直径25mm)を用いてろ過し、通過可能量を測定した。3回測定し、平均値をろ過量とした。
ろ過性の良否を下記基準により評価した。
1:ろ過量が0〜5.0g
2:ろ過量が5.1〜20.0g
3:ろ過量が20.1g〜
【0048】
製造例1(架橋剤と反応しうる反応性官能基を有する水不溶性ポリマーの製造)
反応容器内に、メチルエチルケトン20部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.05部、及び表1に示す各モノマー200部のうち10%を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表1に示すモノマーの残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.45部、メチルエチルケトン60部、及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、更にメチルエチルケトンを加え、30分間攪拌し、水不溶性ポリマーの50重量%溶液を得た。
なお、製造例1で得られた水不溶性ポリマーの酸価は、上記記載の式より137mgKOH/gであった。
【0049】
【表1】

【0050】
製造例2(着色剤分散体(A)の製造方法)
製造例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー43部とメチルエチルケトン70部と混合し、その中にイエロー顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:C.I.ピグメント・イエロー74)100部を加えよく混合し、更に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液12.0部と25%アンモニア水溶液0.67部を加え、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、商品名:ウルトラディスパー)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させ60分間攪拌した。得られた混合物を、イオン交換水にて固形分濃度35重量%になるように希釈し、それをマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で150MPaの圧力で10パス分散処理した。
得られた分散液にイオン交換水165部を加え、固形分濃度25重量%の分散液を調製した。攪拌後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを完全に除去し、更に一部の水を除去し、5μmのカートリッジフィルター(日本PALL製、材質:ポリプロピレン)で濾過して粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が35重量%、着色剤粒子の平均粒径が120nmの着色剤分散体(A)を得た。
【0051】
実施例1
<工程(I)>
ディスパー攪拌翼(翼径400mm)を備えた2,000Lの反応槽に、製造例2で得られた着色剤分散体(A)1,000kgを仕込み、架橋率が54モル%となるように架橋剤トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L、分子量305(主成分)、エポキシ当量129、水100gへの溶解量は20g以下(25℃))を17.8kg、水を200kg加え、攪拌回転数400(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は110,000であった。その際、液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後、攪拌回転数を120(min-1)に設定し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋処理を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は32,900であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は50gであった。
【0052】
実施例2
<工程(I)>
アンカー攪拌翼(翼径635mm)を備えた300Lの反応槽に、製造例2で得られた着色剤分散体(A)200kgに、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L)を3.57kg、水を41.7kg加え、攪拌回転数60(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は41,500と算出された。液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後攪拌回転数を40(min-1)に設定し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋処理を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は27,600であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は45gであった。
【0053】
実施例3
<工程(I)>
実施例2と同じアンカー攪拌翼(翼径635mm)を備えた300Lの反応槽に、製造例2で得られた着色剤分散体(A)200kgに、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L)を3.57kg、水を41.66kg加え、攪拌回転数50(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は34,600であった。その際液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後攪拌回転数を50(min-1)に維持し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋処理を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は34,600であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は10gであった。
【0054】
実施例4
<工程(I)>
ディスパー攪拌翼(翼径40mm)を備えた0.5Lの反応槽に、製造例2で得られた着色剤分散体(A)200gに、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L)を3.57g、水を41.7g加え、攪拌回転数4,000(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は11,000であった。その際液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後攪拌回転数を4,000(min-1)に維持し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋処理を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は11,000であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は8gであった。
【0055】
実施例5
<工程(I)>
実施例4と同じディスパー攪拌翼(翼径40mm)を備えた0.5Lの反応槽に、製造例2で得られた着色剤分散体(A)200gに、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L)を3.57g、水を41.7g加え、攪拌回転数6,400(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は17,600であった。その際液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後攪拌回転数を4,000(min-1)に設定し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋反応を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は11,000であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は6gであった。
【0056】
比較例1
<工程(I)>
実施例1と同じディスパー攪拌翼(翼径400mm)を備えた2,000Lの反応槽に、製造例2で得られた着色剤分散体(A)1,000kgを仕込み、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L)を17.8kg、水を200.8kg加え、攪拌回転数400(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は110,000であった。その際液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後攪拌回転数を400(min-1)に維持し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋処理を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は110,000であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は2gであった。
【0057】
比較例2
<工程(I)>
実施例4及び5と同じディスパー攪拌翼(翼径40mm)を備えた0.5Lの反応槽に、製造例2で得られた着色剤分散体(A)200gを仕込み、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L)を3.57g、水を41.7g加え、攪拌回転数1,858(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は5,100であった。その際液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後攪拌回転数を1,858(min-1)に維持し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋処理を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は5,100であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は0.5gであった。
【0058】
比較例3
<工程(I)>
実施例4及び5と同じディスパー攪拌翼(翼径40mm)を備えた0.5Lの反応槽に、製造例2で得られた顔料含有分散体200gを仕込み、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L)を3.57g、水を41.7g加え、攪拌回転数8,000(min-1)で60分混合した。液粘度は0.0105Pa・s、液密度は1,080kg/m3であった。この際の攪拌レイノルズ数は21,900であった。その際液温は20〜25℃の範囲に制御した。
<工程(II)>
その後攪拌回転数を1,858(min-1)に設定し、90℃下で1時間攪拌しつつ架橋処理を行った。架橋処理時の攪拌レイノルズ数は5,100であった。その後冷却し、固形分濃度が30重量%のインクジェット記録用着色剤分散体を得た。
表2に、ろ過性の結果を示した。ろ過量は3gであった。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示すように、工程(I)及び工程(II)において、攪拌レイノルズ数を特定の範囲に設定することで、攪拌翼の種類や反応スケールによらず、粗大粒子の生成を抑制し、所望のろ過性を有する、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(I)及び(II)を有する、固形分濃度25重量%以上のインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法。
工程(I):着色剤、架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマー、及び水を含有する着色剤分散体(A)と、架橋剤とを、攪拌レイノルズ数が7,500〜120,000の攪拌条件下で混合し、固形分濃度25重量%以上の着色剤分散体(B)を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた着色剤分散体(B)を、工程(I)の攪拌レイノルズ数以下で、かつ、攪拌レイノルズ数が6,000〜100,000の攪拌条件下で架橋処理する工程
【請求項2】
工程(I)において、着色剤分散体(A)の固形分濃度が25重量%以上である、請求項1に記載のインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法。
【請求項3】
架橋剤と反応しうる反応性官能基を有するポリマーが水不溶性ポリマーである、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用着色剤分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用着色剤分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2012−136645(P2012−136645A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290358(P2010−290358)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】