説明

インクジェット記録用色材およびこれを用いたインクジェット記録用インク、ならびにこれを用いた記録方法

【課題】安価で耐候性に優れたインクジェット記録用色材、インクおよび記録方法を提供する。
【解決手段】1以上のニトロソ基を有する化合物を含有するインクジェット記録用色材において、前記ニトロソ基を有する化合物と、該化合物のニトロソ基の1つをニトロ基とした化合物との最大吸収波長の差が50nm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録において印字物の変退色を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、安価でかつ鮮鋭性や色彩性に特徴を有するインクジェット記録装置が普及するに従い、銀塩写真に相当する記録特性および保存安定性がインクジェット記録用インクに求められている。画像の耐候性を向上することが今やインクジェット記録用インクの必須条件となっているのが現状である。
【0003】
従来のインクジェット記録用インクにおいては、太陽光や室内光による光劣化や、オゾンなどに代表される酸化性ガスによるガス劣化により色材分子が酸化され退色や変色することがあった。
【0004】
このような光や酸化性ガスによる色材分子の劣化に対しては抗酸化剤を利用する技術があり、この技術には2種類の方法がある。すなわち、予め記録媒体に抗酸化剤を含有させる方法(特許文献1および2参照)と、インクに抗酸化剤を含有させる方法(特許文献3および4参照)がある。
【特許文献1】特開平1−115677号公報
【特許文献2】特開2001−270219号公報
【特許文献3】特開平10−324071号公報
【特許文献4】特開2001−81389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、予め記録媒体に抗酸化剤を含有させる方法では、抗酸化剤自体の色や抗酸化反応に由来する抗酸化剤の劣化物の発生により、記録媒体上のインクを塗布しない部分の白色度が落ちてしまうことがあった。
【0006】
また、インクに抗酸化剤を含有させる方法では、インクに相当量の抗酸化剤を含ませないと十分な耐候性能を発揮しないことがあった。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、安価で、耐候性が良いインクジェット記録用色材、インクジェット記録用インク方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のインクジェット記録用色材を色材としてインクに使用することで、画像安定性が著しく向上し、特に耐光性・耐オゾン性に優れた効果が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、1以上のニトロソ基を有する化合物を含有するインクジェット記録用色材において、前記ニトロソ基を有する化合物と、該化合物のニトロソ基の1つをニトロ基とした化合物との最大吸収波長の差が50nm以下であることを特徴とする、インクジェット記録用色材である。
【0010】
また、本発明は、液媒体および上記色材を含有することを特徴とする、インクジェット記録用インクである。
【0011】
また、本発明は、上記インクジェット記録用インクを、インクジェットヘッドにより記録媒体に付与して画像を形成することを特徴とする、インクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のニトロソ基を有する化合物を含有するインクジェット記録用色材を用いることにより、耐候性が向上し、印字物の変退色を防止するインクジェット記録用インクおよびインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の1以上ニトロソ基を有する化合物を含有する色材は、ニトロソ基を有する化合物と該化合物のニトロソ基の一つをニトロ基とした時の最大吸収波長の差が50nm以下であることを特徴とする。好ましくは、低波長側で20nm以下、長波長側で40nm以下である。
【0014】
なお、本発明のインクにおける色材の含有量は、所望される色や色の濃度により決定されるが、本発明のインク全質量に対して、0.1質量%以上12質量%以下であることが好ましい。この含有量は画像設計の観点(濃淡インクの使用・非使用、粒状性、最高画像濃度など)から決定される。本発明のインクジェット記録用インクは、上記色材以外に該色材を溶解もしくは分散する液媒体を含有する。かかる液溶媒は特に限定されないが、好ましい例としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、ブタノール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミドなど)、ピロリジノン類(1−メチル−2−ピロリジノン、2−ピロリジノンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなど)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、グリコールエーテル類(2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなど)などが挙げられる。これらの化合物は単独または2種以上を任意の割合で組み合わせて使用することができる。液媒体の使用量は特に限定はないが、インクの総量に対して50質量%以上98質量%以下であることが好ましい。
【0015】
また、色材を分散させる場合には、必要に応じて分散剤(例えばヘキサメタリン酸ナトリウム、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、イオン性界面活性剤、高分子物質、非イオン界面活性剤など)などを使用してもよい。添加量は、特に限定されないが、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0016】
変退色防止の効果を上げるため、紫外線吸収剤および/または酸化防止剤と併用してもよい。使用できる紫外線吸収剤および/または酸化防止剤としては特に限定はない。例えば紫外線吸収剤は、ベンズトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリフェニルトリアジン系、ジベンゾイルメタン系、サリチル酸系、アミノ安息香酸系などが挙げられる。酸化防止剤としては、例えばフェノール系、アミン系、有機イオウ系、ホスファイト、ニッケル系などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤および/または酸化防止剤は単独または2種以上を任意の割合で組み合わせて該色材と併用使用することができる。添加量、添加方法も特に限定はなく、必要に応じて水溶性溶剤、防腐・防かび剤、キレート試薬、防錆剤、酸素吸収剤、pH調整剤、消泡剤、粘度調整剤、浸透剤、ノズル乾燥防止剤などを加えてもよい。
【0017】
このインク組成は発色性および保存安定性の点から、pHが7乃至12の範囲であることが好ましい。
【0018】
次にインクジェット記録方式について説明する。本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクをインクジェットヘッドにより記録媒体に付与して画像を形成する、従来公知のいずれのインクジェット記録方式に適用可能である。代表例として、特開昭54−59936号公報に記載されている方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によってインクをノズルから吐出させるインクジェット方式を挙げることができる。
【0019】
本発明に基づく実施形態のインクジェット記録装置の構成について説明する。図1は本実施形態のインクジェット記録装置の外観を示す斜視図である。図2はこのインクジェット記録装置内の主要な構成を示す模式的斜視図である。図3は図2のキャリッジ部分を記録媒体側から見た拡大図である。
【0020】
このインクジェット記録装置は、記録媒体12がセットされる給紙トレイ1と、印刷され、排紙された記録媒体12を受ける排紙トレイ2を備えている。インクジェット記録装置内には、不図示の通紙モータによって回転駆動され、記録媒体12を給紙トレイ1から排紙トレイ2へと搬送する搬送ローラ17、18が設けられている。
【0021】
記録媒体12の搬送経路の上方には、キャリッジ11がキャリッジ駆動レール15によって、記録媒体12の搬送方向に実質的に直交する方向に往復運動できるように支持されている。キャリッジ11には、プーリーに懸架されたキャリッジ駆動ベルト14が接続されている。このプーリーにはキャリッジ駆動モータ13が接続されており、キャリッジ11はキャリッジ駆動モータ13によってキャリッジ駆動ベルト14を介して往復移動させられる。このキャリッジ駆動モータ13と前述の通紙モータとは、不図示の制御回路によってその動作を制御される。
【0022】
キャリッジ14には、インクを吐出するインクジェット記録ヘッド19、それらに供給するインクをそれぞれ貯溜するインクタンク21が搭載されている。これらは、インクジェット記録ヘッド19に備えられた、インクが吐出される複数のノズル20を搬送経路上の記録媒体12に向けるようにキャリッジ11によって支持されている。
【0023】
キャリッジ11の移動経路の端部で、キャリッジ11の下方の位置には、不図示の吐出回復ポンプが備えられた吐出回復部16が設けられている。吐出回復部16は、その上にインクジェット記録ヘッド19が動かされ、ノズル20部分に当接された状態で、吐出回復ポンプを駆動することによってインクジェット記録ヘッド19内からインクを吸引することができる。それによって、ノズル20内の増粘インクを取り除き、インクジェット記録ヘッド19の吐出性能を回復させることができる。
【0024】
このインクジェット記録装置による記録動作は、キャリッジ11を往復移動させ、この際に印字データに応じてインクジェット記録ヘッド19の複数のノズル20から選択的に所定のタイミングでインクを吐出させて所定の記録幅の画像を形成する。この記録幅に等しい量だけ記録媒体12を搬送し、これを繰り返すことによって行われる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量基準とする。
【0026】
また、各化合物の最大吸収波長は、JISK0115に従って測定した。
【0027】
(実施例1)
化学式1の色材を特開昭61−2775号公報および特開昭61−2776号公報などを参考にして以下のように合成した。
下記化学式2
【0028】
【化1】

【0029】
で表されるアミンを鉱酸中で亜硝酸ソーダを用いてジアゾ化した後、下記化学式3
【0030】
【化2】

【0031】
で表わされるアミンとカップリングさせて下記化学式4で表わされるモノアゾ化合物を得た。
【0032】
【化3】

【0033】
このモノアゾ化合物を同様に鉱酸中で亜硝酸ソーダを用いてジアゾ化した後、下記化学式5で表されるナフトールとカップリングすることによって化学式1の色材を得た。
【0034】
【化4】

【0035】
更に化学式1の5%水溶液を調製し、これに3ppmのオゾンを毎分2Lで8時間通気し、化学式6の色材を得た。
【0036】
【化5】

【0037】
化学式6の化合物の最大吸収波長は550nmであった。また、この物質に過硫酸カリを作用させて得た化学式7の化合物の最大吸収波長は580nmであった。
【0038】
【化6】

【0039】
(実施例2)
化学式8の色材を特開昭61−2775号公報および特開昭61−2776号公報などを参考にして以下のように合成した。
下記化学式9
【0040】
【化7】

【0041】
で表わされるアミンを鉱酸中で亜硝酸ソーダを用いてジアゾ化した後、下記化学式10
【0042】
【化8】

【0043】
で表わされるアミンとカップリングさせて下記化学式11で表わされるモノアゾ化合物を得た。
【0044】
【化9】

【0045】
このモノアゾ化合物を同様に鉱酸中で亜硝酸ソーダを用いてジアゾ化した後、下記化学式12で表わされるナフトール類とカップリングすることによって化学式8の色材を得た。
【0046】
【化10】

【0047】
更に化学式8の5%水溶液を調製し、これに3ppmのオゾンを毎分2Lで8時間通気し化学式13の色材を得た。
【0048】
【化11】

【0049】
化学式13の化合物の最大吸収波長は530nmであった。また、この物質に過硫酸カリを作用させて得た化学式14の化合物の最大吸収波長は570nmであった。
【0050】
【化12】

【0051】
(実施例3)
下記の組成物を混合し、1時間撹拌後、0.2ミクロンのフィルターを用いてろ過することによりインクを調製した。このインクを用いてキヤノン(株)製インクジェットプリンターPIXUS850iにてプロフェッショナルフォトペーパーPR101(キヤノン(株)製)に対して印字を行った
化学式6の色材 3%
ジエチレングリコール 30%
水 残部。
【0052】
(実施例4)
化学式13の色材を用いる他は実施例3と同様にして下記の組成のインクを調製し、印字を行った
化学式13の色材 3%
ジエチレングリコール 30%
水 残部。
【0053】
(比較例1)
実施例3、4と同様にして下記の組成のインクを調製し、印字を行った。
【0054】
化学式1の色材 3%
ジエチレングリコール 30%
水 残部。
【0055】
(比較例2)
実施例3、4と同様にして下記の組成のインクを調製し、印字を行った。
【0056】
化学式8の色材 3%
ジエチレングリコール 30%
水 残部。
【0057】
(耐オゾン性の評価)
実施例3、4と比較例1、2の印字物を(株)スガ試験機製オゾンウェザーメーターOMS−H型を用い、所定時間(6時間および12時間)オゾン暴露した。暴露時の温度と湿度そしてオゾン濃度はそれぞれ24℃、60%、2ppmである。暴露後、それぞれの印刷物を、下記の基準の官能評価により評価した。
評価A:被験者10人中9人以上が濃度変化なしと判定
評価B:被験者10人中7人以上が濃度変化なしと判定
評価C:被験者10人中5人以上が濃度変化なしと判定
評価D:被験者10人中9人以上が濃度変化ありと判定。
【0058】
評価結果を表1に示す
表1
オゾン暴露時間
6時間 12時間
――――――――――――――――――
実施例3 A B
比較例1 C D
――――――――――――――――――
表1に示すように、本発明の実施形態により記録を行った結果、耐オゾン性の優れた印字物が得られることがわかった。すなわち、オゾンなどに代表される酸化性ガスによるガス劣化などにより色材分子が酸化され退色や変色をすることを防止することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明のインクジェット記録装置内の主要な構成を示す模式的斜視図である。
【図3】図2におけるキャリッジ部分を記録媒体側から見た拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のニトロソ基を有する化合物を含有するインクジェット記録用色材において、前記ニトロソ基を有する化合物と、該化合物のニトロソ基の1つをニトロ基とした化合物との最大吸収波長の差が50nm以下であることを特徴とする、インクジェット記録用色材。
【請求項2】
液媒体および請求項1に記載の色材を含有することを特徴とする、インクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記色材の含有量がインク全質量に対して0.1質量%以上12質量%以下であることを特徴とする、請求項2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
請求項2または3に記載のインクジェット記録用インクを、インクジェットヘッドにより記録媒体に付与して画像を形成することを特徴とする、インクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−297525(P2008−297525A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148304(P2007−148304)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】