説明

インクジェット記録装置およびインクジェットヘッド

【課題】簡単な構造でメンテナンスの実行回数を少なくすることができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置11は、液を吐出するインクジェットヘッド201を具備する。インクジェットヘッド201は、ヘッド本体202と、液室203と、ノズルプレート204と、駆動素子と、第1の液回収孔206と、を有する。ノズルプレート204は、ノズル205の周囲に形成される撥液エリア204Aと、撥液エリア204Aの周囲を取り囲むとともに、第1の液回収孔206が配置される親液エリア204Bと、親液エリア204B内に撥液エリア204Aの周囲を取り囲むように設けられ、親液エリア204Bの表面に対して窪んで形成されるとともに第1の液回収孔206と連通される第1の溝部207と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出して用紙に画像を形成するインクジェット記録装置およびインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、インクジェットヘッドにインク回収口を設けたインクジェット記録装置が開示されている。このインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドと、ノズルプレートの表面に付着したインクを除去するためのブレードを有するワイピング手段と、ノズルよりインクを吸引しインク充填や廃棄を行うパージ手段と、非印刷時にノズルを乾燥から保護するキャップ手段と、を備えている。インクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、ノズルの近傍に設けられたインク回収口と、を有している。インクジェット記録装置は、さらに、インク回収路に接続されたインク回収用ポンプを備えている。インク回収口は、ノズルの直径よりも大きく、ワイピング手段のブレードの厚みよりも小さく形成されている。
【0003】
このインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドの保守動作において、ワイピング手段のブレードは、ノズルプレートの拭き取りを行う。この拭き取り動作と同時に、インク回収用ポンプが作動する。これによって、ブレードによってかき集められたインクがインク吸引口に吸引される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−127436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のインクジェット記録装置では、一般的な装置の構成に加えて、インク回収用ポンプがさらに必要になっており、構造が複雑化している。また、インク回収用ポンプは、ワイピング手段の拭き取り動作時にのみ作動するようになっているため、ワイピング効果の向上が期待できるものの、メンテナンスの実行回数を少なくすることには必ずしもつながらないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、簡単な構造でメンテナンスの実行回数を少なくすることができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の一つの形態に係るインクジェット記録装置は、液を吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに供給するための液が貯留されるタンクと、前記インクジェットヘッドと前記タンクとを接続する流路と、を具備し、前記インクジェットヘッドは、ヘッド本体と、前記ヘッド本体の内部に作りこまれるとともに、前記液が負圧で保持される液室と、前記液室の一つの壁部を構成するように、前記ヘッド本体に接着されるノズルプレートと、前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成されるノズルと、前記ノズルから液滴を吐出させる駆動素子と、前記ノズルとは独立に設けられるとともに、前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成される第1の液回収孔と、を有し、前記ノズルプレートは、前記ノズルの周囲に形成される撥液エリアと、前記撥液エリアの周囲を取り囲むとともに、前記第1の液回収孔が配置される親液エリアと、前記親液エリア内に前記撥液エリアの周囲を取り囲むように設けられ、前記親液エリアの表面に対して窪んで形成されるとともに前記第1の液回収孔と連通される第1の溝部と、を含む。
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の一つの形態に係るインクジェットヘッドは、ヘッド本体と、前記ヘッド本体の内部に作りこまれるとともに、前記液が負圧で保持される液室と、前記液室の一つの壁部を構成するように、前記ヘッド本体に接着されるノズルプレートと、前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成されるノズルと、前記ノズルから液滴を吐出させる駆動素子と、前記ノズルとは独立に設けられるとともに、前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成される第1の液回収孔と、を有し、前記ノズルプレートは、前記ノズルの周囲に形成される撥液エリアと、前記撥液エリアの周囲を取り囲むとともに、前記第1の液回収孔が配置される親液エリアと、前記親液エリア内に前記撥液エリアの周囲を取り囲むように設けられ、前記親液エリアの表面に対して窪んで形成されるとともに前記第1の液回収孔と連通される第1の溝部と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡単な構造でメンテナンスの実行回数を少なくすることができるインクジェット記録装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。実施形態に係るインクジェット記録装置は、用紙などのシート状記録媒体に対して液滴を吐出して、この記録媒体上に文字や画像を印刷する。
【0010】
図1から図3に示すように、インクジェット記録装置11は、装置の外郭となる本体ケース12を備えている。インクジェット記録装置11は、本体ケース12の内部に、インクジェットヘッド201と、インクジェットヘッド201に液を供給するための供給装置14と、インクジェットヘッド201の印刷を制御する制御部15と、シート状記録媒体17を送るためのシート送り機構16と、シート状記録媒体17が収納される給紙カセット18と、給紙カセット18とは独立に設けられる手差しトレイ19と、を備えている。インクジェット記録装置11は、さらに、インクジェットヘッド201をメンテナンスするための図示しないメンテナンス装置と、を備えている。
【0011】
図1に示すように、シート送り機構16は、回転可能に設けられるとともにシート状記録媒体17が巻きつけられるドラム25と、シート状記録媒体17をドラム25に吸着させる帯電ローラ26と、給紙カセット18中のシート状記録媒体17をドラム25に向けて送る第1の送りローラ27と、手差しトレイ19に差し込まれたシート状記録媒体17をドラム25に向けて送る第2の送りローラ28と、第1の送りローラ27のシート送りと第2の送りローラ28のシート送りとを切り替えることができる切替機構29と、を有している。
【0012】
図示省略したが、メンテナンス装置は、ノズルプレート63上の付着液を拭き取るブレードを有するワイピング装置や、ノズル64を吸引してノズル詰まりを解消するための吸引装置などを含んでいる。
【0013】
図2に示すように、供給装置14は、いわゆる循環式のもので構成されている。すなわち、供給装置14は、第1のタンク33、第2のタンク34、循環流路35、第1のポンプ36、メインタンク37、供給流路38、第2のポンプ39、第1の弁40、回収流路41、第2の弁42、第1のフィルタ装置43、および第2のフィルタ装置44を含んでいる。なお、本発明に言うタンクは、第1のタンク33と第2のタンク34とを含んだ概念である。また、循環流路35は、本発明に言う流路に相当する。
【0014】
メインタンク37は、大気開放タンクで構成される。メインタンク37の内部に液が貯留されている。液は、例えば、シート状記録媒体17に画像を形成することが可能なインクなどで構成されている。メインタンク37は、内部に貯留した液を循環流路35に供給することができる。メインタンク37は、第1のタンク33および第2のタンク34よりも大きい容量を有している。メインタンク37は、第3の液面センサ53を有している。第3の液面センサ53は、メインタンク37の内部に貯留された液の液面の高さを検知できる。
【0015】
第1のタンク33は、いわゆるサブタンクであり、内部に液を貯留している。第1のタンク33は、第1の液面センサ51を有している。第1の液面センサ51は、第1のタンク33の内部に貯留した液の液面の高さを検知できる。第1のタンク33は、例えば、図示しない固定式の架台の上側に載置されている。第1の液面センサ51は、第1のタンク33内に貯留された液が一定の液量以上になるように、第1のタンク33内の液の液面を監視している。
【0016】
第2のタンク34は、いわゆるサブタンクであり、内部に液を貯留している。第2のタンク34も同様に、第2の液面センサ52を有している。第2の液面センサ52は、第2のタンク34の内部に貯留した液の液面の高さを検知できる。第2のタンク34は、図示しない高さ調整機構の上側に載置されており、設置高さを変更することができる。第2の液面センサ52は、第2のタンク34内に貯留された液が一定の液量以上になるように、第2のタンク34内の液の液面を監視している。
【0017】
循環流路35は、第1のタンク33とインクジェットヘッド201とを接続する第1の部分35Aと、インクジェットヘッド201と第2のタンク34とを接続する第2の部分35Bと、第2のタンク34と第1のタンク33とを接続する第3の部分35Cと、を有している。言い換えると、ループ状になった循環流路35の途中に、インクジェットヘッド201と、第1のタンク33と、第2のタンク34と、がそれぞれ独立して配置されている。前記供給流路38は、メインタンク37と第3の部分35Cとを接続している。回収流路41は、第1の弁40とインクジェットヘッド201との間の位置で、第1の部分35Aとメインタンク37とを接続している。
【0018】
第1のポンプ36は、第3の部分35Cの途中に設けられている。図2に示すように、第1のポンプ36は、循環流路35内で、一の方向、すなわち、第1の部分35A、第2の部分35B、第3の部分35Cの順で回る方向に、液を循環させることができる。
【0019】
第2のポンプ39は、供給流路38の途中に設けられている。第2のポンプ39は、液をメインタンク37から循環流路35内に送って、循環流路35内に液を供給できる。
【0020】
第1の弁40および第2の弁42は、それぞれ電磁弁で構成されている。第1の弁40は、第1の部分35Aの途中に設けられている。第2の弁42は、回収流路41の途中に設けられている。第1の弁40および第2の弁42は、制御部15の制御により、流路を開放したり、閉鎖したりすることができる。
【0021】
供給流路38は、循環流路35の第3の部分35Cとメインタンク37とを接続している。回収流路41は、インク循環流路35の第1の部分35Aとメインタンク37とを接続している。回収流路41は、第1の弁40とインクジェットヘッド201との間の位置で、第3の部分35Cに接続されている。
【0022】
第1のフィルタ装置43は、第3の部分35Cの途中で、第1のタンク33と第1のポンプ36との間の位置に設けられている。第1のフィルタ装置43は、メッシュ状のフィルタ本体と、フィルタ本体を囲むハウジングなどを有している。第2のフィルタ装置44は、回収流路41の途中に設けられている。第2のフィルタ装置44は、メッシュ状のフィルタ本体と、フィルタ本体を囲むハウジングなどを有している。第1、第2のフィルタ装置43、44によって、液中に含まれる異物を除去することができる。
【0023】
制御部15は、第1の液面センサ51を介して第1のタンク33内の液の液面高さを監視しており、第1のタンク33内の液の液量が少なくなった場合には、第1のポンプ36および第2のポンプ39を駆動して、メインタンク37から第1のタンク33に液を供給する。また、制御部15は、第2の液面センサ52を介して第2のタンク34内の液の液面高さを監視しており、第2のタンク34内の液の液量が少なくなったとき場合には、第2のポンプ39を駆動して、メインタンク37から第2のタンク34に液を供給する。
【0024】
インクジェットヘッド201は、いわゆるシェアモードサイドシュータタイプのものである。このインクジェットヘッド201の内部を液が循環することができる。図3から図5に示すように、インクジェットヘッド201は、ヘッド本体202と、ヘッド本体202の内部に作りこまれるとともに液が負圧で保持される複数の液室203と、液室203の一つの壁部を構成するようにヘッド本体202に接着されるノズルプレート204と、液室203に連通するようにノズルプレート204に形成される複数のノズル205および複数の第1の液回収孔206と、を有している。ノズル205の直径は、例えば、30μm程度である。また、第1の液回収孔206の直径も同様に、例えば30μm程度である。
【0025】
ノズルプレート204は、例えば、ポリイミドで形成されており、方形板状をなしている。ノズルプレート204は、ノズル205の周囲に形成される撥液エリア204Aと、撥液エリア204Aの周囲に設けられる親液エリア204Bと、親液エリア204B内に設けられる第1の溝部207と、を有している。親液エリア204Bには、表面の改質処理がなされており、ノズルプレート204とインクとの間で親和性が高められている。この親液エリア204Bに、第1の液回収孔206が設けられている。撥液エリア204Aは、ノズル205の周囲に方形に設けられている。撥液エリア204Aには、表面処理がなされていない。なお、ノズルプレート204は、金属板によって形成されていてもよい。その場合、ノズル205、第1の液回収孔206および後述する第1の溝部207は、金属製のノズルプレート204に対してプレス加工を行って一括して形成される。
【0026】
第1の溝部207は、撥液エリア204Aの周囲を格子状に取り囲むように、親液エリア204Bに設けられている。第1の溝部207は、ノズルプレート204の親液エリア204Bの表面に対して窪んで形成されている。第1の溝部207は、親液エリア204Bの表面に付着したインクに対して毛細管現象を生ずる程度の幅で形成されている。より具体的には、第1の溝部207は、その溝幅が例えば30〜50μmで、深さが5〜20μmで形成されている。
【0027】
図4に示すように、インクジェットヘッド201は、さらに、ヘッド本体202の内部に作りこまれるとともに液室203と循環流路35の第1の部分35Aとを接続する供給部211と、ヘッド本体202の内部に作りこまれるとともに液室203と循環流路35の第2の部分35Bとを接続する排出部212と、液滴の吐出を駆動する図示しないドライバICと、を有している。
【0028】
図4に示すように、複数のノズル205は、ノズルプレート204の中央部に2列に並んで形成されている。図3に示すように、ノズル205は、台形の断面形状を有している。
【0029】
なお、インクジェットヘッド201の液面高さは、第1のタンク33の液面高さおよび第2のタンク34の液面高さよりも高い位置にある。従って、インクジェットヘッド201の液面高さと第1のタンク33および第2のタンク34の液面高さとの間の水頭差により、液室203内で液が負圧に保持されている。この場合、液室203内の液の圧力は、例えば、0〜−3kPaの範囲内で一定に管理されている。
【0030】
図5に示すように、ヘッド本体202は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製の2枚の板状の圧電部材を張り合わせて形成されている。圧電部材は、互いに分極方向が逆向きになるように接着されている。
【0031】
液室203は、いわゆる圧力室であり、ノズル205に1対1で対応している。インクジェットヘッド201は、2個の液室203の間に、駆動素子である支柱213を有している。支柱213は、各ノズル205に対応して液室203の両壁部として一対に形成されており、ノズル205から液滴を吐出させることができる。図4に示すように、支柱213は、2列になったノズル205に対応して、2列で配置されている。支柱213の側面と、液室203の底面とにわたるように、支柱213を駆動するための電極219が形成されている。
【0032】
図4に示すように、第1の液回収孔206は、供給部211または排出部212の近傍で液室203に連通している。
【0033】
インクジェットヘッド201は、さらに、ノズルプレート204上のノズル205を保護するための保護カバー214を有している。保護カバー214は、金属材料により形成されている。保護カバー214は、印刷時に用紙などがノズルプレート204に接触して、ノズル205が傷つけられてしまうことを防止している。保護カバー214は、ノズルプレート204の表面を覆う重複部215と、ノズル205に対応する位置に設けられた開口部216と、重複部215の周囲に設けられた枠部217と、を有している。保護カバー214は、枠部217を介してヘッド本体202に接着されている。重複部215とノズルプレート204との間には、隙間218が設けられており、この隙間218は、液を第1の液回収孔206に向けて吸い上げる毛細管力を発揮できる程度の寸法、例えば、0.01〜0.1mm程度の寸法に形成されている。枠部217とヘッド本体202との間には、保護カバー214を固定するための樹脂製の接着剤231が介在されている。
【0034】
保護カバー214の重複部215は、ノズルプレート204に対向する第1の面221と、第1の面221とは反対側の第2の面222と、第1の面221と第2の面222と貫通する第2の液回収孔223と、開口部216の周囲を格子状に取り囲むように第2の面222に設けられる第2の溝部224と、を有している。第2の液回収孔223は、第1の液回収孔206に対向する位置に配置されている。第2の液回収孔223の直径は、第1の液回収孔206と同等か、第1の液回収孔206よりも若干大きい直径を有している。
【0035】
第2の溝部224は、親液エリア204Bの表面に付着したインクに対して毛細管現象を生ずる程度の幅で形成されている。より具体的には、第2の溝部224は、その溝幅が例えば100μm程度で、深さが50μm程度に形成されている。第2の液回収孔223および第2の溝部224は、平板状の重複部215に対する微細加工、例えば、プレス加工、エッチング加工、レーザ加工といった手法によって一括して形成される。
【0036】
このような構成のインクジェット記録装置11において、液滴の吐出は、次のようになされる。すなわち、制御部15は、インクジェットヘッド201に対して印字信号をドライバICに出力する。印刷信号を受けたドライバICは、電気配線を介して駆動パルス電圧を支柱213に印加する。これにより、図6に2点鎖線で示すように、左右一対の支柱213は、シェアモード変形を行って湾曲するように離反する。そして、これらを初期位置に復帰させて液室203の液を加圧することで、ノズル205から液滴が勢い良く吐出される。
【0037】
一方、液滴の吐出を繰り返すと、ノズル205の周囲にミストが発生し、これがノズルプレート204に付着して図5に示すような付着液225、226となる。付着液225、226を放置すると、ノズル205から吐出される液滴の吐出方向が曲がったり、ノズル205に不吐出を生じたりする。本実施形態のインクジェットヘッド201では、ノズルプレート204に付着した付着液225は、撥液エリア204Aから親液エリア204Bに向かって集められる。親液エリア204Bに集められた付着液225は、第1の溝部207および第1の液回収孔206を経由して負圧になっている液室203内に吸引される。このとき、第1の溝部207は、第1の液回収孔206に連通されているため、第1の溝部207内において液の吸引力(毛細管力)が発揮され、液が第1の液回収孔206に効率よく回収される。また、第1の溝部207に導かれない付着液225に対しては、ノズルプレート204と保護カバー214との間の隙間218において液の吸引力(毛細管力)が発揮されるため、この液も効率的に第1の液回収孔206に回収される。
【0038】
また、保護カバー214の重複部215の第2の面222に付着した付着液226は、第2の液回収孔223、隙間218、第1の液回収孔206を経由して、液室203内に回収される。このとき、第2の液回収孔223は、隙間218を介して第1の液回収孔206と連続されているため、第1の液回収孔206からの吸引力が第2の液回収孔223に伝達され、第2の液回収孔223から液が効率よく回収される。
【0039】
これらによって、ノズルプレート204上および保護カバー214上において継続的に付着液225、226が除去される。このため、本実施形態では、ノズルプレート204に対して行うワイピング等のメンテナンス作業の回数は、通常のインクジェット記録装置に比して極めて少ないものになっている。
【0040】
続いて、図7〜9を参照して、本実施形態のインクジェットヘッド201において、ノズルプレート204上に形成されるノズル205、第1の液回収孔206、親液エリア204Bおよび撥液エリア204Aの製造工程について説明する。
【0041】
本実施形態のインクジェットヘッド201では、ノズルプレート204をヘッド本体202に接着した状態で、レーザ加工を行って、ノズル205、第1の液回収孔206を一括して形成する。これらのレーザ加工には、例えばエキシマレーザを用いられる。もっとも、これらのレーザ加工に用いられるレーザとしては、これに限定されるものではなく、短波長のものであればどのようなレーザであってもよい。エキシマレーザのほかに、ノズル205および第1の液回収孔206の加工に用いられるレーザとしては、YAG3倍波(335nm)、YAG4倍波(266nm)などがある。好ましくは、微細な精度を要求されるノズル205にはエキシマレーザを用い、第1の溝部207や第1の液回収孔206には加工効率の点からYAGなどを用いるとよい。
【0042】
続いて、ノズルプレート204上に撥液エリア204Aと親液エリア204Bとを形成する。図7に示すように、UV光を透過させないフィルム部材、例えば、ポリイミドフィルム227をノズル205の周囲に貼り付ける。このように、ポリイミドフィルム227でマスキングを行った状態で、図8に示すようにノズルプレート204に対してUV光228を照射して、ノズルプレート204の表面の改質を行う。これにより、ノズルプレート204上に親液エリア204Bを形成する。また、図9に示すように、その後ノズルプレート204からポリイミドフィルム227を除去することにより、ノズルプレート204上に撥液性を有する撥液エリア204Aが形成される。これによって、ノズルプレート204上に撥液エリア204Aと親液エリア204Bとが形成される。本実施形態によれば、ノズルプレート204にUV光228を照射することによって、簡単且つ広い範囲に親液エリア204Bを形成することができる。
【0043】
なお、本実施形態では、ポリイミドフィルム227によってマスキングを行うようにしているが、マスキングの方法はこれに限られるものではない。他のマスキング方法としては、撥液エリア204Aに対応する部分でUV光を透過させないように設計したガラスマスクを用いても良い。この場合、ノズルプレート204にガラスマスクを接触させる接触式のマスク方法であってもよいし、ノズルプレート204にガラスマスクを接触させない非接触式のマスク方法であってもよい。接触式または非接触式のマスク方法のいずれかを用いて、UV光の照射を行って、ノズルプレート204上に撥液エリア204Aと親液エリア204Bとを形成する。
【0044】
以上が、インクジェット記録装置11の実施形態である。本実施形態によれば、インクジェット記録装置11は、液を吐出するインクジェットヘッド201と、インクジェットヘッド201に供給するための液が貯留されるタンクと、インクジェットヘッド201とタンクとを接続する流路と、を具備し、インクジェットヘッド201は、ヘッド本体202と、ヘッド本体202の内部に作りこまれるとともに、液が負圧で保持される液室203と、液室203の一つの壁部を構成するように、ヘッド本体202に接着されるノズルプレート204と、液室203と連通するようにノズルプレート204に形成されるノズル205と、ノズル205から液滴を吐出させる駆動素子と、ノズル205とは独立に設けられるとともに、液室203と連通するようにノズルプレート204に形成される第1の液回収孔206と、を有し、ノズルプレート204は、ノズル205の周囲に形成される撥液エリア204Aと、撥液エリア204Aの周囲を取り囲むとともに、第1の液回収孔206が配置される親液エリア204Bと、親液エリア204B内に撥液エリア204Aの周囲を取り囲むように設けられ、親液エリア204Bの表面に対して窪んで形成されるとともに第1の液回収孔206と連通される第1の溝部207と、を含む。
【0045】
この構成によれば、液室203内では液が負圧に保持されるため、ノズルプレート204に液が付着していた場合には、第1の液回収孔206からこの付着した液が液室203内に吸引される。これにより、ノズルプレート204に付着した液を除去して、この液に起因する不吐出や液滴の吐出方向曲がりなどを防止できる。また、ノズルプレート204上に親液エリア204Bおよび撥液エリア204Aが設けられるため、ノズルプレート204に付着する液を親液エリア204Bに集めて、第1の液回収孔206により当該液を効率よく回収することができる。さらに、親液エリア204Bには、撥液エリア204Aの周囲を取り囲むように第1の溝部207が設けられるため、液室203から第1の液回収孔206に作用する吸引力を、第1の溝部207を介して親液エリア204Bにまで及ぼすことができる。これによって、さらに効率よく親液エリア204B上の液を回収することができる。このように本実施形態のインクジェット記録装置11では、日常的に第1の液回収孔206から液が吸引されるため、インクジェットヘッド201に対して行うワイピング等のメンテナンスの回数を減らすことができる。これにより、メンテナンスを実行する間隔を長期化して、印刷速度を高速化できる。なお、ノズルプレート204に付着した付着液225、226を液室203内に戻したとしても、液室203内の液に対して付着液の占める割合は小さいため、付着液の影響は極めて小さい。また、ノズルプレート204に付着する液の量も少なくなるため、メンテナンス装置のワイピング装置等を簡易な構成にすることができる。
【0046】
この場合、インクジェットヘッド201は、ノズルプレート204との間に隙間218を存してノズルプレート204の表面を覆う重複部215と、ノズル205に対応する位置に設けられた開口部216と、を有する保護カバー214を具備する。この構成によれば、保護カバー214によりシート状記録媒体17等がノズルプレート204に接触することを防止することができる。これによって、シート状記録媒体17等によってノズル205が傷つけられてしまうことを防止することができる。また、開口部216が設けられているため、ノズル205からの液の吐出が保護カバー214によって妨げられることがないことはいうまでもない。
【0047】
この場合、第1の液回収孔206は、ノズルプレート204上で、重複部215と重なる位置に開口する。この構成によれば、第1の液回収孔206で作用する吸引力を重複部215とノズルプレート204との間の隙間218にも作用させることができる。これによって、重複部215とノズルプレート204との間の隙間218に液が付着してしまった場合であっても、この付着液225を第1の液回収孔206で液室203内に回収することができる。
【0048】
この場合、保護カバー214は、ノズルプレート204に対向する第1の面221と、第1の面221とは反対側の第2の面222と、第1の面221と第2の面222とを貫通するように重複部215に設けられる第2の液回収孔223と、を有する。この構成によれば、第2の液回収孔223は、ノズルプレート204と重複部215との間の隙間218に連通する。このため、隙間218に作用する第1の液回収孔206からの吸引力を第2の液回収孔223にも作用させることができる。これによって、保護カバー214の第2の面222に付着した付着液226を第2の液回収孔223、隙間218、第1の液回収孔206を介して液室203内に回収することができる。
【0049】
この場合、保護カバー214は、第2の溝部224を有し、第2の溝部224は、重複部215内で第2の面222から窪んで設けられ、開口部216の周囲を取り囲むとともに、第2の液回収孔223に連通される。この構成によれば、第2の液回収孔223で発揮される吸引力を第2の溝部224内にも作用させることができる。これによって、保護カバー214の第2の面222に付着した付着液226についても、効率よく液室203内に回収することができる。
【0050】
なお、本実施形態にかかるインクジェットヘッド201は、内部を液が循環する液循環式のもので構成されているが、内部を液が循環しない非循環式のものであっても、本実施形態の構造を採用することができる。
【0051】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではない。このほか、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置を示す側面模式図。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の供給装置を示す系統図。
【図3】図1に示すインクジェットヘッドを示す下面図。
【図4】図3に示すインクジェットヘッドにおいて、保護カバーを除去した状態を示す下面図。
【図5】図3に示すインクジェットヘッドのF5−F5線に沿った断面図。
【図6】図3に示すインクジェットヘッドのF6−F6線に沿った断面図。
【図7】図5に示すインクジェットヘッドの製造工程のうち最初の工程を示す断面図。
【図8】図7に示すインクジェットヘッドの製造工程の次の工程を示す断面図。
【図9】図8に示すインクジェットヘッドの製造工程の次の工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0053】
11…インクジェット記録装置、201…インクジェットヘッド、202…ヘッド本体、203…液室、204…ノズルプレート、204A…撥液エリア、204B…親液エリア、205…ノズル、206…第1の液回収孔、207…第1の溝部、213…支柱、214…保護カバー、215…重複部、216…開口部、218…隙間、221…第1の面、222…第2の面、223…第2の液回収孔、224…第2の溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液を吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに供給するための液が貯留されるタンクと、
前記インクジェットヘッドと前記タンクとを接続する流路と、
を具備し、
前記インクジェットヘッドは、
ヘッド本体と、
前記ヘッド本体の内部に作りこまれるとともに、前記液が負圧で保持される液室と、
前記液室の一つの壁部を構成するように、前記ヘッド本体に接着されるノズルプレートと、
前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成されるノズルと、
前記ノズルから液滴を吐出させる駆動素子と、
前記ノズルとは独立に設けられるとともに、前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成される第1の液回収孔と、
を有し、
前記ノズルプレートは、
前記ノズルの周囲に形成される撥液エリアと、
前記撥液エリアの周囲を取り囲むとともに、前記第1の液回収孔が配置される親液エリアと、
前記親液エリア内に前記撥液エリアの周囲を取り囲むように設けられ、前記親液エリアの表面に対して窪んで形成されるとともに前記第1の液回収孔と連通される第1の溝部と、
を含むことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インクジェットヘッドは、保護カバーを具備し、
前記保護カバーは、前記ノズルプレートとの間に隙間を存して前記ノズルプレートの表面を覆う重複部と、前記ノズルに対応する位置に設けられた開口部と、を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1の液回収孔は、前記ノズルプレート上で、前記重複部と重なる位置に開口することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記保護カバーは、
前記ノズルプレートに対向する第1の面と、
前記第1の面とは反対側の第2の面と、
前記第1の面と前記第2の面とを貫通するように前記重複部に設けられる第2の液回収孔と、
を有することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記保護カバーは、第2の溝部を有し、
前記第2の溝部は、前記重複部内で前記第2の面から窪んで設けられ、前記開口部の周囲を取り囲むとともに、前記第2の液回収孔に連通されることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
ヘッド本体と、
前記ヘッド本体の内部に作りこまれるとともに、前記液が負圧で保持される液室と、
前記液室の一つの壁部を構成するように、前記ヘッド本体に接着されるノズルプレートと、
前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成されるノズルと、
前記ノズルから液滴を吐出させる駆動素子と、
前記ノズルとは独立に設けられるとともに、前記液室と連通するように前記ノズルプレートに形成される第1の液回収孔と、
を有し、
前記ノズルプレートは、
前記ノズルの周囲に形成される撥液エリアと、
前記撥液エリアの周囲を取り囲むとともに、前記第1の液回収孔が配置される親液エリアと、
前記親液エリア内に前記撥液エリアの周囲を取り囲むように設けられ、前記親液エリアの表面に対して窪んで形成されるとともに前記第1の液回収孔と連通される第1の溝部と、
を含むことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記ノズルプレートとの間に隙間を存して前記ノズルプレートの表面を覆う重複部と、前記ノズルに対応する位置に設けられた開口部と、を有する保護カバーを具備することを特徴とする請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記第1の液回収孔は、前記ノズルプレート上で、前記重複部と重なる位置に開口することを特徴とする請求項7に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記保護カバーは、
前記ノズルプレートに対向する第1の面と、
前記第1の面とは反対側の第2の面と、
前記第1の面と前記第2の面とを貫通するように前記重複部に設けられる第2の液回収孔と、
を有することを特徴とする請求項8に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記保護カバーは、第2の溝部を有し、
前記第2の溝部は、前記重複部内で前記第2の面から窪んで設けられ、前記開口部の周囲を取り囲むとともに、前記第2の液回収孔に連通されることを特徴とする請求項9に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−23241(P2010−23241A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183965(P2008−183965)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】