説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】どのような画像データを記録する場合であっても、適切な代表温度に基づく適切な駆動制御を行うことにより、濃度むらのない安定した画像を出力することが可能なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】チップ上に配置された複数の温度センサの検出温度を高い順に並べた際の順番に対応付けて、夫々の検出温度に乗じる係数が決定された上で、加重平均から代表温度を決定する。そして、このようにして得られた代表温度に基づいて、チップ内では共通の駆動パルスを、個々のチップに対応付けて印加する。これにより、チップ上の記録素子に温度ばらつきが存在しても、チップ全体を適切に温度制御することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギを利用して画像を記録するインクジェット記録装置およびその記録方法に関する。特に記録ヘッド内の温度分布に起因する画像弊害を緩和するための記録ヘッドの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、記録ヘッド内に配置された複数の記録素子に対し、画像データに従って熱エネルギを与え、個々の記録素子からインクを吐出させて、記録媒体に画像を記録する。このようなインクジェット記録装置において、記録素子内のインク温度は、その記録素子や周辺の記録素子の吐出頻度に影響を受け、インク温度が高いほど吐出量も多くなる。よって、同じ記録ヘッド内であっても、吐出頻度の偏りに応じて吐出量にばらつきが生じたり、記録開始からの経過時間によって吐出量が変化したりして、濃度むらが招致される場合がある。
【0003】
例えば特許文献1には、このような問題を解決するための吐出量制御方法(PWM制御)が開示されている。PWM制御では、吐出の際に個々の記録素子に印加する電圧パルスのパルス幅を、複数の記録素子が配列しているチップの温度に応じて調整し、チップに温度変化が起こっても吐出量を一定に保つことが出来る方法が開示されている。また特許文献2には、安定した吐出が保証される温度まで記録ヘッドを加熱するためのサブヒータを、記録素子近傍に配置された温度センサの検出温度に応じて制御する方法が開示されている。
【0004】
このような特許文献1や特許文献2の吐出量制御方法では、複数の記録素子の温度分布がなるべく正確に検出されることが求められる。実際の温度分布に比べて検出誤差が大きいと、吐出量制御が正常に機能せず、濃度むらを緩和できなかったり、濃度むらをかえって増長させてしまったりするからである。そのため、近年では、温度検出の精度向上を目的として、1つのチップに複数の温度センサを配備し、複数の検出温度を総合的に判断して吐出時の駆動制御を行っているインクジェット記録装置が提供されている。例えば特許文献3には、複数の温度センサから得られた複数の検出温度の平均値に基づいて、PWM制御を行う方法が開示されている。また、特許文献4には、複数の検出温度夫々に対し温度センサのチップ上の位置に応じた重み付けを行い、その上で駆動制御のための代表温度を決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−31905号公報
【特許文献2】特開平6−336022号公報
【特許文献3】特開2000−334958号公報
【特許文献4】特開平10−100409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3や特許文献4のようにして駆動制御のための代表温度を求める方法は、フルライン型のインクジェット記録装置の場合は好適に機能しない場合があった。
【0007】
フルライン型のインクジェット記録装置では、記録素子が複数配列してなるチップが、更に記録媒体の幅に応じた分だけ複数配置された記録ヘッドを用いている。そして、記録素子の配列方向と交差する方向に移動する記録媒体に対し、個々の記録素子からインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録する。このようなフルライン型の記録装置では、チップの配列幅以下であれば様々なサイズの記録媒体に記録を行うことが出来るが、この場合、限られたチップや限られた領域の記録素子しか使用されず、記録ヘッドの内の温度勾配は大きくなる。この状況においても特許文献3や特許文献4の温度検出方法を採用することは出来るが、代表温度を決定するのに記録に使用していない領域の検出温度も用いられるので、記録に使用している領域の温度が正確に把握できない恐れが生じる。すなわち、フルライン型のインクジェット記録装置においては、特許文献3や特許文献4の方法を採用しても、画像データによっては、濃度むらが低減できない、或はむしろ強調される場合が懸念されていた。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。よってその目的とするところは、どのような画像データを記録する場合であっても、適切な代表温度に基づく適切な駆動制御を行うことにより、濃度むらのない安定した画像を出力することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために本発明は、駆動パルスを印加することでインクを吐出する複数の記録素子が配列された素子列と温度測定するための複数の温度センサとを備える基板を有する記録ヘッドと、前記複数の温度センサそれぞれの温度を求めることで、複数の検出温度を取得する取得手段と、前記複数の前記検出温度を温度順に並べた際の順番に対応付けて、それぞれの検出温度に乗じる係数を決定する決定手段と、前記決定手段で決定された前記係数を前記複数の検出温度の夫々に乗じて加重平均することで、代表温度を算出する算出手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チップ上の記録素子に温度ばらつきが存在しても、チップ全体を適切に温度制御することが出来るので、どのような画像データを記録する場合であっても、濃度むらのない安定した画像を出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)および(b)は、第1実施形態における記録部と制御の構成を示す図である。
【図2】(a)〜(c)は、吐出口の配列状態とヘッド駆動部の制御構成を示す図である。
【図3】(a)〜(c)は、第1の実施形態のPWM制御を説明する図である。
【図4】個々のチップのPWMナンバーを更新する工程を説明する図である。
【図5】(a)〜(c)は、代表温度の算出方法を説明するための図である。
【図6】(a)および(b)は、シアンヘッドと画像パターンの例を示す図である。
【図7】(a)および(b)は、固定的加重平均法を用いたPWM制御の記録状態図である。
【図8】(a)および(b)は、最大値制御法を用いたPWM制御の記録状態図である。
【図9】(a)および(b)は、動的加重平均法を用いたPWM制御の記録状態図である。
【図10】図7〜図9を用いて説明した結果をまとめた表である。
【図11】(a)および(b)は、第2実施形態の記録部と制御の構成を示す図である。
【図12】(a)〜(c)は、吐出口の配列状態とヘッド駆動部の制御構成を示す図である。
【図13】(a)および(b)は第2の実施形態のサブヒータ制御を説明する図である。
【図14】個々のチップのサブヒータへのパルス幅P4を更新する工程を示す図である。
【図15】(a)及び(b)は、シアンヘッドと画像パターンの例を示す図である。
【図16】(a)及び(b)は固定的加重平均法を用いたサブヒータ制御の記録状態図である。
【図17】(a)及び(b)は、最大値制御法を用いたサブヒータ制御の記録状態図である。
【図18】(a)及び(b)は、動的加重平均法を用いたサブヒータ制御の記録状態図である。
【図19】図16〜図18を用いて説明した結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付の図面を参照しつつ述べる。
【0013】
(第1の実施形態)
図1(a)および(b)は、本実施形態のインクジェット記録装置における、記録部の構成と制御の構成を夫々説明するためのブロック図である。
【0014】
図1(a)を参照するに、ロール紙カセット4aに巻きつけられている記録媒体1は、ロール紙カセット4aの回転に伴い一定の搬送速度でX方向に搬送される。そして、上流側搬送ローラ4b対および下流側搬送ローラ対4cによって平滑に保たれた領域において、記録ヘッド8による記録が行われる。記録ヘッド8は、シアンインクを吐出するシアンヘッド8a、マゼンタインクを吐出するマゼンタヘッド8b、イエローインクを吐出するイエローヘッド8cを備えており、これら3つのヘッドはX方向に順に配置されている。記録ヘッド8a〜8cの夫々には、図の奥行き方向(Y方向)に複数の記録素子が記録解像度に対応したピッチで配列されている。
【0015】
記録媒体1に記録された画像は、必要に応じてスキャナ5によって読み込まれる。また、記録ヘッド8は、画像の終端部を示すカットマークも記録しており、カットマークセンサ6bの検出タイミングに基づいて、カッター6aが記録媒体1を切断する。切断された記録媒体1は、そのサイズに応じてソータ7のトレイに積載される。
【0016】
次に、図1(b)を参照する。本実施形態のインクジェット記録装置は、ホスト装置2からインターフェースを介して受信した画像データを、メインコントローラ3の制御の下、記録媒体に記録する構成になっている。メインコントローラ3は、受信した画像データを記録するために、搬送制御部9、記録ヘッド制御部10、スキャナ制御部11、カッター制御部12、ソータ制御部13を制御する。
【0017】
搬送制御部9は、メインコントローラ3の制御の下、ロール紙カセット4a、上流側搬送ローラ4b対および下流側搬送ローラ対4cの回転駆動を行う。
【0018】
記録ヘッド制御部10は、記録ヘッド8a〜8cのそれぞれに対応する駆動部10a〜10cを有しており、メインコントローラ3から受信する記録データに基づいて、所定のタイミングで記録ヘッドの個々の記録素子からインクを吐出させる。個々の記録素子にはインクを吐出口まで導くインク路とインク路中に備えられた電気熱変換素子が配備されている。そして、記録データに応じて電気熱変換素子に電圧パルスを印加することにより、インク路中のインクに熱エネルギによる膜沸騰を起こし、発生した気泡の成長によって吐出口からインクを吐出させる仕組みになっている。
【0019】
スキャナ制御部11は、メインコントローラ3の制御の下、スキャナ5を用いて記録媒体の画像を読み取り、これをメインコントローラ3に送信する。カッター制御部12は、メインコントローラ3の制御の下、カットマークセンサ6bのカットマーク検出と、これに伴うカッターの切断動作を行う。ソータ制御部13は、メインコントローラ3の制御の下、記録媒体1のサイズや画像の種類に基づいてソータ7を動作させ、カットされた記録媒体を適切なトレイに配送する。
【0020】
図2(a)〜(c)は、シアンヘッド8aとチップ14(基板)における吐出口の配列状態、および記録ヘッド駆動部10aにおける制御構成を示す図である。ここではシアンヘッド8aを例に説明するが、マゼンタヘッド8bおよびイエローヘッド8cについても同様の構成を有している。
【0021】
記録ヘッド8aでは、図2(a)に示すように、CP0、CP1、CP2、CP3の4つのチップ14が、X方向に交互にずれながらY方向に連続するように配置されている。個々のチップでは、図2(b)に示すように、4列の記録素子列(A列〜D列)が所定の間隔でX方向に並列されている。また、個々の記録素子列では、1024個の記録素子15が1200dpiのピッチでY方向に配列されている。このような構成により、本実施形態の記録装置は、Y方向に記録素子が連続して配置された距離に対応する幅の記録媒体に画像を記録することが出来る。
【0022】
チップCP0(14a)には、温度センサとなる3つのダイオードセンサ16(Di0、Di1、Di2)(以下、Diセンサと呼称する)が図のように配置されている。Di0およびDi2はY方向におけるチップの左右端部の温度を検出し、Di1はその中央の温度を検出する。
【0023】
図2(c)を参照するに、駆動部10aにおいて、ヘッドドライバに入力される2値の画像データは、ヒータ駆動信号生成手段によって個々の記録素子に対する駆動信号に変換され、チップCP0〜CP3に分配される。各記録素子への配線はチップ内で共通になっているため、同一チップ内の記録素子は、同一形状の駆動パルスで駆動される。一方、複数のDiセンサからのアナログ信号はマルチプレクサの切り替えに応じて順次取得され、アンプで増幅された後、A/Dコンバータでデジタル信号に変換される。このデジタル信号は温度情報としてヘッドドライバに入力される。ヘッドドライバは、各チップの吐出量を目標値に合わせるように、得られた温度情報に基づいてチップ毎に駆動パルス幅を変更する(PWM制御)。
【0024】
図3(a)〜(c)は本実施形態のPWM制御を説明する図である。本実施形態のインクジェット記録装置において、1つの記録素子から1滴のインクを吐出する際、その記録素子の電気熱変換素子には図3(a)のような駆動パルスが印加される。図において、横軸は時間、縦軸は電圧を示し、P1はプレヒートパルス、P2はインターバル、P3はメインヒートパルスである。プレヒートパルスP1は、電気熱変換素子近傍のインクを適当な温度に加熱するためのパルスであり、吐出動作が行われない程度のエネルギ(パルス幅)に抑えられている。プレヒートパルスP3は、実際に吐出動作を行わせるために印加するパルスである。インターバルP2はプレヒートパルスP1からメインヒートパルスP3までの非印加時間を示している。このように、1回の吐出のために2回のパルスを印加する駆動方法をダブルパルス駆動と呼んでいる。
【0025】
ところで、既に説明したように、記録素子から吐出されるインクの量(吐出量)は、インク路内のインク温度に依存する。すなわち、メインパルスP3のパルス幅が一定であっても、その時々のインク温度に応じて、吐出されるインク滴の量は変化する。また、十分な吐出を行うために必要とされるエネルギ量やP3の幅も、環境温度やヘッド温度によって変化する。PWM制御とは、このような温度依存性を利用した吐出量の制御方法である。本実施形態のPWM制御では、直接吐出動作にかかわるP3を検出した温度に応じて変化させることによって、吐出量を安定させる。具体的には、検出温度が低い場合は、供給エネルギを高めるためメインヒートパルス幅P3を大きくし、検出温度が高い場合は、供給するエネルギを抑えるためメインヒートパルス幅P3を小さくする。
【0026】
図3(c)は、本実施形態において、検出されたチップ温度に応じて設定されるP1、P2およびP3を示した図である。ここでは、検出温度が上昇するにつれ、P2およびP3が小さくなっている。検出温度が42℃以上の領域では、P2が0になり、駆動パルスは図3(b)のようなシングルパルスになっている。なお、検出された温度に対応付けて用意されているパルス形状(P1、P2、P3)を、以後は図の右端に示したPWMナンバーで区別する。このような、検出温度とパルス形状が1対1で対応付けられているPWMテーブルは、記録ヘッド制御部10内のメモリに予め格納されている。
【0027】
既に説明したように、本実施形態では各記録素子への配線はチップ内で共通になっているため、同一チップ内の記録素子は、同一形状の駆動パルスで駆動される。よって、1つのチップに3つのDiセンサが配備されていても、PWM制御で参照される温度は1つの代表温度であり、この代表温度によって設定された図3(c)に示すいずれか1つのPWMナンバーによって、同一チップ上の全記録素子が駆動される。一方、同一記録ヘッド(8a)であっても、異なるチップ(14a、14b、14c、14d)は、互いに異なるPWMナンバーの駆動パルスで駆動することが出来る。
【0028】
図4は、1つの記録ヘッドにおいて、ヘッドドライバが記録中に個々のチップのPWMナンバーを更新する工程を説明する図である。記録動作の開始と同時に本処理が開始されると、まずステップS401において、ヘッドドライバは全チップ上の全Diセンサの検出温度Tijを取得する。ここで添え字iは、同一チップ上の3つのDiセンサを区別するための変数であり、0〜2の整数である。また、添え字jは、同一ヘッド上の4つのチップを区別するための変数であり、0〜3の整数である。
【0029】
続くステップS402では、チップごとに代表温度Cjを算出する。代表温度Cjは、3つのDiセンサの検出温度T0j、T1j、T2jの関数でありCj=Cj(Tij)と表すことが出来る。関数Cj(Tij)の具体的な演算内容は後述する。
【0030】
ステップS403では、図3(c)に示したPWMテーブルを参照し、ステップS402で求めた代表温度Cjに基づいて、各チップのPWMナンバーを更新する。続くステップS404では、今回のジョブで入力された画像データに対する記録が終了したか否かを判断する。未だ記録すべき画像データが残っている場合はステップS401に戻り、全画像データの記録が終了したと判断した場合は本処理を終了する。なお、ステップS401〜S404の工程は、記録動作中において、濃度むらが目立たない程度のタイミングで駆動パルスが更新されるように、時間や画像データを単位とした何らかの間隔で繰り返し実行されればよい。
【0031】
図5(a)〜(c)は、本発明における代表温度Cj(Tij)の算出方法を従来法と比較しながら説明するための図である。ここで、図5(a)は、チップCP0〜CP3夫々について、固定的加重平均法を用いて代表温度Cjを求める工程を示したフローチャートである。固定的加重平均法では、代表温度Cjは
Cj=0.2×T0j+0.6×T1j+0.2×T2j
で求められる。固定的加重平均法では、チップ上中央に配置されているDiセンサの検出温度T1jに対する重み付け係数(0.6)が最も高く、両端部に配置されているDiセンサの検出温度T0jとT2jに対する重み付け係数は0.2に抑えられている。このように重み付け係数をDiセンサの位置に対し固定しているのは、チップの中央に設置されたDiセンサが、最も多くの記録素子の温度を信頼性の高い状態で検出できると考えられるからである。
【0032】
図5(b)は、チップCP0〜CP3夫々について、最大値制御法を用いて代表温度Cjを求める工程を示したフローチャートである。最大値制御法では、3つのDiセンサの検出値の最大値を代表温度Cjとしている。すなわち、代表温度Cjは
Cj=Max(T0j、T1j、T2j)
と表すことが出来る。このように検出値の最大値を代表温度Cjとしているのは、最大値を検出したDiセンサ近傍にある記録素子が最も記録に使用されており、その領域の記録素子に対してPWM制御が最も必要と考えるからである。
【0033】
図5(c)は、本実施形態の特徴的な動的加重平均法を用いて代表温度Cjを求める工程を示したフローチャートである。動的加重平均法では、3つのDiセンサの検出値の大小関係を求め、その結果に応じて重み付け係数を設定している。具体的には、まず3つのDiセンサの検出値の最大値Max(T0j、T1j、T2j)、中間値Mid(T0j、T1j、T2j)および最小値Min(T0j、T1j、T2j)を夫々求める。そしてこれら値を用いて代表温度Cjは
Cj=0.6×Max+0.2×Mid+0.2×Min
で算出される。このように、動的加重平均法では、重み付け係数をDiセンサの位置に対し固定しているのではなく、検出値の大小関係に基づいて重み付け係数を振り分けている。よって、記録素子の使用頻度の高い領域のDiセンサの検出値に対する重み付け係数を大きく設定しながらも、他の領域の検出値も代表温度を決定するために使用している。
【0034】
なお、3つの検出温度のうち最大値に該当するものが2つある場合は、Mid=Maxとして、
Cj=0.6×Max+0.2×Max+0.2×Min
とすればよい。また、3つの検出温度のうち最小値に該当するものが2つある場合は、Mid=Minとして、
Cj=0.6×Max+0.2×Min+0.2×Min
とすればよい。
【0035】
以下、図6〜図10を用いて、動的加重平均法を採用した本実施形態の効果を、他の方法を用いて代表温度Cjを求めた場合と比較しながら説明する。
【0036】
図6(a)および(b)は、シアンヘッド8aとこれが記録する画像パターンの例を示す図である。図6(a)で記録される画像パターンAは、同一の記録密度で記録される2つのバンドA1およびA2で構成されるパターンである。バンドA1はCP0のDi0近傍の記録素子で記録され、バンドA2はCP1のDi1近傍の記録素子でバンドA1と等しい記録密度で記録される。
【0037】
ここで、記録密度とは記録媒体の単位面積あたりに記録されるドットの数を示し、同一の記録密度で記録を行う記録素子は、温度がほぼ同等に上昇する。本例において、非記録状態での記録素子の温度は30℃であり、画像パターンAを記録するために使用される記録素子の温度は40℃まで昇温するものとする。
【0038】
一方、図6(b)で記録される画像パターンBは、相対的に高い記録密度で記録されるバンドB1と、これよりも低い同一の記録密度で記録されるバンドB2およびB3で構成されるパターンである。ここで、バンドB1はCP0のDi0近傍の記録素子で記録され、バンドB2はCP0のDi1およびDi2近傍の記録素子で記録され、バンドB3はCP1の全記録素子で記録される。ここでは便宜上3つのバンドに分割して説明したが、これらは連続して1つの大きなバンドを構成している。本例においても、非記録状態での記録素子の温度は30℃であり、バンドB1を記録するために使用される記録素子の温度は35℃まで昇温し、バンドB2およびB3を記録するために使用される記録素子の温度は31℃まで昇温するものとする。
【0039】
図7(a)および(b)は、固定的加重平均法で求めた代表温度に基づいてPWM制御を行った場合の、記録状態を示した図である。図7(a)は、パターンAを記録した後、PWM制御を行って再びパターンAを記録した状態を示している。記録に使用しない記録素子の温度が30℃、記録に使用した記録素子の温度が40℃まで上昇しているので、固定的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=0.2×40+0.6×30+0.2×30=32[℃]
C1=0.2×30+0.6×40+0.2×30=36[℃]
となる。ここで、チップCP0及びCP1において、同数の記録素子を用いて同様の画像(バンドAおよびバンドB)を記録しているので、使用した記録素子近傍の温度は実際には同程度であることが想定される。しかし、固定的加重平均法を用いると、上記のように代表温度C0およびC1の間に4(=36−32)℃分のずれが生じてしまう。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図3(c)に示したPWMテーブルを参照すると、CP0にはPWMナンバー12の駆動パルスが設定され、CP1にはPWMナンバー8の駆動パルスが設定される。その結果、より低い代表温度に基づいてPWM制御が行われたチップCP0の吐出量が、より高い代表温度に基づいてPWM制御が行われたチップCP1の吐出量よりも大きくなる。
【0040】
ここで、本実施形態の記録ヘッドにおいて、「記録素子近傍の温度が1℃上昇すると吐出量が1%増大する」と仮定すると、図3(c)に示したPWMテーブルは、代表温度が1℃上昇するたびに吐出量を約1%減少させるようなパルステーブルが設定されている。その結果、CP0の吐出量がCP1の吐出量よりも4%程度大きくなり、出力された画像パターンにおいても、バンドA1の方がバンドA2よりも高い濃度となる。一般に、3%以上の吐出量差が存在すると濃度差が目視で認識できるので、このような画像パターンAには濃度むらが確認されてしまう。このように、チップ内の一部の記録素子を使用する画像パターンを、固定的加重平均法を用いて記録すると、個々のチップで設定される駆動パルスが、記録に使用する記録素子のチップ内の位置に応じて異なってしまうので、チップ間で濃度むらが確認されやすくなる。
【0041】
一方、図7(b)は、パターンBを記録した後、固定的加重平均法でPWM制御を行って、再びパターンBを記録した状態を示している。バンドB1の記録に使用した記録素子の温度が35℃、バンドB2およびバンドB3の記録に使用した記録素子の温度が31℃まで上昇しているので、固定的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=0.2×35+0.6×31+0.2×31=32[℃]
C1=0.2×31+0.6×31+0.2×31=31[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図3(c)に示したPWMテーブルを参照すると、CP0にはPWMナンバー12の駆動パルスが設定され、CP1にはPWMナンバー13の駆動パルスが設定される。この場合、CP1の吐出量がCP0の吐出量よりも1%程度大きくなるが、3%以上の吐出量差ではないので、バンドB2とB3の間で濃度むらは確認されにくい。
【0042】
図8(a)および(b)は、最大値制御法で求めた代表温度に基づいてPWM制御を行った場合の、記録状態を示した図である。図8(a)は、パターンAを記録した後、PWM制御を行って再びパターンAを記録した状態を示している。記録に使用しない記録素子の温度が30℃、記録に使用した記録素子の温度が40℃まで上昇しているので、最大値制御法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=MAX(40、30、30)=40[℃]
C1=MAX(30、40、30)=40[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図3(c)に示したPWMテーブルを参照すると、CP0においてもCP1においてもPWMナンバー4の駆動パルスが設定される。その結果、出力された画像パターンにおいても、バンドA1とバンドA2の濃度は等しくなり、濃度むらが確認されない。
【0043】
一方、図8(b)は、パターンBを記録した後、最大値制御法でPWM制御を行って、再びパターンBを記録した状態を示している。バンドB1の記録に使用した記録素子の温度が35℃、バンドB2およびバンドB3の記録に使用した記録素子の温度が31℃まで上昇しているので、最大値制御法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=MAX(35、31、31)=35[℃]
C1=MAX(31、31、31)=31[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図3(c)に示したPWMテーブルを参照すると、CP0にはPWMナンバー9の駆動パルスが設定され、CP1にはPWMナンバー13の駆動パルスが設定される。この場合、CP1の吐出量がCP0の吐出量よりも4%程度大きくなり、バンドB2とB3の間で濃度むらが確認される。
【0044】
このように、チップ内で記録密度の差すなわち吐出頻度の差が大きい画像パターンを、最大値制御法を用いて記録すると、記録密度の低い領域の温度がPWM制御に反映されない。よって、記録密度の低い領域が複数チップに亘って連続する場合、両者の間で濃度むらが確認されやすくなる。
【0045】
図9(a)および(b)は、本実施形態で特徴的な動的加重平均法で求めた代表温度に基づいてPWM制御を行った場合の、記録状態を示した図である。図9(a)は、パターンAを記録した後、PWM制御を行って再びパターンAを記録した状態を示している。記録に使用しない記録素子の温度が30℃、記録に使用した記録素子の温度が40℃まで上昇しているので、動的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=0.6×40+0.2×30+0.2×30=36[℃]
C1=0.6×40+0.2×30+0.2×30=36[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図3(c)に示したPWMテーブルを参照すると、CP0においてもCP1においてもPWMナンバー8の駆動パルスが設定される。その結果、出力された画像パターンにおいても、バンドA1とバンドA2の濃度は等しくなり、濃度むらが確認されない。
【0046】
一方、図9(b)は、パターンBを記録した後、動的加重平均法でPWM制御を行って、再びパターンBを記録した状態を示している。バンドB1の記録に使用した記録素子の温度が35℃、バンドB2およびバンドB3の記録に使用した記録素子の温度が31℃まで上昇しているので、動的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=0.6×35+0.2×31+0.2×31=33[℃]
C1=0.6×31+0.2×31+0.2×31=31[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図3(c)に示したPWMテーブルを参照すると、CP0にはPWMナンバー11の駆動パルスが設定され、CP1にはPWMナンバー13の駆動パルスが設定される。この場合、CP1の吐出量はCP0の吐出量よりも2%程度大きくなるが、3%以上の吐出量差ではないので、バンドB2とB3の間で濃度むらは確認されにくい。
【0047】
このように、動的加重平均法を採用すれば、吐出頻度に応じて重み付け係数を振り分けることが出来るので、固定的加重平均法のように、使用する記録素子の位置に応じて異なる駆動パルスが設定されることを回避することが出来る。その結果、図7(a)で発生したような濃度むらは、図9(a)では発生していない。
【0048】
また、動的加重平均法を採用すれば、吐出頻度の少ない領域の温度も考慮して駆動パルスが設定されている。よって、複数チップに亘る記録密度の低い連続領域が存在しても、最大値制御法のように隣接するチップ間で極端に異なる駆動パルスが設定されるのを抑制することが出来る。その結果、図8(b)で発生したような濃度むらは、図9(b)では確認され難い。
【0049】
図10は、図7〜図9を用いて説明した結果をまとめた表である。固定的加重平均法や最大値制御法で現れていた濃度むらが動的加重平均法では招致されていないことが分かる。
【0050】
このように、本実施形態によれば、吐出頻度に応じて重み付け係数を振り分けながら、吐出頻度の少ない領域の検出温度も使用してPWM制御を行うための代表温度を決定する。これにより、チップ上の記録素子に温度ばらつきが存在しても、チップ全体の温度を適切に制御することが可能となり、濃度むらのない画像を安定して出力することが出来る。
【0051】
(第2の実施形態)
図11(a)および(b)は、本実施形態のインクジェット記録装置における、記録部の構成と制御の構成を夫々説明するためのブロック図である。ここでは、図1(a)および(b)を用いて説明した第1の実施形態のインクジェット記録装置と異なる点のみについて説明する。
【0052】
図11(a)を参照するに、本実施形態のインクジェット記録装置において、ロール紙カセット24aに巻きつけられている記録媒体21は、ロール紙カセット24aの回転に伴い一定の搬送速度でX方向に搬送される。そして、上流側搬送ローラ24b対および下流側搬送ローラ対24cによって平滑に保たれた領域において、記録ヘッド28による記録が行われる。本実施形態のインクジェット記録装置では、スキャナやカッターなどの機構は備えられていない。記録が施された記録媒体21は、切断されることなく排紙カセット24dに巻きつけられて収容される。
【0053】
図11(b)を参照するに、搬送制御部29は、メインコントローラ23の制御の下、ロール紙カセット24a、上流側搬送ローラ24b対、下流側搬送ローラ対24cおよび排紙カセット24dの回転駆動を行う。
【0054】
図12(a)〜(c)は、本実施形態におけるシアンヘッド28aとチップ34aにおける吐出口の配列状態、および記録ヘッド駆動部30aにおける制御構成を示す図である。ここではシアンヘッド28aを例に説明するが、マゼンタヘッド28bおよびイエローヘッド28cについても同様の構成を有している。
【0055】
記録ヘッド28aでは、第1の実施形態と同様、図12(a)に示すように、CP0、CP1、CP2、CP3の4つのチップが、X方向に交互にずれながらY方向に連続するように配置されている。個々のチップについても、図12(b)に示すように、並列される4列の記録素子列(A列〜D列)が形成されている。記録素子列における記録素子の数および配列ピッチ、更にDiセンサの配置についても第1の実施形態と同様である。
【0056】
本実施形態の第1の実施形態と異なる点は、A列、B列、C列およびD列の記録素子列夫々を取り囲むように、サブヒータ38(38a、38b、38c、38d)が配備されていることである。これらサブヒータ38は、チップ内の温度を一定温度に調整するために使用される。
【0057】
図12(c)を参照するに、駆動部30aにおいて、ヘッドドライバに入力される2値の画像データは、ヒータ駆動信号生成手段によって個々の記録素子に対する駆動信号に変換され、チップCP0〜CP3に分配される。各記録素子への配線はチップ内で共通になっているため、同一チップ内の記録素子は、同一形状の駆動パルスで駆動される。また、ヘッドドライバはサブヒータ駆動信号生成手段を制御することにより、個々のチップに配されたサブヒータ38a、38b、38c、38dを駆動する。サブヒータ38a、38b、38c、38dについても、共通配線となっており、共通の電圧とパルス幅で駆動される。
【0058】
一方、複数のDiセンサからのアナログ信号はマルチプレクサの切り替えに応じて順次取得され、アンプで増幅された後、A/Dコンバータでデジタル信号に変換される。このデジタル信号は温度情報としてヘッドドライバに入力される。ヘッドドライバは得られた温度情報に基づいて、サブヒータ駆動生成手段を用いてチップ上のサブヒータ38を駆動し(サブヒータ制御)、各チップを目標温度に調整する。この目標温度は、安定した吐出が保証される温度であり、本実施形態では50℃としている。
【0059】
図13(a)および(b)は本実施形態のサブヒータ制御を説明する図である。図13(a)はサブヒータ38を駆動する際のパルス形状、同図(b)はこのようなパルスを設定する際に参照するパルステーブルを示している。
【0060】
図13(a)において、横軸は時間、縦軸はサブヒータ38に印加する電圧を示している。本実施形態では、所定のパルス電圧がP5の周期で繰り返し印加されるが、そのパルス幅P4はP6の周期で更新される。図では、パルス幅がP4からこれよりも小さなP4´に切り替えられる様子を示している。パルス周期P5と更新周期P6は一定であるので、パルス幅P4が大きくなるほど、単位時間当たりにサブヒータ38に与えられるエネルギは大きくなり、そのチップの温度が上昇する。本実施形態ではこのような仕組みでチップの温度を制御し、吐出量を制御している。
【0061】
図13(b)は、本実施形態において、検出されたチップ温度に応じて設定されるパルス幅P4を示した図である。本実施形態のサブヒータ制御では、目標温度の50℃に満たないチップに対して、50℃に到達する程度のエネルギを付与している。よって、図13(b)に示したサブヒータテーブルでは、チップの検出温度に対し、当該チップの温度が50℃まで上昇するのに必要なエネルギに相当するパルス幅が対応づけられている。検出温度が上昇するにつれ、P4が小さくなり、検出温度が50℃以上の領域では、P4は0すなわちサブヒータ38は駆動されないようになっている。このような、検出温度とパルス形状が1対1で対応付けられているPWMテーブルは、記録ヘッド制御部30内のメモリに予め格納されている。
【0062】
既に説明したように、4つの記録素子列に対するサブヒータ38a〜38dはチップ内で共通配線となっている。よって、1つのチップに3つのDiセンサが配備されていても、サブヒータ制御で参照される温度は1つの代表温度であり、この代表温度によって設定された図13(b)に示すいずれか1つのパルス幅P4によって、1つのチップのサブヒータが駆動される。一方、同一記録ヘッド(28a)であっても、異なるチップ(34a、34b、34c、34d)は異なるパルス幅で駆動することが出来る。
【0063】
図14は、1つの記録ヘッドにおいて、ヘッドドライバが記録中に個々のチップのサブヒータ38へのパルス幅P4を更新する工程を説明する図である。記録動作の開始と同時に本処理が開始されると、まずステップS1601において、ヘッドドライバは全チップ上の全Diセンサの検出温度Tijを取得する。ここで添え字iは、同一チップ上の3つのDiセンサを区別するための変数であり、0〜2の整数である。また、添え字jは、同一ヘッド上の4つのチップを区別するための変数であり、0〜3の整数である。
【0064】
続くステップS1602では、チップごとに代表温度Cjを算出する。代表温度Cjは、3つのDiセンサの検出温度T0j、T1j、T2jの関数でありCj=Cj(Tij)と表すことが出来る。
【0065】
ステップS1603では、図13(b)に示したサブヒータテーブルを参照し、ステップS1602で求めた代表温度Cjに基づいて、サブヒータ38に印加する電圧のパルス幅P4を更新する。続くステップS1604では、今回のジョブで入力された画像データに対する記録が終了したか否かを判断する。未だ記録すべき画像データが残っている場合はステップS1601に戻り、全画像データの記録が終了したと判断した場合は本処理を終了する。なお、ステップS1601〜S1604の工程は、記録動作中において、濃度むらが目立たない程度のタイミングで駆動パルスが更新されるように、時間や画像データを単位とした何らかの間隔で繰り返し実行されればよい。
【0066】
以下、図15〜図18を用いて、動的加重平均法を採用して代表温度Cjを決定した本実施形態の効果を、他の方法を用いて代表温度Cjを求めた場合と比較しながら説明する。
【0067】
図15(a)および(b)は、シアンヘッド8aとこれが記録する画像パターンの例を示す図である。図15(a)で記録される画像パターンCは、高い記録密度で記録されるバンドC1と、これよりも低い同一の記録密度で記録されるバンドC2およびバンドC2で構成されるパターンである。ここで、バンドC1はCP0のDi0近傍の記録素子で記録され、バンドC2はCP0のDi1およびDi2近傍の記録素子で記録される。更に、バンドC3はCP1の全記録素子で記録される。ここでは便宜上3つのバンドに分割して説明したが、これらは連続して1つの大きなバンドを構成している。図中で示す温度はサブヒート制御を行わずに記録した場合の記録素子の温度を示している。バンドC1の記録に使用する記録素子の温度は39℃、バンドC2およびC3を記録するのに使用される記録素子の温度は35℃まで昇温するものとする。
【0068】
一方、図15(b)で記録される画像パターンDは、等しい記録密度で記録される2つのバンドD1およびD2で構成されるパターンである。ここで、バンドD1はCP0のDi0近傍の記録素子で記録され、バンドD2はCP1のDi1近傍の記録素子で記録される。図中で示す温度はサブヒート制御を行わずに記録した場合の記録素子の温度を示している。本例において、記録に使用されない記録素子の温度は30℃であり、バンドD1およびバンドD2を記録するために使用される記録素子の温度は39℃まで昇温するものとする。
【0069】
図16(a)および(b)は、第1の実施形態で説明した固定的加重平均法で求めた代表温度に基づいてサブヒータ制御を行った場合の、記録状態を示した図である。図16(a)は、サブヒータ制御を行わずにパターンCを記録した後、サブヒータ制御を行って再びパターンCを記録した状態を示している。バンドC1の記録に使用した記録素子の温度が39℃、バンドC2およびC3の記録に使用した記録素子の温度が35℃まで上昇するので、固定的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=0.2×39+0.6×35+0.2×35=36[℃]
C1=0.2×35+0.6×35+0.2×35=35[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図13(b)に示したサブヒータテーブルを参照すると、CP0にはP4=750μsecのパルス幅が設定され、CP1にはP4=800μsecのパルス幅が設定される。そして、サブヒータ38が駆動されることにより、CP0には14℃(=50℃−36℃)分昇温するエネルギが投入され、CP0のDi2の温度は35℃+14℃=49℃となる。また、CP1には15℃(=50℃−35℃)分昇温するエネルギが投入され、CP1のDi0の温度は35℃+15℃=50℃となる。このように、より低い代表温度に基づいてサブヒータ制御が行われたチップCP1の方が、より高い代表温度に基づいてサブヒータ制御が行われたチップCP0のよりも多くのエネルギが付与され、高温になる。但し、本実施形態でも第1の実施形態の記録ヘッドと同様、「記録素子近傍の温度が1℃上昇すると吐出量が1%増大する」と仮定すると、チップCP0とCP1の境界の吐出量差は1%であり、濃度むらが確認される程度ではない。
【0070】
一方、図16(b)は、パターンDを記録した後、固定的加重平均法でサブヒータ制御を行って、再びパターンDを記録した状態を示している。バンドD1およびバンドD2の記録に使用した記録素子の温度が39℃、記録に使用しなかった記録素子の温度が30℃であるので、固定的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=0.2×39+0.6×30+0.2×30=32[℃]
C1=0.2×30+0.6×39+0.2×30=35[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図13(b)に示したサブヒータテーブルを参照すると、CP0にはP4=950μsecのパルス幅が設定され、CP1にはP4=800μsecのパルス幅が設定される。そして、サブヒータが駆動されることにより、CP0には18℃(=50℃−32℃)分昇温するエネルギが投入され、CP0のDi0の温度は39℃+18℃=57℃となる。一方、CP1には、15℃(=50℃−35℃)分昇温するエネルギが投入され、CP1のDi1の温度は39℃+15℃=54℃となる。この場合、バンドD1を記録する記録素子とバンドD2を記録する記録素子の温度差は3℃、吐出量差は3%程度となるので、これら2つのバンド間で濃度差が確認されてしまう。
【0071】
図17(a)および(b)は、第1の実施形態でも説明した最大値制御法で求めた代表温度に基づいてサブヒータ制御を行った場合の、記録状態を示した図である。図17(a)は、サブヒータ制御を行わずにパターンCを記録した後に、サブヒータ制御を行って再びパターンCを記録した状態を示している。バンドC1の記録に使用した記録素子の温度が39℃、パターンC1およびC2の記録に使用した記録素子の温度が35℃まで上昇するので、最大値制御法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=MAX(39、35、35)=39[℃]
C1=MAX(35、35、35)=35[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図13(b)に示したサブヒータテーブルを参照すると、CP0には600μsecのパルス幅が設定され、CP1にはP4=800μsecのパルス幅が設定される。そして、サブヒータ38が駆動されることにより、CP0には、11℃(=50℃−39℃)分昇温するエネルギが投入され、CP0のDi2の温度は35℃+11℃=46℃となる。また、CP1には、15℃(=50℃−35℃)分昇温するエネルギが投入され、CP1のDi0の温度は35℃+15℃=50℃となる。このように、バンドC2を記録する記録素子とバンドC3を記録する記録素子間では、温度差が4℃吐出量差は4%となるので、これら2つのバンド間で濃度むらは目立ってしまう。
【0072】
一方、図17(b)は、パターンDを記録した後、最大値制御法でサブヒータ制御を行って、再びパターンDを記録した状態を示している。バンドD1およびバンドD2の記録に使用した記録素子の温度が39℃、記録に使用しなかった記録素子の温度が30℃であるので、固定的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=MAX(39、30、30)=39[℃]
C1=MAX(30、39、30)=39[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図13(b)に示したサブヒータテーブルを参照すると、CP0にもCP1にもP4=600μsecのパルス幅が設定される。そして、サブヒータ38が駆動されることにより、CP0、CP1ともに、11℃(=50℃−39℃)分昇温するエネルギが投入され、CP0のDi0の温度もCP1のCi1の温度も39℃+11℃=50℃となる。この場合、バンドD1を記録する記録素子とバンドD2を記録する記録素子の吐出量差は存在せず、これら2つのバンド間で濃度差は確認されない。
【0073】
図18(a)および(b)は、本実施形態の動的加重平均法で求めた代表温度に基づいてサブヒータ制御を行った場合の、記録状態を示した図である。図18(a)は、サブヒータ制御を行わずにパターンCを記録した後に、サブヒータ制御を行って再びパターンCを記録した状態を示している。バンドC1の記録に使用した記録素子の温度が39℃、パターンC1およびC2の記録に使用した記録素子の温度が35℃まで上昇するので、動的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0=0.6×39+0.2×35+0.2×35=37[℃]
C1=0.2×35+0.6×35+0.2×35=35[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図13(b)に示したサブヒータテーブルを参照すると、CP0にはP4=700μsecのパルス幅が設定され、CP1にはP4=800μsecのパルス幅が設定される。そして、サブヒータ38が駆動されることにより、CP0には、13℃(=50℃−37℃)分昇温するエネルギが投入され、CP0のDi2の温度は35℃+13℃=48℃となる。また、CP1には、15℃(=50℃−35℃)分昇温するエネルギが投入され、CP1のDi0の温度は35℃+15℃=50℃となる。このように、より低い代表温度に基づいてサブヒータ制御が行われたチップCP1の方が、より高い代表温度に基づいてサブヒータ制御が行われたチップCP0のよりも多くのエネルギが付与される。しかし、バンドC2を記録する記録素子とバンドC3を記録する記録素子の温度差は2℃、吐出量差も2%程度であるので、これら2つのバンドの間で濃度むらは確認されない。
【0074】
一方、図18(b)は、パターンDを記録した後、動的加重平均法でサブヒータ制御を行って、再びパターンDを記録した状態を示している。バンドD1およびバンドD2の記録に使用した記録素子の温度が39℃、記録に使用しなかった記録素子の温度が30℃であるので、動的加重平均法によると、CP0及びCP1のチップ代表温度は
C0 =0.6×39+0.2×30+0.2×30=35[℃]
C1 =0.6×39+0.2×30+0.2×30=35[℃]
となる。このような状況で、それぞれの代表温度に基づいて図13(b)に示したサブヒータテーブルを参照すると、CP0、CP1ともにP4=800μsecのパルス幅が設定される。そして、サブヒータ38が駆動されることにより、CP0、CP1ともに、15℃(=50℃−35℃)分昇温するエネルギが投入され、CP0のDi0もCP1のDi1もその温度は39℃+15℃=54℃となる。すなわち、バンドD1を記録する記録素子とバンドD2を記録する記録素子の吐出量差は存在せず、これら2つのバンド間で濃度差は確認されない。
【0075】
このように、動的加重平均法を採用すれば、個々のDiセンサの検出温度に応じて重み付け係数を振り分けることが出来る。よって、固定的加重平均法のように、使用する記録素子の位置に応じてサブヒータ38に印加されるパルスの幅が異なる状況を回避することが出来る。その結果、図16(b)で発生したような濃度むらは、図18(b)では発生していない。
【0076】
また、動的加重平均法を採用すれば、吐出頻度が少なく検出温度が低い領域の温度も考慮してパルス幅が設定されている。よって、複数チップに亘る記録密度の低い連続領域が存在しても、最大値制御法のように隣接するチップ間で極端に異なるパルス幅が設定されるのを抑制することが出来る。その結果、図17(a)で発生したような濃度むらは、図18(a)では確認されない。
【0077】
図19は、図16〜図18を用いて説明した結果をまとめた表である。固定的加重平均法や最大値制御法で現れていた濃度むらが動的加重平均法では招致されていないことが分かる。
【0078】
このように、本実施形態によれば、検出温度に応じて重み付け係数を振り分けながらも、温度が低い領域の検出温度も使用してサブヒータ制御を行うための代表温度を決定する。これにより、チップ上の記録素子に温度ばらつきが存在しても、チップ全体を適切に温度制御することが可能となり、濃度むらのない画像を安定して出力することが出来る。
【0079】
なお、以上では、1つのチップの中央と両側にDiセンサが備えられている構成を例に説明してきたが、チップ上に存在するDiセンサの位置および数はこれに限定されるものではない。また、温度センサの種類もDiセンサに限定されず、他の種類のセンサであっても適用することができる。
【0080】
また、以上では4つのチップを備えたインクジェット記録ヘッドを例に説明してきたが、無論本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、1つのチップで構成される記録ヘッドであっても、本発明の構成を採用すれば、当該チップの温度を安定させることが出来、時間の経過に応じて画像の濃度が変動することを抑えることが出来る。
【0081】
また、上述した第1および第2の実施形態では、同一チップ内の記録素子への配線は共通であるという構成を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。配線が共通ではなくてもチップ内の各記録素子に関して同一の駆動電圧およびパルス幅で駆動することは出来る。
【0082】
例えば、4つの温度センサから得られた4つの温度T0、T1、T2、T3に対し、0.4、0.3、0.2および0.1のような4種類の重み付け係数を用意し、検出温度が高いほど大きな重み付け係数が対応されるようにすることも出来る。具体的に説明すると、T0>T1>T2>T4であった場合、チップ温度Cは、C=0.4×T0+0.3×T1+0.2×T2+0.1×T3と求めればよい。
【0083】
このように、本発明の動的加重平均法においては、チップ上に配置された複数の温度センサの検出温度を高い順に並べた際の順番に対応付けて、夫々の検出温度に乗じる係数が決定された上で、加重平均から代表温度を決定すればよい。そして、このようにして得られた代表温度に基づいて、チップ内では共通の駆動パルスが、個々のチップに対応付けて設定され印加されればよい。
【符号の説明】
【0084】
1 記録媒体
8 記録ヘッド
10 記録ヘッド制御部
14 チップ
15 記録素子
16 ダイオードセンサ
38 サブヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動パルスを印加することでインクを吐出する複数の記録素子が配列された素子列と温度を検出するための複数の温度センサとを備える基板を有する記録ヘッドと、
前記複数の温度センサそれぞれの温度を求めることで、複数の検出温度を取得する取得手段と、
前記複数の前記検出温度を温度の順に並べた際の順番に対応付けて、それぞれの検出温度に乗じる係数を決定する決定手段と、
前記決定手段で決定された前記係数を前記複数の検出温度の夫々に乗じて加重平均することで、代表温度を算出する算出手段と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記代表温度に基づいた駆動パルスを前記複数の記録素子に印加するように制御する駆動制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段は、複数の代表温度と複数の駆動パルスとの関係を示すテーブルを参照して、前記代表温度に基づいた駆動パルスを決定することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記複数の温度センサからの検出温度のうち最大の検出温度に乗じる係数が、他の検出温度に乗じる係数より大きくなるように決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記複数の温度センサは、前記複数の記録素子が配列する方向に沿って配列していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録ヘッドには、前記基板の複数が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記複数の基板は、前記複数の記録素子が配列する方向に沿って配列していることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記演算手段は、前記複数の基板ごとに前記代表温度を決定することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記温度センサは、ダイオードセンサであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記基板を加熱するための加熱手段と、
前記代表温度に基づいたエネルギ量を前記加熱手段に供給するように制御する加熱制御手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
駆動パルスを印加することでインクを吐出する複数の記録素子が配列された素子列と温度を検出するための複数の温度センサとを備える基板を有する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置のためのインクジェット記録方法であって、
前記複数の温度センサそれぞれの温度を求めることで、複数の検出温度を取得する取得工程と、
前記複数の前記検出温度を温度の順に並べた際の順番に基づいて、それぞれの検出温度に乗じる複数の係数を決定する決定工程と、
前記決定工程で決定された前記複数の係数を前記複数の検出温度に対応させて加重平均することで、代表温度を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出した前記代表温度に基づいた駆動パルスを前記複数の記録素子に印加するように制御する駆動制御工程と
を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記駆動制御工程では、複数の代表温度と複数の駆動パルスとの関係を示すテーブルを参照して、前記代表温度に基づいた駆動パルスを決定することを特徴とする請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記複数の温度センサは、前記複数の記録素子が配列する方向に沿って配列していることを特徴とする請求項11または12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記決定工程は、前記複数の温度センサからの検出温度のうち最大の検出温度に乗じる係数が、他の検出温度に乗じる係数より大きくなるように決定することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記記録ヘッドには、前記基板の複数が設けられていることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記複数の基板は、前記複数の記録素子が配列する方向に沿って配列していることを特徴とする請求項15に記載のインクジェット記録方法。
【請求項17】
前記演算工程は、前記複数の基板ごとに前記代表温度を決定することを特徴とする請求項15に記載のインクジェット記録方法。
【請求項18】
前記温度センサは、ダイオードセンサであることを特徴とする請求項11乃至17のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−99922(P2013−99922A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161416(P2012−161416)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】