説明

インクジェット記録装置およびインク供給システム

【課題】 急速にインクの消費量が増加した場合においてもインクを安定して供給することができるインク供給システムでかつ、インクタンクの形状を限定することのないインク供給システムを提供する。
【解決手段】 インクタンク103に高位用と標準用の2種類の液位センサを設け、単位時間あたりのインク消費量が多い記録データを記録する際は高位用の液位センサ105を用い、標準のインク消費量の記録データを記録する際は標準の液位センサ106を用いる。そして、記録中にインク液位がセンサ以下になった場合はインク供給弁104を開け、インク液位がセンサ位置に到達するまでインクを供給する。また、液位センサを用いるのではなく、インクタンクと記録ヘッドとの水頭差を、インク消費量が多い記録データを記録する場合は、標準よりも高くするようにインクタンクを鉛直方向上下に移動させる形態であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクを記録媒体に付与することによって画像を形成するインクジェット記録装置および、該インクジェット記録装置にインクを供給するインク供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体にインクを付与することによって画像を形成する形態の画像形成装置は、パーソナルコンピュータなどの普及に伴い、近年、増加している。特に、複数のノズルを配列した記録ヘッドから記録媒体に対してインク滴を吐出して記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録装置は、装置の小型化が比較的容易であること、カラー記録が安価に実現できることなどの理由により、急速に普及している。
【0003】
このようなインクを用いた画像形成装置は、記録ヘッド等の記録素子側へインクを安定的に供給するインク供給システムが必要である。特に、インク交換の回数を減らすために大容量のインクタンクを設けた場合、記録素子とインクタンクとを一体構造にするのが難しい場合が多く、記録素子とインクタンクとの距離は離れる傾向にある。このように記録素子とインクタンクが離れた場合、インクタンクからのインクを記録素子側へ常に安定的に供給するために、従来より様々な提案が成されてきた。
【0004】
例えば、インクタンクに空気流入量調整部を設け、インクタンク内への空気の流入を制限してインクタンク内の負圧を常に維持することによって、記録素子側へインクを安定供給できるようにしたものがある(特許文献1参照)。具体的には、空気の流入速度をインクの消費速度以下に制限することにより、常にインクタンク内を負圧に維持している。
【0005】
【特許文献1】特開2002−321390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のインク供給システムは、インクの消費速度はほぼ一定であるという仮定のもとに成立するため、インクの消費速度が急激に変化した場合の対応が不十分となるという問題がある。つまり、従来のインク供給システムは、単位時間内のインクの消費速度が一定、すなわち、記録速度が変化するという概念を持たないため、単位時間内にインクの消費量を急速に増加させると、空気流入量の調整がインクの消費速度に間に合わず、インクタンク内の負圧の維持が困難となる。その結果、記録に必要なインクが十分に記録素子側に供給されないという事態が発生する可能性がある。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、急速にインクの消費量が増加した場合においてもインクを安定して供給することができるインク供給システムを提供することを目的とする。
【0008】
また、このようなインク供給システムを形成するにあたり、インクタンクの形状を限定することのないものを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置において、記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じて前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差を決定する水頭差決定手段と、前記水頭差決定手段が決定する水頭差を満たすように、前記インクタンク内の液位と前記記録ヘッドとの相対的な位置を調節するインクタンク調節手段とを具え、前記水頭差決定手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が多いほど、前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差が大きくなるように決定することを特徴とする。
【0010】
また、インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置において、前記インクタンクの第1液位及び該第1液位よりも高位の第2液位を検知するセンサと、前記インクタンクへインクを供給する副インクタンクと、該副インクタンクから前記インクタンクへのインクの流れを遮断するインク供給弁と、記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じてインクタンク内の液位が所定値に到達するまでインク供給弁を開けるインク供給弁開閉手段とを具え、前記インク供給弁開閉手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が所定量以上の場合は、前記第2液位にインクが到達するまで、インク供給弁を開けることを特徴とするものであってもよい。
【0011】
また、本発明のインク供給システムは、インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置に対して前記インクタンクにインクを供給するインク供給システムにおいて、記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じて前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差を決定する水頭差決定手段と、前記水頭差決定手段が決定する水頭差を満たすように、前記インクタンクへインクを供給するインク供給手段とを具え、前記水頭差決定手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が多いほど、前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差が大きくなるように決定することを特徴とする。
【0012】
さらに、インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置に対して、インクを供給するインク供給システムにおいて、前記インクタンクの第1液位及び該第1液位よりも高位の第2液位を検知するセンサと、記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じたセンサ液位にインクタンク内のインク液位が到達するまでインクを供給するインク供給手段とを具え、前記インク供給手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が所定量以上の場合は、前記第2液位にインクが到達するまで、インクを供給することを特徴とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、単位時間あたりのインク消費量が異なる様々な記録データに応じて、適切にインクタンクからインクを供給するとともに、そのインクタンクへインクを供給することができ、常に安定したインク供給を実現することができる。さらに、インク消費量の急激な増加によるインク切れ等の発生を防止することができる。
【0014】
また、インクタンクに2段階の水位を検知するセンサを設ける簡単な構成で上記安定したインク供給を実現することができる。
【0015】
また、インクタンクの一片に可動壁を設けることで、インクタンクと記録ヘッドとの水頭差を容易に変化させることを可能とし、記録データの多少に応じて水頭差を変化させることで、上記安定したインク供給を実現することができる。
【0016】
また、インクタンクを鉛直方向に上下できるようにすることで、インクタンクと記録ヘッドとの水頭差を容易に変化させることを可能とし、記録データの多少に応じて水頭差を変化させることで、上記安定したインク供給を実現することができる。
【0017】
また、これらインクタンクの水頭差を調節したり、インクタンク内のインク液位をセンサで検知するなどの比較的簡易な構成でインクを安定して供給することができ、かつインクタンクの形状を限定することなく、様々な形状のインクタンクに適応可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、以下に図面を参照して説明する。
(実施形態1)
図1は本実施形態におけるインク供給システムを示す模式図である。
【0019】
101はコントローラであり、システムの各部位の制御を行う。102は記録ヘッドであり、記録素子である複数のノズルが記録媒体と対峙するようにして配列されている。そして、記録ヘッド102はコントローラ101からの制御を受けて各ノズルからインクを吐出して記録を行う。103はインクタンク(以下、「メインタンク」ともいう)であり、記録ヘッド102へ供給するインクを貯留している。104はインク供給弁であり、コントローラからの制御を受けてさらに別のインクタンク(以下、「サブタンク」ともいう)からメインタンク103へインクを供給するために開閉を行う。105及び106はインクタンク内の水位を検出するセンサであり、105は高位の水位を検出し、106は標準時の水位を検出する。
【0020】
図2は、インク供給システムのコントローラの内部構成を示すブロック図である。
201はCPUであり、後述する制御プログラムを実行して、コントローラ内の各部を統合的に制御する。202及び203は水位センサであり、インクタンクに設けられたセンサ105及び106に水位が到達したことを検知すると、オフ信号を出力し、水位が達していなければオン信号を出力するものである。202は高位水位センサであり、センサ105に対応している。203は標準時水位センサであり、センサ106に対応している。204はインク供給弁制御部であり、CPU201からの指令に基づき、インク供給弁104の開閉を制御する。205は記録ヘッド制御部であり、CPU201からの指令に基づき、記録ヘッド102の駆動を制御する。206はホストデバイスであり、ホストコンピュータから送信されてきた記録データや記録モードを変換してCPU201へ送る。207はROMであり、図3、図4、および図5に示すフローに対応する各種制御プログラムが格納されており、プログラムはCPU201により読み込まれて実行される。208はRAMであり、記録モード221などホストコンピュータから送信されてきた情報を記憶している。
【0021】
次に、メインタンク側からサブタンク側へインクを供給する処理について説明する。
図3は記録時の処理の流れを示すフローチャートである。
【0022】
まず、記録開始の指令をCPUが受けると、記録モード221をRAMメモリに記憶させる(ステップ301)。記録モードには、単位時間あたりのインク消費量が通常の場合の標準モードと、単位時間あたりのインク消費量が通常よりも多い場合の高位モードとが設けられている。そこで、これらの記録モードのいずれかが送信されてくると、この記録モードを記憶し、この記録モードに適した処理を行っていく。
【0023】
CPUはインク供給プロセスを起動させるために供給開始信号をインク供給弁制御部へ送る(ステップ302)。インク供給プロセスの詳細については後述する。
【0024】
そしてインク供給開始信号の発信とほぼ同時に、CPUは記録ヘッド制御部へ記録データを送り、記録動作を開始する(ステップ303)。具体的には、記録ヘッド制御部が記録データに基づいて、各ノズルの駆動を決定し、その信号を記録ヘッド102へ送り、記録ヘッドが駆動を開始して、記録が行われる。
【0025】
記録動作が終了すると、CPUは供給終了信号をインク供給弁制御部へ送り(ステップ304)、これを受けたインク供給弁制御部はインク供給プロセスを終了する。これら一連の動作が終了すると、記録動作は終了する。
【0026】
次にインク供給プロセスの処理の流れを説明する。
図4は、インク供給プロセスを示すフローチャートである。
【0027】
CPUから供給開始の信号を受けると、インク供給弁制御部は、RAMに記憶されている記録モードを確認し(ステップ401)、記録モードが標準モードであれば、標準水位センサのオン・オフを確認する(ステップ402)。インクタンク内の液位が標準位センサ位置を超えており信号がオフの場合は、サブタンク側からインクをさらに供給する必要がないので、インク供給弁を閉じた状態にする(ステップ403)。一方、インクタンク内の液位が標準位センサ位置に到達しておらず、信号がオンの場合は、サブタンク側からインクを供給する必要があるので、インク供給弁を開にする(ステップ404)。そしてCPUから供給終了信号を受けると(ステップ405)、インク供給弁を閉じてインク供給プロセスを終了する。一方、供給終了信号が送られてこない間は、センサ信号がオフになるとインク供給弁を閉じる。
【0028】
また、記録モードが高位モードである場合は、高位水位センサのオン・オフを確認する(ステップ406)。インクタンク内の液位が高位センサ位置を超えており信号がオフの場合は、サブタンク側からインクをさらに供給する必要がないので、インク供給弁を閉じた状態にする(ステップ407)。一方、インクタンク内の液位が高位センサ位置に到達しておらず、信号がオンの場合は、サブタンク側からインクを供給する必要があるので、インク供給弁を開にする(ステップ408)。そして、CPUから供給終了信号を受けると(ステップ409)、インク供給弁を閉じてインク供給プロセスを終了する。一方、供給終了信号が送られてこない間は、高位センサ信号がオフになるまで、インク供給弁を開にしておく。
【0029】
このように、通常よりも印字量が多い、高位モードの場合は、急激にインクが消費される可能性が高いので、標準モードよりも高い位置に液位検出センサを設け、標準モード時よりも早めにインク供給弁を開にし、サブタンク側からインクを補充しておくことにより、急激にインク消費量が増加した場合でもインクを安定して供給することができる。
【0030】
なお、記録モードの確認は、RAMに記録された情報を確認するだけではなく、必要に応じてホストデバイスから取得することもできる。
【0031】
また、本実施形態では記録モードを高位モードと標準モードの2種類としたが、本発明はこれに限らず2種類以上設けられていてもよい。また、これらの記録モードにあわせて2つの水位センサを設置する構成としたが、本発明はこれに限らず、複数の水位を検出可能なセンサを1個設置する構成であってもよい。
【0032】
また、インク供給弁制御部は、インク供給弁の開閉を制御するだけでなく、その弁の開閉に伴って駆動する供給ポンプの駆動制御も行うものであってもよい。
【0033】
本実施形態では、図3に示したように、記録開始プロセスからインク供給プロセスを起動させる構成としたが、本発明はこれに限らず、インク供給プロセスから記録開始プロセスを起動させる構成であってもよい。
【0034】
また、参照データの格納媒体は、RAMに限らず、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、磁気テープなどの磁気記憶媒体、MO、PDなどの光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−R、DVD−RWなどの光ディスクや、半導体ストレージ、紙テープ、ROM素子などでもよい。
【0035】
さらに、本実施形態では、上記構成を具えるインク供給システムを説明したが、本発明はこれに限らず、上記構成を具えるインクジェット記録装置であってもよい。なお、これは、本実施形態に限らず、以下の実施形態においても適用可能である。
【0036】
(実施形態2)
実施形態1では、インクタンクのセンサを標準モード用と高位モード用の2液位を検出できるようにすることで、通常よりもインク消費量が急激に増加する可能性が高い高位モードの時は、早めにインクを補充することでき、インク消費量が増加しても常に安定的にインクを供給できるようにしている。しかしながら、この制御はホストデバイスから記録モードが送られてくることを前提としており、ホストデバイスからの送信情報は記録データだけでなく、モードデータも必要となる。
【0037】
本実施形態では、記録を開始する際に、ホストデバイスから送られてきた記録データをもとにして、単位時間あたりのインク消費量を算出し、その算出結果から記録モードを決定するものである。
【0038】
システムの構成および、コントローラの構成は実施形態1と同様とする。
図5は、記録動作の流れを示すフローチャートである。
【0039】
CPUは、ホストデバイスから送られた記録データをもとにして、単位時間あたりのインク消費量を算出する(ステップ501)。そして、算出したインク消費量に対応した記録モードを選択し、その記録モードをRAMに記憶させる(ステップ502)。そして、インク供給開始信号をインク供給弁制御部へ送る(ステップ503)。インク供給開始信号を受けたインク供給弁制御部は、インク供給プロセスを実行する。これについては後述する。またCPUは、記録データに基づいて記録ヘッド制御部へ記録指令を送り、記録動作を開始する(ステップ504)。記録ヘッド制御部は、記録データに基づいて、各ノズルを駆動させ、記録媒体に記録を行う。そして、記録データの記録がすべて終了すると、CPUはインク供給弁制御部へ供給終了信号を発信し(ステップ505)、一連の記録動作は終了する。
【0040】
インク供給開始信号を受けたインク供給弁制御部は、前記ステップ501で決定された記録モードに基づいて、インク供給プロセスを実施する。このプロセスの流れは実施形態1と同様とする。
【0041】
(実施形態3)
本実施形態では、インクタンクに可動壁を設け、インク消費量が多いと思われる記録データの場合を、この壁を動かすことによって、標準時よりも水頭差が大きくなるようにして、インクが急激に消費された場合でも、インク供給が安定して行えるようにする。
【0042】
図6は本実施形態のインク供給システムを示す模式図である。
601はコントローラであり、システムの各部位の制御を行う。602は記録ヘッドであり、記録素子である複数のノズルが記録媒体と対峙するようにして配列されている。そして、記録ヘッド602はコントローラ601からの制御を受けて各ノズルからインクを吐出して記録を行う。603はインクタンク(以下、「メインタンク」ともいう)であり、記録ヘッド602へ供給するインクを貯留している。604はインク供給弁であり、コントローラからの制御を受けてさらに別のインクタンク(以下、「サブタンク」ともいう)からメインタンク603へインクを供給するために開閉を行う。605はインクタンク603の可動壁であり、コントローラ601からの制御指令を受けて、壁位置を水平方向に移動させ、インクタンク603の形状を変化させることによって、収容されているインクの液位を変化させ任意の水頭差にする。
【0043】
インクタンク603は、これを構成する複数の壁のうち、鉛直方向に立てられた壁の一つが可動壁605となっている。そして、内部はこれら壁で構成される筐体とその内側に設けられたインク袋との2重構成となっている。したがって、可動壁605を内側に動かすと、インク袋は押さえつけられて、筐体に沿った形に変形する。これに伴ってインク液位も高くなる。可動壁605と接合する2壁面は引き戸のようにレールに沿って移動可能となっている。なお、本実施形態では、インク袋と筐体の2重構造のインクタンクを用いたが本発明はこれに限らず、可動壁605と接合する2壁面が蛇腹状になっていて、インクタンク内部のシールドを保持した状態で容積を変化できるようになっているものであってもよい。
【0044】
図7はコントローラの内部構成を示すブロック図である。
701はCPUであり、ROM706に記憶されているプログラムを実行してコントローラの各部を制御する。702は可動壁制御部であり、CPU701からの指令に従い、可動壁の壁位置を変更するように、可動壁を動かす。703はインク供給弁制御部であり、CPU701の指令に従って、インク供給弁の開閉を制御する。704は記録ヘッド制御部であり、CPU701からの指令に基づき、記録ヘッドへ駆動信号を送る。705はホストデバイスであり、記録データや必要水頭差をCPU701へ送る。706はROMであり、例えば、図8に示すフローに対応する各種制御プログラムが格納されている。707はRAMであり、ホストデバイスから送られてきた必要水頭差(水頭差値)721などを随時記憶している。
【0045】
図8は記録動作の流れを示すフローチャートである。
まず、記録開始指令を受けると、CPUはホストデバイスから受け取った必要水頭差をRAMに記憶させる(ステップ801)。そして、現状のインクタンクの可動壁の位置を検出し、それが必要水頭差に対応した位置でなければ、インクタンクの水頭差が必要水頭差となる所定位置へ可動壁を移動させる(ステップ802)。なお、インクタンクに水位センサが設けられており、現状のインク液位を検出することで、現状のインクタンクと記録ヘッドとの水頭差を推定し、この推定された現状の水頭差と必要水頭差とを比較してその差分から可動壁の位置を算出し、その算出値に応じて可動壁を移動させるようにしてもよい。
【0046】
次に記録動作を行う場合は(ステップ803)、CPUは記録ヘッド制御部へ記録開始指令を送り、記録ヘッド制御部が記録ヘッドを駆動させる(ステップ804)とともに、CPUはインク供給弁制御部へインク供給弁の開指令を送る。この指令を受けたインク供給弁制御部は、インク供給弁を開ける(ステップ806)。そして、インクが随時、インクタンク側へ供給される。そして、すべての記録データが記録され、記録動作を終了するときは(ステップ804)、インク供給弁を閉じる(ステップ805)。そして、このインク供給プロセスを終了する。また、インクタンクの水位センサによって、インクタンク内のインクが所定量に到達したことが検出されると、インク供給弁を閉じるようにしてもよい。
【0047】
このように、インク消費量が多いと予想される記録データに関しては、ホストデバイス側があらかじめ、通常よりも高めの値を必要水頭差として要求し、その必要水頭差に応じて、インクタンクの可動壁を動かすことによって、インクタンクと記録ヘッドとの間の水頭差を変化させ、急激なインク消費が発生しても、記録ヘッド側に安定的にインクを供給することができる。
【0048】
なお、可動壁の位置の算出に関して、本実施形態では、コントローラで行うものとしたが、本発明はこれに限らず、現状の水頭差をコントローラがホストデバイスへ送り、ホストデバイスが可動壁の位置を算出する形態であってもよい。
【0049】
(実施形態4)
実施形態3ではインクタンクの壁面を稼動させてインクタンク内の容積を変更することで、必要な水頭差を得ている。本実施形態では、インクタンク内の容積を変更するのではなく、インクタンク本体を鉛直方向に上下させることによって、必要な水頭差を実現するものである。
【0050】
図9は、本実施形態のインク供給システムを示す模式図である。
コントローラ901及び記録ヘッド902ならびにインク供給弁904の構造は実施形態1と同様であるが、インクタンク903は、インクタンク本体が鉛直方向上下に移動可能な構成を有するものである。具体的には、インクタンクに沿って鉛直方向にレールが設けられており、そのレールに沿って所定量を移動する。なお、移動方法はレールに限らず、吊り下げ方法など鉛直方向に移動できればいかなる方法であってもよい。
【0051】
インクタンク903は、インクタンク内のインク量および、記録データに応じて、位置を上下させて記録ヘッド902との水頭差を維持できるようにする。
【0052】
図10はコントローラの電気的構成を示すブロック図である。
1001はCPUであり、ROM1006に記憶されているプログラムを実行してコントローラの各部を制御する。1002は可動インクタンク制御部であり、CPU1001からの指令に従い、インクタンクの鉛直方向の移動量を決定し、インクタンクを移動させる。1003はインク供給弁制御部であり、CPU1001の指令に従って、インク供給弁の開閉を制御する。1004は記録ヘッド制御部であり、CPU1001からの指令に基づき、記録ヘッドへ駆動信号を送る。1005はホストデバイスであり、記録データや必要水頭差をCPU1001へ送る。1006はROMであり、図11に示すフローに対応する各種制御プログラムが格納されている。1007はRAMであり、ホストデバイスから送られてきた必要水頭差(水頭差値)1021などを随時記憶している。
【0053】
次に、インクタンクの移動制御の具体的な処理の流れについて説明する。
図11は記録動作の流れを示すフローチャートである。
【0054】
まず、記録開始指令を受けると、CPUはホストデバイスから受け取った必要水頭差をRAMに記憶させる(ステップ1101)。そして、現状のインクタンクの鉛直方向位置を検出し、それが必要水頭差に対応した位置でなければ、インクタンクの水頭差が必要水頭差となる所定位置まで移動させる(ステップ1102)。なお、インクタンクに水位センサが設けられており、現状のインク液位を検出することで、現状のインクタンクと記録ヘッドとの水頭差を推定し、この推定された現状の水頭差と必要水頭差とを比較してその差分からインクタンクの位置を算出し、その算出値に応じてインクタンクを移動させるようにしてもよい。
【0055】
次に記録動作を行う場合は(ステップ1103)、CPUは記録ヘッド制御部へ記録開始指令を送り、記録ヘッド制御部が記録ヘッドを駆動させる(ステップ1104)とともに、CPUはインク供給弁制御部へインク供給弁の開指令を送る。この指令を受けたインク供給弁制御部は、インク供給弁を開ける(ステップ1106)。そして、インクが随時、インクタンク側へ供給される。そして、すべての記録データが記録され、記録動作を終了するときは(ステップ1104)、インク供給弁を閉じる(ステップ1105)。そして、このインク供給プロセスを終了する。また、インクタンクの水位センサによって、インクタンク内のインクが所定量に到達したことが検出されると、インク供給弁を閉じるようにしてもよい。
【0056】
このように、インク消費量が多いと予想される記録データに関しては、ホストデバイス側があらかじめ、通常よりも高めの値を必要水頭差として要求し、その必要水頭差に応じて、インクタンクの位置を動かすことによって、インクタンクと記録ヘッドとの間の水頭差を変化させ、急激なインク消費が発生しても、記録ヘッド側に安定的にインクを供給することができる。
【0057】
なお、必要水頭差は、RAMに記憶させる形態に限らず、必要に応じてホストデバイスから毎回取得する形態であってもよい。
【0058】
(実施形態5)
本実施形態では、実施形態4と同様にインクタンクを鉛直方向上下に移動させて必要な水頭差を保持するとともに、記録データから使用するインク量を算出し、その量に応じてインクを適宜インクタンクに供給する構成を説明する。
【0059】
インクジェット記録装置およびインク供給システムの装置構成は実施形態4と同様とする。
【0060】
図12はコントローラの電気的構成を示すブロック図である。
CPU1201、可動インクタンク制御部1202、インク供給弁制御部1203、記録ヘッド制御部1204、ホストデバイス1205、ROM1206に関しては実施形態4と同様であり、図13に示すフローに対応するプログラムを記憶している。RAM1207に格納されるデータは、ホストデバイスを経由して入力された必要水頭差1221だけでなく、記録データ1222も含まれる。
【0061】
図13は、記録時の処理を示すフローチャートである。
記録を開始するにあたり、ホストデバイスから受け取った必要水頭差および記録データをRAMに記憶し(ステップ1301)、必要水頭差からインクタンクの位置を決定し、可動インクタンク制御部はインクタンクを所定位置に移動させる(ステップ1302)。なお、必要水頭差に応じたインクタンクの位置が現状のインクタンク位置と同じであれば、移動の必要はない。また、必要水頭差は、単位時間当たりのインク消費量が多い記録データの場合は通常よりも高めに設定されるというように、記録データに応じて変更されてホストデバイスから送られてくるものであってもよいし、CPU自身がホストデバイスから送られた記録データを分析して、インク消費量が多いと判断した場合は、送られた必要水頭差よりも高い値を設定し、それに応じた位置にインクタンクを移動させてもよい。
【0062】
次に記録データがRAMに格納されているか否かを判断し(ステップ1303)、格納されている場合は、その記録データに基づいて記録動作を開始する(ステップ1304)。そして、記録データから記録に必要なインク量を算出し、そのインク量だけインクタンクに供給するべく、インク供給弁を開く(ステップ1305)。そして、所定量を供給し終えると、インク供給弁を閉じる(ステップ1305)。またインク供給弁の開閉は実際に記録動作が開始されてから行う。
【0063】
このように、インク供給を使用するインク量だけ、記録動作中に行うことにより、常にインクタンク内の液位を一定に保つことが可能となり、インクタンクに液位センサなどを設けなくても、常に一定の水頭差を維持することができる。さらに、通常の水頭差がこのように固定化されているので、記録データの多少に応じて、適宜インクタンクの位置を移動させることで、常に記録に適した水頭差を保持することができ、途切れることなく記録ヘッドへインク供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態1のインク供給システムの構成を示す模式図である。
【図2】図1のコントローラの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態1におけるインク供給と記録動作の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施形態1におけるインク供給処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施形態2におけるインク供給と記録動作の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施形態3におけるインク供給システムの構成を示す模式図である。
【図7】図6のコントローラの電気的構成を示すブロック図である。
【図8】実施形態3におけるインク供給と記録動作の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施形態4におけるインク供給システムの構成を示す模式図である。
【図10】図9のコントローラの電気的構成を示すブロック図である。
【図11】実施形態4におけるインク供給と記録動作の流れを示すフローチャートである。
【図12】実施形態5におけるコントローラの電気的構成を示すブロック図である。
【図13】実施形態5におけるインク供給と記録動作の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
101 コントローラ
102 記録ヘッド
103 インクタンク
104 インク供給弁
105 水位(インク液位)センサ(高位)
106 水位(インク液位)センサ(標準)
201 CPU
202 高位水位センサ
203 標準水位センサ
204 インク供給弁制御部
205 記録ヘッド制御部
206 ホストデバイス
207 ROM
208 RAM
221 記録モード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置において、
記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、
前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じて前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差を決定する水頭差決定手段と、
前記水頭差決定手段が決定する水頭差を満たすように、前記インクタンク内の液位と前記記録ヘッドとの相対的な位置を調節するインクタンク調節手段と、
を具え、
前記水頭差決定手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が多いほど、前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差が大きくなるように決定することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インクタンク調節手段は、インクタンクを鉛直方向上下に移動させることで前記所定の水頭差を実現することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクタンクは一片が可動壁となって内容積を自由に変更でき、前記インクタンク調節手段は、前記インクタンクの可動壁を移動させることで、前記所定の水頭差を実現することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インクタンクにインクを供給する副インクタンクと、前記副インクタンクから前記インクタンクへのインクの流れを遮断するインク供給弁とをさらに具え、
前記インクタンク調節手段は、前記インクタンクの液位に応じて前記インク供給弁を開け、前記副インクタンクより所定量のインクを前記インクタンクへ供給することで、前記所定の水頭差を実現することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置において、
前記インクタンクの第1液位及び該第1液位よりも高位の第2液位を検知するセンサと、
前記インクタンクへインクを供給する副インクタンクと、
該副インクタンクから前記インクタンクへのインクの流れを遮断するインク供給弁と、
記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、
前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じてインクタンク内の液位が所定値に到達するまでインク供給弁を開けるインク供給弁開閉手段と、
を具え、
前記インク供給弁開閉手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が所定量以上の場合は、前記第2液位にインクが到達するまで、インク供給弁を開けることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置に対して前記インクタンクにインクを供給するインク供給システムにおいて、
記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、
前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じて前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差を決定する水頭差決定手段と、
前記水頭差決定手段が決定する水頭差を満たすように、前記インクタンクへインクを供給するインク供給手段とを具え、
前記水頭差決定手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が多いほど、前記インクタンクと前記記録ヘッドとの水頭差が大きくなるように決定することを特徴とするインク供給システム。
【請求項7】
インクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドへインクを供給するインクタンクとを具えるインクジェット記録装置に対して、インクを供給するインク供給システムにおいて、
前記インクタンクの第1液位及び該第1液位よりも高位の第2液位を検知するセンサと、
記録対象の記録データに応じて単位時間あたりのインク消費量を算出するインク消費量算出手段と、
前記インク消費量算出手段によって算出された値に応じたセンサ液位にインクタンク内のインク液位が到達するまでインクを供給するインク供給手段とを具え、
前記インク供給手段は、前記単位時間あたりのインク消費量が所定量以上の場合は、前記第2液位にインクが到達するまで、インクを供給することを特徴とするインク供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−1100(P2006−1100A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178811(P2004−178811)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】