説明

インクジェット記録装置および記録ヘッドの駆動方法

【課題】記録ヘッドがインクの吐出を速やか開始できるように、記録ヘッドの温度を適確に制御することができるインクジェット記録装置および記録ヘッドの駆動方法を提供すること。
【解決手段】センサ1,2の検出温度が基準温度未満のときに、それらのセンサ1,2に対応するサブヒータによって記録ヘッドを昇温させ、センサ1,2の検出温度が基準温度以上のときに、それらのセンサ1,2に対応するサブヒータによる記録ヘッドの昇温を止める。センサ1,2の検出温度の全てが少なくとも一度は基準温度以上となったときに、記録ヘッドからのインクの吐出を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置、および記録ヘッドの駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像信号に応じてノズルからインクを吐出することによって、記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方式には、ノズルからインクを吐出するための吐出エネルギー発生素子として、電気熱変換素子(ヒータ)やピエゾ素子などを用いる方式がある。電気熱変換素子を用いたサーマルインクジェット方式の場合には、その電気熱変換素子に電気パルスを印可したときの発熱によりインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用して、ノズルの先端の吐出口からインクを吐出させる。このようなサーマルインクジェット方式においては、環境温度、あるいは記録動作に伴う記録ヘッドの温度変化により、インクの粘性、および電気熱変換素子上にて発泡するインクの泡の大きさが変化する場合がある。このような場合には、インクの吐出量(体積)、ひいては画像の記録濃度が変化するおそれがある。
【0003】
このような画像の記録濃度の変化を防止するための方法としては、予め、記録ヘッドを昇温させてから記録を開始して、記録ヘッドの温度変化を抑える昇温制御方法がある。複数の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置において、このような昇温制御方法を適用する場合には、それらの記録ヘッドを基準温度まで昇温させることになる。しかし、それぞれの記録ヘッドの昇温特性や昇温前の温度が異なると、それぞれの記録ヘッドが基準温度への到達するタイミングが一致しないおそれがある。仮に、基準温度に先に到達した記録ヘッドが昇温を停止して、他の記録ヘッドの昇温を待った場合には、その待ちの間に、基準温度に先に到達した記録ヘッドの温度が基準温度以下まで低下するおそれがある。この場合には、基準温度以下となった記録ヘッドを再度昇温させなければならず、全ての記録ヘッドを迅速に基準温度以上として記録を開始することが難しくなる。
【0004】
特許文献1には、第1の基準温度と、第1の基準温度よりも高い第2の基準温度と、を設定して、第2の基準温度を目標に記録ヘッドを昇温させ、全ての記録ヘッドが第1の基準温度を越えたときに記録を開始するインクジェット記録装置が記載されている。第1の基準温度は、インクが正常に吐出される温度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第3900849号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、例えば、環境温度が非常に低いなど、想定よりも記録ヘッドの温度が冷めやすいイレギュラーな状況下においては、全ての記録ヘッドを迅速に第1の基準温度以上として、速やかに記録を開始することが難しい。このような状況下においては、第2の基準温度にまで先に昇温された記録ヘッドは、全ての記録ヘッドが第1の温度を越えるまでの間に、第1の基準温度よりも下がってしまうことがあるからである。また、このようなイレギュラーな状況を想定して、第2の基準温度を高く設定した場合には、インクが適正に発泡されず、インクが正常に吐出できなくなるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、記録ヘッドがインクの吐出を速やか開始できるように、記録ヘッドの温度を適確に制御することができるインクジェット記録装置および記録ヘッドの駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録装置は、記録ヘッドからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッドを昇温させる複数の昇温手段と、前記複数の昇温手段のそれぞれに対応し、当該対応する昇温手段によって昇温される前記記録ヘッドの温度を検出する複数の検出手段と、前記記録ヘッドがインクの吐出を開始する前に、前記複数の検出手段の検出温度に基づいて前記複数の昇温手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記検出手段の検出温度が所定の基準温度未満のときに当該検出手段に対応する前記昇温手段によって前記記録ヘッドを昇温させ、前記検出手段の検出温度が前記基準温度以上のときに当該検出手段に対応する前記昇温手段による前記記録ヘッドの昇温を止め、前記複数の検出手段の検出温度の全てが少なくとも一度は前記基準温度以上となったときに前記記録ヘッドからのインクの吐出を許容することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検出手段の検出温度が基準温度よりも低いときに、その検出手段に対応する昇温手段によって記録ヘッドを昇温させ、検出手段の検出温度が基準温度以上のときに、その検出手段に対応する昇温手段による記録ヘッドの昇温を止める。さらに、複数の検出手段の検出温度の全てが少なくとも一度は基準温度以上となったときに、記録ヘッドからのインクの吐出を許容することにより、記録ヘッドがインクの吐出を速やか開始できるように、記録ヘッドの温度を適確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるインクジェット記録装置の要部の斜視図である。
【図2】(a)は図1における記録ヘッドの斜視図、(b)は、(a)の記録ヘッドをZ方向から視た平面図、(c)は、(b)の記録ヘッドにおける吐出口周辺の拡大図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置における制御系のブロック構成図である。
【図4】図1のインクジェット記録装置における昇温制御を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態における温度センサの検出温度の変化の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における記録ヘッドの図2(c)と同様の拡大図である。
【図7】本発明の第2の実施形態における温度センサの検出温度の変化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
まず、本実施形態を適用可能なインクジェット記録装置および記録ヘッドの構成例を図1から図3に基づいて説明する。
【0012】
図1は、インクジェット記録装置の要部の斜視図であり、本例の記録ヘッド100,101は、インクタンクと一体のインクジェットカートリッジを構成する。しかし、これらの記録ヘッドは、本例のようなインクタンク一体型の構成に限定されず、インクタンクと別体に構成されるものであってもよい。記録ヘッド100と一体のインクタンクには、ブラック、淡シアン、淡マゼンタの3色のカラーインクが分けて収容されており、記録ヘッド101と一体のインクタンクには、シアン、マゼンタ、イエローの3色のカラーインクが分けて収容されている。記録ヘッド100および101は、それらと一体のインクタンクに収納するインクの色が異なるだけであり、記録ヘッド構成は全く同じである。記録ヘッド100および101は、インク吐出口が複数列形成されたヘッドチップ102を有する。紙送りローラ103は、補助ローラ104と共に、記録媒体Pを抑えながら図中の矢印方向に回転することにより、記録媒体Pを+Y方向(副走査方向)に搬送する。給紙ローラ105は、記録媒体Pの給紙を行うと共に、ローラ103および104と同様に、記録媒体Pを抑える役割も果たす。キャリッジ106には、記録ヘッド100および101が着脱可能に搭載され、それらの記録ヘッドと共に移動する。キャリッジ106は、記録を行っていないとき、あるいは記録ヘッドの回復処理などを行うときには、図中の点線で示した位置のホームポジションhに移動して待機する。プラテン107は、記録位置において記録媒体Pを安定的に支える役割を果たす。キャリッジベルト108は、不図示のモータによって移動させることにより、キャリッジ106を±X方向(主走査方向)に移動させる。
【0013】
記録ヘッド100および101は同じ構造であるため、以下においては、記録ヘッド100を代表して説明する。図2(a)は記録ヘッド100の斜視図、図2(b)は、記録ヘッド100をZ方向から見た平面図、図2(c)は、図2(b)におけるインク吐出口周りの拡大図である。
【0014】
図2(a)において、コンタクトパッド201は、記録装置本体からの記録信号および記録ヘッドの駆動に必要な駆動電圧を受けて、ヘッドチップ102に送る。図2(b)において、ヘッドチップ102に存在するダイオードセンサ(以下、センサともいう)202は、記録ヘッド100の温度を検出する。本例の場合は、記録ヘッドの温度検出手段(温度センサ)としてダイオードセンサを用いるが、その他、金属薄膜センサ等であってもよい。ヘッドチップ102には、ブラックインク吐出用の吐出口が配列された吐出口列203と、淡シアンインク吐出用の吐出口が配列された吐出口列204と、淡マゼンタインク吐出用の吐出口が配列された吐出口列205と、が形成されている。記録ヘッド101は、吐出するインクが異なる以外は、記録ヘッド100と同じ構造である。
【0015】
インク加熱用のサブヒータ206は、吐出口列203、204および205を大きく囲むように形成されている。サブヒータ206は、抵抗値が100Ωであり、20Vの駆動電圧が印加されることにより発熱してインクを加熱する。このサブヒータ206に駆動電圧を印加するか否かの切り換え制御によって、インクの温度を調整する。
【0016】
図2(c)は、ブラックインク吐出用の吐出口列204を代表として説明するための拡大図である。ブラックインクが供給されるインク液室207の両側には、5plのインクを吐出する吐出口208と、2plのインクを吐出する吐出口210と、が形成されている。吐出口208の直下(+Z方向側)には抵抗値500Ωのヒータ(電気熱変換素子)209が配置され、吐出口210の直下(+Z方向側)には抵抗値700Ωのヒータ(電気熱変換素子)211が配置されている。ヒータ209および211は、いずれも20Vの駆動電圧が印加されることにより発熱してインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用して、対応する吐出口208および210からインクを吐出する。
【0017】
本例の場合、吐出口208および211のそれぞれは、形成数が600であり、吐出口の間隔は、記録画素密度が600dpiとなるように1/600インチである。また、インク滴を安定して吐出するためのヒータ209および211の吐出周波数は、24kHzとなっている。記録ヘッド100および101を搭載したキャリッジ106の主走査方向の移動速度は、インク滴を主走査方向において1200dpiの間隔で記録媒体Pに着弾させる場合、20インチ/秒(=24000(ドット/秒)÷1200(ドット/インチ))となる。本例の場合、記録ヘッド100および101から吐出されるブラック、淡シアン、淡マゼンタ、シアン、マゼンタ、イエローのインクは、温度に対する吐出量/吐出速度等の吐出特性は全て同じである。5plおよび2plのインク滴は、いずれも吐出速度15m/sのときが記録に最適な条件となり、それを満足させるときのインクの温度は50℃である。インクの吐出量および吐出速度が記録に最適な値よりも低くなって記録には不向きになるものの、インクを確実に吐出できるときのインクの温度は、30℃である。インクの温度が30℃よりも低いときは、インクの吐出速度が遅くなって記録媒体に着弾せずに、記録品位の悪化を招くおそれがある。インクの温度が約25℃の室温程度の低い温度のときには、インクが高粘度であるために吐出できなくなるおそれもある。一方、インクの温度が80℃以上の高温のときには、インクの吐出量が多くなり過ぎてインクの供給が間に合わなくなり、結果的に、インクの吐出不良を引き起こすおそれがある。
【0018】
図3は、本例のインクジェット記録装置における制御系のブロック構成図である。
【0019】
インクジェット記録装置の制御系は、メインバスライン305に対して夫々アクセスするソフト系処理手段とハード系処理手段とに大別される。ソフト系処理手段として、画像入力部303、それに対応する画像信号処理部304、および中央制御部としてのCPU300が含まれる。ハード系処理手段としては、操作部308、回復系制御回路309、ヘッド温度制御回路314、ヘッド駆動制御回路316、キャリッジ駆動制御回路306、および紙送り制御回路307が含まれる。キャリッジ駆動制御回路306は、キャリッジ106を主走査方向に沿って移動させるための制御回路であり、紙送り制御回路307は、記録媒体Pを副走査方向に搬送するための制御回路である。
【0020】
CPU300は、通常、ROM301およびRAM302と組み合わされており、入力情報に対して与えた適正な記録条件下において、記録ヘッド100,101のヒータ209,ヒータ211を駆動して記録を行う。RAM302内には、予め、記録ヘッドの回復処理を実行するプログラムが格納されており、そのプログラムにしたがって、予備吐出の条件等の回復処理条件が回復系制御回路309および記録ヘッド100,101等に与えられる。回復系モータ310は、記録ヘッド、記録ヘッドにおける吐出口の形成面をワイピングしてクリーニングするブレード311、記録ヘッドをキャッピングするキャップ312、およびキャップ内に導入する負圧を発生する吸引ポンプ313を駆動する。
【0021】
ヘッド温度制御回路314は、記録装置の周囲温度を検出するサーミスタ315、および記録ヘッド温度を検出するセンサ202の出力値に基づいて、記録ヘッド100および101のサブヒータ206の駆動条件を決定する。その駆動条件にしたがって、ヘッド駆動制御回路316がサブヒータ206を駆動して、記録ヘッド100および101を昇温制御する。ヘッド駆動制御回路316は、サブヒータ206だけでなく、記録ヘッド100および101のインク吐出用のヒータ209、211も駆動して、画像を記録するためのインクの吐出、および予備吐出(画像の記録に寄与しないインクの吐出)を制御する。
【0022】
図4は、本実施形態における記録ヘッドの昇温制御を説明するためのフローチャートである。本例の昇温制御は、記録ヘッドから画像の記録に寄与しないインクを適確に吐出(予備吐出)するために、記録ヘッドの温度を所定の温度範囲に昇温させるための制御である。
【0023】
予備吐出の実行命令が入ると、まず、ステップS1において、記録ヘッド100および101のそれぞれにおけるセンサ202の検出温度を取得する(ステップS1)。次のステップS2では、記録ヘッド100および101のそれぞれのセンサ202の検出温度が昇温の目標温度である所定の基準温度以上であるか否かを判定する。センサ202の検出温度が基準温度以上の場合には、それが備わる記録ヘッドが一度でも基準温度以上となったか否かが判別できるように、基準温度到達フラグをセットする(ステップS3)。このフラグはセンサ202毎に対してセットされ、フラグがセットされたセンサ202に応じて、記録ヘッド100または101のいずれかが一度でも基準温度以上となったか否かが分かる。センサ202の検出温度が基準温度未満の場合には、ステップS4に進む。
【0024】
ステップS4では、全てのセンサ202に対して、基準温度到達フラグがセットされたか否かを判定する。全てのセンサ202に対して基準温度到達フラグがセットされていない場合には、ステップS5において、センサ202毎に、検出温度が基準温度以上か否かを判定する。そして、センサ202の検出温度が基準温度以上でないときは、そのセンサ202が備わる記録ヘッドを昇温させてから(ステップS6)、先のステップS1に戻る。記録ヘッドを昇温させる方法は、加熱用のサブヒータ206の発熱、またはインクを吐出させない程度にヒータ209,210に短パルスを印加して発熱させる等、記録ヘッドを昇温させることができればいずれの方法であってもよい。センサ202の検出温度が基準温度以上のときは、そのセンサ202が備わる記録ヘッドを待機状態にしてから(ステップS7)、先のステップS1に戻る。その待機中の記録ヘッドに対しては、温度調整のための制御は何もしない。
【0025】
全てのセンサ202に対して基準温度到達フラグがセットされた場合には、ステップS8において、全てのセンサ202に対しての基準温度到達フラグを解除してから、予備吐出を開始する。したがって、一度は基準温度に到達したもののステップS7の待機の間に、温度が低下した記録ヘッドに対しても速やかに予備吐出が開始される。
【0026】
図5は、本実施形態におけるセンサ202の検出温度の変化の説明図である。説明の便宜上、記録ヘッド100に備わるセンサ202をセンサ1とし、記録ヘッド101に備わるセンサ202をセンサ2とする。図5において、横軸は時間、縦軸はセンサ1,2の検出温度を示しており、t1からt7は、図4のステップS5における検出温度の判定のタイミングである。
【0027】
時点t1において、センサ1,2の検出温度はいずれも基準温度以上ではない。そのため、それらのセンサ1,2に対しては基準温度到達フラグがセットされず(ステップS2,S4)、それらの記録ヘッド100,101はいずれも昇温される(ステップS5,S6)。同様に、時点t2,t3においても、記録ヘッド100,101はいずれも昇温される。
【0028】
時点t4では、センサ1の検出温度のみが基準温度以上となるため、そのセンサ1に対してのみ基準温度到達フラグがセットされ(ステップS2,S3)、記録ヘッド100は待機状態となる(ステップS7)。センサ2の検出温度は基準温度以上ではないため、そのセンサ2に対しては基準温度到達フラグがセットされず(ステップS2,S4)、記録ヘッド101は昇温状態が続く(ステップS5,S6)。
【0029】
時点t5では、記録ヘッド100の温度が下がって、センサ1,2の検出温度がいずれも基準温度以上ではなくなるため、記録ヘッド100,101は共に昇温される(ステップS6)。しかし、センサ1に対しては、時点t4において既に基準温度到達フラグがセットされている。
【0030】
時点t6では、時点t4と同様に、センサ1の検出温度のみが基準温度以上となるため、センサ1に対して既にセットされている基準温度到達フラグが再度セットされて、記録ヘッド101が待機状態となる(ステップS7)。記録ヘッド101は昇温状態が続く(ステップS6)。
【0031】
時点t7では、センサ1の検出温度が下がり、センサ2の検出温度のみが基準温度以上となるため、そのセンサ2に対して基準温度到達フラグがセットされる(ステップS2,S3)。センサ1に対しては、既に基準温度到達フラグがセットされているため、センサ1,2のいずれに対しても基準温度到達フラグがセットされたことになる。したがって、センサ1,2に対してセットされた基準温度到達フラグを解除してから(ステップS8)、記録ヘッド100,101からのインクの吐出を許容して、記録ヘッド100,101に対して予備吐出を速やかに開始することができる。
【0032】
このように、複数の記録ヘッドのそれぞれに備わる温度センサ(センサ202)毎に対して、一度でも検出温度が基準温度以上となったときには、基準温度到達フラグをセットする。そして、全ての温度センサに対して基準温度到達フラグがセットされたときに、それらの温度センサが備わる複数の記録ヘッドに対して、予備吐出を実行する。したがって、一度は基準温度以上となったものの、全ての温度センサに対して基準温度到達フラグがセットされたときには、基準温度未満に低下した記録ヘッドに対しても迅速に予備吐出を開始することができる。また、基準温度未満の記録ヘッドに対しては、一度でも基準温度以上となった否かに拘わらず昇温制御をすることにより、基準温度にできるだけ近い温度に維持するように適正に制御することができる。
【0033】
本例においては、記録ヘッドの吐出状態を良好に位置するための予備吐出の前に、記録ヘッドを昇温させる昇温制御について説明した。その予備吐出は、記録動作の開始に先立って行なうことにより、高品位の画像を記録することができる。また、昇温制御の目的は、記録動作の前にインクを予備吐出するために記録ヘッドを昇温させる目的のみに限定されない。例えば、画像を記録するためにインクを吐出する前など、種々の目的のためのインクを吐出するときに、本例の昇温制御を実施することができる。本例の昇温制御を画像の記録動作前に実施することにより、記録ヘッドを適確に昇温させて、速やかに記録動作を開始することができる。
【0034】
(第2の実施形態)
本実施形態においては、1つの記録ヘッドに温度センサを3つ備えて、記録ヘッドの回復処理を目的とする予備吐出を行う前に、記録ヘッドを昇温制御する。上述した実施形態と同様の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0035】
図6は、本実施形態における記録ヘッドを−Z方向から見たときの平面図である。本例の記録ヘッドには、記録ヘッドの上部の温度を検知するダイオードセンサ61、記録ヘッドの中央部の温度を検知するダイオードセンサ62、および記録ヘッドの下部の温度を検知するダイオードセンサ63が備えられている。昇温制御の際には、吐出口列603は、記録ヘッドの上部、中央部、および下部に対応するA群、B群、およびC群に分け、それらの群に位置するヒータに対して、インクを吐出をしない程度の短パルスを印加して発熱させる。すなわち、センサ61の検出温度に応じてA群に位置するヒータを発熱させることにより、記録ヘッドの上部を昇温させる。同様に、センサ62の検出温度に応じてB群に位置するヒータを発熱させることにより、記録ヘッドの中央部を昇温させ、また、センサ63の検出温度に応じてC群に位置するヒータを発熱させることにより、記録ヘッドの下部を昇温させる。A群、B群、およびC群は均等に分ける必要はなく、A群、B群、およびC群が位置する記録ヘッドの上部、中央部、および下部は、放熱特性などの違によって昇温特性が異なるため、その昇温特性に応じた割合で分けてもよい。
【0036】
図7は、本実施形態におけるセンサ61,62,63の検出温度の変化の説明図である。t11からt17は、前述した図4のステップS5における検出温度の判定のタイミングである。
【0037】
時点t11では、全てのセンサ61,62,63の検出温度が基準温度以上ではないため、それらのセンサに対しては基準温度到達フラグがセットされず(ステップS2,S4)、記録ヘッドにおけるA群からC群の部分は全て昇温される(ステップS5,S6)。同様に、時点t12,t13においても、A群、B群、およびC群の部分はいずれも昇温される。
【0038】
時点t14では、センサ61の検出温度のみが基準温度以上となるため、そのセンサ61に対してのみ基準温度到達フラグがセットされ(ステップS2,S3)、記録ヘッドのA群の部分は待機状態となる(ステップS7)。センサ62,63の検出温度は基準温度以上ではないため、それらのセンサ62,63に対しては基準温度到達フラグがセットされず(ステップS2,S4)、記録ヘッドのB群およびC群の部分は昇温状態が続く(ステップS5,S6)。
【0039】
時点t15では、記録ヘッドのA群の部分の温度が下がって、センサ61,62,63の検出温度がいずれも基準温度以上ではなくなるため、記録ヘッドのA群、B群、およびC群の部分は共に昇温される(ステップS6)。しかし、センサ61に対しては、時点t14において既に基準温度到達フラグがセットされている。
【0040】
時点t16では、センサ61,62の検出温度が基準温度以上となるため、センサ61に対しては既にセットされている基準温度到達フラグが再度セットされ、センサ62に対しては基準温度到達フラグが初めてセットされる。したがって、記録ヘッドのA群およびB群は待機状態となり(ステップS7)、記録ヘッドのC群の部分は昇温状態が続く(ステップS6)。
【0041】
時点t17では、センサ61,62の検出温度が下がり、センサ63の検出温度のみが基準温度以上となるため、そのセンサ63に対して基準温度到達フラグがセットされる(ステップS2,S3)。センサ61,62に対しては、既に基準温度到達フラグがセットされているため、センサ61,62,63のいずれに対しても基準温度到達フラグがセットされたことになる。したがって、センサ61,62,63に対してセットされた基準温度到達フラグを解除してから(ステップS8)、記録ヘッドのA群、B群、およびC群からのインクの予備吐出を開始することができる。
【0042】
このように、1つの記録ヘッドに複数の温度センサ(センサ61,62,63)を備えた場合においても、記録ヘッドの温度を適確に制御して、予備吐出や記録動作を迅速に開始することができる。記録ヘッドを昇温させる手段(昇温手段)としては、本例のようにヒータに短パルスを印加して発熱させる方法のみに限定されず、温度センサンの周りに備えたヒータによって加熱する等、種々の方式を用いることができる。
【0043】
(他の実施形態)
記録ヘッドにおける吐出エネルギー発生素子としては、前述したような電気熱変換素子(ヒータ)の他、ピエゾ素子などの種々の素子を用いることができる。また、画像の記録方式は、記録ヘッドの主走査方向の移動と、その主走査方向と交差する副走査方向における記録媒体の搬送と、を伴って画像を記録する上述したシリアルスキャン方式のみに特定されない。例えば、記録媒体の記録領域の全幅に渡って延在する長尺な記録ヘッドを用いて、記録媒体を連続的に搬送しつつ画像を記録するフルライン方式などであってもよい。
【0044】
複数の温度センサと複数の昇温手段は、1対1の関係のみに特定されず、複数対1の関係であってもよい。要は、それらが互いに対応付けられていればよい。また記録ヘッドを複数用いる場合には、それら記録ヘッド毎に、温度センサと昇温手段のそれぞれを複数備えてもよい。
【符号の説明】
【0045】
100,101 記録ヘッド
202 ダイオードセンサ
203,204,205 吐出口列
206 サブヒータ
209,210 電気熱変換素子(ヒータ)
208,211 吐出口
P 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドを昇温させる複数の昇温手段と、
前記複数の昇温手段のそれぞれに対応し、当該対応する昇温手段によって昇温される前記記録ヘッドの温度を検出する複数の検出手段と、
前記記録ヘッドがインクの吐出を開始する前に、前記複数の検出手段の検出温度に基づいて前記複数の昇温手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記検出手段の検出温度が所定の基準温度未満のときに当該検出手段に対応する前記昇温手段によって前記記録ヘッドを昇温させ、前記検出手段の検出温度が前記基準温度以上のときに当該検出手段に対応する前記昇温手段による前記記録ヘッドの昇温を止め、前記複数の検出手段の検出温度の全てが少なくとも一度は前記基準温度以上となったときに前記記録ヘッドからのインクの吐出を許容することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インクジェット記録装置は、画像を記録するために前記記録ヘッドを複数用い、
前記昇温手段と前記検出手段は、前記複数の記録ヘッドのそれぞれに対して少なくとも1つずつ備えられる
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記昇温手段と前記検出手段は、1つの記録ヘッドに対して複数備えられることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記記録ヘッドから画像の記録に寄与しないインクを吐出する予備吐出の前に、前記複数の検出手段の検出温度に基づいて前記複数の昇温手段を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記記録ヘッドから画像を記録するためのインクを吐出する前に、前記複数の検出手段の検出温度に基づいて前記複数の昇温手段を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録ヘッドは、インクを吐出するための吐出エネルギー発生素子として電気熱変換素子を用い、
前記昇温手段は、インクを吐出させない程度の駆動電圧を前記電気熱変換素子に印加して発熱させる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
記録媒体に画像を記録するために記録ヘッドからインクを吐出させる記録ヘッドの駆動方法であって、
複数の昇温手段によって前記記録ヘッドを昇温させる昇温工程と、
前記複数の昇温手段のそれぞれに対応する複数の検出手段によって、当該検出手段に対応する昇温手段によって昇温される前記記録ヘッドの温度を検出する検出工程と、
前記記録ヘッドがインクの吐出を開始する前に、前記複数の検出手段の検出温度に基づいて前記複数の昇温手段を制御する制御工程と、
を含み、
前記制御工程、前記検出手段の検出温度が所定の基準温度未満のときに当該検出手段に対応する前記昇温手段によって前記記録ヘッドを昇温させ、前記検出手段の検出温度が前記基準温度以上のときに当該検出手段に対応する前記昇温手段による前記記録ヘッドの昇温を止め、前記複数の検出手段の検出温度の全てが少なくとも一度は前記基準温度以上となったときに前記記録ヘッドからのインクの吐出を許容することを特徴とする記録ヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111923(P2013−111923A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262072(P2011−262072)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】