説明

インクジェット記録装置および記録制御方法

【課題】インクジェット記録装置において、必要以上に記録時間が長くなることなく、電源容量をより効率的に用いかつ色むらを低減することを可能とする。
【解決手段】閾値1判定フラグが“0”の場合は、ステップS504で、閾値2判定フラグと、閾値3判定フラグが共に“0”、または、閾値2判定フラグが“1”かつ閾値3判定フラグが“0”かつ前走査領域記録制御フラグが“0”か否かを判定する(S504)。この条件を満たす(Yes)場合、ステップS505で、HPからBPに向かう方向の走査で1パス記録を行う(S505)。ここで、前走査領域記録制御フラグが“0”の場合、前走査領域の記録を複数回の走査で行ったことを示している。このため、電源の発熱にかかる閾値2判定フラグが“1”の場合、すなわち、分割記録が要請される場合でも、電源の発熱は前の走査でそれほど生じていないとして、1パス記録を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置および記録制御方法に関し、詳しくは、装置の電源容量を効率的に利用するとともに、記録ヘッドの往復記録に起因した色むらを抑制するための記録制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、記録するデータの内容ないしは記録媒体に記録するドット密度に応じて、例えば、1回の走査で記録できる領域を複数回の走査による記録に分割することにより、記録ヘッドを駆動するための電源容量の少量化を図る技術が知られている。特許文献1には、所定のドットデューティー(記録されるドットの密度;以下、記録デューティーまたは単にデューティーともいう)を上回るドットデューティー検出領域が存在したとき、その一記録行を複数回に分割して記録することが記載されている。そして、この記録の分割としては、例えば、記録ヘッドにおける偶数番目の記録素子と奇数番目の記録素子に分けた2回で記録する方法がある。また、記録ヘッドにおける全記録素子のうち上半分のブロックと、下半分のブロックに分け、上半分のみで記録する第1記録走査、下半分の記録素子のみで記録する第2記録走査に分割する方法がある。
【0003】
一方、記録ヘッドにおける各色の記録素子列の走査方向における配列順と、その記録ヘッドを往復記録に用いることに起因した濃度むらないし色むらを低減するため、色むらが顕著になる所定の記録デューティー以上のときは、片方向記録を行うことが知られている。特許文献2には、記録を行う走査における画像データのデューティーに応じて走査方向を決定するとともに、デューティーが所定以上のときは一方向の走査で記録を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−47290号公報
【特許文献2】特開2001−180017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、記録デューティーに応じて、ある記録領域を複数回の走査で記録することと、往復記録から片方向記録に切り替えることの両方を行う構成を考える場合、上記の2つの方法を単純に組み合わせるだけでは、記録時間が長くなるという問題を生じることがある。
【0006】
例えば、記録デューティーが、往復記録から片方向記録に切り替え、かつ複数回の走査で記録することを要求するデューティーである場合、複数回の走査それぞれを同じ方向(片方向)で記録することが必要となる。このため、記録のための複数回の走査の間に、記録に関与しないいわゆるカラ走査が行なわれ、それだけある領域を記録するのに要する走査回数が多くなることになる。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、必要以上に記録時間が長くなることなく、電源容量をより効率的に用いかつ色むらを低減することが可能なインクジェット記録装置および記録制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明では、インクを吐出するための吐出口を備えた記録ヘッドを走査させ、該記録ヘッドの吐出口からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、記録データに基づいて、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数を検出する検出手段と、前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの一方の方向の走査で記録するか否かを判断するための閾値1とを比較し、当該一方の方向の走査で記録をさせるか否かを判断する第1判断手段と、前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値2とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第2判断手段と、前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域において同時に吐出する吐出数と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値であって前記閾値2とは異なる閾値3とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第3判断手段と、前記検出手段が吐出数を検出する、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域とは別の記録ヘッドの1回の走査で記録する領域であって既に記録が行われた領域が、記録ヘッドの1回の走査または複数回の走査でのいずれで記録されたかを判断する第4判断手段と、前記第1から第4判断手段それぞれの判断結果の組み合わせに応じて前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録するための走査の回数を定める手段であって、前記第4判断手段が、記録ヘッドの複数回の走査で記録されたと判断した場合、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を1回の走査で記録するように制御する制御手段と、を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成によれば、必要以上に記録時間が長くなることなく、電源容量をより効率的に用いかつ色むらを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図であり、(b)は、記録ヘッドを、図1(a)に示すZ方向から見た模式図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の記録制御で用いる3つの閾値のうち、閾値2および閾値3を説明する図である。
【図4】(a)〜(c)は、上記3つの閾値を用いて行われる、基本的なそれぞれの記録制御を説明する図である。
【図5】図4(a)〜(c)に示した基本的は記録制御を用いた、本発明の第1の実施形態の記録制御を示すフローチャートである。
【図6】(a)および(b)は、本発明の第1の実施形態の記録制御を行った場合と、行わなかった場合の記録パターンの違いを説明する図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る記録制御を示すフローチャートである。
【図8】(a)および(b)は、本発明の第2実施形態の記録制御を行った場合と、行わなかった場合の記録パターンの違いを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態では、インクジェット記録方式を用いた記録装置としてプリンタを例に挙げ説明する。
【0012】
(インクジェット記録装置の説明)
記録機構の説明
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。この図において、109はインクジェットカートリッジを示す。これらは、4色のカラーインク(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)それぞれに対応しており、それぞれのカートリッジは、インクを貯留したインクタンクと、このタンクから供給されるインクを吐出するための記録ヘッド108から構成されている。105Aは給紙ローラ、103Aは紙送りローラをそれぞれ示し、それぞれの補助ローラ105B、103Bとともに記録紙107を抑えながら図中の矢印方向に回転し、記録紙107の給紙または搬送を行う。
【0013】
キャリッジ106は、4つのインクジェットカートリッジ109を着脱自在に装着し、移動することができる。これにより、記録ヘッド108の走査が可能となる。このキャリッジ106は、記録装置が記録を行っていないとき、あるいは記録ヘッドの回復動作を行うときには図の破線で示したホームポジション位置に待機するように制御される。
【0014】
図1(b)は、記録ヘッド108を、図1(a)に示すZ方向から見た模式図である。110は、インクを吐出するための吐出口(ノズル)を示す。この複数の吐出口からなる吐出口列は、4色のカラーインクごとに設けられている。本実施形態では、記録ヘッドにおける吐出口110の数は、各インク色とも1280個である、この個数がこれに限られないことはもちろんである。
【0015】
制御構成の説明
図2は、図1に示したインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。同図において、記録ヘッド制御回路212は、記録ヘッド108を電気的に制御し、画像データに応じてインクを吐出させる。216は、図1に示したX方向に記録ヘッド106を走査させるための駆動源をなす主走査モータ、217は、記録媒体107を搬送するための駆動源をなす副走査モータ、218は、回復処理ユニットを動作させるための駆動源をなす回復動作モータをそれぞれ示す。機構制御回路221は、各種モータやアクチュエータ、およびセンサを制御管理する。CPU215は、後述する処理手順に従って以上の各部の動作を全体的に制御するし、ROM222その制御プログラムなどを格納している。RAM223は、CPU215が処理手順を実行する過程でパラメータを一時保存するためや、記録データを保存するためのエリアを有する、不揮発性メモリ224は、装置電源のオフ時にも吐出検出状態を保存するものであり、EEPROM等から構成される。操作・表示部225は、電源投入や、ホスト装置230とのオンライン/オフラインの設定等、ユーザが所要の操作を行うためのスイッチや、装置状態をユーザに提示するための表示器を備える。ホスト装置230は、インクジェット記録装置に対して画像データの供給源をなすものであり、記録に係る画像等のデータ作成、処理等を行うコンピュータとする他、画像取り込み用のリーダ部や、あるいはデジタルカメラ等の形態であってもよい。画像データ、その他のコマンド、ステータス信号等は、インターフェース(I/F)226を介して送受信される。
【0016】
ドットカウント部227は、RAM223に保存された画像データから一行記録時において記録ヘッド駆動して記録される吐出数をカウントする。記録制御部228は、後述されるように、ドットカウント部のカウント値を参照し記録制御を行う。
【0017】
(第1実施形態)
上記インクジェット記録装置の構成において、1パス記録の記録モードにおいて必要以上に記録速度を低下させることなく、電源容量をより効率的に用いかつ色むらを低減させる、本発明の第1実施形態に係る記録制御について以下に説明する。
【0018】
図3は、本発明の第1の実施形態の記録制御で用いる3つの閾値のうち、閾値2および閾値3を説明する図であり、記録ヘッドを駆動してインク吐出する際に流れる電流と時間との関係において閾値を示している。
【0019】
図3において、閾値2は、1つのノズルからの1回の吐出で消費する電流値に、記録ヘッドの1回の走査で各ノズルからインクを吐出する回数(以下、この回数を吐出数とも言う)の総和を掛けて得られる電流換算値に対して用いられる閾値である。この閾値によって、定常的に流れる電流値を規制することができる。閾値3は、上記と同じ1つのノズルからの1回の吐出で消費する電流値に、記録時に各ノズルから同時に吐出されるときの吐出数を掛けて得られる電流換算値に対して用いられる閾値である。この閾値によって、瞬間的に流れる電流を規制することができる。3つの閾値のうち、残りの閾値1は、1回の走査で吐出される各色インクの吐出数にインク色ごとの係数(重み付け)を掛けて得られる吐出数の総和に対して用いられる閾値である。この閾値によって、吐出数の総和が所定の吐出数を超えないようにして、色むらを規制することができる。
【0020】
図4(a)〜(c)は、上記3つの閾値を用いて行われる、基本的なそれぞれの記録制御を説明する図である。
【0021】
図4(a)は、1走査における各色インクの吐出数にインク色ごとの係数を掛けて得られるそれぞれの吐出数の総和が閾値1の吐出数を超えない場合と超える場合の例(第1判断)を示している。走査ごとに、その走査で用いる記録データに基づいてその走査の吐出数を求め、この吐出数の総和が閾値1を超えた場合は、記録する走査を一方向とする記録を行う。すなわち、ある走査において上記総和の吐出数が閾値1を超えない場合は、その走査を、そのとき記録ヘッドが走査開始前の位置である、ホームポジション側の位置(HP)、またはHPの走査領域に関して反対側のバックポジション側の位置(BP)から開始して記録を行う。そして、次の走査で、上記総和の吐出数が閾値1を超えない場合は、同様に、そのとき記録ヘッドがある位置、すなわち、前の走査とは逆の位置から走査を開始する。一方、吐出数の総和が閾値1を超えた場合は、上記往復方向のうちの一方向(本実施形態では、BPからHPに向かう方向)のみの走査で記録を行う。すなわち、そのとき記録ヘッドがある位置がBPにあるときは、その位置から走査を開始して記録を行い、また、記録ヘッドがHPにあるときは、図4(a)に示すように、BPへ移動する、いわゆるカラスキャンを行い、その後BPから走査を開始して記録を行う。以上のように、各色インクの吐出数の総和が閾値1を超えるときは、一方向のみの走査で記録を行うことにより、複数のインク色のインク滴が記録媒体107に着弾する順番を、常に同じ順番とすることができ、走査領域間の濃度ムラないし色ムラを抑制することができる。つまり、複数のインク色のインク滴が記録媒体に着弾する順、すなわち記録ヘッドから複数のインク色が吐出される順が異なる、双方向印字を行うと各色インクの吐出数の総和が閾値1を超えるようなデューティーが高い記録では、色ムラが発生しやすくなる。これに対し、各色インクの吐出数の総和が閾値1を超えるようなデューティーが高い記録では、上記のとおり、一方向のみの走査で記録を行うことにより、以上のような濃度ムラないし色ムラを防止することができる。
【0022】
図4(b)は、1つのノズルの1回の吐出で消費する電流値に、1回の走査における総吐出数を掛けて得られる電流換算値が、閾値2を超えない場合と超える場合の例(第2判断)を示している。吐出数の上記電流換算値が閾値2を超えた場合、分割記録を行う。本実施形態では、HPからBPに向かう方向の走査では、記録ヘッドの上半分のノズルを用いて記録し、逆のBPからHPに向かう方向の走査では、記録ヘッドの下半分のノズルを用いて記録する。このように、1つの走査領域を記録するための走査回数を増すことにより、消費される平均電流を下げることができ、結果として、用いる電源の容量を小さいものとすることが可能となり、あるいは電源の発熱を抑制することができる。
【0023】
図4(c)は、1つのノズルの1回の吐出で消費する電流値に、記録時に同時に吐出される吐出数を掛けて得られる電流換算値が、閾値3で規定する電流値を超えない場合と超える場合の例(第3判断)を示している。上記電流換算値が閾値3を超えた場合は、分割記録を行う。本実施形態では、上記と同様、HPからBPに向かう方向の走査では、記録ヘッドの上半分のノズルを用いて記録し、逆のBPからHPに向かう方向の走査では、記録ヘッドの下半分のノズルを用いて記録する。このように、1つの走査領域を記録するための走査回数を増すことにより、瞬間最大電流を抑えることができる。
【0024】
図5は、図4(a)〜(c)に示した基本的は記録制御を用いた、本実施形態の記録制御を示すフローチャートである。
【0025】
先ず、ステップS501で記録制御判定処理を開始する。そして、ステップS502で、記録開始方向フラグ(“0”はHPからBPに向かう方向、“1”はBPからHPに向かう方向の走査で記録を行うことを示す)が、“0”か否か判定する。すなわち、このステップS502では、走査前の記録ヘッドがHPまたはBPのいずれに位置しているかを判断する。
【0026】
記録開始方向フラグが“0”の場合、ステップS503で閾値1判定フラグ(“0”は上述した吐出数が閾値1より小さい、“1”は吐出数が閾値1より大きいことを示す)が、“0”か否か判定する。
【0027】
閾値1判定フラグが“0”の場合は、ステップS504で、閾値2判定フラグ(“0”は上述した電流換算値が閾値2より小さい、“1”は電流換算値が閾値2より大きいことを示す)と、閾値3判定フラグ(“0”は上述した電流換算値が閾値3より小さい、“1”は電流換算値が閾値3より大きいことを示す)が共に“0”、または、閾値2判定フラグが“1”かつ閾値3判定フラグが“0”かつ前走査領域記録制御フラグ(“0”は前走査領域の記録が1回の走査でない複数回の走査で記録を行った、1パス記録以外、“1”は前走査領域の記録が1パス記録であることを示す;第4判断)が“0”か、否か判定する。ステップS504の上述した条件を満たす(Yes)場合、ステップS505で、HPからBPに向かう方向の走査で1パス記録を行う。ここで、前走査領域記録制御フラグが“0”の場合、前走査領域の記録を複数回の走査で行ったことを示している。このため、電源の発熱にかかる閾値2判定フラグが“1”の場合、すなわち、分割記録が要請される場合でも、電源の発熱は前の走査でそれほど生じていないとして、1パス記録を行う。一方、ステップS504の上述した条件を満たさない場合、ステップS506で、HPからBPに向かう方向の走査とその逆方向のBPからHPに向かう方向の走査の2回の走査で分割記録を行う。
【0028】
ステップS503で、閾値1判定フラグが“1”の場合、ステップS507で、閾値2判定フラグが “1”かつ閾値3判定フラグが“0”かつ前走査領域記録制御フラグが“0”、または、閾値2判定フラグが“0”かつ閾値3判定フラグが“0”、であるか否かを判定する。この条件を満たす(Yes)場合、ステップS508で、HPからBPに向かう方向でカラ走査(カラスキャン)を行った後、BPからHPに向かう方向の走査を行い1パス記録を行う。ステップS507で、その条件を満たさない(No)場合、ステップS509で、HPからBPに向かう方向でカラ走査を行った後、BPからHPに向かう方向の走査で分割記録を行う。その後、HPからBPに向かう方向でカラ走査を行った後、BPからHPに向かう方向の走査で分割記録を行う。つまり、分割記録を一方向で行う。以上のステップS508およびS509は、閾値1判定フラグが“1”であるときに実行される処理であり、比較的高い記録デューティーである場合に分割記録を実行するものである。これにより、濃度ムラないし色ムラが生じることを防止することができる。
【0029】
ステップS502で記録開始方向フラグが“1”(No)の場合、ステップS510以降で、上記の記録開始方向フラグが“0”の場合と同様の処理を行う。
【0030】
すなわち、ステップS510で閾値1判定フラグが“0”か否か判定する。閾値1判定フラグが“0”の場合、ステップS511で、閾値2判定フラグと閾値3判定フラグが共に“0”、または、閾値2判定フラグが“1”かつ閾値3判定フラグが“0”、かつ前走査領域記録制御フラグが“0”か否かを判定する。ステップS511の判定条件を満たす(Yes)場合、ステップS512で、BPからHPへ向かう方向の走査で1パス記録を行う。ステップS511の判定条件を満たさない(No)の場合、ステップS513で、BPからHPに向かう方向の走査で分割記録を行った後、HPからBPに向かう方向の走査で分割記録を行う。
【0031】
ステップS510で、閾値1判定フラグが“1”の場合、ステップS514で、閾値2判定フラグと閾値3判定フラグが共に“0”、または、閾値2判定フラグが“1”かつ閾値3判定フラグが“0”かつ前走査領域記録制御フラグが“0”か否かを判定する。このステップS514の判定条件を満たす(Yes)場合、ステップS515で、BPからHPに向かう方向の走査で1パス記録を行う。ステップS514の判定条件を満たさない場合、ステップS516で、BPからHPに向かう方向の走査で分割記録を行った後、HPからBPに向かう方向の走査をカラスキャンとし、次に、BPからHPに向かう方向の走査で分割記録を行う。
【0032】
図6(a)および(b)は、本実施形態の記録制御を行った場合と、行わなかった場合の記録パターンの違いを説明する図である。図6(a)は本実施形態の記録制御を行わない従来の場合を示し、図6(b)は、本実施形態の記録制御を行った場合を示している。
【0033】
図6(a)に示す3パス目は、従来例の記録において、それぞれの吐出数が閾値1と閾値2を同時に超えた場合の制御を示している。同図に示すように、従来ではそれぞれの閾値による判断結果に基づく制御を相互に独立に行うため、色むらを抑えるための一方向の走査で記録を行う制御と、平均電流を下げるために分割記録の制御が重なったものとなる。これに対し、本実施形態によれば、図6(b)の3パス目に示すように、図5のステップS508に示す記録が行われ、これにより、上記従来例と比べて走査回数を2回減らすことができる。
【0034】
また、図6(a)に示す5パス目は、従来例の記録において、吐出数が閾値2を超えた場合の制御を示している。同図に示すように、従来では、平均電流を下げるために分割記録の制御がそのまま行われる。これに対し、本実施形態によれば、図6(b)の5パス目に示すように、図5のステップS505に示す記録が行われ、走査回数を1回減らすことができる。これは、ステップS504で前走査領域の記録が1パスで記録されたか否かを判断し、この前走査領域が1パス記録の場合は(図6(b)の4パス目)、電源の発熱が前回の走査で十分抑えられているとして、分割記録を行わずに1パス記録を行うからである。
【0035】
以上のように、本実施形態によれば、前走査領域の記録制御の状態と閾値1、閾値2、閾値3の判定を組み合わせ、記録制御を変えることにより最適な記録制御を行うことが可能となる。これにより、電源容量をより効率的に用いかつ色むらを低減させながら記録を完了させる時間を短くすることが可能となる。
【0036】
(第2実施形態)
上述した第1実施形態に係る記録制御と比較して、より簡易に1パス記録の記録モードにおいて必要以上に記録速度を低下させることなく、かつ電源容量をより効率的に用いかつ色むらを低減させる、本発明の第2実施形態に係る記録制御について、以下に説明する。
【0037】
図7は、本発明の第2実施形態に係る記録制御を示すフローチャートである。なお、図7に示すフローチャートは、図5に示したステップS502の記録開始方向フラグを用いた判断を省略したものとして示しているが、本実施形態でもこのフラグを用いた判断が行われることはもちろんである。以下の説明は、記録開始方向フラグを用いた判断がHPから記録を開始するものであるとした場合である。
【0038】
ステップS701で、記録制御判定処理を開始すると、先ず、ステップS702で、閾値1判定フラグが“0”か否かを判定する。閾値1判定フラグが“0”の場合、ステップS703で、閾値2判定フラグと閾値3判定フラグが共に“0”か否かを判定する。ステップS703の判定条件を満たす(Yes)場合、ステップS704で、HPからBPに向かう方向の走査で1パス記録を行う。ステップS703の判定条件を満たさない場合は、ステップS705で、HPからBPに向かう方向の走査で分割記録を行った後、BPからHPに向かう方向の走査で分割記録を行う。
【0039】
ステップS702で、閾値1判定フラグが“1”と判断した場合、ステップS706で、閾値2判定フラグと閾値3判定フラグが共に“0”、または、閾値2判定フラグが“1”かつ閾値3判定フラグが“0”、か否か判定する。このステップS706の判定条件を満たす(Yes)場合、ステップS707で、HPからBPに向かう方向の走査でカラスキャンを行った後、BPからHPに向かう方向の走査で1パス記録を行う。ステップS706の判定条件を満たさない場合は、ステップS709で、HPからBPに向かう方向の走査でカラスキャンを行った後、BPからHPに向かう方向の走査で1パス記録を行う。そして、再度、HPからBPに向かう方向の走査でカラスキャンを行った後、BPからHPに向かう方向の走査で1パス記録を行う。
【0040】
図8(a)および(b)は、本実施形態の記録制御を行った場合と、行わなかった場合の記録パターンの違いを説明する図である。図8(a)は本実施形態の記録制御を行わない従来の場合を示し、図8(b)は、本実施形態の記録制御を行った場合を示している。
【0041】
図8(a)の3パス目は、それぞれの吐出数が閾値1と閾値2を同時に超えた場合の従来の制御を示している。同図に示すように、それぞれの閾値による判断結果に基づく制御を相互に独立に行うため、色むらを抑えるための一方向の走査で記録を行う制御と、平均電流を下げるために分割記録の制御が重なったものとなる。これに対し、本実施形態によれば、図8(b)の3パス目に示すように、図7のステップS707の制御が行われ、これにより、従来例に比べて走査回数を2回減らすことが可能となる。すなわち、本実施形態は、閾値3判定フラグが“0”の場合は、閾値2判定フラグの内容に係らず、また、前の走査が1パス記録か否かに係らず、一律に分割記録は行わずにカラスキャンを伴う1パス記録を行う。これは、閾値3判定フラグが“0”の場合、つまり、瞬間最大電流がそれほど大きくなく所定値以下である場合は、1パス記録が可能だからである。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、前走査領域の記録制御の状態と閾値1、閾値2、閾値3の判定を組み合わせ、記録制御を変えることにより最適な記録制御を行うことが可能となる。これにより、電源容量をより効率的に用いかつ色むらを低減させながら記録を完了させる時間を短くすることが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
108 記録ヘッド
212 プリントヘッド制御回路
214 吐出検出制御回路
215 CPU
222 ROM
223 RAM
227 ドットカウント部
228 記録制御部
230 ホスト装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための吐出口を備えた記録ヘッドを走査させ、該記録ヘッドの吐出口からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
記録データに基づいて、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの一方の方向の走査で記録するか否かを判断するための閾値1とを比較し、当該一方の方向の走査で記録をさせるか否かを判断する第1判断手段と、
前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値2とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第2判断手段と、
前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域において同時に吐出する吐出数と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値であって前記閾値2とは異なる閾値3とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第3判断手段と、
前記検出手段が吐出数を検出する、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域とは別の記録ヘッドの1回の走査で記録する領域であって既に記録が行われた領域が、記録ヘッドの1回の走査または複数回の走査でのいずれで記録されたかを判断する第4判断手段と、
前記第1から第4判断手段それぞれの判断結果の組み合わせに応じて前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録するための走査の回数を定める手段であって、前記第4判断手段が、記録ヘッドの複数回の走査で記録されたと判断した場合、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を1回の走査で記録するように制御する制御手段と、
を具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第4判断手段が記録ヘッドの複数回の走査で記録されたと判断し、かつ前記第2判断手段が前記複数回の走査で記録すると判断した場合、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を1回の走査で記録するように制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
インクを吐出するための吐出口を備えた記録ヘッドを走査させ、該記録ヘッドの吐出口からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
記録データに基づいて、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの一方の方向の走査で記録をさせるか否かを判断するための閾値1とを比較し、当該一方の方向の走査で記録をさせるか否かを判断する第1判断手段と、
前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値2とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第2判断手段と、
前記検出手段が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域において同時に吐出する吐出数と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値であって前記閾値2とは異なる閾値3とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第3判断手段と、
前記第1から第3判断手段それぞれの判断結果の組み合わせに応じて前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録するための走査の回数を定める手段であって、前記第3判断手段が前記複数回の走査で記録しないと判断した場合、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を1回の走査で記録するように制御する制御手段と、
を具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
インクを吐出するための吐出口を備えた記録ヘッドを走査させ、該記録ヘッドの吐出口からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置の記録制御方法であって、
記録データに基づいて、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数を検出する検出工程と、
前記検出工程が検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの一方の方向の走査で記録するか否かを判断するための閾値1とを比較し、当該一方の方向の走査で記録をさせるか否かを判断する第1判断工程と、
前記検出工程で検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値2とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第2判断工程と、
前記検出工程で検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域において同時に吐出する吐出数と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値であって前記閾値2とは異なる閾値3とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第3判断工程と、
前記検出工程で吐出数を検出する、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域とは別の記録ヘッドの1回の走査で記録する領域であって既に記録が行われた領域が、記録ヘッドの1回の走査または複数回の走査でのいずれで記録されたかを判断する第4判断工程と、
前記第1から第4判断工程それぞれの判断結果の組み合わせに応じて前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録するための走査の回数を定める工程であって、前記第4判断工程で、記録ヘッドの複数回の走査で記録されたと判断した場合、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を1回の走査で記録するように制御する制御工程と、
を具えたことを特徴とする記録制御方法。
【請求項5】
インクを吐出するための吐出口を備えた記録ヘッドを走査させ、該記録ヘッドの吐出口からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置の記録制御方法であって、
記録データに基づいて、記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの一方の方向の走査で記録をさせるか否かを判断するための閾値1とを比較し、当該一方の方向の走査で記録をさせるか否かを判断する第1判断工程と、
前記検出工程で検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域における吐出数の総和と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値2とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第2判断工程と、
前記検出工程で検出する前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域において同時に吐出する吐出数と、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録ヘッドの複数回の走査で記録するか否かを判断するための閾値であって前記閾値2とは異なる閾値3とを比較し、当該複数回の走査で記録するか否かを判断する第3判断工程と、
前記第1から第3判断工程それぞれの判断結果の組み合わせに応じて前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を記録するための走査の回数を定める工程であって、前記第3判断工程が前記複数回の走査で記録しないと判断した場合、前記記録ヘッドの1回の走査で記録する領域を1回の走査で記録するように制御する制御工程と、
を具えたことを特徴とする記録制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−86359(P2013−86359A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228931(P2011−228931)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】