説明

インクジェット記録装置による画像形成方法

【課題】ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で画像を形成する場合であっても、オフセットによる画像汚れ、及び異なる色のインク間でのカラーブリードの発生を抑制しつつ、所望する濃度の画像を形成できる画像形成方法を提供すること。
【解決手段】顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて画像を形成する、少なくとも2以上の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置による画像形成方法において、表面寿命が10msのときの動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である2種以上のインクを、動的表面張力の大きいインクから順に、インクを吐出して画像形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2色以上のインクを用いる、インクジェット記録装置による画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録技術の急速な進歩により銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることが可能となっていることから、インクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット記録装置が画像形成装置として広く使用されている。
【0003】
かかるインクジェット記録装置を用いる画像形成方法において、良好な印字濃度、高速印字、印字の際の裏抜け(印字したインクが被記録媒体を通過し、裏面に表面に形成された画像が映る現象)の抑制、異なる色のインク間でのカラーブリードの抑制、及びオフセットによる画像汚れの発生の抑制等が要求されており、これらの課題を解決するために、種々の検討が行われている。
【0004】
例えば、インクに含まれる界面活性剤の含有量が多いインクから順に、ノズルからインクを吐出させることで、耐フェザリング性、耐ブリード性を向上させるインクジェット記録方法(特許文献1参照)や、インクの乾燥粘度、及び動的表面張力を所定の値とすることで、乾燥性に優れ、滲みのすくなくすることができるインクジェット記録用インク(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−100530号公報
【特許文献2】特開2003−231838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット記録方法で用いる界面活性剤では、インク中のイオン種類や濃度によっては、インク中の成分が分離してしまうため、界面活性剤の含有量だけで、ノズルからインクを吐出する順番を決めると、所望の効果が得られなかった。また、特許文献2記載のインクジェット記録用インクでは、2色以上のインクを用いた場合に、一色の場合と同様の効果が得られないことがあった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で画像を形成する場合であっても、オフセットによる画像汚れ、及び異なる色のインク間でのカラーブリードの発生を抑制しつつ、所望する濃度の画像を形成できる画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて画像を形成する、少なくとも2以上の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置による画像形成方法において、表面寿命が10msのときの動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である2種以上のインクを、動的表面張力の大きいインクから順に、インクを吐出して画像形成を行うことにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて画像形成する、少なくとも2以上の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置による画像形成方法であって、
前記2種以上のインクは、表面寿命が10msのときの動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上であり、
前記動的表面張力の大きいインクから順に、前記記録ヘッドからインクを吐出して画像形成を行う、画像形成方法。
【0010】
(2) 前記2種以上のインクは、少なくともブラックインクと他のカラーインクとを含み、
前記ブラックインクが、前記他のカラーインクよりも先に前記記録ヘッドから吐出される、(1)記載の画像形成方法。
【0011】
(3) 前記有機溶剤は、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される少なくとも1種以上を、0.2〜2.0質量%含む、(1)又は(2)記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で画像形成する場合であっても、オフセットによる画像汚れ、及び異なる色のインク間でのカラーブリードの発生を抑制しつつ、所望する濃度の画像を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図2は、図1に示されるインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方から見た平面図である。
【図3】図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置に用いられるラインヘッドと記録用紙上に形成されたドット列の一部を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0015】
本発明の画像形成方法は、顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて画像形成する、少なくとも2以上の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置による画像形成方法であって、後述する表面寿命が10msのときの動的表面張力の大きいインクから順に、記録ヘッドからインクを吐出して画像を形成する方法である。以下、本発明に関して、インク、インクの調製方法、及び画像形成方法について順に説明する。
【0016】
〔インク〕
本発明において用いるインクは、顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水とを含むものである。また、本発明において用いるインクは、必要に応じ、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤、及びインクからの液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる保湿剤を含んでいてもよい。以下、本発明に用いるインクに関して、顔料分散体、水、有機溶剤、溶解安定剤、及び保湿剤について順に説明する。
【0017】
本発明では、2色以上のインクが使用される。インクの数は、2以上であれば、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。種々の色相の画像を良好に形成でき、記録ヘッドの数を少なくしインクジェット記録装置を小型化しやすいことから、ブラックインク、シアンインク、イエローインク、及びマゼンタインクからなる4色のインクを使用するのが好ましい。
【0018】
(顔料分散体)
顔料分散体中に含有させることができる顔料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からインクジェット記録装置用インクの着色剤として使用されている顔料から適宜選択して使用できる。シアンインクに含有させることができる顔料の具体例としてはC.I.ピグメントブルー15等の青色顔料が挙げられ、イエローインクに含有させることができ顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、193等の黄色顔料が挙げられ、マゼンタインクに含有させることができる顔料としてはC.I.ピグメントレッド122、202等の赤色顔料が挙げられ、ブラックインクに含有させることができる顔料としてはC.I.ピグメントブラック4、7(B.K−4、7、カーボンブラック)等の黒色顔料等が挙げられる。
【0019】
上記の他の色相の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、71等の橙色顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、23、33等の紫色顔料等が挙げられる。これらの顔料を2種以上組み合わせて用い、インクの色相を所望の色相に調整することができる。
【0020】
顔料分散体に含まれる顔料の量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、インクの全質量に対して2〜15質量%が好ましく、4〜9質量%がより好ましい。顔料の使用量が過少であると所望する画像濃度を得にくく、顔料の使用量が過多であると、インクの流動性が損なわれ所望する画像を形成しにくくなったり、インクの被記録媒体に対する浸透性が損なわれ、オフセットが発生しやすくなったりする場合がある。さらに、顔料の使用量が過多である場合、インクの分散安定性が維持できなくなる場合もある。
【0021】
顔料分散体に含まれる樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から顔料分散体の製造に用いられている種々の樹脂から適宜選択して使用できる。好適な樹脂の具体例としては、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の中では、調製が容易で、顔料の分散効果に優れることから、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等の、スチレンに由来する単位と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルに由来する単位とを含むスチレン−アクリル系樹脂が好ましい。上記の樹脂は、ラジカル重合により得られる。
【0022】
顔料分散体の調製に用いる樹脂の重量平均分子量(Mw)は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、5000〜150000であるのが好ましい。顔料分散体に含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)はゲルろ過クロマトグラフィーにより測定できる。樹脂の分子量が過小である場合、被記録媒体に画像を形成する際に、所望する画像濃度を有する画像を得にくい。また、分子量が過大である場合、インクの粘度が高いため、溶媒の揮発等によりインクの粘度がさらに高くなりやすく、ノズルからのインクの吐出不良が起こりやすい。
【0023】
また、顔料分散体の調製に用いる樹脂の酸価は、150〜300mgKOH/gが好ましい。樹脂の酸価が過小である場合、顔料分散体中の顔料の分散性が低くなりやすく、顔料の微粒子化が困難となるため、画像の良好な着色性、発色性を得にくい。樹脂の酸価が過大である場合、インクの保存安定性が低くなりやすい。樹脂の酸価は、樹脂を合成する際に、アクリル酸、メタクリル酸等の酸性の官能基(例えばカルボキシ基)を有する単量体の使用量を適宜調整することにより調整できる。具体的には、酸性の官能基を有する単量体の使用量を増やすことにより酸価を高めることができる。
【0024】
顔料分散体を調製する際の樹脂の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。樹脂の使用量は、典型的には、顔料分散体の全質量に対して、0.5〜6.75質量%が好ましい。
【0025】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体を製造する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来知られる方法から適宜選択できる。好適な方法としては、例えば、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)、MSCミル(三井鉱山株式会社製)、ダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)、サンドミル(株式会社安川製作所製)等のメディア型湿式分散機を用いて、水等の適切な液体の媒体中において、顔料と樹脂とを混練して顔料分散体を得る方法が挙げられる。メディア型湿式分散機による処理では、小粒径のビーズを用いる。ビーズの粒子径は特に限定されず、典型的には粒径0.5〜2.0mmである。また、ビーズの材質は特に限定されず、ジルコニアビーズ、ガラスビーズ等の硬質の材料からなるビーズが使用される。
【0026】
(水)
本発明において用いるインクは、水性インクであり、水を必須に含む。インクに含まれる水は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から、水性インクの製造に使用されている水から、所望の純度の水を適宜選択して使用できる。インクの水の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の含有量は、後述する、他の成分の使用量に応じて適宜変更されえる。インクの水の含有量としては、典型的には、インクの全質量に対して20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。
【0027】
(有機溶剤)
本発明に用いるインクは、インクの被記録媒体への浸透を促進させる目的等で有機溶剤を含む。好適な有機溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルや、1,2−ヘキシレングリコール、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール等の炭素原子数6〜9のアルカンジオール等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。インクにおける有機溶剤の含有量は、インクの全質量に対して5〜20質量%が好ましく、10〜15質量%がより好ましい。
【0028】
上記有機溶剤としては、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールから選択される少なくとも1種以上を、0.2〜2.0質量%インクに含むものが好ましい。これらの有機溶剤を、0.2〜2.0質量%の範囲でインクに含むことによって、後述する、インクの、表面寿命10msにおける動的表面張力を、37〜48mN/mの範囲で調整することができる。これらの有機溶剤の含有量が、2.0質量%を超える場合、オフセットによる画像汚れが発生しやすくなる。また、これらの有機溶剤の使用量は、有機溶剤の種類によって、前述の範囲内で適宜調整するのが好ましい。
【0029】
(溶解安定剤)
溶解安定剤は、インクに含まれる成分を相溶化してインクの溶解状態を安定化させる成分である。溶解安定剤の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶解安定剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクが溶解安定剤を含有する場合、溶解安定剤の含有量は、インクの全質量に対して1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。
【0030】
(保湿剤)
保湿剤は、インクからの液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる成分である。保湿剤と水の量を調整することで、インクの粘度を調整することができる。保湿剤の具体例は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、及びグリセリン等が挙げられる。これらの、保湿剤の中では、水等の液体成分の揮発の抑制効果に優れることからグリセリンがより好ましい。保湿剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクが保湿剤を含有する場合、保湿剤の含有量は、インクの全質量に対して5〜30質量%が好ましく、12〜20質量%がより好ましい。
【0031】
〔インクの製造方法〕
インクの製造方法は、顔料分散体、水、有機溶剤等のインク成分を均一に混合することができれば特に限定されない。インクジェット記録装置用インクの製造方法の具体例としては、インクの各成分を混合機により均一に混合した後、孔径5μm以下のフィルターにより異物や粗大粒子を除去する方法が挙げられる。なお、インクを製造する際には、必要に応じて溶解安定剤、保湿剤等の成分や、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等の、従来からインクジェット記録装置用のインクに加えられている種々の添加剤を加えることができる。
【0032】
(動的表面張力の測定)
本発明の画像形成方法において用いられる2種以上のインクを規定する動的表面張力とは、液表面(気−液界面)が形成された直後であって、液表面が非平衡状態にあるときの表面張力であり、表面寿命とは、液表面が形成されてからの経過時間である。そして、表面寿命の経過につれて液表面は、インク中の各成分が拡散して平衡状態に近づき表面張力が低下し、平衡状態となったときの表面張力が静的表面張力である。従って、インクジェット記録装置用のインクは、記録ヘッドからインク液滴が吐出され、ごく短時間で記録媒体に着弾するため、インクの記録媒体に対する種々の性質は、インクの動的表面張力により規定することが、実際の状況に対してより適切である(特開2011−207146、段落0019参照)。
【0033】
本発明の画像形成方法において用いられる2種以上のインクは、表面寿命が10msのときの動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である。インクの動的表面張力の測定方法は、特に限定されず、従来用いられている動的表面張力計を用いた方法により測定できる。動的表面張力計としては、例えば、バブルプレッシャー動的表面張力計(BP100(KRUSS社製))等が挙げられる。
【0034】
インクの動的表面張力が過大である場合、インクは所望する浸透性が得にくく、オフセットによる画像汚れを抑制しにくい。一方、インクの動的表面張力が過小である場合、インクの浸透性が高くなりやすく、また、インク液滴が、吐出してから着弾するまでの間に分離することによる形成画像の乱れ(サテライト)が発生しやすく、所望する画像濃度を有する画像を得にくい。
【0035】
〔画像形成方法〕
本発明の画像形成方法において用いるインクジェット記録装置は特に限定されないが、高品質の画像を高速で形成できることから、インクジェット記録装置として、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いるのが好ましい。ラインヘッド方式のインクジェット記録装置では、オフセットによる画像の汚れや、カラーブリードが生じやすいが、本発明の画像形成方法によれば、これらの問題が生じにくい。
【0036】
また、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて画像を形成する場合、画像形成速度は、A4縦方向の長さに被記録媒体を搬送して画像形成する場合の画像形成速度として100ppm(頁/分)以上であるのが好ましい。本発明の画像形成方法によれば、100ppm以上の高速で画像を形成する場合であっても、カラーブリード、及びオフセットによる画像汚れのない画像を所望する画像濃度で形成できる。
【0037】
以下、図面を参照して、本発明の画像形成方法の好適な例として、4つの記録ヘッドを備えるラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用い、被記録媒体として記録用紙を用いて、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを用いて画像を形成する場合に関して説明する。図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図であり、図2は、図1に示すインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方からみた平面図である。
【0038】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には記録用紙Pを収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された記録用紙Pを、最上位の記録用紙Pから順に一枚ずつ後述する搬送ベルト5へと搬送給紙するための給紙ローラー3及び給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4が設けられている。
【0039】
給紙ローラー3及び従動ローラー4の用紙搬送方向下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、用紙搬送方向下流側に配置されたベルト駆動ローラー6と、上流側に配置され搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動回転するベルトローラー7とに掛け渡されており、ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0040】
ここで、用紙搬送方向Xの下流側にベルト駆動ローラー6を配置したことにより、搬送ベルト5の用紙送り側(図1において上側)はベルト駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、ベルトテンションを張ることができ、安定した記録用紙Pの搬送が可能となる。なお、搬送ベルト5には誘電体樹脂製のシートが用いられ、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルト等が好適に用いられる。
【0041】
また、搬送ベルト5の用紙搬送方向Xの下流側には、図中時計回りに駆動され画像が記録された記録用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー8a、及び排出ローラー8aの上部に圧接され従動回転する従動ローラー8bが設けられており、排出ローラー8a及び従動ローラー8bの下流側には、装置本体外へと排出された記録用紙Pが積載される排紙トレイ10が設けられている。
【0042】
従動ローラー8bは記録用紙Pの画像面に直接触れるため、従動ローラー8bの表面を形成する素材は撥水性材料であるのが好ましい。従動ローラー8bの表面を撥水性材料により形成することにより、記録用紙Pに浸透していないインクのローラーへの付着を抑制でき、オフセットの発生を抑制しやすい。好適な撥水材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂が挙げられる。従動ローラー8bと同様に、記録用紙Pの画像面に接触する部材の表面は撥水性材料により形成するのが好ましい。
【0043】
そして、搬送ベルト5の上方には、搬送ベルト5の上面に対して所定の間隔が形成されるような高さに支持され、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pへと画像の記録を行うラインヘッド11a、11b、11c、及び11dが配設されている。
【0044】
本発明の画像形成方法では、前述した表面寿命が10msのときにおける動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である2種以上のインクを、動的表面張力の大きいインクから順に、記録ヘッドからインクを吐出して画像形成を行う。ラインヘッド11a〜11dには、上述するインクの動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である4色のインクが、動的表面張力が大きい順に、ラインヘッド11aから順に充填される。
【0045】
これにより、オフセットによる画像汚れの発生を抑制することができる。また、この場合、動的表面張力が大きい順に、記録ヘッドからインクが吐出されるため、早い吐出順のインクに含まれる顔料が被記録媒体表面にある程度固着された後に、次順のインクを被記録媒体に着弾させやすい。このため、早い吐出順のインクと、次順のインクとが被記録媒体表面で混じりあいにくく、カラーブリードの発生が抑制される。
【0046】
また、ブラックインクは、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクよりも先に吐出されるのが好ましい。ブラックインクは、形成画像の画像濃度が、他のインクに比べてより高い場合に、着色性や発色性の点で所望する画像が得られるため、ブラックインクの、表面寿命が10msのときにおける動的表面張力は、他のインクに比べ大きいものが好ましい。従って、他のインクに比べて、表面寿命が10msのときの動的表面張力が大きいブラックインクを先に吐出することで、所望する濃度の画像を形成することができる。
【0047】
これらのラインヘッド11a〜11dは、図2に示すように、搬送方向と直交する方向(図2の上下方向)に複数のノズルが配列されたノズル列を備え、搬送される記録用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録することができるようになっている。
【0048】
なお、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置においては、搬送ベルト5の幅寸法以上に形成された長尺のヘッド本体の長手方向に複数のノズルを配列させることで、記録用紙Pの幅以上の記録領域を有するように構成されたラインヘッドを用いているが、例えば各々複数個のノズルを備えた短尺のヘッドユニットを搬送ベルト5の幅方向に複数配列することにより、搬送される記録用紙Pの幅方向全幅にわたって画像を記録できるようにしたラインヘッドを用いても構わない。
【0049】
また、ラインヘッド11a〜11dのインクの吐出方式としては、例えば、図示しない圧電素子(ピエゾ素子)を用いてラインヘッド11a〜11dの液室内に生じる圧力を利用してインクの液滴を吐出する圧電素子方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式等、各種方式を適用することができる。インクの吐出方式は、吐出量の制御が容易であることから圧電素子方式が好ましい。
【0050】
図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。図1及び図2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。インクジェット記録装置100には制御部20が備えられており、制御部20には、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、ラインヘッド制御回路26、及び電圧制御回路27等が接続されている。
【0051】
インターフェイス21は、例えば、図示しないパソコン等のホスト装置とデータの送受信を行う。制御部20は、インターフェイス21を介して受信された画像信号を、必要に応じて変倍処理或いは階調処理して画像データに変換する。そして、後述する各種制御回路に制御信号を出力する。
【0052】
ROM22は、ラインヘッド11a〜11dを駆動させて画像記録を行う際の制御プログラム等を記憶している。RAM23は、制御部20により変倍処理或いは階調処理された画像データを所定の領域に格納する。
【0053】
エンコーダー24は、搬送ベルト5を駆動する排紙側のベルト駆動ローラー6に接続されており、ベルト駆動ローラー6の回転軸の回転変位量に応じてパルス列を出力する。制御部20は、エンコーダー24から送信されるパルス数をカウントすることで回転量を算出し、用紙の送り量(用紙位置)を把握する。そして制御部20は、エンコーダー24からの信号に基づいて、モーター制御回路25及びラインヘッド制御回路26に制御信号を出力する。
【0054】
モーター制御回路25は、制御部20からの出力信号により記録媒体搬送用モーター28を駆動する。記録媒体搬送用モーター28は駆動してベルト駆動ローラー6を回転させ、搬送ベルト5を図1の時計回りに回動させて用紙を矢印X方向へと搬送する。
【0055】
ラインヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、RAM23に格納された画像データをラインヘッド11a〜11dへ転送し、転送された画像データに基づいてラインヘッド11a〜11dからのインクの吐出を制御する。かかる制御と、記録媒体搬送用モーター28によって駆動する搬送ベルト5による用紙の搬送の制御とにより、用紙への記録処理が行われる。
【0056】
電圧制御回路27は、制御部20からの出力信号に基づいて給紙側のベルトローラー7に電圧を印加することにより交番電界を発生させ、搬送ベルト5に用紙を静電吸着させる。静電吸着の解除は、制御部20からの出力信号に基づいてベルトローラー7又はベルト駆動ローラー6を接地させることにより行われる。なお、ここでは給紙側のベルトローラー7に電圧を印加する構成としたが、排紙側のベルト駆動ローラー6に電圧を印加する構成としてもよい。
【0057】
ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いてドットを形成する方法を、図4を用いて具体的に説明する。なお、図4では図1及び図2に示したラインヘッド11a〜11dのうち、ラインヘッド11aを例に挙げて説明するが、他のラインヘッド11b〜11dについても全く同様に説明される。
【0058】
図4に示すように、ラインヘッド11aには複数個のノズルからなるノズル列N1、N2が搬送方向(矢印X方向)に並設されている。つまり、搬送方向の各ドット列を形成するノズルとして、ノズル列N1、N2に各1個ずつ(例えばドット列L1ではノズル12a及び12a’)、合計2個のノズルを備えている。なお、ここでは説明の便宜のため、ノズル列N1、N2を構成するノズルのうち、ドット列L1〜L16に対応する12a〜12p及び12a’〜12p’までの各16個のノズルのみを記載しているが、実際にはさらに多数のノズルが搬送方向と直交する方向に配列されているものとする。
【0059】
そして、このノズル列N1、N2を順次用いて被記録媒体上に画像を形成する。例えば、被記録媒体を搬送方向に移動させながら、被記録媒体の幅方向(図の左右方向)1行分のドット列D1をノズル列N1からのインク吐出(図の実線矢印)により形成した後、次の1行分のドット列D2をノズル列N2からのインク吐出(図の破線矢印)により形成し、さらに次の1行分のドット列D3を再びノズル列N1からのインク吐出により形成する。以下、ドット列D4以降もノズル列N1、N2を交互に用いて同様に形成する。
【0060】
以上説明した画像形成方法によれば、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で画像形成する場合であっても、オフセットによる画像汚れ、及び異なる色のインク間でのカラーブリードの発生を抑制しつつ、所望する濃度の画像を形成できる。このため、本発明の画像形成方法は種々のインクジェット記録装置において好適に利用される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0062】
〔製造例1〕
(スチレン−アクリル樹脂の製造)
顔料分散体の調製に用いるスチレン−アクリル樹脂をマクロモノマー合成法により製造した。具体的には、ポリスチレンの分子末端の一方に(メタ)アクリロイル基が結合したオリゴマー(AS−6、東亜合成株式会社製、数平均分子量(Mn)6000)と、所定量の、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及びアクリル酸ブチルとを、メチルエチルケトン中で重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))の存在下に重合を行い、スチレン−アクリル樹脂を製造した。得られた樹脂の重量平均分子量(Mw)を、ゲルろ過クロマトグラフィー(HLC−8020GPC(東ソー株式会社製))を用いて下記条件により確認した。また、得られた樹脂の酸価(mgKOH/g)を滴定により確認した。得られた樹脂の重量平均分子量(Mw)は約50000であり、酸価は150であった。
<重量平均分子量測定条件>
カラム:TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー株式会社製、4.6mmID×15cm)
カラム本数:3本
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.35ml/分
サンプル注入量:10μl
測定温度:40℃
検出器:IR検出器
検量線は、標準試料(TSK standard,polystyrene、東ソー株式会社製)から、F−40、F−20、F−4、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、及びn−プロピルベンゼンの8種を選択して作成した。
【0063】
〔参考例〕
(顔料分散体の調製)
ブラック、マゼンタ、シアン、及びイエロー各色について、顔料15質量%と、得られたスチレン−アクリル樹脂0.5質量%と、オルフィンE1010(界面活性剤、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)0.5質量%と、水とを加えた合計割合が100質量%となった組成物をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)のベッセルに充填した後、分散処理を行い、各色顔料分散体を得た。なお、ジルコニアビーズ(直径1.0mm)はベッセル容量に対して70%の充填率で、ベッセルに充填した。顔料分散体の調製で用いたダイノミルのベッセル量は1.4Lである。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布測定装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70〜130nmの範囲となっていることを確認した。各所の顔料は、ブラック顔料はB.K−4を、マゼンタ顔料はP.R−122を、シアン顔料はP.B−15:3を、イエロー顔料はP.Y−74をそれぞれ用いた。
【0064】
(インクの調製)
ブラック、マゼンタ、シアン、及びイエロー各色について動的表面張力の異なるインク8種類、計32種類のブラックインクK1〜K8、マゼンタインクM1〜M8、シアンインクC1〜C8、イエローインクY1〜Y8が、表2記載の動的表面張力となるように、各色インクに含まれる、1,2−オクタンジオール、及びグリセリンを、インク全体量に対して表2〜表5記載の割合で混合して動的表面張力が異なる各色8種類、計32種類のインクを得た。
【0065】
具体的には、界面活性剤(オルフィンE1010、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(有機溶剤)10質量%、及び2−ピロリドン(溶解安定剤)5質量%と、各色のインクについて、ブラックの顔料分散体を60質量%、マゼンタの顔料分散体を55質量%、シアンの顔料分散体を50質量%、及びイエローの顔料分散体を55質量%の割合で用いた顔料分散体と、表2〜表5に記載の1,2−オクタンジオール、及びグリセリンと、水とを加えた合計割合が100質量%となった組成物を、撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、ブラック、マゼンタ、シアン、及びイエロー各色について動的表面張力の異なるインク8種類、計32種類のインクを調製した。なお、表2に記載の量は、インク全質量に対する1,2−オクタンジオール、及びグリセリンの質量%である。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
<評価>
得られた32種類のインクについて、4つの記録ヘッド(図1におけるラインヘッド11a〜11d。インクの吐出はラインヘッド11aから順に行われる)を備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用い、下記の方法に従って、単色のインクによって形成した画像にけるオフセットの発生の有無、画像濃度、及びサテライトの発生の有無を評価した。単色のインクによって形成した画像におけるオフセットの評価結果を表6〜表8に記し、画像濃度の評価結果を表9〜表12に記し、サテライトの評価結果を表13〜表16に記す。
【0072】
<単色のインクによって形成した画像におけるオフセットの評価方法>
単色のインクによって形成した画像におけるオフセットの評価は、図1におけるラインヘッド11a〜11d毎ついて、ブラックインク、マゼンタインク、及びシアンインクの各インクを単色で用い、且つ動的表面張力ごとに評価を行った。
【0073】
具体的には、記録ヘッドにインクを充填し、ノズル形成面から出ている余剰液をワイプブレードによりかきとった。記録ヘッドのノズル面と記録用紙Pとの距離を1mmに固定し、給紙部から排出部までの記録用紙Pの搬送速度を846.7mm/秒に設定した。記録用紙Pとして用紙(IJW(王子製紙株式会社製))をA4サイズにカットしたものを用い、記録ヘッドから、記録用紙Pへのインクの打ち込み量が15g/mとなるようにインクを吐出して、10cm×10cmのベタ画像を連続10枚形成した。10枚目に画像が形成された記録用紙Pについて、記録用紙Pを排出する排出部に備えられる、表面材質がポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)である従動ローラーと接触した後の記録用紙Pの非画像部の状態と、従動ローラーへのインクの付着の状況を観察してオフセット性を目視にて評価した。オフセット性の評価の基準は以下の通りである。
○:記録液が排出ローラーに付着しておらず、非画像部に画像が版画されていない。
△:記録液が排出ローラーに付着しているが、非画像部に画像が版画されていない。
×:記録液が排出ローラーに付着しており、非画像部に画像が版画されている。
【0074】
<画像濃度評価方法>
画像濃度評価は、図1のラインヘッド11aから、ブラックインク、マゼンタインク、シアンインク、及びイエローインクをそれぞれ吐出して、且つ動的表面張力ごとに評価を行った。
【0075】
具体的には、ヘッド内部に保温可能なヒーター及び温度検知機能を有した記録ヘッドを記録ヘッド11aとして用いた。そして、保温設定温度を25℃として、24℃60%RH環境下における画像濃度評価を行った。具体的には、単色インクによるオフセットの評価方法と同様の条件・方法により、10cm×10cmのベタ画像を1枚形成した。画像が形成された記録用紙Pを一昼夜、常温常湿環境下に保存した後、画像部の画像濃度を画像濃度計D50(グレタグマクベス社製)D50光源、視野角2°にて、形成された画像の画像濃度を測定した。
ブラックインクについては、画像濃度1.2以上を○と判定し、1.2未満を×と判定した。
その他のインクについては、画像濃度1.0以上を○と判定し、1.0未満を×と判定した。
【0076】
<サテライトの評価方法>
サテライトの評価は、図1のラインヘッド11aから、ブラックインク、マゼンタインク、シアンインク、及びイエローインクをそれぞれ吐出して、且つ動的表面張力ごとに評価を行った。
【0077】
具体的には、画像濃度評価方法と同様の条件・方法により、5cm×5cmのベタ画像を1枚形成した。形成したベタ画像を顕微鏡観察してサテライトの評価を以下の基準で行った。
○:インク液滴の着弾位置から10μm以内にインクが納まっている。
×:インク液滴の着弾位置から10μm以内にインクが納まっていない。
【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
【表8】

【0081】
表6〜表8に記載の単色のインクによって形成した画像にけるオフセットの評価結果から、動的表面張力が、48mN/m超のインクを用いた場合、インクは所望する浸透性が得にくく、オフセットによる画像汚れを抑制しにくいことが分かる。
【0082】
【表9】

【0083】
【表10】

【0084】
【表11】

【0085】
【表12】

【0086】
表9〜表12に記載の単色のインクによって形成した画像にける濃度評価の結果から、動的表面張力が小さいインクであるほど、所望する形成画像の画像濃度を得にくいことが分かる。
【0087】
【表13】

【0088】
【表14】

【0089】
【表15】

【0090】
【表16】

【0091】
表13〜表16に記載のサテライトの評価結果から、動的表面張力が小さいインクであるほど、サテライトを抑制しにくいことが分かる。
【0092】
〔実施例1〜180、及び比較例1〜588〕
4つの記録ヘッド(図1におけるラインヘッド11a〜11d。画像形成はラインヘッド11aから順に行われる)を備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用い、参考例で得られたブラック、マゼンタ、シアン、及びイエロー各色について動的表面張力の異なるインク8種類、計32種類のインクを、ラインヘッド11aに充填し、ラインヘッド11bに他色のインクを充填した、実施例1〜180、及び比較例1〜588に係る画像形成方法において、下記方法により2色のインクを用いて形成した画像におけるカラーブリードの発生の有無を評価した。カラーブリードの評価結果を表17〜表28に記す。
【0093】
<カラーブリードの評価方法>
カラーブリードの評価は、単色画像形成によるオフセットの評価方法と同様の条件・方法により、11aに充填されたインクで画像形成した10cm×10cmのベタ画像上に、11bに充填されたインクで、直線画像を画像形成した。直線画像の線幅は、600dpiで10画素分の太さ、実際の画像形成物では0.42mmの太さ(カラーブリードのない理論的な太さ)となるように画像形成した。画像形成物は、カラースキャナー(GT−X970(セイコーエプソン株式会社製))を用い、1200dpiで取り込み、取り込んだ画像形成物について2値化を行い、画像形成物の画像データを修正した。その後、修正した画像形成物について、ドットアナライザー(Da−6000(王子計測機器株式会社製))を用いて、画像形成物1画素あたりに含まれる輝度(0〜255の数値範囲で評価)の分布を測定し、1画素あたりの輝度分布から平均値を求めた。このとき、カラーブリードによる滲みは、輝度分布の平均値が1〜244であるものを滲んでいるものと定義し、その滲みの長さに応じて、インクのカラーブリードを以下のように評価した。「○」、「△」の場合を合格と判定し、「×」の場合を不合格と判定した。
○:滲みの長さ50μm以下。
△:滲みの長さ100μm以下。
×:滲みの長さ100μm超。
【0094】
【表17】

【0095】
【表18】

【0096】
【表19】

【0097】
【表20】

【0098】
【表21】

【0099】
【表22】

【0100】
【表23】

【0101】
【表24】

【0102】
【表25】

【0103】
【表26】

【0104】
【表27】

【0105】
【表28】

【0106】
表17〜表28に記載される、実施例1〜180、及び比較例1〜588のカラーブリードの評価結果から、顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて画像形成する、少なくとも2以上の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置による画像形成方法であって、表面寿命が10msのときの動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である2種以上のインクを、動的表面張力の大きいインクから順に、記録ヘッドからインクを吐出して画像を形成する場合、異なる色のインク間でのカラーブリードの発生を抑制できることが分かる。
【0107】
〔実施例181〜185、及び比較例589〜593〕
4つの記録ヘッド(図1のラインヘッド11a〜11d。インクの吐出はラインヘッド11aから順に行われる)を備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用い、参考例で得られたブラック、マゼンタ、シアン、及びイエロー各色について動的表面張力の異なるインク8種類、計32種類のインクから、任意に選択した4種のインクを、表29に記載するように、ラインヘッド11a〜11dのそれぞれに充填した、実施例181〜185、及び比較例589〜593に係る画像形成方法において、4色画像形成によるオフセットの評価を行った。4色画像形成によるオフセットの評価結果を表29に記す。
【0108】
<4色画像形成によるオフセットの評価方法>
4色画像形成によるオフセットの評価では、単色画像形成によるオフセットの評価方法と同様の条件・方法により、10cm×10cmのベタ画像を連続10枚形成した。10枚目に画像が形成された記録用紙Pについて、記録用紙Pを排出する排出部に備えられる、表面材質がポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)である従動ローラーと接触した後の記録用紙Pの非画像部の状態と、従動ローラーへのインクの付着の状況を観察してオフセット性を評価した。オフセット性の評価の基準は以下の通りである。
○:記録液が排出ローラーに付着しておらず、非画像部に画像が版画されていない。
△:記録液が排出ローラーに付着しているが、非画像部に画像が版画されていない。
×:記録液が排出ローラーに付着しており、非画像部に画像が版画されている。
【0109】
【表29】

【0110】
実施例181〜185によれば、表面寿命が10msのときにおける動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である2種以上のインクを、動的表面張力の大きいインクから順に記録ヘッドからインクを吐出して画像形成を行うことで、オフセットによる画像汚れを抑制することができることが分かる。
【0111】
比較例589、590及び592では、表面寿命が10msのときの動的表面張力が48mN/m超のインクがラインヘッド11aから吐出されている。このため、比較例589、590及び592の画像形成方法では、オフセットによる画像汚れを抑制しにくい。
【0112】
比較例591及び593では、表面寿命が10msのときにおける動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上である2種以上のインクが、動的表面張力の大きいインクから順に、記録ヘッドからインクが吐出されていない。このため、比較例591及び593の画像形成方法では、表17〜表28に記載される、実施例1〜180、及び比較例1〜588のカラーブリードの評価結果に基づいて、異なる色のインク間でのカラーブリードによる画像汚れの発生を抑制しにくいことが分かる。
【符号の説明】
【0113】
2 給紙トレイ
3 給紙ローラー
4 従動ローラー
5 搬送ベルト
6 ベルト駆動ローラー
7 ベルトローラー
8 排出部
8a 排出ローラー
8b 従動ローラー
10 排紙トレイ
11a、11b、11c、11d ラインヘッド
12a〜12p、12a’〜12p’ ノズル
20 制御部
30 検出手段
100 インクジェット記録装置
D1〜D4 ドット列(行方向)
L1〜L16 ドット列(搬送方向)
N1、N2 ノズル列
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて画像を形成する、少なくとも2以上の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置による画像形成方法であって、
前記2種以上のインクは、表面寿命が10msのときの動的表面張力が、37〜48mN/mであり、且つ、各インクの動的表面張力差がすべて2mN/m以上であり、
前記動的表面張力の大きいインクから順に、前記記録ヘッドからインクを吐出して画像形成を行う、画像形成方法。
【請求項2】
前記2種以上のインクは、少なくともブラックインクと他のカラーインクとを含み、
前記ブラックインクが、前記他のカラーインクよりも先に前記記録ヘッドから吐出される、請求項1記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記有機溶剤は、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される少なくとも1種以上を、0.2〜2.0質量%含む、請求項1又は2記載の画像形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−107224(P2013−107224A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252112(P2011−252112)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】