インクジェット記録装置の停止処理方法
【課題】少量の溶剤使用量によりインクジェット記録装置の停止処理を行い得るようにする。
【解決手段】ノズル20からインクを噴射している印字状態からノズル20へのインクの供給を停止する際に、溶剤供給流路45からノズル20に溶剤を供給し、ノズル20を通過した溶剤を回収流路29に供給して回収流路29も洗浄する。次いで、吸引流路56内に溶剤供給流路45から溶剤を供給して吸引流路56を洗浄し、ノズル20から外気を吸引流路56に供給して溶剤を空気に置換した後に、再度吸引流路56内に溶剤を供給して仕上げ洗浄を行う。回収流路29と吸引流路56内の液体は、吸引流路56の残液除去と、回収流路29の残液除去とを交互に繰り返すことによりインク容器に供給される。
【解決手段】ノズル20からインクを噴射している印字状態からノズル20へのインクの供給を停止する際に、溶剤供給流路45からノズル20に溶剤を供給し、ノズル20を通過した溶剤を回収流路29に供給して回収流路29も洗浄する。次いで、吸引流路56内に溶剤供給流路45から溶剤を供給して吸引流路56を洗浄し、ノズル20から外気を吸引流路56に供給して溶剤を空気に置換した後に、再度吸引流路56内に溶剤を供給して仕上げ洗浄を行う。回収流路29と吸引流路56内の液体は、吸引流路56の残液除去と、回収流路29の残液除去とを交互に繰り返すことによりインク容器に供給される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置の稼働を停止する際に流路内に残存するインクを洗浄するためのインクジェット記録装置の停止処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造ラインの搬送装置により搬送される製品を被印字物としてこれに文字や図形を印字つまりマーキングするためのインクジェット記録装置としては、印字ヘッドのノズルを被印字物に接触させることなく、インクを被印字物に向けてノズルから飛翔させるようにした非接触式のものが使用されている。例えば、商品が梱包されたダンボール箱等の梱包材の表面に文字等を印字する場合には、コンベアにより搬送しながら梱包材の外面にインクジェット記録装置により印字しており、飲食物が収容された容器に印字する場合もコンベアにより搬送しながら容器の外面に印字を行うようにしている。
【0003】
一方、上述のように、被印字物を移動させながら印字を行う場合には印字ヘッドを停止させているのに対し、印字が行われるときにコンベアを停止させた状態のもとで被印字物に印字する際には印字ヘッドを被印字物に沿って移動させることになる。例えば、集合プリント基板の複数箇所に印字する場合には、コンベアを停止させた状態のもとで印字ヘッドをプリント基板に沿って二次元方向に移動させて印字を行っている。
【0004】
印字ヘッドには、ノズルから噴出されたインク粒子に印字情報に応じた電荷量を帯電させる帯電電極と、帯電されたインク粒子を偏向させる偏向電極とが設けられており、印字に使用されないインクを回収するためにノズルに対向してガターが配置されている。ノズルにはインク容器内のインクを供給するインク供給流路が接続され、ガターにより回収されたインクをインク容器に回収する回収流路がガターとインク容器との間に接続されている。ノズル内に外気を吸引してノズルの目詰まりを防止するために、ノズルの流入部とインク容器との間には吸引流路が接続されている。さらに、ノズルや上述したそれぞれの流路を洗浄するために溶剤容器とノズルとの間には溶剤供給流路が接続されている。
【0005】
インクジェット記録装置は、インク容器や溶剤容器等が組み込まれた装置本体を有しており、装置本体にはそれぞれの流路を形成するホース等の配管を有する導管により印字ヘッドが接続されている。従来のインクジェット記録装置としては、特許文献1,2に記載されるように、インク供給流路と回収流路と吸引流路と溶剤供給流路のそれぞれにポンプが設けられたタイプがある。特許文献2に記載されるインクジェット記録装置においては、4つのポンプを一体的なポンプユニットとして装置本体に着脱可能としている。
【0006】
特許文献3および特許文献4に記載されるインクジェット記録装置は、吸引流路と回収流路とを1つのポンプで作動させるようにしており、インク供給用のポンプと溶剤供給用のポンプを含めて3つのポンプを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−337882号公報
【特許文献2】特開2007−190725号公報
【特許文献3】特開平8−258287号公報
【特許文献4】特開2001−71532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクジェット記録装置では揮発性の高い有機溶剤を溶媒として、これに樹脂や染料を溶解したインクを装置内で循環させているので、装置の稼働を停止する際には、装置内における溶剤をノズル内部や各流路に循環させてインク中の樹脂や染料といった固形分を溶解除去するようにしている。これにより、装置の稼働停止中にノズル内部や各流路内に、残存したインク中の固形分が固着することを防止し、装置を正常に再稼働させることができる。
【0009】
従来のインクジェット記録装置においては、特許文献4に記載されるように、溶剤を循環させることによりノズル内部や各流路内からインク固形分を除去するようにしている。したがって、洗浄に時間をかけて溶剤を多く使用して洗浄すればするほど、インク固形分を除去することができるが、溶剤を多く使用すると、ランニングコストが増加するだけでなく、装置内を循環しているインクの濃度を低下させることになり、装置の安定した稼働の確保が困難となるという問題点がある。このため、溶剤の使用量を少なくして効率的に洗浄する技術が検討されている。
【0010】
吸引流路の一端はノズルの噴出口に連通して大気に開放され、吸引流路の他端側には流路を開閉するための電磁弁が設けられている。回収流路の一端はガターに連通して大気に開放されており、回収流路の他端側には流路を開閉するための電磁弁が設けられている。したがって、吸引流路や回収流路にインクや溶剤等の液体が残った状態で装置が放置されると、放置中の周囲温度の変化によって残った液体の熱膨張や気相である空気の熱膨張によってノズルやガター等のように大気開放となる部分に向けて液体が移動し、開口部から液体が染み出してくる現象が発生することになる。
【0011】
染み出した液体がインク、またはインクを含んだ溶剤である場合には、染み出した後に溶剤成分が大気中に揮発し、残ったインク固形分が固化して開口部を塞いでしまうので、インクジェット記録装置を再稼働させる前に予め固化したインク固形分を洗浄する必要がある。このため、再稼働時に非常に手間を要するだけでなく、洗浄液の消費量が多くなり、装置のランニングコストが高くなるという問題点がある。
【0012】
染み出す液体に含まれるインク固形分の量がノズルやガターの開口部を塞ぐことがない程度に少量であれば上述したような問題は発生しないが、そのためにはインクジェット記録装置の稼働を停止する際に、多量の溶剤を消費して吸引流路や回収流路を洗浄する必要があり、結果としてランニングコストが増大するだけでなく、停止の度に装置内のインクを多量の溶剤で希釈してしまうことになり、印字品質に悪影響を及ぼすことになる。また、吸引流路や回収流路内の液体を全て吸引して除去するようにすれば、液体が開口部から染み出すことは無くなるが、全ての液体を吸引するには吸引に時間がかかるため、停止処理時間が長くなってしまう。
【0013】
吸引流路を開閉する電磁弁や回収流路を開閉する電磁弁を、ノズルやガターが設けられている印字ヘッドに組み込むようにすれば、洗浄すべき流路が短くなるので、使用する溶剤量を低減することかできるが、印字ヘッドに電磁弁を組み込むようにすると、印字ヘッドの大型化が避けられず、印字ヘッドの設置性が極めて悪くなるという問題点がある。
【0014】
インクジェット記録装置は、生産ライン周辺の限られたスペースに設置されるので、装置の小型化が求められている。従来のようにインク供給流路と、回収流路と、吸引流路と、溶剤供給流路とにそれぞれポンプを設けるようにすると、これらのポンプを設置するスペースが必要なことから、装置の小型化が困難であった。
【0015】
一方、吸引流路と回収流路とを合流流路に接続するようにし、合流流路に設けられた吸引ポンプにより吸引ポンプと回収ポンプとを統合するようにすれば、ポンプの数を低減することができる。しかしながら、停止処理を行う際に、吸引流路と回収流路とを同時に吸引すると、それぞれ別々の独立したポンプで吸引する場合と比較して各流路を流れる液体の流量が少なくなり、吸引効率が低下することになる。各流路に電磁弁を設けて電磁弁の切換により1つのポンプで一方の流路のみを吸引し、吸引後に他の流路の吸引を単独で行えば、求める吸引を行うことができるが、1つの流路毎にしか吸引できないので、結果的には停止処理時間が長くなるという問題点がある。
【0016】
本発明の目的は、少量の溶剤使用量によりインクジェット記録装置の停止処理を行い得るようにすることにある。
【0017】
本発明の他の目的は、インクジェット記録装置を短時間で効率的に停止処理し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、インク容器とノズルとの間に接続され前記インク容器内のインクを前記ノズルに向けて供給するインク供給流路と、溶剤容器と前記ノズルとの間に接続され溶剤を前記ノズルに供給する溶剤供給流路と、印字に使用されなかったインクを回収するガターと前記インク容器との間に接続され前記ガターにより回収された液体を前記インク容器に回収する回収流路と、前記ノズルの流入部と前記インク容器との間に接続され液体を前記インク容器に案内する吸引流路とを有するインクジェット記録装置の停止処理方法であって、前記ノズルからインクを噴射している印字状態から前記ノズルへのインクの供給を停止する際に、前記吸引流路に前記溶剤供給流路から溶剤を供給する吸引流路の洗浄工程と、前記吸引流路内に前記ノズルから外気を吸引して前記吸引流路内に空気を流して前記吸引流路内の溶剤を前記インク容器に送る残液吸引工程と、前記吸引流路内が溶剤から空気に置換された状態のもとで、前記溶剤供給流路から前記吸引流路内に溶剤を流す仕上げ洗浄工程とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記溶剤供給流路から前記ノズルと前記回収流路に溶剤を供給して前記ノズルと前記回収流路とを洗浄する溶剤供給洗浄工程と、前記吸引流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る吸引流路の残液除去工程と、前記回収流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る回収流路の残液除去工程とを交互に複数回繰り返すことを特徴とする。本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記吸引流路内の圧力を検出して圧力値に基づいて前記吸引流路の残液除去工程から前記回収流路の残液除去工程に切り換えることを特徴とする。本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記回収流路の液体を吸引する回収ポンプの回転数を、印字動作時に前記回収流路を介して使用されなかったインクを回収する際における回転数よりも停止処理時における回転数を増加させることを特徴とする。
【0020】
本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給する際には、前記溶剤供給流路に連通するとともに容積を拡大する方向の弾性力が加えられた溶剤室と、当該溶剤室と仕切られるとともに前記インク供給流路に連通するインク室とを有する圧力チャンバーにおける前記インク室を前記弾性力に抗して加圧して前記溶剤室内の溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給し、前記溶剤を前記吸引流路に供給する際には、前記吸引流路を吸引することにより前記溶剤室を介して前記溶剤容器内の溶剤を前記吸引流路に供給することを特徴とする。本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記回収流路と前記吸引流路とを合流させて前記インク容器に接続される合流流路に設けられた回収ポンプにより前記回収流路と前記吸引流路とを吸引作動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、停止処理を行う際に溶剤を吸引流路に供給して吸引流路を洗浄し、洗浄に使用された溶剤をノズルから吸引流路内に外気を吸引することによって溶剤を空気に置換した後に、再度溶剤を吸引流路内に供給して仕上げ洗浄を行うようにしたので、仕上げ洗浄を行う際には、吸引流路には洗浄工程で供給された溶剤が除去されており、外気に置換する残液吸引工程を介して間欠的に溶剤が吸引流路に供給される。これにより、吸引流路に連続的に溶剤を流して流路を洗浄する場合に比して、洗浄工程と仕上げ洗浄工程の両方の工程において吸引流路に供給される溶剤量を大幅に低減させ、吸引流路を清浄状態とすることができ、少量の溶剤使用量によりインクジェット記録装置の停止処理を行うことができる。
【0022】
吸引流路から液体を排出する際には、ノズルの噴出口から外気を導入することになる。噴出口の内径はガターの内径に比して小径となっており、吸引流路内には外気が入り難く、吸引流路を大気圧に近い圧力状態のもとで吸引する方が液体の吸引を迅速に行うことができる。吸引流路の残液除去と回収流路の残液除去とを交互に繰り返すことにより、回収流路の残液を除去しているときに吸引流路に外部から外気が導入されるので、間欠的に吸引流路の残液除去を行うと、連続的に吸引流路の残液を除去する方式に比して、除去時間を長くすることなく、吸引流路と回収流路とから残液を除去することができる。したがって、1つの回収ポンプにより吸引流路と回収流路内の残液を除去するようにしても、短時間で効率的に残液を除去して停止処理を行うことができる。
【0023】
インク供給流路に連痛するインク室と溶剤供給流路に連痛する溶剤室とが仕切り部材により仕切られた圧力チャンバーを流路に設けると、インク供給流路にインクを供給するための供給ポンプを利用して溶剤室に溶剤容器から供給された溶剤をノズルに供給することができるので、1つの供給ポンプによりインクの供給と溶剤の供給とを行うことができる。このような圧力チャンバーを用いると、吸引流路を負圧状態とすることにより、ノズルに溶剤を噴射させることなく、溶剤容器内の溶剤を溶剤室を介して吸引流路に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】コンベアにより搬送される被印字物に対して印字処理を行っている状態におけるインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示された印字ヘッドの内部構造を示す概略図である。
【図3】インクジェット記録装置の液体経路図である。
【図4】図3に示された圧力チャンバーの断面図である。
【図5】インクジェット記録装置の制御回路を示すブロック図である。
【図6】インクジェット記録装置の停止処理手順を示すフローチャートである。
【図7】印字操作が行われているときにおけるインクの流れを太線で示す液体経路図である。
【図8】ノズルと回収流路を洗浄するためにこれらの流路に溶剤を供給する溶剤供給工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図9】吸引流路の洗浄工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図10】吸引流路内の液体を空気に置換させる残液吸引洗浄工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図11】吸引流路に溶剤を再度供給する仕上げ洗浄工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図12】吸引流路の残液除去工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図13】回収流路の残液除去工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図14】インク供給流路における残圧開放工程におれる液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示されるように、インクジェット記録装置10は、正面に操作表示部11が設けられた装置本体12を有し、装置本体12には印字ヘッド13が導管14により接続されている。このインクジェット記録装置10は、例えば、図1に示されるように、食品や飲料等を生産する工場の生産ラインに据え付けられ、食品等の梱包物を印字対象物つまり被印字物Wとしてこれにマーキングを施すために使用される。装置本体12は使用者が操作できる位置となるように図示しない支持台の上に配置される。印字ヘッド13はベルトコンベア15により搬送される被印字物Wに近接されて設置され、矢印Tで示される方向に移動するベルトコンベア15上の被印字物Wにインクジェット記録装置10により印字作業が行われる。
【0026】
生産ラインとしてのベルトコンベア15には、ベルトコンベア15の搬送速度にかかわらず同じ幅で被印字物Wに印字するために、搬送速度に応じた信号を出力するエンコーダ16と、被印字物Wを検出してインクジェット記録装置10に対して印字開始を指示するための信号を出力する印字センサ17とが設けられており、エンコーダ16および印字センサ17はそれぞれ装置本体12内の制御部に信号線を介して接続されている。
【0027】
印字ヘッド13は、図2に示されるように、インク柱18を吐出するノズル20を有し、ノズル20には装置本体12内に配置された主インク容器22内のインクを供給するインク供給流路23が接続され、インク供給流路23には供給ポンプ24が設けられている。主インク容器22内のインクは、供給ポンプ24に吸引、加圧されてインク柱18となってノズル20の噴出口21から吐出される。ノズル20には電歪素子25が備えられており、インクには電歪素子25により所定の周波数で振動が加えられてノズル20の噴出口21から吐出されるインク柱18を粒子化するようになっている。これにより、生成されるインク粒子19の数は、電歪素子25に印加される励振電圧の周波数により決定され、その周波数と同数となる。
【0028】
ノズル20の前方には帯電電極26が配置されており、インク粒子19には印字情報に対応した大きさの電圧を帯電電極26に印加することによって電荷が与えられるようになっている。帯電電極26の前方には偏向電極27が配置されており、帯電電極26により帯電されたインク粒子19は、偏向電極27の間の電界中を飛翔している間に帯電量に比例した力を受けて偏向し、被印字物Wに向かって飛翔して被印字物Wに着弾する。その際に、インク粒子19は帯電量に応じて矢印Rで示す偏向方向の着弾位置が変化し、さらに偏向方向Rと直行する搬送方向Tにベルトコンベア15が被印字物Wを移動させることで、偏向方向と直行した方向にもインク粒子19を着弾させることが可能となり、複数の着弾粒子によって文字や図形が被印字物Wにマーキングされることになる。
【0029】
印字に使用されないインク粒子19を回収するために、ノズル20の噴出口21に対向して印字ヘッド13内にはガター28が配置されており、偏向電極27の間を偏向されずに直線的に飛翔するインク粒子19はガター28により捕捉される。捕捉されたインク粒子19は、回収流路29により主インク容器22に回収されるようになっている。
【0030】
図3に示されるように、装置本体12内には循環するインクを収容するために図2に示された主インク容器22が備えられており、主インク容器22には液面センサ30が設けられている。この液面センサ30によって主インク容器22内に収容された液体が適正量である基準液面レベルとなっているか否かが検出される。主インク容器22とノズル20との間に接続されたインク供給流路23には電磁弁31が設けられており、この電磁弁31によりインク供給流路23は開閉される。被印字物Wに対して印字処理を行う際には、インク供給流路23に設けられた供給ポンプ24を作動させ、電磁弁31を開放することにより、通常は電磁弁31を介してインク供給流路23によりノズル20に主インク容器22内のインクが供給される。主インク容器22と供給ポンプ24の流入口側との間にはバイパス流路32が接続されている。バイパス流路32には、この流路を開閉するための電磁弁33とインクの粘度を計測するための落下式粘度計である粘度計測器34とが設けられており、インク粘度測定を実施する際には、電磁弁33によりバイパス流路32を開放した状態のもとで、供給ポンプ24を作動させてバイパス流路32によりインクを吸引して測定対象であるインクをリフレッシュさせる。
【0031】
インク供給流路23には、供給ポンプ24により主インク容器22から供給されたインク中に混入している異物を除去するためのフィルタ35と、供給ポンプ24から供給されてノズル20に供給されるインクを印字に適した圧力に調整するための減圧弁36とが設けられている。装置本体12内には補充用のインクが充填された補助インク容器37が配置されるようになっている。補助インク容器37は、補充流路38を介してインク供給流路23に接続され、補充流路38にはこの流路を開閉する電磁弁39が設けられており、電磁弁39により補充流路38が開放された状態のもとで供給ポンプ24を駆動させると、補助インク容器37内のインクはインク供給流路23に供給される。
【0032】
一端にガター28が設けられた回収流路29の他端部は、主インク容器22に装着されるようになっており、回収流路29には回収ポンプ41が設けられている。回収ポンプ41を駆動することにより、ガター28により回収された液体は回収流路29を介して主インク容器22に回収される。回収流路29には、この流路を開閉する電磁弁42と、流路内を流れる液体に含まれる異物を除去するためのフィルタ43とが設けられている。
【0033】
装置本体12内には溶剤を収容する溶剤容器44が備えられており、溶剤はインクの粘度を調整するとともにインクジェット記録装置10を停止処理する際にノズル20等を洗浄するために使用される。一端部が溶剤容器44に装着される溶剤供給流路45は、インク供給流路23に設けられた3ポート電磁弁46を介してノズル20に接続されており、溶剤供給流路45を介して溶剤容器44内の溶剤はノズル20に供給されるようになっている。3ポート電磁弁46は、ノズル20に接続された二次側ポートと、2つの一次側ポートとを有し、一次側ポートの1つはインク供給流路23に接続され、他の一次側ポートは溶剤供給流路45に接続されている。図3に示されるように、インク供給流路23が接続される一次側ポートはコイルへの非通電時に閉じられるノーマルクローズのポートとなっており、溶剤供給流路45が接続される一次側ポートはコイルへの非通電時に二次側ポートに連通されるノーマルオープンのポートとなっている。したがって、3ポート電磁弁46は、インク供給流路23からノズル20に向けて二次側ポートにインクが供給される状態と、溶剤供給流路45からノズル20に向けて二次側ポートに溶剤が供給される状態とに流路を切り換える流路切換弁となっている。
【0034】
図3に示すように、インクジェット記録装置10は圧力容器つまり圧力チャンバー47を有している。圧力チャンバー47はインク供給流路23に連通するインク室48と、溶剤供給流路45に連通する溶剤室49とを備え、これらは仕切り部材50により仕切られている。
【0035】
図4は圧力チャンバー47を示す断面図である。図4に示されるように、圧力チャンバー47はハウジング51を有し、ハウジング51内はこれに取り付けられた弾性変形自在のダイヤフラムからなる仕切り部材50によりインク室48と溶剤室49とに仕切られている。インク室48に連通してハウジング51に形成された流入側ポート48aはインク供給流路23の上流側つまり供給ポンプ24側に接続され、流出側ポート48bはインク供給流路23の下流側つまりノズル20側に接続されている。溶剤室49に連通してハウジング51に形成された流入側ポート49aは溶剤供給流路45の上流側つまり溶剤容器44側に接続され、流出側ポート49bは溶剤供給流路45の下流側つまりノズル20側に接続されている。溶剤室49内には、溶剤室49の容積を拡大する方向に仕切り部材50に対して弾性力を加える圧縮コイルばね52がばね部材として組み込まれており、圧縮コイルばね52は仕切り部材50に当接するばね受け駒53とハウジング51の端壁面との間に配置されている。
【0036】
溶剤供給流路45には、図3に示されるように、圧力チャンバー47の上流側に逆止弁54が設けられており、この逆止弁54は溶剤容器44から圧力チャンバー47に向かう溶剤の流れを許容し、逆方向の流れを阻止する。溶剤供給流路45には、圧力チャンバー47の下流側に溶剤供給流路45を開閉する電磁弁55が設けられている。したがって、供給ポンプ24が稼働されない状態のもとでは、ばね部材としての圧縮コイルばね52の弾性力により、図4(A)に示されるように、溶剤室49の容積が広げられる。これにより、溶剤容器44内の溶剤は逆止弁54を介して溶剤室49内に吸引される。一方、供給ポンプ24を駆動させてインク室48をインクにより加圧して仕切り部材50を介して溶剤室49を加圧するとともに、電磁弁55を駆動させて溶剤供給流路45を開放させると、図4(B)に示されるように、溶剤室49は収縮する。これにより、インク室48内のインクはノズル20に向けて供給されることになる。
【0037】
このように、インク供給流路23に連通するインク室48と、溶剤供給流路45に連通する溶剤室49とを有する圧力チャンバー47を流路に設けることにより、供給ポンプ24によってインクの供給と、溶剤の供給とを兼用することができるので、溶剤供給流路45に供給ポンプを設ける形態に比してポンプの数を少なくすることができ、装置の小型化を達成することができる。
【0038】
圧力チャンバー47の溶剤室49は溶剤供給流路45と連通しているので、溶剤供給流路45と吸引流路56とが3ポート電磁弁46を介して連通している状態のもとで、回収ポンプ41を駆動すると、吸引流路56と溶剤供給流路45は負圧状態となるので、溶剤容器44内の溶剤が逆止弁54を通過して吸引流路56に向けて吸引されることになる。このときには、供給ポンプ24を駆動して溶剤室49内の溶剤をインク室48により加圧することなく、溶剤が吸引流路56に供給される。
【0039】
ノズル20の流入部と主インク容器22との間には、図3に示されるように、吸引流路56が設けられており、吸引流路56を構成する配管は、インク供給流路23,回収流路29および溶剤供給流路45をそれぞれ構成する配管とともに、図1に示すように、導管14に束ねられて装置本体12と印字ヘッド13との間に接続されている。
【0040】
この吸引流路56を介して補助インク容器37内のインクや溶剤容器44内の溶剤が主インク容器22内に供給されるとともに、ノズル20の噴出口21が詰まった際に吸引動作を行うことができる。吸引流路56にはこの流路を開閉する電磁弁57と、この流路内の流体の圧力を測定する圧力計58とが設けられている。吸引流路56は、接続部61で回収流路29に接続されており、回収流路29のうち接続部61から主インク容器22までの部分は、合流流路62となっている。回収ポンプ41は、回収流路29と吸引流路56とを形成する合流流路62に設けられているので、1つの回収ポンプ41により回収流路29の吸引と、吸引流路56の吸引とを兼用することができ、装置の小型化を達成することができる。
【0041】
このように、図3に示すインクジェット記録装置は、回収ポンプ41と供給ポンプ24の2つのポンプでインク供給流路23と回収流路29と溶剤供給流路45と吸引流路56へのインクや溶剤の供給を行うことができる。
【0042】
インク供給流路23の供給ポンプ24の下流側と回収ポンプ41との間には、残圧開放流路63が接続されており、この残圧開放流路63にはこれを開閉する電磁弁64が設けられている。これにより、インク供給流路23が加圧された状態のもとで電磁弁64を作動させて残圧開放流路63を開放すると、残圧開放流路63を介してインク供給流路23は主インク容器22と連通状態となり、インク供給流路23内の圧力は開放される。
【0043】
溶剤供給流路45の逆止弁54の上流側と回収ポンプ41との間には、溶剤補充流路65が接続されており、この溶剤補充流路65にはこれを開閉する電磁弁66が設けられている。この電磁弁66を開放し回収ポンプ41を駆動させると、溶剤容器44内の溶剤は回収ポンプ41により吸引されて溶剤補充流路65を介して主インク容器22内に供給される。
【0044】
図5はインクジェット記録装置10の制御回路70を示すブロック図であり、装置本体12内には、例えばマイクロプロセッサ(MPU)を有する制御部71が備えられている。制御部71にはバスライン72を介して操作表示部11が接続され、操作表示部11には、インクジェット記録装置10の作動状態が点灯表示されるとともに、操作表示部11に設けられたキーを操作することによって被印字物Wに対する印字文字の設定等の操作が行われる。制御部71には、エンコーダ16および印字センサ17の出力信号が入力され、これらの信号に基づいてノズル20,帯電電極26および偏向電極27に駆動信号が送られて、被印字物Wに対して所定のタイミングで印字操作が実行される。さらに、制御部71には液面センサ30,粘度計測器34および圧力計58が接続されており、これらの出力信号が制御部71に送られる。制御部71からは図3に示された8つの流路開閉用の電磁弁と、流路切換用の3ポート電磁弁46とに駆動信号が送られるとともに、供給ポンプ24と回収ポンプ41に駆動信号が送られる。記録部73には、インクジェット記録装置10を制御するためのプログラムが格納されており、制御部71は格納されたプログラムに基づいてインクジェット記録装置10を構成する各機器を制御する。
【0045】
図7は、上述したインクジェット記録装置10により図1に示す被印字物Wに対して印字操作が行われているときにおける主インク容器22内のインクと溶剤の流れを太線で示す液体経路図である。
【0046】
図7に示されるように、印字操作が行われるときには、3ポート電磁弁46に駆動信号を送ってインク供給流路23をノズル20に連通させるとともに電磁弁31に駆動信号を送ってインク供給流路23を開放状態とする。この状態のもとで供給ポンプ24と回収ポンプ41とを駆動すると、ノズル20の噴出口21からインクが噴出し、被印字物Wに対する印字操作が行われる。印字に使用されなかったインク粒子19はガター28により捕捉され、回収流路29に案内されて主インク容器22に送られる。このように印字操作が行われているときには、供給ポンプ24から吐出されるインクの圧力が圧力チャンバー47内のインク室48に加わるが、電磁弁55により溶剤供給流路45が閉じられているので、溶剤室49は、図4(A)に示されるように、膨張した状態となっており、最大容量の溶剤が溶剤室49内に充填された状態となっている。
【0047】
被印字物Wに対する印字操作が終了すると、インクジェット記録装置10を停止処理することになる。停止処理が行われるのは、生産ラインの終業時間のようにベルトコンベア15の作動を停止させたり、一時的にベルトコンベアを停止させたりして印字操作を終了させるときなどである。
【0048】
図6は停止処理手順のアルゴリズムを示すフローチャートである。図8〜図14は、停止処理の各工程におけるインクと溶剤の流れを太線で示す液体経路図である。
【0049】
停止処理の開始が入力されて図6に示すステップS1において停止処理の開始が判定されると、まず、ステップS2の溶剤供給洗浄工程が第1の停止処理工程として実行される。停止処理の開始は、操作表示部11に設けられたキーを作業者が操作したり、生産ラインの制御部から制御部71に指令信号が送られたりしたことを制御部71が判定することにより実行される。
【0050】
溶剤供給洗浄工程においては、図8に示されるように、3ポート電磁弁46に対する駆動信号の供給を停止する。これにより、インク供給流路23とノズル20との連通が遮断され、溶剤供給流路45がノズル20と連通状態となる。さらに、溶剤供給流路45に設けられた電磁弁55を駆動して溶剤供給流路45を開放させるとともに、供給ポンプ24を駆動すると、圧力チャンバー47内の溶剤室49内の溶剤がインク室48のインクにより加圧され、ノズル20に対する溶剤の供給が開始される。ノズル20に溶剤を供給する図8の工程に切り換えられた当初は、3ポート電磁弁46とノズル20との間に残ったインクが後方から加圧されて流入してくる溶剤に押し流される状態でノズル20からインクが噴出され続けるが、次第にノズル20から噴出される液体中に占めるインクの樹脂と染料の成分割合が低くなって、最終的にはほぼ完全に溶剤に切り換えられる。これがノズル20の内部を含む3ポート電磁弁46とノズル20の噴出口21との間の流域の洗浄が完了した状態である。この領域を清浄な状態まで洗浄しないと、残存したインクの固形成分によってノズル20先端の噴出口21が詰まってしまうこととなる。
【0051】
この溶剤供給洗浄工程においては、ノズル20から噴出した溶剤がガター28に捕捉されて回収流路29を介して主インク容器22に供給されるので、回収流路29の洗浄も同時に行われ、この工程はノズル20と回収流路29とを洗浄する工程となっている。回収流路29は噴出口21のような詰まり易い部位はないので、念入りに洗浄する必要はない。しかし、回収流路29にインク相と空気相が縞状に残存した状態のもとで、装置を停止状態として電磁弁42により流路が閉じられると、電磁弁42により装置本体12側で閉じられた回収流路29は、ガター28側が大気開放となっているため、装置が停止されているときに周囲の温度変化によるインク相および空気相の熱膨張や溶剤成分のガス化などによりインク相がガター28側に押し出されて最終的にガター28から流出し、ガター28の周辺をインクで汚すこととなる。
【0052】
したがって、残存液がないように回収流路29内の液体を吸引する必要があるが、インクの状態だと粘性が高く、また表面張力も高いので流路となる配管の内径壁に付着してしまう。その状態においては回収ポンプ41で吸引しようとしてもガター28から吸引した空気だけが液相を抜けて流れていくような状態となるため吸引することが困難である。これに対し、図8に示すように、ノズル20を洗浄する際にノズル20から噴出した溶剤をガター28から吸引し、回収流路29内のインクと混じり合いながら回収吸引すると、粘性および表面張力が低下したことにより回収流路29内の液体を吸引し易い状態とすることができる。
【0053】
ノズル20と回収流路29を洗浄する工程に次いで、吸引流路56を洗浄するために、図9に示されように、吸引流路56に溶剤を供給する吸引流路の洗浄工程が第2の停止処理工程として実行される。この工程においては、吸引流路56に設けられた電磁弁57を駆動して流路を開放すると、図9において太線で示すように溶剤が流れることになる。図9に示すように、この工程では、吸引流路56と回収流路29とに溶剤を供給するようにしているが、図9に示す第2の停止処理工程においては、電磁弁42により回収流路29を閉止して吸引流路56のみに溶剤を供給するようにしても良い。
【0054】
図9に示される第2の停止処理工程が実行されるまでの吸引流路56は、インクで満たされた状態となっているが、電磁弁57を開くことで溶剤供給流路45から吸引流路56に溶剤が流入し、流入してくる溶剤によりインクが次第に薄められることとなる。吸引流路56のノズル20に近い方の側から次第にインク濃度が薄められて、最終的には電磁弁57までの流路が清浄になった時点で電磁弁57を閉じて吸引流路56の洗浄を完了させるという方法がこれまで考えられていた洗浄方法であるが、この方法は多量の溶剤を消費することになる。
【0055】
吸引流路56の洗浄が不十分で吸引流路56にインク相と空気相が縞状に残存した状態で装置を停止状態ないし休止状態としてしまうと、吸引流路56の装置本体12側は電磁弁57により流路が封止され、ノズル20側が大気開放となっているため、休止中の周囲温度変化によるインク相および空気相の熱膨張や溶剤成分のガス化などによりインク相がガター28側に押し出されて最終的にはガター28から流出してガター28の周辺をインクで汚すこととなる。従って残存液がないように吸引流路56を吸引する必要があるが、インクの状態だと粘性が高く、また表面張力も高いので流路となる配管の内径壁で付着してしまう。その状態においては回収ポンプ41で吸引しようとしてもノズル20ら吸引した空気だけが液相を抜けて流れていくような状態となるため吸引することが困難である。
【0056】
これに対し、上述したように電磁弁57を開いて吸引流路56に溶剤を流して流路内のインクと混じり合いながら吸引すると、粘性および表面張力が低下したことにより吸引し易い状態となる。洗浄に使用する溶剤量を低減するために、図9に示す工程では、電磁弁57を開いて吸引流路56に流す溶剤量を制限するようにしている。吸引流路56の配管径やインク種類にもよるが、内径φ1mm、PTFE製の配管チューブの場合では、吸引流路56内を溶剤を流す処理のみで洗浄するようにした洗浄方法によると、最低約3mlもの多量の溶剤を使用していたのに対して電磁弁57を約1秒だけ開くことで、約0.5ml程度を流すことにより、次の第3の停止処理工程の実行と相まって吸引流路56内を洗浄できることが実験的に判明している。
【0057】
次いで、図10に示す残液吸引洗浄が第3の停止処理工程として実行される。このときには、図9に示す状態から溶剤供給流路45を電磁弁55により閉止して3ポート電磁弁46の1次側から2次側へはインクも溶剤も供給されない状態として、ノズル20の噴出口21から外気を吸引して吸引流路56内に空気を流して残液を吸引する。このときには、回収流路29は電磁弁42により流路が閉止される。これにより、吸引流路56内のインクを含む溶剤は外気に置き換えられることになる。
【0058】
図10に示す残液吸引工程が終了した後には、図11に示す仕上げ洗浄工程が第4の停止処理工程として実行される。この仕上げ洗浄工程においては、図11に示されるように、図10の状態から溶剤供給流路45の電磁弁55を短時間開いて吸引流路56に再度溶剤を流すようにする。この時には、供給ポンプ24の駆動による溶剤室49の収縮動作を行うことなく、回収ポンプ41を駆動して吸引流路56を吸引すると、溶剤容器44内の溶剤が逆止弁54を介して吸引流路56に向かうことになり、溶剤がノズル20から噴出することがない。この時に流す溶剤量は、図10の残液吸引工程において吸引流路56内が外気に置き換えられた状態のもとで溶剤が供給されるので、極少量で十分であり、0.2〜0.3ml程度で良い。
【0059】
これまで考えられていた吸引流路56の洗浄方法は、上述のように吸引流路56内の洗浄が完了するまで溶剤を連続的に流す方法であった。これに対し、図9に示す工程で吸引流路56内に溶剤を供給した後に、図10に示す残液吸引洗浄工程により吸引流路56内の液体を外気に置き換え、再度、図11に示す仕上げ洗浄工程により溶剤を吸引流路56に供給するようにすると、図9に示す工程で吸引流路56に供給する溶剤の量と、図11に示す仕上げ洗浄工程で吸引流路56に供給する溶剤の量との合計の溶剤使用量は、上述のように溶剤を連続的に流して吸引流路56内を洗浄する方式に比して大幅に低減することができた。
【0060】
上述したように連続的に吸引流路56に溶剤を流す方法では、最低3mlもの溶剤を供給する必要があったのに対し、本発明のように、2回の溶剤供給工程の間に吸引流路56内の液体を排出する工程を実行するようにし、溶剤供給を残液吸引工程を介して間欠的に行うことにより、極めて少量の溶剤により吸引流路56を清浄な状態にすることができた。つまり、本発明の停止処理方法においては、図9に示す吸引流路56の洗浄工程において0.5ml程度の溶剤を吸引流路56に流し、図10に示す残液吸引洗浄により溶剤を排出して外気を取り込んで液体を空気に置換した後に、再度図11に示す仕上げ洗浄工程で0.2〜0.3ml程度の溶剤を供給するという外気置換工程を介する間欠的な溶剤供給方式とすることによって吸引流路56を清浄にすることができた。
【0061】
図9に示すように吸引流路56に溶剤を供給する洗浄工程においては、溶剤の供給量が少ないので、少量ながらも吸引流路56の配管内面に付着した液滴は吸引排除することができない。しかしながら、吸引流路56内を外気に置換した後に、再度溶剤を供給するようにすると、配管内面に付着残留して内面に露出した状態となっている液滴を、再度供給される溶剤が掻き落とすように作用することから、少ない溶剤供給量で確実に吸引流路56内を清浄化することができるのであると考えられる。
【0062】
図8に示すように、溶剤をノズル20と回収流路29に供給してこれらを洗浄する際には、供給ポンプ24を駆動して圧力チャンバー47のインク室48により溶剤室49を圧縮コイルばねによる弾性力に抗して加圧することにより、溶剤室49内の溶剤をノズル20と回収流路29とに供給するようにしている。一方、図11に示す仕上げ洗浄工程においては、回収ポンプ41を駆動して吸引流路56を負圧状態とすることにより、溶剤室49を介して溶剤容器44内の溶剤を吸引流路56に供給するようにしているので、このときに3ポート電磁弁46を通過した溶剤は、ノズル20から噴出することがなく、印字ヘッド13内に溶剤が飛散することが防止される。吸引流路56を負圧状態とすると、ノズル20の噴出口21からも外気が入り込むことになるが、噴出口21の内径は溶剤供給流路45の内径よりもかなり小径となっているので、吸引流路56を負圧状態とすると、溶剤供給流路45内の溶剤は確実に吸引流路56内に導入される。
【0063】
図9に示す吸引流路56の洗浄工程においては、回収流路29にまで溶剤を供給するために、圧力チャンバー47の溶剤室49を供給ポンプ24により加圧する必要があるが、この工程において吸引流路56のみを洗浄するのであれば、図11に示す仕上げ洗浄工程と同様に、吸引流路56を回収ポンプ41により吸引することによっても吸引流路56の洗浄を行うことができる。
【0064】
図8に示す溶剤供給洗浄工程から図11に示す仕上げ洗浄工程によって、回収流路29と吸引流路56との洗浄が終了した後には、回収流路29と吸引流路56とに残った残液を除去することになる。その際には、まず、図12に示す吸引流路の残液処理が第5の停止処理工程として実行され、図13に示す回収流路の残液処理が第6の停止処理工程として実行され、図6のステップS6〜S8に示すように、これらの処理が複数回繰り返される。
【0065】
図12に示すように、溶剤供給流路45を電磁弁55により閉止すると、回収ポンプ41によりノズル20の噴出口21から外気が流入し吸引流路56内の残液が除去される。一方、図13に示すように吸引流路56を電磁弁57により閉止し、回収流路29を電磁弁42により開放すると、回収ポンプ41によりガター28から外気が流入して回収流路29内の残液が除去される。
【0066】
吸引流路56と回収流路29をそれぞれ別々の吸引ポンプにより残液を除去するようにした形態のインクジェット記録装置においては、別々の吸引ポンプによって残液を除去することになる。これに対し、図示するインクジェット記録装置10においては、吸引流路56と回収流路29はそれぞれ合流流路62に設けられた回収ポンプ41により残液除去を行うことになるので、1つの回収ポンプ41によって吸引流路56と回収流路29の両方の流路内の残液を吸引することになる。
【0067】
このため、吸引流路56を開閉する電磁弁57と、回収流路29を開閉する電磁弁42の両方を開いた状態で両方の流路を同時に吸引しようとすると、それぞれ独立した別々のポンプで吸引する形態と比較して、各流路を流れる流量が少なくなり吸引効率が低下する。各流路に配置された電磁弁57、42を切り換えて1つの回収ポンプ41で一方の流路のみを吸引し、吸引終了後に別の流路の吸引を単独でおこなえば求める吸引は行えるが、1流路毎にしか吸引できないため結局は停止処理時間が長くなってしまうことになる。
【0068】
そこで、停止処理時間を延長することなく効率よく吸引流路56と回収流路29の残液を吸引するには、例えば図11に示す仕上げ洗浄が終了した後、回収流路29に設けられた電磁弁42と吸引流路56に設けられた電磁弁57との一方のみを選択的に開放させて回収ポンプ41には1つの流路のみを吸引させる状態を交互に複数回数切り換えるようにして残液処理を行う。このようにして残液処理を行うと、吸引流路56の残液が吸引されている状態では吸引流路56内は大気圧以下の負圧状態となっていて、吸引状態が停止されてもノズル20からの吸引状態は流路内が大気圧になるまで継続されるため、回収流路29を吸引している間においても吸引流路56の吸引動作が継続されるので、実質的には両方の流路を同時に吸引することとなる。回収流路29においてはノズル20と比してガター28部の開口面積がかなり大きいため、吸引状態における回収流路29の中の負圧は高まらず、吸引停止後すぐに大気圧まで戻ってしまうため、吸引流路56だけを吸引している状態では回収流路29の負圧による残圧吸引はできない。
【0069】
吸引流路56内の残液を除去するには、図12に示すように、溶剤供給流路45を電磁弁55により閉じる。これにより、3ポート電磁弁46の一次側から二次側へはインクも溶剤も供給されない状態となり、回収流路29を電磁弁42により閉止した状態に保持し、吸引流路56だけが回収ポンプ41によって吸引されている状態とする。この時には、ノズル20の噴出口21が65μm程度と小さいオリフィスになっていることから、回収ポンプ41の吸引能力に対して実際に噴出口21から吸引される外気量が少なくなるため吸引流路56における回収ポンプ41付近の負圧(真空度)が高くなっているのに対して、噴出口側は大気開放のため大気圧になっているので吸引流路56の両端で見ると大きな差圧が発生することとなる。この吸引状態は前記差圧が最大になるまで継続して、それ以上差圧が大きくならない状態になったら、図13に示す回収流路の残液除去工程を実行するようにする。差圧が最大になるまでの時間はポンプ特性に影響されるが通常インクジェット記録装置の回収ポンプ41であれば5秒以下の短時間で最大となる。差圧が予め定められた値に到達したかは、吸引流路56に配置された圧力計58の出力から判定することが可能であり、予め定められた差圧に到達したことを検出するか、それに相当する時間が経過したら回収流路29の残液除去工程へ移行するよう制御部71からの信号により電磁弁42,57を制御する。
【0070】
回収流路29の残液除去工程においては、吸引流路56を電磁弁57により閉止して回収流路29を電磁弁42により開放する。その状態においては、回収流路29の吸引が回収ポンプ41により行われるとともに、前述したように吸引流路56においては残った差圧によりノズル20の噴出口21から外気が吸引し続けられる。外気を吸引するにつれて吸引流路56の差圧は小さくなると、吸引流路56内への外気の流入量は低下して最終的に差圧が0となり流れはなくなる。
【0071】
図13に示した回収流路29の残液除去を開始してから、吸引流路56内の吸引流量が0になるまでの時間は、噴出口21の径によって変化するが例えば65μmのノズルにおいては約10〜15秒となる。また、差圧が低下したことは吸引流路56に配置された圧力計58の出力から判定することが可能であり、差圧低下を検出したら再度図12に示す吸引流路の残液除去工程へ移行するよう制御する。
【0072】
吸引流路56と回収流路29の残液が十分吸引されるまで図12に示す残液処理工程と図13に示す残液処理工程とが交互に繰り返される。繰り返し処理を行うことによって、回収ポンプ41により連続的に吸引流路56内の液体を除去する際の処理時間に近い時間で、回収流路29内の残液も除去することができる。この繰り返し回数は、予め実験により求められて記録部73に格納されている。設定された回数の繰り返し処理が終了したら、図14に示す残圧開放工程に移行されてインク供給流路23内の残圧が開放される。残圧開放工程においては、図14に示すように、残圧開放流路63を電磁弁64により数秒間開放することにより、インク供給流路23内の残圧が開放される。
【0073】
このようにして一連の停止処理工程が実行されたら、図3に示すように、インクジェット記録装置10は、停止状態に移行することになる。
【0074】
上記した停止処理に加えて、停止処理時間を延長することなく効率よく吸引流路56および回収流路29の残液を吸引することによりポンプ数量を削減するための手段としては、例えば印字中(インク噴出中)における回収ポンプ41の回転数に対して停止処理中(吸引中)における回収ポンプ41の回転数を大きくするようにする。ポンプ回転数を常時大きくしてしまうと、ポンプ寿命が短くなるだけでなく印字中に多量の空気をガター28から吸引することによりインク中の溶剤成分が多量に揮発してランニングコストが増大することとなる。したがって、停止処理中のみポンプ回転数を大きくすることで上記問題を解決することができる。回収ポンプ41の回転数を相違させるためには、回収ポンプ41を駆動するモータを、例えばPWM制御により回転数を制御できるDCブラシレスモータを用いるようにする。
【0075】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。たとえば、インクジェット記録装置10は、図1に示す場合にはベルトコンベアを搬送される被印字物に対して文字等を印字するために使用されているが、印字ヘッドを移動させて被印字物に文字等を印字する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
10…インクジェット記録装置、11…操作表示部、12…装置本体、13…印字ヘッド、14…導管、15…ベルトコンベア、16…エンコーダ、17…印字センサ、18…インク柱、19…インク粒子、20…ノズル、21…噴出口、22…主インク容器、23…インク供給流路、24…供給ポンプ、25…電歪素子、26…帯電電極、27…偏向電極、28…ガター、29…回収流路、30…液面センサ、31…電磁弁、32…バイパス流路、33…電磁弁、34…粘度計測器、35…フィルタ、36…減圧弁、37…補助インク容器、38…補充流路、39…電磁弁、41…回収ポンプ、42…電磁弁、43…フィルタ、44…溶剤容器、45…溶剤供給流路、46…3ポート電磁弁、47…圧力チャンバー、48…インク室、49…溶剤室、50…仕切り部材、51…ハウジング、52…圧縮コイルばね、53…ばね受け駒、54…逆止弁、55…電磁弁、56…吸引流路、57…電磁弁、58…圧力計、62…合流流路、63…残圧開放流路、64…電磁弁、65…溶剤補充流路、66…電磁弁、70…制御回路、71…制御部、72…バスライン、73…記録部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置の稼働を停止する際に流路内に残存するインクを洗浄するためのインクジェット記録装置の停止処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造ラインの搬送装置により搬送される製品を被印字物としてこれに文字や図形を印字つまりマーキングするためのインクジェット記録装置としては、印字ヘッドのノズルを被印字物に接触させることなく、インクを被印字物に向けてノズルから飛翔させるようにした非接触式のものが使用されている。例えば、商品が梱包されたダンボール箱等の梱包材の表面に文字等を印字する場合には、コンベアにより搬送しながら梱包材の外面にインクジェット記録装置により印字しており、飲食物が収容された容器に印字する場合もコンベアにより搬送しながら容器の外面に印字を行うようにしている。
【0003】
一方、上述のように、被印字物を移動させながら印字を行う場合には印字ヘッドを停止させているのに対し、印字が行われるときにコンベアを停止させた状態のもとで被印字物に印字する際には印字ヘッドを被印字物に沿って移動させることになる。例えば、集合プリント基板の複数箇所に印字する場合には、コンベアを停止させた状態のもとで印字ヘッドをプリント基板に沿って二次元方向に移動させて印字を行っている。
【0004】
印字ヘッドには、ノズルから噴出されたインク粒子に印字情報に応じた電荷量を帯電させる帯電電極と、帯電されたインク粒子を偏向させる偏向電極とが設けられており、印字に使用されないインクを回収するためにノズルに対向してガターが配置されている。ノズルにはインク容器内のインクを供給するインク供給流路が接続され、ガターにより回収されたインクをインク容器に回収する回収流路がガターとインク容器との間に接続されている。ノズル内に外気を吸引してノズルの目詰まりを防止するために、ノズルの流入部とインク容器との間には吸引流路が接続されている。さらに、ノズルや上述したそれぞれの流路を洗浄するために溶剤容器とノズルとの間には溶剤供給流路が接続されている。
【0005】
インクジェット記録装置は、インク容器や溶剤容器等が組み込まれた装置本体を有しており、装置本体にはそれぞれの流路を形成するホース等の配管を有する導管により印字ヘッドが接続されている。従来のインクジェット記録装置としては、特許文献1,2に記載されるように、インク供給流路と回収流路と吸引流路と溶剤供給流路のそれぞれにポンプが設けられたタイプがある。特許文献2に記載されるインクジェット記録装置においては、4つのポンプを一体的なポンプユニットとして装置本体に着脱可能としている。
【0006】
特許文献3および特許文献4に記載されるインクジェット記録装置は、吸引流路と回収流路とを1つのポンプで作動させるようにしており、インク供給用のポンプと溶剤供給用のポンプを含めて3つのポンプを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−337882号公報
【特許文献2】特開2007−190725号公報
【特許文献3】特開平8−258287号公報
【特許文献4】特開2001−71532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクジェット記録装置では揮発性の高い有機溶剤を溶媒として、これに樹脂や染料を溶解したインクを装置内で循環させているので、装置の稼働を停止する際には、装置内における溶剤をノズル内部や各流路に循環させてインク中の樹脂や染料といった固形分を溶解除去するようにしている。これにより、装置の稼働停止中にノズル内部や各流路内に、残存したインク中の固形分が固着することを防止し、装置を正常に再稼働させることができる。
【0009】
従来のインクジェット記録装置においては、特許文献4に記載されるように、溶剤を循環させることによりノズル内部や各流路内からインク固形分を除去するようにしている。したがって、洗浄に時間をかけて溶剤を多く使用して洗浄すればするほど、インク固形分を除去することができるが、溶剤を多く使用すると、ランニングコストが増加するだけでなく、装置内を循環しているインクの濃度を低下させることになり、装置の安定した稼働の確保が困難となるという問題点がある。このため、溶剤の使用量を少なくして効率的に洗浄する技術が検討されている。
【0010】
吸引流路の一端はノズルの噴出口に連通して大気に開放され、吸引流路の他端側には流路を開閉するための電磁弁が設けられている。回収流路の一端はガターに連通して大気に開放されており、回収流路の他端側には流路を開閉するための電磁弁が設けられている。したがって、吸引流路や回収流路にインクや溶剤等の液体が残った状態で装置が放置されると、放置中の周囲温度の変化によって残った液体の熱膨張や気相である空気の熱膨張によってノズルやガター等のように大気開放となる部分に向けて液体が移動し、開口部から液体が染み出してくる現象が発生することになる。
【0011】
染み出した液体がインク、またはインクを含んだ溶剤である場合には、染み出した後に溶剤成分が大気中に揮発し、残ったインク固形分が固化して開口部を塞いでしまうので、インクジェット記録装置を再稼働させる前に予め固化したインク固形分を洗浄する必要がある。このため、再稼働時に非常に手間を要するだけでなく、洗浄液の消費量が多くなり、装置のランニングコストが高くなるという問題点がある。
【0012】
染み出す液体に含まれるインク固形分の量がノズルやガターの開口部を塞ぐことがない程度に少量であれば上述したような問題は発生しないが、そのためにはインクジェット記録装置の稼働を停止する際に、多量の溶剤を消費して吸引流路や回収流路を洗浄する必要があり、結果としてランニングコストが増大するだけでなく、停止の度に装置内のインクを多量の溶剤で希釈してしまうことになり、印字品質に悪影響を及ぼすことになる。また、吸引流路や回収流路内の液体を全て吸引して除去するようにすれば、液体が開口部から染み出すことは無くなるが、全ての液体を吸引するには吸引に時間がかかるため、停止処理時間が長くなってしまう。
【0013】
吸引流路を開閉する電磁弁や回収流路を開閉する電磁弁を、ノズルやガターが設けられている印字ヘッドに組み込むようにすれば、洗浄すべき流路が短くなるので、使用する溶剤量を低減することかできるが、印字ヘッドに電磁弁を組み込むようにすると、印字ヘッドの大型化が避けられず、印字ヘッドの設置性が極めて悪くなるという問題点がある。
【0014】
インクジェット記録装置は、生産ライン周辺の限られたスペースに設置されるので、装置の小型化が求められている。従来のようにインク供給流路と、回収流路と、吸引流路と、溶剤供給流路とにそれぞれポンプを設けるようにすると、これらのポンプを設置するスペースが必要なことから、装置の小型化が困難であった。
【0015】
一方、吸引流路と回収流路とを合流流路に接続するようにし、合流流路に設けられた吸引ポンプにより吸引ポンプと回収ポンプとを統合するようにすれば、ポンプの数を低減することができる。しかしながら、停止処理を行う際に、吸引流路と回収流路とを同時に吸引すると、それぞれ別々の独立したポンプで吸引する場合と比較して各流路を流れる液体の流量が少なくなり、吸引効率が低下することになる。各流路に電磁弁を設けて電磁弁の切換により1つのポンプで一方の流路のみを吸引し、吸引後に他の流路の吸引を単独で行えば、求める吸引を行うことができるが、1つの流路毎にしか吸引できないので、結果的には停止処理時間が長くなるという問題点がある。
【0016】
本発明の目的は、少量の溶剤使用量によりインクジェット記録装置の停止処理を行い得るようにすることにある。
【0017】
本発明の他の目的は、インクジェット記録装置を短時間で効率的に停止処理し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、インク容器とノズルとの間に接続され前記インク容器内のインクを前記ノズルに向けて供給するインク供給流路と、溶剤容器と前記ノズルとの間に接続され溶剤を前記ノズルに供給する溶剤供給流路と、印字に使用されなかったインクを回収するガターと前記インク容器との間に接続され前記ガターにより回収された液体を前記インク容器に回収する回収流路と、前記ノズルの流入部と前記インク容器との間に接続され液体を前記インク容器に案内する吸引流路とを有するインクジェット記録装置の停止処理方法であって、前記ノズルからインクを噴射している印字状態から前記ノズルへのインクの供給を停止する際に、前記吸引流路に前記溶剤供給流路から溶剤を供給する吸引流路の洗浄工程と、前記吸引流路内に前記ノズルから外気を吸引して前記吸引流路内に空気を流して前記吸引流路内の溶剤を前記インク容器に送る残液吸引工程と、前記吸引流路内が溶剤から空気に置換された状態のもとで、前記溶剤供給流路から前記吸引流路内に溶剤を流す仕上げ洗浄工程とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記溶剤供給流路から前記ノズルと前記回収流路に溶剤を供給して前記ノズルと前記回収流路とを洗浄する溶剤供給洗浄工程と、前記吸引流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る吸引流路の残液除去工程と、前記回収流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る回収流路の残液除去工程とを交互に複数回繰り返すことを特徴とする。本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記吸引流路内の圧力を検出して圧力値に基づいて前記吸引流路の残液除去工程から前記回収流路の残液除去工程に切り換えることを特徴とする。本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記回収流路の液体を吸引する回収ポンプの回転数を、印字動作時に前記回収流路を介して使用されなかったインクを回収する際における回転数よりも停止処理時における回転数を増加させることを特徴とする。
【0020】
本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給する際には、前記溶剤供給流路に連通するとともに容積を拡大する方向の弾性力が加えられた溶剤室と、当該溶剤室と仕切られるとともに前記インク供給流路に連通するインク室とを有する圧力チャンバーにおける前記インク室を前記弾性力に抗して加圧して前記溶剤室内の溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給し、前記溶剤を前記吸引流路に供給する際には、前記吸引流路を吸引することにより前記溶剤室を介して前記溶剤容器内の溶剤を前記吸引流路に供給することを特徴とする。本発明のインクジェット記録装置の停止処理方法は、前記回収流路と前記吸引流路とを合流させて前記インク容器に接続される合流流路に設けられた回収ポンプにより前記回収流路と前記吸引流路とを吸引作動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、停止処理を行う際に溶剤を吸引流路に供給して吸引流路を洗浄し、洗浄に使用された溶剤をノズルから吸引流路内に外気を吸引することによって溶剤を空気に置換した後に、再度溶剤を吸引流路内に供給して仕上げ洗浄を行うようにしたので、仕上げ洗浄を行う際には、吸引流路には洗浄工程で供給された溶剤が除去されており、外気に置換する残液吸引工程を介して間欠的に溶剤が吸引流路に供給される。これにより、吸引流路に連続的に溶剤を流して流路を洗浄する場合に比して、洗浄工程と仕上げ洗浄工程の両方の工程において吸引流路に供給される溶剤量を大幅に低減させ、吸引流路を清浄状態とすることができ、少量の溶剤使用量によりインクジェット記録装置の停止処理を行うことができる。
【0022】
吸引流路から液体を排出する際には、ノズルの噴出口から外気を導入することになる。噴出口の内径はガターの内径に比して小径となっており、吸引流路内には外気が入り難く、吸引流路を大気圧に近い圧力状態のもとで吸引する方が液体の吸引を迅速に行うことができる。吸引流路の残液除去と回収流路の残液除去とを交互に繰り返すことにより、回収流路の残液を除去しているときに吸引流路に外部から外気が導入されるので、間欠的に吸引流路の残液除去を行うと、連続的に吸引流路の残液を除去する方式に比して、除去時間を長くすることなく、吸引流路と回収流路とから残液を除去することができる。したがって、1つの回収ポンプにより吸引流路と回収流路内の残液を除去するようにしても、短時間で効率的に残液を除去して停止処理を行うことができる。
【0023】
インク供給流路に連痛するインク室と溶剤供給流路に連痛する溶剤室とが仕切り部材により仕切られた圧力チャンバーを流路に設けると、インク供給流路にインクを供給するための供給ポンプを利用して溶剤室に溶剤容器から供給された溶剤をノズルに供給することができるので、1つの供給ポンプによりインクの供給と溶剤の供給とを行うことができる。このような圧力チャンバーを用いると、吸引流路を負圧状態とすることにより、ノズルに溶剤を噴射させることなく、溶剤容器内の溶剤を溶剤室を介して吸引流路に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】コンベアにより搬送される被印字物に対して印字処理を行っている状態におけるインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示された印字ヘッドの内部構造を示す概略図である。
【図3】インクジェット記録装置の液体経路図である。
【図4】図3に示された圧力チャンバーの断面図である。
【図5】インクジェット記録装置の制御回路を示すブロック図である。
【図6】インクジェット記録装置の停止処理手順を示すフローチャートである。
【図7】印字操作が行われているときにおけるインクの流れを太線で示す液体経路図である。
【図8】ノズルと回収流路を洗浄するためにこれらの流路に溶剤を供給する溶剤供給工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図9】吸引流路の洗浄工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図10】吸引流路内の液体を空気に置換させる残液吸引洗浄工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図11】吸引流路に溶剤を再度供給する仕上げ洗浄工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図12】吸引流路の残液除去工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図13】回収流路の残液除去工程における液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【図14】インク供給流路における残圧開放工程におれる液体の流れを太線で示す液体経路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示されるように、インクジェット記録装置10は、正面に操作表示部11が設けられた装置本体12を有し、装置本体12には印字ヘッド13が導管14により接続されている。このインクジェット記録装置10は、例えば、図1に示されるように、食品や飲料等を生産する工場の生産ラインに据え付けられ、食品等の梱包物を印字対象物つまり被印字物Wとしてこれにマーキングを施すために使用される。装置本体12は使用者が操作できる位置となるように図示しない支持台の上に配置される。印字ヘッド13はベルトコンベア15により搬送される被印字物Wに近接されて設置され、矢印Tで示される方向に移動するベルトコンベア15上の被印字物Wにインクジェット記録装置10により印字作業が行われる。
【0026】
生産ラインとしてのベルトコンベア15には、ベルトコンベア15の搬送速度にかかわらず同じ幅で被印字物Wに印字するために、搬送速度に応じた信号を出力するエンコーダ16と、被印字物Wを検出してインクジェット記録装置10に対して印字開始を指示するための信号を出力する印字センサ17とが設けられており、エンコーダ16および印字センサ17はそれぞれ装置本体12内の制御部に信号線を介して接続されている。
【0027】
印字ヘッド13は、図2に示されるように、インク柱18を吐出するノズル20を有し、ノズル20には装置本体12内に配置された主インク容器22内のインクを供給するインク供給流路23が接続され、インク供給流路23には供給ポンプ24が設けられている。主インク容器22内のインクは、供給ポンプ24に吸引、加圧されてインク柱18となってノズル20の噴出口21から吐出される。ノズル20には電歪素子25が備えられており、インクには電歪素子25により所定の周波数で振動が加えられてノズル20の噴出口21から吐出されるインク柱18を粒子化するようになっている。これにより、生成されるインク粒子19の数は、電歪素子25に印加される励振電圧の周波数により決定され、その周波数と同数となる。
【0028】
ノズル20の前方には帯電電極26が配置されており、インク粒子19には印字情報に対応した大きさの電圧を帯電電極26に印加することによって電荷が与えられるようになっている。帯電電極26の前方には偏向電極27が配置されており、帯電電極26により帯電されたインク粒子19は、偏向電極27の間の電界中を飛翔している間に帯電量に比例した力を受けて偏向し、被印字物Wに向かって飛翔して被印字物Wに着弾する。その際に、インク粒子19は帯電量に応じて矢印Rで示す偏向方向の着弾位置が変化し、さらに偏向方向Rと直行する搬送方向Tにベルトコンベア15が被印字物Wを移動させることで、偏向方向と直行した方向にもインク粒子19を着弾させることが可能となり、複数の着弾粒子によって文字や図形が被印字物Wにマーキングされることになる。
【0029】
印字に使用されないインク粒子19を回収するために、ノズル20の噴出口21に対向して印字ヘッド13内にはガター28が配置されており、偏向電極27の間を偏向されずに直線的に飛翔するインク粒子19はガター28により捕捉される。捕捉されたインク粒子19は、回収流路29により主インク容器22に回収されるようになっている。
【0030】
図3に示されるように、装置本体12内には循環するインクを収容するために図2に示された主インク容器22が備えられており、主インク容器22には液面センサ30が設けられている。この液面センサ30によって主インク容器22内に収容された液体が適正量である基準液面レベルとなっているか否かが検出される。主インク容器22とノズル20との間に接続されたインク供給流路23には電磁弁31が設けられており、この電磁弁31によりインク供給流路23は開閉される。被印字物Wに対して印字処理を行う際には、インク供給流路23に設けられた供給ポンプ24を作動させ、電磁弁31を開放することにより、通常は電磁弁31を介してインク供給流路23によりノズル20に主インク容器22内のインクが供給される。主インク容器22と供給ポンプ24の流入口側との間にはバイパス流路32が接続されている。バイパス流路32には、この流路を開閉するための電磁弁33とインクの粘度を計測するための落下式粘度計である粘度計測器34とが設けられており、インク粘度測定を実施する際には、電磁弁33によりバイパス流路32を開放した状態のもとで、供給ポンプ24を作動させてバイパス流路32によりインクを吸引して測定対象であるインクをリフレッシュさせる。
【0031】
インク供給流路23には、供給ポンプ24により主インク容器22から供給されたインク中に混入している異物を除去するためのフィルタ35と、供給ポンプ24から供給されてノズル20に供給されるインクを印字に適した圧力に調整するための減圧弁36とが設けられている。装置本体12内には補充用のインクが充填された補助インク容器37が配置されるようになっている。補助インク容器37は、補充流路38を介してインク供給流路23に接続され、補充流路38にはこの流路を開閉する電磁弁39が設けられており、電磁弁39により補充流路38が開放された状態のもとで供給ポンプ24を駆動させると、補助インク容器37内のインクはインク供給流路23に供給される。
【0032】
一端にガター28が設けられた回収流路29の他端部は、主インク容器22に装着されるようになっており、回収流路29には回収ポンプ41が設けられている。回収ポンプ41を駆動することにより、ガター28により回収された液体は回収流路29を介して主インク容器22に回収される。回収流路29には、この流路を開閉する電磁弁42と、流路内を流れる液体に含まれる異物を除去するためのフィルタ43とが設けられている。
【0033】
装置本体12内には溶剤を収容する溶剤容器44が備えられており、溶剤はインクの粘度を調整するとともにインクジェット記録装置10を停止処理する際にノズル20等を洗浄するために使用される。一端部が溶剤容器44に装着される溶剤供給流路45は、インク供給流路23に設けられた3ポート電磁弁46を介してノズル20に接続されており、溶剤供給流路45を介して溶剤容器44内の溶剤はノズル20に供給されるようになっている。3ポート電磁弁46は、ノズル20に接続された二次側ポートと、2つの一次側ポートとを有し、一次側ポートの1つはインク供給流路23に接続され、他の一次側ポートは溶剤供給流路45に接続されている。図3に示されるように、インク供給流路23が接続される一次側ポートはコイルへの非通電時に閉じられるノーマルクローズのポートとなっており、溶剤供給流路45が接続される一次側ポートはコイルへの非通電時に二次側ポートに連通されるノーマルオープンのポートとなっている。したがって、3ポート電磁弁46は、インク供給流路23からノズル20に向けて二次側ポートにインクが供給される状態と、溶剤供給流路45からノズル20に向けて二次側ポートに溶剤が供給される状態とに流路を切り換える流路切換弁となっている。
【0034】
図3に示すように、インクジェット記録装置10は圧力容器つまり圧力チャンバー47を有している。圧力チャンバー47はインク供給流路23に連通するインク室48と、溶剤供給流路45に連通する溶剤室49とを備え、これらは仕切り部材50により仕切られている。
【0035】
図4は圧力チャンバー47を示す断面図である。図4に示されるように、圧力チャンバー47はハウジング51を有し、ハウジング51内はこれに取り付けられた弾性変形自在のダイヤフラムからなる仕切り部材50によりインク室48と溶剤室49とに仕切られている。インク室48に連通してハウジング51に形成された流入側ポート48aはインク供給流路23の上流側つまり供給ポンプ24側に接続され、流出側ポート48bはインク供給流路23の下流側つまりノズル20側に接続されている。溶剤室49に連通してハウジング51に形成された流入側ポート49aは溶剤供給流路45の上流側つまり溶剤容器44側に接続され、流出側ポート49bは溶剤供給流路45の下流側つまりノズル20側に接続されている。溶剤室49内には、溶剤室49の容積を拡大する方向に仕切り部材50に対して弾性力を加える圧縮コイルばね52がばね部材として組み込まれており、圧縮コイルばね52は仕切り部材50に当接するばね受け駒53とハウジング51の端壁面との間に配置されている。
【0036】
溶剤供給流路45には、図3に示されるように、圧力チャンバー47の上流側に逆止弁54が設けられており、この逆止弁54は溶剤容器44から圧力チャンバー47に向かう溶剤の流れを許容し、逆方向の流れを阻止する。溶剤供給流路45には、圧力チャンバー47の下流側に溶剤供給流路45を開閉する電磁弁55が設けられている。したがって、供給ポンプ24が稼働されない状態のもとでは、ばね部材としての圧縮コイルばね52の弾性力により、図4(A)に示されるように、溶剤室49の容積が広げられる。これにより、溶剤容器44内の溶剤は逆止弁54を介して溶剤室49内に吸引される。一方、供給ポンプ24を駆動させてインク室48をインクにより加圧して仕切り部材50を介して溶剤室49を加圧するとともに、電磁弁55を駆動させて溶剤供給流路45を開放させると、図4(B)に示されるように、溶剤室49は収縮する。これにより、インク室48内のインクはノズル20に向けて供給されることになる。
【0037】
このように、インク供給流路23に連通するインク室48と、溶剤供給流路45に連通する溶剤室49とを有する圧力チャンバー47を流路に設けることにより、供給ポンプ24によってインクの供給と、溶剤の供給とを兼用することができるので、溶剤供給流路45に供給ポンプを設ける形態に比してポンプの数を少なくすることができ、装置の小型化を達成することができる。
【0038】
圧力チャンバー47の溶剤室49は溶剤供給流路45と連通しているので、溶剤供給流路45と吸引流路56とが3ポート電磁弁46を介して連通している状態のもとで、回収ポンプ41を駆動すると、吸引流路56と溶剤供給流路45は負圧状態となるので、溶剤容器44内の溶剤が逆止弁54を通過して吸引流路56に向けて吸引されることになる。このときには、供給ポンプ24を駆動して溶剤室49内の溶剤をインク室48により加圧することなく、溶剤が吸引流路56に供給される。
【0039】
ノズル20の流入部と主インク容器22との間には、図3に示されるように、吸引流路56が設けられており、吸引流路56を構成する配管は、インク供給流路23,回収流路29および溶剤供給流路45をそれぞれ構成する配管とともに、図1に示すように、導管14に束ねられて装置本体12と印字ヘッド13との間に接続されている。
【0040】
この吸引流路56を介して補助インク容器37内のインクや溶剤容器44内の溶剤が主インク容器22内に供給されるとともに、ノズル20の噴出口21が詰まった際に吸引動作を行うことができる。吸引流路56にはこの流路を開閉する電磁弁57と、この流路内の流体の圧力を測定する圧力計58とが設けられている。吸引流路56は、接続部61で回収流路29に接続されており、回収流路29のうち接続部61から主インク容器22までの部分は、合流流路62となっている。回収ポンプ41は、回収流路29と吸引流路56とを形成する合流流路62に設けられているので、1つの回収ポンプ41により回収流路29の吸引と、吸引流路56の吸引とを兼用することができ、装置の小型化を達成することができる。
【0041】
このように、図3に示すインクジェット記録装置は、回収ポンプ41と供給ポンプ24の2つのポンプでインク供給流路23と回収流路29と溶剤供給流路45と吸引流路56へのインクや溶剤の供給を行うことができる。
【0042】
インク供給流路23の供給ポンプ24の下流側と回収ポンプ41との間には、残圧開放流路63が接続されており、この残圧開放流路63にはこれを開閉する電磁弁64が設けられている。これにより、インク供給流路23が加圧された状態のもとで電磁弁64を作動させて残圧開放流路63を開放すると、残圧開放流路63を介してインク供給流路23は主インク容器22と連通状態となり、インク供給流路23内の圧力は開放される。
【0043】
溶剤供給流路45の逆止弁54の上流側と回収ポンプ41との間には、溶剤補充流路65が接続されており、この溶剤補充流路65にはこれを開閉する電磁弁66が設けられている。この電磁弁66を開放し回収ポンプ41を駆動させると、溶剤容器44内の溶剤は回収ポンプ41により吸引されて溶剤補充流路65を介して主インク容器22内に供給される。
【0044】
図5はインクジェット記録装置10の制御回路70を示すブロック図であり、装置本体12内には、例えばマイクロプロセッサ(MPU)を有する制御部71が備えられている。制御部71にはバスライン72を介して操作表示部11が接続され、操作表示部11には、インクジェット記録装置10の作動状態が点灯表示されるとともに、操作表示部11に設けられたキーを操作することによって被印字物Wに対する印字文字の設定等の操作が行われる。制御部71には、エンコーダ16および印字センサ17の出力信号が入力され、これらの信号に基づいてノズル20,帯電電極26および偏向電極27に駆動信号が送られて、被印字物Wに対して所定のタイミングで印字操作が実行される。さらに、制御部71には液面センサ30,粘度計測器34および圧力計58が接続されており、これらの出力信号が制御部71に送られる。制御部71からは図3に示された8つの流路開閉用の電磁弁と、流路切換用の3ポート電磁弁46とに駆動信号が送られるとともに、供給ポンプ24と回収ポンプ41に駆動信号が送られる。記録部73には、インクジェット記録装置10を制御するためのプログラムが格納されており、制御部71は格納されたプログラムに基づいてインクジェット記録装置10を構成する各機器を制御する。
【0045】
図7は、上述したインクジェット記録装置10により図1に示す被印字物Wに対して印字操作が行われているときにおける主インク容器22内のインクと溶剤の流れを太線で示す液体経路図である。
【0046】
図7に示されるように、印字操作が行われるときには、3ポート電磁弁46に駆動信号を送ってインク供給流路23をノズル20に連通させるとともに電磁弁31に駆動信号を送ってインク供給流路23を開放状態とする。この状態のもとで供給ポンプ24と回収ポンプ41とを駆動すると、ノズル20の噴出口21からインクが噴出し、被印字物Wに対する印字操作が行われる。印字に使用されなかったインク粒子19はガター28により捕捉され、回収流路29に案内されて主インク容器22に送られる。このように印字操作が行われているときには、供給ポンプ24から吐出されるインクの圧力が圧力チャンバー47内のインク室48に加わるが、電磁弁55により溶剤供給流路45が閉じられているので、溶剤室49は、図4(A)に示されるように、膨張した状態となっており、最大容量の溶剤が溶剤室49内に充填された状態となっている。
【0047】
被印字物Wに対する印字操作が終了すると、インクジェット記録装置10を停止処理することになる。停止処理が行われるのは、生産ラインの終業時間のようにベルトコンベア15の作動を停止させたり、一時的にベルトコンベアを停止させたりして印字操作を終了させるときなどである。
【0048】
図6は停止処理手順のアルゴリズムを示すフローチャートである。図8〜図14は、停止処理の各工程におけるインクと溶剤の流れを太線で示す液体経路図である。
【0049】
停止処理の開始が入力されて図6に示すステップS1において停止処理の開始が判定されると、まず、ステップS2の溶剤供給洗浄工程が第1の停止処理工程として実行される。停止処理の開始は、操作表示部11に設けられたキーを作業者が操作したり、生産ラインの制御部から制御部71に指令信号が送られたりしたことを制御部71が判定することにより実行される。
【0050】
溶剤供給洗浄工程においては、図8に示されるように、3ポート電磁弁46に対する駆動信号の供給を停止する。これにより、インク供給流路23とノズル20との連通が遮断され、溶剤供給流路45がノズル20と連通状態となる。さらに、溶剤供給流路45に設けられた電磁弁55を駆動して溶剤供給流路45を開放させるとともに、供給ポンプ24を駆動すると、圧力チャンバー47内の溶剤室49内の溶剤がインク室48のインクにより加圧され、ノズル20に対する溶剤の供給が開始される。ノズル20に溶剤を供給する図8の工程に切り換えられた当初は、3ポート電磁弁46とノズル20との間に残ったインクが後方から加圧されて流入してくる溶剤に押し流される状態でノズル20からインクが噴出され続けるが、次第にノズル20から噴出される液体中に占めるインクの樹脂と染料の成分割合が低くなって、最終的にはほぼ完全に溶剤に切り換えられる。これがノズル20の内部を含む3ポート電磁弁46とノズル20の噴出口21との間の流域の洗浄が完了した状態である。この領域を清浄な状態まで洗浄しないと、残存したインクの固形成分によってノズル20先端の噴出口21が詰まってしまうこととなる。
【0051】
この溶剤供給洗浄工程においては、ノズル20から噴出した溶剤がガター28に捕捉されて回収流路29を介して主インク容器22に供給されるので、回収流路29の洗浄も同時に行われ、この工程はノズル20と回収流路29とを洗浄する工程となっている。回収流路29は噴出口21のような詰まり易い部位はないので、念入りに洗浄する必要はない。しかし、回収流路29にインク相と空気相が縞状に残存した状態のもとで、装置を停止状態として電磁弁42により流路が閉じられると、電磁弁42により装置本体12側で閉じられた回収流路29は、ガター28側が大気開放となっているため、装置が停止されているときに周囲の温度変化によるインク相および空気相の熱膨張や溶剤成分のガス化などによりインク相がガター28側に押し出されて最終的にガター28から流出し、ガター28の周辺をインクで汚すこととなる。
【0052】
したがって、残存液がないように回収流路29内の液体を吸引する必要があるが、インクの状態だと粘性が高く、また表面張力も高いので流路となる配管の内径壁に付着してしまう。その状態においては回収ポンプ41で吸引しようとしてもガター28から吸引した空気だけが液相を抜けて流れていくような状態となるため吸引することが困難である。これに対し、図8に示すように、ノズル20を洗浄する際にノズル20から噴出した溶剤をガター28から吸引し、回収流路29内のインクと混じり合いながら回収吸引すると、粘性および表面張力が低下したことにより回収流路29内の液体を吸引し易い状態とすることができる。
【0053】
ノズル20と回収流路29を洗浄する工程に次いで、吸引流路56を洗浄するために、図9に示されように、吸引流路56に溶剤を供給する吸引流路の洗浄工程が第2の停止処理工程として実行される。この工程においては、吸引流路56に設けられた電磁弁57を駆動して流路を開放すると、図9において太線で示すように溶剤が流れることになる。図9に示すように、この工程では、吸引流路56と回収流路29とに溶剤を供給するようにしているが、図9に示す第2の停止処理工程においては、電磁弁42により回収流路29を閉止して吸引流路56のみに溶剤を供給するようにしても良い。
【0054】
図9に示される第2の停止処理工程が実行されるまでの吸引流路56は、インクで満たされた状態となっているが、電磁弁57を開くことで溶剤供給流路45から吸引流路56に溶剤が流入し、流入してくる溶剤によりインクが次第に薄められることとなる。吸引流路56のノズル20に近い方の側から次第にインク濃度が薄められて、最終的には電磁弁57までの流路が清浄になった時点で電磁弁57を閉じて吸引流路56の洗浄を完了させるという方法がこれまで考えられていた洗浄方法であるが、この方法は多量の溶剤を消費することになる。
【0055】
吸引流路56の洗浄が不十分で吸引流路56にインク相と空気相が縞状に残存した状態で装置を停止状態ないし休止状態としてしまうと、吸引流路56の装置本体12側は電磁弁57により流路が封止され、ノズル20側が大気開放となっているため、休止中の周囲温度変化によるインク相および空気相の熱膨張や溶剤成分のガス化などによりインク相がガター28側に押し出されて最終的にはガター28から流出してガター28の周辺をインクで汚すこととなる。従って残存液がないように吸引流路56を吸引する必要があるが、インクの状態だと粘性が高く、また表面張力も高いので流路となる配管の内径壁で付着してしまう。その状態においては回収ポンプ41で吸引しようとしてもノズル20ら吸引した空気だけが液相を抜けて流れていくような状態となるため吸引することが困難である。
【0056】
これに対し、上述したように電磁弁57を開いて吸引流路56に溶剤を流して流路内のインクと混じり合いながら吸引すると、粘性および表面張力が低下したことにより吸引し易い状態となる。洗浄に使用する溶剤量を低減するために、図9に示す工程では、電磁弁57を開いて吸引流路56に流す溶剤量を制限するようにしている。吸引流路56の配管径やインク種類にもよるが、内径φ1mm、PTFE製の配管チューブの場合では、吸引流路56内を溶剤を流す処理のみで洗浄するようにした洗浄方法によると、最低約3mlもの多量の溶剤を使用していたのに対して電磁弁57を約1秒だけ開くことで、約0.5ml程度を流すことにより、次の第3の停止処理工程の実行と相まって吸引流路56内を洗浄できることが実験的に判明している。
【0057】
次いで、図10に示す残液吸引洗浄が第3の停止処理工程として実行される。このときには、図9に示す状態から溶剤供給流路45を電磁弁55により閉止して3ポート電磁弁46の1次側から2次側へはインクも溶剤も供給されない状態として、ノズル20の噴出口21から外気を吸引して吸引流路56内に空気を流して残液を吸引する。このときには、回収流路29は電磁弁42により流路が閉止される。これにより、吸引流路56内のインクを含む溶剤は外気に置き換えられることになる。
【0058】
図10に示す残液吸引工程が終了した後には、図11に示す仕上げ洗浄工程が第4の停止処理工程として実行される。この仕上げ洗浄工程においては、図11に示されるように、図10の状態から溶剤供給流路45の電磁弁55を短時間開いて吸引流路56に再度溶剤を流すようにする。この時には、供給ポンプ24の駆動による溶剤室49の収縮動作を行うことなく、回収ポンプ41を駆動して吸引流路56を吸引すると、溶剤容器44内の溶剤が逆止弁54を介して吸引流路56に向かうことになり、溶剤がノズル20から噴出することがない。この時に流す溶剤量は、図10の残液吸引工程において吸引流路56内が外気に置き換えられた状態のもとで溶剤が供給されるので、極少量で十分であり、0.2〜0.3ml程度で良い。
【0059】
これまで考えられていた吸引流路56の洗浄方法は、上述のように吸引流路56内の洗浄が完了するまで溶剤を連続的に流す方法であった。これに対し、図9に示す工程で吸引流路56内に溶剤を供給した後に、図10に示す残液吸引洗浄工程により吸引流路56内の液体を外気に置き換え、再度、図11に示す仕上げ洗浄工程により溶剤を吸引流路56に供給するようにすると、図9に示す工程で吸引流路56に供給する溶剤の量と、図11に示す仕上げ洗浄工程で吸引流路56に供給する溶剤の量との合計の溶剤使用量は、上述のように溶剤を連続的に流して吸引流路56内を洗浄する方式に比して大幅に低減することができた。
【0060】
上述したように連続的に吸引流路56に溶剤を流す方法では、最低3mlもの溶剤を供給する必要があったのに対し、本発明のように、2回の溶剤供給工程の間に吸引流路56内の液体を排出する工程を実行するようにし、溶剤供給を残液吸引工程を介して間欠的に行うことにより、極めて少量の溶剤により吸引流路56を清浄な状態にすることができた。つまり、本発明の停止処理方法においては、図9に示す吸引流路56の洗浄工程において0.5ml程度の溶剤を吸引流路56に流し、図10に示す残液吸引洗浄により溶剤を排出して外気を取り込んで液体を空気に置換した後に、再度図11に示す仕上げ洗浄工程で0.2〜0.3ml程度の溶剤を供給するという外気置換工程を介する間欠的な溶剤供給方式とすることによって吸引流路56を清浄にすることができた。
【0061】
図9に示すように吸引流路56に溶剤を供給する洗浄工程においては、溶剤の供給量が少ないので、少量ながらも吸引流路56の配管内面に付着した液滴は吸引排除することができない。しかしながら、吸引流路56内を外気に置換した後に、再度溶剤を供給するようにすると、配管内面に付着残留して内面に露出した状態となっている液滴を、再度供給される溶剤が掻き落とすように作用することから、少ない溶剤供給量で確実に吸引流路56内を清浄化することができるのであると考えられる。
【0062】
図8に示すように、溶剤をノズル20と回収流路29に供給してこれらを洗浄する際には、供給ポンプ24を駆動して圧力チャンバー47のインク室48により溶剤室49を圧縮コイルばねによる弾性力に抗して加圧することにより、溶剤室49内の溶剤をノズル20と回収流路29とに供給するようにしている。一方、図11に示す仕上げ洗浄工程においては、回収ポンプ41を駆動して吸引流路56を負圧状態とすることにより、溶剤室49を介して溶剤容器44内の溶剤を吸引流路56に供給するようにしているので、このときに3ポート電磁弁46を通過した溶剤は、ノズル20から噴出することがなく、印字ヘッド13内に溶剤が飛散することが防止される。吸引流路56を負圧状態とすると、ノズル20の噴出口21からも外気が入り込むことになるが、噴出口21の内径は溶剤供給流路45の内径よりもかなり小径となっているので、吸引流路56を負圧状態とすると、溶剤供給流路45内の溶剤は確実に吸引流路56内に導入される。
【0063】
図9に示す吸引流路56の洗浄工程においては、回収流路29にまで溶剤を供給するために、圧力チャンバー47の溶剤室49を供給ポンプ24により加圧する必要があるが、この工程において吸引流路56のみを洗浄するのであれば、図11に示す仕上げ洗浄工程と同様に、吸引流路56を回収ポンプ41により吸引することによっても吸引流路56の洗浄を行うことができる。
【0064】
図8に示す溶剤供給洗浄工程から図11に示す仕上げ洗浄工程によって、回収流路29と吸引流路56との洗浄が終了した後には、回収流路29と吸引流路56とに残った残液を除去することになる。その際には、まず、図12に示す吸引流路の残液処理が第5の停止処理工程として実行され、図13に示す回収流路の残液処理が第6の停止処理工程として実行され、図6のステップS6〜S8に示すように、これらの処理が複数回繰り返される。
【0065】
図12に示すように、溶剤供給流路45を電磁弁55により閉止すると、回収ポンプ41によりノズル20の噴出口21から外気が流入し吸引流路56内の残液が除去される。一方、図13に示すように吸引流路56を電磁弁57により閉止し、回収流路29を電磁弁42により開放すると、回収ポンプ41によりガター28から外気が流入して回収流路29内の残液が除去される。
【0066】
吸引流路56と回収流路29をそれぞれ別々の吸引ポンプにより残液を除去するようにした形態のインクジェット記録装置においては、別々の吸引ポンプによって残液を除去することになる。これに対し、図示するインクジェット記録装置10においては、吸引流路56と回収流路29はそれぞれ合流流路62に設けられた回収ポンプ41により残液除去を行うことになるので、1つの回収ポンプ41によって吸引流路56と回収流路29の両方の流路内の残液を吸引することになる。
【0067】
このため、吸引流路56を開閉する電磁弁57と、回収流路29を開閉する電磁弁42の両方を開いた状態で両方の流路を同時に吸引しようとすると、それぞれ独立した別々のポンプで吸引する形態と比較して、各流路を流れる流量が少なくなり吸引効率が低下する。各流路に配置された電磁弁57、42を切り換えて1つの回収ポンプ41で一方の流路のみを吸引し、吸引終了後に別の流路の吸引を単独でおこなえば求める吸引は行えるが、1流路毎にしか吸引できないため結局は停止処理時間が長くなってしまうことになる。
【0068】
そこで、停止処理時間を延長することなく効率よく吸引流路56と回収流路29の残液を吸引するには、例えば図11に示す仕上げ洗浄が終了した後、回収流路29に設けられた電磁弁42と吸引流路56に設けられた電磁弁57との一方のみを選択的に開放させて回収ポンプ41には1つの流路のみを吸引させる状態を交互に複数回数切り換えるようにして残液処理を行う。このようにして残液処理を行うと、吸引流路56の残液が吸引されている状態では吸引流路56内は大気圧以下の負圧状態となっていて、吸引状態が停止されてもノズル20からの吸引状態は流路内が大気圧になるまで継続されるため、回収流路29を吸引している間においても吸引流路56の吸引動作が継続されるので、実質的には両方の流路を同時に吸引することとなる。回収流路29においてはノズル20と比してガター28部の開口面積がかなり大きいため、吸引状態における回収流路29の中の負圧は高まらず、吸引停止後すぐに大気圧まで戻ってしまうため、吸引流路56だけを吸引している状態では回収流路29の負圧による残圧吸引はできない。
【0069】
吸引流路56内の残液を除去するには、図12に示すように、溶剤供給流路45を電磁弁55により閉じる。これにより、3ポート電磁弁46の一次側から二次側へはインクも溶剤も供給されない状態となり、回収流路29を電磁弁42により閉止した状態に保持し、吸引流路56だけが回収ポンプ41によって吸引されている状態とする。この時には、ノズル20の噴出口21が65μm程度と小さいオリフィスになっていることから、回収ポンプ41の吸引能力に対して実際に噴出口21から吸引される外気量が少なくなるため吸引流路56における回収ポンプ41付近の負圧(真空度)が高くなっているのに対して、噴出口側は大気開放のため大気圧になっているので吸引流路56の両端で見ると大きな差圧が発生することとなる。この吸引状態は前記差圧が最大になるまで継続して、それ以上差圧が大きくならない状態になったら、図13に示す回収流路の残液除去工程を実行するようにする。差圧が最大になるまでの時間はポンプ特性に影響されるが通常インクジェット記録装置の回収ポンプ41であれば5秒以下の短時間で最大となる。差圧が予め定められた値に到達したかは、吸引流路56に配置された圧力計58の出力から判定することが可能であり、予め定められた差圧に到達したことを検出するか、それに相当する時間が経過したら回収流路29の残液除去工程へ移行するよう制御部71からの信号により電磁弁42,57を制御する。
【0070】
回収流路29の残液除去工程においては、吸引流路56を電磁弁57により閉止して回収流路29を電磁弁42により開放する。その状態においては、回収流路29の吸引が回収ポンプ41により行われるとともに、前述したように吸引流路56においては残った差圧によりノズル20の噴出口21から外気が吸引し続けられる。外気を吸引するにつれて吸引流路56の差圧は小さくなると、吸引流路56内への外気の流入量は低下して最終的に差圧が0となり流れはなくなる。
【0071】
図13に示した回収流路29の残液除去を開始してから、吸引流路56内の吸引流量が0になるまでの時間は、噴出口21の径によって変化するが例えば65μmのノズルにおいては約10〜15秒となる。また、差圧が低下したことは吸引流路56に配置された圧力計58の出力から判定することが可能であり、差圧低下を検出したら再度図12に示す吸引流路の残液除去工程へ移行するよう制御する。
【0072】
吸引流路56と回収流路29の残液が十分吸引されるまで図12に示す残液処理工程と図13に示す残液処理工程とが交互に繰り返される。繰り返し処理を行うことによって、回収ポンプ41により連続的に吸引流路56内の液体を除去する際の処理時間に近い時間で、回収流路29内の残液も除去することができる。この繰り返し回数は、予め実験により求められて記録部73に格納されている。設定された回数の繰り返し処理が終了したら、図14に示す残圧開放工程に移行されてインク供給流路23内の残圧が開放される。残圧開放工程においては、図14に示すように、残圧開放流路63を電磁弁64により数秒間開放することにより、インク供給流路23内の残圧が開放される。
【0073】
このようにして一連の停止処理工程が実行されたら、図3に示すように、インクジェット記録装置10は、停止状態に移行することになる。
【0074】
上記した停止処理に加えて、停止処理時間を延長することなく効率よく吸引流路56および回収流路29の残液を吸引することによりポンプ数量を削減するための手段としては、例えば印字中(インク噴出中)における回収ポンプ41の回転数に対して停止処理中(吸引中)における回収ポンプ41の回転数を大きくするようにする。ポンプ回転数を常時大きくしてしまうと、ポンプ寿命が短くなるだけでなく印字中に多量の空気をガター28から吸引することによりインク中の溶剤成分が多量に揮発してランニングコストが増大することとなる。したがって、停止処理中のみポンプ回転数を大きくすることで上記問題を解決することができる。回収ポンプ41の回転数を相違させるためには、回収ポンプ41を駆動するモータを、例えばPWM制御により回転数を制御できるDCブラシレスモータを用いるようにする。
【0075】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。たとえば、インクジェット記録装置10は、図1に示す場合にはベルトコンベアを搬送される被印字物に対して文字等を印字するために使用されているが、印字ヘッドを移動させて被印字物に文字等を印字する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
10…インクジェット記録装置、11…操作表示部、12…装置本体、13…印字ヘッド、14…導管、15…ベルトコンベア、16…エンコーダ、17…印字センサ、18…インク柱、19…インク粒子、20…ノズル、21…噴出口、22…主インク容器、23…インク供給流路、24…供給ポンプ、25…電歪素子、26…帯電電極、27…偏向電極、28…ガター、29…回収流路、30…液面センサ、31…電磁弁、32…バイパス流路、33…電磁弁、34…粘度計測器、35…フィルタ、36…減圧弁、37…補助インク容器、38…補充流路、39…電磁弁、41…回収ポンプ、42…電磁弁、43…フィルタ、44…溶剤容器、45…溶剤供給流路、46…3ポート電磁弁、47…圧力チャンバー、48…インク室、49…溶剤室、50…仕切り部材、51…ハウジング、52…圧縮コイルばね、53…ばね受け駒、54…逆止弁、55…電磁弁、56…吸引流路、57…電磁弁、58…圧力計、62…合流流路、63…残圧開放流路、64…電磁弁、65…溶剤補充流路、66…電磁弁、70…制御回路、71…制御部、72…バスライン、73…記録部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク容器とノズルとの間に接続され前記インク容器内のインクを前記ノズルに向けて供給するインク供給流路と、溶剤容器と前記ノズルとの間に接続され溶剤を前記ノズルに供給する溶剤供給流路と、印字に使用されなかったインクを回収するガターと前記インク容器との間に接続され前記ガターにより回収された液体を前記インク容器に回収する回収流路と、前記ノズルの流入部と前記インク容器との間に接続され液体を前記インク容器に案内する吸引流路とを有するインクジェット記録装置の停止処理方法であって、
前記ノズルからインクを噴射している印字状態から前記ノズルへのインクの供給を停止する際に、前記吸引流路に前記溶剤供給流路から溶剤を供給する吸引流路の洗浄工程と、
前記吸引流路内に前記ノズルから外気を吸引して前記吸引流路内に空気を流して前記吸引流路内の溶剤を前記インク容器に送る残液吸引工程と、
前記吸引流路内が溶剤から空気に置換された状態のもとで、前記溶剤供給流路から前記吸引流路内に溶剤を流す仕上げ洗浄工程とを有することを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記溶剤供給流路から前記ノズルと前記回収流路に溶剤を供給して前記ノズルと前記回収流路とを洗浄する溶剤供給洗浄工程と、
前記吸引流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る吸引流路の残液除去工程と、
前記回収流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る回収流路の残液除去工程とを交互に複数回繰り返すことを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項3】
請求項2記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記吸引流路内の圧力を検出して圧力値に基づいて前記吸引流路の残液除去工程から前記回収流路の残液除去工程に切り換えることを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記回収流路の液体を吸引する回収ポンプの回転数を、印字動作時に前記回収流路を介して使用されなかったインクを回収する際における回転数よりも停止処理時における回転数を増加させることを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給する際には、前記溶剤供給流路に連通するとともに容積を拡大する方向の弾性力が加えられた溶剤室と、当該溶剤室と仕切られるとともに前記インク供給流路に連通するインク室とを有する圧力チャンバーにおける前記インク室を前記弾性力に抗して加圧して前記溶剤室内の溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給し、前記溶剤を前記吸引流路に供給する際には、前記吸引流路を吸引することにより前記溶剤室を介して前記溶剤容器内の溶剤を前記吸引流路に供給することを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記回収流路と前記吸引流路とを合流させて前記インク容器に接続される合流流路に設けられた回収ポンプにより前記回収流路と前記吸引流路とを吸引作動させることを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項1】
インク容器とノズルとの間に接続され前記インク容器内のインクを前記ノズルに向けて供給するインク供給流路と、溶剤容器と前記ノズルとの間に接続され溶剤を前記ノズルに供給する溶剤供給流路と、印字に使用されなかったインクを回収するガターと前記インク容器との間に接続され前記ガターにより回収された液体を前記インク容器に回収する回収流路と、前記ノズルの流入部と前記インク容器との間に接続され液体を前記インク容器に案内する吸引流路とを有するインクジェット記録装置の停止処理方法であって、
前記ノズルからインクを噴射している印字状態から前記ノズルへのインクの供給を停止する際に、前記吸引流路に前記溶剤供給流路から溶剤を供給する吸引流路の洗浄工程と、
前記吸引流路内に前記ノズルから外気を吸引して前記吸引流路内に空気を流して前記吸引流路内の溶剤を前記インク容器に送る残液吸引工程と、
前記吸引流路内が溶剤から空気に置換された状態のもとで、前記溶剤供給流路から前記吸引流路内に溶剤を流す仕上げ洗浄工程とを有することを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記溶剤供給流路から前記ノズルと前記回収流路に溶剤を供給して前記ノズルと前記回収流路とを洗浄する溶剤供給洗浄工程と、
前記吸引流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る吸引流路の残液除去工程と、
前記回収流路内に外気を取り込んで流路内の液体を前記インク容器に送る回収流路の残液除去工程とを交互に複数回繰り返すことを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項3】
請求項2記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記吸引流路内の圧力を検出して圧力値に基づいて前記吸引流路の残液除去工程から前記回収流路の残液除去工程に切り換えることを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記回収流路の液体を吸引する回収ポンプの回転数を、印字動作時に前記回収流路を介して使用されなかったインクを回収する際における回転数よりも停止処理時における回転数を増加させることを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給する際には、前記溶剤供給流路に連通するとともに容積を拡大する方向の弾性力が加えられた溶剤室と、当該溶剤室と仕切られるとともに前記インク供給流路に連通するインク室とを有する圧力チャンバーにおける前記インク室を前記弾性力に抗して加圧して前記溶剤室内の溶剤を前記ノズルと前記回収流路とに供給し、前記溶剤を前記吸引流路に供給する際には、前記吸引流路を吸引することにより前記溶剤室を介して前記溶剤容器内の溶剤を前記吸引流路に供給することを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の停止処理方法において、前記回収流路と前記吸引流路とを合流させて前記インク容器に接続される合流流路に設けられた回収ポンプにより前記回収流路と前記吸引流路とを吸引作動させることを特徴とするインクジェット記録装置の停止処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−861(P2011−861A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147838(P2009−147838)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】
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