説明

インクジェット記録装置及びその制御方法

【課題】
使用するノズルの数を減らした場合であっても、濃度むらが視認され難くするようにした技術を提供する。
【解決手段】
インクジェット記録装置は、温度センサと、駆動パルスの印加によりインクを吐出するための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子とを備えた記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査することで記録を行なう。ここで、インクジェット記録装置は、複数の駆動パルスを規定する駆動パルステーブルを複数記憶する記憶手段と、前記複数の発熱素子のうち記録に使用する発熱素子の数を特定する特定手段と、前記特定手段により特定された発熱素子の数に基づいて複数の駆動パルステーブルの中からいずれかを選択するとともに、前記温度センサにより測定された前記記録ヘッドの温度に基づいて当該選択した当該駆動パルステーブルから前記複数の発熱素子に印加する駆動パルスを選択する制御を行なう制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式を採用した記録装置においては、インクを吐出する吐出口を有する記録ヘッドを記録媒体に対して走査する動作と、記録ヘッドを走査する方向と交差する方向に記録媒体を搬送する搬送動作とを繰り返して画像を形成する。このような記録ヘッドには、駆動パルスの印加により熱エネルギーを発生する発熱素子(ヒータ)が設けられている。
【0003】
このようなヒータを利用してインクを吐出するタイプの記録装置においては、駆動パルスをヒータに印加して生じる熱エネルギーを用いてインクを膜沸騰させ、この時に生じる気泡の圧力を用いてインクの吐出を行なう。そのため、記録動作を行なっていると、記録ヘッドの温度が上昇していく。インクの粘度は、温度が高くなると下がるため、同じ条件で記録動作を継続すると、インク液滴量が変化する。
【0004】
そのため、一般に、吐出量を一定に保つために基板の温度(以下、ヘッド温度とも称する)の変化に応じて、ヘッド駆動のパルス信号を変更する制御が行なわれている。特許文献1には、記録ヘッドに設けられた温度センサで測定する温度に応じて、ヒータに印加する駆動パルスのパルス幅を選択する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−31905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、使用ノズル数、すなわち、使用するヒータの数を減らして記録を行なう際には、特許文献1のように、駆動パルスのパルス幅の変更を行なうようにした場合、以下に述べるような弊害が発生することが判明した。
【0007】
図24(a)及び図24(b)は、駆動パルスのパルス幅を変更した際の記録媒体上の明度をプロットした図である。縦軸が明度であり、横軸は記録媒体の位置を示している。図24(a)は、768個のノズルを使用して記録動作を行なった場合の明度変化である。図24(b)は、1024個のノズル(全ノズル)を使用して記録動作を行なった場合の明度変化である。
【0008】
この結果を参照すると、図24(b)のように、使用するノズルの数が多い場合の方が、駆動パルスのパルス幅を変更した後の明度の変化が緩やかであることが分かる。一方、図24(a)のように、使用するノズルの数を減らした場合には、駆動パルスのパルス幅を変更した後の明度の変化が急峻であることが分かる。
【0009】
これは、使用するノズルの数を減らすことに伴い、記録ヘッドの1回の走査に対する記録媒体の搬送量が減少し、インクの吐出量の変化が記録媒体の狭い領域で生じるためである。このように記録媒体上の狭い領域で明度変化が生じると、それがユーザにとっては、記録媒体上の濃度むらとして視認される。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、使用するノズルの数を減らした場合であっても、濃度むらが視認され難くするようにした技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、温度センサと、駆動パルスの印加によりインクを吐出するための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子とを備えた記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査することで記録を行なうインクジェット記録装置であって、複数の駆動パルスを規定する駆動パルステーブルを複数記憶する記憶手段と、前記複数の発熱素子のうち記録に使用する発熱素子の数を特定する特定手段と、前記特定手段により特定された発熱素子の数に基づいて複数の駆動パルステーブルの中からいずれかを選択するとともに、前記温度センサにより測定された前記記録ヘッドの温度に基づいて当該選択した当該駆動パルステーブルから前記複数の発熱素子に印加する駆動パルスを選択する制御を行なう制御手段とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用するノズルの数を減らした場合であっても、濃度むらが視認され難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る記録装置の構成の一例を示す斜視図。
【図2】記録ヘッド3の制御回路10の構成の一例を示す図。
【図3】記録装置1における回路構成の一例を示す図。
【図4】記録ヘッド3の構成の一例を示す図。
【図5】駆動パルス制御の概要を示す図。
【図6】駆動パルステーブルにおける各水準のパルス幅とインク目標吐出量との関係の一例を示す図。
【図7】各水準におけるインク吐出量とヘッド温度との関係の一例を示す図。
【図8】実施形態1に係る使用ノズル数と駆動パルステーブルとの関係及び使用ノズル数と記録モードの関係を示す図。
【図9】実施形態1に係る記録装置1の処理の流れの一例を示すフローチャート。
【図10】ノズル使用位置の概要を示す図。
【図11】駆動パルステーブルの一例を示す図。
【図12】補正テーブルの一例を示す図。
【図13】搬送ローラの偏心量を起因にした累積搬送誤差の概要を示す図。
【図14】実施形態2に係る使用ノズル数と使用ノズル位置との関係の一例を示す図。
【図15】実施形態2に係る使用ノズル数と駆動パルステーブルとの関係の一例を示す図。
【図16】実施形態2に係る記録装置1の処理の流れの一例を示すフローチャート。
【図17】搬送機構の概要を示す図。
【図18】記録媒体の位置に応じて分けた領域を説明するための図。
【図19】記録媒体上の各領域に対する記録動作時に使用するノズルを示す図。
【図20】実施形態3に係る記録装置1の処理の流れの一例を示すフローチャート。
【図21】実施形態3に係る処理の概要を示す図。
【図22】実施形態3に係る処理の概要を示す図。
【図23】実施形態3に係る処理の概要を示す図。
【図24】従来技術の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行なう場合も表す。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0015】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表す。
【0016】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0017】
また更に、「ノズル」とは、特に断らない限り吐出口乃至これに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言う。
【0018】
[装置構成]
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置(以下、記録装置)の構成の一例を示す斜視図である。
【0019】
インクジェット記録装置(以下、記録装置と呼ぶ)1は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドと呼ぶ)3をキャリッジ2に搭載する。
【0020】
キャリッジ2は、記録媒体に対して相対的に移動される。具体的には、キャリッジ2をレール7に沿って矢印A方向(主走査方向:記録媒体の搬送方向と交差する方向)に往復移動させて記録が行なわれる。記録装置1は、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、矢印B方向(副走査方向:記録媒体の搬送方向)に沿って記録媒体Pを記録位置まで搬送する。そして、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0021】
記録装置1のキャリッジ2には、記録ヘッド3の他、例えば、インクカートリッジ6が搭載される。インクカートリッジ6は、記録ヘッド3に供給するインクを貯留する。なお、インクカートリッジ6は、キャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0022】
図1に示す記録装置1は、カラー記録が可能である。そのため、キャリッジ2には、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容する4つのインクカートリッジが搭載されている。これら4つのインクカートリッジは、それぞれ独立して着脱できる。なお、勿論、ライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)、レッド(R)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、第1グレー(G1)、第2グレー(G2)、第3グレー(G3)等のインクが設けられていても良い。この他、上述した有色インクの他、クリア(Cr)のような画質向上液が設けられていても勿論構わない。
【0023】
記録ヘッド3には、記録素子基板(ヒータボード)が設けられており、当該基板上には、複数のノズル列が配列される。本実施形態においては、ノズルの配列方向は、記録媒体の搬送方向に一致する。記録ヘッド3は、例えば、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式により構成される。そのため、記録ヘッド3には、発熱素子(以下、ヒータと呼ぶ)等から構成される記録素子や、ヒータの駆動制御を行なう制御回路が設けられる。ヒータは、各ノズル(吐出口)に対応して設けられ、記録データに応じて対応するヒータに駆動パルスが印加される。この駆動パルスのエネルギー量に応じてノズルから吐出されるインク滴の量が変化する。
【0024】
次に、図2を用いて、図1に示す記録ヘッド3の制御回路10の構成の一例について説明する。ここでは、1024個のヒータを有した記録ヘッド3を駆動する制御回路の構成を例に挙げて説明する。
【0025】
制御回路10には、シフトレジスタ11と、ラッチ回路12と、AND回路13(13a〜13p)と、駆動回路14(14a〜14p)とが設けられる。制御回路10は、複数のヒータ15と接続されている。この場合、複数のヒータ15は、16ブロックに時分割駆動される。
【0026】
シフトレジスタ11は、直列に入力される画像信号を並列に変換する。より具体的には、画像信号のシリアルデータと、これに同期したシリアルクロック(CLK)とを入力して、1ブロック分の画像信号に並列に変換する。
【0027】
ラッチ回路12は、ラッチ信号(LAT)に同期して、シフトレジスタ11で並列化された画像信号を保持する。AND回路13(a〜p)は、ラッチ回路12の出力と、ブロックイネーブル信号(BENB0〜15)と、ヒータ駆動信号(HENB)との論理積により、駆動回路14(14a〜14p)に駆動パルスを印加する。
【0028】
ここで、駆動回路14及びAND回路13は、複数のヒータ各々に対応して設けられており、駆動回路14は、AND回路13からの駆動パルスの印加に基づいて、対応するヒータに電圧を印加する。これにより、対応するノズルからインクが吐出される。
【0029】
次に、図3を用いて、記録装置1における回路構成の一例について説明する。ここでは、記録ヘッド3の温度変動に伴うインク吐出量を制御するための回路構成について説明する。
【0030】
記録装置1の本体部には、本体メイン基板30が設けられている。本体メイン基板30には、ASIC31や、ヘッド駆動信号制御部34が設けられる。ASIC31には、A/D変換器32と、メモリ33と、使用ノズル特定部37と、位置情報取得部38とが設けられ、ヘッド駆動信号制御部34には、駆動電圧制御部35と、駆動パルス制御部36とが設けられる。
【0031】
記録装置1の本体部は、フレキシブルケーブル39を介してキャリッジ2に搭載されたキャリッジ基板40と接続されている。キャリッジ基板40には、駆動電圧設定回路41や増幅器42が設けられる。
【0032】
また、キャリッジ基板40は、ヘッドコンタクト端子43を介して記録ヘッド3と接続されている。記録ヘッド3には、ヒータボード20が配されており、ヒータボード20には、制御回路10及びヒータ15の他、記録ヘッド3の温度(ヘッド温度)を検知するための温度センサ21及び22が設けられる。
【0033】
温度センサ21及び22の出力は、ヘッドコンタクト端子43、キャリッジ基板40及びフレキシブルケーブル39を介して本体メイン基板30に転送される。このとき、当該温度センサ21及び22の出力は、増幅器42で増幅された後、ASIC31に内蔵されるA/D変換器32でアナログ信号からデジタル信号に変換される。これにより、ASIC31においては、当該デジタル信号の変化に基づいて、記録ヘッド3の温度の変化(上昇又は下降)を検知する。
【0034】
このようなヘッド温度の変化を検知すると、ASIC31は、ヒータに印加する駆動パルス信号(HENB)を調整する。具体的には、駆動パルスのパルス幅や駆動電圧を変えることにより調整を行なう。パルス幅の調整は、駆動パルス制御部36を制御することにより行なわれ、駆動電圧の調整は、駆動電圧制御部35による制御に基づいて駆動電圧設定回路41で制御される。
【0035】
記録装置1は、記録ヘッド温度が上昇した場合に、インク吐出量を一定に制御するときには、記録ヘッド3の測定される温度に応じてRAM等のメモリ33に記憶された駆動パルステーブルからインク吐出量が一定となるエネルギー量の駆動パルスを選択する。
【0036】
駆動パルス制御部36においては、使用するノズルの数を変更して記録動作が行なわれる場合、例えば、使用ノズル数や使用ノズル位置に基づいて駆動パルスを制御する。なお、使用するノズルの数は、記録モードに応じて使用ノズル特定部37により特定される。このときの使用ノズル位置は、位置情報取得部38により取得される。
【0037】
駆動電圧設定回路41は、ヒータボード20へ供給する駆動電圧の調整を行なう。本実施形態においては、ヒータボード各々に対応して駆動電圧設定回路41がそれぞれ設けられている。
【0038】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態においては、駆動パルスのパルス幅を変えることでヒータに供給するエネルギー量を変化させる構成を例に挙げて説明する。なお、駆動電圧を用いて制御する構成において、ヒータに供給するエネルギー量を変化させるようにしても良い。
【0039】
(実施形態1)
図4(a)及び図4(b)を用いて、図1に示す記録ヘッド3の構成の一例について説明する。
【0040】
記録ヘッド3は、3枚のヒータボード20から構成される。各ヒータボード20には、記録媒体の搬送方向に沿って、600dpiピッチに並んだ512個のノズルからなるノズル列がCh0〜7の8ch配されている。
【0041】
8chのノズル列は、2ch毎の組み合わせになっており、それぞれの2chのノズル列は、半ピッチ(1200dpiピッチ)ずれて配置されている。そのため、この構成により、記録媒体の搬送方向に沿って1024個のノズルが1200dpiピッチで並べられていることになる。
【0042】
また、ノズル列の端部には、温度センサ21及び22が設けられている。この場合、温度センサ21は、記録媒体の給送方向に沿って上流側に、温度センサ22は下流側にそれぞれ設けられている。なお、温度センサ21及び22は、例えば、ダイオードで実現される。本実施形態では、2つの温度センサので測定される温度の平均値を記録ヘッド基板の温度とする。勿論、ダイオード以外の温度検出デバイスを温度センサとして用いても良い。
【0043】
次に、ヒータに印加する駆動パルスと吐出されるインク滴との関係について説明する。
【0044】
駆動パルス信号(HENB)としては、図5(a)に示すようにダブルパルス(すなわち、2つのパルスによって1回の吐出が実行される)や図5(b)のシングルパルスを用いることができる。横軸は時間を示し、縦軸はヒータに印加する電圧値を示す。
【0045】
P1はプレヒートパルスの印加時間を示し、P3はメインヒートパルスの印加時間を示し、P2はプレヒートパルスとメインヒートパルスとの間のインターバルを示している。プレヒートパルスは、ヒータ表面近傍のインクを温めて粘度を下げるために印加されるパルスであり、発泡に至らないエネルギーに抑えるように、印加時間P1が定められている。
【0046】
インターバルP2は、プレヒートパルスとメインパルスとが相互干渉しないように、また、プレヒートパルスによって与えられた熱エネルギーをインク中に拡散させ、好適な温度分布を得るように設けられている。
【0047】
一方、メインヒートパルスは、プレヒートパルスによって温められたインクに膜沸騰を起こし、吐出を実行させるために印加されるパルスであり、発泡に至る十分なエネルギーを与えるように、印加時間P1よりも大きな印加時間P3に設定されている。メインヒートパルスの印加時間P3は、ヒータの面積、抵抗値、膜構造やインク流路の構造によって定められる。
【0048】
ここで、インクは温度が高くなると粘度が下がるため、ノズルから吐出されるインクの吐出量は、ヒータ近傍のインクの温度に比例するといえる。そのため、駆動パルス制御部36においては、検出したヘッド温度に応じてプレヒートパルスの印加時間P1やインターバルP2(投入エネルギーと投入後経過時間)を調整する。これにより、インクの温度が調整され、吐出量の制御が可能となる。
【0049】
具体的には、ヘッド温度が徐々に上昇する場合は、吐出量を減らしたい。そのため、このような場合には、ヒータ表面のインクの粘度を下げる程度を少なくするため、プレヒートパルス幅P1を狭くする。逆に、ヘッド温度が徐々に低下する場合は、インクの粘度を下げて吐出量を多くする必要があるため、プレヒートパルス幅P1を徐々に大きく設定していく。
【0050】
なお、記録ヘッドの蓄熱が進行し、プレヒートパルス幅P1が0になると、駆動パルスは、図5(b)に示すように、メインパルスのみとなり、これ以上のパルス幅制御によるインク吐出量の調整は行なえなくなる。
【0051】
以上のような複数種類のパルス幅の駆動パルスが規定された駆動パルステーブルをメモリ33に複数記憶させておく。そして、図3に示す駆動パルス制御部36において、ヘッド温度に応じて駆動パルスを選択し、ヒータへ印加する駆動パルスを決定する。
【0052】
ここで、図6及び図7を用いて、本実施形態に係る駆動パルス制御の一例について説明する。図6は、駆動パルステーブルにおける各水準のパルス幅と、記録ヘッドの温度に対応したインクの目標吐出量との一例を示す図である。また、図7は、駆動パルスと、その時に吐出されるインク吐出量との関係を示す図である。
【0053】
図6に示すように、各水準の駆動パルステーブルには、使用温度域に対応して複数の駆動パルスが設けられている。これら駆動パルスは、使用温度域の中心温度で目標となるインク吐出量のインクが吐出されるように設定される。
【0054】
水準(1)の駆動パルステーブルに保持された複数の駆動パルスは、各使用温度域の中心温度で、一定の目標吐出量(3.8ng)が維持されるように設定される。図7(a)は、水準(1)のテーブルに保持された複数の駆動パルスを用いて記録を行なった場合のヘッド温度と、当該温度に対応する実際のインク吐出量とを示している。つまり、水準(1)においては、ヘッド温度が上昇したとしても、インク吐出量が一定の範囲に収まるように制御される。この場合、プレパルスP1が小さくなるように駆動パルスが選択されていくことになる。
【0055】
水準(2)の駆動パルステーブルに保持された複数の駆動パルスは、各使用温度域の中心温度で、目標吐出量が0.05(ng/℃)ずつ増えるように設定される。つまり、水準(2)においては、図7(b)からも分かるように、ヘッド温度が上昇していくと、インクの目標吐出量が徐々に増えるように、駆動パルスが選択されていく。
【0056】
具体的には、ヘッド温度が上昇して、PWMX+1からPWMへ切り替わる際には、目標吐出量が3.75ngから3.8ngに変わる。また、PWMからPWMX−1へ切り替わる際には、3.8ngから3.85ngに変わる。
【0057】
水準(3)の駆動パルステーブルに保持された複数の駆動パルスは、各使用温度域の中心温度で、目標吐出量が0.10(ng/℃)づつ増えるように設定される。つまり、水準(3)においては、ヘッド温度が上昇していくと、目標吐出量が、水準(2)の場合よりも更に徐々に増えるように駆動パルスが設定される。
【0058】
水準(4)の駆動パルステーブルに保持された複数の駆動パルスは、各使用温度域の中心温度で、目標吐出量が0.20(ng/℃)づつ増えるように設定される。この場合、ヘッド温度の上昇により増加するインク吐出量とほぼ一定となる。言い換えれば、水準(4)は、駆動パルスを変化させない水準といえる。図7(c)は、これら水準(1)〜(4)をプロットした概要を示している。
【0059】
本実施形態においては、使用するノズルの数(つまり、発熱素子の数)に応じて、このような水準1〜4を選択する。図8(a)に示すように、使用ノズル数が0〜256ノズルであれば、水準(4)の駆動パルステーブルが選択され、257〜512ノズルであれば、水準(3)の駆動パルステーブルが選択される。また、513〜768ノズルであれば、水準(2)の駆動パルステーブルが選択され、769〜1024ノズルであれば水準(1)が選択される。つまり、使用するノズル数が少なくなるほど、また、ヘッド温度が上昇するほど、目標吐出量が増加していくような駆動パルステーブルが選択される。
【0060】
上述した通り、使用するノズル数が減ると、図24(a)に示すように、インクの吐出量変化に伴う明度差が狭い領域で生じるため、濃度むらとして視認され易くなる。そこで、本実施形態においては、図8(a)に示すように、使用ノズル数が減ったときに、目標吐出量が増加していくような駆動パルステーブルを選択する。これにより、ヘッド温度が上昇し駆動パルスが変更されたとしても、駆動パルスの変更前後で生じるインクの吐出量の変化を少なくすることができる。そのため、明度差を抑えて濃度むらを低減することができる。
【0061】
ここで、本実施形態においては、図8(b)に示すように、記録装置1における記録品位を示す記録モードとして、きれい、標準、はやいが設けられているものとする。各記録モードによって使用ノズル数が変わり、それにより、記録パス数も変わる。
【0062】
図9(a)を用いて、記録装置1の処理の流れの一例について説明する。ここでは、駆動パルス制御について説明する。
【0063】
記録装置1は、ASIC31において、まず、使用ノズル数の取得を行なう(S101)。使用ノズル数は、使用ノズル特定部37による特定結果に基づいて取得される。上述した通り、きれいモードが選択されている場合には、使用ノズル数として256が取得される。このとき、図10に示すように、ノズル列内の4つのノズル群(Array1〜Array4)のうちの1つの領域が選択されることになる。
【0064】
次に、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、使用ノズル数に応じて水準を決定する(S102)。使用ノズル数が768個の標準モードのときには、図8(a)から分かるように、水準(2)の駆動パルステーブルが選択される。また、使用ノズル数が256個のきれいモードのときには、図8(a)から分かるように、水準(4)の駆動パルステーブルが選択される。
【0065】
つまり、使用ノズル数が少ない記録モードでは、使用ノズル数が多い記録モードに比べて、ヘッド温度の上昇に対する目標吐出量の増加の比率が大きい駆動パルステーブルを選択する。例えば、使用ノズルの数が第1の数である場合に第1の駆動パルステーブルが選択され、使用ノズル数が第1の数よりも少ない第2の数である場合に第2の駆動パルステーブルが選択されるとする。この場合、第2の駆動パルステーブルでは、記録ヘッドの温度の上昇に応じたインクの目標吐出量の増加の比率が、第1の駆動パルステーブルよりも大きいことになる。
【0066】
このようにして水準の決定が済むと、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、当該選択した駆動パルステーブルから駆動パルスを決定する(S103)。
【0067】
ここで、図9(b)を用いて、このS103に示す駆動パルスの決定処理について説明する。
【0068】
この処理が開始すると、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、まず、ヘッド温度(及び環境温度)の取得を行なう(S201)。より具体的には、記録ヘッド3の温度センサ21及び22によって取得されたヘッド温度と、記録装置1のメイン基板30に搭載されるサーミスタ(不図示)によって取得された記録装置周囲の環境温度との2つの温度情報を取得する。
【0069】
環境温度及びヘッド温度の取得が済むと、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、当該取得した環境温度及びヘッド温度に基づいて、図9(a)のS102の処理で選択された駆動パルステーブルからPWM番号を取得する(S202)。例えば、図11に示す駆動パルステーブルを例に挙げて説明すると、環境温度Tenvが25度であり、記録ヘッドの温度Theadが28度であれば、△T(Thead−Tenv)=3度となり、“PWM12”が選択される。つまり、ヘッド温度に応じて駆動パルスを選択しており、ヘッドの温度が上昇すると、パルス幅の異なる駆動パルスが選択される。
【0070】
PWM番号を選択した後、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、同時吐出数に基づいて、駆動パルス(プレパルス、メインパルス)を補正する(S203)。なお、この処理は、必ずしも行なう必要はない。
【0071】
ここで、このような同時吐出数に基づく補正は、同時に駆動されるヒータの数が増加すると電圧降下の影響によりヒータに流れる電流値が変化し、インクの吐出量が減少するため行なわれる。この処理においては、インクの吐出量が一定となるように駆動パルス制御部36において、図12に示す補正テーブルに従ってパルス幅の補正を行なえば良い。
【0072】
ここでは、同時吐出数が16段階に分けられており、同時吐出数に応じてパルス幅の補正が行なわれることになる。この補正処理では、同時吐出数に基づいて、そのときの電圧損失を補償するようにパルス幅の補正が行なわれる。図12に示す補正テーブルでは、メインパルス幅を長くすることで、同時吐出数の増加に伴う電圧損失による吐出エネルギーの低下を補償している。
【0073】
このようにして最終的な駆動パルスが決まると、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、当該駆動パルスを用いてヒータを駆動し、各ノズルからのインクの吐出制御を行なう(S204)。
【0074】
以上説明したように実施形態1によれば、使用ノズル数が少ない場合には、ヘッド温度の上昇につれて目標吐出量の増加量が大きくなるように設定する。これにより、ヘッド温度が上昇し駆動パルスが変更されたとしても、駆動パルスの変更前後で生じるインクの吐出量の変化を少なくできるので、濃度むらが生じるような明度変化が急激に生じることを抑制できる。
【0075】
なお、実施形態1においては、記録品位を示す記録モードに応じて使用ノズルを数を変える場合について説明したが、このような記録品位に関わらず、使用ノズル数を変更して行なう記録は種々の場面で行なわれる。例えば、記録媒体を搬送する搬送ローラの偏心に伴って搬送精度の低下が生じる場合などに記録モードの変更を行なってもよい。この場合、記録装置1においては、搬送ローラの偏心に伴った記録画像の濃度むらを軽減するため、使用ノズル数を減らして記録動作を行なう。
【0076】
画像の記録が終わるまでの間に、搬送ローラの偏心量を起因にして累積される累積搬送誤差は、図13に示すように、使用ノズル数を少なくすることで削減される。使用ノズル数をと記録速度とは、トレードオフの関係となるため、使用ノズル数が増加するほど、記録速度は低下する。その一方で、使用ノズル数が増加すれば、累積搬送誤差はより抑制されることになる。
【0077】
(実施形態2)
次に、実施形態2について説明する。実施形態2においては、図10に示す記録ヘッドの2つの温度センサのうち、搬送方向の上流側に位置する温度センサ21のみで測定された温度を記録ヘッドの温度として、インク吐出量制御を行なう場合について説明する。それ以外の構成及び水準の駆動パルステーブルについては、実施形態1と同様となるため、ここではその説明については省略する。
【0078】
ここで、温度センサ21は、ヘッドコンタクト端子43の近くに配されており、温度センサ22は、ノズル列を迂回して信号線を配線しなければならない。そのため、温度センサ22からの信号には、ノイズが重畳し易い。
【0079】
そこで、実施形態2においては、2つの温度センサ21及び22のうち、温度センサ21のみを使用することにより、ノイズの影響を考慮せずに、ヘッド温度を取得する。なお、本実施形態においては、片側の温度センサしか使用しない場合の、駆動パルス制御について重点的に説明する。この駆動パルス制御は、上述した通り、使用するノズルの数及び使用するノズルの位置に応じて行なわれる。
【0080】
図14は、実施形態2に係る記録媒体及び記録モード時に使用するノズルの数、使用するノズルの位置(図10のArrayナンバー)、パス数の関係を示す図である。
【0081】
図14を参照すると、用紙A及び用紙Bに対する記録に際しては、使用するノズルの数及びパス数は同じとなるが、使用するノズルの位置が異なっているのが分かる。具体的には、用紙Aに対するきれいモード及び標準モード時に使用するノズルは、搬送方向の下流側(G1)、すなわち、温度センサ21から距離が遠いノズルが使用される。また、用紙Bに対するきれいモード及び標準モード時に使用するノズルは、搬送方向の上流側(G2)、すなわち、温度センサ21から距離が近いノズルが使用される。
【0082】
ここで、図15は、使用するノズルの数及び使用するノズルの温度センサからの距離に応じて使用する駆動パルステーブルの水準を示した図である。
【0083】
用紙Bへの記録に際しては、実施形態1で用いた駆動パルステーブルの水準と同じとなる。これは、使用する複数のノズルの重心が搬送方向の上流側(G2)であり、温度センサ21に近く、温度センサの取得値の信頼性が高いためである。
【0084】
一方、用紙Aに対するきれいモード及び標準モード時の記録に際しては、使用する複数のノズルの重心位置が温度センサから遠い。すなわち、搬送方向下流側(G1)であるため、使用ノズル位置近傍の温度と温度センサ取得値の乖離が発生する可能性がある。そのため、この場合には、ヘッド温度が上昇して駆動パルスが変更された時に濃度むらが生じ難い駆動パルステーブルを選択する。
【0085】
次に、図16を用いて、実施形態2に係る記録装置1の処理の流れの一例について説明する。ここでは、駆動パルス制御について説明する。
【0086】
記録装置1は、ASIC31において、まず、使用ノズル数を取得するとともに(S301)、使用ノズルの重心位置が温度センサから遠い搬送方向下流側(G1)にあるか、温度センサに近い搬送方向上流側(G2)にあるかを取得する(S302)。例えば、用紙Aに対する標準モードであれば、図14の表に基づいて、使用ノズル位置として、図10のArray2、3、4の768ノズルで記録が行なわれる。また、使用ノズルの重心位置は、搬送方向の下流側(G1)となる。
【0087】
続いて、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、使用ノズルの数と使用ノズルの重心位置とから、図14の表を参照して、駆動パルステーブルを選択する(S303)。このとき使用するノズル数が少なくなるほど、ヘッド温度が上昇するにつれ目標吐出量が増加する駆動パルステーブルが選択される。また、温度センサから遠いほど目標吐出量の増加量が大きい駆動パルステーブルが選択される。
【0088】
つまり、用紙Bの場合、768個のノズルを使用して記録する際には、水準(2)の駆動パルステーブルが選択されるのに対し、用紙Aの場合、768個のノズルを使用して記録する際には、水準(3)の駆動パルステーブルが選択される。
【0089】
その後、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、実施形態1同様に、この選択された駆動パルステーブルを用いて、駆動パルスを決定し、ヒータを駆動し、各ノズルからインクの吐出制御を行なう(S304)。
【0090】
以上説明したように実施形態2によれば、温度センサが一部の領域のヘッド温度しか測定できない場合であっても、駆動パルスが変更した際に生じる明度変化による濃度むらを低減することができる。
【0091】
(実施形態3)
次に、実施形態3について説明する。実施形態3においては、1枚の記録媒体に記録動作を行なう途中で使用するノズルの数を変更する場合について説明する。なお、ここでは、図10に示す温度センサ21及び22の2つを用いて駆動パルスを決定する場合を例に挙げて説明する。
【0092】
まず、図17を用いて、記録装置1の搬送機構の概要について説明する。図17は、記録媒体の搬送機構を横からみた模式図を示している。記録媒体は、図17の右側(搬送方向上流側)から左側(搬送方向下流側)に搬送される。
【0093】
搬送ローラ61は、金属軸の表面にセラミックの微小粒がコーティングされた構成になっており、両軸の金属部分を不図示の軸受けが受ける状態でシャーシに取り付けられている。搬送ローラ61には、ローラテンションバネ(不図示)が設けられており、当該バネが搬送ローラ61を付勢することにより、搬送ローラ61の回転時には適量の負荷が与えられ、安定した搬送が行なわれる。
【0094】
搬送ローラ61には、従動するピンチローラ63が当設して設けられている。ピンチローラ63は、ピンチローラバネ(不図示)によって付勢されることで搬送ローラ61に圧設し、これにより、記録媒体の搬送力が生み出される。ペーパーエンドセンサ62は、記録媒体の先端及び後端を検出する
搬送ローラ61の記録媒体の搬送方向に沿った下流側には、ヒータボード20を備えた記録ヘッド3が設けられている。ヒータボード20上の各ノズル列の中央部に位置する256個のノズル(1200dpiピッチ)の真下には、フチ無し記録用プラテン吸収体67が設けられている。プラテン吸収体67の両脇には、搬送基準面となるリブ66が設けられている。また、排紙部には、排紙ローラ68及び拍車ローラ69がそれぞれ複数(この場合、2つ)設けられている。
【0095】
次に、図18を用いて、記録媒体の記録領域と使用するノズルの数及びノズルの位置について説明する。
【0096】
記録媒体は、使用ノズル数と使用ノズル位置情報とに応じて複数の領域(A〜E)に分けられている。ここでは、記録モードとして、図8(b)に示す「はやい」が選択され、1024ノズルを用いて8パスで記録が行なわれる場合について説明する。
【0097】
記録媒体上の領域Cに対しては、搬送ローラ61及び排紙ローラ68によって記録媒体の(搬送方向に沿った)両端がニップされた安定した搬送状態で記録動作が行なわれる。そのため、当該領域Cに対する記録に際しては、1024個のノズルを使用して記録動作が行なわれる(図9(c))。
【0098】
領域A及び領域Eは、フチ無し記録の端部であるため、記録媒体領域の上下にはみ出して記録が行なわれる。記録媒体の両端部、すなわち、領域A及び領域Eは、搬送方向の上流側から数えて、384番目から639番目の計256個のノズルを使用して記録が行なわれる(図9(a))。
【0099】
また、図18に示す領域Bに対する記録に際しては、記録媒体の先端部の拍車ローラ69のニップへの突入に備え、使用するノズルの数及び使用するノズルの位置を変更して記録が行なわれる。図19に示す領域Dに対する記録に際しても、記録媒体の後端部が搬送ローラ61のニップから離脱するタイミングに備え、使用するノズルの数及び使用するノズルの位置を変更して記録が行なわれる。
【0100】
領域Bに対する記録に際しては、搬送方向上流側から数えて128番目から895番目の計768個のノズルが記録に使用される(図19(b))。また、領域Dに対する記録に際しては、搬送方向上流側から数えて160番目から927番目の計768個のノズルが記録に使用される(図19(d))。
【0101】
つまり、実施形態1と同様に、2つの温度センサを用いた場合には、256個のノズルを使用する領域A及び領域Eに対する記録に際しては水準(4)の駆動パルステーブルが使用される(図8(a)参照)。
【0102】
768個のノズルを使用する領域B及び領域Dに対する記録に際しては、水準(2)の駆動パルステーブルが使用され、1024個のノズルを使用する領域Cに対する記録に際しては、水準(1)の駆動パルステーブルが使用される(図8(a)参照)。
【0103】
このように実施形態3においては、記録媒体の領域A〜Eを跨ぐ記録動作中に、参照する駆動パルステーブルの切り替えが行なわれる。そのため、実施形態1のように、温度に対応する駆動パルスのパルス幅が1種類であるとすると、記録領域が変わり駆動パルステーブルの切り替えが生じたときに、駆動パルスのパルス幅が大きく変化し、画像の急激な濃度変化が生じる恐れがある。具体的には、図8(a)に示す駆動パルステーブルで考えると、水準(2)のヘッド温度が34度の駆動パルスから、水準(1)のヘッド温度が34度の駆動パルスに変更された状況が想定される。このとき、インク吐出量4.00ngの目標値の駆動パルスから、3.8ngの目標値の駆動パルスに変更されるため、画像の急激な濃度変化が生じると想定される。
【0104】
そこで、実施形態3においては、駆動パルステーブルを変更する前の駆動パルスのインク吐出量と、駆動パルステーブル変更後の駆動パルスのインク吐出量とが一致するようにインク吐出量の制御を行なう。これにより、画像の急激な濃度変化を抑制できる。
【0105】
次に、図20を用いて、実施形態3に係る記録装置1の処理の流れの一例について説明する。ここでは、上述した記録媒体上の各領域における境界部における駆動パルス制御について説明する。
【0106】
記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、まず、現在の駆動パルステーブルの特定を行なう(S401)。次に、温度センサ21及び22を用いて記録ヘッド温度の取得を行なう(S402)。そして、S401の処理で特定した駆動パルステーブルから、S402の処理で取得したヘッド温度に対応する駆動パルスを特定し、その際の目標インク吐出量を読み出す(S403)。
【0107】
目標インク吐出量の取得が済むと、記録装置1は、ヘッド駆動信号制御部34において、目標インク吐出量とS402の処理で取得したヘッド温度とに基づいて、次の記録領域の水準に対応する複数の駆動パルステーブルの中から、目標インク吐出量が同じ駆動パルステーブルを選択する(S404)。
【0108】
ここで、記録領域が変わる際に選択される駆動パルステーブルについて具体的を挙げて説明する。
【0109】
領域Aから領域Bへ切り替わると、ヘッド温度が1℃上昇する毎に目標吐出量を0.2ng引き上げる水準(4)の駆動パルステーブルから、ヘッド温度が1度上昇する毎に目標吐出量を0.05ngを引き上げる水準(2)の駆動パルステーブルへ移行する。ここで領域A終端(地点X)の記録時(領域B始端)のヘッド温度をTABとする。このときのヘッド温度における水準(4)の駆動パルステーブルから目標吐出量が3.8ngとすると、水準(2)の複数の駆動パルステーブルの中からヘッド温度TABのときに目標吐出量が3.8ngである駆動パルステーブルを選択する。
【0110】
ここで、図21を用いて、領域Aから領域Bへの切り替わりについて説明する。図21は、図18の地点Xにおいて、水準(4)の駆動パルステーブルから水準(2)の駆動パルステーブルに切り替える際の概要を示している。
【0111】
地点Xのヘッド温度は、TABであり、当該ヘッド温度の場合に、水準(4)の駆動パルステーブルに従って選択される駆動パルス幅のインクの目標吐出量は、3.8ngとなる。そして、このヘッド温度とインクの目標吐出量とに基づいて、複数の水準(2)の駆動パルステーブルの中から、ヘッド温度TABにおける目標吐出量が同じ水準(2)−3のテーブルを選択する。
【0112】
更に、領域Bから領域Cに切り替わると、ヘッド温度が1度上昇するごとに0.1ng引き上げる水準(3)の駆動パルステーブルから、ヘッド温度が上昇しても目標吐出量がかわらない水準(1)の駆動パルステーブルへ移行する。
【0113】
ここで、図18に示す領域B終端(地点Y)の記録時(領域C始端)のヘッド温度をTBCとする。このときのヘッド温度における目標吐出量が4.0ngとすると、水準(1)の複数の駆動パルステーブルの中から、ヘッド温度TBCのときに目標吐出量が4.0ngとなる駆動パルステーブルを選択する。
【0114】
図22を用いて、領域Bから領域Cへの切り替わりについて説明する。図22は、図18の地点Yにおいて、水準(2)−3の駆動パルステーブルから水準(1)の駆動パルステーブルに切り替える際の概要を示している。
【0115】
地点Yのヘッド温度は、TBCであり、当該ヘッド温度の場合に、水準(2)−3の駆動パルステーブルに従って選択される駆動パルス幅のインクの目標吐出量は、4.0ngとなる。そして、このヘッド温度TBCとインクの目標吐出量とに基づいて、複数の水準(1)の駆動パルステーブルの中から、ヘッド温度TBCにおける目標吐出量が同じ4.0ngの水準(1)−2のテーブルを選択する。
【0116】
更に、領域Cから領域Dに切り替わると、ヘッド温度が上昇しても目標吐出量が変わらない水準(1)の駆動パルステーブルから、ヘッド温度が1度上昇するごとに0.05ng引き上げる水準(2)の駆動パルステーブルへ移行する。ここで、図18の領域C終端(地点Z)の記録時(領域D始端)のヘッド温度をTCDとする。このときのヘッド温度における目標吐出量が4.0ngとすると、水準(2)の複数の駆動パルステーブルの中から、ヘッド温度TCDのときに目標吐出量が4.0ngとなる駆動パルステーブルを選択する。
【0117】
次に、図23を用いて、領域Cから領域Dへの切り替わりについて説明する。図23は、図18の地点Zにおいて、水準(1)−2の駆動パルステーブルから水準(2)の駆動パルステーブルに切り替える際の概要を示している。
【0118】
地点Zのヘッド温度は、TCDであり、当該ヘッド温度の場合に、水準(1)−2の駆動パルステーブルに従って選択される駆動パルス幅のインクの目標吐出量は4.0ngとなる。そして、このヘッド温度TCDとインクの目標吐出量とに基づいて、複数の水準(2)の駆動パルステーブルの中から、ヘッド温度TCDにおける目標吐出量が同じ4.0ngの水準(2)−2の駆動パルステーブルを選択する。
【0119】
更に、領域Dから領域Eへの切り替わりについても同様であり、ヘッド温度TDEにおける水準(2)−2のインクの目標吐出量と同じ吐出量となる水準(4)の駆動パルステーブルに切り替える。
【0120】
つまり、領域が切り替わり、駆動パルステーブルが変更される際には、変更前後の駆動パルスのエネルギー量が実質的に等しくなるように、変更後の駆動パルステーブルが選択さる。
【0121】
ここでは、領域間の駆動パルステーブルの切り替えにおいて、切り替え時直前のヘッド温度及びインク吐出量設定が実質的に一致する駆動パルステーブルを選択しているが、インク吐出量設定が一致する駆動パルステーブルが無い場合も考えられる。このような場合には、例えば、ヘッド温度におけるインク吐出量設定が最も近い駆動パルステーブルを選択すれば良い。
【0122】
以上説明したように実施形態3によれば、使用するノズル数に応じて水準を選択することに加え、記録動作中に駆動パルステーブルの水準を切り替える際に、エネルギー量を一致させるべく駆動パルステーブルを選択する。これにより、テーブル切替時のインク吐出量の差に起因した明度変化を抑制できる。
【0123】
また、使用するノズル数が少ない場合には、ヘッド温度の上昇につれて目標吐出量を増加させる。これにより、ヒータボードの温度が上昇した状態で駆動パルスの変更を行なったときに使用ノズル数が少なかったとしても、濃度むらが生じるような明度変化が急激に生じることを抑制できる。
【0124】
以上が本発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記及び図面に示す実施形態に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
【0125】
例えば、上述した実施形態3においては、2つの温度センサを用いた場合について説明したが、実施形態2のように、1つの温度センサを用いた場合であっても上記同様の処理が行なえる。すなわち、実施形態3の構成においても、使用するノズルの重心位置に応じて異なる水準を選択するようにしても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサと、駆動パルスの印加によりインクを吐出するための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子とを備えた記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査することで記録を行なうインクジェット記録装置であって、
複数の駆動パルスを規定する駆動パルステーブルを複数記憶する記憶手段と、
前記複数の発熱素子のうち記録に使用する発熱素子の数を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された発熱素子の数に基づいて複数の駆動パルステーブルの中からいずれかを選択するとともに、前記温度センサにより測定された前記記録ヘッドの温度に基づいて当該選択した当該駆動パルステーブルから前記複数の発熱素子に印加する駆動パルスを選択する制御を行なう制御手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
温度センサと、駆動パルスの印加によりインクを吐出するための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子とを備えた記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査することで記録を行なうインクジェット記録装置であって、
複数の駆動パルスを規定する駆動パルステーブルを複数記憶する記憶手段と、
前記複数の発熱素子のうち記録に使用する発熱素子の数を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された発熱素子の数と前記記録に使用される発熱素子から前記温度センサまでの距離とに基づいて複数の駆動パルステーブルの中からいずれかを選択するとともに、前記温度センサで測定された前記記録ヘッドの温度に基づいて当該選択した当該駆動パルステーブルから前記複数の発熱素子に印加する駆動パルスを選択する制御を行なう制御手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、
前記記録ヘッドの温度が上昇するにつれ、インクの目標吐出量が増加するように駆動パルスが規定された駆動パルステーブルを記憶し、
前記制御手段は、
前記使用する発熱素子の数が第1の数である場合に第1の駆動パルステーブルを選択し、前記使用する発熱素子の数が前記第1の数よりも少ない第2の数である場合に第2の駆動パルステーブルを選択し、
前記第2の駆動パルステーブルは、
前記記録ヘッドの温度の上昇に応じたインクの目標吐出量の増加の比率が、前記第1の駆動パルステーブルよりも大きい
ことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記特定手段は、
記録品位に応じて設けられた複数の記録モードに基づいて、前記使用する発熱素子の数を特定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録媒体に対する記録動作中に使用する発熱素子の数を変更する変更手段
を更に有し、
前記制御手段は、
前記変更手段により前記使用する発熱素子の数が変更された場合、前記変更手段により変更される前の駆動パルステーブルにおける駆動パルスのエネルギー量と、前記変更手段により変更された後の駆動パルステーブルにおける駆動パルスのエネルギー量とを一致させるべく、前記駆動パルステーブルを選択する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記選択した前記駆動パルスのパルス幅又は駆動電圧を変更させることによってインクの吐出量の制御を行なう
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
温度センサと、駆動パルスの印加によりインクを吐出するための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子とを備えた記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査することで記録を行なうインクジェット記録装置の制御方法であって、
特定手段が、前記複数の発熱素子のうち記録に使用する発熱素子の数を特定する特定工程と、
制御手段が、前記特定手段により特定された発熱素子の数に基づいて、複数の駆動パルスを規定する駆動パルステーブルを複数記憶する記憶手段における複数の駆動パルステーブルの中からいずれかを選択するとともに、前記温度センサにより測定された前記記録ヘッドの温度に基づいて当該選択した当該駆動パルステーブルから前記複数の発熱素子に印加する駆動パルスを選択する制御を行なう制御工程と
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項8】
温度センサと、駆動パルスの印加によりインクを吐出するための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子とを備えた記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に走査することで記録を行なうインクジェット記録装置の制御方法であって、
特定手段が、前記複数の発熱素子のうち記録に使用する発熱素子の数を特定する特定工程と、
制御手段が、前記特定手段により特定された発熱素子の数と前記記録に使用される発熱素子から前記温度センサまでの距離とに基づいて、複数の駆動パルスを規定する駆動パルステーブルを複数記憶する記憶手段における複数の駆動パルステーブルの中からいずれかを選択するとともに、前記温度センサで測定された前記記録ヘッドの温度に基づいて当該選択した当該駆動パルステーブルから前記複数の発熱素子に印加する駆動パルスを選択する制御を行なう制御工程と
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項9】
前記制御工程では、
前記使用する発熱素子の数が第1の数である場合に第1の駆動パルステーブルが選択され、前記使用する発熱素子の数が前記第1の数よりも少ない第2の数である場合に第2の駆動パルステーブルが選択され、
前記第2の駆動パルステーブルは、
前記記録ヘッドの温度の上昇に応じたインクの目標吐出量の増加の比率が、前記第1の駆動パルステーブルよりも大きい
ことを特徴とする請求項7又は8記載の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図13】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−103484(P2013−103484A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251022(P2011−251022)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】