説明

インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法

【課題】高速画像形成を行った場合であっても、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制できるインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドを用いて記録媒体に対して画像形成を行うインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法であって、インクが吐出された記録面と接触して記録媒体を搬送するための搬送ローラを備えるとともに、搬送ローラの表面が、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。特に、高速画像形成を行った場合であっても、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制できるインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録技術は急速に進歩しており、銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることが可能となっている。
しかしながら、インクジェット記録技術においては、画像形成速度を向上させようとすると、次のような問題が生じやすい。
すなわち、画像形成速度を高速化させると、インクが記録媒体に浸透する前に、記録媒体が搬送ローラを通り排出されてしまう。その結果、インクが搬送ローラに付着することとなるため、画像不良が発生しやすくなるという問題が見られる。
【0003】
そこで、かかる問題を解決すべく、インクの凝集成分を記録媒体側に強く付着させるとともに、凝集成分以外の溶媒については迅速に除去するインクジェット記録方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
すなわち、特許文献1においては、疎水性ポリマーが表面に塗工されている記録媒体上に、インクを凝集させることができる処理液とインクとの両方を付着させるインクジェット記録方法であって、インク及び/または処理液が記録媒体上に塗工されている疎水性ポリマーと同組成からなる微粒子を含有させたインクジェット記録方法が開示されている。
【0004】
一方、トナー現像における技術ではあるが、定着ローラの表面に対してトナー汚れが付着することを防ぐことを目的として、定着ローラの表面をフッ素樹脂を用いてコーティングする方法が開示されている(例えば、特許文献2)。
そこで、かかるコーティング方法をインクジェット記録方法に適用することが試みられている。
【特許文献1】特開2006−263984号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−239624号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のインクジェット記録方法では、疎水性ポリマーが表面に塗工された特殊な記録媒体を使用しなければならないばかりか、記録媒体表面に残留しているインクの溶媒を、溶媒吸収ローラ等にて吸収する必要がある。したがって、インクが搬送ローラに付着して画像不良が発生するという問題を、根本的に解決したとは言い難い。
また、特許文献2の方法をインクジェット記録方法に適用した場合であっても、搬送ローラの表面に対するインクの付着を十分に抑制することは困難であった。
したがって、高速画像形成を行った場合であっても、かかる問題を効果的に抑制できるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置が求められている。
【0006】
そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、搬送ローラの表面をフラーレン等を用いて処理することにより、搬送ローラ表面に対するインクの付着性を効果的に抑制できることを見出した。
その結果、高速画像形成を行った場合であっても、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制できることを見出すに至った。
すなわち、本発明の目的は、高速画像形成を行った場合であっても、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制できるインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、インクジェットヘッドを用いて記録媒体に対して画像形成を行うインクジェット記録装置であって、インクが吐出された記録面と接触して記録媒体を搬送するための搬送ローラを備えるとともに、搬送ローラの表面が、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることを特徴とするインクジェット記録装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、搬送ローラの表面をフラーレン等を用いて処理することにより、搬送ローラの表面における撥水性を効果的に向上させることができる。
その結果、記録媒体に浸透し切れなかったインクが搬送ローラに接触した場合であっても、インクが搬送ローラに付着することを抑制し、ひいてはそれに起因した画像不良の発生を効果的に抑制することができる。
したがって、本発明の画像形成装置であれば、高速画像形成を行った場合であっても、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0008】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、フラーレンまたはフラーレン誘導体の基本骨格が、C60、C70及びC84からなる群より選択される少なくとも一つであることが好ましい。
このように構成することにより、搬送ローラ表面の撥水性をより向上させることができるとともに、フラーレン等を搬送ローラ表面に対して安定的に保持させることができる。
【0009】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、フラーレン誘導体が、置換基として、−OH、−OCOR、−OCOOR及び−R(Rは、アルキル基、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基)からなる群より選択される少なくとも一種を有することが好ましい。
このように構成することにより、搬送ローラの表面における撥水性をより向上させつつも、非水溶性溶媒に対する相溶性についても向上させることができ、搬送ローラの表面に対する処理を容易にすることができる。
【0010】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、搬送ローラの表面におけるフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の処理量が2.5mg/m2以上の値であることが好ましい。
このように構成することにより、搬送ローラの表面に対して、より均一に処理することができる。
【0011】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、搬送ローラの表面がシリコーンゴム層を有するとともに、当該シリコーンゴム層の表面がフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることが好ましい。
このように構成することにより、従来の搬送ローラの機能を何ら損なうことなく、搬送ローラの表面に対するインクの付着を抑制することができる。
【0012】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、シリコーンゴム層の表面が、ポリテトラフルオロエチレンを含む表面離型層を介して、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることが好ましい。
このように構成することにより、搬送ローラの表面における撥水性を、さらに効果的に向上させることができる。
【0013】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、フラーレンまたはフラーレン誘導体による処理として、搬送ローラを、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方を含有した非水溶性溶媒に対して浸漬した後引き上げる塗布方法を用いてなることが好ましい。
このように構成することにより、搬送ローラの表面に対して、簡易、かつ、均一にフラーレン等による処理を行うことができる。
【0014】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、非水溶性溶媒がペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン及びシクロへキサンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
このように構成することにより、十分量のフラーレン等を、より均一に溶解させることができる。
【0015】
また、本発明のインクジェット記録装置を構成するにあたり、非水溶性溶媒100重量部に対するフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の含有量が1〜30重量部の範囲内の値であることが好ましい。
このように構成することにより、さらに均一にフラーレン等を溶解させることができる。
【0016】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかのインクジェット記録装置を用いたインクジェット記録方法である。
すなわち、かかるインクジェット記録方法であれば、特定の処理を施された搬送ローラを使用していることから、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、インクジェットヘッドを用いて記録媒体に対して画像形成を行うインクジェット記録装置であって、インクが吐出された記録面と接触して記録媒体を搬送するための搬送ローラを備えるとともに、搬送ローラの表面が、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることを特徴とするインクジェット記録装置である。
以下、本発明の実施形態としてのインクジェット記録装置について、主な構成要件である給紙トレイ、搬送ベルト、インクジェットヘッド及び搬送ローラに分けて、それぞれ具体的に説明する。
【0018】
1.給紙トレイ
【0019】
図1に示すように、本発明のインクジェット記録装置20の右側部には記録媒体1を収容する給紙トレイ(図示せず)が設けられている。
かかる給紙トレイの一端部には収容された記録媒体1を、最上位の記録媒体から順に、一枚ずつ搬送ベルト6へと搬送給紙するための給紙ローラ2が設けられている。
【0020】
2.搬送ベルト
給紙ローラ2の記録媒体搬送方向下流側(図1において左側)には、搬送ベルト6が回転自在に配設されている。
かかる搬送ベルト6は、記録媒体搬送方向下流側に配置されたベルト駆動ローラ10と、上流側に配置され搬送ベルト6を介してベルト駆動ローラ10に従動回転するベルトローラ11とに掛け渡されており、ベルト駆動ローラ10が反時計方向に回転駆動されることにより、記録媒体1が矢印Xの方向に搬送される。
なお、搬送ベルト6には誘電体樹脂製のシートが用いられ、その両端部を互いに重ね合わせて接合しエンドレス形状にしたベルトや、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルト等が好適に用いられる。
【0021】
3.インクジェットヘッド
また、搬送ベルト6の上方には、搬送ベルト6上を搬送される記録用紙1に対してインクの吐出を行うインクジェットヘッド5が配設されている。
かかるインクジェットヘッド5は、単色のインクのみを吐出するものであっても良いし、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック等、複数色のインクを吐出するものであっても良い。
また、インクジェットヘッド5の種類としては、記録媒体の幅方向に往復動作するシリアル型インクジェットヘッドであっても良いし、固定された長尺インクジェットヘッドであっても良い。
なお、インクジェットヘッド5における個々のドット形成部の具体例として、ピエゾ方式のドット形成部の一例を、図2(a)〜(b)に示す。
すなわち、例えば、加圧室32の底面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル流路34の直径が30μm及び開口部40の半径が10μmのドット形成部30を用いることができる。
また、例えば、かかるドット形成部30を、1列につき166個、4列に並べ、合計664個を配列させて、長尺インクジェットヘッドとすることができる。
さらに、例えば、同一列内のドット形成部30のピッチを150dpiとし、また、隣り合う各列を順次1/4ピッチずらすことで、最終的に600dpiの長尺インクジェットヘッドとすることができる。
【0022】
なお、インクジェットヘッド5におけるインクの吐出方式としては、上述したピエゾ方式以外であってもよく、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式など、各種方式を適用することができる。
【0023】
4.搬送ローラ
また、搬送ベルト6の記録媒体搬送方向下流側には、画像が記録された記録媒体1を装置本体外へと搬送する搬送ローラ7、及び搬送ローラ7に圧接され従動回転する加圧ローラ8が設けられており、装置本体外には搬送ローラ7及び加圧ローラ8の下流に、装置本体外へと排出された記録用紙1が積載される排紙トレイ(図示せず)が設けられている。
なお、搬送ローラは、記録媒体を装置本体外へと搬送するローラに限定されるものではない。すなわち、インクが吐出された記録媒体の記録面に接触して、記録媒体を搬送するためのローラであれば、その搬送先にかかわりなく本発明の「搬送ローラ」に該当する。
【0024】
(1)基本的構成
搬送ローラの基本的構成としては、特に限定されるものではなく、加圧ローラと協働して記録媒体を装置本体外等へと搬送できる構成であればよい。
基本的には、図3(a)に示すように、記録媒体搬送方向に対して垂直方向に伸びる軸を有した円筒形とすることが好ましい。
円筒形とした場合、その直径を10〜100mmの範囲内の値とすることが好ましく、その長さを10〜50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、記録媒体表面に対して直接的に接触する部材であるため、金属等からなる芯金7aの周囲に弾性体層7bを備えた構成とすることが好ましい。
また、記録媒体表面に対する接触面積を減少させるべく、図3(b)に示すように、弾性体層の断面形状を歯車様の歯先を有する形状(7b´)等とすることも好ましい。
【0025】
(2)表面処理
本発明における搬送ローラは、その表面が、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることを特徴とする。
この理由は、搬送ローラの表面をフラーレン等を用いて処理することにより、搬送ローラの表面における撥水性を効果的に向上させることができるためである。
その結果、高速画像形成を行ったことに起因して、記録媒体に浸透しきれなかったインクが搬送ローラに接触した場合であっても、インクが搬送ローラに付着することを抑制し、ひいてはそれに起因した画像不良の発生を効果的に抑制することができるためである。
すなわち、従来においては、インクが搬送ローラに付着する問題を抑制するために、記録媒体に対して特殊な表面処理を施したり、インクの組成を変えたり、あるいは記録媒体に浸透しきれなかったインクを吸収したりといった方法が採られていた。
しかしながら、これらの方法では、技術的にもコスト的にも、かかる問題を十分に解決することができていないというのが現状であった。
また、搬送ローラの表面を、例えば、フッ素樹脂等を用いてコーティングし、撥水性を向上させた場合であっても、耐久性に問題があり、未だ搬送ローラの表面に対するインクの付着を十分に抑制することが困難であった。
この点、搬送ローラの表面をフラーレン等を用いて処理した場合、撥水性の面では、フッ素樹脂を用いた場合と同レベル(水の接触角:150°(25℃)程度)の性能を発揮することができ、さらに、耐久性の面でも、フッ素樹脂を用いた場合と比較して著しく優れた性能を発揮することができる。
特に、フラーレン誘導体は、薄膜を形成した際に、その表面がフラクタル構造(部分と全体が自己相似になっているような構造)を有することから、撥水性及び耐久性をさらに向上させることができる。
【0026】
本発明において用いられるフラーレンまたはフラーレン誘導体としては、その基本骨格が、C60、C70及びC84からなる群より選択される少なくとも一つであることが好ましい。
この理由は、フラーレン等としてこれらの化合物を用いることにより、搬送ローラの撥水性をより向上させることができるとともに、フラーレン等を搬送ローラ表面に対して安定的に保持させることができるためである。
また、フラーレン等の中でも、C60、C70及びC84であれば、比較的安価であり、中でもC60は、最も安価である点も、これらの化合物が好適に用いられる理由となる。
【0027】
また、フラーレン誘導体としては、フラーレンの基本骨格が、置換基として、−OH、−OCOR、−OCOOR及び−R(Rは、アルキル基、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基)からなる群より選択される少なくとも一種を有することが好ましい。
この理由は、これらの置換基を有するフラーレン誘導体であれば、搬送ローラの表面における撥水性をより向上させつつも、後述する非水溶性溶媒に対する相溶性についても向上させることができ、搬送ローラの表面に対する処理を容易にすることができるためである。
なお、上述した置換基中におけるRの炭素数としては、1〜50の範囲内の値とすることが好ましく、20〜40の範囲内の値とすることがより好ましい。
また、−OCOR及び−OCOORを末端に有する置換基を導入することも好ましい。
【0028】
また、搬送ローラの表面におけるフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の処理量、すなわち、搬送ローラ表面におけるフラーレン等の存在量が2.5mg/m2以上の値であることが好ましい。
この理由は、搬送ローラの表面におけるフラーレン等の処理量をかかる範囲とすることにより、十分量のフラーレン等を、搬送ローラの表面に対して、より均一に処理することができるためである。
すなわち、フラーレン等の処理量が2.5mg/m2未満の値となると、その絶対量が不足して、搬送ローラの表面に対して、所望の撥水性を付与することが困難となる場合があるためである。一方、フラーレン等の処理量を過度に大きくしようとすると、処理を行う際に調製するフラーレン等を含有した処理液中において、フラーレン等が凝集しやすくなる場合がある。より具体的には、処理液中のフラーレン等濃度が30重量%以上となると、過度に凝集しやすくなって、処理が困難となる。
したがって、搬送ローラの表面におけるフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の処理量が2.5〜500mg/m2の範囲内の値であることがより好ましく、2.5〜250mg/m2の範囲内の値であることがさらに好ましい。
【0029】
また、搬送ローラの表面がシリコーンゴム層を有するとともに、当該シリコーンゴム層の表面がフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、従来の搬送ローラの機能を何ら損なうことなく、搬送ローラの表面に対するインクの付着を抑制することができるためである。
すなわち、フラーレン等の効果によって、搬送ローラの表面にインクが付着することを効果的に抑制しつつも、シリコーンゴム層の効果により、従来の搬送ローラと同様に、搬送ローラと、加圧ローラと、の接触点においてニップ部を形成することにより、記録媒体を安定的に挟み込んで、装置外等へと搬送することができるためである。
なお、シリコーンゴムの代わりに、例えば、ポリイソブチレン、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、塩化ゴム、アクリルゴム、ポリ塩化ビニル、ウレタンゴム、ポリエチレンテレフタレート及びエポキシ樹脂等からなる弾性層を設けることもできる。
【0030】
また、シリコーンゴム層の表面が、ポリテトラフルオロエチレンを含む表面離型層を介して、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、搬送ローラの表面における撥水性を、さらに効果的に向上させることができるためである。
すなわち、ポリテトラフルオロエチレンのみによって処理した場合には、撥水性が不十分であるものの、さらにフラーレン等による処理を行うことによって、容易に撥水性を所望のレベルにまで向上させて、インクの付着をより効果的に抑制することができるためである。
なお、その他の表面離型層の材料物質としては、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。
【0031】
(3)処理方法
また、搬送ローラの表面に対するフラーレン等による処理の方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の種々の方法を用いることができる。
例えば、フラーレン等を溶媒に溶解または分散させて、スプレー法にて塗布する方法や、刷毛等によって塗布する方法等が挙げられる。
その中でも特に好ましい処理方法としては、搬送ローラを、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方を含有した非水溶性溶媒に対して浸漬した後引き上げる塗布方法、すなわち、浸漬塗布法を用いることが好ましい。
この理由は、かかる浸漬塗布法であれば、搬送ローラの表面に対して、簡易、かつ、均一にフラーレン等による処理を行うことができるためである。
【0032】
また、このとき使用される非水溶性溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン及びシクロヘキサンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
この理由は、これらの非水溶性溶媒であれば、十分量のフラーレン等を、より均一に溶解させることができるためである。
【0033】
また、このとき、非水溶性溶媒100重量部に対するフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の含有量が1〜30重量部の範囲内の値であることが好ましい。
この理由は、非水溶性溶媒に対するフラーレン等の含有量をかかる範囲とすることにより、さらに均一にフラーレン等を溶解させることができるためである。
すなわち、フラーレン等の含有量が1重量部未満の値となると、フラーレンの絶対量が過度に少なくなって、搬送ローラの表面に対して十分な撥水性を付与することが困難となる場合があるためである。一方、フラーレン等の含有量が30重量部を超えた値となると、分子同士が凝集しやすくなって、フラーレン等を均一に溶解させることが困難となる場合があるためである。
したがって、非水溶性溶媒100重量部に対するフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の含有量が2〜25重量部の範囲内の値であることがより好ましく、3〜20重量部の範囲内の値であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、その他の処理態様として、弾性体層そのものに対してフラーレン等を含有させる態様等が想定されるが、搬送ローラの表面にフラーレン等を存在させることができる態様であれば、いかなる態様であってもよい。
【0035】
(4)クリーニング手段
また、図1に示すように、搬送ローラ7をクリーニングするためのクリーニング手段9を備えることも好ましい。
この理由は、仮に搬送ローラの表面に対してインクが付着した場合であっても、本発明における搬送ローラであれば、その表面における撥水性に優れるため、かかるクリーニング手段によって、容易にインクを取り除くことができるためである。
かかるクリーニング手段は、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びアラミド等の材料物質を含むシート状のものとして構成することができる。
この場合、例えば、搬送ローラが100回転するのにともなって、新しいシート面が供給されるといったように、シートの巻き取り部材が、搬送ローラの回転数にともなって、所定割合の回転数にて回転する構成となっていることが好ましい。
【0036】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態としてのインクジェット記録装置を用いたインクジェット記録方法である。
以下、第1の実施形態と重複する内容については省略しつつ、第2の実施形態としてのインクジェット記録方法について、具体的に説明する。
【0037】
まず、図1に示すように、給紙ローラ2によって、給紙トレイ内に収容されている最上位の記録媒体1が、搬送ベルト6上へと供給される。そして、ベルト駆動ローラ10を反時計方向に回転駆動させることにより、記録媒体1が矢印Xの方向に搬送され、インクジェットヘッド5の下方における所定の記録位置へと搬送される。
【0038】
このとき、所定のタイミングにより、インクジェットヘッド5からインクが吐出されて、画像が記録される。
次いで、画像が記録された記録媒体1は、さらに搬送されるとともに搬送ベルト6から離脱して搬送ローラ7及び加圧ローラ8によって装置本体外に設けられた排紙トレイへと搬送される。
なお、本発明のインクジェット記録方法であれば、特定の処理を施された搬送ローラを使用していることから、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
1.インクの調製
以下に示す組成の各材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス(株)製)に仕込むとともに、メディアとしてジルコニアビーズを充填し、水冷しながら分散処理を行い、分散液を得た。
次いで、得られた分散液を遠心分離機にかけて粗大粒子を除去し、分散粒子の数平均粒径を50〜150nmに調節し、顔料分散体とした。
ピグメントブルー15:3 20重量%
スチレン−アクリル系樹脂 5重量%
(ジョンソン(株)製、ジョンクリル683)
グリセリン 10重量%
イオン交換水 65重量%
【0040】
次いで、以下に示す組成の各材料を攪拌機にて撹拌した後、得られた撹拌液を孔径5μmのフィルタにて加圧ろ過し、インクとした。
顔料分散体 25重量%
界面活性剤 0.5重量%
(日信化学工業(株)製、オルフィンE1010)
ヘキシレングリコール 5重量%
1,2−ヘキサンジオール 0.5重量%
2−ピロリドン 5重量%
グリセリン 13重量%
水 51重量%
【0041】
2.搬送ローラの製造
まず、円筒形の芯金の外側面に対して、弾性を有するシリコーンゴム層を被覆させた。
次いで、被覆させたシリコーンゴム層の表面に対して、ポリテトラフルオロエチレン(日本フッ素工業(株)製、NF−001)からなる表面離型層を、焼成により被覆させた。
【0042】
次いで、ポリテトラフルオロエチレンからなる表面離型層の表面に対して、フラーレンによる処理を行った。
すなわち、非水溶性溶媒としてのヘキサン100重量部に対して、フラーレンC60(フロンティアカーボン(株)製、nanom purple)を5重量部加えた後、撹拌し、フラーレンC60の濃度が5重量%である溶液を調製した。
次いで、得られた溶液に対して、既にポリテトラフルオロエチレンからなる表面離型層を形成してある搬送ローラを浸漬させた後、引き上げて、フラーレンC60からなる表面薄膜を形成し、フラーレンC60による処理とした(フラーレンC60処理量:2.5mg/m2)。
【0043】
3.評価
搬送ローラの表面に対するインクの付着に起因した画像不良の発生の有無を評価した。
すなわち、得られた搬送ローラを図1に示すインクジェット記録装置に対して装着した。
次いで、調製したインクをインクジェットヘッドに対して充填した後、ノズル形成面から出ている余剰液を、ワイプブレードにて掻き取った。次いで、長尺インクジェットヘッドのノズル面と、記録媒体と、の距離が1mmとなるように固定した後、駆動周波数20kHzにて、最大濃度のベタ画像(30×30mm)を記録媒体としてのA4のPPC用紙に対して連続10枚印画した。このとき、ヘッド駆動周波数を20kHzとし、記録媒体搬送速度を847mm/secとした。
次いで、搬送ローラの表面に対するインクの付着に起因した画像不良の発生を、以下の基準に沿って評価した。得られた結果を表1に示す。
○:ベタ画像が乱れておらず、かつ、非印字部に画像が版画されていない。
△:ベタ画像が乱れていないが、非印字部に画像が若干版画されている。
×:ベタ画像が乱れており、かつ、非印字部に画像が版画されている。
【0044】
[実施例2]
実施例2では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンC60による処理量を0.25mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
なお、実施例2では、フラーレンをヘキサンに対して溶解させて得られる処理液におけるフラーレン濃度を、実施例1の0.1倍とし、フラーレンによる処理量を実施例1の0.1倍である0.25mg/m2に調節した。以下の実施例においても同様である。
【0045】
[実施例3]
実施例3では、搬送ローラを製造する際に、処理回数を調節してフラーレンC60による処理量を25mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
実施例4では、搬送ローラを製造する際に、処理回数を調節してフラーレンC60による処理量を250mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
[実施例5]
実施例5では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンC60を処理量が2.5mg/m2となるように処理を施す代わりに、フラーレンC70(フロンティアカーボン(株)製、nanom orange)を処理量が25mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0048】
[実施例6]
実施例6では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンC60を処理量が2.5mg/m2となるように処理を施す代わりに、フェニルC61−ブチリックアシッドメチルエステル(PCBM)(フロンティアカーボン(株)製、nanom spectra E100)を処理量が25mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0049】
[実施例7]
実施例7では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンC60の代わりに、フェニルC61−ブチリックアシッドn−ブチルエステル(PCBNB)(フロンティアカーボン(株)製、nanom spectra E200)を用いて処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0050】
[実施例8]
実施例8では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンC60を処理量が2.5mg/m2となるように処理を施す代わりに、フェニルC61−ブチリックアシッドn−ブチルエステル(PCBNB)を処理量が0.25mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0051】
[実施例9]
実施例9では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンC60を処理量が2.5mg/m2となるように処理を施す代わりに、フェニルC61−ブチリックアシッドn−ブチルエステル(PCBNB)を処理量が25mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0052】
[実施例10]
実施例10では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンC60を処理量が2.5mg/m2となるように処理を施す代わりに、水酸化フラーレン(フロンティアカーボン(株)製、nanom spectra D100)を処理量が25mg/m2となるように処理を施したほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
比較例1では、搬送ローラを製造する際に、フラーレンによる処理を施さなかったほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2]
比較例2では、搬送ローラを製造する際に、ポリテトラフルオロエチレンの代わりに、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)(日本フッ素工業(株)製、NF−008)を用い、かつ、フラーレンによる処理を施さなかったほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3]
比較例3では、搬送ローラを製造する際に、ポリテトラフルオロエチレンの代わりに、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)(日本フッ素工業(株)製、NF−008SA)を用い、かつ、フラーレンによる処理を施さなかったほかは、実施例1と同様に実施するとともに評価した。得られた結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明にかかるインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法によれば、搬送ローラの表面をフラーレン等を用いて処理することにより、搬送ローラ表面に対するインクの付着性を抑制できるようになった。
その結果、高速画像形成を行った場合であっても、記録媒体に吐出されたインクが搬送ローラに付着することによる画像不良の発生を効果的に抑制できるようになった。
したがって、本発明にかかるインクジェット記録装置及びインクジェット記録装置は、複写機やプリンター等の各種画像形成装置における高品質化に著しく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の基本構造を説明するために供する図である。
【図2】(a)〜(b)は、本発明に使用されるインクジェットヘッドのドット形成部を説明するために供する図である。
【図3】(a)〜(b)は、本発明における搬送ローラを説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0059】
1:記録媒体、2:供給ローラ、4:タイミングセンサー、5:インクジェットヘッド、6:搬送ベルト、7:搬送ローラ、8:加圧ローラ、9:クリーニング手段、10:ベルト駆動ローラ、11:ベルトローラ、20:インクジェット記録装置、31:基板、32:加圧室、33:ノズル、34:ノズル流路、35:絞り部、36:共通流路、37:共通電極、38:積層電圧素子、39:個別電極、30:ドット形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドを用いて記録媒体に対して画像形成を行うインクジェット記録装置であって、
インクが吐出された記録面と接触して前記記録媒体を搬送するための搬送ローラを備えるとともに、
前記搬送ローラの表面が、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記フラーレンまたはフラーレン誘導体の基本骨格が、C60、C70及びC84からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記フラーレン誘導体が、置換基として、−OH、−OCOR、−OCOOR及び−R(Rは、アルキル基、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基)からなる群より選択される少なくとも一種を有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記搬送ローラの表面におけるフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の処理量が2.5mg/m2以上の値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記搬送ローラの表面がシリコーンゴム層を有するとともに、当該シリコーンゴム層の表面がフラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記シリコーンゴム層の表面が、ポリテトラフルオロエチレンを含む表面離型層を介して、フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方によって処理してあることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記フラーレンまたはフラーレン誘導体による処理として、前記搬送ローラを、前記フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方を含有した非水溶性溶媒に対して浸漬した後引き上げる塗布方法を用いてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記非水溶性溶媒がペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン及びシクロへキサンからなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記非水溶性溶媒100重量部に対する前記フラーレン及びフラーレン誘導体、あるいはいずれか一方の含有量が1〜30重量部の範囲内の値であることを特徴とする請求項7または8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置を用いたインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−47405(P2010−47405A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215574(P2008−215574)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】