説明

インクジェット記録装置及びノズルの回復方法

【課題】特別な構造を追加したり形状を変更したりすることなく、共通液室からのインクの流速が相対的に遅いノズルに対しても回復処理を確実に行う。
【解決手段】複数のノズル22のうち一部のノズル内に気泡17を発生させることにより共通液室12から複数のノズル22へのインクの流速分布を変化させた状態でノズル22の回復処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特に、インクジェット記録装置におけるノズルの回復処理に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、記録ヘッドのインク吐出ノズルに目詰まりが生じた場合や、インク流路に気泡が進入して印字不良が生じる恐れがある場合には、吸引回復処理を行い、異物や、増粘したインク、気泡といった吐出阻害物をノズルから外部に排出する必要がある。しかし、従来の吸引回復処理においては、ノズルと連通する共通液室内において、液室端部は吸引時のインクの流速が液室中央部と比べて小さいため、液室端部に溜まった気泡が排出しにくいという課題があった。
【0003】
この課題に対し、特許文献1〜3に見られるように、液室端部の泡を効率よく排出するために吸引時の共通液室端部の流速を速める方法が考案されている。特許文献1には、キャップ内に流路断面積を減少させるための構造を設け、それをノズル列に沿って移動させることで、特定のノズルの流速を選択的に速めることが記載されている。特許文献2では、共通液室の中央部の流路抵抗を端部より大きくすることによって、共通液室端部の流速を速めることが提案されており、また、特許文献3では、キャップの構造により中央部のノズルをふさいだ状態で吸引を行うことによって、共通液室端部の流速を速めることが提案されている。
【0004】
また、特許文献4では、本願発明と同様に、吸引中に発泡を行う制御が開示されているが、この発明は、吸引時にノズル手前に引っかかって排出できない気泡を排出することを目的としており、共通液室内の流速制御を目的とする本願発明とは、その目的と効果が異っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−291374号公報
【特許文献2】特開平11−320877号公報
【特許文献3】特開平11−334108号公報
【特許文献4】特開平4−219254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術はいずれも、記録ヘッドもしくはキャップへの新規構造の追加もしくは構造変更を伴うため、構造の複雑化によるコストアップや故障頻度の増加、装置の大型化という課題がある。また、印字品質の信頼性においても、特許文献2に記載されたもののように共通液室の形状変更を伴う方法では、本来のインク吐出性能への悪影響が弊害となり、また、特許文献3に示されるように吐出口へのキャップの接触を伴う構造では、異物がノズルへ混入しやすく、吐出不良の頻度が増加する恐れがある。
【0007】
このように、上述した従来技術はそれぞれ課題を有するものであるため、実際の製品において実施することは容易ではなかった。
【0008】
本発明は、上述したような従来の技術が有する課題に鑑みてなされたものであって、特別な構造を追加したり形状を変更したりすることなく、共通液室からのインクの流速が相対的に遅いノズルに対しても回復処理を確実に行うことができるインクジェット装置及びノズルの回復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、
共通液室と、該共通液室から供給されたインクを気泡の発生によって吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルの回復処理を行う回復手段とを有するインクジェット記録装置において、
前記回復手段は、前記複数のノズルのうち一部のノズル内に気泡を発生させることにより前記共通液室から前記複数のノズルへのインクの流速分布を変化させた状態で前記回復処理を行うことを特徴とする。
【0010】
また、共通液室と、該共通液室から供給されたインクを気泡の発生によって吐出する複数のノズルと、を有するインクジェット記録装置におけるノズルの回復方法であって、
前記複数のノズルのうち一部のノズル内に気泡を発生させる工程と、
前記気泡を発生させることにより前記共通液室から前記複数のノズルへのインクの流速分布を変化させた状態で前記複数のノズルの回復処理を行う工程と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、複数のノズルの回復処理を行う回復手段が、複数のノズルのうち一部のノズル内に気泡を発生させることにより共通液室から複数のノズルへのインクの流速分布を変化させた状態で回復処理を行う構成としたため、気泡の発生のみによって共通液室からのインクの流速が相対的に遅いノズルへのインクの流速を速くして回復処理を行うことが可能となり、それにより、特別な構造を追加したり形状を変更したりすることなく、共通液室からのインクの流速が相対的に遅いノズルに対しても回復処理を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の実施の一形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の制御系の概略ブロック構成図である。
【図3】図1に示した記録ヘッドの詳細な構造を示す斜視図である。
【図4】768個の記録素子を有した記録ヘッドを駆動する制御回路の構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示した記録ヘッドを動作させるための駆動信号のタイミングチャートである。
【図6】気泡の発生によるノズルの流路抵抗の増大効果を示す模式図である。
【図7】図1〜図4に示したインクジェット記録装置におけるノズルの吸引回復処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】図7に示す吸引回復処理におけるポンプとヒーターの駆動パルスのタイミングチャートである。
【図9】図7に示す吸引回復処理におけるノズルの制御方法を示す図であり、(a)はノズル列の分割方法を示す図、(b)は、印字、予備吐出及び吸引回復時の使用ノズルを示す図である。
【図10】共通液室内の流速制御を示す模式図である。
【図11】ヒーター駆動パルス周波数fとノズルの流路抵抗Rとの関係を示すグラフである。
【図12】印字駆動時及び吸引回復駆動時それぞれのヒーター駆動パラメータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明のインクジェット記録装置の実施の一形態を示す斜視図である。
【0015】
本形態のインクジェット記録装置50はシリアルスキャン方式の記録装置であり、図1に示すように、ガイド軸51,52によって、キャリッジ53が矢印Aの主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ53は、キャリッジモータ及びその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、主走査方向に往復動される。キャリッジ53には、記録ヘッド10と、その記録ヘッド10にインクを供給するインクタンク(不図示)とが搭載される。記録ヘッド10とインクタンクは、インクジェットカートリッジを構成するものであってもよい。被記録媒体としての用紙Pは、装置の前端部に設けられた挿入口55から挿入された後、その搬送方向が反転されてから、送りローラ56によって矢印Bの副走査方向に搬送される。記録ヘッド10は、主走査方向に移動しつつ、プラテン57上の用紙Pのプリント領域に向かってインクを吐出する記録動作と、その記録幅に対応する距離だけ用紙Pを副走査方向に搬送する搬送動作とを繰り返すことによって、用紙P上に順次画像を記録する。
【0016】
キャリッジ53の移動領域における図中の左端には、キャリッジ53に搭載された記録ヘッド10の吐出口の形成面と対向する回復手段である回復系ユニット58が設けられている。回復系ユニット58には、記録ヘッド10の吐出口のキャッピングが可能なキャップと、そのキャップ内に負圧を導入可能な吸引ポンプ等が備えられており、吐出口を覆ったキャップ内に負圧を導入することにより、吐出口からインクを吸引排出させて、記録ヘッド10の良好なインク吐出状態を維持すべくノズルの回復処理(「吸引回復処理」ともいう)をする。また、キャップ内に向かって、吐出口から画像の寄与しないインクを吐出させることによって、記録ヘッド10の良好なインク吐出状態を維持すべくノズルの回復処理(「吐出回復処理」ともいう)をすることもできる。
【0017】
図2は、図1に示したインクジェット記録装置50の制御系の概略ブロック構成図である。
【0018】
図2に示すCPU80は、インクジェット記録装置50の動作の制御処理やデータ処理等を実行するものであって、回復系ユニット58の動作も制御することから、本願発明における回復手段の一部を構成する。ROM81は、それらの処理手順等のプログラムが格納され、またRAM82は、それらの処理を実行するためのワークエリアなどとして用いられる。
【0019】
記録ヘッド10からのインクの吐出は、CPU80がヒーター21の駆動データ(画像データ)及び駆動制御信号(ヒートパルス信号)をヘッドドライバ10Aに供給することにより行われる。ヘッドドライバ10Aは、記録ヘッド用基体上に構成することができる。CPU80は、キャリッジ53を主走査方向に駆動するためのキャリッジモータ83をモータドライバ83Aを介して制御し、また用紙Pを副走査方向に搬送するためのP.Fモータ84をモータドライバ84Aを介して制御する。また、CPU80は、回復系ユニット58を制御することにより、吸引回復処理または吐出回復処理を実施する。
【0020】
図3は、図1に示した記録ヘッド10の詳細な構造を示す斜視図である。
【0021】
図3に示すように、記録ヘッド10には、一列に並んだ複数の吐出口23と、複数の吐出口23のそれぞれに連通する複数のノズル22と、それら複数のノズル22に共通に連通する共通液室12とが形成されている。画像記録用のインクは、インク供給部(不図示)から供給管を通して共通液室12内に供給される。共通液室12内のインクは、毛管現象によりノズル22内に供給され、そのノズル22の先端の吐出口23にてメニスカスを形成することにより、安定して保持される。ノズル22内のそれぞれには、電気熱変換体であるヒーター21が備えられている。配線(不図示)を通してヒーター21に通電して、そのヒーター21から熱エネルギーを発生させることにより、ノズル22内のインクが加熱されて膜沸騰により気泡が発生し、そのときの発泡エネルギーによって吐出口23からインク滴が吐出される。吐出口23を1200dpi等の高密度に配置することによって、マルチノズルのインクジェット方式の記録ヘッド10が構成される。
【0022】
図4は、768個の記録素子を有した記録ヘッドを駆動する制御回路の構成を示すブロック図である。図5は、図4に示した記録ヘッドを動作させるための駆動信号のタイミングチャートである。
【0023】
本構成の記録ヘッドは図4に示すように、シフトレジスタ101と、ラッチ回路102と、16個のAND回路103〜118と、16個のトランジスタ120〜135と、ヒーター19とを備えている。
【0024】
このように構成された記録ヘッドにおいては、外部より各画素が2値の画像データ(DATA)が転送クロック(CLK)に同期してシリアル転送されてくると、その画像データはシフトレジスタ101にて順次シリアルーパラレル変換される。この記録ヘッドは768個の記録素子基板を有しているため、768ビットの画像データ(DATA)が転送された後、ラッチ信号(LAT)によりラッチ回路102にラッチされる。本実施形態では、768個の記録素子基板を16ブロックに分割し、1ブロックに1パルスのイネーブル信号(BENB0〜15)とヒーター駆動信号(HENB)を与える。ヒーター駆動信号(HENB)のパルス幅PW(以下、ヒートパルス幅とも称する)、パルス立ち上がりのタイミングは、記録装置出荷時に予め設定されているパルステーブルから、記録ヘッド個々の吐出量のばらつきやヘッド温度、同時吐出ノズル数に基づいて吐出毎に1つが選択される。これによって、ビットONとなっている画像データが供給される記録要素に対応したトランジスタのみがイネーブル信号によってONになり、その結果、ヒーター119が加熱されてインクノズルから吐出される。その後、次々に異なるブロックに対して同様の制御を行って1サイクル(以下、駆動周期Tcと称する)分の記録が完了する。このような記録ヘッドをキャリッジに搭載した記録装置では、該キャリッジを主走査方向に移動させながら、上述の記録制御を行うことでその走査領域全面にインクを連続的に吐出しながら記録を行う。
【0025】
このような構成の記録ヘッド10におけるノズル22の吸引回復処理時は、キャップによりノズル列22を封止し、吸引ポンプによりキャップ内部に負圧を導入する。すると、記録ヘッド10の内部との圧力差により、記録ヘッド10の内部のインク流路に流れが発生し、インクとともに供給管や共通液室12に溜まっていた気泡が吐出口23から排出される。
【0026】
本実施形態では、従来の吸引回復処理では排出しきれない気泡を排出するため、ヒーター21による発泡を、インク吐出のためのエネルギー発生手段としてだけでなく、ノズル22の流路抵抗を増加させる手段としても利用する。具体的には、吸引動作中に一部のノズル22のヒーター21を駆動することで、共通液室12端部の流速を速める制御を組み込んだ吸引回復処理を行う。
【0027】
図6は、気泡の発生によるノズルの流路抵抗の増大効果を示す模式図である。なお、図中、矢印の太さが流速を表している。
【0028】
図6に示すように、ヒーター21によりインクを加熱してノズル22内に気泡41を発生させると、気泡41がノズル22内のインクの流れを妨害してインクの流路断面積が減少するため、気泡41が消滅するまでの間、そのノズル22の流路抵抗Rが一時的に増加する。
【0029】
本実施形態に示すインクジェット記録装置50をはじめ一般的なインクジェットヘッドでは、上述したヘッド制御回路により任意のノズル22にて選択的に気泡を発生させることができるので、本願発明を実施することで記録ヘッド10に一切の構成変更を加えることなく、任意のノズル22の流路抵抗を任意のタイミングで一時的に大きくすることができる。
【0030】
上述した吸引ポンプ等の吸引手段によりノズル列22に負圧が供給されている状態において、ノズル列22のうちの一部ノズルに気泡を発生させることで、そのノズルの流路抵抗Rが同時に増加するため、気泡が発生しておらずに流路抵抗が相対的に小さなノズル内のインクの流速が速くなる。これにより、ノズル22に連通する共通液室12から複数のノズル22へのインクの流速分布を制御し、共通液室12内の残留気泡の排出性を高める。共通液室12から複数のノズル22へのインクの流速分布、気泡を発生させるノズルの選択、駆動周波数fやヒートパルス幅PWの選択によって、一定の範囲の中で任意に制御することができる。
【0031】
以下に、上述したインクジェット記録装置50におけるノズル22の回復処理について詳細に説明する。
【0032】
図7は、図1〜図4に示したインクジェット記録装置50におけるノズル22の吸引回復処理を説明するためのフローチャートである。また、図8は、図7に示す吸引回復処理におけるポンプとヒーターの駆動パルスのタイミングチャートである。また、図9は、図7に示す吸引回復処理におけるノズルの制御方法を示す図であり、(a)はノズル列の分割方法を示す図、(b)は、印字、予備吐出及び吸引回復時の使用ノズルを示す図である。また、図10は、共通液室12内の流速制御を示す模式図である。
【0033】
本実施形態ではノズル列22を図9(a)に示すように3つの領域(I)〜(III)に分割して吸引回復処理を行う。
【0034】
図9(b)に示すように、通常印字時においては、3つの領域(I)〜(III)の全てのノズル列において気泡を発生させることで印字を行い、また、予備吐出時においても、3つの領域(I)〜(III)の全てのノズル列において気泡を発生させることで吐出口23からインクを吐出する。
【0035】
吸引回復処理時においては、まず、図10(a)に示すように、ノズル列22をキャップ15で封止する(ステップ1)。
【0036】
そして、いずれのノズル22にもヒーター駆動信号を印加しない状態で、吸引ポンプを駆動してキャップ15内に負圧を導入し一定時間(t1)吸引し、供給管11や共通液室12に滞留した気泡を排出する(ステップ2)。この処理は、従来の吸引回復処理と同一であり、共通液室12からノズル22へのインクの流速分布を変化させずに吸引動作を行うため、共通液室12中央部の流速の速い領域にある気泡14は大部分がノズル外に排出されるが、端部等の共通液室12内で流速が相対的に遅い領域にある気泡13が十分に排出されない場合がある。
【0037】
そこで、次に、吸引ポンプにより負圧を印加した状態のまま、分割したノズル列のうち、インクの流速が相対的に速い領域(II)にヒーター21を駆動するための制御信号を一定時間(t2)連続的に送信する(ステップ3)。これにより、図10(b)に示すように、領域(II)においてノズル22内に気泡17が発生し、気泡が発生していない領域(I),(III)のノズル内とこのノズル列に連通する共通液室12内の左右端部領域の流速がステップ2の時と比べて速くなり、ステップ2で排出しきれず共通液室12内の左右端部領域に残った気泡13を排出する。
【0038】
その後、吸引ポンプを止め、大気解放弁(不図示)を開くことで負圧を解除し(ステップ4)、キャップ空吸引(ステップ5)、予備吐出(ステップ6)、ワイピング(ステップ7)を順次行い、吸引回復処理を終了する。
【0039】
なお、上述した吸引回復処理の処理数、順序、実施時間、吸引中に発泡させるノズルの選択は、上述した実施形態に限るものではなく、装置全体や記録ヘッドの構成、設計思想に合わせ、より多くの気泡排出がより少ない吸引量、吸引時間で達成できるように適切なものを選択することができる。
【0040】
また、上述した実施形態では本発明の特徴である吸引中発泡をステップ3でのみ行っているが、これを複数の処理に分けて行ってもよく、その処理毎に気泡を発生させるノズルを変えてもよい。例えば、まず領域(II),(III)のノズル内に気泡を発生させて共通液室12の左端部の気泡排出を集中的に行い、続いて領域(I),(II)のノズル内に気泡を発生させて共通液室12の右端部の気泡排出を集中的に行うというように、共通液室12の左右端部の気泡排出を同時でなく順番に行うような制御をしてもよい。
【0041】
また、共通液室12の形状によって、流速が遅い領域、気泡が排出しにくい領域が異なるため、それぞれの形状に合わせて、適切に発泡ノズルを選択することで、気泡排出性がより高くなる流速分布を実現することができる。例えば、共通液室12が図10(c)に示すような形状をしている場合は、共通液室12右側の先鋭領域の流速が遅くこの領域に残った気泡が排出しにくいため、領域(I),(II)のノズル内に気泡を発生させ、共通液室12右側の流速を選択的に増加させることが望ましい。
【0042】
また、通常複数ある吸引回復処理の種類(モード)それぞれについて、その処理中に上述した気泡を発生させる処理を組み込むか否かを選択することも有効であり、共通液室12内の気泡の残りが特に多いと予想される状況(例えば、着荷時や記録ヘッド交換時、チョーク吸引直後)でのみ本発明を実施することで、廃インク量のさらなる低減を図ることができる。
【0043】
また、本発明は、インクの流れを利用しノズルを通じて気泡をヘッド外部に排出するあらゆる回復処理に対して実施可能であり、本実施形態に示した吸引(減圧)による回復処理だけでなく、加圧によってインクを流す回復処理に対しても実施可能である。
【0044】
(他の実施の形態)
図11は、ヒーター駆動パルス周波数fとノズルの流路抵抗Rとの関係を示すグラフである。
【0045】
図11に示すように、ノズルの流路抵抗Rはヒーター駆動パルス周波数fに依存するため、上述した回復処理においては、ヒーター駆動パルス周波数fやヒートパルス幅PWを変えることで、気泡の発生によるノズルの流路抵抗Rの増加量ΔRを一定の範囲内で任意に制御することができる。
【0046】
そこで、本実施形態においては、上述した実施形態に示した制御を行うことに加え、ノズル回復処理時の気泡発生においては、印字駆動時に用いられるパルステーブルによる駆動信号ではなく、ノズル回復処理用に別途用意したパルステーブルによる駆動信号に基づいてヒーター駆動を行う。印字駆動用のパルスは吐出安定性を重視して設計されるが、ノズル回復処理用のパルスは、必ずしもインクが吐出口から吐出される必要はないため、気泡の発生による流路抵抗増加量ΔRが可能な限り大きくなるように設計する。具体的には、印字駆動時よりもヒーター駆動パルス周波数fを大きく(すなわち、駆動周期Tcを短く)し、さらに、1パルスによる気泡発生の継続時間tb(消泡時間と称する)が大きくなるようにヒーター駆動信号(HENB)のパルスタイミング、パルス幅、パルス電圧を設定することで、1駆動周期のうち発生した気泡がインクの流れを妨害している時間の割合tb/Tcが大きくなるように設計する。
【0047】
図12は、印字駆動時及び吸引回復駆動時それぞれのヒーター駆動パラメータの一例を示す図である。
【0048】
図12に示すように、吸引回復駆動時においては、ヒーター駆動信号(HENB)のパルス幅を短くすることで駆動周波数fを印字駆動時の4倍にすると同時に、パルス電圧を大きくすることで発泡エネルギーの大きさは印字時と不変としている。これにより、印字駆動時では13%であったtb/Tcを、吸引回復駆動時では47%と大きくすることができ、気泡が発生したノズルの流路抵抗増加量ΔRを大きくすることができるため、本発明による共通液室12内の流速制御効果をより高めることができる。
【0049】
なお、ヒーター駆動信号(HENB)は、より短いパルスでより大きく長い発泡が生じるよう、ダブルパルス等の複雑な構成としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 記録ヘッド
10A ヘッドドライバ
11 供給管
12 共通液室
13,14,17,41 気泡
15 キャップ
21 ヒーター
22 ノズル
23 吐出口
50 インクジェット記録装置
51,52 ガイド軸
53 キャリッジ
55 挿入口
56 送りローラ
57 プラテン
58 回復系ユニット
80 CPU
81 ROM
82 RAM
83 キャリッジモータ
83A,84A モータドライバ
84 P.Fモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通液室と、該共通液室から供給されたインクを気泡の発生によって吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルの回復処理を行う回復手段とを有するインクジェット記録装置において、
前記回復手段は、前記複数のノズルのうち一部のノズル内に気泡を発生させることにより前記共通液室から前記複数のノズルへのインクの流速分布を変化させた状態で前記回復処理を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記複数のノズルのそれぞれに設けられ、熱を発生することによって当該ノズル内に気泡を発生させる電気熱変換体を有する請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記回復手段は、前記複数のノズルのうち、前記共通液室から当該ノズルへのインクの流速が相対的に速いノズル内に気泡を発生させる請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記回復手段は、前記共通液室から前記複数のノズルへのインクの流速分布を変化させずに前記複数のノズルの回復処理を行った後、前記共通液室から前記複数のノズルへのインクの流速分布を変化させた状態で前記複数のノズルの回復処理を行う請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記回復手段は、印字時に前記気泡を発生させるための駆動信号とは異なる駆動信号に基づいて前記気泡を発生させる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
共通液室と、該共通液室から供給されたインクを気泡の発生によって吐出する複数のノズルと、を有するインクジェット記録装置におけるノズルの回復方法であって、
前記複数のノズルのうち一部のノズル内に気泡を発生させる工程と、
前記気泡を発生させることにより前記共通液室から前記複数のノズルへのインクの流速分布を変化させた状態で前記複数のノズルの回復処理を行う工程と、を備えるノズルの回復方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−111918(P2013−111918A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261947(P2011−261947)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】