説明

インクジェット記録装置用インク、及び画像形成方法

【課題】記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインク中の溶媒の揮発、及びインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境に長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できる、インクジェット記録装置用インク、及び画像形成方法を提供すること。
【解決手段】水、顔料、樹脂、グリセリン、1,3−プロパンジオール、及び有機溶剤を含み、樹脂は、重量平均分子量が30000〜150000であり、インク中の含有量がインクの質量に対して1.5〜6.0質量%であり、インク中の、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が、インクの質量に対して15〜40質量%であり、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00であるインクジェット記録装置用インク。また、インクジェット記録装置において前述のインクを用いて画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置用インク、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録技術の急速な進歩により銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることが可能となっていることから、インクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット記録装置が画像形成装置として広く使用されている。
【0003】
かかるインクジェット記録装置について、画像の品質を維持しつつ、画像形成速度を向上させることが強く望まれている。そして、画像形成速度を高速化するためには、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置の使用が有効である。しかし、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置において高速で画像形成を行った場合、インクが紙等の被記録媒体に浸透する前に被記録媒体が排出ローラーで搬送されて排出されてしまい、インクが排出ローラーに付着(オフセット)することがあり、この場合には画像不良が発生しやすくなる。オフセットの発生を抑制するためには、インクの吐出量を低減することや、インクの被記録媒体への浸透性や乾燥性を高めることが考えられるが、かかる場合、前者では所望するような濃度の画像を得にくく、後者では記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際に、インクの粘度変化等によるインクの吐出不良が生じる場合がある。
【0004】
かかる事情から、記録ヘッドからのインク液滴の吐出不良が生じるようなインクの固化が生じた場合であっても、記録ヘッドの目詰まりや、吐出不良を抑制することができるインクとして、顔料及び水と共にインクに用いる水溶性有機溶剤中のポリエチレングリコール及び/又はジグリセリンの含有量を10wt%以上にしたインクジェット記録用インクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−107631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のインクジェット記録用インクでは、インクに含有するポリエチレングリコール、及びジグリセリンの、溶剤単体での粘度が高いため、水の蒸発によるインクの粘度変化が起こりやすい。かかるインクは、特に、複数の記録ヘッドを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置に用いた場合に、水の蒸発による増粘が顕著である。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインク中の溶媒の揮発、及びインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境に長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できる、インクジェット記録装置用インクを提供することを目的とする。また、インクジェット記録装置において前述のインクを用いて画像を形成する、画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水、顔料、樹脂、保湿剤、及び有機溶剤を含み、樹脂は、重量平均分子量が30000〜150000であり、且つ、インク中の含有量がインクの質量に対して1.5〜6.0質量%であり、保湿剤は、少なくともグリセリンと1,3−プロパンジオールとを含み、インク中の、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が、インクの質量に対して15〜40質量%であり、且つ、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00である、インクジェット記録装置用インクにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1) 少なくとも、水、顔料、樹脂、保湿剤、及び有機溶剤を含み、
前記樹脂は、重量平均分子量が30000〜150000であり、且つ、インク中の含有量がインクの質量に対して1.5〜6.0質量%であり、
前記保湿剤は、少なくともグリセリンと1,3−プロパンジオールとを含み、
インク中の、前記グリセリンの含有量(P)と、前記1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が、インクの質量に対して15〜40質量%であり、且つ、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00である、インクジェット記録装置用インク。
【0010】
(2) 前記有機溶剤が、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される少なくとも1種以上を含む、(1)記載のインクジェット記録装置用インク。
【0011】
(3) (1)又は(2)記載のインクジェット記録装置用インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成する、画像形成方法。
【0012】
(4) 前記インクジェット記録装置が、圧電素子への電圧制御によって液室内に生じる圧力を利用して前記インクの液滴を吐出する記録ヘッドを備え、記録方式がラインヘッド型の記録方式である、(3)記載の画像形成方法。
【0013】
(5) 前記インクが、前記インクジェット記録装置が備えるノズル開口から吐出され、
前記記録ヘッドが、前記圧電素子への電圧制御によって、前記ノズル開口近傍に形成される前記インクのメニスカスを吐出に到らない程度に連続で複数回振動させる、メニスカス揺動を実行し、
前記メニスカス揺動が、0.3秒以上の間隔で実行される、(3)又は(4)記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインク中の溶媒の揮発、及びインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境に長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できる、インクジェット記録装置用インクを提供できる。また、本発明によれば、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインク中の溶媒の揮発、及びインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境に長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できる、画像形成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図2は、図1に示されるインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方から見た平面図である。
【図3】図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置に用いられるラインヘッドと記録用紙上に形成されたドット列の一部を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
[第1実施形態]
第1実施形態は、水、顔料、樹脂、保湿剤、及び有機溶剤を含み、樹脂は、重量平均分子量が30000〜150000であり、且つ、インク中の含有量がインクの質量に対して1.5〜6.0質量%であり、保湿剤は、少なくともグリセリンと1,3−プロパンジオールとを含み、インク中の、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が、インクの質量に対して15〜40質量%であり、且つ、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00である、インクジェット記録装置用インクに関する。
【0018】
第1実施形態に係るインクジェット記録装置用インク(以下、単にインクとも記す)は、必要に応じ、水、顔料、樹脂、保湿剤、及び有機溶剤の他に、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤を含んでいてもよい。なお、本発明のインクにおいて、顔料と樹脂とは、顔料分散体として含有される。以下、インクジェット記録装置用インクが含む、必須、又は任意の成分である、水、顔料分散体、顔料分散体に含まれる顔料、及び樹脂、保湿剤、有機溶剤、並びに溶解安定剤と、インクジェット記録装置用インクの製造方法と、画像形成方法について順に説明する。
【0019】
〔水〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、水性インクであり、水を必須に含む。インクに含まれる水は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から、水性インクの製造に使用されている水から、所望の純度の水を適宜選択して使用できる。本発明のインクジェット記録装置用インクにおける水の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の含有量は、後述する、他の成分の含有量に応じて適宜変更される。インクにおける水の含有量としては、典型的には、インクの全質量に対して20〜70質量%が好ましく、25〜60質量%がより好ましい。
【0020】
〔顔料分散体〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、着色剤である顔料と樹脂とを含む顔料分散体を含む。顔料分散体中に含有させることができる顔料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からインクジェット記録装置用インクの着色剤として使用されている顔料から適宜選択して使用できる。好適な顔料の具体例は、C.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、193等の黄色顔料、C.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、71等の橙色顔料、C.I.ピグメントレッド122、202等の赤色顔料、C.I.ピグメントブルー15等の青色顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、23、33等の紫色顔料、C.I.ピグメントブラック7等の黒色顔料等を挙げることができる。
【0021】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体を製造する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来知られる方法から適宜選択できる。好適な方法としては、例えば、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)、MSCミル(三井鉱山株式会社製)、ダイノーミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)等のメディア型湿式分散機を用いて、水等の適切な液体の媒体中において、顔料と樹脂とを混練して顔料分散体とする方法が挙げられる。メディア型湿式分散機による処理では、小粒径のビーズを用いる。ビーズの粒子径は特に限定されず、典型的には、0.5〜1.0mmである。また、ビーズの材質は特に限定されず、ジルコニアビーズ等の硬質の材料からなるビーズが使用される。
【0022】
顔料分散体を製造する際の、液体の媒体の使用量は、顔料と樹脂とを良好に混練できる限り特に限定されない。典型的には、液体の媒体の使用量は、顔料と樹脂との質量の合計に対して、1〜10倍の質量を用いるのが好ましく、2〜8倍の質量を用いるのがより好ましい。
【0023】
(顔料)
顔料分散体に含まれる顔料の体積平均粒径は、インクの色濃度、色相、インクの安定性等の観点から、30〜200nmが好ましく、50〜130nmがより好ましい。顔料の体積平均粒径は、顔料と樹脂とを混練する際のビーズの粒子径や処理時間を調整することにより調整できる。体積平均粒径が過小である場合、形成画像の画像濃度が所望する値を下回る場合があり、体積平均粒径が過大である場合、インクを吐出するノズルの目詰まりが発生したり、インクの吐出性が悪化したりする場合がある。顔料の体積平均粒径は、例えば、顔料分散体をイオン交換水により300倍に希釈した試料を用い、動的光散乱粒度分布測定装置(シスメックス株式会社製)等により測定できる。
【0024】
(樹脂)
顔料分散体に含まれる樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から顔料分散体の製造に用いられている種々の樹脂から適宜選択して使用できる。好適な樹脂の具体例としては、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸アルキルエステル−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の中では、調製が容易で、顔料の分散効果に優れることから、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸アルキルエステル−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等の、スチレンに由来する単位と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルに由来する単位とを含むスチレン−アクリル系樹脂が好ましい。
【0025】
顔料分散体に含まれる樹脂の分子量は、30,000〜150,000である。分子量の測定は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量(Mw)として測定される。上記の好適な樹脂の分子量は、例えば、重合開始剤の使用量、重合温度、又は重合時間等を調整する公知の方法に従って調整できる。
【0026】
顔料分散体に含まれる樹脂の分子量が、30,000よりも小さい場合は、被記録媒体に画像を形成する際に、所望する画像濃度を有する画像を得にくく、また、長期間インクを高温環境にさらした場合にインクの粘度変化を抑制しにくい。一方、顔料分散体に含まれる樹脂の分子量が、150,000よりも大きい場合は、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際に、溶媒が揮発しやすく、また、溶媒の揮発によって、インクの粘度が高くなりやすいため、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良が起こりやすい。
【0027】
また、顔料分散体を調製する際の樹脂の使用量は、インクの質量に対して1.5〜6.0質量%である。樹脂の使用量が、インクの質量に対して1.5質量%よりも小さい場合は、顔料分散体に含まれる各材料が、顔料分散体中へ安定的に分散されにくく、また長期間インクを高温環境にさらした場合にインクの粘度変化を抑制しにくい。一方、樹脂の使用量が、インクの質量に対して6.0質量%よりも大きい場合は、インク中の固形分量が多くなるため、インクの粘度が高くなりやすく、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のノズルからのインクの吐出不良が起こりやすい。
【0028】
顔料分散体に含まれる顔料の量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、インクの全質量に対して2.0〜15.0質量%が好ましく、4.0〜12.0質量%がより好ましい。顔料の使用量が過少であると所望する画像濃度を有する画像を得にくく、顔料の使用量が過多であると、インクの流動性が損なわれ良好な画像を形成しにくくなったり、インクの被記録媒体に対する浸透性が損なわれ、形成画像にオフセットが発生しやすくなったりする場合がある。
【0029】
〔保湿剤〕
本発明のインクに用いられる保湿剤は、少なくともグリセリンと1,3−プロパンジオールとを含む。保湿剤として、グリセリンと1,3−プロパンジオールとを用いることによって、インクの良好な保湿性が得られ、インクからの液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させることができる。また、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)と比べて、1,3−プロパンジオールは、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後、画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制する効果に優れる。また、保湿剤として、1,3−プロパンジオールは、分子鎖中の炭素数が4以上のアルカンジオールと比べて、インクの粘度を低くすることができ、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後、画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制しやすい。一方、分子鎖中の炭素数が2以下のアルカンジオールと比べて、環境や人体に対する影響が少ない。
【0030】
(グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との関係)
インク中の、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)は、インクの質量に対して15〜40質量%であり、且つ、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00である。
【0031】
合計含有量(P+Q)が15質量%よりも小さい場合は、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際に、インクの保湿性が低いため、溶媒がインクから揮発しやすく、また、溶媒の揮発によって、インクの粘度が高くなりやすいため、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良が起こりやすい。さらに、インクに含まれる各材料が、インク中へ安定的に分散されにくく、長期間インクが高温環境にさらされた場合にインクの粘度上昇が起こりやすい。一方、合計含有量(P+Q)が40質量%よりも大きい場合は、合計含有量(P+Q)が少ない場合に比べて、インクから溶媒が蒸発した際にインクの粘度が高くなりやすく、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際にインクの吐出不良が起こりやすい。
【0032】
ここで、インク中にグリセリンが含まれることで、インクの保湿性が得られると共に、インクの粘度も上昇することになる。このため、質量比(P/Q)が、1.00より大きい場合は、グリセリンが相対的に多く含まれていることにより、インクの粘度が高くなりやすく、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際にインクの吐出不良が起こりやすい。一方、質量比(P/Q)が、0.25より小さい場合は、グリセリンの含有量が相対的に少なくなることにより、インクの保湿性が低く、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際に、インク中の溶媒が揮発しやすい。
【0033】
保湿剤としては、インク中の、保湿剤としてのグリセリンの含有量(P)と1,3−プロパンジオールの含有量(Q)とが前記の関係を有する限り、グリセリン、及び1,3−プロパンジオールの他の保湿剤を含んでいてもよい。グリセリン、及び1,3−プロパンジオールの他の保湿剤の具体例は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、及び1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの、グリセリン、及び1,3−プロパンジオールの他の保湿剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。グリセリン、及び1,3−プロパンジオールの他の保湿剤を含む場合、インク中のグリセリン、及び1,3−プロパンジオールの他の保湿剤の含有量はインクの全質量に対して5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。
【0034】
〔有機溶剤〕
本発明のインクは、インクの被記録媒体への浸透を促進させる目的等で有機溶剤を含む。具体例として、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルや、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキシレングリコール等の炭素原子数6〜9のアルカンジオール等が挙げられる。また、これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。インクにおける有機溶剤の含有量はインクの全質量に対して2〜20質量%が好ましく、4〜15質量%がより好ましい。
【0035】
上記有機溶剤としては、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、から選択される少なくとも1種以上を含むものが好ましい。また、これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。インクがこれらの有機溶剤を含む場合、そのインク中の含有量は、インクの全質量に対して0.1〜3.0質量%が好ましく、0.2〜2.0質量%がより好ましい。これらの有機溶剤の使用量は、有機溶剤の種類によって、前述の範囲内で適宜調整するのが好ましい。
【0036】
本発明のインクに含まれる有機溶剤が、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される少なくとも1種以上を含む場合、インクが被記録媒体に、速やか、且つ適度に浸透するため、オフセットが生じやすいラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いる場合でも、オフセットによる被記録媒体の汚染を抑制しつつ、所望する画像濃度を有する画像を形成できる。
【0037】
〔溶解安定剤〕
溶解安定剤は、インクに含まれる成分を相溶化してインクの溶解状態を安定化させる成分である。溶解安定剤の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶解安定剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクが溶解安定剤を含有する場合、溶解安定剤の含有量は、インクの全質量に対して1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。
【0038】
〔インクジェット記録装置用インクの製造方法〕
インクの製造方法は、必須成分である、樹脂及び顔料を溶媒中に分散させた顔料分散体、水、保湿剤、並びに有機溶剤と、必要に応じ、溶解安定剤等とを均一に混合することができれば特に限定されない。インクジェット記録装置用インクの製造方法の具体例としては、インクの各成分を混合機により均一に混合した後、孔径10μm以下のフィルターにより異物や粗大粒子を除去する方法が挙げられる。なお、インクを製造する際には、必要に応じて溶解安定剤や、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等の、従来からインクジェット記録装置用のインクに加えられている種々の添加剤を加えることができる。
【0039】
以上説明した、第1実施形態に係るインクジェット記録装置用インクは、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境に長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できるため、種々のインクジェット記録装置において好適に使用できる。
【0040】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1実施形態にかかるインクジェット記録装置用インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成する、画像形成方法に関する。第2実施形態の画像形成方法に用いるインクジェット記録装置の記録方式は、特に限定されず、記録ヘッドが記録媒体上を走査しながら記録を行うシリアル型であっても、装置本体に固定された記録ヘッドにより記録を行うラインヘッド型であってもよい。第2実施形態にかかる画像形成方法において用いるインクジェット記録装置の記録方式は、画像形成の高速性の点から、ラインヘッド型が好ましい。
【0041】
以下、図面を参照して、第2実施形態の画像形成方法について、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用い、被記録媒体として記録用紙を用いる場合に関して説明する。図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図であり、図2は、図1に示すインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方からみた平面図である。
【0042】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には記録用紙Pを収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された記録用紙Pを、最上位の記録用紙Pから順に一枚ずつ後述する搬送ベルト5へと搬送給紙するための給紙ローラー3及び給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4が設けられている。
【0043】
給紙ローラー3及び従動ローラー4の用紙搬送方向下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、用紙搬送方向下流側に配置されたベルト駆動ローラー6と、上流側に配置され搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動回転するベルトローラー7とに掛け渡されており、ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0044】
ここで、用紙搬送方向Xの下流側にベルト駆動ローラー6を配置したことにより、搬送ベルト5の用紙送り側(図1において上側)はベルト駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、ベルトテンションを張ることができ、安定した記録用紙Pの搬送が可能となる。なお、搬送ベルト5には誘電体樹脂製のシートが用いられ、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルト等が好適に用いられる。
【0045】
また、搬送ベルト5の用紙搬送方向Xの下流側には、図中時計回りに駆動され画像が記録された記録用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー8a、及び排出ローラー8aの上部に圧接され従動回転する従動ローラー8bが設けられており、排出ローラー8a及び従動ローラー8bの下流側には、装置本体外へと排出された記録用紙Pが積載される排紙トレイ10が設けられている。
【0046】
従動ローラー8bは記録用紙Pの画像面に直接触れるため、従動ローラー8bの表面を形成する素材は撥水性材料であるのが好ましい。従動ローラー8bの表面を撥水性材料により形成することにより、記録用紙Pに浸透していないインクのローラーへの付着を抑制でき、オフセットの発生を抑制しやすい。好適な撥水材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂が挙げられる。従動ローラー8bと同様に、記録用紙Pの画像面に接触する部材の表面は撥水性材料により形成するのが好ましい。
【0047】
そして、搬送ベルト5の上方には、搬送ベルト5の上面に対して所定の間隔が形成されるような高さに支持され、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pへと画像の記録を行うラインヘッド11C、11M、11Y及び11Kが配設されている。これらのラインヘッド11C〜11Kには、それぞれ異なる4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)の着色インクが充填されており、各ラインヘッド11C〜11Kからそれぞれの着色インクを吐出することにより、記録用紙P上にカラー画像が形成される。
【0048】
記録用紙Pに各ラインヘッド11C〜11Kから吐出されたインクの液滴が着弾してから、記録用紙Pにおけるインクの着弾箇所が、排出ローラー8a、及び従動ローラー8bからなる記録用紙Pを排出する排出部8に到達するまでの時間は装置を小型化するためには1秒以内であるのが好ましい。
【0049】
また、記録用紙Pに各ラインヘッド11C〜11Kから吐出され、記録用紙Pに打ち込まれる一色又は複数の色のインクの総量は10.0g/m以下が好ましく、7.0g/m以下がより好ましい。インクの吐出量をかかる量とすることにより、形成画像におけるオフセットの発生を抑制しつつ高速で画像形成しやすい。記録用紙Pに4色以上のインクが打ち込まれる場合においても、記録用紙Pに打ち込まれる複数の色のインクの総量は10.0g/m以下が好ましく、7.0g/m以下がより好ましい。
【0050】
これらのラインヘッド11C〜11Kは、図2に示すように、搬送方向と直交する方向(図2の上下方向)に複数のノズルが配列されたノズル列を備え、搬送される記録用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録することができるようになっている。
【0051】
なお、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置においては、搬送ベルト5の幅寸法以上に形成された長尺のヘッド本体の長手方向に複数のノズルを配列させることで、記録用紙Pの幅以上の記録領域を有するように構成されたラインヘッドを用いているが、例えば各々複数個のノズルを備えた短尺のヘッドユニットを搬送ベルト5の幅方向に複数配列することにより、搬送される記録用紙Pの幅方向全幅にわたって画像を記録できるようにしたラインヘッドを用いても構わない。
【0052】
また、ラインヘッド11C〜11Kのインクの吐出方式としては、例えば、図示しない圧電素子(ピエゾ素子)を用いてラインヘッド11C〜11Kの液室内に生じる圧力を利用してインクの液滴を吐出する圧電素子方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式等、各種方式を適用することができる。インクの吐出方式は、吐出量の制御が容易であることから、圧電素子への電圧制御によって液室内に生じる圧力を利用してインクの液滴を吐出する、圧電素子方式が好ましい。
【0053】
さらに、本発明の画像形成方法に用いられるインクジェット記録装置では、圧電素子を用いてラインヘッド11C〜11Kの液室内に生じる圧力を利用して、ラインヘッド11C〜11Kの複数のノズルの開口部において、インクのメニスカスを、吐出に至らない程度に連続で複数回振動させる、メニスカス揺動を実行させるのが好ましい。メニスカス揺動における、インクのメニスカスの振動回数は、100回以上が好ましく、300回以上がより好ましい。インクのメニスカスを連続して複数回振動させる、メニスカス揺動を実行すると、ラインヘッド11C〜11Kのノズル内及びその近傍のインクが撹拌される。これにより、ノズル内及びその近傍のインクの増粘を抑制でき、画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制することができる。
【0054】
また、メニスカス揺動を実行する間隔は、記録用紙P1枚に対して、ラインヘッド11C〜11Kのインクの吐出による画像形成が行われていないタイミング(以下、非画像形成周期とする)にて行われるのが好ましく、具体的には、0.3秒以上の周期で実行されるのが好ましい。
【0055】
図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。図1及び図2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。インクジェット記録装置100には制御部20が備えられており、制御部20には、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、ラインヘッド制御回路26、及び電圧制御回路27等が接続されている。
【0056】
インターフェイス21は、例えば、図示しないパソコン等のホスト装置とデータの送受信を行う。制御部20は、インターフェイス21を介して受信された画像信号を、必要に応じて変倍処理或いは階調処理して画像データに変換する。そして、後述する各種制御回路に制御信号を出力する。また、前述のメニスカス揺動が実行される場合には、ラインヘッド制御回路26に、非画像形成周期に応じたメニスカス揺動を実行可能な制御信号を出力する。
【0057】
ROM22は、ラインヘッド11C〜11Kを駆動させて画像記録を行う際の制御プログラム等を記憶している。RAM23は、制御部20により変倍処理或いは階調処理された画像データを所定の領域に格納する。
【0058】
エンコーダー24は、搬送ベルト5を駆動する排紙側のベルト駆動ローラー6に接続されており、ベルト駆動ローラー6の回転軸の回転変位量に応じてパルス列を出力する。制御部20は、エンコーダー24から送信されるパルス数をカウントすることで回転量を算出し、用紙の送り量(用紙位置)を把握する。そして制御部20は、エンコーダー24からの信号に基づいて、モーター制御回路25及びラインヘッド制御回路26に制御信号を出力する。
【0059】
モーター制御回路25は、制御部20からの出力信号により記録媒体搬送用モーター28を駆動する。記録媒体搬送用モーター28は駆動してベルト駆動ローラー6を回転させ、搬送ベルト5を図1の時計回りに回動させて用紙を矢印X方向へと搬送する。
【0060】
ラインヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、RAM23に格納された画像データをラインヘッド11C〜11Kへ転送し、転送された画像データに基づいてラインヘッド11C〜11Kからのインクの吐出を制御する。かかる制御と、記録媒体搬送用モーター28によって駆動する搬送ベルト5による用紙の搬送の制御とにより、用紙への記録処理が行われる。また、前述のメニスカス揺動が実行される場合には、ラインヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、ラインヘッド11C〜11Kのメニスカス揺動を制御する。
【0061】
電圧制御回路27は、制御部20からの出力信号に基づいて給紙側のベルトローラー7に電圧を印加することにより交番電界を発生させ、搬送ベルト5に用紙を静電吸着させる。静電吸着の解除は、制御部20からの出力信号に基づいてベルトローラー7又はベルト駆動ローラー6を接地させることにより行われる。なお、ここでは給紙側のベルトローラー7に電圧を印加する構成としたが、排紙側のベルト駆動ローラー6に電圧を印加する構成としてもよい。
【0062】
ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いてドットを形成する方法を、図4を用いて具体的に説明する。なお、図4では図1及び図2に示したラインヘッド11C〜11Kのうち、ラインヘッド11Cを例に挙げて説明するが、他のラインヘッド11M〜11Kについても全く同様に説明される。
【0063】
図4に示すように、ラインヘッド11Cには複数個のノズルからなるノズル列N1、N2が搬送方向(矢印X方向)に並設されている。つまり、搬送方向の各ドット列を形成するノズルとして、ノズル列N1、N2に各1個ずつ(例えばドット列L1ではノズル12a及び12a’)、合計2個のノズルを備えている。なお、ここでは説明の便宜のため、ノズル列N1、N2を構成するノズルのうち、ドット列L1〜L16に対応する12a〜12p及び12a’〜12p’までの各16個のノズルのみを記載しているが、実際にはさらに多数のノズルが搬送方向と直交する方向に配列されているものとする。
【0064】
そして、このノズル列N1、N2を順次用いて被記録媒体上に画像を形成する。例えば、被記録媒体を搬送方向に移動させながら、被記録媒体の幅方向(図の左右方向)1行分のドット列D1をノズル列N1からのインク吐出(図の実線矢印)により形成した後、次の1行分のドット列D2をノズル列N2からのインク吐出(図の破線矢印)により形成し、さらに次の1行分のドット列D3を再びノズル列N1からのインク吐出により形成する。以下、ドット列D4以降もノズル列N1、N2を交互に用いて同様に形成する。
【0065】
以上説明した第2実施形態に係る画像形成方法では、第1実施形態にかかるインクを使用しているため、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境にインクが長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。
【0067】
(スチレン−アクリル樹脂の製造)
顔料分散体の調製に用いるスチレン−アクリル樹脂をマクロモノマー合成法によりに製造した。具体的には、ポリスチレンの分子末端の一方に(メタ)アクリロイル基が結合したオリゴマー(AS−6、東亜合成株式会社製、数平均分子量(Mn)6,000)と、共重合モノマーとを、メチルエチルケトン中で重合開始剤の存在下に重合条件を変更して分子量の異なる樹脂1〜樹脂6を製造した。得られた樹脂の重量平均分子量(Mw)を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより確認した。樹脂1〜樹脂6の重量平均分子量を表1に示す。また、得られた樹脂の酸価を滴定により確認したところ、樹脂1〜樹脂6の酸価は何れも30〜60mgKOHであった。
【0068】
【表1】

【0069】
(顔料分散体の調製)
表2に記載の顔料分散体の組成A〜Fについて、それぞれ樹脂1〜6を用いて、計36種類の顔料分散体を得た。また、インク全質量に対する顔料分散体の割合を40質量%としたときの、インク全質量に対する樹脂の割合が、表2に記載の割合となるように、水、顔料、及びスチレン−アクリル樹脂を定めた。
【0070】
具体的には、水、顔料、及びスチレン−アクリル樹脂を表2記載の割合でナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)に仕込み、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてナノグレンミルに充填して、水冷しながら顔料を分散させて顔料分散体を得た。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70〜150nmの範囲となっていることを確認した。
【0071】
【表2】

【0072】
〔実施例1〜16、及び比較例1〜56〕
(インクの調製)
インク中のグリセリン、及び1,3−プロパンジオールのインク全量に対する割合が表3、及び表4に記載の割合となるインクの組成a〜lそれぞれについて、得られた計36種類の顔料分散体それぞれを用いて、実施例1〜16、及び比較例1〜56に係る計432種類のインクが調製された。
【0073】
具体的には、得られた顔料分散体40質量%、界面活性剤(オルフィンE1010、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))1質量%、1,2−ヘキサンジオール(有機溶剤)1質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(有機溶剤)5質量%、及び2−ピロリドン(溶解安定剤)8質量%と、表3、表4に記載のインクの組成a〜lのそれぞれの割合で用いたグリセリン、及び1,3−プロパンジオールと、水とを加えた合計割合が100質量%となった組成物を、撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、実施例1〜16、及び比較例1〜56に係るインクを調製した。なお、表3に記載の量は、インク全質量に対するグリセリン、及び1,3−プロパンジオールの質量%である。なお、表中のGlyはグリセリン、1,3−PGは1,3−プロパンジオールを表す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
<評価>
得られた432種類のインクについて、下記の方法に従って、間欠吐出性、保存安定性、及び再溶解性を測定した。間欠吐出性の評価結果を表5、表6に記し、保存安定性の評価結果を表7、表8に記し、再溶解性の評価結果を表9、表10に記す。
【0077】
<間欠吐出性の評価方法>
間欠吐出性は、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良の生じやすさの指標となる。間欠吐出性の評価は、ヘッド内部を保温可能なヒーターを有し、ヘッド内部の温度を検知可能な記録ヘッドを備える画像形成装置を用いて、ヘッドの保温温度を25℃に設定して、10℃15%RH環境下において行った。被記録媒体として光沢紙(写真光沢紙、KA4100PGP(セイコーエプソン株式会社製))を用いた。具体的には、ヘッド長手方向のライン画像1を印字し、任意の非印字区間を経た後に、再度ライン画像2を印字し、ライン画像2の印字状態を顕微鏡により観察して、間欠吐出性の評価を行った。間欠吐出性の評価基準を以下に記す。
◎:ライン画像1からライン画像2までの間にA3サイズ用紙の縦相当の長さを超える非印字区間を設けても、ライン画像2に乱れが生じない。
○:A3サイズ用紙の縦相当の非印字区間まで、ライン画像に乱れが生じない。
×:A3サイズ用紙の縦相当の非印字区間で、ライン画像に乱れが生じる。
【0078】
<保存安定性の評価方法>
保存安定性は、高温環境にインクを長期間さらした後のインクの粘度変化のしやすさの指標となる。容積50mlの容器に、初期粘度Vを測定したインク約30gを入れ、インクの入った容器を内温60℃に設定された恒温器に入れ、1ヶ月間静置した。その後、室温にて3時間静置した後、容器内のインクの保管後粘度Vを測定し、初期粘度Vと、保管後粘度Vとから下記式により粘度変化率を求め、得られた結果を保存安定性の評価として以下のように評価した。インクの粘度は振動式粘度計(VM−200T(ニッテツ北海道制御システム株式会社製))により測定した。
質量乾燥率(%)=(V−V)/V×100
◎:粘度変化率が±2%未満。
○:粘度変化率が±2〜5%。
×:粘度変化率が±5%超。
【0079】
<再溶解性の評価方法>
再溶解性は、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際の、インク中の溶媒の揮発しやすさを評価し、その後の画像形成の前にメンテナンス動作を行うことで、正常なインクの吐出が可能になるかどうかの指標となる。例えば、後述する再溶解率が50%以上であれば、低温低湿環境下や、高温低湿環境下で記録ヘッドにキャップをすることなく2週間程度放置したとしても、100〜200kPaの圧力でインクをパージして増粘したインクを記録ヘッドのノズルから押出し、押出されたインクをゴムワイプにて掻き取る、一般的なメンテナンス動作によって、正常なインクの吐出が可能となる。
【0080】
予め質量を測定したシャーレ(φ50mm)に、インクを5g秤量し、5gのインクに含まれる水に相当する質量が減量するまで、60℃の恒温器にてインクを乾燥させ、乾燥後のシャーレ内のインクの質量Wを測定した。次いで、乾燥後のシャーレに、未乾燥のインク5gを加えた後、水平な台上で30分間シャーレを静置した。その後、シャーレの底面と台上の水平面とのなす角が135°となるようにシャーレを傾けた後に、垂直上方にシャーレを持ち上げて、20秒間シャーレを静止させてシャーレからインクを落下させた。インクを落下させた後のシャーレ内のインクの質量Wを測定した。WとWとから、以下の式に従って、インクの再溶解率を測定した。なお、下記算出式における、0.3(g)との値は、未乾燥のインク5gを、シャーレからインク液滴が滴下しなくなるまで落下させた場合に、シャーレに付着しているインクの平均的な質量である。
(再溶解率算出式)
再溶解率(%)=(1−(W−0.3)/W)×100
◎:再溶解率50%超。
○:再溶解率20〜50%。
×:再溶解率20%未満。
【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
表5、及び表6によれば、樹脂の重量平均分子量が150000超の樹脂を用いたインク(樹脂6を用いたインク)の場合や、インク中の樹脂の含有量が、インク全質量に対して6.0質量%超であるインク(顔料分散体Fを用いたインク)の場合では、インクの粘度が高くなりやすく、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制しにくいことが分かる。
【0084】
また、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が15質量%未満であるインク(インクg、h)の場合、溶媒が揮発しすく、また、溶媒の揮発によって、インクの粘度が高くなりやすいため、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制しにくいことが分かる。一方、合計含有量(P+Q)が40質量%超であるインク(インクk、l)の場合は、溶媒の揮発は抑制できるが、保湿剤の量が少ない場合に比べて、インクの粘度が高くなりやすく、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制しにくいことが分かる。
【0085】
また、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との質量比(P/Q)が、1.00超であるインク(インクi)の場合は、グリセリン(P)が相対的に多く含まれていることにより、インクの粘度が高くなりやすく、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制しにくいことが分かる。
【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
表7、及び表8によれば、樹脂の重量平均分子量が30000未満の樹脂を用いたインク(樹脂1を用いたインク)の場合や、インク中の樹脂の含有量が、インク全質量に対して1.5質量%未満であるインク(顔料分散体Aを用いたインク)の場合では、長期間インクを高温環境にさらした場合にインクの粘度変化を抑制しにくいことが分かる。
【0089】
また、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が15質量%未満であるインク(インクg、h)の場合、溶媒が揮発しやすく、長期間インクを高温環境にさらした場合にインクの粘度変化を抑制しにくいことが分かる。
【0090】
【表9】

【0091】
【表10】

【0092】
表9、及び表10によれば、樹脂の重量平均分子量が150000超の樹脂を用いたインク(樹脂6を用いたインク)の場合、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際に、溶媒の揮発を抑制しにくいことが分かる。
【0093】
また、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が15質量%未満であるインク(インクg、h)の場合、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際に、溶媒の揮発を抑制しにくいことが分かる。
【0094】
また、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との質量比(P/Q)が、0.25未満であるインク(インクj)の場合は、グリセリンの含有量が相対的に少なくなることにより、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際に、溶媒の揮発を抑制しにくいことが分かる。
【0095】
以上の間欠吐出性、保存安定性、及び再溶解性の評価結果から、すべて評価において、○か△の評価であったものを合格(○)と評価し、何れかの評価において、一つでも×の評価があったものを不合格(×)と評価した総合評価を表11、表12に記す。
【0096】
【表11】

【0097】
【表12】

【0098】
表11、及び表12によれば、インクが、水、顔料、樹脂、保湿剤、及び有機溶剤を含み、樹脂は、重量平均分子量が30000〜150000であり(樹脂2〜6)、且つ、インク中の含有量がインクの質量に対して1.5〜6.0質量%であり(顔料分散体B〜E)、保湿剤は、少なくともグリセリンを含み、有機溶剤は、少なくとも1,3−プロパンジオールを含み、インク中の、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が、インクの質量に対して15〜40質量%であり、且つ、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00である(インクa〜f)場合、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインク中の溶媒の揮発、及びインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境に長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できることが分かる。
【0099】
〔参考例〕
上記した樹脂4を用いて、表2に記載の顔料分散体の組成Dの組成で調製した顔料分散体を用いるインクにおいて、有機溶剤として1,2−ヘキサンジオール1.0質量%に変え、下記の(1)〜(4)の有機溶剤それぞれを用いて調製する実施例17〜20、及び比較例57〜60に係る計48種類のインクを調製した。
(1)1,2−オクタンジオール1.0質量%
(2)2−エチル−1,3−ヘキサンジオール2.0質量%
(3)2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール2.0質量%
(4)2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール1.0質量%
【0100】
具体的には、有機溶剤として用いられる1,2−ヘキサンジオール1.0質量%に変えて、上記の(1)〜(4)の何れかの有機溶剤を用いる他は、上記の実施例1〜16、比較例1〜56と同様にして、インク中のグリセリン、及び1,3−プロパンジオールのインク全量に対する割合が表3、及び表4に記載の割合となるインクの組成a〜lそれぞれについて、実施例17〜20、及び比較例57〜60に係るインクを調製した。以下、実施例17〜20、及び比較例57〜60について、表13、及び表14に(1)〜(4)それぞれの有機溶剤を用いた場合の、間欠吐出性、保存安定性、及び再溶解性の評価について記す。
【0101】
【表13】

【0102】
【表14】

【0103】
表13によれば、有機溶剤として含まれる、1,2−ヘキサンジオールに変えて、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、又は2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールを用いた場合であっても、インクが、水、顔料、樹脂、保湿剤、及び有機溶剤を含み、樹脂は、重量平均分子量が30000〜150000であり(樹脂2〜6)、且つ、インク中の含有量がインクの質量に対して1.5〜6.0質量%であり(顔料分散体B〜E)、保湿剤は、少なくともグリセリンと1,3−プロパンジオールとを含み、インク中の、グリセリンの含有量(P)と、1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が、インクの質量に対して15〜40質量%であり、且つ、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00である(インクa〜f)場合、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった際のインク中の溶媒の揮発、及びインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良を抑制し、且つ、高温環境に長期間さらされてもインクの粘度変化を抑制できることが分かる。
【0104】
表14によれば、組成g〜lでは、有機溶剤として含まれる、1,2−ヘキサンジオールに変えて、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、又は2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールを用いた場合であっても、間欠吐出性、保存安定性、及び再溶解性を満足する結果が得られないことが分かった。
【符号の説明】
【0105】
2 給紙トレイ
3 給紙ローラー
4 従動ローラー
5 搬送ベルト
6 ベルト駆動ローラー
7 ベルトローラー
8 排出部
8a 排出ローラー
8b 従動ローラー
10 排紙トレイ
11C、11M、11Y、11K ラインヘッド
12a〜12p、12a’〜12p’ ノズル
20 制御部
30 検出手段
100 インクジェット記録装置
D1〜D4 ドット列(行方向)
L1〜L16 ドット列(搬送方向)
N1、N2 ノズル列
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水、顔料、樹脂、保湿剤、及び有機溶剤を含み、
前記樹脂は、重量平均分子量が30000〜150000であり、且つ、インク中の含有量がインクの質量に対して1.5〜6.0質量%であり、
前記保湿剤は、少なくともグリセリンと1,3−プロパンジオールとを含み、
インク中の、前記グリセリンの含有量(P)と、前記1,3−プロパンジオールの含有量(Q)との合計含有量(P+Q)が、インクの質量に対して15〜40質量%であり、且つ、質量比(P/Q)が、0.25〜1.00である、インクジェット記録装置用インク。
【請求項2】
前記有機溶剤が、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールの中から選択される少なくとも1種以上を含む、請求項1記載のインクジェット記録装置用インク。
【請求項3】
請求項1又は2記載のインクジェット記録装置用インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成する、画像形成方法。
【請求項4】
前記インクジェット記録装置が、圧電素子への電圧制御によって液室内に生じる圧力を利用して前記インクの液滴を吐出する記録ヘッドを備え、記録方式がラインヘッド型の記録方式である、請求項3記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記インクが、前記記録ヘッドが備えるノズルの開口部から吐出され、
前記インクジェット記録装置が備える制御部が、前記圧電素子への電圧制御によって、前記ノズルの開口部近傍に形成される前記インクのメニスカスを、吐出に到らない程度に連続で複数回振動させる、メニスカス揺動を実行し、
前記メニスカス揺動が、0.3秒以上の間隔で実行される、請求項3又は4記載の画像形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−107944(P2013−107944A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252108(P2011−252108)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】