説明

インクジェット記録装置

【課題】キャリッジロック機構を設ける場合でも、インク吸引動作終了時にキャップ内に負圧を保持したまま記録ヘッドからキャップを離間させることで、インク吸引動作後の吐出口面やキャップ内に残存するインクの量を低減させることができ、記録品位を確保できるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】ポンプ50の駆動・停止は搬送ローラ2の逆転・正転切替えから所定時間遅れて行い、ロック手段20の作動・非作動は搬送ローラの逆転・正転切替えと同時に行い、搬送ローラの駆動方向切替え時に、ロック手段の作動切替えに必要な時間だけポンプに駆動が伝達されないように、駆動伝達にタイミング差を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドをキャッピング位置に固定するためのロック手段を備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置においては、記録ヘッドのインク吐出性能を維持回復するためのキャッピング手段、ワイピング手段及び吸引回復手段などを備えた回復機構部を設けることが行われている。中でも、主走査方向に往復移動するキャリッジに搭載された記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、記録領域外の所定位置にキャリッジの移動に追従しかつカム面に沿って移動するスライダを設け、このスライダに搭載されたキャップを記録ヘッドに密着させることでキャッピングを行う構成の回復機構部を設けることが行われている。このような回復機構部は下記の特許文献3に記載されている。
【0003】
また、キャップで記録ヘッドをキャッピングした状態でキャリッジをキャッピング位置に継続的に安定した状態で停止させる(ロックする)ためのキャリッジロック機構を用いるインクジェット記録装置も知られている。このようなインクジェット記録装置は下記の特許文献1及び2に記載されている。
【0004】
また、インクジェット記録装置では、キャリッジがキャッピング位置にあるときにキャリッジの位置を安定させるために、搬送ローラの駆動で作動するロックレバーによってキャリッジ側面を規制し、キャリッジがキャッピング状態から離れて記録領域側へ移動できないように構成されたものも提案されている。このような構成では、仮に装置外から衝撃等が加えられた場合でも、キャリッジは常にキャッピング状態を維持することができ、長期間記録装置を使用しない場合でも、記録ヘッドの吐出口のインク固着を防止して安定した性能を維持することが可能になっている。
【0005】
また、特許文献3に記載の回復機構部は、上記のキャリッジロック機構と組み合わせることにより、記録ヘッドをキャッピングした状態でポンプによりキャップ内に負圧を発生させて吸引回復を行った後であって、キャリッジロックを解除する前に、キャリッジを回復機構部のさらに奥へ進入させたところでキャップを記録ヘッドから離間して吐出口を大気に連通させ、次いで、搬送ローラを逆転方向に駆動するように構成されている。このような構成によれば、簡単な構成で、キャリッジのロック機能とインク吸引による回復機能を実現したインクジェット記録装置を実現させることができる。
【0006】
また、下記の特許文献1には、キャリッジがキャッピング位置などの固定位置にあるときに、このキャリッジとキャップを保持するキャップホルダとの双方に嵌合するロックピンによってキャップとキャリッジの相対位置を固定する構成が開示されている。
【特許文献1】特開平9−109379号公報
【特許文献2】特開平10−278396号公報
【特許文献3】特開2004−9576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来技術では、次のような解決すべき技術的課題が残されていた。先ず、特許文献1に記載された発明では、装置本体の横幅を短縮することは可能であるものの、ロックピンを上下動させるために複雑な構成を必要とし、部品点数も多くなり、コストアップを生じるという課題がある。また、ロックピン自体は搬送ローラの駆動を利用して作動できるものの、ポンプなどその他の作動部の駆動は搬送ローラとは別の駆動源で行う必要があり、これによってコストアップを生じるという課題もある。
【0008】
特許文献2に記載された発明では、記録ヘッドをキャッピングした状態でポンプを作動させ、キャップ内に負圧を発生させて吸引回復動作を行った後に、キャリッジを回復機構部から退避させるときに、キャリッジロック用のロック部材を退避させるために搬送ローラを正回転させてロック部材を解除する必要がある。このとき、搬送ローラを正回転させるとポンプは負圧を解除する状態になるので、負圧を維持したまま記録ヘッドからキャップを離間させることができない。そのため、キャップ開放の際に、記録ヘッドの吐出口面に吸引後のインクが多量に残存することになる。このような多量の残存インクは、その後のワイピング動作でのインク拭き残しや、インクの機内溢れや、吸引回復後の記録動作の際のインクの混色などの不都合の原因となりやすい。
【0009】
特許文献3を用いた構成では、記録ヘッドの吸引回復動作を行った後にキャリッジロックを解除できる構成にはなっているものの、記録ヘッドの吐出口面上の残存インクを少なくするために、キャップ内に負圧を維持したままキャップを開放する必要がある。しかし、負圧を維持したままキャップを開放するために吸引動作によって搬送ローラを逆転駆動すると、ロック部材も作動した状態になるので、キャリッジのキャッピング位置から記録領域側への脱出移動が不可能になる。そのため、キャリッジをキャッピング位置から更に進入した位置へ移動させるための領域を設ける必要があり、装置本体の横幅が大きくなってしまうという課題があった。
【0010】
また、キャリッジがキャッピング位置よりも更に進入した奥の位置では、当然ながらキャップが開放された状態になる。そのため、キャリッジロック機構を設けておきながら、キャリッジが回復機構部へ進入する方向にキャップ開放力が加わってしまう。従って、キャリッジロック機構を設けておきながら、記録ヘッドを確実にキャッピングできなくなる可能性がある。
【0011】
本発明は以上のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、キャリッジロック機構を設ける場合でも、簡単な構成で、インク吸引動作終了時にキャップ内に負圧を保持したまま記録ヘッドからキャップを離間させることができ、インク吸引動作後に吐出口面やキャップ内に残存するインクの量を低減させることができ、記録品位を確保するとともに機内へのインク溢れを低減することができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、インクを吐出して被記録材に記録を行う記録ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジと、前記キャリッジの移動方向と交差する方向に被記録材を搬送するための搬送ローラと、記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップと、前記キャップの内部に吸引力を発生させるためのポンプと、前記搬送ローラの駆動を前記ポンプに伝達するための駆動伝達機構と、前記キャップで前記吐出口を覆うことが可能なキャッピング位置に前記キャリッジを係止するためのロック手段と、を備えたインクジェット記録装置において、前記ポンプの駆動・停止は前記搬送ローラの逆転・正転の切替えから所定時間遅れて行われ、前記ロック手段の作動・非作動は前記搬送ローラの逆転・正転の切替えと同時に行われ、前記搬送ローラの駆動方向切替え時に、前記ロック手段の作動・非作動の切替えに必要な時間だけ該搬送ローラの駆動を行っても前記ポンプに駆動が伝達されないように、駆動伝達にタイミング差を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、キャリッジロック機構を設ける場合でも、簡単な構成で、インク吸引動作終了時にキャップ内に負圧を保持したまま記録ヘッドからキャップを離間させることができ、インク吸引動作後に吐出口面やキャップ内に残存するインクの量を低減させることができ、記録品位を確保するとともに機内へのインク溢れを低減することができるインクジェット記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応部分を示すものである。また、同様の複数の部品又は部位を同一番号に記号を付して示す場合に全部もしくは任意のものを指すときは記号を省いて番号のみで示す。図1は本発明を適用したインクジェット記録装置の一実施形態を示す斜視図である。図1において、図示のインクジェット記録装置は、給紙部101と、搬送部102と、記録機構部(走査ユニット)103と、回復機構部(クリーニング機構部)104と、を備えている。給紙部は記録用紙等の被記録材を装置本体内へ供給する。搬送部は装置本体内を通して被記録材を搬送する。記録機構部は画像情報に基づいて被記録材に画像を記録する。回復機構部は記録される画像品位を保持するために記録ヘッドのインク吐出性能を維持回復するものである。
【0015】
給紙部101に積載された被記録材は、給紙モータで駆動される給紙ローラによって1枚ずつ分離されて送り出され、搬送部102へ給送される。搬送部102に給送されてくる被記録材は、搬送モータによって駆動される搬送ローラ2及びピンチローラ61によって記録部を通して搬送される。記録部では、記録機構部(走査ユニット)103によって被記録材に対する記録が行われる。記録は、主走査方向に移動するキャリッジ6に搭載された記録ヘッド8を画像情報に基づいて駆動し、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させることにより行われる。記録された被記録材は、搬送ローラ2と同期駆動される排紙ローラ62及びこれに押圧される拍車によって装置本体外へ排出される。なお、図1中で、1は種々の機能部品を支持するシャーシを示し、19は装置本体のベース部を示す。
【0016】
記録機構部103は、主走査方向に往復移動可能に案内支持されたキャリッジ6と、キャリッジに搭載された記録カートリッジ8A、8Bを備えている。キャリッジ6は装置本体に設置されたガイドシャフト及びガイドレールに沿って往復移動可能に案内支持されており、キャリッジモータによりキャリッジベルト63を介して往復駆動される。記録機構部103の移動は、キャリッジ6に搭載されたエンコーダセンサと装置本体側に張架されたエンコーダスケール65によって、位置及び速度を検知することにより制御される。キャリッジ6の移動(主走査)に同期して行われる記録ヘッド8の記録動作と被記録材の所定ピッチごとの搬送(副走査)とを繰り返すことにより被記録材全体の記録が行われる。
【0017】
図2は図1のインクジェット記録装置の回復機構部104に記録機構部103が位置しないときの状態を示す斜視図である。図3は記録機構部が回復機構部のキャッピング位置にあってロック手段7が退避しているときの状態を示す斜視図である。図4は記録機構部が回復機構部のキャッピング位置にあってロック手段が係止しているときの状態を示す斜視図である。図5は図1のインクジェット記録装置の回復機構部を斜め上方から見た斜視図である。
【0018】
回復機構部104は記録ヘッド8の吐出口の目詰まり等を解消することで記録画像の品位を正常な状態に維持回復するためのものである。この回復機構部は、記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャッピング手段、吐出口やキャップからインクを吸引するための負圧吸引手段であるポンプ、記録ヘッドの吐出口面を拭掃するためのワイピング手段などを備えている。本実施形態の回復機構部104は、図2及び図5に示すように、回復機構部に移動(進入)してきたときにキャリッジと共に所定範囲にわたって移動可能なスライダ10を備えている。キャッピング手段を構成するキャップ11、12はスライダ10に搭載されている。これら2個のキャップ11、12は、キャリッジに搭載された2個の記録ヘッド8A、8Bのそれぞれに対応するものである。これら2個の記録ヘッドは、例えば、複数色のインクを用いて記録するものと、ブラック等の1色で記録するものであり、それらの吐出口面にはインク色に応じた数の吐出口列(吐出口の列)が形成されている。
【0019】
図2〜図5において、スライダ10は、記録機構部103が回復機構部104へ進入してきたとき、所定範囲にわたって追従して移動できるように装着されている。また、スライダの両側面の2箇所ずつ(合計4箇所)に側方へ張り出した突出部10bが設けられており、これらの突出部は装置本体のベース部19の4箇所に設けられたスライダカム19a(図5)のそれぞれのカム面に当接している。また、スライダ10は、ベース部19との間に張架された不図示の引っ張りばね(スライダばね)によって記録領域へ向けて斜め下方へ付勢されており、各突出部10bはそれぞれ対応するスライダカム19aの上面(カム面)に押圧状態で当接している。
【0020】
記録機構部103が回復機構部104へ進入してくると、キャリッジ6の側面がスライダ10の突き当て部10aに当接する。そして、キャリッジがさらに進入方向へ移動すると、スライダ7はキャリッジに追従するとともにスライダカム19aに沿って移動することで徐々に上昇していく。スライダカムの最上部に対応するキャッピング位置まで移動してくると、キャップ11、12は記録ヘッド8A、8Bの吐出口面に密着し、キャッピング状態になる。スライダカム19aには、スライダ10がキャリッジと当接しないときなどで最下位になる退避位置(待機位置)が設けられている。上記キャッピング位置と退避位置との中間に、例えば、スライダ10上のワイパーで吐出口面を拭掃するためのワイピング位置が設けられる。
【0021】
回復機構部104の最奥部まで進入したキャリッジ6が移動方向を転換して記録領域へ向けて移動していくと、キャリッジ6と逆にスライダ10は徐々に下降していく。そして、所定距離移動したところで、スライダ10は、キャリッジ6から離れて初期の待機位置に戻される。キャップ11、12にはチューブ13、14が接続されており、これらのチューブの他端は負圧発生手段であるポンプ(吸引ポンプ、チューブポンプ)50に接続されている。ポンプ50は、図2に示すように、装置本体の回復機構部の搬送方向上流側に配されている。
【0022】
図6は回復機構部のキャップに接続されたポンプ50を背部から見た外観斜視図である。図7は図6のポンプの中央部縦断面図である。図8は図7中の2個のローラホルダの組立体(ホルダユニット)を示す斜視図である。図9は図7中の線9−9に沿って見た横断面図であり、図10は図7中の線10−10に沿って見た横断面図である。図6〜図10において、ポンプ50は、キャップ11、12に通じるチューブ13、14をローラ44でしごくことにより、これらのチューブ内に発生させた負圧を吐出口に作用させるものである。従って、記録ヘッド8A、8Bをキャッピングした状態でポンプ50を作動させることで、記録ヘッド8A、8bの吐出口からインクを吸引することができる。また、キャップを開放した状態で作動させることにより、キャップ内に溜まったインクを除去することができる。
【0023】
ポンプ50は、図7〜図10に示すように、ポンプベース40の内部に装着されたローラホルダ42、43を回転駆動することにより、これらのローラホルダに軸支されたローラ44によってチューブ13、14をしごくように構成されている。すなわち、チューブ13、14はポンプベース40の内壁面に沿ってチューブ13、14がそれぞれ1周分這い回されている。2個のローラホルダ42、43は一体に回転駆動される。ローラホルダ42、43のそれぞれには、1個ずつのローラ44が所定の位相関係で(図示の例では180度位相で)回転自在に軸支されている。そこで、ローラホルダ42(43)を図9及び図10で反時計回りに回転駆動することで各ローラ44によって2本のチューブ13、14をしごき、各チューブ内に負圧を発生させる2連式のチューブポンプが構成されている。
【0024】
図9及び図10において、ローラホルダが反時計回りに回転するときは、各ローラ44の軸が実線で示すような半径方向外方の位置に保持(ロック)され、上記のように各チューブをしごくことで負圧を発生させるオンの状態になる。一方、ローラホルダが時計回りに回転するときは、各ローラの軸が二点鎖線で示すような半径方向内方の位置に保持されることで各チューブが解放され、各チューブの内部が大気に連通されてオフの状態になる。なお、ローラ44が2連になっている理由は、本実施形態では、2種類の記録ヘッド8A、8Bに対応する2個のキャップ11、12のそれぞれにチューブ13、14を通して負圧を導入するためである。仮に、記録ヘッドが1個で、それに対応するキャップも1個である場合は、1つのローラを用いる1連のチューブポンプを使用しても良い。
【0025】
図7〜図10において、ローラホルダ42には、ローラ44の両端の軸部が回転しながら移動するための摺動面42b、42cが設けられ、ローラホルダ43にも同様に、ローラ44の両端の軸部が回転しながら移動するための摺動面43b、43cが設けられている。負圧を発生させてインクを吸引する場合は、図9及び図10に示すようにローラホルダ42、43を反時計回り(後述する搬送ローラの逆転方向に対応)に回転させ、ローラ44がチューブ13、14を完全に押しつぶすまで摺動面を移動しきったチャージ状態から更にローラホルダを回転駆動することによって行われる。また、チューブ内の負圧を解除する場合には、ローラホルダを逆方向(後述する搬送ローラの正転方向に対応)に回転駆動することによりローラ44によるチューブ13、14の押し潰しを解除させ、チューブの内部を大気と連通させる。
【0026】
図11は本発明を適用したインクジェット記録装置におけるインク吸引用のポンプ50を駆動するための駆動伝達機構をポンプ50とともに示す部分斜視図である。図12は本発明を適用したインクジェット記録装置におけるインク吸引用のポンプ50を駆動するための駆動伝達機構30を示す部分斜視図である。図13は図7のポンプ50を駆動伝達機構30との連結側から見た斜視図であり、図14は図13のポンプのホルダストッパを外した状態を示す斜視図であり、図15は図13のポンプの駆動伝達機構との連結部を示す部分正面図である。
【0027】
図11及び図12において、被記録材を搬送するための搬送ローラ2の一端部には出力ギア3が固定されており、この出力ギアは2つの歯形部を有するアイドラギア4の一方の歯形部と噛み合っている。さらに、このアイドラギアの他方の歯形部は、2つの歯形部を有する駆動ギア5の一方の歯形部と噛み合っている。駆動ギア5にはポンプ50との連結部である一対の係合突起部5a、5aが設けられている。図13〜図15において、ポンプ50のローラホルダ42には、駆動伝達機構30の駆動ギアの係合突起部5a、5aのそれぞれと回転方向に遊び(ガタ、間隙)を持って係合する係合溝部42a、42aが形成されている。
【0028】
すなわち、係合突起部5a、5aを係合溝部42a、42aに係合可能に挿入することにより、駆動伝達機構の駆動ギア5はポンプ50の駆動部に対して、回転方向に所定の遊びをもって駆動連結されている。従って、係合溝部に係合突起部を挿通して連結した状態でも、駆動ギア5側の係合突起部の方は図15中に実線と二点鎖線で示す位置の間では自由に移動できる。そのため、この遊びの間では、いずれの方向にも駆動が伝達されず、ローラホルダ42、43の回転位置はそのままに維持される。なお、ポンプベース40の正面側端面にローラホルダ41(図13、図15)を固定することにより、ポンプベースの内部に回転自在に軸支されたローラホルダの軸方向の位置決めと抜け止めがなされている。
【0029】
図11及び図12において、駆動伝達機構30を構成するギア列の中には、キャリッジ6をキャッピング位置に係止するためのロック手段20が設けられている。このキャリッジロックのためのロック手段は、アイドラギア4の軸部4aに回動可能に軸支されたレバー部材(ロックレバー)7で構成されている。また、レバー部材は、摩擦ばね(フリクションスプリング)9によって、所定値以下の外力トルクでは回動しないように保持されている。摩擦ばね9は、その両端部をレバー部材のばね掛け部に係止され、その中央部をアイドラギアの軸部4aに押圧付勢することで、アイドラギア4とレバー部材7を摩擦力によって同期回転可能に取り付けられている。
【0030】
図9〜図12において、以上説明した駆動伝達機構30においては、搬送ローラ2が逆転方向(搬送方向と逆の方向)に駆動されると、アイドラギア4に摩擦保持されたレバー部材7はその先端のロック部7aがキャリッジ6を係止する側(作動位置)へ回動する。図4はロック部7aがキャリッジロックの位置にある状態(ロック手段20の作動状態)を示す。このとき、ローラホルダ42には図9及び図10中の反時計方向の駆動が伝達され、ポンプ50は負圧を発生する。この負圧発生のときには、図9及び図10に示すように、ローラ44は実線の位置に保持され、回転してチューブをしごきながら反時計方向に(吸引方向)に移動することでチューブ内に負圧を発生する。
【0031】
一方、搬送ローラ2が正転方向(搬送方向)に駆動されると、アイドラギア4に摩擦保持されたレバー部材7はキャリッジ6と干渉しない非作動位置(退避側)へ回動し、キャリッジロックが解除された非作動状態になる。図3はレバー部材のロック部7aが退避位置にある状態(ロック手段20の非作動状態)を示す。このとき、ローラホルダ42には図9及び図10中の時計方向の駆動が伝達され、ポンプ50は大気に開放されて負圧が解除された状態になる。すなわち、このときは、図9及び図10に示すように、ローラ44は二点鎖線の位置に保持され、チューブを押しつぶすことなく時計方向に(開放方向)に移動し、チューブ内は大気開放状態になる。
【0032】
前述のように、駆動ギア5とローラホルダ42の駆動連結部には遊びが設けられている。そのため、例えば搬送ローラ2を十分正転方向に回転させた状態から逆転方向の駆動に切り替えた場合、レバー部材(ロックレバー)7には直ぐに駆動が伝達されるが、ポンプには所定の時間遅れをもって駆動が伝達される。すなわち、ローラホルダ42、43に対しては、駆動伝達部の上記遊びによる不干渉領域を超えて駆動が伝達されるため、この不干渉領域を通過する分の時間遅れ(タイミング差)をもってポンプの駆動(いずれの回転方向とも)が開始される。こうして、本実施形態では、搬送ローラ2の駆動方向切替え時に、ロック手段20の作動・非作動の切替えに必要な時間だけ搬送ローラの駆動を行ってもポンプ50に駆動が伝達されないように、駆動伝達にタイミング差を設けるように構成されている。
【0033】
なお、ローラホルダの係合溝部42aと駆動ギアの係合突起部5aとの不干渉領域は、ロック手段(レバー部材7)の作動切替えを十分に行えるだけの遊び(ガタ)を設けて形成すれば良い。すなわち、レバー部材7が取り付けられたアイドラギア4の歯数よりも駆動ギア5側の歯数が多ければ、ギア減速比の関係で、レバー部材の動作に必要な分だけ駆動する際のローラホルダ42の回転量(角度)を少なくできる。従って、係合溝部42aの遊びの量は、レバー部材に必要な回転角度とギア列の減速比との関係で決定すれば良い。
【0034】
図16は本発明を適用したインクジェット記録装置における回復機構部の吸引回復動作をキャリッジロック動作とともに示すフローチャートである。図17は本発明を適用したインクジェット記録装置におけるキャリッジロック動作を示すフローチャートである。図16及び図17において、回復のための吸引動作を行う際には、まず、キャリッジ6を図2に示す回復機構部104におけるキャリッジ動作待機位置まで移動させる(ステップS1)。そこで、搬送ローラ2を逆転方向に回転させてポンプ50を駆動し、2連のローラ44でチューブ13、14を完全に押しつぶす位置(チャージされた位置)まで駆動する(ステップS2)。このとき、ロック手段20のレバー部材7も同時にオン側(ロック側)へ動作するが、このときにはキャリッジとレバー部材がキャリッジ移動方向で重なり合う位置にあるので、レバー部材によってキャリッジの移動が阻止されることはない。
【0035】
上記の搬送ローラの逆転でローラ44のチャージが行われた後、キャリッジ6は記録ヘッド8A、8Bの吐出口面とキャップ11,12が当接するキャッピング位置(図3に示す上昇位置)まで移動する(ステップS3)。本実施形態では、上記チャージの動作は、各ローラの軸部44aを摺動面42c、43cに沿って移動させて端部の押圧面42d、43dに当接させることで行われる。このチャージにより、直ちに吸引を開始できる状態になる。ステップS3でキャッピング状態にしたところで、搬送ローラ2をさらに逆転方向に駆動し、クリーニング動作(吸引動作)に必要な量だけポンプを駆動する(ステップS4)。
【0036】
このときにキャップ内に発生する負圧によって吐出口からインクが吸引される。なお、このときの搬送ローラ2の逆転駆動によって、レバー部材7が係止位置へ移動することでロック手段20が作動状態になる。なお、前述のように吸引動作の前にローラ44をチャージ状態に設定する理由は、ローラ44がチャージを完了するまでの駆動量(移動量)にはばらつきがあり、仮にチャージしきらない状態から吸引動作を開始すると、吸引動作毎の吸引量にもばらつきが生じ、記録ヘッド8のクリーニングに必要とするインク吸引量が得られない可能性が生じることにある。
【0037】
インク吸引(ステップS4)が終了すると、キャップ11、12を吐出口面から離して大気開放することになる。しかし、このとき、図4に示すようにレバー部材7が作動位置(係止位置)まで移動されているので、このままではキャリッジ6を回復機構部104から記録領域へ向けて移動させることはできない。そのため、記録ヘッド8をキャッピング状態にしたまま搬送ローラ2を所定量だけ正転方向に駆動することで、一旦レバー部材を退避位置へ移動させて非作動状態にする(ステップS5)。つまり、駆動ギア5とローラホルダ42との駆動連結部に設けた回転方向の遊びによる駆動伝達のタイミング差を利用して、ローラホルダ42に駆動が伝達されないうちに(ポンプに駆動が伝達されない範囲の駆動量で)レバー部材7のみを係止位置から退避位置へ動作させる。
【0038】
こうすることにより、ローラ44の位置は吸引動作直後の状態から変化しないので、キャップ内の負圧は維持されたままの状態になっている。このときに、レバー部材7が退避した状態でキャリッジ6を回復機構部から離間させる(ステップS6)ことで、キャップ内に負圧が維持された状態のままキャップを開放させることができる。そのため、インク吸引後のキャップ開放時における吐出口面上やキャップ内のインクの残存量を、残留負圧を利用して極力少なくすることができる。
【0039】
次いで、このように残存インク量を少なくした状態で、キャップやポンプ内に残ったインクを吸引する空吸引動作やワイパーによる吐出口面のワイピング動作(拭掃動作)などの必要なクリーニング処理を実行することができる(ステップS7)。このとき、レバー部材は搬送ローラの逆転駆動により再びロック位置(作動位置)に戻される。最後に、搬送ローラ2をキャリッジロック解除分だけ正転方向に駆動してレバー部材7を退避位置へ回動させることで、当初の待機状態に戻す(ステップS8)。
【0040】
次に、図17を用いて、キャリッジ6をキャッピング位置にロックするためにレバー部材7を機能させる際の動作について説明する。まず、ステップS11で、キャリッジ6を図2に示す回復機構部104における待機位置(キャリッジ動作前待機位置)まで移動させる(ステップS1)。記録終了後の記録ヘッド8をキャッピングする場合は、ローラ44、44をチューブ13、14から退避させる駆動量だけ搬送ローラ2を正転方向に駆動する(ステップS12)。この駆動によって、チューブ内が開放され、キャッピングの時に吐出口に正圧が作用することを防止できる。
【0041】
この駆動によって正圧の作用を防止する理由は、インク吐出部に正圧が作用して吐出口内に空気を押し込むことを防止するためである。これは、吐出口のメニスカスの破壊や吐出口内への空気混入などによる吐出不安定の可能性があるからである。また、この正圧発生の原因は、仮にローラ44がチャージ位置にあるときに記録ヘッドのキャッピングを行うと、キャッピング動作時にキャップ内に閉じ込められる空気とキャップの弾性変形によるキャップ内空間の減少などによりキャップ内に正圧が発生するためである。
【0042】
さらに、他のクリーニング動作においてレバー部材7が作動状態(係止状態)のままキャリッジ6が回動機構部104へ進入してきた場合には、キャリッジがレバー部材と干渉して動作不能になることを防止するために、レバー部材の先端ロック部7aの記録領域側の側面部にはテーパ面7bが設けられている。これによって、ロック手段20が作動状態のままキャリッジ6が記録領域側から回復機構部側へ進入してきても、キャリッジの移動を利用して自動的にレバー部材(ロックレバー)を非作動状態(ロック解除状態)に切り替えることができる。
【0043】
上記きステップS12で搬送ローラ2の正転動作を行った後、キャリッジ6をキャッピング位置まで移動させる(ステップS13)。その後、ローラホルダ42に駆動が伝達されず、レバー部材7を係止位置へ移動させるだけの微少駆動量だけ、搬送ローラ2を逆転方向に駆動する(ステップS14)。以上のようなキャリッジロック動作によれば、キャリッジがキャッピング位置にロックされた状態でも、ポンプ内のローラ44を、負圧を発生させない位置に停止させておくことができる。そのため、必要なキャッピング機能と必要なキャリッジロック機能を両立させることが可能になる。
【0044】
以上説明した実施形態によれば、ポンプ50の駆動・停止は搬送ローラ2の逆転・正転の切替えから所定時間遅れて行われ、ロック手段20の作動・非作動は搬送ローラの逆転・正転の切替えと同時に行われ、搬送ローラの駆動方向切替え時に、ロック手段の作動・非作動の切替えに必要な時間だけ搬送ローラの駆動を行ってもポンプに駆動が伝達されないように、駆動伝達にタイミング差を設ける構成とするので、キャリッジロック機構を設ける場合でも、簡単な構成で、インク吸引動作終了時にキャップ内に負圧を保持したまま記録ヘッドからキャップを離間させることができ、インク吸引動作後に吐出口面やキャップ内に残存するインクの量を低減させることができ、記録品位を確保するとともに機内へのインク溢れを低減することができる。
【0045】
なお、以上の本実施形態では、2個の記録ヘッドを2個のキャップでキャッピングする場合を例に挙げて説明したが、本発明は、記録ヘッドの数やキャップの数には関係無く広く適用することができ、同様の作用効果を奏するものである。また、本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して記録するインクジェット記録装置であれば、発熱素子等の電気熱変換体を用いる記録ヘッド、ピエゾ素子等の電気機械変換体を用いる記録ヘッドなど、記録ヘッドの作動方式に関わらず、同様に適用可能なものであり、同様の作用効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用したインクジェット記録装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の回復機構部に記録機構部が位置しないときの状態を示す斜視図である。
【図3】記録機構部が回復機構部のキャッピング位置にあってロック手段が退避しているときの状態を示す斜視図である。
【図4】記録機構部が回復機構部のキャッピング位置にあってロック手段が係止しているときの状態を示す斜視図である。
【図5】図1のインクジェット記録装置の回復機構部を斜め上方から見た斜視図である。
【図6】回復機構部のキャップに接続されたポンプを背部から見た外観斜視図である。
【図7】図6のポンプの中央部縦断面図である。
【図8】図7中の2個のローラホルダの組立体(ホルダユニット)を示す斜視図である。
【図9】図7中の線9−9に沿って見た横断面図である。
【図10】図7中の線10−10に沿って見た横断面図である。
【図11】本発明を適用したインクジェット記録装置におけるインク吸引用のポンプを駆動するための駆動伝達機構をポンプとともに示す部分斜視図である。
【図12】本発明を適用したインクジェット記録装置におけるインク吸引用のポンプを駆動するための駆動伝達機構を示す部分斜視図である。
【図13】図6のポンプを駆動伝達機構との連結側から見た斜視図である。
【図14】図13のポンプのホルダストッパを外した状態を示す斜視図である。
【図15】図13のポンプの駆動伝達機構との連結部を示す部分正面図である。
【図16】本発明を適用したインクジェット記録装置における回復機構部の吸引回復動作をキャリッジロック動作とともに示すフローチャートである。
【図17】本発明を適用したインクジェット記録装置におけるキャリッジロック動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1 シャーシ
2 搬送ローラ
3 出力ギア
4 アイドラギア
5 駆動ギア
5a 係合突起部
6 キャリッジ
7 レバー部材(ロックレバー)
7a ロック部(先端部)
7b テーパ面(先端部側面)
8(8A、8B) 記録ヘッド
9 摩擦ばね
10 スライダ
10a 突き当て部
10b 突出部
11、12 キャップ
13、14 チューブ
19 ベース部
19a スライダカム
20 ロック手段(キャリッジロック)
30 駆動伝達機構
40 ポンプベース
41 ホルダストッパ
42、43 ローラホルダ
42a 係合溝部
42b、42c、43b、43c 摺動面
42d、43d 押圧面
44 ローラ
44a 軸部
50 ポンプ(吸引ポンプ)
61 ピンチローラ
62 排紙ローラ
63 キャリッジベルト
101 給紙部
102 搬送部
103 記録機構部(走査ユニット)
104 回復機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して被記録材に記録を行う記録ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジと、前記キャリッジの移動方向と交差する方向に被記録材を搬送するための搬送ローラと、記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップと、前記キャップの内部に吸引力を発生させるためのポンプと、前記搬送ローラの駆動を前記ポンプに伝達するための駆動伝達機構と、前記キャップで前記吐出口を覆うことが可能なキャッピング位置に前記キャリッジを係止するためのロック手段と、を備えたインクジェット記録装置において、
前記ポンプの駆動・停止は前記搬送ローラの逆転・正転の切替えから所定時間遅れて行われ、
前記ロック手段の作動・非作動は前記搬送ローラの逆転・正転の切替えと同時に行われ、
前記搬送ローラの駆動方向切替え時に、前記ロック手段の作動・非作動の切替えに必要な時間だけ該搬送ローラの駆動を行っても前記ポンプに駆動が伝達されないように、駆動伝達にタイミング差を設けることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記キャップは、所定範囲内で前記キャリッジの移動に追従して移動可能なスライダに搭載されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記駆動伝達機構はギア列によって構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記駆動伝達機構と前記ポンプとの連結部に駆動伝達を遅らせるための遊びが設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記ロック手段は、前記駆動伝達機構内で所定値以下の外力トルクでは回動しないように保持されたレバー部材からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録ヘッドがキャッピングされた状態で前記ポンプを駆動して該記録ヘッドの吐出口からインクを吸引する吸引動作を行った後、前記キャップの内部に負圧を維持したまま、前記ロック手段を作動状態から非作動状態に切替えることで前記キャリッジを前記回復機構部から離間させて前記キャップを前記記録ヘッドから離間させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記係止手段により前記キャリッジを前記キャッピング位置に係止する際に、前記キャップの内部を大気開放状態にしたまま該キャリッジを係止することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記キャリッジを前記キャッピング位置に係止する前に、前記搬送ローラを正転方向に所定量だけ駆動して前記キャップの内部を大気開放状態にすることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記ロック手段が作動状態にあるときに前記キャリッジが前記キャップに近づく方向へ進入してくるとき、該キャリッジの移動のみで該ロック手段を非作動状態に切替え可能であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2006−315267(P2006−315267A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139418(P2005−139418)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】