説明

インクジェット記録装置

【課題】 インクジェットプリントヘッド内に充填された物流インクを、非常に多量の記録インクを消費せずヘッドキャリブレーションに影響が無い状態に記録インクに置換することが可能な、インクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】 本発明のインクジェット記録装置はインクジェットプリントヘッド内に充填された物流インクを記録インクで置換した後、インクジェットプリントヘッド内のインクPH値を測定するPH測定機構と、測定したPH値が正常かを判断する判断手段と、判断された結果に基づき再置換を行う再置換制御を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、詳しくはPHセンサを用いて物流用に調合された物流インクが充填されたインクジェットプリントヘッドを、記録用の記録インクに置換する置換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料インク、染料インクのどちらか若しくは両方を搭載する記録ヘッドは物流時において、記録ヘッドのインクをノズルに供給する液室にインクが充填されていると、インクの乾燥等で顔料インク・染料インクが増粘および固着してしまい、インクジェットプリントヘッド装着時の初期印字で回復しない現象や画質の著しい低下が起こる。
【0003】
この現象を解決するために、インクジェットプリントヘッドの液室内に充填する物流インクの成分は顔料及び染料を取り除いたもので、ヘッド保存に適したインク組成となっている。このインクによって従来発生していた増粘・固着を防止している。
【0004】
そして着荷時にはクリーニング機構により、物流インクとインクカートリッジから供給されるインクとを置換するインク置換シーケンスがイニシャル動作として実施されている。またその後さらに置換レベルを高める為、強制吐出処理なども行われている。
【特許文献1】特開2003−341097
【特許文献2】特開2002−283590
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では小液滴実現のための吐出口径の縮小、色空間再現領域拡大のためのインク色の増加などが進み、クリーニング時の流抵抗の増加、流路構造の複雑化により、インクジェットプリントヘッド毎にインク置換のためのインク使用量がばらつく可能性がある。このような状態でインク置換された後のインクジェットプリントヘッドのノズル内に供給されたインクは、物流インク内に含まれる高粘度の蒸発防止剤などが多く残留し、吐出特性に影響を及ぼす場合があった。
【0006】
そのため、上述したインク置換のためのインク使用量ばらつきを考慮し、十分にマージンを持った条件でインク置換シーケンスを実施していく方法が考えられるが、この方法ではインク置換に非常に多量のインクを消費してしまう可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、上述した問題を解決する為に、インクジェットプリントヘッド内に充填された物流インクを、非常に多量の記録インクを消費せずヘッドキャリブレーションに影響が無い状態に記録インクに置換することが可能な、インクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録装置はインクジェットプリントヘッド内に充填された物流インクを記録インクで置換した後、インクジェットプリントヘッド内のインクPH値を測定するPH測定機構と、測定したPH値が正常かを判断する判断手段と、判断された結果に基づき再置換を行う再置換制御を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果は、上述したように、インクジェットプリントヘッド内に充填された物流インクを、非常に多量の記録インクを消費せずヘッドキャリブレーションに影響が無い状態に記録インクに置換することが可能になることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図2および図3にインクジェット記録方式を用いた記録装置(プリンタ)の概略構成を示す。図2において、装置本体1の外郭は、下ケース2、上ケース3、アクセスカバー4および記録紙排出トレー5を含む外装部材と、その外装部材内に収納されたシャーシ6(図3参照)とから構成される。
【0012】
次に、図3において、本実施形態における記録動作機構を説明する。記録媒体としての記録紙を装置本体内へ自動給送する自動給送機構7と、自動給送機構7から送出される記録紙を所定の記録位置へと導くとともに、記録位置から排出口8へと記録紙を導く搬送機構9と、記録位置に搬送された記録紙に記録を行う記録機構と、記録機構に対するクリーニング処理を行うクリーニング機構10とから構成されている。
【0013】
ここで、記録機構とは、キャリッジ軸11によって移動可能に支持されたキャリッジ12とキャリッジ12に着脱可能に搭載されるインクジェットプリントヘッド13(図4参照)からなる。
【0014】
インクジェットプリントヘッド13は、図4に示すようにインクを貯留するインクカートリッジ14と、このインクカートリッジ14から供給されるインクを吐出口から吐出させる吐出機構15とを有する。インクカートリッジ14は色別の独立タイプで、インクジェットプリントヘッド13に着脱自在に搭載するカートリッジ構成になっている(図5参照)。
【0015】
インクジェットプリントヘッドは、図6の分解斜視図に示すように、記録素子基盤16、第1のプレート17、電気配線基盤18、第2のプレート19、タンクホルダー20、流路形成部材21、フィルター22、シールゴム23から構成されている。
【0016】
インク経路について説明する。インクは、記録情報に基づき、インクカートリッジ14からタンクホルダー20および流路形成部材21で構成されるインク流路を通り、第1のプレート17内のインク流路を経由して、記録素子基盤16内の吐出口16aから吐出される。インクを吐出する際には、前記インク経路内を吐出口先端までインクが満たされた状態にする必要がある。
【0017】
次に図7において、インクジェットプリントヘッドの物流形態について説明する。吐出性能検査を合格したインクジェットプリントヘッドは物流のために、上述したインク流路内のインクを、顔料成分、染料成分が除かれ且つヘッドの保存に適した物流インクに置換し、専用の包装袋104で密封される。
【0018】
この包装袋104の中で保湿された状態で保存されたインクジェットプリントヘッドは、保存された状態を維持したまま物流行程を経てユーザーの元に届けられる。
【0019】
(実施形態1:吐出されたインクによるPH測定)
次に図1および図8において、本発明の実施例について説明する。図1は図10のクリーニング機構10を詳細にしたものである。クリーニング機構10は、負圧を発生しインクジェットプリントヘッド内のインクを吸引するためのポンプ110と、その際にインクジェットプリントヘッドと当接するキャップ109、吸引後のインクジェットプリントヘッドの吐出口面に付着したインクを取り除くワイパー108と、インクジェットプリントヘッドのメンテナンス時に吐出する予備吐出領域111と、その内部に設置されるPH測定センサ105によって構成されている。尚PH測定センサには一般的に用いられるガラス電極式のPHセンサを使用する。
【0020】
図8はインクジェット記録装置のイニシャル動作フロー図である。まずヘッド装着では、ユーザーが梱包袋104からインクジェットプリントヘッド13を取り出し、キャリッジ12へ装着する。次にインクカートリッジ14をインクジェットプリントヘッド13に装着する。次に特開2002-283590などで記載されている着荷時クリーニングフロー(図示しない)を実施し、インクジェットプリントヘッド13の流路内に充填されていた物流インクを、インクカートリッジ14の記録インクに置換する。
【0021】
しかしながら、吐出口径の縮小による流抵抗の増加や、色数が増えることによる流路形状の複雑化などで記録インクへの置換が完全に行えない場合があり、その場合吐出特性が変化してしまい、この後に実施するヘッドキャリブレーションが正常に行えなくなってしまう。
【0022】
上述した問題から、物流インクから記録インクへの置換が、ヘッドキャリブレーションを実施する際に問題ないレベルまで十分に行えているか検出する手段が必要となる。本発明では物流用インクと記録用インクのPH値の関係が 物流インク<記録インク であり、且つ物流インクのPH値が 物流インク≧7.0 であることに着目し、PHセンサを用いて置換レベルを検出することを特徴としている。
【0023】
図8において、本発明の実施例について引き続き説明をする。着荷時クリーニングが終了したインクジェットプリントヘッド13の置換レベルを検出するため、PH測定センサ105上にインクを吐出する。インクジェットプリントヘッド13が複数色のインクカートリッジを搭載する場合は、色毎に吐出し測定を行うことが好ましい。
【0024】
さらに、図9に示すようにインクカートリッジ14から吐出口までのインク流路幅より吐出ノズル列幅が広い構成となっているインクジェットプリントヘッドでは、インク置換を行った際吐出口端部16b付近のインクが滞留してしまい置換されにくいことが実験より明らかとなっている。このことから吐出口端部16bのインクのみをPH測定センサ105上に吐出させ測定することで、より精度の高い置換状態の測定が可能となる。
【0025】
次にPH測定センサ105上のインクPH値を測定し、予め測定された記録インク本来のPH基準値と比較し置換が十分に行われているか判断する。PH値は温度により値が変化するため測定環境温度、好ましくは測定インク温度を計測しPH測定センサで得た値を補正する。さらにPH基準値も記録インク色毎に多少違うため、複数の値を持つことが必要である。
【0026】
上記のPH判断手段により、インク置換が十分なレベルであると判断されれば、ヘッドキャリブレーションへと移行し、不十分と判断された時は再置換制御へ移行する。再置換制御ではPH判断手段時に算出したPH基準値とのずれ量に応じ、再置換の際のクリーニングレベルを、予め記憶しているテーブルから読み出す制御を行う。前記制御により再置換に使用する記録インクの量を極力抑えることが可能となる。
【0027】
上述したPH判断手段及び再置換制御を繰り返し行い、インクジェットプリントヘッド13が記録インクに十分置換されてからヘッドキャリブレーションへと移行する。しかしながら、まれではあるがインクカートリッジ製造時のパッケージ不良や、ユーザーが開封後長期放置したインクカートリッジなどが、インク置換時にインクジェットプリントヘッドに装着された場合、蒸発により増粘しPH値が変化したインクが充填されるため、いくら置換してもPH測定値はPH基準値に達しなくインクカートリッジが空になるまで再置換制御を繰り返すことになってしまう。
【0028】
上記問題を防ぐために、本実施例では再置換される回数をカウントするカウンターを設け、設定した回数以上再置換制御が繰り返された場合、インクカートリッジに異常があると判断して、イニシャル動作を強制終了しユーザーにインクカートリッジが異常であることをメッセージ等で知らせ、別の正常なインクカートリッジへの交換を促す。
【0029】
インクカートリッジが交換されたら、イニシャル動作の着荷時クリーニングフローから繰り返す。
【0030】
(実施形態2:クリーニング時のインクによるPH測定)
実施例1のように、吐出によりPH測定センサ上にインクを溜める時に、個々の吐出ノズルからの吐出量が小さい場合には、多くの吐出を行わなければならなく測定時間が長くなる可能性がある。
【0031】
そこで、本発明では図10(a)のようにキャップ内にPHセンサを設ける、あるいは図10(b)のようにキャップから廃液吸収体までのチューブ内にPHセンサを設け、クリーニング時にインクジェットプリントヘッドから吸引したインクを測定することを特徴とする。
【0032】
またインクジェットプリントヘッドが複数色のインクカートリッジを搭載する場合、図10(c)のようにキャップ109の内部を色毎に区切り、各々にPHセンサ105を設けることで、個別のPH測定が可能となる。
【0033】
図11は本発明のインクジェット記録装置イニシャル動作フロー図である。インクカートリッジ装着は実施例1と同じ作業を行う。次に着荷時クリーニングでは吸引したインクを図12(a)のようにキャップ109内に残留させ、PHセンサ105が測定可能な状態にする。
【0034】
次にPHセンサ上のインク114の測定を行う。測定方法及び補正方法は実施例1と同様である。測定が終了したらキャップ上でのインク固着を防ぐため、速やかにキャップ上のインク114を吸引し、図12(b)のような状態にする。
【0035】
その後の基準値比較、クリーニングレベル選択、再置換カウントなどは全て実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態1の詳細斜視図である。
【図2】本発明に好適なインクジェット記録装置の外観構成を示す斜視図である。
【図3】図2に示すインクジェット記録装置の外装部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明に好適なインクジェットプリントヘッドの外観を示す斜視図である。
【図5】図4のインクジェットプリントヘッドからインクカートリッジを脱した状態を示す斜視図である。
【図6】図4に示すインクジェットプリントヘッドの分解した状態を示す斜視図である。
【図7】本発明に好適なインクジェットプリントヘッドの梱包状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態1の一例を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態1のインクカートリッジから吐出口までのインク経路を模式的に示した断面図である。
【図10】本発明の実施形態2のクリーニング機構を模式的に示した断面図であり、(a)キャップ内にPHセンサ設置、(b)チューブ内にPHセンサ設置、(c)複数色対応を示したものである。
【図11】本発明の実施形態2の一例を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態2のキャップ内でPH測定を行う時の状態を示したものであり、上図がPH測定時、下図が測定後空吸引を行った状態を示すものである。
【符号の説明】
【0037】
1 本体
2 下ケース
3 上ケース
4 アクセスカバー
5 記録排紙トレー
6 シャーシ
7 自動搬送機構
8 排出口
9 搬送機構
10 クリーニング機構
11 キャリッジ軸
12 キャリッジ
13 インクジェットプリントヘッド
14 インクカートリッジ
15 吐出機構
16 記録素子基板
16a 吐出口
16b 吐出口端部
17 第一のプレート
18 電気配線基板
19 第2のプレート
20 タンクホルダー
21 流路形成部材
22 フィルター
23 シールゴム
104 梱包袋
105 PHセンサ
108 ワイパー
109 キャップ
110 ポンプ
111 予備吐吐出領域
112 廃液吸収体
113 チューブ
114 インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出するためのノズル及びインクを吐出するためのエネルギー素子が設けられたインクジェットプリントヘッドと、前記インクジェットプリントヘッドのクリ−ニング機構を備えるインクジェット記録装置において、前記インクジェットプリントヘッド内のインクのPH値を測定するPH測定機構を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
上記インクジェットプリントヘッドは、物流インクが充填されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
上記PH測定機構を用いて、インクジェットプリントヘッド内の物流インクを記録インクに置換した際に、その置換状態を判断する判断手段を有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
上記PH測定機構のセンサが、インクジェット記録装置のクリーニング機構に設けられている予備吐出口内に設置されることを特徴とした請求項1〜3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
上記PH測定機構のセンサが、インクジェット記録装置のクリーニング機構に設けられているキャップ内、若しくはキャップから廃液吸収体までのチューブに設置されることを特徴とした請求項1〜3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
上記PHセンサに吐出してインクを供給する場合、吐出ノズル列の端部のみで供給することを特徴とする請求項1〜5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
上記判断手段で判断した結果、置換不十分と判断された場合、再度クリーニング若しくは吐出により置換を行う再置換制御を有することを特徴とする請求項1〜5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
上記再置換制御は、クリーニング若しくは吐出による置換のレベルを、PH測定機構で測定された値に基づき、インクジェット記録装置内に予めセットされているテーブルを読み出して行う制御を有することを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
上記再置換制御は、カウンターを持ち、所定の再置換回数を越えてもインクジェットプリントヘッドのPH値が満足する値に達しない場合、ユーザーにインクカートリッジの交換を促すことを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
物流用インクと記録用インクのPH値の関係が 物流インク<記録インク であり、且つ物流インクのPH値が 物流インク≧7.0 であることを特徴とした請求項1に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−190813(P2007−190813A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11324(P2006−11324)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】