説明

インクジェット記録装置

【課題】他の圧力室の吐出状況に依存して不吐出ノズルの圧力室内を流れるインク循環量を低下させることがないインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】インクジェット記録装置において、液滴吐出素子と、吐出が行われる稼動ノズルを含む第1液滴吐出素子の圧力発生手段に対して吐出用駆動信号を生成し、吐出が行われない非稼動ノズルを含む第2液滴吐出素子の圧力発生手段に対してインク滴が吐出されない程度にメニスカスを振動させる非吐出用駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、複数の液滴吐出素子の各圧力室のインク循環量が所望量となるように、第2液滴吐出素子の圧力発生手段に供給される非吐出用駆動信号の供給条件を制御する駆動信号制御手段と、複数の液滴吐出素子の各圧力発生手段に駆動信号生成手段で生成された駆動信号を供給する駆動信号供給手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置に係り、特に、吐出ヘッドとインク貯蔵/装填部およびその周辺を含めたインク供給システムのインク循環に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の記録ヘッドにおいては、複数のノズルが設けられている。そして、印字開始後すぐに吐出を再開可能とするためなどの理由により、各ノズルには常にインクが満たされている。そこで、記録ヘッドの吐出動作時に吐出しているノズル(以下、稼動ノズルという)の他に存在する、吐出していないノズル(以下、非稼動ノズルという)においては、ノズルからインクの溶媒が蒸発している。このように、ノズルからインクの溶媒が蒸発すると、やがてインクが増粘し、吐出しようとする際に不吐出となったり、着弾位置ずれが発生したりする不良ノズルの発生に繋がる。
【0003】
そこで、ノズル近傍にインク循環路を設けて、ノズル内部のインクを循環させる技術が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特表2002−533247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、各ノズルのインク循環路は連通しており、稼動ノズルが存在すると、その影響によりインクが逆流して非稼動ノズルの循環量が低下する。そのため、不良ノズルの発生を防止することはできない。
【0005】
その他の問題として、インクをそのまま循環するだけでは、インク増粘を防止できない。また、インクを循環するに際し、インクの溶媒を追加したり、循環して回収したインクをそのまま処分すると、コストアップに繋がる。
【0006】
そこで、本発明では、他の圧力室のノズルの吐出状況に依存して圧力室内を流れるインク循環量を低下させることがないインクジェット記録装置を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために請求項1に係る発明は、インクジェット記録装置において、インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧力発生手段と、前記圧力室にインクを供給するための第1流路と、前記圧力室内のインクの一部を循環させるための第2流路を含んで構成される複数の液滴吐出素子と、インク吐出が行われる稼動ノズルを含む第1液滴吐出素子の圧力発生手段に対して吐出用駆動信号を生成するとともに、インク吐出が行われない非稼動ノズルを含む第2液滴吐出素子の圧力発生手段に対してノズルからインク滴が吐出されない程度にメニスカスを振動させる非吐出用駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、前記複数の液滴吐出素子の各圧力室のインク循環量が所望量となるように、前記複数の液滴吐出素子の各ノズルの吐出データに基づいて、前記第2液滴吐出素子の圧力発生手段に対して供給される前記非吐出用駆動信号の供給条件を制御する駆動信号制御手段と、前記駆動信号制御手段による制御に基づいて、前記複数の液滴吐出素子の各圧力発生手段に対して前記駆動信号生成手段で生成された駆動信号をそれぞれ供給する駆動信号供給手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、他の圧力室の吐出状況に依存して圧力室内を流れるインク循環量を低下させることがない。
【0009】
なお、インク循環量についての「所望量」とは、吐出速度や吐出量を安定化するために必要な最小限のインク循環量である。
【0010】
また、複数の液滴吐出素子の各ノズルの「吐出データ」としては、吐出回数、吐出量などがある。
【0011】
前記目的を達成するために請求項2に係る発明は、請求項1のインクジェット記録装置において、前記駆動信号生成手段は、前記第2液滴吐出素子の圧力室内のインクを前記第1流路から前記第2流路に向かう方向である順方向に循環させる循環用駆動信号を生成すること、を特徴とする。
【0012】
本発明によれば、より確実に、他の圧力室の吐出状況に依存することなく、圧力室内を流れるインク循環量を所望量に維持することができる。
【0013】
前記目的を達成するために請求項3に係る発明は、請求項2のインクジェット記録装置において、前記循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも長い第1信号波形を用いること、を特徴とする。
【0014】
本発明によれば、より確実に、インク室ユニットの圧力室内のインクをインク供給路からインク循環路に向かう方向である順方向に循環させることができる。
【0015】
前記目的を達成するために請求項4に係る発明は、請求項2のインクジェット記録装置において、前記循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも長い第1信号波形と、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間と前記立ち下がり波形の下降時間が等しい第2信号波形とを用いること、を特徴とする。
【0016】
本発明によれば、第1信号波形による循環用駆動信号を与える回数が少ない場合であっても、第2信号波形による循環用駆動信号を与える回数を制御することによってノズル付近のインクのメニスカスを揺らすことにより、ノズル付近において十分なインク攪拌効果を得ることができる。
【0017】
前記目的を達成するために請求項5に係る発明は、請求項2のインクジェット記録装置において、前記循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも長い第1信号波形と、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも短い第3信号波形とを用いること、を特徴とする。
【0018】
本発明によれば、圧力室内においてインクの循環がされないタイミングであっても、第1信号波形による循環用駆動信号を与える回数と第3信号波形による循環用駆動信号を与える回数を制御することにより、ノズル付近のインクのメニスカスを揺らすことができることから、ノズル付近において十分なインク攪拌効果を得ることができる。
【0019】
前記目的を達成するために請求項6に係る発明は、請求項2乃至5のいずれか1つのインクジェット記録装置において、前記第2液滴吐出素子における前記非稼動ノズル部分のインク増粘防止のために望ましいインク循環量をU0とし、前記第1液滴吐出素子における前記第1流路から前記圧力室へのリフィル量と前記第2流路から前記圧力室へのリフィル量の比をα1:α2とし、前記第1液滴吐出素子の前記稼動ノズルの単位時間あたりの吐出回数をN、吐出1回あたりの吐出量をVとし、U0>(α2×V×N)の条件を満たす前記第1液滴吐出素子の前記インク循環量の所望量をUとするときに、前記駆動信号制御手段は、U=(U0−α2×V×N)の条件を満たすように制御すること、を特徴とする。
【0020】
本発明によれば、稼動ノズルを含む第1液滴吐出素子において、インク循環量を減らすことができる。
【0021】
前記目的を達成するために請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれか1つに記載のインクジェット記録装置において、前記駆動信号制御手段は、前記液滴吐出素子を複数備えるヘッドの全体における前記インク循環量の総量よりも前記第2流路から前記圧力室への単位時間あたりのリフィル量の総量が多い時には、前記インク循環量の総量と前記リフィル量の総量が等しくなるように制御すること、を特徴とする。
【0022】
本発明によれば、インク循環路から圧力室へのリフィルの際に空気が侵入するおそれがない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、他の圧力室のノズルの吐出状況に依存して圧力室内を流れるインク循環量を低下させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0025】
〔インクジェット記録装置の説明〕
図1は、本発明のインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示すように、このインクジェット記録装置10は、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数のインクジェット記録ヘッド(以下、ヘッドという。)11K,11C,11M,11Yを有する印字部112と、各ヘッド11K,11C,11M,11Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、被記録媒体たる記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、前記印字部112のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送するベルト搬送部122と、印字部112による印字結果を読み取る印字検出部124と、記録済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126を備えている。
【0026】
なお、インク貯蔵/装填部114は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0027】
図1では、給紙部118の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0028】
給紙部118から送り出される記録紙116はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部120においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム130で記録紙116に熱を与える。
【0029】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)128が設けられており、該カッター128によってロール紙は所望のサイズにカットされる。
【0030】
デカール処理後、カットされた記録紙116は、ベルト搬送部122へと送られる。ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部112のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0031】
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部112のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによって記録紙116がベルト133上に吸着保持される。
【0032】
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータの動力が伝達されることにより、ベルト133は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図2の左から右へと搬送される。
【0033】
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
【0034】
ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部112の上流側には、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0035】
印字部112の各ヘッド11K,11C,11M,11Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録紙116の最大紙幅に対応する長さを有し、そのノズル面には最大サイズの被記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。
【0036】
ヘッド11K,11C,11M,11Yは、記録紙116の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド11K,11C,11M,11Yが記録紙116の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
【0037】
ベルト搬送部122により記録紙116を搬送しつつ各ヘッド11K,11C,11M,11Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録紙116上にカラー画像を形成し得る。
【0038】
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド11K,11C,11M,11Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録紙116と印字部112を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙116の全面に画像を記録することができる。
【0039】
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されない。
【0040】
図1に示した印字検出部124は、印字部112の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ又はエリアセンサ)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりや着弾位置誤差などの吐出特性をチェックする手段として機能する。
【0041】
本例の印字検出部124には、受光面に複数の受光素子(光電変換素子)が2次元配列されてなるCCDエリアセンサを好適に用いることができる。エリアセンサは、少なくとも各ヘッド11K,11C,11M,11Yによるインク吐出幅(画像記録幅)の全域を撮像できる撮像範囲を有しているものとする。
【0042】
また、エリアセンサに代えてラインセンサを用いることも可能である。この場合、ラインセンサは、少なくとも各ヘッド11K,11C,11M,11Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列(光電変換素子列)を有する構成が好ましい。各色のヘッド11K,11C,11M,11Yにより印字されたテストパターン又は実技画像が印字検出部124により読み取られ、各ヘッドの吐出判定が行われる。
【0043】
印字検出部124の後段には後乾燥部142が設けられている。後乾燥部142は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。
【0044】
後乾燥部142の後段には、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0045】
こうして生成されたプリント物は排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)148によってテスト印字の部分を切り離す。
【0046】
〔インク供給システムの説明〕
次に、ヘッドとインク貯蔵/装填部114、およびその周辺を含めたインク供給システムの説明をする。図3は、インク供給システムの概要図である。ヘッド11K,11C,11M,11Yについて共通した構成を有しているので、以後、これらを総称してヘッド11と表現する。
【0047】
図3に示すように、インク供給システムは、おおまかにヘッド11、第1インクタンク12、第2インクタンク13、廃棄用インクタンク14、ワイピング部材16、吸引キャップ部材17などから構成される。
【0048】
ヘッド11と第1インクタンク12、ヘッド11と第2インクタンク13は、共通流路としてそれぞれ第1共通流路18、第2共通流路19で繋がっている。
【0049】
第1インクタンク12には、大気開放弁21、インク充填用ポンプ22などが接続されている。第1インクタンク12は、圧力室29に供給するためのインクを貯留するものであり、インク充填用ポンプ22の作用により、インクは第1共通流路18を経由して圧力室29に供給される。大気開放弁21は第1インクタンク12内に大気を開放させたり、密閉させたりすることでタンク内の圧力を調整する。
【0050】
第2インクタンク13には、大気開放弁23が接続されている。第2インクタンク13は、圧力室29を循環したインクを回収するものであり、インクは第2共通流路19を経由して第2インクタンク13に供給される。大気開放弁23は、第2インクタンク13内に大気を開放させたり、密閉させたりすることでタンク内の圧力を調整する。
【0051】
第1共通流路18にはフィルタ24が、第2共通流路19には循環流路弁26が設けられている。循環流路弁26は、圧力室29から第2共通流路19を経由して第2インクタンク13に循環するインクの流量を調整するためのバルブである。
【0052】
廃棄用インクタンク14は、吸引キャップ部材17と吸引ポンプ27を介して接続されており、ヘッド11のノズル面の下に設けられたワイピング部材16とともにワイピング機構を構成している。
【0053】
吸引キャップ部材17及びワイピング部材16を含むワイピング機構は、不図示の移動機構によってヘッド11に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から記録ヘッド11下方のメンテナンス位置に移動される。
【0054】
吸引キャップ部材17は、図示せぬ昇降機構によってヘッド11に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時に吸引キャップ部材17を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド11に密着させることにより、ノズル面を吸引キャップ部材17で覆う。
【0055】
印字中又は待機中において、特定のノズル28(図5参照)の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、アクチュエータが動作してもノズル28からインクを吐出できなくなってしまう。
【0056】
このような状態になる前に(アクチュエータの動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)アクチュエータを動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべく吸引キャップ部材17(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
【0057】
また、ヘッド11内のインクに気泡が混入した場合、アクチュエータが動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合にはヘッド11に吸引キャップ部材17を当て、吸引ポンプ27で圧力室内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを廃棄用インクタンク14へ送液する。
【0058】
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
【0059】
ワイピング部材16は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構(ワイパー)によりヘッド11のインク吐出面に摺動可能である。インク吐出面にインク液滴又は異物が付着した場合、ワイピング部材16をインク吐出面に摺動させることでインク吐出面を拭き取り、清浄する。なお、該ブレード機構によりインク吐出面の汚れを清掃した際に、該ブレードによってノズル28内に異物が混入することを防止するために予備吐出が行われる。
【0060】
〔制御系の説明〕
図4は、インクジェット記録装置10のシステム構成を示すブロック図である。同図に示したように、インクジェット記録装置10は、通信インターフェース170、システムコントローラ172(駆動信号制御手段)、画像メモリ174、ROM175、モータドライバ176、ヒータドライバ178、プリント制御部180(駆動信号生成手段)、画像バッファメモリ182、ヘッドドライバ184(駆動信号供給手段)、ポンプドライバ190等を備えている。
【0061】
通信インターフェース170は、ホストコンピュータ186から送られてくる画像データを受信する画像入力手段として機能するインターフェース部(画像入力部)である。通信インターフェース170にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。
【0062】
ホストコンピュータ186から送出された画像データは通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ174に記憶される。画像メモリ174は、通信インターフェース170を介して入力された画像を格納する記憶手段であり、システムコントローラ172を通じてデータの読み書きが行われる。
【0063】
システムコントローラ172は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置110の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。
【0064】
すなわち、システムコントローラ172は、通信インターフェース170、画像メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178、ポンプドライバ190等の各部を制御し、ホストコンピュータ186との間の通信制御、画像メモリ174及びROM175の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ188やヒータ189やインク充填用ポンプ22を制御する制御信号を生成する。
【0065】
本発明においては後述するように、システムコントローラ172は、複数のインク室ユニット31(液滴吐出素子)(図5参照)の各圧力室29(図5参照)のインク循環量が所望量となるように、複数のインク室ユニット31の各ノズル28の吐出データ(例えば、吐出回数や吐出量など)に基づいて、インク吐出が行われていないノズル28を含むインク室ユニット31のアクチュエータ機構34(圧力発生手段)(図5参照)に対して供給される信号を制御する。
【0066】
ROM175には、システムコントローラ172のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データ(着弾位置誤差等の測定用テストパターンのデータを含む)などが格納されている。
【0067】
画像メモリ174は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0068】
モータドライバ176は、システムコントローラ172からの指示に従って搬送系のモータ188を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ178は、システムコントローラ172からの指示に従って後乾燥部142等のヒータ189を駆動するドライバである。ポンプドライバ190は、システムコントローラ172からの指示に従ってインク充填用ポンプ22を駆動するドライバである。
【0069】
プリント制御部180は、システムコントローラ172の制御に従い、画像メモリ174内の画像データ(多値の入力画像のデータ) から打滴制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理手段として機能するとともに、生成したインク吐出データをヘッドドライバ184に供給してヘッド11の吐出駆動を制御する駆動制御手段として機能する。
【0070】
本発明においては後述するように、プリント制御部180は、稼動ノズル28を含むインク室ユニット31のアクチュエータ機構34に対して吐出用駆動信号を生成するとともに、インク吐出が行われないノズル28を含むインク室ユニット31のアクチュエータ機構34に対してノズル28からインク滴が吐出されない程度にメニスカスを振動させる非吐出用駆動信号を生成する。
【0071】
プリント制御部180には画像バッファメモリ182が備えられており、プリント制御部180における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ182に一時的に格納される。なお、図5において画像バッファメモリ182はプリント制御部180に付随する態様で示されているが、画像メモリ174と兼用することも可能である。また、プリント制御部180とシステムコントローラ172とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0072】
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース170を介して外部から入力され、画像メモリ174に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの多値の画像データが画像メモリ174に記憶される。
【0073】
すなわち、プリント制御部180は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部180で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ182に蓄えられる。この色別ドットデータは、ヘッド11のノズルからインクを吐出するためのCMYK打滴データに変換され、印字されるインク吐出データが確定する。
【0074】
ヘッドドライバ184は、プリント制御部180から与えられるインク吐出データ及び駆動波形の信号に基づき、印字内容に応じてヘッド11の各ノズル28に対応するアクチュエータ158を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ184にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0075】
こうして、ヘッドドライバ184から出力された駆動信号がヘッド11に加えられることによって、該当するノズル28からインクが吐出される。記録紙116の搬送速度に同期してヘッド11からのインク吐出を制御することにより、記録紙116上に画像が形成される。
【0076】
上記のように、プリント制御部180における所要の信号処理を経て生成されたインク吐出データ及び駆動信号波形に基づき、ヘッドドライバ184を介して各ノズルからのインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0077】
印字検出部124は、イメージセンサを含むブロックであり、記録紙116に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつき、光学濃度など)を検出し、その検出結果をプリント制御部180及びシステムコントローラ172に提供する。
【0078】
〔ヘッドの説明〕
次に、ヘッド11の構造について説明する。なお、色別の各ヘッド11K,11C,11M,11Yの構造は共通している。
【0079】
図5(a) はヘッド11の構造例を示す平面透視図であり、図5(b) はその一部の拡大図である。また、図5(c) はヘッド11の他の構造例を示す平面透視図、図6は1つの液滴吐出素子(1つのノズル28に対応したインク室ユニット31)の立体的構成を示す断面図(図5(a) 中の6−6線に沿う断面図)である。
【0080】
記録紙116上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド11におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド11は、図5(a),(b) に示したように、インク吐出口であるノズル28と、各ノズル28に対応する圧力室29等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)31を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0081】
記録紙116の送り方向と略直交する方向に記録紙116の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図5(a) の構成に代えて、図5(c)に示すように、複数のノズル28が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール11’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙116の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
【0082】
各ノズル28に対応して設けられている圧力室29は、その平面形状が概略正方形となっており(図5(a),(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル28への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)であるインク供給路32(第1流路)が設けられている。なお、圧力室29の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0083】
図5に示したように、各圧力室29はインク供給路32を介して第1共通流路18と連通されている。第1共通流路18はインク供給源たる第1インクタンク12(図3参照)と連通しており、第1インクタンク12から供給されるインクは第1共通流路18、各インク供給路32を介して各圧力室29に分配供給される。
【0084】
また、各圧力室29はノズル28の近傍でインク循環路33(第2流路)を介して第2共通流路19とも連通されている。そして、非稼動ノズル28を含むインク室ユニット31においては、アクチュエータ機構34(圧力発生手段)により圧力室29やノズル28のインクに対し、ノズル28からインクが吐出しない程度の圧力を与え、ノズル28付近のインクのメニスカスを揺らすこと(以下、メニスカス揺らしという)により、インクをインク供給路32から圧力室29、インク循環路33へと循環させることができる。
【0085】
圧力室29の一部の面(図6において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)156には個別電極157を備えたアクチュエータ158が接合されている。個別電極157と共通電極間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ158が変形して圧力室29の容積が変化し、これに伴う圧力変化の度合いによりノズル28からインクを吐出させたり、ノズル28からインクを吐出させない時にはノズル28付近のインクのメニスカスを揺らしたり、圧力室29からインク循環路33にインクを循環させたりすることができる。
【0086】
上述した構造を有するインク室ユニット31を図7に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0087】
すなわち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット31を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル28が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
【0088】
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
【0089】
特に、図7に示すようなマトリクス状に配置されたノズル28を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル28-11 、28-12 、28-13 、28-14 、28-15 、28-16 を1つのブロックとし(他にはノズル28-21 、…、28-26 を1つのブロック、ノズル28-31 、…、28-36 を1つのブロック、…として)、記録紙116の搬送速度に応じてノズル28-11 、28-12 、…、28-16 を順次駆動することで記録紙116の幅方向に1ラインを印字する。
【0090】
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
【0091】
そして、上述の主走査によって記録される1ライン(或いは帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向といい、上述の副走査を行う方向を副走査方向という。すなわち、本実施形態では、記録紙116の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
【0092】
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ158の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
【0093】
次に、図8は、ヘッド11内の構成を模式的に表した図である。図8に示すように、ヘッド11内は、インク室ユニット31−1,2,3(液滴吐出素子)、第1共通流路18、第2共通流路19が設けられている。図8では説明の便宜上、3つのインク室ユニット31−1,2,3について示しているが、実際には多数のインク室ユニット31−1,2,3…が設けられている。
【0094】
インク室ユニット31−1,2,3は、インクを吐出するためのノズル28−1,2,3と、ノズル28−1,2,3に連通する圧力室29−1,2,3と、圧力室29−1,2,3内のインクに圧力を作用させるアクチュエータ機構34−1,2,3(圧力発生手段)と、圧力室29−1,2,3にインクを供給するためのインク供給路32−1,2,3(第1流路)と、圧力室29−1,2,3からインクを排出または圧力室29−1,2,3へ供給するためのインク循環路33−1,2,3(第2流路)と、を備えている。
【0095】
そして、アクチュエータ機構34−1,2,3の駆動は、後述するシステムコントローラ172によりプリント制御部180、ヘッドドライバ184(図5参照)を介して制御される。また、アクチュエータ機構34−1,2,3は、加圧板156、アクチュエータ158、個別電極157(図6参照)から構成される。
【0096】
また、第1共通流路18はインク供給路32−1,2,3に接続し、かつヘッド11外で第1インクタンク12に接続している。第2共通流路19はインク循環路33−1,2,3に接続し、かつヘッド11外で第2インクタンク13に接続している。
【0097】
なお、第2インクタンク13は、稼動ノズル28を含むインク室ユニット31に対してはインク供給源としても機能し、第2共通流路19と連通しており、第2インクタンク13から供給されるインクは、第2共通流路19、各インク循環路33を介して各圧力室29に分配供給される。
【0098】
〔インク循環の説明〕
前記のような構成のもと、本発明のインクジェット記録装置10におけるインク供給システム内のインク循環について説明する。インク供給システムには、実際には多数のインク室ユニット31が設けられているが、以降、模式的に3つのインク室ユニット31−1,2,3が設けられているとして説明する。
【0099】
図8は、全てのインク室ユニット31−1,2,3からインクが吐出していない時のヘッド11内のおよび第1インクタンク12と第2インクタンク13の様子を示す図である。一方、図9は、中央のインク室ユニット31−2からインクが吐出している時のヘッド11内のおよび第1インクタンク12と第2インクタンク13の様子を示す図である。
【0100】
図8に示すように、第1インクタンク12と第2インクタンク13の間の圧力差により、第1インクタンク12から第1共通流路18を経由してヘッド11内へインクを供給している。そして、ヘッド11内へ供給されたインクは、各インク供給路32−1,2,3を経由して各圧力室29−1,2,3内へ供給される。そして、各圧力室29−1,2,3内に供給されたインクは各インク循環路33−1,2,3、第2共通流路19を経由して、第2インクタンク13に回収される。
【0101】
このように、第1インクタンク12と第2インクタンク13の間でインクを循環させることにより、圧力室29−1,2,3内およびノズル28−1,2,3内のインクを停滞させることがないので、ノズル28−1,2,3からインクが吐出していなくてもノズル28−1,2,3付近のインクについて溶媒が蒸発してインクが増粘するおそれがなくなる。
【0102】
しかし、図9に示すように、例えば、稼動ノズルを含む中央のインク室ユニット31−2からインクが吐出する時には、第2インクタンク13から第2共通流路19、インク循環路33−2を経由して圧力室29−2にインクが流れ込む。そのため、両側にある非稼動ノズルを含むインク室ユニット31−1,3の圧力室29−1,3内でインクが停滞したり逆流したりする。そして、単位時間(例えば、1秒間)のインク循環量が低下する。
【0103】
そこで、本発明では、複数の駆動信号波形の中から選択的に非稼動ノズル28−1,3に対応するアクチュエータ機構34−1,3に対して印加することにより、非稼動ノズル28−1,3からインクが吐出しない程度の圧力を与え、非稼動ノズル28−1,3付近のインクのメニスカスを揺らすこと(以下、メニスカス揺らし、という)を行ってインクを任意の方向に流し、非稼動ノズル28−1,3を含むインク室ユニット31−1,3のインク循環量の低下を防止する。
【0104】
具体的には、(インク供給路32−1,2,3の流路抵抗/インク循環路33−1,2,3の流路抵抗) > (インク供給路32−1,2,3のイナータンス/インク循環路33−1,2,3のイナータンス)とする。詳細には、一例として、以下のような寸法でインク供給路32−1,2,3やインク循環路33−1,2,3を設計すればよい。インク供給路32−1,2,3を幅60μm、高さ10μm、長さ100μmとし、インク循環路33−1,2,3を幅30μm、高さ30μm、長さ100μmとする。
【0105】
この結果、インク供給路32−1,2,3の流路抵抗は2.23×1014Ns/m、イナータンスは1.66×10 kg/mとなる。また、インク循環路33−1,2,3の流路抵抗は3.51×1013Ns/m、イナータンスは1.11×10kg/mとなる。
【0106】
すると、(インク供給路32−1,2,3の流路抵抗/インク循環路33−1,2,3の流路抵抗)=6.35、(インク供給路32−1,2,3のイナータンス/インク循環路33−1,2,3のイナータンス)=1.50となる。
【0107】
なお、液体粘度μ=0.010Pa・s、液体密度ρ=998kg/mとした。
【0108】
また、流路抵抗Rの計算式は、以下の式で表すことができる。
【0109】
【数1】

【0110】
ここで、kは以下の式で表される。
【0111】
【数2】

【0112】
なお、εは流路断面アスペクト比(<1)、μはインク粘度、lは流路長さ、Sは流路断面長さで{2×(高さ+幅)}であり、Aは流路断面積で{(高さ)×(幅)}である。
【0113】
また、イナータンスは、以下の式で表される。
【0114】
【数3】

【0115】
なお、κ=1.4(定数)、ρは液体密度である。
【0116】
インク供給路32−1,2,3の作成方法は特に問わないが、たとえばSUS上に流路を作るならウェットエッチングを用いればよいし、Si基板上に流路を作るならドライエッチングを用いてもよい。また、機械加工により流路を作成することも可能である。
【0117】
そして、圧力室29−1,3内をインクがインク供給路32−1,3側からインク循環路33−1,3側に流れるように、アクチュエータ機構34−1,3に与えるメニスカス揺らし用の電圧信号(非吐出用駆動信号)の波形の電圧値の立ち上がり時間と立ち下がり時間を調整して、インク室ユニット31−1,3内のインクを任意の方向に流す。
【0118】
より具体的には、アクチュエータ機構34−1,3に、図10に示すような電圧信号の波形の電圧値の立ち上がり時間と立ち下がり時間が異なる3種類の電圧信号波形を使い分けて電圧信号を与えることにより、インク室ユニット31−1,3内のインクを任意の方向に流すことができる。図10は、(a)〜(c)にメニスカス揺らし用の3つの電圧信号波形を、(d)に吐出用の電圧信号波形を対比して示している。
【0119】
図10(a)〜(c)に示すように、メニスカス揺らし用の3つの電圧信号波形は、いずれも単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表される。そして、立ち上がり時間(立ち上がり波形の上昇時間)と立ち下がり時間(立ち下がり波形の下降時間)を調整することで、3つの電圧信号波形を実現する。
【0120】
図10(a)の波形Aによれば、圧力室29−1,3内をインクがインク供給路32−1,3側からインク循環路33−1,3側(順方向)に流れるように、電圧値の立ち上がり時間(押しの時間)を長く(一例として20μs)、電圧値の立ち下がり時間(引きの時間)を短く(一例として1μs)する。また、一例として電圧は3〜10V程度とする。
【0121】
図10(b)の波形Bによれば、インクは圧力室29−1,3内で停滞するように、電圧値の立ち上がり時間(押しの時間)と電圧値の立ち下がり時間(引きの時間)を等しく(一例として10μs)する。また、一例として電圧は3〜10V程度とする。
【0122】
図10(c)の波形Cによれば、圧力室29−1,3内をインクがインク循環路33−1,3側からインク供給路32−1,3側に流れるように、電圧値の立ち上がり時間(押しの時間)を短く(一例として1μs)、電圧値の立ち下がり時間(引きの時間)を長く(一例として20μs)する。また、一例として電圧は3〜10V程度とする。
【0123】
なお、これに対し、図10(d)の吐出用の電圧信号波形によれば、稼動ノズル28−2からインクが吐出するように、一例として、電圧を−20V程度とする。また、電圧値のキープ時間を長く(一例として10μs)、電圧値の立ち上がり時間(押しの時間)と電圧値の立ち下がり時間(引きの時間)を短く(一例として5μs)する。
【0124】
そして、アクチュエータ機構34−1,3に図10に示すような3つの電圧信号波形のうち、図10(a)の波形Aの電圧信号のみを、または、図10(a)の波形Aの電圧信号と図10(b)の波形Bの電圧信号を組み合わせて、あるいは、図10(a)の波形Aの電圧信号と図10(c)の波形Cの電圧信号を組み合わせて印加することにより、インクを任意の方向に流すことができる。
【0125】
そこで、本発明では、第1インクタンク12と第2インクタンク13の間の圧力差によるインク循環量に加え、メニスカス揺らしを利用してインクを任意の方向に流すことによりインク循環量を補完しようとするものである。
【0126】
以下、本発明のインク循環に関し、実施形態ごとに説明する。
【0127】
〔第1実施形態〕
<基本例>
図11は、本発明の第1実施形態の基本例の作用を表すフローチャートを示す図である。まず、図5に示す制御手段におけるホストコンピュータ186から送出された画像データを、通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置内の画像メモリ174に入力する(ステップS11−1)。
【0128】
次に、画像メモリ174に入力された画像データをもとに、システムコントローラ172(駆動信号制御手段)にて、インク循環量を所望量とするためのメニスカス揺らしの回数を算出する。
【0129】
具体的には、まず、単位時間(1秒間)ごとの各インク室ユニット31−1,2,3の吐出回数(吐出データ)を算出する(ステップS11−2)。
【0130】
次に、ステップS11−2で算出した吐出回数を考慮して、各インク室ユニット31−1,2,3の単位時間(1秒間)あたりのインク循環量(単位:pl/s)を算出する(ステップS11−3)。
【0131】
ここで、ステップS11−2で算出した吐出回数を考慮するのは、例えば、単位時間(1秒間)内に吐出する稼動ノズル28−2を含む中央のインク室ユニット31−2(第1液滴吐出素子)からの吐出による影響で圧力室29−1,3内でインクが停滞したり逆流したりし、単位時間(1秒間)あたりのインク循環量が変化するからである。
【0132】
次に、各インク室ユニット31−1,2,3について、ステップS11−3で算出した単位時間(1秒間)あたりのインク循環量として所望量を満たしているか否か、を判定する(ステップS11−4)。本実施例では、所望値を1000pl/sとする。ここで「所定量」とは、吐出速度や吐出量を安定化するために必要な最小限のインク循環量である。これは、ノズル28−1,2,3と第2共通流路19との間の距離や、インクの種類や、外部環境などによって決まる量である。
【0133】
次に、各インク室ユニット31−1,2,3について、算出した単位時間(1秒間)あたりのインク循環量が所望値(1000pl/s)を満たしていない場合には、単位時間(1秒間)あたりのインク循環量が所望値(1000pl/s)を満たすために必要とされる、単位時間(1秒間)あたりのメニスカス揺らしの回数(アクチュエータ機構34の振動数)を算出する(ステップS11−5)。
【0134】
なお、第1実施形態の基本例では、アクチュエータ機構34−1,2,3に印加する電圧信号(メニスカス揺らし用信号)として、図10(a)に示す1種類の波形Aの電圧信号を使用する。
【0135】
次に、全てのインク室ユニット31−1,2,3について、算出した単位時間(1秒間)あたりのインク循環量が所望値(1000pl/s)を満たすことができた場合には、ポンプドライバ190を介してインク充填用ポンプ22を駆動し、第1インクタンク12と第2インクタンク13の間の圧力差を発生させることによりインク循環を開始する(ステップS11−6)。
【0136】
その後、システムコントローラ172にて算出した吐出タイミングのデータやメニスカス揺らしの回数のデータをもとに、プリント制御部180(駆動信号生成手段)における所要の信号処理を経て生成されたインク吐出データ及び駆動信号波形に基づき、ヘッドドライバ184(駆動信号供給手段)を介して各ノズル28からのインク液滴の吐出量や吐出タイミング、インク循環の制御を行い、画像形成を開始する(ステップS11−7)。
【0137】
以上のような作用により、図9のように単位時間(1秒間)内に中央のインク室ユニット31−2からインクが吐出する場合であっても、非稼動ノズル28−1,3を含むインク室ユニット31−1,3(第2液滴吐出素子)において、当該単位時間(当該1秒間)内のインク循環量が所望値(1000pl/s)を満たすことができる。
【0138】
また、図8のように単位時間(1秒間)内に全てのインク室ユニット31−1,2,3からインクが吐出しない場合であっても、第1インクタンク12と第2インクタンク13の間の圧力差によるだけではインク循環量が所望量に達しない場合であっても、メニスカス揺らしにより補完をして、全てのインク室ユニット31−1,2,3において、当該単位時間(当該1秒間)内のインク循環量が所望値(1000pl/s)を満たすことができる。
【0139】
<変形例>
図12は、本発明の第1実施形態の変形例の作用を表すフローチャートを示す図である。図12に示すように、基本例と異なるのは、ステップS12−5で、算出した単位時間(1秒間)内のインク循環量が所望値(1000pl/s)を満たさないと算出されたインク室ユニット31−1,2,3については、単位時間(1秒間)内のインク循環量について所望値(1000pl/s)を満たすために、図10(a)と(b)に示す2種類の波形Aと波形Bの電圧信号を使用して、単位時間(1秒間)内の各々の波形による電圧信号を印加する必要な回数を算出する点である。
【0140】
これにより、波形Aの電圧信号を印加する回数が少ない場合であっても、波形Bの電圧信号を印加する回数を制御することによってノズル28−1,2,3付近のインクのメニスカスを揺らすことにより、ノズル28−1,2,3付近において十分なインク攪拌効果を得ることができる。
【0141】
また、図10(a)と(c)に示す2種類の波形Aと波形Cの電圧信号を使用してもよい。この場合、単位時間内において圧力室29−1,2,3内においてインクの循環がされないタイミングにおいても、波形Aの電圧信号を印加する回数と波形Cの電圧信号を印加する回数を制御することにより、ノズル28−1,2,3付近のインクのメニスカスを揺らすことができることから、ノズル28−1,2,3付近において十分なインク攪拌効果を得ることができる。
【0142】
なお、システムコントローラ172,プリント制御部180,ヘッドドライバ184により、ヘッド11全体におけるインク循環量の総量よりもヘッド11全体におけるインク循環路33−1,2,3から圧力室29−1,2,3への単位時間あたりのリフィル量の総量が多い時には、インク循環量の総量とリフィル量の総量が等しくなるように制御すれば、インク循環路33−1,2,3に接続する第2インクタンク13内のインク量を維持することができることから、インク循環路33−1,2,3から圧力室29−1,2,3へのリフィルの際に空気が侵入するおそれがない。
【0143】
また、システムコントローラ172,プリント制御部180,ヘッドドライバ184により、圧力室29−1,2,3内からインクを吐出する時間前であって、圧力室29−1,2,3内にインクを循環させなくてもノズル28−1,2,3付近のインクの増粘が吐出に影響を与えない時間前に、圧力室29−1,2,3内にインクを循環させないように、メニスカス揺らし用信号を制御すれば、インクの循環によりインクの吐出方向が影響を受けない。
【0144】
その他の作用は、基本例と共通する。
【0145】
以上のような第1実施形態により以下のような効果が得られる。
(1)インクジェット記録装置10において、ノズル28−1,2,3と、ノズル28−1,2,3に連通する圧力室29−1,2,3と、圧力室29−1,2,3内のインクに圧力変化を与えるアクチュエータ機構34−1,2,3と、圧力室29−1,2,3にインクを供給するためのインク供給路32−1,2,3と、圧力室29−1,2,3内のインクの一部を循環させるためのインク循環路33−1,2,3を含んで構成される複数のインク室ユニット31−1,2,3と、インク吐出が行われる稼動ノズル28−2を含むインク室ユニット31−2のアクチュエータ機構34−2に対して吐出用駆動信号(図7の(d)の波形で表される信号)を生成するとともに、インク吐出が行われない非稼動ノズル28−1,3を含むインク室ユニット31−1,3のアクチュエータ機構34−1,3に対して非稼動ノズル28−1,3からインク滴が吐出されない程度にメニスカスを振動させる非吐出用駆動信号を生成するプリント制御部180と、複数のインク室ユニット31−1,2,3の各圧力室29−1,2,3のインク循環量が所望量となるように、複数のインク室ユニット31−1,2,3の各ノズル28−1,2,3の吐出データに基づいて、インク室ユニット31−1,3のアクチュエータ機構34−1,3に対して供給される非吐出用駆動信号の供給条件を制御するシステムコントローラ172と、システムコントローラ172による制御に基づいて、複数のインク室ユニット31−1,2,3の各34−1,2,3に対してプリント制御部180で生成された駆動信号をそれぞれ供給するヘッドドライバ184と、を備えるので、他の圧力室29−2の吐出状況に依存することなく、圧力室29−1,3内を流れるインク循環量を所望量に維持することができる。
【0146】
(2)また、プリント制御部180は、インク室ユニット31−1,3の圧力室29−1,3内のインクをインク供給路32−1,3からインク循環路33−1,3に向かう方向である順方向に循環させる循環用駆動信号を生成するので、より確実に、他の圧力室29−2の吐出状況に依存することなく、圧力室29−1,3内を流れるインク循環量を所望量に維持することができる。
【0147】
(3)また、循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、立ち上がり時間(立ち上がり波形の上昇時間)のほうが立ち上がり時間(立ち下がり波形の下降時間)よりも長い波形Aを用いるので、より確実に、インク室ユニット31−1,3の圧力室29−1,3内のインクをインク供給路32−1,3からインク循環路33−1,3に向かう方向である順方向に循環させることができる。
【0148】
(4)また、循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、立ち上がり時間(立ち上がり波形の上昇時間)のほうが立ち下がり時間(立ち下がり波形の下降時間)よりも長い波形Aと、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、立ち上がり時間(立ち上がり波形の上昇時間)と立ち下がり時間(立ち下がり波形の下降時間)が等しい波形Bとを用いるので、波形Aによる循環用駆動信号を与える回数が少ない場合であっても、波形Bによる循環用駆動信号を与える回数を制御することによって非稼動ノズル28−1,3付近のインクのメニスカスを揺らすことにより、非稼動ノズル28−1,3付近において十分なインク攪拌効果を得ることができる。
【0149】
(5)循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、立ち上がり時間(立ち上がり波形の上昇時間)のほうが立ち下がり時間(立ち下がり波形の下降時間)よりも長い波形Aと、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、立ち上がり時間(立ち上がり波形の上昇時間)のほうが立ち下がり時間(立ち下がり波形の下降時間)よりも短い波形Cとを用いるので、圧力室29−1,3内においてインクの循環がされないタイミングであっても、波形Aによる循環用駆動信号を与える回数と波形Cによる循環用駆動信号を与える回数を制御することにより、非稼動ノズル28−1,3付近のインクのメニスカスを揺らすことができることから、非稼動ノズル28−1,3付近において十分なインク攪拌効果を得ることができる。
【0150】
(6)また、システムコントローラ172は、インク室ユニット31を複数備えるヘッド11の全体におけるインク循環量よりもインク循環路33−2から圧力室29−2への単位時間あたりのリフィル量が多い時には、インク循環量とリフィル量が等しくなるように制御するので、インク循環路33−2から圧力室29−2へのリフィルの際に空気が侵入するおそれがない。
【0151】
〔第2実施形態〕
図13は、本発明の第2実施形態の作用を表すフローチャートを示す図である。まず、図8に示す制御手段におけるホストコンピュータ186から送出された画像データを、通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置内の画像メモリ174に入力する(ステップS13−1)。
【0152】
次に、画像メモリ174に入力された画像データをもとに、システムコントローラ172にて、所定のインク循環量を実現するためのメニスカス揺らしの回数を算出する。
【0153】
具体的には、まず、単位時間(1秒間)ごとの各インク室ユニット31−1,2,3の吐出タイミングを算出する(ステップS13−2)。
【0154】
次に、第1実施形態と異なる点として、単位時間(1秒間)内の吐出量がインクの増粘問題を解決できる基準値以下であるインク室ユニット31−2において、無駄なインク循環量を減らす観点から、望ましいインク循環量を算出する(ステップS13−3)。
【0155】
インクの吐出量が十分に多い場合には、ノズル28−2部分の増粘したインクを外部に排出することができるため、インクの増粘は問題にならない。この場合を、単位時間(1秒間)内の吐出量がインクの増粘問題を解決できる基準値を超えている、とする。
【0156】
一方、1秒間に数回吐出する程度でインクの吐出量が少ない場合には、ノズル28−2部分の増粘したインクを十分に外部に排出することができず、インク増粘は問題として残ってしまう。この場合を、単位時間(1秒間)内の吐出量がインクの増粘問題を解決できる基準値以下、とする。
【0157】
ここで、ノズル28−1,2,3を含むインク室ユニット31−1,2,3において、インク増粘防止のために望ましい単位時間あたりのインク循環量をU0とする。これは、1秒あたり、U0だけ増粘したインクをヘッド外部に排出すれば、インク増粘の問題が解決することを意味している。
【0158】
そこで、1秒あたり、U0だけ増粘したインクをヘッド外に排出するための条件式を以下に計算する。稼動ノズル28−2を含むインク室ユニット31−2において、インク供給路32−2から圧力室29−2へのリフィル量と、インク循環路33−2から圧力室29−2へのリフィル量の比をα1:α2(α1+α2=1)とし、稼動ノズル28−2を含むインク室ユニット31−2における単位時間(1秒間)あたりの吐出回数をN、吐出1回あたりの吐出量をVとする。
【0159】
このとき、インク循環路33−2側(増粘したインクが存在する側)からリフィルされてくるインク量は、α2×V×Nである。このインク量がU0を超えていれば、その圧力室はインクを循環する必要がない。反対に、α2×V×NがU0よりも少ない場合は、その圧力室はインクを循環する必要がある。
【0160】
そのため、以下のような基準式を満たすインク室ユニット31−2について、インクを循環させる必要がある。
【0161】
[数4]
U0>(α2×V×N)
そして、数4の式を満たすインク室ユニット31−2に対して、必要なインク循環量Uは、以下の数式で表すことができる。
【0162】
[数5]
U=(U0−α2×V×N)
ここで、数4と数5の式を使い具体的に計算する。
【0163】
U0=1000pl/s、α1:α2=0.7:0.3、V=5pl/回、N=20回/sとする。すると、α2×V×N=30pl/sとなり、数4の式を満たす。そのため、この場合インク室ユニット31−2は、単位時間(1秒間)内の吐出量がインクの増粘問題を解決できる基準値以下であるため、インクを吐出させる以外に循環させる必要がある。
【0164】
そこで、数5の式より、必要なインク循環量U=(U0−α2×V×N)=970pl/sとなる。すなわち、インク室ユニット31−2ではインク吐出を行っているので、必要なインク循環量をインク吐出量分の30 pl/sだけ減らすことができ、余計なインク循環量を減らせる。
【0165】
次に、各ユニットの吐出タイミングから、各インク室ユニット31−1,2,3の単位時間(1秒間)ごとのインク循環量(単位:pl/s)を算出する(ステップS13−4)。なお、ステップS13−4の段階では、各圧力室29−1,2,3の吐出と、インクタンク12とインクタンク13間に圧力がかかっているだけの状態で計算している。メニスカス揺らしによる流れは考慮していない。
【0166】
次に、ステップS13−4で計算したインク循環量が、各インク室ユニット31−1,2,3についてステップS13−3で算出した単位時間(1秒間)あたりに求められるインク循環量を、所望値を満たしているか否か、を判定する(ステップS13−5)。
【0167】
本実施例では、前記のように、所望値を、インク室ユニット31−1,3については1000pl/sとし、インク室ユニット31−2においては970pl/sとする。ここで「所定量」とは、吐出速度や吐出量を安定化するために必要な最小限のインク循環量である。
【0168】
次に、各インク室ユニット31−1,2,3について、算出した単位時間(1秒間)あたりのインク循環量が所望値(970pl/sまたは1000pl/s)を満たしていない場合には、図10(a)と(c)に示す2種類の波形Aの電圧信号と波形Cの電圧信号を使用して、単位時間(1秒間)内のインク循環量が所望値(970pl/sまたは1000pl/s)を満たすために必要とされる、単位時間(1秒間)あたりのメニスカス揺らしの回数(アクチュエータ機構34の振動数)を算出する(ステップS13−6)。
【0169】
ここで、具体例として、稼動ノズル28−2を含むインク室ユニット31−2において、単位時間(1秒間)あたりのメニスカス揺らしの回数(アクチュエータ機構34の振動数)を求めてみる。
【0170】
インクタンク12とインクタンク13の間の圧力差によるインクの循環量が500pl/sであるとすると、メニスカス揺らしにより残りの470pl/sを補完すればよい。そこで、図10(a)の波形Aの電圧信号を1回印加すると0.5plのインクが圧力室29−2内をインク供給路32−2側からインク循環路33−2側に流れ、図10(c)の波形Cの電圧信号を1回印加すると0.5plのインクが圧力室29−2内をインク循環路33−2側からインク供給路32−2側に流れるという前提で考える。そして、図10(a)の波形Aの電圧信号を印加する回数をa、図10(c)の波形Cの電圧信号を印加する回数をcとして、以下の数式による連立方程式を考える。
【0171】
[数6]
470=(0.5×a−0.5×c)
10000=a + c
これを解くと、a =5470回、c=4530回、となる。そのため、単位時間(1秒間)内に図10(a)の波形Aの電圧信号を5470回、図10(c)の波形Cの電圧信号を4530回印加すればよいことになる。
【0172】
以上により、稼動ノズル28−2を含むインク室ユニット31−2においては、単位時間(1秒間)当たりのインク循環量として、非稼動ノズル28−1,3を含むインク室ユニット31−1,3におけるインク循環量よりも少なくすることができる。そのため、稼動ノズル28−2を含むインク室ユニット31−2を循環して第2インクタンク13に回収されるインクの無駄をなくして、インク循環量を減少させることができる。
【0173】
次に、全てのインク室ユニット31−1,2,3について、算出した単位時間(1秒間)あたりのインク循環量が所望値(970pl/sまたは1000pl/s)を満たすことができた場合には、ポンプドライバ190を介してインク充填用ポンプ22を駆動して、第1インクタンク12と第2インクタンク13の間の圧力差を発生させることによりインク循環を開始する(ステップS13−7)。
【0174】
その後、システムコントローラ172にて算出した吐出タイミングのデータやメニスカス揺らしの回数のデータをもとに、プリント制御部180における所要の信号処理を経て生成されたインク吐出データ及び駆動信号波形に基づき、ヘッドドライバ184を介して各ノズル28−1,2,3からのインク液滴の吐出量や吐出タイミング、インク循環の制御を行い、画像形成を開始する(ステップS13−8)。
【0175】
ここでは、考えやすいように、インク室ユニット31−1,3について単位時間内に吐出しないとした。しかし、上記より明らかなように、インク室ユニット31−1,3が単位時間内に吐出している場合にも、インク室ユニット31−1,3について同様に、インク室ユニット31−2で説明した内容を適用できる。そのため、インク室ユニット31−1,3が単位時間内に吐出している場合においても、インクの吐出量がインク増粘問題を解決できないような少量の場合には、上記で説明したように計算して、余計なインク循環量を減らすことが望ましい。
【0176】
なお、システムコントローラ172,プリント制御部180,ヘッドドライバ184により、ヘッド11全体におけるインク循環量よりもヘッド11全体におけるインク循環路33−2から圧力室29−2への単位時間あたりのリフィル量の総量が多い時には、インク循環量とリフィル量が等しくなるように制御することにより、インク循環路33−2に接続する第2インクタンク13内のインク量を維持することができることから、インク循環路33−2から圧力室29−2へのリフィルの際に空気が侵入するおそれがない。
【0177】
また、システムコントローラ172,プリント制御部180,ヘッドドライバ184により、圧力室29−1,2,3内からインクを吐出する時間前であって、圧力室29−1,2,3内にインクを循環させなくてもノズル28−1,2,3付近のインクの増粘が吐出に影響を与えない時間前に、圧力室29−1,2,3内にインクを循環させないように、メニスカス揺らし用信号を制御すれば、インクの循環によりインクの吐出方向が影響を受けない。
【0178】
以上のような第2実施形態は、前記の第1実施形態における効果に加えて以下の効果が得られる。
【0179】
インクジェット記録装置10において、インク室ユニット31−1,3における非稼動ノズル28−1,3部分のインク増粘防止のために望ましいインク循環量をU0とし、インク室ユニット31−2におけるインク供給路32−2から圧力室29−2へのリフィル量とインク循環路33−2から圧力室29−2へのリフィル量の比をα1:α2とし、インク室ユニット31−2の稼動ノズル28−2の単位時間あたりの吐出回数をN、吐出1回あたりの吐出量をVとし、U0>(α2×V×N)の条件を満たすインク室ユニット31−2のインク循環量の所望量をUとするときに、システムコントローラ172は、U=(U0−α2×V×N)の条件を満たすように制御するので、稼動ノズル28−2を含むインク室ユニット31−2において、インク循環量を減らすことができる。
【0180】
以上、本発明のインクジェット記録装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の全体構成図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図である。
【図3】本発明のインクジェット記録装置内のインク供給システムの概要図である。
【図4】インクジェット記録装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図5(a)】記録ヘッドの構造例を示す平面透視図である。
【図5(b)】図5(a)の一部の拡大図である。
【図5(c)】記録ヘッドの他の構造例を示す平面透視図である。
【図6】1つの液滴吐出素子の立体的構成を示す断面図(図5(a) 中の6−6線に沿う断面図)である。
【図7】図5(a) に示した記録ヘッドのノズル配列を示す拡大図である。
【図8】ヘッド内の構成を模式的に表した図である。(全てのインク室ユニットが吐出していない時)
【図9】ヘッド内の構成を模式的に表した図である。(中央のインク室ユニットからインクが吐出している時)
【図10】吐出用の電圧信号波形とメニスカス揺らし用の3つの電圧信号波形を対比して示す図である。
【図11】第1実施形態の基本例の作用を表すフローチャートを示す図である。
【図12】第1実施形態の変形例の作用を表すフローチャートを示す図である。
【図13】第2実施形態の作用を表すフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0182】
10…インクジェット記録装置、11…ヘッド、12…第1インクタンク、13…第2インクタンク、18…第1共通流路、19…第2共通流路、28…ノズル、29…圧力室、31…インク室ユニット、32…インク供給路、33…インク循環路、34…アクチュエータ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧力発生手段と、前記圧力室にインクを供給するための第1流路と、前記圧力室内のインクの一部を循環させるための第2流路を含んで構成される複数の液滴吐出素子と、
インク吐出が行われる稼動ノズルを含む第1液滴吐出素子の圧力発生手段に対して吐出用駆動信号を生成するとともに、インク吐出が行われない非稼動ノズルを含む第2液滴吐出素子の圧力発生手段に対してノズルからインク滴が吐出されない程度にメニスカスを振動させる非吐出用駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記複数の液滴吐出素子の各圧力室のインク循環量が所望量となるように、前記複数の液滴吐出素子の各ノズルの吐出データに基づいて、前記第2液滴吐出素子の圧力発生手段に対して供給される前記非吐出用駆動信号の供給条件を制御する駆動信号制御手段と、
前記駆動信号制御手段による制御に基づいて、前記複数の液滴吐出素子の各圧力発生手段に対して前記駆動信号生成手段で生成された駆動信号をそれぞれ供給する駆動信号供給手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1のインクジェット記録装置において、
前記駆動信号生成手段は、前記第2液滴吐出素子の圧力室内のインクを前記第1流路から前記第2流路に向かう方向である順方向に循環させる循環用駆動信号を生成すること、
を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2のインクジェット記録装置において、
前記循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも長い第1信号波形を用いること、
を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項2のインクジェット記録装置において、
前記循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも長い第1信号波形と、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間と前記立ち下がり波形の下降時間が等しい第2信号波形とを用いること、
を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項2のインクジェット記録装置において、
前記循環用駆動信号の信号波形として、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも長い第1信号波形と、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで上昇する立ち上がり波形の後、単位時間当たりの信号値の変化量が一定の傾きで下降する立ち下がり波形で表されるものであって、前記立ち上がり波形の上昇時間のほうが前記立ち下がり波形の下降時間よりも短い第3信号波形とを用いること、
を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1つのインクジェット記録装置において、
前記第2液滴吐出素子における前記非稼動ノズル部分のインク増粘防止のために望ましいインク循環量をU0とし、
前記第1液滴吐出素子における前記第1流路から前記圧力室へのリフィル量と前記第2流路から前記圧力室へのリフィル量の比をα1:α2とし、
前記第1液滴吐出素子の前記稼動ノズルの単位時間あたりの吐出回数をN、吐出1回あたりの吐出量をVとし、
U0>(α2×V×N)の条件を満たす前記第1液滴吐出素子の前記インク循環量の所望量をUとするときに、
前記駆動信号制御手段は、U=(U0−α2×V×N)の条件を満たすように、制御すること、
を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載のインクジェット記録装置において、
前記駆動信号制御手段は、前記液滴吐出素子を複数備えるヘッドの全体における前記インク循環量の総量よりも前記第2流路から前記圧力室への単位時間あたりのリフィル量の総量が多い時には、前記インク循環量の総量と前記リフィル量の総量が等しくなるように制御すること、
を特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−254199(P2008−254199A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95511(P2007−95511)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】