説明

インクジェット記録装置

【課題】 同じ能力の吸引ポンプ及び同じ大きさの流路を使用する場合でも、より強い負圧を吐出口に作用させることで安定した吐出回復性能を維持できるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 吐出口70、71からインクを吐出して記録を行う記録ヘッド7と、記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップ61と、吐出口に負圧を作用させるための吸引手段60と、吸引手段とキャップを内部空間で接続する流路615、616と、を備え、キャップ及び流路の内部空間にインクを導入した後に、吸引手段により吐出口に負圧を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の記録装置は、画像情報に基づいて記録ヘッドにより被記録材に画像を記録するように構成されている。記録装置には、種々の記録方式のものがあり、そのうちのインクジェット記録装置は、画像情報に基づいて記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行う構成となっている。また、走査方式には、被記録材の搬送方向と交差する方向の主走査と搬送方向の副走査を交互に繰り返すシリアルタイプと、副走査のみで記録を行うラインタイプなどがある。また、被記録材としては、紙、布、プラスチックシート、写真調印画紙、OHPシートなどのシート材が使用される。
【0003】
インクジェット記録装置で使用される記録ヘッドは、インクタンクからインク吐出部へインクを供給し、インク吐出を行う度にインクが順次供給されてくる。このような記録装置には、記録ヘッドのインク吐出性能を維持するための回復操作を行う吐出回復部が設けられている。回復操作には、吐出口内の増粘インクや気泡等をインクとともに吸引してインクをリフレッシュする吸引回復や、吐出口近傍に付着したインクやほこり等を拭き取り除去するワイピングなどがある。吸引回復は、吐出口をキャップで密閉した状態で、キャップに接続された吸引ポンプにより吐出口に負圧を作用させて行われる。また、ワイピングは、弾性材のブレードで吐出面を拭き取り清掃する動作で行われる。また、吐出口から記録以外のインクを吐出する予備吐出や、予備吐出したインクを吸引する空吸引なども行われている。
【特許文献1】特開2006−57477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の吐出回復部では次のような課題があった。先ず、吐出口を覆うキャップは、記録ヘッドに形成される吐出口の配置範囲が広がるほど大型になる。これに伴い、キャップ内の空間から吸引ポンプに至るまでの初期の空間容積が増大する。その結果、ボイルの法則(PV=一定)により、同じ能力の吸引ポンプを使用すると、吐出口に作用する負圧が小さくなってしまう。一方、画質の高精細化のため、吐出されるインク滴の微小化に伴い吐出口の径も小さくなっている。このため、吐出口から所定量のインクを吸引するために必要な負圧も大きくなる傾向にある。また、記録速度の向上に伴い吐出口数が増加しており、キャップが大型化して初期の空間容積が増大する傾向にある。
【0005】
従って、十分な回復操作を行うためには、従来より負圧発生能力の高い吸引ポンプが必要であり、例えば単位時間あたりの流量が大きな吸引ポンプが必要である。しかしながら、単位時間あたりの流量を増大させるために吸引ポンプを大型化すると、記録装置の大型化につながってしまう。また、駆動負荷も大きくなり、必要電力が増大したり、コストアップを招くなどの不都合もある。さらに、操作速度を高めて対応しようとすると、駆動源の大型化や耐久性の低下、あるいは騒音の増大につながるという不都合がある。
【0006】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、同じ能力のポンプ及び同じ大きさの流路を使用する場合でも、高い負圧を吐出口に作用させることで安定した吐出回復性能を維持できるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット記録装置は、記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップと、前記吐出口に負圧を作用させるためのポンプと、前記ポンプと前記キャップとを連通するポンプチューブと、を備え、前記キャップ又は前記ポンプチューブにインクを導入した後に、前記ポンプにより前記吐出口に負圧を作用させてインクを吸引することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、同じ能力のポンプ及び同じ大きさの流路を使用する場合でも、高い負圧を吐出口に作用させることで安定した吐出回復性能を維持できるインクジェット記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応部分を示すものである。
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るインクジェット記録装置を右前方から見た斜視図である。図2はインクジェット記録装置を左前方から見た斜視図である。図3はインクジェット記録装置の縦断面図である。図1〜図3において、記録装置は、給送部2、搬送部3、キャリッジ部5、排紙部4、Uターン搬送部8、吐出回復部6及び記録ヘッド7などを備えている。
【0010】
A.給送部
給送部2は、シート状の被記録材を積載する圧板21、被記録材を給送する給送ローラ28、被記録材を分離する分離ローラ241、等がベース20に取り付けて構成される。また、給送部は、積載された被記録材を保持するためにベース20又は外装に取り付けられる給送トレイを有する。給送ローラ28は断面円弧の棒状をしている。被記録材の幅方向位置決めとなる基準面寄りの位置に1つの給送ローラゴムが設けられており、これによって被記録材をピックアップして給送する。給送ローラ28の駆動は、吐出回復部6と共用のDCモータ69の駆動力をギア列を介して伝達することで行われる。圧板21には、被記録材の積載位置を規制するための可動サイドガイド23が移動可能に装着されている。圧板21は、ベース20に回転可能に軸支され、圧板バネ212により給送ローラ28に付勢されている。
【0011】
給送ローラ28と対向する圧板21の部位には、ピックアップされる被記録材の重送を防止するための摩擦係数の大きい分離シート213が設けられている。圧板21は、不図示の圧板カムにより給送ローラ28に対し当接、離間する。ベース20には、分離ローラホルダ24が回転可能に軸支されている。分離ローラホルダ24には、被記録材を1枚ずつ分離するための分離ローラ241が軸支されている。分離ローラ241は、不図示のバネにより給送ローラ28に付勢されている。分離ローラ241はクラッチバネを介して取り付けられており、所定以上の負荷がかかると回転できる構成になっている。また、分離ローラ241は給送ローラ28に当接、離間可能である。圧板21や分離ローラ241等の位置はASFセンサ29によって検知される。
【0012】
B.搬送部
搬送部3は、曲げ起こした板金からなるシャーシ11に取り付けられており、被記録材を搬送する搬送ローラ36とPEセンサ32とを備えている。搬送ローラ36は金属軸の表面にセラミックの微小粒をコーティングしたものであり、その両端の金属軸部分で軸受38を介してシャーシ11に軸支されている。搬送ローラ36には、被記録材に搬送力を付与するための複数のピンチローラ37が従動回転可能に押圧されている。ピンチローラ37は、ピンチローラホルダ30に保持され、バネ31の付勢力により搬送ローラ36に押圧されることで搬送力を生み出している。ピンチローラホルダ30は、その回転軸をシャーシ11の軸受で軸支することで、回転可能に取り付けられている。搬送ローラ36の軸にはプーリ361が設けられている。搬送ローラ36の駆動は、DCモータからなる搬送モータ35の回転力を、タイミングベルト351を介してプーリ361に伝達して行われる。
【0013】
搬送ローラ36の軸上には、搬送ローラ36による搬送量を検出するための150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードホイール362が設けられている。シャーシ11のコードホイール362と隣接する位置には、コードホイール362を読み取るためのエンコーダセンサ363が配されている。
【0014】
搬送ローラ36の被記録材搬送方向における下流側には、画像情報に基づいて画像を形成する記録ヘッド7が設けられている。記録ヘッド7は、被記録材の搬送方向と交差する方向に往復移動可能なキャリッジ50に搭載されている。記録ヘッド7には、異なるインクを貯留した複数の交換可能なインクタンクが装着されている。また、記録ヘッド7のフェイス面には、複数の吐出口が配列され、各吐出口の内部にはヒータ(電気熱変換体)が配されている。ヒータにより吐出口内のインクを加熱し、その熱によりインクを膜沸騰させ、膜沸騰による気泡の成長又は収縮による圧力変化を利用して吐出口からインク滴を吐出するように構成されている。画像情報に基づいて複数の吐出口から選択的に吐出されるインク滴を被記録材に着弾させることで画像が形成される。
【0015】
C.キャリッジ部
キャリッジ部5は、記録ヘッド7を搭載して主走査するキャリッジ50を備えており、記録ヘッド7及びプラテン34などとともに画像形成部を構成している。キャリッジ50は、ガイドシャフト52及びガイドレール111に沿って往復移動可能に案内支持されている。ガイドシャフト52はその両端部をシャーシ11に取り付けられている。ガイドレール111はキャリッジ50の背部を摺動可能に保持するとともに記録ヘッド7と被記録材との間に所定の隙間を維持するものであり、シャーシ11と一体に形成されている。キャリッジ50は、キャリッジモータ54により、タイミングベルト541を介して駆動される。タイミングベルト541は、弾性支持されたアイドルプーリ542によって所定の張力を付与されている。タイミングベルト541と平行にキャリッジ50の位置を検知するためのコードストリップ561が設けられている。コードストリップ561には150〜300lpiのピッチでマーキングが形成されており、キャリッジ50上にこのコードストリップ561を読み取るためのエンコーダセンサが搭載されている。
【0016】
キャリッジ50と装置本体側の電気基板との間には、記録ヘッド7にヘッド信号を伝えるためのフレキシブル基板57が接続されている。被記録材に画像を記録するときは、搬送ローラ36の回転により被記録材を搬送するとともに、キャリッジモータ54によりキャリッジ50を移動させ、キャリッジ50の移動に同期して記録ヘッド7から被記録材へインクを吐出することにより画像を記録する。
【0017】
D.排紙部
排紙部4は、2本の排紙ローラ40、41と、各排紙ローラ40、41に押圧されて従動回転する複数の拍車42とを備えている。排紙ローラ40、41はプラテン34に取り付けられている。排紙ローラ40は、搬送ローラ36の回転をギア列等で伝達することにより同期駆動される。排紙ローラ41は、排紙ローラ40の回転をアイドルギアを介して伝達することで駆動される。拍車42は、周囲に凸形状を設けたSUS等の薄い金属板を樹脂部と一体成型した構造を有し、拍車ホルダ43に取り付けられている。拍車42は、棒状のコイルバネからなる拍車バネを回転軸とすることによって、拍車ホルダ43への取り付けと排紙ローラ40、41への押圧を実現している。キャリッジ部5で画像形成された被記録材は、排紙ローラ41と拍車42とのニップに挟持されて搬送され、装置本体外へ排出される。
【0018】
E.記録ヘッド
図6は記録ヘッド7を吐出面(吐出口が形成されたフェイス面)側から見た図である。記録ヘッド7の吐出面712には、顔料インクであるブラックインクを吐出する吐出口列70と、染料インクであるイエロー、マゼンタ及びシアンのインクを吐出する3列の吐出口列71とが配されている。
【0019】
F.吐出回復部
吐出回復部6は、記録ヘッド7のインク吐出部をクリーニングすることにより吐出性能の維持回復するための回復処理を行う。吐出回復部6には、記録ヘッド7の吐出口を覆うためのキャップ61、キャップ61に接続された負圧発生手段としてのポンプ60、記録ヘッドの吐出面を拭き取り清掃するためのワイパー62などが設けられている。キャップ61は、記録ヘッド7の乾燥を抑制するために塩素化ブチルゴム等で形成されている。キャップ61は、顔料インクであるブラックインクを吐出する吐出口列を覆う区画と、染料インクであるカラーインクを吐出する吐出口列とを覆うための区画との2区画に仕切られている。キャップ61の各区画内には、多孔質材からなるインク吸収体611及び612が装填されている。このインク吸収体は、キャップ内に残留するインクを漏れなく効率良く保持するためのものである。キャップ61の各区画はポンプチューブ615、616を介してポンプ60に接続されている。つまり、ポンプチューブ615、616は、負圧発生手段であるポンプ60とキャップ61とを連通している。こうして、ポンプチューブ615、616のそれぞれは、ポンプ60とキャップ61の各区画とを内部空間で接続する流路を構成している。ポンプチューブ615、616は、ガスバリア性の高いエラストマで形成され、その内径は例えば1mm程度である。
【0020】
また、キャップ61の各区画には、大気と連通可能なバルブチューブ617、618が接続されており、各バルブチューブ617、618には開閉可能な大気連通弁669、670が接続されている。バルブチューブ617、618も、ポンプチューブ615、616と同様の材質で形成されている。大気連通弁669、670はバルブカム652により個別に開閉駆動される。バルブカム652は、排紙ローラ41の逆回転のときだけ、ワンウエイクラッチを介して回転駆動される。ワイパー62は、ポリエーテルウレタンの板状部材(ブレード)で形成されている。ポンプ60は、ポンプチューブをコロでしごくことにより、該チューブ内に負圧を発生するチューブポンプで構成されている。ポンプ60は、図5に示すように、ブラックインクを吸引排出するためのポンプチューブ615とカラーインクを吸引排出するためのポンプチューブ616を有する。ポンプチューブ615、616は、例えばシリコンゴム製の内径3mmで厚さ1mmのチューブで形成されている。これらのポンプチューブ615、616を後述のポンプコロ209でしごくことで負圧を発生させる。ポンプチューブ615とポンプチューブ616は、それぞれ個別に負圧を発生できるように構成されている。
【0021】
図7は回復ユニットのポンプチューブを押しつぶしたときの断面図である。図8はポンプチューブを開放したときの断面図である。なお、図8では、図7中のコロホイール203及び圧縮バネ208が省略されている。本実施形態に係るチューブポンプ60は2系統のポンプチューブを備えているが、それらの動作はタイミングを除いて同じであるので、以下では一方のみを図示して説明する。本実施形態では、各ポンプチューブのポンプ動作の位相は、駆動負荷を1回転中で分散させるためにほぼ180度ずらしてある。
【0022】
図7及び図8において、コロホイール203はモータ69の駆動により回転する。コロホイール203には、ボス204を中心として回転可能なコロホルダ205が軸支されている。コロホイール203とコロホルダ205との間には圧縮バネ208が介在されている。コロホルダ205には、コロ209の軸部をガイドすることにより、コロ209を半径方向に移動させるとともに半径方向の位置を規制するためのカム部211が形成されている。カム部211の一端部211aは、コロ209がポンプチューブ615(616)を押圧し、該ポンプチューブの内径を密着させて負圧を発生させる密着位置である。カム部211の他端部211bは、ポンプチューブ615(616)の内径を密着させない開放位置である。
【0023】
モータ69の駆動によりコロホイール203が図示時計方向に回転すると、コロホイール203の駆動面によりポンプコロ209がカム部211に沿って図8に示す開放位置211bまで移動させられる。つまり、コロ209が図7の密着位置から図8の開放位置へ移動する。こうしてポンプチューブの密着を開放することで、ポンプチューブに接続されたキャップ61の内部は大気連通状態になる。以後、コロホイール203が図示時計方向に回転しても、ポンプチューブは開放されたままである。
【0024】
モータ69の駆動によりコロホイール203が図示反時計方向に回転すると、コロホイール203の反対側の当接面によりポンプコロ209がカム部211に沿って図7に示す密着位置211aまで移動させられる。つまり、コロ209が図8のチューブ開放位置から図7の密着位置へ移動する。こうしてポンプチューブの内径を密着させた状態で、コロホイール203をさらに図示反時計方向へ回転させてポンプチューブ615(616)をしごくことでポンプチューブに負圧を発生させることができる。
【0025】
本実施形態では、ポンプチューブ615、616は、ポンプベース207の円筒状内面に沿って360度以上の角度で螺旋状に這い回されている。つまり、図示反時計方向に回転する際に、コロ209はポンプベース207内の円周方向の一部領域で同一のポンプチューブを2ヶ所で同時に押しつぶすことが可能になる。こうして、記録ヘッド7にキャップ61を密着させてポンプ60を動作させることにより、記録ヘッド7の目詰まり等の吐出不良を解消するためのインク吸引が行われる。ポンプ60で吸引されたインクは、装置本体の下部に設けられた廃インクタンク内に回収される。この廃インクタンクの内部にはインク吸収体が装填されている。
【0026】
次に、本実施形態に係る吐出回復部6の駆動機構について説明する。モータ69の駆動はギア列及びワンウエイクラッチにより吐出回復部6へ伝達される。モータ69の一方向の駆動で、ポンプ60を負圧発生方向に回転させる。モータ69のもう一方の回転で、ポンプ60を開放方向(押しつぶし解除方向)に回転させるとともに吐出回復部6のメインカム63を回転させる。メインカム63は、ワイパー62のワイピング動作や、キャップ61の昇降動作を所定のタイミングで行うように構成されている。本実施形態では、コロホイール203とメインカム63の減速比は1:1となっている。吐出回復部6におけるワイパー62のワイピング動作やキャップ61の昇降動作などの一連の動作は、メインカム63の同軸上に設けられた複数のカムにより制御される。これら複数のカム及びアームがメインカム63により作動されることで、所定の回復動作が行われる。メインカム63の回転位置は、フォトインタラプタ等の位置検出センサ64で検出することができる。
【0027】
キャップ61が下降(離間)したときに、ワイパー62がキャリッジ50の移動方向と交差する方向に移動することで、記録ヘッド7の吐出面に付着したインクや紙粉等の異物を除去する。ワイパー62としては、記録ヘッド7の吐出口列の近傍をワイピングする吐出口ワイパー62Nと、吐出面全体をワイピングする吐出面ワイパー62Tとが設けられている。これらのワイパーに付着したインク等の異物は、最奥部へ移動した際にワイパークリーナ65に当接し通過することで除去される。また、吐出面をワイピングすることにより、ある吐出口に別の吐出口からの異なる種類のインクが混入する可能性がある。このような吐出口における混色を解消するために、記録ヘッド7から予備吐出が行われる。この予備吐出は、開放したキャップ61に所定発数のインクを吐出する動作で行われる。なお、キャップ61に代えて、別途設けたインク受けにインクを吐出しても良い。
【0028】
また、大気連通弁669、670の開閉動作は排紙ローラ41の逆転駆動を利用して行われる。排紙ローラ41の駆動源は、搬送ローラ36と共用の搬送モータ35である。大気連通弁669、670の開閉状態を制御することで、ブラックインク及びカラーインクの一括吸引と、各々の個別吸引とを、選択して実行することができる。各大気連通弁669、670の開閉は、弁位置センサ651により検出される。
【0029】
図9は吐出回復部6のメインカム63によるタイミングチャートである。図10は吐出回復部6のバルブカム652によるタイミングチャートである。図11〜図20は吐出回復部6の動作を説明する模式図である。図21は吐出回復部6の動作のフローチャートである。図9〜図21を用いて、本実施形態に係る吐出回復部6の構成及び動作について詳述する。図21において、ステップS101で記録ヘッド7の吐出口列70、71がキャップ61の真上となる位置へキャリッジ50を移動させる(図11)。ステップS103で、バルブカム652を両方の大気連通弁669、670が閉じたVA位置のままで、キャップ61を上昇させる前の位置H(図9)へメインカム63を回転させる。
【0030】
ステップS105で、キャップ61が下降(開放)位置にある状態で、開放コロホイール203を図示時計方向に回転させてコロ209をポンプチューブ672に圧接し、ポンプチューブ672を内径が密着するまで押しつぶす(図12)。ステップS107で、吐出口列71の各吐出口から予備吐出を行い、キャップ61内に所定量のインクを滞留させる(図13)。ステップS109で、バルブカム652を位置VB(図10)に移動させ、ブラックインクに対応した大気連通弁669のみを開放し、カラーインクに対応した大気連通弁670は閉じたままとする。ステップS111で、コロホイール203を図示反時計方向に90度だけ回転させ、キャップ61内のインクをポンプチューブ616内へ移動させる(図14)。つまり、負圧発生手段であるポンプ60により、キャップ61内のインクを、該ポンプと該キャップを内部空間で接続する流路内へ導入する。次いで、ステップS113で、メインカム63を位置A(図9)まで回転させ、キャップ61を記録ヘッド7に密着させて吐出口列71を密閉する(図15)。
【0031】
そこで、ステップS115において、コロホイール203を図示反時計方向に所定量回転させ、キャップ61内のインクを吸引する(図16)。すなわち、上記ステップS111でポンプチューブ616にインクを導入した後に、ポンプ60により吐出口(吐出口列71)に負圧を作用させることにより、吸引回復処理を実行する。
【0032】
このときの、バルブチューブ618の内容積を含めた、キャップ61内からポンプチューブ616がコロ209で押し付けられた位置までの内容積をV1とする。また、ステップS111の吸引でポンプチューブ616内に導入したインク量をV2とする。なお、このインク量V2は、ステップS107で予備吐出したインク量とほぼ等しい量である。また、本実施形態でポンプチューブ616内で発生可能な静負圧をPとし、ステップS111におけるポンプチューブ616内へのインクの導入を実行しない場合の発生静負圧をP′とする。すると、次の数式(1)の関係が成り立つ。
P=P′×V1/(V1−V2)・・・・・(1)
【0033】
数式(1)から明らかなように、ポンプチューブ616内に発生する負圧Pは、V2のインク量が多いほど大きくなる。また、予備吐出で吐出されるインク1滴の体積はほぼ安定しているため、V2の体積は吐出発数を決めることにより精度良く制御することができる。ただし、これは吐出口に作用する負圧吸引力によってインクが排出されない状態、すなわち静負圧状態としての理論値である。実際には、V2の体積は、インクが吸引排出されたときの動負圧により変化すること、発生負圧に応じてポンプチューブ616の復元量が変化すること、などによって、上記の計算値よりも小さな値になるのが一般的である。いずれにしても、従来の制御方法と比較すれば、大きな負圧を発生できることは明らかである。
【0034】
次にステップS117で、バルブカム652をVD(図10)に移動させ、2つの大気連通弁669、670を開放状態にする(図17)。ステップS119で、コロホイール203を図示反時計方向にさらに回転させることにより、キャップ61内を空吸引し、キャップ61内のインクを除去する(図18)。この空吸引は、キャップ61内のインクが吐出口内へ進入することを防止するためである。ステップS121で、バルブカム652を位置VA(図10)に移動させて2つの大気連通弁669、670を閉状態にするとともに、メインカム63を位置D(図9)に移動させ、キャップ61を下降させて開放状態にする(図19)。ステップS123で、コロホイール203を図示反時計方向にさらに所定量回転させることにより再度の空吸引を行うことにより、キャップ61、ポンプチューブ616内のインクを完全に除去する(図20)。
【0035】
続いて、ステップS125で、メインカム63を位置E(図9)に移動させることにより、キャップ61を記録ヘッド7から完全に離間させ、ワイパー62によりワイピングする。ステップS127で、キャリッジ50をクリーニング位置から退避させてから、メインカム63を位置Fに移動させてワイパー62を元の位置に戻す。ステップS129で、ステップS125のワイピング動作により吐出口内に押し込まれたインクを排出するための予備吐出を実行する。ステップS131で、再度ポンプ60の吸引動作を行うことで、ステップS129の予備吐出でキャップ61内に吐出されたインクを廃インクタンクへ移送するための空吸引を行う。以上により、吐出回復部6による一連のクリーニング動作を終了する。
【0036】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では予備吐出したインクをポンプチューブに導入したが、本実施形態では吐出口から吸引したインクをポンプチューブに導入する。つまり、流路616の内部空間へのインクの導入は、ポンプ60により吐出口(吐出口列71)からインクを吸引して行う吸引処理回復と同様の方法で行っても良い。このときに吸引するインク量は、例えば、キャップ61内から、ポンプチューブ616内のコロ209による押しつぶしポイントまでの内容積に収まる量であるV2より小さいインク量であるV2′に設定される。このようなインク導入動作を行った後に、再度ポンプ60を作動させて吸引回復処理を実行することにより、従来の吸引回復処理における負圧よりも大きな負圧を吐出口に作用させることができる。本実施形態のその他の構成及び動作は、第1の実施形態と同様である。
【0037】
(第3の実施形態)
第1の実施形態を適用する場合に、吐出口からのインク吐出が保証されていないときは、まず吐出口からインクを吸引することにより吐出性能を回復させておくことが望ましい。この後に、予備吐出(図21中のステップS107)を行ってキャップ61内に一定量のインクを充填することができる。本実施形態のその他の構成及び動作は、第1の実施形態と同様である。
【0038】
(第4の実施形態)
本実施形態においては、予備吐出もしくはポンプによる吸引によってキャップ61内もしくはポンプチューブ616内に導入するインク量を検出する構成とする。図22はインク量の検出を行うための構成を例示する模式図である。そこで、本実施形態では、ポンプチューブ616は、ポリエチレン樹脂やシリコンゴムのような光透過性の材質で形成されている。そして、ポンプチューブ616の所定の位置に、ポンプチューブ616に導入されたインクの量を検知するためのセンサ801を備えている。センサ801としては、例えば、赤外線を用いたフォトセンサ等が使用される。このような構成によれば、例えばポンプ60を駆動するときにポンプチューブ616内を流れるインクの先端を検出することで、実際に導入されたインクの量を検出することができる。また、予備吐出の場合も、コロ209をポンプチューブ616の圧接から解除した状態にしておけば、ポンプチューブ616内にインクが流入してくる。従って、図22の構成によれば、予備吐出の場合でも、ポンプによる吸引の場合と同様、ポンプチューブ616内に導入されたインクの量を検出することができる。本実施形態のその他の構成及び動作は、第1の実施形態と同様である。
【0039】
(第5の実施形態)
第5の実施形態を図23に示す。本実施形態では、キャップ61とポンプ60とを接続するポンプチューブ616に、開閉可能な開閉弁901が設けられている。そこで、まず、弁901を閉じた状態でコロホイール203を負圧発生方向(図示の反時計方向)に駆動してポンプ内の負圧を高める。その後に弁901を開放することにより、高い負圧を一気に吐出口に印加することができる。かかる構成によれば、開閉弁901の開放とともに、前述の発生静負圧に近い値の動負圧を全ての吐出口に印加することができる。なお、ポンプ60の形態は、チューブポンプに限定されるものではなく、例えばベローズポンプであっても良い。本実施形態のその他の構成及び動作は、第1の実施形態と同様である。
【0040】
なお、以上説明した実施形態では、記録ヘッド7を搭載して往復移動するキャリッジ50を用いるシリアルタイプの記録装置を例に挙げた。本発明は、被記録材を搬送する方向の副走査のみで記録するラインタイプの記録装置など、他の記録方式の場合も同様に適用可能である。また、本発明は、プリンタ、ファクシミリ、複写機等の単体の記録装置の他、複合機器やシステム構成などにおける記録装置に対しても同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置を右前方から見た斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置を左前方から見た斜視図である。
【図3】インクジェット記録装置の縦断面図である。
【図4】吐出回復部を上方から見た斜視図である。
【図5】吐出回復部を下方から見た斜視図である。
【図6】記録ヘッドを吐出面側から見た図である。
【図7】ポンプチューブを押しつぶしたときの断面図である。
【図8】ポンプチューブを開放したときの断面図である。
【図9】メインカムによるタイミングチャートである。
【図10】バルブカムによるタイミングチャートである。
【図11】記録ヘッドをキャップの真上の位置に移動させた後の状態を示す模式図である。
【図12】ポンプコロによりポンプチューブを押しつぶした状態を示す模式図である。
【図13】記録ヘッドからキャップへ予備吐出を行う状態を示す模式図である。
【図14】キャップへ予備吐出されたインクをポンプによりポンプチューブ内へ導入した状態を示す模式図である。
【図15】キャップを記録ヘッドに密着させて吐出口列を密閉した状態を示す模式図である。
【図16】キャップ内からインクを吸引して吸引回復処理を行うときの状態を示す模式図である。
【図17】吸引回復処理の後に大気連通弁を開放した状態を示す模式図である。
【図18】空吸引によりキャップ内のインクを除去した状態を示す模式図である。
【図19】大気連通弁を閉じるとともにキャップを開放した状態を示す模式図である。
【図20】空吸引によりポンプ内のインクを排出した状態を示す模式図である。
【図21】吐出回復部の動作のフローチャートである。
【図22】ポンプチューブ内のインク量を検出するセンサを配した状態を示す模式図である。
【図23】ポンプチューブに開閉弁を接続した状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0042】
6 吐出回復部
7 記録ヘッド
50 キャリッジ
60 負圧発生手段(チューブポンプ)
61 キャップ
615、616 ポンプチューブ
669、670 大気連通弁
70、71 吐出口列
712 吐出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して記録を行う記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップと、
前記吐出口に負圧を作用させるためのポンプと、
前記ポンプと前記キャップとを連通するポンプチューブと、
を備え、
前記キャップ又は前記ポンプチューブにインクを導入した後に、前記ポンプにより前記吐出口に負圧を作用させてインクを吸引することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記キャップ又は前記ポンプチューブに導入したインクは、予備吐出したインクであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記キャップ又は前記ポンプチューブに導入したインクは、前記ポンプを駆動することにより前記吐出口から吸引したインクであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記ポンプは、チューブをしごいて負圧を発生するチューブポンプであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記ポンプチューブに開閉弁を設けることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記ポンプチューブに導入されたインクの量を検知するためのセンサを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−296493(P2008−296493A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146528(P2007−146528)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】