インクジェット記録装置

【課題】 ウェットワイピングの耐久性・信頼性向上。
【解決手段】 ウェットワイピング溶液(例としてグリセリン)の残量が十分な状態、即ちウェットワイピング溶液の転写量が十分確保できる状態の場合はウェットワイピングを行うことで、ワイピングによるフェイス面の劣化を最小限に抑え、ウェットワイピング溶液がなくなった際には、予備吐を実施してフェイス面を濡らすことでウェットワイピングと同様の効果を出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するインク吐出口を備えた記録手段のヘッド回復装置及びヘッド回復方法並びに該ヘッド回復を実施するインクジェット記録装置に関する。更に詳しくは、インクを吐出するヘッドのノズルが形成されている面(以下フェイス面と言う)を払拭してヘッド性能とプリント品質を維持させるために、フェイス面のインク等を除去するためのワイパーを用いたプリンタにおける払拭装置に関係するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の機能を有する記録装置、あるいはコンピューターやワードプロセッサ等を含む複合型電子機器やワークステーションなどの出力機器として用いられる記録装置は、記録情報に基づいて紙、布、プラスチックシート、OHP用シート等の被記録材(記録媒体)に画像(文字や記号等を含む)を記録するものである。そのうち、インクジェット式の記録装置(インクジェット記録装置)は、記録手段(記録ヘッド)から被記録材へインクを吐出して記録を行うものであり、記録手段のコンパクト化が容易であり、高精細な画像を高速で記録することができ、普通紙に特別の処理を必要とせずに記録することができ、ランニングコストが安く、ノンインパクト方式であるため騒音が少なく、しかも、多種類のインク(例えばカラーインク)を使用してカラー画像を記録するのが容易であるなどの利点を有している。
【0003】
インクジェット記録ヘッドの吐出口からインクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子としては、ピエゾ素子等の電気機械変換体を用いるもの、レーザー等の電磁波を照射して発熱させ、この発熱作用によってインク滴を吐出させるもの、あるいは発熱抵抗体を有する電気熱変換体によって液体を加熱するものなどがある。その中でも、熱エネルギーを利用してインクを滴として吐出するインクジェット式の記録手段(記録ヘッド)は、吐出口を高密度に配列することができるため高解像度の記録をすることが可能である。特に、その中でも、電気熱変換体素子をエネルギー発生素子として用いる記録ヘッドは、小型化が容易であり、かつ最近の半導体分野における技術の進歩と信頼性の向上性が著しいIC技術やマイクロ加工技術の長所を十分に活用でき、高密度実装化が容易で製造コストも安価なことから、有利である。
【0004】
また、被記録材の材質に対する要求も様々なものがあり、近年では、これらの要求に対する開発が進み、通常の被記録材である紙(薄紙や加工紙を含む)や樹脂薄板(OHP等)などの他に、布、皮革、不織布、さらには金属等を被記録材として用いる記録装置も使用されるようになっている。
【0005】
記録装置には、記録紙(被記録材)の搬送方向と交叉する方向に主走査しながら記録していくシリアル型の記録装置と記録紙の幅方向の所定幅(全幅を含む)の範囲をカバーするように定位置に保持された所定長さの記録ヘッドを用いて記録していくライン型の記録装置とに大別できる。本発明はこれらの記録方式を含むいずれの形式の記録装置においても適用可能なものである。上記シリアル型のインクジェット記録装置においては、通常、記録紙を所定の記録位置にセットした後、記録紙に沿って移動するキャリッジ上に搭載した記録ヘッドによって画像(文字や記号等を含む)を記録し、所定量の紙送り(副走査)を実行することにより記録紙に画像が形成される。
【0006】
上記インクジェット記録装置においては、記録動作によって記録ヘッドのヘッド面にインク滴、ごみ、ほこり、紙粉等の異物が付着することがあり、これらの異物を除去するためにクリーニング部材によりヘッド面をクリーニング(例えば摺擦による拭き取り)することが行われている。前記クリーニング部材としては、通常、ゴム状弾性材から成るゴムブレード等の可撓性部材が使用される。また、記録ヘッドの吐出口近傍のインクが乾燥し、インクの増粘、固着、堆積により吐出口の目詰まりが生じることがある。さらに、吐出口内部(液路)に発生した気泡やゴミ等によっても吐出口の目詰まりが生じることがある。これらの目詰まりを回復(予防、解消等)する方法として、例えば、キャッピング部材を用いてインクの吐出口部に密閉系を形成し、ポンプを用いて吐出口面(ヘッド面)に所定の負圧吸引力を発生させることにより吐出口よりインクを強制的に排出するという吸引回復方法が採られている。また、吸引回復によってヘッド面に付着したインクを除去するために、クリーニング部材により該ヘッド面をクリーニング(拭き取り)することも行われている。
【0007】
また、これらのインクジェット記録装置に用いるインクとしては、従来は水性染料インクを用いたものが主流であったが、染料インクはそもそも染料の分子が小さいがゆえに耐光性、耐ガス性といったいわゆる耐候性が不十分であり、記録物の色味が径時的に変化してしまうという問題があった。そこで近年、水性染料インクにかわり水性顔料インクが実用化されてきている。現在用いられている顔料インクは、顔料の粒径がおよそ100nm程度と染料分子に比較してはるかに大きいため光やオゾンの影響を受けたとしても色材の退色が顕著ではなく、耐候性は染料インクに比較してはるかに良好である。
【0008】
このようなインクジェット記録装置について、図2及び図3を用いて、従来のヘッド回復装置及びヘッド回復方法について説明する。図2は従来のインクジェット記録装置のヘッド回復装置を前面方向から見て示す模式的正面図であり、図3は図2のヘッド回復装置を側面から見て示す模式的側面図である。図2及び図3において、1Aは普通紙やマット紙等に好適な、いわゆる上乗せ系の表面張力の高いブラック顔料インク(以下マットBkインクと言う)を吐出するマットBkヘッドである。1Bはインクジェット光沢紙や写真用紙等に好適な、いわゆる浸透系の表面張力の低いカラー顔料インク(ここでは、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色である)を吐出するカラーヘッドである。なおヘッド1Bのこれらのインクはインクジェット記録媒体上でのインクの定着のために樹脂を添加することが多く、以下ではこれらカラー顔料インクを樹脂顔料インクと言う。2はマットBk ヘッド1A及びカラーヘッド1Bを位置決め保持する主走査キャリッジであり、3は記録方向である矢印A方向に往復移動可能な状態で主走査キャリッジ2を案内保持する主走査レールである。
【0009】
さらに、4Aはブラックヘッド1Aの吐出口部1Aaに密閉系を形成する(キャッピングする)ゴムキャップ(マットBk ヘッド用のキャップ)であり、4Bはカラーヘッド1Bの吐出口部1Baに密閉系を形成する(キャッピングする)ゴムキャップ(カラーヘッド用のキャップ)である。これらのゴムキャップ4A、4Bは、不図示の駆動源によりキャッピング方向(矢印B方向)及び非キャッピング方向(矢印C方向)に移動可能に不図示のホルダ部材に位置決め保持されており、それによって顔料インクヘッド用のキャッピング手段が構成されている。
【0010】
図2及び図3において、前記ゴムキャップ4A、4Bのそれぞれの内部には、インクを吸収保持するためのキャップ吸収部材9A、9Bが設けられている。また、吐出口部1Aa、1Baにインクが増粘して固着堆積することを防止するために、記録(プリント)中でも、これらの吐出口から所定の時間間隔でキャップ吸収部材9A、9Bに対して予備吐が行われる。5AはマットBkヘッド用の吸引ポンプ(吸引手段)であり、5Bはカラーヘッド用の吸引ポンプ(吸引手段)であり、キャッピング状態で吐出口部1Aa、1Baに所定の吸引圧(負圧)を発生させ、第1チューブ6A、6Bを介して吐出口部1Aa、1Baより強制的にインクを吸引し、吸引したインクを第2チューブ7A、7Bを介して廃インク処理部材8へ排出する吸引回復(回復処理)を行う。10AはマットBkヘッド用のクリーニング部材であり、10Bはカラーヘッド用のクリーニング部材であり、これらのクリーニング部材はウレタン、ブチル、シリコン等のゴム部材又は多孔質のスポンジ系の材質等で形成されている。
【0011】
クリーニング部材10A、10Bは不図示の駆動源により図3中、矢印D及び矢印Eの方向に移動可能であり、矢印D方向の移動により吐出口部1Aa,1Baを含むヘッド面に摺擦して((1)→(2)→(3)点線部)クリーニング(拭き取り清掃)を行う。クリーニングが終了した後さらに矢印D方向に移動すると、クリーニング部材10A、10Bはクリーナ11A、11Bに当接する((4)点線部)。この当接により、ヘッド面から掻きとられてクリーニング部材10A、10Bに付着したインク滴、ごみ、ほこり、紙粉等は、対応するクリーナ11A、11Bに転写される(移行する)ことで回収される。この時、キャッピング手段のキャップ4A、4Bは、不図示の駆動源により矢印C方向に移動(後退)し、クリーニング手段のクリーニング部材10A、10Bと干渉しない位置(不図示)まで退避している。
【0012】
ここで従来のヘッド回復装置及びヘッド回復方法並びに該ヘッド回復を実施するインクジェット記録装置においては、染料インクを用いる場合には装置各部における耐久性の問題は生じないが、顔料インクを用いる場合には、インクが増粘したり固着したりするまでの経過時間が染料インクを用いる場合より短く、早期に増粘したり固着したりし、また、クリーニング部材により掻き取る(又は拭き取る)場合のクリーニング性も染料インクを用いる場合より悪いため、記録手段のヘッド面に摺擦させてクリーニングしても、該ヘッド面にインクが薄膜状に堆積し、さらにそのインクが固着してしまい、クリーニング動作ではヘッド回復を行うことができないか、きわめて困難であるという技術的課題があった。
【0013】
通常染料インクは染料分子そのものが水溶液中に分散(溶解)しているが、顔料インクでは一般的に顔料粒子が親水性ではなく疎水性であるために水には溶解しないので水溶性を付与するために顔料粒子に樹脂や活性剤等を吸着させ顔料分散体として親水性を与え、水溶液中に分散させている。あるいは顔料粒子の構造自体の末端に親水基を持たせることで水溶液中に自己分散させている。
【0014】
そして顔料粒子そのものが疎水性であるため、染料インクと比較して記録ヘッドから顔料インクを吐出させたときに吐出口面が顔料インクでヌレやすくなってしまう性質を持っている。また前述した樹脂を用いて顔料を分散させている、いわゆる樹脂分散系の顔料インクでは、顔料とともに樹脂も吐出口面を濡らし易いので一層顕著である。また顔料粒子がフェイス面に存在する状態で前述したワイピング動作を行うことによるフェイス面へのダメージ(削れ)等もフェイス面を濡れやすくする一因である。
【0015】
このようにして吐出口面がヌレると、インクの吐出する方向性が安定しなくなり、インクが被記録媒体上に着弾する位置精度が悪くなり画像品位が低下する。
【0016】
上記の問題に対して、記録ヘッドの吐出口面に顔料インクを弾くいわゆる撥水処理を施した記録ヘッドを用いれば、初期は吐出の方向性は安定するが、基本的に顔料インク等のヌレやすいインクを用いた場合は、徐々に撥水性が劣化し吐出の方向性は不安定となる。あるいは記録ヘッドの吐出特性維持のために行なわれるワイピングによっても、結果的にヌレやすい顔料インクを吐出口面に広げてしまうためその撥水性は劣化していき、画像品位の劣化を生じてしまう。
【0017】
あるいは特開平11−334074号公報に示されるように顔料インク用のヘッドとしては吐出口周辺のみを最初から親水化したようなヘッドも提案されている。
【0018】
しかしながら吐出口面の撥水性、または親水性等の性質は長期間維持できるものではなく、経時的に劣化していく。比較的知られているUVオゾン処理等でも、処理直後は親水性を有するが時間と共にその親水の程度が変化してしまうことがある。
【0019】
このようなフェイス面の撥水性能もしくは親水性能の変化の問題に対しては、例えば特開平10−138502号公報に示すような、いわゆるウェットワイピングと言う技術が知られている。これはフェイス面を払拭するワイパーに例えばグリセリンやポリエチレングリコール等の揮発性のきわめて低い溶剤(以下ウェット液と言う)を付着させて、そのワイパーにてフェイス面を払拭することにより、フェイスの濡れ性の変化を防止するものである。ウェット液はその作用として、第1にフェイスに蓄積されたインク増粘物や増膜物を溶解する作用があり、第2にワイパーとフェイスとの間に介在することにより潤滑材の働きをし、第3にフェイスにウェット液を付着させることでフェイス保護のための膜を形成するものである。詳細な説明は後述するとして、以下にウェットワイピングの構成の一例を記す。
【0020】
図4はウェットワイピングの構成を示したもので、図3にウェットワイピングのユニットを加えたものである。ワイパー清掃部材11A,11Bよりも右側のワイパー折り返し位置近傍にウェットワイピングのユニットは設けられている。20はウェット液保持部で、21aはワイパーが当接しウェット液をウェイパーに付着させる当接部である。ワイパーは図中左側から11A,11Bのワイパー清掃部材にて清掃された後、清掃部材を通過してウェットワイピングのユニットに達する((4)→(5)→(6)の動作)。ワイパーは左右に往復動するが、折り返し位置にてワイパーが図の(6)のように当接部に当たるよう配置されている。そして当接部にて所定のニップ幅分に応じてウェット液が付着する(以下、当接部からワイパーへのウェット液の移動、ワイパーへの付着のことを「ウェット液の転写」と言う)ようにしたものである。
【特許文献1】特開平11−334074号公報
【特許文献2】特開平10−138502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来例に記載の先行技術については、以下のような問題があった。
【0022】
特開平10-138502号公報に記載の、ワイパーにグリセリンやポリエチレングリコール等の揮発性の低い溶剤(ウェット液)を付着させる構成においては、そのウェット液を所定量保持しておくためのウェット液保持部が必要となる。その保持部は、インクジェットプリンタ本体の耐久枚数を想定した量の塗布液を保持できるような容積が必要となる。プリンタ本体の耐久枚数を優先すると、その保持部の占める容積が本体サイズに影響を及ぼし、逆に本体サイズを優先すると、プリンタの耐久枚数が犠牲になるというトレードオフ関係が発生してしまっていた。
【0023】
また、プリンタ本体の耐久枚数を規定する要素としては、ウェット液の保持部におけるウェット液の容量以外にも、記録ヘッドの吐出パルス数、吸引回復や予備吐によって排出された廃インクを保持する廃インク吸収体等が挙げられる。このうちウェット液保持部の容積と、廃インク吸収体の容積は本体サイズに影響を及ぼすものであるが、プリンタ本体耐久枚数がウェット液保持部の容積に律速される場合には、ウェット液保持部のウェット液残量がなくなった段階で、これ以上使用できない旨のエラーを表示させることとなり、ユーザの使い勝手上好ましくなかった。
【0024】
さらに上記プリンタ本体の耐久枚数を規定する複数の要素は、ユーザの使われ方によって、どの要素が初めに想定耐久枚数の限界に達するかは変わってくるが、ユーザが少量部数の原稿を不連続に印刷するようなケース(例えば10分置きに1枚のテキスト印刷を行うようなケース)が多い場合においては、印刷後に入るキャッピング動作時のワイピング動作が毎回入ることから、初期からの印刷枚数や印刷dutyが少ない状態、すなわち記録ヘッドのパルス数や廃インク吸収体の容量は比較的余裕があるにもかかわらず、ウェットワイピングに使用するウェット液の残量が残り少なくなる状態となり、これもユーザの使い勝手として好ましくなかった。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、インクジェットプリンタにおける、インクを吐出する記録ヘッドのノズルが配列されたオリフィス板表面を清掃するためのワイピング素子を備えたワイピング装置を具備し、ワイピング前にワイパー表面に溶剤を転写するための転写部を備え、溶剤が転写された状態でワイピングを行う第1のワイピング手段と、ワイピング時にワイパーに対して記録ヘッドのノズルからインクを吐出しながらワイピングを行う第2のワイピング手段とを有し、前記溶剤の残量に応じて、第1のワイピング手段と第2のワイピング手段を選択的に使用することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0026】
以上本発明によれば、ウェットワイピングを搭載したインクジェット記録装置において、ウェット液の残量が少なくなった状態でも、予備吐によってワイパーを湿潤な状態にすることでウェット液によるワイピングと同等な効果が果たせるワイピングに切り替えることで、耐久後にも印字品位を良好に保つことのできるインクジェットプリンタの提供を可能にすることができる。また、ウェット液を保持する容器の体積を必要以上に増やす必要もなくなるため、本体サイズの肥大化を避けつつ、本体耐久枚数の増加も行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明のウェットワイピングを採用したインクジェット記録装置の概略図である。図1中、35はウェットワイピング機構を含む回復装置、36は回復装置近傍であって本体側板内に設けられた温度検出部材で、ここではサーミスタを用いている。
【0028】
以下順次、[1]本体の概略動作説明、[2]回復装置の概要、[3]記録ヘッドの概要、[4]ウェットワイピングを含む回復装置の詳細な動作説明、[5]ウェットワイピングに関する重要部分の説明の順に本発明に用いられるウェットワイピング機構に関して説明し、後に実施の形態として36の温度検出部材による温度に応じた、ウェットワイピング機構の制御に関する実施例を記す。
【0029】
[1]本体の概略動作説明
図1にて記録用紙等の被記録材30は、給紙ローラ31によって装置本体内に送り込まれ、紙送りローラ(搬送ローラ)32上でピンチローラ(不図示)及び紙押え板33により挟持され、該紙送りローラ32の回転を制御することにより前記マットBkヘッド1A及び前記カラーヘッド1Bで構成される記録手段(記録ヘッド)1の前面(図示の例では下面に設けられたヘッド面)から所定の隙間をおいた位置(記録位置)を通して紙送り(搬送)され、その間に記録情報に基づいて記録ヘッド1を駆動することにより画像(文字等を含む)を記録(プリント)される。主走査キャリッジ2の移動範囲内であって、記録領域を外れた位置(図示の右側端部)には、該主走査キャリッジ2のホームポジションHPが設定されている。
【0030】
[2]回復装置の概要
前記ホームポジションHPの近傍には、マットBkヘッド1A及びカラーヘッド1Bのヘッド面(吐出口が形成された面)に当接(密着)して吐出口を密封することが可能なゴム状弾性材のキャップ4A、4Bを有するキャッピング手段、キャッピング状態で該キャップ4A、4Bを介して前記吐出口に負圧吸引力を発生させ得る吸引ポンプを含む吸引手段、並びに前記マットBkヘッド1A及びカラーヘッド1Bのヘッド面に摺擦してインクやほこり等の付着物を掻き取る(拭き取る)ためのクリーニング部材を含むクリーニング手段などを備えたヘッド回復装置35が配設されている。このヘッド回復装置35は、ヘッドの吐出口部をキャッピングした状態で吸引ポンプによりキャップ内に負圧を発生させ、この負圧により吐出口からインクとともに増粘インク、気泡、固着インク、ほこり等の異物を吸い出して排出除去することにより、ヘッドのインク吐出性能を回復させる回復動作を実行するためのものである。
【0031】
[3]記録ヘッドの概要
記録手段(記録ヘッド)1としての前記マットBkヘッド1A及び前記カラーヘッド1Bは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録ヘッドであって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えたものである。また、前記記録手段1は、前記電気熱変換体により印加される熱エネルギーによってインク内に膜沸騰を生じさせ、その時に生じる気泡の成長、収縮による圧力変化を利用して吐出口よりインクを吐出させ、記録(印字を含むプリント等)を行うものである。
【0032】
[4]ウェットワイピングを含む回復装置の詳細な動作説明
図1の回復装置35内にはウェットワイピングユニット部を含むが、これに関しては以下の回復装置の説明の中で詳細に説明する。回復装置35及びこれを用いたウェットワイピングの基本的なメカ構成やシーケンス動作は従来例で説明したものと同じであるので図2及び図4を用いて説明する。
【0033】
図2は記録装置の電源Off時、またはスタンバイ時の回復装置の状態を示すもので、マットBkヘッド1A(インク吐出口1Aa)をマットBkヘッド用のキャップ4Aに対向させ、かつ、カラーヘッド1B(インク吐出口1Ba用)をカラーヘッド用のキャップ4Bに対向させたキャッピング状態であり、ヘッド回復装置35の模式的正面図である。
【0034】
通常プリンタの電源Off時や、プリンタのスタンバイ時は、キャップはこのようなヘッド保護のポジションにあって、ヘッドの吐出口へのゴミ等の付着や、吐出口からの水分蒸発を抑制している。印字信号を受信するとマットBkヘッド用のキャップ4A及び、カラーヘッド用キャップ4Bは図2中矢印C方向に下降し、キャップオープン状態となりキャリッジが操作可能な印字可能状態となる。図4はキャップオープン状態での回復装置35の模式的側面図である。
【0035】
印字は主走査レール3に沿ってキャリッジ2を走査して行うが、印字中の回復動作としてキャップ上への予備吐出があげられる。9A、9Bは前述のキャップ4A、4B内に設けられたインク吸収部材であり、これらのインク吸収部材9A、9Bは、インクを吸収、保持することができる多孔質材料又はスポンジ状材料などで形成されている。印字中のキャップオープン状態では、キャップ4A、4Bをヘッド1A、1Bから離間した位置に位置決め保持したキャップオープン状態において、ヘッド1A、1Bの吐出口1Aa、1Baから前記インク吸収部材9A、9Bに向けてインクを吐出する予備吐出が行われる。
【0036】
この予備吐出は、記録途中で吐出口部1Aa、1Baにおけるインクが増粘、固着することを防止するための操作であり、通常所定の時間間隔で行われる。なお、この予備吐出は不図示の予備吐出受け手段に向けて行ってもよい。この予備吐出受け手段は、例えば、容器やインク吸収部材などで構成することができる。
【0037】
次に図2、図4を用いて通常のヘッド回復動作について説明する。5AはマットBkヘッド用吸引ポンプ(吸引手段)であり、5Bはカラーヘッド用の吸引ポンプ(吸引手段)である。図2に示すようにキャップ4A、4Bをヘッド1A、1Bに当接(密着)させたキャッピング状態において、ヘッド1A、1Bの吐出口1Aa、1Baに所定の吸引負圧(吸引力)を発生させることで、第1チューブ6A、6Bを介して吐出口部1Aa、1Baよりインクを強制的に吸引するとともに、吸引したインクを第2チューブ7A、7Bを介して廃インク処理部材8へ排出するという吸引回復が行われる。前記吸引ポンプ(吸引手段)5A、5Bはこのような吸引回復を行うためのものである。また、この吸引回復は、記録開始直前や、記録中の所定量の時間又は記録動作ごとに、あるいはヘッドの回復操作が必要になったことを検知したときなど、必要性を考慮して実行されるものである。
【0038】
図4において10AはマットBkヘッド用のクリーニング部材(クリーニング手段)であり、10Bはカラーヘッド用のクリーニング部材(クリーニング手段)であり、これらのクリーニング部材はウレタン、ブチル、シリコン等のゴム状部材、多孔質状部材、スポンジ状部材で形成されている。クリーニング部材10A、10Bは不図示の駆動源により矢印D及び矢印E方向に移動可能であり、矢印D方向の移動により吐出口部1Aa、1Baを含むヘッド面(吐出口が形成された吐出口面)を払拭し(図4中の(1)→(2)→(3)の動作)、該ヘッド面のクリーニング(拭き取りなどによる)を行う。クリーニングが終了しさらに矢印D方向に移動すると、クリーニング部材10A、10Bはクリーナ11A、11Bに当接する((4)位置)。つまり、クリーニング部材10A、10Bがクリーナ11A、11Bに当接することにより、ヘッド面(吐出口面)から掻きとられたインク滴、ごみ、ほこり、紙粉はクリーニング部材10A、10Bからクリーナ11A、11Bへ移行し回収される。この時、キャップ4A、4Bは不図示の駆動源により矢印C方向に移動させられ、クリーニング部材10A、10Bと干渉しない位置(不図示)まで退避している。
【0039】
図4はウェットワイピングの構成を示したものである。ワイパー清掃部材11A,11Bよりも右側のワイパー折り返し位置近傍にウェットワイピングのユニットは設けられている。20はウェット液保持部で、21はウェット液伝達部、21aはワイパーが当接しウェット液をウェイパーに付着させる当接部である。ワイパーは図中左側から11A,11Bのワイパー清掃部材にて清掃された後、清掃部材を通過してウェットワイピングのユニットに達する((4)→(5)→(6)の動作)。ワイパーは左右に往復動するが、折り返し位置にてワイパーが図の(6)のように当接部に当たるよう配置されている。そして当接部にて所定のニップ幅分に応じてウェット液を転写する。
【0040】
ウェット液の転写の後に、ワイパーは再び(6)→(1)へと戻りワイパーの待機位置にて停止する。ただしこのときはワイパー清掃部材11A、11Bは、図示しない機構によって退避するように設けられている。またキャリッジ2もワイピング位置から移動して、ワイパーのワイピング面とは反対側の面ではヘッドのフェイス面を払拭しないようにしている。すなわち(6)→(5)→(3)→(1)のような動作にてワイパーは停止位置(1)に戻ることになる。
【0041】
上記のような系では初回のワイピング時は、実際にはウェット液がワイパーに転写していない状態でワイピングすることになり、初回のワイピング時にワイパーに転写したウェット液を用いて次回のウェットワイピングを行うことになる。ここで、ウェット液は非常に蒸発しにくいため次回のワイピング時にも蒸発して消失していることはない。またウェット液は通常のインクジェットプリンタに用いられるインクよりはるかに高い粘度を有しているため、ワイパーに付着した後に流失してしまうこともない。また初回1回のみのドライワイピング(ウェット液を用いないワイピング)によるフェイスの状態変化は本体寿命の間のワイピング耐久回数等に比較すると無視できるものである。
【0042】
なお本発明は上記のような構成に限るものではなく、前述した特開平10−138502号公報に示されるような、回転ワイパーを用いたウェットワイピングの機構を有するインクジェットプリンタに対しても有効であり、あるいは上記のようなワイパーがスライド移動する他の構成に対しても有効である。具体的には上記のようなスライドワイパーの系において(5)と(6)の間に折り返し位置を設け、そこから(1)の停止位置に戻ることも可能な構成とすることで、ウェット液の転写工程(6)の位置まで移動してから(1)へ戻る工程)を含むワイピングと、ウェット液の転写を含まない((5)と(6)の位置にて折り返し、(1)へ戻る)ワイピング工程とを有することが可能となるが、このような系においても本発明は有効である。
【0043】
[5]ウェットワイピングに関する重要部分の説明
以上のような回復機構を有する系において、特にウェットワイピングの構成に関する重要な要素について、すなわちウェット液やそれの保持/伝達部、ヘッドのフェイス面の状態、使用するインクについては下記のようである。
【0044】
図4中、20はウェット液保持部であり、ここではポリプロピレン繊維をスポンジ状にしたもの(以下PPスポンジと言う)でウェット液を保持している。ポリプロピレン繊維の繊維径、繊維をスポンジ化したときの見かけ密度、スポンジ内の繊維の配向方向、スポンジを装置内に組み込むときの圧縮率、等は適宜選択して良い。21はウェット液保持部のPPスポンジ20から、ウェット液を伝達し21aのワイパー当接部にウェット液を伝達する伝達部材であり、当接部21aを含む。ここでは伝達部材21としては旭化成製サンファインAQ900を用いている。ここでウェット液保持部20と伝達部材21の間で確実にウェット液の供給が行われるようにするためには、毛管力に関してウェット液保持部20の毛管力よりも、伝達部材21の毛管力のほうが強くなければならない。そのような関係を維持しつつ、伝達部材の平均気孔径、見かけ密度、毛管力等を適宜選択しよい。
【0045】
またワイパー10A,10Bはここではポリエーテルウレタンを用い、ヘッドのフェイス面の状態は表面に撥水材をコートした撥水ヘッドを用いている。
【0046】
ウェット液としてはここではグリセリンを用いているが、グリセリンはそのものは蒸発しにくいが、空気中の水分を吸湿しやすく、また一旦吸湿した場合でも低湿度環境下では水分を放出し乾燥する特性があるため、図4中のウェット液保持部20や、伝達部材21等は吸湿、乾燥の影響を受けないように、その外周を図示しない水蒸気透過性の低い材料で遮蔽することが好ましいい。
【0047】
ただしウェット液保持部に存在するエアーの膨張収縮に耐えられるように、完全密閉ではなく、一部に大気連通の細孔を設けることが望ましい。
【0048】
用いるインクとしては、従来例でも説明したが、ここでは1Aのヘッドには自己分散性のマットBk顔料インクを用いている。これは顔料粒子の構造自体の末端に親水基を持たせることで顔料粒子を水溶液中に自己分散させたインクである。一方1Bのヘッドにはカラー顔料インク(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いているが、これらは顔料粒子を界面活性剤的な作用を持つ樹脂にて水中に分散させているインクである。
【0049】
なお本発明は上記のような形態にのみ限って適用されるものではなく、ウェット液、ウェット液保持部、伝達部材等の材料や、フェイスの状態の撥水/非撥水/親水性等や、インクの濡れ性の指標であるインク表面張力や前記フェイスに対するインクの接触角等の様々な変更が可能であり様々な形態に変形可能である。もちろんインクに関しても本明細書中は顔料インクを用いた場合を例としてあげているが、染料インクであっても本発明を適用することは可能である。
【0050】
また、フェイス面の撥水性能もしくは親水性能の変化の問題に対処する別の手段としては、特開平11-342620号公報や、特開2002-166560号公報に記載されている、いわゆる予備吐による濡らしワイピングの技術がある。これはワイパー部材に対して、プリントヘッドからインクを吐出させ、ワイパー表面を濡らしてからワイピングすることで、ワイピング性能の向上を図るものである。図5に模式図を示す。ワイパー103が記録ヘッドのフェイス面101に当接しながらDの方向に移動し、フェイス面上を清掃するのに同期して、102のように印字とは異なる吐出、いわゆる予備吐を行うことで、前述のウェットワイピングと同等の効果を得ることが可能である。すなわちウェット液の代わりに、予備吐によってインクをワイパー表面に付着させ、湿潤な状態でワイピングすることで、ワイピング性の向上をはかるとともに、撥水性能、親水性能の劣化の問題の解決にもつながる。
【0051】
しかしながら、上記予備吐による濡らしワイピングでは、ワイパーそのものやその近傍の部材に予備吐によるミストが付着し、そのミストが固着することで、ワイピング動作や性能に悪影響を及ぼしたり、さらにミストが浮遊して機内汚染が発生しやすくなるという問題がある。さらには予備吐をすることで無駄なインクを消費することとなり、ランニングコストが高くなってしまうという別の弊害もある。従って前記ウェット液によるワイピング手段を置き換えて、予備吐による濡らしワイピングのみで構成することは現実的ではない。
【0052】
以下、本発明の特徴であるウェット液残量が少なくなった状態でのワイピング動作の制御に関する実施形態を説明していく。
【実施例1】
【0053】
ウェット液保持部の大きさ、すなわちウェット液の必要量から逆算される保持部の容積については、次のように算出できる。まず、搭載するインクジェットプリンタの耐久枚数相当分のウェットワイピングを行ったとしてもフェイスの撥水状態に大きな変化がなく吐出液滴の着弾位置精度が許容範囲内であるために必要なウェット液の転写量を実験等で求め、これに耐久枚数相当分のワイピング回数を乗じただけのウェット液を保持可能な容積とする必要がある。
【0054】
例えば上記に示した系では1回のウェットワイプに1mgのグリセリンをワイパーに転写した上で上記撥水ヘッドのフェイス面に塗布することで目標とする耐久枚数10000枚を問題なく行うことができるとすると、耐久枚数の間に必要なグリセリン量は10gとなる。
【0055】
これに、グリセリンの密度、PPスポンジのグリセリン保持量、伝達部材のグリセリン保持量、グリセリン使いきり時の残量等を考慮すると、グリセリン保持部の容積は20cc程度が必要となる。初期のグリセリン注入量は使いきり効率にもよるが、通常100%の使い切りは期待できないので、必要量の1.2倍程度は注入しておく必要がある。もちろんこれらの条件、すなわち1回のワイピングで必要なグリセリンの量、耐久枚数、PPスポンジや伝達部材のグリセリン保持量に関しては、各プリンタの要件に応じて異なるものなので適宜設定されるべきものである。
【0056】
上記グリセリンの残量を正確にかつ安価な機構で測定することは困難であるため、通常はグリセリンの残量ではなく、ウェット液によるウェットワイピングを行った回数をカウントして、ウェット液の残量を間接的に予測するのが一般的な手法となる。例えば本体耐久枚数が10000枚を想定した場合にはウェットワイピングの回数(ウェットワイピングカウント値とする)は10000回を上限とする。
【0057】
次にインクジェットプリンタ本体の耐久枚数を規定する廃インク容量について説明する。吸引や予備吐によって発生する廃インクは、廃インク処理部材に排出され、保持される。また、廃インク処理部材は、インクジェット記録装置の通常の使われ方を想定し、所定期間内に処理された廃インクの蒸発分も加味して、記録装置が処理可能な限界値を設定し、それを超える量の廃インクを処理しようとした際にはエラーを発生させて記録装置を使用できない状態とする。仮にこの限界値を超えて廃インクを処理しようとした場合には、吸収しきれない廃インクが機内から機外に漏れて、周辺を汚してしまうといった致命的な弊害を引き起こす可能性がある。従ってこの廃インク容量はマージンを加味して設定し、廃インク処理部材の吸収容量を超えて廃インクが発生することがないように、直ちにエラーを発生させてプリンタの機能を停止させる必要がある。この廃インク量は吸引回数や予備吐発数について全てカウントを行い、それらの総和(廃インクカウント値とする)が所定の閾値を超えた段階で廃インクエラーを出して全てのプリンタの機能を停止させる。
【0058】
さらに記録ヘッドの耐久パルス数について説明する。本実施例に用いられる記録ヘッドは、先に示すように熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録ヘッドであって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体(ヒータ)を備える。このヒータは熱エネルギーを与え続けていくことで、ヒータ表面に焦げが発生したり、表面が改質することでヒータ近傍の熱伝導率が悪くなり、インク吐出が不安定になりやすくなる。また、さらにはヒータに与えられた熱ストレスによってヒータが断線し、吐出できない深刻な状態につながることとなる。この現象は記録ヘッド使用開始初期には発生しないが、記録ヘッドへ相当数の吐出パルスを印加していくことで徐々に現象が顕著になっていく。インクジェット記録装置に対して、固定の1個の記録ヘッドを使う、いわゆるパーマネント式のヘッドについては、インクジェット記録装置の耐久枚数に見合った記録ヘッドの耐久性を有する必要があるが、印刷する画像がユーザによって異なり、すなわち記録ヘッドに与えられる吐出パルス数もユーザの使用状況によって変化するため、記録ヘッドに与えられるパルス数をカウント(印加パルスカウント値とする)し、所定の閾値を超えた段階で記録ヘッドエラーを出して、印刷をストップさせる。この印加パルス数のカウントを全ノズルに対して行うことは、ソフト処理、ハード処理いずれでも処理的な負荷が大きすぎて現実的ではないため、全ノズル数に与えられる総数をカウントして平均的な印加パルス家運と値で管理を行う。この時当然ながらノズルによっては印加されるパルス数に偏りが生じるため、上記印加パルスカウント値の閾値は、記録ヘッドのヒータの寿命に対して一定のマージンを持って設定することは言うまでもない。
【0059】
以上説明してきたように、インクジェット記録装置の耐久枚数を規定するパラメータとしては、ウェットワイピング回数をカウントするウェットワイピングカウント値、廃インク量を管理する廃インクカウント値、記録ヘッドのパルス数をカウントする印加パルスカウント値の3種類が存在する。これらはそれぞれインクジェット記録装置の一般的な使用状態を想定して、本体の耐久枚数を満たすように閾値が設定されるものである。例えば本実施例におけるインクジェット記録装置が耐久枚数A4原稿10000枚であったとする。この時ユーザの使用状況として、印字dutyが各色平均15%の原稿を10000枚印刷することを想定したとする。A4の印字可能領域21×29.7cmに対して、印刷解像度が1200×1200dpiの記録を行う場合、記録ヘッドの副走査方向の解像度が1200dpiであり、かつノズル数が各色512ノズルの場合には、各ノズル単位の平均印加パルス数は(21÷2.54)×(29.7÷2.54)×1200×1200×0.15×10000÷512=4.0×10^8となる。従って印加パルスカウント値の閾値を4.0×10^8と設定する。また、廃インクカウントに関しては1ヶ月平均**枚印刷を行うものとして、吸引・予備吐によって発生する廃インク量の見積もりを行い、その値を閾値と設定する。さらにウェットワイピングカウント値に関しては、最もワイピングが多く入る想定として、本体耐久枚数10000枚全てでワイピングが入る場合を想定して、10000回を閾値と設定する。また、廃インクカウント値としては、インクジェット記録装置を使用する中で実施する全ての吸引(インクタンク交換時に行う吸引や、印字dutyの高いパターンを印刷した際に発生する印字泡を定期的に排出されるための吸引等)および全ての予備吐(印字中にWaitが発生した際にノズルの固着を防止するための予備吐や、吸引時にノズル内に流入した混色インクを排出するための予備吐等)で消費するインク量の合計を計算する。例えば上記全ての吸引について、吸引A、吸引B、吸引Cと3種類の吸引が存在し、それぞれの吸引量がa[mg]、b[mg]、c[mg]であったとし、かつそれぞれの吸引が本体耐久枚数10000枚使用までにx回、y回、z回発生したとすると、耐久枚数1万枚までの吸引総量はa×x+b×y+c×z[mg]となる。また、予備吐についても同様に、全ての予備吐について予備吐P、予備吐Q、予備吐Rの3種類が存在し、それぞれのインク消費量がp[mg]、q[mg]、r[mg]であったとし、それぞれの予備吐がs回、t回、u回発生したとすると、耐久枚数1万枚までの予備吐総量はp×s+q×t+r×u[mg]となる。よって廃インクカウント値としては(a×x+b×y+c×z)+(p×s+q×t+r×u)[mg]となる。この廃インクカウント値が数値としていくつになったら廃インクエラーを出すかの閾値設定については、記録装置本体に具備する廃インク吸収体の体積と、吸収体のインク保持率および蒸発率によって決まる。例えば吸収体体積が800ccであり、インク保持率が80%、蒸発率が60%とした際には800×0.8/0.6×1000=1066667[mg]が閾値となり、この閾値を越えると廃インクが吸収体に吸収し切れずにインクが機外にあふれてしまうといった致命的な弊害を引き起こす可能性があるため、エラーを出して記録装置の機能全てを停止させる必要がある。
【0060】
図6は前述した耐久枚数を規定する3種類のパラメータのカウント値が、プリンタ印字枚数の増加に伴ってどのように推移するかを模式的に示した図である。図6に示すように、プリンタ使用状態によって多少の上下はあるが、概ね各パラメータは設定した閾値に対して平均的に増加していく。
【0061】
次に図7に3種類のパラメータの推移に偏りが発生し、ウェットワイピングカウント値のみ、閾値への到達が早く他の2つのパラメータが閾値よりも比較的低い数値となるケースも想定される。例えば印字dutyが比較的少ないパターンを低速に印刷するケースが多い場合には、記録ヘッドの印加パルス数は少なく、かつ吸引や予備吐による廃インク量も少ない状態であるにもかかわらず、印字中のノズルの乾燥を防ぐためのワイピングは毎ページ終了後に実施されるため、図7のような状況となる。
【0062】
記録ヘッドの耐久パルス数や、廃インクカウントの閾値については、それを超えた場合の記録装置の性能および品質に著しい弊害を引き起こす可能性があり、記録ヘッド交換や廃インク吸収体交換を行う以外には、それを補う代替手段もないため、エラーを発生させてユーザに使用を即時停止させる必要がある。但しウェットワイピングに関しては、ウェット液がなくなった状態であっても、前述したように予備吐による濡らしワイピングを行うことで、本来ウェットワイピングが目的としているフェイス面の撥水性能、親水性能の劣化を抑える機能をほぼ果たすことが可能である。また、耐久枚数10000枚を想定した時のワイピング回数10000回全てに対して予備吐による濡らしワイピングを行うことはミストによる機内汚染といった別の弊害も発生する恐れがあるが、耐久後期の1000〜2000枚分程度について、ワイピングを予備吐による濡らしワイピングに置き換えても、上記弊害はほとんど無視できるレベルとなる。
【0063】
上記説明したように、ウェットワイピングから予備吐による濡らしワイピングに変更する制御を図8のフローチャートを用いて説明する。インクジェット記録装置において、ワイピングを実施するタイミング(例えば吸引後や予備吐後に実施するワイピング動作等)に入った段階で図8のフローチャートのG101から処理を開始する。G102ではウェットワイピングカウント値がウェットワイピングの閾値(Th_wetwipeとする)を超えているか否かを判定する。ここで閾値以下と判定された場合には、ウェットワイピング実行が行える、すなわちウェット液残量が十分残っている状態とみなしてG108に移行し、ウェットワイピングの継続を行う。また、G102で閾値を超えていると判定された場合にはG103に移行し、廃インクカウント値が廃インクカウントの閾値(Th_Inkとする)に対して所定の比率K%を超えているか否かを判定する。ここでTh_Ink×K%の値を超えていた場合には、ウェットワイピングのみならず、廃インク容量も相当数になっていると想定されるため、耐久枚数に達したと判定してエラー出力を行う。ここでK%とは、ウェットワイピングの実施が行えなくなった時点で、廃インクエラーが出されるまでのどのタイミングまで予備吐による濡らしワイピングを実施するかを設定するものであり、廃インクエラー出力タイミングと同じに設定する場合にはK=100%となり、また、多少廃インクエラーに対して安全を見込むのであれば、K=90%とする等適宜設定すれば良い。
【0064】
但しG103でエラー出力を行うと判定された場合でも、ワイピング実施を行うタイミングにおいて図8に示すフローに入っているため、G107で予備吐による濡らしワイピングを1回行って後、G110でエラー出力のフラグを立ててから、G113にエラー処理フローへと移行する。エラー処理フローについては特に詳述しないが、上記G110でエラー出力フラグが立てられているか否かによって適切なシーケンスを踏んだ後、プリンタエラーを出して全ての機能停止を行うこととなる。
【0065】
G103 で廃インクカウント値がTh_Ink×K%の値を下回っていた場合にはG104に移行する。G104では印加パルスカウント値が印加パルスカウントの閾値(Th_pulseとする)に対して所定の比率L%を超えているか否かを判定する。ここでTh_pulse×L%の値を超えていた場合には、ウェットワイピングのみならず、記録ヘッドの印加パルス数も相当数になっていると想定されるため、耐久枚数に達したと判定してエラー出力を行う。ここでL%とは、ウェットワイピングの実施が行えなくなった時点で、記録ヘッドエラーが出されるまでのどのタイミングまで予備吐による濡らしワイピングを実施するかを設定するものであり、記録ヘッドエラー出力タイミングと同じに設定する場合にはL=100%となり、また、多少記録ヘッドエラーに対して安全を見込むのであれば、L=90%とする等適宜設定すれば良い。
【0066】
次にG104で印加パルスカウント値がTh_pulse×L%の値を下回っていた場合にはG105に移行する。G105では予備吐による濡らしワイピングを行った回数が、閾値(Th_prejet)を下回っているか否かを判定する。ここで閾値Th_prejetを上回っていた場合には予備吐による濡らしワイピングを所定回数以上行うこととなり、ミストによる汚れ等の弊害発生の恐れもあるため、G107に移行して1回のみ予備吐による濡らしワイピングを実施してG110でエラー出力フラグをONとする。ここでG107で予備吐による濡らしワイピングを実施しても1回のみの実施であれば、致命的な弊害にはつながらないため問題はない。
【0067】
さらにG105で予備吐による濡らしワイピングの回数が閾値Th_prejet以下であった場合には、G106dで予備吐による濡らしワイピングを実施し、その後G109で予備吐による濡らしワイピングの回数をカウントUPして、G112にて図8の処理フローを終了する。ここでTh_prejetについては前述したように1000〜2000回程度の、予備吐による濡らしワイピングによるミスト汚れの弊害が発生しない程度の回数に設定すれば良い。
【0068】
以上説明してきたように本発明の実施例によれば、ウェットワイピングに用いるウェット液の残量が少なくなった場合でも、一定期間はウェットワイピングとほぼ同等の機能を果たす予備吐による濡らしワイピングに切り替えることで使用を継続することが可能となり、ユーザがより長い期間インクジェット記録装置を使用することができる。
【実施例2】
【0069】
本実施例は、実施例1に対して、一定期間ウェットワイピングと予備吐による濡らしワイピングを併用することを特徴とする。
【0070】
図4に示したウェット液保持部はPP繊維によるスポンジを使用しており、ウェット液が保持できるような負圧が保たれている。しかしながらウェット液が十分含浸されている初期の負圧と、ウェット液の残量が減ってきたときの耐久後期の負圧では、ウェット液の水頭の影響による負圧差が発生する。この影響によって、ウェット液の転写量は初期と耐久後期では若干異なり、初期のウェット液転写量はやや多く、耐久後期はウェット液転写量が若干少なくなる傾向にある。
【0071】
このようにインクジェット記録装置の使用開始初期から、印刷枚数が増えるに従ってウェット液の転写量が徐々に減少していった場合、最も少なくなった時点で最低必要な転写量を確保しようとすると、ウェット液の使いきり状態に対して、かなり早い段階、すなわちウェット液の残量が相当量残っている状態でウェットワイピングを中断しなければならなくなる。また、逆にプリンタの耐久枚数(例えば10000枚)の時点で、必要最低限の転写量を確保しようとすると、初期からウェット液を余分にウェット液保持部に保持させる必要が出てくるため、ウェット液保持部の容積が増え、ひいては記録装置自体の大型化につながる結果となる。
【0072】
従って本実施例では必要最小限の転写量を確保できなくなった段階でウェットワイピングを行うと同時に予備吐による濡らしワイピングを追加で実施することでワイピング時の必要な湿潤状態を保つことが特徴となる。
【0073】
図9に耐久枚数の推移に対して、ウェットワイピングと予備吐による濡らしワイピングの切り替え制御をどのように行うかを模式的に示す。図9(a)が実施例1の処理を行った際のワイピング制御の切り替わりタイミングを示しており、初期から10000枚まではウェットワイピングを行い、10000枚以降は12000枚まで予備吐による濡らしワイピングを実行する。図9(b)が本実施例におけるワイピング制御の切り替わりタイミングであり、初期から9000枚まではウェットワイピングを行い、9000枚の時点で上記説明したようにウェット液の現象による転写量不足を補うために、9000枚から11000枚まではウェットワイピングと予備吐による濡らしワイピングを併用して行う。この間の予備吐によるワイピングの予備吐量はウェットワイピングによるワイピングを補うレベルで良いため比較的少ない予備吐量で良い。さらに11000枚を過ぎた段階では予備吐による濡らしワイピングのみに切り替えを行う。ここで、ウェットワイピングと予備吐による濡らしワイピングの併用領域が、実施例1でワイピング制御を切り替えるタイミング10000枚よりも増えている理由としては、ウェット液によるウェットワイピングのみで必要最低限のウェット液の転写量(例えば1mg)を確保しようとすると、耐久枚数を10000枚に設定する必要があるのに対して、実際には10000枚を超えてもある一定量の転写(例えば0.7mg)は実施可能である。従って本実施例のようにウェット液によるウェットワイピングで不足するウェット液量分(上記例で言うと0.3mg)を予備吐によって補うことができれば、ウェット液をさらに有効に使用することが可能となり、トータルの耐久枚数を増やす効果にもつながる。
【0074】
以上説明したように本実施例によれば、ウェットワイピングと予備吐による濡らしワイピングを切り替え、かつ併用することで、信頼性上必要となるワイピング性能を満たしつつ、インクジェット記録装置の耐久枚数をさらに増やすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のウェットワイピングを採用したインクジェット記録装置の概略図である。
【図2】従来のインクジェット記録装置のヘッド回復装置を前面方向から見た模式図
【図3】図2のヘッド回復装置を側面から見た模式図
【図4】ウェットワイピング構成図
【図5】予備吐による濡らしワイピングを説明する図
【図6】耐久枚数を規定する3つのカウント値が印刷枚数に対して推移する例を示す図
【図7】図6に対して耐久枚数を規定する3つのカウント値が、印刷枚数に対して推移する別の例を示す図
【図8】実施例1におけるワイピング方法を切り替えるフローを説明する図
【図9】実施例2における2種類のワイピングを切り替えるタイミングを説明する図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットプリンタにおける、インクを吐出する記録ヘッドのノズルが配列されたオリフィス板表面を清掃するためのワイピング素子を備えたワイピング装置を具備し、ワイピング前にワイパー表面に溶剤を転写するための転写部を備え、溶剤が転写された状態でワイピングを行う第1のワイピング手段と、ワイピング時にワイパーに対して記録ヘッドのノズルからインクを吐出しながらワイピングを行う第2のワイピング手段とを有し、前記溶剤の残量に応じて、第1のワイピング手段と第2のワイピング手段を選択的に使用することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記異なる2つのワイピング手段を選択する方法としては、前記第1のワイピング手段で使用する溶剤の残量検出手段によって検出された溶剤残量が所定の閾値以上であった場合には第1のワイピング手段によるワイピングを実行し、溶剤残量が所定の閾値を下回った場合には、第2のワイピング手段によるワイピングを実行することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記溶剤の残量検出手段は、前記溶剤をワイピング素子に転写した状態でワイピングを行う第1のワイピング手段を実施した回数で判定することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1のワイピング手段と第2のワイピング手段を選択的に切り替える条件は、前記第1のワイピング手段を実施した回数と、ヘッドクリーニングや予備吐出によって排出する廃インク容量と、記録ヘッドに印加する吐出パルス数とによって選択を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第1のワイピング手段と第2のワイピング手段を選択的に切り替える順番は、インクジェット記録装置使用開始初期から第1のワイピング手段を実施し、前記溶剤の残量が所定の閾値を下回った場合に第2のワイピング手段に切り替えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
インクジェットプリンタにおける、インクを吐出する記録ヘッドのノズルが配列されたオリフィス板表面を清掃するためのワイピング素子を備えたワイピング装置を具備し、ワイピング前にワイパー表面に溶剤を転写するための転写部を備え、溶剤が転写された状態でワイピングを行う第1のワイピング手段と、ワイピング時にワイパーに対して記録ヘッドのノズルからインクを吐出しながらワイピングを行う第2のワイピング手段とを有し、前記溶剤の残量に応じて、第1のワイピング手段と第2のワイピング手段を選択的または併用して使用することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1のワイピング手段と第2のワイピング手段を選択的にまたは併用して使用する場合、インクジェット記録装置使用開始初期から第1のワイピング手段のみを実施し、前記溶剤の残量が所定の第1の閾値を下回った場合に第1のワイピング手段と第2のワイピング手段を併用し、さらに前記溶剤の残量が前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値を下回った場合に第2のワイピング手段のみに切り替えることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−101629(P2009−101629A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276443(P2007−276443)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】