説明

インクジェット記録装置

【課題】 スライドキャップ方式のキャッピング機構にて複数のキャップと複数の記録ヘッドを密着又は離間する際に駆動負荷を分散すること。
【解決手段】 記録ヘッド7,8とキャップ11,12とが離間している場合、この状態から、先ずブラックインク記録ヘッド8をキャッピング状態にし、次にカラーインク記録ヘッド7をキャッピング状態にする。また、記録ヘッド7,8とキャップ11,12が共に密着している場合、この状態から、先ずカラーインク記録ヘッド7のキャッピング状態を解除し、次にブラックインク記録ヘッド8のキャッピング状態を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジに搭載された記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、記録ヘッドに設けられた複数の微細なノズルからインク滴を吐出する。時間経過とともに、ノズル内のインクは乾燥して増粘・固着することがある。またノズル内のインクに紙粉や塵埃や気泡等が混入するなど、目詰まりに起因するインク吐出不良により記録品位の低下が生じることがある。
【0003】
この問題に対して、特許文献1に開示の装置では、記録ヘッドを搭載したキャリッジが記録領域に隣接した領域に移動した際に、キャリッジの移動に追従して記録ヘッドのキャッピングを行なうスライドキャップ方式のキャッピング機構を備えている。上記公報に開示の装置では、キャップを搭載したスライダが、装置フレームを基準に設けられたカム面に沿って上昇又は下降して、複数の記録ヘッドと複数のキャップとが同時に当接して密着してキャッピングを行なう。またキャッピングを解除する際には、複数の記録ヘッドと複数のキャップとが同時に離間する。
【0004】
インクの乾燥を抑制するためには、キャップと記録ヘッドとを確実に密着させる必要がある。保存状態によっては記録ヘッドとキャップが過剰に貼り付いてしまうことがある。貼り付きの起きた記録ヘッドとキャップとを引き剥がすには、駆動機構の駆動負荷が増大する。とくに、複数のヘッドのキャッピング(密着又は離間)を同時に行なうと、キャリッジの駆動負荷が一時的に非常に大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−111686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の装置は、キャリッジをキャッピング位置よりさらに奥側(記録領域から遠ざかる方向)に移動させると、1つのキャップだけが選択的にキャッピングが解除される機構を備える。しかし、その位置から記録領域側にキャリッジが戻る際には、いったん複数の記録ヘッドと複数のキャップとが共に密着する状態に戻る。次いで、複数の記録ヘッドと複数のキャップとが同時に離間して、その後にキャリッジは記録領域に戻る。つまり、上記公報に開示の装置は、複数の記録ヘッドと複数のキャップとがすべて密着する位置が記録領域に近い側にあるため、必ず複数同時の密着と離間が発生する構成である。そのため、キャリッジの駆動負荷が大きくなることは避けられない。
【0007】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたもので、従来の装置の改良を目的とする。本発明のさらに具体的な目的の一例は、スライドキャップ方式のキャッピング機構にて複数のキャップと複数の記録ヘッドを密着又は離間する際に、駆動負荷を分散することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録装置は、第1記録ヘッド及び第2記録ヘッドを搭載し、記録領域を含む範囲で移動可能であるキャリッジと、前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドにそれぞれ密着してキャッピング可能な第1キャップ及び第2キャップと、前記第1キャップ及び前記第2キャップをそれぞれ保持する第1ホルダ及び第2ホルダと、前記第1ホルダ及び前記第2ホルダを搭載すると共に、前記キャリッジの移動に応じて、前記記録領域と異なる領域で前記キャリッジの移動方向及び前記記録ヘッドと前記キャップとが近接又は離間する方向に移動可能なスライダとを備え、前記キャリッジは、前記第1記録ヘッドと前記第1キャップならびに前記第2記録ヘッドと前記第2キャップが共に密着する状態となる第1のキャッピング位置と、前記第2記録ヘッドと前記第2キャップが密着し且つ前記第1記録ヘッドと前記第1キャップは密着しない状態となる第2のキャッピング位置と、に移動することが可能であり、且つ、前記第2のキャッピング位置は前記第1のキャッピング位置よりも前記記録領域に近い側に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スライドキャップ方式のキャッピング機構にて複数のキャップと複数の記録ヘッドを密着又は離間する際に、駆動負荷を分散することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態によるインクジェット記録装置の構成を示す斜視図
【図2】クリーニング機構部とキャリッジの構成を示す上面側からの斜視図
【図3】クリーニング機構部を示す上面側からの斜視図
【図4】搬送ローラからポンプ機構部までの駆動伝達構成を示す斜視図
【図5】ポンプ機構部を示す斜視図
【図6】キャリッジにカラーインク記録ヘッドとブラックインク記録ヘッドを搭載した状態を示す下面側からの斜視図
【図7】クリーニング機構部であるスライダ部の構成を示す上面側からの斜視図
【図8】スライダが記録領域側に付勢されている状態のキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を正面から見た概略図
【図9】キャップホルダカム部とカバー部材押圧部が当接した状態のキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を正面から見た概略図
【図10】第2のキャッピング位置でのキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を正面から見た概略図
【図11】第1のキャッピング位置のキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を正面から見た概略図
【図12】図10のキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を上面から見た概略図
【図13】図11のキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を上面から見た概略図
【図14】スライダが記録領域側に付勢されている状態のキャップキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を上面から見た概略図
【図15】スライダが記録領域側に付勢されている状態のスライダとブレードトリガレバーの位置関係を背面から見た概略図
【図16】スライダがワイピング開始位置にある状態のキャリッジとクリーニング機構部の位置関係を上面から見た概略図
【図17】スライダがワイピング開始位置にある状態のスライダとブレードトリガレバーの位置関係を背面から見た概略図
【図18】キャリッジがワイピング終了位置にある状態のクリーニング機構部の位置関係を上面から見た概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一、又は対応部分を示すものである。
【0012】
図1は本発明の実施形態によるインクジェット記録装置の外観図である。キャリッジ6は、イエロー,マゼンタ,シアンなどの複数色のインクを吐出できるカラーインク記録ヘッド7(第1記録ヘッド)及び、ブラックなどの単色インクを吐出できるブラックインク記録ヘッド8(第2記録ヘッド)を搭載する。そしてシャーシ1に対して主走査方向に往復移動を繰り返す。そして、搬送ローラ2がキャリッジ6の主走査が終了するごとに被記録材(用紙)を副走査方向に搬送して、これらの動作を繰り返し行うことにより記録用紙へのプリント記録(画像形成、印字など)が行われる。
【0013】
主走査方向において記録領域(シートにプリントを行なう記録領域)の外の隣接する位置には、キャリッジに対向してクリーニング機構部が設けられている。キャリッジ6は記録領域及びクリーニング機構部の位置を含む範囲で移動可能である。図2、図3はクリーニング機構部を示す斜視概略図である。クリーニング機構部には、記録ヘッド7,8にそれぞれキャッピング可能なキャップ11(第1キャップ),キャップ12(第2キャップ)が、キャップホルダ14(第1ホルダ),キャップホルダ15(第2ホルダ)を介してスライダ10に保持されている。
【0014】
スライダ10はキャリッジ6の往復移動方向の動作に追従して、装置フレームを基準としたベース19に設けられたカム面19aに沿って記録領域の外領域でスライド可能である。加えて、カラーインク記録ヘッド7及びブラックインク記録ヘッド8のそれぞれ吐出面に対して垂直方向(インク吐出方向)に移動可能である。スライダ10の垂直方向の移動によって、キャップ11,12と記録ヘッド7,8のノズル面の近接(密着)と離間が可能である。スライダ10は、キャップホルダ14及びキャップホルダ15を搭載すると共に、キャリッジ6の移動に応じて記録領域と異なる領域でキャリッジの移動方向及びブラックとカラーのそれぞれの記録ヘッドとキャップとが近接又は離間する方向に移動可能である。
【0015】
また、キャップ11,12にはポンプチューブ13a,13bがそれぞれ連結されており、ポンプチューブ13a,13bは負圧発生手段である吸引ポンプ(ポンプ機構部)に接続されている。
【0016】
図4、図5はキャップ11,12に負圧を供給するためのポンプ機構部の構成を示すものであり、図4は駆動ギア列との連結側から見たポンプ機構部を示す斜視図、図5はポンプ機構部の外観斜視図である。ポンプローラホルダ42にはポンプローラ44が取り付けられている。ポンプチューブ13a,13bをポンプベース40の内壁に沿って半周分這い回すように介在させてポンプベース40内に回転可能になるように挿入されている。
【0017】
記録ヘッド7,8をキャッピングした状態で搬送ローラ2を逆転駆動すると、出力ギア3、アイドラギア4、ポンプ駆動ギア5を介して駆動力がポンプローラホルダ42へ伝達される。ポンプローラ44がポンプローラホルダ42に設けられたカムを移動し、ポンプベース40内壁とポンプローラ44によってポンプチューブ13a,13bを押し潰す状態となる。さらに搬送ローラ2の逆転駆動を継続するとポンプチューブ内部に負圧が発生する。キャップ11と記録ヘッド7,キャップ12と記録ヘッドが共に気密に密着したキャッピング状態であれば、キャップ11,12を介して記録ヘッド7,8のインクノズルからインクを吸引することができる。
【0018】
インク吸引動作が終了して、ポンプチューブ内の負圧を解除する場合には、ポンプローラホルダ42を逆側(搬送ローラを正転側)に回転駆動する。ポンプローラ44がポンプチューブ13a,13bの押し潰しを開放するように動作することになるので、ポンプチューブ内部の負圧を解除することが出来る。
【0019】
図6はカラーインク記録ヘッド7及びブラックインク記録ヘッド8を搭載したキャリッジ6をインクノズル面側から見た斜視図である。記録ヘッドのクリーニングを実行する為にインクの吸引や予備吐出動作を行う条件には様々な要素がある。顔料ブラックインクを搭載した記録ヘッドでは、染料インクを使用した場合に比べてインクが増粘固着し易い傾向にある。したがって、一定期間キャッピングした状態を継続した後に記録動作を行う場合には、記録動作開始前に吸引動作を実行して、インクのノズルから増粘したインクを除去し、記録品位を良好に保つ手法が用いられる。
【0020】
一方で、染料インクを搭載した記録ヘッドでは、顔料インクに較べると長期間キャッピングを行っても、インクの増粘固着が起きにくいため、通常の使用状態ではインク吸引動作を行う必要は無い。ただし、連続で記録動作を行った場合に、インク吐出面へのインクミスト付着による吐出への影響を軽減する為に、記録動作中に所定量のインク吐出を行うと予備吐動作を実施する他、ワイピング動作を実施して、記録品位を安定させている。その他、何らかの理由で記録ヘッドからのインク吐出が安定しない際に、記録装置の使用者の判断で吸引実行動作を行われる場合などがある。
【0021】
図7はクリーニング機構部の詳細を示すものである。インク記録ヘッドと密着しキャッピングするキャップ11,12がキャップホルダ14,15に取り付けられている。キャップホルダ14,15はスライダ10に対して、係止爪部によってキャップばねの圧が作用した状態でも、外れないように、高さが規制された状態で保持されている。キャリッジ6が記録領域にある時には、スライダ10は、装置フレームとスライダ10の間に設けられたスライダばね(付勢手段)によって、記録領域外から記録領域側へ移動する方向に付勢されて静止している。
【0022】
図8から図15は記録ヘッド7,8のクリーニング動作を行うときのキャリッジ6とスライダ10の位置関係を示す正面図である。図8はスライダ10が記録領域側に付勢されている状態のキャリッジ6、スライダ10、ベースカム面19aの位置関係を示す。図9はキャップホルダカム部14aと押圧部22aが当接する状態のキャリッジ6、スライダ10、ベースカム面19aの位置関係を示す。図10、図12はブラックインク記録ヘッド8とキャップ12が気密に密着し、且つカラーインク記録ヘッド7とキャップ11の一端が離間して密着しない状態での、キャリッジ6、スライダ10、ベースカム面19aの位置関係を示す。このブラックインク記録ヘッド8のみがキャッピングされた状態を第2のキャッピング状態という、また、第2のキャッピング状態でのキャリッジ6及びスライダ10の位置を第2のキャッピング位置という。
【0023】
一方、図11、図13はカラーインク記録ヘッド7及びブラックインク記録ヘッド8がそれぞれキャップ11及び12と気密に密着している状態での、キャリッジ6、スライダ10、ベースカム面19aの位置関係を示す。この2つ記録ヘッドが共にキャッピングされた状態を第1のキャッピング状態という。また、第1のキャッピング状態でのキャリッジ6及びスライダ10の位置を第1のキャッピング位置という。
【0024】
ブラックインク記録ヘッド8及びカラーインク記録ヘッド7とキャップ11、12が離間している状態から密着させるキャッピング動作について説明する。キャッピング動作でのキャリッジ6とスライダ10は図8、図9、図10、図11の順の関係となるように移動する。
【0025】
図8に示すスライダ10が、スライダばねによって記録領域側(矢印A側)に位置するように付勢され静定した状態からキャリッジ6をクリーニング機構部側(矢印B側)へ移動する。すると、キャリッジ当接部6aとスライダ突出部10aが当接する。さらにキャリッジ6をクリーニング機構部側へ移動するとスライダ10がキャリッジ6に追従して、ベースカム面19aに沿って移動する。
【0026】
スライダ10がベースカム面19aに沿って図9に示す位置まで移動すると、キャップホルダ14に設けられたカム部14aと、装置フレームを基準としたベース19に固設されたカバー部材22の押圧部22aとが当接し始める。さらにスライダ10がベースカム面19aに沿って移動すると、押圧部22aによってキャップホルダカム部14aが下方に押圧され、キャップホルダ14の回転軸を中心に回転する。
【0027】
図10に示す第2のキャッピング位置ではキャップホルダカム部14aが下方に押圧されることで、キャップ11とカラーインク記録ヘッド7の一端とが離間され密着状態が解除されて、大気連通状態となる。このとき、キャップ12とブラックインク記録ヘッド8とは密着し、キャッピングされている。
【0028】
図10で示すキャップ11とカラーインク記録ヘッド7とが密着しない状態(第2のキャッピング位置)から、スライダ10が、ベースカム面19aに沿って、図11に示す第1のキャッピング位置まで移動する。キャップホルダカム部14aの一部は斜面(キャリッジ6が移動する方向に対して傾いた斜面)になっているため、キャップホルダカム部14aと押圧部22aの当接が解除され、カラーインク記録ヘッド7とキャップ11とが密着する構成になっている。つまり、キャリッジ6が第1のキャッピング位置と第2のキャッピング位置の間で移動する際には、押圧部22aに対して斜面が当接しながらキャップホルダ14がスライダ10に対して上下に変位する。
【0029】
キャリッジ6が記録領域の側から第1のキャッピング位置まで移動する際には、記録ヘッド7,8とキャップ11,12とが離間している状態から、最初に第2のキャッピング位置にてブラックインク記録ヘッド8がキャッピング状態になる。次いで、第1のキャッピング位置にてカラーインク記録ヘッド7がキャッピング状態になる。ここで、キャッピングの際のブラックインク記録ヘッド8とキャップ11との当接力は、カラーインク記録ヘッド7とキャップ12との当接力よりも大きくなっている。このように、複数のキャップと複数の記録ヘッドを密着させる際に順次に密着させることで、キャップと記録ヘッドの当接圧を分散することができ、キャリッジの駆動負荷を分散することが可能である。
【0030】
次に、ブラックインク記録ヘッド8及びカラーインク記録ヘッド7と、対応するキャップ11及び12とが密着している状態から離間させるキャップ離間動作について説明する。
【0031】
図11に示す第1のキャッピング位置では、カラーインク記録ヘッド7及びブラックインク記録ヘッド8が各々に対応するキャップ11及び12と密着している。この状態からキャリッジ6を記録領域側(図11の矢印A側)へ移動させると、スライダ10はスライダばねによって付勢され記録領域側へ移動する。このとき、キャリッジ当接部6aとスライダ突出部10aとは当接しているためスライダ10はキャリッジ6に追従して移動する。
【0032】
さらに継続してキャリッジ6を記録領域側へ移動させると、キャップホルダ14に設けられたカム部14aとベース19に設置されたカバー部材22の押圧部22aが当接し始める。さらにスライダ10がベースカム面19aに沿って移動すると押圧部22aによってキャップホルダカム部14aが下方に押圧され、キャップホルダ14の回転軸を中心に回転する。図10に示す第2のキャッピング位置ではキャップホルダカム部14aが下方に押圧されることで、キャップ11とカラーインク記録ヘッド7の一端とが離間され密着状態が解除されて大気連通状態となる。
【0033】
さらにキャリッジ6を記録領域側へ移動させると、キャップホルダカム部14aと押圧部22aの当接が解除される。また、ブラックインク記録ヘッド8とキャップ12が離間する(図9参照)。
【0034】
また、スライダばね(付勢手段)によるスライダ10を記録領域側へ付勢する付勢力は、キャップホルダカム部14aと押圧部22aとの当接により生じるキャリッジの移動方向における負荷よりも、スライダばねによる付勢力の方が大きくなるようにしている。このため、スライダ10は、キャップホルダカム部14aと押圧部22aの当接が解除される位置まで自然に移動して戻る。
【0035】
キャリッジ6が第1のキャッピング位置から記録領域の側に移動する際には、記録ヘッド7,8とキャップ11,12が密着している状態から、最初にカラーインク記録ヘッド7のキャッピング状態が解除される。次いでブラックインク記録ヘッド8のキャッピング状態が解除される。このように、複数のキャップと複数の記録ヘッドを密着した状態から離間させる際に順次離間することで、キャップと記録ヘッドの引き剥がし力を分散することができ、キャリッジの駆動負荷を分散することが可能である。上述したように、ブラックインク記録ヘッド8とキャップ11との当接力は、カラーインク記録ヘッド7とキャップ12との当接力よりも大きいので、キャッピングを解除する離間の際には当接力が小さい方が先に離間する。当接力が大きいほど強固な密着となるため、引き剥がしに要する力も大きくなる。引き剥がし力がより小さい側を先に離間するので、より小さな駆動力でキャッピングを解除することができる。
【0036】
次に、ワイピング動作について図14から図18を用いて説明する。図14はキャリッジ6がクリーニング機構領域外にあるときのキャリッジ6とクリーニング機構部を示すものであり、図15はスライダ10とブレードトリガレバー20の関係を示す背面図である。スライダ10はスライダばねの作用により、図8に示すようにベース19の側面に突き当たった状態で静定している。またブレードトリガレバー20はブレードトリガレバーばね21により、上方へ回転方向に力が作用する。このときブレードトリガレバー係止部20aとスライダ係止部10bとが当接し、ブレードトリガレバー20の位置が規制され図15に示す状態で保持される。
【0037】
図16はキャリッジ6がワイピング開始位置にあるときのキャリッジ6とクリーニング機構部を示す。図17はスライダ10とブレードトリガレバー20の関係を示す背面図である。図18はキャリッジ6がワイピング終了位置にあるときのキャリッジ6とクリーニング機構部を示す。
【0038】
キャリッジ6がクリーニング機構側に移動し、スライダ10がキャリッジ6に追従して、図16に示すワイピング開始位置(ワイプトリガ位置)まで移動する。ブレードトリガレバー20はブレードトリガレバー係止部20aとスライダ係止部10bとの当接が解除されカバー部材22の突当部に当たるまで回転する。
【0039】
その後、キャリッジ6が反転移動して、記録領域側へ移動すると、スライダ10はブレードトリガレバー20によって図17に示す状態で保持されるので、キャリッジ6とスライダ10の追従動作が終了する。継続してキャリッジ6をきろう領域側に移動すると、スライダ10に配置されたブレード18によって、各記録ヘッドのノズル面のワイピング動作が行われる。更にキャリッジ6が記録領域側へ移動を継続し、図18に示すワイピング終了位置まで移動する。このときキャリッジ6のレバー解除部6cがブレードトリガレバー20の上部先端を下方への回転方向に押し倒すように作用する。これにより、スライダ10とブレードトリガレバー20の保持状態が解除され、スライダばねの付勢力によって記録領域側に付勢されスライダ10は図8に示す静定位置へ復帰する。
【0040】
次に、ブラックインク記録ヘッド8及びカラーインク記録ヘッド7の吸引回復動作について説明する。スライダ10が記録領域側に位置するように付勢されている状態で、吸引回復の事前動作としてポンプベース40の内壁とポンプローラ44によってポンプチューブ13a,13bを押し潰す位置までポンプを駆動する。
【0041】
ブラックインク記録ヘッド8のみ吸引回復を行う場合は、スライダ10が図10に示す第2のキャッピング位置に来るようにキャリッジ6を移動させる。ブラックインク記録ヘッド8がキャッピング状態でポンプを駆動させ、キャップ12内に負圧を発生させることでブラックインクの吸引を行う。カラーインク記録ヘッド7は密着されていないのでインク吸引されず、不要なインクの吸引を低減することができる。その後、キャリッジ6を記録領域側に移動する際にワイピング動作が行われブラックインク記録ヘッド8のノズル面が清掃される。
【0042】
ブラックインク記録ヘッド8とカラーインク記録ヘッド7の両方から吸引回復を行う場合は、スライダ10が図11に示す第1のキャッピング位置に来るようにキャリッジ6を移動させる。ブラックインク記録ヘッド8及びカラーインク記録ヘッド7がキャッピングした状態でポンプを駆動させ、キャップ11,12内に負圧を発生させることでブラックインク及びカラーインクの吸引を行う。その後、キャリッジ6を記録領域側に移動する際にワイピング動作が行われブラックインク記録ヘッド8及びカラーインク記録ヘッド7のノズル面が清掃される。
【0043】
なお、以上の実施形態は、キャリッジ6に2個の記録ヘッドを搭載した構成であり、一方の記録ヘッドにはブラックインクのノズルを設け、他方の記録ヘッドにはカラーインクのノズルを設けている。本発明は、これに限定されるものではなく、インクジェット記録装置であれば、記録ヘッドの個数、記録ヘッドの並び、使用するインクの種類や性質等に関わらず適用可能であり、同様の効果を得られるものである。
【符号の説明】
【0044】
6 キャリッジ
7 カラーインク記録ヘッド(第1記録ヘッド)
8 ブラックインク記録ヘッド(第2記録ヘッド)
10 スライダ
11 キャップ(第1キャップ)
12 キャップ(第2キャップ)
14 キャップホルダ(第1ホルダ)
15 キャップホルダ(第2ホルダ)
22a 押圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1記録ヘッド及び第2記録ヘッドを搭載し、記録領域を含む範囲で移動可能であるキャリッジと、
前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドにそれぞれ密着してキャッピング可能な第1キャップ及び第2キャップと、
前記第1キャップ及び前記第2キャップをそれぞれ保持する第1ホルダ及び第2ホルダと、
前記第1ホルダ及び前記第2ホルダを搭載すると共に、前記キャリッジの移動に応じて、前記記録領域と異なる領域で前記キャリッジの移動方向及び前記記録ヘッドと前記キャップとが近接又は離間する方向に移動可能なスライダと、を備え、
前記キャリッジは、前記第1記録ヘッドと前記第1キャップならびに前記第2記録ヘッドと前記第2キャップが共に密着する状態となる第1のキャッピング位置と、前記第2記録ヘッドと前記第2キャップが密着し且つ前記第1記録ヘッドと前記第1キャップは密着しない状態となる第2のキャッピング位置と、に移動することが可能であり、且つ、前記第2のキャッピング位置は前記第1のキャッピング位置よりも前記記録領域に近い側に位置する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記キャリッジが前記記録領域の側から前記第1のキャッピング位置まで移動する際には、前記第1記録ヘッドと前記第1キャップならびに前記第2記録ヘッドと前記第2キャップが共に密着しない状態から、最初に前記第2記録ヘッドと前記第2キャップが密着する状態になり、次いで前記第1記録ヘッドと前記第1キャップが密着する状態となり、
前記キャリッジが前記第1のキャッピング位置から前記記録領域の側に向けて移動する際には、前記第1記録ヘッドと前記第1キャップならびに前記第2記録ヘッドと前記第2キャップが共に密着する状態から、最初に前記第1記録ヘッドと第1キャップが密着しない状態になり、次いで前記第2記録ヘッドと第2キャップが密着しない状態となることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
装置フレームを基準に固設され、前記第1ホルダの一部と当接し得る位置に設けられた押圧部を有し、
前記キャリッジは、第2のキャッピング位置において、前記第1ホルダの一部が前記押圧部と当接して前記第1キャップの前記第1記録ヘッドへの近接を規制することで、前記第2記録ヘッドと前記第2キャップは密着するが前記第1記録ヘッドと前記第1キャップは密着しない状態にすることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記押圧部と当接するカム部が前記第1ホルダの一部に形成され、前記カム部は前記キャリッジが移動する方向に対する斜面を有し、前記キャリッジが前記第1のキャッピング位置と前記第2のキャッピング位置の間で移動する際には、前記押圧部に対して前記斜面が当接しながら前記第1ホルダが前記スライダに対して上下に変位することを特徴とする請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記スライダを前記キャリッジが移動する方向において前記記録領域側へ付勢する付勢手段を有し、前記第1ホルダの一部と前記押圧部との当接により生じる前記移動方向における負荷よりも、前記付勢手段による付勢力のほうが大きいことを特徴とする請求項3又は4記載の装置。
【請求項6】
前記第1キャップが前記第1記録ヘッドをキャッピングする際の当接圧は、前記第2キャップが前記第2記録ヘッドをキャッピングする際の当接圧よりも小さいことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の装置。
【請求項7】
前記第1キャップ及び前記第2キャップに負圧を供給するための吸引ポンプを有し、前記キャリッジが前記第1のキャッピング位置又は前記第2のキャッピング位置にあるときに前記第1キャップ及び前記第2キャップに負圧が供給されることを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の装置。
【請求項8】
前記スライダに設けられ前記記録ヘッドを清掃するワイピング手段を有し、前記スライダが前記記録領域の側に移動しながら、前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドがワイピングされることを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の装置。
【請求項9】
前記第1記録ヘッドはカラーインクの記録ヘッドであり、前記第2記録ヘッドはブラックインクの記録ヘッドであることを特徴とする請求項1から8のいずれか記載の装置。
【請求項10】
前記第1記録ヘッドは染料インクの記録ヘッドであり、前記第2記録ヘッドは顔料インクの記録ヘッドであることを特徴とする請求項9記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−58496(P2010−58496A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118976(P2009−118976)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】