説明

インクジェット記録装置

【課題】吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、これに接続されて吸引力を発生するポンプと、これらの間に設けられた開閉弁と、キャップおよび開閉弁との間に設けられたフィルタとを備え、弁を閉じた状態でポンプを駆動することにより圧力室を減圧し、キャップにより前記面を密閉した状態で弁を開放することで吐出口からインクを吸引させる回復処理を行うンクジェット記録装置において、吸引時に前記面に所定負圧が好ましく作用させることができるようにすることで回復処理効率を向上するとともに、部品の故障やフィルタの性能低下による回復処理効率の低下を防止する。
【解決手段】弁の開放に伴う圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急激に過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢に過ぎる第3の場合かの判定を行い、第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、第3の場合であると判定した場合にはフィルタの交換を促すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特に、インクを吐出する記録ヘッドのインク吐出動作を良好な状態に維持または回復させるために、記録ヘッドからインクを吸引する処理を伴う回復処理機構を有するインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、記録中や待機中に記録ヘッドのノズル内あるいは吐出口の周りに増粘したインクや塵埃が溜まったり、ノズルが連通する記録ヘッド内の液室内やノズル近傍に泡が溜まったりすることで、吐出不良ひいては記録の乱れが発生する。そこでインクジェット記録装置においては、記録ヘッド内のインクを吐出口から強制的に排出させ、吐出不良(甚だしい場合にはノズルの詰まり)の要因となる増粘インク、塵埃および泡などを除去する処理が行われる。かかる強制排出の一形態として、吐出口が設けられた記録ヘッドの面(吐出面)をキャッピング可能なキャップ部材を設け、当該キャッピング状態においてポンプを駆動することにより吸引力を吐出面に作用させる回復処理を行うものがある。これは、記録ヘッドのインク吐出面上に密閉空間を形成するキャップ部材を接合させ、ポンプを用いて密閉空間に大気圧未満の圧力(負圧)を作用させて吐出口よりインクを吸引することにより、吐出口内方のインクを強制排出させる処理である。
【0003】
特許文献1には、キャップ部材とポンプとの間に開閉弁および圧力室を設け、弁を閉鎖た状態としてポンプを駆動することにより圧力室内を所定の負圧状態とした後、弁を開放してその負圧を吐出面に作用させる技術が開示されている。この技術によれば、圧力室内の負圧ないしは吸引力を瞬時に吐出面に作用させることができることから、廃インク量を削減することが可能となるとされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案されている吸引回復方法においては、キャップから弁までの流路中にフィルタ等のトラップ部材が設けられていないために、塵埃や紙粉などの異物が流路中に侵入し、これらが弁に達すると弁の閉鎖不良を起こす可能性があった。そこで現在では、流路中に設けられる弁などの閉鎖部材の上流側にフィルタ等を設け、異物の侵入を防止する構成が一般に採用されている。
【0005】
しかしながら、異物のトラップ性能を向上させる目的で、フィルタは一般に非常に目の細かなメッシュ状に形成されるため、増粘したインクや異物等によって経時的な詰まりが生じることがある。詰まりが生じるとフィルタ部分での圧力損失が大きくなり、弁を開放して回復に必要な負圧を所定時間付与したとしても、ノズルの回復に必要な流速を得ることができなくなることで、回復処理を行っても画像不良が改善されない等の問題が発生する可能性がある。
【0006】
また、ポンプやキャップなどの部品が何らかの原因で故障していた場合には、効果が得られないまま回復処理を繰り返し行うこととなり、徒に時間やインクを消費してしまうという問題が発生する可能性がある。さらに、キャップ部材からポンプに至る流路に破損や接続不良があり、流路が大気と連通していた場合には、連通箇所からインクが漏洩したり、あるいは空気の侵入によって所要の負圧が得られなることで回復処理効率が低下したりすることも懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−211720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような問題を解決すことを目的とする。すなわち本発明は、回復処理時に吐出面に所要の負圧が好ましく作用できるようにするとともに、部品の故障等に起因した回復処理に要する時間およびインクの消費を最小限に抑え、さらにはフィルタの性能低下による回復処理効率の低下を防止するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明インクジェット記録装置は、インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉することが可能なキャップと、該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、該弁と前記キャップとの接続路に配設されたフィルタと、該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧し、前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開放することで前記吐出口から前記インクを吸引させる回復処理を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記弁の開放に伴う前記圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急速過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢過ぎる第3の場合かの判定を行い、前記第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には前記フィルタの交換を促す警告を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回復処理時に吐出面に所要の負圧が好ましく作用できるようになるとともに、部品の故障等に起因した回復処理に要する時間およびインクの消費を最小限に抑え、さらにはフィルタの性能低下による回復処理効率の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置における吸引回復系の構成例を説明するための模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の回復処理手順を示すフローチャートである。
【図5】(a)、(b)および(c)は回復処理の過程におけるインク吸引時に検出される圧力センサの値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
(機械的構成)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。インクジェット記録装置(以下、プリンタとも言う)10は、画像データの供給源をなす外部装置であるパーソナルコンピュータ形態のホスト装置12に接続されている。プリンタ10には、記録媒体Pに対してフルカラー記録を行うべく、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yが搭載されている。これらの記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yは、記録媒体Pの幅方向(媒体搬送方向Aに直交する方向)に所定密度で所定範囲にわたって配列されたインクの吐出口ないしノズルを有する所謂ラインヘッド形態のものである。所定範囲とは、プリンタ10で印刷可能な記録媒体上の最大の有効記録幅(紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長いものとする。なお、記録ヘッドの個数や、色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などはあくまでも例示であることは言うまでもない。また、以下の説明においては、色調を特定しない場合には、記録ヘッドを符号22で総括的に参照する。
【0014】
記録ヘッド22は、記録ヘッド22は不図示の保持部により保持されるとともに、その保持部とともに鉛直方向(B方向)に昇降可能である。また、各記録ヘッド22に対応するキャップ50を有した回復ユニット40は水平方向(A方向およびA方向とは逆方向)に移動可能に保持されている。
【0015】
保管状態もしくは印刷待機中など非印刷時には、吐出口が形成された記録ヘッド22の面(吐出面)22Sにキャップ50を施した状態とする。非印刷時に記録ヘッドの吐出面が大気に曝されていると、吐出口付近のインクの溶剤が蒸発してインクの増粘・固化が生じたり、塵埃が付着したりして吐出不良が生じる恐れがあるからである。また、インクを吐出する記録ヘッドはその特性上、インク吐出状態を安定した状態に維持または回復させるための回復処理を行うことが望ましく、キャッピング状態は回復ユニット40によるそのような回復処理を可能とする状態でもある。本実施形態の回復処理には、後述するように、キャッピング状態においてキャップ内空間ないしはノズルに負圧を付与することで、インクを吐出口から吸引する吸引回復動作が含まれる。また、印刷前にキャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を含むことができる。さらに、ゴム等の弾性部材でなるワイパーブレードで記録ヘッドの吐出面をワイピングすることでクリーニングする動作も含むことができる。回復ユニット40は、これらの動作が行われるようにするための部品を有している。
【0016】
キャッピング状態から印刷動作に移行する場合には、保持部ないし記録ヘッド22を一旦上昇させてから回復ユニット40を図1の左方に退避させ、さらに回復ユニット40のキャップ50間に設けた開口に各記録ヘッド22が対向するようにする。そして保持部ないし記録ヘッド22を下降させ、キャップ間の開口から記録ヘッド22を下方に突出させ、記録媒体Pと所定の間隙をもって対向する位置に設定する。そして、その位置で記録ヘッド22を固定させ、記録媒体PをA方向に搬送し、その過程で記録ヘッド22にインク吐出動作を行わせることで、画像を記録する印刷動作が実行される。なお、印刷動作が終了し、非印刷時の状態に設定する場合は、逆の動作を行えばよい。
【0017】
ロール紙形態の記録媒体Pは供給ユニット24から供給され、プリンタ10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、記録媒体Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。なお、記録媒体Pとしては、ロール紙の形態に限られることなく、カット紙やファンフォールド紙等の形態のものであってもよいことは勿論である。
【0018】
図1の構成において、記録媒体Pに画像を形成する際には、搬送中の記録媒体Pの記録開始位置がK用の記録ヘッド22Kの下に到達した後に、印刷データ(画像データ)に基づいて記録ヘッド22Kの吐出口からKインクを選択的に吐出する。同様に、記録ヘッド22C、記録ヘッド22M、記録ヘッド22Yの順に、各色のインクを吐出してカラー画像を記録媒体Pに形成する。
【0019】
プリンタ10には、以上の各部の他、記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yにそれぞれ供給される各色のインクを貯留するインクタンク28K、28C、28Mおよび28Y(以下、特定しない場合には、符号28で総括的に参照する)。また、インクを吐出口からキャップ内に強制排出させたりするためのポンプ機構なども配置される。
【0020】
(制御系の構成)
図2は、図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。ホスト装置12から送信された記録データやコマンドはインターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、プリンタ10の記録データの受信、記録動作、記録媒体Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU100では、受信したコマンドを解析した後に、印刷データの成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開し、さらにラスタ分割して各記録ヘッドで記録するデータを割り当てる。
【0021】
印刷前の処理動作としては、CPU100が出力ポート114および駆動部116を介して、キャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118とを駆動させ、記録ヘッド22をキャップ50から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる動作がある。続いて、CPU100は、出力ポート114および駆動部116を介してロールモータ(不図示)を駆動させるとともに、搬送モータ26b等を駆動させる。なお、キャッピングモータ122は回復ユニット40を水平方向に移動させるための駆動源を、ヘッドアップダウンモータ118は記録ヘッド22を昇降させるための駆動源をなすものである。また、ロールモータは記録媒体Pを供給するための駆動源を、搬送モータ26bは記録ヘッド22による記録位置に対して記録媒体Pを搬送するための駆動源をなすものである。
【0022】
一定速度で搬送される記録媒体Pにインクを吐出し始めるタイミングを決定するため、先端検知センサで記録媒体Pの先端位置を検出する。その後、記録媒体Pの搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する記録ヘッド22に送出するデータを順次に読み出し、記録ヘッド制御回路112介して、当該読み出したデータを各記録ヘッド22に転送する。
【0023】
プリンタ10には、所要の動作を行う前提となる状態検出を行うためにセンサ群130が設けられる。センサ群130には、上述した先端検知センサや、温度センサのほか、後述する圧力センサなどが含まれる。これらのセンサによる検知信号は、入力ポート132を介してCPU100に送信される。CPU100は、プログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて各部を制御する。プログラムROM104には、図4について後述する処理手順等に対応した処理プログラムや、所要の固定データを格納するテーブルなどが記憶されている。また、ワークRAM108は、CPU100による処理の過程で作業用のメモリとして使用される。
【0024】
記録ヘッド22の吐出回復処理には、記録ヘッド22を回復ユニット40のキャップ50によってキャッピングした状態で行う吸引回復動作が含まれる。この場合、出力ポート114および駆動部116を介し、後述の吸引ポンプ201を駆動するための駆動源をなすポンプモータ124が駆動される。また、同じく後述する回復弁を含んだアクチュエータ部126が駆動される。
【0025】
(インク系の構成)
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置における各色インク系の構成を説明するための模式図である。各色の記録ヘッド22は各色のインクタンク28とチューブ209を介して接続されている。インクタンク28は大気と連通しており、記録ヘッド22のノズルにはインクタンクの液面とノズル位置との水頭差に対応した負圧が作用している。この負圧により、ノズルにはメニスカスが形成されている。
【0026】
図3は、記録ヘッド22に対してキャップ50を接合させた状態を示しており、この状態において吐出面22Sは実質的に密閉される。キャップ50は、接続路205a、回復弁203、接続路205b、圧力室202および接続路205cを介して吸引ポンプ201と接続され、接続路205aにはフィルタ207が交換可能に配設されている。吸引ポンプ201の先にはメンテナンスカートリッジ204が設けられ、吸引回復動作に伴って発生したインクを貯留可能である。
【0027】
ここで、回復弁203は、接続路205aおよび205bの開閉すなわち接続(開放)/遮断(密閉)を行うべく作動可能なものである。さらに、圧力室202は所定容量(キャップ50が画成する空間の容量と接続路(205a〜205c)の容量との和に対して十分大きい容量)を持つ。そして、吸引ポンプ201を駆動することで必要十分な大気圧未満への減圧状態を得る(負圧を溜める)ことができるようになっている。圧力室202には圧力センサ206が取付けられており、圧力室202の圧力を検知できる。なお、「負圧」とは大気圧(ゲージ圧)未満の圧力を言い、「負圧が高い(もしくは強い)」とは絶対圧でより0Paに近いことを、「負圧が低い(もしくは弱い)」とはよりゲージ圧に近いことを言うものとする。なお本実施形態では、吸引ポンプ201としてチューブポンプの形態のものを採用している。
【0028】
(回復処理)
図4および図5を用いて本実施形態の回復処理を説明する。図4は本発明の一実施形態に係るプリンタ10の回復処理手順を示すフローチャートである。また、図5(a)、(b)および(c)は回復処理の過程におけるインク吸引時に検出される圧力センサ206の値を示すグラフである。
【0029】
ここで、同図(a)はインク吸引の開始後に圧力室202の圧力が所望通りに上昇している(負圧が所望通りに大気圧に近づいている)ことで、吸引回復が正常に行われる場合(第1の場合)である。これに対し、(b)はインク吸引の開始後(回復弁203の開放後)における圧力室202の圧力の上昇が急速過ぎる(負圧の低下が急速過ぎる)場合(第2の場合)である。(c)は逆に、圧力室202の圧力上昇が緩慢過ぎる(負圧の低下が緩慢過ぎる)場合(第3の場合)である。第1の場合か、第2の場合か、あるいは第3の場合かは、回復弁203の開放時から所定時間の経過後における圧力室202の内部の圧力(すなわちノズルに作用する負圧)を検出することで判定することができる。すなわち、当該検出値が所定の範囲(圧力正常範囲)にあるか、より大気気圧に近い範囲(正圧側圧力異常範囲)にあるか、あるいは圧力正常範囲よりも負圧が高い範囲(負圧側圧力異常範囲)にあるかに基づいて判定することができる。なお、このように第1〜第3の場合を判定するに際し、回復弁203の開放時から所定時間の経過後における圧力値がどの範囲にあるかの判定に基づいて行う代わりに、回復弁203の開放後の圧力の変化もしくは変化曲線に基づいて判定を行うことも可能である。
【0030】
図4を参照するに、回復処理が開始されると、記録ヘッド22をキャッピングするに先立ち、CPU100は空吸引を行わせる(ステップS1)。空吸引とは、回復弁203を開放するとともに吸引ポンプ201を駆動させ、キャップ50から吸引ポンプ201に至るまでの流路に吸引力を作用させる動作である。従って、当該流路内にインクが残っていても、この空吸引を行うことでそのインクが除去されるので、流路中の体積が常に一定に保たれ、圧力センサ206の検出値の誤差要因を取り除くことができる。
【0031】
次に、CPU100は、記録ヘッド22とキャップ50とを相対移動させ、吐出面22Sにキャップ50を施した状態とする(ステップS3)。次にCPU100は、接続路205aおよび205cの遮断を行うべく回復弁203を作動させ(ステップS5)、吸引ポンプ201を駆動させる(ステップS7)。次に、CPU100は、圧力センサ206の検出値が所定の負圧、例えば−60KPaに達したか否かを判定し(ステップS9)、否定判定された場合には、吸引ポンプ201の駆動を開始してから所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS11)。ここで否定判定された場合にはステップS7に復帰し、所定の負圧に達するまで吸引ポンプ201の駆動を継続する。
【0032】
圧力センサ206の検出値が所定の負圧に達したと判定された場合には、CPU100は吸引ポンプ201を停止させ(ステップS13)、さらに回復弁203を開放させることにより、記録ヘッド22の吸引回復を開始させる(ステップS15)。吸引回復の過程では、圧力室202の圧力(すなわちノズルに作用する負圧)は大気圧に向けて上昇して(負圧が低下して)ゆく。そして、回復弁203の開放から圧力室202の圧力が上昇して行く過程の所定時間sの経過後、CPU100は、圧力センサ206の検出値を読み取り、その値についての判定を行う(ステップS17)。ここで、図5(a)に示すように所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲にある場合、CPU100はそのまま吸引回復処理を継続させ、その後ワイピング動作(ステップS19)および予備吐出動作(ステップS21)を実行させて本手順を終了する。
【0033】
一方、図5(b)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が所定の正常範囲にない場合(正圧側圧力異常範囲にある場合)にはステップS23に進み、CPU100は、装置を停止させるとともに報知ないし警告を行う。これは、接続路や圧力室への大気の進入により、圧力が急速に上昇している可能性が高いためである。これにより、キャップ50から吸引ポンプ201に至る流路に破損や接続不良に起因した大気との連通箇所がある場合に、インクが漏洩したり、あるいは空気の侵入により所要の負圧が得られなることで回復処理効率が低下したりする不都合を抑制することができる。また、上記ステップS9にて圧力センサ206の検出値が所定の負圧に達していないと判定された場合にもステップS23に進み、CPU100は、装置を停止させるとともに報知ないし警告を行う。これは、ポンプやキャップなどの部品が何らかの原因で故障しているために所定に負圧が得られない可能性が高いためである。これにより、効果が得られないまま回復処理を繰り返し行うことで徒に時間やインクを消費してしまう不都合が回避される。
【0034】
さらに、図5(c)に示すように、回復弁203の開放から所定時間sの経過後の圧力室202の圧力が正常範囲内にまで上昇していない場合(負圧側圧力異常範囲にある場合)にはステップS25に進む。ステップS25においては、CPU100は、ユーザに対してフィルタ207の交換を促す警告を発するとともに、装置を停止させる。これは、フィルタ207の詰まりに起因してフィルタ207での圧力損失が大きくなり、回復弁203を開放して回復に必要な圧力を所定時間付与したとしても、ノズルの回復に必要な流速を必要時間得ることができなくなっている可能性が高いためである。これにより、回復処理を行っても画像不良が改善されない等の不都合が抑制される。
【0035】
(その他の実施形態)
なお、以上の実施形態においては、1つの記録ヘッド22に対して回復弁203、圧力室202、吸引ポンプ201およびメンテナンスカートリッジ204を含む吸引回復系を設けた構成について説明した。しかし図1のように、複数の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、2以上の記録ヘッドに対して共通した吸引回復系を設けるようにしてもよい。
【0036】
また、上例ではK、C、MおよびYのインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yを用いる構成について説明したが、記録ヘッドの個数や色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などは適宜定め得るものである。
【0037】
さらに、上例では所謂ラインプリンタ形態の印刷装置に本発明を適用した場合について説明した。しかし本発明は、記録媒体搬送方向に対して交差する方向に記録ヘッドを移動させ、その過程でインク吐出を行うことにより記録を行う所謂シリアルプリンタ形態の記録装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0038】
22、22K、22C、22M、22Y 記録ヘッド
50 キャップ
201 吸引ポンプ
202 圧力室
203 回復弁
205a、205b、205c 接続路
206 圧力センサ
207 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉することが可能なキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁と前記キャップとの接続路に配設されたフィルタと、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧し、前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開放することで前記吐出口から前記インクを吸引させる回復処理を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記弁の開放に伴う前記圧力室の圧力の上昇が正常である第1の場合か、急速過ぎる第2の場合か、あるいは緩慢過ぎる第3の場合かの判定を行い、前記第2の場合であると判定した場合には警告を行う一方、前記第3の場合であると判定した場合には前記フィルタの交換を促す警告を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記弁を開放してから所定時間が経過したときの前記圧力に基づいて前記判定を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記警告を行うとともに装置を停止させることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置
【請求項4】
前記制御手段は、前記回復処理に先立って、前記キャップが前記面を密閉しない状態で前記弁を開放して前記ポンプを駆動することで、前記キャップから前記ポンプまでの流路内の吸引を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記ポンプはチューブポンプであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−218173(P2012−218173A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82703(P2011−82703)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】