説明

インクジェット記録装置

【課題】記録動作中に廃棄されるインク量を抑えつつインク吐出口の目詰まりを防ぐことが可能なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インク吐出口1001が形成されたインク吐出口面1002を備え、記録媒体の上方を移動しながらインクをインク吐出口1001から記録媒体に吐出する主走査を繰り返し行い、前記主走査を行う記録領域と、該記録領域に隣接する非記録領域との間を往復移動可能な記録ヘッド1000と、非記録領域でインク吐出口面1002に対向する、液体を含んだ払拭部材1020と、主走査間の待機時間が予め定められた第1の時間を経過したときに、記録ヘッド1000を記録領域から非記録領域における払拭部材1020に対向する対向位置へ移動させ、対向位置で記録ヘッド1000を待機させた後、記録ヘッド1000を記録領域へ戻すときに記録ヘッド1000からインクを払拭部材1020に吐出させる制御部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、一般的に、記録ヘッドがインクを吐出していないインク不吐出期間が長くなると、インク吐出口からインク中の溶媒が蒸発していき、インク吐出口近傍のインクの粘度が上昇していく。すると、インク吐出口が目詰まりするおそれがある。インク吐出口が目詰まりすると、インクが吐出しなくなる不具合、あるいはインクの吐出方向が偏向する不具合が発生しやすくなる。そのため、インク中の溶媒の蒸発を抑えるキャッピング手段、増粘してしまったインクを記録媒体以外に向けて吐出する手段(所謂予備吐出手段)を備えたインクジェット記録装置が知られている。特許文献1には、インクに対する非相溶性を備えた液体を含んだ多孔質体をキャップ手段として用いたインクジェット記録装置が開示されている。このインクジェット記録装置では、記録動作を行っていないときに上述した多孔質体をインク吐出口に接触させることによって、インクの乾燥を防いでいる。
【0003】
しかし、インクジェット記録装置では、記録動作中にインク不吐出期間が発生する場合がある。例えば、記録データが1主走査分(1行分)毎にバッファメモリに格納されるインクジェット記録装置では、次の1主走査分の記録データがバッファメモリに格納されるまでインクは吐出されない。このとき、何らかの理由でバッファメモリへの記録データの格納が遅れるとインク不吐出期間が長くなる。このとき、このインク不吐出期間に上述したキャッピングあるいは予備吐出が行われないと、上述した不具合が発生するおそれがある。そこで、このような問題を解決するためのインクジェット記録装置が提案されており、特許文献2に開示されている。特許文献2には、記録データの受信を待機している間に、インクを予備吐出するインクジェット記録装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−301184号公報
【特許文献2】特開平4−62065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
予備吐出を行うインクジェット記録装置において、予備吐出により吐出されたインクは、一般的に、廃棄される。したがって、予備吐出により吐出されるインクは、少ない方が好ましい。しかし、特許文献2に開示されたインクジェット記録装置では、データ受信の待機時間中に一定の間隔で予備吐出を繰り返し行っている。そのため、データ受信の待機時間が長くなるにつれて予備吐出により廃棄されるインクの量が多くなる。
【0006】
本発明は、記録動作中に廃棄されるインク量を抑えつつインク吐出口の目詰まりを防ぐことが可能なインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録装置は、インク吐出口が形成されたインク吐出口面を備え、記録媒体の上方を移動しながらインクを前記インク吐出口から前記記録媒体に吐出する主走査を繰り返し行い、前記主走査を行う記録領域と、該記録領域に隣接する非記録領域との間を往復移動可能な記録ヘッドと、前記非記録領域で前記インク吐出口面に対向する、液体を含んだ払拭部材と、前記主走査間の待機時間が予め定められた第1の時間を経過したときに、前記記録ヘッドを前記記録領域から前記非記録領域における前記払拭部材に対向する対向位置へ移動させ、前記対向位置で前記記録ヘッドを待機させた後、前記記録ヘッドを前記記録領域へ戻すときに前記記録ヘッドからインクを前記払拭部材に吐出させる制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、払拭部材は液体を含んでいるので、記録ヘッドのインク吐出口面が払拭部材に対向したときにインク吐出口面は湿潤環境に置かれる。そのため、インク吐出口近傍のインクが乾燥しにくくなるのでインク吐出口の目詰まりを防止できる。さらに、記録ヘッドは、非記録領域から記録領域に戻るときに払拭部材にインクを吐出する(予備吐出する)。そのため、主走査間の待機時間に一定の間隔で予備吐出を繰り返す構成に比べ廃棄されるインク量は抑えられる。よって、記録動作中に廃棄されるインクを抑えつつインク吐出口の目詰まりを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態1のインクジェット記録装置の要部構成を示す断面図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の電気的な制御構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態1のインクジェット記録装置の記録動作の手順を示したフローチャートである。
【図4】記録ヘッドがウェブに対向している状態を示す図である。
【図5】実施形態2のインクジェット記録装置の記録動作の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の要部構成を示す断面図である。
【0011】
図1に示すインクジェット記録装置において、記録ヘッド1000は、インク吐出口1001が形成されたインク吐出口面1002を備えている。インク吐出口1001は、記録媒体(不図示)の搬送方向(図1において紙面に垂直な方向)に複数配列されている。各インク吐出口1001の内部には、電気熱変換体が備えられている。この電気熱変換体に、駆動信号に基づいた電気信号を印加することによって、インクに気泡が発生し、その気泡の圧力によって、インクがインク吐出口1001から吐出される。記録ヘッド1000には、インクタンク(不図示)からインクが供給される。
【0012】
記録ヘッド1000は、キャリッジ1100に搭載されている。キャリッジ1100は、キャリッジモータ(不図示)の回転によって、ガイドシャフト1110にガイドされながら記録媒体の搬送方向に直交する主走査方向(図1の矢印X参照)に往復走査する。記録媒体は、搬送モータ(不図示)の間欠的な回転に伴って、プラテン1200上を搬送方向に間欠的に搬送される。キャリッジ1100は、記録媒体が停止しているときに、主走査方向Xに往復走査する。この往復走査にともなって、記録ヘッド1000が、記録媒体の上方を移動しながらインクをインク吐出口1001から記録媒体に吐出する主走査を行う。このような、記録媒体の間欠的な搬送及び記録ヘッド1000の主走査を、記録媒体1枚分繰り返すことで、1枚の記録媒体毎に画像が記録される。
【0013】
記録媒体への記録が行われる記録領域に隣接する非記録領域には、キャップ1010が設けられている。キャップ1010は、キャッピングポジションと離間ポジションとの間を上下方向(図1矢印Z参照)に往復移動可能である。図1に示すキャップ1010は、離間ポジションに位置している状態を示す。
【0014】
さらに、非記録領域には、シート状の払拭部材1020が、キャップ1010から記録ヘッド1000の移動方向に離れて設けられている。払拭部材1020は、ウェブとも称される多孔質体からなる液体含浸部材であって、界面活性剤及び水を主成分とする液体(以下、払拭液とも称する。)を含んでいる。本実施形態では、インクにも上記の界面活性剤及び水は含まれ、上記払拭液はインクに対して相溶性を有する。以下、この払拭部材1020を、ウェブ1020とも称する。
【0015】
ウェブ1020は、弾性材料からなる当接部材1021によって、その一部が背面から支持されている。当接部材1021は、キャップ1010と同様に、上下方向(図1の矢印Z参照)に往復移動可能である。記録ヘッド1000が記録領域から非記録領域へ移動したとき、ウェブ1020は、当接部材1021の昇降に伴い払拭ポジションと、退避ポジションとの間を往復移動する。払拭ポジションでは、ウェブ1020は、当接部材1021に押し上げられてインク吐出口面1002に当接し、インク吐出口面1002に付着したインクを払拭する。退避ポジションでは、ウェブ1020は、インク吐出口面1002から離れている。図1は、ウェブ1020が退避ポジションに位置している状態を示す。
【0016】
さらに、ウェブ1020は、一対のローラ1022、1023で構成された移動機構に巻きつけられている。ローラ1022、1023が反時計回り(図1の矢印R参照)に回転することによって、ウェブ1020は、非記録領域から記録領域に向かうXf方向に移動する。
【0017】
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置の電気的な制御構成を示すブロック図である。
【0018】
図2に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置は、USB(Universal Serial Bus)インターフェイス等を介してホストコンピュータ2500に接続されている。ホストコンピュータ2500には、プリンタドライバ2510が、ソフトウェアの形式で記憶されている。プリンタドライバ2510は、ユーザーの操作によるプリント指令に対応したプリントデータを生成し、生成したプリントデータをインクジェット記録装置へ送信する。
【0019】
本実施形態のインクジェット記録装置は、ホストコンピュータ2500から受信したプリントデータ等を一時的に保持する受信バッファ2010を有する。受信バッファ2010に保持されたプリントデータ等は、ASIC2020(制御部)の管理下でRAM2030へ転送されて、一次的に記憶される。インクジェット記録装置の各制御に必要なプログラムや固定データ等はROM2040に記憶されている。インクジェット記録装置の電源が切断されても記憶しておくべき情報は、不揮発性メモリであるNVRAM2050に記憶されている。
【0020】
RAM2030に一次的に記憶されたプリントデータは、ASIC2020の管理下で、ROM2040内に記憶されているプログラム等に従って記録データに変換される。変換された記録データは、プリントバッファ2060に一次的に記憶される。記録ヘッド1000の1主走査分(1行分)の記録(インク吐出)に対応した記録データがプリントバッファ2060に記憶され終わると、その記録データはヘッドドライバ2070へ送られる。
【0021】
さらに、本実施形態のインクジェット記録装置は、キャリッジモータや搬送モータ等で構成されるモータ群2085を駆動するモータドライバ2080や、センサ及びスイッチ2095をコントロールするセンサ/スイッチコントローラ2090を有する。
【0022】
以下、本実施形態のインクジェット記録装置の記録動作について説明する。
【0023】
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置の記録動作の手順を示したフローチャートである。
【0024】
図3において、ホストコンピュータ2500からASIC2020にプリント指令が送信されてくると(ステップS3000)、ASIC2020は、まず、モータドライバ2080に記録媒体を所定の記録開始位置に搬送させる(ステップS3001)。
【0025】
その後、ASIC2020は、主走査の開始が可能であるか否か判定する(ステップS3010)。主走査の開始が可能でない場合、可能になるまで待機する。具体的には、今回の主走査に対応した記録データが全てプリントバッファ2060に記憶され終わっていない場合、記憶され終わるまで待機する。
【0026】
ステップS3010において、今回の主走査に対応した記録データが全てプリントバッファ2060に記憶されて主走査が開始可能になったら、記録前予備吐出が行われる(ステップS3011)。この記録前予備吐出で吐出されるインク量は、待機時間に応じて予め定められている。本実施形態では、予備吐出によって吐出されたインクは、ウェブ1020に着弾する。本実施形態では、インクの着弾位置は、ウェブ1020の、当接部材1021との接触位置よりもウェブ1020の移動方向(Xf方向)下流側である。
【0027】
記録前予備吐出が終了したら、主走査が行われる(ステップS3012)。この主走査の際に、記録ヘッド1000がインク吐出口1001から記録媒体に向けてインクを吐出して、記録媒体に記録する。
【0028】
主走査が終了したら、ASIC2020は、この記録媒体へのプリントが終了であるか否か判定する(ステップS3020)。プリントが終了である場合、ASIC2020は、記録媒体を排送させる(ステップS3900)。これにより記録動作は終了する。一方、プリントが終了でない場合、ASIC2020は、次の主走査を行うまでの待機時間を計測するためにタイマ2025(図2参照)をリセットする。
【0029】
タイマ2025がリセットされたら、ASIC2020は、モータドライバ2080を制御して記録媒体を所定量だけ搬送させる(ステップS3022)。その後、ASIC2020は、ステップ3010と同様に、次の主走査が開始可能であるか否か判定する(ステップS3030)。主走査の開始が可能である場合、ステップS3012に戻って、再び、ステップ3012以下の処理が行われる。主走査の開始が可能でない場合、ASIC2020は、タイマ2025の計測時間Tを参照し、その計測時間Tが、予め定められた第1の時間T1を経過しているか否か判定する(ステップS3040)。本実施形態では、第1の時間T1は1秒に設定されている。
【0030】
計測時間Tが第1の時間T1の経過前である場合(T<T1)、ステップS3030へと戻る。ステップS3030へ戻った後、次の主走査が開始可能になった場合、主走査終了位置で待機していた記録ヘッド1000が、その主走査終了位置から次の主走査を開始する。
【0031】
計測時間Tが第1の時間T1の経過後である場合(T≧T1)、ASIC2020は、モータドライバ2080を制御して記録ヘッド1000(キャリッジ1100)を、ウェブ1020に対向する対向位置まで移動させる(ステップS3041)。このとき、記録ヘッド1000は、記録領域から非記録領域に向かう方向(図1の矢印Xb方向)に移動する。記録ヘッド1000が対向位置に位置している状態を図4(a)に示す。
【0032】
記録ヘッド1000が対向位置まで移動したら、ASIC2020は、ステップ3010と同様に、次の主走査が開始可能であるか否か判定する(ステップS3050)。
【0033】
主走査が開始可能である場合、予備吐出が行われる(ステップS3051)。この予備吐出におけるインクの着弾位置は、ウェブ1020の、当接部材1021との接触位置よりもウェブ1020の移動方向下流側である。そのため、予備吐出が行われる前に、記録ヘッド1000は、上記Xf方向に、予め定められた距離を移動する。
【0034】
予備吐出が終了したら、記録ヘッド1000は、次の主走査を開始する位置、すなわち、前回の主走査終了位置に移動する(ステップS3052)。このようにして記録ヘッド1000が非記録領域から記録領域へ戻った後、ステップS3012へと戻って、再び、ステップ3012以下の処理が行われる。
【0035】
ステップS3050において、主走査が開始可能でない場合、ASIC2020は、タイマ2025の計測時間Tを参照し、参照した計測時間Tが、上述した第1の時間よりも長い第2の時間T2を経過しているか否か判定する(ステップS3060)。本実施形態では、第2の時間T2は5秒に予め設定されている。
【0036】
計測時間Tが第2の時間T2の経過前である場合(T<T2)、ステップS3050へ戻る。ステップS3050へ戻った後、次の主走査が開始可能になった場合、上述したステップS3051、ステップS3052の動作が行われる。
【0037】
計測時間Tが第2の時間T2の経過後である場合(T≧T2)、ASIC2020は、ウェブ1020を、記録ヘッド1000のインク吐出口面1002に当接させる(ステップS3061)。具体的には、ASIC2020は、当接部材1021を図1に示す矢印Zu方向に上昇させることによって、ウェブ1020の一部をインク吐出口面1002に当接させる(図4(b)参照)。このとき、当接部材1021の当接箇所は、インク吐出口面1002からの反力によって、若干弾性変形している。
【0038】
ステップ3061の後、ASIC2020は、ステップ3010と同様に、次の主走査が開始可能であるか否か判定する(ステップS3070)。次の主走査が開始可能である場合、ASIC2020は、当接部材1021を図1に示す矢印Zd方向に下降させて退避ポジションに移動させる(ステップS3071)。その後、ASIC2020は、ローラ1022を上記R方向に回転させることによって、ウェブ1020を所定量だけ上記Xf方向に移動させる(ステップS3072)。このとき、ローラ1023は、ウェブ1020の移動に伴って従動的に回転する。
【0039】
ウェブ1020の移動が終了したら、予備吐出が行われる(ステップS3073)。この予備吐出におけるインクの着弾位置は、ウェブ1020の、当接部材1021との接触位置よりもウェブ1020の移動方向下流側である。そのため、予備吐出が行われる前に、記録ヘッド1000は、上記Xf方向に、予め定められた距離を移動する。予備吐出が終了したら、記録ヘッド1000は、次の主走査を開始する位置、すなわち、前回の主走査終了位置に移動する(ステップS3074)。その後、ステップ3012へと戻って、再び、ステップ3012以下の処理が行われる。すなわち、次の主走査が開始され、以下、上述の動作と同様の動作が行われる。
【0040】
このように、主走査の際のインク吐出及び記録媒体搬送その他を繰り返して、この記録媒体へのプリントが終了したら、記録媒体は排送され(ステップS3900)、記録動作は終了する。
【0041】
本実施形態では、記録動作中の主走査間の待機期間が1秒を経過すると、記録ヘッド1000は、インク吐出口面1002がウェブ1020に対向する位置に移動する。ウェブ1020には、液体が含まれているので、インク吐出口面1002は湿潤環境に置かれる。そのため、インク吐出口1001近傍のインクが乾燥しにくくなるのでインク吐出口1001が目詰まりしにくくなる。さらに、記録ヘッド1000は、非記録領域から記録領域に戻るとき(次の主走査を開始するとき)に予備吐出を行っている。そのため、待機時間中に一定の間隔で予備吐出を行う構成に比べ、予備吐出により廃棄されるインクの量が抑えられる。よって、記録動作中に廃棄されるインク量を抑えつつインク吐出口の目詰まりを防ぐことが可能となる。
【0042】
本実施形態における、ステップ3051の予備吐出により吐出されるインク量は、各インク吐出口1001内の電気熱変換体に印加される電気信号のパルス数に換算すると、1インク吐出口あたり16パルスである。本実施形態では、記録動作中に1秒の待機時間が発生した場合、記録ヘッド1000をウェブ1020に対向する位置に移動させることによって、上述したパルス数の予備吐出でインク吐出口1001の目詰まりを防止できた。記録ヘッド1000をウェブ1020に対向する位置に移動させない場合、インク吐出口1001の目詰まりを防止するためには、約50パルスの予備吐出が必要であった。
【0043】
また、本実施形態における、ステップS3073の予備吐出により吐出されるインク量を上述したパルス数に換算すると、1インク吐出口あたり100パルスである。ウェブ1020がインク吐出口面1002に当接することによって、インク吐出口1001からのインク中溶媒の蒸発はほとんどなくなるが、ウェブ1020に含浸されている払拭液が、若干インク吐出口内部に浸入する可能性がある。そのため、この浸入した払拭液を排出するために、ステップS3073の予備吐出のパルス数は、ステップS3051よりも多くなっている。記録ヘッド1000がウェブ1020に対向しておらず、かつウェブ1020がインク吐出口面1002に当接していない場合、インク吐出口1001の目詰まりを防止するためには、約500パルスの予備吐出が必要であった。
【0044】
(実施形態2)
本実施形態のインクジェット記録装置について、図1、図2、図4、および図5を参照しながら説明する。但し、上述した実施形態1のインクジェット記録装置と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0045】
本実施形態のインクジェット記録装置の要部構成は、図1に示す実施形態1のインクジェット記録装置と同様である。さらに、本実施形態のインクジェット記録装置の電気的な制御構成も、図2に示す実施形態1のインクジェット記録装置と同様である。
【0046】
図5は、本実施形態のインクジェット記録装置の記録動作の手順を示したフローチャートである。
【0047】
図5において、ホストコンピュータ2500からASIC2020にプリント指令が送信されると(ステップS5000)、ASIC2020は、まず、モータドライバ2080に記録媒体を所定の記録開始位置に搬送させる(ステップS5001)。
【0048】
その後、ASIC2020は、主走査の開始が可能であるか否か判定する(ステップ5010)。主走査の開始が可能でない場合、可能になるまで待機する。
【0049】
ステップS5010において、主走査が開始可能になったら、ASIC2020は、キャップ1010を下降させ、キャップ1010を記録ヘッド1000から離れた離間ポジションに移動させる(ステップS5011)。
【0050】
その後、記録前予備吐出が行われる(ステップ5012)。この記録前予備吐出で吐出されるインク量は、キャップ1010がインク吐出口1001をキャッピングしていた時間に応じて予め定められている。さらに、この記録前予備吐出により吐出されるインクの着弾位置は、ウェブ1020の、当接部材1021との接触位置よりもウェブ1020の移動方向下流側である。そのため、予備吐出が行われる前に、記録ヘッド1000は、上記Xf方向に予め定められた距離を移動する。
【0051】
記録前予備吐出が終了したら、主走査が行われる(ステップS5013)。この主走査の際に、記録ヘッド1000がインク吐出口1001から記録媒体に向けてインクを吐出して、記録を行う。以下、ステップS5020からステップS5061までの動作は、図2に示すステップS3020からステップS3061までの動作と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0052】
ステップS5061の動作後、ASIC2020は、ステップ5010と同様に、次の主走査が開始可能であるか否か判定する(ステップS5070)。次の主走査が開始可能である場合、ウェブ1020がインク吐出口面1002に付着しているインクを払拭する払拭動作が行われる(ステップS5071)。この払拭動作中、記録ヘッド1000は上記Xf方向に予め定められた距離を移動する。払拭動作が終了したら、予備吐出が行われる(ステップS5072)。この予備吐出におけるインクの着弾位置は、ウェブ1020の、当接部材1021との接触位置よりもウェブ1020の移動方向下流側である。本実施形態では、ステップS5071の動作において、記録ヘッド1000が既に予備吐出を行う位置に移動している。そのため、実施形態1と異なり、予備吐出を行う前の記録ヘッド1000の移動はない。予備吐出が終了したら、ASIC2020は、当接部材1021を下降させ、当接部材1021を上述した退避ポジションに移動させる(ステップS5073)。その後、ASIC2020は、ローラ1022を上記R方向に回転させることによって、ウェブ1020を上記Xf方向に予め定められた距離を移動させる(ステップS5074)。このとき、ローラ1023は、ウェブ1020の移動に伴って、従動的に回転する。ウェブ1020の移動が終了したら、ASIC2020は、記録ヘッド1000を、次の主走査を開始する位置、すなわち、前回の主走査終了位置にまで移動させる(ステップS5075)。その後、ステップ5013へと戻って、再び、ステップ5013以下の処理が行われる。
【0053】
ステップS5070において次の主走査が開始可能でない場合、ASIC2020は、タイマ2025の計測時間Tを参照し、参照した計測時間Tが、第2の時間よりも長い第3の時間T3を経過しているか否か判定する(ステップS5080)。本実施形態では第3の時間は1分に予め設定されている。
【0054】
計測時間Tが第3の時間T3の経過前である場合(T<T3)、上述したステップ5070に戻る。ステップS5070へ戻った後、次の主走査が開始可能になった場合、ステップ5071以降の動作が行われる。
【0055】
計測時間Tが第3の時間T3の経過後である場合(T≧T3)、ステップ5071と同様の、インク吐出口面1002の払拭動作が行われる(ステップS5081)。その後、ステップ5072と同様の予備吐出(ステップS5082)、ステップ5073と同様の、当接部材1021の移動(ステップS5083)が順次行われる。さらに、ステップS5074と同様のウェブ1020の移動(ステップS5084)が行われ、その後、記録ヘッド1000は、記録領域へ移動する(ステップS5085)。
【0056】
記録ヘッド1000の移動後、キャップ1010が、上昇してインク吐出口1001を覆う(ステップS5086)。このとき、キャップ1010は、インク吐出口面1002におけるインク吐出口1001の縁部の外側に接触してインク吐出口1001に直接接触しないように覆っている。その後、ASIC2020は、主走査の開始が可能であるか否か判定する(ステップS5090)。次の主走査が開始可能になった場合、ASIC2020は、キャップ1010を下降させてインク吐出口1001から離れさせる(ステップS5091)。その後、予備吐出が行われる(ステップS5092)。この予備吐出で吐出されるインク量は、キャップ1010がインク吐出口1001をキャッピングしていた時間に応じて予め定められている。さらにこの予備吐出により吐出されるインクの着弾位置は、ウェブ1020の、当接部材1021との接触位置よりもウェブ1020の移動方向下流側である。そのため、予備吐出が行われる前に、記録ヘッド1000は、上記Xf方向に予め定められた距離を移動する。
【0057】
予備吐出が終了したら、記録ヘッド1000は、次の主走査を開始する位置、すなわち、前回の主走査終了位置にまで移動(ステップ5093)する。その後、ステップ5013に戻って、再び、ステップ5013以下の処理が行われる。
【0058】
このように、主走査の際のインク吐出及び記録媒体搬送その他を繰り返して、この記録媒体へのプリントを終了させたら、記録媒体は排送され(ステップ5900)、記録動作を終了する。
【0059】
本実施形態では、ステップS5051の予備吐出により吐出されるインク量は、各インク吐出口1001内の電気熱変換体に印加される電気信号のパルス数に換算すると、実施形態1と同様に1インク吐出口あたり16パルスである。記録ヘッド1000をウェブ1020に対向する位置に移動させない場合、約50パルスの予備吐出が必要であった。
【0060】
また、記録動作中に1分間の待機時間が発生した場合、ウェブ1020をインク吐出口面1002に当接させると、1吐出口あたり100パルスの予備吐出が必要であった。ウェブ1020をインク吐出口面1002に当接させず、かつ記録ヘッド1000をウェブ1020に対向させない場合、1吐出口あたり約500パルスの予備吐出が必要であった。
【0061】
本実施形態も、実施形態1と同様に、記録動作中に廃棄されるインク量を抑えつつインク吐出口の目詰まりを防ぐことが可能となる。
【0062】
さらに、本実施形態では、ウェブ1020をインク吐出口面1002に当接させたまま記録ヘッド1000を移動させて、インク吐出口面1002の払拭動作を行っている。そのため、払拭動作後の予備吐出において、記録ヘッド1000の移動が不要になる。よって予備吐出に要する時間を短縮することが可能となる。
【0063】
本実施形態では、ウェブ1020がインク吐出口面1002に当接した後に毎回インク吐出口面1002の払拭動作を行うように制御しているが、必ずしも、毎回、払拭動作を行う必要はない。
【0064】
本発明では、インク吐出口面1002の払拭動作は、記録動作中の主走査間の待機時間の有無だけでなく、他のトリガも用いて実施してもよい。例えば、インク吐出口1001から吐出されたインク量が所定の値を超えた場合に払拭動作を実施するようにしてもよい。
【0065】
さらに、インク吐出口1001から吐出されたインク量が所定の値を超え、かつ、次の主走査を開始するまでに上述した第1の時間T1以上の待機時間が発生した場合、以下のような制御を行ってもよい。
【0066】
主走査間の待機時間が第1の時間T1になったら、まず、ASIC2020が当接部材1021を、上記払拭ポジションに移動させる。それから、ASIC2020が記録ヘッド1000を、図4(b)に示す位置まで移動させる。その後、ウェブ1020がインク吐出口面1002に当接した状態のまま、ASIC2020がローラ1022を上記R方向に回転させてウェブ1020を上記Xf方向に移動させ、インク吐出口面1002の払拭動作を行う。その後、次の主走査の開始が可能になったら、当接部材1021の退避ポジションへの移動、予備吐出、その他の動作を行う。このような制御によっても、予備吐出により廃棄されるインクの量を抑制することが可能となる。
【0067】
さらに、実施形態1、2では、主走査間の待機時間の例として、1主走査分の記録データが、プリントバッファ2060に記憶され終わるまでの時間を挙げた。しかし、本発明はこのような例に限られない。他に、記録媒体に吐出されたインクを乾燥させるために、予め、待機時間が設けられている場合であっても、本発明は有効である。
【0068】
加えて、実施形態1、2では、1色のインクを用いるインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、複数色のインクを用いるインクジェット記録装置に対しても、本発明は同様の効果を発揮する。
【0069】
さらに、実施形態1、2では、インク吐出口1001内に電気熱変換体を備えた、所謂サーマル方式の記録ヘッド1000を用いるインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、本発明はそのような例に限られない。他に、インク吐出口内に圧電素子を備えた、所謂ピエゾ方式の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置であっても、本発明は有効である。
【符号の説明】
【0070】
1000 記録ヘッド
1001 インク吐出口
1002 インク吐出口面
1020 払拭部材(ウェブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出口が形成されたインク吐出口面を備え、記録媒体の上方を移動しながらインクを前記インク吐出口から前記記録媒体に吐出する主走査を繰り返し行い、前記主走査を行う記録領域と、該記録領域に隣接する非記録領域との間を往復移動可能な記録ヘッドと、
前記非記録領域で前記インク吐出口面に対向する、液体を含んだ払拭部材と、
前記主走査間の待機時間が予め定められた第1の時間を経過したときに、前記記録ヘッドを前記記録領域から前記非記録領域における前記払拭部材に対向する対向位置へ移動させ、前記対向位置で前記記録ヘッドを待機させた後、前記記録ヘッドを前記記録領域へ戻すときに前記記録ヘッドからインクを前記払拭部材に吐出させる制御部と、
を有するインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記液体は、前記インクに対する相溶性を備え、
前記記録ヘッドが前記非記録領域に位置しているときに、上昇することによって、前記払拭部材を押し上げて前記インク吐出口面に当接させる当接部材をさらに有し、
前記制御部は、前記待機時間が、前記第1の時間よりも長い第2の時間を経過したときに前記当接部材を上昇させる、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記払拭部材を移動させて、前記払拭部材の一部を前記対向位置に対向させる移動機構をさらに有し、
前記制御部は、前記待機時間が前記第2の時間を経過したときに、前記当接部材を上昇させたまま前記移動機構によって前記払拭部材を移動させる、請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記非記録領域に前記払拭部材から前記記録ヘッドの移動方向に離れて設けられているキャップをさらに有し、
前記制御部は、前記待機時間が前記第2の時間よりも長い第3の時間を経過したときに、前記記録ヘッドを前記キャップに対向する位置へ移動させ、該位置で前記キャップに前記インク吐出口を覆わせる、請求項2または3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記待機時間が前記第2の時間の経過後かつ前記第3の時間の経過前に終了した場合、前記当接部材を上昇させたまま前記移動機構によって前記払拭部材を移動させる、請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記待機時間が前記第3の時間を経過したとき、前記当接部材を上昇させたまま前記移動機構に前記払拭部材を移動させた後、前記記録ヘッドを前記キャップに対向する位置まで移動させ、該位置で前記キャップに前記インク吐出口を覆わせる、請求項4または5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記キャップは、前記インク吐出口に接触することなく前記インク吐出口を覆う、請求項4から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−1071(P2013−1071A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137476(P2011−137476)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】