説明

インクジェット記録装置

【課題】 キャリッジの移動によってワイピング動作を行う構成において、不要なワイピング動作を行わせない。
【解決手段】 ワイパーホルダに配され、ワイパーホルダをワイピング位置に保持する係止位置とワイパーホルダの係止状態を解除する解除位置とに移動可能な係止部材と、キャリッジが記録領域から第1の位置まで移動することによって係止位置に移動した係止部材と係合する係合部と、キャリッジが記録領域から第1の位置を越えて第2の位置まで移動したときに、係止部材を係止位置から解除位置へ移動させる係止解除部材を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回復機構部は、インクを吐出する記録ヘッドの目詰まり等を解消することで記録品位を正常な状態に維持するように回復するように機能する。この回復機構部は、吐出口からインクを吸引または吐出させるためのポンプ機構、キャップを記録ヘッドに当接させて吐出口を覆うキャッピング機構、ワイパーを摺擦させて吐出口面を拭掃するワイピング機構等を有している。従来の回復機構部の構成としては、記録ヘッドが搭載されたキャリッジの動きに追従して所定領域内だけで移動可能なスライダを有し、このスライダにキャップ及びワイパーが搭載された構成が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−315268号公報
【特許文献2】特開2004−90550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された構成では、ワイパーが搭載されたスライダの高さ位置をロックレバー(係止手段)のみで規制することによって、記録ヘッドに対するワイパーの進入量を高精度に実現できる。しかし、キャリッジがスライダに向かって移動することによって、一旦、スライダに係止するロックレバーが作動させられた場合、キャリッジの反転動作時には必ずワイピング動作が行われてしまう。例えばキャップ開放動作時には必ずワイピング動作が行われることとなる。しかし、前回の記録動作から短い休止時間の後に再び記録動作を行う場合等のように、キャップ開放動作時にワイピング動作が不要なときもある。不要なワイピング動作を行うために、ワイパー耐久性が要求されることになる。また、ワイピング動作を行った後には、インクの混色を回避するための予備的な吐出動作(予備吐)が必須であり、不必要な廃インクの量を増加させてしまうという問題があった。
【0005】
また、特許文献2に開示された構成では、ロックレバー(キャップスライダ係止手段)の作動位置が、被記録材に対する記録が行われる記録領域に対して、キャッピング位置よりも外側に設けられている。これによって、キャッピング動作後にワイピング動作が不要である場合には、キャリッジをキャッピング位置よりも外側に移動させることなく、記録領域へ移動させることで、ワイピング動作をせずにキャップ開放動作を行うことができる。このように、ワイピング動作の有無を選択できるように構成されている。しかし、ワイパー動作の切換え位置が新たに設けられることになるので、記録装置の幅の大型化を招いていていた。
【0006】
このような事情に鑑みて、本発明の目的は、キャリッジの移動によってワイピング動作を行う構成において、ワイピング動作の有無を選択的に切り替えて、不要なワイピング動作を行わせないようにするインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、記録領域において記録を行う記録ヘッドを搭載して移動するキャリッジと、前記記録ヘッドの吐出口面をワイピングするワイパーを保持し、前記キャリッジの移動に追従して移動するワイパーホルダであって、前記吐出口面をワイピング可能なワイピング位置と前記吐出口面をワイピングできない退避位置とに移動可能なワイパーホルダと、該ワイパーホルダに配され、前記ワイパーホルダを前記ワイピング位置に保持する係止位置と前記ワイパーホルダの係止状態を解除する解除位置とに移動可能な係止部材と、前記キャリッジが前記記録領域から第1の位置まで移動することによって前記係止位置に移動した前記係止部材と係合する係合部と、を備えるインクジェット記録装置において、前記キャリッジが前記記録領域から前記第1の位置を越えて第2の位置まで移動したときに、前記係止部材を前記係止位置から前記解除位置へ移動させる係止解除部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キャリッジの移動によってワイピング動作を行う構成において、ワイピング動作の有無を選択的に切り替えて、不要なワイピング動作を行わないようにするインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図2】記録機構部を下方から見た斜視図である。
【図3】回復機構部の斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の記録動作の概略を示すブロック図である。
【図5】スライダがワイパー退避位置にある状態を示す斜視図である。
【図6】スライダがワイパー退避位置にある状態を示す一部破断正面図である。
【図7】スライダがワイピングトリガー位置に移動した状態を示す斜視図である。
【図8】スライダがワイピングトリガー位置に移動した状態を示す一部破断正面図である。
【図9】スライダがキャッピング位置に向けて移動する状態を示す斜視図である。
【図10】スライダがキャッピング位置に移動した状態を示す一部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は、同一または対応部分を示すものである。また、同様の複数の部品または部位を同一番号に記号を付して示す場合に、全部または任意のものを指すときは符号を省いて番号のみで示す。
【0011】
(インクジェット記録装置の概要)
図1に、実施形態のインクジェット記録装置を示す斜視図である。図1に示すように、インクジェット記録装置は、給紙部101と、搬送部102と、記録機構部103と、回復機構部104と、を備えている。給紙部101は、記録用紙等の被記録材を装置本体内へ供給する。搬送部102は、給紙部により供給された被記録材を搬送する。記録機構部103は、画像情報に基づいて被記録材に画像を記録する。回復機構部104は、記録される画像品位を保持するために記録ヘッドのインク吐出性能を維持するように回復動作を行う。
【0012】
給紙部101に積載された被記録材は、不図示の給紙モータで駆動される給紙ローラによって1枚ずつ分離されて送り出され、搬送部102へ給送される。搬送部102に給送された被記録材は、不図示の搬送モータで駆動される搬送ローラ121及びピンチローラ122によって挟持され、記録部を通して搬送される。記録部では、記録機構部103によって被記録材に対する記録が行われる。主走査方向に移動するキャリッジ6に搭載された記録ヘッドを画像情報に基づいて駆動し、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出することによって記録が行われる。記録された被記録材は、搬送ローラ121と同期駆動される排紙ローラ、及び排紙ローラに押圧される拍車に挟持されて装置本体外へ排出される。
【0013】
記録機構部103は、主走査方向に往復動作するキャリッジ6と、キャリッジ6に搭載された記録カートリッジ3A、3Bと、を備えている。キャリッジ6は、装置本体に設置されたガイドシャフト及びガイドレールに沿って往復動作可能に案内支持されている。キャリッジ6は、キャリッジモータによって駆動されるキャリッジベルト124を介して、被記録材に記録を行う記録動作時に記録領域を往復移動する。キャリッジ6は、キャリッジ6に搭載されたエンコーダセンサと装置本体側に張架されたエンコーダスケール125によってキャリッジ6の位置及び速度を検出することによって制御される。キャリッジ6の移動(主走査)に同期して行われる記録ヘッドの記録動作と、被記録材の所定ピッチごとの搬送(副走査)とを繰り返すことによって、被記録材全体の記録が行われる。
【0014】
回復機構部104は、記録ヘッド5の吐出口の目詰まり等を解消することによって、記録画像の品位を正常な状態に維持するように回復する。この回復機構部104は、吐出口を覆うためのキャッピング機構、吐出口からインクを吸引するためのポンプ等の吸引機構、吐出口面を拭掃するためのワイピング機構等を備えている。本実施形態における回復機構部104は、キャリッジ6が回復機構部104に向かって移動してきたときに、キャリッジ6の移動に追従して、所定領域内でスライド移動可能なスライダ7を備えている。スライダ7は、キャッピング機構のキャップ1A、1B、及びワイピング機構のワイパー8、9が搭載されており、ワイパーホルダとして機能している。
【0015】
図2に、記録機構部103を下方から見た斜視図を示す。キャリッジ6上に2つの記録カートリッジ3A、3Bが搭載されている。各記録カートリッジ3A、3Bは記録ヘッド5とインクタンクとを一体化したインクカートリッジで構成されている。カラー用の記録カートリッジ3Aには、複数色のインクを用いて記録する記録ヘッド5Aが設けられている。1色用の記録カートリッジ3Bには、1色(例えばブラック)のインクで記録する記録ヘッド5Bが設けられている。記録ヘッド5Aは、カラーインクを吐出するカラーヘッドである。記録ヘッド5Bは、ブラックインクを吐出するブラックヘッドである。記録ヘッド5Aの吐出口面51には、例えばシアン、マゼンタ及びイエローの3色のインクを吐出する吐出口列が形成されている。記録ヘッド5Bの吐出口面52には、ブラック等の1色のインクを吐出する吐出口列が形成されている。
【0016】
図3は、回復機構部104の斜視図である。ワイパーホルダとしてのスライダ7には、吐出口面51、52を覆うためのキャップ1A、1Bを有するキャッピング機構と、吐出口面51、52を拭掃するためのワイパー8、9が搭載されている。
【0017】
スライダ7の右側端部には、キャリッジ6がスライダ7に向かって移動してきたときに、キャリッジ6の側面が当接可能な突き当て部7aが設けられている。スライダ7は、ワイパーによって記録ヘッドを拭掃することが可能なワイピング位置と、ワイパーが記録ヘッドから離れるワイパー退避位置と、に移動可能に設けられている。すなわち、スライダ7は、吐出口面をワイピング可能なワイピング位置と吐出口面をワイピングできない退避位置とに移動可能である。また、スライダ7は、キャリッジ6が回復機構部104に向かって移動してきたときに、キャリッジ6の移動に追従して所定領域で移動可能に構成されている。スライダ7は、スライダベース部13に設けられたスライダカム13a、13bのカム面に沿って移動する。これによって、スライダ7は、キャリッジ6の移動方向に沿った各位置(キャッピング位置、ワイピングトリガー位置、ワイピング位置、ワイパー退避位置等)で、吐出口面51、52に対して所定の高さになるように制御される。
【0018】
図4に、インクジェット記録装置の記録動作の概略を示すブロック図を示す。B1は各種信号を処理する制御部である。制御部B1のインターフェイス部に接続された、PC(B2)、または装置本体に設けられた操作パネルB3から、制御部B1に対して記録動作命令が送信される。制御部B1に対して記録動作命令を送信された際や、制御部B1の内部のタイマー等によって記録動作を行う際、制御部B1は、搬送モータドライバB4を介して搬送モータB5に対して電力を供給するよう指令を出す。この指令と同時に、制御部B1は、画像形成モータドライバB12を介して画像形成部モータB13に対しても電力を供給するように指令を出す。搬送モータB5には、主駆動伝達系B6が接続されており、主駆動伝達系B6を介して、記録動作時に被記録材を主体的に搬送する主搬送ローラユニットB7を駆動する。主搬送ローラユニットB7には、搬送駆動伝達系B8が接続されており、搬送駆動伝達系B8を介して、被記録材を搬送する搬送ローラユニットB9を駆動する。
【0019】
また、画像形成部モータB13には、画像形成部B14が接続されている。画像形成部モータB13を駆動することによって、画像形成部B14が記録動作を行う。さらに、画像形成部B14は、搬送駆動伝達系B8の搬送動作と協働して、積載された被記録材を一枚ずつ分離・給紙する給紙ローラユニットB11を動作させるための給紙駆動伝達系B10の動作を行う。給紙駆動伝達系B10の動作によって、給紙ローラユニットB11に対する動力伝達と非伝達とを切り替え、各種タイミングによって両者を選択的に切り替える。結果として、給紙ローラユニットB11と搬送ローラユニットB9の同期駆動/非同期駆動を行うことが可能となる。
【0020】
各モータの回転状態や負荷状態、被記録材の搬送状態は、記録装置の各所に設けられた、各種センサB15によって検出され、信号の形で制御部B1に情報が送られる。制御部B1は、命令とセンサ情報に基づいて各モータを制御し、記録を行う。
【0021】
(回復機構部の詳細)
次に、本実施形態における回復機構部104について説明する。図5は、スライダがワイパー退避位置にある状態を示す斜視図である。図6は、スライダがワイパー退避位置にある状態を示す一部破断正面図である。
【0022】
図3に示すように、吐出口面51、52をキャッピングするためのキャップ1A、1Bは、キャップホルダ2A、2Bに保持されている。各キャップホルダ2A、2Bは、2箇所の爪部によってスライダ7に取り付けられている。各キャップホルダ2A、2Bとスライダ7との間には、キャップばねが取り付けられており、キャップ1A、1B及びキャップホルダ2A、2Bは、キャップばねによって上向きに付勢されている。キャップ1A、1Bは、キャリッジ6の移動方向に所定間隔をおいて配置されている。第1のワイパー8は、キャリッジ6が往復動作する記録領域側の端部に配置されており、カラー記録ヘッド5Aの吐出口面51をワイピングする。第2のワイパー9は、キャップ1A、1B間に配置されており、ブラック記録ヘッド5Bの吐出口面52をワイピングする。図5に示すように、ワイパー8、9は、スライダがワイピング位置に移動することで、記録ヘッド5A、5Bに対する進入量が高精度に制御される。
【0023】
各キャップ1A、1Bの内部は、不図示のチューブを通して、負圧発生機構である吸引ポンプ(不図示)に接続されている。キャップ1で記録ヘッド5の吐出口をキャッピングした状態で吸引ポンプを作動させることによってキャップ1内に負圧を発生させ、この負圧によって記録ヘッド5の吐出口からインクを吸引する。このような吸引動作で記録ヘッド5のインク流路内のインク中の気泡や固着インク等を排出することで、記録ヘッド5のインク吐出性能を維持することができる。
【0024】
スライダ7の両側面には、合計4箇所に横方向へ突出した棒状の突出部(または軸部)7b(図5、図6)が設けられている。4箇所の突出部7bは、スライダベース部13に設けられたスライダカム13a、13bに当接されている。また、図6に示すように、スライダ7は、スライダベース部13とスライダ7との間に張架されたスライダばね(引っ張りばね)17によって、記録領域に向かって斜め下方へ付勢されている。したがって、スライダ7は、スライダばね17の付勢力によって、各突出部7bをスライダカム13a、13bのカム面に当接させた状態で移動可能に取り付けられている。
【0025】
図3に示すように、スライダ7上には、記録領域側端部における搬送方向の下流側の部位に、スライダ7をワイピング位置にロック(係止)するように動作する係止部材としてのロックレバー16が設けられている。ロックレバー16は、ワイピング位置にスライダ7を係止する係止位置と、スライダ7の係止状態を解除する解除位置と、に回転移動可能に設けられている。
【0026】
ロックレバー16は、スライダ7が後述するワイピングトリガー位置に移動したときに、スライダ7をスライダベース部13に係止することによって、スライダ7の位置を規制するように作動する。ロックレバー16は、キャリッジ6の移動方向と直交(交差)する面内で、回転移動可能に設けられている。ロックレバー16は、その中央部が支持軸16eによって回転移動可能に支持されている。また、ロックレバー16は、支持軸16eとの間でラジアル方向またはスラスト方向にばね力が付勢されることで、所定の摩擦力をもって回転移動可能に支持されており、所定値以上の外力トルクが作用しない限り、外力等で変位させられた回動位置に保持される。
【0027】
スライダベース部13には、ロックレバー16の長手方向が鉛直方向と略平行(以下、垂直姿勢)になったときに、ロックレバー16の下端部16aが係止可能なロック面13dが設けられている。ロック面13dは、係止位置に移動したロックレバーと係合する係合部である。また、キャリッジ6の下部には、ロックレバー16の下端部16aとロック面13dとの係合状態を解除するためのロック解除用の突起部67が設けられている。
【0028】
ロック解除用の突起部67は、キャリッジ6が記録領域へ向かって移動するときに、係止位置(垂直姿勢)に保持されているロックレバー16の上端部16bに当接することによって、ロックレバー16を時計回りに回転移動させる。これによって、ロックレバー16の下端部16aとロック面13dとの係合状態が解除される。また、スライダベース部13には、スライダ7がワイピング位置に移動したときに、退避位置に回転移動されたロックレバー16が係止位置に回転移動するのを規制する規制部材としての係止解除ガイド部13e(図7、図9)が設けられている。
【0029】
スライダベース部13には、ワイピング位置にロックされたスライダ7のロック状態(ワイパーロック)を解除するためのワイパーホルダ係止解除部材に含まれるカム部材としての係止解除カム14(図6、図8、図10)が設けられている。係止解除カム14は、スライダベース部13に揺動可能に支持されている。係止解除カム14は、ワイパーホルダ係止解除部材に含まれる付勢部材としてのカムばね15によって付勢されている。カムばね15は、ロックレバー16が係止解除カム14に当接したときに、ロックレバー16を解除位置に回転移動させるように、係止解除カム14を付勢している。すなわち、係止解除カム14は、ロックレバー16の下端部16aが当接することで、ばねの付勢力で垂直姿勢にされているロックレバー16を図10における時計回りに回転移動させる。この状態のままでスライダ7を記録領域に向かって移動させたときに、スライダベース部13に設けられた係止解除ガイド部13eへロックレバー16の下端部16aを導き、ワイピング動作を行うことなくワイパー退避位置へ戻すことができる。
【0030】
(ワイピング動作有り時の動作)
次に、ワイピング動作有り時の動作を説明する。図7は、スライダがワイピングトリガー位置に移動した状態を示す斜視図である。図8は、スライダがワイピングトリガー位置に移動した状態を示す一部破断正面図である。記録動作中等に、キャリッジ6が回復機構部104のキャッピング領域へ移動して来ない状態では、ロックレバー16が、垂直姿勢から時計回りに回転移動された解除位置(傾斜姿勢)に位置している(図5)。
【0031】
キャリッジ6が、記録領域から回復機構部104に向かって移動したときに、キャリッジ6の側面部がスライダ7の突き当て部7aに当接する。これによって、スライダ7は、キャリッジ6に追従して、キャリッジ6と共に図6に示す矢印A方向へ移動する。スライダ7は、A方向への移動に伴い、スライダカム13a、13bのカム面に沿って上昇する。
【0032】
スライダ7が移動しているとき、ロックレバー16は、ばねの付勢力で生じる押圧力によって、図5の反時計回りに回転移動される。そして、ロックレバー16は、上述の摩擦力によって、下端部16aが、スライダベース部13のロック面13dに係止(ロック)可能な垂直姿勢に保持される。
【0033】
続いて、キャリッジ6は、ロックレバー16が係止解除カム14と当接する前に移動方向を反転する。ロックレバー16が係止解除カム14と当接する前にキャリッジが反転する位置をワイピングトリガー位置と称呼する。キャリッジ6が移動方向を反転すると、スライダ7は、スライダばね17の付勢力によってスライダカム13a、13bに沿って移動し、下降し始める。スライダ7が所定量下降した位置まで移動したとき、摩擦力で垂直姿勢である係止位置に保持されたロックレバー16の下端部16aが、スライダベース部13のロック面13dに突き当てられる。これによって、スライダ7は、ワイピング位置に停止し、ロックレバー16によってワイピング位置にロックされる。キャリッジ6がワイピング位置から更に記録領域に向かって移動すると、キャリッジ6は、スライダ7から離れていくことになる。
【0034】
キャリッジ6が更に記録領域に向かって移動したときに、キャリッジ6に搭載された記録ヘッド5の吐出口面51、52に、スライダ7に搭載されたワイパー8、9が摺擦し、ワイピング動作が行われる。カラー記録ヘッド5Aが第1のワイパー8によって拭掃され、ブラック記録ヘッド5Bが第2のワイパー9によって拭掃されることになる。
【0035】
キャリッジ6が記録領域に向かって更に移動し、吐出口面51、52が2枚のワイパー8、9を通過した後、キャリッジ6の下部に設けられたロック解除用の突起部67が、ロックレバー16の上端部16bを押圧する。ロックレバー16は、突起部67に押圧されることによって、支持軸16eを中心として図5の時計回りに回転移動させられる。したがって、ロックレバー16の下端部16aが、スライダベース部13のロック面13dから離れ、ロックレバー16によってスライダ7がロックされた状態も解除される。ロックレバー16によってロック状態が解除されたスライダ7は、スライダばね17の付勢力によってスライダカム13a、13bの記録領域寄りの最下部まで移動され、図5及び図6に示したワイパー退避位置へ戻される。
【0036】
(ワイピング動作無し時の動作)
次に、ワイピング動作無し時の動作を説明する。図9は、スライダがキャッピング位置に向けて移動する状態を示す斜視図である。図10は、スライダがキャッピング位置まで移動した状態を示す一部破断正面図である。図9に示すように、キャリッジ6が、記録領域に対して、上述のワイピングトリガー位置よりも奥に移動すると、スライダ7のロックレバー16は係止解除カム14に当接する。キャリッジ6が更にA方向に移動すると、ばねの付勢力によって垂直姿勢にされているロックレバー16は、カムばね15によって付勢された係止解除カム14の押圧力で、図5の時計回りに回転移動させられる。ロックレバー16は、下端部16aがスライダベース部13のロック面13dから離れた解除位置に回転移動される。
【0037】
そして、キャリッジ6と共にスライダ7が更にA方向に移動して、最上位置(キャッピング位置)まで到達したときに、スライダ7上のキャップ1A、1Bが記録ヘッド5A、5Bの吐出口面51、52に圧接され、吐出口を覆うキャッピング状態になる。このとき、ロックレバー16は、係止解除カム14によって押圧され、解除状態が保持される。また、スライダ7がキャッピング位置よりも、更にA方向に移動した場合にも、ロックレバー16は解除状態が保持される。
【0038】
キャリッジ6がキャッピング位置から移動方向を反転して、記録領域に向けて移動し始める。キャリッジ6が移動方向を反転すると、スライダ7はスライダばね17の付勢力によってスライダカム13a、13bに沿って移動し、下降し始める。ロックレバー16は、係止解除カム14によって押圧された解除状態のまま、スライダベース部13の係止解除ガイド部13eへ受け渡される。
【0039】
キャリッジ6が記録領域へ向かって更に移動するのに伴って、スライダ7がワイピング位置に移動したときに、ロックレバー16は係止解除ガイド部13eによって係止位置に回転移動することが規制される。このため、スライダ7がワイピング位置に移動したときに、スライダ7がワイピング位置に係止(ワイパーロック)されずにワイピング位置を通過する。
【0040】
最終的に、ロックレバー16は、ワイピング動作有り時の動作とは別の経路を通って、図5に示すワイパー退避位置に復帰する。
【0041】
上述したように、本実施形態は、スライダ7がワイピング位置から、記録領域に対して離れるA方向に移動するときに、ワイピング位置にスライダ7をロックしたロックレバー16を解除位置に回転移動させる係止解除カム14及びカムばね15を備える。これによって、ワイピング動作の有無を選択的に切り替えることができ、ワイピング動作を容易に最適なタイミングで制御することができる。
【符号の説明】
【0042】
5 記録ヘッド
6 キャリッジ
7 スライダ
8、9 ワイパー
13 スライダベース部
13e 係止解除ガイド部
14 係止解除カム
15 カムばね
16 ロックレバー
17 スライダばね
103 記録機構部
104 回復機構部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録領域において記録を行う記録ヘッドを搭載して移動するキャリッジと、
前記記録ヘッドの吐出口面をワイピングするワイパーを保持し、前記キャリッジの移動に追従して移動するワイパーホルダであって、前記吐出口面をワイピング可能なワイピング位置と前記吐出口面をワイピングできない退避位置とに移動可能なワイパーホルダと、
該ワイパーホルダに配され、前記ワイパーホルダを前記ワイピング位置に保持する係止位置と前記ワイパーホルダの係止状態を解除する解除位置とに移動可能な係止部材と、
前記キャリッジが前記記録領域から第1の位置まで移動することによって前記係止位置に移動した前記係止部材と係合する係合部と、
を備えるインクジェット記録装置において、
前記キャリッジが前記記録領域から前記第1の位置を越えて第2の位置まで移動したときに、前記係止部材を前記係止位置から前記解除位置へ移動させる係止解除部材を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記ワイパーホルダは、前記キャリッジに当接してスライド移動するスライダであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記係止部材は、前記キャリッジの移動方向と交差する面内で前記係止位置と前記解除位置とに回転移動することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記係止部材を前記解除位置から前記係止位置へ移動するように付勢する付勢部材を備えることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記係止解除部材は、前記係止部材を押圧することにより前記係止部材を前記係止位置から前記解除位置に移動させ、前記解除位置に移動した前記係止部材を保持するカム部材を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記係止部材が前記係止位置から前記解除位置へ移動するように前記カム部材を付勢する付勢部材を有することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記キャリッジが前記第2の位置から前記記録領域へ移動するときに、前記係止部材が前記解除位置から前記係止位置へ移動することを規制する規制部材を有することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記ワイパーホルダは、前記吐出口面をキャッピングするためのキャップが配されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記キャリッジは、カラーインクを吐出するカラーヘッドと、ブラックインクを吐出するブラックヘッドと、を搭載することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−60003(P2013−60003A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165881(P2012−165881)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】