説明

インクジェット記録装置

【課題】外側ベルトの全周において搬送される被記録媒体に高い記録精度で記録を行う。
【解決手段】インクジェットプリンタは、外側ベルト18と、内側ベルト15と、メンテナンスユニット3と、搬送モータ19と、ギヤ27などを備えている。外側ベルト18は、記録用紙100が載置されてインク噴射面10aと平行な搬送方向に走行する。内側ベルト15は、外側ベルト18によって規定される第1内部空間12に配置され、搬送方向に走行する。メンテナンスユニット3は、内側ベルト15によって規定される第2内部空間28に配置されている。搬送モータ19やギヤ27は、外側ベルト18と内側ベルト15とを走行駆動するために設けられている。外側ベルト18と内側ベルト15には、メンテナンス孔15a、18aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に画像などを記録するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のノズルが開口したインク噴射面を備えたインクジェットヘッドを有し、被記録媒体に対してインクジェットヘッドのノズルからインクを噴射させることにより、被記録媒体に画像などを記録するインクジェットプリンタについて開示されている。このインクジェットプリンタは、複数のプーリに巻回された搬送ベルト上に被記録媒体を吸着させて、搬送ベルトを走行することで、被記録媒体をインク噴射面と平行な搬送方向に搬送している。
【0003】
また、搬送ベルトによって規定される内部空間には、フラッシング時にノズルから噴射されたインクを受容するインク受容機構が設けられている。搬送ベルトには貫通孔が形成されており、フラッシング時には、搬送ベルトを走行させて貫通孔をインク噴射面とインク受容機構との間に移動させて、インク受容機構をインク噴射面側に露出させる。そして、インク受容機構に向かってノズルからインクを噴射させている。
【0004】
ところで、被記録媒体が搬送ベルトの貫通孔の上にかかった状態で搬送されると、搬送ベルトの貫通孔の上の部分については貫通孔側に凹んだりして記録精度が低下してしまう。そこで、特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、搬送ベルトによって規定される内部空間に、インク噴射面と対向する位置で貫通孔を塞ぐための板部材が設けられている。記録動作時には、板部材はインク噴射面と対向する位置に配置されて、搬送ベルトの貫通孔がインク噴射面と対向する位置に走行してきたときに、貫通孔を塞いでいる。一方、フラッシング時には、板部材は、インク噴射面と対向しない位置に退避して、搬送ベルトの貫通孔がインク噴射面と対向する位置に走行してきたときに、インク受容部を露出させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−23372号公報(図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の板部材はインク噴射面を塞いでいる間停止している。一方、搬送ベルトは記録動作時に被記録媒体を搬送するために走行している。被記録媒体が貫通孔の上に載置された状態で搬送される場合、被記録媒体と板部材との摩擦により、被記録媒体の載置位置がずれることがある。また、板部材は、走行する搬送ベルトとの接触摩擦により帯電する可能性も考えられる。この場合、帯電した板部材により被記録媒体が吸着されることにより、被記録媒体の載置位置がずれることもある。このように、被記録媒体が板部材の上を通過するときは、そうでないときと比べて、保持の程度に差が生じて搬送が不安定になり、記録精度が低下してしまう。
【0007】
本発明の目的は、外側ベルトの全周において搬送される被記録媒体に高い記録精度で記録を行うことができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録装置は、複数のノズルが開口したインク噴射面を有し、前記複数のノズルからシート状の被記録媒体にインクを噴射して画像を記録するインクジェットヘッドと、複数のプーリに巻回され、その外周面が前記インク噴射面と対向した状態で前記インク噴射面と平行な搬送方向に走行する外側ベルトと、前記外側ベルトによって規定される第1内部空間に配置され、複数のプーリに巻回されて前記搬送方向に走行する内側ベルトと、前記内側ベルトによって規定される第2内部空間に配置され、前記インクジェットヘッドのメンテナンスを行うためのメンテナンス部と、前記外側ベルトと前記内側ベルトとを走行駆動するための動力を供給する動力供給装置と、前記動力供給装置から供給された動力を前記外側ベルトと前記内側ベルトとに伝達する動力伝達手段と、を備え、前記外側ベルトには、前記メンテナンス部を露出可能な第1貫通孔が形成され、前記内側ベルトには、前記メンテナンス部を露出可能な第2貫通孔が形成されている。
【0009】
本発明におけるインクジェット記録装置によると、メンテナンス時には、外側ベルトの第1貫通孔と内側ベルトの第2貫通孔とを重ねて、内側ベルトによって規定された第2内部空間に配置されたメンテナンス部をインク噴射面側に露出させてメンテナンスを行うことができる。また、内側ベルトが走行可能であることから、外側ベルトの第1貫通孔を塞ぎ、第1貫通孔から露出した内側ベルトの部分も、外側ベルトと同様に搬送方向に移動する。したがって、外側ベルトの第1貫通孔から露出した内側ベルトの部分について、被記録媒体を支持するだけでなく搬送するのに利用することができる。これにより、第2貫通孔が形成された部分も含めて外側ベルトの全周において、搬送される被記録媒体に高い記録精度で記録を行うことができる。また、第1貫通孔を塞ぐ内側ベルトも走行するので、被記録媒体が、第1貫通孔上に載置されて搬送される場合とそうでない場合とで、保持の程度に大きな差が出なくなる。よって、記録精度が低下するのを防止することができる。
【0010】
また、前記外側ベルトの長さは、前記内側ベルトの長さの整数倍であることが好ましい。
【0011】
これによると、第1貫通孔と第2貫通孔とを重ねずにずらした状態から、外側ベルトと内側ベルトとを等速で走行させると、外側ベルトと内側ベルトとを何周走行させても、第1貫通孔と第2貫通孔とが重なることがない。したがって、内側ベルトと外側ベルトとのいずれかのベルトの走行速度を適宜のタイミングで変えたり停止させたりする複雑な制御をすることなく、記録動作を連続して行うことができる。
【0012】
さらに、前記外側ベルトに前記被記録媒体を吸着させ、且つ、前記内側ベルトに前記被記録媒体を吸着させるための吸着手段をさらに備えていることが好ましい。
【0013】
これによると、外側ベルトと内側ベルトとの両方が被記録媒体を吸着させることができる。そのため、被記録媒体の、外側ベルトに支持された部分と内側ベルトに支持された部分とで吸着の程度の差が小さくなり、外側ベルトの全周においてより安定して被記録媒体を搬送することができる。
【0014】
加えて、前記外側ベルトと前記内側ベルトとが前記インク噴射面と対向する領域において接触した接触位置と非接触位置とにわたって、前記内側ベルトまたは前記外側ベルトのいずれか一方を他方に対して相対移動させる離接手段をさらに備えていることが好ましい。
【0015】
例えば、メンテンス時に外側ベルトの第1貫通孔と内側ベルトの第2貫通孔とを重ねる際などに、外側ベルトと内側ベルトの一方のみが走行する場合や、外側ベルトと内側ベルトが異なる速度で走行する場合がある。このような場合において、離接手段によって内側ベルトの外周面と外側ベルトの内周面との間に隙間を形成して、外側ベルトまたは内側ベルトを走行させることで、外側ベルトと内側ベルトとの間で接触摩擦が生じることがなく、内側ベルトと外側ベルトの摩耗をなくすことができる。また、摩耗により異物が発生することもない。
【0016】
このとき、前記離接手段は、前記内側ベルトを前記外側ベルトに対して移動させていることが好ましい。
【0017】
これによると、インク噴射面と外側ベルトとの間のギャップは、被記録媒体への記録精度を向上させるために微小となっており、外側ベルトを内側ベルトから離すために、インク噴射面側に移動させるのは困難である。一方、外側ベルトによって規定される第1内部空間には、内側ベルトとメンテナンス部が配置されているが、両者のギャップは微小にする必要がなく、内側ベルトをインク噴射面から離れる側に移動させるのは容易である。
【0018】
そして、前記動力伝達手段は、前記動力供給装置から供給された動力を、前記外側ベルトまたは前記内側ベルトのいずれか一方のベルトへ伝達する第1伝達部と他方のベルトとへ伝達する第2伝達部と、を有し、前記第2伝達部から前記他方のベルトへ動力を伝達する状態と伝達しない状態とを切り換える切り換え部をさらに備えていてもよい。
【0019】
これによると、動力供給装置から供給された動力により、内側ベルトと外側ベルトとのいずれか一方のベルトを走行駆動する。そして、一方のベルトが走行するのにともなって、他方のベルトも一体的に走行する。そのため、動力供給装置を簡素化することができる。さらに、外側ベルトと内側ベルトとは一体的に等速で走行する。そのため、外側ベルトの外周面と外側ベルトの第1貫通孔から露出した内側ベルトの外周面との間で被記録媒体を搬送するときにおける保持の程度の差が小さくなり、外側ベルトの全周においてより一層安定して被記録媒体を搬送することができる。また、外側ベルトと内側ベルトとの接触摩擦が小さく摩耗を低減することができるとともに、摩耗により発生する異物を減らすことができる。
【0020】
さらに、外側ベルトと内側ベルトとの間で動力を伝達しない状態に切り換えることができることで、メンテナンス時において、第1貫通孔と第2貫通孔を重ねるために、まず、外側ベルトと内側ベルトとの間で動力を伝達する状態に切り換えて、外側ベルトと内側ベルトとを一体的に走行させる。そして、動力が供給されていない他方のベルトの貫通孔をインク噴射面と対向する位置に移動させた後、外側ベルトと内側ベルトとの間で動力を伝達しない状態に切り換える。その後、動力が供給されている一方のベルトの貫通孔をインク噴射面と対向する位置に移動させる。これにより、外側ベルトと内側ベルトとの間で接触摩擦が生じることなく、第1貫通孔と第2貫通孔とをインク噴射面と対向する位置において重ねることができる。
【0021】
このとき、前記切り換え部は、前記外側ベルトの内周面と前記内側ベルトの外周面とが前記インク噴射面と対向する領域において接触した状態と非接触の状態とを切り換えることで、動力を伝達する状態と伝達しない状態とを切り換えることが好ましい。
【0022】
これによると、内側ベルトと外側ベルトとを押し付けるなどして接触させて、動力が供給されている一方のベルトを駆動すれば、外側ベルトと内側ベルトとの両方を一体的に走行させることができる。また、外側ベルトと内側ベルトとを接触させた状態を解除して非接触の状態に切り換えれば、一方のベルトのみ走行させることができる。
【0023】
また、前記動力供給装置は、前記外側ベルトを走行駆動するための動力を供給する第1動力源と、前記内側ベルトを走行駆動するための動力を供給する第2動力源と、を有し、前記動力伝達手段は、前記第1動力源から供給された動力を前記外側ベルトへ伝達する外側伝達部と、前記第2動力源から供給された動力を前記内側ベルトへ伝達する内側伝達部と、有していてもよい。
【0024】
これによると、外側ベルトと内側ベルトとを独立別個に走行させることができる。したがって、例えば、メンテンス時に外側ベルトの第1貫通孔と内側ベルトの第2貫通孔とを重ねるなどの位置合わせの際に、位置合わせが容易となる。
【0025】
このとき、前記外側ベルトと前記内側ベルトとは、前記被記録媒体にインクを噴射する記録動作時に同じ走行速度で走行することが好ましい。
【0026】
これによると、記録動作時に外側ベルトと内側ベルトとは等速で走行している。そのため、外側ベルトと外側ベルトの第1貫通孔から露出した内側ベルトとの間で被記録媒体を搬送するときにおける保持の程度の差が小さくなり、外側ベルトの全周においてより安定して被記録媒体を搬送することができる。
【0027】
また、前記内側ベルトの外周面と前記外側ベルトの内周面とは、前記インク噴射面と対向する領域において接触しており、前記外側ベルトの前記内周面には、全周にわたって突起が形成されていることが好ましい。
【0028】
これによると、外側ベルトと内側ベルトの一方が走行したときに他方も従動して走行するのを抑制することができる。また、外側ベルトと内側ベルトの接触面積を減らして、外側ベルトと内側ベルトとの間で生じる接触摩擦を小さくして、内側ベルトと外側ベルトの摩耗を小さくことができるとともに、摩耗により発生する異物を減らすことができる。また、接触摩擦が小さくなることで、被記録媒体の搬送精度を向上させて、被記録媒体への記録精度を向上させることができる。
【0029】
さらに、前記内側ベルトの外周面と前記外側ベルトの内周面とは、前記インク噴射面と対向する領域において接触しており、前記内側ベルトの前記外周面または前記外側ベルトの前記内周面には、前記外側ベルトの外周面よりも摩擦係数が小さくなるように表面処理またはコーティングが施されていることが好ましい。
【0030】
これによると、外側ベルトと内側ベルトの一方が走行したときに他方も従動して走行するのを抑制することができる。また、外側ベルトと内側ベルトとの間で生じる接触摩擦を小さくして、内側ベルトと外側ベルトの摩耗を低減することができるとともに、摩耗により発生する異物を減らすことができる。また、接触摩擦が小さくなることで、被記録媒体の搬送精度を向上させて、被記録媒体への記録精度を向上させることができる。
【0031】
加えて、前記内側ベルトの外周面と前記外側ベルトの内周面とは、前記インク噴射面と対向する領域において接触しており、前記内側ベルトの前記外周面及び前記外側ベルトの前記内周面には、前記外側ベルトの外周面よりも硬度の高い層が形成されていることが好ましい。
【0032】
これによると、外側ベルトと内側ベルトとが接触摩擦により摩耗するのを低減することができる。
【発明の効果】
【0033】
メンテナンス時には、外側ベルトの第1貫通孔と内側ベルトの第2貫通孔とを重ねて、内側ベルトによって規定された第2内部空間に配置されたメンテナンス部をインク噴射面側に露出させてメンテナンスを行うことができる。また、内側ベルトが走行可能であることから、外側ベルトの第1貫通孔を塞ぎ、第1貫通孔から露出した内側ベルトの部分も、外側ベルトと同様に搬送方向に移動する。したがって、外側ベルトの第1貫通孔から露出した内側ベルトの部分について、被記録媒体を支持するだけでなく搬送するのに利用することができる。これにより、第2貫通孔が形成された部分も含めて外側ベルトの全周において、搬送される被記録媒体に高い記録精度で記録を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態に係るインクジェットプリンタを概略的に示す平面図である。
【図2】図1のインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。
【図3】外側ベルトと内側ベルトの展開図である。
【図4】キャップ部材のキャッピング状態におけるインクジェットプリンタの側面図である。
【図5】インクジェットプリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図6】外側ベルトと内側ベルトのインク噴射面と対向する部分における幅方向に沿った断面図である。
【図7】メンテナンス動作開始前における外側ベルトと内側ベルトの駆動工程について説明する工程図である。
【図8】第2実施形態に係るインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。
【図9】第2実施形態に係るメンテナンス開始前における外側ベルトと内側ベルトの駆動工程について説明する工程図である
【図10】変形例1における外側ベルトと内側ベルトの幅方向に沿った断面図である。
【図11】変形例2、3における外側ベルトと内側ベルトの幅方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係るインクジェットプリンタを概略的に示す平面図である。図2は、図1のインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。図1においては、外側ベルト18のメンテナンス孔18a、吸着孔18bの図示を省略している。図2においては、外側ベルト18と内側ベルト15については断面で示している。
【0036】
図1、図2に示すように、インクジェットプリンタ1は、被記録媒体である記録用紙100に画像などを記録する記録部2と、この記録部2の後述するインクジェットヘッド10のメンテナンスを行うメンテナンスユニット3と、インクジェットプリンタ1の各部の制御を行う制御装置4(図5参照)などを有している。
【0037】
記録部2は、インクを噴射するインクジェットヘッド10と、このインクジェットヘッド10に対して記録用紙100を搬送する搬送機構11と、を有している。
【0038】
図1に示すように、インクジェットヘッド10は、水平面に沿った所定方向(主走査方向)に沿って配列された複数のノズル5を有している。複数のノズル5は、主走査方向に直交する方向(副走査方向)に並ぶ4列のノズル列を構成している。これらノズル列の長さは記録用紙100の主走査方向に関する幅以上となっている。また、インクジェットヘッド10は、複数のノズル5が開口したインク噴射面10aを有し、このインク噴射面10aが下方を向いた姿勢で筐体6に固定されている。すなわち、インクジェットヘッド10は、記録用紙100に対向する所定の記録位置に固定された状態で、搬送機構11によって搬送される記録用紙100にインクを噴射する。インクジェットヘッド10は、いわゆるラインタイプのヘッドである。
【0039】
インクジェットヘッド10には、図示しない4つのインクカートリッジから4色(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)のインクが供給される。そして、インクジェットヘッド10の4列のノズル列が、上記4色のインクをそれぞれ噴射する。
【0040】
図2に示すように、搬送機構11は、インクジェットヘッド10の下側に配置されている。搬送機構11は、2つのプーリ16、17と、外側ベルト18と、搬送モータ19と、ギヤ27と、2つのプーリ13、14と、内側ベルト15と、を有している。プーリ16、17は、副走査方向に関してインクジェットヘッド10を挟んで距離をあけて配置されている。外側ベルト18は、2つのプーリ16、17に巻回されている。搬送モータ19は、回転駆動するための動力をプーリ16に供給する。ギヤ27は、搬送モータ19をプーリ16と連結させて、搬送モータ19の動力をプーリ16に伝達させる。
【0041】
2つのプーリ13、14と内側ベルト15とは、外側ベルト18の内周面18cによって規定された第1内部空間に配置されている。2つのプーリ13、14は、副走査方向に関してインクジェットヘッド10を挟んで距離をあけて配置されている。内側ベルト15は、プーリ13、14に巻回されている。
【0042】
外側ベルト18は、ゴムなどの可撓性材料によって形成された無端ベルトである。外側ベルト18の上部における外周面18dは、インクジェットヘッド10のインク噴射面10aとわずかな隙間を空けて対向した状態で配置されている。この外側ベルト18の上部における外周面18dには、図示しない給紙機構から供給された記録用紙100が載置される。搬送モータ19から供給された動力がギヤ27によりプーリ16に伝達されて回転駆動されると、それにともなって外側ベルト18が走行する。これにより、外側ベルト18に載置された記録用紙100が、副走査方向と平行な方向(搬送方向)に搬送される。外側ベルト18の主走査方向に関する幅は、インクジェットヘッド10の主走査方向に関する幅、及び、搬送される記録用紙100の主走査方向に関する幅よりも大きくなっている。
【0043】
プーリ16には、プーリ16の回転角度及び回転数を検出するエンコーダ20が装着されている。そして、エンコーダ20の検出信号に基づいて、制御装置4は、外側ベルト18上の記録用紙100の位置及び後述するメンテナンス孔18aの位置を把握し、搬送モータ19による記録用紙100の搬送を制御する。
【0044】
内側ベルト15は、外側ベルト18と同様に、ゴムなどの可撓性材料によって形成された無端ベルトである。内側ベルト15及び2つのプーリ13、14は、モータなどの駆動源とギヤなどの動力伝達部材で構成されるベルト昇降駆動部21(図5参照)によって昇降駆動される。内側ベルト15は、ベルト昇降駆動部21によって駆動されて上昇して、外側ベルト18に押し付けられた接触位置に移動する。このように内側ベルト15が接触位置に移動して外側ベルト18に押し付けられた状態で、外側ベルト18が走行すると、それにともなって内側ベルト15が接触摩擦により外側ベルト18と一体的に等速で走行する。なお、内側ベルト15は、外側ベルト18との接触摩擦だけでなく、外側ベルト18のプーリ16と内側ベルト15のプーリ13とがギヤで連結されてもよい。このとき、外側ベルト18が走行すると、それにともなって内側ベルト15が外側ベルト18と一体的に等速で走行する。
【0045】
内側ベルト15は、ベルト昇降駆動部21によって駆動されて下降して、その外周面15dが外側ベルト18の内周面18cと隙間をあけた非接触位置に移動する。なお、この非接触位置の場合において、上述したように外側ベルト18のプーリ16と内側ベルト15のプーリ13とがギヤで連結されている際には両者の連結を解除する。この場合、外側ベルト18のみが走行可能となる。また、内側ベルト15の主走査方向に関する幅は、外側ベルト18の主走査方向に関する幅と同じになっている。
【0046】
プーリ13には、プーリ13の回転角度及び回転数を検出するエンコーダ22が装着されている。そして、エンコーダ22の検出信号に基づいて、制御装置4は、後述するメンテナンス孔15aの位置を把握し、搬送モータ19による記録用紙100の搬送を制御する。
【0047】
図3は、外側ベルト18と内側ベルト15の展開図である。図2、図3に示すように、外側ベルト18には、メンテナンス孔18aと複数の吸着孔18bとが形成されている。メンテナンス孔18aは、その長辺が外側ベルト18の幅よりもやや小さい程度の矩形状の孔である。メンテナンス孔18aは、後述するメンテナンスユニット3のキャップ部材23を通過させるための孔である。吸着孔18bは、メンテナンス孔18aと比べて非常に孔径の小さい孔である。吸着孔18bは、外側ベルト18の面全体に配置されている。
【0048】
また、内側ベルト15には、メンテナンス孔15aと複数の吸着孔15bとが形成されている。メンテナンス孔15aは、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと同じ形状の孔である。メンテナンス孔15aは、後述するメンテナンスユニット3のキャップ部材23を通過させるための孔である。吸着孔15bは、外側ベルト18の吸着孔18bと同じ形状の孔である。吸着孔15bは、内側ベルト15の面全体に配置されている。
【0049】
そして、外側ベルト18の複数の吸着孔18bと内側ベルト15の複数の吸着孔15bとを介して、負圧源であるポンプなどで構成される用紙吸引装置39(図5参照)で発生した負圧を記録用紙100に作用させる。これにより、搬送中に落下しないように記録用紙100が外側ベルト18に吸着保持される。また、図3に示すように、外側ベルト18の長さL1は、内側ベルト15の長さL2の2倍となっている。
【0050】
メンテナンスユニット3は、インクジェットヘッド10の液体噴射性能の維持や回復(メンテナンス)を行うものである。メンテナンスユニット3は、内側ベルト15の内周面15cによって規定される第2内部空間28に配置されている。図4は、キャップ部材のキャッピング状態におけるインクジェットプリンタ1の側面図である。図4に示すように、メンテナンスユニット3は、キャップ部材23と、このキャップ部材23に接続された吸引ポンプ24(図5参照)などを有している。
【0051】
キャップ部材23は、ゴムなどの弾性部材からなる。キャップ部材23は、モータなどの駆動源とギヤなどの動力伝達部材で構成されるキャップ駆動部26(図5参照)によって昇降駆動される。図4に示すように、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとがインクジェットヘッド10のインク噴射面10aの真下の位置にある状態でキャップ部材23がキャップ駆動部26により押し上げられる。すると、キャップ部材23は、メンテナンス孔15a、18aを通過してインクジェットヘッド10のインク噴射面10aに密着し、インク噴射面10aを覆うキャッピング状態となる。
【0052】
このキャッピング状態において、吸引ポンプ24がキャップ部材23内を減圧することにより、インクジェットヘッド10の複数のノズル5からインクを強制的に排出する(吸引パージ)。この吸引パージによって、ノズル5の噴射不能、あるいは、噴射曲がりといった噴射異常の原因となる、インク流路内に混入した異物や気泡、あるいは、ノズル5内の乾燥によって生じる増粘インクなどを、ノズル5から排出することができる。
【0053】
なお、外側ベルト18のメンテナンス孔18a及び内側ベルト15のメンテナンス孔15aが、インク噴射面10aの真下に位置する状態で、インクジェットヘッド10は、ノズル5の乾燥を防止する目的で、ノズル5からインクを噴射させるフラッシングを行うこともできる。そのために、メンテナンスユニット3は、図示は省略するが、上記フラッシングによって噴射されたインクを受ける液受け部も有している。
【0054】
次に、インクジェットプリンタ1の電気的構成について図5のブロック図を参照して説明する。図5に示されるインクジェットプリンタ1の制御装置4は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、インクジェットプリンタ1の全体動作を制御するための各種プログラムやデータなどが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)などを含むマイクロコンピュータを備えている。そして、制御装置4は、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、インクジェットプリンタ1全体の動作を制御する。あるいは、制御装置4は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたものであってもよい。
【0055】
この制御装置4は、ヘッド制御部41と、搬送制御部42と、メンテナンス制御部43と、離接制御部44と、を有している。なお、ヘッド制御部41、搬送制御部42、メンテナンス制御部43及び離接制御部44のそれぞれの機能は、実際には、制御装置4を構成している上述のマイクロコンピュータの動作、あるいは、演算回路を含む各種回路の動作によって実現される。ヘッド制御部41は、インクジェットヘッド10を制御する。搬送制御部42は、搬送機構11の搬送モータ19や記録用紙100を外側ベルト18に吸着させるための用紙吸引装置39を制御する。メンテナンス制御部43は、メンテナンスユニット3のメンテナンス動作を制御する。離接制御部44は、内側ベルト15の昇降動作を制御する。
【0056】
記録動作について説明する。記録動作時には、初期位置として、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが、インク噴射面10aと対向する位置で重ならないようにずれて配置される。メンテナンス孔18aとメンテナンス孔15aとを上述したようなずれた位置関係にするには、まず、離接制御部44によりベルト昇降駆動部21を制御して、内側ベルト15を非接触位置に移動させた状態にする。そして、エンコーダ20、22から入力された信号に基づき、搬送制御部42が外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aの位置を把握する。メンテナンス孔15a、18aの把握した位置に応じて、メンテナンス孔15a、18aの位置がずれるように搬送制御部42により搬送モータ19を制御して外側ベルト18を走行させる。これにより、メンテナンス孔18aとメンテナンス孔15aとをずれた位置関係にすることができる。
【0057】
そして、記録動作として、PC40から記録データが入力されると、まず、離接制御部44によりベルト昇降駆動部21を制御して、内側ベルト15を接触位置に移動させる。続いて、搬送制御部42により搬送モータ19を制御して外側ベルト18を走行させる。すると、外側ベルト18に接触した内側ベルト15も、外側ベルト18の走行にともなって外側ベルト18と等速で走行する。
【0058】
このように、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとを重ねずにずらした状態から、外側ベルト18と内側ベルト15とを等速で走行させる。すると、外側ベルト18と内側ベルト15とを何周走行させても、メンテナンス孔15a、18aが重なることがなく、外側ベルト18のメンテナンス孔18aは内側ベルト15によって塞がれている。
【0059】
図6に示すように、内側ベルト15も外側ベルト18と同様に走行しており、外側ベルト18のメンテナンス孔18aを塞いでいる。メンテナンス孔18aから露出した内側ベルト15の部分は、外側ベルト18と同様に、用紙吸引装置39により記録用紙100を吸引搬送することができる。したがって、内側ベルト15の、外側ベルト18のメンテナンス孔18aから露出した部分について、記録用紙100を支持するだけでなく搬送するのに利用することができる。なお、外側ベルト18の吸着孔18bと内側ベルト15の吸着孔15bは、厚み方向に重なっていなくても、ベルト間の隙間を介して連通しており、記録用紙100を問題なく吸着させて搬送することができる。
【0060】
メンテナンスユニット3によってメンテナンス動作を開始する工程までについて説明する。ここでは、記録動作後において、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが重ならない位置関係となっている状態から、メンテナンス動作を開始するまでについて説明する。図7は、メンテナンス動作開始前における外側ベルトと内側ベルトの駆動工程について説明する工程図である
【0061】
まず、記録動作時には、図7(a)に示すように、内側ベルト15は接触位置に位置しており、外側ベルト18とともに走行して記録用紙100を搬送している。このとき、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが重ならない位置関係となっている。しかしながら、メンテナンス動作時については、インク噴射面10aと対向する領域において、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとを重ならせて、メンテナンスユニット3をメンテナンス孔15a、18aから露出させる必要がある。
【0062】
そこで、内側ベルト15が接触位置に位置した状態で、搬送制御部42により搬送モータ19を制御して外側ベルト18を走行させる。そして、図7(b)に示すように、内側ベルト15のメンテナンス孔15aを、インク噴射面10aと対向した位置に移動させる。この制御は、エンコーダ22から入力された信号に基づき、搬送制御部42が、内側ベルト15のメンテナンス孔15aの位置を把握することによって可能となる。
【0063】
その後、図7(c)に示すように、離接制御部44によりベルト昇降駆動部21を制御して、内側ベルト15を非接触位置に移動させる。続けて、搬送制御部42により搬送モータ19を制御して外側ベルト18を走行させ、図7(d)に示すように、外側ベルト18のメンテナンス孔18aを、インク噴射面10aと対向した位置に移動させる。このとき、内側ベルト15は非接触位置にあり、外側ベルト18と接触していない。そのため、外側ベルト18が走行しても、内側ベルト15は走行しない。そのため、内側ベルト15のメンテナンス孔15aはインク噴射面10aと対向したままとなっている。これにより、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが、インクジェットヘッド10と対向して、メンテナンス孔15a、18aからメンテナンスユニット3が露出する。そして、メンテナンス動作を行うことができる。
【0064】
本実施形態におけるインクジェットプリンタ1によると、内側ベルト15が外側ベルト18と同様に走行する。したがって、内側ベルト15の、外側ベルト18のメンテナンス孔18aから露出した部分について、記録用紙100を支持するだけでなく搬送するのに利用することができる。これにより、メンテナンス孔18aが形成された部分も含めて外側ベルト18の全周において、搬送される記録用紙100に高い記録精度で記録を行うことができる。また、メンテナンス孔18aを塞ぐ内側ベルト15も走行するので、記録用紙Pが、メンテナンス孔18a上に載置されて搬送される場合とそうでない場合とで、保持の程度に大きな差が出なくなる。よって、記録精度が低下するのを防止することができる。
【0065】
また、外側ベルト18の長さが、内側ベルト15の長さの2倍になっている。そして、メンテナンス孔15a、18aを重ねずにずらした状態から、外側ベルト18と内側ベルト15とを等速で走行させている。これにより、外側ベルト18と内側ベルト15とを何周走行させても、メンテナンス孔15a、18aが重なることがない。したがって、記録動作時の途中で、メンテナンス孔15a、18aが重ならないように、内側ベルト15と外側ベルト18とのいずれかのベルトの走行速度を適宜のタイミングで変えたり停止させたりする複雑な制御をすることなく、記録動作を連続して行うことができる。
【0066】
さらに、記録用紙100を載置する外側ベルト18に複数の吸着孔18bが形成されて用紙吸引装置39により記録用紙100を吸引吸着させることができる。内側ベルト15にも複数の吸着孔15bが形成されて用紙吸引装置39により記録用紙100を吸引吸着させることができる。そのため、記録用紙100の、外側ベルト18に支持された部分と内側ベルト15に支持された部分とで搬送特性の差が小さくなり、外側ベルト18の全周においてより安定して記録用紙100を搬送することができる。
【0067】
また、搬送モータ19から供給された動力により、外側ベルト18のみ走行駆動する。内側ベルト15は外側ベルト18に押し付けることで一体的に走行させている。そのため、搬送モータ19などの動力源を簡素化することができる。さらに、外側ベルト18と内側ベルト15とは一体的に等速で走行する。そのため、外側ベルト18と外側ベルト18のメンテナンス孔18aから露出した内側ベルト15との間で記録用紙100を搬送するときにおける搬送特性の差が小さくなる。したがって、外側ベルト18の全周においてより一層安定して記録用紙100を搬送することができる。また、外側ベルト18と内側ベルト15との接触摩擦が小さく摩耗を低減することができる。摩耗により発生する異物を減らすことができる。
【0068】
また、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとを重ねる際に、離接制御部44によってベルト昇降駆動部21を制御して、内側ベルト15と外側ベルト18とを非接触の状態にして、外側ベルト18のみを走行させる。これにより、外側ベルト18と内側ベルト15との間で接触摩擦が生じることがない。したがって、内側ベルト15と外側ベルト18の摩耗をなくすことができる。また、摩耗により異物が発生することもない。また、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとを重ねるなどの位置合わせの際にも、外側ベルト18と内側ベルト15との間で接触摩擦が生じていない。そのため、位置合わせ精度を向上させることができる。
【0069】
このとき、ベルト昇降駆動部21によって内側ベルト15を外側ベルト18に対して移動させている。これは、インク噴射面10aと外側ベルト18との間のギャップは、記録用紙100への記録精度を向上させるために微小となっている。そのため、外側ベルト18を内側ベルト15とから離すために、インク噴射面10a側に移動させるのは困難である。一方、外側ベルト18の第1内部空間12には、内側ベルト15とメンテナンスユニット3が配置されているが、両者のギャップは微小にする必要がなく、内側ベルト15をインク噴射面10aから離れる側に移動させるのは容易である。
【0070】
なお、第1実施形態におけるメンテナンス孔18a(15a)が本発明における第1貫通孔(第2貫通孔)に相当する。また、第1実施形態におけるギヤ27が本発明における第1伝達部に相当する。さらに、第1実施形態における外側ベルト18の内周面18cと内側ベルト15の外周面15dとの接触部分が本発明における第2伝達部に相当する。また、第1実施形態における搬送モータ19が本発明における動力供給装置に相当する。加えて、第1実施形態におけるベルト昇降駆動部21が本発明における離接手段及び切り換え部に相当する。
【0071】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、第1実施形態と異なり、内側ベルト15が外側ベルト18の走行駆動によらず、独立で走行駆動可能となっている。そこで、以下の第2実施形態の説明では、第1実施形態との相違する構成について説明する。同様の構成を有するものについては同じ符号を付して適宜その説明を省略する。図8は、第2実施形態に係るインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。
【0072】
図8に示すように、搬送機構51は、第1実施形態において説明した外側ベルト18や外側ベルト18を走行駆動させる構成に加えて、内側ベルト15と、搬送モータ59と、ギヤ57と、有している。搬送モータ59は、内側ベルト15を巻回するプーリ13に回転駆動するための動力を供給する。ギヤ57は、搬送モータ59をプーリ13に連結させて動力を伝達させる。
【0073】
そして、搬送モータ59から供給された動力がギヤ57によりプーリ13に伝達されて回転駆動されると、それにともなって内側ベルト15が走行する。すなわち、第2実施形態においては、外側ベルト18と内側ベルト15とは、それぞれ別々の駆動源により独立して走行することができる。また、第2実施形態における内側ベルト15は、第1実施形態と同様に、ベルト昇降駆動部21により外側ベルト18に押し付けられた接触位置と、外側ベルト18に接触しない非接触位置に移動可能となっている。そして、制御装置4の搬送制御部42は、搬送モータ19、用紙吸引装置39に加えて、搬送モータ59を制御している。
【0074】
記録動作について説明する。記録動作時には、第1実施形態と同様に、初期位置として、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが、インク噴射面10aと対向する位置で重ならないようにずれて配置される。メンテナンス孔18aとメンテナンス孔15aとを上述したようなずれた位置関係にするには、まず、離接制御部44によりベルト昇降駆動部21を制御して、内側ベルト15を非接触位置に移動させた状態にする。そして、エンコーダ20、22から入力された信号に基づき、搬送制御部42が外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aの位置を把握する。メンテナンス孔15a、18aの把握した位置に応じて、メンテナンス孔15a、18aの位置がずれるように搬送モータ19または搬送モータ59のいずれかのモータを制御して、外側ベルト18または内側ベルト15のいずれかを走行させる。これにより、メンテナンス孔18aとメンテナンス孔15aとをずれた位置関係にすることができる。
【0075】
そして、記録動作として、PC40から記録データが入力されると、まず、離接制御部44によりベルト昇降駆動部21を制御して、内側ベルト15を接触位置に移動させる。続いて、搬送制御部42が搬送モータ19、59を制御して外側ベルト18と内側ベルト15を等速にて走行させる。
【0076】
これにより、第1実施形態と同様に、内側ベルト15も外側ベルト18と同様に走行しており、外側ベルト18のメンテナンス孔18aを塞いでいる。メンテナンス孔18aから露出した内側ベルト15の部分は、外側ベルト18と同様に、用紙吸引装置39により記録用紙100を吸引搬送することができる。したがって、内側ベルト15の、外側ベルト18のメンテナンス孔18aから露出した部分について、記録用紙100を支持するだけでなく搬送するのに利用することができる。
【0077】
メンテナンスユニット3によってメンテナンス動作を開始する工程までのについて説明する。ここでは、記録動作後において、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが重ならない位置関係となっている状態から、メンテナンス動作を開始するまでについて説明する。図9は、第2実施形態に係るメンテナンス動作開始前における外側ベルトと内側ベルトの駆動工程について説明する工程図である
【0078】
まず、記録動作時には、図9(a)に示すように、内側ベルト15は接触位置に位置しており、外側ベルト18とともに走行して記録用紙100を搬送している。このとき、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが重ならない位置関係となっている。しかしながら、メンテナンス動作時については、インク噴射面10aと対向する領域において、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとを重ならせて、メンテナンスユニット3をメンテナンス孔15a、18aから露出させる必要がある。
【0079】
まず、図9(b)に示すように、離接制御部44によりベルト昇降駆動部21を制御して、内側ベルト15を非接触位置に移動させる。その後、搬送制御部42が搬送モータ19、59を制御して外側ベルト18及び内側ベルト15をそれぞれ走行させる。そして、図9(c)に示すように、外側ベルト18のメンテナンス孔18a、及び内側ベルト15のメンテナンス孔15aを、インク噴射面10aと対向した位置に移動させる。これにより、外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとが、インクジェットヘッド10と対向して、メンテナンス孔15a、18aからメンテナンスユニット3が露出する。そして、メンテナンス動作を行うことができる。
【0080】
第2実施形態に係るインクジェットプリンタによると、第1実施形態と同様に、メンテナンス孔18aが形成された部分も含めて外側ベルト18の全周において、搬送される記録用紙100に高い記録精度で記録を行うことができる。
【0081】
また、外側ベルト18と内側ベルト15とを独立別個に走行させることができる。したがって、例えば、上述したようなメンテンス時に外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとを重ねるなどの位置合わせの際に位置合わせが容易となる。
【0082】
さらに、記録動作時には、搬送制御部42により外側ベルト18と内側ベルト15とを等速で走行させている。そのため、外側ベルト18の外周面18dと外側ベルト18のメンテナンス孔18aから露出した内側ベルト15の外周面15dとの間で記録用紙100を搬送するときにおける搬送特性の差が小さくなる。したがって、外側ベルト18の全周においてより安定して記録用紙100を搬送することができる。
【0083】
なお、第2実施形態におけるギヤ27(ギヤ57)が本発明における外側伝達部(内側伝達部)に相当する。第1実施形態における搬送モータ19(搬送モータ59)が本発明における第1動力源(第2動力源)に相当する。
【0084】
次に、上述した各実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、上述した実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0085】
上述した第1実施形態においては、外側ベルト18を巻回するプーリ16に搬送モータ19が連結されて、外側ベルト18の走行にともなって内側ベルト15が走行していた。しかしながら、プーリ16には搬送モータが連結されずに、内側ベルト15を巻回するプーリ13(14)に搬送モータが連結されて、内側ベルト15の走行にともなって外側ベルト18が走行してもよい。
【0086】
また、上述した各実施形態においては、内側ベルト15が上下方向に移動して、外側ベルト18に対して離接していた。しかしながら、外側ベルト18が上下方向に移動して、内側ベルト15に対して離接してもよい。このとき、内側ベルト15(外側ベルト18)は上下方向(インク噴射面10aと対向する方向)に沿って移動せずに、内側ベルト15と外側ベルト18が離接するのであれば、その移動方向はいかなる方向であってもよい。
【0087】
さらに、上述した各実施形態においては、内側ベルト15と外側ベルト18を接触させるために、内側ベルト15に加えて、プーリ16、17も昇降移動させていた。しかしながら、内側ベルト15の上部のみを押し上げて、外側ベルト18に接触させる構成であってもよい。
【0088】
加えて、上述した第1実施形態においては、外側ベルト18に内側ベルト15を押し付けたときの接触摩擦により、外側ベルト18の走行にともなって内側ベルト15を走行させていた。しかしながら、外側ベルト18のプーリ16と内側ベルト15のプーリ13をギヤで連結させてもよい。また、図10に示すように、外側ベルト68の内周面68aが凹凸の連続した歯付ベルトになっている。内側ベルト65の外周面65aも、外側ベルト68の内周面68aと係合可能な凹凸の連続した歯付ベルトになっている。そして、内側ベルト65または外側ベルト68のいずれかの一方のベルトを走行駆動することで、他方のベルトを従動して走行させてもよい(変形例1)。
【0089】
また、内側ベルト15や外側ベルト18を巻回するプーリの数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。
【0090】
さらに、上述した各実施形態においては、外側ベルト18(内側ベルト15)に記録用紙100を吸着させる手段として、吸着孔18b(15b)から吸引していた。しかしながら、例えば、外側ベルト18(内側ベルト15)の表面を帯電させることにより、記録用紙100との間に静電気力を発生させて吸着させる手段を採用することもできる。
【0091】
また、上述した各実施形態においては、外側ベルト18の長さは、内側ベルト15の長さの2倍であった。しかしながら、外側ベルト18の長さは、内側ベルト15の整数倍であれば、メンテナンス孔15a、18aを重ねずにずらした状態から、外側ベルト18と内側ベルト15とを等速で走行させると、メンテナンス孔15a、18aが重なることがない。また、整数倍でなくてもよい。ただし、記録動作時にはメンテナンス孔15a、18aが重ならないように、一旦一方のベルトだけ走行させる必要が生じる場合がある。しかしながら、外側ベルト18と内側ベルト15を好きな長さに設定できる。これにより、例えば、内側ベルト15の外側ベルト18に対する長さの制約がなくなる。外側ベルト18の上部のインク噴射面10aと対向する領域を挟んだ搬送方向の両側についてもメンテナンス孔18aを塞ぐことができる。そして、常に安定して記録用紙100を搬送することができる。
【0092】
さらに、上述した各実施形態においては、メンテナンスユニット3として、キャップ部材23、吸引ポンプ24、液受け部などを例に挙げて説明したが、インクジェットヘッド10の液体噴射性能の維持や回復(メンテナンス)を行うものであれば、例えば、ワイパーなども含まれる。
【0093】
また、上述した第1実施形態においては、外側ベルト18を走行駆動させることで、外側ベルト18に接触した内側ベルト15を接触摩擦により走行させていた。しかしながら、外側ベルト18と内側ベルト15をギヤで連結している場合や、外側ベルト18と内側ベルト15をそれぞれ独立駆動している場合には、外側ベルト18と内側ベルト15の接触抵抗が小さくなる工夫がなされていることが好ましい。この場合、例えば、図11(a)に示すように、外側ベルト18の内周面18cと内側ベルト15の外周面15dとの摩擦係数を低下させるテフロン(登録商標)などのコーティング78、79を施す、表面処理を施す、あるいは、硬度を上げるなどが考えられる(変形例2)。また、図11(b)に示すように、外側ベルト18の内周面18cに全周にわたって突起80が形成されているなどが考えられる(変形例3)。
【0094】
これにより、内側ベルト15と外側ベルト18の摩耗を低減することができる。摩耗により発生する異物を減らすことができる。また、例えば、メンテンス時に外側ベルト18のメンテナンス孔18aと内側ベルト15のメンテナンス孔15aとを重ねるなどの位置合わせの際に、外側ベルト18と内側ベルト15との間で生じる接触摩擦を小さくすることで、位置合わせ精度を向上させることができる。さらに、接触摩擦が小さくなることで、記録用紙100の搬送精度を向上させて、記録用紙100への記録精度を向上させることができる。
【0095】
加えて、外側ベルト18の内周面18cと内側ベルト15の外周面15dの両方に接触係数が小さくなるようにコーティングを行った場合には、外側ベルト18または内側ベルト15の一方のみにコーティングする場合に比べて、接触摩擦をさらに小さくすることができる。外側ベルトではなく、内側ベルト15の外周面15dにのみコーティングを行った場合には、内側ベルト15は外側ベルト18に比べて短い。そのため、コーティングに要する費用を低減することができる。また、内側ベルト15ではなく、外側ベルト18にのみコーティングを行った場合には、内側ベルト15の外周面15dと外側ベルト18の外周面18dとの記録用紙100を載置する表面の搬送特性の差が小さく、搬送精度を向上させることができる。
【0096】
また、インクジェットヘッドは、上述した各実施形態のようにラインタイプに限らず、記録用紙100の幅方向に移動しながらインクを噴射する、いわゆる、シリアルタイプのヘッドであってもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 インクジェットプリンタ
3 メンテナンスユニット
5 ノズル
10 インクジェットヘッド
10a インク噴射面
13、14、16、17 プーリ
15 内側ベルト
15a、18a メンテナンス孔
15c、18c 内周面
18 外側ベルト
19 搬送モータ
12 第1内部空間
28 第2内側空間
27 ギヤ
100 記録用紙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが開口したインク噴射面を有し、前記複数のノズルからシート状の被記録媒体にインクを噴射して画像を記録するインクジェットヘッドと、
複数のプーリに巻回され、その外周面が前記インク噴射面と対向した状態で前記インク噴射面と平行な搬送方向に走行する外側ベルトと、
前記外側ベルトによって規定される第1内部空間に配置され、複数のプーリに巻回されて前記搬送方向に走行する内側ベルトと、
前記内側ベルトによって規定される第2内部空間に配置され、前記インクジェットヘッドのメンテナンスを行うためのメンテナンス部と、
前記外側ベルトと前記内側ベルトとを走行駆動するための動力を供給する動力供給装置と、
前記動力供給装置から供給された動力を前記外側ベルトと前記内側ベルトとに伝達する動力伝達手段と、を備え、
前記外側ベルトには、前記メンテナンス部を露出可能な第1貫通孔が形成され、
前記内側ベルトには、前記メンテナンス部を露出可能な第2貫通孔が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記外側ベルトの長さは、前記内側ベルトの長さの整数倍であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記外側ベルトに前記被記録媒体を吸着させ、且つ、前記内側ベルトに前記被記録媒体を吸着させるための吸着手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記外側ベルトと前記内側ベルトが前記インク噴射面と対向する領域において接触した接触位置と非接触位置とにわたって、前記内側ベルトまたは前記外側ベルトのいずれか一方を他方に対して相対移動させる離接手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記離接手段は、前記内側ベルトを前記外側ベルトに対して移動させていることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記動力伝達手段は、前記動力供給装置から供給された動力を、前記外側ベルトまたは前記内側ベルトのいずれか一方のベルトへ伝達する第1伝達部と他方のベルトとへ伝達する第2伝達部と、を有し、
前記第2伝達部から前記他方のベルトへ動力を伝達する状態と伝達しない状態とを切り換える切り換え部をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記切り換え部は、前記外側ベルトの内周面と前記内側ベルトの外周面とが前記インク噴射面と対向する領域において接触した状態と非接触の状態とを切り換えることで、動力を伝達する状態と伝達しない状態とを切り換えることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記動力供給装置は、前記外側ベルトを走行駆動するための動力を供給する第1動力源と、前記内側ベルトを走行駆動するための動力を供給する第2動力源と、を有し、
前記動力伝達手段は、前記第1動力源から供給された動力を前記外側ベルトへ伝達する外側伝達部と、前記第2動力源から供給された動力を前記内側ベルトへ伝達する内側伝達部と、有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記外側ベルトと前記内側ベルトとは、前記被記録媒体にインクを噴射する記録動作時に同じ走行速度で走行することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記内側ベルトの外周面と前記外側ベルトの内周面とは、前記インク噴射面と対向する領域において接触しており、
前記外側ベルトの前記内周面には、全周にわたって突起が形成されていることを特徴とする請求項1のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記内側ベルトの外周面と前記外側ベルトの内周面とは、前記インク噴射面と対向する領域において接触しており、
前記内側ベルトの前記外周面または前記外側ベルトの前記内周面には、前記外側ベルトの外周面よりも摩擦係数が小さくなるように表面処理またはコーティングが施されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記内側ベルトの外周面と前記外側ベルトの内周面とは、前記インク噴射面と対向する領域において接触しており、
前記内側ベルトの前記外周面及び前記外側ベルトの前記内周面には、前記外側ベルトの外周面よりも硬度の高い層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。


【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−75469(P2013−75469A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217730(P2011−217730)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】