インクジェット記録装置
【課題】 複数色を一体キャップするインクジェット記録装置では、放置後にヘッド内の染料濃度が変化することがある。このとき、ノズル中央部のデューティが高く、ノズル端部のデューティが低いマスクでマルチパス記録を行うと、ノズル列内の濃度分布により、画像ムラが発生する。
【解決手段】 印字中に前回予備吐からの所定時間が経過した場合、当該スキャンの記録を完了した後、予備吐を実施する。その際、予備吐はノズル中央部の発数が少なく、ノズル端部の発数を多く実施する。
【解決手段】 印字中に前回予備吐からの所定時間が経過した場合、当該スキャンの記録を完了した後、予備吐を実施する。その際、予備吐はノズル中央部の発数が少なく、ノズル端部の発数を多く実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の吐出回復方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、比較的低廉なパーソナルコンピュータやワードプロセッサ等のOA機器が広く普及しており、これら機器で入力した情報をプリントアウトする様々な記録装置や該装置の高速化技術、高画質化技術が急速に開発されてきている。
【0003】
記録装置の中でも、インクジェット記録方法を用いたシリアルプリンタは、低コストで高速ないしは高画質のプリントを実現する記録装置として着目されている。
【0004】
かかるプリンタに対して、高速度のプリントを行う技術としては例えば双方向プリント方法があり、また高画質のプリントを行う技術としては例えばマルチパスなどがある。
【0005】
マルチパス記録の高速、高画質化を両立させる技術として、例えば特許文献1や特許文献2に示されるように、ノズル列方向にマスクデューティに分布を持たせる技術が知られている。
【0006】
インクジェット記録装置では、非印字時は、ノズル先端の乾燥防止のために、ノズル部をキャップで封止する構成が一般的である。キャップ構成としては、コスト等の観点から、例えば特許文献3に示されるように、複数色のノズル全体をひとつのキャップで封止する構成を採用するものも広く知られている。
【0007】
この構成においては、ひとつのキャップで封止される複数色の各インクで、水分量に差があると下記問題を発生することがある。
【0008】
キャップ封止時は、キャップ内の水蒸気圧は一定に保たれているものの、常にインク間で水分のやりとりが発生している。すなわち、複数のインクのうち、相対的に水分量の多いインクがキャップ内に水分を放出し、相対的に水分量の少ないインクがキャップ内の水分を吸収する。このため、長期間のキャップ放置により、水分量の多いインクのノズル付近の染料濃度が上昇し、水分量の少ないインクのノズル付近の染料濃度が低下する。この状態で、印字を開始すると、本来のインク濃度と異なるインク濃度で記録されるため、意図した濃度と異なる濃度で記録される。インクを吐出することにより、徐々に流路から正常な濃度のインクがノズル付近に供給されるため、記録を行うことで濃度異常は解消される。
【0009】
このとき、記録時にどのノズル位置でも均等にインクを吐出するのであれば、記録画像の濃度が意図した濃度と異なるという問題はあるものの、ムラは発生せず、記録品位の低下は僅かである。しかし、前述のように、ノズル列方向に分布のあるマスクで記録を実施している場合は、ノズル中央部とノズル端部の使用比率が異なるため、濃度異常の解消の度合いがノズルの位置により異なる。このため、例えばノズル端部で吐出されるインクとノズル中央部で吐出されるインクの濃度が異なり、画像にムラが発生し、記録品位が大幅に低下する。
【0010】
この現象を図1、図2により説明する。図1は、どのノズルも均等に使用するマルチパス記録(本例では3パス)を模式的に表し、図2は、不均等なマスクを用いてノズル列方向に使用頻度にばらつきのあるマルチパス記録を模式的に表したものである。図1(b)、図2(b)は、インク濃度が正常なときに、各パスの各ノズル位置で、どのように濃度が分配されているかを模式的に表したものである。図1(c)、図2(c)は、濃度異常が発生したとき(本例では、濃くなる例を表す)、各パスの各ノズル位置で、どのように濃度が分配されているかを模式的に表したものである。図1(c)では、各ノズルが均等に使用される制御のため、図1(b)に対し、どのノズル位置でも一律に濃くなっている。この場合、記録濃度は、全体的に濃くなるものの、均一でありムラは発生しない。図2(c)では、使用頻度が異なるときに、各パスの各ノズル位置で、どのように濃度が分配されるかを表す。このとき、使用頻度が多いところは素早く濃度異常が解消されるため、正常時と濃度の差分が小さく、使用頻度の少ないところはなかなか濃度異常が解消されないため、正常時との濃度差分が大きい。このとき、記録濃度は、全体的に濃くなるだけでなく、相対的に濃い部分と相対的に薄い部分が発生し、ムラとして認識されてしまう。
【0011】
この課題の対策としては、記録前に吸引回復を実施して、ノズル付近に存在する所望の濃度でないインクを強制的に排出する、もしくは、記録中に予備吐を実施して、ノズル付近に存在する所望の濃度でないインクを排出しながら記録を実施することが考えられる。特許文献4では、ノズルごとに印字中に吐出された回数を計数し、その回数に応じて予備吐回数を決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009-061773号公報
【特許文献2】特開2002-96455号公報
【特許文献3】特開2001-063102号公報
【特許文献4】特開平05-338134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、記録を行う前に、吸引回復を実施するシステムにおいては、吸引で消費するインク量が膨大になり、記録に使用できるインク量が大幅に減少するというに新たな課題が発生する。
【0014】
また、特許文献3の手法においては、以下の課題が存在する。
【0015】
近年のインクジェット記録装置では、高速化を実現するために、大幅な多ノズル化が実施されている。ノズル数が多い時に特許文献3の手法を適用した場合、ノズルごとに印字中の吐出数を計数した結果を保持する必要があるため、膨大なメモリが必要となる。このため、インクジェット記録装置のコストアップへつながる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するための本発明のインクジェット記録装置は、以下の通りである。
【0017】
ノズル列方向にデューティの分布があるマスクを用いて記録を行うモードにおいて、記録中の予備吐は、マスクデューティと異なるデューティで予備吐を実施するインクジェット記録装置。
【0018】
マスクデューティの分布が、ノズル端部で低デューティ、ノズル中央部で高デューティであるマスクを用いて記録を行うモードにおいて、記録中の予備吐のデューティは、ノズル端部が高デューティ、ノズル中央部が低デューティであるインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0019】
ノズル列方向にデューティ分布があるマスクを使用するモードにおいて、マスクデューティを記録におけるノズル列方向の使用頻度と捉え、マスクデューティと異なるデューティ分布で予備吐を行うことで、インク浪費とコストアップを抑制しつつ、ムラを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各ノズルの使用頻度が等しいときの画像形成について説明する図である。
【図2】各ノズルの使用頻度が異なるときの画像形成について説明する図である。
【図3】本実施例のインクジェット記録システムの全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態で用いたヘッドカートリッジ1000の詳細を示す斜視図である。
【図6】本実施例のインクジェットヘッドの内部構成を示す断面図である。
【図7】ヘッドにキャッピングで封止したときの様子を示す模式図である。
【図8】本実施例の制御装置のインターフェース画面について説明する図である。
【図9(a)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その1)。
【図9(b)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その2)。
【図9(c)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その3)。
【図9(d)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その4)。
【図10】本実施例の記録装置における記録モード決定のフローを示す図である。
【図11】本実施例の記録動作の処理フローを示す図である。
【図12(a)】本実施例の記録動作における予備吐発数を示す図である(その1)。
【図12(b)】本実施例の記録動作における予備吐発数を示す図である(その2)。
【図13】本実施例の記録動作の処理フローを示す図である。
【図14】液室内インク流れの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施例1]
本発明の具体的な実施例を図を参照して詳細に説明する。
【0022】
図3は、本実施形態の記録装置200と情報処理装置(ホストコンピュータ)100とを含む記録システムの制御構成を示す図である。200は記録ヘッドによりインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置、100はインクジェット記録装置200に画像データを供給する役割やインクジェット記録装置200を制御する役割を担う情報処理装置である。記録装置200と情報処理装置100は、既知の通信手段(インターフェース)で接続されており相互に通信が可能である。情報処理装置100は、ユーザーの指示に基づいて、記録装置200に供給するための画像データを生成したり、当該画像データに基づく記録動作を記録装置200に実行させたりする。また、情報処理装置100では、記録装置200において実行可能な複数の記録モードの中から1つの記録モードを選択的に指定可能になっている。本実施形態では、後述するように、ユーザーによって指定された「記録媒体の種類」と「記録品位」の組み合わせによって、複数の記録モードの中から1つの記録モードが選択的に指定される。こうして情報処理装置100において指定された記録モードに関する情報は記録装置200へ送信される。記録装置200では、この送信された情報に基づいて、実行すべき記録モードを設定することになる。
【0023】
記録装置200には、コントローラ213、記録ヘッド21、ヘッド駆動回路202、キャリッジ2、キャリッジモータ204、搬送ローラ14、搬送モータ206等が設けられている。ヘッド駆動回路202は記録ヘッド21の駆動を行うための回路で、ヘッド駆動回路202によって記録ヘッド21が駆動されてインクが吐出される。キャリッジモータ204は、記録ヘッド21を搭載するためのキャリッジ2を往復移動させるためのモータである。搬送モータ206は、記録媒体を搬送するための搬送ローラ14を搬送するためのモータである。装置全体を制御するためのコントローラ213には、マイクロプロセッサ形態のCPU210、制御プログラムが収納されているROM211、CPUが画像データの処理等を行う際に使用するRAM212等が設けられている。ROM211には、各記録モードに対応する複数種類のマスクパターンやマルチパス記録を制御するための制御プログラム等が格納されている。コントローラ213は、情報処理装置100から送信された記録モードに関する情報に基づいて、実行すべき記録モードを設定する。また、コントローラ213はマルチパス記録を実行するために、ヘッド駆動回路202、キャリッジモータ204、搬送モータ206を制御する他、マルチパス記録の各走査に対応した画像データを生成する。詳しくは、コントローラ213は、制御プログラムに従って、ROM211から読み出したこのマスクパターンを用いて、同一画像領域(所定領域)に対応する画像データを分割して各走査に対応した画像データを生成する。更に、コントローラ200は、この分割画像データに従って記録ヘッド21からインクが吐出されるようにヘッド駆動回路202を制御する。
【0024】
図4は、本発明に適用可能なインクジェット記録装置の内部構造を説明するための斜視図である。図において、1000は交換式のヘッドカートリッジであり、インクを吐出するための記録ヘッド21とこれにインクを供給するインクタンクとから構成されている。2はヘッドカートリッジ1000を着脱自在に保持するキャリッジである。3はヘッドカートリッジ1000をキャリッジ2に固定するためのホルダである。ホルダ3により、ヘッドカートリッジ1000をキャリッジ2内に装着してからカートリッジ固定レバー4を操作すると、これに連動してヘッドカートリッジ1000がキャリッジ2に圧接される。当該圧接によってヘッドカートリッジ1000の位置決めが行われると同時に、キャリッジ2に設けられた所要の信号伝達用の電気接点とヘッドカートリッジ1000側の電気接点とのコンタクトがなされる。5は、電気信号をキャリッジ2に伝えるためのフレキシブルケーブルである。6は、キャリッジ2を主走査方向に往復移動させるための駆動源をなすキャリッジモータに連動したプーリ、7は当該駆動力をキャリッジ2に伝達するキャリッジベルトである。8は主走査方向に延在してキャリッジ2の支持を行うとともにその移動を案内するガイドシャフトである。9はキャリッジ2に取り付けられた透過型のフォトカプラ、10はホームポジション付近に設けられた遮光板である。キャリッジ2がホームポジションに至ったとき、遮光板10がフォトカプラ9の光軸を遮り、キャリッジ2がホームポジションにあることが検出される。12は記録ヘッドの前面をキャップするキャップ部材やこのキャップ内を吸引する吸引手段、さらにはヘッド前面のワイピングを行う部材などの回復系を含むホームポジションユニットである。
【0025】
13は、記録媒体を排出するための排出ローラであり、不図示の拍車状ローラと協動して記録媒体を挟み込み、これを記録装置外へと排出する。14は搬送ローラであり、記録媒体を副走査方向へ所定量搬送する。
【0026】
図5は、ヘッドカートリッジ1000の詳細を説明するための斜視図である。図5において、15はBk(ブラック)インクを貯溜する交換可能なインクタンク、16はC(シアン)、M(マゼンタ)およびY(イエロー)の各色剤のインクを貯溜する交換可能なインクタンクである。17はヘッドカートリッジ1000と連結してインクを供給する部分となるインクタンク16のインク供給口、18は同様にインクタンク15のインク供給口である。インク供給口17および18は、供給管20に連結されて記録ヘッド21にインクを供給するように構成されている。19は前述のフレキシブルケーブル5と接続され、記録データに基づく信号を記録ヘッド21に伝えるための電気コンタクトである。
【0027】
また、図5において、記録ヘッド21の前面に図示されている4つの線はインクを吐出するノズルが複数配列したノズル列である。4つのノズル列のそれぞれから、Bk(ブラック)インク、C(シアン)インク、M(マゼンタ)インク、Y(イエロー)インクが吐出される。
【0028】
図6は、記録ヘッド21のノズル構造を説明するための模式的側断面図である。5102、5104、5106および5108は、夫々の色のインクを受容する共通液室であり、この順番にブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクに対応している。共通液室5102〜5108はヒータボード4001および4002の半導体プロセスが施された面の裏面から異方性エッチングによって形成され、吐出用のヒータ群(5003や5005)に対応した液路群(5004や5006)にそれぞれ連通している。個々の液路に供給されたインク中には、記録信号に基づいたヒータの急激な発熱によって発泡が生じ、この発泡エネルギによって所定量のインクが滴として吐出口から記録媒体Pに向けて吐出される。本明細書においては、1つのヒータと1つの液路および1つの吐出口によって構成される単位を1つのノズルと定義する。
【0029】
図5では、記録ヘッド21上に4列のノズル列が配備されたように示しているが、実際の本実施形態の記録ヘッドでは、図6に見るように、1つの共通液室から、その両側に配備された2列のノズル列に同色のインクが供給される構成になっている。ここでは、図6に向かって左側のノズル列すなわち5004を偶ノズル、右側のノズル列すなわち5006を奇ノズルと呼称する。なお、他色の共通液室とノズル列についても同様の構成を有するものとする。但し、このような構成は本発明を特徴付けるものではない。各色インクが1列ずつのノズル列から吐出される構成であっても、またブラックのみに対応した1列のノズル列から構成される記録ヘッドであっても構わない。
【0030】
5101、5103、5105および5107は、ベースプレート4000に形成され、共通液室5102、5104、5106および5108と共に共通液室を構成する。5001および5002は、各ノズルを形成したオリフィスプレートであり、通常は耐熱性の樹脂で構成されている。
【0031】
図7に、キャップ12がヘッド1000をキャップした模式図を示す。図のように、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのノズルすべてをひとつのキャップ12で封止する。キャップ12の中にはキャップ内吸収体7000が収められる。キャップには、チューブが接続され不図示のポンプと連結されている。非印字時や電源OFF時には、ヘッドノズル部をキャッピングし、ノズルの乾燥を抑制する。
【0032】
本実施例で使用しているインクは、マゼンタ、イエローの水分量が相対的に少なく、ブラック、シアンの水分量が相対的に多い。周辺湿度や環境温度などにも依存するが、120時間程度以上の放置で認識できる程度の濃度変化が発生する。すなわち、キャップ中に、マゼンタ、イエローのインクは水分を受け取るために薄くなり、ブラック、シアンのインクは、インクを放出するために濃くなる。
【0033】
次に、本実施例での印字モードについて説明する。
【0034】
図8は、情報処理装置100がユーザーに提示するユーザーインタフェースの一部画面を説明するための図である。ユーザーは、画面上で、記録に使用するメディア(記録媒体の種類)および記録品位を選択することが出来る。本例において、記録媒体は、光沢紙、コート紙、普通紙の中から選択することが可能になっている。また、記録品位は、「はやい」、「標準」、「きれい」の中から選択することが可能になっている。記録媒体の種類と記録品位の組み合わせにより、表1に示される記録モードのうちの1つが設定される。普通紙よりは専用紙のほうが、また、同じ記録媒体であっても高品位な画像が求められるほど、マルチパス数が多くなるように設定されている。
【0035】
表1は本実施例の記録装置において、メディア、品位の組み合わせで決定される記録モードを説明する表である。
【0036】
【表1】
表に示されるように、本実施例では、1パス、3パス、7パス、8パスの記録パス数を有する。それぞれのパス数における印字方法、及びマスクパターンについて説明する。
【0037】
[1パス]
図9 (a)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅分の記録画像を1スキャンで完成させる。記録データにマスク処理は実施しない。1スキャン記録後は、ノズル幅分だけ記録媒体を副走査方向へ移動させ、同様の動作を繰り返す。
【0038】
制御上は、各ノズルの使用頻度は同じである。
【0039】
[3パス]
図9 (b)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅よりも小さい量(ノズル幅の約1/3)の記録媒体の副走査方向への搬送を介在した3回の走査により、画像を完成させる。画像データと図に示されるマスクパターンとの論理和により、各走査で記録するドットが決定される。制御上、ノズルの使用頻度はマスクパターンに依存し、ノズル中央部の使用頻度が高く、ノズル端部の使用頻度が低い。
【0040】
[7パス]
図9(c)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅よりも小さい量(ノズル幅の約1/7)の記録媒体の副走査方向への搬送を介在した7回の走査により、画像を完成させる。画像データと図に示されるマスクパターンとの論理和により、各走査で記録するドットが決定される。制御上、ノズルの使用頻度はマスクパターンに依存し、ノズル端部の使用頻度が相対的に低い。
【0041】
[8パス]
図9(d)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅よりも小さい量(ノズル幅の約1/8)の記録媒体の副走査方向への搬送を介在した8回の走査により、画像を完成させる。画像データと図に示されるマスクパターンとの論理和により、各走査で記録するドットが決定される。制御上、各ノズルの使用頻度は同じである。
【0042】
(記録動作)
本実施例における一連の記録動作、および予備吐動作について説明する。
【0043】
まず、記録装置におけるモード選択について、図10により説明する。ユーザーによるホストコンピュータ操作により、記録信号がホストコンピュータから記録装置へ送信される。この際、記録メディアの種類、記録品位情報も同時に送信される。記録装置では、記録メディアの種類、記録品位に基づき、表1に示される記録モードが選択される。
【0044】
次に選択された記録モード別に動作詳細を図11により説明する。
【0045】
[1パス記録モード、及び8パス記録モード]
図11により説明する。
【0046】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、予備吐発数はすべてのノズルで同じ発数である(本実施例では10発)。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0047】
[3パス記録モード]
図11により説明する。
【0048】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、端部付近のノズルの予備吐発数は相対的に多く、中央部のノズルの予備吐発数は相対的に多く設定する。予備吐発数の詳細を図12 (a)に示す。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0049】
[7パス記録モード]
図11により説明する。
【0050】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、端部付近のノズルの予備吐発数は相対的に多く、中央部のノズルの予備吐発数は相対的に多く設定する。予備吐発数の詳細を図12(b)に示す。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0051】
以上の動作の効果について説明する。ヘッド内のインクに濃度変化がある状態において、ノズル列方向に使用頻度差があるマスク、例えばノズル中央部のデューティが高く、ノズル端部のデューティが低いマスクを用いて記録を行う場合、ノズル列方向に濃度差が発生しムラに至る。このとき、マスクによる使用頻度差を打ち消すような予備吐、すなわちノズル中央部の予備吐発数が相対的に少なく、ノズル端部の予備吐発数が相対的に多い予備吐を実施することで、ムラの発生を低減することができる。なぜならば、該予備吐を実施することで、印字中にヘッド液室内で発生しているインク流れとは異なるインク流れを発生させることができるため、液室内でインクを拡散させノズル列方向の濃度分布を緩和させられるからである。
【0052】
液室内インク流れの模式図を図14に示す。図は、ヘッド断面図である(図6と直行する方向での断面図)。図14(a)は、印字中の液室内のインク流れを表している。図からわかるように、ノズル中央部へ向かうインク流が強く、インク端部へ向かうインク流は少ない。図14(b)は、予備吐時の液室内のインク流れを表している。図からわかるように、ノズル端部へ向かうインク流が強く、インク中央部へ向かうインク流は弱い。記録のキャリッジ走査中は図14(a)の流れであり、予備吐時には図14(b)の流れとなる。すなわち、図14(a)と図14(b)の流れを交互に発生させることになり、液室内のインクを拡散させることができる。
【0053】
以上より、放置によりインク濃度に変化があった場合でも、ムラの発生を低減することが可能である。
【0054】
[実施例2]
本発明を適用可能な第2の実施形態について説明する。記録動作までは実施例1と同様であるので省略する。
【0055】
(記録動作)
実施例2における一連の記録動作、および予備吐動作について説明する。
【0056】
まず、実施例1と同様に、図10のフローに従い、記録モードを選択する。選択された記録モード別に動作詳細を図11、図13により説明する。
【0057】
[1パス記録モード、及び8パス記録モード]
図11により説明する。実施例1と同様である。
【0058】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、予備吐発数はすべてのノズルで同じ発数である(本実施例では10発)。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0059】
[3パス記録モード]
図13により説明する。
【0060】
前回記録からの経過時間が120時間を超えていた場合、実施例1と同様に図12(a)で示される印字中予備吐を実施する。120時間以下であった場合、ヘッド内の染料濃度変化による画像劣化は許容レベルと判断し、印字中予備吐はすべてのノズルで同じ発数(本実施例では10発)とする。
【0061】
[7パス記録モード]
図13により説明する。
【0062】
前回記録からの経過時間が120時間を超えていた場合、実施例1と同様に図12(b)で示される印字中予備吐を実施する。120時間以下であった場合、ヘッド内の染料濃度変化による画像劣化は許容レベルと判断し、印字中予備吐はすべてのノズルで同じ発数(本実施例では10発)とする。
【0063】
前回記録からの経過時間で処理を分岐することにより、染料濃度変化が許容レベルの場合に、印字中予備吐の発数を抑制することができるので、不必要にインク浪費を招くことはない。
【0064】
なお、120時間という時間はシステムにより変更されるパラメータである。インク特性、ヘッド特性、キャップ封止特性、温湿度などの周辺環境により、最適なパラメータに設定することが好ましい。また、本実施例では前回記録からの経過時間により判断しているが、キャップ中に染料濃度変化が起こるため、前回記録から今回記録までで、キャップされていた時間の合計により判断してもよい。
【符号の説明】
【0065】
100 情報処理装置(ホストコンピュータ)
200 記録装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の吐出回復方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、比較的低廉なパーソナルコンピュータやワードプロセッサ等のOA機器が広く普及しており、これら機器で入力した情報をプリントアウトする様々な記録装置や該装置の高速化技術、高画質化技術が急速に開発されてきている。
【0003】
記録装置の中でも、インクジェット記録方法を用いたシリアルプリンタは、低コストで高速ないしは高画質のプリントを実現する記録装置として着目されている。
【0004】
かかるプリンタに対して、高速度のプリントを行う技術としては例えば双方向プリント方法があり、また高画質のプリントを行う技術としては例えばマルチパスなどがある。
【0005】
マルチパス記録の高速、高画質化を両立させる技術として、例えば特許文献1や特許文献2に示されるように、ノズル列方向にマスクデューティに分布を持たせる技術が知られている。
【0006】
インクジェット記録装置では、非印字時は、ノズル先端の乾燥防止のために、ノズル部をキャップで封止する構成が一般的である。キャップ構成としては、コスト等の観点から、例えば特許文献3に示されるように、複数色のノズル全体をひとつのキャップで封止する構成を採用するものも広く知られている。
【0007】
この構成においては、ひとつのキャップで封止される複数色の各インクで、水分量に差があると下記問題を発生することがある。
【0008】
キャップ封止時は、キャップ内の水蒸気圧は一定に保たれているものの、常にインク間で水分のやりとりが発生している。すなわち、複数のインクのうち、相対的に水分量の多いインクがキャップ内に水分を放出し、相対的に水分量の少ないインクがキャップ内の水分を吸収する。このため、長期間のキャップ放置により、水分量の多いインクのノズル付近の染料濃度が上昇し、水分量の少ないインクのノズル付近の染料濃度が低下する。この状態で、印字を開始すると、本来のインク濃度と異なるインク濃度で記録されるため、意図した濃度と異なる濃度で記録される。インクを吐出することにより、徐々に流路から正常な濃度のインクがノズル付近に供給されるため、記録を行うことで濃度異常は解消される。
【0009】
このとき、記録時にどのノズル位置でも均等にインクを吐出するのであれば、記録画像の濃度が意図した濃度と異なるという問題はあるものの、ムラは発生せず、記録品位の低下は僅かである。しかし、前述のように、ノズル列方向に分布のあるマスクで記録を実施している場合は、ノズル中央部とノズル端部の使用比率が異なるため、濃度異常の解消の度合いがノズルの位置により異なる。このため、例えばノズル端部で吐出されるインクとノズル中央部で吐出されるインクの濃度が異なり、画像にムラが発生し、記録品位が大幅に低下する。
【0010】
この現象を図1、図2により説明する。図1は、どのノズルも均等に使用するマルチパス記録(本例では3パス)を模式的に表し、図2は、不均等なマスクを用いてノズル列方向に使用頻度にばらつきのあるマルチパス記録を模式的に表したものである。図1(b)、図2(b)は、インク濃度が正常なときに、各パスの各ノズル位置で、どのように濃度が分配されているかを模式的に表したものである。図1(c)、図2(c)は、濃度異常が発生したとき(本例では、濃くなる例を表す)、各パスの各ノズル位置で、どのように濃度が分配されているかを模式的に表したものである。図1(c)では、各ノズルが均等に使用される制御のため、図1(b)に対し、どのノズル位置でも一律に濃くなっている。この場合、記録濃度は、全体的に濃くなるものの、均一でありムラは発生しない。図2(c)では、使用頻度が異なるときに、各パスの各ノズル位置で、どのように濃度が分配されるかを表す。このとき、使用頻度が多いところは素早く濃度異常が解消されるため、正常時と濃度の差分が小さく、使用頻度の少ないところはなかなか濃度異常が解消されないため、正常時との濃度差分が大きい。このとき、記録濃度は、全体的に濃くなるだけでなく、相対的に濃い部分と相対的に薄い部分が発生し、ムラとして認識されてしまう。
【0011】
この課題の対策としては、記録前に吸引回復を実施して、ノズル付近に存在する所望の濃度でないインクを強制的に排出する、もしくは、記録中に予備吐を実施して、ノズル付近に存在する所望の濃度でないインクを排出しながら記録を実施することが考えられる。特許文献4では、ノズルごとに印字中に吐出された回数を計数し、その回数に応じて予備吐回数を決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009-061773号公報
【特許文献2】特開2002-96455号公報
【特許文献3】特開2001-063102号公報
【特許文献4】特開平05-338134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、記録を行う前に、吸引回復を実施するシステムにおいては、吸引で消費するインク量が膨大になり、記録に使用できるインク量が大幅に減少するというに新たな課題が発生する。
【0014】
また、特許文献3の手法においては、以下の課題が存在する。
【0015】
近年のインクジェット記録装置では、高速化を実現するために、大幅な多ノズル化が実施されている。ノズル数が多い時に特許文献3の手法を適用した場合、ノズルごとに印字中の吐出数を計数した結果を保持する必要があるため、膨大なメモリが必要となる。このため、インクジェット記録装置のコストアップへつながる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するための本発明のインクジェット記録装置は、以下の通りである。
【0017】
ノズル列方向にデューティの分布があるマスクを用いて記録を行うモードにおいて、記録中の予備吐は、マスクデューティと異なるデューティで予備吐を実施するインクジェット記録装置。
【0018】
マスクデューティの分布が、ノズル端部で低デューティ、ノズル中央部で高デューティであるマスクを用いて記録を行うモードにおいて、記録中の予備吐のデューティは、ノズル端部が高デューティ、ノズル中央部が低デューティであるインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0019】
ノズル列方向にデューティ分布があるマスクを使用するモードにおいて、マスクデューティを記録におけるノズル列方向の使用頻度と捉え、マスクデューティと異なるデューティ分布で予備吐を行うことで、インク浪費とコストアップを抑制しつつ、ムラを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各ノズルの使用頻度が等しいときの画像形成について説明する図である。
【図2】各ノズルの使用頻度が異なるときの画像形成について説明する図である。
【図3】本実施例のインクジェット記録システムの全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態で用いたヘッドカートリッジ1000の詳細を示す斜視図である。
【図6】本実施例のインクジェットヘッドの内部構成を示す断面図である。
【図7】ヘッドにキャッピングで封止したときの様子を示す模式図である。
【図8】本実施例の制御装置のインターフェース画面について説明する図である。
【図9(a)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その1)。
【図9(b)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その2)。
【図9(c)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その3)。
【図9(d)】本実施例の記録時の各スキャンのマスクデューティを説明する図である(その4)。
【図10】本実施例の記録装置における記録モード決定のフローを示す図である。
【図11】本実施例の記録動作の処理フローを示す図である。
【図12(a)】本実施例の記録動作における予備吐発数を示す図である(その1)。
【図12(b)】本実施例の記録動作における予備吐発数を示す図である(その2)。
【図13】本実施例の記録動作の処理フローを示す図である。
【図14】液室内インク流れの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施例1]
本発明の具体的な実施例を図を参照して詳細に説明する。
【0022】
図3は、本実施形態の記録装置200と情報処理装置(ホストコンピュータ)100とを含む記録システムの制御構成を示す図である。200は記録ヘッドによりインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置、100はインクジェット記録装置200に画像データを供給する役割やインクジェット記録装置200を制御する役割を担う情報処理装置である。記録装置200と情報処理装置100は、既知の通信手段(インターフェース)で接続されており相互に通信が可能である。情報処理装置100は、ユーザーの指示に基づいて、記録装置200に供給するための画像データを生成したり、当該画像データに基づく記録動作を記録装置200に実行させたりする。また、情報処理装置100では、記録装置200において実行可能な複数の記録モードの中から1つの記録モードを選択的に指定可能になっている。本実施形態では、後述するように、ユーザーによって指定された「記録媒体の種類」と「記録品位」の組み合わせによって、複数の記録モードの中から1つの記録モードが選択的に指定される。こうして情報処理装置100において指定された記録モードに関する情報は記録装置200へ送信される。記録装置200では、この送信された情報に基づいて、実行すべき記録モードを設定することになる。
【0023】
記録装置200には、コントローラ213、記録ヘッド21、ヘッド駆動回路202、キャリッジ2、キャリッジモータ204、搬送ローラ14、搬送モータ206等が設けられている。ヘッド駆動回路202は記録ヘッド21の駆動を行うための回路で、ヘッド駆動回路202によって記録ヘッド21が駆動されてインクが吐出される。キャリッジモータ204は、記録ヘッド21を搭載するためのキャリッジ2を往復移動させるためのモータである。搬送モータ206は、記録媒体を搬送するための搬送ローラ14を搬送するためのモータである。装置全体を制御するためのコントローラ213には、マイクロプロセッサ形態のCPU210、制御プログラムが収納されているROM211、CPUが画像データの処理等を行う際に使用するRAM212等が設けられている。ROM211には、各記録モードに対応する複数種類のマスクパターンやマルチパス記録を制御するための制御プログラム等が格納されている。コントローラ213は、情報処理装置100から送信された記録モードに関する情報に基づいて、実行すべき記録モードを設定する。また、コントローラ213はマルチパス記録を実行するために、ヘッド駆動回路202、キャリッジモータ204、搬送モータ206を制御する他、マルチパス記録の各走査に対応した画像データを生成する。詳しくは、コントローラ213は、制御プログラムに従って、ROM211から読み出したこのマスクパターンを用いて、同一画像領域(所定領域)に対応する画像データを分割して各走査に対応した画像データを生成する。更に、コントローラ200は、この分割画像データに従って記録ヘッド21からインクが吐出されるようにヘッド駆動回路202を制御する。
【0024】
図4は、本発明に適用可能なインクジェット記録装置の内部構造を説明するための斜視図である。図において、1000は交換式のヘッドカートリッジであり、インクを吐出するための記録ヘッド21とこれにインクを供給するインクタンクとから構成されている。2はヘッドカートリッジ1000を着脱自在に保持するキャリッジである。3はヘッドカートリッジ1000をキャリッジ2に固定するためのホルダである。ホルダ3により、ヘッドカートリッジ1000をキャリッジ2内に装着してからカートリッジ固定レバー4を操作すると、これに連動してヘッドカートリッジ1000がキャリッジ2に圧接される。当該圧接によってヘッドカートリッジ1000の位置決めが行われると同時に、キャリッジ2に設けられた所要の信号伝達用の電気接点とヘッドカートリッジ1000側の電気接点とのコンタクトがなされる。5は、電気信号をキャリッジ2に伝えるためのフレキシブルケーブルである。6は、キャリッジ2を主走査方向に往復移動させるための駆動源をなすキャリッジモータに連動したプーリ、7は当該駆動力をキャリッジ2に伝達するキャリッジベルトである。8は主走査方向に延在してキャリッジ2の支持を行うとともにその移動を案内するガイドシャフトである。9はキャリッジ2に取り付けられた透過型のフォトカプラ、10はホームポジション付近に設けられた遮光板である。キャリッジ2がホームポジションに至ったとき、遮光板10がフォトカプラ9の光軸を遮り、キャリッジ2がホームポジションにあることが検出される。12は記録ヘッドの前面をキャップするキャップ部材やこのキャップ内を吸引する吸引手段、さらにはヘッド前面のワイピングを行う部材などの回復系を含むホームポジションユニットである。
【0025】
13は、記録媒体を排出するための排出ローラであり、不図示の拍車状ローラと協動して記録媒体を挟み込み、これを記録装置外へと排出する。14は搬送ローラであり、記録媒体を副走査方向へ所定量搬送する。
【0026】
図5は、ヘッドカートリッジ1000の詳細を説明するための斜視図である。図5において、15はBk(ブラック)インクを貯溜する交換可能なインクタンク、16はC(シアン)、M(マゼンタ)およびY(イエロー)の各色剤のインクを貯溜する交換可能なインクタンクである。17はヘッドカートリッジ1000と連結してインクを供給する部分となるインクタンク16のインク供給口、18は同様にインクタンク15のインク供給口である。インク供給口17および18は、供給管20に連結されて記録ヘッド21にインクを供給するように構成されている。19は前述のフレキシブルケーブル5と接続され、記録データに基づく信号を記録ヘッド21に伝えるための電気コンタクトである。
【0027】
また、図5において、記録ヘッド21の前面に図示されている4つの線はインクを吐出するノズルが複数配列したノズル列である。4つのノズル列のそれぞれから、Bk(ブラック)インク、C(シアン)インク、M(マゼンタ)インク、Y(イエロー)インクが吐出される。
【0028】
図6は、記録ヘッド21のノズル構造を説明するための模式的側断面図である。5102、5104、5106および5108は、夫々の色のインクを受容する共通液室であり、この順番にブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクに対応している。共通液室5102〜5108はヒータボード4001および4002の半導体プロセスが施された面の裏面から異方性エッチングによって形成され、吐出用のヒータ群(5003や5005)に対応した液路群(5004や5006)にそれぞれ連通している。個々の液路に供給されたインク中には、記録信号に基づいたヒータの急激な発熱によって発泡が生じ、この発泡エネルギによって所定量のインクが滴として吐出口から記録媒体Pに向けて吐出される。本明細書においては、1つのヒータと1つの液路および1つの吐出口によって構成される単位を1つのノズルと定義する。
【0029】
図5では、記録ヘッド21上に4列のノズル列が配備されたように示しているが、実際の本実施形態の記録ヘッドでは、図6に見るように、1つの共通液室から、その両側に配備された2列のノズル列に同色のインクが供給される構成になっている。ここでは、図6に向かって左側のノズル列すなわち5004を偶ノズル、右側のノズル列すなわち5006を奇ノズルと呼称する。なお、他色の共通液室とノズル列についても同様の構成を有するものとする。但し、このような構成は本発明を特徴付けるものではない。各色インクが1列ずつのノズル列から吐出される構成であっても、またブラックのみに対応した1列のノズル列から構成される記録ヘッドであっても構わない。
【0030】
5101、5103、5105および5107は、ベースプレート4000に形成され、共通液室5102、5104、5106および5108と共に共通液室を構成する。5001および5002は、各ノズルを形成したオリフィスプレートであり、通常は耐熱性の樹脂で構成されている。
【0031】
図7に、キャップ12がヘッド1000をキャップした模式図を示す。図のように、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのノズルすべてをひとつのキャップ12で封止する。キャップ12の中にはキャップ内吸収体7000が収められる。キャップには、チューブが接続され不図示のポンプと連結されている。非印字時や電源OFF時には、ヘッドノズル部をキャッピングし、ノズルの乾燥を抑制する。
【0032】
本実施例で使用しているインクは、マゼンタ、イエローの水分量が相対的に少なく、ブラック、シアンの水分量が相対的に多い。周辺湿度や環境温度などにも依存するが、120時間程度以上の放置で認識できる程度の濃度変化が発生する。すなわち、キャップ中に、マゼンタ、イエローのインクは水分を受け取るために薄くなり、ブラック、シアンのインクは、インクを放出するために濃くなる。
【0033】
次に、本実施例での印字モードについて説明する。
【0034】
図8は、情報処理装置100がユーザーに提示するユーザーインタフェースの一部画面を説明するための図である。ユーザーは、画面上で、記録に使用するメディア(記録媒体の種類)および記録品位を選択することが出来る。本例において、記録媒体は、光沢紙、コート紙、普通紙の中から選択することが可能になっている。また、記録品位は、「はやい」、「標準」、「きれい」の中から選択することが可能になっている。記録媒体の種類と記録品位の組み合わせにより、表1に示される記録モードのうちの1つが設定される。普通紙よりは専用紙のほうが、また、同じ記録媒体であっても高品位な画像が求められるほど、マルチパス数が多くなるように設定されている。
【0035】
表1は本実施例の記録装置において、メディア、品位の組み合わせで決定される記録モードを説明する表である。
【0036】
【表1】
表に示されるように、本実施例では、1パス、3パス、7パス、8パスの記録パス数を有する。それぞれのパス数における印字方法、及びマスクパターンについて説明する。
【0037】
[1パス]
図9 (a)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅分の記録画像を1スキャンで完成させる。記録データにマスク処理は実施しない。1スキャン記録後は、ノズル幅分だけ記録媒体を副走査方向へ移動させ、同様の動作を繰り返す。
【0038】
制御上は、各ノズルの使用頻度は同じである。
【0039】
[3パス]
図9 (b)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅よりも小さい量(ノズル幅の約1/3)の記録媒体の副走査方向への搬送を介在した3回の走査により、画像を完成させる。画像データと図に示されるマスクパターンとの論理和により、各走査で記録するドットが決定される。制御上、ノズルの使用頻度はマスクパターンに依存し、ノズル中央部の使用頻度が高く、ノズル端部の使用頻度が低い。
【0040】
[7パス]
図9(c)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅よりも小さい量(ノズル幅の約1/7)の記録媒体の副走査方向への搬送を介在した7回の走査により、画像を完成させる。画像データと図に示されるマスクパターンとの論理和により、各走査で記録するドットが決定される。制御上、ノズルの使用頻度はマスクパターンに依存し、ノズル端部の使用頻度が相対的に低い。
【0041】
[8パス]
図9(d)にて説明する。図に示される通り、ノズル幅よりも小さい量(ノズル幅の約1/8)の記録媒体の副走査方向への搬送を介在した8回の走査により、画像を完成させる。画像データと図に示されるマスクパターンとの論理和により、各走査で記録するドットが決定される。制御上、各ノズルの使用頻度は同じである。
【0042】
(記録動作)
本実施例における一連の記録動作、および予備吐動作について説明する。
【0043】
まず、記録装置におけるモード選択について、図10により説明する。ユーザーによるホストコンピュータ操作により、記録信号がホストコンピュータから記録装置へ送信される。この際、記録メディアの種類、記録品位情報も同時に送信される。記録装置では、記録メディアの種類、記録品位に基づき、表1に示される記録モードが選択される。
【0044】
次に選択された記録モード別に動作詳細を図11により説明する。
【0045】
[1パス記録モード、及び8パス記録モード]
図11により説明する。
【0046】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、予備吐発数はすべてのノズルで同じ発数である(本実施例では10発)。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0047】
[3パス記録モード]
図11により説明する。
【0048】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、端部付近のノズルの予備吐発数は相対的に多く、中央部のノズルの予備吐発数は相対的に多く設定する。予備吐発数の詳細を図12 (a)に示す。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0049】
[7パス記録モード]
図11により説明する。
【0050】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、端部付近のノズルの予備吐発数は相対的に多く、中央部のノズルの予備吐発数は相対的に多く設定する。予備吐発数の詳細を図12(b)に示す。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0051】
以上の動作の効果について説明する。ヘッド内のインクに濃度変化がある状態において、ノズル列方向に使用頻度差があるマスク、例えばノズル中央部のデューティが高く、ノズル端部のデューティが低いマスクを用いて記録を行う場合、ノズル列方向に濃度差が発生しムラに至る。このとき、マスクによる使用頻度差を打ち消すような予備吐、すなわちノズル中央部の予備吐発数が相対的に少なく、ノズル端部の予備吐発数が相対的に多い予備吐を実施することで、ムラの発生を低減することができる。なぜならば、該予備吐を実施することで、印字中にヘッド液室内で発生しているインク流れとは異なるインク流れを発生させることができるため、液室内でインクを拡散させノズル列方向の濃度分布を緩和させられるからである。
【0052】
液室内インク流れの模式図を図14に示す。図は、ヘッド断面図である(図6と直行する方向での断面図)。図14(a)は、印字中の液室内のインク流れを表している。図からわかるように、ノズル中央部へ向かうインク流が強く、インク端部へ向かうインク流は少ない。図14(b)は、予備吐時の液室内のインク流れを表している。図からわかるように、ノズル端部へ向かうインク流が強く、インク中央部へ向かうインク流は弱い。記録のキャリッジ走査中は図14(a)の流れであり、予備吐時には図14(b)の流れとなる。すなわち、図14(a)と図14(b)の流れを交互に発生させることになり、液室内のインクを拡散させることができる。
【0053】
以上より、放置によりインク濃度に変化があった場合でも、ムラの発生を低減することが可能である。
【0054】
[実施例2]
本発明を適用可能な第2の実施形態について説明する。記録動作までは実施例1と同様であるので省略する。
【0055】
(記録動作)
実施例2における一連の記録動作、および予備吐動作について説明する。
【0056】
まず、実施例1と同様に、図10のフローに従い、記録モードを選択する。選択された記録モード別に動作詳細を図11、図13により説明する。
【0057】
[1パス記録モード、及び8パス記録モード]
図11により説明する。実施例1と同様である。
【0058】
キャップ内へ予備吐を行い、給紙を実施する。ホストコンピュータから記録データを受信し、キャリッジをスキャンさせ記録を実施する。この際、前回予備吐からの時間を計時し、所定時間に達した場合は、当該スキャンの記録を完了させたのち、キャリッジをキャップ上へ移動させ予備吐を実施する。この時、予備吐発数はすべてのノズルで同じ発数である(本実施例では10発)。ホストコンピュータから送信されるすべての記録データを記録したのち、記録動作を終了する。
【0059】
[3パス記録モード]
図13により説明する。
【0060】
前回記録からの経過時間が120時間を超えていた場合、実施例1と同様に図12(a)で示される印字中予備吐を実施する。120時間以下であった場合、ヘッド内の染料濃度変化による画像劣化は許容レベルと判断し、印字中予備吐はすべてのノズルで同じ発数(本実施例では10発)とする。
【0061】
[7パス記録モード]
図13により説明する。
【0062】
前回記録からの経過時間が120時間を超えていた場合、実施例1と同様に図12(b)で示される印字中予備吐を実施する。120時間以下であった場合、ヘッド内の染料濃度変化による画像劣化は許容レベルと判断し、印字中予備吐はすべてのノズルで同じ発数(本実施例では10発)とする。
【0063】
前回記録からの経過時間で処理を分岐することにより、染料濃度変化が許容レベルの場合に、印字中予備吐の発数を抑制することができるので、不必要にインク浪費を招くことはない。
【0064】
なお、120時間という時間はシステムにより変更されるパラメータである。インク特性、ヘッド特性、キャップ封止特性、温湿度などの周辺環境により、最適なパラメータに設定することが好ましい。また、本実施例では前回記録からの経過時間により判断しているが、キャップ中に染料濃度変化が起こるため、前回記録から今回記録までで、キャップされていた時間の合計により判断してもよい。
【符号の説明】
【0065】
100 情報処理装置(ホストコンピュータ)
200 記録装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル列中央部のデューティが相対的に高く、ノズル列端部のデューティが相対的に低いマスクを用いてマルチパス記録を行うマルチパス手段と、印字中に所定時間が経過した場合、所定パターンの予備吐を実施する予備吐手段とを有し、該所定パターンは、ノズル中央部の予備吐発数が相対的に多く、ノズル端部の予備吐発数が相対的に少ないことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
ノズル列中央部のデューティが相対的に高く、ノズル列端部のデューティが相対的に低いマスクを用いてマルチパス記録を行う第一のマルチパス手段と、どのノズルも等しいデューティのマスクを用いてマルチパス記録を行う第二のマルチパス手段と、印字中に所定時間が経過した場合、所定パターンの予備吐を実施する予備吐手段とを有し、該所定パターンは、第一のマルチパス手段で記録しているときは、ノズル中央部の予備吐発数が相対的に多く、ノズル端部の予備吐発数が相対的に少なく、第二のマルチパス手段で記録しているときは、どのノズルもほぼ等しい予備吐発数であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
複数色ノズル列を一体封止するキャップを有する請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
記録を実施する時に、前回記録からの経過時間が所定時間を越えているときと、所定時間以下の場合で、該予備吐所定パターンを異ならせる請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項1】
ノズル列中央部のデューティが相対的に高く、ノズル列端部のデューティが相対的に低いマスクを用いてマルチパス記録を行うマルチパス手段と、印字中に所定時間が経過した場合、所定パターンの予備吐を実施する予備吐手段とを有し、該所定パターンは、ノズル中央部の予備吐発数が相対的に多く、ノズル端部の予備吐発数が相対的に少ないことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
ノズル列中央部のデューティが相対的に高く、ノズル列端部のデューティが相対的に低いマスクを用いてマルチパス記録を行う第一のマルチパス手段と、どのノズルも等しいデューティのマスクを用いてマルチパス記録を行う第二のマルチパス手段と、印字中に所定時間が経過した場合、所定パターンの予備吐を実施する予備吐手段とを有し、該所定パターンは、第一のマルチパス手段で記録しているときは、ノズル中央部の予備吐発数が相対的に多く、ノズル端部の予備吐発数が相対的に少なく、第二のマルチパス手段で記録しているときは、どのノズルもほぼ等しい予備吐発数であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
複数色ノズル列を一体封止するキャップを有する請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
記録を実施する時に、前回記録からの経過時間が所定時間を越えているときと、所定時間以下の場合で、該予備吐所定パターンを異ならせる請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図9(c)】
【図9(d)】
【図10】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図9(c)】
【図9(d)】
【図10】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−78881(P2013−78881A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219761(P2011−219761)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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