説明

インクジェット記録装置

【課題】ノズルからのインクの吐出に伴ってノズルの毛管力によりインクタンクからインクを記録ヘッド内に自然に導入しながら記録を行う場合、ノズルを高デューティで駆動するとインク供給が間に合わなくなる一方、インクタンクから記録ヘッドにインクを強制的に供給するとともにノズルに負圧を安定して作用させるために記録ヘッドの内部の負圧を制御しながら記録を行う場合、インクを強制供給するための供給ポンプ等や負圧制御機構を構成する負圧ファン等の駆動に伴って音が発生したり、動作時に消費電力が増大したりする。
【解決手段】印刷データ内のドット数に応じてインク供給方式を適宜切り替え、いずれかの供給方式による記録処理を選択的に実行可能な構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特にインクを吐出する記録ヘッドに対するインクの供給方式を適宜切り換えることのできる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット記録装置として、相対的に装置の低位に配されたインクタンクと高位に配された記録ヘッドないしはノズルとの水頭差に対応した負圧をノズルに作用させ、その負圧によりノズルにインクのメニスカスが形成されるようにしたものがある。かかる装置では、インクがノズルから吐出された場合、ノズルの毛管力により記録ヘッドのインク貯留部からノズル内にインクが供給され、ひいてはインクタンクからインク貯留部内にインクが供給される(このような供給方式を以下では自然供給方式という)。しかしながら、近年では記録の一層の高速化や高精細化が求められている。そのために、記録ヘッドないしノズルを高速ないし高デューティで駆動した場合、自然供給方式によるものではインク供給が間に合わなくなることでノズルの吐出不良が生じ、記録品位を低下させてしまうことになる。また、インクを吐出するために利用されるエネルギとして熱エネルギを発生する素子がノズルに用いられている場合、インクがない状態で当該素子を駆動すると所謂空焚きが生じ、ノズルひいては記録ヘッドを破損させてしまう可能性がある。
【0003】
そこで、自然供給方式に代わるものとして、強制的にインクを記録ヘッドに送り込む方式(以下、強制供給方式という)が採用されることがある(特許文献1等)。さらにかかる強制供給方式に対応して、ノズルに安定した負圧を作用させるべく、またポンプによるインクの強制供給によりノズルからインクが漏出してしまう不都合を防止するべく、動的に負圧を制御する機構(以下、動的負圧制御機構という)が提唱されている。強制供給方式および動的負圧制御機構を用いる構成においては、インクの高速供給が可能となり、記録の高速化が可能となる。しかしながら、自然供給方式に比べてインクを強制供給するための供給ポンプ等や動的負圧制御機構を構成する負圧ファン等の駆動に伴って音が発生したり、動作時に消費電力が増大したりする等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−191498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明は、インク供給方式を適宜切り替え、印刷ジョブ毎に最適なインク供給方式にて記録処理を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために、本発明は、インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドに供給されるインクを貯留するインクタンクを備え、
前記ノズルからのインクの吐出に伴って前記ノズルの毛管力により前記インクタンクからインクを前記記録ヘッド内に自然に導入しながら記録を行う第1の記録処理と、前記貯留部から前記記録ヘッドにインクを強制的に供給するとともに前記ノズルに負圧を安定して作用させるために前記記録ヘッドの内部の負圧を制御しながら記録を行う第2の記録処理とを選択的に実行可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクの高速供給によって高速記録への対応が可能となるとともに、動的負圧制御を伴うインクの強制供給を必要最小限に抑え、負圧ファンや供給ポンプの稼働音を抑え、消費電力も低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置における各色インク系の構成を説明するための模式図である。
【図4】図1のインクジェット記録装置の、インクの強制供給および動的負圧制御を行う印刷時における制御手順を示すフローチャートである。
【図5】図2に示した制御系で行われる処理を機能ブロック毎に分けて示した説明図である。
【図6】本発明の実施形態で行われる、インク供給方式の切り替えを含めた記録処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
なお、本願明細書、特許請求の範囲、要約書および添付の図面において、「記録」(以下、「印刷」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみを称するものではない。すなわち、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0011】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化させることが挙げられる。
【0012】
(機械的構成)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。インクジェット記録装置(以下、プリンタとも言う)10は、画像データの供給源をなす外部装置であるパーソナルコンピュータ形態のホスト装置201に接続されている。プリンタ10には、記録媒体Pに対してフルカラー記録を行うべく、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yが搭載されている。なお、以下の説明においては、色調を特定しない場合には、記録ヘッドを符号22で総括的に参照する。記録ヘッド22としては、インクを吐出するために利用されるエネルギとしてインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する素子を有したものとすることができる。あるいは、その他の素子、例えば電圧の印加に応じて変形ないし変位することでノズル内容積を変化させることでインクを吐出するピエゾ素子を有したものとすることもできる。
【0013】
本実施形態において、記録ヘッド22は、記録媒体Pの幅方向(媒体搬送方向Aに直交する方向)に所定密度で所定範囲にわたって配列されたノズルを有する所謂ラインヘッド形態のものである。所定範囲とは、プリンタ10で印刷可能な記録媒体上の最大の有効記録幅(紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長いものとする。なお、記録ヘッドの個数や、色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などはあくまでも例示であることは言うまでもない。
【0014】
記録ヘッド22は、記録ヘッド22は不図示の保持部により保持されるとともに、その保持部とともに鉛直方向(B方向)に昇降可能である。また、各記録ヘッド22に対応するキャップ50を有した回復ユニット40は水平方向(A方向およびA方向とは逆方向)に移動可能に保持されている。
【0015】
保管状態もしくは印刷待機中など非印刷時には、吐出口が形成された記録ヘッド22の面(吐出面)22Sにキャップ50を施した状態とする。非印刷時に記録ヘッドの吐出面が大気に曝されていると、吐出口付近のインクの溶剤が蒸発してインクの増粘・固化が生じたり、塵埃が付着したりして吐出不良が生じる恐れがあるからである。また、インクを吐出する記録ヘッドはその特性上、インク吐出状態を安定した状態に維持または回復させるための回復処理を行うことが望ましく、キャッピング状態は回復ユニット40によるそのような回復処理を可能とする状態でもある。本実施形態の回復処理には、キャッピング状態においてキャップ内空間ないしはノズルに負圧を付与することで、インクを吐出口から吸引する吸引回復動作が含まれる。また、印刷前にキャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を含むことができる。さらに、ゴム等の弾性部材でなるワイパーブレードで記録ヘッドの吐出面をワイピングすることでクリーニングする動作も含むことができる。回復ユニット40は、これらの動作が行われるようにするための部品を有している。
【0016】
キャッピング状態から印刷動作に移行する場合には、保持部ないし記録ヘッド22を一旦上昇させてから回復ユニット40を図1の左方に退避させ、さらに回復ユニット40のキャップ50間に設けた開口に各記録ヘッド22が対向するようにする。そして保持部ないし記録ヘッド22を下降させ、キャップ間の開口から記録ヘッド22を下方に突出させ、記録媒体Pと所定の間隙をもって対向する位置に設定する。そして、その位置で記録ヘッド22を固定させ、記録媒体PをA方向に搬送し、その過程で記録ヘッド22にインク吐出動作を行わせることで、画像を印刷する動作が実行される。なお、印刷動作が終了し、非印刷時の状態に設定する場合は、逆の動作を行えばよい。
【0017】
ロール紙形態の記録媒体Pは供給ユニット24から供給され、プリンタ10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、記録媒体Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ221、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。なお、記録媒体Pとしては、ロール紙の形態に限られることなく、カット紙やファンフォールド紙等の形態のものであってもよいことは勿論である。
【0018】
図1の構成において、記録媒体Pに画像を形成する際には、搬送中の記録媒体Pの記録開始位置がK用の記録ヘッド22Kの下に到達した後に、印刷データ(画像データ)に基づいて記録ヘッド22Kの吐出口からKインクを選択的に吐出する。同様に、記録ヘッド22C、記録ヘッド22M、記録ヘッド22Yの順に、各色のインクを吐出してカラー画像を記録媒体Pに形成する。
【0019】
プリンタ10には、以上の各部の他、記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yにそれぞれ供給される各色のインクを貯留するインクタンク28K、28C、28Mおよび28Y(以下、特定しない場合には、符号28で総括的に参照する)。また、インクを吐出口からキャップ内に強制排出させたりするためのポンプ機構なども配置される。
【0020】
(制御系の構成)
図2は、図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。ホスト装置201から送信された記録データやコマンドはインターフェイスコントローラ202を介してCPU200に受信される。CPU200は、プリンタ10の記録データの受信、記録動作、記録媒体Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU200では、受信したコマンドを解析した後に、印刷データの成分のイメージデータをイメージメモリ206にビットマップ展開し、さらにラスタ分割して各記録ヘッドで記録するデータを割り当てる。
【0021】
印刷前の処理動作としては、CPU200が出力ポート214およびモータ制御部216を介して、キャッピングモータ222とヘッドアップダウンモータ220とを駆動させ、記録ヘッド22をキャップ50から離して記録位置に移動させる動作がある。続いて、CPU200は、出力ポート214およびモータ制御部216を介してロールモータ(不図示)を駆動させるとともに、搬送モータ221等を駆動させる。なお、キャッピングモータ222は回復ユニット40を水平方向に移動させるための駆動源をなし、ヘッドアップダウンモータ220は記録ヘッド22を昇降させるための駆動源をなすものである。また、ロールモータは記録媒体Pを供給するための駆動源をなし、搬送モータ221は記録ヘッド22による記録位置に対して記録媒体Pを搬送するための駆動源をなすものである。
【0022】
一定速度で搬送される記録媒体Pにインクを吐出し始めるタイミングを決定するため、先端検知センサで記録媒体Pの先端位置を検出する。その後、記録媒体Pの搬送に同期して、CPU200はイメージメモリ206から対応する記録ヘッド22に送出するデータを順次に読み出し、記録ヘッド制御回路212介して、当該読み出したデータを各記録ヘッド22に転送し、印刷を行わせる。
【0023】
各記録ヘッド22に対しては、高速記録に対応するためにインクを強制的に送り込むための供給ポンプ223F(図3)が接続され、その駆動源をなす供給ポンプモータ223はCPU200により出力ポート214およびモータ制御部216を介して制御される。また、ノズルに安定した負圧を作用させる目的等で、記録ヘッド22内の負圧を動的に制御する機構(動的負圧制御機構)を構成する負圧ファン225が設けられる。この負圧ファン225もCPU200により出力ポート214およびモータ制御部216を介して制御される。記録ヘッド22の吐出回復処理には、記録ヘッド22を回復ユニット40のキャップ50によってキャッピングした状態で行う吸引回復動作が含まれる。この場合、出力ポート214およびモータ制御部216を介し、回復ユニット40を構成する回復ポンプ224P(図3)を駆動するための駆動源をなす回復ポンプモータ224が駆動される。
【0024】
さらに、図3について後述するインク系の各部には流路切り替えバルブ226、回復バルブ227および負圧バルブ228が設けられ、これらはCPU200により出力ポート214およびバルブ制御部217を介して制御される。さらに、プリンタ10には、記録ヘッド22内の圧力(負圧)を検出するために圧力センサ229が設けられ、当該検出値(アナログ値)はA/D変換器218によりデジタル信号に変換された後、入力ポート215を介してCPU200に送信される。
【0025】
CPU200は、プログラムROM204に記憶された処理プログラムに基づいて上述の各部を制御する。プログラムROM204には、図4および図6について後述する処理手順等に対応した処理プログラムや、所要の固定データを格納するテーブルなどが記憶されている。また、ワークRAM208は、CPU200による処理の過程で作業用のメモリとして使用される。操作パネル210は、電源スイッチのほか、ユーザによる記録モード(記録品位や記録速度など)の随時の設定、変更およびその他印刷動作を行うにあたっての指示受付のためキーを有する。また、操作パネル210には、プリンタの状態やエラーなどの情報を報知ないし表示するための手段が設けられていてもよい。
【0026】
(インク系の構成)
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置における各色インク系の構成を説明するための模式図である。各色の記録ヘッド22にはインク供給口304が設けられ、各色のインクタンク28と第1の接続路であるチューブ321および第2の接続路であるチューブ323を介して接続されている。チューブ321には記録ヘッド22内にインクを強制的に供給するためのインク供給部を構成する供給ポンプが介挿される一方、チューブ323には開閉弁形態の流路切り替えバルブ226が介挿されている。また、記録ヘッド22には排気口314が設けられ、負圧バルブ228および負圧バッファユニット310を介して、記録ヘッド22の内部をノズルに形成されるインクのメニスカスの保持力と平衡する負圧状態とするための負圧ファン225と連通している。なお、インク供給口304および排気口314には、それぞれ、記録ヘッド22内への塵埃等の侵入を防止するフィルタ304Fおよび314Fが配置されている。
【0027】
記録ヘッド22内部のインクの液面すなわちインク量は、導通板301と導通板302との間、および導通板302と導通板303との間の導電率の変化を検知することで行うことができる。すなわち、インク液面の下限の位置は、導通板302と導通板303との間にインクが存在しなくなると電気抵抗値が増大することで検知され、インク供給動作が行われる。一方、インク液面の上限位置は、インク供給に伴ってインク導通板301と導通板302との間にインクが存在するようになると電気抵抗値が低下することで検知され、インク供給が停止される。なお、インク供給動作は、チューブ323に介挿された流路切り替えバルブ226を閉状態とし、供給ポンプ223Pを作動させることで行うことができる。また、本実施形態では、チューブ321および323を介して記録ヘッド22とインクタンク28とを接続することで、両者間でのインクの循環系も構成される。すなわち、流路切り替えバルブ226を開状態とし、供給ポンプ223Pを作動させることで、記録ヘッド22にインクを供給するとともに記録ヘッド22内のインクをインクタンク28に還流させ、これに伴って記録ヘッド22内にある気泡等を除去することができる。
【0028】
本実施形態においては、記録ヘッド22の内部のインク量が減少した際には、供給ポンプ223により強制的にインクタンク28から記録ヘッド22へとインクを送り込み、高速記録に伴うインクの高速供給に対応することが可能なものである。また、強制供給に伴って供給されるインク量に応じて記録ヘッド22内部の圧力が上昇し、ノズルからのインクが漏出することを防止し、インク量によらず記録ヘッド22内部を安定した負圧状態とするために、動的負圧制御機構が設けられている。
【0029】
本実施形態の動的負圧制御機構は、概して、負圧ファン225、負圧バッファユニット310、圧力センサ229および負圧バルブ228から構成されている。これらの動作は図4について後述するが、電源投入前、または印刷動作を行っていないとき、負圧バルブ228は負圧ファン225の吸引口と記録ヘッド22の排気口とを接続する接続路とを閉鎖する閉状態にある。従って、記録ヘッド22は大気に対して密閉された状態となるので、記録ヘッド22の内部の液室に貯留されたインクがノズルから漏洩ないし装置内部に滴下する不都合が防止される。印刷ジョブの受付けた場合には、印刷動作開始時に負圧ファン225を回転させ始める。そして、圧力センサ229の出力値により所定の圧力になったことを確認した後、負圧バルブ228を動作させて負圧ファン225の吸引口と記録ヘッド22の排気口314とを連通させ、記録ヘッド22の内部の液室を減圧状態として安定した負圧を作用させる。また、印刷終了後には、負圧バルブ228を閉状態とし、記録ヘッド22と負圧ファン225の吸引口との連通を遮断し、記録ヘッド22内部を密閉状態にしてから、負圧ファン225を停止させる。
【0030】
なお、図3において、キャップ50、回復バルブ227、バッファタンク311、回復ポンプ224Pおよび廃インクタンク312は吸引回復動作を行う回復ユニット40を構成する部材である。吸引回復動作にあたっては、ノズルが設けられた記録ヘッド22の面(吐出面)に対してキャップ50を接合させ、回復バルブ227を閉状態として回復ポンプ224Pを駆動することによりバッファタンク311内を所定の負圧状態とする。そして、回復バルブ227を開放してバッファタンク311内の負圧を吐出面に作用させることで、ノズル空吸引されたインクはバッファタンク311ひいては回復ポンプ224Pを介して廃インクタンク312に導かれる。かかる構成によれば、バッファタンク311内の負圧ないしは吸引力を瞬時に吐出面に作用させることができることから、廃インク量を削減することが可能となる。
【0031】
(インクの強制供給および動的負圧制御を行う印刷時における制御手順)
図4は本実施形態に係るインクジェット記録装置の、インクの強制供給および動的負圧制御を行う印刷時における制御手順を示すフローチャートである。本手順は、インクの強制供給方式に切り替えられているときにホスト装置201からの印刷ジョブを受け付けることで開始され、まずステップS1においてCPU200は負圧ファン225の駆動を開始する。そして、負圧ファン225の回転が定常状態となるのに十分な時間が経過した後、CPU200は負圧バッファユニット310に取り付けられた圧力センサ229の検出値に基づいて所定の圧力が得られているか否かを判定する(ステップS2)。ここで否定判定された場合にはステップS3に進み、CPU200は負圧ファン225の回転数を調整し、所定の圧力が得られるようにする。所定の圧力が得られていると判断された場合にはステップS4に進み、CPU200は負圧バルブ228を開放し、記録ヘッド22と負圧ファン225とを連通させる。これにより、記録ヘッド22内部が減圧状態となり、インクがノズルから漏洩ないし滴下しない状態となる。
【0032】
その状態において、CPU200は印刷ジョブに含まれる画像データに応じて記録ヘッド22を駆動し、画像の印刷を行わせる(ステップS5)。次に、ステップS6において、CPU200は受け付けた印刷ジョブがすべて終了したかを判定し、否定判定された場合にはステップS5に復帰して印刷動作を継続する。一方、肯定判定された場合にはステップS7に進み、CPU200は負圧バルブ228を閉鎖し、記録ヘッド22の内部を密閉状態とする。その後ステップS8において、CPU200は負圧ファン225の回転を停止させ、一連の印刷ジョブの処理を終了する。
【0033】
以上のように、負圧バルブ228は印刷動作の開始前に開状態とされる一方、印刷動作の終了後には閉状態となるものである。しかし負圧バルブ228で使用されているアクチュエータの構造や制御方法によっては、印刷動作中(ステップS5,S6)に停電や電源ケーブルの抜け等が生じて突然電源が遮断された場合、ノズルからのインクの漏洩ないし滴下が生じる可能性がある。すなわち、電源の遮断によって負圧ファン225の動作が止まる一方、負圧バルブ228が閉状態とならない、または閉状態となるのに時間を要する構成であると、記録ヘッド22内部の液室には負圧が付与されない状態(大気開放状態)となるからである。また、予備吐出動作あるいは吸引回復動作の前後においてキャップ50が吐出面に対向あるいは接合していない状態で電源の遮断が生じた場合にも同様の問題が生じ得る。
【0034】
従って、電源遮断時には負圧バルブ228を先ず閉状態とし、負圧ファン225と排気口314との接続路を閉鎖することが必須となる。そこで、本実施形態では、負圧バルブ228に使用するアクチュエータとして、非通電時には閉状態となるものを使用するか、または閉状態となるように周辺機構を配置する。これにより、突然の電源遮断時に負圧ファン225が停止するよりも先に負圧バルブ228が閉状態となって負圧ファン225と排気口314との接続路が閉鎖され、ノズルからのインクの漏洩ないしはプリンタ10の内部へのインク滴下を防止することができる。そのような動作を実現するための負圧バルブ228としては、例えば電源遮断と同時に励磁がオフとなって閉鎖状態となる電磁弁や電磁クラッチなどを用いることができる。また、弁体と、駆動に応じこれを接続路の開放方向に付勢するモータと、モータの非駆動時に弁体を接続路の閉鎖方向に速やかに復帰させる付勢力を発生する復帰ばねを有する機構が用いられてもよい。すなわち、非通電時に記録ヘッド22の内部と負圧ファンの吸引口との連通路を閉塞すべく作動可能な機構であればいかなるものが用いられてもよい。
【0035】
(インク供給方式の切り替え)
上述したように、インクの強制供給および動的負圧制御を行う構成においては、インクの高速供給が可能となり、記録の高速化が可能となる。しかしながら、ノズルの毛管力を利用した自然供給方式に比べてインクを強制供給するための供給ポンプ等や動的負圧制御機構を構成する負圧ファン等の駆動に伴って音が発生したり、動作時に消費電力が増大したりする等の問題がある。そこで本実施形態においては、インク供給方式を適宜切り替え、印刷ジョブ毎に最適なインク供給方式による記録処理を選択的に実行可能とする。
【0036】
図5は図2に示した制御系で行われる処理、特にCPU200の制御の下で行われる処理を機能ブロック毎に分けて示した説明図である。図5において、プリンタ10およびホスト装置201は共通ネットワーク333に接続されている。プリンタ10は、大きく分類して、記録データの処理を司るコントローラブロック334と、上述した各種モータ、負圧ファン225、各種バルブおよび記録ヘッド22の制御を司るエンジン制御ブロック335と、から構成されている。
【0037】
コントローラブロック334は、記録データ受信部336、記録設定解析部337、データ解析部338、2値化処理部339、ドットカウント部340、供給方式決定部341、記録制御部342、およびエンジン通信部343を有する。ここで、記録データ受信部336は、ネットワーク333との通信処理を制御する。記録設定解析部337は、受信した記録データのヘッダ部分を解析し、記録速度を設定する。データ解析部338は、受信した記録データをデコードし画像データを取り出す。2値化処理部339は、取り出されたデータを2値化して記録ヘッドで吐出可能な信号形態へと変換する。ドットカウント部340は、2値化処理された画像データを計数し、記録ヘッド毎の吐出数を算出する。供給方式決定部341は、計数されたドットカウント数と記録設定とに従って採用するインク供給方式を選択し、エンジン制御ブロック上の供給系制御部へ命令を出力する。記録制御部342は、2値化された画像データをエンジン制御ブロック上のヘッド制御部へと送出し、同じく搬送制御部を制御することで記録動作を行わせる。エンジン通信部343は、エンジン制御ブロック335との通信処理を行う。
【0038】
エンジン制御ブロック335は、コントローラ通信部344、供給系制御部345、ヘッド制御部347および搬送制御部346を有する。ここで、コントローラ通信部344はコントローラブロック334との通信処理を行う。供給系制御部345は、インク供給方式に応じて負圧ファン225、負圧バルブ228、供給ポンプ223、流路切り替えバルブ226を駆動し、使用するインク供給経路の制御を行う。ヘッド制御部347は、受信した画像データに基づいて記録ヘッド22を制御し、吐出動作を行わせる。搬送制御部346は、ヘッドアップダウンモータ220、搬送モータ221およびキャッピングモータ222その他の、記録媒体搬送や記録ヘッド22とキャップ50の相対移動に必要な各種アクチュエータを制御する。
【0039】
図6は、本実施形態で行われる、インク供給方式の切り替えを含めた記録処理手順の一例を示すフローチャートである。図6において、まず、記録データ受信部336がホスト装置201から送出された記録データを受信する(印刷ジョブ受付)。この記録データは例えば、R,G,Bの各色について8bitの、300dpi(ドット/インチ;参考値)の密度のデータで表現され、所定のPDLフォーマットで記述されており、場合によってはデータ圧縮されている。
【0040】
次に、記録設定解析部337が画像データのヘッダ解析を行い、設定された印刷モード(例えば記録速度を優先させるか、あるいは画質を優先させるか等)を確定する(ステップS11)。これにより、画像を記録すべき記録媒体の種類や記録解像度が決定される。ここで確定した印刷モードに基づいて、インクの自然供給方式で記録が可能であるか、あるいは高速記録が必要となり、自然供給方式では記録不可能であるかが判断される(ステップS12)。
【0041】
ステップS12において、自然供給方式による記録が不可能であると判断された場合にはステップS30に進む。一方、自然供給方式による記録が可能であると判断された場合にはステップS13に進み、記録データ解析部338が画像データの圧縮解凍およびPDLコマンドの解析を行い、記録データ内に格納されたビットマップデータの取り出しを行う。次に、当該取り出されたビットマップデータはラスタ単位で2値化処理部339に引き渡される。2値化処理部339は、R,G,Bの各色の8bitのデータから、プリンタ10で用いられているK,C,M,Yの各色インクについて1bitのデータへとフォーマット変換を行う(ステップS14)。
【0042】
次に、当該1bitのデータはドットカウント部340に引き渡され、ドットカウント部340は、記録すべき画像データに含まれる吐出ドット数を計数する(ステップS15)。ここで、上記計数データは供給方式決定部341に引き渡され、供給方式決定部341は、引き渡された吐出ドット数を所定の閾値と比較する。具体的には、受け付けた印刷ジョブ内で動的負圧制御を伴うインクの強制供給が必要な箇所はないかを判断するために、各色ヘッドのそれぞれの吐出ドット数を閾値と比較する。この比較結果において、一色でも吐出ドット数が閾値を超過したものがある場合にはステップS30に進む。
【0043】
一方、全色の吐出ドット数が閾値以下であり、自然供給方式による記録が可能であると判断された場合にはステップS17に進み、同一ライン内のC,M,Y,K各色の吐出ドット数を合計する。次に、ステップS18においてその合計値が所定の閾値以下であるか否かを判断する。このステップS18においてインク供給方式の最終判断が行われ、合計値が閾値以下であれば自然供給方式によって記録を行うことを決定し、一方閾値を超えていた場合には動的負圧制御を伴う強制供給方式によって記録を行うことが決定される。この判断結果に応じ、エンジン通信部343を介して供給系制御部345へ指示が発せられる。次に、上記1bitのデータは記録制御部342に引き渡される。そして、記録制御部342は、エンジン通信部343を介してヘッド制御部347および搬送制御部346を制御し、自然供給方式による記録処理(ステップS20、S21)または動的負圧制御を伴う強制供給方式による記録処理(ステップS30)が行われる。
【0044】
自然供給方式による記録処理(第1の記録処理)においては、負圧ファン225を駆動せず、負圧バルブ228を常時閉鎖状態とする(図3参照)。これにより、記録ヘッド22内は常に密閉状態が保たれ、大気開放状態となり、インク漏洩が発生することはない。また、供給ポンプ223を動作させず、流路切り替えバルブ226を常時開放状態とする。これにより、記録ヘッド22内のインク減少に伴い、インクタンク28から記録ヘッド22内へと自然にインクが導入される。また、供給ポンプ223を動作させないことでインクの過剰供給を防止でき、インク漏洩の発生も防止できる。一方、動的負圧制御を伴う強制供給方式による記録処理(第2の記録処理;ステップS30)は図4について前述したものである。すなわち、負圧ファン225を駆動させ、所定の圧力であることを確認した後に、負圧バルブ228を開弁させて記録処理を行い、記録処理に応じて供給ポンプ223によりインクは強制的に供給される。この際、流路切り替えバルブ226は閉鎖状態とされ、インク供給チューブ内での循環が防止される。
【0045】
以上説明した実施形態によれば、ヘッダ設定や印刷データ内のドット数に応じてインク供給方式を切り替えるようにした。これにより、インクの高速供給によって高速記録への対応が可能となるとともに、動的負圧制御を伴うインクの強制供給を必要最小限に抑え、負圧ファンや供給ポンプの稼働音を抑え、消費電力も低減することが可能となる。
【0046】
なお、上述したインク供給方式選択の手順は一例であり、本実施形態以外にも、例えばページ内での総ドット数を所定の閾値と比較することでインク供給方式を選択するようにしてもよい。また、上述した実施形態においては、インク供給方式の選択をインクジェット記録装置側で行うようにしたが、ホスト装置201側で行うようにしてもよい。さらに、図3においては1つの記録ヘッド22に対して動的負圧制御機構が設けられているように示されている。しかし、図1のように複数の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、2以上の記録ヘッドに対して共通した動的負圧制御機構を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
22、22K、22C、22M、22Y 記録ヘッド
223 供給ポンプモータ
223P 供給ポンプ
225 負圧ファン
226 流路切り替えバルブ
228 負圧バルブ
229 圧力センサ
310 負圧バッファユニット
313 インクタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドに供給されるインクを貯留するインクタンクを備え、
前記ノズルからのインクの吐出に伴って前記ノズルの毛管力により前記インクタンクからインクを前記記録ヘッドに自然に導入しながら記録を行う第1の記録処理と、前記インクタンクから前記記録ヘッドにインクを強制的に供給するとともに前記ノズルに負圧を安定して作用させるために前記記録ヘッドの内部の負圧を制御しながら記録を行う第2の記録処理とを選択的に実行可能であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
記録すべき画像データに応じた前記記録ヘッドによるインクの吐出ドット数を計数する計数し、当該計数された吐出ドット数が、所定の閾値以下である場合には前記第1の記録処理が、前記所定の閾値を超過している場合には前記第2の記録処理が選択されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクタンクと前記記録ヘッドとを接続し、前記第2の記録処理を行う際に前記インクを前記記録ヘッドに強制的に供給するためのポンプが介挿された第1の接続路と、
前記インクタンクと前記記録ヘッドとを接続し、開閉弁形態のバルブが介挿された第2の接続路と、
前記記録ヘッドに接続され、前記第2の記録処理を行う際に前記ノズルに負圧を安定して作用させるために前記記録ヘッドの内部を減圧状態とするファンと、
該ファンと前記記録ヘッドとの接続路に介挿された開閉弁形態のバルブと、
を備え、
前記第1の記録処理を行う際には、前記ポンプが停止され、前記第2の接続路に介挿された前記バルブが開放され、前記ファンと前記記録ヘッドとの接続路に介挿された前記バルブが閉鎖される一方、前記第2の記録処理を行う際には、前記ポンプが駆動され、前記第2の接続路に介挿された前記バルブが閉鎖され、前記ファンと前記記録ヘッドとの接続路に介挿された前記バルブが開放されるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86352(P2013−86352A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228793(P2011−228793)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】