説明

インクジェット記録装置

【課題】プラテンの開口部と廃インク吸収体が離れていても、廃インク吸収体を交換式とすること無く、装置の大型化を抑え、かつ、装置を傾けた時の廃インクの逆流を防止しながら、記録ヘッドから記録シートの外側に吐出された多量のインク滴を廃インク吸収体に導く構成を実現したインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】記録ヘッドと、第1の廃インク保持部材と、第2の廃インク保持部材と、第1の廃インク保持部材と第2の廃インク保持部材との間に配置された廃インク受け部36と、廃インク受け部36と第2の廃インク保持部材との間に配置された廃インク流路部と、を備え、廃インク受け部36に、第1の斜面33と、第1の斜面33の下端部に連続し、多孔質体シート31が取り付けられた廃インク受け面35と、が形成され、廃インク流路部に、多孔質体シート31から溢れた廃インクを第2の廃インク保持部材へ流す第2の斜面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから記録シートの外側に吐出されたインク滴を、廃インク吸収体に導くインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置においては、縁無し印刷や記録ヘッドのメンテナンスのための予備吐出等により、記録ヘッドから記録シートの外側に吐出されたインク滴を、廃インク吸収体に導く発明が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1には、プラテンの開口部に吐出されたインク滴を、廃インク伝導部材を介して、廃インク伝導部材に接触している廃インク吸収体に伝達させる発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、プラテン直下に交換式の廃インク吸収体が設けられた発明が開示されているとともに、プラテンの開口部に吐出されたインク滴を、斜面を介してその下方に設けられた廃インク吸収体に流す発明も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−158678号公報
【特許文献2】特開2007−160870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、廃インク吸収体に多量の廃インクが吸収された状態で装置を大きく傾けたまま放置すると、水頭差により廃インクが廃インク伝導部材を逆流し、プラテン上に流出するおそれがある。
【0007】
特許文献2に記載の発明では、廃インク吸収体を交換式としているため、構成が複雑化したり、交換コストが生じたりする。斜面によって廃インクを廃インク吸収体に導く発明では、プラテン開口部と廃インク吸収体が離れていると、斜面が伸長し、装置高さが増大する要因となる。
【0008】
本発明は、プラテンの開口部と廃インク吸収体が離れていても、廃インク吸収体を交換式とすること無く、装置の大型化を抑え、かつ、装置を傾けた時の廃インクの逆流を防止しながら、記録ヘッドから記録シートの外側に吐出された多量のインク滴を廃インク吸収体に導く構成を実現したインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドと対向する位置に配置され、記録シートの外側に吐出されたインク滴を吸収する第1の廃インク保持部材と、前記第1の廃インク保持部材の下方に配置された第2の廃インク保持部材と、前記第1の廃インク保持部材と前記第2の廃インク保持部材との間に配置された廃インク受け部と、前記廃インク受け部と前記第2の廃インク保持部材との間に配置された廃インク流路部と、を備え、前記廃インク受け部に、前記第1の廃インク保持部材から溢れた第1の廃インクが流れる第1の斜面と、前記第1の斜面の下端部に連続し、前記第1の廃インクを吸収する多孔質体シートが取り付けられた廃インク受け面と、が形成され、前記廃インク流路部に、前記多孔質体シートから溢れた第2の廃インクを前記第2の廃インク保持部材へ流す第2の斜面が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット記録装置によれば、プラテンの開口部と廃インク吸収体が離れていても、廃インク吸収体を交換式とすること無く、装置の大型化を抑え、かつ、装置を傾けた時の廃インクの逆流を防止しながら、記録ヘッドから記録シートの外側に吐出された多量のインク滴を廃インク吸収体に導くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の側断面図である。
【図3】図1に示すインクジェット記録装置の廃インク経路を説明するための正面図である。
【図4】図1に示すインクジェット記録装置の廃インク経路を説明するための側面図である。
【図5】図1に示すインクジェット記録装置の廃インク経路を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のインクジェット記録装置の実施形態について説明する。本実施形態のインクジェット記録装置は、記録機能のみを有するプリンタ(いわゆるPCプリンタ)だけでなく、コピー機能、ファクシミリ機能等を有するマルチファンクションプリンタにも適用可能である。
【0013】
まず、装置全体の概略について説明する。図1は本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を示す斜視図である。図2は、図1に示すインクジェット記録装置の側断面図である。
【0014】
図1、2に示すインクジェット記録装置1は給紙装置2を有する。給紙装置2は、積載された複数の記録シートから最上層の記録シートを分離し、搬送ローラ8へ給送する。給紙装置2によって所定量搬送された記録シートの先端が、搬送ローラ8と、搬送ローラ8に従動するピンチローラ12の当接によって形成される搬送ローラニップに突き当たることによって、レジスト動作(斜行補正動作)が行われる。
【0015】
レジスト動作終了後、記録シートは搬送ローラ8によってプラテン14上に搬送され、記録ヘッド13の記録素子配列面と対向する位置に保持される。搬送ローラ8は、駆動源である搬送モータ15によって、搬送ローラ用タイミングベルト16を介して回転される。
【0016】
次いで、プラテン14の上面に保持されている記録シートに、キャリッジ17に搭載された記録ヘッド13がインク滴を吐出しながらキャリッジ17が走査する。これにより記録が行われる。キャリッジ17は、ガイド軸18及びガイドレール19によって走査可能に支持されており、キャリッジモータ20からの駆動によりキャリッジ用タイミングベルト21を介して駆動される。
【0017】
記録シートに余白を残さず記録を行う場合には、記録シートの外側にも記録ヘッド13からインク滴が吐出される。記録シートの外側に吐出されたインク滴は、プラテン14の上面開口部に配置されたプラテン吸収体9(第1の廃インク保持部材)に吸収される。プラテン吸収体9は、記録中に行われる記録ヘッド13のインク吐出ノズルのメンテナンスのための予備吐出によって吐出されたインク滴も吸収する。プラテン吸収体9は、インクの吸収透過性が良好なウレタンフォーム等で構成されている。
【0018】
搬送ローラ8の搬送動作とキャリッジ17の走査動作の繰り返しにより記録が終了した記録シートは、上流側排紙ローラ22と、下流側排紙ローラ23と、複数の拍車5とによって排紙トレイ24上に排出される。各拍車5は、コイルばねを棒状に設けた拍車ばね6によって拍車ホルダー7に回転可能に支持されていると共に、上流側排紙ローラ22及び下流側排紙ローラ23に付勢されている。
【0019】
次に、プラテン吸収体9から溢れた廃インク(第1の廃インク)を、底部筐体3に配置された廃インク収容部25へ収容するための廃インク流路部材29について図3〜図5を用いて詳細に説明する。図3は、本実施形態の記録装置1の廃インク経路を説明するための正面図である。図4は、本実施形態の記録装置1の廃インク経路を説明するための側面図である。図5は、本実施形態の記録装置1の廃インク経路を説明するための上面図である。
【0020】
プラテン吸収体9に吸収されたインクの量が、プラテン吸収体9の最大保持容量を超えると、プラテン吸収体9から溢れた廃インクが貫通穴30からプラテン14の下方へ滴下する。貫通穴30は、プラテン14の、上面開口部に対向する底面部に設けられている。貫通穴30は、廃インクの滴下を促進するため、記録シートの側端縁付近や、予備吐出が行われる付近に複数設けることが望ましい。
【0021】
貫通穴30から滴下した廃インクは、プラテン14の直下に配置された底部フレーム4の上面に着地する。底部フレーム4の上面には、廃インク流路部材29の廃インク受け部36を構成する第1の斜面33及び廃インク受け面35が形成されている。廃インク受け面35は、第1の斜面33の下端部に連続している。本実施形態では、廃インク受け面35は、重力方向に直交する水平面である。第1の斜面33に着地した廃インクは、その自重により廃インク受け面35に流れ、廃インク受け面35に両面テープなどで貼り付けられた多孔質体シート31に吸収される。本実施形態では、廃インクが第1の斜面33を自重で流れるように、水平面(廃インク受け面35)に対する第1の斜面33の傾斜角は5°に設定されている。一方、廃インク受け面35に着地した廃インクは、多孔質体シート31にそのまま吸収される。多孔質体シート31は、インク吸収性が良いポリビニールアルコール製のスポンジなどが好ましい。第1の斜面33には、斜面の傾斜方向に沿って延びた溝32(図5参照)を複数設けることで、廃インクの流れを促進することができる。
【0022】
廃インク受け面35に多孔質体シート31が設けられていないと、廃インク受け面35に滞留した廃インクが乾燥して固着する。そのため、廃インク受け面35に流入した廃インクが廃インク受け部36の外部へ流出してしまうおそれがある。しかし、本実施形態では、多孔質体シート31を廃インク受け面35に取り付けることによって、廃インクの廃インク受け部36の外部への流出を防止することができる。
【0023】
本実施形態では、図3に示すように、各々の下端部が互いに対向するように一対の第1の斜面33が廃インク受け部36に形成され、廃インク受け面35が一対の第1の斜面33の下端部の間に形成されている。これにより、廃インク受け面35を装置(廃インク受け部36)の一端に配置し、1つの長い第1の斜面33を形成する構成よりも装置の高さを抑えることができる。
【0024】
多孔質体シート31に吸収された廃インクの量が、多孔質体シート31の最大保持容量を超えると、多孔質体シート31から溢れた廃インク(第2の廃インク)が、廃インク流路部37を流れる。廃インク流路部37には、廃インク受け面35から下方へ延伸する第2の斜面34が形成されている。第2の斜面34にも、第1の斜面33と同様に、斜面の傾斜方向に沿って延びた溝32を複数設けることで、廃インクの流れを促進することができる。さらに、多孔質体シート31の一部を第2の斜面34に延伸させることで、多孔質体シート31から溢れた廃インクが、第2の斜面34により流れやすくなる。本実施形態では、廃インクが第2の斜面34を自重で流れるように、水平面(廃インク受け面35)に対する傾斜角が17°に設定されている。第2の斜面34の傾斜角を第1の斜面33の傾斜角(5°)よりも大きく設定してあるのは、水分蒸発によって廃インクの粘度が上がっても、廃インクが自重で第2の斜面34を流れるようにするためである。
【0025】
第2の斜面34の上端部は、底部フレーム4の下部に配置されている。第2の斜面34は、底部フレーム4から廃インクケース27の開口部28まで廃インクを流せるように延伸している。第2の斜面34を流れた廃インクは、開口部28から廃インクケース27の内部に滴下する。廃インクケース27の内部には、廃インクケース27とともに第2の廃インク保持部材を構成する廃インク吸収体26が収容されている。
【0026】
本実施形態のインクジェット記録装置1において、装置を左右前後に傾けてしばらく放置しても、廃インクが廃インクケース27から外部へ流出しにくいようにするため、開口部28は廃インクケース27の上面中央に設けることが好ましい。
【0027】
また、本実施形態のインクジェット記録装置1において、多孔質体シート31は、プラテン吸収体9及び廃インク吸収体26のいずれにも接触していない。そのため、装置を左右前後に傾けてしばらく放置しても、水頭差により廃インクが逆流してくるおそれも無い。
【0028】
さらに、メンテナンス部10に接続されたチューブ11の先端は、廃インクケース27の開口部28に連通している。そのため、メンテナンス部10による記録ヘッド13のメンテナンス動作に伴い生じた廃インク(第3の廃インク)が、廃インクケース27に収容される。
【0029】
上述したように、廃インク収容部25は、多孔質体シート31を備えており、多孔質体シート31が想定される廃インク量を十分収容できる容量とすることで、廃インク吸収体26を交換せずに済む。
【0030】
本実施形態のインクジェット記録装置によれば、プラテン14の開口部と廃インク吸収体26が互いに離れた構成であっても、廃インク吸収体を交換式とすること無く、装置の大型化を抑えることが可能となる。さらに、本実施形態のインクジェット記録装置によれば、装置を傾けた時の廃インクの逆流を防止しながら、記録ヘッドから記録シートの外側に吐出された多量のインク滴を廃インク吸収体に導くことが可能となる。
【0031】
本発明では、廃インク受け面35は水平面に限定されず、水平面に対する傾斜角が第1の斜面33及び第2の斜面34よりも小さい斜面であってもよい。この場合、装置の高さは若干高くなるが、廃インク収容については同様の効果を得ることができる。
【0032】
また、第1の斜面33及び第2の斜面34は、それぞれ複数の傾斜角で構成される斜面であってもよいし、曲面を含む斜面でもよい。
【符号の説明】
【0033】
9 プラテン吸収体
13 記録ヘッド
31 多孔質体シート
33 第1の斜面
34 第2の斜面
35 廃インク受け面
36 廃インク受け部
37 廃インク流路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドと対向する位置に配置され、記録シートの外側に吐出されたインク滴を吸収する第1の廃インク保持部材と、前記第1の廃インク保持部材の下方に配置された第2の廃インク保持部材と、前記第1の廃インク保持部材と前記第2の廃インク保持部材との間に配置された廃インク受け部と、前記廃インク受け部と前記第2の廃インク保持部材との間に配置された廃インク流路部と、を備え、
前記廃インク受け部に、前記第1の廃インク保持部材から溢れた第1の廃インクが流れる第1の斜面と、前記第1の斜面の下端部に連続し、前記第1の廃インクを吸収する多孔質体シートが取り付けられた廃インク受け面と、が形成され、
前記廃インク流路部に、前記多孔質体シートから溢れた第2の廃インクを前記第2の廃インク保持部材へ流す第2の斜面が形成されている、インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第2の斜面が前記廃インク受け面から延伸している、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1の斜面または前記第2の斜面の少なくとも一方に、斜面の傾斜方向に沿って延びた溝が設けられている、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
各々の前記下端部が互いに対向するように一対の前記第1の斜面が形成され、前記一対の第1の斜面の下端部の間に前記廃インク受け面が形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記多孔質体シートの一部が前記第2の斜面に延伸している、請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記多孔質体シートは、ポリビニールアルコール製のスポンジである、請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録ヘッドと対向する位置で前記記録シートを保持するプラテンであって、前記インク滴が滴下する位置に開口部が形成されたプラテンをさらに有し、
前記第1の廃インク保持部材が、前記プラテンの前記開口部に配置されている、請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記プラテンの、前記開口部に対向する底面部に複数の貫通穴が設けられている、請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドのメンテナンス動作を行うメンテナンス部と、
前記メンテナンス部に接続され、前記メンテナンス動作により生じる第3の廃インクを前記第2の廃インク保持部材へ流すチューブと、をさらに有する請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記第2の廃インク保持部材が、廃インク吸収体と、該廃インク吸収体を収容した廃インクケースとで構成され、前記廃インクケースの上面中央に開口部が形成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記廃インク受け面は、水平面に対する傾斜角が前記第1の斜面及び前記第2の斜面よりも小さい斜面である、請求項1から10のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記多孔質体シートは、前記第1の廃インク保持部材及び前記第2の廃インク保持部材のいずれにも接触していない、請求項1から11のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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