説明

インクジェット記録装置

【課題】画像品質の低下及びラインヘッドの劣化を防ぐことができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】記録媒体50を搬送する無端状の搬送ベルト5と、搬送ベルト5に接触し、交流電圧が印加されることで搬送ベルト5に正帯電領域と負帯電領域とを交互に形成するベルト帯電手段と、搬送ベルト5により搬送される記録媒体50に接触し、正極及び負極電圧で形成される交流電圧が印加されて記録媒体50を帯電させる記録媒体帯電手段と、を有し、搬送ベルト5により搬送される記録媒体50に画像を形成する画像形成装置100であって、ベルト帯電手段の搬送ベルト5の回転方向における帯電領域の長さL、正帯電領域と負帯電領域との間隔Pと、記録媒体帯電手段の記録媒体50の搬送方向における帯電領域の長さL、記録媒体50に印加する正及び負極電圧の間隔Pとが、L≦P、P<L及びP<Pの関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される記録媒体にインク滴を吐出して画像を形成するインクジェット記録装置に関し、特に記録媒体を静電気力により搬送する静電搬送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いた画像形成装置では、多数のノズルが記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列されたライン型の記録ヘッド(以下、ラインヘッドという)を備えるインクジェット記録装置が実用化されている。
【0003】
ライン型インクジェット記録装置では、搬送される用紙とラインヘッドとが数ミリ程度の一定間隔になる様に設けられており、用紙が浮いた状態で搬送されるとインク滴の着弾位置がずれることによって画像品質が低下してしまう場合がある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、搬送ベルトに正極性帯電領域と負極性帯電領域とが交互に並ぶ様に帯電させ、記録媒体の少なくとも先端部を着地先の帯電領域の極性とは逆極性に帯電させることで、搬送ベルトからの用紙の浮きを防止する静電搬送技術が開示されている。
【0005】
この様な静電搬送技術を用いることで、搬送される用紙に浮きが生じるのを防止できるが、帯電した搬送ベルト上の電荷の影響で用紙上方のラインヘッド近傍に電界が形成される場合がある。
【0006】
ラインヘッド近傍に電界が形成されると、ラインヘッドが吐出するインク滴の着弾位置がずれたり、インク滴から分裂した微小液滴がラインヘッド表面に戻って再付着する場合がある。着弾位置のずれは画像品質の低下を招き、微小液滴がラインヘッド表面に再付着して固着すると、インク滴吐出方向の曲がりやノズル詰まり等の不具合が発生することになる。
【0007】
そこで、例えば特許文献2には、帯電した搬送手段の静電気力により吸着、保持された記録媒体に、搬送手段が帯びる電荷と逆極性の電荷を電源が電極を介して注入し、記録媒体上に電界を生じさせる電荷を中和することで、記録媒体の表面電位を低減する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に係る方法では、微小液滴がラインヘッド表面に再付着しない程度に記録媒体の表面電位を低減できるが、記録媒体上方のラインヘッド近傍には電界が形成されてインク滴の着弾位置にずれが生じる場合がある。また、環境や紙種、紙厚に応じて記録媒体に印加する電圧を制御するためには、記録媒体の表面電位を検出する表面電位センサを設ける必要があり、構成や制御が複雑化してしまうという問題がある。
【0009】
そこで本発明では、記録媒体を帯電された搬送ベルトで静電搬送することによって、搬送される記録媒体が浮くのを防止すると共に、ラインヘッド近傍に電界が形成されるのを防止することで、画像品質の低下及びラインヘッドの劣化を防ぐことができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、記録媒体を搬送する無端状の搬送ベルトと、前記搬送ベルトに接触し、交流電圧が印加されることで前記搬送ベルトに正帯電領域と負帯電領域とを交互に形成するベルト帯電手段と、前記搬送ベルトにより搬送される前記記録媒体に接触し、正極及び負極電圧で形成される交流電圧が印加されて前記記録媒体を帯電させる記録媒体帯電手段と、を有し、前記搬送ベルトにより搬送される前記記録媒体に画像を形成する画像形成装置であって、前記ベルト帯電手段の前記搬送ベルトの回転方向における帯電領域の長さL、前記正帯電領域と前記負帯電領域との間隔Pと、前記記録媒体帯電手段の前記記録媒体の搬送方向における帯電領域の長さL、前記記録媒体に印加する前記正及び負極電圧の間隔Pとが、L≦P、P<L及びP<Pの関係を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、記録媒体を搬送ベルトで静電搬送することにより浮きが無い状態で記録媒体を搬送することができ、簡易な構成及び制御でラインヘッド近傍に電界が形成されるのを防止することができる。
【0012】
したがって、インク滴の着弾位置にずれが生じたり、インク滴から分裂した微小液滴がラインヘッド表面に再付着することが無いため、画像品質の低下及びラインヘッドの劣化を低減可能なインクジェット記録装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成例を示す図
【図2】搬送ベルトの用紙吸着原理について説明する図
【図3】帯電ローラによる接触帯電における帯電領域について説明する図
【図4】正負帯電領域の間隔と帯電電圧との関係を示す図
【図5】用紙帯電部材への印加電圧と用紙に付与される帯電電荷量との関係を示す図
【図6】搬送ベルト及び用紙の静電容量、帯電電荷密度を説明する図
【図7】実施形態に係るインクジェット記録装置における搬送ベルト及び用紙の帯電状態の例を示す図
【図8】実施形態に係るインクジェット記録装置において用紙帯電ブレードを用いた構成例を示す図
【図9】用紙帯電部材と用紙との間で放電が発生する部位及び条件を説明する図
【図10】実施形態に係る用紙帯電ローラの直径と搬送ベルトの正負帯電領域の間隔との関係を示す図
【図11】実施形態に係る用紙帯電部材としての帯電ブレードの構成例を示す図
【図12】実施形態に係る用紙帯電部材としてのブラシローラの構成例を示す図
【図13】実施形態に係る用紙帯電部材の配置について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態(以下「実施形態」という)について、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置100の概略構成例を示す図である。
【0016】
インクジェット記録装置100は、不図示の給紙トレイから給紙される記録媒体としての用紙50を取り込み、搬送ベルト5で用紙50を搬送し、ラインヘッド1が画像データに基づいてインク滴を吐出して画像を記録した後、機外に用紙50を排出する。
【0017】
ラインヘッド1は、ブラック(Bk)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の色ごとに設けられ、各ラインヘッド1Bk,1Y,1M,1Cにはインク滴を吐出するノズル列が用紙50の搬送方向に直交する方向に設けられている。なお、色の数及び配列の順序はこれに限るものではない。
【0018】
用紙50は給紙トレイから搬送され、図中矢印方向に回転駆動する搬送ローラ30,31に掛け渡された搬送ベルト5に受け渡され、用紙50をラインヘッド1に対向する画像形成部まで搬送する。
【0019】
搬送ベルト5は、例えば用紙50に接する側を絶縁層とし、反対側を導電層とする2層構成あるいは3層以上の構成とすることができる。また、用紙50の搬送方向において下流側の搬送ローラ31は、搬送ベルト5から用紙50を曲率により分離するために小径のローラを用いることが好ましい。
【0020】
搬送ベルト5には、搬送ベルト5を帯電させるベルト帯電手段としてのベルト帯電ローラ10と、用紙50を帯電させる記録部材帯電手段としての用紙帯電ローラ20が、それぞれ搬送ローラ30に対向する位置に設けられている。
【0021】
ベルト帯電ローラ10及び用紙帯電ローラ20はそれぞれ高圧電源15,25に接続して所定のパターンで交流電圧が印加され、搬送ベルト5又は用紙50を帯電させる。
【0022】
ベルト帯電ローラ10によって帯電した搬送ベルト5上に用紙50が給紙されると、用紙50内部が分極状態になり、搬送ベルト5上の電荷と逆極性の電荷が用紙50の搬送ベルト5と接触する面に誘電される。搬送ベルト5上の電荷と搬送される用紙50上に誘電された電荷同士が静電的に引き付け合うことで、用紙50は搬送ベルト5に静電的に吸着された状態で搬送される。
【0023】
用紙50は搬送ベルト5に静電的に吸着することで、反りや凹凸が矯正されて平滑な面が形成された状態でラインヘッド1の直下まで搬送される。用紙50が搬送ベルト5から部分的に浮いた状態で搬送されると、ラインヘッド1が吐出するインク滴が所定位置に着弾せず、画像位置ずれが生じて画像品質が低下する。しかし、帯電した搬送ベルト5によって用紙50を静電搬送することで、搬送される用紙50の浮きを防止して着弾位置ずれによる画像品質の低下を防ぐことができる。
【0024】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置100では、後述する様に用紙帯電ローラ20が用紙50を帯電させることで、用紙50上方のラインヘッド1近傍に電界が形成されるのを防止している。したがって、ラインヘッド1のインク滴吐出曲がりや、分裂した微小液滴がラインヘッド1のノズル面への再付着を防止できるため、画像品質の低下及びラインヘッド1の劣化を低減できる。
【0025】
この様に搬送ベルト5によって搬送され、各色のラインヘッド1Bk,1Y,1M,1Cが画像データに基づいてインク滴を吐出することで表面に画像が形成された用紙50は、不図示の搬送機構によって機外の排紙トレイに排出される。
【0026】
次に、図2を用いて搬送ベルトの用紙吸着原理について説明する。
【0027】
用紙50に接する表面に絶縁層、裏面に導電層を有する搬送ベルト5に、高圧電源からベルト帯電ローラ等のベルト帯電手段を介して正負の交流電圧を印加すると、搬送ベルト表層の用紙搬送方向に正負の帯電領域がストライプ状に交互に形成される。
【0028】
この様に帯電した搬送ベルト5に用紙50を搬送すると、搬送ベルト5上の正負の帯電電荷による電界が用紙50に作用し、搬送ベルト5の帯電電荷とは逆極性の誘導電荷が用紙50の搬送ベルト5側に発生し、用紙50が搬送ベルト5に大きな静電力で吸着される(図2(a))。
【0029】
用紙50に発生する誘導電荷は、用紙50が抵抗体であることに由来しており、用紙50が置かれた状態の静電容量Cと用紙の抵抗値Rによって表される緩和時間τ(=RC)によって、誘導電荷量q(t)は下式(1)及び図2(b)の様に表される。
【0030】
q(t) = q(1−e(−t/τ)) ・・・(1)
用紙50の種類や環境の変化によって抵抗値Rは大きく変化するが、0.05〜数秒の範囲で静電誘導が完了して搬送ベルトに用紙50が吸着する。
【0031】
ここで、ラインヘッドを搭載するインクジェット記録装置等の高速画像形成装置では、用紙搬送速度が速く、搬送ベルト5と用紙50との接触時間を十分に取ることができず、用紙50の静電誘導が完了しない状態で搬送することとなる(図2(c))。この場合には、用紙50と搬送ベルト5との間の吸着力が小さいため用紙50が浮き上がった状態で搬送される虞がある。
【0032】
さらに、用紙50に誘導電荷が十分に発生していない状態では、搬送ベルト5表面から数ミリ程度の間隔で設けられるラインヘッド1近傍に搬送ベルト5の帯電電荷に起因する電界が発生する。ラインヘッド1近傍に電界が生じると、上記した様にインク滴の着弾位置がずれたり、吐出したインク滴から分裂した微小インク滴が戻ってノズル面に再付着することによって、画像品質の低下及びラインヘッド1の劣化を招くこととなる。
【0033】
図3に、帯電ローラによる接触帯電における帯電領域について説明する図を示す。
【0034】
本実施形態では、搬送ベルト5を帯電するベルト帯電手段及び用紙50を帯電する記録媒体帯電手段として、金属の芯金に導電性ゴム等の弾性ゴムを巻き付けた構造を有する帯電ローラを用いている。帯電ローラの弾性ゴムとしては、発泡ゴム等を用いることができる。
【0035】
ベルト帯電ローラ10及び用紙帯電ローラ20は、被帯電部材である搬送ベルト5又は用紙50に押圧されて接触し、搬送ベルト5又は用紙50に従動して回転する様に設けられている。帯電ローラは、表面が弾性体で構成されているため、押圧されて被帯電部材に接触することで表面の一部分が平面状に変形してニップ部Nが形成される。
【0036】
この様な状態で帯電ローラに高電圧を印加すると、ニップ部Nの端部付近の帯電ローラと被帯電部材表面との間の微小空間において空気が電離し、被帯電部材へイオン又は電子を付与することで帯電が行われる。
【0037】
空気が電離する現象をコロナ放電といい、放電が開始する条件はパッシェンの法則に基づき、約1気圧の空気中では隙間が約8μmの並行平板電極に310Vの電圧を印加すると放電が始まる。しかし、電極の形状が並行平板ではなく、エッジや微小な凸形状がある場合には、その形状の近傍で局部的に電界が大きくなることにより、一定の印加電圧でもコロナ放電が開始する距離は大きくなる。また、印加電圧が大きい程、放電が開始する距離も大きくなる。
【0038】
ここで、図3に示す構成において、ベルト帯電ローラ10の直径が16mmで印加電圧が±2kVの場合には、搬送ベルト5の搬送方向におけるニップ部Nの幅aは1.5mm、放電領域の幅bは0,7mm(隙間30μm程度)となる。したがって、搬送ベルト5の回転方向において、搬送ベルト5の帯電に関与する帯電領域の長さLは、
= a+b×2 = 2.9[mm]
となる。また、用紙帯電ローラ20と用紙50との間の帯電領域の長さLも同様に求めることができる。
【0039】
ここで、帯電部材に交流電圧を印加し、被帯電部材に正負の帯電領域を間隔Pで形成する帯電を行う場合において、間隔Pが上記した帯電部材の帯電領域の長さLよりも小さくなると、搬送ベルト5の帯電電圧が急減してしまう(図4)。
【0040】
したがって、被帯電部材の線速と印加する交流電圧(直流成分はゼロ)の周波数の設定によって間隔Pが帯電領域の長さLよりも小さくなると、帯電ローラは被帯電部材を帯電するのではなく、被帯電部材表面の電位をゼロにする除電器として働くこととなる。
【0041】
そこで、本実施形態では搬送ベルト5を帯電するベルト帯電ローラ10の帯電領域の長さLと搬送ベルト5上の帯電間隔P(線速/交流電圧の周波数)の関係を下式(2)としてコントラストのある正負の帯電領域を搬送ベルト5に形成している。
【0042】
≦ P ・・・(2)
搬送ベルト5を式(2)の条件下で帯電させることで、搬送ベルト5が帯電して用紙50を吸着して搬送することができるため、搬送される用紙50が浮くことによる画像品質の低下を防ぐことができる。しかし、この状態では搬送ベルト5の帯電電荷によってラインヘッド1近傍に電界が形成され、上記した様にインク滴の吐出曲がりや微小インク滴の再付着によって画像品質の低下及びラインヘッド1の劣化を招く場合がある。
【0043】
そこで、本実施形態では用紙50の表面に用紙帯電ローラ20によって搬送ベルト5の帯電電荷とは逆極性の帯電電荷を一定量付与し、用紙50表面における電位をゼロにすることでラインヘッド1近傍に電界が生じるのを防止している。
【0044】
ここで、用紙50の搬送方向における用紙帯電ローラ20の帯電領域の幅Lと、用紙帯電ローラ20が交流電圧を印加されることによって形成する正負の帯電領域の間隔Pとが下式(3)の関係を満たすことで、記録ヘッド近傍に電界が発生するのを防止できる。
【0045】
> P , P > P ・・・(3)
上記関係を満足することで、用紙50の表面には間隔Pの帯電領域が形成されず、搬送ベルト5の表面に間隔Pで形成されたストライプ状の帯電電荷を打ち消す様に、用紙50に搬送ベルト5とは逆極性の帯電電荷を付与することができる。この時、搬送ベルト5表面の帯電電荷は、用紙50があることにより消失せずに存在する。
【0046】
用紙帯電ローラ20に印加する電圧は、用紙50の表面と用紙帯電ローラ20とのニップ部近傍の空気がコロナ放電を開始する電圧以上の交流電圧であれば良い。コロナ放電を開始する電圧以上であれば、搬送ベルト5の帯電電荷によって形成される電界を打ち消すだけの逆極性の電荷のみが用紙表面に移動する。
【0047】
したがって、用紙帯電ローラ20に印加する交流電圧は、コロナ放電開始電圧以上で式(3)を満足する条件であれば、用紙50が搬送ベルト5に静電吸着すると共に、用紙50の表面から上空間に電界が形成されることがない。
【0048】
ここで、式(2)及び(3)とは逆にL>P、L≦P及びP<Pとした場合には、搬送ベルト5の表面はベルト帯電ローラ10により除電されて表面電位がゼロになり、用紙帯電ローラ20によって間隔Pで用紙50の表面に正負の帯電領域が形成される。
【0049】
用紙50表面の帯電電荷によって用紙50は搬送ベルト5に静電吸着するが、用紙50表面の帯電電荷に起因して用紙50表面から上方の空間に回りこむ様な電界が発生することとなり、インク滴の着弾位置ずれや微小インク滴の再付着が発生してしまう。
【0050】
また、L≦P、L≦P及びP=Pとした場合には、ベルト帯電ローラ10に印加する交流電圧の位相と、用紙帯電ローラ20に印加する交流電圧の位相とが180度ずれる様に管理する必要がある。もしくは、両方の印加電圧の位相が同じ場合には、ベルト帯電ローラ10と用紙帯電ローラ20の位置関係によって逆位相にそれぞれ帯電出来る様に設ける必要がある。
【0051】
さらに、ベルト帯電ローラ10による帯電電荷量に対して、用紙50表面からの電界を打ち消すために用紙50に付与する必要がある逆極性の帯電電荷量はある一定値であり、付与する帯電電荷量に応じて用紙帯電ローラ20の印加電圧設定値が定められる。
【0052】
しかしながら、用紙50の厚さや抵抗値、あるいは環境によって、同じ大きさの印加電圧でも用紙50に付与できる帯電電荷量が異なるため、常に用紙50上方に生じる電界を打ち消す様な用紙帯電ローラ20の印加電圧設定値を定めることができない。例えば、用紙50が帯電した搬送ベルト5に接触して搬送され、用紙帯電ローラ20に接触するまでの間に、用紙50は抵抗体であるため、用紙50の搬送ベルト5に接する面には搬送ベルト5表面の帯電電荷によって発生する電界により誘導電荷が発生する。したがって、用紙50の抵抗値の違いによっても用紙帯電ローラ20の印加電圧設定値が異なることとなる。
【0053】
上記した各条件における用紙帯電ローラ20への印加電圧と用紙50に付与される帯電電荷量との関係を図5に示す。
【0054】
また、図6に搬送ベルト5及び用紙50の静電容量C、帯電電荷密度qを示し、図7には本実施形態に係るインクジェット記録装置100における搬送ベルト5及び用紙50の帯電状態の例を示す。
【0055】
搬送ベルト5の静電容量をC、帯電電荷密度をqとすると、搬送ベルト5の電位はq/Cとなる。また、搬送ベルト5と用紙50とを含む静電容量をC、用紙50表面の帯電電荷密度をqとすると、用紙50の表面における電位はq/Cとなる。q/Cとq/Cとの和が0となる時が用紙50の上方空間の電界が消滅した状態である。
【0056】
図7に示す様に、本実施形態に係るインクジェット記録装置100では、ベルト帯電ローラ10が搬送ベルト5に帯電領域L以上の間隔Pで正負の帯電領域を形成し、用紙50が搬送ベルト5に接触して誘導電荷が発生して静電搬送される。搬送される用紙50には、用紙帯電ローラ20が帯電領域L未満で、且つ、間隔Pより小さい間隔Pで正負の交流電圧を印加することで、搬送ベルト5の帯電電荷と逆極性の電荷が付与される。
【0057】
本実施形態に係る高圧電源15,25は、正弦波あるいは矩形波の交流電圧をベルト帯電ローラ10及び用紙帯電ローラ20に印加し、周波数を制御することで帯電間隔P、Pを変化させることができる。また、図8に示す様に搬送ベルト帯電手段として帯電ブレード11を用いることで、ベルト帯電ローラ10を用いる場合よりも帯電領域Lを小さくすることができ、狭い間隔Pで搬送ベルト5に正負の帯電領域を形成できる。
【0058】
以上で説明した本実施形態では、用紙50が搬送ベルト5に吸着して搬送されることで浮きが発生せず、用紙50上方のラインヘッド1近傍において電界が形成されないため、インク滴の着弾位置ずれによる画像品質の低下や、微小インク滴の再付着によるラインヘッド1の劣化を防止できる。
【0059】
ここで、用紙帯電部材と用紙50との間で放電が発生する部位及び条件について、図9を用いて詳細に説明する。
【0060】
図9に示す様に、用紙帯電部材では、用紙帯電部材と用紙50との間のニップ部近傍の微小空間Bの局所的電界EB2と、搬送ベルト5表面と用紙50との間の微小区間Cの局所的電界Eの大きい方でコロナ放電が発生する。なお、用紙50及び搬送ベルト5内では空気と比べて誘電率が大きいので局所的電界は必ずEB2及びEよりも小さくなるため、これらの物質内で放電は発生しない。
【0061】
搬送ベルト5と用紙50との間の微小空間Cの局所的電界Eが大きく、空間Cでコロナ放電が発生すると、ベルト帯電部材によって帯電した搬送ベルト5上の帯電電荷を除電することとなり、用紙50が搬送ベルト5に静電吸着しなくなってしまう。
【0062】
この局所的電界Eは、搬送ベルト5裏面のアース面と用紙帯電部材に印加された電圧による電界Eと、搬送ベルト5表面の帯電電荷によって発生する電界Eと、搬送ベルト5表面の帯電電荷によって用紙50の搬送ベルト5側に発生する逆極性の誘導電荷による電界Eとの合成として下式で表され、時間の経過に伴って大きくなる。
【0063】
= E+E+E ・・・(4)
また、用紙50の搬送ベルト5側の面に誘導される電荷は、搬送ベルト5表面の帯電電荷量と略等しくなり、搬送ベルト5表面の電荷に近接していることから、誘導が完了した状態ではE=Eであり、式(1)と同様にE(t)を下式で表すことができる。
【0064】
(t) = E(1−e(−t/τ)) ・・・(5)
式(4)と式(5)から、搬送ベルト5表面と用紙50との間の微小空間Cの局所的電界Ecは下式で表される。
【0065】
= E+E(2−e(−t/τ)) ・・・(6)
一方、用紙50と用紙帯電部材との間のニップ部近傍の微小空間Bの局所的電界EB2は、搬送ベルト5裏面のアース面と用紙帯電部材に印加された電圧による電界Eと、搬送ベルト5表面の帯電電荷によって発生する電界Eと、用紙帯電部材のニップ部近傍の電極のエッジや表面の微小な凸形状等により局部的に電界が増幅された電界Ek(kは1以上の係数)と、搬送ベルト5表面の帯電電荷によって用紙50に発生する逆極性の誘導電荷による電界Eとの合成となり、下式で表すことができる。時間の経過に伴って用紙50の誘導電荷が増加するのに従って局所的電界EB2は小さくなる。
【0066】
B2 = E+E+Ek−Eu ・・・(7)
ここで、式(7)に式(5)を代入すると下式が得られる。
【0067】
B2 = E+Ek−E×e(−t/τ) ・・・(8)
用紙帯電ローラ20と用紙50との間の空間Bで放電するためには、EB2>Eとなる必要があり、下式を満足しなければならない。
【0068】
Ek > 2E(1−e(−t/τ)) ・・・(9)
式(9)の関係式を満たすためには、用紙帯電部材として直径が小さい帯電ローラを用いたり、帯電部材の表面に発泡ゴムやブラシを設けることで、用紙50との接触領域を微小にすることが有効である。接触領域を微小にすることで、用紙50と帯電部材との接触部近傍の微小空間B2でコロナ放電を発生し易くすることができる。
【0069】
図1に示す様に、搬送ベルト5に用紙50が接触すると同時に用紙帯電ローラ20を用紙50に接触させる様に配設すると、用紙50の抵抗値に関係なく電荷を誘導する時間がないため、用紙50には誘導電荷は発生していない。
【0070】
この場合においても、用紙帯電部材に放電し易いものを用いれば、用紙50と用紙帯電部材との間のニップ部N近傍の微小空間Bの局所的電界EB2は、搬送ベルト5表面と用紙50との間の微小空間Cの局所的電界Eより大きな値となる。したがって、微小空間Bでコロナ放電が発生し、用紙50表面に搬送ベルト5上の帯電電荷の影響を打ち消す逆極性の帯電電荷を用紙50に付与できる。
【0071】
また、用紙50が搬送ベルト5に接触してから一定時間経過後に用紙帯電部材が用紙50に接触する様な構成では、EB2>Eを満足する時間内であれば、微小領域Bのみでコロナ放電が発生し、用紙50を静電吸着させると共に用紙50上方における電界を消失させることができる。
【0072】
しかし、EB2≦Eとなる場合には、領域Cでコロナ放電が発生して搬送ベルト5上の電荷を除電することとなり、搬送ベルト5は用紙50の吸引力を失ってしまう。そこで、用紙50に十分な誘導電荷が発生している場合には、搬送ベルト5の帯電電荷によって形成される電界が用紙50の誘導電荷によって打ち消されるため、用紙帯電部材への交流電圧の印加は必要なくなる。
【0073】
本実施形態の構成において、用紙帯電部材として図10に示す様に搬送ベルト5に形成される正負の帯電領域の間隔P以下の直径Rを有する用紙帯電ローラ20を用いることで、用紙50との間の接触領域を小さくし、用紙50との間でコロナ放電し易くすることができる。
【0074】
また、用紙帯電部材として、図11に示す帯電ブレード21や、図12に示すブラシローラ22を用いることで、用紙50との接触領域をさらに小さくし、用紙50との間でコロナ放電を発生し易くすることができる。搬送ベルト5の正負の帯電領域の間隔Pが小さい場合には、帯電ローラでは帯電領域Lを小さくするのには限界があるため、帯電ブレード21やブラシローラ22を用いるのが有効である。また、ブラシローラ22を用いれば、搬送ベルト5表面に均一な帯電を行うことが可能になる。あるいは、用紙帯電部材として、用紙50の搬送方向の直交方向に長いシート部材を用い、シート部材の端部が用紙50表面に接する様に設けることもできる。
【0075】
帯電領域Lは湿度や温度といった環境条件により変化するが、上記構成により用紙帯電部材と用紙50との接触領域を小さくすることで、環境に依存せずに式(2)、(3)を満足し、用紙50を静電搬送すると共に用紙50上方空間に電界が発生するのを防止できる。
【0076】
また、図13に示す様に、帯電ローラ20等の用紙帯電部材は、搬送ベルト5を介して搬送ローラ30に対向する位置に配設するのが好ましい。搬送される用紙50を用紙帯電部材が搬送ベルト5に押圧し、用紙50を搬送ベルト5に密着させることで、搬送される用紙50に浮きが生じるのをより確実に防止できる。
【0077】
以上で説明した様に、本発明の実施形態によれば、搬送ベルト5をベルト帯電ローラ10によって帯電させて用紙50を静電搬送することで、搬送される用紙50に浮きが発生することがなく、これを原因とする画像位置ずれといった不具合を防止できる。
【0078】
また、用紙帯電ローラ20によって、用紙50を搬送ベルト5と逆極性の帯電電荷を付与することで、用紙50上方のラインヘッド1近傍に電界が形成されるのを防止することができる。したがって、ラインヘッド1のインク滴吐出方向が曲がったり、微小インク滴がノズル面に再付着することがないため、画像品質の低下やラインヘッド1の劣化を防止することができ、長期に渡って高品質画像を出力できるインクジェット記録装置を提供できる。
【0079】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせなど、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0080】
5 搬送ベルト
10 ベルト帯電ローラ(ベルト帯電手段)
11 ベルト帯電ブレード(ベルト帯電手段)
20 用紙帯電ローラ(記録媒体帯電手段)
21 用紙帯電ブレード(記録媒体帯電手段)
22 用紙帯電ブラシローラ(記録媒体帯電手段)
30,31 搬送ローラ
50 用紙(記録媒体)
100 インクジェット記録装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【特許文献1】特開2006−231667号公報
【特許文献2】特開平5−8392号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送する無端状の搬送ベルトと、
前記搬送ベルトに接触し、交流電圧が印加されることで前記搬送ベルトに正帯電領域と負帯電領域とを交互に形成するベルト帯電手段と、
前記搬送ベルトにより搬送される前記記録媒体に接触し、正極及び負極電圧で形成される交流電圧が印加されて前記記録媒体を帯電させる記録媒体帯電手段と、
を有し、前記搬送ベルトにより搬送される前記記録媒体に画像を形成する画像形成装置であって、
前記ベルト帯電手段の前記搬送ベルトの回転方向における帯電領域の長さL、前記正帯電領域と前記負帯電領域との間隔Pと、
前記記録媒体帯電手段の前記記録媒体の搬送方向における帯電領域の長さL、前記記録媒体に印加する前記正極及び負極電圧の間隔Pとが、
≦P、P<L及びP<Pの関係を満足する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記搬送ベルトは、複数の搬送ローラに掛け渡されて回転しており、
前記記録媒体帯電手段は、前記搬送ベルトを介して前記搬送ローラに対向する位置に配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記ベルト帯電手段が帯電ブレードである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録媒体帯電手段が帯電ローラであり、
前記帯電ローラの直径が、前記ベルト帯電手段によって形成される前記正帯電領域と前記負帯電領域との間隔P以下である
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録媒体帯電手段が帯電ブレードである
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録媒体帯電手段がブラシローラである
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録媒体帯電手段がシート部材である
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−95119(P2013−95119A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242719(P2011−242719)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】