説明

インクジェット顔料インクとこれを用いたインクジェット記録方法

【課題】ドット滲みが改良され、特に高吐出条件で印刷しても2次色ドットの滲みが防止されており、かつ、裏移りが抑制されたインクジェット用顔料インクを提供する。
【解決手段】数平均分子量が8000以上、30000以下であり、かつ、ポリエチレンオキサイドの含有量が共重合体全質量に対し60質量%以上、90%質量以下である、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドのトリブロック共重合体を少なくとも1種含有し、加熱により増粘するインクジェット顔料インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット顔料インクとこれを用いたインクジェット記録方法、及び印刷物、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録は、高速記録が可能であること、騒音が少ないこと、カラー化が容易であること、高解像度化が可能であること、普通紙記録が可能であること等の多くの利点を持っている。これらの利点から、当該記録方式を利用した機器や設備は目覚ましく普及している。これに用いるインクは、安全性、臭気等の面から水性インクが主流である。そして、インクジェット記録方法においてはこのインクを毎秒数千滴以上吐出して画像形成が行われる。
インクジェット記録方法により高速で印刷しようとすると、凝集とカラーブリードとが発生することがある。具体的にこの凝集とは、第1のインク液滴が紙に完全に吸収される前に第2のインク液滴が到着して、これらが併合したり凝集したりして、1つの大きい液滴を形成してしまう現象である。これにより画像解像度が低下する。一方、カラーブリードは、併合する2つの液滴が異なる色の着色剤を含有していることにより、画像鮮鋭度や色品質が低下する現象である。
【0003】
この高速印刷におけるカラーブリードの問題を解決しようとするものとして、熱に応答してゲル化するインクを使用し、このインクより高い温度に加熱した記録要素(紙)に印刷する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−285532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェット顔料インクにはドット滲みの改良、裏移りの抑制が一層強く求められてきている。本願発明者の確認によれば、上記特許文献1記載の技術ではカラーブリードが改善されるものの、これらの効果が十分ではないことが分かってきた。特にドット滲みに関しては、高吐出条件で印刷したときに2次色ドットに滲みが発生しやすい。高吐出条件とは、すなわち、記録シートに着弾したあるドットに対して、同色、あるいは多色の新たなドットが重なって着弾するようなドット密度が高く、濃度が高い条件での印刷である。したがって高吐出条件ではドット密度が高いために、1次色ドット上に2次色ドットが重なって形成される。このとき、1次色ドット、2次色ドットともに形が崩れることによってドットに滲みが発生すると考えられる。また、裏移りにより、印刷面の濃度が低くなり、必要な光学濃度(OD)を得にくいということがある。
したがって本発明は、ドット滲みが改良され、特に高吐出条件で印刷しても2次色ドットの滲みが防止されており、かつ、裏移りが抑制されたインクジェット用顔料インクの提供を目的とする。また、本発明はこのインクジェット用顔料インクを用いて、ドット滲み、裏移りが少ないインクジェット記録方法とこれを実施できるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は下記の手段により解決された。
(1)数平均分子量が8000以上、30000以下であり、かつ、ポリエチレンオキサイドの含有量が共重合体全質量に対し60質量%以上、90%質量以下である、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドのトリブロック共重合体を少なくとも1種含有し、加熱により増粘することを特徴とするインクジェット顔料インク。
(2)前記ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドのトリブロック共重合体を前記インク中に2質量%以上、15質量%以下含有することを特徴とする(1)に記載のインクジェット顔料インク。
(3)インクの液滴を記録信号に応じて記録ヘッドのオリフィスから吐出させて記録シートに印刷を行うインクジェット記録方法であって、該インクが(1)または(2)に記載のインクジェット顔料インクであり、該インクの液滴が記録シートに着弾する前、または着弾時に、記録シートを80℃以上に加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
(4)(3)に記載のインクジェット記録方法により記録シートに印刷された印刷物。
(5)インクを収容したインク収容部と、該インクを液滴として吐出させるためのヘッド部を有する記録ユニットを備えたインクジェット記録装置であって、該インクが(1)または(2)に記載のインクジェット顔料インクであり、記録シートに該インクの液滴が着弾する前、または着弾時に、該記録シートが80℃以上となるように加熱保持する手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット用顔料インクは、高吐出条件で印刷しても滲みが少なく、特に2次色ドットの滲みが防止され、かつ、裏移りが抑制されるという優れた作用効果を奏する。したがって、本発明のインクジェット記録方法とインクジェット記録装置によれば、上記インクジェット用顔料インクを用いることにより、ドット滲みが抑制され、かつ、裏移りが少ない、良好な品質の画像を高速で形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明のインクジェット顔料インク(以下、単にインクという)について説明する。
本発明のインクは後述する感熱性材料を含有し、加熱に応じて増粘する性質を有する。80℃での粘度が好ましくは100mPa・s以上であり、より好ましくは150mPa・s以上である。80℃における粘度の上限は特に制限はなく、高いほうが好ましいが、通常10000mPa・s以下である。また、吐出性を制御するなどの観点から、30℃での粘度は好ましくは1〜20mPa・s、より好ましくは3〜12mPa・sである。なお、本発明における粘度の測定方法は次のとおりである。
(粘度の測定法)
本発明においては、特に断らない限り、温度可変型の回転式粘度計(Physica MCR301(商品名、アントンパール社製))で所定温度にした後100秒ごとに5回粘度を測定した値の平均をいう。該測定において得られた粘度が、後述する本発明の記録方法において加熱された記録シート上でも達成されているものと推測できる。測定条件としては、ずり速度10(1/s)、上昇温度は5℃/5秒とする。
【0009】
インクの増粘挙動は以下のように推定される。インク中の感熱性材料はポリエチレンオキサイドブロック構造を有する。このポリマーが水和により溶解しているところで、加熱されると脱水和して、ポリエチレンオキサイド分子どうしで相互作用する。これによりインクがゲル化し、増粘するものと考えられる。
このような性質を有することにより、本発明のインクによれば、高速印刷におけるインク液滴の凝集やカラーブリードを抑制することができる。さらに本発明のインクは、上記凝集やカラーブリードの抑制効果を維持したうえで高吐出条件でのドット滲みと裏移りの抑制も実現できる。
また、インクジェット記録方式においてこのような高温ゲル化インクでドットを形成させる場合、ゲル転移による粘度上昇ののちに溶媒の蒸発が起こるため、ドットの断面形状は台形もしくは凹型になるが、濃度の均一性の面からは台形が好ましい。本発明のインクでは、形成されるドット形状が良好であり、これによっても印刷品質が向上する。
以下に本発明のインクの組成について説明する。
【0010】
[感熱性材料]
本発明においては、感熱性材料として、数平均分子量が8000以上、30000以下、かつ、ポリマー中のポリエチレンオキサイドの含有量が60質量%以上、90%質量以下の、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(PEO−PPO−PEO)のトリブロック共重合体の少なくとも1種をインク中に含有する。
本発明のインクにおいて必須成分であるPEO−PPO−PEOトリブロック共重合体数の平均分子量は、8000以上、30000以下であり、8000〜20000の範囲がより好ましい。数平均分子量が、上記範囲より小さいと、ヘッドから吐出されて記録シートに着弾したドットが流動性を持ち、2次色目のドットと混合されてしまい、滲みが発生しやすくなる。また、数平均分子量が上記範囲を超えると、増粘効果を得にくくなる、あるいは、常温でのインクの吐出性を低下させることがある。このため、インクを記録装置のヘッドから吐出することがむずかしくなる場合があるなど、インクとしての性能に影響する。
【0011】
なお本発明において、分子量というとき特に断らない限り数平均分子量を意味し、下記の測定方法で測定した値をいう。
(分子量の測定方法)
分子量は特に断らない限りGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)法を用いて測定する。GPC法に用いるカラムに充填されているゲルは芳香族化合物を繰り返し単位に持つゲルが好ましく、例えばスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなるゲルが挙げられる。カラムは2〜6本連結させて用いることが好ましい。用いる溶媒は、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒が挙げられるが、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が好ましい。測定は、溶媒の流速が0.1〜2mL/minの範囲で行うことが好ましく、0.5〜1.5mL/minの範囲で行うことが最も好ましい。この範囲内で測定を行うことで、装置に負荷がかからず、さらに効率的に測定ができる。測定温度は10〜50℃で行うことが好ましく、20〜40℃で行うことが最も好ましい。
【0012】
以下に分子量測定の具体的な条件を示す。
装置:HLC−8220GPC(東ソー(株)製)
検出器:示差屈折計(RI検出器)
プレカラム:TSKGUARDCOLUMN MP(XL)
6mm×40mm(東ソー(株)製)
サンプル側カラム:以下の2本を直結(全て東ソー(株)製)
・TSK-GEL Multipore-HXL-M 7.8mm×300mm
リファレンス側カラム:サンプル側カラムに同じ
恒温槽温度:40℃
移動層:テトラヒドロフラン
サンプル側移動層流量:1.0mL/分
リファレンス側移動層流量:0.3mL/分
試料濃度:0.1質量%
試料注入量:100μL
データ採取時間:試料注入後16分〜46分
サンプリングピッチ:300msec
【0013】
上記の分子量及びPEO含有量を有するPEO−PPO−PEOトリブロック共重合体の添加量としては、加熱によるインクの増粘効果が十分得られること、および、インクを記録装置のヘッドから吐出できる粘度であることが達成されていれば、特に限定されないが、インク中に2質量%以上、15質量%以下の範囲で添加することが好ましく、3〜12質量%であることがより好ましい。少なすぎると、加熱によるインクの増粘効果が十分得られない場合がある。また、多すぎると、加熱前のインク粘度が高くなりすぎて、記録装置のヘッドからの吐出に支障をきたす場合がある。
また、本発明における感熱性材料としては、上記分子量及びPEO含有量の条件を満たすPEO−PPO−PEOトリブロック共重合体を2種以上併用してもよい。この場合、共重合体の含有量は合計で上記範囲内となるようにすることが好ましい。
さらに、本発明における感熱性材料は、インク中に溶解した状態で存在させることが好ましいが、別途、インク中に乳化させた状態で存在させてもよく、これらを併用してもよい。
【0014】
好ましく使用できるPEO−PPO−PEOのトリブロック共重合体としては、ニューポールPE−78(商品名、三洋化成社製)、ニューポールPE−68(商品名、三洋化成社製)、ニューポールPE−108(商品名、三洋化成社製)、ニューポールPE−128(商品名、三洋化成社製)、ポリエチレングリコールーブロックポリプロピレングリコールーブロックポリエチレングリコール(平均数平均分子量8400、アルドリッチ社製)、ポリエチレングリコールーブロックポリプロピレングリコールーブロックポリエチレングリコール(平均数平均分子量14600、アルドリッチ社製)などとして市販されているものがある。
【0015】
本発明においては、上記のようなPEO−PPO−PEOのトリブロック共重合体を用いることにより、インクジェット記録装置のヘッドから吐出されて記録シート上に着弾したインクが短時間で乾燥し、かつ、乾燥後に形成されるドットに流動性がない。すなわち、着弾後インク液滴が乾燥収縮して形成されるドットが固く、力が加わっても変形しにくい。このため、1次色ドット上にさらに2次色のインク液滴が吐出されて、1次色のドットに着弾しても、1次色、2次色の両方のドットが崩れにくく、高吐出条件でもドットの滲みが抑制される。この理由は明らかではないが、次のように推定される。
着弾後のインク液滴は、加熱された記録シートから受ける熱により増粘する過程と同時に、インク中の揮発成分も蒸発して乾燥する過程を経ると考えられる。これらの過程を経た後は、ドットは揮発成分がほとんど抜けた状態、即ちほぼインク中に添加されていた固形成分のみの状態であると思われる。一方、本発明において使用されるPEO−PPO−PEOのトリブロック共重合体は、融点が比較的高く、室温で固体状態を呈する。このため、本発明においては、着弾後のインクもPEO−PPO−PEOのトリブロック共重合体の性状に起因して、ドットが硬くなっているものと推察される。従って、本発明においては、硬い1次色ドットと硬い2次色ドットが重なることになり、互いに形が崩れにくくなっているものと推察される。
【0016】
[顔料]
本発明のインクは、顔料を含有する。本発明においては、通常用いられる顔料を特に制限なく用いることができる。中でも、インク着色性の観点から、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である色材であることが好ましい。また、本発明においては、水不溶性の顔料自体または分散剤で表面処理された顔料自体を色材とすることができる。
【0017】
本発明における顔料としては、その種類に特に制限はなく、通常用いられる有機及び無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能であれば、いずれも使用できる。更に、前記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も勿論使用可能である。前記顔料のうち、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料を用いることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる有機顔料の具体的な例を以下に示す。
オレンジ又はイエロー用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・オレンジ31、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー13、C.I.ピグメント・イエロー14、C.I.ピグメント・イエロー15、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー93、C.I.ピグメント・イエロー94、C.I.ピグメント・イエロー128、C.I.ピグメント・イエロー138、C.I.ピグメント・イエロー151、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー185等が挙げられる。
【0019】
マゼンタまたはレッド用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・レッド2、C.I.ピグメント・レッド3、C.I.ピグメント・レッド5、C.I.ピグメント・レッド6、C.I.ピグメント・レッド7、C.I.ピグメント・レッド15、C.I.ピグメント・レッド16、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド53:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド123、C.I.ピグメント・レッド139、C.I.ピグメント・レッド144、C.I.ピグメント・レッド149、C.I.ピグメント・レッド166、C.I.ピグメント・レッド177、C.I.ピグメント・レッド178、C.I.ピグメント・レッド222C.I.ピグメント・バイオレット19等が挙げられる。
【0020】
グリーンまたはシアン用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
ブラック用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブラック1、C.I.ピグメント・ブラック6、C.I.ピグメント・ブラック7等が挙げられる。
【0021】
顔料の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ顔料を2種以上混合して使用してもよい。
なお、顔料の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0022】
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク中の含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0023】
[分散剤・分散媒]
通常、分散剤は、顔料を分散させる目的で添加する材料であり、分散媒(バインダー)は、耐擦過性、耐溶剤性、耐水性などの向上を目的に添加する材料であるが、本発明においては、以下に分散剤として記載する材料を分散媒として添加してもよく、両者をまとめて分散剤として説明する。
本発明における顔料は、分散剤によって水系溶媒に分散されていることが好ましい。分散剤としては、ポリマー分散剤でも界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性の分散剤でも非水溶性の分散剤の何れでもよい。
前記界面活性剤型分散剤は、インクを低粘度に保ちつつ、有機顔料を水溶媒に安定に分散させる目的で添加することができる。ここでいう界面活性剤型分散剤は、質量平均分子量2000以下の、ポリマー分散剤よりも低分子の分散剤である。また、界面活性剤型分散剤の分子量は、100〜2000が好ましく、200〜2000がより好ましい。
【0024】
本発明におけるポリマー分散剤のうち水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子などが挙げられる。
【0025】
また、天然物を原料として化学修飾した親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子などが挙げられる。
【0026】
また、合成系の水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、顔料の分散安定性の観点から、カルボキシル基やスルホニル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、スチレン−(メタ)アクリル樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、ビニルナフタレンアクリル樹脂、ビニルナフタレン−マレイン酸樹脂、ポリビニルベンゼンスルホン酸塩樹脂、ポリスチレン−ビニルベンゼンスルホン酸塩樹脂、スチレン−ビニルスルホン酸塩樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
【0028】
本発明におけるポリマー分散剤の質量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、さらに好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
【0029】
また、顔料と分散剤との混合質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0030】
[溶媒]
本発明のインクは水性インクであり、溶媒は水、好ましくはイオン交換水を用いるが、必要に応じて、乾燥防止、浸透促進、粘度調整などを図る目的で、他の有機溶媒を含有してもよい。
有機溶媒を乾燥防止剤として用いる場合、インク組成物をインクジェット法で吐出して画像記録する際に、インク吐出口でのインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
乾燥防止のためには、水より蒸気圧の低い親水性有機溶媒が好ましい。乾燥防止に好適な親水性有機溶媒の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。中でも、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
また、浸透促進のためには、インク組成物を記録媒体により良く浸透させる目的で有機溶媒を用いてもよい。浸透促進に好適な有機溶媒の具体例として、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
また、親水性有機溶媒は、上記以外にも粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる親水性有機溶媒の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、アセトニトリル、アセトンなど)が挙げられる。
前記有機溶媒は、インク全量の0〜80質量%とすることが好ましく、0〜60質量%がより好ましく、0〜50質量%がさらに好ましい。
【0031】
(水)
本発明のインクは、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、さらに好ましくは50〜70質量%である。
【0032】
[その他の添加剤]
インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて、その他の添加剤を含むことができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物を調製後に直接添加してもよく、インク組成物の調製時に添加してもよい。
【0033】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させることができる。紫外線吸収剤としては、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0034】
(褪色防止剤)
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させることができる。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を用いることができる。
【0035】
(防黴剤)
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキサイド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0036】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤は、インク組成物の保存安定性を向上させる観点から、インク組成物がpH6〜10となるように添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0037】
(表面張力調整剤)
表面張力調整剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
また、表面張力調整剤の添加量は、インクジェット法による吐出を良好に行なうため、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。一方、インクの付与をインクジェット法以外の方法で行なう場合には、20〜60mN/mの範囲が好ましく、30〜50mN/mの範囲がより好ましい。
【0038】
インク組成物の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0039】
(界面活性剤)
界面活性剤の具体例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキサイド界面活性剤であるSURFYNOLS(商品名、AirProducts&Chemicals社製)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキサイドのようなアミンオキサイド型の両性界面活性剤等も好ましい。
更に、特開昭59−157636号公報の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載されているようなフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦性を良化することもできる。
また、表面張力調整剤は消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等も使用することができる。
【0040】
本発明のインクには、さらに、増粘剤、導電性向上剤、コゲーション防止剤、乾燥剤、耐水堅牢化剤、光安定剤、緩衝剤、カール防止剤などを添加してもよい。緩衝剤の例には、硼酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸二水素ナトリウム、それらの混合物などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
次に本発明のインクジェット記録方法、インクジェット記録装置、印刷物について説明する。
[インクジェット記録方法]
インクジェット記録方式は、インクジェットプリンターのプリントヘッドに含有されている複数のノズルまたはオリフィスからインク液滴を吐出することによって、液体インク液滴を制御して記録シートに着弾させて画像形成を行うものである。インクに力学的エネルギーを作用させて液滴を吐出する方法と、インクに熱エネルギーを与えてインクの発泡により液滴を吐出する方法があるが、本発明方法ではいずれでもよい。
印刷速度は特に制限はないが、本発明方法によれば高速印刷でも良好な画質を得ることができ、50m/min〜200m/minが好ましい。液滴あたりの液量は特に制限はないが、2〜15plが好ましい。
本発明のインクジェット記録方法には、上記本発明のインクを用いる。カラープリントの場合、インクセットに用いる少なくとも1種が本発明のインクであればよい。これに加えて、インクが記録シートに着弾する前、または着弾時に、記録シートを80℃以上、好ましくは80〜100℃、より好ましくは80〜90℃に加熱することを特徴とする。この温度は赤外線放射温度計(例えば、MK Scientific社製、商品名:IR-66Bなど)等の非接触型温度計で記録シートの記録面側(インク液滴が着弾する側)を測定した値とする。測定する位置は、インクジェット記録装置のヘッド部と記録シートを加熱する手段との間とする。加熱温度が65℃を下回ると十分にインクが増粘しないことがある。また、上記温度よりも高温に加熱するには必要以上の熱源が必要になり、システムとして負荷がかかる。また、加熱は、インク着弾前と着弾時の両方で行っても良い。本発明方法においては、記録シートの加熱により、記録シート上でのインクの増粘が促され、滲みを抑制することなどができる。
なお、記録シートとしては特に制限はないが、上質紙、コート紙、アート紙、などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明によると、色材移動を抑制して色濃度、裏移りなど、優れた画像の記録が可能である。
記録シートとしては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0042】
[インクジェット記録装置]
本発明のインクジェット記録装置は、インクを収容したインク収容部と、該インクを液滴として吐出させるためのヘッド部を有する記録ユニットを備えたインクジェット記録装置であって、インクとして上記本発明のインクジェット顔料インクを用いるものであり、記録シートにインク液滴が着弾する前、または着弾時に、該記録シートが80℃以上、好ましくは80〜100℃、より好ましくは80〜90℃となるように加熱保持する手段(以下、加熱手段という)を有することを特徴とする。この装置によれば、上記本発明のインクジェット記録方法が実施できる。
加熱手段としての熱源としては、記録シートが必要な温度に加熱され、インクが十分に増粘されれば限定されないが、具体的な例として、熱版、加熱ドラム、光照射、熱空気源、電気ヒーター、赤外線ランプ、赤外線レーザーが挙げられ、必要に応じ、これらの手段を併用してもよい。また、加熱手段は、記録シートの上に配置しても下に配置してもよい。なお、ヘッド部との位置関係は、記録シートにインクが着弾する前または同時に記録シートが必要な温度に加熱されているようにされていればよい。
記録ユニットは、通常のインクジェットプリンタに使用されているものであれば特に制限はない。例えば特開平8−333536号公報の段落0061〜0062に記載されているような構成があげられる。
なお、本発明のインクジェット記録装置においては、加熱された記録シートが冷えてしまわないうちに、インク液滴が記録シートに着弾できるように、ヘッドと加熱ユニットが近くに配された構造が好ましい。しかし、近すぎると、加熱ユニットからの熱がヘッドに伝わり、ヘッド中でインクが増粘し、吐出不良に陥る場合があるため、ヘッド中のインクの吐出性が失われない程度に距離をとった構造にするか、加熱ユニットからの熱を遮断する目的で、断熱材でヘッドを保護するなどの構造にすることが好ましい。
【0043】
[印刷物]
本発明の印字物は、本発明のインクジェット記録方法により、記録シートに上記本発明のインクを用いて文字や画像を印刷したものであれば特に制限はない。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
実施例I
<実施例1>
(ブラックインク101−Kの調製)
下記の化合物を秤量攪拌混合して調製した。
・黒顔料分散液(カーボンブラック、15質量%水分散):26.67g
・ニューポールPE−108(商品名、三洋化成社製)
PEO−PPO−PEOトリブロックポリマー : 5.0g
・界面活性剤(オルフィンE1010(商品名、日信化学工業製))
: 1.0g
・イオン交換水 :68.13g
(マゼンタインク101−Mの調製)
上記黒顔料分散液に代えてマゼンタ顔料分散液(ピグメント・レッド122、15質量%水分散)を用いた以外はブラックインク101−Kと同様にして、マゼンタインク101−Mを調製した。
【0045】
<実施例2>
ニューポールPE−108をニューポールPE−78(商品名、三洋化成社製)5.0gに変更し、水を68.13gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてブラックインク102−K、マゼンタインク102−Mを調製した。
<実施例3>
ニューポールPE−108をニューポールPE−68(商品名、三洋化成社製)7.0gに変更し、水を65.33gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてブラックインク103−K、マゼンタインク103−Mを調製した。
【0046】
比較例I
<比較例1>
ニューポールPE−108をニューポールPE−64(商品名、三洋化成社製)15.0gに変更し、水を57.33gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてブラックインクc11−K、マゼンタインクc11−Mを調製した。
<比較例2>
ニューポールPE−108をPluronic P85(商品名、BASF社製)10.0gに変更し、水を62.33gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてブラックインクc12−K、マゼンタインクc12−Mを調製した。
<比較例3>
ニューポールPE−108をポリエチレングリコール(商品名、アルドリッチ社製)10.0gに変更し、水を62.33gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてブラックインクc13−K、マゼンタインクc13−Mを調製した。
【0047】
上記実施例1〜3、比較例1〜3で用いたポリマーの分子量とPEO比(ポリマー全量に対する質量%)は表2にまとめて示した。分子量は上述の方法で測定した値である。
(粘度評価)
ブラックインク102−K、マゼンタインク102−Mについて、表1に示す25℃〜90℃の各温度でのインク粘度(mPa・s)を測定した。
粘度の値は温度可変型の回転式粘度計(Physica MCR301(商品名、アントンパール社製))で表1に記載された温度にした後100秒ごとに5回測定した値の平均とした。測定条件は、ずり速度10(1/s)、上昇温度は5℃/5秒とした。
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例II、比較例II
表2に示すブラックインクを1次色、マゼンタインクを2次色として圧電ヘッド(384ノズル)から、シングルパスモードで600dpiの解像度で、液滴あたり滴量7〜8plで吐出させ、それぞれ1cm × 1cmの網点100%、80%、60%、40%、20%の2色地の5段画像を、順番にNPi上質紙(日本製紙社製)に印画した。加熱は、熱風でインク着弾前にNPi上質紙が80℃となるよう行った。NPi上質紙の温度は熱源と圧電ヘッドの中間で、赤外線放射温度計(MK Scientific社製、商品名:IR-66B)を用い、記録面側(インク液滴が着弾する側)で測定した。
【0050】
印刷物に対して以下の評価を行った。
(滲み評価)
印画した100%、80%、60%、40%、20%の画像を顕微鏡(20倍)で観察し、1次色ドット(ブラック)、2次色ドット(マゼンタ)のそれぞれについて以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
◎;ほとんどのドットの滲みが抑制されている。
○;半分程度のドットの滲みが抑制されている。
△;一部のドットの滲みが抑制されている。
×;ほとんどのドットが滲んでいる。
(裏移り)
印画した画像の裏部分を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。裏移りが少ないほうが、印画した面の色濃度も高く、好ましい。
○;裏移りがほとんどない。
△;裏移りが少ない。
×;裏移りがみられる。
(残渣の流動性)
インクをアルミカップにスポイトで1滴(約0.01g)滴下し、一晩放置することにより、揮発成分を除去させた後に、残渣をスパチュラで擦り、塊が割れたものを流動性あり、割れずに変形してつぶれたものを流動性なしとして表2に示した。残渣の流動性がないインクのほうが、インクジェット記録方式で印刷した場合、形成されたドットが崩れにくい。
【0051】
【表2】

【0052】
比較例1〜3のインクを使用した印刷物は、1次色のドットが完全に固まる前に2次色のインク液滴が着弾しているために2次色ドットの滲みが発生している。また、裏移りがみられ、色濃度が十分でない。
これに対し、実施例1〜3のインクを使用した印刷物は、1次色ドットの形状に崩れがなく、2次色ドットの滲みが抑制され、印刷物全体として印刷濃度が高いところ(高吐出部)でも滲みの防止された高画質のものが得られた。また、裏移りも改良され、色濃度が高いという優れた効果を奏している。また、実施例1〜3の印刷物のドット形状は断面で台形であり、濃度が均一で画像品質が良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が8000以上、30000以下であり、かつ、ポリエチレンオキサイドの含有量が共重合体全質量に対し60質量%以上、90%質量以下である、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドのトリブロック共重合体を少なくとも1種含有し、加熱により増粘することを特徴とするインクジェット顔料インク。
【請求項2】
前記ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドのトリブロック共重合体を前記インク中に2質量%以上、15質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット顔料インク。
【請求項3】
インクの液滴を記録信号に応じて記録ヘッドのオリフィスから吐出させて記録シートに印刷を行うインクジェット記録方法であって、該インクが請求項1または2に記載のインクジェット顔料インクであり、該インクの液滴が記録シートに着弾する前、または着弾時に、記録シートを80℃以上に加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェット記録方法により記録シートに印刷された印刷物。
【請求項5】
インクを収容したインク収容部と、該インクを液滴として吐出させるためのヘッド部を有する記録ユニットを備えたインクジェット記録装置であって、該インクが請求項1または2に記載のインクジェット顔料インクであり、記録シートに該インクの液滴が着弾する前、または着弾時に、該記録シートが80℃以上となるように加熱保持する手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。

【公開番号】特開2011−184556(P2011−184556A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50976(P2010−50976)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】