説明

インクセット、インクジェット記録方法

【課題】 高い分散安定性と優れた画像濃度を有し、ブリーディングを低減した画像を実現するインクセット、該インクセットを用いたインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】 インクジェット用水性インクは自己分散型顔料と水性媒体とを含み、前記自己分散型顔料は、顔料と、該顔料に直接結合したアニオン性基と、該顔料に直接結合したアニオン性分子鎖とを有し、前記アニオン性分子鎖は2つ以上の炭素原子と1つ以上のアニオン性基とを有し、前記顔料の単位質量あたりの前記アニオン性分子鎖の量が0.005mmol/g以上であり、前記顔料の単位質量あたりの前記アニオン性分子鎖の量と、前記顔料の単位質量あたりの前記顔料に直接結合したアニオン性基の量との合計が0.150mmol/g以上であり、前記液体組成物は、前記自己分散型顔料を凝集する成分を含むことを特徴とするインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録に用いられる水性インクの色材として、染料に比べ画像の耐光性、耐水性に優れた顔料が注目されている。しかし、顔料は水に不溶であり、水性インクの色材として用いるためには、顔料が水中で安定して均一な分散状態で存在していなければならない。最近では、顔料を水性媒体中で安定に分散させるための、顔料の処理技術が活発に開発されるようになった。特に、顔料表面を処理して顔料自体の分散性を向上させて、顔料を分散剤を用いずに分散可能とする自己分散化の技術は、インクジェットヘッドへの悪影響が小さいことからインクジェット用水性インクの顔料を処理する技術として好適に用いられている。尚、自己分散化によって得られる顔料を、以下、自己分散型顔料ともいう。
【0003】
特許文献1には、酸化剤で顔料を酸化処理する技術が記載されている。また、特許文献2には、アゾ化合物からなるラジカル発生剤の分解によって発生した官能基を顔料の表面に化学結合させたカーボンブラックを用いて、保存安定性を向上させる技術が記載されている。また、特許文献3には、アミジン骨格を有するカチオン性官能基が付与された顔料を用いて低pH領域での分散安定性を向上させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−3498号公報
【特許文献2】特許第3985337号公報
【特許文献3】特許第3669168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を用いた場合、酸化剤の添加量や、酸化処理の回数を多くしても、顔料に対して一定以上の分散安定性を付与することは困難であった。また、特許文献2に記載の技術を用いて得られる自己分散型顔料は、顔料に対する官能基の修飾量が大きくばらつきやすく、顔料に対する官能基の修飾量自体も極めて少なかった。そのため、顔料に十分な分散安定性を付与することはできなかった。また、特許文献3に記載の技術を用いても、顔料に対する官能基の修飾量は極めて少なかった。尚、特許文献3では、酸化処理した顔料にカチオン性官能基を付与しても良いことが記載されている。しかしながら本発明者等が検討したところ、酸化によって得られる酸性基とカチオン性官能基とが反応し、顔料同士の凝集が促進されてしまった。その結果、酸化処理した顔料単独またはカチオン性基を付与した顔料単独よりも分散安定性が低下してしまった。
【0006】
本発明は上述した従来技術の課題を鑑み、優れた分散安定性を有するインクジェット用水性インクを有するインクセットを提供することを目的とする。また、本発明は、優れた画像濃度を有し、ブリーディングが低減された画像を得ることのできる、自己分散型顔料を含むインクジェット用水性インクと液体組成物とのインクセットを提供することを目的とする。また、本発明は、該インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インクジェット用水性インクと、液体組成物とを有するインクセットであって、前記インクジェット用水性インクは自己分散型顔料と水性媒体とを含み、前記自己分散型顔料は、顔料と、該顔料に直接結合したアニオン性基と、該顔料に直接結合したアニオン性分子鎖とを有し、前記アニオン性分子鎖は2つ以上の炭素原子と1つ以上のアニオン性基とを有し、前記顔料の単位質量あたりの前記アニオン性分子鎖の量が0.005mmol/g以上であり、前記顔料の単位質量あたりの前記アニオン性分子鎖の量と、前記顔料の単位質量あたりの前記顔料に直接結合したアニオン性基の量との合計が0.150mmol/g以上であり、前記合計に対する前記顔料に直接結合したアニオン性基の割合が2.0%以上であり、前記液体組成物は、前記自己分散型顔料を凝集する成分を含むことを特徴とするインクセットである。また、該インクセットを用いたインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い分散安定性を有するインクジェット用水性インクを有し、インクジェット用水性インクと液体組成物とを共に用いた際に優れた画像濃度を有し、ブリーディングを低減した画像を実現するインクセットを提供することができる。また、本発明によれば、かかるインクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のインクセットは、インクジェット用水性インクと、液体組成物とを有する。また、インクジェット用水性インクは自己分散型顔料を有する。
【0011】
<自己分散型顔料>
本発明に用いられる自己分散型顔料は、顔料と、顔料に直接結合したアニオン性基と、顔料に直接結合したアニオン性分子鎖とを含む。以下、本発明に用いられる自己分散型顔料が有する各成分について詳細に説明する。
【0012】
[顔料]
本発明には、自己分散型顔料を製造するための顔料として黒色顔料、着色顔料のいずれも用いることができる。具体的には、下記に挙げる顔料を好ましく用いることができる。
【0013】
黒色顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックといったカーボンブラックが挙げられる。また、上述したカーボンブラックのうち、一次粒子径が5nm以上40nm以下であるカーボンブラックが好ましい。また、BET法による比表面積が40m/g以上600m/g以下であるカーボンブラックが好ましい。また、pH値が2以上10以下であるカーボンブラックが好ましい。本発明においてカーボンブラックの一次粒子径はSEM等の電子顕微鏡を用いて下記のように算出することができる。具体的には、顔料粉体のSEM画像を撮影した後、撮影した画像から30点〜50点程度の顔料を任意にピックアップし、ピックアップした各顔料の端部を任意に2点設定し、端部からもう一方の端部までの長さを測る。顔料が円形であると仮定することで、得られた長さをピックアップした顔料の直径であるとみなし、縮尺を考慮して顔料の直径を算出する。算出した各顔料の直径の平均値を求めることで顔料の一次粒径を算出することができる。
【0014】
上述した特性を有するカーボンブラックとしては、具体的には以下のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L(以上、キャボット製)、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 95、Printex 90、Printex 80、Printex 85、Printex 35、Printex U(以上、デグサ製)である。
【0015】
また、本発明に用いることのできる着色顔料としては以下のものが挙げられる。イエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、13、16、74、83、109、128、155等が挙げられる。また、マゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122;キナクリドン固溶体、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられる。また、シアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15:3、15:4、16、22、C.I.Vat Blue 4、6等が挙げられる。また、着色顔料は平均粒子径が30nm以上200nm以下であることが好ましい。尚、着色顔料の平均粒子径は、マイクロトラック社製「Microtrack UPA」等の動的光散乱装置を用い、メジアン径であるD50粒径を測定することで求めることができる。
【0016】
勿論、本発明は、これらに限られるものではなく、上記した着色顔料以外の色の顔料を用いることもできる。また、2種類以上の顔料を混合したものを用いてもよい。また、新たに製造された顔料も使用することができる。
【0017】
[顔料に直接結合するアニオン性基]
本発明の「顔料に直接結合するアニオン性基」とは、他の原子団を介さずに、顔料に結合しているアニオン性を示す官能基である。アニオン性基は水性媒体中で電離し、電離したアニオン性基が電荷により反発し合い、自己分散型顔料同士が凝集することを抑制するため、顔料にアニオン性基が直接結合した自己分散型顔料は水中で分散可能である。
【0018】
本発明の顔料に直接結合するアニオン性基としては、具体的には、−COO(M)、−SO(M)、−POH(M)が挙げられる。尚、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。また、アニオン性基中のMはアニオン性基毎に異なっていても構わない。しかし、本発明は上記したものに限られるものではなく、上記したもの以外のアニオン性基が顔料に直接結合していても良い。顔料に直接結合するアニオン性基の中でも−COO(M)は−SO(M)に比べて高い分散安定性を顔料に付与することができ、−POH(M)よりも安価であるため、好ましい。また、顔料に直接結合するアニオン性基は1種類である必要はなく、複数種のアニオン性基が顔料に付加していても構わない。尚、アニオン性基はインク中で電離して存在するため、例えば−COO(M)はインク中で−COOという状態を取り得る。
【0019】
<顔料に直接結合するアニオン性分子鎖>
本発明の「アニオン性分子鎖」とは、2つ以上の炭素原子と1つ以上のアニオン性基とを有する分子鎖である。また、「顔料に直接結合するアニオン性分子鎖」とは、他の原子団を介さずに顔料に結合しているアニオン性分子鎖である。尚、アニオン性分子鎖の有するアニオン性基には、上述した顔料に直接結合するアニオン性基と同様の官能基を用いることができる。
【0020】
本発明の顔料に直接結合するアニオン性分子鎖としては、炭素数が2以上であってアニオン性基を少なくとも1つ有する分子鎖であれば特に限定されない。具体的には、下記式(1)、(2)に挙げるものを好適に用いることができる。尚、式中Mは上述したアニオン性基が有するMと同様に水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。また、アニオン性分子鎖中のMはアニオン性分子鎖毎に異なっていても構わない。尚、アニオン性分子鎖においてもMはインク中で電離して存在するため、例えば−COO(M)はインク中で−COOという状態を取り得る。アニオン性分子鎖は、アニオン性分子鎖が有するアニオン性基同士の静電反発のみならず、顔料に直接結合したアニオン性基にはない高い立体反発を有している。そのため、アニオン性分子鎖が直接結合した顔料は、極めて高い分散安定性を有する。
式(1)
【0021】
【化1】

【0022】
式(2)
【0023】
【化2】

【0024】
[顔料の単位質量あたりのアニオン性基の量、アニオン性分子鎖の量]
一般的に、顔料の単位質量あたりの官能基または分子鎖の量を表す単位として、mmol/gを用いることが知られている。以下、本発明の自己分散型顔料における顔料の単位質量あたりのアニオン性基の量、若しくは該単位質量あたりのアニオン性分子鎖の量について詳細に説明する。その際、表現の簡略化を行うために、以下、「自己分散型顔料における顔料の単位質量あたりの顔料に直接結合したアニオン性基の量」を単に「アニオン性基の量」といい、「自己分散型顔料における顔料の単位質量あたりのアニオン性分子鎖の量」を、単に「アニオン性分子鎖の量」ともいう。
【0025】
本発明のアニオン性分子鎖の量は0.005mmol/g以上である。0.005mmol/g以上であれば水性媒体中で自己分散型顔料は水中で安定して存在することができる。アニオン性分子鎖の量は0.025mmol/g以上であることが好ましく、0.100mmol/g以上であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明のアニオン性基の量と、アニオン性分子鎖の量との合計は0.150mmol/g以上である。該合計が0.150mmol/g未満であると、十分な分散安定性を得ることができない。また、該合計が0.300mmol/g以上であることが好ましく、0.500mmol/g以上であることがより好ましい。尚、該合計が1.800mmol/g以下であることが好ましく、3.000mmol/g以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明に用いられる自己分散型顔料は、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計に対し、アニオン性基の割合が2.0%以上である。アニオン性基の割合が2.0%以上であれば、自己分散型顔料を含むインクと色材を凝集する成分を含む液体組成物とのインクセットとして用いた際に良好な定着性を有することができる。より好ましくは5.0%以上であり、更に好ましくは15.0%以上である。また、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計に対するアニオン性基の割合が99.5%以下であることが好ましく、95.0%以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明において「アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計」は、以下の方法で算出することができる。後述の自己分散型顔料の製造方法で作成した自己分散型顔料から1gずつ不規則に10回抜き取ることで、10個のサンプルを作成する。作成した10個のサンプルに対して各々のアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を測定する。10個の測定データを元にアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計の平均値を算出する。本発明においては該平均値を「アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計」と表現し、10個のサンプル各々のアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計は「合計の測定データ」と表現する。
【0029】
本発明の合計の測定データは、以下の方法で測定することができる。自己分散型顔料を含む自己分散型顔料分散液に過剰量の塩酸水溶液を加え、攪拌する。攪拌後、遠心分離装置にて自己分散型顔料を沈降させ、沈降した自己分散型顔料を回収する。自己分散型顔料を脱水乾燥した後、秤量し、既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて攪拌する。攪拌後、遠心分離装置にて自己分散型顔料を沈降させ、上澄み液を回収する。回収した上澄み液を秤量し、既知濃度の塩酸で中和滴定を行い、滴定量から合計の測定データを得る。
【0030】
本発明のアニオン性分子鎖の量は、以下の方法で測定することができる。自己分散型顔料を含む自己分散型顔料分散液に過剰量の塩酸水溶液を加え、攪拌する。攪拌後、遠心分離装置にて自己分散型顔料を沈降させ、沈降した自己分散型顔料を回収する。アニオン性分子鎖が窒素原子を有している場合には自己分散型顔料を脱水乾燥した後、元素分析で窒素量を測定し、得られた窒素量からアニオン性分子鎖の量を算出することができる。また、本発明のアニオン性基の量は、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計から、アニオン性分子鎖の量を差し引くことで求めることができる。
【0031】
<自己分散型顔料の製造方法>
本発明に用いられる自己分散型顔料の製造方法は、アニオン性基が直接結合した顔料に、ラジカル重合開始剤を用いてアニオン性分子鎖を直接結合する工程を少なくとも有することが好ましい。上記した製造方法により、高い分散安定性を有しているにもかかわらず、凝集する成分と接触した際には非常に速やかに凝集し、画像特性に優れた本発明の自己分散型顔料を得ることができる。また、この製造方法によれば、顔料に修飾されるアニオン性基及びアニオン性分子鎖の量の顔料毎のばらつきを低減することができる。具体的には、上述した10個の合計の測定データの上限値及び下限値を、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計に対して±10%以内とすることができる。
【0032】
アニオン性基が直接結合した顔料としては市販のものを用いることができ、具体的には、Aqua−Black001(東海カーボン)、Aqua−Black162(東海カーボン)、BONJET BLACK CW−1(オリエント化学工業)、BONJET BLACK CW−2(オリエント化学工業)、BONJET BLACK M−800(オリエント化学工業)等を用いることができる。
【0033】
また、表面処理を行っていない顔料にアニオン性基を直接結合し、その後アニオン性分子鎖を直接結合してもよい。顔料にアニオン性基を直接結合する方法としては、次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素水、オゾン水といった酸化剤を用いて顔料を酸化処理する方法が挙げられる。上記「顔料」において列挙した、ファーネスブラック、ランプブラック等の表面改質を行っていない顔料は、通常水中では顔料同士が凝集して存在しているが、酸化剤を用いて顔料を酸化処理すると、顔料同士の凝集を緩和することができる。そのため、単位質量あたりの顔料の表面積を向上させることができ、十分な量のアニオン性分子鎖を付与することができるため好ましい。
【0034】
顔料にアニオン性分子鎖を結合する方法としては、ラジカル重合開始剤を用いる方法が挙げられる。具体的には分解した際にラジカルを有したアニオン性分子鎖を生じる重合開始剤を用いることで、アニオン性分子鎖を顔料に直接結合することができる。ラジカルを有したアニオン性分子鎖を生じる重合開始剤としては、具体的には、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピンアミジン〕・4水和物等が挙げられる。4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を用いることで前述の式(1)のアニオン性分子鎖を、2,2’−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピンアミジン〕・4水和物を用いることで前述の式(2)のアニオン性分子鎖を顔料に直接結合することができる。
【0035】
本発明者等の検討によれば、ラジカル重合開始剤を用いて表面改質を行っていない顔料にアニオン性分子鎖を付与しようとしても、十分な量のアニオン性分子鎖を付与することができない。顔料を改質するためにラジカル重合開始剤を用いても、顔料同士の凝集を緩和することができないため、顔料の単位質量あたりの表面積が小さい。そのため、アニオン性分子鎖の付与量が不十分になってしまう。また、顔料にアニオン性分子鎖を直接結合した後に、顔料にアニオン性基を直接結合しようとすると、顔料に付加していたアニオン性分子鎖が脱離してしまい、十分な立体反発を得ることができない。
【0036】
<インクジェット用水性インク>
本発明に用いられるインクジェット用水性インク(単にインクともいう)は、前述した自己分散型顔料と、水性媒体とが含まれていればよい。インクジェット用水性インク中の自己分散型顔料の含有量は特に限定されないが、インクジェット用水性インク全質量に対して1質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0037】
[水性媒体]
本発明に用いられるインクジェット用水性インクは水性媒体を含む。水性媒体としては、水または水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。本発明に用いられる水は、脱イオン水を使用することが好ましい。また、本発明に用いられる水溶性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが挙げられる。水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合物として用いることができる。また、本発明に用いられるインクジェット用水性インク中の水性媒体の含有量は、インクジェット用水性インク全質量に対して50質量%以上95質量%以下が好ましい。また、インクジェット用水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、インクジェット用水性インク全質量に対して3質量%以上50質量%以下が好ましい。また、本発明に用いられるインクジェット用水性インクは界面活性剤を含んでも良い。界面活性剤としては、具体的にはアセチレノール100(川研ファインケミカル製)、アセチレノール40(川研ファインケミカル製)、BC−20(日光ケミカルズ製)、L31(ADEKA製)等が挙げられる。界面活性剤の好ましい含有量は、インク全質量に対し0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0038】
更に、本発明に用いられるインクジェット用水性インクには、前記成分の他に必要に応じて添加剤であるpH調整剤、防腐剤、水溶性樹脂等を加えることができる。pH調整剤、防腐剤としては、一般的に使われるものをいずれも用いることができる。また、水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等を用いることができる。
【0039】
<液体組成物>
本発明のインクセットは、共に用いられるインクが含有する自己分散型顔料を凝集する成分を少なくとも含む液体組成物を有する。液体組成物中の自己分散型顔料を凝集する成分がインク中の自己分散型顔料を凝集させることで、定着性を向上させ、ブリーディングを低減することができる。本発明者等が検討したところ、アニオン性基が直接顔料に結合している自己分散型顔料は、アニオン性基が他の原子団を介して顔料に結合している自己分散型顔料に比べて、高い反応性を有することがわかった。
【0040】
本発明に用いられる液体組成物は透明であることが好ましいが、必ずしも可視域に吸収を示さないものである必要はない。即ち、可視域に吸収を示すとしても、実質上画像に影響を与えない範囲であれば可視域に吸収を示すものであってもかまわない。
【0041】
[自己分散型顔料を凝集する成分]
本発明に用いられる自己分散型顔料は、アニオン性基及びアニオン性分子鎖を含む。そのため、アニオン性基及びアニオン性分子鎖の電荷を打ち消すと自己分散型顔料同士の静電反発がなくなるため、自己分散型顔料の凝集性が向上する。本発明の自己分散型顔料の上記した特性を利用するために、自己分散型顔料を凝集する成分は、アニオン性と逆の極性の電荷を有している。即ち、自己分散型顔料を凝集する成分は水中でカチオン性を呈する。自己分散型顔料を凝集する成分としては、具体的には金属塩、カチオン性ポリマー、pH緩衝剤等が挙げられる。
【0042】
(金属塩)
本発明において金属塩とは、金属イオンと陰イオンからなる。具体的に、金属イオンとはCa2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Sr2+、Ba2+の二価の金属イオンや、Al3+、Fe3+、Cr3+、Y3+の三価の金属イオンが挙げられる。
また、陰イオンとはCl、NO、I、Br、ClO、SO2−、CO2−、CHCOO、HCOOが挙げられる。
【0043】
本発明では、反応性や着色性、更には取り扱いの容易さ等の点から、金属イオンはCa2+、Mg2+、Sr2+、Al3+、Y3+であることが好ましく、Ca2+であることがより好ましい。また、陰イオンは溶解性等の点からNOであることが好ましい。液体組成物中の金属塩の含有量は、液体組成物の全質量に対して0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0044】
(カチオン性ポリマー)
カチオン性ポリマーとしては、具体的には、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン及びこれらの共重合体、ポリビニルアミン等が挙げられる。カチオン性ポリマーの重量平均分子量は400以上5000以下であることが好ましい。尚、本発明における重量平均分子量とは、GPCでポリエチレングリコールを標準として測定される重量平均分子量を指す。
【0045】
(pH緩衝剤)
pH緩衝剤としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、ピペリジン酸、グルタミン酸、スルファミン酸、アミノギ酸、p−アニス酸、N−メチルモルホリン N−オキシド等が挙げられる。液体組成物中のpH緩衝剤の含有量は、液体組成物の全質量に対して0.01質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0046】
[液体組成物中の水性媒体]
本発明に用いられる液体組成物には、上述したインクジェット用水性インクに用いることのできる水性媒体をいずれも用いることができる。また、液体組成物中の水性媒体の含有量は、液体組成物全質量に対し25質量%以上95質量%以下が好ましい。また、液体組成物中の水溶性有機溶剤の含有量は、液体組成物全質量に対して3質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0047】
[液体組成物中のその他の成分]
本発明に用いられる液体組成物には、耐擦過性や耐ラインマーカー性の更なる向上のために、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを添加しても良い。また、液体組成物の吐出を良好にする目的で、水性媒体に低揮発性溶剤を用いることが好ましい。また、本発明の液体組成物は界面活性剤を含んでも良い。界面活性剤としては、具体的にはアセチレノール100(川研ファインケミカル製)、アセチレノール40(川研ファインケミカル製)、BC−20(日光ケミカルズ製)、L31(ADEKA製)等が挙げられる。界面活性剤の好ましい含有量は、液体組成物全質量に対し0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0048】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクセットを用いたインクジェット記録方法は、インクと液体組成物とが互いに接触するように、インクと液体組成物とを記録媒体に付与する方法である。
【0049】
本発明ではインクを記録媒体に付与する際にインクジェット記録方法を用いるが、液体組成物を記録媒体に付与する際には、インクジェット記録方法以外の方法を用いても良い。具体的には、ローラーコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法による塗布方法が挙げられる。これらの塗布方法を用いると、インクが形成する画像がどのような形状であっても、インクと液体組成物とを接触することができるため好ましい。
【0050】
また、インク、液体組成物のそれぞれを記録媒体に付与する順序としては特に限定されないが、液体組成物を先に記録媒体に付与することが好ましい。あらかじめ記録媒体に液体組成物を付与することで、インクの浸透速度の影響を低減した、効率的な凝集反応を起こすことができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0052】
[分散液1]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム50gとを加え、105℃で24時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液1を得た。分散液1の顔料濃度は10%であった。
【0053】
[自己分散型顔料分散液1]
分散液1を25g分取した後、分取した分散液1中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.2gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.2g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液1を製造する際には0.6gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0054】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料1を含む自己分散型顔料分散液1を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料1におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.65mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.65mmol/gに対して±2.7%以内であった。
【0055】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.32mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.33mmol/gであると算出した。
【0056】
[分散液2]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム50gとを加え、105℃で48時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液2を得た。分散液2の顔料濃度は10%であった。
【0057】
[自己分散型顔料分散液2]
分散液2を25g分取した後、分取した分散液2中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.4gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.4g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液2を製造する際には1.2gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0058】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料2を含む自己分散型顔料分散液2を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料2におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ1.35mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である1.35mmol/gに対して±2.5%以内であった。
【0059】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.65mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.7mmol/gであると算出した。
【0060】
[分散液3]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム30gとを加え、105℃で24時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液3を得た。分散液3の顔料濃度は10%であった。
【0061】
[自己分散型顔料分散液3]
分散液3を25g分取した後、分取した分散液3中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.07gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.07g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液3を製造する際には0.21gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0062】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料3を含む自己分散型顔料分散液3を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料3におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.31mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.31mmol/gに対して±3.0%以内であった。
【0063】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.1mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.21mmol/gであると算出した。
【0064】
[分散液4]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム10gとを加え、105℃で15時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液4を得た。分散液4の顔料濃度は10%であった。
【0065】
[自己分散型顔料分散液4]
分散液4を25g分取した後、分取した分散液4中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.07gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.07g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液4を製造する際には0.21gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0066】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料4を含む自己分散型顔料分散液4を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料4におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.17mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.17mmol/gに対して±3.5%以内であった。
【0067】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.1mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.07mmol/gであると算出した。
【0068】
[分散液5]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム10gとを加え、105℃で30時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液5を得た。分散液5の顔料濃度は10%であった。
【0069】
[自己分散型顔料分散液5]
分散液5を25g分取した後、分取した分散液5中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.35gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.35g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液5を製造する際には1.05gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0070】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料5を含む自己分散型顔料分散液5を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料5におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.75mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.75mmol/gに対して±3.5%以内であった。
【0071】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.62mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.13mmol/gであると算出した。
【0072】
[分散液6]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム5gとを加え、105℃で15時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液6を得た。分散液6の顔料濃度は10%であった。
【0073】
[自己分散型顔料分散液6]
分散液6を25g分取した後、分取した分散液6中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.4gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.4g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液6を製造する際には1.2gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0074】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料6を含む自己分散型顔料分散液6を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料6におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.70mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.70mmol/gに対して±4.0%以内であった。
【0075】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.65mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.05mmol/gであると算出した。
【0076】
[分散液7]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム3gとを加え、105℃で15時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液7を得た。分散液7の顔料濃度は10%であった。
【0077】
[自己分散型顔料分散液7]
分散液7を25g分取した後、分取した分散液7中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.4gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.4g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液7を製造する際には1.2gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0078】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料7を含む自己分散型顔料分散液7を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料7におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.67mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.67mmol/gに対して±3.5%以内であった。
【0079】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.65mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.02mmol/gであると算出した。
【0080】
[分散液8]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム50gとを加え、105℃で48時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液8を得た。分散液8の顔料濃度は10%であった。
【0081】
[自己分散型顔料分散液8]
分散液8を25g分取した後、分取した分散液8中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.08gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.08g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液8を製造する際には0.24gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0082】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料8を含む自己分散型顔料分散液8を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料8におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.83mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.83mmol/gに対して±2.3%以内であった。
【0083】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.13mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.70mmol/gであると算出した。
【0084】
[分散液9]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム50gとを加え、105℃で48時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液9を得た。分散液9の顔料濃度は10%であった。
【0085】
[自己分散型顔料分散液9]
分散液9を25g分取した後、分取した分散液9中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.02gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.02g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液9を製造する際には0.06gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0086】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料9を含む自己分散型顔料分散液9を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料9におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.73mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.73mmol/gに対して±2.5%以内であった。
【0087】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.03mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.70mmol/gであると算出した。
【0088】
[分散液10]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム50gとを加え、105℃で48時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液10を得た。分散液10の顔料濃度は10%であった。
【0089】
[自己分散型顔料分散液10]
分散液10を25g分取した後、分取した分散液10中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.007gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.007g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液10を製造する際には0.021gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0090】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料10を含む自己分散型顔料分散液10を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料10におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.71mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.71mmol/gに対して±2.5%以内であった。
【0091】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.01mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.70mmol/gであると算出した。
【0092】
[分散液11]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム10gとを加え、105℃で20時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液11を得た。分散液11の顔料濃度は10%であった。
【0093】
[自己分散型顔料分散液11]
分散液11を25g分取した後、分取した分散液11中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.02gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.02g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液11を製造する際には0.06gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0094】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料11を含む自己分散型顔料分散液11を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料11におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.12mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.12mmol/gに対して±4.0%以内であった。
【0095】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.03mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.09mmol/gであると算出した。
【0096】
[分散液12]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム3gとを加え、105℃で10時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液12を得た。分散液12の顔料濃度は10%であった。
【0097】
[自己分散型顔料分散液12]
分散液12を25g分取した後、分取した分散液12中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.4gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.4g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液12を製造する際には1.2gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0098】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料12を含む自己分散型顔料分散液12を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料12におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.662mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.662mmol/gに対して±4.9%以内であった。
【0099】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.65mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.012mmol/gであると算出した。
【0100】
[分散液13]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム50gとを加え、105℃で24時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した分散液13を得た。分散液13の顔料濃度は10%であった。
【0101】
[自己分散型顔料分散液13]
分散液13を25g分取した後、分取した分散液13中にイオン交換水30gと、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.001gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.001g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液13を製造する際には0.003gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0102】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基と、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖とが顔料に直接結合した自己分散型顔料13を含む自己分散型顔料分散液13を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料13におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.332mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.332mmol/gに対して±3.0%以内であった。
【0103】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.002mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.33mmol/gであると算出した。
【0104】
[自己分散型顔料分散液14]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水200gと次亜塩素酸ナトリウム50gとを加え、105℃で40時間攪拌した。その後撹拌を止め、冷却した後、遠心分離で固形分を取り出した。次に、取り出した固形分にイオン交換水を1000g加えて1時間撹拌した後、限外濾過法による濾過精製を行い、顔料が分散した自己分散型顔料分散液14を得た。
【0105】
精製後、−COOH及び−COONaで表されるアニオン性基が顔料に直接結合した自己分散型顔料14を含む自己分散型顔料分散液14を得た。自己分散顔料分散液14の顔料濃度は10%であり、自己分散型顔料14におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.63mmol/gであった。また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ0.63mmol/gであったため、アニオン性基の量は0.00mmol/gであると算出した。
【0106】
[自己分散型顔料分散液15]
顔料(Printex80 Evonik製)10gにイオン交換水52.5gと4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸0.4gとを加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて70℃で攪拌した。攪拌時間が8時間経過する毎に、混合物に4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を0.4g加え、合計攪拌時間が24時間になるまで攪拌した。従って自己分散型顔料分散液15を製造する際には1.2gの4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を混合物に添加した。24時間攪拌した後、アセトン溶媒を用いたソックスレー抽出により精製を行った。
【0107】
精製後、前述の式(1)で表されるアニオン性分子鎖が顔料に直接結合した自己分散型顔料15を含む自己分散型顔料分散液15を得た。尚、式(1)中のMは水素原子であった。また、自己分散型顔料分散液の顔料濃度は6%であり、自己分散型顔料15におけるアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出したところ0.65mmol/gであった。尚、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得た合計の測定データは、いずれも合計である0.65mmol/gに対して±28.5%以内であった。
【0108】
また、アニオン性分子鎖の量を元素分析で測定したところ検出限界以下であったため、アニオン性基の量は0.65mmol/gであると算出した。
【0109】
<自己分散型顔料のアニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計>
各自己分散型顔料分散体に過剰量の塩酸水溶液を加え、室温で24時間攪拌した。攪拌後、5,000rpm、30分間遠心分離を行うことで自己分散型顔料を沈降させ、沈降した自己分散型顔料を回収した。回収した自己分散型顔料を脱水乾燥し、自己分散型顔料を1gずつ、不規則に10個分取し、10個のサンプルを作成した。作成した各サンプルに既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて攪拌した。攪拌後、80,000rpm、1時間遠心分離を行うことで自己分散型顔料を沈降させ、上澄み液を回収した。回収した上澄み液を秤量し、0.1Nの塩酸で中和滴定を行い、滴定量から10個のサンプル各々のアニオン性基の量とアニオン性分子鎖量との合計の測定データを得た。得られた合計の測定データを元に、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出した。
【0110】
<アニオン性分子鎖の量>
自己分散型顔料分散体に過剰量の塩酸水溶液を加え、室温で24時間攪拌した。攪拌後、5,000rpm、30分間遠心分離を行うことで自己分散型顔料を沈降させ、沈降した自己分散型顔料を回収した。回収後の自己分散型顔料を脱水乾燥した後、1g秤量し、窒素量を元素分析装置で測定する。元素分析装置としては、TCH−600型(LECO製)を用いた。元素分析により得られた窒素量からアニオン性分子鎖の量を算出した。
【0111】
<アニオン性基の量>
上述した方法で得られた自己分散型顔料のアニオン性基とアニオン性分子鎖の合計の量から、アニオン性分子鎖の量を差し引くことで、アニオン性基の量を算出した。
【0112】
自己分散型顔料1〜15の組成及び物性値をまとめたものを表1に示す。
【0113】
尚、合計のばらつきとは、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を算出する際に得られた10個の合計の測定データの最大値又は最小値が、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖の量との合計を基準としてどの程度ばらついているのかを示したものである。また、合計値に占めるアニオン性基の割合とは、アニオン性基の量とアニオン性分子鎖との量の合計に占めるアニオン性基の割合を指す。
【0114】
【表1】

【0115】
[インクの作製]
次に、自己分散型顔料1〜15を用いて、インクジェット用水性インクを作製した。下記に示す組成物を混合し、混合物を水酸化ナトリウムでpH8となるように調整し、インクジェット用水性インクを作製した。自己分散型顔料に、自己分散型顔料1を用いて作製したインクをインクジェット用水性インク1とし、順次自己分散型顔料とインクジェット用水性インクとの番号が対応したインクを作製した。
インクジェット用水性インク
自己分散型顔料 3質量%
グリセリン 5質量%
ポリエチレングリコール(重量平均分子量1000) 5質量%
アセチレノール100 1質量%
イオン交換水 86質量%
<インクの分散安定性の評価>
上述の操作によって得られたインクジェット用水性インク1〜15について、自己分散顔料及び顔料の平均粒径を測定した。次いで、ガラス製のサンプル瓶中に各インクジェット用水性インクを入れ、80℃で1週間間保存した。2日間保存した後の粒径を測定した。測定後、更に80℃で5日間保存し1週間保存した後の粒径を測定した。得られた測定データを元に、保存前に対する2日後及び1週間後の平均粒径の変化率を求めた。尚、顔料の平均粒径の測定には、ELS−8000(大塚電子製)を用いた。各インクジェット用水性インクの平均粒径の変化率を、表2に示す。尚、表2中の「−」とは、平均粒径の変化が著しく、測定を行うことすらできなかったことを指す。尚、1週間保存した時の平均粒径の変化率が15%以下であれば十分な分散安定性を有するとした。
【0116】
[インクセットの作製]
上述した操作で得られたインクジェット用水性インク1〜15と、下記に示す組成の液体組成物1とを用いて、インクセットを作製した。作製した各インクセットを用いて得られた画像について下記の評価を行った。尚、インクジェット用水性インク1〜10を用いたインクセットを実施例1〜10とし、インクジェット用水性インク11〜15を用いたインクセットを比較例1〜5とした。
液体組成物1
硝酸マグネシウム6水和物 10質量%
1,2,6−ヘキサントリオール 30質量%
トリメチロールプロパン 5質量%
アセチレノール100 1質量%
イオン交換水 54質量%
<画像の評価>
キヤノン製のサーマルインクジェット記録装置PIXUS Pro−9500にインクジェット用水性インク1〜15を搭載し、画像を形成した。得られた画像から、画像濃度、ブリーディングの評価を行った。尚、記録媒体にはあらかじめバーコーターにて液体組成物1を2.4g/m付与したオフィスプランナー(A4普通紙、キヤノン製)を用いた。
【0117】
[画像濃度]
液体組成物が付与された記録媒体上に上記した記録装置を用いて各インクを付与し、ベタ画像を形成した後、1時間放置した。放置後、マクベスRD915で画像濃度を測定した。各インクジェット用水性インクを用いた結果を、表2に示す。尚、画像濃度が1.15以上であれば十分な性能を有するとした。
【0118】
[ブリーディング]
ブラックインクとして各インクジェット用水性インクを用い、カラーインクとしてPGI−2Y(イエローインク、キヤノン製)を用いた。
【0119】
上記した記録装置にブラックインク及びカラーインクを搭載し、ブラックインクによるベタ部とカラーインクによるベタ部が隣接する画像を形成した。その際、ブラックインクとカラーインクは同一のスキャンで付与した。得られた画像のブラックインクによるベタ部とカラーインクによるベタ部の境界付近をカメラで撮影したデジタル画像を2値化し、基準線からの滲みの最大長さ(最大滲み長さ)を測定した。各インクジェット用水性インクを用いた際の結果を表2に示す。尚、最大滲み長さが15μm以下であれば十分な性能を有するとした。
【0120】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用水性インクと、液体組成物とを有するインクセットであって、
前記インクジェット用水性インクは自己分散型顔料と水性媒体とを含み、
前記自己分散型顔料は、顔料と、該顔料に直接結合したアニオン性基と、該顔料に直接結合したアニオン性分子鎖とを有し、前記アニオン性分子鎖は2つ以上の炭素原子と1つ以上のアニオン性基とを有し、
前記顔料の単位質量あたりの前記アニオン性分子鎖の量が0.005mmol/g以上であり、前記顔料の単位質量あたりの前記アニオン性分子鎖の量と、前記顔料の単位質量あたりの前記顔料に直接結合したアニオン性基の量との合計が0.150mmol/g以上であり、前記合計に対する前記顔料に直接結合したアニオン性基の割合が2.0%以上であり、
前記液体組成物は、前記自己分散型顔料を凝集する成分を含むことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記凝集する成分が金属塩、カチオン性ポリマー、pH緩衝剤のいずれかである請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記顔料に直接結合したアニオン性基が−COO(M)である請求項1または2に記載のインクセット(Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のインクセットを用い、前記インクジェット用水性インクと前記液体組成物とが互いに接触するように記録媒体に付与することを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2010−275478(P2010−275478A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130849(P2009−130849)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】