説明

インクセット、及びインクジェット記録方法

【課題】レッドからオレンジの領域の二次色画像が、光沢性及び耐光性に優れ、かつ、レッドからオレンジの領域の色再現範囲が広い、イエローインク及びマゼンタインクの組み合わせを有してなるインクセットの提供。
【解決手段】イエローインク及びマゼンタインクの組み合わせを有してなるインクセットであって、イエローインクが下記一般式(I)で表される構造の顔料を含み、かつ、マゼンタインクがキナクリドン骨格を有する構造の顔料を含むインクセット。


(式(I)中、R1乃至R4のいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イエローインク及びマゼンタインクの組み合わせを含む、インクジェット用としても好適なインクセット、並びに該インクセットを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法では、一般的に、イエロー、マゼンタ及びシアンの基本三原色にブラックを加えた4種類のインクが用いられている。これら基本三原色のインクには、各色インクによる形成画像が高い発色性を有することに加えて、基本色を複数組み合わせた二次色画像においても良好な発色性を有することが必要とされ、また、光によって変色しない、すなわち、耐光性を高めることも求められる。
【0003】
顔料を含有する顔料インクを用いる場合、イエローインクは他の基本色に比べて発色性と耐光性の両立が難しいことが多いが、発色性と耐光性のバランスが良いイエロー顔料としてキノロノキノロン顔料があることが知られている。このキノロノキノロン顔料をイエローインクに含有させる場合には、理想のイエローの色調を示すように、アルキル基やハロゲン原子を置換基として複数導入した多置換キノロノキノロン顔料を用いる。この多置換キノロノキノロン顔料を含有するインクジェット用インクにより、発色性と耐光性が改善された画像が得られることが開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、特定の顔料を含有するシアン、マゼンタ、イエローの各インクを組み合わせたインクセットとすることにより、耐光性及び耐水性に加え、良好な画像、とりわけ良好な色相の画像を実現できることが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−130554号公報
【特許文献2】特開2008−291103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のイエローインクとマゼンタインクとを用いて、レッドからオレンジの領域の二次色画像を形成した場合には、下記の課題があった。すなわち、例え、イエローインクによる単色画像が、高い耐光性と発色性とを示す場合であっても、各インクで形成した画像の耐光性には差があるため、二次色画像における耐光性と発色性が両立できないことが多い。つまり、高い耐光性を有する画像を得るために、イエローインク及びマゼンタインクのそれぞれの画像の耐光性を向上させる手段をとったとしても、レッドからオレンジの領域の二次色画像の耐光性が必ずしも向上するわけではない。また、画像の光沢性に関しても、二次色領域では二種のインクを組み合わせて画像を形成するため、記録媒体の表面上に存在する顔料粒子の量が相対的に多くなり、単色画像の光沢性に比べて二次色画像の光沢性は大きく低下する。したがって、レッドからオレンジの領域の二次色画像の光沢性も、さらなる向上が求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、レッドからオレンジの領域の二次色画像が、光沢性及び耐光性に優れ、かつ、レッドからオレンジの領域の色再現範囲が広いイエローインク及びマゼンタインクの組み合わせを有してなるインクセットを提供することにある。また、本発明の目的は、上記優れたインクセットを用いることで、光沢性及び耐光性に優れたレッドからオレンジの領域の二次色画像が得られるインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明のインクセットは、イエローインク及びマゼンタインクの組み合わせを有してなるインクセットであって、前記イエローインクが下記一般式(I)で表される構造の顔料を含み、かつ、前記マゼンタインクがキナクリドン骨格を有する構造の顔料を含むことを特徴とする。

(一般式(I)中、R1乃至R4のいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レッドからオレンジの領域の二次色画像が、光沢性及び耐光性に優れ、かつ、レッドからオレンジの領域の色再現範囲が広いイエローインク及びマゼンタインクの組み合わせを有してなるインクセットが提供される。また、本発明によれば、優れたインクセットを用いることで、光沢性及び耐光性に優れたレッドからオレンジの領域の二次色画像が得られるインクジェット記録方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本明細書の記載における「C.I.」とは、カラーインデックスの略語である。
本発明者らの検討の結果、下記一般式(I)で表される構造の顔料を含んでなるイエローインクと、キナクリドン骨格を有する構造の顔料を含んでなるマゼンタインクとを組み合わせることで、本発明の顕著な効果が得られることを見出した。ここでキナクリドン骨格とは、下記一般式(II)で表される構造のことである。
【0011】

(一般式(I)中、R1乃至R4のいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)
【0012】

【0013】
本発明者らは、本発明の構成によって、本発明の優れた効果が得られるメカニズムについて、以下のように考えている。上記に示したように、一般式(I)で表されるキノロノキノロンの構造はキナクリドン骨格に類似しており、いずれも平面性が非常に高い。その中でも本発明で使用する一般式(I)で表されるハロゲン一置換キノロノキノロン顔料は、置換基の立体障害の影響が特に小さく、分子間力が効果的に働いている。このため、これをイエローインクの色材として用い、その一方でマゼンタインクの色材としてキナクリドン骨格を有する顔料を用い、これらのインクを併用して二次色の画像を形成すると、両顔料構造の平面性の高さゆえに非常に密に重なりあうことができる。これに対して、本発明とは異なる組み合わせの顔料を用いたインクのセットでは、顔料構造に由来する凝集力が異なる。このため、本発明で見出した顔料の組み合わせの場合のように顔料が密に重なりあうことができず、本発明の構成によって得られる顕著な効果を達成できない。すなわち、前記一般式(I)で表される顔料を含有するイエローインクと、キナクリドン骨格を有する顔料を含有するマゼンタインクとを用いて画像形成すると、あたかも1のインクで画像を形成したかのように顔料粒子を密にパッキングすることができる。この結果、従来のインクセットで二次色画像を形成した際に生じやすく、光の乱反射の原因となる空気層ができにくいため、画像の発色性を向上することができる。
【0014】
また、光沢性が高い画像を得るためには、記録媒体の表面におけるドット間の段差を抑えた平滑な顔料層を形成することが求められる。そのためには、記録媒体に付与されたインクのドットと、先に記録媒体に付与されたインクのドットとの間や、隣接した複数のドット間の相溶性が重要となる。ここで、複数のインクで形成される二次色画像の光沢性を考える場合は、それぞれの顔料に由来する凝集力がポイントとなる。上述の通り、一般式(I)で表される顔料を含有するイエローインクと、キナクリドン骨格を有する顔料を含有するマゼンタインクの組み合わせでは顔料の凝集力が互いに近く、複数のドットの相溶性が高くなる。このため、ドット間の段差を抑えることができ、より平滑な顔料層が形成され、画像の光沢性が向上したものと考えている。
【0015】
次に、一般式(I)で表される顔料を含有するイエローインクとキナクリドン骨格を有する顔料を含有するマゼンタインクの組み合わせが二次色画像の耐光性を向上させるメカニズムについて述べる。上述の通り、本発明のインクの組み合わせによれば、二次色画像を形成しても顔料粒子を密にパッキングさせることができるため、マゼンタインクとイエローインクとを重ねても顔料粒子間の距離が小さく保たれる。その結果、一般式(I)で表される顔料間と、キナクリドン骨格を有する顔料間でも分子間力が働き、他の組み合わせでは見られない耐光性の向上が発現したものと考えている。この効果は両者の顔料構造の平面性の高さに由来するため、例えば、ハロゲン多置換キノロノキノロン顔料のように、置換基の立体障害の影響が大きく、キノロノキノロン構造由来の平面性が失われた顔料を一方に用いた場合には、耐光性向上効果は得られなくなる。
【0016】
<インクセット>
本発明のインクセットは、それぞれ特定の顔料を含有するイエローインク及びマゼンタインクを含むものであり、さらに、これら以外のインクを有してもよい。本発明におけるインクセットとは、上記各インクをそれぞれ独立に収容してなる複数のインクカートリッジのセットや、複数のインクをそれぞれ収容してなる複数のインク収容部を組み合わせて一体的に構成されたインクカートリッジの状態、を含むものである。なお、さらに記録ヘッドが一体的に形成された構成のインクカートリッジであってもよい。さらに、前記複数のインクをそれぞれ独立に収容してなるインクカートリッジが、1のインクジェット記録装置に対して着脱可能に構成されてなる状態も、本発明のインクセットに含まれる。本発明のインクセットは、少なくとも、特定の顔料を含むイエローインクと、特定の顔料を含むマゼンタインクとを組み合わせて用いることができるように構成されていれば、上記の形態に限られるものではなく、どのような形態であってもよい。
【0017】
本発明のインクセットを構成するインクを収容するインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えてなり、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクセットを構成するインクがそれぞれ収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。又は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0018】
<インク>
以下、インクジェット用にも好適な、本発明のインクセットを構成するイエローインク及びマゼンタインクを構成する各成分について説明する。
【0019】
(顔料)
〔イエローインクの顔料〕
本発明のインクセットを構成するイエローインクは、下記一般式(I)で表される構造の、ハロゲン一置換キノロノキノロン顔料を少なくとも含有してなる。イエローインク中の一般式(I)で表される顔料の含有量(質量%)は、イエローインク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0020】

(一般式(I)中、R1乃至R4はいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)
【0021】
1乃至R4のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。本発明においては、画像の発色性(彩度)や耐光性をより向上することができるため、R2又はR3がハロゲン原子である顔料を用いることが好ましい。より好適な構造としては、2−フルオロキノロノキノロン、3−フルオロキノロノキノロン、2−クロロキノロノキノロン、3−クロロキノロノキノロンが挙げられ、中でも、3−フルオロキノロノキノロンが特に好ましい。これらの構造を有する顔料が特に好適である理由を、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、顔料粒子のパッキングの程度はハロゲン原子の原子半径に依存し、R2又はR3が原子半径の小さいフッ素原子や塩素原子である場合、立体障害がより小さくなるため、顔料粒子が密にパッキングされ、上記の効果が得られるものと推測している。
【0022】
〔マゼンタインクの顔料〕
本発明のインクセットを構成するマゼンタインクは、少なくとも、キナクリドン骨格を有する構造の顔料を含有してなる。キナクリドン骨格を有する顔料としては、下記のものが挙げられ、いずれも使用できる。例えば、C.I.ピグメントレッド5、同7、同12、同48(Ca)、同48(Mn)、同57(Ca)、同15:1、同112、同122、同123、同168、同184、同202、同209、C.I.ピグメントバイオレット19などである。また、本発明では、これらのキナクリドン骨格を有する2種類以上の顔料で構成される固溶体顔料も使用することができる。これらの顔料は、1種又は2種以上を用いることができる。マゼンタインク中のキナクリドン骨格を有する顔料の含有量(質量%)は、マゼンタインク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明においては、形成した画像の発色性(彩度)や耐光性がより向上するため、上記のキナクリドン骨格を有する顔料の中でも、特に、下記の顔料を用いることが好ましい。すなわち、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、及び、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群より選ばれる少なくともいずれかの顔料を用いることが好ましい。また、二次色画像における発色性(彩度)をより向上させることができるため、以下のような固溶体顔料を用いることが好ましい。すなわち、C.I.ピグメントレッド202とC.I.ピグメントバイオレット19との固溶体顔料、及び、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントバイオレット19との固溶体顔料、の少なくともいずれかの顔料に用いることが好ましい。マゼンタインクの色材に固溶体顔料を用いることで、二次色画像における発色性(彩度)をより向上させることができる理由について、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、固溶体顔料を構成する個々の顔料を併用する場合と異なり、上記固溶体顔料が、併用するイエローインク中の一般式(I)で表される顔料と共に形成する顔料層をより密なものにすることができる結晶状態を有するためと考えている。また、その効果は、上記した2種の顔料の組み合わせからなる固溶体顔料とした場合に特に顕著であり、この場合の固溶体顔料の結晶状態は、上記目的によりかなったものとなっていると推測される。
【0024】
(顔料の特性)
本発明の各インクに用いる顔料の一次平均粒子径は、10nm以上300nm以下であることが好ましい。一次平均粒子径が10nm未満であると、一次粒子同士の相互作用が強くなるため、インクの保存安定性が十分に得られない場合があるので好ましくない。一方、一次平均粒子径が300nmを超えると、画像の発色性(彩度)や光沢性が十分に得られない場合があるので好ましくない。
【0025】
(顔料の分散方式)
インクを構成する水性媒体への顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散顔料)や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた顔料(樹脂結合型の自己分散顔料)や、顔料粒子の表面の少なくとも一部を樹脂などにより被覆したマイクロカプセル顔料なども用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、画像の耐擦過性などの観点から、樹脂分散顔料や樹脂結合型の自己分散顔料が好ましく、さらには樹脂分散顔料が特に好ましい。
【0026】
〔樹脂分散顔料〕
分散剤として樹脂を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料を使用する場合、樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体に分散させることができるものが好ましい。分散剤として使用することができる樹脂としては、インクジェット用のインクに使用可能な従来公知の共重合体やその塩をいずれも用いることができる。分散剤として使用する樹脂は、その酸価が、50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下、さらには120mgKOH/g以上250mgKOH/g以下のものを用いることが好ましい。また、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下の樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
本発明においては、インク中の顔料の含有量は、インク中における樹脂の含有量に対して、質量比率で、0.30倍以上10.0倍以下であること、すなわち、顔料の含有量/樹脂の含有量=0.30以上10.0以下であることが好ましい。なお、この場合の樹脂及び顔料の含有量の値は、インク全質量を基準とした場合における各成分の含有量のことである。前記質量比率が0.30倍以上10.0倍以下の範囲内であれば、顔料の分散状態を特に安定に保つことができる。前記質量比率が0.30倍未満であると、インク中の樹脂が過剰となり、画像の発色性(彩度)や光沢性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が10.0倍を超えると、顔料に対して樹脂が不十分となり、顔料分散体を調製する際に均一な分散体とならない場合や、顔料分散体の調製が難しくなる場合がある。本発明においては、前記質量比率が2.0倍以上であると、画像の光沢性を顕著に向上させることができるため、特に好ましい。
【0028】
(1,2−アルカンジオール)
本発明者らの検討の結果、本発明のインクセットを構成するイエローインク及びマゼンタインクは、さらに1,2−アルカンジオールを含有させた形態とすることで、高い耐光性を保ちながら、写像性をさらに向上した画像を記録できることがわかった。特に、一般式(I)で表される顔料を含有するイエローインクと、キナクリドン骨格を有する顔料を含有するマゼンタインクとのそれぞれに、さらに1,2−アルカンジオールを含有させることで、より高い効果が得られる。このような効果が得られるメカニズムについて、本発明者らは以下のように考えている。1,2−アルカンジオールは、液体の動的表面張力を下げる能力が非常に高く、インクに含有させると、その動的表面張力を下げることができる。このため、インクが記録媒体に付与された後、インクを構成する水性媒体が記録媒体に吸収される以前に、インクが速やかに濡れ拡がり、ドットの高さが抑えられる。その結果、記録媒体の非記録部と記録部との間の段差が小さくなり、画像の写像性がさらに向上する。その一方で、インクが濡れ拡がりやすいために、インクの単位体積あたりの光暴露面積が大きくなるので、この点では画像の耐光性は低下しやすいことが予想される。しかし、光暴露面積が大きくなることによる耐光性の低下の程度よりも、一般式(I)で表される顔料とキナクリドン骨格を有する顔料とは、先に述べたように顔料粒子が密にパッキングされていることによる作用のほうがより強く働く。その結果として、画像の高い耐光性を維持することができたものと考えられる。
【0029】
1,2−アルカンジオールとしては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオールなどが挙げられる。これらの1,2−アルカンジオールは、1種又は2種以上を用いることができる。本発明においては、1,2−アルカンジオールは、アルキル基の炭素数が5乃至8であることが特に好ましい。具体的には、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、及び1,2−オクタンジオールが挙げられる。炭素数が5未満であると、分子構造における親疎水性のバランスが崩れ、動的表面張力を下げる作用が弱くなるため、画像の光沢性を向上する効果が小さくなる場合がある。また、炭素数が8を超えるとほとんど水に溶解せず、水に溶解させるためには何らかの共溶媒が必要となる場合がある。本発明においては、各インク中の1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。含有量がこの範囲内であると、画像の耐光性と光沢性とがバランス良く向上するためである。
【0030】
(水性媒体)
本発明のインクセットを構成する各インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。各インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、各インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、上述の1,2−アルカンジオールを含有させた場合は、これを含む値である。水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに使用可能なアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。
【0031】
(その他の成分)
本発明のインクセットを構成する各インクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。このような水溶性有機化合物の各インク中の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0032】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドにより、上記で説明した本発明のインクセットを構成する各インクを吐出して、記録媒体に画像を記録することを特徴とする。より具体的には、少なくとも、特定のイエローと特定のマゼンタの二種のインクを記録媒体においてその少なくとも一部が重なるように吐出して、レッドからオレンジの領域の二次色画像を記録する方法である。本発明のインクセットを構成する各インクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0034】
<顔料の準備>
国際公開第2007/047975号パンフレットの実施例に記載の方法に準じて、下記のキノロノキノロン顔料を合成した。具体的には、3−フルオロキノロノキノロン、2−フルオロキノロノキノロン、3−クロロキノロノキノロン、2−クロロキノロノキノロン、3−ブロモキノロノキノロン(それぞれ顔料A〜Eとする)を合成した。また、特開平10−17783号公報の実施例1記載の方法に準じて、下記式(H)で表される顔料(顔料Hとする)を合成した。なお、上記顔料A〜Eは、前記一般式(I)で表される構造の顔料に該当し、表1に合わせて示した顔料I〜Oは、キナクリドン骨格を有する構造の顔料に該当する。
【0035】

【0036】

【0037】
<顔料分散体の調製>
表1に示す種類からそれぞれ選択した各顔料10.0部、樹脂分散剤を含む水溶液20.0部、イオン交換水70.0部を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散した。前記「樹脂分散剤を含む水溶液」とは、酸価210mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体を、10.0%水酸化ナトリウム水溶液で中和することにより得られた、樹脂(固形分)の含有量が10.0%である水溶液である。その後、遠心分離処理を行って粗大粒子を除去し、さらに、ポアサイズが3.0μmであるセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が2.0%である各顔料分散体を得た。
【0038】
<インクの調製>
表2に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが0.8μmであるセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、先に調製した各顔料分散体をそれぞれに用いて各インクを調製した。具体的には、Y1〜Y10のイエローインクと、M1〜M10の各インクを調製した。なお、インク中の顔料の含有量は、樹脂の含有量に対する質量比率で5.0倍であった。
【0039】

【0040】

【0041】
<評価>
(評価画像の形成)
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填して、イエロー及びマゼンタの各インクのインクカートリッジを得た。そして、得られたイエロー及びマゼンタの各インクカートリッジをそれぞれ、インクジェット記録装置BJ F900(キヤノン製)のイエローとマゼンタの各ポジションに、表3に示した組み合わせで装着させて画像を形成した。具体的には、表3の左欄に示した各インクセットを構成する組み合わせのイエローインク及びマゼンタの各インクを、それぞれ該当するポジションに装着した。なお、上記インクジェット記録装置では、600dpi×600dpiの解像度で、1/600inch×1/600inchの単位領域に1滴あたり4.5pLのインクを4滴付与する条件を、記録デューティが100%であると定義している。
【0042】
そして、記録媒体(キヤノン写真用紙・光沢ゴールド;キヤノン製)に、記録デューティを10%〜200%の間で10%刻みに変化させた、レッドのベタ画像及びオレンジのベタ画像を共に含む記録物を作製した。なお、レッド及びオレンジの各画像(記録物)は、それぞれ、各インクの付与量を下記の(1)及び(2)に示した各条件に変えることで形成した。すなわち、各インクの付与量を体積比で、(1)レッドの画像はイエローインク:マゼンタインク=2:1として、また、(2)オレンジの画像はイエローインク:マゼンタインク=1:2として形成した。上記のようにして得た各画像(記録物)について、発色性、耐光性および光沢性について下記の評価をした結果、表3に示したように、いずれの評価項目においても実施例のインクセットは、比較例のインクセットと比べて良好な画像が得られることを確認した。
【0043】
(発色性の評価)
記録物を24時間自然乾燥させた後、(1)の条件で記録したレッドの各記録デューティの画像について、分光光度計(Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、彩度C*={(a*)2+(b*)2}1/2の値を測定した。そして、各記録デューティのレッド画像のうちC*の最大値により発色性の評価を行った。発色性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示した。本発明においては、下記の評価基準でB以上を許容できるレベルとし、Aが優れているレベル、AAが特に優れているレベルとし、Cを許容できないレベルとした。
AA:C*が90以上であった。
A:C*が85以上90未満であった。
B:C*が80以上85未満であった。
C:C*が80未満であった。
【0044】
(耐光性の評価)
上記で得た記録物を24時間自然乾燥させた後、これをキセノンウエザオメーターCi4000(アトラス製)内部に置き、照射強度0.39W/m2、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%の条件で300時間キセノン光を照射して、耐光性試験を行った。そして、キセノン光の照射前後の、前記(1)の条件で記録したレッドの各記録デューティの画像及び(2)の条件で記録したオレンジの各記録デューティの画像について、それぞれ色差を求めた。具体的には、分光光度計(Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、キセノン光を照射前後に各画像について色差ΔE=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2の値を求めた。そして、各色の各記録デューティの画像のうちΔEの最大値により耐光性の評価を行った。耐光性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表3に示した。本発明においては、下記の評価基準でB以上を許容できるレベル、Aが優れているレベル、Cを許容できないレベルとした。評価結果は、表3にまとめて示した。
A:ΔEが5以下であった。
B:ΔEが5を超えて15以下であった。
C:ΔEが15を超えた。
【0045】
(光沢性の評価)
上記で得られた記録物を24時間自然乾燥させた後、(1)の条件で記録したレッドの各記録デューティの画像及び(2)の条件で記録したオレンジの各記録デューティの画像について、光沢度計を用いて20度鏡面光沢度をそれぞれ測定した。光沢度計にはマイクロヘイズメーター(BYKガードナー製)を用いた。なお、20度鏡面光沢度は、JIS K 5600−4−7に基づくものである。そして、各色の各記録デューティの画像における20度鏡面光沢度の平均値によって、記録物の光沢性の評価を行った。光沢性の評価基準は以下の通りである。本発明においては、下記の評価基準で、B以上を許容できるレベルとし、Aが優れているレベル、Cを許容できないレベルとした。評価結果は、表3にまとめて示した。
A:20度鏡面光沢度の平均値が70以上であった。
B:20度鏡面光沢度の平均値が60以上70未満であった。
C:20度鏡面光沢度の平均値が60未満であった。
【0046】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエローインク及びマゼンタインクの組み合わせを有してなるインクセットであって、
前記イエローインクが下記一般式(I)で表される構造の顔料を含み、かつ、前記マゼンタインクがキナクリドン骨格を有する構造の顔料を含むことを特徴とするインクセット。

(一般式(I)中、R1乃至R4のいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表される構造の顔料が、2−フルオロキノロノキノロン、3−フルオロキノロノキノロン、2−クロロキノロノキノロン、及び、3−クロロキノロノキノロンからなる群より選ばれる少なくともいずれかである請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記キナクリドン骨格を有する構造の顔料が、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、及び、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群より選ばれる少なくともいずれかである請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記キナクリドン骨格を有する構造の顔料が、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド202との固溶体顔料、及び、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122との固溶体顔料の少なくともいずれかである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記イエローインク及び前記マゼンタインクのいずれもが、さらに1,2−アルカンジオールを含有してなる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクセットを構成する各インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2011−256275(P2011−256275A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131990(P2010−131990)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】